5 : 代理ありがとう! - 2011/06/05(日) 16:45:11.00 OB8OCWUXO 1/117


時は戦国───

強きが生き、弱きは死ぬ……そんな波乱の時代の中、一つの小さな村があった。

「もう……終わりだよ……」

頭がもふもふとした農家の娘が項垂れる。

村人「くっ!」

村人「そんなもん持って何しようってんだ!」

村人「これで野武士を突き殺してやるッ!!! 村こんなめちゃくちゃにしやがってッ!!! 皆殺しにしてやるっ!」

村人「竹槍なんかで敵う相手じゃないだろ!!! 死にに行く気か!」

村人「でも……じゃあどうすりゃ……」

「侍……」

村人「ん……?」

「お侍さんを雇いましょう!」

全てはこの一言から始まった……。

    \七人の侍/     デデーン


9 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 16:48:33.74 OB8OCWUXO 2/117


村長「しかし純、侍を雇うにはたくさん金がいる……この村にそんな金があると思ってるのか」

「……。 ……! お腹が減っているお侍さんにいっぱいご飯を食べさせてあげるんです! そしたらやって……くれないかな?」

村人「はんっ! そんな食うにも困った田舎侍が野武士に勝てるか!」

村人「雇うならエリートなやつにしねぇと!」

村長「うむ……しかし金が……」


「お姉ちゃんしっかり!」
「う~い~……ご~は~ん~……」

「!?」

「もう村だからそこで何か食べさせてもらおっ!」
「ご~は~ん~……」

村長「なんじゃ……あの二人は」


11 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 16:54:37.46 OB8OCWUXO 3/117


「」ガツガツ
「」モグモグ

「うまうま」
「お姉ちゃんご飯つぶついてるよ」

「……」
村長「……」

村長「(刀差してるから侍だと思ったが……よく見ればまだ年端も行かぬおなごじゃないか。
「主が刀持ってます!お侍さんですよ!」とかなんとか言って騒ぐから飯を用意したというに」

「(ダメ……ですかね?」

村長「(まあよい……。ここで餓死されては目覚めも悪いからのう」

「ぷは~美味しかった!」

「ごちそうさまでした。すみません、助かりました」

村長「いやいや、大したおもてなしも出来んですまんの」


13 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:01:00.40 OB8OCWUXO 4/117


「……失礼なこと聞くんですが……この村はいつもこうなんですか?」

「そんなわけないじゃんっ!」

村長「純!」

「あっ……ごめんなさい」

「ううん。失礼なのはこっちの方だから」

村長「いつもは田んぼも豊かで水車が見売りの綺麗な村なんじゃ……しかし野武士がここに目をつけてから収穫時期を狙っては村荒らしに来る……」

「野武士……」

「私達が一生懸命に育てたもの全部持ってくんだ……壊して行くんだ……だから……この村はもう」

「……」


15 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:07:03.46 OB8OCWUXO 5/117


「そろそろ行こうか、憂」

「……うん」

村長「そうですか……。またいつか通りかかった際には寄ってください」

「村長っ!!!」

村長「無理を言うな……たかが白飯で受けてくれるわけもたった二人で四十をも越える野武士を倒せるわけがなかろう……」

「でも……じゃあこの村は」

村長「移村じゃ……皆の者にも納得してもらうしかあるまい」

「産まれ育った場所なのに……離れるなんてやだよ……」


18 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:11:12.00 OB8OCWUXO 6/117


「……一つ、人に受けた恩義、特にごはんの恩は絶対に忘れるべからず……だよ!」

「えっ……」

「お姉ちゃん!」

「ごはんはおかず、野武士退治、私達が引き受けましょう!」

村長「ほ、ほんとうかっ!?」

「ありがとうございますお侍さんっ!」

「その前に……」さわりさわり

「え、あの……」

「思った通り良い毛並みだよ! 憂も触ってみなよ!」

「お姉ちゃん……」

「よ、喜んでもらって何よりです」

村長「ほんと大丈夫かこの侍」

こうして、唯達の野武士退治が始まった!


21 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:20:43.51 OB8OCWUXO 7/117


【一人目 平沢唯】

ごはんをこよなく愛し、また刀を正義の為のみに使う流れ侍。
唯我独尊流初代師範代でもあり(他に使える人が見当たらない)道場も構えていたがある理由であっさり潰れてしまい食うに困っている。

愛刀 義意太
部類 太刀

【二人目 平沢憂】

唯の妹であるが性格は真逆で几帳面。姉を残し剣の修行に出るも姉が心配で三日で帰宅したという逸話を持つ。

優しい性格だがごはんと交換で看板を売り渡していた姉に「めっ!」と怒鳴り付けた恐ろしい一面もある。

愛刀 何でも(今は太刀)
部類 太刀


23 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:25:42.31 OB8OCWUXO 8/117


「さて、どうしよう」

「何にも考えずに受けちゃったの?」

「だってぇ……純ちゃんかわいそうだったから」

「はあ……でもお姉ちゃんのそういうところが私は大好きだよ!」

「えへへ」

「とりあえず仲間を集めないと! 後は村にちょっと工夫をしないとね」

「工夫?」

「ちょっと考えがあるの。お姉ちゃんは他に戦ってくれる侍を探して」

「わかったよ!」噴酢ッ!


26 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:31:04.76 OB8OCWUXO 9/117


「とは言ったもののどこを探せば見つかるんだろう……」

「う~ん……」

クンクン
唯 ~ぷわ~ん

「こっちからごはんの匂いがするよ! とりあえずごはん食べてから考えよ~っと」



「何だか刀がいっぱぁ~い。ごめんくださ~い」

・・・・・

「ごめんくださ~い」

・・・・・

「ごめんください!」

「うわっ! な、なに勝手に入って来てるんだよ! 今ごはん中なんだ、話なら後にして……」

「……」ゴクリッ

「……食べる?」

「いただきますっ!」


28 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:36:40.31 OB8OCWUXO 10/117


「で、何の用?」

「一緒に野武士と戦ってください!」

「やだよ怖い! 野武士なんて関わらない方がいいぞ! あいつら歯向かう連中には容赦ないからな……。
こないだも向こうの村が荒らされて……」

「その村の人達に雇われたんだ、野武士を倒してくださいって」

「刀……お前侍か」

「唯、平沢唯だよ」

「私は澪、秋山澪だ。見ての通り刀打ちさ」

「!! ほんとだ!! 刀がいっぱいあるね~」

「今気づいたの!?」


31 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:40:36.16 OB8OCWUXO 11/117


「……野武士と関わるつもりはないから。帰ってくれないか?」

「そんなぁ……そこをなんとか」

「やだ」

「お願い!」

「やだっ」

「……脇差しだけじゃ?」

「やだ!」

「太刀もなきゃ?」

「やだ!!」

「うふぅふぅ~」

「って遊ぶな!」

「どうしても駄目?」

「……私は生涯不殺を志してるんだ。人の命は尊い、それが野武士であってもだ」

「……そか、わかったよ」


33 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:46:36.67 OB8OCWUXO 12/117


「……そうして生きた悪は何人もの善を殺して行くんだろうね……」

「!!」

「お邪魔しました」


「まっ、……いや……いいんだ。これで……」


「私は誰も殺さない。そして守る為だけにこの刀を打つんだ。
そう決めた……親を殺されたあいつの為にも」

「殺したり殺されたり……恨んだり恨まれたり……そんなのはもうやめなきゃいけないんだ」

「それにお前達も人を斬る為だけに生まれてきたわけじゃないよな……」


35 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:52:57.15 OB8OCWUXO 13/117


「う~い~」

「あ、お姉ちゃん! どうだった?」

「無理でした!」ビシッ!

「だめでしょ~? ちゃんと見つけないと。村を守るって村長さん達と約束したんだから。
約束を違える者に正義あらず、だよ?」

「だってぇ……みんな野武士って聞いたとたん「用事が出来た……」とか「風が呼んでいる……」とか言ってどっか言っちゃうんだもんっ!」

「野武士は怖いからね……当然と言えば当然だよ」

「でもね、一人だけちゃんと話聞いてくれたよ!」

「ほんとに? なんていう名前の人?」

「澪ちゃん!」

「聞いたことある! もしかして刀鍛冶の人?」

「そうそう!」


37 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 17:59:25.51 OB8OCWUXO 14/117


「もし協力してくれるなら武器とかも貸してもらえるから心強いんだけど」

「……生涯不殺を誓ったって言ってた」

「……そっか。じゃあ仕方ないね……」

「憂、」

「お姉ちゃん、戦わないと守れないものがある、それは確かだよ」

「そうだね……わかってる」

「村の方はまだまだ時間がかかりそうだからお姉ちゃんは引き続き一緒に戦ってくれる侍を探してきてね」

「うん! 合点承知だよ!」

「(最後にもう一回だけ澪ちゃんのところに行ってみよう……。
私や憂の刀は確かに血で汚れているけど……でも)」


38 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:05:14.52 OB8OCWUXO 15/117


「ごめんくださ~い」

「はーい、って唯か」

「何してるの?」

「見てわからないか? 刀を打ってるんだ」

「刀ってやっぱり毎日いっぱい注文が来るの?」

「ううん。全然。これも趣味みたいなものだから」

「ほへぇ? 趣味?」

「毎日こうして一本づつ刀を打ってるんだ」

「ふーん……そうなんだ」

「ッ! ッ! ッ! っと……こんなもんかな。少し休憩しようか。唯もお茶飲む?」

「うんっ!」


40 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:12:40.83 OB8OCWUXO 16/117


縁側で二人茶を啜る。

「ぷは~……生き返るね~」

「大袈裟だな唯は」

「……。さっき注文が来るの? って聞いたろ?」

「うんうん」

「昔はいっぱい来てたんだ。まあパパがやってた時だけど」

「パパ?」

「南蛮の言葉でお父さんって意味らしいよ。南蛮から来るお客さんもいるから……ちょっとでも馴染んどこうかなって」

「ほ~ん」

「パパは鍛冶屋でさ、私はその後追いなんだ」

「でも昔この村にも野武士が来て……私のパパとママ……そして律の両親も」

「律?」

「何でもない……気にしないで」


42 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:19:10.52 OB8OCWUXO 17/117


