卒業二ヶ月前
唯「ほえ~」
梓「この人は相変わらず……もう」
元スレ
唯「じゃあ……またね!」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1262947982/
梓「ちゃんと練習しましょうよ!」
律「まぁまぁ、暖をとってからな」
梓「そんなこと言って昨日もサボったじゃないですか!」
澪「とはいえ文化祭も終わったしな……」
紬「ライブが無いと……モチベーションが、ねぇ?」
梓「澪先輩にムギ先輩まで!」
唯「でも卒業ライブが出来ないのは残念だねぇ」
澪「私達だけが卒業するわけじゃないからな。式の独占は良くない」
梓(そう……このメンバーで出来るのは、あと僅かなのに)
律「ぶっちゃけ私らがどうこうより、来年を心配しろよ梓」
梓「え?」
律「え? じゃなくてさ、来年は梓一人になるんだから放って置いたら廃部だぞ?」
梓「あ……」
澪「忘れてたのか……」
唯「も~あずにゃんたら、うっかりにゃんなんだから~」
梓「そ、そんな事はどうでもいいんです! 今は練習しないのが問題です!」
紬「落ち着いて梓ちゃん、ほら美味しいケーキよ」
梓「ケーキ……」
梓「って! 誤魔化されませんよ! 練習、練習です!」
唯「ぷー」
♪♪♪
唯「ふわふわた~いむ♪」
梓(唯先輩……信じられないくらい上達してる)
梓(他の皆さんだって……)
梓(後一年……後一年だけで良い、放課後ティータイムの演奏を続けたい!)
澪「……梓!」
梓「ふぇ!?」
澪「何をボケっとしてるんだ?」
律「言い出しっぺがだらけてどうすんだよ」
梓「す、すいません!」
紬「うふふ、そういう時もあるわよ。じゃ、もう一回最初からね」
律「あいよー、1,2,3,4!」
唯「疲れた~もうだめ~」
律「右に同じ~」
澪「ったく!」
紬「でも確かにそろそろ下校時刻ね」
梓「あ、だったらもう一曲だけ……」
律「悪い、帰って勉強しないと」
梓「律先輩が!?」
律「酷い反応だなおい」
澪「ギリギリまで進路決めないから今更焦るんだよ」
律「大学に一人じゃ不安だって泣いてた奴は誰だっけ?」
澪「う、うるさいな!」
紬「うふふ」
梓「じゃ、じゃあ唯先輩……」
唯「ん? 良いよ」
梓「はい!」
帰り道!
梓「すいません、付き合わせたみたいで」
唯「良いよ~どうせ帰っても暇だし」
紬「じゃあ私はこっちなので」
唯「ばいば~い」
梓「お疲れ様です」
テクテク
梓「唯先輩は来年からどうするんですか?」
唯「華の女子大生! それも芸術大学だよ!」
梓(一芸入試の幅が広がったとはいえ、ギター一本で大学合格って凄い)
梓「やっぱり大学でバンド組むんですか?」
唯「多分ね。というか授業に組み込まれてる……って憂が言ってたよ」
梓「じゃあ……先輩達が卒業したら」
唯「放課後ティータイムは解散かな?」
梓「!」
梓「……よくそんなにあっさりと言えますね」
唯「え、だって……」
梓「先輩は嫌じゃないんですか!? 寂しくないんですか!?」
唯「嫌だし寂しいけど……皆進学先はバラバラだし……しょうがないよ」
梓「そんな言い方……」
唯「それに一生会えないわけじゃないし、りっちゃんも言ってたけどあずにゃんは来年の事を……」
梓「い、いらない!」
唯「あずにゃん!?」
梓「せ、先輩達と出来ないなら……来年なんて……後輩も軽音部もいらないです!」
唯「あずにゃん……」
梓「……帰ります」ダッ
唯「……」
唯「ただいま~」
憂「おかえり、ご飯出来てるよ」
唯「うん。ありがとう」
憂(お姉ちゃん元気無い?)
唯「いただきまーす」
憂「召し上がれ」
唯「パクパクモグモグ」
憂「お姉ちゃん、何かあった?」
唯「え、なんで?」
憂「なんとなく」
唯「憂には隠し事は出来ないね」
憂「ふふ」
唯「何かあった……って言うか」
唯「かくかくしかじか」
憂「梓ちゃんが……」
唯「私のせいで怒らせちゃって」
憂「ううん、お姉ちゃんのせいじゃないよ」
憂「多分、梓ちゃんが一番寂しいんだよ」
憂「お姉ちゃん達が卒業しても梓ちゃんだけは軽音部に残る」
憂「寂しくて寂しくて……どうしたら良いかわかんないんじゃないかな」
唯「でも……」
憂「うん。お姉ちゃん達が残るわけにもいかない」
唯「私もどうしたら良いかわかんないよ」
憂「う~ん……こればっかりは本人の問題だから……私より軽音部の皆さんに相談したら?」
唯「そうする」
唯の部屋!
唯「さっそくりっちゃんに電話だ!」
ピリリリリ
律『おう唯か、どうした?』
唯「今電話して大丈夫?」
律『あぁ丁度休憩中だから大丈夫だよ。巨乳縞パンスパルタ家庭教師もいないしな』
唯「澪ちゃんに言いつけちゃお」
律『おい止めろ! ……って何の用だったっけ?』
唯「そうそう、実はあずにゃんが……」
律『あー、大体わかった。どうせ先輩卒業しないでー、とかだろ?』
唯「す、凄いねりっちゃん……」
律『伊達に部長じゃないぞ!』
律『まぁ私らも可愛がり過ぎたからな』
唯「あずにゃんって温かいよね~つい抱き締めたくなるよね」
律『そういう意味じゃなくて……』
唯「?」
律『とにかく梓もそろそろ独り立ちさせなきゃな』
唯「どういう事?」
律『澪とムギは多分大丈夫として……唯、お前が一番の問題だ』
唯「え、え?」
律『お前が先輩として本当に梓が大事なら……梓に教えなきゃいけない事がある』
翌日!
