1 : ローカル... - 2009/05/25(月) 07:34:38.86 DlI5vNB1O 1/187


※注意※百合です※

「今年は律と違うクラス…か」

二年になったその日、私は少し憂鬱だった。
はっきりした理由はわからない、もしかしたら私だけクラスが違ったせいなのかとも思うけど…でも、和と一緒だ。そこまで不満は無いハズ。

帰りに律と寄った本屋で買った雑誌をぱらっと捲っても興味が出ない。

「…練習するか」

♪~

「あ、違った…」

間違えてしまい手が止まると苦笑いを浮かべる。
そう言えば、いつもここは律が走るとこだな。とか思って直ぐに笑みに変わる。

って、私…さっきから律の事ばっか考えすぎだろ!





元スレ
澪「律と違うクラス…」
http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1243204478/

2 : - 2009/05/25(月) 07:35:27.55 DlI5vNB1O 2/187


「うっ…ダメだダメ。今日は寝ようっ」

楽器をしまってからベッドに身体を放り出す。

こうやってクラスが離れたんだし、もしかして律が自立する様に応援してやるべきなのかもしれない…。卒業したら今みたいに四六時中一緒じゃないんだし…
…そうだよ、な。少しは律に自立させなきゃ。私も少しは律に構わない様にしないとな。

そうして私はゆっくり瞼を閉じた。





3 : - 2009/05/25(月) 07:37:12.85 DlI5vNB1O 3/187


「あんまり寝れなかった…」
翌朝、私はいつも律が迎えに来る時間より早く家を出た。
…一人だけでの登校はちょっと寂しい。…いや、だめだめ。

「そんなこと思ってたらダメだっ」

つい声に出してしまい、はっと周りを見回す。
よ、良かった…誰もいないや。
でも恥ずかしいから少し駆け足で学校へ向かった。



4 : - 2009/05/25(月) 07:39:19.52 DlI5vNB1O 4/187


「あ、澪。おはよう、今日は早いの?」
「の…和。おはよ。うん、ちょっと朝練でもしようかなって」
「へー、頑張ってるのね」

昇降口に入り靴を履き替えるとそのまま並んで教室に入る。
鞄を置くとベースだけ持って教室を出る。
…どうしようかな。
朝練とは言ったけど、音楽室だと律が来るかもだし…
私の足は自然と屋上に向かっていた。



5 : - 2009/05/25(月) 07:40:48.30 DlI5vNB1O 5/187


「きりーつ」

1限目が終わるチャイムが鳴り終わるより前にクラスの扉が開いた。

「澪ー!!」

扉を開けたのは律。ざわざわとクラスがざわめく中、律はお構いなしにクラスに足を踏み入れる。

「り、律っ!まだ授業終わってないから!」
「そんな事よりなんで朝は私を置いてったんだよー!」
「べ、別に理由はないけど…って一回出てけって!」

周りからクスクスと笑い声が聞こえて顔が赤くなるのを感じる。
漸く律が離れて挨拶が終わると、再び詰め寄られる。




6 : - 2009/05/25(月) 07:44:29.48 DlI5vNB1O 6/187


「でっ?なんでだよー」
「だからなんでもないって」
「何でもないのに私を置いてくなよなっ。全くさー」
「…別にいいだろっ。律はさっさと教室戻れよ」
「…なんだよー、澪のバーカっ!」
「なっ!」

バタバタと足音を立てて律が出て行く。…これでいい、んだよな。




7 : - 2009/05/25(月) 07:46:47.08 DlI5vNB1O 7/187


その日の部活は、どこかぎこちないものだった。
練習が終わると私はなんとなく直ぐに音楽室を出た。

***

「澪ちゃん、どうしたのかなー?」
「ちょっと心配ね…」
「…一人だけクラスが違うから、多分拗ねてんだよ。ほら、新入生にビラ配りにいこーぜっ」




14 : - 2009/05/26(火) 00:14:27.95 s5DZclNmO 8/187


午後9時。
この3日間、私は律と一緒に学校へ行くことはなかった。

たかが3日、されど3日。
律とあんまり話さない日はなんだか長くて。新歓ライブも近いのに、私の心はみんなから離れていた。

ライブ、明日なのにな…

自業自得ではあるけど、溜め息を吐かずには居られなかった。
数学の宿題を片付けようと机に向かっても、練習しようとベースを手にしても捗らない。ただただ机に突っ伏すと、携帯が鳴った。



15 : - 2009/05/26(火) 00:15:50.47 s5DZclNmO 9/187


「はい?」
「あ…澪ちゃん?」
「ムギ…どうかしたの?」
「う~ん、私は大丈夫。ただ、律ちゃんの事が気になって電話したの」
「律の?」

ムギの言葉にドキッと胸が鳴る。

正直私は悔しかった。律は私とあまり話さなくなっても変わった様には見えないし、ましてやずっと唯と楽しそうにしていたから。

「律ちゃん、最近元気がないと思って。澪ちゃんなら理由を知ってるかなって思ったの」
「あ、あはは。私なら知ってるなんてないよ」



16 : - 2009/05/26(火) 00:17:02.41 s5DZclNmO 10/187


「そう…?…あと、澪ちゃんも最近、演奏が落ち着かないというか…よね?何か悩みがあったら聞くけど…」

もしかして、ムギは遠まわしに私が律の事を避けていると言ってる?
…いや、まさか。わ、私そんな露骨にやってない…と思う…けど…

「あ、はは。ライブが近いと思うと緊張しちゃってさ」
「…………そう?それなら…いいけど。何かあったら私、なんでも聞くから言ってね?」
「うん、ありがとうムギ。それじゃおやすみ」
「ええ、おやすみなさい」

プツッと電話が切れると、身体が冷える様な熱くなる様な…妙な感覚。



17 : - 2009/05/26(火) 00:19:27.06 s5DZclNmO 11/187


携帯を置くと、うさぎのぬいぐるみを手にしてベッドに寝転ぶ。

もう、限界かも。
律と…話したい。

…でもそれじゃあ、まるで私が律から自立出来てないみたいで嫌だ。
もう少し、もう少しだけ。





20 : - 2009/05/26(火) 00:38:39.59 s5DZclNmO 12/187


次の日。唯が迎えに来た。

「えへへ、おはよー澪ちゃん!」
「お、おはよ。えっ、と…まだ準備出来てないんだけ…」
「じゃあ待ってる!」

満面の笑みで押し切られると、急いで準備をして家を出る。

「どうしたんだ?急に」
「うーんとね。澪ちゃん、りっちゃんとなんかあったのかなーって思って…」

つい足が止まる。
唯にまで、バレてる?
…でも、そんなこと…




23 : - 2009/05/26(火) 12:03:29.69 s5DZclNmO 13/187

「澪ちゃん?」

唯に顔を覗き込まれてハッと身体がこわばる。
ぎこちない笑みを浮かべて首を横に振った。

「はは、まさか。そんな事無いってば」
「そう~?最近二人の様子がへんな気がしたんだぁ。何でもないならいいんだけど…」

唯が離れて歩き出すと、ふと律と唯の仲が良さそうな瞬間を思い出す。
無意識の内にまた足が止まる。

なんだよ、唯ばっかりずるいじゃん。

「ほぇ?澪ちゃん?」
「ご、ごめん忘れ物!先に行ってて!」





24 : - 2009/05/26(火) 12:05:06.18 s5DZclNmO 14/187


まるで唯から逃げるように駆け出す。
前も見ずに走った。
…気がつくと、小さい頃によく律と遊んだ公園に居た。

懐かしいな、ここ。

平日の朝だからか、子供の姿も無く、怖いくらいに静かな公園。
ブランコに近付いて鞄を置くと、腰掛ける。
キィ、と少し錆びた鎖の音。あの頃と変わって無い。
静かな公園に静かに響く音。