「ぷはぁ~ごちそうさま!」

「お粗末様でした」

「美味しかったぁ! ありがと澪ちゃん!」ニコニコ

「……不思議だな、唯といると何だか落ち着くよ」

「?」

「初めだってわけのわからない内に一緒にごはん食べちゃったし、今日だってほんとは次に来たら追い返してやるっ! って思ってたのに」

「んふふ~。入れてくれてありがと」

「全く、掴み所がわからないやつだな。ほんとに侍なのか?」

「侍だよ……」

「ッ!!!!」

唯が義意太の鞘に手を触れただけ、ただそれだけで澪は蛇に睨まれたように固まってしまう。


45 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:26:27.96 OB8OCWUXO 18/117


「(こんな子が……なんで)」

「澪ちゃん。刀ってさ、何のためにあるんだと思う?」

「それは……(なんで迷うんだよ、ここで。私の作る刀は人を守る為だけに使うってハッキリ言ってやればいいんだ! よしっ!)」

「わ、わ、たしの作る刀はみんなを守るんだぞっ!」

「(間違ったー!!!)」

「そうかもしれないね。澪ちゃんは自分の打った刀をちゃんと身分や用途を証して、それを澪ちゃんが見て判断してから売ってるんだよね」

「なんで知って……」

「でもね、その刀だって人は殺すよ。だって刀は人を殺す為のものだから」

「っ……」


48 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:36:22.62 OB8OCWUXO 19/117


「それでも……私は殺さないっ! もう嫌だ……あんな思いをするのも、あんな思いをさせるのも、あんな思いをしているやつをただ黙って見ていることしか出来ないのも!」

「だったら殺さなければいいんだよ」

「えっ…」

「多分この戦国の世に刀を持って人を殺さず、なんて人はそういない。
だから澪ちゃんがそれを成し遂げたらいいんだよ」

「私が……?」

「殺さない刀、私はまだ見たことがないけど……澪ちゃんならきっと成し遂げれるよ!」

「殺さない刀……守る為だけの、刀。
うん! そうだな! その方が刀達も喜ぶよ!」


49 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:47:30.40 OB8OCWUXO 20/117


「本当はわかってたんだ……。刀がある限り人は死ぬ……持つ者の善悪関係なく」

「けどそれで守られる命があるのも確かだよ。私と憂はそうして来たから。
だから澪ちゃんにもそうしろ、なんてことは言わないよ。だけどその道はあまりにも長く険しい。それでも行くんだね?」

「ああ。生涯不殺……仮にそれで自分が殺されることになっても、後悔だけはしないとここに誓おう」

「唯、私を仲間にいれてくれないか?
野武士を倒す、みんなを守る為にこの刀達を使いたいんだ」

「勿論だよ! よろしくね! 澪ちゃん!」

「こちらこそよろしく」

「(律……いつかお前も気づくよ、自分の生きる意味ってやつに)」


50 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 18:52:49.57 OB8OCWUXO 21/117


【三人目 秋山澪】

両親の跡を継いだ二代目の刀鍛冶屋。
幼い頃に村を野武士に襲撃され両親を失う。
それ以来、刀は人を殺すだけのものじゃないという旗を掲げて鍛冶屋を営む。

武器は全般使えるが、血と怖いものが苦手。打った刀には必ず名前をつけるのが特徴。

愛刀 得利座部守(南蛮の言葉で守護せし者という意味)
部類 長太刀


54 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:02:36.92 OB8OCWUXO 22/117


────

「野武士相手に村人と侍三人だけじゃ厳しいな……もっと集めないと。他にあてはあるの?」

「ないよ!」

「ないんだ……。……私に一人あてがあるんだけど」

「ほんとに!?」

「でも、ちょっと荒れてるって言うか……やさぐれてるっていうか……」

「強いの? その人」

「ああ。きっとここらじゃ三本の指に入る侍だよ」

「!!!」

「名は……」

田井中律──


「っしゅんったらぁっ!」

「ちぇっ……誰も来やしねぇ」

決闘場!我に勝てば金10両、ただし負ければ身ぐるみ置いて行け!
という木の札の下に髪の毛を坂上げ、脇差しを腰に二本差した女の子が座っている。


57 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:09:46.06 OB8OCWUXO 23/117


「」コソコソ

「おいアンタ」

「ひっ、な、なにか?」

「腰に差してる刀は飾り物か?」

「無礼な! 私は歴とした武士の家系で……」

「ならかかって来いよ。女一人倒せないで何が侍だ? ほら、来いよ」

「ぐっ……」チャキン

通りすがりの侍「バカやめとけっ! こいつ刀狩りの律だぞ!」

「デコ丸出しで二本差し……やはりこいつが噂の」

「ほらほらどうしたよ? かかってこいって」へらへら

「ぬぅうううっ! 拙者をここまでバカにさせたことを後悔させてやる!!!」

通りすがりの侍「全く、田舎侍が。知らないぞ……」


62 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:23:02.22 OB8OCWUXO 24/117


「ちょええええいっ!」

抜いた刀を高らかに掲げながら律に斬りかかる。

「チャンバラじゃないんだから……よっ!」

一本だけ抜いた脇差しを思いきり振りきり横から侍の太刀を薙ぎ払う。

「なっ……脇差しが太刀より重いだと!?」

「こいつはそこいらの刀とは違うんでね。まだやるかい?」

そう言った時、既にもう一つの脇差しが侍の顎の下に伸びていたのを見て、侍は「降参だ」と小さく声を漏らした。


63 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:27:49.00 OB8OCWUXO 25/117


「いい刀持ってたな、あの坊っちゃん侍。高値で売れそうだ」


「そんななまくら家じゃ買い取らないけどな」

「うおおっと! なんだ澪かよ。驚かすなよ」

「私もいるのです」

「うわっ! 今度はほんとに誰だっ!?」

「平沢唯だよ!」

「平沢……? どっかで聞いたことあるような(にしてもトロそうなやつ)」

「話があるんだ、いいか?」

「ああ聞いてやるとも。ただし、茶屋でな!」

「ハイハイ」


65 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:41:39.33 OB8OCWUXO 26/117


────

「野武士を退治するだとー?」ムシャコラ

「そうそう! その為に仲間を集めてるんだよ!」ムシャコラ

「食べながら話すなよ」

「腹が減ってはなんとやらだろ!」

「そうだよ澪ちゃん! お腹が減ったら戦えないんだよ!」

「なんでそんな意気投合してるんだよ……」

「で、どうかな?」
「う~ん……まあやってやらなくもない」

「ほんとに!?」
「ああ。ただし私に勝てたらな」

食い終わった団子の串を唯に飛ばす、
それを唯は顔色一つ変えずに摘まみ取って見せた。

「へぇ……トロそうなやつって思ってたけど。人は見掛けによらないもんだな」

「やめときなよ、りっちゃんじゃ私に勝てないよ」

「やっぱりこうなったか……」


67 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 19:55:09.96 OB8OCWUXO 27/117


切り開かれた林の中、二人は佇む。

「参ったって言った方が負けだ、いいな?」

「わかったよ!」

「危なかったら私が止めるから。いいな?」

「わかってるって」

脇差しを二本抜くと左右に構える。

「二刀流……いや、違う」

「二天一流……それが私の流派」

「見せてもらおうか! 唯我独尊流の実力!!!」

それと同時に律が駆ける。

一気に距離を詰め、お互いの刃が届くか、と言ったところでようやく唯は刀を抜いた。

「おせぇよ!!!」
「バッ(律のやつ本気で腕を落としにっ)」

左手の脇差しが唯の腕を捉える寸前、

「あ、お金落ちてる!」
「んなっ!」スカッ


68 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:03:04.45 OB8OCWUXO 28/117


「わわっ! 真田の六文銭だよっ!」

「なんだ……こいつ」

「戦ってる様子がない……まるで律がいないかのような立ち振舞い」

「偶然避けたぐらいで!」

くるりと半回転し、その勢いでもう一度斬りかかる。
今度の狙いは胴体、脇差しとは言え当たれば必死な一撃。

「」キンッ

「ぐっ」

次はそれを鞘から少し太刀を出し、その刀身で受け止める。

「へへ、ようやくやる気に……」

「もっと可愛い鍔ないかなぁ……」

「この子戦い中に鍔見てるよ!」

「これが……唯我独尊流っ……!」


71 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:12:25.71 OB8OCWUXO 29/117


「唯我独尊流、それ即ち自然体であれ。自分だけを見つめ、自分だけの世界で戦う」

「なに意味のわかんねぇことをっ!」

右手の間接をしならせながら放った一撃も虚しく空を切る。
まるで中空にただよう綿を切れと言わんばかりの無感触。

律は攻撃を繰り出す回数を重ねる度にそれを実感して行く。

「(当たらねぇ……! どうなってんだよこれ)」

「降参しなよ、りっちゃん」

「誰がっ!」

蹴り、突き、柄落とし、しゃがみながらの足払い。
どんな攻撃の連携を組んでも唯にはカスりもしない。

「なら、仕方ないね」


72 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:23:36.37 OB8OCWUXO 30/117


「(来た……あの時の殺気だ)」ゾクッ

「やっとやる気になったか! 避けてるだけじゃ参ったって言わせられないからな!」

「こっちも取っておきを見せてやるよ!!!」

「……!」

突き、と見せかけた切り上げ、唯の顎先を僅かに掠める、が、唯は南蛮から伝わりしラジオ体操でこれを回避。
左の脇差しから胴体に向かっての斬撃、も南蛮から伝わりし紐を飛び越えて遊ぶ遊びにて回避。

ここで、唯は見た。
律の両手がクロスしていることに、そして手に持たれている脇差しはいつの間にか内側に刃が向いている。
そしてそれはちょうど唯の首を挟んだ辺りで静止している、

「妙技、戯露賃──」

「律やめろっ!!!!」


74 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:33:49.25 OB8OCWUXO 31/117


「参りました!」ゴツンッ!

