ある王国の片隅にある小さな道場──
この道場には、三人の若き女性武術家がいた。
一人は長女。
ボクシングを得意としており、拳による途切れぬラッシュはまさに豪雨。
人々からは“レイニーフィスト”と恐れられている。
もう一人は次女。
空手やテコンドーをマスターしており、特に蹴り技には定評がある。
彼女もまた“キラーフット”の異名を持つ。
そしてもう一人はというと──
元スレ
シンデレラ「私が……王子を倒すッッッ!」
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長女「さぁ、私の顔を殴ってみなさい!」
シンデレラ「うぅっ……」
長女「殴るのよ、シンデレラ!」
シンデレラ「う、うぅっ……!」
長女「さぁ!」
シンデレラ「ダメです……殴れません……!」
彼女は長女や次女とは血の繋がりはないが、
師匠である継母によって姉二人と同じように修業を施された。
彼女もまた期待に応えるため、懸命に努力した。
彼女の練習量は姉二人を遥かに上回った。
練習すれば汗をかく。
汗が乾くと、塩となる。
塩には空気中の汚れが付着し、灰色の塩となる。
彼女は全身が灰色の塩まみれになるほどの練習を、毎日のようにこなしていた。
この努力を称えた人々は、彼女を“シンデレラ(灰かぶり)”と呼ぶようになった。
だが、彼女には重大な欠点があった──
長女「殴るのよ!」
シンデレラ「で、できません……!」ガクッ
長女(今日もダメみたいね……)
次女「シンデレラ」
シンデレラ「はいっ!」ビクッ
次女「アンタもさ、なにも健康体操のつもりで格闘技やってるワケじゃないっしょ?」
次女「毎日毎日あんなに真っ黒になってさ」
シンデレラ「もちろんです! 強くなるために……」
次女「だったらさ、殴らなきゃ」
次女「今は練習だからいいけど、本当に戦わなきゃいけない時が来たらどうすんの?」
次女「練習で姉様も殴れないのに、その時が来れば戦えるとか思ってんの?」
次女「人間、練習でできないことが突然本番でできるほど、器用にできてないんだよ」
次女「もし戦えなきゃ、アンタ死んじまうかもしれないんだよ?」
シンデレラ「わ、私は──」
道場に、三人の師匠である継母が入ってきた。
継母「シンデレラッッッ!」
シンデレラ「は、はいっ!」ビクッ
継母「キサマ、まだ姉どもを殴れぬのかッッッ!」
シンデレラ「すいません……!」
長女「しょうがないわよ、お母様……。怒らないであげて」
継母「道場では母でなく師匠と呼べといってあるだろうが! たわけがッッッ!」
長女「申し訳ありませんっ! 師匠っ!」
継母「シンデレラよ……」
継母「格闘技とはしょせん他者を制圧するための技術ッッッ!」
継母「つまり、人を殺すために使うのが正しい使用法だということだ!」
継母「徒手とはいえ、本質は剣術や槍術となんら変わらぬッッッ!」
継母「だが、熟練した剣士ならば──」
継母「その剣で人を生かすこともできる!」
継母「なぜか!?」
継母「彼奴らは、正しい使用法を知っているからだッッッ!」
継母「剣は人を殺すモノだと熟知しているからこそ、剣で人を生かせるのだッッッ!」
継母「格闘技も同じこと!」
継母「人を殴ることも知らぬキサマが、どうして格闘技を正しく使える!?」
継母「正しい使用法を知らぬキサマが格闘技を身につけたところで──」
継母「遠からず格闘の魔道に堕ちることは明白!」
継母「そうなれば我が道場の名声も地に堕ちる!」
継母「殴れぬなら──今すぐこの道場から消え失せろッッッ!」
シンデレラ「イヤです! 私は強くなりたいのです!」
継母「ならば殴れッッッ!」
継母「このワシを殴ってみせいッッッ!」
シンデレラ「……できま、せん!」
継母「できぬか!」
継母「ならばこの場で、ワシがキサマを殺してやるわッッッ!」
ドズゥッ!
継母のボディブローが、シンデレラの腹の奥深くへとめり込んだ。
シンデレラ「──げぇぇっ!」ビチャビチャ
長女&次女「!」
継母「どうだ、胃液は苦かろう。ワシが憎かろう」
継母「ならば、打ってこいッッッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
シンデレラ「で、できま……せ、ん……」ゲホゲホッ
ドゴォッ!
継母の蹴りが、シンデレラの顔面に叩き込まれた。
継母「シィィィッ!」
ズガァッ!
継母のヒジ打ちが、シンデレラの頭部に突き刺さった。
継母「ぬぅぅぅぅんっ!」
継母がシンデレラを持ち上げ、豪快に床に叩き落とす。
ドゴォンッ!
継母「立ていッッッ! 立って、ワシを殴ってみせいッッッ!」
ドガッ! ドゴッ! ドギャッ!
床に転がるシンデレラを、何度も踏みつける継母。
長女「師匠、止めて下さいっ!」ガシッ
次女「死んじゃうってば!」ガシッ
継母「ぬぅ……ッッ!」
継母「ひよっ子どもが、はなさんかァッッッ!」
ブオンッ!