…授業はそろそろ始まったかな。
私が授業に出なくても、みんなはクラスが違うからきっとわからないよな…

俯くと、目頭が熱くなりじわっと涙が溢れる。




26 : - 2009/05/26(火) 20:41:09.59 s5DZclNmO 15/187

「…律…」

どうして、私…こんなバカな事をしたのかな。
後悔したって遅い。
自立ができないのは、私の方だと…こんなに思い知らされるなんて。

「律ぅっ…」

嗚咽が漏れ、涙がぼたぼたと零れ落ちる。
律と話したい、律の笑顔が見たい、律と一緒にいたい。
涙は止まらない。
私はこんなに律が必要なのに。

…律は、私が居なくてもあんまり変わらない。

律、私の傍に居てよ。私の事を頼ってよ。私の事、想っててよ。

こんなわがまま、届かない。





27 : - 2009/05/26(火) 20:42:20.81 s5DZclNmO 16/187



「澪!」

私の嗚咽だけが響く静かな公園に響いたその声は紛れもなく、私の待ち望む声。

「り、つ…?」

恐る恐る顔を上げると、公園の入り口に息を切らせた律の姿があった。
律はゆっくりと私の方へ歩き出し、目の前に立った。

「おーおー、こんなに泣いちゃって」

ぎゅっと律に抱き締められて涙は更に溢れる。

「律…りーつー…っ…」
「はいはい、私はここにいますよーっと」

少しおどけた口調の律。それとは裏腹に優しく慰める様に頭を撫でてくれる。




28 : - 2009/05/26(火) 20:43:47.47 s5DZclNmO 17/187

「…唯が澪の事、急に走ってったって言うから心配したじゃん」
「ごっ…め…ッ」

しゃがんだ律が、下から私を覗き込む。

「…澪、さ…ここ暫く私を避けてた、よな。クラス変わって寂しかったんだろ?」

上手く話せない私は、ただ泣きながら必死に頷く。

「私だって寂しかったんだぞー?…私にとって澪は唯とムギとは別なんだからさ」
「べ、…つ…っ?」




29 : - 2009/05/26(火) 21:11:16.95 s5DZclNmO 18/187

律の言葉に、ゆっくり瞳を開く。
涙で滲んだ律の顔。
律がここにいてくれてる。それだけでまた涙が零れる。

「私は澪の事、大好きだからな。澪と話が出来ないなんてつまらないだろ?」

そっと律の顔が近づくと私はぎゅっと目を閉じる。
頬へ何か柔らかいものが触れると、そのままその感覚が目尻まで這う。

「泣くなよ、澪。私、澪の泣き顔も好きだけど笑ってる方が好きだからさ」
「……っ!」

律の言葉に、胸がじんとする。縋る様に律の制服の裾を掴む。




35 : - 2009/05/27(水) 07:08:46.77 lPlFNbczO 19/187


「ごめん…なさい、律…」
「…ん。…ったく、澪はほんっと私が居なきゃだめだなー」

むにむにと頬を弄られながらも、今回は文句を言わずにじっと律を見つめる。




36 : - 2009/05/27(水) 07:11:40.21 lPlFNbczO 20/187

「…仕方ない、今回はこれで許してやるよ」
「…え?」

ちゅ、と唇が触れ合った。でも私は、それがキスだと気付くまで数秒かかった。
気付いた頃にはかぁっと顔を真っ赤にしていたんだろう。


「ほら、行くぞ澪!もう今日は授業サボってライブ練習だ!」
「う、うんっ…」


きっとこの繋がれた手を私から振り解ける日は来ないだろうと、そう思った。





41 : - 2009/05/27(水) 13:12:30.14 lPlFNbczO 21/187


「遊ぶぞーっ!」
「こら、まずは練習だろっ」
「えー」

新入部員の梓も加わり、一段と賑やかになった今年の夏休み。私たちは今年もムギの別荘で合宿をする事になった。

あれから私と律はギクシャクした関係も無くなり、今までとなんら変わりなく互いに傍に寄り添っていた。

でも私はどこかそれに物足りなさを感じていて…。



42 : - 2009/05/27(水) 13:13:59.86 lPlFNbczO 22/187


あの日、律がしてくれたキス。

私はずっと忘れられる事はなく、それを思い出すだけで心臓は高鳴るし、顔は真っ赤になって嬉しいような、恥ずかしいような…そんな気持ちになっていた。

…こんな風に思ってるの、私だけなのかな。

海だ!とはしゃぐ律を、少し複雑な気持ちで見つめていた。





49 : - 2009/05/28(木) 00:01:07.01 Um0MSEfyO 23/187


練習が先か、遊ぶのが先か。多数決で思わぬ裏切りに合い遊ぶ事が先になった。

水着に着替えると、一応みんなで準備体操をしてからパラソルの下に腰掛ける。

綺麗な海…ムギはほんとにお金持ちなんだな…。とか、ぼんやり考えていると僅かな砂の擦れる音と共に隣に梓が腰掛けた。




50 : - 2009/05/28(木) 00:02:04.10 Um0MSEfyO 24/187


「もうっ!強化合宿なら普通練習が先じゃないですかっ!?」
「あはは、ほんとだよ。多数決でこう決まっちゃったから仕方ないけどさ」

苦笑を浮かべながらビーチバレーをする律と唯に視線をやる。
…本当は練習がしたかったけど、律が楽しそうだからまぁいいか…

「ってよくないだろ!」
「えっ!?ど、どうしたんですかっ?」
「あ、な…なんでも…」

つい声に出す癖、治さなきゃ…凄い恥ずかしかった…




51 : - 2009/05/28(木) 00:03:58.73 Um0MSEfyO 25/187


「あーずさー、澪ー。んなとこ居ないで二人も来いよ~」

火照った頬を冷まそうとパタパタと仰いでいると、律に声を掛けられる。
…あ、今なんかチクッとした。なんで?

「行きませんっ!」
「なんだよー。梓は運動苦手なのか?」
「んなっ!それくらい出来ますからっ!」

梓をからかう様にしながらも、なんだかんだで遊びに引きずり込む律。
…ああやって私も乗せられてるんだろうか…。

…あ、また。
またチクッとした。





56 : - 2009/05/28(木) 09:58:40.65 Um0MSEfyO 26/187


「みーおちゃん、どうかしたの?」
「ひゃあっ!ムギ!?」

ぴと、と頬に冷たいものが当たると一気に体の熱が冷えた様に背筋がぞわっとした。
驚いて振り返ると、クーラーボックスを持ったムギが居た。

「うふふ、冷えてるでしょ?喉が乾くだろうからジュースを持ってきてたの」
「なるほど、さすがはムギ。ありがと」

さっきまで梓が座って居た場所にムギは腰を下ろす。




57 : - 2009/05/28(木) 09:59:42.74 Um0MSEfyO 27/187


「それで…何かあったのかしら、澪ちゃん?」

目が合うと、改めてさっきの言葉を投げかけられた。
ムギの目は、じっと私を見ていて。なんだか何もかも見透かされているような、そんな気分になる。

「な、なんにもないって」
「そう?それならいいけど」

クスっと笑ったムギ。慌てて視線を逸らして砂浜を眺める。
やっぱりムギはただ者じゃない様な気がするんだ…。




60 : - 2009/05/28(木) 15:06:44.37 Um0MSEfyO 28/187


「みぃーおーちゃーん~っ!一緒に遊ぼうよぉ~ん」
「うわっ!ゆ、唯…急に変な声だすなよっ」

突然後ろから抱きつかれたと思い軽くそちらを向くと、甘えたな声を出した唯にそのまま頬擦りをされる。
全く、唯のおねだりには適わない。
そう思っていると私の横をすり抜けてボールが唯の顔面に直撃した。





61 : - 2009/05/28(木) 15:07:52.13 Um0MSEfyO 29/187


「あ、ごっめーん!手が滑っちゃった!」
「もうっ!りっちゃんってばこの鬼畜ーっ!」

ボールを拾いに来た律が、目の前で唯と楽しそうに話ているのを見て少し嫌な気分になる。
…私はわがままなのかな…

「ほら澪!いこーぜっ」
「えっ?わ、わわっ!」




66 : - 2009/05/28(木) 20:39:17.90 Um0MSEfyO 30/187


ぐいっと手を引かれるとそのままみんなと少し離れた波打ち際まで連れて行かれる。
もう、なんなんだよ。
ちょっと不満そうに心の中で文句を言うけど、繋がれたままの手にドキドキして顔が熱くなる。

「澪」

波が押し寄せて足を奪われそうになった瞬間、名前を呼ばれた。
束ねきれなかった髪が風で遊ばれるのを手で直して律を見つめた。




67 : - 2009/05/28(木) 20:44:24.45 Um0MSEfyO 31/187


「今年も水着、似合ってんじゃん!可愛いなっ」

多分、律にとっては何気ない一言。でも私の心臓はバクバクと鳴り響いて。
繋いだままの手からですら、私の鼓動がバレてしまうんじゃないかと言うくらいだった。

「あ、ありが、とう…」





68 : - 2009/05/28(木) 20:52:55.89 Um0MSEfyO 32/187


練習も終わり食事を食べ終えた私達は各自少しだけ休憩時間になっていた。
とは言え、ムギには別荘を提供して貰ったし、唯は皿を割りそうだし…梓は唯に絡まれているしで、私だけは皿洗いをしていた。

