工場、瓶が流れてくる部屋
ウインウイン
澪「・・・」ジー
ウインウイン
澪「・・・」ジー
ウインウイン
澪「・・・」ジー
澪「傷発見・・・」
ポイ
澪「・・・」ジー
元スレ
澪(今日も流れてくる瓶に傷がついてないか確認する仕事頑張るぞ)
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1246634994/
私の名前は秋山澪
瓶に傷がついてないか確認する仕事を始めてもう5年になる
澪「傷発見…」
ポイ
まだ5年目とはいえ瓶の傷を確認する仕事に関して、私の右に出るものはいないと自負している
私はもう4年もミスをしていない
その事実が私に自信を持たせていた
澪「傷発見…」
ポイ
高校を卒業してすぐに就職したこの
澪「傷発見…」
ポイ
卒業してすぐに就職したこの工場はコミュニケーション能力に難ありの私にとってまさに天国だった
まず人と会話をしなくても仕事を進められることがありがたい
私はある理由で人と話すのが著しく苦手になってしまった
このし
澪「傷発見…」
ポイ
この仕事は私にとって天職なのである
主任「秋山さーん、仕事熱心なのはいいけどほどほどにね」
澪「…」ペコリ
ウインウイン
澪「…」ジー
今まで何人もこの仕事に就いていたようだが、みな1年ともたず辞めてしまうそうだ
こんなに楽で楽しい仕事を辞めるなんて一体どんな頭の構造をしているんだろうか?
謎である
昼休憩中、食堂
澪「モグモグ」(今日もひとりぼっちでご飯か。やはり一人は気が楽だな)
「ねー!ここ空いてるぅ?」
澪「!?」
澪「あ…あい、空いて…」
「そ。んじゃ失礼~」
「あんた部署どこ~?」
澪「び、び、びびびび」
「もしかして瓶?うっわ一番キツイとこじゃん」
澪(そうでもないよ)
引っ込み思案な私は心の中で返答した
「あんた、名前は?」
澪「あ、あき…秋山みふぉ!」
澪(自分の名前を噛んだ…)
澪「秋山澪…」
「澪ね。まぁ知ってたけどな。それにしてもお前予想以上に面白い奴だな」
澪(どうせ馬鹿にしているんだ…)
律「私は田井中律っていうんだ~。よろしくな!ちなみにラベル部門だから!」
澪「よろひゅく…」
その日から律と昼飯を食べるのが日課になった
律が一方的に喋り、私は律の話を黙って聞いていた
律と会話(と呼べるかは甚だ疑問であるが)は始めは昼休憩に流れるBGMく
澪「傷発見…」
ポイ
BGMくらいにしか思っていなかった
しかし何週間か過ごしていくうちに律との時間が大切なものになっているのを感じていた
ちなみに律は私と同い年で彼女もまた高校卒業と同時にここに就職したらしい
律は私の存在をしっていたらしいのだけど、私は律のことなど今まで全く知らなかった
それほどまでに私は流れてくる瓶以外に興味がなかったのである
律「み~お」
澪「…」ペコリ
律「相変わらず寡黙な奴だ」
澪「…」
律「お、澪はかきふらい定食か。一個も~らい!」ヒョイパク
澪(あ~!何すんのよ律ぅ!)
案の定、引っ込み思案な私は心の中で叫ぶことしかできなかった
私は世界が滅亡したかのような顔になりながら、ジッと残りのかきふらいを眺めていた
律「ごめんごめん!ほら、私のしょうが焼き一枚やるよ」
澪(むふぅ!)
律「お、喜んでる喜んでる」
澪「パクパク」
律「モグモグ、なあ澪~今週の日曜買い物行かね?」
弱った
私が街に買い物だと?
ふざけるな!
買い物に行く服がない!
とりあえず下着やスウェットで買い物に行くわけには行かないので、中学生の時に買った紫のズボンとよくわからないパーカーとエコバッグを肩にかけ律と会うことにした
言うまでもなく、紫のズボンとよくわからないパーカーのメーカーは不明である
律は、私のために服を買ったり美容院で髪を切る計画らしい
私を可愛く変身させるらしいがどうなることやら…
律「おまたせ~…え…?」
澪「…」ペコリ
律(だっせえええええ!だせえにも程がある!)