娘たちの制止を強引に振りほどく継母。
継母「ぬぅぅ……もう立てぬかッッッ!」
シンデレラ「うぅ……」ピクピク
継母「シンデレラよ」
継母「罰として、今日キサマはメシ抜きだ!」
継母「この道場を全て一人で清掃しろ」
継母「──いいなッッッ!」
シンデレラ「は、はい……」
継母「では本日の鍛錬はここまで!」
継母「長女と次女はメシの支度をせいッッッ!」
長女&次女「はいっ!」
道場の食卓──
山盛りの肉と野菜が、みるみるうちに消えていく。
ガツガツ…… ムシャムシャ……
長女「お母様」
継母「なんだ」
長女「今日は少しやりすぎだったのでは……」
継母「ほう……?」
次女「アタシもそう思う」
次女「なにもあそこまで殴る必要はなかったよ」
次女「人を殴れないからって、だれかに迷惑かけるってワケでもないしさ」
継母「…………」ピクピクッ
バンッ!
フワァッ……
継母がテーブルを叩くと、衝撃で卓上の料理が天井近くまで浮き上がった。
長女&次女「…………!」ゾクッ
継母「人をまともに殴れぬ格闘家など、いつ爆発するともしれぬ爆弾のようなもの……」
継母「あの程度の荒療治は当然だッッッ!」
次女「だけどさ、死んじゃったら元も子も……」
継母「死ぬゥ……?」
継母「フハハハハハハハハハハッッッ!」
継母「メシを喰ったら、あとで道場を覗いてみるんだな」
夕食後、長女と次女は道場をそっと覗いた。
すると──
シンデレラ「はぁっ! えいやっ! ──はぁっ!」
ブンッ! ビュッ! バッ!
道場はすでに掃除されており、いつものように鍛錬をこなすシンデレラがいた。
長女(あれだけお母様に殴られて──もうあそこまで回復しているというの!?)
長女(なんという回復力! なんという潜在能力……!)
次女(たしかに……もし人を殴ることを知らないままシンデレラが世に出たら──)
次女(ヤバイことになるかもしれない……)
この時、二人は心を鬼にすることを決意した。
翌日──
シンデレラ「おはようございます、お姉様」
長女「…………」
ゴキィッ!
長女のアッパーが、シンデレラの顎を突き上げた。
シンデレラ「が……っ!?」
長女「武術家にとって、不意打ちが卑怯にならないことくらいは承知よね?」
長女の豪雨と称されるラッシュが、シンデレラを襲う。
ドガッ! バキッ! メキッ! ガゴッ! ドゴッ!
長女「さぁ、このまま打たれてると死ぬわよ! 反撃よ!」
長女「反撃するのよ、シンデレラッッッ!」
シンデレラ(なんで、いきなり……!)
シンデレラ(でもお姉様の目は本気だ……やらなきゃ、やられる!)
シンデレラが右手を握る──が、打てない。
長女「どうしたの!? 打つのよっ!?」
シンデレラ(う、打てない……!)
ズガッ! ガスッ! ズンッ! ドカッ! バゴッ!
数百の連打を浴びたシンデレラであったが、結局一発も反撃することはできなかった。
シンデレラ「…………」ズルズル…
長女「……失神したみたいね」
ドサッ……
次女「起きな」
ザバァッ!
失神しているシンデレラに、水が浴びせられた。
シンデレラ「──はっ!」
シンデレラ「えぇと、私は……?」ズキッ
シンデレラ(たしかお姉様の豪雨を浴びて、気絶してしまったのね)
シンデレラ「お、起こしてくれてありがとう……お姉様」ゲホゲホッ
次女「ありがとう? なにいってんだい、アンタ」
次女「次はアタシだよ」
シンデレラ「!」
ゴッ!
次女のヒザ蹴りが、シンデレラの鼻にめり込んだ。
プシュウゥゥ……
鼻血をまき散らすシンデレラ。
次女「アタシは姉様とちがって殺す気でやるよ」
次女「なんたって“キラーフット”とか呼ばれてる身だからさ」
次女「アンタも殺す気で来ないと……死んじゃうよっ!」
ドゴォッ!
シンデレラのミゾオチに中段蹴りが炸裂。
シンデレラ「──ごぇぇっ!」ゲボッ
次女「はあっ!」
メキィッ!
シンデレラの頭部にハイキックがクリーンヒット。
シンデレラ「あうぅあ……」ドサッ
次女「気絶したか……」
次女「何度だって繰り返すよ……アンタが殴れるようになるまでな」
この日から、継母と姉二人による執拗な攻撃が始まった。
継母「来いッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
ドゴォッ!
長女「さぁ、日頃の練習の成果を今こそ解き放つのよ!」
ベキィッ!
次女「少しは反撃してみたらどうだい!?」
バキィッ!