私も少しは休みたかったかも…なんて。
ぼんやり洗っていると、ぽん。と肩を叩かれた。




69 : - 2009/05/28(木) 20:56:13.75 Um0MSEfyO 33/187


「澪、手伝ってやるよ」
「えっ?あ、悪いな」
「気にすんなって~」

カチャカチャと皿が重なる音が響く。
アイランドキッチンの向こう側で唯と梓がじゃれあって騒いでいるのが遠く感じた。

二人並んで洗うとすぐに片付いてしまって唯や梓、ムギの笑い声が戻ってくる。




70 : - 2009/05/28(木) 20:58:20.69 Um0MSEfyO 34/187


「澪」
「ん?」


律の方を向くと、唇が触れた。

こんな不意にだなんて、反則だよ…律。




71 : - 2009/05/28(木) 20:59:31.29 Um0MSEfyO 35/187


「…………さぁーってみんなー!お待ちかねの花火やるぞ花火ーっ!」
「待ってましたぁー!」



赤くなる私を、律はチラリと見て目を細めた。その表情にすら、ドキッとした…。




72 : - 2009/05/28(木) 21:02:47.05 Um0MSEfyO 36/187


打ち上げも手持ちも無くなり、後は線香花火だけになると騒がしかった面々も静かに見入っている。
ぱちぱちと揺れる小さな火花を、私は眺めていた。

傍に誰かがしゃがんだと思い、視線を向けると律が居た。




77 : - 2009/05/28(木) 22:09:09.14 Um0MSEfyO 37/187


「綺麗だなーっ」
「そうだな。…あ」

その瞬間にしゅん、と火花が落ち、急に少し周りが暗くなった様な錯覚を覚える。
目が合うとつい笑ってしまって、二人で笑いあった。




78 : - 2009/05/28(木) 22:11:21.90 Um0MSEfyO 38/187



だから、正面からの気配には、正直気付いてなかったんだ…


「やぁーっとついたぁああ」
「うわぁあああああああああ!!」
「さ、さわちゃん!?」
「わっ!み、澪ーっ!」





79 : - 2009/05/28(木) 22:12:52.70 Um0MSEfyO 39/187


気が付いたらリビングのソファーに横たわっていた。


「あ、気付いた?体は大丈夫?」
「ん…あれ?私なんで寝てたんだ?」
「あははー、さわちゃんが急に出て来てびっくりしたんだよね」
「心配したんだからなっ!」
「先輩…大丈夫ですかっ…」
「ごめんねー?」




80 : - 2009/05/28(木) 22:13:51.22 Um0MSEfyO 40/187


四方八方から声が聞こえてくる中、繋がれた手の温かさを感じた。
…律だった。

「せ、先生…」

でも先生の顔見てうっすら思いだす。うう、まだちょっとぞわぞわするっ…

「ま、とりあえず風呂でも入って落ち着いたら寝ようぜ」

みんなそれぞれに賛成の声が上がり、浴室へ向かった。




81 : - 2009/05/28(木) 22:14:36.96 Um0MSEfyO 41/187


夜。

広い部屋の広いベッドにポツリと自分一人で寝転んで天井を見上げる。
…天井も高いな。
暫くごろごろと転がってみても落ち着かない。

そうだ。
昼間の胸に何かが刺さるような感覚。あれはなんだったんだろう?
…あのとき…律が梓と私を呼んだ。
その後のは…律が梓と仲良くしてた。




96 : - 2009/05/29(金) 07:59:52.46 Bm5RM37MO 42/187


……嫌だった。んだと思う。
私はこんなに律のことばっかり考えて余裕が無いのに、当の本人は梓にばっかり構って。
本当は私の名前を先に呼んで欲しかった…んだよ、私。

律に、会いたい。
今、会いたい。




97 : - 2009/05/29(金) 08:00:58.66 Bm5RM37MO 43/187


ベッドから降りて扉へ向かう。薄暗い部屋に響くのは大きな扉が開く音。
廊下も薄暗くて、私の足音だけが響いた。

隣の律の部屋まで思ったより距離あったな。どれだけ広いんだよ、ここっ…




107 : - 2009/05/29(金) 23:02:37.17 Bm5RM37MO 44/187

静けさを破る様にノックの音が響く。
張り裂けそうな心臓。
もう、寝たかな?
どきどき、高鳴る。
まだ、起きてるかな?

扉が静かに開くと、暗い廊下に光が刺して律の姿が隙間から見えた。




108 : - 2009/05/29(金) 23:03:21.11 Bm5RM37MO 45/187


「…どうした?」
「あ、いやっ…部屋、広くて落ち着かなくてっ…一緒に寝ないか?」
「あはは、澪は子供だからなー。…ほら、入んなよ」

招き入れられると電気を消してそのまま二人でベッドに寝転ぶ。




109 : - 2009/05/29(金) 23:04:42.71 Bm5RM37MO 46/187


「なんかこうしてると、修学旅行の事思いだすなー」
「え?」
「怖い話の特集見て寝たら、澪が怖いからって私の布団に潜り込んできたのを思いだしたよ」
「あ、あー…そんな事もあった、かも…」
「あったよ。朝起きたら澪が隣に寝てたから何かと思ったし」




110 : - 2009/05/29(金) 23:05:22.21 Bm5RM37MO 47/187


一度目が合ってクスクス笑い合う。
笑いが収まるとどちらともなくぎゅっと手を握った。



「……怖くなったり、寂しくなったらいつでも私のとこに来たらいいから」
「うん…」
「おやすみ、澪」
「…おやすみ」




111 : - 2009/05/29(金) 23:08:11.96 Bm5RM37MO 48/187


寄り添い合うみたいに向かい合って目を閉じる。
律が隣にいると思うだけでなんとなく穏やかな気分になった。

…おやすみ、律。




112 : - 2009/05/29(金) 23:09:49.11 Bm5RM37MO 49/187


手を繋いで、目を閉じて。はっきりこの気持ちが繋がる。

私は、律がやっぱり好き。
これからもこの手が握るのは、私の手でありますようにとお願いをして、眠りについた。





119 : - 2009/05/30(土) 00:10:10.93 K7C5JqEDO 50/187

「うーいぃー…あ゛ーつーいぃー…」
「ふふ、お姉ちゃんってば。そんなに暑いならかき氷でも作ろっか?」
「うんー…」

扇ぐのすら怠くなったのか団扇を持つ手をパタリと下ろしたお姉ちゃんを見て、つい笑ってしまいながらも立ち上がりキッチンへと向かう。




125 : - 2009/05/30(土) 02:22:39.17 K7C5JqEDO 51/187


夏休みに入るからな、と思い、予め出していたかき氷器に氷をセットしてハンドルを回す。

じゃりじゃりと言う氷をかく音が、なんとも夏らしいな。なんて思ったり。


…お姉ちゃんは暑さにはあんまり強くない。
冷房もあんまり好きでは無いからあまりつける事もなく、これはほぼ毎年の光景だった。




126 : - 2009/05/30(土) 02:23:54.95 K7C5JqEDO 52/187


こうしてかき氷を作ってあげると、お姉ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
…それだけでも私は幸せになってしまうから安いものだなぁ…。
でもでもっ、お姉ちゃんの笑顔は私の幸せだからしょうがないよね!


「ういぃー…」
「なぁに?もうちょっとで出来るよー」
「ありがとー…」




127 : - 2009/05/30(土) 02:26:09.48 K7C5JqEDO 53/187


ありがとう。
そんな…お姉ちゃんのたった一言で気持ちがあったかくなって、ハンドルを回す手が早くなる。
お姉ちゃんの為。
私はそうして過ごしてる時が凄く好きなんだなぁ。

「あはは。いいよ、これくらい。あ、お姉ちゃん。いちごミルクでいいよね?」
「うんー」




128 : - 2009/05/30(土) 02:29:04.90 K7C5JqEDO 54/187


2つのお皿に盛ったかき氷に、シロップと練乳をかけてお盆に乗せるとスプーンと一緒にリビングへと運ぶ。

「お姉ちゃん、出来たよ~」
「うー」

のそのそと起き上がってお姉ちゃんはテーブルに向かって座った。




129 : - 2009/05/30(土) 02:30:20.60 K7C5JqEDO 55/187


それでもスプーンを握る気力が無いのか、だれて机に突っ伏しているお姉ちゃんにまた笑みが零れる。

「お姉ちゃん、ほら…あーんして?」
「あー…ん…」




130 : - 2009/05/30(土) 02:31:43.81 K7C5JqEDO 56/187


少し開いたお姉ちゃんの口にかき氷を運ぶ。
お姉ちゃんはその一口だけでも体が少し冷えたのか、幸せそうな顔でぶるっと震えると漸く体を起こした。

「えへへ、おいしー。やっぱりありがとー憂」
「あはは、どう致しまして」




131 : - 2009/05/30(土) 02:35:05.96 K7C5JqEDO 57/187


テレビの電源を入れると夏休み特集と銘打って高校生バンドの特集をやっていた。

「あっ」

ステージの上に向けられる歓声やボーカルのパフォーマンス。
お姉ちゃんも、こんな風に演奏するのかなぁ。
だとすると、お姉ちゃんのファンがいっぱいついちゃうかも…だだだだって、お姉ちゃん可愛いし…っ!
で、でも大丈夫だよね…きっと。

