1 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:34:45 9Gu1k.yo 1/385


――よくあるファンタジー世界

「武者修行のために国を出て幾年月か」

「まさかエルフの国で捕われの身になってしまうとは」

「ちょっと道に迷ってエルフの国の領土に入ってしまっただけなのに、問答無用で牢屋いきとはな」

キィ

エルフ「何をブツブツ言っているのです?」

「や、軽い状況説明を。で、あんたは? 見たところ騎士のようだが」

エルフ「あなたの尋問を任された者ですわ。最初に言っておきますけど、あなたに黙秘権はございませんので」

「はぁ。や、まあいいけど」

エルフ「……何です? その余裕たっぷりな態度は」

「いや、別に余裕ってわけじゃないぞ」

エルフ「ま、よろしいですけど。尋問を始めますわ」


元スレ
侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1331040885/

4 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:39:50 9Gu1k.yo 2/385


エルフ「まず、あなたの名前は」

「侍」

エルフ「……正直で結構。では侍さん、あなたがこの国に侵入した目的は何?」

「目的も何も、道に迷って気が付いたらここの領土内だっただけだ」

エルフ「そのような嘘が通用するとでも思って」

「言われると思ったよ」

エルフ「もう一度訊きますわ。この国へ侵入した目的は? 具体的に、事細かにお話しなさいな」

「道に迷って
気が付いたら
入ってた」

エルフ「三行!?」


5 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:43:05 9Gu1k.yo 3/385


エルフ「とりあえず、それはいいでしょう。では、あなたの隣国での立場は?」

「立場?」

エルフ「とぼけても無駄ですわ。あなたを捕縛した場所は、隣国との国境付近の森」

エルフ「現在の我が国と隣国との関係を考えれば、あなたが隣国のスパイであることは自明の理」

「流れからして予想はつくけど、もしかして一触即発か?」

エルフ「白々しいですわね。そもそもはあなたたち隣国の人間がこちらの――」

「いや確かに隣国の方から来たけど、あそこは通過しただけで別に仕官してるわけでも何でもないんだが」

エルフ「またそんな見えすいた嘘を」

「言われるとお(ry」

エルフ「ではあなたが隣国の人間ではないと言うのなら、その証拠を示してごらんなさい」

「示せっても、荷物全部取り上げられてるんだけど」

エルフ「あなたのお口は飾りですの?」

「口頭で説明すればいいのか?」


6 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:43:49 9Gu1k.yo 4/385


エルフ「結構ですわ。さて、一体どれだけのでまかせを聞かせて下さるのかしら」

「……じゃ、遠慮なく」

スゥー

「生まれは極東の島国でホニャララ藩の某という大名に仕えてたがその大名の奨めに従い数年前に船に乗って武者修行の旅に出たなお幕府からの許しも正式に降りているので問い合わせてみろ」

エルフ「……え?」

「大陸に着いてからは各国各地を巡り強者と出会っては手合わせ出会っては手合わせ打ち負かした相手は数知れず打ち負かされた相手も数知れずしかれど修行の旅はまだまだ終わらず巡るべき地は数多く」クドクド

エルフ「ちょっ……あの……」

「そもそも武の頂とは雲の上ではたして人の身でそれに到ることは叶うのかと常々思うんだでももののふとして生まれたからにはそこを目指すのがをのこというものでありまして然るに大陸で一般的な騎士との違いというのは」クドクドクド

エルフ「お、お待ちになって……」

「であるからしてやはり武士と騎士とは似て非なるものだから一緒くたに扱ってほしくはないのだが戦いに疎いやつほどこれをいくら熱く熱く語ってもなかなか理解されないわかるかこのもどかしさせっかく世界に出て見聞を広めても(ry

エルフ「わかりましたからお黙りや!」


7 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:47:55 9Gu1k.yo 5/385


一週間後

キィ

エルフ「来なさい。釈放ですわ」

「やっとか。まさか一週間も閉じ込められるとは」

エルフ「しかたないでしょ。ここからあなたの国まで、どれだけ離れてるとお思いなんですの? 一週間であなたの証言の確認が取れて、むしろ早いくらいですわ」

「そらそうか」

コツ コツ コツ

「出してもらえるのはいいんだけど、取り上げられてた俺の荷物は?」

エルフ「心配しなくてもすぐお返しいたします。ここですわ」

ガチャ

「資材置き場かよ」

エルフ「ですわね。あなたの荷物は……あら?」

「まさか、無いとか言わないよな」

エルフ「いえ、先程部下に、ここにまとめておくようにと命じておいたはず」


8 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:50:32 9Gu1k.yo 6/385


「部下……あいつ?」

エルフ「……ちょっと、あなた」

エルフ兵「何でしょう?」

エルフ「何でしょうじゃありません! さっき彼の荷物をまとめておくよう言っておきましたはずでしょう!?」

エルフ兵「ああ、そう言えばそうでしたっけ」

(ん?)


エルフ兵「まあでもちょうど本人がいるんだし、勝手に持っていってもらったらどうです?」

エルフ「あなたそれでも誇り高きエルフの一員ですの!? いくら相手が人間とはいえ、そのような無礼で恥知らずな発言をよくもぬけぬけと!」

エルフ兵「あなたがエルフを語りますか」ボソッ


9 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:53:05 9Gu1k.yo 7/385


エルフ「――っ!」

エルフ兵「あ、もう交代の時間だ。じゃ、そういうことですので」

エルフ「こ、こら待ちなさ――」

ガチャ バタンッ

エルフ「……」ギリッ

(……訳ありか)

「とりあえず、俺の荷物探していいかな」

エルフ「……手伝いますわ」


10 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:55:21 9Gu1k.yo 8/385


「あったあった! 俺の愛刀!」

エルフ(あ……)

「いやー一週間ぶりだぁ! やっぱこいつが無いと落ち着かないなぁ」

エルフ「その剣、大切になさっておりますの?」

「ああ。無銘だけど、こいつと一緒にずっとやってきたんだ。愛着だって沸くさ」

エルフ「その剣も、同じ気持ちだそうですわ」

「え?」

エルフ「わたくし達エルフは、万物に宿る精霊と対話ができますの。その剣に宿る精霊も、あなたと再会できたことをとても喜んでいますわ」

「そ、そうなのか。刀に喜ばれるっていうのは不思議だけど、悪い気はしないな」


12 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 22:57:28 9Gu1k.yo 9/385




エルフ「ここからは自由ですわ。わたくしとしましては、すぐに出ていくことをおすすめしますが」

「隣国と緊張状態だからか?」

エルフ「それもありますけど……ここがエルフの国で、あなたが人間であるということが一番の理由です」

「あー。中ですれちがう兵士からいちいち白い目で見られるのが気になってたけど。やっぱエルフって、人間のこと嫌いなのか」

エルフ「ええ」

エルフ(今の場合、それだけではありませんけれど……)


13 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:00:11 9Gu1k.yo 10/385


「でも、あんたはそんな感じではないな。普通に話してくれるし」

エルフ「え? え、ええ。母の影響もあって、わたくしは別段人間を嫌ってはおりませんの」

「そうか。ところで、あんたやっぱり騎士なのかい?」

エルフ「ええ、まあ。一応」

「じゃあ、一回手合わせしてくれないか? 一週間も動いてないから、体の調子と勘を確かめたい」

エルフ「……あなた、変わってますわね」

「ん?」

エルフ「あなたの国のこと、以前に少しだけ聞いたことがあります。民はみな質素倹約を良しとし、質実剛健な気質であると」

エルフ「けれどあなたを見ていると、その話と随分違う印象ですわ」

「あー。確かに俺の国はみんなそんな感じだよ。だから、俺昔から浮いてたんだよな」


14 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:03:03 9Gu1k.yo 11/385


エルフ「つまり、あなたの国ではあなたは変わり者、ということ?」

「そういうこと。で、手合わせはどうする? してくれるのか否か」

エルフ「……どうせ今日はこの後非番ですし、あなたがどのような剣術を見せてくれるのか興味もありますから構いませんわ。ただここだと目立ちますから、場所を変えましょう。ついていらして」


市場


ワイワイ ガヤガヤ

「市場の活気は、人間の国もエルフの国も変わらないな」

エルフ「…………」


15 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:04:45 9Gu1k.yo 12/385


スタスタスタスタ

「おい待てよ速いって。厠行きたいのか?」

エルフ「そんなんじゃありません! ただ……のんびりしていたら、そのぶん居心地が悪くなるだけですわ」

「ん?」

ザワザワ ザワザワ ジー

「……なるほど。隣国と無関係でも、所詮は人間ってことか」

エルフ「…………」

「どうした? 暗い顔して」

エルフ「なんでもありません。それより、急ぎますわよ」


16 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:09:28 9Gu1k.yo 13/385


エルフ「着きましたわ」

「でっかい屋敷だなー。あんたの実家か」

エルフ「ええ。あら」

メイドエルフ「あ、お嬢様! おかえりなさいませ!」

エルフ「ただいま。お母様は?」

メイドエルフ「お部屋にいらっしゃいます。あの、そちらの方は……」

エルフ「客人ですわ」


17 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:11:46 9Gu1k.yo 14/385


メイドエルフ「お泊まりになられますか?」

エルフ「あなた、手合わせの後はどうするつもりかしら?」

「俺としては、少しこの国を見てみたいな。人間だから長居は無理だろうけど」

エルフ「そう。というわけだから、空き部屋を一室用意しておいてちょうだい」

メイドエルフ「かしこまりました」

「いいのか?」

エルフ「無実の罪で投獄してしまいましたから。お詫びの印ですわ」

「そうか。なら、少しの間世話になろう」

エルフ「庭で待っていて下さるかしら。お母様にも話を通しておきますので」

「わかった」


18 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:14:13 9Gu1k.yo 15/385


コンコンコン ガチャ

エルフ「ただいま帰りました」

エルフ母「あら、おかえりなさい。早かったのね」

エルフ「少し用事があっただけですので。それで、お母様」

エルフ母「お客様でしょ? 精霊が教えてくれたわ」

エルフ「ええ……人間ですけど」

エルフ母「そうみたいね。お部屋の準備は?」

エルフ「今メイドエルフにやらせています」

エルフ母「そう。なら、晩の食事は久しぶりに私が作ろうかしら」

エルフ「お母様が?」


19 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:17:00 9Gu1k.yo 16/385


エルフ母「人間に会うなんて十年ぶりくらいだもの。懐かしくて」

エルフ「……彼を待たせていますので、わたくしはこれで」

エルフ母「ええ」

ガチャ バタン

エルフ母「……嫌ってはいなくても、やっぱりまだ複雑なのね」






エルフ「お待たせしまし……庭の真ん中にあぐらかいて何してますの?」

「黙想……よっと」

エルフ「すぐに始めますの? 一応こちらの準備は済ませておきましたけど」

「ああ、頼む」


20 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:20:21 9Gu1k.yo 17/385


エルフ「では」

スラリ

(ロングソード……にしては少し大きいな)

シャー

エルフ(片刃の曲刀。押収したとき一度だけ検めたけれど、見た目以上に重さがある。斬れ味も尋常じゃなさそうですわね)


21 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:21:04 9Gu1k.yo 18/385


数分後

「……」

エルフ「……」

(なかなか……隙を見せてはくれないな)

エルフ(泰然とした構え……迂濶に間合いに踏み込めば負けますわ)

エルフ(何かきっかけがないと)

ガチャ

メイドエルフ「お嬢様、お部屋の準備が整い――」

――ヒュンッ ギィン!

メイドエルフ「ひゃっ!?」


24 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:24:02 9Gu1k.yo 19/385


エルフ(防がれた!? わたくしの初撃を!)

「はっ!」

エルフ「く!」

ヒュン スタッ

(予想以上に速いな。返しの間は完璧だったのにかわされた。が――)

エルフ(わたくしと同等の速さ……回避のタイミングが一瞬でも遅かったらまともにもらっていましたわね)


26 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:27:28 9Gu1k.yo 20/385


エルフ(ならば)

エルフ「はあああっ!」

ダッ

(突きの構えからの突進か。単純ゆえに対処しづらい攻撃だが、狙いは――)

エルフ(あと数歩でわたくしの間合い。その手前で踏み込んで――そこ!)

エルフ「やあっ!」

ヒュッ キィン!

エルフ「!?」

エルフ(また、防がれた!? 突きがフェイントだと読まれましたの!?)

「ふっ!」

ヒュッ ビタッ

「……」

エルフ「……」


27 : 以下、名... - 2012/03/06(火) 23:31:39 9Gu1k.yo 21/385


「勝負あり、だ」

エルフ「……ですわね。負けましたわ」

「潔いな」

エルフ「潔くない騎士など、惨めなだけでしょう?」

「違いない」

エルフ「はぁ。それにしても、あなた強かったのですね」

「ま、たくさんの猛者と闘ってきたからな。そっちも十分強かったけど、経験の差だろ」

「ともあれ、自分の調子は十分わかった。礼を言う」


36 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:01:14 r.c90Svw 22/385


エルフ「それには及びませんが。しかし、まさかことごとくこちらの手が読まれるとは」

「ん? ああ、突きと思わせてからの横薙ぎか。それはどっちかって言うと」

メイドエルフ「あ、あの……」

エルフ「あら? そんなところでどうしましたの?」

メイドエルフ「お部屋の準備が整いましたので、ご報告にと思いまして。そうしたらいきなりお二人が……」

エルフ「あら。ごめんなさい。驚かせてしまいましたわね」

メイドエルフ「ええ、それはもう……」

エルフ「じゃあ、彼を案内して差し上げて。わたくしも部屋に戻ります」

メイドエルフ「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」

「わかった。世話になる」


37 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:03:10 r.c90Svw 23/385




「馳走になりました」

エルフ母「お粗末様。お口に合ったかしら?」

「それはもう。久方ぶりの温かい食事とくればなおのこと」

エルフ「嫌味ですの?」

「あ、いやそういうつもりじゃ」

エルフ母「ふふ。侍さんはいつまでこの国に?」

「長居はしないつもりです。皆さん以外には、歓迎されていないようですし」

エルフ母「ごめんなさい。それに関しては、私たちでは力になれないから」


38 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:04:39 r.c90Svw 24/385


「そう言えば、一つよろしいでしょうか」

エルフ母「はい」

「隣国とは、何故緊張状態に?」

エルフ母「それは……」

エルフ「殺されたのですわ。エルフの子が、人間の賊に」

「子供が?」

エルフ「国境付近の森……あなたが迷いこんだ場所の近くですわ。親と共に薬草を摘みに行き、そこで襲われた」

エルフ「親は一命を取り留めましたが……子供は間もなく亡くなりました」

「……」


39 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:06:12 r.c90Svw 25/385


エルフ「当然こちらは厳重に抗議すると共に、逃げた賊の身柄引き渡しを要求しましたわ」

エルフ「けれど未だに隣国からの謝罪はなく、あろうことか、その事件をでっち上げだとして一蹴する始末」

「なるほど。エルフとしゃ、人間への不信と不満が溜っても仕方ないってことか」

エルフ「ええ。元々いい感情を持っていない上に今回の事件。騎士団からも当然、不満は噴出してますわ」

エルフ「隣国領に侵入してでも賊を捕えるべきと主張する者も少なからずいます」

エルフ「ここ最近は、通常はもっと内部でやる演習を国境付近で行う部隊も出始めてますし」

「上層部が許可してるのか? かなりのものだな。しかしそうなると」

エルフ「当然、隣国も国境沿いの砦に兵を増員させてきましたわ。確認した限りでは、通常時のおよそ五倍の兵力が集まっていましたわね」


40 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:07:32 r.c90Svw 26/385


「言われてみれば、隣国を通ったときなんだか国全体が物々しい雰囲気だったな……向こうも臨戦態勢ってことか」

エルフ「だから今、わたくしたち以外のエルフ族は人間への不信感が最高潮に達していますわ」

エルフ「あなたは出で立ちからして隣国の人間ではないから外を歩いても無事でしたが」

「そうだったのか……」

エルフ「そして同時にわたくしも――」ハッ!

