妻「あなた、ちょっと大事な相談があるんだけど」
夫「え、なんだい?」
夫(いつになく雰囲気がマジだぞ……もしかして離婚したい、とか……?)
妻「あなたの口臭いから、ガスマスクつけてもいい?」
夫「ひどすぎないか!?」
妻「そんなにひどかった?」
夫「離婚切り出された方がまだマシかもってレベルだよ!」
元スレ
妻「あなたの口臭いからガスマスクつけてもいい?」夫「ひどすぎないか!?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1556110148/
妻「だって……臭いんだもの」
夫「どのくらい臭いの?」
妻「そうね、たとえるなら牛乳を拭いた雑巾」
夫「なんだ、よくある喩えじゃないか」
妻「……をスカーフにしたくなるくらい」
夫「そりゃやべえ」
夫「そんなに臭いかなぁ……?」
夫「ハァー……」クンクン
夫「自分じゃ全然分からないけどなぁ」
妻「フグは自分の毒じゃ死なないものなのよ」
夫「ふぐ!」
夫「まあ、とにかく……ガスマスクについては君の好きにしなよ。会社行ってくる」
妻「行ってらっしゃい」
― 会社 ―
夫「……ってことがありましてね。そんなに臭いですか?」
課長「オブラートに包んで回答させてもらうが……」
課長「臭い!」
同僚「臭すぎる!」
夫「全然包まれてねえ!」
課長「ん? 包まないで答えようか?」
夫「いえ、包んだままで結構です」
夫「どのぐらい臭いんだ?」
同僚「俺はゲームをよくやるからゲームで喩えさせてもらうけど……」
同僚「FFにモルボルってモンスターがいるんだけど」
夫「ああ、知ってる。“くさいいき”を使う奴だろ」
同僚「あれを数体引き連れて出てくるような、そんな感じ」
夫「俺のが格上!?」
夫「ポケモンにたとえるとどうだ? 古いのしか知らないけど」
同僚「ポケモン? うーん……」
夫(どうせドガースとかベトベターとか言われるんだろ)
同僚「んー、ミュウツー?」
夫「遺伝子を細工されてるレベル!?」
同僚「映画タイトルはミュウツーの悪臭で」
夫「そりゃ逆襲したくもなるわ」
後輩女「みんな、ひどいっすよ!」
夫「後輩ちゃん!」
後輩女「よってたかって口臭い口臭いってあんまりっす!」
夫「ありがとう……!」
後輩女「死ぬ気で我慢すれば、全然耐えられるっす!」
夫「悪気なく傷口をえぐっていくスタイル嫌いじゃないよ」
夫「そんなに臭かったんですか……」
課長「うん……今まではいわなかったが」
夫「俺、このまま仕事を続けても大丈夫なんでしょうか?」
課長「心配いらないよ! たとえば専務なんか君のことを高く評価しているよ!」
専務『二課の口が臭い彼、なかなか営業センスあるねえ。口が臭いけど』
課長「こんな具合に」
夫「今度お会いしたら、二度言わなくていいって伝えて頂けますか」
夫「ため息出ちゃうよ……はぁ~……」
課長「うっ!」
同僚「うっ!」
後輩女「うっ!」
課長「換気しろ、換気!」
同僚「窓を開けるんだ! 一刻を争うぞ!」
後輩女「はいっす!」