お姉ちゃんはかき氷を食べながらぼーっと見入っていた。
私はそんなお姉ちゃんの横顔を見ながらかき氷を食べる。



132 : - 2009/05/30(土) 02:38:01.81 K7C5JqEDO 58/187


…やっぱり、お姉ちゃんは可愛いなぁ。

不意に耳に飛び込んだギターの音。
私もテレビへと視線を向けると、男の人が凄い指の動きでソロを弾いていた。
すごいなぁ…。こういうのって凄く技術がいるんだろうな。

「すごいねー」
「うん。私、この曲好きだな」

その後は私も少しぼんやりしながらお姉ちゃんを見ていたのかも知れない。
知らない間にかき氷も食べ終え、番組も終わっていた。




133 : - 2009/05/30(土) 02:40:14.53 K7C5JqEDO 59/187


「憂、憂!」
「えっ?な、なーにお姉ちゃん?」
「きいてきいてっ!」
「う、うんっ」

あ、危ない危ない。
ついぼーっとしちゃってたから、ちょっと焦りながらの返事になってしまう。

お姉ちゃんは、いきなり立ち上がったかと思うとギターを取り出した。

なんだろう?
じっと見つめていると、得意げな顔のお姉ちゃんは演奏を始めた。




134 : - 2009/05/30(土) 02:42:20.34 K7C5JqEDO 60/187


…あ。これ。

それはさっき私が好きだと言った曲のギターソロだった。
凄い、お姉ちゃん。
なんだか、いつもと変わらない筈のお姉ちゃんがキラキラしていて…
私はどきどきうるさい心臓を落ち着かせるのに精一杯だった。

暫くして演奏が終わると、キラキラしたお姉ちゃんの目が向けられた。
すっかり見惚れてしまっていた私は、ハッとして拍手を送る。




150 : - 2009/05/31(日) 01:43:13.43 4JgBI068O 61/187


「お姉ちゃんすごいっ!もうそんな事できるの?」
「えへへー。出来ちゃった!」

ピースをしながら自慢げに笑うお姉ちゃん。
私の為だけに演奏してくれたその姿は、ホントにキラキラ輝いていて。

「やっぱりお姉ちゃん、大好きっ」
「私も憂のこと大好きだよー」




151 : - 2009/05/31(日) 01:44:56.56 4JgBI068O 62/187


二人で大好きだと言いあって笑い合う。

…でも…

私とお姉ちゃんの好き、は釣り合うことは…ないんだよね。
私のそれは、きっとお姉ちゃんのそれよりも数段と深い意味合いを持っている。


お姉ちゃんは、きっと知らない。




152 : - 2009/05/31(日) 01:46:05.19 4JgBI068O 63/187


二人きりで笑い合ったりしていると、インターホンが鳴った。

「私が出るね」
「あ、うんー」

パタパタと玄関へと向かうと、鍵を開けて扉を開いた。




153 : - 2009/05/31(日) 01:47:15.97 4JgBI068O 64/187


「はーい…あ、律さん、それに澪さんも」
「ちーっす。唯の様子見に来たよ」
「突然邪魔してごめん、これお土産だから貰って?」
「わぁっ!ありがとうございますっ。この箱、駅前のケーキ屋さんですねっ。お姉ちゃん、ここのケーキ好きなんです」



154 : - 2009/05/31(日) 01:48:25.60 4JgBI068O 65/187


澪さんからケーキの箱を受け取ると、二人を招き入れる。

「お姉ちゃんお客さんだよ~」
「あー、りっちゃん澪ちゃん!」
「な、なんかどっかの漫才コンビみたいな呼び方するなよ」
「あっはっは、まーいいじゃん。唯ー、練習してたのか?」



155 : - 2009/05/31(日) 01:49:40.54 4JgBI068O 66/187


お姉ちゃんは一度ギターを出したからか、さっきのまま練習を続けていたようだった。
律さんの質問に、笑顔で頷くお姉ちゃんを見てから、出しっぱなしのお皿に気付いて、私はそれを持ってキッチンへ向かう。

えっと…暑いからアイスティーがいいかな?

アイスティーの準備をしながら、先ほどのケーキを開けてみる。
丁度4つあるとわかると、お皿に盛り直してアイスティーと共に運ぶ。



182 : - 2009/06/01(月) 16:46:01.83 irn3Os7bO 67/187


扉が閉まるとスリッパを片付ける。この後はご飯を作らなきゃ。
お姉ちゃん、なんだったら喜んでくれるかなぁ…?昨日はハンバーグだったから…
メニューを考えると喜んでくれるお姉ちゃんの笑顔が浮かんで、一層気合いが入る。

そう言えばそろそろ野菜が切れるから買いに行かなきゃ。




183 : - 2009/06/01(月) 16:46:52.06 irn3Os7bO 68/187


「おねーちゃーん?私八百屋さん行ってくるね~」

先にリビングに戻っていたお姉ちゃんに声を掛けると、がたんっ、と少し大きな物音がしてすぐ、ばたばたと慌てた足音が近付き、お姉ちゃんが顔を出す。




184 : - 2009/06/01(月) 16:47:35.18 irn3Os7bO 69/187


「待って待って、えへへ…私も行くよー」
「えっ?八百屋さんとかスーパーくらいだよ?」
「うんっ、憂と買い物に行きたいから」

そのお姉ちゃんの一言で、私の心はぱあっと晴れて行くのを感じた。

無意識のうちに頬も緩んで、多分ちょっと情けない顔になったと思う。




185 : - 2009/06/01(月) 16:48:39.69 irn3Os7bO 70/187


「お姉ちゃん、髪跳ねてるよ」
「あ、ほんとー?」

髪に手を伸ばして梳いてあげる。お姉ちゃんの髪は柔らかいなぁ…
お姉ちゃんに触れているだけで幸せな気持ちになる。



186 : - 2009/06/01(月) 16:50:27.36 irn3Os7bO 71/187


買い物が終わると、夕焼けの帰り道を二人並んで歩き出す。
上機嫌な私から伸びた影ですら、何だか嬉しそうに見えてくる。

「ねー憂。いっつもいっつもありがとうっ」

不意に隣のお姉ちゃんからギュッと手を握られる。最初は少し驚いてしまいながらも嬉しくなってしまう。




187 : - 2009/06/01(月) 16:51:37.69 irn3Os7bO 72/187


「憂はいっつも頑張ってるから、ごほうびだよー」
「ごほうび?…!」

聞き返した瞬間にはお姉ちゃんの顔が目の前に合って。
ちゅ、と優しく唇に触れたものはお姉ちゃんの唇だった。

「えへへ、憂は大好きだから特別なんだよ!」



188 : - 2009/06/01(月) 16:52:34.17 irn3Os7bO 73/187


「お姉ちゃん…っ」

かぁっと顔が熱くなるのを感じながらも、私は無意識の内にお姉ちゃんに抱き付いていた。

涼しい夕方。お姉ちゃんの体温が気持ち良い。

「ありがとう、お姉ちゃん。大好きだよ…」




189 : - 2009/06/01(月) 16:54:13.08 irn3Os7bO 74/187


お返しの様にそっとキスをすると、お姉ちゃんは照れた様にはにかんで見せた。

「私も大好きーっ」

ギュッと手を握り直して家へと向かう。
伸びる並んだ影が、ゆらゆら揺れながら仲良く寄り添っていた。

…もしかしたら、私とお姉ちゃんの「好き」の天秤は、もう少しで釣り合うのかも知れない。




209 : - 2009/06/02(火) 23:51:59.45 7mBlmUrKO 75/187


合宿から帰って来ても夏休みはまだまだあった。
…でも、私としては2年にもなったんだし、来年の事を考えて夏期講習くらい受けておかないとちょっとだけ不安だった。
…だから私は、この暑い中、夏期講習を受けに学校へと来ていた。

でも、出ようと思った理由は実は他にもあって…
夏期講習は他のクラスも一緒に行うから、もしかしたら律も一緒に受けれるかも、と思っていた。



210 : - 2009/06/02(火) 23:52:49.10 7mBlmUrKO 76/187


だけど昨日…律に夏期講習の話をすると、律は参加しない。ときっぱり言い切った。
そ…そりゃ、よくよく考えてみたら…あの律が夏期講習なんか受けにくるわけがないよなぁ…。

でも…やっぱり私は残念で寂しい。
講習だろうがなんだろうが、二人で隣合える事に意味があるから。




211 : - 2009/06/02(火) 23:56:43.65 7mBlmUrKO 77/187


講習中、先生の話を聞きながらもつい律の事を考えてしまう。

律は今、何してるかな?律は今、私の事考えてくれてるかな?