「ん?」

エルフ「い、いえ。何でも」

エルフ母(……)


41 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:08:52 r.c90Svw 27/385


廊下

「遅くなったが、すまないな。あんな上等な部屋」

エルフ「客人をもてなすのに、物置部屋をあてがうわけなどないでしょう。気にする必要はありませんわ」

「そうか。なら、遠慮なく休ませてもらうか」

エルフ「そうなさって。ところで」

「ん?」

エルフ「ずっと聞きそびれていたのですけど。昼間の手合わせについて」

エルフ「あなた、何故わたくしの手をあっさり読めましたの? わたくし、こう見えても剣術の大会で優勝した経験もあるのですが」

「そうだな……これは率直な意見だが」

エルフ「はい」


42 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:10:11 r.c90Svw 28/385


「その剣、お前の体格で振るうには扱いづらくないか?」

エルフ「え?」

「標準的なロングソードより、一回り大きいだろ。体格で男に劣る女が振るうには、その剣は適さない」

エルフ「それは……」

「足や体捌きの速さは大したものだが、その剣の大きさが攻撃の瞬間の速度をわずかに殺している」

「その殺された速度分、相手に余裕を与えてしまっているんだ」

エルフ「そう、でしたの……」

「まあ、余裕と言っても刹那に過ぎないけどな」

エルフ「その刹那の瞬間に対応できる人が相手なら、わたくしの不利は否めませんわね。あなたとか」

「そうだな。その欠点を無くしたいのなら、もう少し小振りな得物に変えたほうがいい」

エルフ「……検討しますわ。もう遅い時間ですし、わたくしはこれで。アドバイスに感謝します」

「おう」

(検討するとは言ってたけど、微妙な表情だったな。あの剣に思い入れでもあるのか?)


43 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:12:58 r.c90Svw 29/385


翌日

コンコンコン

メイドエルフ「おはようございます。お客様、お食事の用意が整ってございます」

シーン

メイドエルフ「? まだ寝てるのかしら。お客様、失礼いたします」

ガチャ

メイドエルフ「……あら? いない?」


44 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:14:58 r.c90Svw 30/385




「…………」

エルフ「――あら。早起きですのね。また黙想?」

「……ああ。日課でな。朝の澄んだ空気の中でやると、心身が引き締まる」

エルフ「それも鍛練、というわけですわね」

「そういうこと。で、お前は何してるんだ?」

エルフ「わたくしはお仕事。昨日は非番だと言ったでしょ?」

「そうか。気を付けてな」

エルフ「どうも。あなたこそ、日中出かけるのでしたら気を付けなさい。いらぬトラブルに巻き込まれないように」

「肝に命じておこう」


45 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:17:00 r.c90Svw 31/385




エルフ兵A「ふわ~ぁ」

エルフ兵B「口くらい閉じろ。任務中だぞ」

エルフ兵A「任務ったって門番だろ。誰も気にしたりしないって」

エルフ兵B「通行人はそうだろうが、そろそろあいつが来る頃だ」

エルフ兵A「ああ、あいつか。いちいち口うるさいからなぁ」

エルフ兵A「言ってることは正論なんだが、あいつに言われるとどうもこう、素直に聞く気にならないというか」

エルフ兵B「気持ちはわからんでもないが」

エルフ兵A「お前はよくあいつの命令素直に聞けるな」

エルフ兵B「不満はあるけど、隊長だからな。いくらあんなのでも――」

エルフ「あんなのでも……何かしら?」

エルフ兵A・B「!」


46 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:17:52 r.c90Svw 32/385


エルフ兵B「……いえ、なんでもありません」

エルフ「……何か問題は」

エルフ兵B「特に何も」

エルフ「そう。交代まで気を抜きませんように」

エルフ兵B「はっ」

エルフ「……」

エルフ兵A「……行ったな」

エルフ兵B「ああ」

エルフ兵A「はぁ。なんで俺たちが従わなくちゃならないんだか。人間の血が混ざった奴なんかに」


47 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:19:27 r.c90Svw 33/385


エルフ実家

「ハーフ?」

エルフ母「ええ。私と人間の男性との間に生まれた娘。それがあの子なんです」

「じゃあ、彼女が街中などで時折見せた影のある表情は」

エルフ母「昔からです。あの子が白眼視されるのは」

メイドエルフ「……」

エルフ母「この屋敷をご覧いただければおわかりの通り、私の家は国内でも指折りの名家でした。そして、それがいけなかった」

「有名であるがゆえに、彼女の出生についても広く知られてしまったと?」

エルフ母「ええ。元々さほど大きくはない国。今となっては、そのことを知らぬ者はいないでしょう」

「そのことを隠したりは?」

エルフ母「初めから無理だったのです。私とあの子の父との出会いについては長くなるので省きますが」

エルフ母「外の地で彼と出会い、別れてこの国に帰ってきた時、既に出産間近でしたから」

「……それは隠しようがないですね」


49 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:21:14 r.c90Svw 34/385


エルフ母「はい。それでも、あの子が赤ちゃんの頃はまだよかった」

エルフ母「問題は、あの子が成長してから今まで……ずっと、途切れることなく続いているあの子への偏見」

「……」

エルフ母「あの子を産んだこと。それ自体は後悔していません」

エルフ母「ただその前後で、私がもっと慎重に行動できていたら。そう思えば思うほど、あの子に申し訳なくて」

メイドエルフ「ご主人様……」

エルフ母「だというのに、あの子は今まで一言たりとも私を責めたことがないのです」

エルフ母「多感な子供の時分からこれまで、ただの一言も」

「ご立派な娘さんではありませんか」

エルフ母「ええ、本当に。ただ、だからこそ……いつかあの子の中の芯が折れてしまわないか、いつも不安なのです」

「……」


51 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:22:56 r.c90Svw 35/385


城 訓練場

エルフ教官「一番隊から三番隊、二人一組で組手準備!」

エルフ兵達「おー!」

女エルフ兵「隊長! ご指導お願いします!」

エルフ隊長「うむ。いいだろう」

女エルフ隊長「三番隊で余った者は申し出ろ! 私が直々にしごいてやろう!」

エルフ兵「は、はい! お願いします!」

エルフ「……」

女エルフ兵「あ、余っちゃった……どうしよう」

エルフ「あなた、相手がいませんの?」

女エルフ兵「え? あ、はい……」


52 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:24:19 r.c90Svw 36/385


エルフ「でしたらわたくしが――」

エルフ兵「あ、いたいた! 早くこいよ! 前一緒に組む約束してただろ!」

女エルフ兵「え、でもそっちはもう相手……あ、う、うん! ごめん今行く!」

女エルフ兵(ありがとう。助かっちゃった)

エルフ兵(いいって。三人だと変則的だけど、あれと組まされるよりはマシだろ)

エルフ「……」ハァッ

エルフ「……稽古でもしましょう」


53 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:26:04 r.c90Svw 37/385







(警備の穴を縫って侵入し、物陰から一部始終を見たわけだが)

「あれを毎日、か……」

メイドエルフ「はい。毎日あんな感じです」

「外で聞いた話だと、エルフは誇り高く高潔な種族だってことだったが。噂はしょせん噂だったのかな」

メイドエルフ「返す言葉もございません」

「あの面子の中じゃあ、見るからにあいつが一番の使い手なんだけどなぁ。俺が兵士だったら、真っ先に教えを請いに行ってるよ」

メイドエルフ「お嬢様に代わりまして御礼申し上げます」

「いいさ。本当のことなんだから。それより一つ聞きたいんだが」

メイドエルフ「何でしょう」

「何で君がここにいるんだ?」

メイドエルフ「それをお尋ねになるまで結構延ばしましたね」


54 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:28:22 r.c90Svw 38/385


「つまり、彼女が心配で毎日こっそり覗きに来ていると」

メイドエルフ「見守っていると言ってください。まあそういうわけです」

メイドエルフ「何が出来るわけでもありませんが、いざという時はお嬢様に嫌われてでもお助けしようかと」

「あー。へたな同情はかえって傷付けるだけだからな」

メイドエルフ「幸か不幸か、まだそういった事態に陥ったことはないのですけどね」

「……君は味方なんだな」

メイドエルフ「わたし、孤児なんです」

「唐突に何を」


55 : 以下、名... - 2012/03/07(水) 21:30:38 r.c90Svw 39/385


メイドエルフ「それで身寄りのないわたしをご主人様が引き取ってくださいました」

メイドエルフ「まだ幼い時分でして、お嬢様が人間とのハーフであると言われてもピンとこなかったんですね」

メイドエルフ「だからそんなこと気にも留めず、連日お嬢様と遊んでいたんです。年齢も近かったですし」

「なるほど」

メイドエルフ「今は拾っていただいた恩返しのために、メイドとしてお仕えさせていただいてますけど」

「気持ちとしてはまだ友達だ、と」

メイドエルフ「そういうことです」

メイドエルフ「……その経緯がなかったら、もしかしたらわたしも周りの人たちと同じ目でお嬢様を、と思うと自己嫌悪ですけどね」

「もし出会いが違っても、君ならそうはならないだろ」

メイドエルフ「何故そう言い切れます?」

「そんな自分を想像して自己嫌悪できてるからな。周りの連中は、それを当然だと思っているようだが」

メイドエルフ「自分としては、そんな想像をしている時点でダメダメなんですけどね……。でも、ありがとうございます」


62 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:47:43 pPnToBB. 40/385


エルフ「はあっ!」ビュンッ

「気合入ってるな」

メイドエルフ「ええ。何せ剣術の腕前では騎士団の中でも群を抜いていますから」

メイドエルフ「そこらの兵士とは気持ちが違うんです。気持ちが」

「みたいだな」

(四面楚歌の状況で、よくあそこまで集中できるもんだ)

(精神的に過酷な状況にあってもへこたれていない。それもあいつの実力を押し上げている要因か)

(しかし、ああもひた向きに稽古しているのに、周りの連中は見向きもしない……)

メイドエルフ「――あら?」

「ん?」

メイドエルフ「向こうが何だか騒がしくありません?」

「向こう?」

――テキシュウ! テキシュウー!

メイドエルフ「え?」

「敵襲……まさか」


63 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:49:03 pPnToBB. 41/385


城 軍議室

司令「隣国の軍が動いたと!?」

参謀「はい。国境の警備部隊は既に壊滅。付近の村が二つ占領されました。逃げ遅れた住民の安否は不明です」

司令「おのれ……人間風情が」

エルフ王「……」

エルフ隊長「各騎士団、既に緊急招集を終え待機しています!」

司令「陛下。如何なされますか?」


64 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:50:20 pPnToBB. 42/385


エルフ王「ふむ。敵の情報は?」

参謀「現在偵察を出して情報を集めておりますが、精霊によればかなりの数のようです」

司令「かねてより戦力を砦に集めていたようですからな。始めからこうするつもりだったのでしょう」

エルフ王「こちらも騎士団を展開させよ。ただし、私の命なくして攻撃することは許さぬ」

司令「何ですと?」


65 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:52:05 pPnToBB. 43/385


エルフ王「隣国の部隊に使者を送れ。会談を申し込む」

参謀「陛下御自ら、でございますか?」

エルフ王「無論だ」

司令「なりませぬ! 卑怯な人間共相手にそのようなことをすれば、御身がどのような仕打を受けるか!」

エルフ王「たわけ。最初からそう決めつけていては、避けられる戦も避けられぬ」

司令「しかし!」

エルフ王「戦となれば民を巻き込むのだ。今回襲われた村の数十倍という規模の民を」


66 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:53:27 pPnToBB. 44/385


エルフ王「前回の件や今回の侵攻についても無論抗議はするが、まずは和平の道を探ることが肝要なのだ」

参謀「もし、色良い返事が得られない場合は」

エルフ王「そのときこそ、騎士団の真価が問われるときだ」

司令「……はっ」

司令(甘い……甘すぎる)


67 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:55:03 pPnToBB. 45/385


エルフ実家

エルフ母「出陣命令……」

メイドエルフ「はい。お嬢様の部隊も前線まで派遣されることになったそうです」

エルフ母「そう……。隣国が侵攻してきたことは聞いたけど、あの子も……」

メイドエルフ「だ、大丈夫ですよ! お嬢様はお強いんですから!」

エルフ母「確かに剣は達者だけど……」

「無礼を承知でお尋ねしますが、彼女は何故、隊長を任されているのでしょうか」

エルフ母「それは……本人は自分の実力が認められたからと言っていましたけど」

「本当のところはそうではない?」


68 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:56:21 pPnToBB. 46/385


エルフ母「ええ。おそらく、私の父が存命中に重ねた功績によるものです」

エルフ母「あの子自身も、たぶん気付いているでしょう。私を喜ばせようと、そんなことを言ったのだと思います」

「そうですか……」

(あいつには指揮官として最も重要なものが欠けている。しかも本人には何の落ち度も責任も無いところで)

(もし今のまま最前線で戦うことになったら、真っ先に瓦解するのはあいつの部隊だ)

(……)

「ここから前線の国境までどれくらいなんだ?」

メイドエルフ「距離ですか? 馬や馬車を使えば三日、徒歩でしたら早くて一週間ほどですね」

「そこまでの道を教えてくれ。できれば地図で。口頭で聞くだけだと迷う自信がある」

メイドエルフ「はい?」


69 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:57:37 pPnToBB. 47/385


五日後 国境付近
エルフ軍陣営

司令「敵からの返答は」

参謀「未だ何も。使者を送ってからはや三日。使者が無事に戻ったことは幸運でしたが」

参謀「しかし、何の返事もしてこないというのはさすがに予想外でしたね」

司令「陛下がご到着なされるまであと半日ほどか」

参謀「はい。陛下にも逐一伝令を遣わしていますが、お考えはまだ変わらないご様子」

司令「二つの村を占領して以降、隣国軍に目立った動きはない」

参謀「敵が何を考えているか読めませんね」


70 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 00:58:52 pPnToBB. 48/385


司令「ふん。大方陛下を誘き寄せて暗殺しようという魂胆だろう」

参謀「決めつけるのはよくありません。が、かといってこんな状態で陛下をお迎えするわけにもまいりませんね」

司令「……仕掛けるか」

参謀「ご命令には背くことになりますが、仕方ありませんね」

司令「うむ。あの女の部隊にやらせろ」

参謀「あの女……例の混血ですか」

司令「ああ。誇り高きエルフの騎士に、あのような輩はいらん。敵の手が読めん今、ちょうどいい捨て石だ」

参謀「かしこまりました」


71 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:00:57 pPnToBB. 49/385





エルフ兵「攻撃って、俺たちがですか!?」

エルフ「ええ。ついさっき、そう命じられました」

女エルフ兵「味方は……」
エルフ「……わたくしたちだけです」

女エルフ兵「そんな!」

エルフ兵「無茶ですよ! あの大軍相手に俺たちだけでなんて!」

エルフ「今回の攻撃は敵の出方を見るための陽動であって、敵に勝つことが目的ではないから多くを動かすことはできないと」

エルフ「異議を申し立てて、そう言われました」

女エルフ兵「つまり……私達、捨てゴマにされたんですか……?」

エルフ「……話は終わりです。出陣の支度をなさい」

エルフ兵「……ちっ! 了解しましたよ! くそっ!」

女エルフ兵「なんで……こんな」

エルフ「……」ギリッ


73 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:03:03 pPnToBB. 50/385





隣国軍陣営

騎士「申し上げます! エルフ軍に動きあり! 小規模の部隊がこちらに進軍しています!」

将軍「ほう? 数は」

騎士「およそ二百です」

将軍「本当に小規模だな。伏兵の可能性は」

騎士「いえ。そのような気配は今のところ」

将軍「ふむ……。千人ほど回せ。俺が指揮を執る」

騎士「将軍自ら、ですか?」

将軍「ああ。ここ数日はろくに動いていないからな」

騎士「了解」


74 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:04:24 pPnToBB. 51/385


エルフ兵「前方に敵軍を確認!」

エルフ「来ましたわね」

エルフ(予想よりも少ない。向こうもこちらに合わせてきましたか)

エルフ(とはいえ、やはりこちらの不利は否めない……でも、やるしかありません!)