「がっ……」フラフラ

「」バタン

「えっ……」

「あいたた……」

頭を擦りながら痛そうにする唯。
そう、簡単に言えばただ頭突きだ。

高速で謝った際の勢いがそのまま律のおデコにクリティカルを出し、一撃で昏倒にまで追いやった。

「……ふっ。参ったって言ったのは唯の方だけど、勝ったのは唯だよな」

「うーん……」

「そうだろ、律」

「澪ちゃん血出てない?!」

「血っ! ……は出てないみたい。良かった……」

「ねえねえ、りっちゃんどうしよう」

「うーん、とりあえず村に運ぼうか」


77 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:38:24.93 OB8OCWUXO 32/117


ドゴッドゴッドゴッドゴッ──

馬の足音が聞こえてくる……。

奴等だ、奴等がまた来たんだ……!

何もかも奪いに……。

お父さんお母さん聡ばあちゃんじいちゃん……。

これだけ奪ってもまだ足りないってのかよ……!


ドゴッドゴッドゴッドゴッ──

どんどん近づいて……

やめろ……こっちに来るな!

お願いだから……!

もう……何も奪わないでくれ……!!!!

…やめろ……やめろ……やめろ……

「やめろっ!!!」ガバッ

「わわっ! どうしたの!?」


78 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:43:49.18 OB8OCWUXO 33/117


「なんだ唯かよ」

「ずっと看病してたのになんだはないよー!」プンスカッ!

「誰のせいだよ。で、ここは?」

「村だよ。私達が依頼を受けた村」

「……ちょっと外見回っていいか?」

「うん。立てる?」

「ああ」


────

「こりゃ酷いな」
「そうだね……」

「……澪からどれぐらい聞いた?」

「……両親が野武士に殺されたってとこまでかな」

「全部じゃねぇか」

「なんであんなことしてるのかとか、好きな食べ物とかは聞いてないよ」

「金稼ぎ、団子」
「端的すぎるよぉ~」


80 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:48:52.96 OB8OCWUXO 34/117


「野武士に村を襲われて家族を失うなんてよくある話だ」

「……うん」

「だから強くなって、いつか復讐してやる、そんなこと思ってた時期もあった」

「うん」

「強くなって、でもそれは生きる為に必要なことじゃないことに気づいたんだ。
あの時の野武士を殺したってみんなが戻って来るわけじゃない、ならこの強さは生きる為に使おうって」

「そしたら?」

「ははっ、目標見失った。なにしたらいいのかわかんなくてただがむしゃらに生きてさ……でも唯にやられて気づいたよ。私もまだまだだなって」

「上には上がいるのが世の常だよりっちゃん!」イバリフンス!

「言ってろ」


81 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 20:56:36.85 OB8OCWUXO 35/117


「だからさ、これは復讐とかそんなドロドロしたもんじゃなくて、ただ強さを求める為に手を貸すだけだから」

「じゃあ!?」

「ああ、私も仲間に入れてくれ、唯。嫌とは言わせないぜ?」ニヒッ

「もちろんっ! よろしくね! りっちゃん!」

「よろしくな、唯」

目標は、まだない。

でもいつかそれを目指して生きられるような、そんなものを唯は持っている気がする。

だからごめん、お父さん、お母さん、聡、村のみんな。

死ぬまではもうちょっとだけかかりそうだ。
少なくとも、野武士との戦いでだけは死ぬわけにはいかないな!

敵討ちじゃなく、強さを追い求める為に、こんなとこで負けるもんか。


84 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:03:20.71 OB8OCWUXO 36/117


【四人目 田井中律】

二天一流の使い手。自由と柔軟な動きで脇差しを操り、思いもよらない変則的な攻撃を得意とする。
坂上げした髪の毛は前が見えずらくならないようにと施したものである。
元々農民の産まれだが、連続する戦いの中で侍以上の経験を得ており、その力は今ではこの辺りで三本の指に入る実力である。(澪談)
団子と澪だけが好き。(本人談)

愛刀 左 枝(シ) 右 零
部類 長脇差し


85 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:08:37.12 OB8OCWUXO 37/117


「お疲れさまお姉ちゃん!」

「この子が憂ちゃんか。ほんとだ、話の通りそっくり…」

「姉がお世話になってます」ペコリ

「じゃ、なかったね、うん」

「澪ちゃん酷ーい」

「へぇ……村を要塞化してんのか。兵法でも習ってんのか?」

「ええ、少しかじったぐらいですけど」

「憂ちゃんは凄いなぁ。お姉ちゃんと違って」

「うんうん」

「ああんっもうっみんな酷いっ!」

「お姉ちゃんは私なんかよりもっともっと凄いですから!」

「憂! こっちにおいで! なでなでしてあげよ!」
「わーい♪」

「出来た妹だ……」


88 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:14:11.76 OB8OCWUXO 38/117


「さて、憂を入れて四人になったけど……まだ足りない?」

「う~ん……こうパワフルさが足りないっていうか」

「澪は乳だけはパワフルだけどな!」

「全部小さいお前が言うな」

「聞きました奥さん? おっきい乳自慢ですことよ」ボソボソ

「私達に対するあてつけかしら」ボソボソ

「真面目にしろ!」

「パワフルさと言えば一つあてが……」

「奇遇だな……私もだ」

「私もだよ」

「へ? 何々?」

「唯……知らないのか? この辺りに伝わる夢牛伝説を」


91 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:22:07.80 OB8OCWUXO 39/117


その者、片手で牛の角を掴んで投げ飛ばす。
白昼夢の如しの剛力の持ち主である。

故に人はこれを──

「夢牛(ムギュウ)と呼んだ……って話」

「まさか実在するなんてな……噂が本当なら一人で野武士壊滅出来そうだな……」

「三つ先の山の村にいるそうですよ」

「三つ先か……ならだいぶ遠出になるな。その間に野武士が来ないか心配だ」

「大丈夫です! やつら決まって収穫日にしか来ませんから!」

「誰?」

「この村の子の純ちゃんです」

「お侍さんがひ~ふ~み~よ~てんぱ~のでいっぱいだ! って誰が天パーよ!」

「大丈夫かこの子?」

「きっと侍がいっぱいいるから感動してるんですよ! 純ちゃんは大の侍好きですから」


93 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:27:15.81 OB8OCWUXO 40/117


──

「さて、準備出来たか?」

「完了でありますりっちゃん将軍っ!」ビシッ!
「ようしそれでは幻の生物夢牛求めてゆくぞーっ!」

「おーっ!」

「この元気がいつまでもつやら」

「私はここを離れられませんから……」

「わかってる。唯のことは任せて」

「はい!」


「それじゃ~いってきま~す」フリフリ

「行ってらっしゃ~い」

「澪、私生きる目標見つけたよ」
「ほんとか?!」

「ああっ! 唯! 憂ちゃんく」
「駄目」

「私は何を目標にして生きて行けば……」
「いや、今でも十分楽しそうに見えるよ」


95 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:37:35.16 OB8OCWUXO 41/117


一日目

「山をこ~え~海を越え~」ヤンヤヤンヤ
「旅立つサームライどこへゆくー!」ヤンヤヤンヤ

「水はこまめに貯めといた方がいいな」

「憂のお弁当うんまぁ」ムシャコラ
「いい嫁さんになるぞ~あれは!」ムシャコラ

「(二人ともそれが三日分ってことわかってるのかな……)」

────

二日目!

「旅立つサームライ……どこいった?」
「さあ……」

「森に食べ物がないかもしれないし……明日に残しておいた方がいいな」

────

三日目

「侍さんよりごはんどこ……」
「唯、この葉っぱ結構いけるぞ……」

「初日にガツガツ食べるから……ほら、分けてあげるから葉っぱ食べるのやめなさい」


98 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:42:51.65 OB8OCWUXO 42/117


そうしてようやく……。

「つ~いた~よ~!」

「村だー!」

「じゃあ早速ムギュウについて聞いて回ろ」

「」バタン
「」バタン

「!? 二人ともどうした!?」

「……お腹いたい」ガクリ
「葉っぱ、毒、だったかな?」ガクリ

「唯いいいいりつううううううううう」

「大丈夫ですか!?」

「あ! 村の方ですか!? ちょっと運ぶのを手伝ってもらっても……」

ヒョイ ヒョイ
律 紬 唯

「(あんな簡単に肩に担いで……)」

「急ぎましょう! こっちです!」

「う、うん!(まさか、な)」


101 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:50:42.64 OB8OCWUXO 43/117


「うい~……イッツァライス~」

「夢にまで南蛮訛りなんて、よっぽど気に入ったんだな。私が教えた南蛮の言い方」

「みお~……団子~……ミタイナムネダナ~」

「おい、起きてるだろ」

「むにゃむにゃ」

「狸寝入りとはまさにこのことだな」

「お二人の体調はどうですか?」

「だいぶ良くなったと思います。特にこっちの黄色っぽいのには」ツンツン

「ふごぉ」

「ふふ、仲がいいのね。羨ましい」

「いやぁ……まあ、うん」

「そう言えばこんな辺境の地まで何をしに?」

「うん、実はムギュウを探しててさ」

「!?」


103 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 21:56:51.20 OB8OCWUXO 44/117


「そ、そうなの」アセアセ

「この村にいるって聞いたんだけど……」

「そ、そうかしら?」

「それで聞きたいんだけど……この村にスッゴい筋肉した明らかに剛力の持ち主!って感じの人いない?」

「」ガーン

「? どうかした?」

「いえ……何でもないわ」

「何でも家を吹き飛ばしたり大岩を投げて川を塞き止めたりも出来るって噂だからな。
さぞ大男なんだろうな~怖いなぁ」

「」プルプル

「ん?」

「むぎゅうえ~んっ!」メソメソ

「どうしたんだろ……?」

「やっちまったな」
「ですな」

「起きてるなら会話に混ざれよ」


105 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:02:28.95 OB8OCWUXO 45/117


「えっ!!!??? あの子が夢牛!!??」

「ああ」
「うん」

「ないない。背丈も私と変わらないぐらいの女の子が牛を片手で投げられるわけないだろ?
きっとこんなんだよ」

__________

ガチムチ「hai!」

_ ________
 V
 「怖い怖い怖い怖い」ガクブル

「おーい、戻ってこーい」


「私も最初はあり得ないと思ってたけど……持ち上げられた感触があの子が夢牛だってことを証明してたんだ」

「ああ……あれは凄かった。あれに止めさされたと言っても過言じゃないな」

「?」


106 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:10:05.92 OB8OCWUXO 46/117


「よいしょっ」

「ッ~─────」

紬が律を持ち上げた瞬間重力が逆行し、押し上げられ、未知の世界へのロードが開かれんばかりの衝撃が律を覆った!