…なんて思いながら時間はすぎる。



212 : - 2009/06/02(火) 23:57:50.35 7mBlmUrKO 78/187


そう言えば、律に好きだとはっきり言って貰ったことはあまりない。
最初の1回か2回くらいなのかな。

…私も、あんまり言ったことない…から仕方ないけど。

ましてや付き合うなんてはっきりした約束は交わしていなかったし。
…律と私は、一緒に居るのが当たり前だったから。
だから、進歩はあれど…はっきりした関係の変化はない。



213 : - 2009/06/02(火) 23:58:35.85 7mBlmUrKO 79/187


「…ふぅ」

昼休みになり、弁当を取り出していると和がゆっくりと近付いて来た。

「澪、ご飯一緒にたべよ?」
「あ、うん」
「さっきの問題、解けた?」
「あー、あれ。途中までは合ってたんだけどさぁ…」




214 : - 2009/06/02(火) 23:59:25.97 7mBlmUrKO 80/187


いつも学校でするのと同じ他愛ない話。
…でも、今の私は物足りなさを感じてしまう。

「……ちょっと澪?聞いてた?」
「…えっ?!な、なんだっけ?」
「やっぱり聞いてなかったのね。まぁいいけどさ。…律の事でも考えてた?」




215 : - 2009/06/03(水) 00:00:18.93 7mBlmUrKO 81/187


和の一言に、私はつい固まってしまう。
でもその言葉をやっと飲み込むと、ぼんっ!と音がなるくらいに顔が熱くなっていくのを感じた。

「うええぇっ?!な、何言って!!」
「当たりなんだ?律の事、好きなのね。澪って結構わかりやすいよね」



216 : - 2009/06/03(水) 00:01:01.73 7mBlmUrKO 82/187


クスクスと小さく笑ってみせる和を見て、私は恥ずかしくて居たたまれなくなる。
…うう、恥ずかしいっ。

…普通に考えたら女の子が女の子を好きだなんて…きっと一般的に考えておかしいんだろうとは思う。
でも和はそれをおかしいだなんて言う事もなく、ただ優しく笑っていた。



217 : - 2009/06/03(水) 00:01:59.93 7mBlmUrKO 83/187


…これは私の勝手な考えなんだけど…私が律を好きな様に、もしかしたら和も唯を…

「もしかして…和…」
「…ん。言わなくてもいいよ。私は…今の関係でも十分だから」
「和…」

…やっぱり、当たってるんだろうな。



219 : - 2009/06/03(水) 00:03:35.18 7mBlmUrKO 84/187


講習も終わり、帰り支度が終わると和へと近づく。

「和、一緒に帰らないか?」
「んー、そうしたいんだけど…これからちょっと用事があって。ごめんね」
「そっか。和も大変だなー。それじゃあまたな」
「うん。じゃあね」

用事があるなら仕方ないよな…。残念だけど。
仕方なしに和と別れ、一人で校舎を出た。




220 : - 2009/06/03(水) 00:04:46.69 3CAXpQciO 85/187


3時か…律は、何してるかな。

直ぐに律の事ばかりを考える自分に苦笑いを浮かべてしまう。

「澪っ」

門を出ると不意に呼び止められて、慌てて声の方を向く。
…慌てた理由なんて、一つしかない。

その声が…律の声だったから。



236 : - 2009/06/03(水) 20:31:52.82 3CAXpQciO 86/187


「律!講習に出た訳じゃないのに何やってんだよー」

嬉しくて少しだけ声が高くなりながら律へと駆け寄る。

ああ、律だ。

…今日はずっと会いたいと思って勉強してた私に、神様からのごほうびなのかな。とか勝手に思ってしまうよ。
それでも私ばっかり会いたいなんて思ってたのがバレたら嫌だから、軽くからかう。




237 : - 2009/06/03(水) 20:33:34.52 3CAXpQciO 87/187


「なんだよー。迎えに来てやったのにさっ」
「迎え?」
「そうだよ。一緒に出掛けようと思ってさ!」

ぎゅっと手を取られた瞬間、講習中に感じていた寂しさは一気に消えてしまった。




238 : - 2009/06/03(水) 20:35:41.02 3CAXpQciO 88/187


律が、こうして私を待っていてくれた。
どうして心の中ではこんなに嬉しいのに、言葉には中々出せないんだろう。
ちゃんと、言わなきゃ。
嬉しいって。
ありがとうって。
…でも、言葉が、喉に引っかかって出て来ない。
素直になりきれない自分に、少しだけ嫌気がさす。




239 : - 2009/06/03(水) 20:36:25.56 3CAXpQciO 89/187


「澪?」
「えっ?」
「ちゃんと聞いてろよなー。ほら、一回澪の家で着替えてから急いで出発だぞっ」

どこに?なんて聞く暇もなく律に力強く手を引かれて、足は勝手に動き出した。



240 : - 2009/06/03(水) 20:37:41.86 3CAXpQciO 90/187


昔から律は、強引な所があるなぁ…。
でも、そんな行動が…いつも一歩引いてしまう私をそうやって勇気付けてくれているのはよくわかってる。

律の言う通りに、一度家で着替えるとバスに乗った。




241 : - 2009/06/03(水) 20:38:51.40 3CAXpQciO 91/187


「澪、ほら!」
「あ。これっ…」

並んで座るバスの中、律が鞄の中から二枚のチケットを取り出して見せた。

それは…遊園地の招待券。




242 : - 2009/06/03(水) 20:40:13.06 3CAXpQciO 92/187


「知り合いに譲って貰ったんだ。澪さ、ナイトパレード見たかったんだろ?」

合宿から帰ってきた後、律が私の家にあそびに来ていた日。
律が持って来た雑誌に載っていた夏休みのパレード特集があった。



243 : - 2009/06/03(水) 20:41:13.66 3CAXpQciO 93/187


写真に収まったキラキラ輝くネオンが凄く綺麗で、私はずっとそれを見ていた。

口に出してパレードを見たいなんて言わなかったのに、律は分かっていたんだと思うとつい頬が赤くなる。



264 : - 2009/06/04(木) 19:51:35.27 mmEfGgAqO 94/187


「…うん」
「へへ、よかった。朝から来れなかったけど、今日までらしいから間に合ってよかったよな!」

にかっと笑った律を見つめると胸を締め付けられる。
ありがとうって言わなきゃ。ちゃんと分かってる…分かってるんだ。




265 : - 2009/06/04(木) 19:52:20.45 mmEfGgAqO 95/187


「あ!ついた。降りるぞっ」
「う、うん」

…ああ…言いそびれちゃった。

どうしてなんだろう。もっと素直になりたいのになりきれないよ。
律は、こんな私…嫌いになったりしないよね…?



266 : - 2009/06/04(木) 19:55:12.18 mmEfGgAqO 96/187


ジェットコースターにコーヒーカップ、バイキングにカーレース、それから…観覧車。
お化け屋敷行くのは嫌だから…逃げ出したけど。

私たちはまるで走り回るようにはしゃいでいた。

あっと言う間に時間は過ぎて行き、あたりも少し暗くなってくるとパレードが始まった。




267 : - 2009/06/04(木) 19:57:31.92 mmEfGgAqO 97/187


人混みの中、離れないように強く握った手。
目の前を過ぎる煌びやかで賑やかなパレード。

眩しい光が差し込む中、私は律の様子が気になってちらりと視線を向ける。




268 : - 2009/06/04(木) 19:58:55.99 mmEfGgAqO 98/187


…目が、あった。

その瞬間は長くて、周りの音も消えて。

「澪…」

ゆっくり、重なる唇。
二人だけの世界。






297 : - 2009/06/05(金) 18:20:46.23 478aD0WgO 99/187


パレードはあっと言う間に終わり、バスから降りて二人手を繋いで帰り道を歩いていた。
互いに少しだけ無言になりながら…でもその無言も苦じゃなくて。

…今なら、きっと素直になれる。

そんな気がした。


299 : - 2009/06/05(金) 18:21:31.20 478aD0WgO 100/187


「律…」
「ん?」
「今日は…いや、いつもありがとう…っ」

少し緊張しながら、私からキスをする。
恥ずかしくて顔を合わせていられないから、慌てて顔を背けた。




300 : - 2009/06/05(金) 18:22:32.72 478aD0WgO 101/187


「…言わなくても分かってるよ。私は澪の事がずっと好きなんだからなんでもわかるし」

律の小さな声が、私の心に染み込むように響く。
強く握った手の指が、自然に絡んだ。





301 : - 2009/06/05(金) 18:23:38.15 478aD0WgO 102/187


私が、こうやって素直になれないのも…律は知っていて。
きっと…それでもいいんだと、言ってくれているんだ。

だから律は…

「…律、…す…好きだよ…」

こうやって、私が必死に言った素直な言葉も、笑って…

「知ってる!」

…そう、答えるんだ。


…そんな律が、私はやっぱり…好きなんだ。




302 : - 2009/06/05(金) 18:25:49.60 478aD0WgO 103/187


ただ、私は律をずっと好きでいよう。律はきっと応えてくれる。

何も不安になることはないんだから。
…な?律。


end+






316 : - 2009/06/06(土) 01:46:20.96 ukx0i5x+O 105/187


今年は、今までとは違って唯と違うクラスになった。

今や唯は、軽音楽部の友達が居て…少し距離が開いてしまったと思っていた矢先の事。
…嫌な予感はしていたけど。



317 : - 2009/06/06(土) 01:48:31.40 ukx0i5x+O 106/187


でもそれは間違いなく当たっていて…。
生徒会でも仕事を任せられる様になって自然と忙しくなったこともあり…
唯は私の傍から知らぬ間に居なくなっていた。



318 : - 2009/06/06(土) 01:49:35.87 ukx0i5x+O 107/187


澪と同じクラスになってわかった事があった。

澪は、律が好き。

それから二人は上手く行っている事。

…正直、少しだけ羨ましく感じはしていた。
私は、どう頑張っても唯の一番にはなれなかったのに…。



319 : - 2009/06/06(土) 01:50:25.03 ukx0i5x+O 108/187


同じ幼なじみ同士の澪と律ばかり…こんなに上手くいっているなんて…

羨ましさだけではなく、同時に妬ましさを感じたりする自分に多少イラついてしまったりする。




320 : - 2009/06/06(土) 01:51:09.51 ukx0i5x+O 109/187


「のーどっかちゃん!もしかして今帰りっ?」
「…あ…、ゆ、唯。そうだけど……一緒に帰る?」
「うん!」

帰り道、唯に声をかけられて少し驚いてしまう。



321 : - 2009/06/06(土) 01:52:48.44 ukx0i5x+O 110/187


嬉しい気持ちは山々なんだけど、話していると私が知っていた唯じゃないみたいで…
言い逃れの出来ない不安と、寂しさが込み上げてくる。
でも気付かれない様にそれは全部、片隅に押し込んで…私はいつもの私になる。




