私とご主人を阻む憎き靴下。
私とご主人が出会ったのは5年前。
大学の入学式にスーツで出るというご主人はA○KIで私を見つけてくれた。
ご主人も私に一目ぼれだったようで他の革靴たちには触れることなく私を選んでくれた。
元スレ
革靴「こんなにも近くにいるのに…」
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でもその日だけの付き合いだった。
ご主人が私をほったらかしにして、スニーカーと登校する毎日。
私は靴箱の中で埃をかぶっていくばかりだった。
でも私が光を見る日がまたやってきた。
ご主人の就職活動。
ご主人は毎日のように私をはいてくれた。
なにを今更、とも思った。
でも私は単純に嬉しかった。
ご主人の就職が決まったとき、私はとても喜んだ。
外回りのサラリーマン。
ご主人は私の手入れをしながら
「今までありがと。これからもよろしく頼んだ。」と言った。
「これからも毎日私をはいてくれる。」
そう思うと私は玄関で夜中に一人泣いた。
ご主人は年中せわしく歩きまわって、私はどんどん擦り減っていった。
それが嬉しかった。
でもそれも長くは続かなかった…。
ご主人はいつも私をはいてくれる。
でも私たちの間にはいつも一枚の布が挟まっていた。
直接触れ合っていたいと思ったけれど、ご主人に嫌われるのが嫌で言えなかった。
靴下「うちは3日に1回しかはいてもらえんけど、すねまでのお付き合いをさせてもらってんねや。」
靴下が私の知らないとこまで知ってると思ったら悔しかった。
なんとかしたい。
そんな一心で私は行動に出た。
ご主人を水虫にする。
そうすればご主人は五本指ソックスに乗り換えるはず…。
私は主が水虫だと言っていた友達の革靴に水虫菌をくれるよう頼んだ。
友達も快く承諾してくれた。
一週間後仕事が終わって帰宅したご主人。
リビングから任務完了を知らせる声が聞こえてくる。
ご主人「んぬ!?み・・・水虫……。」
革靴「計画通り。」
数日後の休日。
ご主人は私の意に反して薬局へ買い物に出かけた。
水虫を治すつもりだ。
しかし、これくらいのことは私だって想像している。
この作戦は長期戦。
我慢が大切だ。
ご主人「はぁ…。水虫とかほんとになるんだなぁ。とりあえずこの水虫薬でやってみるか。」
私はご主人が私をはくたびに友達から水虫菌を補充し、ご主人の水虫が治らないように謀った。
ご主人は毎日水虫薬を愛用していた。
だけど、私の友達の主の水虫は強力なようだった。
靴下「最近ご主人水虫できたみたい。日に日にひどくなってんねや…。」
私「へぇ~。ご主人も大変だよねぇ。」
心の中では靴下のことを「もう少しでこいつは…。」と思っていた。
それから1か月くらいたったある日。
リビングからまたご主人の声が・・・。
ご主人「あぁ~。治すの頑張っても治るまでの間はむずかゆいな。そういや、おやじが五本指のソックスが良いとか言ってたっけな。」
よっしゃ。
私は作戦が無事遂行されたことに心満たされつつその日は眠った。
靴下は洗濯機に回されていてその声が聞こえていないようだった。
月曜日。朝。
ご主人「じゃっじゃじゃ~~~~~ん!五本指ソックス~。」
手にソックスをはめて遊んでいるご主人を遠くに見て私はほほえんだ。
靴下はベッドに横たわり、自分以外の靴下がご主人に持たれていることに困惑しているようだ。
月曜日はあの子のローテだ。
ご主人「今まではいていた靴下は水虫菌がいるだろうし捨てておくか。」
靴下「!!!!?」
靴下はご主人に持ち上げ運ばれながら事の次第に気づいたように私の方を見た。
わたしはニヤっとだけして、靴下の目線に答えると、靴下は何も言えずといった感じで、静かにゴミ袋に運ばれていった。
私「これで邪魔者はいなくなった・・・。」
ご主人は意気揚揚と五本指ソックスをはいてスキップしながら玄関へやってくる。
あの靴下さえいなければ、ご主人を素足に革靴にするなんて簡単だ。
石田○一で既に実践済みだ。
ご主人は玄関に座り込み、靴をはく準備にかかる。
ご主人の手が私に触れる瞬間。
未だに私は恥ずかしくて目をつぶってしまう。
れれ??
