1 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 17:54:59.31 LVMe/GvD0 1/197


――平沢宅――

「まだかなー」

「もう少しで帰ってくるから、お姉ちゃんはお皿出してくれない?」

「わかったー」

(時計ばかり見てて危なっかしいな)

「まだかなー」

時計「7時だよ! 7時だよ!」

「!?」

ドア「ニコ」

「ただいまー」

「和ちゃ~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!」

「うわっ!」

「おかえりなさい。和ちゃん」

「た、ただいま……」

(そうです。見ての通り、お姉ちゃんと和ちゃんは、結婚しているのです!)



3 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 17:58:05.16 LVMe/GvD0 2/197


(詳しい経緯は省きますが、お姉ちゃんと和ちゃんは25歳の春に結婚。今はまさに新婚ほやほやなのです!)

(もちろん。同性での結婚は認められていないので、事実婚ですが)

「でへへ~」

「……まったくもう」なでなで

「!?」

「どうしたの?」

「おかえりのチュー!」

「憂もいるのよ?」

「構いません!」

「はい」

「はいじゃないわよ」

「ちゅー!」

「なんか、キスが軽いものになってない?」

「う……。そう言われると弱い」


5 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 18:08:00.06 LVMe/GvD0 3/197


「ま、それでもいいわ。唯とキスするの、好きだし」

「ふぇ……」

「うう……あう……」

「唯、顔真っ赤じゃない。ホント、お子様なんだから」

「違うもん」

「お子様よ」

「私だって、大人のオンナだもん」

「料理もできないのに?」

「うぅ~」

(私が入るのは無粋だよね。この二人のやりとり、可愛いなぁ)

「憂、お風呂沸いてる?」

「は、はい! 沸いてます!」

「敬語使わなくってもいいのよ? 義理とはいえ、お姉さんなんだから。っていうか、憂って私に敬語使ってたっけ?」

「スーツ着てる和ちゃん、かっこいいから……」

「あ! 憂、だめだよ。和ちゃんは私の旦那さんなんだから!」


6 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 18:40:24.29 LVMe/GvD0 4/197


――浴室――

ドア「ニコ」

「ふぅ……。今日も疲れた……」

(私なんかで、唯は楽しいのかしら)

(冗談を言うのも苦手で、真面目が服着て歩いているような私と一緒に
なって、唯は本当に幸せなの?)

「考えても仕方ない。それは分かっているけど」

「でも、それでも、私も唯のことが――」

ドア「ニコ」

「お背中お流しします!」

「あら。それじゃあお願いしようかしら」

(聞こえてなかったわよね?)

(和ちゃんの疲れは私がとってあげなきゃ! お嫁さんとして!)


8 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 18:44:28.56 LVMe/GvD0 5/197


「きもちいーい?」ゴシゴシ

「ん。気持ちいいわよ。もうちょっと強くしていいわ」

「わかりましたー」ゴシッゴシッ

「うんうん。ちょうどいいわ」

「……和ちゃんの背中、おっきいね」

「そんなことないわよ。それはお義父さんにでも言ってあげなさい」

「ぶー。一度言ってみたかったのに」

「……ねえ、唯」

「?」

「私なんかと一緒で、幸せ?」

「え?」

「こんな女と一緒にいても、全然面白くないでしょ?」

「そんなことないよ。和ちゃんとこうして一緒にいるの。私はすごく好きだ
よ!」

「……唯」

「……うん。いいよ。シャツ脱いじゃうから、ちょっと待ってね」


10 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 18:50:11.49 LVMe/GvD0 6/197


「唯……。すごい、綺麗……」

「ありがと。でもね、和ちゃんの身体も、すごいすごい綺麗だよ」

「そんなこと――」

「あるよ。だって、私の旦那さんだもん」

「――!」

「和ちゃんって、こういうことするときは甘えん坊さんで、お子様だよね。私
のこと言えないじゃん」

「ん……! 憂に、聞こえ、ちゃうからぁ!」

「聞かせちゃえばいいよ。和ちゃんの声、憂も大好きだしね」

「――あ」

省                                略

シャワー「ザー」

「和ちゃん、汗びっしょりー」

「うう……」

「そんな顔しないでよ。また、したくなっちゃうでしょ?」


12 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:01:47.50 LVMe/GvD0 7/197


――居間――

「あ、お姉ちゃん。和ちゃん」

「少し長風呂しちゃったわね」

「のぼせちった~」

「フフ。冷凍庫にアイスあるけど、どうする? ご飯のあとにする?」

「今!」

「あと!」

「今でしょ!」

「ご飯食べられなくなるでしょ?」

「あははー」

「ムム」

「ムムム」

(こうして見ると、似たもの夫婦なのかも)


13 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:07:53.38 LVMe/GvD0 8/197


「結局、ご飯のあとのデザートということにしました!」

「誰に言ってるのよ」

「わかんない! いただきます!」

「はーい」

「……やっぱり、憂のご飯は美味しいわね」

「和ちゃんが教えてくれたお陰だよっ」

「そりゃあそうだけど。こんなに差がつくなんて思わなかったわよ。さす
が、中学生のときから主婦やってるだけあるわ」

「……あれ?」

「中2のころから、お義母さんもお義父さんも家にいなかったから、もう主婦歴10年ね。24歳とは思えないベテランっぷりだわ」

(あら? 和ちゃんのお嫁さんは)

「えへへー」

「私だよッッ!」

「!?」


15 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:17:08.77 LVMe/GvD0 9/197


――夫婦の寝室(元・唯の部屋)――

「レスが少ないわね」

「?」

「モチベーションが下がるわ」

「お仕事の?」

「まあ、そんなものよ」

「それは困ったね」

「そうね。夫婦の生活にも、支障が出るわ」

「へー。和ちゃんは、私とえっちしたくないんだ」

「そ、それは別の問題よ!」

「和ちゃん、えっち大好きだもんねー」

「ちがうわよ! まったく!」

「そんなこと言ってー。顔が色っぽいよー」

「もとからこういう顔なの!」

「へー」


18 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:26:11.64 LVMe/GvD0 10/197


「……もう寝る」

「和ちゃん、可愛いー」

「もう、唯も寝なさい」

「まだ眠くない」

「昼寝したの?」

「うん」

「うんじゃないの」

「……もうひと汗かいたら、眠れるかもー」

「シャワー浴びるの面倒だし、眠いの。おやすみ」

「和ちゃんのくせにー」

「はいはい」

(……)

「すー」

(寝付きいいなー。やっぽど疲れてるんだね)

(おやすみ。和……ちゃん)ちゅっ


19 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:31:17.70 LVMe/GvD0 11/197


――翌朝――

「むにゃ……」

「くかー」

「まったく、新婚生活とは思えない朝よね」

「和ちゃん……好きぃ」

「フフ。ありがと」

ドア「ニコ」

「おはよー。あ、お姉ちゃんったらまだ寝てる。和ちゃんのお弁当作るって言ってたのに」

「いいのよ。唯のご飯も美味し……あれ?」

「ですよね。お姉ちゃんのご飯美味し……え?」

「唯(お姉ちゃん)のご飯、食べたことない!」

「おっぱい……」


24 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:37:48.11 LVMe/GvD0 12/197


「朝ごはん……昼ごはん……」

(ホントに、結婚してもまったく変わらないのも一種の才能よね)

「食パンに……ファブリーズ……」

「やめて! お姉ちゃん、起きてー!」

「憂が淹れた珈琲はやっぱりいいわね。優雅な気持ちになれる」

「このジャムを作ったのは……誰だぁ……」

「……」

(もしかして私、結婚する相手を間違えた?)


25 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:41:56.89 LVMe/GvD0 13/197


「それじゃあ、いってきます。今日も七時くらいには帰ってくるからね」

「うん。いってらっしゃい! お義姉ちゃん!」

「!?」

「……と。いってらっしゃい」

「ぼけー」

(もっとも新婚生活を感じる朝がこんな調子だから、憂と結婚したような気がしてならないわ)

ドア「ニコン」

「さて、今日も頑張ろう!」

「もう一眠り……」

(お姉ちゃんにも、少しはお嫁さんらしくしてもらわないと。和ちゃんが可哀想に思えてきたよ)

「くかー」

「床で寝てるし」


26 : 以下、名... - 2010/05/26(水) 19:47:55.34 LVMe/GvD0 14/197


「お姉ちゃんお姉ちゃん」

「ふぇ?」

「今日の晩御飯、お姉ちゃんが作ってくれないかな?」

「憂、お出かけするの?」

「ううん。お姉ちゃんと和ちゃんは新婚さんなんだから。和ちゃんも、たまにはお嫁さんのご飯が食べたいと思うの」

「……そうだね。憂」

「でしょう? だから、今日のご飯はお姉ちゃんが作ってね。わからないところは、私が手助けするから」

「わかった! 和ちゃんの頬が落ちてブラジルまで突き抜けるくらいに美味しいご飯を作るよ!」

「さっすがお姉ちゃん!」

「ということで、今からスーパーに行ってきます!」

「え? まだ9時前……」

「いってきまーす!」

地面「ぴゅー」

「あ、あれ?」


62 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:05:43.35 31p4WpC30 15/197


――スーパー――

「……開いてないや」

「困ったなぁ……。これじゃあ和ちゃんのためにご飯作れないよ」

「うーん。どうしよ」

「あれ?」

「え?」

「もしかして、唯先輩? ですか?」

「?」

「この緩み切った表情。間違いない。平沢唯先輩ですね?」

「も、もしかして――」

「はい。アメリカから帰ってきました。中野梓です」

「あ、ああ、あ、ああ――」

「あずにゃああああああああん!!!」

「ひょわ!」


63 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:12:54.59 31p4WpC30 16/197


――喫茶店――

「――それで、仕事の関係で帰ってこれたんです」

「へ~。でも、すごいよね。外交官だなんて」

「英語は昔から得意だったんですけど、まさかここまで役に立つ仕事に就くなんて思いもしませんでしたよ」

「あずにゃん、洋楽好きだったもんね」

「はい。……それで、唯先輩は今は――」

「お嫁さん!」

「結婚したんですか!? 誰と!?」

「えへへー」

「ま、まさか唯先輩に彼氏ができて、結婚までできるなんて……」

「和ちゃんと!」

「はい?」

「だから、和ちゃん。あずにゃんも知ってるでしょ?」

「それはもちろん知ってますけど……。私がアメリカに行ってる間になにが……」


64 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:24:00.13 31p4WpC30 17/197


「今では私も奥さんなのだよ!」

「和先輩は旦那さんなんですか?」

「うん! 和ちゃんは一流企業のエリートさんなんだから!」

(この人、なんだかんだで金に困らない人生なんだなぁ)

「それで、今は二人で住んでるんですか?」

「ううん。憂も一緒に、平沢家に住んでるよ」

「憂もですか。ってことは家事全般は……」

「憂がやってくれます」

「いいんですか!? お嫁さん!!」

「えへへー。それで、今日は私がご飯作ることになっちゃったんだー」

(流石の憂もそこはわかってるんだ。よかった。憂に常識があって)

「でもね。まだスーパー開いてなかったんだよ。ひどいもんだよ」

「朝ですね。それに、先輩が作るのが晩御飯なら、買い物はあとでいいじゃないですか」

「あ」

「変わってませんね。そういうところ」


65 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:32:01.15 31p4WpC30 18/197


(そっか。唯先輩、幸せなんだ)

「でね、和ちゃんったら――」

(和先輩の話を、こんなに楽しそうにしてる)

(もう、私にはチャンスないのかな)

(アメリカに行って、唯先輩に会えなかった時間。チャンスを奪われたんだ)

(悔しいよ……。フェアじゃないよ……)

「笑っちゃうでしょ!?」

「あ、あ、あ、あの!」

「ふぇ?」

「……コ、コーヒー一杯で粘るのもアレなんで、うちに来ませんか?」

「……そうだね。あずにゃんのおうち、行ってみたいよ」

(和先輩には悪いけど、私だって!)


68 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:40:01.71 31p4WpC30 19/197


――そのころ、和は――

上司「あーだこーだ」

「それがこーであれがあーで」

OL「お茶が――」

「ありがとう」

上司「これはこう?」

「それはそう」

平社員「はい。よろしくお願いします」

(忙しいわね。でも、これも唯と憂のためだもの。がんばらなきゃ)

上司「真鍋さーん」

「は、はい!」

(唯は今頃、ゴロゴロしてるのかしらね)


70 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:49:42.57 31p4WpC30 20/197


――中野宅――

「両親はコンサートでいないんで、遠慮しないでいいですよ」

「あずにゃんは一人暮らししないの?」

「私は基本的にアメリカにいるので、日本で一人暮らしすることは……」

「あ。そうか」

「オレンジジュースでいいですか?」

「お気遣いなく~」

「クッキーもありますよ。ムギ先輩のお菓子と比べられるものじゃないですけど」

「ムギちゃんのお菓子、美味しかったもんね~」


72 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:53:05.30 31p4WpC30 21/197


「そういえば、ムギ先輩は大学卒業してどうしたんですか?」

「ムギちゃんはお父さんのお仕事を手伝ってるんだってさ。すごいよね。20代で何個も会社持ってるんだもん」

「ムギ先輩の人柄なら、敵も多くないでしょうしね」

「頭もいいもん。私とは違って」

「そうですね」

「ぶー」


73 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 18:57:14.00 31p4WpC30 22/197


「……」

「……」

「…………」

(は、話が続かない!)

「……」

(……よく見ると、唯先輩。ちょっと大人っぽくなったかな?)

「どうしたの? あずにゃん」

(どこかが変わったわけではないけど、雰囲気に余裕が出たというか、飼い犬と野良犬の違いというか)

「ねえ?」

「あ! す、すいません!」

「あずにゃんは、向こうで彼氏とかできた?」

「!?」


74 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:03:20.79 31p4WpC30 23/197


「えと、あの、あの……!」

「アメリカって進んでるんだよね。聞いた話だと、中学生でも普通にえっちするらしいよね」

「そういう人もいるらしいですけど、私だって大人なんですから、落ち着いて――」

「そうだよね。あずにゃんは大人だもんね」

「身長とか見て言いました?」ぶー

「えへへ。可愛い可愛い」なでなで

「うー」

(学生時代はちょっと煩わしかったけど、久しぶりに抱きつかれたり撫でられたりすると、気持ちいいなあ)

(でも、やっぱり私なんてただの後輩でしかないのかな)

「うりうりー」なでなで

「そんなの……やだ……」

「?」

「唯先輩――私、唯先輩をとられたくない――!」


75 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:10:22.60 31p4WpC30 24/197


ベッド「ぼすん」

「あず、にゃん?」

「いやなんです……」

「え?」

「私が知らない間に、遠くに行かないで……」

「……」

「一人でアメリカにいて、さびしかった……。いつだって会いたかった」

「それなのに! 唯先輩は知らないうちに、私の知らないところに行ってしまった! いやなんです! 唯先輩を、誰にもとられたくないんです!」

「あずにゃん……」さわ

「!?」


76 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:11:46.74 31p4WpC30 25/197


「あずにゃん、ごめんね? 私、あずにゃんの気持ちを知らなかった」

「告白しても、無駄だと思ったから……」

「そっか。あずにゃんはそういう子だもんね」

「いつも強気で、ちょっと生意気だけど憎めない。そんな、可愛い可愛い後輩だもん」

「後輩……。ただの、後輩なんですか?」

「――ごめんね」

「――そう、ですか」

「でも、唯先輩に刻み込みたい。私が、唯先輩のことを好きだってことを」

「――」

「この体勢、どういう意味かわかりますよね?」

「――」

「抵抗、しないんですか?」

「――いいよ。それで、あずにゃんの気が済むんなら」

「――!」


79 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:23:09.95 31p4WpC30 26/197


「いいんですね?」

「うん。きっと、私もしたいんだと思う」

「……脱がしますよ?」

「いちいち訊かないでいいよ。あずにゃんの好きなようにしていいよ」

「唯先輩……」

「あずにゃん」

(すごい綺麗……。胸も柔らかそう)

「唯先輩、大好きです」

「うん。ありがと」

(好き、とは言ってくれないんですね)

「……ん」

(唯先輩、感じてるのかな? 嬉しい)


80 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:29:33.27 31p4WpC30 27/197


――和の会社――

上司「あれよこれと」

「それもこれよと」

OL「お茶ですー」

「ありがと」

平社員「いそがしー」

社長「やっとるかねー」

「こんにちは。いい調子ですよ」

上司「本当です。真鍋さんは本当に素晴らしい社員ですよ!」

社長「ほっほっほ。それはいいことだ。がんばってくれたまえよ」

「はい!」

(唯のためだもの!)