322 : - 2009/06/06(土) 01:54:35.65 ukx0i5x+O 111/187


「…でねー、新しい部員が増えたんだよっ!あずにゃんっていうんだけど、あずにゃんもギターなんだよ!あずにゃん、すっごいギター上手いんだぁ。あ!しかも可愛いよぉっ!」
「へぇ、良かったじゃない。ライバルが出来たなら唯もうかうかして居られないわね」
「はうっ!和ちゃんの意地悪ー!」




323 : - 2009/06/06(土) 01:56:01.90 ukx0i5x+O 112/187


新入部員…か。
嬉しそうな唯を見てまだ会った事すらない子に嫉妬する。


自己嫌悪の嵐…



341 : - 2009/06/06(土) 19:42:36.72 ukx0i5x+O 113/187

次の日、廊下で小さな子とぶつかった。
その子は長い髪をツインテールにしてギターを背負っていた。

「ごめんね?立てる?それに…ギターは大丈夫?」

走って来たその子にぶつかってプリントをばらまいてしまったものの、転ばせてしまったのは私のせいだ。



342 : - 2009/06/06(土) 19:43:26.84 ukx0i5x+O 114/187


手を差し出すとその子はおずおずと取った。

「はい…大丈夫、です。は…走ってぶつかっちゃってごめんなさいっ」
「別にいいわよ。これからは気をつけてね?」

深くお辞儀した勢いでその子の髪が耳の様に跳ねた。



343 : - 2009/06/06(土) 19:44:18.56 ukx0i5x+O 115/187


顔を上げると本当に申し訳無さそうに私を見ていたけど、中々手を離して貰えなかった。

「…あの、手…」
「あっ!ごめんなさいっ」

かぁっと頬を赤く染めたその子の表情が頭に強く残った…気がした。
プリントを拾おうとしゃがむと、その子もしゃがんだ事に気付く。




344 : - 2009/06/06(土) 19:47:15.65 ukx0i5x+O 116/187


「いいよ?急いでたんじゃないの?」
「い、いえっ…そう言う訳じゃ…」


「あれ?和さんに梓ちゃん。大丈夫ですか?」

聞き慣れてはいるけど、最近はあまり聞きたいと思えない声が耳に飛び込む。




345 : - 2009/06/06(土) 19:47:58.32 ukx0i5x+O 117/187


「憂。私がぶつかっちゃって…」
「そっか…私も手伝うね」
「あー、二人ともいいのに。ごめんね?」

三人も揃えば幾ら散らばったとはいえ、割とすぐに集まる。




346 : - 2009/06/06(土) 19:48:49.26 ukx0i5x+O 118/187


「ありがとう、二人とも」
「あっ…いえ!」
「いえ、気にしないでください」
「………それじゃあ私、行くから」
「…あっ、あのっ」

足を一歩進めると声をかけられる。
何かと思って振り返るとじっと見つめられて…少し戸惑ってしまう。




347 : - 2009/06/06(土) 19:49:33.22 ukx0i5x+O 119/187


「どうかした?」
「あ…えっと…なんでもない…です」
「そう?それじゃ、次は誰かにぶつからない様に気をつけてね」

もう一度、踵を返して歩き始める。今度は呼び止められる事はなかった。



348 : - 2009/06/06(土) 19:51:23.69 ukx0i5x+O 120/187


帰り、昇降口を出た所で唯たちと鉢合わせた。
その中に、ぶつかった子の姿もあった。

…じゃあ、あの子が唯が言っていた「あずにゃん」とか言う子なのね。




349 : - 2009/06/06(土) 19:52:17.08 ukx0i5x+O 121/187


「和ちゃん!」
「唯。みんなも帰り?」
「そうだよー。せっかくだし、和もアイス食って帰ろーぜ」
「いや…私は…」
「い、行きませんかっ?」
「おっ?梓が積極的だな」
「ふふふっ」

ぐいっと裾を引っ張られて少し驚いてしまうけど、そこまで言われたら行くしかない。




350 : - 2009/06/06(土) 19:53:00.17 ukx0i5x+O 122/187


軽音部のメンバーに連なって歩く。
…とはいえ、数歩後ろを歩く形だけど。

唯、楽しそうだな…

他の部員と楽しそうに笑い合う唯を見ている自分に苦笑する。
…でも、理由はわからないけど今までの嫉妬を感じなかった。




351 : - 2009/06/06(土) 19:53:51.23 ukx0i5x+O 123/187


「あ、あの…和、先輩って呼んでいいですか?」
「え?あ、うん。あなたは…梓だっけ?」
「はい!中野梓です。よろしくお願いします」

笑った顔に少しだけ心臓が跳ねた気がした。





352 : - 2009/06/06(土) 19:54:32.76 ukx0i5x+O 124/187


唯とよく来ていたアイスクリーム屋の店先で買ったばかりのアイスを食べてしまうと解散になった。

元々、帰りに参考書を買いに行こうと思っていた私は、一緒に帰ろうという唯の誘いを…断って本屋に来ていた。




353 : - 2009/06/06(土) 19:55:15.55 ukx0i5x+O 125/187


「あ」
「あ」

先に帰ったと思っていたはずの彼女と入り口でばったり出くわす。
暫くの間二人で同じ様に足を止めて視線が混じる。

「…偶然ね。梓も用事なの?」
「は、はいっ。ギターの雑誌が発売する日なので…先輩は?」
「私は参考書を買いに。…中、入ろうか」
「はい!」




354 : - 2009/06/06(土) 19:56:06.18 ukx0i5x+O 126/187


二人で並んで足を踏み出せば歓迎する様に自動ドアが開いた。
並んで入りはしたものの、目的は一緒ではないので私は自分の目的である参考書を眺める。

どれがいいかしら…。

参考書を眺めているのは嫌いじゃない。
勉強が苦ではない方だし、寧ろ好きかもしれない。



373 : - 2009/06/07(日) 07:52:24.93 tPR9t4AEO 127/187


一冊手に取ってぱらぱらと捲っていると、不意に隣に人が並んだ気配。
ちらり、と横を見やるとツインテールの女の子。

「あのっ…私、私も参考書欲しいんですけど…どれがいいのかわかんなくて…」
「…どの教科?私の使ってたのでいいならあげるけど…」
「ほんとですか?じゃあ…今度先輩の家に伺ってもいいですか…?」




374 : - 2009/06/07(日) 07:53:43.24 tPR9t4AEO 128/187


少しだけ驚いた。

なんとなく、私の心が乱れてきている様に感じていた。
…乱れている、より…乱されている、が正しいかしら…
私の心は、今日1日で…まだ会って間もないこの子に掻き回されていた。