梓「今日も張り切って練習しましょう!」
唯「おー!」
律「しゃー!」
澪「妙に張り切ってるな?」
唯「練習の後はケーキだよ!」
紬「ちゃんと持ってきてるわよ」
律「さすがムギだ!」
梓「結局ティータイムはありですか……」
澪「ま、順番が入れ替わっただけ良いんじゃないか」
梓「そうですね、先輩達もようやく……」
練習後
律「あー、この一杯の為に生きてるな」グビグビ
澪「どんだけ親父臭いんだお前」
紬「でも美味しそうに飲んでくれると淹れたかいがあるわ」
梓「あ、あの皆さん!」
唯「どうしたの?」
梓「卒業ライブ……やりませんか? そんな大々的じゃなくても……どこかのライブハウスで」
澪「ムギの家の系列にあったっけ?」
紬「ええ、場所は問題無いけど」
律「時間がなぁ」
梓「なんとかなりますって!」
澪「新曲は無理だろうけど、今ある曲なら……」
梓「じゅ、十分ですよ! 是非やりましょう!」
紬「でもりっちゃんの勉強が……」
律「正直キツいけどさ、最後だしたまには死ぬ気でやってみるか」
律「なんだかんだで、これでサヨナラは味気ないしな」
唯「じゃ、卒業ライブ決定だね!」
紬「場所は私に任せて」
澪「呼ぶのも先生とか和とか憂ちゃんに絞れば……なんとかなるか」
紬「解散ライブ……ね」
澪「そうか……そうだな」
唯「悔いの無いようにしなきゃね!」フンス
梓「そうですよ……最後……なんですから」
澪「ライブは良いけど、滑って最悪の空気とか作るなよ」
律「それは家庭教師の腕にかかってますねぇ、せ・ん・せ」ハァト
澪「はぁ……ダメな気がしてきた」
紬「りっちゃんなら大丈夫よ」
律「その通り!」
梓「ふふ……そうだ、親に買い物頼まれてたので先に帰ります!」
唯「まったねー」
梓「はい」
タタタ
紬「嬉しそうだったわね」
澪「よっぽどライブやりたかったんだろうな」
律「それだけじゃないだろうけど」
澪「わかってるよ」
紬「梓ちゃん……来年大丈夫かしら」
澪「先輩しかいない状況だったからな……」
律「いきなり大人になれって言われてるようなもんだからな」
律「私らが居なくなるのが不安なんだろ」
唯「あずにゃん可哀想だよ……」
律「だから最後に思いっきり甘えさせてやろうぜ」
澪「要は最高の演奏で梓に思い出を残してやるんだろ?」
紬「それが私達に出来る梓ちゃんへのプレゼント」
律「そういう事」
唯「でもその後は……」
律「言うな唯、今は卒業ライブに備えとこう」
唯「うん」
紬「何だかりっちゃん頼もしいわ」
澪「最後にやっと部長らしくなってきたか」
律「どういう意味だコノヤロー」
唯「あ、一個だけ提案があるんだけど……」ゴニョゴニョ
澪「なるほど」
紬「良いわね」
律「採用だ、唯隊員」
澪「でも時間無いぞ、大丈夫か律?」
律「言ったろ、死ぬ気でやってやるよ」
唯「りっちゃんかっこいいー!」
律「武勇伝武勇伝」
紬「デデンデンデデン♪」
澪「……古い」
一週間後
律「練習だー!」
唯「おー!」
澪「勉強するぞ!」
律「よっしゃー!」
紬「休憩も大事よ」
澪「もちろん!」
唯「ムギちゃん合わせよー!」
紬「ドンと来いです!」
梓「かつてこれほど活気ある部活があっただろうか……」
~~~~~~~~~~~~~
二年生の教室
梓「最近先輩達凄くやる気でね」
憂「うんうん」
梓「律先輩なんか勉強と両立してるし……」
梓「澪先輩だって律先輩の勉強見ながら自己練欠かさないし」
梓「ムギ先輩も皆に気を配りながら大変だと思う」
梓「唯先輩も昼休みに練習してるんだよ!」
憂「お姉ちゃん、家でもずっと練習してるよ」
梓「そうなんだ……ライブ、楽しみだなぁ」
憂「ところで新入生は入りそうなの?」
梓「……わかんない」
憂「力になれることがあったら何でも言ってね」
梓「うん」
梓「憂は寂しくないの? 唯先輩、一人暮らしするんでしょ?」
憂「寂しいのもあるけど、心配が上回るかな」
梓「なるほど」
憂「でも良い機会だし、お姉ちゃんを応援したいのが一番かな」
梓「そうなんだ……憂は強いね」
憂「あはは、実際に引越しの日になったら泣きそうだけど」
梓「あー、二人とも号泣しそう」
憂「そうなんだよねぇ、でも泣いたらお姉ちゃんが気持ち良く行けないだろうし、頑張る!」フンス
梓(良い妹だ……)
梓(先輩達は卒業して……)
梓(憂も唯先輩と離れる事を受け入れてる……)
梓(私も……しっかりしなきゃなぁ)
某大学入試日
律「……ゴクリ」
澪「が、ががががガラにも無く緊張してのか?」
紬「澪ちゃんの方が緊張してない?」
唯「私は入試なんて全然緊張しなかったよ」
和「自分の番まで寝てたのは前代未聞だったらしいわね」
律「……ま、ここまで来たらなるようになるさ」
澪「そそそそそうだぞ! まったく、皆に見送りまでさせて」
律(頼んだのお前だろ)
唯「りっちゃん以外は進路決まって自由登校だもんねー」
和「あんたは卒業自体を心配しなさい」
唯「う、痛い所を……」
澪「お守り持ったか? 鉛筆は? お腹痛くないか?」
律「心配し過ぎだっての」
紬「そろそろ教室入らないと、時間よ」
律「うっしゃー! 律様の出陣だ! 行ってくるぜ皆の衆!」
唯「頑張れー!」
和「あれだけ勉強してたら大丈夫でしょ」
紬「いつも通りにね、平常心平常心」
律「おう!」
澪「……」
唯和紬「ジー」
澪「な、なんだよ……」
唯「わかってるくせにー」ツンツン
和「素直になりなさい」
紬「わくわく」
澪「…………律!」
律「うん?」
澪「あの…その……あれだ……」
律「しーんぱいすんなって! 私が澪を一人にするわけ無いだろ!」グッ
澪「な、何言ってんだバカ律!」
紬「あらあらまぁまぁ」
和「妬けるわねー」
律「行って来るよ、澪。勉強見てくれてありがとな」
澪「そういうのは合格してから言え。ちゃちゃっと決めて来い」
律「うん!」
唯「りっちゃんの背中……カッコいい~! 私が女なら惚れちゃうよぉ」
和「唯、言ってる事無茶苦茶よ」
紬「でも確かにりっちゃんがあの背中で引っ張ってくれてなければ……」
澪「今の私達は無し、か」
部室
梓「律先輩に皆ついて行っちゃって……」