昼夜を問わず、三人はシンデレラに襲いかかった。
しかし、いくら攻撃を与えても、シンデレラの闘争心に火が灯ることはなかった。
長女「シンデレラは……?」
次女「ぐっすり眠ってるよ」
長女「今日もダメだったわね……」
次女「うん……」
長女「ハッキリいってあの子の潜在能力は、私たちの遥か上をゆくわ」
長女「加えてあの練習量……強くないハズがない」
長女「事実、いくら私たちが攻撃しても、数時間も経てば動けるようになっているもの」
次女「うん、恐ろしいまでの才能だよ」
長女「だからこそ──」
長女「今のうちに、殴ることを知っておかないと……とんでもないことになる」
次女「自分の持ってる武器の威力も知らずに、振り回すことになりかねないしな……」
シンデレラは気配を殺し、彼女らの会話を聞いていた。
シンデレラ(ごめんなさい、お姉様たち……)
シンデレラ(私にも分かっているの、このままじゃいけないって)
シンデレラ(でも……)
シンデレラ(やっぱりダメなの……!)
シンデレラ(ごめんなさい……!)ダッ
そんなある日のこと──
国中に次のようなお触れが出た。
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来たれ強き女ども!
一週間後、城にて王子主催による武道会を開催する。
王子は自分の強い種を受け入れるに相応しい、強い女性を探している。
王子に勝利できた女性には、王子と結婚する権利を与える。
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王子は優れた軍人であり、格闘家としても希有な才能の持ち主だと有名である。
外見もハンサムで、女性格闘家たちにとっては憧れの的であった。
むろん、シンデレラの道場でも話題になる。
継母「権力などに興味はないが……」
継母「あの王子を仕留めれば、我が道場の名も上がるッッッ!」
継母「キサマら、王子に勝ってみせいッッッ!」
長女「えぇ、王子と戦える機会なんて一生に一度あるかないか……」
長女「楽しみですわ」
次女「へへっ、腕がなるねぇ」
次女「アタシの蹴りを王子にたっぷりブチ込んでやるよ」
シンデレラ「…………」
継母「なんだシンデレラ、その目は」
シンデレラ「あ、あの……私も……」
継母「ならんッッッ!」
継母「道場でワシらを殴れぬキサマが、どうして王子を倒せる!?」
継母「手も足も出さぬまま、王子に殺されるだけだ……!」
継母「どうしても出たいというのなら、ワシらに一撃ずつ浴びせてみせいッッッ!」
長女「そうよ、シンデレラ」
次女「王子の前に、まずアタシらをぶっ飛ばしてみな」
シンデレラ「…………!」
シンデレラ「で、できませんっ……!」
シンデレラは走り去ってしまった。
継母「チィ……ッッ!」ギリッ
長女「やっぱり、ダメなようね」
次女「やれやれ、アイツがその気になれば、アタシらにだって勝てるのに……」
次女「あり余る格闘技の才能がありながら、人を殴れない、か」
次女「神様ってのは残酷なことをするもんだよ……」
長女「お母様、シンデレラはやはり武道会には……?」
継母「愚問ッッッ! 人も殴れぬようなヤツを試合に出すワケにはいかんッッッ!」
結局、シンデレラは継母たちを殴ることができぬまま、一週間が経った。
継母「今日はいよいよ、城で武道会だ」
継母「長女、次女はワシとともに来い。ワシの前で、みごと王子を倒してみせい」
継母「シンデレラ、キサマは留守番だ。よいな」
継母「なぜ留守番になったか、原因はキサマがイチバンよく分かってるはずだ」
シンデレラ「はい……」
長女「じゃあ、行ってくるわね。シンデレラ……」
次女「まぁ、また王子とやれるチャンスはあるって」
シンデレラ「ていっ! えいっ! ──とりゃあっ!」
ビュッ! ビュンッ! ビュバッ!
留守番を兼ねて、道場で鍛錬を行うシンデレラ。しかし、今一つ集中できずにいた。
シンデレラ(なんだろう、このイヤな感じ……)
シンデレラ(やはり王子と戦うチャンスを逃したから……?)
シンデレラ(いいえ、ちがう……)
シンデレラ(これは──)
城──
大勢の女性格闘家が、王子に次々と挑んでは倒されていた。
女格闘家A「ギャアアアアッ!」
王子「やれやれ、こんなものかい? ──次っ!」
すでに100人以上が挑戦したが、王子は傷一つ、どころか息切れ一つしていない。
次女「強えぇっ……!」
長女「王子の実力を甘く見ていたかもしれないわね、私たち」
王子「この程度でボクの子供を産めると思ってたのかい?」
女格闘家B「ま、参りました……もう勘弁してぇ……」グスッ
王子「ン~、聞こえなかったなァ」
ドゴォッ! ベキベキベキベキ……
ダウンしている相手の腹を踏みつけ、肋骨をへし折る王子。
女格闘家B「ひげぇぇぇっ! ギブアァァァップ!」
王子「そうそう、敗者はそうやって泣き叫ばないとね」ニコッ
王子「さて、次はだれだい?」
長女「私です」
王子「オ~、君はたしか“レイニーフィスト”だったね。なんでも連打が得意だとか」
長女「城にまで名前が知れ渡っているとは、光栄ですわ」
シンデレラ(この不安感は──)
シンデレラ(お姉様たちが危ないっ!)
シンデレラ(私は王子を一度だけ遠くから見たことがあるけど)
シンデレラ(優しそうなお顔の中に、凶悪な闘争心を秘めていた……)
シンデレラ(もし、お姉様たちがアレを引き出してしまったら──)
シンデレラ(でも、行ってどうするというの!?)