エルフ「進軍止め! 陣形を組め! 総員抜剣!」





将軍「ん? あの娘……」

騎士「将軍?」

将軍「……いや。進軍止め!」





エルフ(絶対、死なない)

エルフ「――攻撃開始!」


75 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:06:09 pPnToBB. 52/385


数十分後

エルフ「はあっ!」

ザシュッ ザシュッ

敵兵A「ぐあっ!」

敵兵B「ぎゃああああ!!」

ドサドサッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ……味方は」

敵兵C「おらぁっ!」ザンッ

エルフ兵「うわああああ!」

女エルフ兵「きゃあああああっ!!」

エルフ(くっ……やはり旗色が悪いですわね)


76 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:07:23 pPnToBB. 53/385


エルフ兵「くそ、やっぱり駄目だ! 数が違いすぎる!」

女エルフ兵「もう嫌! なんで、なんでこんな無茶な戦い!」

エルフ「うろたえてはなりません! 一度全員固まって態勢を――」

エルフ兵「うるせえ! 誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだ!」

エルフ「――っ!?」

女エルフ兵「あんたが……あんたが隊長なんかやってるから、私達まで捨てゴマにされたのよ!」

エルフ「なっ……!」

エルフ兵「付き合ってられるか! 俺は退かせてもらう!」

女エルフ兵「私も! こんなののために死にたくない!」

エルフ「ま、待ちなさい!」

エルフ兵「総員撤退! 本陣まで撤退だ!」

女エルフ兵「殿はあの人に任せていいから!」

エルフ「…………」


77 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:08:37 pPnToBB. 54/385


数分後

エルフ「……」

将軍「どうした? そなたは撤退せんのか?」

エルフ「……どうやら、殿を押し付けられたみたいですので」

将軍「事情はわからんが、哀れよな」

エルフ「……」

将軍「どうする? 退くというのなら追撃はせんが」

エルフ「……」チャキッ

将軍「ふっ。それもよかろう」

騎士「お下がりを。ここは私が」

将軍「いや、わしがやる」


78 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:10:04 pPnToBB. 55/385


騎士「しかし」

将軍「この者、お前よりも強いぞ」

騎士「……はっ」

将軍「時に、エルフの娘よ」

エルフ「何か」

将軍「そなたの剣は……いや、聞いたところで栓ないことか」ガシャッ

エルフ(ハルバート。得物といい、この気迫といい、厄介な老将ですわね)

将軍「では――ゆくぞ!」ダッ

エルフ(っ! はやい――)

将軍「ぬぅんっ!」

ドガァッ!

エルフ(くっ!? 避けたのに衝撃が!)

将軍「遅いわ!」

ブゥンッ ガキンッ!

エルフ「がっ!?」ドサッ


79 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:11:41 pPnToBB. 56/385


エルフ「くっ……う……」

将軍「回避直後の不安定な姿勢で防御できたか」

将軍「だが、衝撃でしばらくは身動きできまい」

エルフ「……」キッ

将軍「ほう。いい眼をしよる。敵わぬとわかっていてなお抗がうか」

将軍「斬ってしまうにはちと惜しいな。どうだ、よければ――」

エルフ「仲間にも捕虜にもなる気はありませんわ」

将軍「……何故だ。味方からあのような仕打を受けてまで」


80 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:13:04 pPnToBB. 57/385


エルフ「わたくしの味方は彼らではありません」

エルフ「わたくしの味方は、ただ二人だけ……」

エルフ「その二人が待っていてくれる限り、わたくしは」グッ

将軍「むっ?」

エルフ「わたくしは……!」グググッ

エルフ「わたくしは――あなたたちに屈するわけにはまいりません!」チャキッ

将軍「……ふっ。その意気や良し」ジャキッ


81 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:14:20 pPnToBB. 58/385


将軍「ならばせめて、最後までその覚悟を見届けることが騎士の努め!」

将軍「もう手加減はせぬ。よいな」

エルフ「望むところですわ!」

将軍「いざぁっ!」ダッ

エルフ「はああああっ!」ダッ

――ギィィィンッ

エルフ「……」

将軍「……」

――ヒュンヒュンヒュン ザクッ

エルフ「――っ」ドサッ

将軍「勝負あったな」

エルフ「……みたい、ですわね……」


82 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:17:23 pPnToBB. 59/385


将軍「たむけだ。せめて一撃で葬ってやろう」

エルフ(ここまで、ですわね)

エルフ「お母様……メイドエルフ……」

将軍「ぬぅんっ!」ブンッ

エルフ「ごめんなさい……」

――ガキィィンッ!








「謝る相手が一人足りないんじゃないか」


83 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 01:19:27 pPnToBB. 60/385


エルフ「――え!?」

将軍「むっ? 何だ、お主は」グググッ

「侍だ。義によってそいつの助太刀にきた」グググッ

エルフ「あっ……」

85 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 19:59:22 WIeFTiFI 61/385


将軍「義、か。人間のお主が、エルフの娘にか?」グググッ

「出会いはお世辞にもいいもんじゃあなかったけどな」グググッ

「でも今は、一宿一飯――世話になってるんでねっ!」ギンッ

将軍「ぬぅ」ヨロッ

「はっ!」

将軍「ぐおっ!?」キィン

騎士「将軍! おのれ貴様!」

将軍「待て!」

騎士「し、しかし……」

将軍「待てと言ったぞ」

騎士「は、はっ……」


86 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:01:10 WIeFTiFI 62/385


無双するのはもうちょい待ってほしいんですの。


将軍「小僧。侍とか言ったな」

「ああ」

将軍「その娘とは如何なる関係だ」

「別に。さっき言った通り、一日食事と寝床を提供してもらっただけだ」

将軍「それだけの義理で、人間を目の敵にするエルフの国に肩入れすると?」

「勘違いするな」

将軍「なに?」

「俺が肩入れするのはあの国じゃない。肩入れするのは一人だけ」

「真っ直ぐでひたむきで、理不尽な仕打ちにも決して負けない」

「絶対に腐らずへこたれない。真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ」

エルフ「――!」ドキッ

将軍「…………」


87 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:02:39 WIeFTiFI 63/385


将軍「ふっ。なるほど、惚れたのか」

「さあな。初めて会ったのは二週間近く前だが、一緒にいたのは実質一日もない」

「でもまあ、これまで会った女の中では、一番いい女だというのは認める」

エルフ「~~~~///」カァッ

将軍「ふ……ふははははははは! 随分と正直に物を言う男だ」

将軍「気にいった。お主のその気概に免じて、今度は軍を退こう」

騎士「えぇっ!? ちょっ、それはまずいのでは!」

将軍「構わん。今日のことを土産話とすれば、あの王のことだ。その程度の独断は許されよう」

騎士「はあ。まあ、そういう類の話はお好きな方ですが」


88 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:05:16 WIeFTiFI 64/385


「勝手に盛り上がるな。結局どういうことだ」

将軍「エルフの国から引き上げるということだ。占領した村も開放しておく」

将軍「住民には手出ししていないから安心するがよい」

「……随分と拍子抜けな話だな」

将軍「そう言うな。戦など、終わる時は案外そういうものだ」

「そういうもんか。しかし、結局何故そっちはエルフの国に攻め込んだんだ?」


89 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:06:40 WIeFTiFI 65/385


将軍「牽制だ。エルフが国境付近で大規模演習を繰り返すものだからな」

将軍「エルフの守備隊も、誰一人死者は出していない。無論今の戦いもな」

「……」

エルフ兵「……う……」

女エルフ兵「つ……うん……」

「確かに」

将軍「間違っても侵略が目的ではない。領土的野心など、我らが王には皆無だ」

将軍「拍子抜けなどと言っていたが、こちらは元々早々に引き上げる予定であった」

将軍「本来はもう少し長居するはずであったがな」

「ふむ……」

将軍「信じるか否かは自由だ」

「いや、そもそもそれを決めるのは俺じゃないんだが」

将軍「違いない」


90 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:08:19 WIeFTiFI 66/385


将軍「他に聞きたいことはあるか」

「だ、そうだが」

エルフ「…………」

「どうした?」

エルフ「――へぁっ!?」

「へぁ?」

エルフ「な、何でもありませんわ!」ブンブンブンッ

将軍「くっくっくっ」

エルフ「(コホン)で、ではせっかくですので……」

エルフ「こちらは今まで、散々そちらに逃げた賊の身柄引き渡しを要求してきました」

エルフ「なのに、何故その要求を拒みますの?」

将軍「……む?」

騎士「ん? あれ、その件は確か」

(妙な雲行きだな……)


91 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:09:14 WIeFTiFI 67/385


将軍「騎士。その件なら確か」

騎士「はい。最初に要求された時点で、既に引き渡しには応じていたはずです」

エルフ「なっ!?」

将軍「わしも覚えておる。エルフを無視しても面倒なだけだと、最優先で処理させた」

エルフ「そんなはず……騎士団にはそんな話は」

エルフ「で、では和平の使者は!? 数日前にこちらからそちらに向かったはず!」

将軍「…………」

エルフ「ど、どうなんですの?」

将軍「残念だが、使者がこちらの陣に来たことなど無い」

騎士「本国からもそのような報告はありませんね。そっちにも来ていないかと」

エルフ「ど、どういうこと……?」


92 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:10:09 WIeFTiFI 68/385


将軍「どうやら、そなたらにとって真の敵は我らでは無さそうだな」

「そうみたいだな。あんた達の話を信じるのならば、だが」

将軍「それを判断するのはそなたらだ」フッ

「違いない」フッ

エルフ「男二人でシンパシってる場合じゃありませんわよ!」

「変な言葉創るなよ」

将軍「では、今度こそ我らは行くぞ」

「ん、ああ。機会があれば、本格的に手合わせ願いたい」

将軍「望むところよ。そなたほどの騎士、最近はとんと見ないでな」

「違う」

将軍「む?」

「俺は騎士じゃない。武士だ」


93 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:11:36 WIeFTiFI 69/385


数分後

「行ったな」

エルフ「…………」

「で。お前はどうするんだ?」

エルフ「決まっていますわ。戻って、事の真相を確かめます」

「……そう言うと思ったよ」

エルフ「何か問題でも?」

「いや。俺が口出し出来る問題でもない。お前がそう決めたのなら従うさ」

エルフ「べ、別にあなたまで危険な橋を渡る必要は」

「危険だって自覚してるんじゃないか。なら、護衛は必要だろ」

エルフ「自分の身くらい自分で守れます」

「へたしたら騎士団全員を敵に回すことになるぞ」

エルフ「そんなの……慣れっこですわ」

「素直じゃないな」


94 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:12:44 WIeFTiFI 70/385


エルフ「と、とにかく、わたくしはもう行きます――わ……」フラッ ドサッ

エルフ「っ……」

「無理するな。さっきのダメージがまだ残ってるだろ」

エルフ「こ、このくらい何でも――痛っ!」

「まったく。よっ――と」ヒョイ

エルフ「!? なっなっなっ……!?!」カァッ

「おー。思ったより軽い」

エルフ「ど、どういう意味ですの! ていうか降ろしなさい恥ずかしい!」ジタバタッ

「ばか、暴れるな」

エルフ「ば、ばかとは何ですばかとは――」ビキッ

エルフ「――――つぅ~~~~!」ナミダメ

「言わんこっちゃない。おとなしくしてろ」


95 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:13:42 WIeFTiFI 71/385


ザッ ザッ

「どうだ。少しは楽になったか?」

エルフ「え、ええ……まあ……」

エルフ(どうしよう……まともに彼の顔が見られない……)

エルフ「……」チラッ

「ん?」

エルフ「い、いいいいえ何でも!」ブンブンブンッ

「?」

エルフ(うう……何でこんな……)

――一番いい女だというのは認める――

エルフ「」ボンッ!

「うおっ! 湯気!?」


96 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:15:03 WIeFTiFI 72/385


エルフ(も、もとはと言えば、この人があんなこと言うから!)

エルフ(…………)

エルフ(でも……)

エルフ(嬉しかったな……)

エルフ(それに、この人の腕と胸)

エルフ(温かい……)


97 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:16:22 WIeFTiFI 73/385


エルフ「……ん……」

「起きたか?」

エルフ「――って、え? あれ、ここは……夜?」

「覚えてないのか? 途中で寝ちまったんだよ」

エルフ「ど、どのくらい」

「星空見ればわかるだろ」

エルフ「う……」

エルフ(ね、寝顔見られた……///)


98 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:17:04 WIeFTiFI 74/385


エルフ「こ、ここはどこですの? 見たところ森の中みたいですけど」

「エルフ軍本陣近くの森だ。さすがに眠ったお前抱えて行くのもどうかと思ってな」

エルフ「そう……」

「それに」

エルフ「え?」

「……いや、何でもない」

――あいつ死んだんだって?
――確認はしてないけど。あいつのせいで仲間がたくさん……。死んで当然よ!
  
