男(会社のナンバーワンになる、と意気込んで入社したまではよかったが……)
男(やることなすこと上手くいかず、新入りも入ってこず、俺はいつまでも一番下っ端のまま……)
男(だが、こんな俺もようやく下っ端を脱却できる時がきたのだ!)
新人「本日より配属になりました! よろしくお願いします!」
男(ついに来た! 俺より下となる新入社員が!)
男(学生気分こいてるところにたっぷり社会人の洗礼を味わわせて、俺が上だと認識させてやる!)
元スレ
男「今年入ってきた新入社員が優秀すぎて死にたい」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1556900846/
男「今日から俺が君の教育係だ。まず、電話番をしてもらおうか」
新人「分かりました」
男(新社会人最初の関門……電話!)
男(せいぜい間違った応対をしまくって、あたふたするがいいさ)
男(もちろん、優しくアドバイスなんざしねえ! 徹底的にイジメ抜いてやる!)
プルルルルル…
男(来た!)
新人「お電話ありがとうございます」
新人「……少々お待ち下さい」
男「!?」
男(はじめてだってのに、あっさりとこなしやがったぞ……)
男(俺なんて最初は気合入れすぎて、声聞き取れないわ、身内を様付けしちゃうわで散々だったのに……)
男「お前、なんでそんなに電話応対手馴れてるんだよ」
新人「バイトでも電話応対はありましたし、入社前にみっちり予習してきましたから」
男「くっ……!」
男「出かけるぞ、ついてこい」
新人「はいっ!」
男「気難しい取引先だから、くれぐれも気をつけてくれよな」
新人「分かりました!」
男(こいつを置いてけぼりで取引先とトークして、先輩としての優秀さを知らしめておかないとな)
男(こういうのは最初が肝心なんだ!)
取引先「そうなんだよぉ~! 君、よく分かってるねえ!」
新人「ありがとうございます!」
男(なんでこんなに会話が弾んでるんだよ……)
取引先「なかなかいい新入社員じゃないか。話しててとても楽しいよ!」
取引先「ぜひ、いずれ君にうちを担当してもらいたいな」
新人「光栄です!」
男「……!」
男「くっ、くそっ!」
男「俺を差し置いて、取引先と仲良く話しやがって……!」
プルルルルルル…
男「お電話ありがとうございます」
電話『ペラペラペーラ』
男「!?」
男(これは……英語か……!?)
男「パ、パードゥン?」
男(どうしよう……全然分からんぞ……)
新人「先輩、よろしければ代わりましょうか?」
男「あ……うん」
新人「ペラペラペラペーラ」
新人「ペララペラペラペペラペラペーラペーラペーラ」
男(英語もできるのか、こいつ……)
男(こうなったら……酒の席で勝負だ!)
男(俺の酒が飲めねえのか攻撃を喰らわせて、社会人の厳しさを叩き込んでやる!)
男「お前、全然飲んでねえじゃねえか! 俺の酒が飲めねえのか!」
新人「飲みます」グビグビ
男「や、やるじゃねえか!」
男「くそっ、俺だって……」グビグビ
男「う、うううう、ううううう……!」
男「うぷっ……!」
新人「大丈夫ですか? 背中さすりますよ」
男「おえええええええええええええええええっ!!!」
新人「まだ出そうですか?」
男「うん、もうちょっと……」
男(な、情けない……!)
ゴールデンウィーク――
男(今年は10連休ッ!)
男(この長い休暇で、きっと奴は五月病になるに違いない……)
男(休みが終わったら出社してこなかったりしてな)
男(とか下らないこと考えてるうちに一日が終わりそうだ……)
男(あー、会社行きたくない……)ズーン…
男「ゴールデンウィークはどうだった?」
新人「たっぷり休んで遊んで、すっかりリフレッシュしました!」
新人「今日から気持ちを切り替えて、バリバリ働きます!」
男「そうか……」
男(くそう、俺は全然気持ちの切り替えができてないってのに……)
男「会議の資料を作っておけ!」
新人「分かりました!」
男(ダメ出ししまくってやる……)
新人「どうぞ!」サッ
男「どれどれ……」
男(なんて分かりやすい資料だ……!)
部長「男君、担当先の状況を報告してくれたまえ」
男「はいっ!」
男(ここが俺の腕の見せ所だ!)
男「えーと、ですねー……」アタフタ
新人「僕が代わりに説明しましょうか?」
男「えっ、あっ」
新人「先輩に同行して、状況を見た限りですと……」スラスラ
新人「また、今後の展望は……」スラスラ
部長「ほう、具体的で分かりやすい説明だ」
男「あうう……」
課長「○×工業さんは君に任せよう」
新人「ありがとうございます!」
男「えっ!?」
男「あんな大手をこんな新入りに任せるんですか!?」
課長「うむ、彼ならやれるだろう」
課長「それより心配なのは君だよ。今のままじゃいつまでも大きなところは任せられんぞ」
男「は、はい……」
男「おいっ!」
新人「はい?」
男「てめえ、ちょっと評価されてるからっていい気になってんじゃねーぞ!」
新人「いい気になんてなってませんよ」
男「ウソつけぇ! ぶっ飛ばしてやる! うおおおおおおおおっ!」ダダダッ
新人「先輩、足元にコードが!」
男「えっ」ビンッ
ドンガラガッシャァァァァァン
男「ぎゃはぁぁぁぁぁっ!」
男「負けた……」
男「いさぎよく退職届書くよ……」カキカキ
新人「先輩」
男「止めても無駄だぞ」
新人「退職の職が“食”になってます」
男「くそおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
男「俺は……退職届すら満足に書けねえのか……」
新人「あまり自分を追い詰めない方が……」
男「俺はさ、昔からずっと一番になりたかったんだ……」
男「だけど、いつも空回りして、ドベに甘んじてきた……」
男「お前のおかげでようやく分かったよ……俺は一番になれない人間だって」
男「これからは……大人しくお前を支える。だから……しっかりやれよ! 期待の新人!」
新人「先輩……!」
男(なんだか、体から重りが取れたような気分だ……)
……
……
……
記者「このたびは若くして社長就任、おめでとうございます」
記者「入社以来、すぐさま頭角を現し、驚異的なスピードで出世されましたね」
社長「ありがとうございます」
社長「しかし、これは決して私だけの力ではありません」
記者「とおっしゃいますと?」
社長「副社長がいつも支えてくれたから、私はここまで来ることができたのです」
記者「副社長就任おめでとうございます」
記者「副社長は常に陰から自分より年下の社長を支えてきましたが……」
記者「今のお気持ちをお聞かせ下さい」
副社長「まさか自分にこれほど二番手の才能があるとは思いませんでしたよ」
おわり
できなくても、人の上にたてるんだよね。