シンデレラ(人を殴れない私が、助勢できるわけがない)
シンデレラ(仮にできたとしても、私なんかに助けられてあの二人が喜ぶと思う!?)
シンデレラ(だけど……行かなきゃいけない!)
シンデレラ(そんな気がする!)
すると──
魔女「おやおや、お困りのようだねぇ」ザッ
シンデレラ「あなたは……!?」
魔女「私は魔女、なにかお悩みのようだからやって来たのさ」
魔女「私は悩んでる人間を嗅ぎつけるのがウマイんでね、ひっひっひ」
シンデレラ(魔女……!?)
魔女「あんた、城の武道会に行きたいんだろ?」
魔女「かといって、城にいる仲間に正体がバレるわけにもいかない」
魔女「さぁ、困った。どうしよう~ってとこかねぇ?」
シンデレラ「な、なぜそれを……!」
魔女「ひっひっひ、協力してやるよ」
武道会では、長女が得意の猛連打で王子を圧倒していた。
ガッ! ドガッ! ガスッ! ベシッ! ドゴッ!
次女「いいぞ、姉様ぁっ!」
長女(イケる! このラッシュから逃れられた対戦相手はいない!)
だが──
王子「ン~……なかなかのラッシュだ。口の中を切ってしまった」ペッ
長女「!?」
長女(あれだけの拳を受けて、ほとんどダメージがない!?)
王子「そろそろ反撃しよっかな」
パシッ!
長女(しまった、右手を取られた……!)
ボグッ!
電光石火の脇固めで、長女の右ヒジをへし折る王子。
長女「あぐぅぅぅっ……!」
次女「姉様っ!」
王子「これで君の戦力は激減したね」
王子「君の実力に免じて、ギブアップするチャンスをあげちゃおう」
グシャアッ!
王子「ぶっ……!」
長女はあえて折れた右腕でのパンチを、王子の顔面に叩き込んだ。
長女「腕一本……奪ったくらいで……いい気にならないで下さる?」ハァハァ
王子「いい目だァ……」ニコッ
魔女「ほれっ」パァァ…
パサッ
シンデレラ「これは虎の覆面!?」
魔女「ひっひっひ、それを被ればあんたの正体はバレないよ」
魔女「さらに……」パァァ……
シンデレラ「私の服が、キレイなドレスになったわ!」
魔女「あとは、ほれっ」パァァ…
シンデレラ「超強化ガラスで作った靴!?」
魔女「さて、あとは──」
ボワァァァン…
シンデレラ「カボチャの馬車!?」
魔女「ひっひっひ、すごいだろう」
魔女「ただし魔法の効力は、今晩0時までだよ」
シンデレラ「ありがとう……でも、馬車はいらないわ」
魔女「えっ?」
シンデレラ「だって私、走った方が速いものっ!」
ドヒュンッ!
魔女「ワ~オ……クレイジー」
城では、長女が逆に王子のラッシュの餌食になっていた。
次女「ね、姉様……ッッ!」
ズギャッ! ベギャッ! ボゴォッ! ズドンッ! グシャァッ!
王子「ハハハハハハハハハハッ!」
王子「どうやら君もボクの種を受け入れるには力不足だったようだね」
長女「が……ふっ……」グラッ
王子「おっと、まだ倒れないでくれよ」ガシッ
王子「力不足だったが──」
王子「ボクにあそこまでパンチを入れたのは君が初めてだ。男女含めてね」
王子「感心すると同時に、ちょっとムカついちゃったから──」
王子「君にはボク自らが引導を渡してあげようっ!」ググッ…
王子がすでに失神している長女の首を、ヘシ折ろうとする。
次女「──ふざけんなぁっ!」バッ
客席から飛び出した次女が、王子の後頭部に蹴りを入れた。
ガゴンッ!
次女「もう勝負はついてるだろうがっ! このクソ王子っ!」
王子「ン~……今のはいい蹴りだったよ。さては君が“キラーフット”か」
次女「そうだよ、選手交代だっ!」
王子「実力は認めるが、神聖な試合に乱入するのは感心しないな」
次女「なにが神聖な試合だっ! この腐れサド野郎がッッッ!」
キャアアアアア…… イヤアアアアア……
王子「おやおや」チラッ
王子「ボクの強さに恐れをなして、他の挑戦者は逃げてしまったようだ」
王子「いいだろう。恥知らずな乱入者である君を処刑し、この武道会はお開きとしよう」
次女「やってみな……!」
馬よりも速く、城めがけて走るシンデレラ。
すると、城から逃げ出してきた大量の女格闘家たちに出くわした。
シンデレラ(城で何かあったのかしら……?)
「冗談じゃないわ」 「強すぎるわよ」 「あの姉妹……今頃殺されてるよね、絶対」
「100人以上は再起不能にされたわ」 「やってられないよ」 「あの王子ヤバすぎ」
シンデレラ(やはり、王子はとんでもない男だったんだわ……)
シンデレラ(急がないと……お姉様たちが殺される……!)