(あんな場面、こいつに教えても仕方がない)


99 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:19:10 WIeFTiFI 75/385


「さて」

エルフ「ちょっと」

「何だ?」

エルフ「何で木の陰に隠れながらコソコソと近づいていくんですの?」

「どこに敵がいるのかわからないんだから仕方ないだろ」

エルフ「敵って……ここは」

「味方の陣か?」

エルフ「……」


100 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:20:15 WIeFTiFI 76/385


「悪い。今のは意地悪だった」

エルフ「いえ……」

「で、お偉いさんがふんぞり返ってるテントはどれだ?」

エルフ「中央の一番大きなテントですわ」

「あれか。少し距離があるな」

エルフ「ええ。ただ、距離よりも問題なのは」

「あの二人の見張りか? 妙に重装備だな」

エルフ「王室親衛隊ですわ」

「親衛隊? じゃああの中には」

エルフ「おそらく、陛下がいらっしゃるはず」


101 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:21:11 WIeFTiFI 77/385


エルフ「事の真相を確かめるには、これ以上ない方ですわ」

「しかし、いきなり押しかけても話なんか聞いてくれないだろ」

エルフ「それは、確かに……」

「どっちにしろ、あの見張りをどうにかしないとな」

エルフ「一人を遠くにおびき寄せて、その間にもう一人を黙らせれば」

「だが、親衛隊以外の歩哨もいるだろ」

エルフ「そいつらは見つかっても問題ありませんわ」

エルフ「別に敵軍というわけでなし、元々わたくしに好んで近寄る者はおりません」

(開き直ったな)

エルフ「問題があるとすれば、親衛隊を黙らせる瞬間を見られた場合だけです」

「ついでに言えば、気絶した親衛隊を見つけられた場合もだな」


102 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:22:26 WIeFTiFI 78/385


「そういえば、誘き寄せるのを精霊に頼むことは出来ないのか?」

エルフ「無理ですわ。会話が出来るといっても、常時無制限に、というわけではありません」

エルフ「彼らの機嫌がいいときか、精霊の方から伝えたいことがあって語りかけてきたときだけですの」

「不便だな」

エルフ「精霊はシャイなんだから仕方ありませんわ」

「いや知らんよ。しかし、だとすればどうする」

エルフ「そうですわね……。ひとまず、もう少し時間を置きましょう」

「見張り以外が眠りにつくまで待つのか」

エルフ「ええ。その方が動きやすいでしょ?」

「そうだな。王も一人になって話しやすいだろう」

エルフ「では、ひとまずさっきの場所まで戻りますわよ。見つかっても面倒ですし」


103 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:23:28 WIeFTiFI 79/385


森の中

パチッパチッパチッ

「体はもう大丈夫か?」

エルフ「ええ。もう痛みはほとんどありませんわ。ただ」

「どうした?」

エルフ「あ、いえ。そんな真剣になることでは。その……」

エルフ「ちょっと、汚れが気になるかなって……」

「汚れ? ああ、すっ転んでたもんな」

エルフ「もうちょっと言い方を考えてくださいませんこと!?」

「ははは。悪い」

エルフ「もう……」

「まだ時間はある。なんだったら、向こうで水浴びでもしてきたらどうだ」

エルフ「水浴びって、川でもあるんですの?」


104 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 20:24:13 WIeFTiFI 80/385


「ああ。お前が寝てる間に身を休める場所を探してたら見つけた」

エルフ「そう」

「軍の陣とは離れてるし、見つかる心配もないだろ」

エルフ「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」スクッ

「ああ。ゆっくりしてこい」

エルフ「その……覗いたらヒドイですわよ?」カァッ

「お、おう。わかってる」

エルフ「では、少しの間失礼しますわ」スタスタスタ

「……」

「それは卑怯だろ……」


115 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:39:48 pPnToBB. 81/385


川原

エルフ「ここですわね」キョロキョロ

エルフ「人影は無し、と」

エルフ(あまり待たせても悪いですし、手早く済ませましょう)ヌギヌギ

エルフ(……)キョロキョロ

エルフ(外で裸になるのって、人目が無くても恥ずかしいですわね)

エルフ(さて……)チャプン

エルフ(冷たっ!)ブルッ

チャプン ジャブジャブジャブ

エルフ「ふぅ……」

エルフ(冷たいけど、気持いい)


116 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:41:03 pPnToBB. 82/385




パチッパチッパチッ

「ふむ。キノコはもう焼けたか」

「あとは何か吸い物でも欲しいところだが……」

(水を汲むには、川にいかなきゃならん)

「……近くまで行って、戻るときに汲んでくるよう頼むか」


118 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:42:18 pPnToBB. 83/385


川原

エルフ「……」ボーッ

エルフ(俺が肩入れするのは一人だけ……か)

――真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ。

――これまで会った女の中では、一番いい女だというのは認める。

エルフ「///」カァッ

エルフ(あの状況であのセリフは反則ですわよ!)

エルフ(ち、ちょっとだけ、その……クラッといきかけましたわ)

エルフ(……)

エルフ(……格好よかったのは認めますけど)


119 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:44:13 pPnToBB. 84/385


エルフ(格好いい、か)

エルフ(よくよく考えたら、自分より強い男に出会ったのは彼が初めてでしたわね)

エルフ(隣国の将軍もわたくしより強かったですけど)

エルフ(騎士団に入ってからというもの、稽古に打ち込んでばかりで腕前だけは上がっていって)

エルフ(それで剣術大会で優勝しても、拍手なんか無かった……)

エルフ(だから、余計に)
――真っ直ぐでひたむきで、理不尽な仕打ちにも決して負けない。

――絶対に腐らずへこたれない。真に誇り高いと思える、後ろの女一人だけだ。

エルフ(あの一言が、嬉しかった……)


120 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:45:31 pPnToBB. 85/385


エルフ(今まで誰からも認められなかったことを、全部……全部認めてもらえた気がして)ポロッ

エルフ(こんなに……こんなに嬉しくて……)ポロッポロッ

エルフ「なのに、何で……涙が、出て……!」ポロッ ポロッ

エルフ「うっ……くぅ……!」ボロ ボロ ボロ

「おーい、エルフー。いるかー?」

エルフ「!」





「? 返事が無いな……気配はあるのに」

ザバァッ

「お、上がったのか? 済まん、服着てからで構わないから、戻ってくる前に水……を……」

エルフ「……」ゼンラ

「」


121 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:47:31 pPnToBB. 86/385


「――!?!?」ハッ

「お、おま、バカ! 何で裸のまま!?」クルリッ

エルフ「~~~~!」ダキッ

「ちょっ!?」

エルフ「少しだけ!」

「?」

エルフ「少しだけでいいから……うぅ……このまま……ひっく……このままでいさせて……うぅ……!」

「……風邪引いても知らないからな」

エルフ「う……うああああ! ぐすっ……うああああああ!!」


122 : 以下、名... - 2012/03/08(木) 23:48:45 pPnToBB. 87/385




エルフ「――くしゅん!」

「ほれみろ。あんな格好でぐずってるから」

エルフ「だ、だってさっきは……その、堪えきれなくて……」

「……泣いてすっきりするんだったらいくらでも泣け」

「他の連中はともかく、俺やお前の母君、それにメイドエルフの前くらいではな」

「二人とも、お前のことえらく心配してたからな」

エルフ「……うん」

(何か妙にしおらしくなったな)


129 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:21:32 qU7WtFlo 88/385


エルフ実家

メイドエルフ「ご主人様、お食事の用意が整いました」

エルフ母「そう……」

メイドエルフ「今日はお粥にしてみたんですが、食欲はありますか?」

エルフ母「……そうね。せっかく作ってくれたのに、最近残してばかりだものね」

メイドエルフ「それは大丈夫なのですが……お嬢様がご心配なのはわたしもよくわかります」

メイドエルフ「ですが、それでご主人様がお体を悪くされては、お嬢様も安心してお帰りになれません」

エルフ母「……ええ。そうね。あの子が無事に帰ってきたとき、私が倒れていたら心配させた挙句叱られてしまうわね」

メイドエルフ「その通りですよ! ですからたくさん食べて、お元気な体でお嬢様のお帰りを待ちましょう!」

メイドエルフ「お侍様もお嬢様を助けに行ってくださいましたし、絶対ご無事ですから!」

エルフ母「ふふ。その通りね」


130 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:23:01 qU7WtFlo 89/385


メイドエルフ「はい! あ、ところでご主人様」

エルフ母「なに?」

メイドエルフ「お食事の前に、軽い運動をしたくなってしまったのですが、よろしいでしょうか?」

エルフ母「! ええ。許可します」

メイドエルフ「ありがとうございます。それでは」チャキッ

メイドエルフ「――はっ!」シュッ ドスッ

男声「がっ!?」ドサッ


131 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:27:49 qU7WtFlo 90/385


女声「投げナイフ!?」

男声「ちっ、バレたか。かくなる上は!」

ドタッドタッドタッ

エルフ母「何者です!」

覆面男「知る必要はない。我らと共に来てもらおう」

覆面女「おとなしくすれば手荒にはせん」

メイドエルフ(仕留めたのも含めて三人。他に気配はなし)

メイドエルフ(一人はあの程度の不意打ちで倒せたけど、この二人は――)

覆面女「さあ。武器を捨てろ」

覆面男「歯向かうのなら、二人とも少々痛い目を見ることになる」


132 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:29:50 qU7WtFlo 91/385


メイドエルフ「……くす」

覆面男「何がおかしい!」

メイドエルフ「いえいえ。あまりにベタなセリフだったものでつい」

覆面女「なに?」

メイドエルフ「お下がりください、ご主人様。すぐに終わらせますので」

エルフ母「気を付けて」

覆面女「貴様……」

覆面男「さっきは不意を突かれたが、もうそうはいかん」

覆面女「二対一で勝てると思うな」


133 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:30:31 qU7WtFlo 92/385


メイドエルフ「……うふふふ♪」

覆面女「貴様、また!」

メイドエルフ「いえだって、これが笑わずにいられます?」

覆面男「なんだと?」

メイドエルフ「ですからほら」

メイドエルフ「自他の力量差も見抜けないのに数だけで勝った気でいるお馬鹿さん前にして笑いを堪えるなんて」

メイドエルフ「ホント、わたしには一生かかってもできませんよ♪」ニヤッ

覆面男・女「っ!?」ゾクッ


134 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:32:30 qU7WtFlo 93/385


数時間後

「もうそろそろ見張り以外は寝静まっているだろうと来てみたら」

ザワザワザワザワ

エルフ「むしろ余計に騒がしくなってますわね」

「調査に向かってた連中が戻ってきたのか? だとしたらまだ当分は騒がしいだろうな」

エルフ「時間を置いたのは失敗だったかしら」

「着眼点は正しかったが、タイミングを誤ったな」

エルフ「仕方ありません。こうなったら陛下と言わずとも、司令部あたりに……」

「……ん? どうした?」

エルフ「…………え?」


135 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:33:39 qU7WtFlo 94/385


「おい?」

エルフ「……なん、ですって……?」

「だから、何がどうし――」ガシッ!

エルフ「逃げますわよ!」ダッ

「はぁ!? なんで――」ダッ

ヒュン カッ!

「!? 矢が!」

エルフ兵「あそこだー! 追えー!」

「ちぃっ! どういうこったこれは!」

エルフ「知りません! ただ、精霊がしきりに警告してくるのです!」


136 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:34:55 qU7WtFlo 95/385


「さっき様子がおかしかったのはそれか! 精霊は何だって?」

エルフ「『イヤなヤツがキミたちをネラっているからハヤくニゲテ』、と! わたくしの家も!」

「何だと!? じゃあ二人が!」

エルフ「いえ。そちらはメイドエルフがいるからたぶん大丈夫ですわ。それよりも今は――」

ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス

エルフ兵「逃がすなー!」

エルフ兵「反逆者を捕まえろー!」

エルフ「この場を切り抜けることを考えませんと!」

「みたいだな!」

エルフ「――こっちへ!」

「根拠は!」

エルフ「精霊の手招きですわ!」

「俺には見えないが、信じるしか手はないか!」

エルフ「そういうことです!」


137 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:36:09 qU7WtFlo 96/385






エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

「追っ手の気配は無し……どうやら撒けたみたいだ」

エルフ「そう、ですわね……はぁ、はぁ」

「大丈夫か?」

エルフ「少し、待ってもら、えます?」

「ああ。まずは息整えろ」

エルフ(なんでこの人は息切れしておりませんの……あんなに走ったのに)


138 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:37:18 qU7WtFlo 97/385


「落ち着いたか?」

エルフ「――ふぅ。なんとか」

「まずは状況を確認したいところだが……その前にどこだ、ここ」

エルフ「森の奥みたいですけれど――あ」

「敵か!」

エルフ「いえ。精霊が」

「今度は何だって」

エルフ「『コッチへおいで』」

「こっち……どっち?」

エルフ「着いていらして」


139 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:38:52 qU7WtFlo 98/385


しばらく歩いて

「あれは」

エルフ「岸壁に……洞窟?」

「あそこの中は安全、てことか?」

エルフ「そのようですわ」


洞窟内部

「なぁ」タラッ

エルフ「はい?」タラッ

「確か、この中なら安全なんだよな」タラタラッ

エルフ「精霊はそう言ってましたわ。精霊は」タラタラッ

「じゃあ、何で」タラタラッ

「何でこんなに熊がいるんだ!?」ダラダラダラッ

熊A「…………」

熊B「…………」


140 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:39:57 qU7WtFlo 99/385


エルフ「わ、わたくしに聞かれても……」タラタラッ

「どうするよ……。熊って確か、背を向けた相手を追い掛ける習性があったよな……?」

エルフ「そ、そうなんですの? なら、背を向けずにゆっくり後ろ歩きで」ドン

エルフ「……」チラッ

熊C「…………」

エルフ「」


141 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:41:32 qU7WtFlo 100/385


「精霊のやつ、何を考えてこんなところに」

エルフ「し、知りませんわよそんなこと……」

「さしもの俺も、熊と闘ったことなんか無いぞ」

エルフ「わたくしだってありませんわ」

「くそ。せめて松明でもあれば火で威嚇できる……ん?」

エルフ「どうしましたの?」

「そういえば、今は夜だよな?」

エルフ「ええ。それが?」

「この洞窟、明るくないか?」

エルフ「え……あ」


142 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:43:06 qU7WtFlo 101/385


「それに、この熊の群れ」

熊D「~~」アクビ

子熊「……スピー」

エルフ「襲って、きませんわね」

「どういうことだ? 精霊は何か言ってないか?」

エルフ「それが、この洞窟に入ったらどこかに飛んでいってしまって」

「せめてここがどういう場所なのか教えて――」グイッ

「ん? 袴の裾が――」

「……」


143 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:43:38 qU7WtFlo 102/385


エルフ「う、兎?」ポトッ

エルフ「ひゃっ! 頭に何か!」

リス「……」

「リス、だな」ヒョイ

エルフ「え? あら、かわいい」

「熊に兎にリス……本当に何なんだここは」

エルフ「よくわかりませんが、どうやら逃げる必要はなさそうですわね」

「そうだな。それに、ここならエルフ兵に見付かる心配もないだろう」


144 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:45:08 qU7WtFlo 103/385


「やっと落ち着いたところで状況整理といきたいが」

「その前に、お前の母君とメイドエルフは本当に大丈夫なのか?」

エルフ「ええ。メイドエルフは、ああ見えてお母様の護衛も兼ねてますの」

エルフ「わたくしやあなたのように正攻法で戦うタイプではありませんが」

エルフ「戦い様によっては、わたくしでも油断できませんわ」

「そんなにか」

(城にあっさり潜入していたから、ただ者じゃないとは思っていたが)


145 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:46:09 qU7WtFlo 104/385


「ならそれはいいとして。まず確かめるべきは」

エルフ「兵が叫んでいた、『反逆者』ですわね」

「間違いなく俺たち……いや」

エルフ「わたくしのことでしょうね。あなたはそもそもエルフ族ではございませんし」

「俺たちの居場所がバレた理由はともかく、何故お前が反逆者扱いされたか……」

「心当たりがあるとすれば」

エルフ「やっぱり、隣国の将軍から聞いた事」

「十中八九それだろうな」


146 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:47:10 qU7WtFlo 105/385


エルフ「それを聞いたわたくしを反逆者として追うということは、逆に言えば、彼の話が事実であるということ」

「屋敷を襲ったのは、母君とメイドエルフを人質とするためか」

エルフ「しかし、その者は何故わたくしがその話を聞いたことを知っているんですの?」

「……兵士たちだな」

エルフ「え?」

「昼間の戦、お前の隊にいた連中に死者は出ていない」

「そしてさっき、調査に出ていた部隊が戻ってきていた」

エルフ「……なるほど。回収された兵の誰かが、その時の様子を話したんですわね」

エルフ(だとすれば、それを話した兵はもう……。最悪、全員が……)


147 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:48:19 qU7WtFlo 106/385


「だとすれば、次は」

エルフ「『誰が』、ということになりますわね」

「ああ。だが、これはある程度限られてくる」

エルフ「ええ。隣国との交渉など、一介の兵士がすることでも決めることでもありませんし」

「間違いなく、国の重鎮。それも軍部に身を置く者だろう」

「そうでなければ、昼間の今でお前を反逆者に仕立てあげることなどできん」

エルフ「でしょうね。ただ、それ以上絞りこもうには」

「情報が足りない、な」

エルフ「ええ」


148 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:49:25 qU7WtFlo 107/385


「……なら、これ以上考えても時間の無駄だ」

エルフ「そうですわね。なら、次は明日からの行動をどうするか」

「俺としては、屋敷の二人と合流して身を隠すべきだと思うが」

「真相を暴くにせよ逃げるにせよ、たった四人……いや、母君は戦えないだろうから実質三人で軍を相手にするのは無茶だ」

「まずは合流して、どこかに拠点を儲けるべきだろう」

エルフ「わかっています。わたくしだって、それだけの人数で正面から挑もうなどとは思いませんわ」

(逃げるって選択肢は初めから無しか。さすがというからしいというか)