(昨日、ベッドで素っ気なくしちゃったなあ)

(そうだ。帰りにケーキでも買って帰ろう。唯はショートケーキで、憂にはモンブランね)

(そうと決まれば、残業なんてしてられないわね!)きびきび!


82 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:39:05.15 31p4WpC30 28/197


「……あっ」

「気持ちいいですか?」

「うん。あずにゃん、上手だよ」

「……私のも、してくれませんか?」

「そ。じゃあ、横になって」

「――」

「あずにゃんの身体、初めて会ったときから変わらないね。子供っぽい」

「ごめんなさい……」

「いいよ。可愛いから」

「!」

「あれ? あずにゃんったら、私の触ってただけで自分のもこんなにしちゃってるんだ。変態さんだね」

「う……」

「じゃあ、するね」

省                            略


83 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 19:46:59.59 31p4WpC30 29/197


「……」

「唯先輩。大好きですよ」

「うん」

「すごく、気持ちよかったです」

「そっか」

「……これで、おしまいなんですよね」

「……」

「どうして……」

「……」

「どうして、私のこと、好きになってくれないんですか」

「わかんない。でも、私はあずにゃんよりも和ちゃんが好き」

「……う……うう……!」

(不倫、しちゃったなあ)

「ゆい、せんぱ、いぃ!」


86 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:00:24.87 31p4WpC30 30/197


――スーパーの前――

「もうこんな時間か~」

「晩御飯の材料買わなきゃ。憂に怒られる!」

(あずにゃん、大丈夫かな?)

「あれ? よく見る顔で、ここじゃあ見たことない顔」

「澪ちゃん」

「どうしたんだ? お菓子でも買いに来たのか?」

「違うよー。私だってお嫁さんなんだから、ご飯くらい作るよ」

「本当か! ついに唯にも主婦の自覚が芽生えたのか!」

「えへへー」

「私は大変だよ。仕事終わって買い物して、うちのが帰ってくる前にご飯、お風呂、その他の家事しないといけないんだからさ」

「でも、それが幸せって言ってたよね?」

「う、うるさい! 恥ずかしいこと言うな!」

「うふふー」にやにや

「もう!」


87 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:06:45.62 31p4WpC30 31/197


「澪ちゃんちの晩御飯は?」

「シチュー。あいつ、シチュー大好きなんだ」

「私の、が抜けてるよー」

「ば、馬鹿っ!」

「和ちゃん、どんな料理が好きなんだろ」

「親友として20年。恋人として5年。夫婦として1ヵ月とは思えないな」

「憂が作ってくれる料理は、いつも美味しいって言ってるから……」

「とりあえず、カレーとか簡単なものにすれば? 当たりはずれもないし」

「うーん。マシュマロカレーとかはどうかな?」

「ないな。可愛いけど」

「じゃあ、普通のカレーにする」

「賢明だな。それじゃあ、そろそろ行かなきゃ。また今度お茶しような」

「うん。りっちゃんにもよろしく言っといて! 田井中さん!」

「そっちもな。真鍋さん」

「……ふぅ」


89 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:14:39.33 31p4WpC30 32/197


「とりあえずカレーの材料は手に入れた」

「しかーし!」

「これでは和ちゃんへの愛が表現しきれない!」

「人参? ジャガイモ? 豚肉? 否!!」

「オリジナル要素あってこその手料理でしょ!」

「と、いうことで!」

「お菓子コーナー行ってこよーっと」

(和ちゃんへの愛、か)

「不倫したくせに、なに言ってんだか」


91 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:23:39.55 31p4WpC30 33/197


――和、帰り道――

「ケーキも買って、あとは帰るだけね」

「このケーキを見たら、あの子、どんな顔するんだろう」

「笑って、抱きしめて、キスしてくれるかしら」

「……そうしたら、私も少しは唯に付き合ってあげよう」

「そうよね。思えば、私のペースに、唯を付き合わせてばかりだもの」

「休みの日もろくに出かけずに」

「憂だって、私たち夫婦のために個人の幸せを二の次に考えてる」

「本当だったら、あの子だって恋人作って結婚したいでしょうに」

「――ああ。なんだ」

「あの姉妹に救われているのは、私のほうじゃない」

「これは、ほんの少しばかりの感謝」

「唯、憂。待っててね」


92 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:27:23.25 31p4WpC30 34/197


――平沢宅――

「おかえりなさい。大丈夫だった?」

「んー。まあ、平気だったよ。澪ちゃんに会ったしね」

「そうなんだ。澪さん、元気してた?」

「元気そうだったよ! りっちゃんともうまくいってるみたいだし」

「そうなんだ! それで、今日のご飯はなににするの?」

「カレー! 澪ちゃんに教えてもらったんだ!」

「カレーかぁ。わからないところがあったら、私に聞いてね」

「了解!」

(あずにゃんと会ったことは言わないでおこう)

(ごめんね。憂。親友のあずにゃんが帰国してること教えてあげられないで)

「……あれ?」

「ういー!」

「はーい」


95 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 20:32:15.12 31p4WpC30 35/197


結局

「憂、ここにいて」

「わかったよ。お姉ちゃん」

「ごめんね。カレーも自分で作れないお姉ちゃんで」

「大丈夫だよ。これから覚えていけばいいんだよ」

「和ちゃんが帰ってきちゃうよ~」あたふたブシュッ

「ふぇええええええ!!」

「はい。絆創膏」

「憂。慣れてるね」

「そりゃあ、何年妹やってると思ってるの?」

「それもそうだね」

「和ちゃんも、お姉ちゃんがお料理してるの見たら、待ってくれるよ」

「……うん!」


104 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 22:42:13.92 31p4WpC30 36/197


「ただいまー」

「おかえりなさい。ほらほら、お姉ちゃんっ」

「うん! だ、旦那さま。上着を頂戴いたしまする」

「フフっ。なによそれ。そんなことより、ほら、おみやげ」

「わあ! このケーキってもしかして!」

「そう。隣町の甘味処仏陀のショートケーキとモンブラン、それとフルーツタルトよ」

「私、ショートケーキ!」

「私、モンブラン!」

「あらあら、まさに予想どおりってやつかしら?」

「ありがと~」スリスリ

「和ちゃ~ん」だきっ

「ちょ! 憂まで!」

(……あれ?)


105 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 22:50:56.88 31p4WpC30 37/197


(なんだろ。違和感)

「ほらほら。二人とも大好きだから離れなさい」

「えへへー」

「ホントに、よくできた子っていっても、可愛いところあるんだから」

「和ちゃ~ん」

「は! そうだ! 和ちゃん和ちゃん! 今日のご飯はなんでしょう!?」

「……この匂いはカレーね。ちょうど食べたかったのよ。憂のカレー」

「チッチッチ。今日は違うんだなコレが」

「?」

「今日は真鍋唯作のカレーライスです!」

「すごいじゃない! 憂、ありがとう!」

「え? あ、うん!」

「ヽ(・ω・)/ズコー」


106 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 22:58:21.58 31p4WpC30 38/197


「ひどいよ和ちゃんー」

「冗談よ。でも、憂が殆ど作ったんでしょ?」

「いえいえ。今日はお姉ちゃんが殆どやったんだよ」

「でへへー」

「……」

「あ」

(唯の手。絆創膏だらけじゃない。きっと、一生懸命馴れない包丁使ったのね)

「唯。ありがとう」

「お嫁さんのお仕事だもん! 平気平気!」

「それでも嬉しいわよ。……ねえ、憂。5秒だけ後ろ向いててくれる?」

「はいっ」くるっ

「ただいま」ちゅっ

「んっ」


107 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 23:04:06.25 31p4WpC30 39/197


「――」ぼー

「憂。いいわよ」

「はーい」くるっ

(和ちゃんのキス。やっぱり気持ちいい……)

「あ、お姉ちゃんお姉ちゃん」ひそひそ

「あのセリフ。言ってみれば?」

「……う、うん!」

「?」

「和ちゃん!」

「だからなによ?」

「お風呂にする!? ご飯にする!? それとも――わ・た・し?」

「……」ちらっ

「……」ニコニコ

「お風呂」

「ぶー」


109 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 23:10:09.63 31p4WpC30 40/197


――浴室――

「唯の、カレー」

「ゆいの、カレー」

「唯ちゃんの、カレー」

「唯にゃんの、カレー」

「真鍋唯さんの、カレー」

「旧姓平沢唯さんの、カレー」

「ゆいっぺの、カレー」

「ゆいっちの、カレー」

「ゆいゆいの、カレー」

「ゆいとらとぷすの、カレー」

「……よし。100通りの唯のカレーを唱えたところであがろうかな」

「今日は、唯は来ないのね。ちょっと残念」

「カレー食べて、ケーキ食べよう。うん」


111 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 23:16:39.96 31p4WpC30 41/197


――居間――

「いただきます!」

「……あむっ」

「どきどき」

「わくわく」

「!?」

「どう?」

「これ、もしかして……」

「うん。イチゴ入れたんだぁ。お菓子にしようかと思ったんだけど、いいのが売ってなくてさ」

「イチゴ……」

「お、美味しいかも。甘酸っぱさと辛みがアンバランスで美味?」

「やった! たくさん作ったからどんどん食べてね!」

「よかったね! お姉ちゃん!」

「やっぱり3人で食べるご飯は美味しいね!」


113 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 23:29:39.21 31p4WpC30 42/197


「ケーキうまー」

「美味しいねー」

「あら、ホント。買ってきてよかったわ」

「純ちゃんにも教えてあげよーっと」

「純ちゃんって、今なにしてるの?」

「うーん。なんか旅してるみたい」

「旅?」

「うん。本当に自分を見つけるって言って出ていったんだよ」

「前から思ってたけど、純ちゃんって結構飛んでるよね」

「律に似たテンションだと思ってたけど、まさかそこまでなんてね」

「この間来た手紙によると、今はイギリスのブラックリーにいるんだって」

「どこ!?」

「なんてわかりにくいところに……」


114 : 以下、名... - 2010/05/27(木) 23:36:41.00 31p4WpC30 43/197


――浴室――

「……」

「和ちゃんが浸かったお湯」こくん

「えへへ。ちょっと甘いかも」

「……和ちゃん」

「ごめんね……」

「ひっく……うう……」

「私、本当に馬鹿だよ」

「和ちゃんは、私のこと真剣に愛してくれているのに」

「私なんかで、和ちゃんのお嫁さんが務まるのかな……」

「でも、私は和ちゃんが好き。誰よりも大好きなの」

「――よし」

「決めた」


119 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 00:33:09.86 x0ApGtiC0 44/197


――夫婦の寝室――

「……明日、お休みなんだけど。どこか行く?」

「……」

「いきなり訊かれても困るわよね。明日にでも言ってくれれば――」

「和ちゃん」

「なに? 動物園? それとも水族館?」

「私、和ちゃんに話しておかなきゃいけないことがあるの」

「?」

「聞いて、くれる?」

「……ええ。話してみなさい」

「今日、あずにゃんに会ったの」

「梓ちゃん。久しぶりね。よかったじゃない」

「うん。会ったときまではよかったんだけど――」


121 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 00:40:53.43 x0ApGtiC0 45/197


「一緒に喫茶店入って、今、あずにゃんがなにしてるのかって話してね」

「うん」

「そのあと、コーヒー一杯で粘るのも何だからってことであずにゃんのおうちにお邪魔したの」

「……」

「落ち着いて。ゆっくりでいいからね」

「……それで、あずにゃんとお話してると、あずにゃんが私のこと――」

「……」

「好きって言ってくれて。和先輩に渡したくないって――」

「……」

「駄目だよ。その一言が言えなくって……」

「うん……」

「あずにゃんと……えっち、しました……」

「……そっか」

「……ひっぐ。ぐっ、あ……はぁ……和、ちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい……………」


122 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 00:47:43.43 x0ApGtiC0 46/197


「――唯!」

「和、ちゃぁん……!」

ベッド「ぎしっ」

「唯は、なんにも悪くない」

「違うよ。私が、嫌って言わなかったからだよ」

「それこそ違う。梓ちゃんを受け入れたのは、唯、アンタの優しさなのよ」

「でも、そのために私は和ちゃんを裏切った! もう、汚れちゃったんだよ。私」

「裏切ったのなら! 裏切って汚れたのなら、私が綺麗にしてあげる」


123 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 00:49:53.46 x0ApGtiC0 47/197


「ん……! あっ。駄目ぇ……」

「唯……」

「和ちゃんに、和に触ってもらえる資格なんて、ないもぉん……!」

「資格なんて必要ない。理由も動機も、全部後付け。今は、唯を綺麗にしてあげるために、するの」

「……のど、かぁ!」

「呼び捨て。できるようになったのね」

「だって……いつまでも子供みたいで、厭なんだもん! 子供だったから! あずにゃんを、受け入れちゃった」

「関係、ないわよ」

「だって、こんなに気持ちいいんだもん。したくなんて、ないのに――」

「それが真鍋唯の身体なんだから、仕方ないでしょう?」

「真鍋……そうだ。私は、和ちゃんのお嫁さんになったんだ……」

「呼び方、戻ってる。そうよ。アンタは私のお嫁さんなの。幼稚園のころの約束を、きちんと守ったのよ。私たち」


124 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 00:57:06.00 x0ApGtiC0 48/197


「だから――私たちの絆は、絶対に切れないの」

「和ちゃんって、男の子みたい」

「ここをこんなにしてるアンタに比べたら、ね。でも、私だって色々あるのよ?」

「うっさい。いつもは和ちゃんが私の下にいるくせに」

「少し機嫌治ってきた? いや、これは悪くなっているのかな?」

「むー」

「唯ちゃーん」

「可愛く言っても、手、動いてる……」

「気持ちいい?」

「……うん」

「どこが?」

「やー」

「可愛い。――今日は、全部私が綺麗にしてあげるからね」


127 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 01:06:23.54 x0ApGtiC0 49/197


「おぼえてろー」

「覚えてるわよ。びしょびしょわんこさん」

「わんこさんじゃないもん」

「今の唯、犬にしか見えないわ」

「うう……」

「あのさ。もう一回、呼び捨てしてくれない?」

「……和」

「……唯」

省                     略

「隣から変な音がする……」

「これは行くべきか」

「行かざるべきか」

「なにかが軋む音が、ずっとする」

「行くべきか」

「行かざるべきか」


165 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 19:33:49.26 x0ApGtiC0 50/197


――翌朝――

スズメ「チュンチュン」

「ん……。朝か」

「すー」

「えへへ。今日は私のほうが先だもんね」

「じー」

「んん……」

「可愛い。和ちゃん」ちゅっ

「むにゃ……」

「そんな可愛い寝顔してたら、朝から襲っちゃうよ」

「……こんな私を、許してくれてありがとうね」

「和……」

「……まだ、照れくさいや」

ドア「ニコ」

「お姉ちゃん。朝ごはん一緒に作ろー」


167 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 19:38:20.40 x0ApGtiC0 51/197


「ふぇ! う、憂!」

「ういだよー」

「夫婦の寝室にノックもしないで入るとはなにごとかー!」

「はいはい」

「むー」

「ほら、朝ごはん作って和ちゃん驚かせようよ」

「そうだね! 目玉焼き作る!」

「いいね。じゃあ、私はお味噌汁!」

「それじゃあ、キッチンに急ごう!」

「あ、お姉ちゃん。あんまり騒ぐと和ちゃん起きちゃうよ」

「あっと。いけね」

「すー」

(和ちゃん、かわかっこいい!)


168 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 19:52:53.61 x0ApGtiC0 52/197


――キッチン――

「フライパンに油ひいてー」

「うんうん」

「あっためてー」

「そうそう」

「玉子割ってー」

「いいねいいね」

「じゅー」

フライパン「ジュワー」

「頑張ってね。お姉ちゃん」

「うん! 憂も美味しいお味噌汁作ってね!」

「オーケー!」

「……いい匂い」

「和ちゃ~ん!!!」がば!


170 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 19:58:34.69 x0ApGtiC0 53/197


「ふぇ?」

「目玉焼きお皿に移して、火を消して――」

「和ちゃ~ん!!」がば!