「あそ~れ♪」

「フンゴォォォォッ─────」

唯が持ち上げられた瞬間、まるで闇空(宇宙)にまで垂直投げされるのではないかと言うぐらい持ち上げの早さそして空気圧!

「」チーン

_ ___________
 V
「ってことがあって」

「絶対夢牛だよそれどうしよう酷いこと言っちゃった!」

「謝りに行くしかないな」
「だよな……」

「」ポン
「唯……」
「投げられないようにね!」
「励ましのつもりかっ!」


107 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:18:23.94 OB8OCWUXO 47/117


「村長……私どうしたら」

村長「おまえさんは優しい子じゃ……話したらき~とわがってくれる」

「……こんな私でも……友達に、なってくれるでしょうか?」

村長「んだども」


\すみませーん/

\ごめんくださ~い/
        ガ
       \ス/
\投げられにきまV……すいません/

村長「ほら、迎えにきてくれただえ?」

「はいっ!」ムギュンッ

「今開けますね~」ドシャバキズスゥォォォ

律Σ扉紬
ゴスン───

ズサアアアアアア
律≡≡≡≡≡

「りつうううううううう」
「あ」「あ」


108 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:24:45.36 OB8OCWUXO 48/117


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「まさか扉に当たった勢いで10mぐらい吹き飛ばされるとは思わなかったよ……」

「りっちゃんそれ笑えないよ!」

「……ごめんなさい」

「ちゃんと謝ってるんだから許してあげなよ」

「もう気にしてないよ」

「……ほんと?」

「ほんとほんと」

「良かったぁ」ほっこり

「(唯と言いこの子と言い人は見た目じゃわからんもんだな)」

「さっきはごめんね。その……知らなかったんだ。ムギュウが女の子だなんて」

「ううん。気にしないで。当然のことだもの」


110 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:34:34.51 OB8OCWUXO 49/117


「私は琴吹紬。よろしくね」

「平沢唯だよ!」
「秋山澪、よろしく」
「田井中律だ、よろしくな」

「唯ちゃんに澪ちゃんにりっちゃんね! 私のことはムギって呼んでね!」

「ムギュウは駄目なのか?」

「……ムギって呼んでほしいの。駄目?」

「いーや、駄目じゃないよ、ムギ」

「ありがとうりっちゃん♪」

「(機嫌良さそうだね」
「(ああ。この分だと野武士撃退に協力してくれそうだな」

「(よし!」

「ムギちゃん、その力を是非私達に貸してください!」

「?」


111 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:42:59.47 OB8OCWUXO 50/117


────

「そう……村が野武士に」

「うん。それで今屈強な侍を集めているんだよ!」

「ここから山を三つ越えたところなんだけど……」

「頼む! ムギがいれば百、いや千人力だ!」

「……」



「ごめんなさい、行けないわ」

「……どうしても?」

「うん……。ここのみんなを置いていけないもの」

「そうだよな……ここだって野武士が来ない保証なんてないし」

「うん……しょうがないよね」

「ああ。他を当たろう」

「……(あなた達も結局力だけしか見てくれてなかったのね……。
本当の友達になれると思ってたのに……)」


112 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 22:54:01.26 OB8OCWUXO 51/117


村の入口

「本当にごめんなさい……これ、私が作ったお菓子なの。後、こっちがお弁当」

「何から何まで悪いな」

「世話になったよ」

「じゃあね、ムギちゃん!」

「うん」

さよなら、私の初めての友達になってくれそうな人達……。

小さく手を振りながら、三人を見送る。

せめて、無事だけでも祈ろうと目を閉じた時だった。

「また来るからね~」
「ああ! 野武士を倒したら報告しにいくよ!」
「それまでこの村ちゃんと守るんだぞ~」

「えっ……」

涙が、溢れた。
わからないのに、自然と溢れてきた。
違うの、わかってるけどわかってないの。

彼女達は、私の力なんて関係なくまた会いに来てくれると言っているんだ、それがわかった時、私は声を出して泣き始めた。


114 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:01:55.50 OB8OCWUXO 52/117


「ムギュ……クスンムギュ……」

村長「紬、行ってやりなさい」

「村長!? でも……」

村の子供「ムギねーちゃんがいなくたってこの村は俺達が守ってやるよ!」

村の子供「だから心配せずに行ってきて!」

村の子供「ムギュパワー見せてやれームギュギュギュギューン」

「みんな……」

村長「これを持っていけ」

ドサッ

「これは……」

村長「斬馬刀……馬すら一刀両断すると言われている太刀じゃ。今のお前さんなら使えよう」

「ありがとう村長! みんな! 私、この力じゃなく私自身を必要としてくれてる人達のところに行ってくるね!」

「ううん、まどろっこしい言い方はやめにしましょう」

「友達を助けに、行って来ます!」


117 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:10:29.86 OB8OCWUXO 53/117


────

「はあ……惜しい人材を逃したな」

「それは言わない約束だろう?」

「ムギちゃんはムギちゃんの、私達は私達の戦いをしよう。大丈夫、きっとまた会えるよ!」

「全部終わった後にな!」

「ああ」


ドスンッドスンッドスンッ

「な、なんだ!?」

「地震?!」

「見ろ! 木が何かを避けてる!!!」

「違うっ! 避けてるんじゃない! 当たったと同時にへし折れてるんだ!!!」

「みんな~待って~」バキドサグシャズスゥォォォ

「待つから! 待つからその背負ってる刀を縦に持って! 木引きずってるから!」


118 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:18:13.24 OB8OCWUXO 54/117


【五人目 琴吹紬】

巷で噂の夢牛ことムギ。
実際のところ震源地はムギが足の悪い牛に餌をあげる為に持ち運んだのを村に来た商人が見たのがきっかけなそうな。

本当は心優しく動物を投げ飛ばしたりすることなど絶対にしない、が、友達と村人の為なら心を鬼とし、野武士を狩る牛鬼と化す……かもしれない。
しかし、夢牛の伝説は遥か昔からあったと明記されているが……他に彼女のような剛力の持ち主がいるのだろうか。

愛刀 村長の斬馬刀
部類 斬馬刀


120 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:25:25.56 OB8OCWUXO 55/117


「これで五人……もう戦えるよね! 憂!」

「う~ん……」

「まだ駄目か……」

「この村には北、南、東門がありますから最低でも6人は欲しいんです。
2人づつ配備する予定なので」

「ってことは後一人か……」

「一気に5人も友達が出来るのね!」

「後一人……。仕方ない、あの人に頼ろう」

「お姉ちゃん……でも、来てくれるかな?」

「きっと来てくれるよ……和ちゃんなら!」


123 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:33:53.53 OB8OCWUXO 56/117


────

「まさかあの真鍋和と幼なじみとはな~世間ってやつは狭いもんだ」

「この辺りでもっとも強いと言われている侍……真鍋和、か」

「みんなが言ってたのって和ちゃんのことだったんだ~。確かに昔から強かったよ~」

「でも今は将軍のお抱え侍だろ? こんな野武士討伐なんかに出てきてくれるのか?」

「さあ?」

「さあって……」

「友達と城下町歩くなんて夢みたい!」

「興奮してほんとに白昼夢起こさないようにな」

「あ、見えてきた。あそこだよ。真鍋和の本家」


124 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:39:59.70 OB8OCWUXO 57/117


「ごめんくださ~い」

「どちらさま……あら、唯。久しぶりね」

「ヤッホー」

「何の用かしら?」

「野武士退治手伝って!」

「わかったわ」

「ありがとう和ちゃん!」

「ちょっと待っててね。準備してくるから」

「はーい」



「って待て!!!!」

「ほぇ?」
「なにかしら?」


127 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:50:15.59 OB8OCWUXO 58/117


「話つくのが早すぎだろ!」

「ほら、将軍のお抱え侍だから無理なの……的な展開は……」

「ないわね」

「さいですか……」

「幼なじみだからね!」ブイッ!

「いいなぁ~。私も唯ちゃんと幼なじみなりたぁい♪」

「ムギ、幼なじみは……いや、何でもない」

「実は野武士にはこっちも頭を悩ましているのよ。村が荒らされたら年貢が減るから上も焦って討伐隊組んだもののお付き侍ってプライドだけは高いから全く動かないのよ。
ほんとは野武士にビビってるのね、あーやだやだ」

「何か大変そうだな……」


131 : 以下、名... - 2011/06/05(日) 23:55:44.60 OB8OCWUXO 59/117


「というわけでこちらとしても好都合なわけなの(唯も心配だしね)。野武士討伐、ご一緒させてもらうわ。
真鍋和よ、よろしく」

「よろしくね!和ちゃん!」
「よろしく」
「よろしく……」
「よろしくねっ!」

「ええ」

「これで六人揃ったよ!」

「いよいよ野武士と戦うのか……緊張してきた」ガクブル

「けっ、野武士の10や20私が一人で蹴散らしてやるよ!」

「みんなは私が守るわ! 友達だもの!」

「さあ! 決戦の時だよ!」




梓∥じ~

「侍……!」


134 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:07:25.70 tipSFitiO 60/117


【六人目 真鍋和】

将軍の付き人侍。この辺りでは和に並ぶものなしと言わせる程の実力。
将軍の夕食時、ハエが飛び待っていたため切り落とせと命じられ、居合い一閃、一発で切り落とし、死骸を味噌汁の具の一つにしてしまったのは余りにも有名。

赤いフレームの眼鏡と、袴姿がとても良く似合うため、影にファンクラブが出来る程の人気があることを本人は知らない。

愛刀 唯命(ユイメイ)
部類 長覆輪大太刀


135 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:12:08.31 tipSFitiO 61/117