375 : - 2009/06/07(日) 07:54:40.95 tPR9t4AEO 129/187


「いい…けど。明日…土曜日だし、来るなら来ていいわよ」
「はいっ!じゃあ…待ち合わせは…」
「…家、この辺ならここの入り口にする?」
「はい!わかりました!」

その日は、会計を済ませると店先で別れた。
少しだけ、彼女の後ろ姿を眺めてから私は反対方向へと歩き始めた。




376 : - 2009/06/07(日) 07:55:55.15 tPR9t4AEO 130/187


一人部屋の机に向かって買った参考書を開くと、ふと彼女の顔が浮かんだ。

…理由はまだわからない。

でも、彼女の事を考えているのは嫌な気持ちはしなくて。
私は、唯のことを諦める事が出来たと言う意味なのかもしれない。




377 : - 2009/06/07(日) 07:56:40.31 tPR9t4AEO 131/187


つい昨日まで感じていた律達に対する妬ましさも、すっかり綺麗に忘れさるほど…私の頭の中には彼女の姿があった。

「中野…梓、か…」

そうだ。去年の参考書を出しておかないと。
私の書き込みも沢山あって、正直他の参考書よりわかりやすいくらいじゃないかと思う。
…梓は喜ぶの…かな。



378 : - 2009/06/07(日) 07:57:23.27 tPR9t4AEO 132/187




まるで私は、唯じゃなく…今日会ったばかりのその子に…恋をしているみたいだった。





379 : - 2009/06/07(日) 07:58:56.67 tPR9t4AEO 133/187


次の日、時間通りに約束の場所に着くとそこには既に梓の姿があった。

「こんにちは!」
「ごめん、もしかして待った?」
「い、いやっ!今来た所ですから!」
「そう?それじゃあ行こうか」
「はいっ」

全てにおいてなんとなく必死さが見え隠れする姿に、少し目を奪われる。



380 : - 2009/06/07(日) 08:00:21.43 tPR9t4AEO 134/187


つい、梓を目で追いたいと思ってしまう。
思えば、唯の時も最初はそうだったのかもしれない。その感情が恋に変わったのはいつの事だったか。

部屋に招き入れると焼いておいたクッキーと紅茶を運ぶ。



381 : - 2009/06/07(日) 08:06:31.25 tPR9t4AEO 135/187


「お…おいしそう…。和先輩が作ったんですか?」
「うん。クッキーなんて簡単だからね。遠慮なくどうぞ?」
「はい!頂きます!…でも、作れるなんて凄いです」

私の焼いたクッキーを嬉しそうに食べる姿に、笑みが零れた。
紅茶を一口飲んでから昨日用意した勉強机の上にある参考書の山を指差す。



382 : - 2009/06/07(日) 08:08:35.60 tPR9t4AEO 136/187


「わ、あんなにあるんですか?」
「うん。全部私の書き込みがあるけど…いい?いいなら好きなだけどうぞ」
「もちろんです!寧ろ嬉しいですからっ…じゃあ…えっと…」

参考書の山に向かって私に背を向けた梓はとても小さかった。



383 : - 2009/06/07(日) 08:10:17.79 tPR9t4AEO 137/187


年下ってこんな感じだっけ?
もう少し大きいのかと思っていたけど。
…手も小さいな。この子、ほんとにギターなんて出来るのかしら。

「先輩、とりあえず…この三冊を頂いてもいいですか?」
「うん、いいわよ。役に立つといいけど」
「…頑張って勉強しますね!ありがとうございます!」




428 : - 2009/06/08(月) 18:07:17.35 Ix2ZGf0uO 138/187


…私は現金なんだろうか。
その笑顔を見て…胸が締めつけられる様に…そうか…

まるで、じゃない。

私は恋をした。

…会って間もないこの子に。




429 : - 2009/06/08(月) 18:08:03.21 Ix2ZGf0uO 139/187


「…そう言えば…どうして参考書の相談、澪じゃなくて私にしたの?」

別に意地悪とかじゃなくて…ただ単に気になっただけ。
…それなのに。




430 : - 2009/06/08(月) 18:10:06.15 Ix2ZGf0uO 140/187


「!」

かぁっと耳まで一気に頬を染めた梓に、こっちが驚く。

「あの…それは…っ」
「…」
「ひ……ぼ…れ…」

声が小さくて聞きとれない。



431 : - 2009/06/08(月) 18:11:07.80 Ix2ZGf0uO 141/187


でも何となく唇の動きでわかった。
そう、この子も私と同じ。

一目見た、それだけで

恋に落ちた仲間。




432 : - 2009/06/08(月) 18:11:56.28 Ix2ZGf0uO 142/187


眼鏡を外すとゆっくりと唇を近付ける。
梓は一緒肩を強張らせたけど、嫌がらなかった。
互いににそっと目を閉じて唇が触れ合うと静かに離れる。

「…のど、か…先輩…」
「…互いに一目惚れ…かな」



433 : - 2009/06/08(月) 18:16:53.54 Ix2ZGf0uO 143/187


これは小さな奇跡かもしれない。
唯との恋が実らなかった私に、神様がくれた…小さな幸せ。

「これからよろしくね?」

まだまだお互いに何もしらない。…だからこれから一緒に歩いていく。
二人の関係は始まったばかりなんだから、これからゆっくり知ればいい。
新しい関係を、楽しもう。
…梓と一緒に。

end+






449 : - 2009/06/09(火) 00:10:34.51 ZDbuoALKO 145/187


「澪!なんで怒ってるんだよ!」
「…律がわからないならいい。私の問題だから」
「わ、私かなぁ?私がなんかしちゃった?」
「唯のせいじゃないよ、私の問題だよ」

律に誘われて買い物に来ていた私達の空気は最悪だった。

朝、駅前で待ち合わせをして…先に唯が来てたから二人で話をしながら待っていた。…ムギは午後から違う場所で落ち合う事になってたけど。
…律もすぐに来たけど、律が不機嫌そうで…。私は必死に空気を良くしようと頑張った。



450 : - 2009/06/09(火) 00:11:31.33 ZDbuoALKO 146/187


服を見に行ったけど、今日はバーゲンだからか…凄い人。
はぐれそうだなぁ…と思って気をつけようと思った矢先、律は唯と腕を組んで楽しそうに人混みに紛れていった。

…なんだよ、どうして今日…私も呼んだんだよ…

悲しいような悔しいような…寂しい気持ちに押し潰されそうになって、泣きそうになった。



451 : - 2009/06/09(火) 00:15:07.69 ZDbuoALKO 147/187


私、なにかした?律に悪いことした?

そんな風に感じて入り口から動けなかった。

「澪はもういいのか?」
「あ…う…うん」

戻ってきた律は機嫌が良くなっていて、私は逆に気分が重くなる。

店を出て、私の態度の変化に気付いたのか律が声をかけてきて現在に至る。



452 : - 2009/06/09(火) 00:18:19.85 ZDbuoALKO 148/187


どうして、わからないんだろう…。
ちょっと無神経なんじゃないか、と私もつい意地になる。

「言ってくれなきゃわかんないだろ!」
「…私、居なくても良かったなら無理に声掛けなくても良かったのに」
「えぇっ!?やだよ、澪ちゃんがいなきゃっ」
「…空気悪くしてごめん…私…今日は帰るから」



453 : - 2009/06/09(火) 00:19:57.82 ZDbuoALKO 149/187


それよりも自分自身がこの空気に耐えられなくて…帰ろうと背を向けると、律に抱きつかれて動けなくなる。

「待ってよ澪!私が悪かったよ…ごめん…最初…私がちょっと機嫌悪かったし…二人で先に行っちゃったのは謝るよ!…ほんとごめんっ…だから帰るなよ!澪が帰っちゃうのやだよ!」
「いいよ、私がこんな空気悪くしちゃったんだし…悪いから帰る」




454 : - 2009/06/09(火) 00:21:32.29 ZDbuoALKO 150/187


律は離さなかった…律が謝ってくれたから許して良かったのに。それだけで充分なのに。
すぐに言えない私のばか。

「わかった…それじゃあ…誰も悪くない、お互いに擦れ違っちゃった、これでいいだろ?」

その律の一言で涙が零れた。

「な…?ごめん、澪」
「う…んっ…ごめん…律。唯も…ごめんねっ…」
「私は大丈夫!ほら二人ともご飯いこ!ムギちゃんが待ってるよっ」



455 : - 2009/06/09(火) 00:23:41.71 ZDbuoALKO 151/187


律にぎゅっと握られた手に安心する私は単純だ。

…私は…こうして喧嘩をしても大好きなんだ。
律が冷たいと不安だし、他の人とばかり仲良くしていると嫌。

…そんな再確認をした1日だった。


end+





505 : - 2009/06/11(木) 09:07:08.64 iLXcEry1O 153/187


軽音部を結成して初めてのライブ。

さわちゃんの作った衣装は正直どうなんだろうとは思ったけど、澪に凄く似合ってたから…ちょっとだけグッジョブ!とか思ったりしていた。

けど…いい感じに演奏が終わって、もう完璧っ!って思った直後に起きた事が…ちょっとだけ私を不満にさせた。




506 : - 2009/06/11(木) 09:08:02.52 iLXcEry1O 154/187


「澪ー、もう泣くなよー」

帰り道、恥ずかしくて立ち直れないと泣く澪の隣で励ましながら歩く。
こういう時の澪は中々立ち直らないから少しだけ厄介なんだよなぁ。

…でも、澪も悪い!

あんな姿晒して…写真とか撮られてたらどうするんだよ!



507 : - 2009/06/11(木) 09:10:04.45 iLXcEry1O 155/187


縞パンだったのは百歩譲っていいとする…寧ろいいんだけど…

…澪は私のなんだから。…気をつけて欲しい。




508 : - 2009/06/11(木) 09:11:17.10 iLXcEry1O 156/187


「…ライブ自体は成功なんだから、そっちの方思い出してたらいいじゃん?」
「うぅ…っ」
「ほーらっ!うじうじすんな!」

ばしっと澪の肩を叩くと、澪は漸く私を見た。
涙が滲んでいる目尻に唇を当てて優しく拭ってやる。



509 : - 2009/06/11(木) 09:12:34.45 iLXcEry1O 157/187


…澪は泣き虫だから。
私が傍にいなきゃいけないんだ。
…私がいつでも一番近くで…澪を見てるって、決めたんだ。



510 : - 2009/06/11(木) 09:13:25.32 iLXcEry1O 158/187


「律…」
「…ほら。元気だせ?」

優しく髪を撫でてやる。
澪の髪は…サラサラで綺麗だ。小さな頃から何一つ変わってない。
…撫でると、少し嬉しそうにはにかむ姿も…変わらない。



544 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:45:38.09 PKIQat1kO 159/187