「ええー」

「和ちゃんの朝おっぱい!」

「や・め・な・さ・い!」

「めがねー」

「よ・し・な・さ・い!」

「ぶー」

「憂まで朝からなにやってるのよ」

「な、なんとなく?」

「ホントに、いきなり小さい妹を二人も持った気分よ」

「お嫁さんだもーん」


173 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:07:11.51 x0ApGtiC0 54/197


「あ。目玉焼き」

「私が作りました!」フンス

「お姉ちゃん、手際がよくなったよね」

「憂には負けるよ~」

「まあね!」フンス

(気取らない憂はやっぱり可愛いわよね。この子ったら、人前だといい子でい続けようとするから)

「和ちゃん。食べよ?」

「ええ。いただきます」

「はむっ」

「ドキドキ。昨日と同じ」

「おいしい。このお味噌汁」

「ずこー」

「ありがとう! 和ちゃん!」


175 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:11:13.76 x0ApGtiC0 55/197


「あ。唯は目玉焼き担当?」

「うん」

「美味しいわよ。普通に」

「やっぱりこうだ! アレンジが必要なんだ! 私に料理は!」

「落ち着いて。美味しいんだからいいじゃない」

「うわああああああああん!!!」

「……」

「ちらっ」

「……」もぐもぐ

「ちらちらっ」

「様子見ても何も言わないわよ」

「うわあああああああああん!!!」

「お姉ちゃん。早く食べて」

「はーい」


176 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:18:21.97 x0ApGtiC0 56/197


「ところで唯」

「ん?」

「どこか行きたいところある?」

「うーん」

「お出かけするの?」

「折角の休みだから、家族サービスよ。憂はどこかある?」

「――」

(これは……そうだね)

「私はいいよ。二人で行ってきて」

「いいの?」

「うん」

「それじゃあ、水族館行きたい。和ちゃんと初めて恋人としてデートしたところ」

「あそこね。いいわよ。それじゃあ、準備出来たら出発よ」


177 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:28:52.03 x0ApGtiC0 57/197


「それじゃあ、いってくるね」

「うん。いってらっしゃい」

「唯。忘れ物はない?」

「大丈夫! クルマのカギ。お財布。なにもかもがある!」

「それは重畳。憂、家のことはお願いね」

「和ちゃんたちも楽しんできてね」

「運転は任せて!」

「やめて。ていうか、なんでアンタがキー持ってるのよ」

「あうー」

「アンタの運転。殆どミハエル・シューマッハじゃない」

「駄目?」

「駄目よ。ドライブも込みでデートなんだから。環七攻めてどうするのよ」

「ちぇー」

ドア「ニコ」

「じゃあ、行くわよ」


179 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:39:21.58 x0ApGtiC0 58/197


「ねえ、和ちゃん」

「なあに?」

「運転してる時の和ちゃん見てると、なんだかきゅんきゅんする」

「それは嬉しいこと?」

「わりと。だって、和ちゃんのカッコいい姿を、一番近くで見られる瞬間だもん」

「じゃあ、ありがとう」

「うん。缶コーヒー開けてあげる」

「……はい」

「……唯」

「ふぇ?」

「憂がいるときは言えなかったこと。言うわね」

「なぁに?」

「目玉焼き。今まで食べたどんな目玉焼きよりもおいしかったわ」

「……えへへ。私も、和のお嫁さんっぽくなれたかな」

「呼び捨てが似合ってないうちは、大人の女性じゃないけど。今の唯は立派なお嫁さんよ」


180 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:47:52.99 x0ApGtiC0 59/197


――PA――

「ちょっとお腹減ったわね」

「パーキングのラーメン食べたいね」

「そうね。安っぽさがなんともいえないわ」

「そのまえに……おしっこ!」

「25にもなって……まったく」

「でへへー。すいやせんねー」

「まあ、私も行くんだけどね」

「つれしょん!!」

「二期のタイトルみたいに言わないの。一期があるみたいじゃない」

「和ちゃん、今日は大丈夫?」

「問題ないわよ。昨日、見たじゃない」

「あ。そっか」


181 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 20:57:07.70 x0ApGtiC0 60/197


――食堂――

「私ラーメン!」

「それじゃあ、私は何にしようかな」

「ラーメンにしないの?」

「夫婦で同じもの食べてどうするのよ。お互い違うものにして、分けたり
すればいいじゃない」

「それもそうだね」

「……うん。コロッケ定食にしよう」

食券機「ういーん」

おばちゃん「ラーメン一丁!」

(そういえば、高校のときにあずにゃんと行ったラーメン屋さん。変なところだったなあ)

(あずにゃん。どうしてるんだろ)


184 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:11:48.61 x0ApGtiC0 61/197


――そのころ、梓は――

店主「ニンニク入れますか?」

「全増しで」

店主「はーい」

「……」

(唯先輩……)

店主「大豚W全増しー」

「……」もぐもぐ

(この子がネットで話題の美女ジロリーヌ。ジロにゃんか)

(暗い顔してるな。悩みでもあるのか?)

(美味しくない……)

(久しぶりの二郎なのに、ノれない)

(……唯、先輩)

「ござっす」ゴト

「……また、したいな」


185 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:21:27.03 x0ApGtiC0 62/197


「ばっかじゃないの」

「結局、性欲じゃない」

「唯先輩とのえっちが気持ちよかったから」

「唯先輩の手が、本当に暖かかったから」

「それに甘えて」

「それを欲しがって」

「それが手に入らないから」

「身体の『関係』だけを求めて」

「結果」

「残ったのは後悔と――こびりついたような要求」

「もう一度、したい」

「なんだそれ」

「唯先輩のこと、何だと思ってるんだ。私は」

「……」


188 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:34:34.01 x0ApGtiC0 63/197


――公園――

「日本の土」

「故郷の空気」

「いいものだと思った」

「でも、今となっては悲しいことを思い出す」

「つまんないよ」

「あれ?」

「え?」

「そのツインテール。小さな体。もしかして、中野梓さん?」

「その柔らかい物腰。ふわふわの金髪。もしかして、琴吹紬さん?」

「やっぱり!」

「ムギ先輩!」


189 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:43:15.49 x0ApGtiC0 64/197


「梓ちゃん。日本に帰ってきてたんだね」

「はい。一昨日に帰ってきて、昨日はぶらぶらしてました」

「そうなんだ」

「ムギ先輩も、どうですか? 最近」

「んー。たまーに大変だけど、大丈夫。世間知らずの箱入り娘なんかじゃないんだから」

「強いんですね。本当に」

「そんなことないわよ。家に帰って、一人で考え事すると、涙が出てくることもあるわ」

「そうなんですか?」

「忙しい時は平気だけど、時間が空くと楽しかった学生時代が思い出されるの。HTTのキーボード担当として過ごした7年。本当に充実してて、楽しくて、あのころに戻りたいって思うことも一度や二度じゃない」

「……」

「喉、渇いちゃった。ジュース買ってくるね」

(ムギ先輩も、あんなに寂しそうな顔するんだ……)


192 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:53:48.96 x0ApGtiC0 65/197


「はい。オレンジジュースよかった?」

「ごちそうさまです」

「……そうね。高校生になるまで、私は自動販売機でジュースを買う方法も、缶ジュースの開け方も知らなかった」

「……」

「嘘だと思うでしょう? でも、ホントの話よ。私は、絵に描いたような箱入り娘だったの」

「でも――」

「そう。でも、りっちゃんや澪ちゃん、唯ちゃんや梓ちゃん。それにさわ子先生に出会ってからは毎日が新鮮で、知らないことがいっぱいで。明日はきっと、今日よりもいい日になるだろうって考えて眠っていたわ」

「私が生きている今日は、昨日死んだ人がどうしても生きたかった今日なんだって」

「それを、実感してた。だから、毎日が楽しかったんだと思う」


193 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 21:56:17.43 x0ApGtiC0 66/197


「……はい」

「でも、最近になって思うの」

「かなりサイテーなことよ。世間知らずの私が、社会の波に揉まれたとき、あることを考えたの」

「私が生きている今日は、昨日自殺した人が死んででも避けたかった今日なんだって」

「!」

「ちょっと色々あってね。父の助けなしで頑張ろうとしたの」

「知らなかったです」

「誰にも言わなかったの。だって、HTTの皆だったら、きっと私を心配すると思ったから」

「当然です」

「特に、先輩思いの梓ちゃんは人一倍。だから、誰にも言わなかったの」

「――甘かったのよ。なにも知らなかった小娘が、学生時代の小さなコミュ二ティを知って、いい気になっていたということだった」


194 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 22:02:01.39 x0ApGtiC0 67/197


「かなり危ない橋を渡ったわ。汗をかく間も、涙を流す時間もなかった」

「恋人なんて、作ってる余裕もなかったの」

(ムギ先輩、まだ独身なんだ)

「今となっては、こうやって空を見ながら話せることだけど、あの頃は、いつだって二つのことを考えてた」

「ふたつのこと?」

「私が死ぬか。それとも、誰かの人生を終わらせて金を得るか」

「お金を儲けるってことが、どういうことなのか」

「裕福な暮らしをするということが、何を意味するのか」

「どうして、何も疑問に持たなかったのか」

「今思えば不思議ね」

「大人に、なったんですよ……」

「そうかしら? ただ単に、汚れちゃっただけかもしれないけど」

「そんな……」

「ああ、もうこんな時間。ごめんね梓ちゃん。今度はきちんと時間をとって話しましょう。梓ちゃんの話も聞きたいから」

「はい。それじゃあ、また」


204 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 23:16:06.94 x0ApGtiC0 68/197


――そのころ真鍋夫婦は――

「とーちゃーく!!」

「よかった。いい天気で」

「うぇーい!!」

「ほら、唯!」

「さあさ! 行こうよ!」

「わかったから。少し落ち着きなさい」

「むー」

「プイっ」

「ほら」

「?」

「手、繋いで行きましょ」

「うん!」ぎゅっ

「唯の手、あったかいわよね」

「和ちゃんの手はひんやりしてて気持ちいい!」


205 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 23:20:43.53 x0ApGtiC0 69/197


――館内――

「ふおおおおおおおおおお!!!」

「……」

「和ちゃん和ちゃん! この魚透明だよ!!」

「聞こえてるわよ。そんなに大声出さなくても」

「……あ」

「どうしたの?」

「そうだよね。私、大人の女性になるんだもん。しっかりお淑やかになる!」

「はいはい」

「あら、このお魚。透明でいらっしゃることですわよ」

「馬鹿丸出しだからやめなさい」

「ちぇー」

「まったく、可愛いんだから」

「あ! アシカのショーだって! 行こう行こう!」

「ちょっと、ひっぱらないで!」


206 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 23:33:34.41 x0ApGtiC0 70/197


お姉さん「アシカのあーくん! このフラフープを――」

「……」

「ほわあ……」

(あの頃とちっとも変わってない。子供みたいな目をしてる)

(初めてデートしたときも、こんな目をしてショーを見てたわね)

(色気もなくて、要領悪くて、頭も悪い)

(そんなこの子を、一生面倒見てあげられるのは自分だって思った)

(小学生のころに、そう思ってから、唯のことをずっと見てたのよね)

(その気持ちが、恋愛感情になるのに時間はいらなかった)

(恋愛感情になって、それからが長かったけど)

(同性愛がノーマルではないことは、小学生の私だってわかってた)

(だから、私が唯のことを好いているって事実を誰かに伝えることもできないで高校生になって、大学生になった)

(違う学校に通ってから、離れてから、ようやく気がついた)

(唯に私が必要なんじゃない。私が唯を必要としてるんだって)


208 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 23:47:31.86 x0ApGtiC0 71/197


――そして――

「あーっ! 楽しかったー!」

「憂へのお土産も買ったし、そろそろ帰ろうか」

「うん。このイルカのぬいぐるみ、なんて名前にしよっかなー」

「イルカ、ドルフィン。ドル子ってのはどう?」

「!?」

「……気に入らなかった?」

「いい! 和ちゃん! ありがとう!!」

「喜んでもらえてうれしいわ」

「嬉しいよー。ところで、帰りも和ちゃんの運転?」

「当然そうよ。私が旦那さんなんだから、少しはそれっぽいことしなきゃ」

「旦那さん……。いい響きだよねえ」

「そうね。じゃあ、出発するわよ」

「うん!」


209 : 以下、名... - 2010/05/28(金) 23:57:25.72 x0ApGtiC0 72/197


「もう寝てる……」

「すぴー」

「よっぽど楽しかったのね。嬉しいことよ」

「……」

「でも、起きてほしいな」

「唯と話したいもの」

「くー」

「唯の声、聞いてると落ち着く」

「それがたとえ、寝言でも。寝息でも」

「和……ちゃん」

「……」

(昨日のことは、もう思い出さないようにしよう)

(唯が他の人と関係を持った。これは事実だけれど、私は受け止めたくなんて、ない)

(私は、弱い人間ね。受け入れず、拒絶して)

(それで救われるのは、自分だけだというのに)


210 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:04:40.79 CpTzNWKv0 73/197


「ふぇ?」

「あ。起きたのね。まだ半分くらいよ。高速道路」

「そっか。……ねえ、和ちゃん」

「なあに?」

「ちょっぴり眠いけど、お話ししようよ」

「もちろん。いいわよ」

「……えへへー」

「唯は、子供欲しくないの?」

「子供は好きだよ。でも、欲しくない」

「……気、使ってる?」

「違うよ。ホントのホントに要らない。和ちゃんのこと、独り占めしたい」

「憂がいるわよ?」

「憂は別なのー」

「……ありがと」


212 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:11:09.46 CpTzNWKv0 74/197


「普通の道に降りたってことは、もうすぐだね」

「そうね」

「いっぱいお話しできて、本当に楽しかったー!」ニコニコ

「うっ!」

(か、可愛い!)

「……あれぇ?」

「……」

「今、和ちゃんってばあそこのホテルに入りそうになったでしょ?」

「な!?」

「昨日もしたのに、和ちゃんのえっち!」

「なに言ってるのよ! もう!」

「でもね……いいよ。和ちゃんがしたいときは、私もしたいときだから」

「……」

「駄目。我慢するの」

(唯はお嫁さんなの。性欲の捌け口なんかじゃない!)