ガラララッ ドタバタ… ドタバタ…
夫(そんなに臭いのか……)
― 家 ―
夫「ただいまー」
ガスマスク妻「お帰りなさい」シュコーシュコー
夫「うわっ!?」
ガスマスク妻「シュコー…シュコー…」
夫「ホントに付けたのか……」
ガスマスク妻「うん、付けちゃった」シュコーシュコー
ガスマスク妻「ごめんなさいね」シュコー
夫「いや、いいんだ。今日会社でもみんな我慢してたことが分かったし」
夫「しかし、そのガスマスク高かったろ?」
ガスマスク妻「そんなことないわ。100円ショップに売ってたもの」シュコー
夫「今時の100円ショップはすげえなぁ」
夫「だけど、100円ショップのガスマスクなんて性能ひどいだろ」
ガスマスク妻「視界は良好だし、温度調節機能もバッチリついてるわ」シュコー
ガスマスク妻「世界各国の特殊部隊でも正式採用されてるマスクなんだって!」シュコー
夫「価格設定絶対間違ってる」
ガスマスク妻「それに、これが結構便利なのよ」シュコー
夫「へえ?」
ガスマスク妻「玉ねぎ切る時、涙が出ないし」シュコー
夫「過剰装備すぎる……」
ガスマスク妻「近所の奥様にも、ガスマスクがよく似合いますねっていわれたし」シュコー
夫「嬉しいかそれ?」
ガスマスク妻「塩素系と酸性の洗剤をうっかり混ぜちゃったけど、これのおかげで助かったし」シュコー
夫「ありがとうガスマスク!」
ガスマスク妻「シュコー…シュコー…」
夫(とはいえ……妻がガスマスクしてるってのはやっぱり辛い)
夫(そういえば、大人でも相談できる電話相談室なんてもんがあったな)
夫(ちょっと相談してみるか)
夫「もしもし」
電話『もしもし?』
夫「実は、口が臭いとみんなにいわれて悩んでるんです」
電話『あー、たしかに! あなた口臭そうな声してますわ!』
夫「え」
夫「電話越しでも分かるもんなんですか」
電話『分かる分かる!』
電話『これがホントの口臭電話! ……なんちて!』
夫「お前、絶対許さねえからな」
夫「ふぅ……」
ガスマスク妻「落ち込まないで、あなた」シュコー
夫「落ち込むさ……自分にこんな短所があるって知っちゃったんだから」
ガスマスク妻「ピンチはチャンスっていうでしょ? 短所を長所として生かせばいいのよ!」シュコー
ガスマスク妻「短所は口が臭いことですが、その臭さを仕事に生かして参りますって具合に」シュコー
夫「就活生かよ」
休日――
― 街中 ―
ガスマスク妻「いい天気ねー」シュコー
夫「だけど、みんな出かけるから人混みがすごいな」
ガスマスク妻「あ、そうだ。だったら口臭を放ってみたら?」シュコー
夫「え、えーと……はぁ~……」
バババババッ
夫「みんな一斉に俺の前から身をかわした!」
ガスマスク妻「まるでモーセみたい!」シュコー
夫「ちょっと混雑してても、俺が息を吐くと……」ハァー…
ウワー… ニゲロー… ワァァァァ…
夫「みんな逃げてく」
ガスマスク妻「すごいすごい! あなたの口臭、まるでゴジラよ!」シュコー
ゴジラ対コシュラ 2020年春公開予定!