仰向けにダウンする次女。
次女「げほっ、ごほっ……!」
次女(ちくしょう、相手にもならなかった……)
王子「君もいい腕をしていたよ」
王子「しかし、やはりボクを満足させるには至らなかった」
次女「アタシは……アンタより強い女を知ってるよ」
王子「へぇ、そんな人がどこにいるんだい?」
継母(ここだッッッ!)ギロッ
王子(あの客席でボクを睨んでるヤツは……女じゃないよな、どう見ても)
次女「ここにはいないよ……」
王子「フッ、つまらんハッタリはよしたまえ」
ドゴォッ!
王子が次女の顔面を踏みつける。
次女「ア、アイツは……だれより、も才能が、あって……」
次女「どりょ、くしてる……」
次女「アイツの名、は……シ、シン──」ガクッ
王子「ふん、気絶したか。最後までハッタリをかまそうとした精神力はみごとだ」
王子「せめてもの手向けとして、君たち姉妹はボクの手であの世に送ってあげよう」
王子「格闘家にとって、これほど名誉ある死もあるまい!」
「待ちなさいっ!」
王子「ぬっ!?」
?「私が相手よ、王子っ!」
王子(美しいドレスを着て、ガラスの靴を履いて、虎の覆面を被った変態!?)
王子「名乗ってもらおうか、侵入者君」
?「私は……タイガーマスク!」
王子「タイガーマスク……?」
タイガーマスク「王子、勝負よっ!」
王子「ちょうど退屈してたところだ。いいだろう」ニコッ
継母(あれは……何者だ!?)
継母(体格と声と気配はシンデレラそっくりだが──顔がちがう)
継母(シンデレラの顔は虎ではなかったハズッッッ!)
タイガーマスクは倒れている長女と次女を、武道場の外に運んだ。
タイガーマスク(こんなになるまで痛めつけて……王子……絶対許さない!)
タイガーマスク(お姉様たち、仇は取るわ)
シンデレラ「私が……王子を倒すッッッ!」
振り返り、王子を睨みつけるタイガーマスク。
王子(ん、今一瞬覆面の下の素顔が見えたかと思ったが……気のせいか)
継母(一瞬虎がシンデレラに見えたが……やはり虎だったッッッ!)
タイガーマスク「さぁ、始めましょう」
王子「ふっ……いつでもいいよ。格上は格下に先手を譲るものだ」
バッ!
王子(消えた!?)
ガゴォッ!
タイガーマスクの右ストレートが、王子の顔面を撃ち抜いた。
王子「お、おごぉ……!?」ガクン
継母(長女の連打や次女の足技でもビクともしなかった王子が、膝をついた!)
継母(あの虎人間……何者ッッッ!?)
タイガーマスク「立ちなさい」
タイガーマスク「私、あなたのような外道なら、全力で殴れるッッッ!」
王子「最高だよ……君」
王子「今まで出会った中でイチバン最高の女性(メス)だッッッ!」
王子の貫き手が、タイガーマスクの首に突き刺さる。
タイガーマスク「──がっ!」
王子「サイコーだよォォォッッッ!」
ズガァンッ!
王子のアッパーで、タイガーマスクが3メートルは宙に浮いた。
だが、落ちてきたタイガーマスクはカカト落としを王子の脳天に叩きつける。
ドゴォッ!
衝撃で王子の足が床に埋まった。
王子「……いいねぇ~」
タイガーマスクと王子が戦いを開始してから、一時間が経過しようとしていた。
戦況は──わずかにタイガーマスクが押していた。
王子(このボクが……負ける……?)
タイガーマスク「絶対に──許さないッッッ!」
ズドドドドドドドドドドドドドッ!
脳天、額、鼻、顎、首、右肩、左肩、右胸、左胸、右脇腹、左脇腹、腹、股間への、
十三連打。
むろん、一撃一撃が必殺の威力である。
タイガーマスク「灰をかぶって会得した絶技“死の十三階段”……これで決着よ」
王子「が……は……っ!」
ドサァッ!
目を覚ました長女と次女も、タイガーマスクの実力に驚嘆する。
長女「すごい……。何者なのかしら、彼女……」
次女「あぁ、アタシらより遥かに強いよ……あの王子を倒しちゃうなんて……」
継母「なにをいっておる」
長女「え?」
継母「王子は……ここから真価を発揮するッッッ!」
次女「で、でもあんなの喰らったらいくら王子でも……──!」
ドクン…… ドクン…… ドクン…… ドクン…… ドクン……
王子(強い……これほどの敵は初めてだ……)
王子(このボクが敗北を意識するなど、生まれて初めてだ……)
王子(君ならば、受け入れられよう)
王子(王子という高貴な地位にあまりにも相応しくない──)
王子(醜悪で、野蛮で、凶暴で、低劣で、苛烈で、邪道で、自由な──)
王子(ボクの本当の力を!)
ガバァッ!
