1 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 21:52:41 TW4Rgm.Y 1/32



「ほっほ、それじゃあ今日は伝説の剣の話しでもしてやるかのう」

「伝説の剣?」

「そうじゃ」

「それって、昔の英雄が使ってたっていう?」

「おぉ、よく知っておるの」

「切れ味が鋭すぎて、鞘に納められていながら何もかもを両断したっていう?」


元スレ
孫「じいちゃん、今日も昔話を聞かせてよ!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1341060761/

2 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 21:55:17 TW4Rgm.Y 2/32



「ほっほ、その通りじゃ」

「それってだいぶ前にしてくれた話じゃんか!」

「おやおや……」

「おやおや、じゃないよ。しっかりしてよね」

「これは手厳しいのう……」

「ボケるには早いよ!」

「とは言え年なんじゃ、許しておくれ」


3 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 21:59:09 TW4Rgm.Y 3/32



「そうだねぇ。じゃあ、その英雄の話をしてよ」

「……ふむ、英雄の話とな」

「そうそう」

「そんなの、絵本にいくらでも載ってるじゃろ?」

「絵本の話は簡潔すぎるもん」

「ふぅむ……。儂も全て知っておるというわけでは無いんじゃがのう」


4 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:02:51 TW4Rgm.Y 4/32



「知ってる限りでいいよ」

「ほっほ。いつの時代も英雄は子どもの憧れ、か」

「だって、すごいよ」

「うむ」

「魔族から世界を救ってくれたんだもん!」

「……では、その後のことでも話そうかのう」


5 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:05:35 TW4Rgm.Y 5/32



――――



剣士「英雄だってさ、俺」

少女「それはそうでしょ」

剣士「いいのかなぁ」

少女「だって、魔族の長を倒したのはあなただよ?」

剣士「ううん、そういうことじゃなくてさ」

少女「なぁに?」


6 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:09:44 TW4Rgm.Y 6/32



剣士「その英雄が、魔族である君と一緒にいていいのかな、って」

少女「……」

剣士「南の大陸全土を支配していた魔族は今や混乱のさなか」

少女「うん」

剣士「人間は力で劣るも、多勢で押すだろうね」

少女「そうだね。戦術って言うの? すごいと思うわ」


7 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:11:36 TW4Rgm.Y 7/32



剣士「何より、長を失った魔族なんて烏合の衆だ」

少女「もともと個の力を重視する種族だからね」

剣士「俺は約束通り、魔族の長を倒した」

少女「うん、感謝してる」

剣士「それで、俺たちはこれからどうするんだ?」

少女「以前話した通りに動くだけだよ」


8 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:13:37 TW4Rgm.Y 8/32



剣士「あの話、か……」

少女「あ、その顔は信用してない顔だね」

剣士「信用はしてるけど、想像ができないんだよ」

少女「人間と魔族が、手を取り合って生きる世界?」

剣士「うん」

少女「だいじょうぶ、必ず実現する」


9 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:15:57 TW4Rgm.Y 9/32



剣士「言い切ったね」

少女「……長の持っていた力は大きすぎた」

剣士「そうだね、あれは強かった」

少女「どの魔族もかなわなかった。だからみんな言うことを聞いていたの」

剣士「恐怖政治っていうやつなのかな」

少女「でも、実は多くの魔族が人間との共存を望んでいたんだよ」


10 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:19:01 TW4Rgm.Y 10/32



剣士「少し前までは、民間での交流があったらしいしね」

少女「全てはあの突然変異体、長が生まれたせいだから」

剣士「つまり今こそ、人と魔族が共に立つ時だと?」

少女「そこまでいかなくてもいいの。ただ、以前みたいな関係に戻ることができたら」

剣士「とすると、現状は良くないね」

少女「勢いづいた人間が、南の大陸全土を支配しようとしてる……」


11 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:22:04 TW4Rgm.Y 11/32



剣士「魔族も徹底抗戦するだろうね」

少女「そうなる前に止めたい」

剣士「……人間は俺が」

少女「……魔族は私が、説得する」

剣士「気をつけてね」

少女「あなたもね。私がいないからって無茶したらダメだよ」


12 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:25:13 TW4Rgm.Y 12/32



剣士「君に言われたくはないけど、肝に銘じておくよ」

少女「……もし、私たちの望む世界をつかむことができたら」

剣士「……その時はゆっくり暮らしたいね」

少女「……」ジーッ

剣士「……二人で、ね」

少女「うんっ」


13 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:30:09 TW4Rgm.Y 13/32



―――



「ふぇーっ」

「びっくりしたようじゃの?」

「だってだって、絵本だと世界を救って終わりなんだもん」

「そうじゃのう……」

「英雄は魔族の少女と共に、見事魔王を討ち果たしました。それで終わり」

「なんとも幸せな結末じゃなあ……」

「悲しいお話なの?」

「どうだろうかのう。お前のとらえ方次第じゃ」


14 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:31:26 TW4Rgm.Y 14/32



「僕、英雄と魔族の少女には幸せになってもらいたいなぁ」

「ふむふむ、それは何故じゃ?」

「だって、いっぱい苦労したんでしょ? 報われなきゃおかしいよ」

「ほっほ。そうかそうか」

「むーっ、なんで笑うのさ!」


15 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:33:19 TW4Rgm.Y 15/32



「いやいや、お前が良い子に育って嬉しいんじゃよ」

「ほんとかなぁ……」

「それより、話の続きをしようかの」

「うん、もっと聞かせて!」

「はて、どこまで話したか……?」

「もうっ」


16 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:37:32 TW4Rgm.Y 16/32



――――



剣士「王様」

「剣士か。もう怪我はよいのか?」