梓「多分そのまま帰るだろうな」
梓「……ソロパートの練習でもしよう」
ガチャ
さわ子「あれ、梓ちゃん一人?」
梓「今日は律先輩の入試ですから」
さわ子「そういえばそうだったわね」
梓「……担任ですよね?」
さわ子「まぁまぁ、細かい事は良いから、梓ちゃん一人なら丁度良かったわ」
梓「?」
さわ子「ズバリ来年どうするか、考えてる?」
梓「来年、ですか?」
さわ子「言うまでも無いけど、このままじゃ廃部よ? 梓ちゃんがそれで良いなら別だけど」
梓「それは……嫌です」
さわ子「でしょ? ある程度猶予はあるけど、対策を考えなきゃ」
梓「でも……」
さわ子「一人じゃどうしたら良いかわかんない?」
梓「……」コクリ
さわ子「それだけじゃなさそうね」
梓「……」
さわ子「全部話しなさい、たまには顧問らしい事しないとね。未来の部長の為に」
梓「私だって……軽音部を残したいです」
さわ子「うん」
梓「律先輩達が頑張って廃部寸前の軽音部を立て直したのも聞きましたし」
さわ子「そんな事もあったわねー」
梓「ムギ先輩の淹れてくれるお茶はいつも美味しくて」
梓「澪先輩は厳しいけど優しくて」
梓「律先輩がいるから皆元気で」
梓「唯先輩は……普段はあんななのに、ライブだと誰より凄くて」
梓「先輩達といると……楽しくて……」
梓「ずっとこんな時間が続けば良いなって……」
梓「でも……そんなの無理だって解ってます」
梓「頭では解ってるんですけど、納得できなくて」
梓「泣きそうです」
さわ子「それだけ?」
梓「え?」
さわ子「唯ちゃん達が卒業するのが寂しい……それが、来年に向けて積極的になれない理由?」
さわ子「私にはそうは見えないけど」
梓「……お見通しですか」
さわ子「これでもあなた達より人生経験豊富なのよ」
梓「正直に言いますが」
さわ子「どうぞ」
梓「新しい人に入って来て欲しくない……そんな気持ちもあります」
梓「新しい人……後輩が入ってきたら……」
梓「先輩達と過ごしたこの部屋や思い出が、塗り潰されていく。そんな気がするんです」
梓「怖いんです。そうやって放課後ティータイムが風化していくのが、どうしようもなく怖いんです」
梓「でも軽音部は潰したくない……それには後輩を入れるしかない」
梓「でもずっと放課後ティータイムでいたい」
梓「バカみたいですよね、仕方ない事なのに」
さわ子「梓ちゃん……」
梓「悩んでる間にどんどん時間は過ぎてくし……もうどうしたら良いかわかりません」
さわ子「そうね」
梓「……何か言ってくれないんですか?」
さわ子「言って欲しいの?」
梓「それもわかんないです」
さわ子「今の頭の中グシャグシャの梓ちゃんに何を言っても無駄よ」
さわ子「そもそも私は説教しに来たわけでもなし。話してスッキリするなら良しってとこね」
さわ子「酷な様だけど、自分で答えを出すしかない無いわね」
梓「……」
さわ子「ま、一つだけ言うなら、それだけ梓ちゃんが思ってくれてるのを皆悪い気はしないはずよ」
梓「先生……」
さわ子(ちょ! なんという上目遣い!)
さわ子「あ~、特別サービスで泣くなら胸を貸すくらいは……」
梓「……!」ガバッ
さわ子「うわ!」
梓「……グス」
さわ子(これは唯ちゃんがいつも抱き着くのもわかるわね)ナデナデ
さわ子(先輩が居なくなる事と、一人になる事、色んな不安で潰れそうなのね)
さわ子(全く、真面目な子の方が返って手が掛かるんだから)
梓「グス……ヒック……先輩……行っちゃ……やだぁ……」
さわ子「よしよし」ナデナデ
ガチャ
唯「あー! さわちゃんがあずにゃんをいじめてる!」
澪「先生、最低です」
さわ子「どうしてこうなった」
さわ子「いじめて無いわよ。ちょっと相談に乗ってただけ」
唯「……」ジー
梓「ほ、本当です!」
澪「相談って?」
さわ子「内容をバラしたら意味無いでしょ。あんたら悪口とかじゃないから安心しなさい」
梓「というか、先輩達どうして?」
紬「少しでも練習したかったから、ね」
律「ドラム……私のドラムはどこ?」ヨロヨロ
さわ子「このりっちゃんに似てる生霊は何?」
紬「入試で全エネルギーを使い果たしたらしくて……」
律「ははははは! もう私を妨げる物は何も無い!」ダダダダダダ
澪「走り過ぎだバカ!」
唯「さっきはあんなにカッコ良かったのに」
紬「緊張の糸が切れたのね」
梓「これじゃ逆に練習にならないですよ」
さわ子「梓ちゃんの言う通りよ、今日は休憩にしなさい」
紬「じゃ、紅茶でも」
唯「わーい!」
律「いーやーだー! たーたーかーせーろー!」
澪「はいはい、回復したらな」
唯「りっちゃんはこんらんしている!」
梓(なんて珍しい光景)
唯「入試の後はケーキに限りますな!」モグモグ
梓「先輩は受けてないでしょ」
律「…………zzz」
さわ子「死んでるわね」
紬「よっぽど疲れたんでしょうね」
澪「……頑張ってたからな」ボソ
さわ子「寝かしといてあげましょ」
唯「うへへへ、りっちゃん隙だらけ~」
澪「おいそのマジックは……」
唯「肉……と」
梓「しーらない」
唯「キン律マ~ン~ゴーファイト♪」
さわ子「それにしても、感慨深いわね。ティータイムとももう後一ヶ月でサヨナラかぁ」
澪「そこは上辺だけでも私達との別れを惜しんで下さいよ」
さわ子「じょ、冗談よ」
澪「怪しい」
さわ子「軽音部としてもそうだけど、あなた達は私が担任として最初に送り出す生徒だもの」
さわ子「思うところはあるわよ」
梓(先生……)
唯「さわちゃんと会えなくなるの寂しい」
さわ子「そう言って貰えると、教師冥利に尽きるわね」
唯「だから遅刻を帳消しに……」
さわ子「却下」
紬「ふふふ」
澪「もうこんな時間か。律、起きろ、帰るぞ」
律「ん~……あと五分……」
澪「帰っていくらでも寝ろ」
唯「寝てる人を見てたら私もなんだか眠く……」ウトウト
紬「あらあら」
さわ子「もう、しっかりしなさい。梓ちゃんに情けない姿見せていく気?」
梓「いえ、もう見慣れてます」
律「ふぁ……ちょっと顔洗ってくる」
澪「あ」
唯「私は一足早く、失敬!」キリッ
なんじゃこりゃああああっ!!