213 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:23:38.26 CpTzNWKv0 75/197


「ただいまー」

「ただいま」

「おかえりなさい! お姉ちゃん二人!」

「変わった出迎え方ね」

「どちらもお姉ちゃんなので!」

「さっすが憂!」

「今日一日、このことを考えてたんだよー」

「すごい時間の浪費の仕方ね」

「そうかな?」


214 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:24:22.12 CpTzNWKv0 76/197


「憂、今日のご飯はー?」

「今日はお姉ちゃんたちが大好きなハンバーグだよっ」

「いいわね。あ、今日は久しぶりに呑む?」

「わーい! お酒ー!」

「それじゃあ、お姉ちゃんたちはお風呂入っちゃってね」

「憂も一緒に入りましょう」

「はい!」


216 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:29:38.64 CpTzNWKv0 77/197


――浴室――

「平沢家のお風呂は大きいのです」

「三人でも楽々足が伸ばせるものね」

「お父さんが、いつまでも家族でお風呂に入れるようにって、お風呂を
大きくしたみたいだよ」

「……色々と残念な結果に終わってるわね。お義父さんの目論見」

「でも、今はこうして家族三人でお風呂だもんねー」

「ねー」ぴとっ

「どうしてそこで胸を触るのか」

「急に胸が来たので」

「わけがわからないわよ」

「憂め! 妹のくせにズルイぞ! えい!」ぴとっ

「やめなさいって」


217 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:35:08.74 CpTzNWKv0 78/197


「やわらかー」

「……もう、好きにしなさい」

「はい!」

「うん!」

「どうすればいいの……」

「でも、和ちゃんって胸大きいよね」

「そうかしら?」

「それに柔らかくって、お母さんみたい!」

「これでもDくらいよ?」

「憂は?」

「同じだよ」

「ふんだ」パシャパシャ

「唯が離れたわね」

「和ちゃ~ん」

「……」


218 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:41:49.94 CpTzNWKv0 79/197


(……私だって、ちっちゃいわけじゃないもん)

(澪ちゃんやムギちゃん。和ちゃんに憂が大きいだけだもん)

「和ちゃんは、おっきい胸の子のほうが好き?」

「当然だよね」

「ういー」

「ういだよー」

「ほら、憂は挑発しないの。私は、唯が好きなのであって、特に大きさの好みなんてないわよ。繰り返すけど、私が唯が好きなの」

「わーい」

「むー」

「安心したよ。これで、思う存分抱きつけるー」

「話がつながらない」

「のぼせてきたから、『先に』上がるね」

「あ」


219 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:47:15.98 CpTzNWKv0 80/197


ドア「ニコ」

「あわわ」

「和ちゃーん」

「ゆ、唯?」

「んー」ちゅっ

「んっ」

「あまぁい」

「味なんてないでしょ?」

「あるよー。和ちゃんの唇。イチゴみたい」

「その笑顔で見られると、なんにも言えないしできないわよ」

「憂がいると、流石にキスはできないもん」

「あら、唯にもそういう恥じらいがあるのね」

「まあ、最小限は」

「今日は、しないって言ったでしょう?」

「……私がえっち好きな女だと思ってる?」


221 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 00:56:12.80 CpTzNWKv0 81/197


「思ってないわよ」

「うそつき」

「アンタ、ちょっとおかしいわよ?」

「おかしくないもん。えっち、嫌いだもん」

「……どうしたの? 話してみてくれない?」

「和ちゃん以外の人としても、気持ちよくなんてないもん」

「……」

「和ちゃん以外の人となんて、絶対にしたいって気持ちも起きないもん」

「そう、ね」

「私が不倫したこと、気にしてる?」

「蒸し返すってことは、唯が一番気にしてるってことじゃない」

「気にするよ。だって、裏切っちゃったんだよ?」

「許すって言ったでしょう?」

「私、馬鹿だからうまく言葉にできないけど……和ちゃん、気にしてるでしょ?」


222 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 01:03:39.04 CpTzNWKv0 82/197


「困った子ね」

「うん……」

「でもね。唯と結婚して、よかった」

「私も……」

「親友って関係じゃあ見えない唯の部分、たくさん見てる」

「嫉妬する唯。悩んでる唯。幸せそうな唯」

「和ちゃんの前なら、本当の私を見せられるから」

「唯は律たちの前だと、とことんとぼけたキャラでいるからね。そうすることで、自分の居場所を作った」

「でも、私の前ではそんなことはしない。本物の唯でいてくれる」

「えっちなことに興味もあるし、寂しくって泣いちゃうときもある。そんな、皆が知らない唯を、私は愛してるんだから」

「歯が浮くようなセリフ、だね」

「ええ。でも、伝わったでしょう?」

「うん……。大好きだよ。和」


223 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 01:09:04.75 CpTzNWKv0 83/197


――居間――

「うえー」

「うー」

「かんっぜんにのぼせてるね」

「扇風機-」

「ううー」

「タオル姿で扇風機に固まるお姉ちゃんズ。可愛いっ」

「あーいーすー」

「ご飯、食べてからー」

「お酒とおつまみの準備するね」

「おねがーい」

「……ふふっ」

「のぼせたフリ。大成功だね」

「まあ、ちょっとのぼせ気味ではあるけど」


226 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 01:27:50.94 CpTzNWKv0 84/197


「準備できたよー」

「うーい」

「ほら、唯。立ちなさいって」

「ういー」

「?」

「いや、憂じゃなくって」

「紛らわしいね」

「そうだね!」

「さあ、明日も休みだし。今日は呑むわよ!」

「うん!」

「かんぱーい!!」

「……おい――っしい!」

「いろんなものが吹き飛ぶよー」

「……そういえば、今日律さんに会ったんだー」

「珍しいわね」


227 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 01:34:05.31 CpTzNWKv0 85/197


――憂の回想・スーパー――

「今日のご飯はハンバーグー」

「どっちもお姉ちゃんだけど、どっちも好きなハンバーグー」

「ありゃ。憂ちゃんじゃん」

「あ。律さん。こんばんは」

「こんばんは。唯たちは?」

「お姉ちゃんたちは今日、水族館です。それで、私はお留守番です」

「相変わらずラブラブだねー。真鍋さんところは」

「ちょっぴり嫉妬しちゃいますよ。律さんはどうしたんですか?」

「いやあねえ。澪のやつがハンバーグを作るのに肉を忘れたってんで、買いに来たのよ」

「澪さん……」

「たまーに在り得ないミスを犯すのが、うちの家内のクセでして」

「でも、澪さんのハンバーグって美味しそうですよね」

「うまいぞー。澪の愛が合びき肉に込められてるからな」

「平沢家も、今日はハンバーグです」


229 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 01:38:59.01 CpTzNWKv0 86/197


「お。偶然だなぁ!」

「ですね。律さん、お仕事順調ですか?」

「問題なし。今のところは、二人が食ってくには心配はないよ」

「大変ですよね。雑誌の編集って」

「まあね。人気漫画家のくせに1年休みたいとか言い出す奴もいるんだ」

「その漫画家に心当たりが」

「憂ちゃんの心当たりは殆ど、っていうか間違いなく正解だな」

「大変でも、今の律さん。すごいかっこいいですよ」

「さんきゅっ。じゃあ、そろそろ行くね」

「はい。澪さんにもよろしくです。……あ。それと」

「?」

「カチューシャ。もう付けないんですか?」

「仕事の時以外は、ね。家内たってのご要望なので」

「ウフフ……」


259 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 20:09:41.82 CpTzNWKv0 87/197


――回想終わり――

「こんな感じで!」

「カチューシャのないりっちゃんって、たまに誰だかわからないんだよね」

「ただ、律って前髪下ろすとイケメンなのよね」

「うん。りっちゃんはおかしいって言ってなかなか前髪下ろしてくれなかったけどさ」

「もともとカッコいいのに、もっとかっこよくなるんだよ。律さんって」

「今頃は恋女房と食事でもしてるのかしらね」

「まるで私と和ちゃんみたいだねー」

「ねー」

(和ちゃんが酔いだしている……。これはチャンス?)

「でも、澪さんと律さんってどんな夫婦生活送ってるのかな。気になるよ」

「仲良しだよ。きっと。うん」


260 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 20:15:48.26 CpTzNWKv0 88/197


――田井中家・マンション――

「ハンバーグできたぞー」

「ひゃっほう! 待ってました!」

「ただのハンバーグで、よくそんなにはしゃげるな」

「当然だろー。だって、澪の手料理じゃん」

「――!」

「帰ってこれない日が多いからさ。たまーにある団欒を大切にしたいんだ」

「……馬鹿律」

「馬鹿で結構。それより、酒はまだか!」

「ご飯と一緒にビール呑むの?」

「ん? 駄目?」

「駄目じゃないけど……」

「ふむ」

「わかった。ビールはあとだ。まずは澪の飯をたらふく食べる!」

「……うん! 召しあがれ!」


261 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 20:27:28.98 CpTzNWKv0 89/197


「――それでさー。さっき憂ちゃんに会ったんだよ」

「私は昨日唯に会ったぞ」

「いいなー! ここんところ会ってないなー」

「あいつ、すごい成長してたぞ。和のためにご飯作るって」

「あいつが!? 嘘だろ?」

「私も嘘だと思ったよ。あの唯が、料理なんて。でも、唯は本気だった。カレー、うまく作れたかな」

「あの唯がねー」

「……あ。そうだ。明日、聡が来るってさ」

「なんでさ」

「プロ入りがほぼ内定したから、挨拶に来るんだと」

「そっか。聡のやつ、プロになるのか」

「だから、明日はごちそう作らなきゃな!」

「ハンバーグ以上のごちそうか。じゃあ、明日は私も絶対に帰ってこないとな!」


262 : 以下、名... - 2010/05/29(土) 20:32:51.27 CpTzNWKv0 90/197


――そのころ、平沢宅は――

「ういー」

「うーいーだーよー」

「あははははー」

「きゃはははー」

「おさけ、おーいしー!」

「ほら唯。唐揚げ食べな唐揚げ」

「あーん!」

「可愛いー!」なでなで

「和ー!」

「唯ー」

「ういー!」

「たのしー!!」


313 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 15:58:37.40 x9gyVQd10 91/197


――それからしばらく――

「くかー」

「すぴー」

「……」

「あ、暑い……」

「いつの間に二人とも私に抱きついて寝てるのよ。昔とまったく変わらないわね。こういうところ」

「和ちゃーん……」

「とはいえ、私が寝てたのがいけないんだけど」

「えへへー」

「この二人、本当に体温高いわね。ストーブ抱えてるみたいよ」

「離れないし」

「うぇー」

「お酒臭いし」

「……いいか。幸せだし」


315 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:03:42.58 x9gyVQd10 92/197


――翌日――

「あったまいったい……」

「ガンガンする……」

「ほら、お水持ってきたわよ」

「ありがとー」

「憂も、ほら」

「和ちゃんって、どうして二日酔いにならないの? あんなに呑んでたのに」

「そういう体質なのかしらね。今日は仕事休みだから、ご飯もなにも、全部私がやってあげるわ」

「なんか、和ちゃんかっこいい」

「ありがと。それはそうと、なにか食べたいものある? もうお昼よ」

「和ちゃんが作ってもらったものならなんでもいいよ」

「それは困るわ。……じゃあ、アレにしようかな」

「アレ……?」


316 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:09:59.10 x9gyVQd10 93/197


「――おまちどうさま」

「!」

「?」

「和ちゃんのオムライスだー!! 憂ー!」

「ホントだ! やったぁ!」

「二人とも、昔からオムライス好きだったものね」

「あまーい卵で包んだチキンライスー」

「ケチャップたくさんかけて、いただきます!」

「落ち着いて食べなさいよ」

「はふっはふっ!」

「……可愛い」

「和ちゃんはいい旦那さんだよ!」

「オムライスくらいでおおげさな」

「ううん。このオムライス、すっごく美味しいもん!」


317 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:13:35.97 x9gyVQd10 94/197


「この姉妹。一緒にいてまったく飽きないわよね」

「そうかな?」

「そうよ。いつも元気で子供っぽい唯に」

「普段はいい子なのに、スイッチが入ると唯以上に子供な憂」

「ふぇ?」

「一生離したくない幸せの象徴よ」

「えへへー。どうしよう、象徴だなんて照れちゃうよー」

「誇張でもなんでもない。私、アンタたち二人を一生かけて守るわ」

「――」

「憂の顔、真っ赤じゃない。そんなに恥ずかしかった?」

「うん。かなり恥ずかしいよ。和ちゃん」

「自分でも、相当くさいこと言ったと思うわ。でも、本音なのでご容赦を」

「私も、和ちゃんと憂を離さないもん!」ぎゅー

「えへへー」

「うふふ」


319 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:18:55.89 x9gyVQd10 95/197


――そのころ、梓は――

「日本に帰ってきたのはいいけれど、ここまで暇だなんて」

「お母さんたちは帰ってこないし、純はイギリスだし」

「そのうえ、澪先輩と律先輩の居所は知らない」

「ムギ先輩は日曜も忙しいだろうから、会えない」

「そうなると、唯先輩……」

「いや、やめておこう」

「辛い思いをするだけだもん。お互いに」

「散歩でもしよう。もしかしたら、知ってる人に会えるかもしれない」

「お腹も減ったから、二郎でもしようかな」

「……でも、たまには他のお店にも行ってみようかな」

「おしゃれなお店。大人っぽいレストランでも探そう」

ドア「ニコ」


321 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:24:57.38 x9gyVQd10 96/197


「考えてみれば、私ってそういうお店を一つも知らないんだよね」

「好きな食べ物がラーメンだとかたいやきみたいな、子供丸出しのものだし」

「そうだ! たいやきを買おう! アメリカにはないもんね」

「そうと決まれば甘味処仏陀に急ごう!」

「……いやいや、結局そうなるのは駄目だ」

「今日の目標はおしゃレストランを見つけることなんだから」

「……あれ、梓だよな。なんか一人で面白いからもうしばらく見ていよう」

「レストランっていうからには、イタリアンだよね!」

「イタリアンはあっちでも食べられるけどね」

「じゃあ、私と一緒に食事でも行かない?」

「ひっこんでて! 今、私は高尚な考えに――って、澪先輩!」

「相変わらず梓は面白いな」


323 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:32:14.37 x9gyVQd10 97/197


「あ、あの。お久しぶりです!」

「うん。元気なようでなによりだよ」

「澪先輩はなにを?」

「ああ。今日の晩御飯の買い出し。今日は律の弟が来るからさ」

「……もしかして」

「そういえば言ってなかったっけ。私、律と結婚したんだ」

「マジですか!」

「うん。梓はアメリカで忙しかっただろうから、報告できなかったんだ」

「驚きです。そうなんですかー」

「……それでなんだけど、一緒にご飯でも食べない? 久しぶりに話もしたいしさ」

「はい! ご一緒させてください!」

「うん。じゃあ行こうか」


324 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:38:23.27 x9gyVQd10 98/197


――イタリアンレストラン・ツェペリ――

「わぁ~……」

「梓、ここは初めて?」

「はい。なんか、おしゃれなところですね」

「私の趣味は食べ歩きだからな。雰囲気がいい店はけっこう詳しいんだ」

「ここって、なにが美味しんですか?」

「やっぱりパスタだな。イカスミがイケるんだ」

「じゃあ私はそれにします」

「……」

「澪先輩、変わってないですね」

「そうかな。それなりに変わった気がするんだけどなー」

「いいえ。あの時と変わらない、素敵な澪先輩です」

「褒めたって何もでないぞー。……梓も変わらないよ」

「それ、唯先輩にも言われました」

「へえ、唯に会ったんだ。いつ?」


326 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:43:44.12 x9gyVQd10 99/197


(しまった)

「えと、一昨日です」

「私も一昨日、唯に会ったんだよ。スーパーでさ」

「そう、なんですか……」

「?」

「唯先輩も、結婚したんですよね。和先輩と」

「うん。……梓、大丈夫か?」

「ちょっと辛かったですけど、大丈夫です……」

(梓が唯を好きってことを知ってるのは、私だけなんだよな。私がフォローしてあげないと)

「梓にだって、きっといい出会いがあるよ。うん」

「ありますかね……」

「あるよ! アメリカのイケメン捕まえて国際結婚したりさ! 梓、可愛いからすぐ見つかるよ」

「はは。……と、スパゲッティ来ましたよ」

「ん。じゃあ、いただきます」


327 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:47:50.55 x9gyVQd10 100/197


(澪先輩には、言わないでおこう)

(唯の話題は出さないであげよう。好きだった人が結婚して幸せに暮らしてる話なんて、聞きたくないだろうし)

「澪先輩、結婚しても仕事続けてるんですか?」

「もちろん。やりがいがあるぞー」

「まさか澪先輩が小学校の先生になるなんて、思いもしませんでした」

「人見知りだった私、さようならってやつだよ」

店員「お水、おかわりどうぞ」

「ふぇ!? お、お、お、おおおおお願いします!」

(悪化してる!?)