剣士「はい、おかげさまで」

「それはよかった。では早速戦線に入ってくれ」

剣士「……いえ。俺は、その」

「どうした?」


17 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:39:19 TW4Rgm.Y 17/32



剣士「……俺はもう、戦いをする気はありません」

「……」

剣士「……」

「……構わん。魔族の長亡き今、軍のみで事足りるからな」

剣士「……そのことなのですが、王様」

「お前には感謝してもし足りんよ。ゆっくり休んでくれ」

剣士「あ、あの、王様」


18 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:42:28 TW4Rgm.Y 18/32



「褒美は戦が終わってからとらそう。今後のお前の生活も、国の方で面倒を見る」

剣士「……王様、聞いてください!」

「なんだ?」

剣士「大事な話があります」

「ふむ。というと、魔族の少女のことか?」

剣士「――!」

「私を舐めるな。私は王。支配者だ」


19 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:45:36 TW4Rgm.Y 19/32



剣士「……魔族まで、支配するつもりか?」

「王の使命だ。才能あるものは、それを発揮せねばなるまい」

剣士「魔族の支配ができないということは、歴史が証明しているだろう!」

「ならば私が為そう」

剣士「……本気で言っているのか? どれだけの血が流れると思っている!」

「血など洗い流せばいい」

剣士「……貴様っ」


20 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:48:39 TW4Rgm.Y 20/32



「哀れなことだな、剣士よ」

剣士「哀れだと?」

「サキュバスという魔族を知っているか?」

剣士「……何が言いたい」

「知っているようだな。やつらは妖術をもって男を操るらしいぞ」

剣士「何が言いたいっ!」

「直に解放される。……安心して、待っているがいい」


21 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:50:29 TW4Rgm.Y 21/32



剣士「……ま、まさか」

「すでに軍は動かしている。今頃衝突しているだろう」

剣士「……殺す! 貴様はここで殺す!」

「……好きにしろ。愛しいおなごの亡骸はこちらで葬っておいてやる」

剣士「……くっ」ダッ



「……許せ、剣士よ」

「これは悪い夢なのだ。すぐに目覚めさせてやる」


22 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:52:26 TW4Rgm.Y 22/32



…………

………

……



剣士「ねぇ、少女」

少女「……なぁ、に」

剣士「俺は、人間を許すことはできないみたいだ」

少女「……あなたも、魔族だったら良かったのにね」


23 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:53:51 TW4Rgm.Y 23/32



剣士「そうだな。でも俺は、やっぱり人間なんだよ」

少女「……私も、人間を、許せそうにない」

剣士「ははっ。わがままだな、俺たち」

少女「でも、あなたという人間は、好きだよ。……愛してる」

剣士「俺も、お前という魔族を愛しているよ」

少女「ふふ。……なぁんだ」


24 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:55:07 TW4Rgm.Y 24/32



剣士「簡単なことだったんだね」

少女「……私、少し眠くなってきちゃった」

剣士「うん、ゆっくりお休み」

少女「次に目が覚めたら、朝日は、昇っているかな」

剣士「あぁ。きっと、新しい世界を照らしてくれるはずだ」

少女「私に、おはようって、言ってくれる?」


25 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 22:56:43 TW4Rgm.Y 25/32



剣士「誓うよ」

少女「……じゃあ、安心だね」

剣士「うん。……さぁ、もう目を閉じて」

少女「……おやすみ、剣士」

剣士「……おやすみ、少女」



剣士「……俺たちが望んだ世界で、いつかまた、必ず会おう」


26 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:00:35 TW4Rgm.Y 26/32



――――



「……」

「……」

「……それで、結局どうなっちゃったの?」

「お前は、魔族という種を見たことがあるか?」

「……ううん、ないよ」

「だったらそれが答えじゃ」


27 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:02:03 TW4Rgm.Y 27/32



「……悲しいね」

「そうじゃなあ」

「結局、二人が望んだ世界はつくれずに、離れ離れになっちゃったんだね」

「……そうかも、しれんな」

「なんだか僕、人間であることが嫌になっちゃいそうだよ」

「孫よ、それだけは言ってはいかん」


28 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:03:07 TW4Rgm.Y 28/32



「どうして……?」

「英雄は人間であり、魔族の少女が愛した男もまた人間だった」

「……うん」

「彼は人間を憎んだが、人間をやめようとはせなんだ」

「……そうだね」

「それが彼の強さじゃと、この老いぼれは思うんじゃよ」


29 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:05:01 TW4Rgm.Y 29/32



「……」

「ほっほ。お前にはちと難しかったかのう」

「……英雄は」

「うむ」

「人間を憎んだ英雄は、それでも人間として、人間と共に生きたんだね」

「……彼にしかできん方法でな」


30 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:06:44 TW4Rgm.Y 30/32



「そっかぁ」

「……どれ、気分が沈んだなら外で遊んでくるといいぞ」

「うん、そうだね。あっ、でも最後に」

「なんじゃ?」

「それって、どれくらい昔の話なの?」

「そうじゃのう。……ざっと、350年くらい前かの」


31 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:08:31 TW4Rgm.Y 31/32



「じゃあ、爺ちゃんが生まれるちょっと前くらいかぁ」

「そんなことを聞いてどうする?」

「ううん。だから詳しいんだなって思ってさ!」ダッ



――額から歪な角を生やした赤い眼の少年はそう言うと、丁寧に折り畳んでいた二対の翼を力強くはためかせ、大空へと飛び立っていった――



おわり


32 : 以下、名... - 2012/06/30(土) 23:08:54 TW4Rgm.Y 32/32


読んでくれた人乙


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