唯「あわわわ、早く逃げなきゃ!」
帰り道!
唯「うぅ……額に『うんたん♪』って書かれた……」
梓「自業自得です」
律「ったく! 鏡見て一気に目が覚めたし!」
紬「似合ってたわよ、りっちゃん」
律「それ褒めてないから」
澪「後一ヶ月で卒業する高校生のやる事か?」
唯「う~、そんな事言われても」
律「実感あるような無いような」
紬「きっと、学校に来なくなって初めて実感するのね」
梓「……」
唯「……」
澪「……」
紬「……」
律「だー! 止めろ止めろ! 辛気臭い空気は!」
唯「うおぅ! りっちゃんが暴れだした!」
律「せっかく地獄の入試も終わったんだ、記念に何か食いに行こう」
紬「良いわね」
唯「さんせー!」
梓「あ、私はいいですお小遣いが……」
澪「たまには先輩の顔を立てろ」
律「そーそー、澪がおごるってさ」
澪「言い出しっぺが出すべきだろ」
律「なんだと?」
紬「まぁまぁ、喧嘩しないで」
唯「あずにゃんも行こう!」
梓「は、はい」
ファミレス
唯「お腹空いたー」
律「食うぞー食うぞー」
紬「食生活まで制限してたの?」
澪「単にリミッターがぶっ壊れてるんだろ」
梓「入試ってそんなに辛いんですね」
澪「こんな風にならないように、梓はちゃんと勉強しとくと良い」
梓「そうします」
律「肉……肉……肉をくれ……」
紬「なんだかりっちゃん怖い……」
澪「一人だけテンション高過ぎて周りがついて来れない現象」
唯「お肉……お肉……」
澪「つられてるし……」
店員「お待たせしました、ステーキセットです」
律「待ってましたー!」
唯「ましたー!」
唯律「いただきます!!」
澪「あーあー、ガツガツ食べるから」
律「ふも?」
澪「ソースがついてるぞ」
律「もごごふがふが」
澪「食ってから喋れ」
唯「はい、あずにゃん野菜食べて大きくなってね」ヒョイヒョイ
梓「いらないですよ! 自分で食べて下さい!」
紬「好き嫌いはダメよ」
唯「はーい」ショボン
律「食った……もう死んでも良い……」
澪「合否見てからにしろ」
紬「でもこれで卒業ライブに集中出来るわね」
律「最後くらいバシっと決めなきゃな」
澪「当たり前だろ」
律「パンツ出すなよ」
澪「な!?」
紬「唯ちゃんも、体調整えてね」
唯「心配ご無用! 憂に任しておけば大丈夫!」
律「そんなんで一人暮らし出来るのか?」
唯「う、憂がいれば……」
律「それは二人暮らしだ」
梓「……そろそろ行きますか?」
律「まぁまぁ、座れ梓」
梓「?」
紬「……」
澪「……」
唯「りっちゃん……」
律「良いんだよ、こういう場の方が言い易い」
梓「なんですか?」
律「そう身構えるなって……」
梓「聞きませんよ」
律「え?」
梓「大体どんな話かは見当がつきます……来年の事ですよね?」
律「あーまー、それもある」
梓「聞きたくないです!」バン!
唯「あ、あずにゃん!」
梓「そんな話……嫌です!」
律「嫌ですってお前」
梓「嫌な物は嫌です!」
タタタ
澪「梓!」
紬「行っちゃった……」
律「唯、行け」
唯「え?」
律「あいつはお前に憧れて入ったんだ。お前にはあいつを独り立ちさせる義務がある!」
唯「そんな……」
律「行け!」
唯「……!」タタタ
律「たくー、梓のガキんちょめ」
紬「りっちゃんも大変ね」
律「いーよいーよ、普段だらけてるんだから、こういう場では絞めとかないと」
澪「普段からしっかりしとけよ」
律「いつもカリカリしてる誰かさんよりマシですー」
澪「おい、それは誰の事だ」
紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ」
~~~~~~~~~~~~~
唯「あずにゃん!」
梓「……先輩」
唯「はぁ……はぁ……あずにゃん、速い……よ、疲れちゃった」
梓「ごめんなさい」
唯「ん、許そう」
梓「せっかく楽しい食事だったのに……私のせいで」
唯「皆気にしてないよ~」
梓「私、ダメなんです」
唯「何が?」
梓「先輩達が卒業しちゃうって思うと、頭に血が昇って……わけがわかんなくなるんです」
唯「……」
梓「ねぇ先輩」
唯「なに?」
梓「卒業ライブ、止めませんか?」
唯「え? あずにゃん、何言って……」
梓「卒業ライブさえしなければ……そう、卒業しなければずっと放課後ティータイムのまま」
梓「そうしましょうよ先輩。先輩だって、まだまだ皆でやりたいでしょ?」
唯「それは……そうだけど」
梓「ね? だったら止めましょうよ。卒業も全部無かった事にして」
梓「そしたら……そしたら来年も……」
唯「あずにゃん」
梓「……」ビク!