「……」

「……」

「ちょっと盛りました」

「はい」


329 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 16:54:13.95 x9gyVQd10 101/197


「でも、すごいんだぞ。子供って」

「そうなんですか?」

「ああ。いつまで遊んでも疲れないんだ。身体的な能力では、間違いなく私のほうが上だというのに、さ」

「確かに、昔は疲れなんて知りませんでしたよ」

「それを見てると、未来を感じるんだ。この子たちが大人になった姿を、見てみたいと思うんだよ」

「……」

「だから、私は仕事を辞めない。律がなんて言っても辞めてやるもんか」

「律先輩と、幸せなんですね」

「ま、まあね。……なんだかんだで、アイツが一番私を分かってくれるんだ」

「なんだか、妬けちゃいます」

「ハハハ。いいだろ」

「未来……か」

「?」

「色んな国を見てきて、私は未来というものがなんなのかがわかりません」


330 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:01:55.48 x9gyVQd10 102/197


「梓は、外交官なんだっけ」

「はい。アメリカだけじゃない。色んな国を見てきました」

「……話、聞かせてくれる?」

「貧しい国と裕福な国は、未来の定義が違います」

「裕福な国。日本やアメリカ、先進国の『未来』とはそのまま科学の発展を意味します」

「ドラえもんの道具を現実にしたり、治せなかった病気を治せるようにしたり、ということです」

「それに関して、文句はありません。科学の発展で救われる命、幸せになる人がいるのですから」

「ただ、その対象ですら裕福な人に限られるのですが」

「そうだな。心臓病を手術で治せるようになったとしても、莫大なお金がかかる。お金のない人は、その恩恵を受けられぬままに死ぬ」

「はい。病院に行くと、そういう人を何人も見かけます」

「つまるところ、先進国にとっての未来は科学の発展であり、その裏返しのように、金の必要性がより濃くなる。ということです」


331 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:08:40.91 x9gyVQd10 103/197


「その逆に、貧しい国での『未来』というのは『生』ということになります」

「私たち日本人は、放っておいても、人は大きくなるものだと考えます。それは、命の危険を感じるような飢餓が身近にないからです」

「事実、私はこうしてイカスミスパゲッティを満腹だから、という理由で残しています。これこそ、飢餓を本当の意味では知らない私たちならではの行動です」

「でも、貧しい人にしてみれば、こんな行動は考えられないわけです」

「食べなければ死ぬ。こんな当たり前のことを、私たち日本人は骨身に染みてなどいないのです」

「だから残す。だから捨てる。だから、無駄にする」

「パンを一つ手に入れるのには金がいる。下手をすると、金があっても手に入らないかもしれない」

「食べるために生きる」

「明日生きて眠ること」

「それが、貧しい国の人たちに於ける未来なのです」

「……」

「少し、疲れてしまいました。日本語で、こんなに長く話したのは久しぶりでしたから」


334 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:14:49.04 x9gyVQd10 104/197


「うん。梓は、色んなものを見てきたんだな」

「……」

「辛いことや悲しいこと。律と過ごして、楽しいことばかりを見てきた私とは違う」

「そんなこと……」

「いいんだよ。無理しなくても。休んでいいよ」

「でも、私は――」

「――梓が擦り切れたら意味がない。がんばってる梓を見てると、昔からあんなに飛ばして生きて大丈夫かなって思うんだ」

「――」

「人生は長いんだ。少しくらい走るのをやめたっていいだろ?」

「……じゃあ、ぎゅってしてください」

「……わかった。横に座るな」

「……」ぎゅ

「思えば、こんな風に梓を抱きしめたことなんてなかったな。こんなに暖かいなんて。唯が夢中になるわけだよ」


336 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:20:23.69 x9gyVQd10 105/197


――夕方――

「それじゃあ、私はこれで。今度は、律先輩もいっしょに」

「そのときはうちに来なよ。ごちそう作るから」

「……はい!」

(その笑顔なら、梓は理想と現実に擦り切れることはないな。がんばれよ。私たちの大切な後輩!)

「あー! いたいた!」

「聡か。どうした?」

「姉ちゃんが怒り狂ってるんだけど……どうして?」

「……あ」

「腹減ったーって40回ほど叫んで、俺を殴りつけましてからに」

「しまった。律のお昼ご飯、すっかり忘れてた」

「あらら」


337 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:24:35.52 x9gyVQd10 106/197


――田井中家・マンション――

ドア「ニコ」

「聡ー! パン買ってきたかー!!」

「弟になにやらせてるんだ。まったく」

「みおー! もとはといえばお前がー!」

「それは謝るけど、聡に暴力振るうなって」

「ぶー」

「いいって澪姉。姉ちゃんが乱暴なのは昔からだし」

「……そっか。じゃあ、今日は晩御飯はごちそうだから。律も期待しろよ」

「わーい! みおー!!」がば!

「うわ! や、やめろ!」

(すげえいい匂いする。これが女二人の愛の巣ってやつか……!)


338 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:35:03.79 x9gyVQd10 107/197


「りつー。手伝ってー」

「えー」

「りつー」

「しょうがないなー」

(あの二人、本当にうまくいってるのだろうか)

「ふぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「!?」

「うるさい! 近所迷惑だろ!」

「澪姉もかなりだけどね!」

「だって、このガーリックソースがうますぎるんだもん!」

「ソースだけでそんなに騒ぐな!」

「……あー。なるほどね」

(騒がしいけど、姉ちゃんはああやって澪姉を褒めてるんだ。澪姉もまんざらじゃなさそうだし)

(女心ってわかんねぇな。ま、だから彼女いないんだけどね)


339 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:42:18.74 x9gyVQd10 108/197


「律、このお皿持っていって」

「ほいほーい」

「あ。俺も手伝うよ」

「聡は座ってて、お客さんなんだから」

「そーだぞー。ここは我が女房のメシをたらふく食いなはれ!」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「うんうん。……聡、やっぱりでかくなったなぁ」

「プロスポーツ選手になるにはこれくらいないと。大学の部活じゃあ、もっとでかい人いるよ」

「もう、いっつも私の後ろで、お姉ちゃんお姉ちゃん言ってくっついてきたちび助じゃないんだな」

「いつの話だよ。それ」

「昨日のような気もするけど。もうあれからかなりの時間が経ったんだよな」

「私たちも、大人になるわけだよ。さあ、聡。どんどん食べな」

「うん。いただきます」


342 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:48:12.99 x9gyVQd10 109/197


「うめー!」モグモグ

「澪姉の料理、最高だよ!」

「フフ。ありがと。そう言ってもらえると、作った甲斐があったよ」

「今日何も食わなかったからな。誰かの所為で!」

「根に持つな」

「ふーんだ」

「姉ちゃん、子供みたいだぞ」

「なにお! 私は大人だ!」

「はい」

「流すなー!」

「律はさておき、聡はプロでもやっていけそうか?」

「もちろん。自信がなきゃあ大学まで続けないしプロにもならないよ」

「子供の頃の約束だと、契約金は姉と弟で7:3だよな」

「捏造すんな」

「プロかぁ。私たちはプロにはなれなかったから、聡に頑張ってほしいな」


345 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:54:47.29 x9gyVQd10 110/197


――夕食終わって――

「……姉ちゃん」

「ん?」

「親父、寂しそうにしてたよ」

「……」

「おふくろだってそうだ。姉ちゃん。そろそろ帰っても――」

「うるせえ……」

「――」

皿「カチャカチャ」

「澪姉との結婚、認めてもらえなかったこと。まだ――」

「私は澪が好きなんだ。父さんも母さんも、女同士だからって理由で、澪まで馬鹿にした! 許せるか、そんなの!」

「だから駆け落ちした。……でも、姉ちゃんたちは町を離れずにここにいる。それはどうしてなんだ?」


346 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 17:57:40.68 x9gyVQd10 111/197


「私の私情じみた理由で、澪の大事な思い出があるこの桜ケ丘から、離れたくないってだけだ」

「……そう、か」

「でも、聡。お前だけは私たちに味方してくれた。だから、お前にだけはここを教えたんだぞ」

「……ありがとう。姉ちゃん」

「なあ、聡」

「なに?」

「もし、私に何かあったら、澪をよろしくな。アイツ、さびしさで死ぬような、ウサギみたいなやつだから」

「可能性が0じゃないことだから了解。でも、澪姉を幸せにできるのは姉ちゃんしかいないよ」

「さんきゅ」

「ああ。そろそろ帰るけど、親父たちには、元気してたって伝えておくから」

「ん。……あ。そうだ」

「?」

「彼女、出来たら連れて来いよな」


348 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 18:04:05.56 x9gyVQd10 112/197


――そのころ、平沢宅では――

「ういー」

「ういだよー」

「頭痛いのなくなってきたー」

「私もー」

「和ちゃんに構ってほしー」

「ミートゥー」

「和ちゃーん!」

「なによ」

「だっこ」

「おんぶ」

「無理よ」

「頭痛ーい」

「さっきの会話を聞いてないと思う?」

「そりゃあそうだよね。お姉ちゃん、そろそろお風呂入ろうか」


350 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 18:11:18.29 x9gyVQd10 113/197


――浴室――

「お酒はもうこりごりだよー」

「そんなこと言って、明日には飲むんでしょ?」

「私の意志は石より硬い。医師にも負けないそんな気持ち」

「ラップ?」

「DISってんのかメーン?」

「足広げてそんなこと言っても仕方ないよ」

「きゃ!」

「……」

「み、見たなー!」

「……」

「……申し訳ない」

「はい」

「和ちゃんの晩御飯、楽しみだね」

「そうだね」


351 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 18:17:22.14 x9gyVQd10 114/197


「そういえば、憂は私たちと一緒にいて大丈夫?」

「なんで?」

「お姉ちゃんたちの幸せだけじゃなくてさ。憂の幸せも――」

「今のこの場所が、私の幸せなんだよ」

「……いいの? それで」

「いいの。というか、それを望んでるの。お姉ちゃんと和ちゃんの側で、ご飯を作ってあげたい」

「……ごめんね」

「謝ることなんて、なにもないよ」

「……でもね。憂」

「?」

「もし、憂に大切な人が見つかったら、私たちに構わないでいいからね。私も、頑張って和ちゃんのお嫁さんらしくするから」

「……うん」

「大好きだよ。憂」

「私もだよ。お姉ちゃん」


353 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 18:22:58.53 x9gyVQd10 115/197


「和ちゃん。出たよー」

「はい。着替え」

「今日のご飯は?」

「今日はエビフライとメンチカツよ」

「おいしそー」

「わーい! 早く食べよう食べよう!」

「じゃあ、準備手伝ってくれる?」

「はーい」

「わ、私もやるー!」

「唯はお皿出しておいてちょうだい。憂は大皿ね」

「和ちゃんのお料理ー」

(和ちゃんの中では私よりも憂なのー?)しくしく

「大丈夫よ。安心しなさい」

「心を読んだ!」


354 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 18:28:21.53 x9gyVQd10 116/197


――夫婦の寝室――

「今日はありがとね。和ちゃん」

「いいのよ。これくらい」

「ううん。それでも、ありがとう」

「じゃあ、どういたしまして」

「昔から、私たちは和ちゃんに甘えっぱなしだね」

「まったくよ。……でも、悪い気はしないからいいわ」

「えへへ。愛されてるなー」

「愛してるわよ」

「……なーんか、ムラムラしてこない?」

「サルじゃないんだから、これくらいじゃあしないわよ」

「私お猿さん!?」

「明日はお仕事だから、寝るわ。おやすみ」

照明「パチン」

「ぶー。おやすみ」


369 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:14:34.27 x9gyVQd10 117/197


――翌日――

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

「くかー」

「お姉ちゃん。和ちゃんが行っちゃうよ」

「うう~」

「まったくもう。でも、可愛いからいいかな」

「おやすみなさい」

「おやすみ。お姉ちゃん」

ドア「ニコ」

「さて、今日は天気もいいからお散歩でもしようかなー」

「……ふわぁ」

「私も一眠りしよう。それから、お散歩に出かけることにしよう」


370 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:19:29.01 x9gyVQd10 118/197


――そのころ、梓は――

「ふわぁ~」

「結局、昨日は澪先輩と別れてからはパソコンして寝ちゃったんだっけ」

「……」

「ひどい、顔」

「昨晩観た映画の所為だよね」

「……そうだよ。映画の所為だ」

カーテン「ザァァ」

「今日もいい天気だなぁ」

「よし、散歩しよう」

「シャワー浴びて、着替えてから散歩しよう」

「明日にはアメリカに戻らなきゃいけないし、故郷巡りも悪くないよね」


371 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:25:40.08 x9gyVQd10 119/197


ドア「ニコ」

「それじゃあ、行こうかな」

「まずはどこに行こう」

「まだ昼間の11時だし、お店に入るのは散歩とは違うしね」

「桜高まで、行ってみようかな」

「うちから遠くもないし、行ってみよう」

「後輩たちが頑張ってる姿を見てこよう。うん」

「後輩、か」

「軽音部。なくなっちゃったんだよね」

「仕方ないか。だって、部員がいないんだもん」

「しょうがないよね」


372 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:31:41.39 x9gyVQd10 120/197


「――着いた」

「授業中なのかな? ずいぶん静か」

「……ここを卒業して、もう6年か」

「楽しかったなぁ」

「朝学校に来ると、憂がいて、純がいて、部活に行けばムギ先輩のおいしいお菓子とお茶を食べさせてもらって、唯先輩が私に抱きついてきて、うっとおしいけど、気持ちよくって。律先輩と澪先輩がふざけあって――和先輩が書類を取りに来て、さわ子先生が服持ってきて――」

「さわ子先生……」

「今も、いるのかな?」

「いるよ」

「え?」

「お姉ちゃんから聞いたんだ。さわ子先生は、まだこの学校の先生だって」

「う、うい?」

「えへへ。ういだよー」

「ひさ、しぶり――」

「うん。久しぶりだね。梓ちゃんっ」


376 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:40:24.50 x9gyVQd10 121/197


「どうして、ここに?」

「んー。天気がいいから、お散歩かな。梓ちゃんも奇遇だよね。帰ってきてたんだ」

(唯先輩、憂に話してないんだ……)

「うん。ちょっと前に、ね」

「連絡してくれればよかったのにー。お姉ちゃんも喜ぶよっ」

「ごめんね。私、あっちにいることが殆どだから、ケータイ持ってないんだよ。憂は元気してた?」

「もちろん。梓ちゃんは、ちょっと元気なさそうだね」

「そう見える? ――まあ、見えても仕方ないか」

「?」

「ねえ、憂」

「なぁに?」

「学校、忍びこんじゃおうか」

「……うん。いいよ」


377 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:44:19.36 x9gyVQd10 122/197


――桜高校内――

「バレたりしないかな?」

「どうだろ。でもまあ、卒業生って言えば平気でしょ」

「それもそうだね。さわ子先生もいるし」

「さわ子先生かぁ。会ってみたいかも」

「私もー。お姉ちゃんは会ったみたいだけど、私は会ってないんだよ」

「うーん。どこにいるんだろ」

「やっぱり職員室かな?」

「いや……。憂、今の時刻は?」

「11時45分だよ」

「じゃあ、多分あそこだろうね」

「?」

「ついてきて。憂」

「う、うん」


378 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 20:51:50.87 x9gyVQd10 123/197


「ここ?」

「多分ね。自身はないけど」

ドア「ニコ」

「――!」

『あ、あずにゃん! ぎゅー!!』

『遅いぞー!』

『今日は練習するぞ。梓』

『今日はブルーベリータルトよ』

(――あれ?)