ご主人の手が触れてこない。
何故?どうして?
私にはわけがわからなかった。
突如固いものが私を小突くように当たった。
こ……れは・……………。
ご主人の手・……の甲??
靴をはく状況で手の甲をあてがってくるって??
えっ?
私が困惑していると
「うっし!!今日もはりきっていきましょう!!」
ご主人お決まりのセリフが飛び出し、ご主人が急に立ち上がる。
えっ??ちがっ??
私まだはかれてな・・・・・・・
ぃ・・・・・・・・
隣りを見ればそこには私じゃない革靴がいた。
ご主人「靴下を変えたんだから靴も変えとかないとな!だいぶ使い古してきてたし。」
私をひょいっと持ち上げて言う。
私「ちがっ……私これから………」
言葉がうまくでてこない…。
私バカだ…。
これくらいのことちょっと考えればわかりそうなもんだ。
靴下より私の方が年なんだし、ご主人は一気にいろんなものを買いそろえるタイプじゃないか。
私は何年ご主人のそばでご主人をサポートしてきたんだ…。
今まで何をしてたんだ…。
月曜日は燃えるゴミの日。
ご主人は右手に持ったゴミ袋に私を入れた。
そこには靴下がいた。
気まずい…。
ゴミ回収所におかれたゴミ袋の中、長い沈黙が流れる…。
私「あっ・……あのっ……………」
靴下が私を睨みつける。
痛い……。
私「ご……めん………。」
靴下はまだ私を睨む。
そりゃそうだ。
私がこんなことしなければ、靴下はもっと長くご主人と生活を共にしていたはずだ。
靴下は目線を下に落とし、ため息をついた。
靴下「はぁ……。良いんよ。別に。」
私は顔をあげて靴下の方を見る。
靴下「うちがあんたやったらおんなじことしてると思う。あんたの気持ちわかるで。」
私は思わぬセリフにきょとんとした。
と同時に涙がこぼれだした。
なんで私が泣いてるの。
私は加害者。
加害者が泣くなんてずるいじゃないか。
でも、涙はとまらなかった。
靴下は私に優しかった。
おあいこやないか。と靴下は言った。
靴下はなにもしてないじゃん。
なにもわるくないじゃん。
思っても口からは出ず、私は泣いて靴下にごめんと思うだけだった。
私が泣きやんだとき、靴下が急に話し始めた。
靴下「なぁ、知ってるか?実はご主人って・・・」
そこから私たちはご主人についていろんな話をした。
ご主人のあるあるネタとか。
こんなとこ直したほうが良いとか。
靴下の方がやっぱりいろいろ知ってたみたいで、いろいろ教えてもらったりもした。
私「またそうやって自慢する~。」
そういって頬を膨らます。
靴下「にゃははw。ごみんね~ww」
そうやって時間を過ごした。
でも、私たちには避けられない運命がある。
ご主人はいつも朝の7時には家を出て行くからそろそろ時間だろう。
案の上、
それはやってきたようだ。
ゴミ収集車
次々とまわりのゴミ袋たちが放り込まれていく。
それを容赦なく解体していく車本体。
私たちの上のゴミ袋たちも取り除かれ、私たちも放り込まれていった。
迫りくる鉄のプレス。
私たちが迫っていくのだろうか。
発進した車に揺られながらその時は迫ってくる。
次のひとプレスで私たちがつぶされていくだろうとなったとき、私は口を開いた。
私「ごめん。」
靴下が私を見る。
そしてすぐ答える。
靴下「なにいってん。うちらいつかは絶対こうなるやん。それが消耗品の『さ・だ・め』っちゅうやつや。そんなら、最後に革靴としゃべれて楽しくって良かったわ。」
今までと変わらぬ調子で言う。
私もそんな返事が返ってくると思ってたよ。
フフ
靴下「何笑ってん?」
顔にでちゃってたらしいw
私「なんでもない。」
靴下が怪訝そうな顔で見つめてくる。
あぁ~。もう終わっちゃうなぁ~。
上を見上げ、幸せを感じた。
空なんて見えず、見えるのは迫りくるプレスだけ。
私がこんな幸せを感じて今を迎えてるなんてどんだけ幸せだ。
なんて思いながら靴下の方に顔を戻す。
まだ靴下は怪訝そうな顔だ。
私「ありがと。」
靴下はきょとんとした表情を見せる。
でも、すぐに満面の笑みで私に返した。
靴下「うん!」
-END-