「おかえりお姉ちゃん!」

「おかえりなさい皆さん!」

「ただいま憂! 純ちゃんもふもふ~」
「ひゃあ~」

「ん~っ!」

「あら、お姉ちゃんをとられて嫉妬かしら?」
「和ちゃん!!! 来てくれたんだね!」

「唯と憂の頼みじゃ断るわけにはいかないもの」

「ありが……あっ」
「会いたかったわ……」ぎゅっ


「……なんだろう、この疎外感」
「わ、私はしないからなっ! はしたないっ!」

「誰がしたいって言った!」

「ちょっと行ってくるね!」
「まてぇい!」
「むぎゅっ!?」

「抱き締めるのはいいけど力加減を考えような、ムギは」
「そんな興奮して抱き締めたら中身出ちゃうよ……」


138 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:18:56.61 tipSFitiO 62/117


「全くなにやってるんですか。敵の予想侵攻ルートの作成は?」

「わ、わたし?」

「そうですよ。眼鏡つけてるんだからそういうの得意でしょ?」

「え、ええ……まあ」

「そこの頭もふもふしてるのは村人の陣形チェック。急いで」

「は、はいっ!(あれ? こんな人いたっけ……)」

「あなたは私と一緒に作戦会議」

「え? えっと……」

「後は野武士退治に向けて素振りでもしててください。じゃ」

「じゃ、じゃないだろ!!! てかお前誰だよ!」

「いつの間に仲間にしたのか?」

「いえ……さっきお姉ちゃん達と一緒に帰って来てたから新しい仲間の人かなって思ってんですけど」

「私達も憂ちゃん達も知らない……じゃあお前はなんだ!!!」

「よくぞ聞いてくれました……私こそが、七人目の侍!」

「中野梓です!!!」デデーン


141 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:25:30.79 tipSFitiO 63/117


「んん~ちっちゃくて可愛い~」ぎゅ~

「や、やめてくださいっ! こちとら侍ですよ!? なめんなやがれですっ!」モガキモガキ

「……どうする?」

「どうするって……」

「侍ならいいんじゃない? 人は見掛けによらないし、案外この子も凄いのかも」チラッ

「?」ニコニコ

「ふん、この梓流剣術さえあれば野武士なんでズバババーンですよ!」

「まあ得物だけはデカいな」

「長干しか、身長よりあるんじゃないか? それ」

「へっちゃらですよこのぐらい! なめないでください!
侍ですから! 私!」

「」クンクン

「おかしいなぁ~あずにゃんからはお米のいい匂いがするんだけど」

「に゛ゃっ」


144 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:31:41.45 tipSFitiO 64/117


「……ちょっと刀抜いてみろ」

「よ、余裕ですよこのぐらい!」

「ふんぬ~」

「頑張って!」

「はい! ありがとうございます!」ペコリ

「律義だな」

「ぬんふぅは~ていや~抜けろ~こんにゃろ~んしょぉ!」

「もうちょっとよ! 頑張って!」
「頑張れ!あずにゃん!」
「がんばって梓ちゃん!」

「よいこらしょ~こにゃろ~ふんしゃ~~~~んにゃあっ!」スポン

「どうですか!」ヘヘン

「凄いわ!」パチパチ
「よくがんばったねあずにゃん」パチパチ
「偉い偉い」パチパチ

「えへへ」

「えへへじゃねぇよ!!! 戦場なら5太刀は浴びてるぞ!!!」


147 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:36:25.65 tipSFitiO 65/117


「さすがにちょっと……な」

「小太刀を渡せば使えるってレベルじゃないわね」

「そ、そんなこと言うなら眼鏡の人やってみてください! これすんごく重くてくねってて抜きにくい」

「」スサッ ザンッ チャキン

「刀はいいわね」

「ひゅ~カッコいい~」

「あれが居合いかぁ~」

「惚れ直したよ和ちゃん!」

「和ちゃんカッコいい~」

「凄いわ~」

「ぐぬぬぬ」

「ケラケラケラ」

「ガミガミガミ!」

「ふーん」

「ぐっ……農民にもバカにされるとは……! こうなったら……!」


148 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:41:25.81 tipSFitiO 66/117


「仲間に入れてください」ヒラニー

「次は土下座か……なんと言うか忙しいやつだな」

「デコ八は黙ってやがれです!」

「デコ八?!」

「ぷふっ」

「笑うなー!」


「どうかお願いです……私を七人目の侍として認めてください!」

「どうしてそんなに侍になりたがるの?」

「農民じゃなにも得られない……守れない、ただ失って行くだけだからです。私は……強くなりたいんです!!!」

「(こいつ……昔の私そっくりじゃないか)」

「斬り斬られる覚悟は出来てるの? ここにいるみんな遊びでやってるんじゃないんだよ?」


150 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:46:52.56 tipSFitiO 67/117


「……出来てます!」
「……どうしよう」

「私は反対ね。変に関わって死なれたら後が悪いわ」

「私も反対かな。もっと別な生き方があると思うんだ」
「私も反対です。危ないから……ね?」

「……」
「私は」

「」パァァ←味方してくれてたから期待してる人の図

「反対ね」

「」ガックシ←裏切られて落ち込む人の図

「こんな危ないこと、出来るなら関わって欲しくないわ」

「じゃあ反対多数で……」

「そんな……私にはもうこれしか」

「待ってくれ」

「!!?」

「りっちゃん?」

「私はこいつを入れてもいいと思う」


152 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 00:54:14.01 tipSFitiO 68/117


「理由はあるの?」

「この戦国時代ってのは力がすべてだ。ないものはただ失って行くだけ……ここでこいつが一人になっても死ぬだけだ」

「っ……そんなこと!」

「どのみち死ぬならここで死ね」

「!!!」

「……」

「いくらなんでも酷すぎじゃ……」

「ううん、違うの。律さんの言いたいことは」

その場の全員がもし農民ならその言葉の意味を間違えて解釈していただろう。

律が言ったのはそんな簡単なことではない。

ここで死ぬようならどのみち死ぬ、ならばここを生き抜いてこの時代を生きて見せろ、と言う意味合いが込められていた。

「……ハイッ!」

この意味がわかった瞬間、もう彼女は侍になったのかもしれない。


153 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:02:09.01 tipSFitiO 69/117


【七人目 中野梓】

元農民。侍になるために旅をしているところで唯達を発見し、仲間になろうと決意する。

体に似合わぬ大太刀は父親が戦場から拾って来たものを持ち出した。
両親共々野武士の焼き討ちに合い死亡している。

籠手を額に巻き付ける格好をよく取るが頭が小さい為すぐにずり落ち、首飾りとなっている。

愛刀 無丹(ムッタン)
部類 大太刀


155 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:11:04.17 tipSFitiO 70/117


そして、いよいよその時が来た────

「今日が収穫日……来るなら間違いなく今日です!」

「作戦開始するよ!」

「うん!」「いよいよか」「ああ」「頑張らなきゃ」「腕が鳴るわね」

「澪さんと和さんは北口に! 紬さんは南に! 火縄銃があるかもしれません! 十分注意してください!」

「わかった」
「任せて」
「火縄がなんぼのもんじゃ~い」

「私は?」

「お姉ちゃんは私と一緒に東口だよ! 律さんは梓ちゃんと合流したら西口に!」

「了解だよ!」

「わかった」

「私達も頑張りますから皆さんもがんばってくださいね!」

「あの時の白ご飯の恩義……今日返すよ!」


156 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:14:34.64 tipSFitiO 71/117


バカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッバカラッ

「怖がるな……!」

私が怖がったらみんなが後に続けない!

ムギ先輩に作ってもらった旗を地面に深く突き刺す。

行けっ! 私っ!

「きやがったですきやがったですきやがったですーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

「やってやるです!!!!!」


157 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:21:12.73 tipSFitiO 72/117


野武士「村が……あんだありゃ?」

野武士「城みたいになってやがる……」

野武士の頭「構うもんか!!! 突撃だ!!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」



「あんなに……」

「もうビビってんのか?」

「そ、そんなこと……」

「覚えとけ、弱いやつほど良く群れるんだよ。そして、強いやつほど孤独を好む」

脇差しを抜刀し、修羅像のように構える。

「私達は……?」

「さ、どっちだろうな!」

律が馬の軍勢に突っ込んで行く。
分隊してるとは数は優に20を越える。


159 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:28:44.66 tipSFitiO 73/117


野武士「バカが一人突っ込んで来てるぞ!」
野武士「生意気に刀なんか持ってやがる!!! 首を飛ばせ!!!」

律と野武士、その距離実に30m。どっちも接近し合いの片方が馬ならほぼ距離はないと言っていい。

「首が飛ぶのはどっちかな!」

その時、律が片方の脇差しを深く地面に突き刺した。

野武士「見てみろよあれ。落っことして抜けなくなったか~? 」

笑いながら突っ込んで来る野武士達、完璧に小兵の律がこちらに手出し出来るわけがないとタカをククっている。

が、その慢心が命取りとなる。

「妙技……」

律は地面に刺さった脇差しの柄を踏みしめ、

野武士「なっ」

空高く飛び上がった──

「馬跳び」

すれ違い様に首が二、三個鮮血を撒き散らしながら飛ぶ。

「首が飛ぶのはあんたらだったな」


161 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:35:51.59 tipSFitiO 74/117


「凄い……あれが……侍」

馬に乗っている野武士相手に次から次へと斬り伏せ、返り血が頬にかかるのも気にせず、ただ己の命の為に敵を斬る。

「私には……やっぱり無理だよ……こんなこと」

足が震える、喉がカラカラに渇き今すぐここから逃げ出せと脳が信号を送り続けてくる。


「でも……逃げたらほんとに侍じゃなくなっちゃう」

「だから!!!」

大太刀のムッタンを抜き出し、両手いっぱいに握りしめ駆け出す。

「うああああああ!!!!」

私を侍にしてくれるチャンスをくれた律先輩を守る為にも、絶対に逃げるわけにはいかない!