瀕死のはずの王子が起き上がる。
が、すでに先ほどまでの王子ではなかった。
目は充血し、筋肉は程よく隆起し、全身の血管がメロンのように浮き上がっている。
なによりも恐ろしいのは殺意。
毛穴の一つ一つから殺気を発散しているような、禍々しさを放っていた。
長女「なんなのアレ……」
次女「さっきまでとは別人じゃん……」
継母「アレが長年王子という仮面に抑圧されていた闘争本能を──」
継母「全て開放させた王子の真の姿よ……ッッッ!」
だが、タイガーマスクの中のシンデレラは笑っていた。
タイガーマスク(これよ……! 私はこの王子と戦いに来たのよ!)
しかし──
時計の針が、まもなく0時を指そうとしていた。
タイガーマスク(マズイ……)
タイガーマスク(ここで魔法が解けてしまったら、私の正体がバレてしまう!)
タイガーマスク(お姉様二人に、私に助けられたという恥辱を味わわせてしまう!)
王子「さぁ、続きを始めよう。君から来るかい? それともボクから行こうか……?」
タイガーマスク「…………」
タイガーマスク「残念だけど、時間よ」
タイガーマスク「勝負はお預けにさせてもらうわ」
王子「なにっ!?」
タイガーマスクは王子に背を向けると、一目散に駆け出した。
王子「ここまでボクをワクワクさせておきながら、逃げる……?」ビキビキッ
王子「君ほどの遊び相手……みすみす逃がすかよッッッ!」ダッ
タイガーマスクは履いていた靴を、高速で王子に投げつけた。
ガゴッ!
王子「うがっ!」
その隙に、タイガーマスクは城からの脱出に成功した。
王子「…………」
王子「……ふっ」
王子「フハハハハハハハハハハッ!」
王子「ハハハハハハハハハハッ!」
王子「ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!」
ハーッハッハッハッハッハ……
次女「狂ったように笑ってるよ、あの王子……」
長女「今のうちに私たちも逃げましょう」
次女「そうだね!」
継母(それにしても、あの虎人間……何者だったのだ!?)
それから──
先に道場に戻っていたシンデレラは、後から戻って来た長女と次女の手当てをした。
長女「当分私たちは稽古は無理ね……全治二週間ってとこかしら」
次女「いてて……」
シンデレラ「大丈夫?」
長女「ありがとう、シンデレラ。これくらいどうってことないわ」
長女「でも、あの虎覆面の女性が来なければ、殺されていたかもしれないわね」
次女「ああ、アイツには感謝しないとね」
次女「でも、いったい誰だったんだろう……アレ」
シンデレラ「…………」
シンデレラ(王子との戦いはキツかった……)
シンデレラ(でも、不謹慎ながら楽しさも感じていた……)
シンデレラ(お姉様たちのためにも、決着をつけたかったけれど……)
シンデレラ(あの限られた時間で、しかも乱入した身で、それは贅沢というものよね)
シンデレラ(さて、明日からはいつも通りの生活に戻らなくっちゃね)
翌日──
王子が兵士を率いて、町にやって来た。
王子「これからこの町にいる全ての女に、このガラスの靴を履いてもらう!」
王子「もしこの靴にピッタリの足の女がいたら──」
王子「ボクと戦ってもらうッッッ!」
王子「もし隠し立てなどしたら、その家は全て焼き払うッッッ!」
町の女性はみんな恐る恐るガラスの靴を履いた。
万が一にも自分の足がピッタリであったら、王子と戦うはめになるからだ。
しかし、ガラスの靴と合致する足の持ち主は、いつまでたっても現れなかった。
王子(この町の女性ではないのか……?)
王子(くそう、早く見つけ出して戦いたい……!)
兵士「王子、残るはあの道場だけです!」
王子(あそこの女二人とはすでに戦っている……)
王子(“レイニーフィスト”と“キラーフット”が虎覆面ではないことは確実)
王子(無駄足だと思うが、一応行ってみるか)
王子「よし、向かうぞ」
兵士「はっ!」
王子「たのもうっ!」
継母「王子か……何用だ?」
王子「今ボクらは、このガラスの靴がピッタリ合う足を持つ女性を探している」
王子「君たちはちがうと思うが、念のためテストさせてもらおう」
継母「ふん、よかろう」
継母「長女ッッッ! 次女ッッッ! シンデレラッッッ!」
継母「来いッッッ!」
王子(シンデレラ……? 知らない名前だな)
長女「はい、お母様」
次女「なにさ」
シンデレラ「!」
シンデレラ(どうして王子がここに……!?)
兵士「今からお前たちにはこの靴を履いてもらう」
兵士「もしサイズがピッタリ合ったなら、王子と戦ってもらう」
長女(アレは昨日の虎覆面の靴ね……。なるほど、彼女を探しているのね)
次女(アタシらが虎覆面じゃないってのは分かり切ってるのに、めんどくさいなぁ)
シンデレラ(どうしよう……正体がバレちゃう……!)
長女が履く。
長女「私には少し小さいようですわ」ギュッ
次女が履く。
次女「アタシにも合わないね」ギュッ
継母が履こうとする。
兵士「いや、あなたは履かなくても分か──」
ドゴォッ!
兵士「ごぶっ!」
継母が履く。
継母「たわけが、小さすぎるわッッッ!」ギュウウ…
王子「さて残りは君だけか」
シンデレラ(うぅっ……!)
シンデレラ(どうしよう……これを履けば、私がタイガーマスクだとバレてしまう!)