唯「ダメだよ……そんなの」
梓「わかってくれないんですか?」
唯「解ってるから言うの」
唯「あずにゃんもさ、りっちゃんがどれだけ頑張って来たか知ってるよね」
梓「はい」
唯「澪ちゃんやムギちゃんだって、りっちゃんより早く合格したけど、すっごい頑張ってた」
梓「はい」
唯「卒業しなかったら……皆の頑張りが、全部無くなっちゃうんだよ」
梓「はい」
唯「皆、先に進まなきゃいけないんだよ」
梓「……はい」ポロポロ
唯「なーんて、偉そうな事言っちゃったけど……」
ギュ
唯「ほんとはね、皆寂しいんだと思う」
梓「ぜんぱ……ヒック……い」
唯「でもね、あずにゃんがいるから……」
唯「あずにゃんがいてくれるから、安心して卒業出来るんだよ」
唯「あずにゃんはしっかり者だし、ギターも上手だし」
唯「軽音部は任せた! って感じかな」
唯「だから……笑って見送ってくれたら嬉しいな」ギュ
梓「グス……ヒグ……はい」
唯「今は、一杯泣いて良いから。卒業式までに涙は枯らしといてね」
梓「……」コクリ
律「さーて、様子を見に来たはいいものの」
澪「出るに出れないな」
紬(録画は……野暮ね)
律「唯は泣くと思ったんだけどな」
紬「先輩らしくなっちゃったわね」
澪「まぁな」
律「なぁ、正直言って良い?」
澪「ダメだ」
律「おい」
紬「一回言ったら、止まらないわよ多分」
律「ちぇ、お見通しかよ」
澪「全員思ってるだろうからな」
律「あーもう! 帰る!」
紬「え?」
律「愚痴吐いてもしょうがないし、帰って練習する」
澪「私もそうするかな」
紬「そうね……最後に後悔を残すのは、最低の先輩だものね」
卒業式一週間前
律「……」ドキドキ
澪「いよいよ合格発表か」
唯「最近はサイトで見れるんだね」
和「ちょっと味気無いけどね」
紬「確か更新は正午ピッタリのはずだけど」
律「重くて中々繋がらない」
和「皆見てるでしょうからね」
唯「こっちまで緊張するよ」
律「お、繋がった」
澪「ど、どうなんだ!?」
律「こいつは……」
唯「え、どうなの?」
律「……」
和「律?」
律「……」プルプル
紬「りっちゃん?」
律「……み、お」
澪「な、なんだどうした!? 早く結果教えろよ!!」
律「ふぇ」
澪「!?」
律「ふぇ~ん! 澪~!」ガバッ
澪「わわわ! なんだよバカ!」
律「ふぇ……う、受かって……グス……あ、ありがと澪……ヒグッ」
澪「な、泣くなよバカ! こ、こっちまで……バカ! ああもうバカ!」
唯「よがっだ~りっじゃんよがっだよ~」ボロボロ
和「なんで唯まで泣いてるのよ」
紬「でも本当に良かったわね澪ちゃん」
澪「べ、別に私は……」
紬「……」
澪「ぬ、うぅ……い、一回しか言わないぞ」
律「はぇ?」
澪「合格おめでとう……っていうか、ありがとう」ボソボソ
律「びお~!」ギュウ
澪「だー!」
和「めでたしめでたし」
部室!
梓「受かったんですか! おめでとうございます!」
律「ま、天才美少女りっちゃんにかかれば朝飯前だな」
唯「さっきまで澪ちゃんに泣きついてたくせに」
律「やかましい!」ゴン!
唯「暴力反対!」
紬「これで本当に……」
澪「あぁ、練習に集中出来る」
律「つってもあと一週間だけどな」
さわ子「その一週間、一秒も無駄にしない事ね」
唯「あ、さわちゃんいたんだ」
さわ子「あんたらは顧問をなんだと思ってるのよ!」ギリギリ
唯「ぎ、ギブ……」
澪(おぉ、あれがロメロスペシャル)
紬「あと一週間で、ここに来る事も無くなるのね」
澪「卒業生として来ても、感覚は違うんだろうな」
さわ子「教師として来るともっと違うわよ」
律「そして学校に地縛霊がまた一人……」
さわ子「あん?」ギロリ
律「いやーさわちゃんの桜高愛は尊敬するなー」
唯「……」
梓「先輩?」
唯「色んな事があったな……って」
唯「皆……あのね……」
律「待て唯」
唯「?」
律「思い出話とかの類はさ、まだ取っとこうぜ。今は練習だ」
♪♪♪
さわ子「唯ちゃん、もう少し歌に集中」
唯「うん!」
さわ子「りっちゃん、早いのは良いけど周りのペース見て」
律「うっす!」
さわ子「澪ちゃんは逆にもっと前に出て」
澪「はい!」
さわ子「ムギちゃん、全員のフォローよろしく」
紬「はい!」
さわ子「梓ちゃんは言う事無し! 好き放題弾きなさい!」
梓「はいです!」
♪♪♪
さわ子「はい休憩休憩! しっかり練習するのとオーバーワークは違うんだから」
律「ふぃ~」
唯「血糖値が……足り……ない」ガク
梓「先輩!」
紬「す、すぐにお茶菓子を!」
澪「今日はずいぶん先生も張り切ってましたね?」
さわ子「ん? そう見えたなら、あなた達がそれだけやる気だったって事よ」
律「そんなもんかね」
さわ子「そうよ」
唯「えへへ、さわちゃんにも随分お世話になったね」
さわ子「誠意は言葉ではなく金額」
澪(元中日の福留)
帰り道!
和「あ、唯」
唯「和ちゃん!」
和「軽音部の皆は?」
唯「そこで別れちゃった」
和「あー、こっちの方角で帰るのは私達くらいだもんね」
唯「うん」
和「久しぶりに、一緒に帰る?」
唯「やったー!」
和「最近練習頑張ってるみたいね」
唯「うん! 和ちゃんも卒業ライブ来てね!」
和「ええ、招待してもうわ」
唯「えへー」
和「……」
和「唯、変わったよね」
唯「な、何、急に?」
和「しっかりしたというか……ちゃんとしてる」
唯「酷いなぁ、元がダメな子みたいじゃん」ブーブー
和「ふふふ、そうでしょ」
唯「ぶー」
和「軽音部に入って、本当に良かったのね」
唯「うん!」
唯「でもね」
和「?」
唯「和ちゃんが『何でも良いから打ち込める事を探せ』って言ってくれたからだよ」
唯「だから私を変えてくれたとしたら、和ちゃんなんだよ」
和「唯……」
唯「どうもありがとうございました!」ペコリ
和「そんな……頑張ったのは唯自身でしょ。私は何もしてないわよ」
唯「良いんだよ! 私が勝手に感謝してるんだから!」
和「じゃあ……その気持ち、受け取っておくわね」
唯「えへへ」
和「唯」
唯「?」
和「もう少しだけ……頑張ってね」
唯「バレてる?」
和「何年付き合いがあると思ってるのよ」
唯「えへへ、その時はお世話になります」
和「うん、いつでもおいで」
唯「じゃ……また明日!」
和「遅刻するんじゃないわよ」
唯「あいあいさー」
卒業三日前
律「いよいよ練習も最後かー」
澪「明日からは校内立ち入り禁止だからな」
梓「……」
紬「後は卒業式を待つだけね」
唯「あーあー、あっという間だったなー」
律「全くだ」
梓「あの、今日は練習止めにしませんか?」
澪「おいおい、梓が珍しいな」
梓「お願いです! 最後の我が侭です! 今日は……」
律「……ムギ」
紬「えぇ、お茶を淹れるわね。田井中部長」
律「よろしい」
唯「褒めてつかわすー」
唯「……」
澪「……」
律「……」
紬「……」
梓「……」
律「あの……誰か、喋りませんか?」
唯「りっちゃん隊員どうぞ」
律「こういう湿っぽい空気は嫌なんだよー」
澪「まぁ時期的にナーバスにもなるだろ」
紬「こうして皆でお茶を飲むのも」
梓「最後と思うと」
澪「不思議だよな、たった一日経つだけで、もう私達は桜高の……軽音部員じゃない」
律「気にし過ぎだっての」
唯「りっちゃん……」
律「いや私だってへこむよ? けどさ」
律「グダグダ言っても仕方ないし、後悔するような真似はしてないからな」
律「可愛くて頼れる後輩もいる事だし、私らはもう巣立たなきゃいけない」
律「だったら……スカッと出て行きたいだけさ」
澪「律……」
律「でもまぁ、皆に一言だけ」
ダン!