さわ子「あ、あなたたち――?」

「さわ子先生、ですよね?」

さわ子「……憂ちゃん。梓ちゃん。どうしてここに?」

「そりゃあ、恩師に会いに。ですよ」


380 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:01:30.13 x9gyVQd10 124/197


さわ子「恩師、ねえ。そんなガラじゃないと思うけど?」

「そんなことないです。さわ子先生がいなかったら、楽しくなかったと思うんです」

さわ子「唯ちゃんたちがいたじゃない。それじゃあ足りなかった?」

「全然足りませんよ。先生が持ってきた猫耳があったから、唯先輩は私をあずにゃんって呼んだんですから」

さわ子「それもそうね。……もう、8年前になるのね」

「はい。先生は、なんだか落ち着きましたね」

さわ子「そりゃあそうよ。私だって、もう三十路越えよ?」

「そうは見えませんよ。あの時と全く変わってません」

さわ子「おせじ? 梓ちゃんも大人になったわね」

「いえいえ。そんな気がきく人間に見えます?」

さわ子「ハハ。見えないわね。正直」


383 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:06:48.93 x9gyVQd10 125/197


「でも、先生がまだこの学校にいてくれてよかったです」

さわ子「なんか、居心地いいのよ。出身もここだしね。特に、この音楽準備室は特に、ね」

「……机と椅子の配置。変わってませんね」

さわ子「片付けるのが面倒なだけよ」

「そういうことにしておきます。憂も座れば?」

「うん。じゃあ、私はお姉ちゃんの席に」

さわ子「……唯ちゃんは、元気?」

「はい! 毎日ごろごろしてます!」

さわ子「でしょうね。まったく。あの子ったら、私よりも先に結婚するなんて」

「先生は?」

さわ子「……ただいま絶賛婚活中よ。私のなにがいけないのかしら」

(ホントに、昔から不思議だよ。先生、美人なのに)

「澪さんも律さんも元気みたいですよ」

「ムギ先輩も、色々あったけど元気にしてるみたいです」

さわ子「そう。……そう」


384 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:16:19.60 x9gyVQd10 126/197


「あの、先輩たちは来ないんですか?」

さわ子「来るわけないでしょ。あの子たちは、それでいいの」

「でも、お姉ちゃんも和さんも先生に会いたいって――」

さわ子「なら伝えておきなさい。あなたたちにとって、私という存在は通過点なのって。本来なら、憂ちゃんたちにとってもそうなのよ?」

「そんな……。悲しすぎます」

さわ子「教師っていうのは得てしてそうなのよ。自分という存在は、振りかえるものじゃあない。たまーに思い出して、ベッドの中で笑う。それくらいの存在でちょうどいいのよ」

「先生……」

さわ子「あなたたちは大人になってくる。でも、私はどんどんおばさんになってくる。自慢じゃないけど、校内一の美人教師だった山中さわ子は、今となっては中堅の音楽教師になりつつあるの。思い出は、思い起こすので十分。壊したり、カタチを変えたりするものではないわ」

「今も、先生は綺麗ですよ」

さわ子「……梓ちゃんは優しいのね」


387 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:22:20.00 x9gyVQd10 127/197


「いいえ」

さわ子「でも、まあ。私もこうして此処にいるってコトは、『そういうこと』なのかもね。一番パワーがあって、一番楽しい子たちに囲まれたアノ時間に、想いを寄せているだけなのかもしれないそれだって、決して悪いことではないんだから、ね」

「……大人になるって、そういうことなんですか?」

さわ子「?」

「昔にあったことを、まるで映画のように思い出す。それが、大人なんですか?」

さわ子「もちろん、それだけじゃあないわよ。30過ぎたって、新しいものは新鮮よ。ただ、そういうものが少ないだけ」


388 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:24:37.90 x9gyVQd10 128/197


「……」

さわ子「つまらない大人。きっと、私はあなたたちにはそう映るのかもしれない。でもね、私があなたたちと同じ年の時――そう、唯ちゃんやりっちゃん。澪ちゃんにムギちゃん。軽音部の子たちに出会ったときは、それはもう、新鮮だったわ」

「――」

さわ子「この子たちは新しいことをしている。その一端を、私は担っている。そう思うと、胸がドキドキして、毎日のようにベッドの中で笑ってたわ」

「私たちと、同じ年のとき……」

さわ子「だから、人生はつまらないものじゃない。二人も、毎日ベッドの中で思い出して、笑っちゃうくらいに楽しいことを見つけなさい」

「――はい」

さわ子「説教くさくなっちゃったけど、私の、あなたたちに対する最後の授業よ。つまらない大人になってもいい。でも、新しいものを見つける心を忘れないで」

「失礼、します」

ドア「ニコ」

(ありがとうございます。きっと、私の中であなたは、いつまでも恩師でい続けるでしょう。また、会えたら)


389 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:30:07.22 x9gyVQd10 129/197


――夕方――

「日、落ちてきたね」

「うん」

「……私、先生みたいな大人になりたい」

「私も……」

「――」

(そうだよね。きっと、私は憂に隠し事をしたくないんだ)

(先生のような大人になるために、過去の決算をしなくちゃ――)

「あのさ、憂」

「なぁに? 梓ちゃん」

「話したいことが、あるの」

「……」

「だから、今からうちに来てほしい。いい?」

「――」

「うん。梓ちゃんの話。聞かせて」


392 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:40:40.36 x9gyVQd10 130/197


――中野宅・梓の部屋――

「……」

「……」

「憂」

「?」

「一昨日、唯先輩に会ったの」

「!?」

「スーパーの前に、唯先輩がいて、一緒に喫茶店に入ってお話しした」

「私、そこで初めて唯先輩が和先輩と結婚してることを知ったの」

「笑っちゃうよね。それを聞いて、私はどうしようもないくらい嫉妬したの」

「頭の中、ぐちゃぐちゃになっちゃってね。ここに誘ったの」

「ゆっくりお話ししましょうって言ってさ」

「ここで少し話して、唯先輩を見ると――悔しくて、悔しくて」

「どうして、私の隣にこの人はいないんだろうって。どうして私はこの人の側にいられないのだろうって」

「気がついたら、ベッドに押し倒してた」


394 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:43:54.21 x9gyVQd10 131/197


「――それって」

「そうだよ。憂の思ってる通り。私、唯先輩と――」

「馬鹿……」

「馬鹿だよ。私」

「どうして……」

「唯先輩が、欲しかったから……」

「どうして……どうして」

「ごめんね。憂」

「!」パンッ

「……叩かれても文句言えないよ。私は、それでも足りないことをしたんだから」

「馬鹿……梓ちゃんの、馬鹿っ……」ぎゅ

「……え?」


396 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:48:39.80 x9gyVQd10 132/197


「私を……選んでよ」

「え?」

「私を、平沢憂を選んでよ!」

「う、うい?」

「お姉ちゃんはもう平沢唯じゃないの! 真鍋唯なの! 私を――平沢憂を選んでよ!」

「――」

「ずっと、ずっとずっと好きだった。大学卒業して、アメリカに行っちゃって、寂しくって悲しくって。どうすればいいのかわからなかった!」

「お姉ちゃんや和さん……和ちゃんと一緒にいても、梓ちゃんと一緒にいたほうが楽しかったの。それがどういう意味だか、わかる?」

「……あ」

「どうしても梓ちゃんが、欲しかったからだよ」

「でも……私は……」

「それでも、梓ちゃんが唯を選ぶんなら――」

ベッド「ぼすっ」


397 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 21:51:43.68 x9gyVQd10 133/197


「――憂?」

「……」ハラリ

「あ」

「似てるでしょ? 唯に。お姉ちゃんに」

「――うん」

「必要だったら、私なんていらない。私がお姉ちゃんの代わりに唯になって、梓ちゃんの側にいる」

「だから、そんなに悲しい顔をしないでよ」

「……」

「脱がすよ。あずにゃん」

「……」

「――」

省                  略


401 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 22:28:32.21 x9gyVQd10 134/197


「――あずにゃ~ん」

「……私ね」

「?」

「明日、アメリカに帰るんだ」

「……うん」

「それでなんだけど……」

「――」

「一緒に、来てほしいんだ」

「え?」

「旅費もなにもいらない。パスポートと着替えだけでいい。あとは、私がなんとかするから」

「……あず、にゃん?」

「その呼び方もいらない。私は、平沢憂が欲しいの」

「……駆け落ち、だね。……うん。連れていって。私を、梓ちゃんと一緒に、遠いところまで」

「それじゃあ、明日の朝6時に私の家の前に……ね」ちゅっ


413 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:35:23.41 x9gyVQd10 135/197


――憂、帰り道――

(梓ちゃんと、駆け落ち……)

(嬉しいのかな。私)

(お姉ちゃんと和ちゃんを、おいて……)

(それでいいの? それで、私は幸せなの?)

「わかんないよ……」

「でも、あんな梓ちゃんの顔見たら……考えることもできない」

(そうだよね。お姉ちゃんも和ちゃんも許してくれるよ)

「そうだよね」

「うん」


414 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:39:00.33 x9gyVQd10 136/197


ドア「ニコ」

「ただいまー」

「ういいいいいいいいいいい!!!」がばっ

「うわっ!」

「和ちゃんがいじめるー!」

「!?」

「なに言ってるのよ。あ、気にしないでいいわよ。憂」

「なにかあったの?」

「あー。ちょっと、ね」

「うわーん」

(なんてわかりやすい嘘泣き……)

「和ちゃんがピーマン食べなさいって言うのー」

「憂は私の味方だよね!」

「……ごめんね。私、ちょっと疲れてるの」

「え? う、憂?」


415 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:42:25.09 x9gyVQd10 137/197


――憂の部屋――

ベッド「ぼすん」

「……お姉ちゃんたちは、今が一番幸せなんだ」

「私は、どうなんだろ」

「ご飯作ってる時よりも、お姉ちゃんとお風呂入るよりも、和ちゃんに抱きつくよりも――」

「梓ちゃんを抱きしめてる時が、一番気持ちよかった」

「なら、今の私はなんなの?」

「自分を犠牲にしてきたつもりなんて、ない。お姉ちゃんのためになにかすることが、実際に幸せだったから」

「――それ以上の幸せを、見つけてしまった」

「新しいことは新鮮。先生は言ってくれた」

「……苦しいよ」

「明日までに、結論を出さなきゃいけないなんて」

「……そんなの、無理だよ」


416 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:45:46.51 x9gyVQd10 138/197


――居間――

「あうー」

「憂ったら、どうしたのかしら」

「ぴーまんー」

「食べなさい。……まあ、あの子だって女の子なんだから、そういう日もあるわよね」

「ピーマン嫌いー」

「私は?」

「好きー」

ケータイ「ふわふわターイム! ふわふわターイム!」

「あれ? 電話だ」

「もしもーし! ……え?」

「和ちゃん。ちょっとごめんね。ピーマンは必ず食べるからね」

ドア「ニコ」


418 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:50:07.48 x9gyVQd10 139/197


――憂の部屋――

「……」

「駄目だ。わかんないよ」

「幸せってなんだろ」

「お姉ちゃんの新婚生活を間近で見ていれば、それがわかると思った」

「ううん。わかったつもりでいた」

「でも、こうして今。私は悩んでいる」

「それは、結局幸せというものを理解できなかった結果だよね」

「……」

「梓ちゃん」

「……ごめんね」


419 : 以下、名... - 2010/05/30(日) 23:56:27.10 x9gyVQd10 140/197


――夫婦の寝室――

「……」

「唯?」

「……ねえ、和」

「なに?」

「えっち、したい」

「……いいわよ」

「うん。愛してるよ」

「私もよ。唯」

「……」

「……」

「和ぁ……」

「今日は、私がしてあげるわね」

「うん……」


420 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:00:46.22 LaNtxblu0 141/197


「ほら、服くらい自分で脱ぎなさい」

「えぇ~。脱がせてよぉ~」

「赤ちゃんじゃないんだから」

「ん~」

「……まったく、可愛いんだから」

「可愛くないもん」

「可愛いわよ。もう濡れてるし」

「濡れて、ないもぉん!」

「じゃあ、これはなぁに?」

「やぁ……!」

「自分のなんだから、自分で綺麗にしなさい」

「う、うん……」ぺロ

「しょっぱいでしょ?」

「変な味……」

省             略


422 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:07:50.41 LaNtxblu0 142/197


「くーくー」

「可愛い寝顔ね」

「……」

「アンタは、いいえ。アンタと憂は絶対に守るわ」

「約束したものね」

「だったら、することなんて決まってるわよね」

「……バレてないと思ったら、大間違いなんだから」

「むにゃむにゃ」

「私が男だったら、なんて思うこともあるわよ」

「それなら世間からも正常な目で見られる」

「律と澪は、その目に耐えられずに駆け落ちした」

「私たちは、これから大変よ」

「でも、絶対に守ってみせるから」

「……」

ドア「ニコ」


425 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:12:07.86 LaNtxblu0 143/197


――次の日――

「……朝、か」

「もう、6時か」

「ごめんね。梓ちゃん」

「私には、あなたを背負えない」

「……着替えよう」

タンス「がさごそ」

「あれ?」

「着替え、なくなってる?」

ドア「ニコ!」

「憂!」

「今日は早いね。おはよう」

「違うの! 来なさい!」

「え!?」


426 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:14:50.24 LaNtxblu0 144/197


クルマ「ボボボボボボボ」

「え?え?」

「乗って!」

「そうだぞ! 憂ちゃん!」

「え?」

ドア「ニコン」

「あれ?」

「出発! いってくるぜ! 和!」

「はいはい。……憂、後悔しない行動をしなさい」

「……はい?」

「唯、急げ! このままだと――」

「ぶっとばして行くぜー!!」

「行きなさい! フェラーリエンジンを積んだ最強のワゴン!」

クルマ「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


428 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:18:57.58 LaNtxblu0 145/197


「どういうことなの!? お姉ちゃん!」

「あずにゃんから電話があったの! 駆け落ちのこと。来ないでってことを伝えてほしいって」

「え?」

「憂のケータイは電源切れてるから、私に教えてくれたの。憂の人生を狂わせることはできないって」

「それじゃあ、みなさんは?」

「夜中に和から電話があったんだ。唯がなにかやらかしそうだから、朝一番に来てくれって」

「憂ちゃんが抵抗するなら、私が腕づくでクルマに乗せるつもりだったんだよ」

「それで、唯ちゃんの家のクルマじゃあ成田まで最速で行けない。だから、私がクルマを手配したの」

「そういうことだよ! 舌噛まないように気をつけて!」

「ひゃああああああ!!!」

「憂! 絶対に憂の幸せを逃がさないからね!」


430 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:23:21.65 LaNtxblu0 146/197


ケータイ「うーいー! あーいーすー」

「……もしもし?」

「ざまあみなさい。お姉さんたちが、アンタを全力で幸せにするわよ。それが、たとえ押し付けでもね」

「どうして……」

「簡単な話よ。もう、アンタは自分を犠牲にする必要なんて、ないのよ」

「……」

「じゃあね。お幸せに」ブツッ

「ムギちゃん! ETC突っ切っていい!?」

「駄目なわけないでしょう!」

「わかった!」

ETCバー「バーン!」

「ヒュー!」

「派手にやるなぁー」


433 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:27:32.11 LaNtxblu0 147/197


「もう高速道路だよ! 逃げられないよー」

「……」

「ほら、憂ちゃん。おにぎり、食べておきな」

「澪のおにぎり、美味しいんだぜー」

「私、友達と暴走行為するの、夢だったの!」

「みんな! これで色々やっばいね!」

「これで私は危険教師のレッテル貼られるぞー!」

「私だって! 出版社クビ間違いないぜ!」

「さーて、契約何個吹き飛ぶかなー」

「……皆さん。それなのに、どうして……」

「なんでって……なあ」

「決まってるじゃない」

「憂ちゃんを幸せにしたいから、だよ」


435 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:30:25.83 LaNtxblu0 148/197


パトカー「そこのワゴン、止まりなさい!」

「ありゃりゃー。どうするー?」

「訊く必要あるのか?」

「なーい」

「だったら、一つしかないだろ」

「そうよそうよ! ぶっちぎっちゃいなさい!」

「だよねー」

パトカー「……―――! ――!」

「もう、パトカーの音も聞こえないや」

「君を見てると、いつもハートどきどき」

「揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわってか!」

「ここ何年かで、一番楽しー!」


437 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:34:30.36 LaNtxblu0 149/197


――桜高・職員室――

キャスター「ごらんください! 押しも押されぬ法治国家の我が国に於いて、カーチェイスが行われています!」

キャスター「乗っているのは5人の女性ということです!」

さわ子「……あら」

さわ子「あの子たち、いくらなんでもやりすぎよー」

さわ子「でーもっ」

さわ子「もしもしりっちゃん? ええ。どうせ運転してるのは唯ちゃんでしょ? ……やっぱり、じゃあ伝えておきなさい!」

さわ子「つまんない大人たちを、ひっくりかえしちゃいなさい!!」

さわ子「……うん。それじゃあ、頑張りなさい」

さわ子「……あはは。これで私も犯罪者になっちゃうのかなー」

さわ子「ま。いっか」

キャスター「パトカーはまったく追いつけずに――」ブツッ

さわ子「さーて、つまらない大人は仕事仕事ーっと」

ドア「ニコ」


438 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:37:49.61 LaNtxblu0 150/197


「おーい! 唯ー!!」

「なにー!?」

「さわちゃんが、ぶっとばせー! だってさ」

「言われなくても! ぶっとばすよ!」

「あははー!!」

「もう、止まれないわよー」

「……あはは」

「?」

「あははー!! お姉ちゃん、私を連れて行って!」

「それも言われなくても!」

「ぶっとばせー!!」


441 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 00:51:26.82 LaNtxblu0 151/197


「あとどれくらい!?」

「あと40キロよ! もう少し!」

ケータイ「りつー! でんわだぞー! りーつー!」

「なんだよー。澪ー」

「何度も言うが、お前が吹き込ませたんだろ」

「もしもしー」

「!?」

「……聡か」

「うん。わかってるよ」

「父さんと母さんに伝えておいてな」

「もうちっと、迷惑掛けちまうって」

「これ終わったら、絶対澪連れて帰るから」

「ごめんな。聡。……でも、私はこれで後悔しないから」

「ああ。じゃあな」ピッ

「――さあ! あと40キロいっくぜー!」


443 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:11:49.39 LaNtxblu0 152/197


「到着! 憂、ゴー!」

「お姉ちゃんは!?」

「気にしないの!」

「ほら、荷物だ!」

「おにぎり。持っていきな」

「梓ちゃんに伝えて、私は、大丈夫だって!」

「澪さん、律さん、紬さん……」

警官「見つけたぞ! 暴走車だ!」

「!?」

「憂!」

「……」ダッ

「行っちまったな」

「新しい就職場所探さなきゃなー」

「いっそみんな一緒のところに勤めて、HTT再結成?」

「いいね! それ!」


445 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:20:55.95 LaNtxblu0 153/197


――空港内――

(憂……来てくれなかったな)

「でも、まあ仕方ないか」

「来るなって言ったのは私だもんね」

「――!」

「ん?」

「――ん!」

「……?」

「あず――ん」

「唯、先輩?」

「梓ちゃああああああああん!!」

「いや、違う……。憂!」

「梓ちゃあああああああああん!!!!!」ガバァ!