ガスマスク妻「こんな感じで映画になるかも!」シュコー
夫「絶対嫌だよ!」
ガスマスク妻「メカコシュラの方がよかった?」シュコー
夫「生身が嫌だって意味じゃないから」
ガスマスク妻「すごいじゃない、これは立派な長所よ!」シュコー
夫「うーん、嬉しくない……」
ガスマスク妻「これを極めれば、ディズニーランドだってUSJだって乗り物乗り放題!」シュコー
夫「そして通報されてパトカーに乗せられるんだね」
ガスマスク妻「そういえばパトカーって隠語でパンダっていうらしいわ」シュコー
夫「名探偵コナンで見た」
ガスマスク妻「あなたの能力を生かせば、上野動物園のパンダだって苦も無く見られるわ!」シュコー
夫「パンダが苦しむ姿を見たくないからやめとくよ」
夫「やっぱりこのままじゃいかんよなぁ……」
ガスマスク妻「開き直って人間兵器として生きてみたら?」シュコー
夫「そんな生き方、俺が平気でいられないよ」
夫「よし、決めた!」
夫「俺……この口臭を何とかしてみせるよ!」
ガスマスク妻「あなた……」シュコー
夫「虫歯はないけど今まで以上に歯磨きをしっかりして……」シャカシャカシャカ
夫「ブレスケアを食いまくる!」バリボリムシャムシャ
ガスマスク妻「おかわりあるわよー」シュコー
夫「リステリンで口を徹底洗浄!」クチュクチュクチュ
夫「胃が悪くても口は臭くなるらしいから、お医者さんに診てもらって……」
…………
……
夫「……」
妻「……」
夫「いくぞ」
妻「ええ」
夫「ハァ~……」
妻「……」クンクン
夫「……」ドキドキ
妻「いい匂い!」
夫「ホント!?」
妻「まるで冬の野山を駆け回ってたら、ラベンダーの香りが漂ってきた……そんな匂いだわ」
夫「ラベンダーは春夏に咲く花だけど嬉しいよ」
妻「しかも、今は口の匂いをよくするようなお薬を使ってないんでしょ?」
夫「うん、ノードーピング状態。メダル剥奪の恐れはないよ」
妻「つまり、あなたの本来の口臭はこれだったのよ。化け物の正体はイケメンだった的な」
夫「これでもう、会社のみんなに迷惑かけずに済むよ」
― 会社 ―
夫「どうです?」ハァー…
課長「ほぉ~」クンクンクン
同僚「おぉ~」クンクンクン
後輩女「いい匂いっす~」クンクンクン
夫「ありがとう!」
課長「この匂い、たまらんねえ!」クンクンクンクンクン
同僚「ええ、クセになります!」クンクンクンクンクン
後輩女「もっと! もっと嗅がせて!」クンクンクンクンクン
夫「怖い! 怖いよみんな!」
課長「あんなに臭かったのに、よくそこまで改善できたもんだねえ」
後輩女「産業廃棄物がラベンダー畑になったって感じっすー」
夫「いい匂いをラベンダーでたとえるの流行ってるの?」
同僚「だけど、いざなくなると、あの臭さが惜しい気もしてくるな」
夫「え?」
同僚「ちょうどニコ・ロビンや灰原哀が完全に仲間化しちゃったら、魅力が半減したような」
夫「俺は丸くなった彼女たちも好きだけどな!」
― 家 ―
夫「というわけで、大好評だったよ」
妻「よかったわね」
夫「取引先でも、みんな俺のことクンクンしてたよ。おかげで営業成績も伸びそうだ」
妻「この経験を生かして、異世界転生して口臭で無双しましたってラノベ書いてみたら?」
夫「誰が読むんだそれ」
妻「これでこのガスマスクとももうお別れね」
夫「ちょっと残念だな」
妻「どうして? もしかしてガスマスク萌え?」
夫「いや、そうじゃなくて……ガスマスクを外して君の素顔が見えた時のあのギャップがよかった」
夫「不気味なごついガスマスクを外したら、若い女性が出てきましたってギャップが」
妻「あなたもなかなかマニアックな嗜好してるわね」
夫「何も言い返せません」
夫「だけど、今思い返すと……君はたしかにガスマスクはつけたけど」
夫「俺に対して“嫌い” だとか“もっと離れて” だとかそういう言葉は一度も口にしなかったね」
夫「……どうして?」
妻「そんなこと、決まってるじゃない」
妻「だって私、あなたのこと愛してるんだから」
夫「……!」
妻「たしかにガスマスクはつけたけど、口臭くらいで嫌いになるようなら結婚してないわ」
夫「ありがとう……」
夫「じゃあ、たまには俺からも君に言葉を送ろうかな」
妻「え?」
夫「今の君の言葉は……どんなラベンダー畑よりもいい匂いで、俺の心を癒やしてくれたよ……!」
妻「……」
妻「……」カポッ
夫「えっ」
ガスマスク妻「シュコー…シュコー…」
夫「いくら臭かったからってガスマスクつけるのやめて!」
おわり