律はハーフパンツに有名メーカーの上着、リュックという出で立ちだった
とてもボーイッシュな、律に似合った格好だった
律「せっかく澪はいい顔してんのに、オシャレに無頓着なのがマイナスだよな~」
余計なお世話である
ブランドの店
澪(上着一枚で5000円だと…?一か月ぶんの食費じゃないか)
律「みーおー、何か適当に試着してみろよ」
澪「?」
シチャクってなに
律「なにキョトンとしてんだ。そこら辺の服適当に持って着替えろ」
私は驚いた
金を払う前に服を着てもいい法律ができていたことに
私はその法律に習い、ありがたくシチャクさせてもらうことにした
律「さっきの紫のズボンよりだいぶましだな」
澪「あ、ありが…と」
律「いいってことよ。じゃあ次はその野暮ったい髪を切れ。お前自分で髪切ってるだろ?」
澪「…」コクッ
律「だからそんな重く見えるんだよ。私の行ってるとこ紹介するよ。」
澪「…」コクッ
律が紹介してくれた美容院はオシャレで明るい雰囲気の、およそ私に似つかわしくない空間だった
律「てんちょ!こいつをとびきり可愛くしてやってね!」
店長の腕は確かだった
店長は私の重たい髪を次々鋤いていく
店長のハサミ裁きはまるで白鳥の湖を思わせるような、なんかそんな動きだった
よくわからないけど
オマケに化粧までしてもらい、最後に鏡を見た私は驚きで腰を抜かしてしまった
律も店長も店員も他の客も腰を抜かしていた
なぜかって?
私があまりも可愛かったからだ
律「ほえ~変わるもんだな~」
律は俯く私の顔を覗き込んでくる
私は見られる恥ずかしさから逃れようと顔を背ける
イジワルな律はさらに覗きこもうとする
そんなやりとりを数回続けているうちに、どちらからともなく笑いだした
律は男性のように「アハハハハ」と豪快に笑い、私はクスクスと笑った
私が笑ったのは10数年ぶりだった
そのことを知ってか知らずか律はお腹を抱えてヒィヒィ笑っている
それはリップグロスがキラリと光る、ある晴れた日曜日の出来事だった
その日を境に律との付き合いはどんどん深まっていった
昼飯はもちろんのこと、休日は二人で買い物に行ったり公園でボーッとしたりした
そのおかげか、私は律と会話が続くようになった
律「かきふらいおいしいか?」
澪「おいしい」
律「そっか。良かったな」
澪「良かった」
律は私が話やすいような話題を選んでくれているようだった
それは私が生まれて初めて他人から受けた優しさだった
私は律に自分の過去を打ち明けようと決心した
律「改まって話ってなんだ?もう閉経したとか?」
澪「あ、わた私のか…あぅ…」
律「…?」
私のただならぬ雰囲気を感じたのだろう
律はそれ以上冗談を言うことなく、黙って座っていた
私は律の優しさを感じながらゆっくりと自分の過去を話始めた
私の話はとても拙く、途中何度も言葉に詰まった
それでも全部話しきれたのは言葉が詰まるたび、律が私の頭を撫でて「がんばれ」と言ってくれたからであろう
私が全て話終えると律は「がんばったな」と言った
私は「がんばった」と答えた
今回の返答は心の中のものではなかった
私の過去をかいつまんで話すとこうだ
私は小学生時代に「在日」「ワキガ」などいわれのない誹謗中傷を浴び続けた
所謂イジメである
家に帰れば帰ったで、両親の虐待が待っていた
幼少時代の私に心休まる場所はなかった
それらの体験は私から言葉とコミュニケーション能力を奪うのに充分すぎた
中学生高校生時代は極端なイジメや虐待はなかったものの、学校では毎日ひとりぼっちで過ごし、家に帰ったらすぐに部屋に引きこもった
この6年間、私はほとんど人と喋らなかった
「がんばった」と答えた直後私は嗚咽を漏らしながら泣いた
何故泣いたのか自分でもわからなかったが、たぶん誰かに自分の過去を話せたことが嬉しかったんだと思う
律は泣きじゃくる私を抱きしめ「話してくれてありがとう」と言った
私に初めて親友ができた瞬間だった
それは流れる涙がキラリと光る、ある土曜日の出来事だった
翌日、律は仕事を休んだ
澪(久しぶりに一人で昼飯だな。まあ、たまにはいいか)
さらに翌日、またしても律は仕事を休んだ
さすがに気になった私はラベル部署の主任に律のことを尋ねた
律は亡くなっていた
昨日の出勤途中に交通事故にあったらしい
なんでも道路に飛び出した子供を庇って自分が跳ねられたそうだ
子供は軽い怪我ですんだそうだが律は即死だった
律が死んだ実感がなかったのだろう