446 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:24:29.71 LaNtxblu0 154/197


「うい……?」

「ういっ! だよー!」

「……どうして、来たの?」

「梓ちゃんが、来てほしいって言ったから」

「来ないでって伝えられなかった?」

「さっき、お姉ちゃんに聞いた」

「じゃ、じゃあ!」

「ういー!」

警官「こら! 静かにしろ!」

「……うい」

「行こう。梓ちゃん」

「幸せになー!」

「――はいっ!」


448 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:32:11.47 LaNtxblu0 155/197


――それから、3年――

「和ー」

「どうしたの?」

「憂は、元気かなー」

「あの子は大丈夫よ。アンタとは違うんだから」

「そうだぞー。憂ちゃんと梓なら、きっと平気だよ」

「今日は聡の日本代表おめでとう会だろー」

「ふふっ。そうね。聡くん、おめでとう」

「は、はい! 恐縮です!」

「数年ぶりに日本に帰って来たと思ったら、すごいことがあったんですね」

さわ子「本当よ。どうして混ぜてくれなかったのー?」ぶすー

「いや、そうじゃなくって……」

「和ー」ぎゅー

「はいはい」


450 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:38:45.88 LaNtxblu0 156/197


「和ー! おかわりー!!」

「チッチッチ! 今日もご飯は私が作ったんだよ!」

「もう、きちんとした主婦じゃないか」

「うん! もう、憂がいなくても――」

ドア「ニコ」

「憂がどうかしたんですか?」

「?」

「もう、梓ったら。いきなり喧嘩腰じゃあ駄目だよー」

「ご、ごめんね。大事な報告のために帰ってきたのに」

「!?」


451 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 01:39:32.05 LaNtxblu0 157/197


「大事な報告って?」

「ごほん。私たち! 結婚することになりました!」

「え?」

さわ子「横にいる人と?」

「もしかして、その人って……」

「まさ、う――」

「憂?」



「ういだよー。私たちの新婚生活、応援してね!」





                                     おしまい


494 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 20:41:48.01 LaNtxblu0 158/197


――憂をアメリカに送って、一カ月――

「暇だなー」ゴロゴロ

「澪たちは再就職したっていうのに、ずいぶん呑気ね」

「だってー」

「専業主婦って言いたいんだろうけど、家事も殆どが私担当じゃない」

「ゴミ捨ては行ってるじゃん」

「……はぁ」

「ドライブでも、行こうかなー」

「アンタ、あの一件で免許取り消し食らってるじゃない」

「そうだったー。ねえ、和ちゃん」

「?」

「ちゅー、しよ」

「今はそういう雰囲気じゃないでしょ。空気読みなさいよまったく」

「あうー」


495 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 20:46:22.61 LaNtxblu0 159/197


「あうーじゃないの。ほら、ご飯できたから起きなさいって」

「はーい。あ、でもトイレ!」

ドア「ニコ」

「……」

「憂がいなくなっても、全然変わらないわね。これから先の夫婦生活に不安を覚えるわ」

「せめて、料理くらいしてくれないかな」

「仕事はクビにならなかったけど、私も色々大変なんだから」

「……」

「でも、私が唯を守るって決めたんだから」

「辛い、なんていうのは甘えよね」

「――!」ズキッ

「最近、頭痛がする。疲れてるのかしら……」


496 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 20:53:00.13 LaNtxblu0 160/197


「――おーいしーい!」

「そう。ありがとね」

「和ちゃんはお料理の天才だね!」

「憂には負けるわよ。……ほら、あーん」

「あむっ。モグモグ」

(美味しそうに食べてもらえるのは、ホントに嬉しいわよ)

「この餃子美味しすぎ!」

(……ただ、やっぱり唯のご飯も食べたいな)

「和ちゃんー! あーん!」

「ん」モグモグ

「……ねえ」

「どうしたの?」

「和ちゃんは、私に家事してほしい?」


497 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 20:59:56.90 LaNtxblu0 161/197


「え?」

「そりゃあそうだよね。こんなニートが嫁なんて嫌だよね」

「澪ちゃんみたいに、ちゃんとしたお嫁さんになれなくってごめんね」

「せっかく一緒になってくれたのに、私みたいな女で……」うるうる

「!?」

「ごめんね……ごめんねぇ……」

「ど、どうしたのよ?」

「ふぇえええええええええん!!!」ボロボロ

(……この子ったら、二日目になるといつもこうなのよね。腹痛とかは軽いくせに、ちょっと気持ちが弱くなるのよね)

「和ちゃ~ん!!」

「はいはい。唯は私のお嫁さんだから、捨てたりなんてしないから安心しなさい。ね?」

「ぐすっ。本当?」

「本当よ。ささ、ご飯食べてお風呂入って、お腹温めて寝なさい」

「うん……。ありがとう。和ちゃん」


498 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 21:07:20.41 LaNtxblu0 162/197


――夫婦の寝室――

「んー……」

「この寝顔見てると、色んな疲れなんてどうでもよくなるわね」

「……」じー

「ああ、可愛い」

「今年で25なのに、まるで小学生みたい」

「……でも、身体のほうはきっちり大人で」

「たまらないわよね」

「――ああ。いけない。唯に毒されてるのかしら」

「私、こんなに性欲あったっけ?」

「いやいや」ブンブン

「この子が可愛すぎるのがいけないのよ」

「……もう、寝よう」

「……でも、少しくらい触っても――」

「――いやいや、私はそういうキャラじゃないでしょ。おやすみ」


499 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 21:14:45.72 LaNtxblu0 163/197


――そのころ、田井中夫妻は――

「――なあ澪ぉ……」

「い・や・だ!」

「痛くしないからー」

「断る!」

「奥まで入れないから、ね? いいだろ?」

「律は絶対痛くするから、嫌だ」

「うう~。気持ちいいのにさー」

「……本当に、痛くしない?」

「ああ。約束する」

「……じゃあ、いいよ」

「ほら、横になれよ」

「だってぇ。りっちゃんのそれ……」

「まったく。耳掃除くらいでそんなに騒ぐなよなー」


500 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 21:20:50.23 LaNtxblu0 164/197


「ひゃわぁ!」

「ふっ! よし、これでOK! ほら、交代!」

「……律って、独りよがりだよね」

「そうかな?」

「そうだよ。いっつも勝手だし……」

「亭主関白なんだよ。私は」

「むー。こうなったら――」

「……よいしょっと」ひょい

「お姫様だっこ!?」

「じゃあ、たまには旦那さまに、私の気持ちを味わってもらおうかな」

「え?」

「――」

「うわ! なにすんだ! いきなりパンツ下すな!」

「黙りなさい」ちゅ

「――!」


501 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 21:29:29.62 LaNtxblu0 165/197


「な、なんか変だぞ! 今日のお前!」

「変なんかじゃない。まな板りっちゃんのくせに」

「ま、まな板だとー!?」

「……ねえ、うるさいんだけど」

「――!」びくっ

「どーせ、律のまな板なんか誰も相手しないんだよ。私だけなんだよ。こうして、触ってあげるのは」

「――ん!」

「感じてる? 悔しくないの? がさつでまな板で女の子らしさの欠片もないくせに、生意気だよ」

「ちが……!」

「だからうるさいって」

「!?」

「次、無駄口叩いたら引っ叩くからね」

「……」

(あれ? なんか、気持ちいい?)


502 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 21:53:46.34 LaNtxblu0 166/197


「なんだ? なにか言いたそうだな。言ってみな」

「……えと、しゃべっていいの?」

「……」ギュウウウウウ

「痛い痛い! つねらないで!」

「ああ、ごめんごめん。あんまり小さいんで、揉んでるつもりがつねってた」

「うう……。澪、怖いよぉ」

(かーわいい)

「あのさ、律。私、もっと律をいじめたい」

「!?」

「いっつもいじめられてるんだもん。たまには、私が律にしてやるからな」

「や……」

「嫌?」

「ううん……。私も、澪にしてもらいたい」

「そっか。じゃあ、するな。馬鹿律」

省                        略


504 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 22:25:28.70 LaNtxblu0 167/197


「……」

「……あのさ」

「なぁに?」

「唯たち、大丈夫かな」

「なんとかやってるだろ。私たちも新しい仕事見つかったんだし、そのうち会いに行こうよ」

「だよな。……和が心配だよ」

「律が心配するなんて珍しいな」

「そうか?」

「そうだよ。唯も和も、憂ちゃんのこと大好きだったから、そこは少し大変
かもな」

「ああ。――そういえば、家事とかはどうなんだろ?」

「あ」

「あっちゃー」

「唯のやつ、そういえばあれ以来料理してないんじゃないか……?」


505 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 22:31:37.50 LaNtxblu0 168/197


――翌日――

「本当にやばいな」

「憂ちゃんがいなくなって、和がずっと家事やってたら……」

「和が、倒れてしまうじゃないか」

「おーい、律ー! 出かけてくるなー」

「浮気するなよー」

「ばーか。いってきます」

「ほいほーい」

ドア「ニコ」

「和は仕事だよな。……そうすると、家でゴロゴロしてるだろうな。唯」

「私がお嫁さんとは何かを教えてあげよう。うん」

「和のためにも、唯のためにも、な」


506 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 22:40:16.19 LaNtxblu0 169/197


「よし、平沢家に到着!」

「しっかし。唯の両親はいつもどこにいるんだろうな」

「思えば、私は唯の両親をどっちも見たことがないぞ」

「憂ちゃんが大変なことになっても、電話一つ寄こさなかったし」

「どういう両親なんだろう。放任主義も過ぎてないか?」

「……それに、今ここに住んでるのは真鍋和と真鍋唯だろ? まあ、戸籍
上では平沢唯だけど」

「もはや、ここは平沢家というよりも真鍋家じゃないか」

「真鍋家が植民地にしたのか?」

「……さて、くだらないこと言ってないでインターホン押そう」

呼び鈴「ピンポーン」

「……」

「……」

「……あれ?」


507 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 22:49:52.27 LaNtxblu0 170/197


「いないのかな?」

「電話してみよう」

ケータイ「ピッポッパ」

家「ドドン! どかん! ゴロゴロー!!」

「あ、唯か。家にいるよね。うん、知ってる」

「寝てたんだ。じゃあ、開けてくれない?」

「はーい」

ケータイ「カチッ」

ドア「ニコ」

「澪ちゃん! いらっしゃい! どうしたの?」

「うん。唯のこれからについての話と、練習だよ」

「ふぇ?」


508 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 22:55:40.20 LaNtxblu0 171/197


――居間――

「相変わらず綺麗だな」

「うん。お掃除は私の仕事だからねー」

「そうなのか?」

「そうだよー。私だって、少しくらいは家事するんだから」

「そっかー。それは意外だった」

「ぶー」

「でも、家事のメインは炊事じゃないか?」

「う。それを言われると……」

「和が作ってくれてるんだな?」

「うん……」

「お仕事から帰ってきて、ご飯が出来てなかったら、和悲しいだろーなー」

「う!」

「でも、逆にご飯ができてたら、それはもうキスとか色々が待ってるだろうなー」

「やる! 炊事やるから教えて! 澪ちゃん!」


509 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 23:06:14.27 LaNtxblu0 172/197


「よし! 美味しい料理を作って、和を虜にするぞ! 男は胃袋を掴め! だ!」

「和ちゃんは女の子だよ~」

「と。そうだそうだ。早速始めようか」

「うん! おねげえします! 澪先生!」

「先生って呼ばれるのも久しぶりだな。よぉし、その気になってきたぞ」

「キッチンへゴー!」

「待て待て、まずは何を作るかを決めないと」

「てへへー」

「テキトーに食材を切ったり焼いたりしても、料理はできないぞ。まずはなにを作るのかを決めて、それで食材を買いに行くんだ。もしくは、今ある食材で、何を作れるのかを決めるんだ」

「そうだよね。私、間違ってたよ」

「まあ、今回は最初だから前者を選ぶ。唯、食べたいものあるか?」

「レバーとホウレンソウ!」

「そのこころは?」

「……生理で、血が足りないから」


510 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 23:12:28.15 LaNtxblu0 173/197


「生理だったのか。ごめんな、突然押し掛けて」

「大丈夫だよー。私、二日目だけが辛いだけで、何故か三日目以降はかなり楽チンなんだよ」

「唯の体質って、たまーに変わってるよな」

「そうかな? ……ま、まあ私はレバーとホウレンソウをたくさん食べたい!」

「うん。じゃあ、レバニラとホウレンソウのおひたしでいいんじゃないか?」

「澪ちゃんったら流石!」

「なにが?」

「二つしか食材言ってないのに、もうメニューが出来ちゃったよ!」

「これくらい普通だぞ。どっちもその食材に於ける代表的料理だから」

「そーなんだー」

「……まあ、私も生理のとき律に作ってもらってるしな」

「えへへー」ニヤニヤ

「な、にやけるなぁ!」

「おノロケですなぁー」


512 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 23:19:57.28 LaNtxblu0 174/197


「それじゃあ、一緒にスーパー行こうか」

「今4時くらいだからちょうどいいね」

「そうだな。律には……あ、律も呼ぼうか?」

「うん! りっちゃんには、和ちゃんが帰ってくる時間に来てもらおうよ!」

「それ、いいかもな。私たちの晩御飯も済ませられるしな」

「そうと決まれば電話だ!」

ケータイ「ピッポッパ」

「律? 晩御飯は唯の家で食べることになったから、7時くらいにお前も来い。今は駄目だ。お嫁さんコンビで美味しいご飯を作るからな。うん。それじゃあ、また」

ケータイ「ピッ」

「よし、これでよし」

「りっちゃんも来るなら、さらに頑張らなきゃ!」

「その意気だぞ。唯」

「じゃあ、スーパーまでクルマで――」

「免許取り消されるだろ」


513 : 以下、名... - 2010/05/31(月) 23:26:20.03 LaNtxblu0 175/197


「もうされてます!」

「だったな。口が滑った」

「なにはともあれ、スーパーへゴーですよ!」

ドア「ニコ」

「……唯はさ、和のどのあたりが好きなんだ?」

「いきなり言われるとびっくりしちゃう質問だね。でも、答えられる質問だよ」

「どうなの?」

「優しいし、カッコいいし可愛いし、お母さんみたいであったかいところかな」

「――やっぱりお子様だな。唯は」

「そうかなー」

「まあ、それだからこそ、和と合ってるのかもな」

「澪ちゃんだって、りっちゃんとお似合いだよ」

「そ、そうか。ありがとうございます」

「照れてる澪ちゃんは、相変わらず可愛いねー」

「むむむ……」


555 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:22:51.25 29TQLCvs0 176/197


――スーパー――

「そういえば、澪ちゃんと二人っきりで買い物なんて初めてかも」

「言われてみればそうかもな。いつも律かムギ、梓がいたもんな」

「一度、澪ちゃんとデートしてみたかったんだよねー」

「スーパーでそんな大げさな」

「大げさでもなんでもないよっ。澪ちゃん可愛いしカッコいいから、私のような美女にはお似合いだよ」

「ちょっと意味がわからない」

「しどい!」

「いや、唯は美女っていうか美少女だろ。永遠に」

「それは褒めてるの?」

「まあ、一応ね」

「ならいいよー」ぎゅっ

「こらこら。和が見たら傷つくだろ」コチ

「えへへー。……よし、これで食材は全て揃ったよ!」キリッ


557 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:29:31.39 29TQLCvs0 177/197


「うん。確かにあるな」

「褒めてー」

(買い物しただけで褒めを要求!?)