151 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:51:54 qU7WtFlo 108/385


エルフ「ですから、まずはお母様たちとの合流地点を目指しますわ」

「合流地点?」

エルフ「昔いろいろありまして。いざという時のために、ある場所に隠れ家を用意してありますの」

エルフ「もしもの時は離れていても合流できるよう、そこに集まることになっているのですわ」

エルフ「襲われたとなれば、お母様たちもそこに隠れることを選択するはずです」

「そうなのか」

(つまり、そんなものを用意しなければならない扱いを受けてきたってことか。エルフだけじゃなく母君や、あるいはメイドエルフも)


152 : 以下、名... - 2012/03/09(金) 21:53:20 qU7WtFlo 109/385


「ちなみに、それはここからどのくらいの距離なんだ?」

エルフ「ここの正確な場所がわからないのでなんとも……」

エルフ「ただ、先程まで焚き火していた場所から考えれば、徒歩でおおよそ四日ほどといったところでしょうか」

エルフ「ただ、軍に見付からないように移動しなければなりませんから、実際はもっとかかるはずですわ」

「確かに」

エルフ「とりあえず……こんなところかしら?」

「だな。あとは明日以降に備えて、今日はもう休もう」


158 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:15:29 gyKs/.DY 110/385


隣国 王城

兵士A「陛下ー! 陛下ー!」ドタドタドタドタ

兵士B「陛下ー! いずこにおわしますのかー!」ドタドタドタドタ

将軍「……」

騎士「……」

騎士「……またですか」

将軍「またのようだな」

騎士「うちの王様の放浪癖には困ったものですね」

将軍「日頃の仕事ぶりは見惚れるほど見事なのだが、こればっかりは如何ともしがたい」


159 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:17:19 gyKs/.DY 111/385


騎士「確か以前は、北の山の頂上で発見されたんでしたっけ」

将軍「そこに山があったから登ってみたとのたまっていたな」

騎士「そんな理由で標高八千の山に挑まされた捜索隊はたまったものじゃありません」

将軍「そういえばそなたも一員であったか」

騎士「さらにその前は湖底で発見された遺跡の中でした」

将軍「自分の限界に挑むために素潜りしてたらたどり着いたらしいな」

騎士「あの遺跡は不思議でした。湖底なのに浸水していませんで」


160 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:18:39 gyKs/.DY 112/385


将軍「そこにも行ったのだな」

騎士「もう何回あの方を追って東奔西走したことか」

将軍「その歳で苦労してきたのだな」

騎士「わかってくださいますか……」ホロリッ

将軍「うむ。報償に少々色をつけてやろう」

騎士「あ、ありがとうございます!」

将軍「だから今回も頼むな」

騎士「」


161 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:20:42 gyKs/.DY 113/385


翌朝

エルフ「……ん」

「起きたか?」

エルフ「うん……おはよう」

「おはよう。奥で顔洗ってこい」

エルフ「え?」

「さっき覗いてみたら泉があった。澄んでて綺麗だぞ」

「動物はまだ寝てるから起こすなよ」

エルフ「わかりましたわ」


162 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:21:56 gyKs/.DY 114/385


エルフ「うわぁ……本当に綺麗な泉」

エルフ「ではさっそく」パシャン

エルフ「――ふぅ」

エルフ(気持いい)パシャ パシャ

パシャン

エルフ「――あら? 音が一回多かったような」

「やぁ」キラッ

エルフ「…………」

エルフ「……は?」

「おはよう麗しのレディ。こんな格好で済まないね」ジャブジャブジャブ

エルフ「……へ!?」

「いやー、あまりにも綺麗な泉だからつい泳ぎたくなってしまってね」ゼンラ

エルフ「……き……」


163 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:23:14 gyKs/.DY 115/385


「さて。保存食もそろそろ底をつきそうだし、そこらに食べられる野草か何か生えてな――」

キャーーーーーー!!

・動物たち「」ビクンッ!

「な、何だ!?」


164 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 16:24:28 gyKs/.DY 116/385


エルフ「な、なななな何で須野あなた!!?」

「こんな格好で言うのもなんだが、少し落ち着きたまえレディ」

エルフ「だったら早く服を着てくださいませんこと!? でないと!」ガシッ

「わかったから、とりあえず剣を抜こうとしているその手を下ろしてもらえるかな」

「おい、どうした!」

「やぁ」キラッ

「」


168 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 17:18:38 gyKs/.DY 117/385


「で、でたな妖怪!」キンッ

「グゥゥゥ……」

「待ちたまえ妖怪じゃないから鯉口切らないでもらいたい。熊くんもそんな唸らないでさすがに恐いよ」

「……とりあえず服を着ろ」

「今着ようと思っていたところだよ」





「で。あんた何者だ。見たところ人間のようだが」

「しがない放浪人さ」キラッ

「……」キンッ

「無言で鯉口を切らないでもらいたい」


169 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 17:19:40 gyKs/.DY 118/385


「そんな白髪に白髭だらけの風貌で歯を光らせても胡散臭いだけだ」

「胡散臭いはひどいなぁ。お嬢さんもそう思わない?」

エルフ「話しかけないで露出狂」

「もっとひどかった」


170 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 17:20:52 gyKs/.DY 119/385


「ま、身分を表す物を持ち合わせていないから、怪しいと思われても仕方ないけどね。よっこいしょ」

「どこへ行く」

「特に決めてないよ。ただ、エルフの国には前々から興味があってね」

「ちょっと見て回ろうと思って、昨日から来てみたんだよ」

エルフ「……あなた、今この国がどのような状態か知りませんの?」

「なーんか隣国と険悪な雰囲気だよねー」

エルフ「なら、この国の住民が人間に対してどのような感情を抱いているかもわかるでしょう?」

「あ、心配してくれるんだ? おじさん嬉しいなぁハグしていい?」

エルフ「死んでしまえばいいのに」


171 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 17:23:17 gyKs/.DY 120/385


「冗談はさておき、そろそろ僕は行くとしようか」

「……まあ、止めはしないが」

「僕だって、相応の知識はあるさ。君たちも気を付けるといい」

「……どうにもキナ臭いからね」

エルフ「え?」

「ではご両人。さらばだ」キラッ


172 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 17:24:26 gyKs/.DY 121/385


「……何だったんだ?」

エルフ「何でもいいですわ。あんな……ゲスいものを朝っから……!」ワナワナ

(ゲスい……)

エルフ「もしまた不埒な真似をしたら、全身斬り刻んで魚のエサにしてやりますわ……!」

「いや、さすがにもう会うことは無いと思うが」

「あ、そうそう」ヒョイ

「うおっ!?」

「お嬢さん。その剣、大切にしなさいよ」

エルフ「え?」

「じゃ、今度こそ失礼」


173 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:29:20 gyKs/.DY 122/385


「気配を感じなかった……本当に何者だ?」

エルフ(あの人、この剣のことを何か知って……?)

「まあ、敵ではなさそうだからいいか」

エルフ「……ですわね」

エルフ(今は考えても仕方ないですわ)


174 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:30:57 gyKs/.DY 123/385


「出発の前に確認したいんだが、昨夜言ってた隠れ家まではどう行けばいいんだ?」

エルフ「街道を通れれば一番確実なんですけど、そちらは軍が検問を敷いているでしょうから」

エルフ「一度南へ大きく迂回してから森の中を西進し、河が見えたらそれに沿って北上します」

エルフ「ただ、これはエルフ軍の陣があった場所を基点にした道筋ですので、一度そこまで近付く必要がありますが」

「昨夜は逃げるのに必死で、ここがどこだかわからないもんな。そんなに遠くまで行ってないとは思うが」

エルフ「どちらから来たのか大雑把には覚えていますから、さほど迷わず元いた場所までは戻れると思いますわ」

「そうか。なら頼む。俺はどうも方向音痴みたいで、道を覚えるのは苦手なんだ」

エルフ「そうなんですの?」


175 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:32:07 gyKs/.DY 124/385


「ああ。昨日お前と合流したけど、メイドエルフから聞いた話の通りなら、あと二日は早く着いてたはずだからな」

エルフ「つまり、二日間道に迷っていたと?」

「そうなる」

エルフ「意外ですわね。何でも卒なくこなせるような人ですのに」

「何でもは出来んよ。それに、お前に尋問されたとき、道に迷ったって説明しただろ?」

エルフ「そういえば、そんなこともありましたわね」

エルフ「……くす」

「ん?」

エルフ「いえ、何でも」

エルフ(この人にも、そんなかわいらしい弱点があるんですわね)

エルフ「たった二週間前なのに、ずいぶんと懐かしい感じですわ」

「そうだな」


176 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:33:10 gyKs/.DY 125/385




「……いいぞ。出てこい」

エルフ「この辺りは、本当に安全なようですわね」

「ああ」

熊A「……」

熊B「……」

「……」

リス「……」

「な、なんだか改めて見ると、こいつらが一列に並んでる様は色々と凄い」

エルフ「かわいいですけど、シュールというか何というか」


177 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:34:14 gyKs/.DY 126/385


「こいつらの寝床だったんだし、礼を言うべきか?」

エルフ「通じるのかしら……。えっと、皆一晩ありがとう、ね?」

熊A・B「」フリフリ

エルフ「手を振ってる!?」

「通じてる上になんて器用な真似を!?」

エルフ「えっと、その……じ、じゃーね?」フリフリ

リス「」フリフリ

「耳と尻尾で!?」

エルフ(み、皆かわいいですわね……)


178 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:35:42 gyKs/.DY 127/385




エルフ「えっと、確かこの辺りで焚き火をしていたはず」

「あれだ」

エルフ「ありましたわね。付近に兵士の姿も無しとなると」

「捜索範囲を別の場所に移したか」

エルフ「とはいえ、さすがに陣を引き払ったとは思えませんわ」

「昨日の今日じゃな。ここからは少し――」ピクッ


179 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:36:48 gyKs/.DY 128/385


エルフ「? どうかしまし――」

(伏せろ!)ガバッ

エルフ(っ!?)

ザッ ザッ

エルフ兵A「まったく。あの混血女はどこに隠れやがった」

エルフ兵B「確か、前迷いこんだ人間の男も一緒にいるんだよな」

エルフ兵A「ああ。おおかた、あの女が下品な手で誘惑でもしたんだろ」

(ちっ……)

エルフ兵B「だろうな。男の方も、それにホイホイ乗ったんだろ。人間ほど欲望にまみれた生物はいないからな」

エルフ(勝手なことを……!)


180 : 以下、名... - 2012/03/10(土) 21:38:29 gyKs/.DY 129/385


エルフ兵A「あーあ。やっぱもうこの辺りにはいないんじゃないか?」

エルフ兵B「もう一晩経っているからな。あるいはだいぶ遠くまで逃げているかもしれん」

エルフ兵A「仕方ない。そろそろ時間だし、戻って合流するか」

ザッ ザッ ザッ ザッ

「……行ったか」

エルフ「みたいですわね」

「好き勝手に言ってくれやがったな」

エルフ「本当。いずれひっぱたいてやりますわ」

「ああ。ほっぺた腫れるまでやってやれ」

エルフ「当然です。ところで……そろそろ、その」カァッ

「ん……ああ、悪い」ヒョイ

エルフ「い、いえ。別に謝らずとも」

エルフ(いきなり押し倒されたときはびっくりしましたけれども……)


186 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 22:54:11 2tTYifIk 130/385


「そろそろ時間、とか言ってたな。あいつら」

エルフ「ええ。さすがにもう、この辺り一帯の捜索は縮小するでしょうね」

「なら、このまま南まで一気に進むか?」

エルフ「そうですわね。時間をかけるとこの辺りは安全になっても、代わりに国全域に警戒範囲を広げられてしまいますし」

「そうなったら、ますます身動きがとりにくくなるか」

エルフ「隠れ家に着けば、こちらが尻尾を出さない限りバレることはありません」

「後のことは?」

エルフ「着いてから考えますわ」

「だな」


187 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 22:55:31 2tTYifIk 131/385


同時刻

ガラガラガラガラ

メイドエルフ「ご主人様、お疲れではございませんか?」

エルフ母「ええ、大丈夫よ。あなたこそ平気? 一睡もしていないけど」

メイドエルフ「わたしなら問題なしなしです。その気になれば五日間は不眠不休で動けます」

メイドエルフ「まあ、その後一週間くらいバタンキューしちゃいますけど」

メイド母「じゃあ、あなたがバタンキューしちゃう前に着かないとね」

メイドエルフ「ですねー。問題は」

ガラガラガラ

メイドエルフ「荷馬車の速度が如何せん遅いことなんですよねー」


188 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 22:56:45 2tTYifIk 132/385


メイド母「ごめんなさい。私がちゃんと歩ければ……」

メイドエルフ「とんでもございません! それはご主人様にはなんら責任の無いことなんですから!」

メイド母「でも」

メイドエルフ「そんなお顔をなさらないでください。今回はわたしがいるんです」

メイドエルフ「二度とあんなことにならないよう、しっかりとお守りさせていただきますから!」

メイド母「……ありがとう。お願いね」

メイドエルフ「お任せください!」

メイドエルフ(ええ。もうあんな事、わたしの前で二度と繰り広げさせたりしないんですから!)


189 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 22:58:00 2tTYifIk 133/385


エルフ「思ったよりあっけなく陣からは離れられましたわね」

「さすがにこの辺りにエルフ兵の気配は無いな」

エルフ「だいぶ南下してきましたから。当分は安全に進めますわ」

「とはいえ、あまりゆっくりもしていられないんだろ」

エルフ「ええ……そろそろですわね」

「そろそろ?」

エルフ「あれですわ」

「ん? おー。立派な大木だ」


190 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 22:59:53 2tTYifIk 134/385


エルフ「詳しい樹齢はわかりませんけれど。これを基点に、しばらく西へと進みます」

「そうか。しかし、ほれぼれするな」

エルフ「そうですわね」フリフリ

「誰に手を振って……あ、精霊か?」

エルフ「ええ。この樹には昔からたくさんの精霊が住んでいますの」

「なんとなくわかるな。俺の国でも神社のご神木は神秘的な雰囲気だが、この樹にもそれに通ずるものがある」

エルフ「あら。ちょっと見てみたいですわね」

「もしかしたら、精霊が見えるかもしれないな」

エルフ「異国の精霊か。一体どのような姿で――……」

エルフ「……」

「……何て言ってる?」

エルフ「『テキがキテるよ』」


191 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:02:15 2tTYifIk 135/385


ガサ シュッ

「――ふっ!」キンッ

エルフ「ナイフの投擲!? どこかで見たような攻撃ですわね」

「抜け。来るぞ!」

エルフ「!」シャー

ガサガサガサ ガサッ!

男声「死ね」

ギンッ

「ちっ」


192 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:03:02 2tTYifIk 136/385


エルフ「侍さん!」

女声「よそ見をしている場合かしら?」

エルフ「!」

キィンッ

エルフ「くっ!」ググッ

刺客♀「さあ。剣術大会優勝経験者の腕前、見せてもらおうかしら」ググッ

エルフ「……いいでしょう。ただし、お代は高くつきましてよ!」


193 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:04:32 2tTYifIk 137/385


刺客♂「……」ヒュン ヒュン

「……!」スッ スッ

(逆手の二刀短剣。尺は無いが)

「はあっ!」ブン

刺客♂「」ヒラリ

(かなりの身軽さだな。軽業師並だ)

(つけ加えて)

刺客♂「ふんっ」シュッ シュッ

「」スッ キン!

(間合いが離れたら短剣の投擲。二本連続でくるから、迂濶に懐に飛び込めず)

刺客♂「……」スラリ

「ちっ」


194 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:05:40 2tTYifIk 138/385


(いざ近付こうとすれば、別の短剣を既に抜いている)

「――おおおお!」

刺客♂「!」

ブンッガキン シュッキン!