私はそんな信じられない話を聞きながら、律らしい最期だなと考えるほど冷静だった
その話を聞いた後、私は流れる瓶の傷を確認する仕事に戻った
昼休憩、いつも迎えにくる律が来ない
ああ、律は亡くなったのだったな
今日から毎日ひとり飯か
そう思った瞬間、私は律がもういないことを実感した
さっきまで律の死はどこか信じられなかったんだろう
その内ひょっこり現れるものだとばかり考えていた
午後、私は流れる瓶を確認し続けた
困ったことに涙で目がかすんで、うまく傷を確認できない
涙を止めようとする自分の意思とは裏腹にそれは止めどなく溢れてくる
その日、私は4年ぶりに瓶の傷を見逃した
律が死んでからの私はミスの連続だった
以前の私なら無心で瓶の傷を確認していたのだが、今はふとした時に律のことを考えてしまう
後日、私は律の葬式に参列した
普通は喪服を着ていくべきなのだけど、なぜか私は律と買い物に行った時の服装で葬式に行った
まわりからどう思われようが、どうでも良かった
律と会うのはこれが最後だと思うと、どうしてもこの格好じゃないとダメな気がした
最後の対面、律の顔はキレイに化粧されていて事故の傷などどこにも見当たらなかった
花にかこまれた律はすごくキレイで、周りの花が見劣りするくらいだった
律の微笑を見ていると涙が止まらなかった
葬式の帰り道、私は死ぬ決心をした
高校を卒業してからずっと親とも誰とも関わらず生きてきた
死ぬまでそうしようと思っていた
それでいいと思っていた
だが、律との出会いが私の心を変えた
自分でも驚きなのだが、私は律なしには生きられそうになかった
次の日、私は初めて仕事をずる休みし駅のホームで次の列車が来るのを待っていた
ホームにいる人達は、私が今から死ぬことなど興味ないと言わんばかりに、携帯を見たり新聞を読んだりしていた
やはり私のことを見てくれていたのは律だけだったんだな
律、早く会いたいよ律
今からそっちに行くからね
プアアアアアア!
「危な~い!」
ドンッ
誰かに引っ張られた私は盛大に尻餅をついた
と、同時に電車が停車する
周りの人は私達を怪訝そうに見つめながら電車に乗り込んだ
「大丈夫~?」
私を助けた女の子が顔を覗き込む
なんで邪魔をするんだ
頼むから律のところへ行かせてくれ
私は命の恩人を睨み付けた
「ここだとアレだし喫茶店お茶でもしようか~」
随分あっけらかんとしているものだ
今から自殺しようとしていた人間の前だと言うのに
私は命の恩人を軽蔑した
喫茶店
「さあ!何があったのかお姉さんに話してみなさい!」
恩人はえっへん!と言いながらどや顔をしてみせた
お姉さん?
幼く見えるが結構歳上なのか?
自称お姉さんのどや顔に負け、私は大切な人が亡くなったことを話した
やっぱり律以外の人との会話はうまくいかない
途中何度も何度も言葉に詰まったが、なんとか最後まで話すことができた
自称お姉さんは驚いたり笑ったり泣いたりしながら私の話を聞いていた
よくもまあ、コロコロと表情が変わるものである
ひょっとして馬鹿にしてるのかな、とも思ったが自称お姉さんの顔は本気だった
澪「もう、私には何もないんです」
唯「その子との思い出も?」
唯「私にも大切な親友と妹がいるけど、二人が死んでも私は死のうと思わないな~」
澪(あなたの意見などどうでもいいのだが…)
唯「だってぇ、例えば私も憂も死んじゃったら二人の思い出も死んじゃうでしょ?でもどっちかが生きてる限り思い出の中に私も憂も生きてるんだよ!あれ?」
なんてことだ
自称お姉さんは電波さんだった
お姉さんの言葉はだいぶ解りづらい日本語だったが言いたいことはなんとなく解った
唯「私ね~高校を卒業して今までずっとゴロゴロしてたんだ~。憂はそれでいいって言うんだけど、なんか悪くって~」
唯「だから今一生懸命バイトを探してるんだ~。でも私バカだからもう10社も落とされてさ(笑)」
澪「10社も…」
唯「こんな私でも頑張ってるんだからキミも頑張って生きていこうよ!ね!」
何かうまくまとめられた気がした
唯「あ!そう言えば今からバイトの面接だったんだ!遅刻遅刻~!じゃあまたね!」
律とは違う意味で台風みたいな人だった
自称お姉さんの言葉で生きる勇気が沸いた
とは言わないが自殺しようとしていた自分がひどく馬鹿馬鹿しく思えたのは事実だった
きっとあのお姉さんは悩んでる人に元気を分け与える妖精か何かなのだろう
私はそう納得し、自ら命を絶つのはやめることにした