「どのみち死ぬならここで死んでやるです!!!」


166 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:45:33.10 tipSFitiO 75/117


南口──

「来たわね……」

「……思ってたより数が多いです。大丈夫ですか?」

「ええ。問題ないわ」

「私達も矢で援護しますから! ご武運を!」

「これが終わったらなにしようかしら。みんなでピクニックとかいいかもしれないわ」

一人佇んだ紬の先には数十騎の野武士。

野武士「どけぇ変眉が!」

野武士「構わねぇ! このままひ殺してやる!!!」

「まあ終わってから考えましょうか」

紬は思いきり地面を蹴る──

ヒヒィンッ ブルルル キョォンッ

軽い地震のようなものだが、馬はそれにも敏感に反応し、慌てふためく。乗っていた野武士達はたまらず次々と落馬していく。

「馬に罪はないものね」

斬馬刀を抜き、鞘を投げさる。その鞘がぶつかった衝撃で木がメキメキと音をたてながら折れて行くのを見て、野武士達はただ顔を青らめることしか出来なかった。


167 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:53:46.72 tipSFitiO 76/117


北口──

「ここが一番数が多いらしいわ。死なないでね」

「私は誰も殺さない、そして自分も死ぬつもりはないよ」

「逆刃刀……ね」

「今まで打ってきた中の一番の自信作だよ」

「以前私はあなたの店に買いに行って断られてるの、覚えてる?」

「断った客はあんまり覚えてないかな」

「そう……。その時私悔しかったのよ。一流の私の刀を作れるチャンスを蹴るなんてってね」

「それは悪いことしたな」

「この戦いで今の私が刀を打つに値するかどうか、見てくれない?」

「その余裕があればね」

「50かそこらってとこかしら、別に大したことないわよ」


168 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 01:58:00.73 tipSFitiO 77/117


乱戦に継ぐ乱戦。

後ろを取られないように移動を重ね間合いを測り牽制を繰り返す。

紬の地震で馬は逃げてしまった為に全員白兵戦の状態だが、2対50ではさすがに部が悪い……。

「囲まれた……か」

野武士「覚悟しろや!」
野武士「こいつ真鍋和だぞ! 将軍侍の!」
野武士「首を取れば名が上がるぞ!!!」
野武士「その首もらいうけるうううううう」

「うるさいハエね。今楽にしてあげるわ」

そういうと、静かに柄に手を当てる。


169 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:04:19.12 tipSFitiO 78/117


和を囲むように10人、一斉に斬り殺しに来る野武士。

野武士「しねやあああああああ」

チンッ────

音が鳴った─────

よく聞いて無ければ何の音なのかもわからないぐらい小さな音。

この戦場の中でそんな微かな音など拾う価値もない、

「秘剣……」

それが和が刀を抜き、鞘に入れた音じゃなければ。

囲んでいた野武士達の胴体が一斉にずり落ちる。

「風車(かざぐるま)」


171 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:09:46.53 tipSFitiO 79/117


「和大丈夫かな……」

野武士「おらっ!」

「ぐっ!」

野武士「なんだなんだそのなまくらは!? 農民はまともな刀さえ持てないのかァ?」

「農民も侍も関係ないっ!」

「善と悪、ただそれだけだ!!!」

野武士「何を偉そうに!!! てめぇらなんぞ俺らの肥やしでしかねぇんだよっ!」

「刀を……」

野武士「あっ?」

「刀を汚すなっ!」

首筋を思いきり逆刃刀で強打。これにはたまらず野武士も昏倒する。

「あっ……」

野武士「後ろとった!」

「しまっ」

「はあっ!」ザンッ
野武士「ぎゃあああああ」


173 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:15:49.14 tipSFitiO 80/117


「助かったよ!」

「そんなに死んだか死んでないかが心配?」

「うん。唯と約束したからな。不殺の道を行くって。だから見せてやるんだ、刀は人を殺さずともいいってことを」

「理想ね。でも悪くないわ。せっかくの戦国時代だもの、夢は大きく楽しまないと」

二人は自然と背中を合わす。
四方八方にいる野武士を迎え討つために。

「ああ! 夢はでっかく行こう!」

野武士「うしゃらあっ!」
野武士「ひゃっはっ!」
野武士「うひゃっ!」

「死ぬなよ」澪和「そっちこそ」


174 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:20:26.87 tipSFitiO 81/117


「弓三番四番、うてーーー!」

ヒュンヒュンヒュン

「次はえ~と」

村人「純! 敵がこっちに向かって来るぞ!」

「えっとえっとこういう時は……!」

野武士「うおおおおおおおお」

「そうだ!!! 竹槍を全面に!!!」

村人「よっしゃあ!!!」

突き出された竹槍に次々と串刺しにされてゆく野武士達。

「純ちゃん作戦針ネズミ! 参ったか野武士!」


175 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:28:54.84 tipSFitiO 82/117


数は圧倒的に多かった野武士側だが、七人の侍と村人の思わぬ反撃に合い、その数を半数以下に減らしていた。


野武士の頭「どうなってやがる!!」

野武士「それが……北口にはあの真鍋和が、南口には怪物みたいな強さのやつが……あれはもしかしたら夢牛なんじゃ……それに西にも刀狩りがいて全く中に入れないんです!
村人のやつらも妙に連携組んでやがるし……」

野武士の頭「泣き言はいい!!! たかが七人の侍と農民の村人にやられてみろ!
末代までの恥だぞ!」

野武士「しかしお頭……」

野武士の頭「ちっ……俺が行けばそこは落とせるが後が続かん。
囲まれて終わりだ。
何とか一回の突破で村の物を根こそぎ奪える方法が……あるじゃねぇか」

野武士「えっ?」


177 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 02:47:05.24 tipSFitiO 83/117


東口

野武士「なんだこいつ! 攻撃があたらねぇっ!」

「唯我独尊流は唯我独尊流を極めたものにしか当てられないよ!」

「さすがお姉ちゃん!」


モクモクモク……


野武士「狼煙……ちっ、撤退か」

ぞろぞろと引いてゆくのように戻って行く野武士達。

「撤退……? ってことは」

「うんっ! やったよお姉ちゃん! 私達の勝ちだよ!」

「うん……」
「どうしたの? 嬉しくないの?」
「嬉しいけど……妙に引き際が良すぎるような……」

「確かにそれは気になるね……。でも勝ちは勝ちだよ!
一旦村に戻ってみんなと合流しよう!」

「そうだね」

「(胸騒ぎがする……なんでだろう)」


181 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 03:34:54.26 tipSFitiO 84/117


南口

南口は地獄と化していた。地面はひび割れ、龍でも現れたかのような爪痕が地表を抉り木は何本も薙ぎ倒されている。

野武士「やったぞ! 撤退だおまえら!」
野武士「生き延びた! 生き延びたんだ!」

狼煙を見て嬉々とした声をあげながら戻って行く野武士達。

「撤退……諦めたのかしら?」

引いて行く野武士を見て気を緩めたのか、ゆっくりと斬馬刀の鞘を取りに向かう最中だった。

野武士「(喰らえ化物!)」

シュゥゥゥゥ……


「ムギ先輩、どうやらあいつら撤退したみた……」

パシュンッ──

「あっ……」

種火が降り、火薬の爆発の勢いで鉛を飛ばしつける。

この火縄銃が、ムギの体に傷をつけた最初で最後のモノとなった。


184 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 03:41:24.33 tipSFitiO 85/117


北口

「はあ……はあ……はあ……」

「ふう……はあ……ふぁ……」

二人とも肩で息をしながらギリギリ立っている。
野武士の撤退をキッチリと見届けた後、背中合わせのまま地面にへたりこんだ。

「生きてる……あははっ! 生きてる!」

「あの数に囲まれて尚、不殺とはね……恐れ入ったわ」

「こうしてる場合じゃない! 早く合流……の前にここでノビてる野武士を縄でしばらないと!」

「手伝うわ」

「ありがとう!」

「他のみんなは無事かしら」

「きっと大丈夫。私達七人は何があっても欠けない……何故かそんな気がするんだ」


185 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 03:53:45.48 tipSFitiO 86/117


西口

「おうらあああっ!」

まさに回転剣舞と言わんばかりの剣幕。

野武士の腕や足を容赦なく切り落とし、その度に鮮血を浴びて行く。

「律先輩……」

「ひゃっはっは!」

「ひぃっ」

明らかに死んでいる死体をほじくり回すように刀で突き込む。

「次はどいつだ!!!」

そう高らかに吼えるも、そこにいた野武士は既に全滅していた。
地面に転がる無数の残骸がその激しさを物語る。

「もう敵はいませんよ……帰りましょう?」

「……おっ」

その時律の目に入ったのは梓ではなく、撤退してゆく野武士達だった。

「逃がすかっ!!!」ダッ

「律先輩っ!!!」


186 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:03:07.40 tipSFitiO 87/117


律は、血を浴びすぎて、或いは殺しすぎて、もしくはその両方で感情のヒューズが飛んでしまっている状態だった。

「こいよオラァッ!」

強い自分に酔っているという見方出来る。

野武士「こいつ……!」

野武士「てめぇ!」

後ろを取られあっさりと一太刀浴びる、鎖帷子を着ていた為致命傷ではないが、これで足は止まった。

「あっ……?」

上手く足が動かないと言った様子で自分の足を眺める律。

何時間も一人で、梓をも守りながら野武士20人以上を相手に戦って来たのだ。
体に影響が出ないわけがなかった。

野武士「もらったあっ!!!」

首を掬い上げるような軌道で刃が迫る。

「嘘……だ」


187 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:10:21.23 tipSFitiO 88/117


ガキィィッ──

「死なせませんからっ!」

「梓……?」

大太刀を持って割って入ったのは紛れもない梓だった。
律の真横に刀を打ち立てるようにして斬撃を防ぐ。
まともに振れない彼女唯一取れた方法と言えるだろう。

野武士「すっこんでろ!!!」

「あ゛っ……」

鳩尾を蹴られまともに息が出来ないまま地面に踞る。

野武士「じゃあな」

虫でも殺すかのように容赦なく降り下ろされる太刀。

「ごめんなさい……」

ザクッ───


189 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:15:33.54 tipSFitiO 89/117