刺客♂「はっ!」シュッ!

「っ!」キィンッ

刺客♂「もらう」ダッ

(こっちの懐に!?)

刺客♂「死ね」

「ちぃっ!」


195 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:07:13 2tTYifIk 139/385


エルフ「はあっ!」

刺客♀「ふっ!」

ガキンッ!

エルフ「やあっ!」ブンッ

刺客♀「っ」ギン ヨロッ

エルフ(いける!)

エルフ「はあああっ!」ダッ


196 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:09:10 2tTYifIk 140/385


刺客♀「――」

エルフ(……!)ビタッ

刺客♀「はっ!」

シュッ ザシュッ!

エルフ「つっ!」ツー

刺客♀「ちっ。頬にかすっただけか」ボソ

エルフ(剣じゃない。今のは、暗器?)

刺客♀「まあいいわ。威嚇効果は十分」


197 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:10:05 2tTYifIk 141/385


エルフ(精霊が警告してくれたおかげで助かった。けど)

刺客♀「剣での戦いはあなたが優勢。でも、今のも交えればどうなるかしらね?」

エルフ「……」

エルフ(どうかしらね。さっきのよろめき、わたくしを誘うためにわざと隙を作ったと思った方がいい)

エルフ(確かに負けてるわけじゃない。だけど)

刺客♀「それじゃあ、試してみようかしら!」ダッ

エルフ(だからって、余裕なんか少しもない!)

エルフ「……ええい!」ダッ


198 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:11:18 2tTYifIk 142/385


「おおおっ!」ガシィッ!

刺客♂「――なに!?」

刺客♂(こいつ、素手で短剣を掴みやがった!?)

「はあっ!」

刺客♂「くそ!」

ブンッ ザンッ!

刺客♂「ぐっ……」ブシュッ

「ちっ」ズキッ

(出血が少ない。浅かったか)

刺客♂「無茶苦茶なやつだ。これだから人間は……」

「やっとまともに口を開いたな」

刺客♂「……人間と話す口はない。次こそ殺す」

「あいにくだが、まだやることがあるんでな。簡単にはやられねーよ」

刺客♂「ふんっ!」ダッ

「はっ!」ダッ


199 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:12:45 2tTYifIk 143/385


エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

刺客♀「うっふふ。だいぶお疲れのようね」

エルフ(迂濶でしたわね……暗器を警戒するあまり、集中を欠いて体力を無駄使いしてしまうとは)

刺客♀「さて。とどめはどっちにしようかしら。剣で斬るか、暗器で撃つか」

エルフ「……」

エルフ(仕方ないですわね。あんまりやりたくないけど……)

エルフ「はあっ!」ブンッ

刺客♀「おっと」キン

ブンッキン ブンッキン

刺客♀「遅い!」ヒュン ザシュッ!


200 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:13:53 2tTYifIk 144/385


エルフ「くぁっ!?」ヨロッ

エルフ「つ……」ボタッボタッ

刺客♀「あらあら。その足じゃ、もう動けないわね」

エルフ「……」

刺客♀「ふふ。じゃあ、最後は剣で決めましょう。剣達者なあなたなら、その方が本望でしょ?」

ザッ ザッ ザッ

エルフ「……」

刺客♀「じゃあね。これでおしま――」

エルフ「――はああああっ!」ブンッ

刺客♀「!?」


201 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:15:00 2tTYifIk 145/385


「はっ!」

刺客♂「ふんっ!」

ギンッ ガィン キンッ

刺客♂「おおおっ!」ブンッ

(我を捨てたか。さっきまでと気迫が段違いだ)

「ふっ!」ヒュッ

ギン ギン ヒュッ キン

(だが!)

刺客♂「はあっ!」クルン

「――そこ!」

ヒュッ キィン――

刺客♂「なに!?」

「おおおっ!」ブンッ ザンッ!

刺客♂「がっ……!」ヨロッ


202 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:16:18 2tTYifIk 146/385


刺客♂「ぐ……ぅ……」ブシュッ

「……勝負ありだ。その深手じゃ、もう動けまい」

刺客♂「貴様……」

「熱くなったのが敗因だ」

「冷静なままならよかったものを、途中で逆手持ちを順手に変えようとするから余計な隙が出来た」

「剣は逆手で持つようには出来ていない。自然威力の伝わりが悪くなり、一撃の威力にどうしても欠ける」

「熱くなったせいで、手数より威力を取ろうとした。それはいいが、せめて間合いを空けてからやるべきだったな」

刺客♂「……ちっ」チャキ

「無駄だ。その傷では、もう戦いなんて」

刺客♂「勘違いするな。これは――こうするためだ!」ドスッ!

「!」

刺客♂「ぐ……かは……」ドサッ

刺客♂「……人間の……手に……など……かかって……たまる……か」

刺客♂「…………」コトッ

「……後味悪いな」キンッ


203 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:17:31 2tTYifIk 147/385


刺客♀「っと!」スカッ

エルフ「っ……」

刺客♀「危ない危ない。そういえば、腕はまだ動かせるのよね」

刺客♀「予定変更。やっぱり遠くから、こっちで殺してあげる」スッ

エルフ(針? あれが暗器の正体……)

刺客♀「くす。それじゃ」

エルフ(この程度の距離なら……)スッ

刺客♀「あら。目を瞑ったりして、観念したのかしら」

刺客♀「まあいいわ。それじゃ――さよなら。混血さん」シュッ――

エルフ「――」


204 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:18:37 2tTYifIk 148/385









――ヨケテ!





エルフ「!」カッ!


205 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:20:44 2tTYifIk 149/385


サッ ヒュン――

刺客♀「なっ!? 避けられ――」

エルフ「っ!」ダッ ブシュッ

刺客♀(あの足で走って!?)

刺客♀「くっ!」チャキ

エルフ「やあっ!」

ブンッ ギィィィン!

刺客♀「くぁっ!?」

エルフ「はああああっ!」

ザンッ!

刺客♀「がは……!」ドサッ


206 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:21:23 2tTYifIk 150/385


エルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――つぅ!」ボタボタ

刺客♀「そん……な……。汚れた小娘……に……がはっ!」

刺客♀「…………」コトッ

エルフ「はぁ、はぁ、はぁ」

エルフ「はぁ、はぁ……ありがとう」

――フリフリ


207 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:22:39 2tTYifIk 151/385


「エルフ。無事か」

エルフ「なんとか。侍さんこそ、平気ですの?」

「ああ。少しばかり油断したけどな」

エルフ「同じく。足を少々やられましたわ」

「……少し深そうだな」

エルフ「あなたの手もなかなかですわよ」


208 : 以下、名... - 2012/03/11(日) 23:23:49 2tTYifIk 152/385


「ああ。ひとまず手当てするか」

エルフ「ええ。幸い、もう敵はいないようですし」

「精霊か」

エルフ「ええ。今の戦い、彼らに助けてもらわなければどうなっていたか……」

「よかったじゃないか」

エルフ「え?」

「また味方が増えて」

エルフ「あ……」

エルフ「ええ……そうですわね」


215 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:39:57 LWAoxB8. 153/385


ギュッ

「よし。もういいぞ」

エルフ「意外と手際がいいんですのね」

「旅をしていれば、怪我することなんかしょっちゅうだからな」

エルフ「慣れですわね」

「そういうこと。しかし、しっかり治すにはさすがに医者に診てもらうしかないが」

エルフ「無理ですわ」

「まあ、街ではもう手配されてる可能性もあるか」

エルフ「いえ。手配とか、そういうことは関係なく無理なんです」

エルフ「怪我だろうと病気だろうと、わたくしやお母様が診療を受けることは」

「……そこまで」

エルフ「そのせいでお母様は……いえ、やめましょう」

エルフ「まあそのおかげで大病はもちろん、軽い風邪すら患ったことはございませんけど」フッ

(軽い病気でも、へたをしたら命に関わるからか……)


216 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:42:10 LWAoxB8. 154/385


エルフ「そんなわけですから、医者を探すのは無しということで」

「わかった。しかしだとすると、どうにかして足を確保する必要があるな」

エルフ「ごめんなさい。よりにもよって足をやられたのは迂濶でしたわ」

「本気の殺し合いだったんだ。気にする必要はない」

エルフ「……」

「しかし困ったな。来るときに乗ってきた馬、どこに繋いだか」

エルフ「馬で? ああ、街から国境までですわね」

「ああ。メイドエルフが貸し馬屋から借りてくれたやつなんだが」

エルフ「……二つの意味で、返す機会はなさそうですわね」

「そうだな」

(色々聞いてしまうと、返す義理も無いように感じるがな)


217 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:43:32 LWAoxB8. 155/385


「無いものねだりをしても仕方ない。歩けそうか?」

エルフ「ん……」ズキッ

エルフ「っ」

「しばらくは無理だな」

「抱えていこうにも、俺の手もこれでは」

「かと言って、おぶっては両手が塞がるからいざというときにまずい」

エルフ「ごめんなさい……」

「だから気にするな。さて、どうするか」

「どうしようかねー」

「……」

エルフ「……」

「ん?」

エルフ「何故ここにいる」


218 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:44:58 LWAoxB8. 156/385


「や、ただの通りすがり?」

「半疑問系で答えるな」

「あ、よかったらこの馬使う? なーんか木に繋がれて放置されてたのが不憫だったから乗ってきたんだけど」

「つーかそれ俺が乗ってきた馬だ!」

「そうなのかい? じゃあなおのこと僕ナイスタイミング。足怪我してるみたいだし、お嬢さんに乗ってもらおう」

エルフ(な、なんてご都合主義的な……わざとやってますのこの人?)


219 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:46:06 LWAoxB8. 157/385


「……それについては否定しないでおく。ほら」

エルフ「え、ええ」

「よっ、と」ヒョイ

エルフ「きゃっ!? い、いきなり抱えないでくださいません!?」カァッ

「その足じゃ自力で跨がれないだろ。ほい」

エルフ「まったく……」ストン

「うんうん。若いっていいねー。僕も二十年くらい前は熱ーい恋をしたもんさ」

エルフ「想像できません」

「じゃあ聞く? 聞きたい? 若かりしおじさんの甘く切なく凄まじいピュアラブストーリーを!」

「行こう」

エルフ「ですわね」

「せめてジト目くらいは向けたまえ」


220 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:47:31 LWAoxB8. 158/385


「いちいち相手にしてたら日が沈むだろ。馬のことは礼を言うが」

「ま、知らぬ顔ではないし、通り会わせたのも何かの縁だからね」

「ところで、お嬢さんだけじゃなく君も怪我をしているようだけど」

「……少しな」

「ん? 僕は関係ないから巻き込みたくない?」

「そういうことだ」

エルフ「興味本意でこの国に来たのなら、今すぐ帰るべきですわよ」

「んー。そう言われると、天邪鬼な僕としてはますます帰りたくなくなっちゃうなぁ。てへっ☆」

エルフ「……」チャキッ

「無表情で剣に手をかけないでもらいたい」


221 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:50:02 LWAoxB8. 159/385


エルフ「……そういえば、あなた」

「ん?」

エルフ「この剣のこと、何か知っていますの?」

「おや。何でそう思うのかな?」

エルフ「あなた、さっき洞窟を出るときに言ってたじゃありませんか。その剣を大切にしろと」

「んー。そんなこと言ったっけ?」

エルフ「……答える気はないようですわね」

「だから僕には何のことやら」

エルフ「もういいです。森でも村でも、好きなだけ見ていらっしゃい。命の保証はいたしませんわよ」

「くわばらくわばら」


222 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:50:44 LWAoxB8. 160/385


「行くか?」

エルフ「ええ。行きましょう」

「それじゃ、僕もこの辺で」

「一応、気を付けてな」

「申し訳程度のご心配に感謝するよ」

エルフ「……」

「それじゃあね。近いうちにわかると思うよ、お嬢さん」

エルフ「え!?」

「さらばだー」キラッ

エルフ「ちょっ、どういう……行ってしまいましたわ」

「……」


223 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:52:03 LWAoxB8. 161/385


エルフ軍本陣

エルフ王「その報告はまことか」

参謀「はっ」

司令「例の女隊長、混血の身でありながら騎士団へ登用させてもらった恩を忘れ、我らに……いえ、陛下に牙を向きました」

司令「辛うじて生き残った者が、戦場にて敵将と談合する混血の姿を目撃しております」

参謀「共にいたという極東出身の者も合わせて、目下行方を捜索中にございます」

エルフ王「……わかった。ときに司令」

司令「はっ」


224 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:53:21 LWAoxB8. 162/385


エルフ王「そなたは司令に昇格してまだ日が浅かったな」

司令「はっ。まだ一年ほどにございます」

エルフ王「なるほど。確かに、その間実際に顔を会わせたのは僅かであるな」

司令「左様にございます」

エルフ王「では司令。いい機会だからそなたにも教えおこう」

司令「はっ?」

エルフ王「二度と私の前で、混血などという蔑称を使うな!!!」バンッ

司令「っ!」

エルフ王「……件の騎士とその人間。見つけ次第私の前に連れてこい。ただし、丁重にな」

司令「丁重に? 相手は御身に反旗を翻した――」

エルフ王「二度同じことを言わせるな」

司令「……御意」

司令(……!)ギリッ

参謀「……」


225 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:54:44 LWAoxB8. 163/385


数時間後

「だいぶ暗くなってきたな」

エルフ「今日はこの辺りで野宿しましょう。敵もいないですし」

「敵、か。あいつら、やっぱり軍の回し者か?」

エルフ「状況からしてそうとしか思えませんが、あのような者たちを見かけた覚えはありませんわね」

「それに、どうやって俺たちの居場所を突き止めたかも気になる。精霊に聞いたか?」

エルフ「……いえ。精霊は否定していますわ」

「教えてない、か。どうやら、精霊は本格的にお前の味方をしてくれるようだな」

エルフ「それはもちろん嬉しいのですけど」


226 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:56:51 LWAoxB8. 164/385


「なおさら、居場所を突き止められた原因がわからない」

エルフ「ええ。そこがわからないと、今後もまた襲われる危険があります」

「特にこれからの時間帯は危険だな……」

エルフ「ですわね。交代で見張りをするしか、今のところ手はないですが」

「そうしよう」


227 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:58:13 LWAoxB8. 165/385


パチパチパチパチ

「なあ」

エルフ「はい?」

「答えたくなかったら答えなくていい」

エルフ「?」

「その剣のことなんだが」

エルフ「ああ……」

「いや、何だか妙にこだわってるようだし。かといって思い入れがあるというわけでもなさそうだから、少し気になってな」

エルフ「まあ、そうでしょうね」

「聞いても平気か?」

エルフ「ええ。別に内緒にしているわけでもなし」


228 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 22:59:56 LWAoxB8. 166/385


エルフ「わたくしもお母様から聞いた話なのですが。これは、元々父が使っていた剣なのだそうです」

「父君、か。ということは」

エルフ「人間ですわ」

「……余計なこと聞いたかな」

エルフ「いえ。そこまで大層なことではありませんわよ」

「ならいいが……」

エルフ「そんなことより、わたくし、あなたの国のことを聞いてみたいです」

「俺の国?」


229 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 23:01:34 LWAoxB8. 167/385


エルフ「ええ。わたくしはこの国から出たことがありませんから。外の国がどういった所なのかよく知りませんの」

「一口に外国と言っても、特色は国毎に異なるんだけどな」

エルフ「細かいことはいいんです。それで、どんなところなんですの?」

「そうだな。まず、国を統治する機関を幕府という」

エルフ「尋問のときにそんな名称を聞いたような……」

「民の大多数は農民で、一部の武士階級の人間が政を行っているんだ」

エルフ「確かあなたも」

「ああ。ま、俺はそんなに偉い武士じゃないがな」


230 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 23:02:48 LWAoxB8. 168/385