シンデレラ(そうなったらお姉様たちに、恥をかかせてしまう!)
シンデレラ「私、履きたくありません!」
王子「ほう、なぜだい?」
シンデレラ「そ、それは……」
次女「王子さん、コイツはあの覆面じゃないよ」
次女「だって……コイツは人を殴れないんだからさ」
次女「見逃してやってよ」
王子「ダメだ」
次女「!」
王子「ボクが履けといったら、黙って履けばいいんだ」
王子「それとも、また昨日の続きをするかい?」
次女「上等だよ……! このクソ腐れサド外道王子が……!」
長女「私も戦うわ、次女」
次女「姉様!」
長女「嫌がっている妹に靴を履かせようとする不埒な輩……戦うしかないでしょう」
王子「二対一でもかまわないよ、ボクは」
王子「この道場を君たち姉妹の墓場にしてあげるよ!」
シンデレラ「待って下さいっ!」
長女&次女「!」
シンデレラ「私……履きます」
王子「ふふふ、それでいいんだ」
シンデレラ(ごめんなさい、お姉様……)スッ
ガラスの靴は、シンデレラの足にぴったり合った。
長女「!」
次女「!」
継母「!」
王子「これは……」
長女「待って下さい、これはなにかのまちがいです!」
次女「シンデレラ、逃げな! 王子はアタシらでなんとかする!」
王子「どきたまえ」
バキッ! ドガッ!
長女「ぐぁっ!」
次女「うわぁっ!」
王子「シンデレラとやら。戦わないのなら、君のお姉さんたちが死ぬことに──」
ボゴォッ!
王子「ごあっ!」ドサッ
シンデレラの右ストレートが炸裂した。
シンデレラ「やりましょうか、王子様」ニッコリ
今の一撃で、長女たちは全てを悟った。
長女(すごいパンチだわ……なるほど、昨日の虎覆面は──)
次女(そうだったのか、昨日はアイツは──)
継母(ようやく分かったッッッ! 昨日の虎は──)
長女(シンデレラだったのね……)
次女(シンデレラだったんだな)
継母(シンデレラの双子の姉か妹だったということかッッッ!)
継母以外の二人は真実にたどり着いた。
次女(ふん、アタシらに遠慮してて、名乗れなかったんだな……ったく)
次女「シンデレラ、思いきりやっちまいな! クソ王子をぶっ飛ばせ!」
長女「えぇ、全力で叩きのめすのよ!」
継母「命令だ……葬れッッッ! 王子を地獄に叩き落とすのだッッッ!」
シンデレラ(みんな……応援、ありがとう!)
シンデレラ「早く立って下さい。みっともないですよ、王子」
王子「いい一撃だったァ~~~~~」ガバッ
王子「昨夜の興奮がよみがえってきたよ」
王子「いきなり出させてもらうよっ! ボクの本気(しょうたい)をッッッ!」
王子が昨夜見せた異形に変貌する。
王子「こうなったからには……もう誰もボクを止められないッッッ!」
王子がダッシュから、噴火のようなアッパーを放つ。
バゴォォッ!
シンデレラの体が10メートルは宙に浮いた。
さらに王子は飛び上がると、宙に浮いたシンデレラを捕え──
落下の勢いを利用して、シンデレラの頭部を地面に突き刺した。
ズガァンッ!
次女「シンデレラッ!」
シンデレラは平然と起き上がった。
シンデレラ「私の番ですね」
昨夜王子を瀕死に追い込んだ、十三連打“死の十三階段”を炸裂させる。
ズガガガガガガガガガガガガガッ!
王子もビクともしない。
王子「フハハハハハハハハッ!」
シンデレラ「うふふっ……」
両者、笑っていた。
ズガッ! ドガガッ! バギャッ! ベキィッ! ズドンッ!
凄まじい打撃戦。
一流の武術家といえる長女や次女でも、もはや目で追えないレベルだった。
長女(全て分かったわ……シンデレラが人を殴れなかったワケが)
長女(シンデレラは本能的に分かっていたのね……)
長女(私たち姉妹を殴れば、殺してしまうかもしれないと……)
長女(お母様と戦えば、道場を壊してしまう事態になりかねないと……)
長女(だからずっと、王子のような気兼ねなく戦える猛者をずっと待っていたんだわ……)
変貌した王子の実力は凄まじく、シンデレラは押されていた。
王子のラリアットが、シンデレラの首を直撃する。
ゴキャッ!
シンデレラ「ぐあぁっ!」
王子「ふふふ、これほど楽しめたのは生まれて初めてだよ」
王子「かつて敵国の部隊を一人で滅ぼした時にも、これほどは苦戦しなかった」
王子「そんな君に敬意を表し、ボクの最高の技で君を葬り去ってあげようッッッ!」
王子「古来より、王子のキスには美女を蘇らせる力があるという言い伝えがある」
王子「──が、ボクは逆ッッッ!」
王子「ボクのキッスはどんな美女をも絶命に追い込むッッッ!」
王子は唇を突き出すと、そのまま超高速でシンデレラの顔面に唇をぶつけた。
グシャアッ!