律「今からこの人類の至宝、生きる伝説田井中律がお前達への感謝の言葉を送る! 耳の穴ほじってよく聞け!」
律「ムギ!」
紬「は、はい!」
律「いつもいつも美味しいお茶とお菓子、絶えない笑顔、細やかな気配り……」
律「あと別荘とか色々……全部ひっくるめて感謝する!」
紬「りっちゃん」
律「言っとくけどな! 私はムギがムギだから感謝してんだ! そこを間違えんなよ!」
紬「うん、ありがとう……」
律「唯!」
唯「!」
律「思えばお前が入って、ようやく軽音部が形になったんだ」
律「感謝してもしきれないよ」
唯「ど、どういたしまして」
律「ま、その分だけ足も引っ張ってくれたけどな」
唯「あう……」
律「でもな、唯がいたから楽しかったんだ」
律「ありがとな、お前が……軽音部のエースだったよ」
唯「……」
律「泣くなアホ」
唯「りっ……ちゃ……」
律「ったく、最後まで世話の焼ける奴」ナデナデ
律「澪!」
澪「お、おう」
律「色々と振り回して悪かったな」
澪「ほ、本当だぞバカ律!」
律「あはは、大学でもよろしく頼むよ」
澪「唯よりお前のが世話焼けるよ」
律「そんな私を、支えてくれてありがとう」
澪「な……急にそういう事を言うな!」
律「こんな時じゃないと照れくさいだろ」
澪「まぁ……」
律「これまでも、これからも、澪は最高の親友だよ」
澪「……」ブワッ
律「うわ! 泣くなよお前まで!」
唯「りっちゃーん!」
澪「律ー!」
律「あーよしよし……梓!」
梓「はい」
律「お前には細かい事は言わない……もちろん、唯一の後輩だ、感謝はしてる」
律「でもそれ以上に言うべき事がある、聞いてくれるか?」
梓「もうファミレスの時みたいな失態は見せません。受け止めます」
律「それでこそ私達の後輩だ」
律「じゃ……」
律「梓! 後は任せた! お前がやるんだ! いいな!?」
梓「はい! 律先輩、今までありがとうございました!」
律「最後に」
律「ドアの前で出るタイミングを計ってる人」
さわ子「ギクリ」
律「こんな好き放題な私らの面倒見てくれて、ありがとうございました」ペコ
律「ほら皆も」
唯「さわちゃん」
紬「先生」
澪「先生……」
唯律澪紬「ありがとうございました!」
さわ子「……」プルプル
梓「入らないんですか?」
さわ子「ごめん……ちょっと……三分だけちょうだい……グス」
さわ子「も~卒業式まで泣かないつもりだったのに」
律「へへ、さわちゃんもやっぱり寂しい?」
さわ子「当たり前でしょ、なんだかんだで愛着あるもの、あなた達には」
唯「さわちゃん……」
さわ子「音楽室は好き放題に使って、練習も全然しなくて、お茶ばっかりしてて」
さわ子「でも……心底楽しそうなあなた達の事、大好きよ」
律「ちょ、ちょっと待って! さわちゃんがそういう事言うの不意打ちだろ!」
さわ子「りっちゃん」
律「は、はい」
さわ子「三年間部長……お疲れ様」
さわ子「あなたがいなきゃ……あなたじゃなかったら、こんなに楽しい部は無かったわ」
律「……」ブワッ
唯「そうだよ!」
紬「りっちゃん……あなたは最高の部長だったわ」
澪「ミスが多いのも含めてな」
梓「常にポジティブな所は尊敬します」
律「お、お前ら……」ボロボロ
唯「りっちゃんに……皆に会えて良かった……」
紬「うん」
澪「ああ」
梓「はい」
律「ちくしょー! 皆大好きだー!」
平沢家
唯「でね、結局皆泣いちゃって……」
唯「皆が皆、お互いの事褒め合って……なんか照れるよね」
憂「ううん、素敵だと思う」
唯「でもこれで残すはライブだけだからね! もう一年分位泣いたから、泣かずにやるよ!」フンス
憂「無理しないでね」
唯「だーいじょうぶ! 最後にカッコいい姿を見せて行くんだもん!」
憂「梓ちゃんに?」
唯「あずにゃんにも、憂にも皆にも」
唯「皆に……私の軽音の全部を見てもらいたい」
憂「お姉ちゃん……」
唯「なんちゃって……ちょっとカッコ付け過ぎた」
憂(そうだね……お姉ちゃんは、大丈夫だよね)
憂(だって私の……私のお姉ちゃんなんだから)
前日!
律「じゃ、最後の音合わせいくぞー!」
唯「よさこい!」
澪「走るなよ」
紬「まぁ、走り気味位が丁度良いかも」
律「1、2、3、4!」
卒業式!