エルフ「ぶし、というのは騎士とは違いますの?」

「似て非なるものだ。その辺り説明しだすと長いから省くぞ」

「二百年ほど前に戦乱の時代が終わってからは、大きな戦は起こっていない」

エルフ「平和なんですわね」

「ああ。で、その頃から幕府はずっと鎖国政策を続けていたんだが、最近になって現幕府将軍が開国したんだ」

「噂じゃ、その将軍は昔から家に閉じ籠るのが嫌いらしくてな」

「政を執り行うようになって、それを国にも当てはめたらしい」

エルフ「剛毅というか大胆というか……」


231 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 23:04:08 LWAoxB8. 169/385


「ま、為政者としては優秀らしいからな。外国の優れた文化は積極的に取り入れつつ、自国の産業を保護することも忘れない」

「経済とか、そういう話は苦手だから聞いた話なんだけどな」

エルフ「じゃあ、あなたが今こうしてここにいるのは」

「間違いなく、その方のおかげだな。開国していなければ、今も井の中の蛙だったわけだ」

「おかげで広い世界に出て、見聞を広げることが出来た。会ったことはないが、感謝しているよ」

エルフ「そう……」

「どうかしたか?」

エルフ「いえ。なんでも」

エルフ(わたくしも感謝しなければなりませんわね)

エルフ(この人と出逢うきっかけをくれたその方に……)


232 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 23:05:26 LWAoxB8. 170/385


二日後

キィッ――

メイドエルフ「……怪しい気配無し。ご主人様、大丈夫です!」

エルフ母「そう。すぐ行くわ」ヒョコヒョコ

メイドエルフ「無理なさらずに。肩に捕まってください」

エルフ母「いつも済まないわねぇ」

メイドエルフ「それは言わない約束ですよ」

エルフ母「ふふ。でも、本当にありがとう」

メイドエルフ「わたしがお役に立てることなんて、身の回りのお世話とボディーガードくらいのものですから」

エルフ母「あなたが言うと、本当に簡単そうに思えてしまうわね」

メイドエルフ「事実簡単です。お嬢様のご苦労に比べたら」

エルフ母「……そうね」


233 : 以下、名... - 2012/03/12(月) 23:06:30 LWAoxB8. 171/385


メイドエルフ「あ、ごめんなさい! そんなつもりでは!」

エルフ母「わかってるから大丈夫よ」

メイドエルフ「……お嬢様、ご無事でしょうか」

エルフ母「きっと無事よ。あの子なら。侍さんだって側にいてくださっているでしょうし」

メイドエルフ「そ、そうですよね! わたしたちはただ、お二人を信じて待つだけですね!」

エルフ母「ええ」

エルフ母(娘を……娘をお願いします。侍さん)


243 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:18:14 9woH24nI 172/385


さらに一日後

エルフ「見えましたわ」

「あれが目印の河か」

エルフ「ええ。河下は南ですので、河上を目指します」

「ちょうどいい。水が底を尽きかけていたし、調達しておこう。ほれ」

エルフ「ありがと。んしょっと」トン

「痛みはどうだ?」

エルフ「だいぶマシになりましたわ」


244 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:19:29 9woH24nI 173/385


エルフ「あれから一度も襲撃はありませんわね」

「油断はするなよ。間を開けて警戒が弛んだところを、なんてことも考えられる」

エルフ「そうですわね」

「警戒しすぎて疲れても仕方ないけどな」

エルフ「それと、あの刺客がこちらを発見した方法もわかっていませんし」

「それは何とか確かめたいところだ。安全に身を隠すためにも」

エルフ「とはいえ、どうしたら」

「何か心当たりはないか? 騎士団に特殊な諜報部が存在するとか」

エルフ「……知っていたらとっくに話していますわ。わたくし、隊長になってからも主要な会議や軍議に呼ばれたことがありませんの」

エルフ「従って、他の隊長が知っているレベルの情報も持ち合わせていませんわ」

「……すまん」


245 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:20:50 9woH24nI 174/385


(いかんな。聞く度に傷に塩塗ってしまう)

エルフ「ただ」

「ん?」

エルフ「一度、国王陛下主催のパーティに招かれたことはあります」

「国王主催……てことは」

エルフ「当然、招いて下さったのは陛下ですね」

「意外だな。言っちゃなんだが、正直人間卑下の総元締のような印象なんだが」

エルフ「そう思うのも無理ありませんけれど。でも、事実は逆ですわね」

エルフ「陛下はわたくしのお祖父様とは竹馬の友だったそうで」

「なるほど。母君とも親交があるのか」

エルフ「ええ。ですから、そのパーティでも主賓並にもてなされましたわ」

エルフ「そういうこともあって、陛下はわたくしのことを非常に気にかけて下さっていました」

エルフ「ただ、それ以後は陛下へのお目通りが叶わなくなってしまったのですが」

「妨害か?」


246 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:22:36 9woH24nI 175/385


エルフ「……騎士団の上の者が、わたくしと陛下が懇意にすることを快く思っていたかったのは確かですわ」

エルフ「今の司令自ら嫌がらせをしてきたこともありましたし」

エルフ「ま、それでも騎士団から追い出すことだけはしませんでしたけど」

「単に国王から大目玉食らいたくなかっただけだろ」

エルフ「でしょうね」

(腐ってやがる)

エルフ「話が逸れましたわね。要は、騎士団に特殊な部隊があったとしても、わたくしは知らないということです」

「そうか」


247 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:23:13 9woH24nI 176/385


――バサバサバサッ

「ん?」

エルフ「あら。わたくしの肩に」

「……」キョロキョロ

「珍しい鳥だな」

エルフ「本当。何という鳥なのかしら」

「……」ジー

(……ん?)

バサバサバサッ

エルフ「行っちゃった」

「……」

エルフ「さ、わたくしたちもそろそろ行きましょう。遅くなると、お母様たちを心配させてしまいますわ」

「ああ」

(……まさかな)


248 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:25:01 9woH24nI 177/385


数時間後

「そういえば、北上してからの進路は?」

エルフ「半日ほど歩くと小さな町があるのですが、その手前に架っている橋を渡って向こう岸に行き、再び西へ向かいます」

エルフ「注意すべきは、橋を渡るためには一度森を出て街道に出る必要があるということですわね」

「人目につく危険があるってことか」

エルフ「ええ」

「ちなみに、橋を渡ってから隠れ家までは」

エルフ「そこまで行けば、あとはまっすぐ森を突っ切れば二日ほどで着きますわ」

「馬で走れば」

エルフ「一日あれば十分ですわね」

「なら街道の様子を見て、安全そうなら一気に駆け抜ける手もありだな」

エルフ「ええ」


249 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:25:38 9woH24nI 178/385


スー

エルフ「あら?」

「ん? 紙か、流れてきたのは」パシャ

エルフ「お触書ですわね。町から流れてきたのかしら」

「なになに……」

エルフ「……」

「……」

エルフ「……なん、ですって……?」

「……」

エルフ「陛下が……暗殺された……!?」


250 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:27:06 9woH24nI 179/385


一日前 王城

エルフ王「ぐぅお!?」ガシャンッ

司令「……」

エルフ「がっ……か……おのれ……貴様ぁ……げほっ!」

司令「……あなたが悪いのですよ」

司令「下らない情にほだされて、人間誅討の軍を起こそうとしないあなたが」

エルフ王「愚か……もの……が……――」コト

司令「……参謀」

参謀「ここに」


251 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:28:09 9woH24nI 180/385


司令「先の隣国との戦で『殺された』のは、『国境守備隊の全隊員』とあの混血の部隊員が『全員』だな?」

参謀「はい。『確認済み』にございます」

司令「では全ての民に触書を出せ。国王陛下以下全ての死者は、隣国の回し者である混血と人間の手によるもの」

司令「よって我ら騎士団はその二名を特別手配すると共に」

司令「仇討ちのため、隣国討伐の戦に向け準備を開始する、と」

参謀「承知いたしました」


252 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:30:55 9woH24nI 181/385


エルフ「そんな……誰が!」

「俺たちだそうだ」

エルフ「え!?」

「ここ見てみろ」

エルフ「……」ギリッ

「しかも、俺たちの正体は隣国のスパイらしいな」

エルフ「なんということ……!」

(それに、エルフの国側の死傷者数……隣国の将軍の話とはずいぶん違うな)

「不幸中の幸いか、母君とメイドエルフについては触れられていないが」

「とにかく、今は先を急ぐしかない。隠れ家を見つけられたら、二人まで危険な目に会う」

エルフ「そ、そうですわね。なら、あなたも馬に乗ってください。一気に駆け抜けて……」


253 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:32:00 9woH24nI 182/385


――ニゲテ!

エルフ「!?」

ヒュン ヒュン ヒュン グサッグサッ

「――――!」ヒヒーン!

エルフ「きゃあっ!?」

「エルフ!」ダキッ

(矢が馬に……これは!)

エルフ兵「あそこだ! かかれー!」

エルフ「騎士団!? 何でここが!」

「考えるのは後だ。走れるか?」

エルフ「……問題な――きゃっ!」ガバッ

「一瞬間が空く時点で無理だろ! 捕まってろよ!」ダッ


254 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:33:03 9woH24nI 183/385


――マエカラモクルヨ!

エルフ「――前からも来ますわ!」

「!」

ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス

「くっ!」

エルフ兵「突撃ー! 挟み撃ちだ!」

エルフ「なんて数……!」

(くそ。あの数相手に今の状態じゃ……!)

「お前、泳げるか」

エルフ「……それしかありませんわね」

「ああ。行くぞ!」

ドボンッ


255 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:34:43 9woH24nI 184/385


エルフ兵「河へ逃げたぞ! 弓兵、急げ!」

「――ぷはっ! エルフは!」

エルフ「――」

(泳げてはいるが、速度がない……やはり足の怪我が響いてる)

「はっ」ジャブジャブジャブ

「掴まれ!」グッ

エルフ「! ちょっと! そんなことしたら、あなたまで遅くなりますわよ!」

「気にするな! 捕まったらその時はその時だ!」


256 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:35:08 9woH24nI 185/385


エルフ「そういうことを言っているわけではありません! このままだと――」

エルフ兵「放てー!」

ヒュンヒュンヒュンヒュン

エルフ「まず――」グイッ

エルフ(!?)

ボチャボチャボチャボチャ――ドスッ

「ぐっ!?」

エルフ「侍さん!!」

「だ、大丈夫だ。急所じゃない。それより急ぐぞ」

エルフ「は、はい!」

エルフ(わたくしを、かばって……!)


257 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:36:13 9woH24nI 186/385


ザバァッ ザバァッ

「はぁ、はぁ、はぁ」

エルフ「はぁ、はぁ……さ、掴まってください」

「平気だよ。足をやられたわけじゃない……ふ!」ブシッ

「つ……。行くぞ」

エルフ「は、はい……」


258 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:37:31 9woH24nI 187/385


「敵は?」

エルフ「……まだ追ってきているようですわ」

「森に入ったはいいが、このままだと追い付かれるのは時間の問題か」

エルフ「ええ。今のうちに距離を稼ぎませんと」

「それはいいが、どうする? このままじゃ、隠れ家に直行というわけには――」ドクンッ

「っ?!」クラッ

エルフ「どうしましたの!?」

「……何でもない。早く行こう」

エルフ「え、ええ。ひとまず河下の方に」


259 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:38:39 9woH24nI 188/385


――ソッチハダメ。

エルフ「え?」

――サキマワリサレテルヨ。

エルフ「まさか、敵も渡河を……。なら、このまま森の中に身を隠して」

「駄目だ。焼きうちにでもあったら詰む」

エルフ「エルフ族は自然の民です。そんなことはしませんわ」

「だとしても、時間が経てば経つほど不利になる」

エルフ「じゃ、じゃあどうすれば!」

エルフ兵「いたぞー!」

エルフ「! 見つかった!?」

「街道に出る」

エルフ「え?」

「こうなったら賭けだ。敵の指揮官を見つけて倒す」

エルフ「……それしかなさそうですわね」


260 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:39:43 9woH24nI 189/385


街道

エルフ兵A「追い詰めたぞ、混血女と卑劣な人間め」

「……」

エルフ「……」

エルフ兵B「多くの同胞、そして我らが国王を手にかけたその罪、万死に値する!」――チョンチョン

(どいつだ?)

エルフ(今喋った方。精霊が教えてくれましたわ)

(わかった)

エルフ兵B「だが簡単には殺してやらんぞ。この場で捕えて後、市中引き回しの上でその首を――」

「ご託はどうでもいいんだよ!」ダッ

エルフ兵B「なっ! 貴様!」ガシッ

「抜かせん!」

ザンッ

エルフ兵B「ぐああああ!」ドサッ


261 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:40:47 9woH24nI 190/385


エルフ兵A「隊長ー!」

エルフ兵C「お、おのれ貴様!」

「本当なら、正々堂々といきたかったがな。今はそうも言っていられない」

「で、どうする。指揮官は倒したわけだが、まだやるのか?」

エルフ兵A「ぐ……!」

エルフ(どうにかうまく行きそうですわね)

エルフ兵B「……く」ヨロッ

エルフ「なっ!?」

(なに?)

エルフ兵C「隊長! ご無事で!」

エルフ兵B「当たり前だ。人間如きにやられてたまるか……と、言いたいところだが」

エルフ兵B「その人間が万全であったなら、今ので死んでいたであろうな」

エルフ「ど、どういう」

「……く」ガクッ

エルフ「!? 侍さん!!」


262 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:42:09 9woH24nI 191/385


「……そういう、ことか……!」

エルフ兵B「そういうことだ。さっき矢を受けたからな」

エルフ「矢を……まさか!?」

エルフ(毒矢!)

エルフ兵B「ふ。捕えろ!」

エルフ兵たち「はっ!」

エルフ「くっ!」

「ちっ……」

エルフ兵A「さあ、おとなしくしてろ!」ガシッ

エルフ「その人に触らないで!」ドンッ

エルフ兵A「ぐあ! おのれ、混血!」チャキ

エルフ「!」チャキ

エルフ兵C「後ろががら空きだ」ガシッ

エルフ「なっ!? は、離しなさい!」


263 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:43:13 9woH24nI 192/385


エルフ兵B「少し黙らせろ」

エルフ兵A「はっ」

エルフ兵C「そら、よ!」ブンッ バキ

エルフ「きゃあっ!」ドサッ

エルフ「く……」ヨロッ

エルフ兵C「まだ立てるのか」

エルフ兵A「そんじゃ、今度は俺」

――シュッ

エルフ兵A「ぐげっ!」ドサッ

エルフ兵たち「――!」ザワッ

エルフ兵B「何だ!?」

エルフ(あの……ナイフは)


264 : 以下、名... - 2012/03/13(火) 23:44:29 9woH24nI 193/385


シュッ シュッ ドスドス

エルフ兵C「がっ!」

エルフ兵「ぐふ……」

ドサドサ

エルフ兵B「誰だ!」

女声「いちいち聞かなきゃそんなこともわからないんですか?」

エルフ(……数日会ってないだけなのに、懐かしい)

メイドエルフ「そんなの――あなたたちの敵に決まってるじゃないですか」チャキ


269 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:47:40 HZ4y/JIo 194/385


メイドエルフ「さて。皆さん、お覚悟はよろしゅうございますか」

エルフ兵B「なに?」

メイドエルフ「わたし、久方ぶりにキレました。大切なお嬢様と大切なお客様を傷つけたその罪」

メイドエルフ「――死んで償いやがりませ♪」ニヤッ

エルフ兵たち「ひっ!」ゾクッ

エルフ兵B「う、うろたえるな! たかが一人、ただのメイドだ! 数で押し込め!」

メイドエルフ「たかが一人」ジャキン

エルフ兵D「な……」

メイドエルフ「されど一人」ジャキン

エルフ兵E「ナ、ナイフがあんなに!?」


270 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:49:02 HZ4y/JIo 195/385


エルフ兵B「ひ、怯むな! かかれ、かかれー!」

エルフ兵たち「お、おお!」ダッ

メイドエルフ「それでは……皆様!」シュババババババッ

ドスドスドスドスドスドスドス

エルフ兵D「がっ!」

エルフ兵E「ぐあ!」

エルフ兵たち「ぎゃーーーー!」

メイドエルフ「どうぞ、逝ってらっしゃいませ」ペコリ

ドサドサドサドサ――

エルフ兵B「……」パクパク

エルフ兵F「に、二十人以上を」

エルフ兵G「狙い違わず」

エルフ兵H「各ナイフ一本で倒しやがった……!」


271 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:50:25 HZ4y/JIo 196/385


メイドエルフ「さあ」

エルフ兵たち「」ビクンッ

メイドエルフ「次に楽土へおでかけなさりたい方はどうぞ前へ」ジャキ ジャキ

メイドエルフ「メイドとして、きちんとお見送りさせていただきますので」ニコッ

エルフ兵B「ぐぅ……ええい、あいつを取り押さえろ!」

メイドエルフ「うふふ♪」ニヤッ


272 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:51:48 HZ4y/JIo 197/385


――ギャー! ウワー! イヤダー!