お姉さんの言うように律は私の思い出の中で生きていてもらうことにした
ありがとう妖精のお姉さん
バイトの面接頑張ってください
唯「へっきし!あれ~風邪かな~?」
翌日、私はいつものように瓶の傷を確認する仕事をこなした
そして、昼休憩には積極的に人に話しかけるよう努力した
自分で道を切り開かなければ、律や自称お姉さんのような人達と出会うことはできないと感じたからだ
努力のかいあり私に新しい友達ができた
友達の名前は琴吹紬さん、この会社の親会社勤務でここへは現場研修に来たらしい
彼女は、口下手な私の話をニコニコしながら聞いてくれた
律とは違ったタイプの優しい女の子だった
ちなみにむぎさんとは今だに友達関係で休みがあえば買い物に行ったり、お茶をしたりしている
10年後、私は職場で知り合った男性と結婚し、娘も授かった
夫はさしずめ男性版律と言ったところか
寡黙な私を優しくリードしてくれる
そして私を笑わせようといつも試行錯誤している
そんなところも律そっくりだ
娘も素直に育ってくれた
私はあまり親から愛情を注いでもらえなかった
娘にはそんな不幸を味あわせたくなかったので、私達夫婦はたっぷりの愛情を持って娘と接した
その代わりに娘からはたっぷりの笑顔をもらった
娘「おかーさん」
澪「ん?」
娘「にわにおはながさいてたよ!」
澪「うん」
娘「おかーさんにあげるね~!はい!」
幼い娘の手には大きすぎる一輪の花
澪「ありがとう」
娘「うれしい!?うれしい!?」
澪「嬉しいよ」
娘「わーい!じゃあもっと摘んでくるね!」
娘は私に似ずとても元気な女の子だ
願わくば律のような優しい女の子に育ってほしい
それからさらに50年後、私はたくさんの管に繋がれ白い天井を見つめていた
娘を無事に嫁がせ、孫の顔も見ることができた
孫たちも私に似ず元気いっぱいだ
5年前に最愛の夫を見取り、もはやあとは自分の死を待つだけである
今、私の周りには娘夫婦や孫たち、そして長年の友人が大勢囲っていた
一人で生きていけると思い込んでいた昔の私がこれを見たらどう思うだろうか?
びっくりして腰を抜かすんじゃないだろうか?
そんなことを想像すると自然と笑みが溢れた
そして私は一人ではなかったことを実感し、嬉し涙が溢れた
私の人生はいいことばかりだった
あの工場に就職して良かった
律と親友になれて良かった
自称お姉さんと話せて良かった
むぎと知り合えて良かった
夫と結婚して良かった
娘が産まれて良かった
こんな人生をくれた両親に、生まれて初めて感謝した
律「み~お」
澪「…」ペコリ
律「ったく、散々待たせやがって」
澪「ごめん」
律「いいよ。それより楽しかったか?」
澪「うん」
律「そりゃ良かった」
澪「うん」
律「これからはずっと一緒だな」
澪「うん」
そんなやり取りを続けているうちにどちらからともなく笑い出した
それは私達の笑顔がキラリと光る、ある晴れた天国での出来事だった
166 : 以下、名... - 2009/07/04(土) 18:07:09.95 46j7WmdHO 37/41
終わりです
ん~なんか普通に工場勤務の人の一生を書いただけのSSになってしまった
地味でごめんね
まあ、俺が書くけいおん!SSは不仲ばっかりだったのでこういうのもたまにはいいかなって感じです
あと、保守支援ありがとうございました
律「めでたしめでたし」
唯「うっうっう…ええ話や…」
紬「すごいわねりっちゃん紙芝居を作るなんて」
律「はっはっは、隠れた才能ってやつかな」
梓(なんだかなぁ…)
ガチャ
澪「ういーす」
律「!?やべぇ!澪には見せるな!隠せ!」
バサバサ
律「あ」
澪「なんだこれ?澪(今日も流れてくる瓶に傷がついてないか確認する仕事頑張るぞ)?」
澪「…」プルプル
澪「こんなオチはみとめな~い!」
fin
172 : 以下、名... - 2009/07/04(土) 18:13:34.18 46j7WmdHO 39/41
お粗末さまでした
文才ないのは許しておくれ
ではでは
196 : 以下、名... - 2009/07/04(土) 20:57:15.70 UBAyORK40 40/41
乙!
てか唯は結局どうなったの?
198 : 以下、名... - 2009/07/04(土) 21:29:38.60 46j7WmdHO 41/41
>>196
悩んでる人に元気を分け与える妖精としてどこかで飛び回ってるんじゃないでしょうか