唯「う、うぉ……緊張してお腹痛い」
澪「むしろ唯はよく遅刻しなかったな」
律「どうせ憂ちゃんに起こして貰ったんだろ?」
唯「む! 今日はちゃんと自分で起きたよ!」
紬「あら、じゃあ雪がふるわね」
唯「ムギちゃん酷い!」
校長「卒業生代表、眞鍋和」
和「はい!」
唯「和ちゃんカッコ良い~!」
律「いよっ! 日本一!」
クスクスクス
和(最後まであの二人は……もう)
教室
さわ子「え~と、皆さんと過ごした時間には個人差がありますが」
さわ子「共通して言える事があります」
さわ子「皆、私の大事な生徒であると同時に、今日をもって私の下から離れます」
さわ子「立派な大人になって下さい」
さわ子「以上!」
澪「先生」
和「これ、クラスからです」
さわ子「花束と寄せ書きって……ベタねぇ」
律「とか言って、必死で泣き顔隠してるな」
唯「ね」
生徒1「りっちゃん写真撮ろう!」
律「おうよ」
生徒2「澪、寄せ書き書いて」
澪「うん」
生徒3「和……その……第二ボタン、貰って良い?」
和「え?」
生徒4「紬~ムギュってして」
紬「はーい」ムギュ
生徒5「唯! プロになってジャニーズと合コンさせてね!」
唯「任されよ!」
~~~~~~~~~~~~~
和「じゃ、そろそろ……」
生徒1「あ、明後日はクラスのお別れ会だからね!」
律「ふっ、その前に野暮用があるのさ」
澪「素直に部の送別会と言え」
唯「ライブ! 送別会じゃなくて卒業ライブだよ!」
生徒1「え、ライブやるなら見たいな」
紬「ごめんなさい。あくまで部のラストだから……」
生徒1「そゆ事か。確かに外野はいらないね」
唯「ごめんね」
生徒1「ううん、気にしないで。思いっきり歌ってきて」
律「しゃー! 行くぞー!」
ライブハウス
梓「先輩!」
憂「お姉ちゃん!」
梓「待ちくたびれましたよ」
律「んじゃ、さっそく……」
澪「先生がまだだろ」
律「おうシット!」
紬「しばらく待ちましょう」
一時間後
律「おせぇー!」
澪「保護者との話とかあるだろうしな」
紬「生徒は私達だけじゃないし」
唯「さわちゃん、人気だもんね」
バーン!
さわ子「待たせたわね!」
唯「さわちゃん!」
律「いや、それは良いんだけどさ」
澪「皆……」
生徒1「えへへ」
クラスメイツ「来ちゃった」
和「あんた達、自分で思ってる以上に人気あるのよ。知らなかった?」
紬「でも今日は……」
梓「良いじゃないですか、皆が自然に来てくれた。だったらそれで」
紬「梓ちゃん……」
律「なんだか知らんが、りっちゃんわくわくして来たぞ!」
唯「私も!」
さわ子「さぁ、あなた達のラストライブを見せて!」
憂「お姉ちゃん、頑張れー!」
唯「いっくよー! ふわふわ時間!」
ワァァァァァ!
♪♪♪
生徒2「澪ー! 素敵ー!」
♪♪♪
生徒3「ムギちゃんがあんなに凛々しい顔するなんて……」
♪♪♪
生徒4「ギターの子、可愛い!」
♪♪♪
生徒5「律がカッコ良過ぎて頭が沸騰するよぉ」
♪♪♪
生徒1「唯ちゃん……凄い……
♪♪♪
♪♪♪
唯「次、私の恋はホッチキス!」
さわ子「皆……もう教える事は無いわ」
唯「ふでペン~ボールペン~!」
和「唯、律、澪、ムギ……最高のライブよ……」
唯「カレーのちライス!」
憂「お……ね……グス……ヒグッ……ちゃ」
唯「最後の一曲! Don't say “lazy”!!」
ワァァァァァァァ!
♪♪♪
唯「……ふぅ、これでお終い! 皆、ありがとー!」
生徒達「……ール」
唯「ほえ?」
憂「アンコール!」
和「アンコール!」
生徒達「アンコール! アンコール!」
唯(ど、どうしよ……)
梓(唯先輩!)
律(唯!)
澪(唯!)
紬(唯ちゃん!)
さわ子「いきなさい!」
唯「それじゃあ……とっておきの曲、行きます! 『翼をください!』」
ワイワイガヤガヤ
紬「……ふぅ」
澪「やりきった……」
梓「文句無し、今まででナンバーワンでした!」
律「完全燃焼ー!」
唯「今日で私達、放課後ティータイムは解散します」
唯「皆が来た時はビックリしたけど……すっごくすっごく嬉しかった!」
唯「皆のおかげで、最後に最高のライブが出来ました! ありがとう!」
ワァァァァァァァ!!!!
控え室
律「しゃー! うぉー! らー! 亜qwせdrftgyふじこlp!!」
梓「こ、興奮冷めやらぬって感じですね」
澪「無理ない」
紬「私もまだ鳥肌立ってるわ」
唯「えへへ、凄かったね私達」
梓「はい!」
さわ子「百点……いいえ、点数なんかおこがましいわね」
和「言葉では言えないものがあったわ」
憂「お姉ちゃん、お疲れ様」
唯「まだだよ」
憂「え?」
唯「最後にまだ、一つだけあるんだ」
澪「皆、帰ったか?」
紬「まだみたいだけど……とりあえず外には出てもらったわ」
律「うっし! 最後の仕事といきますか! 梓、来い!」
梓「え、え、なんですか?」
唯「良いから良いから、おいで」
ステージ
律「梓、客席に行け」
梓「は、はい」
澪「コホン……では」
紬「これから、桜高軽音部の部長引継ぎ式を行います」
梓「引継ぎって……」
律「ま、とにかく聞いてくれ」
澪「私達の自慢の後輩」
紬「梓ちゃんの為だけに作った曲よ」
梓「え……」
唯「その名も『放課後ティータイム』!」
梓「!」
律「これがお前にしてやれる、最後のプレゼントだ」
澪「しっかり聴けよ」
紬「それじゃ」
律「1,2,3,4!」
唯「『放課後ティータイム』! たった一回のライブだよ!!」
♪♪♪
さわ子「始まったわね」
憂「知ってたんですか?」
さわ子「まぁ、予想の範囲内ってくらいかしら」
和「でも、一番のプレゼントだと思います」
さわ子「そうね……後は梓ちゃんがどう受け取るかだけ」
憂「大丈夫ですよ! なんたって梓ちゃんはお姉ちゃんの後輩なんですから!」フンス
さわ子「な、なんか唯ちゃんに似てきたわね……」
♪♪♪
♪♪♪
唯(あずにゃん……いつかまた一緒に演奏しようね)
♪♪♪
律(生意気で生意気の生意気な後輩だったけど、お前なら全部託せる)