シンデレラ「がっ……!」
王子「もう一発!」
グシャアッ!
シンデレラ「うぅ……っ」ガクッ
次女(ありゃあキスなんて甘いもんじゃない……唇による打撃だ!)
膝から崩れ落ちるシンデレラ。
王子「どうやらボクの勝ちのよう──……え!?」
シンデレラの体が異常に発汗していた。
汗は急速に乾き──空気中の汚れと混ざって黒い塩となった。
王子「What!?」
シンデレラ「十数年、格闘技だけに生きてきた私に──」
シンデレラ「王子とのファーストキスは刺激が強すぎましたわ」
シンデレラ「おかげで、いっぱい汗をかいてしまいました」
シンデレラは自分の体にくっついた灰色の塩を王子に投げつけた。
バサァッ……
王子「ぐわぁっ! 目がっ、目がぁ~っ!」
継母「シンデレラの日頃からの猛特訓が、土壇場でヤツを救いおったかッッッ!」
シンデレラ「はあああああっ!」
ズドドドドドドドドドドッ!
長女のような、拳による猛ラッシュ。
シンデレラ「でやあっ!」
ベキィッ!
次女のような、強烈な回し蹴り。
王子「バ、バカな、ボクのキスを喰らってこれほど動けるのか……ッッ!」
長女(シンデレラったら、私たちの分まで戦ってくれているのね)
次女(ありがとな、シンデレラ……)
シンデレラ「トドメよッッッ!」
シンデレラは飛び上がり、王子の顔面に猛烈な蹴りを浴びせた。
ドガッシャァァァンッ!
王子「べぶぁっ……!」
衝撃で靴は砕け散り、王子の顔面にガラスの破片が突き刺さった。
王子「ビュ、ビューティフォー……」
王子は一瞬ニヤリと笑うと、背中から勢いよくダウンした。
──ドザァッ!
継母「一本ッッッ!」
継母「勝者、シンデレラッッッッッ!!!」
しばらくして、王子が目を覚ました。
王子「ボクの負けだよ……シンデレラ」
王子「ボクと結婚してくれるね?」
シンデレラ「いいえ」
王子「えっ?」
シンデレラ「お姉様たちを始め、大勢の女性を傷つけたあなたとなんか……」
シンデレラ「私、結婚したくありません」
シンデレラ「私はこの道場に残り、もっと技を磨きますわ」
王子「そ、そんな……じゃあボクはどうすれば……」
継母「案ずるなッッッ!」
継母「キサマとはワシが結婚してやろうッッッ!」ガシッ
王子「えっ」
継母「さぁ、さっそく挙式だッッッ!」グイッ
王子「えっ、ちょっ、待っ──」
継母「そして挙式のあとは、即契りを行うッッッ!」
王子(だ、だれか助けて……)
シンデレラ「待って下さい、お母様」
継母「ぬぅっ!?」
シンデレラ「王子、あなたには少し精神の修練が必要なようです」
シンデレラ「このまま王子として結婚させたら、また何をしでかすか分からないわ」
王子「あ、ありがとうございますぅ!」
王子「ボクが傷つけた女性たちには最高の名医を送って、責任を持って完治させますっ!」
シンデレラ「いい心がけだわ。でも、ちゃんと一人一人に謝罪もするのよ」
王子「もちろんですっ!」
シンデレラ「どうでしょう、お母様? 王子を私たちの道場に入門させては──」
継母「なるほど、それも一興よ」
継母「ただし王子よ、ワシの期待に反したら……即ワシと結婚だッッッ!」
継母「よいなッッッ!」
王子「は、はい……っ!」
こうして王子は、道場の門下生──というかパシリになった。
長女「王子、紅茶を入れてちょうだい」
王子「はいっ!」
次女「王子、メロンパン買ってきて」
王子「はいっ!」
継母「王子! 肩を揉めッッッ! もし気持ちよくなければ、結婚してもらうッッッ!」
王子「は、は……はいっ!」ビクッ
シンデレラ「王子、組み手に付き合って」
王子「はいっ! 喜んでっ!」
魔女「ひっひっひ、森で薬草を取ってきておくれ」
王子「(誰コイツ!?)はいっ!」
数年後、王子はその強さと地位に相応しい高潔な精神を手に入れていた。
そして──
カラァァン…… コロォォン……
教会に大勢の人が集まっていた。
長女「おめでとう! キレイよ、シンデレラ……!」
次女「王子もずいぶんかっこよくなったよね。お似合いだよ」
継母「くぅぅ……ッッ! 未熟者どもが……ッッッ!」グスッ
長女&次女(泣いてるところ、初めて見た……!)
王子「みんな、ボクらのために集まってくれてありがとう!」
王子「シンデレラ、今日の君はなんだか女神のようだ」
シンデレラ「ありがとう、王子」
シンデレラ「お姉様、お母様、みんな、ありがとう! 私、これからも頑張ります!」
国中がシンデレラと王子の結婚を祝福した。
その後、この二人が幸せに暮らしたことはいうまでもない。
<おわり>
199 : 以下、名... - 2012/04/30(月) 02:02:21.36 3KRPI85x0 82/82
シンデレラを戦わせてみたかったのです
ありがとうございました