「頭なでなでしてー」

「25歳児だな」

「やー」

「仕方ないなぁ……」なでなで

「澪ちゃんのおっきい手で撫でられるの、気持ちいいんだもん」

「……」

「あ! 今のはそういう意味じゃないからね。魅力的だよ! その手!」

「あははー」スタスタ

「お、おいてかないでぇ!」

「うふふー」スタスター

「澪ちゃーん! ごめんねー!」


560 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:37:03.06 29TQLCvs0 178/197


――平沢宅――

「澪ちゃん、足速いよー」

「ふーんだ」

「拗ねる澪ちゃん、かーわいいー」

「!」

「りっちゃんが羨ましー」

「な――」

「おっぱい分けてよー」

「……むむ」

「聡くんも、こんな綺麗なお義姉さんが出来て鼻高々だろうなー!」

「しょ――」

「よっ! ミス桜ケ丘!」

「しょうがないなぁ! ほら、ご飯作るぞ! 和が帰ってきちゃうぞ!」

(私と違って単純だなぁ。澪ちゃんは)


562 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:43:34.03 29TQLCvs0 179/197


「ふんふーん」トントン

「あ、ホッチキス。懐かしいね」

「歌詞忘れて、唯とダブルボーカルしたよな」

「あの時はホント、ご迷惑を」

「迷惑なんかじゃないよ。唯と歌うと元気になるんだ。不思議だよな」

「きっと、私たちは相性がいいんだよ。私もすごく楽しかったもん」

「唯もそう思ってたんだ。……なら、私もすごくすごくうれしいな」

「私も」

「――唯」

「?」

「ギー太。どうしてる?」

「部屋に飾ってある。私たちHTTの思い出で、友情の証だもん。今もお手入れしてるよ。エリザベスは――?」

「エリザベスは、実家なんだ」


563 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:50:42.25 29TQLCvs0 180/197


「実家って、澪ちゃんち?」

「うん。唯も知ってるだろ? 私たちが駆け落ちしたこと」

「……りっちゃんちのお父さんが、結婚に猛反対したんだよね」

「それで、律は私を連れて家出したんだ。突然で、荷造りも充分できなかったし、なにより軽装にしないといけなかったから、エリザベスはお留守番になったんだ」

「そうだったんだ」

「ママは……お母さんがエリザベスを保管してくれてればいいんだけど、もうあれから二年も会ってないからさ」

「澪ちゃんたちが結婚したのって、去年だもんね」

「うん。……とはいっても、同性婚はできないから婚約指輪買っただけなんだけどな」

「それでも結婚だよ。私たちも、そうやって結婚ってことにしたんだもん」

「……ありがとう」

「いえいえ」トントン


564 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 20:58:39.41 29TQLCvs0 181/197


「――よし、これであとは旦那さんの帰りを待つだけだな」

「楽しみだよ~。やっぱり、自分が作ったご飯を誰かに食べてもらうって、なんだか緊張するね!」

「でも、美味しいって言ってもらえると、気持ちいいんだよなー」

「うん! 和ちゃん、喜んでくれるかなー」

「喜んでくれるよ。なにせ、唯が、生理中なのに一生懸命作ったご飯なんだから」

「えへへー。りっちゃんも喜んでくれるよ!」

「当然だ! 律は私の旦那さんなんだからな!」

「おノロケだー」

ドア「ニコ」

「ただいまー」

「和ちゃあああああああああああああん!!!!!」だきっ

「わっ!」

「おかえりいいいいいいいい!!!」ウリウリ


565 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:05:19.43 29TQLCvs0 182/197


「はいはい、ただいまただいま。今からご飯作るからね」

「和ちゃんの可愛いお鼻は飾り?」

「ん? ……あ、澪」

「こんばんは、おかえりなさい」

「久しぶりじゃない。どうしたの?」

「お鼻きかせなよ~」

「――ああ。なるほどね。ごめんね、澪。ご飯作ってもらっちゃって」

「いやー。私だけじゃないんだけど……」

「じゃあ律もいるの? もしかしてムギ?」

「その、お猿の赤ちゃんみたいになってる和のお嫁さんが……」

「え?」

「えへへー」キラキラ

「……唯が、作ってくれたの?」

「うん! もうすぐりっちゃんも来るんだよ!」

「そう。ありがと。唯」ちゅっ


566 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:15:15.52 29TQLCvs0 183/197


ドア「ニコ」

「おーっす! 約束通り、7時に来たぞー」

「りっちゃん! いらっしゃい!」

「いらっしゃい」

「おお唯、和! 久しぶりな気がするなー!」

「一カ月ぶりね。憂の時以来だもの」

「もう一カ月経ってたのかー。時間の流れは早いもんだ」

「このままあっという間にお婆さんになっちゃうのかなー」

「そんなことないわよ。時間の流れは一定で平等なんだから、何をしたって、どんな過ごし方をしたって同じなの」

「でも、なんだか高校生の時に比べて時間が短く感じるよ」

「それだけ私たちが大人になったんだよ。ほら、冷めちゃう前に食べよう」

「わーい! レバー大好きー!」

「そ、そのまえにトイレ!」


567 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:21:39.81 29TQLCvs0 184/197


――食事――

「ドキドキ」

「……あーん」

「わくわく」

「もぐもぐ……」

「じろじろ」

「ごっくん」

「……どう?」

「……」

「……」

(なんだ、この緊張感)

(この味噌汁、澪の味がするー。幸せだなー)

(唯と和が見つめ合ったまま動かないぞ)

(それにしても、澪のやつ綺麗だなー。どこ見てんだろ)


568 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:26:41.73 29TQLCvs0 185/197


「……」

「……」ごくり

(見つめ合いだして5分経ったなー)

(澪が喋ってくれない……。もしかして、私のこと嫌いになっちゃったの?)

(まさか、先月のカレーもこんな雰囲気だったのか?)

(そうだ! 私が亭主関白とか気取ってたから、愛想を切らしたんだ!)

(唯のやつ、目が充血してる)

(ああ……。こんなことなら、もっとラブラブしとけばよかった)

(和も汗かいてないか?)

(澪、私のほう一度も見てくれないし……。決定的だ。別れの晩餐だ! こうなったら――)

「お……」

「!?」

「おいし――」

「みおおおおおおおおおおお!!! 好きだああああああああ!!!」

「!?」


570 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:37:12.21 29TQLCvs0 186/197


「なななな、なにすんだ! 馬鹿!」ゴチン!

「いってええええええ!! でも、気持ちイイイイイイイイイ!!」

「え? は? はい?」

「りっちゃんが今まで聞いたことない言葉を!」

「うおおおおおおおおおおお!!! 澪おおおおおおおおお!!!」

「待て! 殴っても止まらないのは初めてだ! って、きゃああああ!!」

「澪ちゃんが床に!」

「はぁ……ハァ……ふぅ」

「やりきった顔だー!」

「なにするんだ! 馬鹿律!」

「いや、なんか澪が私のほう向いてくれなかったから」

「それだけで押し倒したのか?」

「いや、私にとっては大きな問題」

「嫉妬だね!」

「そうだ、やきもちだ。ということで許せ。澪」


571 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:42:44.08 29TQLCvs0 187/197


「……もう!」

「それで、和ちゃん。どうだった? 私のレバニラ!」

「美味しいわよ。美味しいに決まってるじゃない」

「ヤタ━━━━━━ヽ(゚∀゚)ノ ━━━━━━!!!!」

「うわ! びっくりした!」

「私はお前にびっくりしたんだ!」

「澪ちゃん! やったよ!」ガシッ

「う、うん。よかったな、唯」

「ホントに美味しいわよ。うん、やっぱり唯のご飯は一番おいしいわ」

「えへへー」

「よく頑張ったわねー」なでなで

「ぐえへへー」

「私が撫でたときの100倍顔が緩んでる……」

「私も撫でろ。馬鹿澪」


572 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 21:54:05.18 29TQLCvs0 188/197


「――ふう、美味しかったわ。ごちそうさま」

「お粗末さまでした。えへへ、このセリフ言ってみたかったんだー」

「ごっそさん!」

「はいはい。それじゃあ唯、すぐに洗っちゃうぞー」

「お皿洗いー」スタター

「……律」

「ん?」

「先月は、本当にありがとう」

「なんのこと?」

「憂のことに決まってるでしょう? 私の妹と家内が迷惑かけて」

「あ~」

「あの事件の所為で、仕事もクビになって、その上、マンションも追い出されそうになったんでしょう?」

「いいっていいって。出ていくことにはならなかったし、再就職も案外さらっと出来たしな。集○社で編集してると、結構つぶしがきくんだよ」

「それでも、ごめんなさい」


574 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 22:02:50.47 29TQLCvs0 189/197


「いいって言ってるだろー? 私は。いいや、私たちは自分たちがそうしたいから、憂ちゃんを送っていったんだ。後悔なんてまったくないよ」

「……それにさ」

「それに?」

「すげー、楽しかったんだよ。唯が運転して、カーチェイスしたの。久しぶりだった。学生時代以来だったんだ。あんなに楽しかったのは」

「……そう」

「私も澪もムギも、腹抱えて次の日筋肉痛になるくらいに笑ったんだ。不思議だよな。もしかしたら、巻き込んだ人が死んでしまうかもしれない。それくらい、大変なことをしているのにさ」

「でもそれは――簡単なことだったんだ」

「私たちを縛り付けたオトナ。私たちが抜け出せなかった常識。それを、その瞬間、その時間だけはぶち破ってたんだからさ」

「うん……」

「またあんな馬鹿したいけど、常識に捉われちまった、責任を負わなきゃいけなくなった私たちじゃあ、もうできないんだからな。……ホント、私が男だったらって思うよ」

「私もよ……。そうすれば、子供を作ってその子供に、たくさん楽しいことを教えてあげられるのに」


575 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 22:07:29.02 29TQLCvs0 190/197


「だよな。……私が男だったら、澪も大切なベースを家に置いてくることもなかったのに」

「……そうね」

「私たちは子供なんて、できないんだぜ? それなのに、毎月毎月、子供を作れと血が出る、痛みが走る、イライラするんだ!」

「……」

「いい加減にしてくれよ! もう受け入れたんだ! 子供なんて、できないことくらいさぁ!」

「……私だって、同じ気持ち。いいえ、私たち同性愛者はそう思ってる筈よ。子供がいなくってもいい。そんなものは綺麗事なの」

「そうだよ。私たちだって、二人の遺伝子を残した子供が欲しいんだよ」

「でも、女同士(わたしたち)には、それは叶わないのよ」

「ちくしょう……。ちっくしょう……!」

「……律」

「……ごめん。澪には、こんな話できないから。つい――」

「いいのよ。私も、唯に出来ない話だから、すっきりしたわ」

「ありがと、な」ぐしぐし


576 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 22:23:58.13 29TQLCvs0 191/197


――台所――

「澪ちゃんは、りっちゃんのどこが好きなの?」

「な、ななななななななんだよ! いきなり!」

「だって、さっき私に和ちゃんのこと聞いたじゃん。そのお返し」

「恥ずかしいから言わない」

「あー、ずるいんだー」

「ずるくて結構。恥ずかしいのはなんとしても避けたいのです」

「フーンだ。じゃあ、帰り際にりっちゃんにちゅーしちゃおうっと」

「やめろぉ!」

「なんでー?」

「そ、それは……和が嫌がるぞ」

「じゃありっちゃん盗っちゃおうかなー」

「うう……。わかった! わかったよ!」

「にやにやー」

「律は、昔から私のこと守ってくれたんだ。まるで、王子様みたいだった」


577 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 22:28:02.39 29TQLCvs0 192/197


「高校時代は澪ちゃんがロミオだったけどね」

「律のジュリエット、すごい可愛かった……」

「それでそれで? 王子様りっちゃんの武勇伝聞かせて?」

「小学生のころ、かけっこでビリだった私を馬鹿にした男の子がいたんだ。それで、その男の子に、私が突き飛ばされたのを見て律が……」

「やっつけてくれたんだー」

「うん。他にも、私が初めてブラジャー着けて学校来て、みんなに馬鹿にされたときにもかばってくれたし、律は私にとって、王子様でヒーローなんだ!」

「うんうん。りっちゃんらしねえ。澪ちゃんらしいねえ」

「そうかな?」

「そうだよ! 澪ちゃん、私から見たらお姫様みたいだったもん!」

「お姫様っていうと、ムギのほうがそれに近いけどな」

「ムギちゃんはクラリス的なお姫様。澪ちゃんは白雪姫的なお姫様かな」

「あはは。その喩え、いいな」

「でしょう? 伊達に大卒じゃあありませんよ!」フンス


578 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 22:40:54.65 29TQLCvs0 193/197


――それから暫くして――

「それじゃあ唯、ごちそうさま」

「またごちそうするよ!」

「和もありがとうな」

「私こそありがとうね」

「それじゃあ、そろそろ帰るよ。また今度遊びに来るな」

「じゃあね、おやすみ」

「ああ。唯もがんばって主婦するんだぞ」

ドア「ニコ」

「……ふぅ。今日は、楽しかったわね」

「うん。やっぱり、澪ちゃんとりっちゃんは楽しいよ」

「もうこんな時間。お風呂、一緒に入っちゃう?」

「いいの!? もっちろん! お背中お流しするよ!」

「お願いね。私もしてあげるから」


584 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 23:36:14.83 29TQLCvs0 194/197


――浴室――

「ごしごしー」

「フフ、気持ちいい」

「和ちゃーん」

「なあに?」

「好きー」

「私もよ。唯」

「これでおっけー!」

「はい。ありがとう」

「……あのさ、私はお湯に浸かれないからそろそろ上がるね」

「うん。わかった」

「ごめんね」

「謝ることないわよ。女の身体でいる以上仕方のないことなんだから」

「うん。ありがとう。じゃあ、ベッドで待ってるね」


585 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 23:43:44.46 29TQLCvs0 195/197


――夫婦の寝室――

「お待たせ」

「和ー」

「どうしたのよ。呼び捨てなんて」

「あのね。澪ちゃんとお話しして思ったんだ。私って、本当に子供だなって」

「そうね」

「ぶー。……と。これはちょっぴり真面目な話なんだ」

「……わかったわ。それじゃあ、聞くわ」

「澪ちゃんって、すごい大人でしょ。それが羨ましいの。私は憂の幸せに直前まで気がついてあげられなかったし、強引に押し付けがましくアメリカに送った。それが正しいのかはわからない。ただ、私がしたかったからで、憂の気持ちを全く考えなかったんだ」

「でも、正しかったわよ。憂も、きっとそう思ってる」

「ホントは、もっとちゃんとした方法で憂とあずにゃんを一緒にしてあげたかったんだ。暴走行為で免許取り消しで済んだけど、もしかしたら、誰かを巻き込んで、殺しちゃったかもしれないことを、私たちはしたんだ」

「律も、そう言っていたわ。大変なことをしていたって」


586 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 23:48:56.06 29TQLCvs0 196/197


「和も、そう思う?」

「私には、なにも言えないわ。でも、唯たちがそう言うのであれば、それはそうなのだと思う」

「ようするに、私は子供だったんだ。私の所為でりっちゃんたちは職を失って、ムギちゃんも今はすごく大変で、私たちも会えないくらいに忙しいんだよ。……それもこれも、私の所為なんだよ」

「……」

「だから、私は大人になりたい。25歳になって、こんなことを思うのは変だけど、私は――もう、間違えたくないんだよ」

「唯……」

「その第一歩が、ご飯を作ること。家事も、主婦らしく全部頑張る」

「……」

「憂は、すごい大変だったんだなぁ。こんな駄目駄目なお姉ちゃんのお世話してきたんだから」

「憂のほうが、100倍大人だったよ。うん」

「ねえ、和。これからも、よろしくね?」

「ええ。こちらこそ、よろしくね」


588 : 以下、名... - 2010/06/01(火) 23:57:00.04 29TQLCvs0 197/197


「……すー」

「和ー」

「くー」

「だーいすき」

「……寝ちゃった」

椅子「ギシ」

ノート「ぺら」

「澪ちゃんに教えてもらった。真鍋唯の主婦日記。今日から書かないと」

「6月9日。今日は、澪ちゃんとレバニラを作りました」

「生理でちょっぴりお腹が痛かったけど、和とりっちゃんが美味しいって言ってくれたので、嬉しかったです」

「……大好きだよ。和」

ノート「パタン」

「うん。これからも、頑張ろう」


                                おしまい


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