♪♪♪
澪(先輩らしい事、あんまりしてやれなくてごめんな)
♪♪♪
紬(梓ちゃん、次はあなたが……)
♪♪♪
梓「……」
唯「……これで」
律「放課後ティータイムは、本当に解散だ」
澪「この曲は梓にあげる」
紬「大事にしてね」
梓「……」
唯「あずにゃん?」
梓「わかりました」
梓「先輩達の気持ち、確かに受け取りました」
梓「いつの日か……私は私のバンドで、放課後ティータイムを越えてみせます」
律「うん」
澪「さすがだな」
紬「それで良いのよ」
唯「あずにゃん!」
唯「忘れないでね……『放課後ティータイム』の事」
梓「忘れませんよ」
梓「忘れないけど……もう頼りません甘えません」
梓「だから……やっと言えます」
梓「唯先輩、律先輩、澪先輩、ムギ先輩! 卒業、おめでとうございます!」
唯「じゃあ……またね!」
梓「はい!」
さわ子「いつでも遊びに来なさい」
律「帰るぞー!」
澪「案外涙出ないもんだな」
紬「悔いが無いもの」
和「本当に皆、お疲れ様」
憂「うんうん!」
唯(こうして私達はそれぞれの形で『放課後ティータイム』を卒業したのでした)
律「一人でナレーションするなって」
律「そんじゃ、次はクラス会か」
澪「明後日とかすぐだな」
紬「まぁまぁ、部活とクラスは別物よ」
律「だな、じゃあ唯と和、明後日にな!」
唯「ばいばーい!」
和「ええ、また」
憂「……お姉ちゃん、私も先に帰るね」
唯「ふえ?」
憂「ご馳走作るから!」ダダダ
和(ほんと、よく出来た妹だわ)
唯「……」
和「……」
唯「……」
和「……憂ちゃん行ったわよ」
唯「うん」
和「……ずっと、気を張ってたんでしょ?」
唯「うん」
和「梓ちゃんや律達の前で弱音吐かないように、耐えてたんでしょ?」
唯「うん」
和「もう……いいよ」
唯「ふぇ、ふえぇ……うえぇぇ~ん!」
唯「そ、卒業したくないよ!」
和「うん」
唯「皆と離れるの……寂しいよ!」
和「うん」
唯「う、憂も……憂も、誰もいないんだよ!?」
和「うん」
唯「知らない人ばっかりで……皆がいないと、私……」
和「唯」
唯「うぅ……」
和「愚痴でも弱音でも、なんでも言いなさい」
唯「ごめん……ごめんね、和ちゃん……」
和「何言ってるのよ」
和「私がどれだけ唯の笑顔に救われたか……」
和「せめてもの、恩返しよ」
唯「うわぁぁ~ん!!」
平沢家
唯「ただいま」
憂「おかえり」
憂(やっぱり目が真っ赤……)
唯「憂、あのね?」
憂「?」
唯「憂が妹で良かった、憂のお姉ちゃんで良かった」
憂「……」
唯「それだけ……多分、今しか本気で言えないから」
憂「私も……お姉ちゃんの妹で良かった、お姉ちゃんが姉で良かった」
唯「えっへへ」
憂「ふふふ」
憂「ご飯……食べる?」
唯「おー!」
夜! 唯の部屋!
唯(無事卒業出来たし)
唯(最後のライブもやった)
唯(あずにゃんにバトンも渡したし……和ちゃんに甘えて、憂にお礼も言った)
唯(もうやる事は……)
唯(……)
唯「いけないいけない! 大事な事を忘れてた!」
ガチャガチャ
唯「ギー太、三年間ありがとう」
唯「これからもよろしくね、私のギー太」
チュ
二週間後
唯「では、行ってまいります!」
律「おう! ビッグになってこい!」
澪「迷子になるなよ」
紬「体には気をつけてね」
梓「自慢の先輩になってきて下さい!」
和「友達より母の心境だわ」
憂「お姉ちゃん……私、頑張るよ」
唯「あずにゃん、憂をよろしくね!」
梓「はい!」
唯「時間だ……じゃ、アディオス!」
律「行っちまったな」
澪「最後まで元気な奴だった」
紬「唯ちゃんらしくて良いと思うわ」
梓「ほんとですね」
ピリリリリ
和「着信?」
憂「あ、私です」
唯『うーいー! 新しいお家の住所忘れたー!』
憂「……財布にメモ入れといたよ」
律「ダメだこりゃ……」
そして、新学期
律「澪~! 待ってくれー!」
澪「早くしろよ! あの教授、遅刻に厳しいんだからな!」
律「なぜ大学とはこれほど遠く、一時間目が早いのだろう」ブツブツ
澪「文句言ってないで走れ!」
律「はいよ!」
澪「ったく、大学生になっても変わらない奴だな」
律「なんだと! 成長したりっちゃんを見せてやるぜ!」ダダダ
澪「足の速さの話じゃない」
教授「で、相対性理論が~」ペラペラ
女生徒「ねぇねぇムギちゃん、意味解る?」
紬「さっぱり」
女生徒「抜け出して遊びに行かない?」
紬「良いかも」
女生徒「あら、乗ってくるって意外。ムギちゃんて真面目だから」
紬「ふふふ、何事も経験って、高校の友達に教わったの」
教授「そこ! 私語は慎みなさい!」
紬「あらあらまぁまぁ」
和「あら憂ちゃん」
憂「あ、和さん。帰りですか?」
和「逆。今からバイトよ」
憂「大変ですね」
和「大学院に行くのは良いけど、学費は自分で半分出せ……って」
和「だから今から貯めとかないとね」
憂「頑張って下さい!」
和「うん。ところで唯は元気なの?」
憂「最近は電話やメールも減りました」
和「そう、当初は憂ちゃんに泣き言言ってばかりだったものね」
憂「あはは」
憂「私、料理の専門学校に行こうかなと思うんです。お姉ちゃんとは違う、私だけの夢」
和「憂ちゃんなら出来るわ、きっと」
憂「はい!」フンス
梓「さぁ、練習だよ!」
後輩1「はい!」
後輩2「その後はティータイムですね!?」
梓「それは曲が完璧になってから!」
後輩2「がーん!」
さわ子「すっかり鬼部長ね……」
梓「先生もしっかり指導して下さい! また衣装ばっかり増やして!」
さわ子「はーい」
梓「さぁ、いくよ! 目指すは史上最高の軽音部!」
後輩1,2「はい! 梓部長!」
学生1「だるー」
学生2「めんどくせー」
学生3「練習したくねー」
学生4「……」
学生1「どうしたん?」
学生4「俺、ちょっと練習するわ」
学生2「マジで!? なんで!?」
学生4「あんな楽しそうなの見てたらさ……グダグダ言ってる方が面倒になった」
♪♪♪
唯「けいおん、大好きー!!」
♪♪♪
おしまい!