血を撒き散らしながら何かが宙を舞う。

首……。










いや、それにして長い……何か。


「謝るのは私の方だよ、梓」

「律先輩……っ!」

梓が悲壮あげるのも無理はなかった。

律の右腕はごっそりとなくなっており、見るも無惨になった切り口から血が吹き出している。

宙を舞っていたのは梓の首ではなく律の右腕だった。


191 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:26:59.06 tipSFitiO 90/117


────

なにやってんだ……私は。

ざまあないな……強くなった気でいて……強さ追い求めるなんて目標作って生きてるのに必死なふりして……結局はこのザマかよ。

数秒後、あの刀が私の首を跳ねるだろう……それで何もかも終わりだ。

約束守れなくてごめんな……。

ガキィィッ──

「死なせませんからっ!」

「梓……?」

あんなに臆病で人一人斬れない梓が、私を助ける為に野武士の群れに来てくれたと、気付くまでにずいぶん時間がかかった。

わがままで身勝手で一人での垂れ死ぬのがお似合いのこの私を……。

「ごめんなさい……」

謝るなよ、謝るのはこっちなんだから。

刀は、持ってない。

探して持ち直す時間もない。

他に太刀を止める方法は……これしかないよな


193 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:45:39.57 tipSFitiO 91/117


──

「鎖帷子を着こんでて良かったよ。私の腕で勢いが止まってくれて……ほんとに良かった」

「何がいいんですか……大事な右腕が……もう……」

その先はもう言葉にならない。

「右腕一本で梓を守れたんだ、安いもんさ」ニコ
「!!!」

野武士「なにごちゃごちゃぬかし──」

「喋らないでください」

地面に刺さっていた大太刀をいつの間にか抜き出し、野武士の顔面を側面から殴り倒す。

野武士「てめがっ……は……」

後ろを見ずに突き込んだ大太刀が見事に野武士の腹を抉っていた。

「早く手当てしないと!」
「ああ……そうだな」

梓は律の肩を一生懸命担ぎながら村へと向かう。

「これでようやく……本当の七人の侍、だな」
「そんなこと言ってる余裕あるならもっと走って!」
「へいへい」


194 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 04:55:00.25 tipSFitiO 92/117


──

「りっちゃん……」

「たかが腕一本なくなったぐらいでわめくなよ」

「でも……」

「そんなことよりムギは……? さっきから顔見てないんだけど」

「……ムギは」
「くっ……」
「……ムギちゃんはっ」

「まさか……っ」

ダッダッダッダッ

「りっちゃん大丈夫!!!??」

「うわっ、ちょっ、大丈夫だから! 変なとこ触るなって……の……ん」
「そこまでですムギ先輩! 律先輩は重症なんですから!」

「でも……腕が……りっちゃん」

「そんなことよりムギ! 無事だったんだな! 良かった……ってお前ら!」

「誰も死んだなんて言ってないだろ~?」
「和はなんかくっ……とか言ってたろ!」
「私はくしゃみを我慢しただけよ」


221 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 12:22:34.15 tipSFitiO 93/117


「でも普通なら死んじゃってるよ! 火縄銃を受けてあんな軽傷なのはムギちゃんだけってこの村のお医者さんも言ってたし!」

「全くどんな体してるのやら」

「でも凄い痛かったのよ? あんなに痛かったのは村長に叩かれた以来だもの」

「火縄銃と同じ威力の平手って……」



「律先輩」

「なんだ?」

「痛くないですか?」

「痛いに決まってんだろ」

「ですよね……」

「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ」

「……あの」

バタンッ

「大変です!!!! 」


224 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 12:36:50.22 tipSFitiO 94/117


「そんな慌ててどうしたの純ちゃん?」

「さっき村に矢文が来たんですが……その内容が、これなんです」

「なになに」

『そなたらの作戦、力量、敵ながら天晴れであった。
しかし、こちらもこのまま引き下がるつもりはない。来季の収穫の際には他の野武士と合流し、500の大軍で村を襲うだろう』

「500……」

「はったり……かどうかは微妙なところね。実際この辺りにはかなりの数の野武士がいるから。
もしそれらをまとめられる器の頭なら、有り得るわね」

「500……そんな人数で来られたらどうしようもない……」

「続きがあるよ」

『しかし、それはこちらとしても不本意。仲間を失ったこの借りは自らの手で返したい。
よって代表同士の一騎討ちを申し付ける。我が勝てば村の収穫物は根こそぎ頂く。そちらが勝てば二度と村に手を出さないと約束する。
時間は明朝6時、場所は村の西口にて。
まさか逃げるような腰抜け侍ではあるまいな?』


225 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 12:44:01.12 tipSFitiO 95/117


「野武士の頭、だって」

「こいつ偉そうですよ! なんかもう偉そうですよ!」

「一騎討ちとは古風なやり方ね」

「来たらみんなでボコボコにしちゃいましょう! りっちゃんの腕の敵よ!」

「いや、それは駄目だ」

「なんで!?」

「胡散臭いとは言えあっちは一騎討ちを望んでる。それを袋叩きにするなんて侍の名折れじゃないか」

「そうだよ、侍は何より威風堂々じゃないとね!」

「じゃあ私が行ってミンチにしてくるわ!」

「ほんとになりそうだから怖い」

「みんな……ここは私に任せてくれないかな?」


227 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 12:55:13.49 tipSFitiO 96/117


「唯……」

「もとはと言えば私が受けた依頼、最後に褌を締めるのは私だと思うんだ!」

「……そうだな。私は文句ないよ。今までずっとその背中を見守って来た。最後までお前を信じるよ、唯」

「ありがとう、澪ちゃん」

「私が負けたのは唯我独尊流の使い手ただ一人だ。文句なんてあるわけもない。蹴散らして来い、唯」

「うんっ! りっちゃんの腕の敵は任されたよ!」

「本当は私が行きたいけど……唯ちゃんになら任せられるわ。友達を信じて待つこともまた侍よね!」

「ありがとう、ムギちゃん。ムギちゃんの村が野武士に襲われようものなら私はどこからでも駆けつけるからね!」


228 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:01:24.73 tipSFitiO 97/117


「私は勿論文句なしよ。多分この中の誰が行っても負けることなんてないと思うけどね」

「それって……」

「見ればわかるわ。もうあなたは立派侍よ、梓」

「……はいっ!」

「私も唯先輩に任せます。皆さんが信じた腕、どれほどの物かこの目で確かめさせてもらいますからね」

「ありがとう、和ちゃん、あずにゃん」

「やっちゃってください唯先輩!」

「任せて!」グゥ~

「その前に……」

「ごはんだよ! お姉ちゃん!」

「おおっ! ナイスタイミングだよ憂!」


229 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:08:26.14 tipSFitiO 98/117


「うまうま」モシャモシャ
「新米か、美味しいわね」パクパク
「なんたってこの村のお米ですから!」ムシャリムシャリ

「律先輩、あーんしてください」
「出来るか! んな恥ずかしいこと!」

「でね、おにぎりを作るといつもお米がつぶれててあんまり美味しくないの。お餅をつくのは得意なんだけど」モグモグ
「こう赤ん坊を触る時みたいにしたらどうですか?」モグモグ

「刀が侍の魂なら、米は農民の魂だな」モグモグ

「一粒残さずいただきます!」モシャコラモシャコラ


230 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:14:58.03 tipSFitiO 99/117


「……さっきからなにやってるんだそれ」

「これ? ふふふ、実は同じごはんでも味が違うのです!
だからごはんに合うごはんとごはんを一緒に食べてるんだよ!」

「ははっ、まるでごはんはおかずだな」

「そうだよ! ごはんは主食でありおかずでありみんなを結ぶ絆でもあるんだ!」

唯はごはんを天に掲げる。

それを見た他の侍達も同じくそれを天に掲げ、唯の言葉を待つ。

「この一杯のごはんから始まった絆に」



七人の侍+純「乾杯っ!!!」


231 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:20:41.46 tipSFitiO 100/117


明朝6時

野武士の頭「逃げずに来たようだな。お前が代表か(てっきり真鍋和が来ると思ってたが……)」

「そうだよ。一騎討ちの前に約束を確認しよう。私達が勝てば今後この村、引いてはこの辺りの村全体に手を出さないこと」

野武士の頭「多少変わってるが、まあいいだろう。ここ以外興味はない。俺が勝てば村の収穫物は全てもらう、そして七人の侍全員打ち首とする、いいな?」

「これでおあいこだね。わかったよ」

野武士の頭「刀を抜け、日が出た時が開始の合図だ」

「私はこのままでいいよ」

野武士の頭「ちっ……舐めた野郎だ」


233 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:27:22.02 tipSFitiO 101/117


「なんか勝手に追加されてるけど大丈夫なんですか!?」

「唯が負けたら全員打ち首、みんなで仲良く死ねるならそれも悪くないわね」

「悪いですよ!」

「大丈夫。唯ちゃんは勝つわ!」

「ですけど……」

「うるさいです! 黙って見てやがれですこのマリモ頭!」

「マ、マリモ……」


「で、実際どう見る?」

「相手が普通のやつなら唯が勝つよ。ただ基本に囚われないやつなら……唯は簡単に負けるだろう」


236 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:35:18.94 tipSFitiO 102/117


「律だって基本に囚われない型だろう?」

「私のは初動だけ、後は基本的だよ。唯は多分肩や体の流れでどこから打ち出して来るかわかるんだ。つまり人間の動きを捨てなきゃ唯には当てれない」

「そんなカラクリがあったのか……唯我独尊流には」

「見破るまで時間かかったけどな。腕があれば再戦してたところなんだがな」

「……後悔してるのか? 梓を仲間に入れたこと」

「そんなわけないだろ。逆に感謝してるよ梓には。自分の詰めの甘さを救われたんだから。
梓がいなきゃ多分死んでたよ」

「そうか……なら腕のことはもう何も言わない。色々大変だろうけど、何かあったら言ってくれ、力になるから」


238 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:40:53.59 tipSFitiO 103/117