エルフ「……」ポカーン

エルフ「……何で侍さんにあの子があたしと同等程度の強さ、みたいな説明しちゃったんだろ」

「おや? なんだか口調変わってない?」

エルフ「うひゃっ!?」ビクッ

――ウギャー! グワー! ヒィー!

エルフ「ま、またあなたですの!? いつの間に後ろに、ていうかいつからここに!?」

「メイドちゃんと一緒に来たんだけど。気付かなかったかな?」


273 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:53:04 HZ4y/JIo 198/385


エルフ「いつの間にあの子と知り合っているんですか。あと存在感無さすぎですわ」

――モウイヤダー! コラ、ニゲルナー!

???「ところで、彼はどうしたんですか? 何だか苦しげですが」

エルフ「っと、そうですわ! 侍さん!」

「はぁ……はぁ……」

エルフ「すごい熱……! 毒のせいですの?」

「ふむ。肩に矢傷があるね。毒矢かい?」

エルフ「え、ええ。わたくしをかばって」

「ちょっと見せてくれるかな」

「……っ」

???「おわかりになるんですか?」

「専門じゃないけど……確かにひどい熱だ」


274 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:54:23 HZ4y/JIo 199/385


――タイチョウモウムリデス! クソ、テッタイダ! テッタイセヨ!

「どれ」チョン

「」 ドサッ

エルフ「ちょっ! なにしてるんですの!」ダキアゲ

「意識はもうほとんどない、か」

メイドエルフ「いやーたくさん殺りましたー。すっきりです♪」

???「いい笑顔で恐ろしいことを発言しながら隣に立たないでください狂気を感じるので」

メイドエルフ「お侍様は大丈夫なんですか?」

???「スルーされた」

「うーん……。とにかく、一度安全な場所に運ぼう。服も濡れたままだとまずい」

エルフ「わ、わかりましたわ」


276 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:55:37 HZ4y/JIo 200/385


夜 隠れ家

エルフ母「毒を!?」

「うん。あの子をかばってくれた結果ね」

エルフ母「そんな……解毒は」

「さっき、国に薬草を取りに行かせた。エルフ軍の警戒網の穴は教えたから、明日中には戻ってこれる」

「それまで持ち堪えてくれるか否かは……彼次第だよ」

エルフ母「そう……」


277 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:56:48 HZ4y/JIo 201/385


エルフ「……」

「はぁ……はぁ……はぁ……」

メイドエルフ「――失礼いたします。新しいお水とタオルをお持ちしました」

エルフ「ありがとう……」

メイドエルフ「湯あみの用意も整っています。お侍様はわたしが看病しますから、お嬢様は」

エルフ「いい」

メイドエルフ「ですが、お嬢様も河を泳がれたのですから」

エルフ「いい。わたくしのせいで彼は苦しんでいるのに、自分だけぬくぬくと湯あみなど」

ガチャ

エルフ母「だからこそ、あなたが休まなければ駄目よ」

エルフ「お母様……」


278 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:57:56 HZ4y/JIo 202/385


エルフ母「あなたが傷つかないようにと、彼が守って下さったのでしょう?」

エルフ母「だったら、まずはあなたが元気になって、彼の勇気に応えてみせなくちゃ」

メイドエルフ「そうですよ。ここはわたしに任せて、お嬢様は」

エルフ母「あなたもです」

メイドエルフ「え?」

エルフ母「あなたも、昼間戦って疲れているでしょ? 侍さんは私が看ているから、二人ともゆっくりしていらっしゃい」

メイドエルフ「いえ、わたしはあれくらい」

エルフ「わかりました。わたくしが出るまではお願いします」スクッ

エルフ母「ええ」

エルフ「行きましょう」

メイドエルフ「あ、は、はい!」


279 : 以下、名... - 2012/03/14(水) 23:58:53 HZ4y/JIo 203/385


チャポン――

エルフ「……」ハァ

メイドエルフ「お嬢様、髪を束ねなくてよろしいので?」

エルフ「うん。面倒だから」

メイドエルフ「そうですか」

エルフ「二人っきりなんだから、敬語じゃなくてもよろしいですわ」

メイドエルフ「なら、あなたもお嬢様口調やめたら?」

エルフ「……そうね」


280 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:00:08 dEmM67aU 204/385


エルフ「あなた、強さを隠してたわね?」

メイドエルフ「別に隠してたわけじゃないわ。それに、さすがにあなたより強いなんてこともないし」

エルフ「うそ。あたし一人だけじゃ、あれだけの数を相手には出来ないわ」

メイドエルフ「強さの質が違うのよ。わたしは集団相手に強くて、あなたは一対一に強いの」

メイドエルフ「実際、わたしがあなたと手合わせして勝ったことないじゃない」

エルフ「まあ、そうだけど……」

エルフ「……」


281 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:01:12 dEmM67aU 205/385


メイドエルフ「……大丈夫よ、彼なら」

エルフ「え?」

メイドエルフ「というか、大丈夫じゃなきゃ嘘よ。やっと巡り逢えた人じゃない」

エルフ「め、巡り逢えたって、彼は別に……!」カァッ

メイドエルフ「あなたの味方になってくれる人って意味で言ったんだけど?」

エルフ「……」

メイドエルフ「……恋しちゃった?」

エルフ「……」カァッ

メイドエルフ「そっか。なら、なおさらあなたが元気にならなきゃ」

メイドエルフ「彼が元気になったとき、あなたが沈んだ表情だったら申し訳ないでしょ?」

エルフ「……うん」


282 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:02:38 dEmM67aU 206/385


エルフ「そういえば、あの男とはどういう経緯で?」

メイドエルフ「出会ったのはたまたまね。一度外に見回りに出たら騎士団の小隊を見かけて」

メイドエルフ「周辺をうろつかれても厄介だから始末しようとしたんだけど、そこに彼らが通りかかったの」

エルフ「ら? ……ああ、そういえばもう一人いたような」

メイドエルフ「見た通り人間だったから、問答無用で騎士に襲われててね」

メイドエルフ「だから助けたの。もしかしたら侍さんとも何か関係あるかもしれないと思って」

エルフ「で、そしたらあたしとも関係があったと」

メイドエルフ「そういうこと。彼から二人が怪我してるって聞いて、心配になってあそこまで出向いたのよ」

エルフ「そうだったの。ありがと。おかげで助かったわ」

メイドエルフ「どういたしまして」


283 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:04:01 dEmM67aU 207/385


エルフ「ところで、そのもう一人の彼はどこに行ったの? 見かけないみたいだけど」

メイドエルフ「ここに来る前、男さんが何か呟いた後、文句言いながらどっか行ったわ」

エルフ「……相変わらず謎だらけな人ね」

メイドエルフ「そーねー。ご主人様とも顔見知りみたいだったし」

エルフ「……え?」

メイドエルフ「二人とも、顔合わせた瞬間すごくびっくりしてたのよ。あなたは侍さんに気がいってたから気づいてなかったけど」

エルフ(お母様とあの男が、知り合い……?)


284 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:05:11 dEmM67aU 208/385


王城

司令「精霊が連中の味方をしている?」

参謀「はい。報告を聞く限りでは」

司令「具体的には」

参謀「こちらの兵がいくら問いかけても精霊が答えてくれないとのこと」

参謀「そもそも、姿すらも見せてはくれないそうです」

司令「確か、精霊は己の姿を見せる相手を任意で選べるのだったな」

参謀「はい。そして、例の彼女には見えている節があったとのこと」

司令「……解せん。何故自然そのものの命と言っても過言ではない精霊が、我らではなく混血などの味方をするのだ」

参謀「彼らの考えまではさすがに」


285 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:06:12 dEmM67aU 209/385


司令「まあいい。連中の捜索はひとまず後回しにさせろ」

参謀「では?」

司令「うむ。明日、隣国へ向けて出陣する」

司令「人間などこの大地には不要だと、民に証明してやるのだ」

参謀「かしこまりました。すぐ手配いたします」

司令「頼むぞ」

参謀「では」

ガチャッ バタン――

参謀「……」

参謀「……過ぎた選民思想は、己の破滅を招くだけなのですがね」


286 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:07:45 dEmM67aU 210/385


翌日

「はぁ、はぁ……ぐぅっ……」

エルフ(昨夜よりも呼吸が苦しそう……このままじゃ……)

ガチャ

「どうだい。彼の様子は」

エルフ「……いけませんわね。徐々に悪化しているようです」

「ふむ。今配下に薬草を取りに行かせてるんだが」

エルフ「配下に、薬草?」

「あれ。僕の他にもう一人いたの覚えてない?」

エルフ「地味な方がいらしたのは覚えていますが」

「結構言うね君。さておき、その地味な彼がそうさ。早ければもうそろそろ戻ってくるはずなんだが」


287 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:08:59 dEmM67aU 211/385


エルフ「その薬草があれば、侍さんは助かりますの?」

「断言は出来ない。毒が回って結構な時間が経過してしまっている」

「まだ無事だということは、即効性の割にたいした効き目のない種類か、侍くんの体力がタフなのかのどちらか、あるいは両方だけど」

「……さすがに、そろそろキツイだろうね」

エルフ「っ……!」

「まあ、専門的な知識はないが、変わりに経験則から彼の症状には覚えがある。薬草の種類は間違っていないはずさ」

エルフ「そう……」

(経験則、にツッコミが入らないか。相当追い詰められてるなぁ)

メイドエルフ「――お嬢様!」ドタドタドタ

「ぐっ……!」

エルフ「静かにして! 侍さんのお体に響くでしょ!」

メイドエルフ「あ、す、済みません――って、そう! それです! 戻ってきました!」

エルフ「え!?」

???「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇぜぇ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


288 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:10:07 dEmM67aU 212/385


「お、ご苦労さん。思ったよりも速かったね」

???「ぜ、全速りょく、で、とば、飛ばし、まし、たから」ゼェ ハァ ゼェ ハァ

エルフ「薬草は、薬草はどこに!」

???「」プルプルプル

「うん、これだ。すぐに刷り潰して煎じよ――」

「――がっ!」ビクンッ

全員「!?」

「ぅ……ぐ、ぁ……はっ……!」

エルフ「侍さん! 侍さんしっかりなさって!」

「いかん。メイドちゃん、早く準備を」

メイドエルフ「はい!」


289 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:12:51 dEmM67aU 213/385


十分後

エルフ「侍さん! 侍さん!!」

メイドエルフ「お薬の用意が出来ました!」

エルフ「早く!」

メイドエルフ「はい!」

ツー

「――ごふっ!」


290 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:13:24 dEmM67aU 214/385


メイドエルフ「きゃっ!?」

エルフ母「吐き出して!?」

「まずいな。自力で飲む体力も残ってないんだ」

メイドエルフ「そんな! ならどうやって――」

エルフ「貸して!」バッ

メイドエルフ「お、お嬢様、何を」

エルフ「自分で飲み込めないのなら!」グビッ

エルフ「――ん」

メイドエルフ「ひゃ!?」


291 : 以下、名... - 2012/03/15(木) 00:14:33 dEmM67aU 215/385



「――」ピクンッ

エルフ「……」チル チュル

???「く、口移しで……」

「ま、それが一番手っ取り早いね」

(問題は、間に合うかどうかか)

エルフ「――はぁっ……」

「はぁ……ぐっ、かは……はぁ、はぁ」

エルフ「侍さん……!」

「薬は飲ませた。後は、信じて待つしかないよ」

エルフ「……!」ギュッ


298 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:13:51 kWiT90ak 216/385


――バタン

エルフ母「様子はどう?」

メイドエルフ「まだ良くありません……」

エルフ母「そう……」

「あの薬草も即効性のあるものだが、その分強力だ。苦しんでいるのはそのせいでもあるんだろう」

「ともかく、今は彼を信じて、君達は休むことだよ」

「彼が快復したら、次はあの子がダウンするよ。一睡もせずに付きっきりで看病しているんだから、疲労も溜っているだろう」

メイドエルフ「それもそうですね」


299 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:15:22 kWiT90ak 217/385


???「あの」

「何だい?」

???「ちょっと……」

「ふむ。済まない、少し外すよ」

エルフ母「どうぞ」

スタスタスタ バタン――

メイドエルフ「結局、ご主人様とあの人のご関係って……」

エルフ母「後で話すわ」


300 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:17:43 kWiT90ak 218/385


「で、報告の内容は?」

???「もうわかっているんでしょう? エルフの軍勢が、我が国の砦に侵攻を開始したんです。ですから」

「あー。そういえばお触書にもそんなこと書いてたねー」

???「そんな呑気に言うことですか! すぐ国に戻って下さい!」

「だーいじょぶ。僕がいなくても、将軍がいれば楽勝だよ」

???「ま、まあ将軍は確かに戦上手ですが」

「でしょ?」

???「しかし、だからといってあなたが戻らなくていいという話にはなりません!」

「君、将来ハゲそうだね」

???「ハゲ……誰のせいですか誰の!」


301 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:18:37 kWiT90ak 219/385


「とにかく、僕はもう少しここにいる。せめて、侍くんの無事を確認するまではね。君だって気になるだろ?」

???「……それは、まあ」

「はい、決まり」

???「うう……いつもこうやって振り回されるんだ……」

「僕の代で騎士団に入った自分の不運を呪うんだね」

???「自分で不運とか言わないでくださいよ」

「はっはっはっ。じゃ、戻ろうか」


302 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:20:50 kWiT90ak 220/385


数時間後

「……」スー スー

エルフ「……はぁ」

メイドエルフ「失礼いたしま――あ、寝息が」

エルフ「ええ。ついさっき呼吸も安定しましたわ」

メイドエルフ「ということは、峠は越えたんですね! よかったです!」

エルフ「本当に」フキフキ


303 : 以下、名... - 2012/03/16(金) 21:21:28 kWiT90ak 221/385


メイドエルフ「さすがに凄い汗ですね。新しいタオルお持ちします」

エルフ「ええ、お願い」

「……」スー スー

エルフ「本当に……よかっ……た……」




メイドエルフ「お嬢様、タオルをお持ちしま……あら」

「……」スー スー

エルフ「……」スー スー

メイドエルフ「ふふ。毛布も持ってこなくちゃ。それにしても」

エルフ「うーん……」ギュッ

メイドエルフ「しっかり手を握っちゃって。本当にベタ惚れなのね」




続き
侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」【後編】


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