漸く泣き止んだ澪の手をぎゅっと握ってやると足並みを揃えて歩く。

何分もたたない内に澪の家の前まで着いてしまうとゆっくり手を離す。
…けど、澪が嫌がって一度離した手の指先を掴んだ。



545 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:46:20.65 PKIQat1kO 160/187


「みーお。帰れないだろー?」
「だって…」

ゆっくり澪の指を解くと、唇を重ねた。
…澪も静かに目を閉じていた。
まだ澪が目を閉じている間に静かに離れる。




546 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:47:30.10 PKIQat1kO 161/187


「じゃあな、澪!」
「律…うん」

何か言いたげな澪に挨拶を告げると、私も帰宅した。



547 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:49:08.49 PKIQat1kO 162/187


次の日。学祭の片付けに学校へ向かう。
…今日は澪に先に行くからと伝えていたから、一人で早めに。

学校へ着くと案の定写真が出回っていた。出どころを突き詰めると、何やら写真部らしい。




548 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:50:29.75 PKIQat1kO 163/187


「…出回りすぎだろー…疲れたぁ」

一応回収して回って、最終的には写真部に乗り込んでネガを没収してきたのはいいけど…。

「もうさすがに出回ってないはず…だよなぁ」
「あ、律ちゃん!見てコレ!」
「さわちゃん?…うわ!」
「ばっちり撮っちゃったー!…あっ!こ…これ没収したら私顧問やめちゃうわよっ」




549 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/12(金) 14:52:02.08 PKIQat1kO 164/187


得意げな表情のさわちゃんに悔しいながらも手が出せない。

「…やめたらムギの持ってくるお菓子、食べられないからな?」
「はうっ!」
「ネガを渡すかデジカメならデータの消去を私の前で見せたら許してやろう。出回らせないなら持ってていいから」
「う…うぅ…わかったわよ」




570 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/13(土) 23:55:27.82 T21cQMLcO 165/187


なんとかさわちゃんのデータも全部消去して教室へ戻ると澪がいた。
しかも片付けがだいぶ終わっていて、私が手伝わなかったからか少し不機嫌そうにしていた。

「…どこ行ってたんだよ、律」
「どこって別にー?遅れてごめんって!怒るなよー」
「…別に怒ってないけど…」




571 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/13(土) 23:57:01.78 T21cQMLcO 166/187


唇を尖らせて不満げに視線を逸らす澪。
あー、怒ってるだろうなこりゃ…
でも…澪の為に一応した事だし…私は悪い事はしてない…はず。

クラスの片付けが終わればみんなバラバラに帰り始める。



572 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/13(土) 23:57:48.26 T21cQMLcO 167/187


私と澪は互いに無言になって少し重い空気のまま…でもなんだかんだで二人で並んで音楽室へ向かって居た。

昨日はアンプとかただ置いただけだったし、軽く打ち上げ…なんだけど。



573 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/13(土) 23:59:31.32 T21cQMLcO 168/187


二人の間に会話はなくて…ただ階段を登る足音が静かに響く。

唯かムギがいますように!と念じながら音楽室の扉を開けると、私の希望も虚しくそこには昨日のままの音楽室があった。



575 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:08:52.84 c3vDBZCaO 169/187


なんとなく気まずいままで鞄を並べて置く。
ドラムやアンプをいつもの場所に直していると澪が漸く口を開いた。

「なんで…今日先に行ったんだ?」
「んー…ちょっとなぁ」
「…私、ちょっとクラスで恥ずかしかったんだからな…律もいないし…」
「…」



576 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:09:59.73 c3vDBZCaO 170/187


漸く口を開いたと思えば…あんまり話したくない話題だから少し苦笑する。

「律がいたら…良かったのに…」

ぐすっと涙を啜る音が聞こえると、私は弱い。
ぎゅっと抱き締めてやると長くて綺麗な髪を撫でる。




577 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:10:53.52 c3vDBZCaO 171/187


「悪かったって。忘れ物したから取りに行ってたんだよ」
「あんなに長い時間?」
「途中でさわちゃんに捕まったんだよ。ごめんな?」

…ほんとの事は聞かせない方、いいよな。
つい嘘をついてしまいながらも撫でる手を止めない。



578 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:11:51.48 c3vDBZCaO 172/187


…あーあ…なんで私、澪より身長小さいんだろう。
澪より大きかったら包んであげられるのに…
もっと守ってあげられるのに。
…私が、男だったら……なんて考えても仕方ないよな…
私は私なんだから。




579 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:12:32.10 c3vDBZCaO 173/187


「澪、でもお前気をつけろよー?」
「…?」
「…ったく…次からはステージで足引っ掛けて転んだりすんなよって言ってんの!」
「うっ…」

ぴしっと額にチョップを食らわすと小さくため息をつく。



580 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:13:27.14 c3vDBZCaO 174/187


片付けが終わってすぐに唯とムギが音楽室に入って来た。
…こいつら、まさか片付ける気がなかった?!
とかついつい思ってしまう。

4人揃ってお茶をしながらライブの話をする。…当然例の澪の事は誰も口にしないけど。




581 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:14:39.99 c3vDBZCaO 175/187


「あれー?りっちゃんこれなに?」
「えっ?うわ!ちょ、ま…っ!」

ポケットからはみ出していた写真を、私が止める前に唯が引っ張り出す。
…ああ、もう…
せっかく隠し通せると思ってたのに!私のばかー!いや、唯のばかやろーっ!




582 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/14(日) 00:15:56.18 c3vDBZCaO 176/187


「あー」
「あら」
「なっ…!」

反応はバラバラ。
勿論、みんな予想通りの反応だけど…
澪はその中でも完全に予想通りで、みるみる内にゆでだこの様に赤くなる。




628 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:31:06.28 iG+cMDZ0O 177/187


「なななな…っ!律!なんだよこれ!」
「あー…いや…ほら、ね?」

さっき嘘をついてしまったから、なかなか言い出せない。
それに、言った所で澪が納得するだなんて思わないし…




629 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:31:55.17 iG+cMDZ0O 178/187


「あ、やだ。そろそろ帰らないと…唯ちゃんも用事があるのよね?」
「ふぇ?私はべつ…」
「じゃあ二人とも、鍵よろしくね?」

寧ろ、居てくれた方が良かったのに…
とか思いながらも澪の方を向けないから対策を考える。
…どうしよ。



630 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:32:43.09 iG+cMDZ0O 179/187


正直に話すと、一度でも写真が出回った事に澪がショックを受けるかもしれないし…嘘ついたの、いいたくない…
でもこうなった以上話さないわけにいかないし…

「…その写真、律が撮ったの?」
「は…はぁ?私もステージにいたのに撮れるわけないだろ?」
「…そうだけどっ…じゃあ…誰が撮ったんだよ…」




631 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:34:38.08 iG+cMDZ0O 180/187


…なんか、浮気を問い詰められてる男ってこんな気分なのかな…
いや!私は浮気なんかしてない!澪一筋だしっ…
って、そういうハナシでもないんだよ…

「…わかったよ…話せばいいんだろ、話せばっ!話聞いてショックとかうけるなよな!」




632 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:36:14.44 iG+cMDZ0O 181/187


盛大にため息をつくと向き直る。

「…写真部から、その写真出回ってたんだよ」
「え…?」
「心配だったから先に学校に来て、澪が来る前に全部没収したりしてたんだよっ」
「えっ…ええっ…うぅ…」



633 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:37:51.33 iG+cMDZ0O 182/187


案の定、澪はショックと羞恥心に板挟みになっているのか、挙動不審だった。
そんな澪にため息が出る。

「り…律ぅ…」
「はぁ…ほんとにしっかりしてくれよな…」
「うぅ…」
「…好きなやつの恥ずかしい姿、他のやつに見せたい訳無いし、良い気分するわけ無いだろ!だから気をつけろって言ってんの!」



634 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 05:42:03.65 iG+cMDZ0O 183/187


……あー…言っちゃった。
自分の中に閉じ込めておこうと思っていた言葉を…全部口に出してしまった。
…澪のことになると、少し感情的になりすぎるのかも。

チラリと横目で澪を見るとどこか申し訳無さそうに私を見ていた。




635 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 06:03:40.70 iG+cMDZ0O 184/187


「ごめん…」
「い…いや、謝らなくていいって!私もごめんな…最初から本当のこと言わないで…」
「ううん…律は…私の為に黙っててくれたんだろ?ありがと…」
「澪…」




636 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 06:04:28.34 iG+cMDZ0O 185/187


あぁ…

そのはにかんだ顔に私は弱いから…

ぎゅっと抱き締めて

嫌な気持ちは全部忘れてしまおう




637 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 06:05:10.35 iG+cMDZ0O 186/187


「澪は…私のだからな…」
「ん。律こそ…私のものなんだからな…」


そう言ってキスを一つ。


独占欲なんて、ない方がおかしい。
だから澪は…ずっと私のもの。
離したりするもんか。




638 : 渚 ◆oqHXZs6q6. - 2009/06/15(月) 06:07:39.41 iG+cMDZ0O 187/187


だから、ずっと一番傍で澪を見ているよ。


…今回の写真は、こっそり額にでも飾って置こう。…なんてな。




end+


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