「ああ。その時は頼むよ。
そう言えばいつの間にか梓や純ちゃんが『先輩』って呼ぶようになったんだが、ありゃなんだ?」

「先輩って言うのは南蛮で目上の人に使う呼び方らしい。さんとか様と一緒じゃないかな」

「先輩、か。どうしてだろうな、こんなに心地がいいのは」

「さあ、そればっかりは言葉を作った神様にでも聞いてみないとわからないよ」

「……始まるぞ」


日の出──

山からうっすらと出てきた光が、

唯を正面から、野武士の頭を下方から照らす。

野武士の頭「行くぜえええええっ!!!」

閉じていた目を開き、その光を受け入れる唯。

「来いっ!」

唯の、いや、七人の最後の戦いが始まる。


240 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:48:32.90 tipSFitiO 104/117


野武士の頭「おらっ!!!」

ぶっきらぼうに斬りつけるも、唯は一方後ろに引きかわす。
目線でその刀を追うことが出来るぐらいの冷静さ。

しかし、その冷静さもここまでだった。

野武士の頭「ペッ」

「あっ」

何かが唯の顔に当たる、それは唯の気を一瞬だけでも反らすことに成功した。

野武士の頭「おらよっ!!!」

返す刀で切り上げ、

「あぐぅっ」

かろうじて避けるも左肩に深く刀が食い込んだ。


242 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:54:06.51 tipSFitiO 105/117


「唯ちゃん!!!」

「野郎っ! 唾吐きやがった!」

「侍の風上にも置けないな……!」

「でも効果的よ。唯もまさか唾を飛ばして来るなんて思ってなかった、だからこその被斬よ」

「綺麗なだけじゃ勝てないってわけか……」

「ええ。さすが野武士の頭、手慣れてるわ」

「となると唯にとっちゃ最悪の相手……もしかすると……」

「そんなことになる前に私は侍を捨ててでも唯を助けるわ」

「私もだ。唯が殺されるぐらいなら……!」

「大丈夫です。お姉ちゃんは負けませんから」


243 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 13:59:41.08 tipSFitiO 106/117


「でも……」

「お姉ちゃんの凄さは私が一番知ってます……その私が大丈夫って言ってるんです!」

「憂ちゃん……(本当は誰よりも唯を助けに行きたいんだろうな)」

「(ここで助けたら唯の侍の意地は砕け散るも同然……姉の尊厳を守るために自らをも圧し殺す……いい侍になったわね、憂)」

「よぅし、憂ちゃんがそう言うなら黙って見させてもらおうじゃないの!」

「唯ちゃん……がんばって」

「唯先輩……!」

「がんばれ!がんばれ!」

「お姉ちゃんは誰にも負けません……」


244 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 14:10:08.32 tipSFitiO 107/117


皆が応援する祈りも虚しく、野武士の頭の攻撃は唯を追い詰めて行く。

野武士の頭「どうしたよッ!? そんなもんか侍大将さんはよォ!」

「くっ……」

義意太を使わなければ避けられぬ程に疲弊し、後ろに下がるだけの一方的な展開が続く。

野武士の頭「ちっ!」

痺れを切らした野武士の頭は一旦距離を取り、また大振りで斬りかかって来る。

「さっきのが来るぞ!」

太振りな為、受ければ大勢が崩れる。
唯は何とか義意太を使わずこれを回避、しかし二の矢、

野武士の頭「ペッ」

たっぷりとためこんだであろう唾が唯の顔目掛けて飛翔する。

「同じ手を食うか!」

斬られてない方の腕で唾をガード、しかし……

野武士の頭「三の矢まであるんだよォォォォ!!!」

土蹴り───

古典だが効果的な一撃が、唯の腕と体の間をすり抜けて顔に向かってくる。


250 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 15:19:32.18 tipSFitiO 108/117


「ぐっ……!」

「もらっちまったか!」

目に大量の土が入り込み唯の視界を奪う。

野武士の頭「もらったァァァァァァ!!!!」

「」ダッ!
「」ダッ!

和と澪が無言で駆け出す、間一髪間に合うか、というタイミング。

それでも、憂だけは微動だにしない。

「唯っ!!!!」
「唯ちゃんっ!!!」
「唯先輩っ!!!」

「お姉ちゃんこそ……唯我独尊……!」

「平沢唯なんです!!! 私のお姉ちゃんは負けません!!!」


252 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 15:26:32.44 tipSFitiO 109/117


サアアアア……

野武士の頭「なっ」

「唯我独尊、我一人也」

野武士の頭「刀が……避けて……」

ガタガタガタ……。

野武士の頭「刀が震えてやがる……違う、震えているのは俺か……?」

殺気、それもそれだけで人を殺しめる程の。

野武士の頭「う、うわあああああああ!!!」

無茶苦茶に刀を振る、しかしどれも唯には届かない。

「っ────」

野武士の頭「ご……」

何かに斬られてたかのように崩れ落ちる。

泡を吹きながら地面に倒れ込んだ野武士の頭が、立ち上がることはなかった。


253 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 15:36:31.34 tipSFitiO 110/117


「何もしてないのに野武士が倒れましたよ!?」

「なんだ……さっきのは」

「あれが唯我独尊流奥義、第三の剣、心斬です」

「心斬?」

「人には三つの剣があると言われています。一つは真剣、一つ手刀、そして心斬……」

「一つ、剣を使い己を鍛え、二つ、己の体を剣とし、三つ、心すらも斬り裂く刃となれ……まさか唯がそこまでの領域に踏み込んでいるなんて」

「唯は野武士の心を斬ったってのか? あの殺気で……」

「あれこそ唯我独尊流初代師範代、原点にして頂点、平沢唯なんです!」

「」どん!!!


「前が見えないよぉ~」ゴシゴシ


254 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 15:47:31.68 tipSFitiO 111/117


こうして私達の村は野武士との戦いに勝利し、平和を取り戻しました!

これも何もかもお侍さんのおかげです!

一杯のごはんから始まり、集まってくれた七人の侍に、どれだけ感謝しても感謝しきれません!

だからこの気持ちを何とか形に出来ないかと色々試行錯誤するつもり。

今は、こんなことしか出来ないけど……。


「純ちゃん早く~」

「もうちょっと待ってくださ~い」

「しかし良くあんなものもってたわね」

「あれも南蛮の人の貰い物だよ。映写機って言うらしいよ」

「私達の姿が残るなんて……何だか緊張するわ」


256 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 15:58:05.05 tipSFitiO 112/117


「……」

「なんだよ、寄ってくんなよ」
「いえ、そうは行きません」

「……」
「……」

律が一歩動けば、梓も一歩動く。
つかず離れず……。

「だぁっ! なんだってんだよ! 一緒に写るって言っても近すぎだろ!」
「私は律先輩の右腕ですから」

「まだそんなこと気にしてんのかよ。いいって、長い人生なんだ、私なんかで無駄にすんな」
「嫌です。ずっと側にいます」
「わがままだな梓は」

「はい、わがままです……それでも、一緒にいてくれますか?
こんなわがままでも…」

「……こっちにこい」
「えっ……」

「右側に立たれると私が何もしてやれないだろ? だから、こっちに来い」
「あっ……」

「こっちなら、私もお前を守れる」ぎゅっ
「……はいっ」


258 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 16:03:24.76 tipSFitiO 113/117


「これでいいのかな? じゃあ撮りますよ~?」

七人がそれぞれの返事を返し、純が映写機を覗き込む。

「え~と、こんな時どんな掛け声かけたらいいんだろ」

「純ちゃん! ごはんごはん!」

「あぁっ! わかりました!!!」


「じゃあ行きますよ~?」



「ごはんは~?」


「おかず!」「おかず!」「おかず!」「おかず!」「おかず!」「おかず!」「おかず!」


───────


260 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 16:11:53.72 tipSFitiO 114/117


律 梓 唯 憂 和 澪 紬

律 梓 唯 憂 和 澪 紬
    パシャッ
     「撮れましたよ~」

「ごめんね純ちゃん。タイマー式の持って来るの忘れて」

「いいんですよそんなの! 気にしないでください!」

「それにしても私達に良く似てるよね~この七人の侍像!」

「うん。お姉ちゃんがピースしてるとことかそっくりだよぉ」

「もしかしたら私達の古い祖先とか? 何てあり得るわけないわよね」

「でもこの眼鏡つけた人なんて和ちゃんそっくりよ?」

「ありえませんよ! 私が律先輩に寄り添ってるなんて!」

「なんだと中野ぉ!」

「大体卒業旅行って私達はまだ卒業してな」

「細かいこと言うあずにゃんはいね~が~?」ぎゅ~

「もうっ! いいから早く次のところ回りましょう!」


261 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 16:18:41.12 tipSFitiO 115/117


駅前──

「あ~楽しかった!」

「唯先輩ははしゃぎすぎです」

「さて、解散か」

「私はちょっと寄るところがあるから」

「ん、わかった」

「私も買い物して買えるねお姉ちゃん」

「わかったよ!」

「見事に全員帰り道がバラバラね」

「私はどう転んでも一人な帰り道ですけどね」

「じゃあまたね~みんな~」

「うん! 大学生になっても頻繁に遊びに来るからね~あずにゃん純ちゃん」

「はい!」

「あんまり遊び過ぎて単位落として留年して来年私と同学年なんてやめてくださいよ」

「わかってるわかってるぅ」


262 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 16:23:24.39 tipSFitiO 116/117


手を振りながらじゃあねと別れる。

それぞれがそれぞれの道を行き、またいつか交わることもあるだろう。

七人の侍達の最後も、こうだったのかもしれない。

    唯
   憂 和
  澪 完 律
   紬 梓


266 : 以下、名... - 2011/06/06(月) 16:28:12.66 tipSFitiO 117/117


なんか思ってたよりちょっとなげやりな終わりに見えるけど気にしない

本当の七人の侍とはかなり違いますけど何となく表せたかなとは思います
気になったら見たりしてください! 名作です!

保守してくださった人達に感謝です!

長々とすみませんでした!


きやがったですやりたいだけがこんな長くなるとは思いませんでした!


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