ファミレスにて――
男「……」ポチッ
ピンポーン…
店員「はい」
男「あのー、さっき注文したスパゲティまだ来ないんだけど」
店員「お客様っ!」
男「なに?」
店員「今押したボタンは、核ミサイル発射スイッチでございます!」
男「え!?」
元スレ
男「ファミレスの店員さん呼ぶボタンが核ミサイル発射スイッチだった」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1557073562/
男「どういうこと!?」
店員「この世のどこかに世界中の核ミサイルを発射できる装置がある、という都市伝説はご存じですか」
男「いや、ご存じなかったけど」
店員「その都市伝説は真実なのです」
男「なにぃ!?」
店員「もちろん、めったなことでは作動しないのですが、このボタンを押してしまうと作動してしまうのです!」
店員「つまり、今まさに世界中の核ミサイルが発射されようとしているのです!」
男「なんだってぇ!?」
男「なんでそんなもんがここに……」
男「いや、それより! どうすりゃいいんだ!? どうすれば止められるんだ!?」
店員「ご安心ください、お客様」
男「えっ」
店員「一回押したぐらいであれば、何とか制御することが可能です」
男「ホント!?」
店員「ミサイル発射を食い止めて参りますので、今しばらくお待ち下さい」
男「頼むよ!」
男「……」
男(行っちゃった……)
男(とんでもないことになっちゃったな……)
男(まさか、このボタンが核ミサイル発射スイッチだったなんて……)
男(制御できるっていってたけど、本当にできるのかな……)
男(もしできなかったら世界はどうなるんだ……!?)
男(スマホを見ても……)ポチポチ
男(今んとこ、核ミサイルが発射されただとか、そういうニュースはない……)
男(必死に店員さんが食い止めてくれてるのかなぁ……)
男(頑張ってくれ、店員さん……! 世界を破滅から救ってくれ……!)
店員「お待たせいたしました」
男「あっ、店員さん!」
店員「スパゲティでございます」
男「あ、どうも……」
男「――じゃなくて! こんなのどうでもいいよ! ミサイルはどうなったんだよ!?」
店員「あ、ああ、あれでございますか」
店員「あれは……食い止められました」
男「えっ、ホント!?」
男「ありがとう、ありがとう……」
男「てっきり俺、世界を滅ぼした張本人になっちゃうかと……」グスッ
店員「ごゆっくりどうぞ」
アリガトウゴザイマシター マタオコシクダサイマセー
男「ふぅ~、食った食った」
男(なんだか空がいつもよりキレイに見えるや)
男(世界が滅びなくて本当によかった……!)
後日、他のファミレス――
男(ハンバーグステーキうめえ!)モグモグ
男「……ん」
客「おっせーな、いつまでかかるんだよ……ちょっと催促するか」ポチッ
ピンポーン…
従業員「なんでしょうか?」
客「注文した品がまだ来ないんだけど」
従業員「お客様! あなたが今押したボタンは、核ミサイル発射スイッチでございます!」
客「えええええ!?」
男「!」ブッ
男(あの時と全く同じやり取りじゃねえか! 違うレストランなのにどうして……)
従業員「しかし、ご安心下さい。すぐにミサイルを食い止めますから!」
客「お、お、お願いします……!」
男「……」
男(何から何まで、あの時の俺を見ているようだ……)
男(そうだ、こっそりキッチンを覗いてみるか)ガタッ
男「……」コソッ
従業員「急いで作って下さい! 急いで!」
「あー、くそ! 順番間違えた!」
「早く焼いちゃってー!」
ドタバタ… ドタバタ…
男(これは……どういうことだ!?)
友「アッハッハッハッハ……!」
男「アッハッハじゃねえよ。どういうことだよ?」
友「やっぱり、どこもやってるんだなぁ……“アレ”を」
男「アレって?」
友「俺もファミレスに勤めてたことがあるから分かるが、ファミレス界の常識なんだよ」
友「オーダー取りにミスがあったりした時、このボタンは核スイッチですって嘘をつくのはな」
男「なんでそんなことを?」
友「たとえば、ある客の注文の品を全然作ってなかったとする。当然、客は店員をボタンで呼び付ける」
友「そんな時、正直に作るの忘れてましたー、これから作りますーなんていったら怒られるに決まってる」
男「そりゃそうだ」
友「だけど、“今あなたが押したのは核ミサイル発射スイッチです”っていわれたらどうなる?」
男「客はパニックになって、忘れられてたことなどすっかり忘れてしまう……!」
友「その通り!」
友「で、あとは客がビビってるうちに料理を作ればいいってわけだ」
男「なるほど……」
男「つまり核発射スイッチだっていったのは、ミスをごまかす時間稼ぎのためだったわけか」
友「俺もファミレスでバイトしてた時はよくこの手を使ったもんよ」
友「多分、どのファミレスのマニュアルにも載ってると思うぜ」
男「いやー、見事に騙されたわ……」
男「よくよく考えたら最初に注文する時にもそのボタン押してるのにな」
友「人間、パニックになると冷静な判断ができなくなるからな。そこを突いた作戦ってわけだ」
男「なるほどなぁ……」
男(ファミレス業界も上手いこと考えるもんだ)
さらに別のファミレス――
男(今日は何食べようかな……よし決めた!)ポチッ
ピンポーン…
タタタッ
ウェイター「お客様!」
男「ん?」
ウェイター「実はこのボタンは核発射スイッチなのでございます!」
男「おおっ、いきなりかよ」
ウェイター「しかしご安心を。一回押しただけであれば、十分発射を食い止め……」
男「もしかして、キッチンに材料が届いてないとか? それともバイトが来てない?」
男「だとしたら、ゆっくり作ってくれよ。今日は一日ヒマだからいくらでも待てる」
男「カラクリが分かっちゃったら、こんなバレバレの嘘もないよな。笑っちゃうよ」
男「なんなら連打しちゃおっと」ポチポチポチポチポチ
ピンポーン… ピンポーン… ピンポーン… ピンポーン… ピンポーン…
ウェイター「あああああっ……!」
核保有国では――
「うわああああっ! 核ミサイルが勝手に発射されようとしてる! なんでだぁ!?」
「まずいぞ! 何とかして止めろぉぉぉぉぉっ!」
「無理だっ! この勢いはもう止められん! 世界は終わりだぁぁぁぁぁ……!」
― 終 ―