カイト「杉下さ~ん、ちょっと待って下さいよ~」
右京「おや、カイト君。君、若いのにもう音を上げますか」
カイト「そりゃ、こんなに違法の裏DVD抱えてたら、俺だって音を上げますよ。重いし」
右京「僕も条件は君と同じ筈なんですがねぇ」
カイト「逆に聞きたいですよ。杉下さんは何で息一つ切れないんですか?」
右京「さあ、何故でしょうねぇ」
カイト「あー、疲れた。少しだけ、ダンボールを地面に置いてもいいッスか?手疲れちゃって」
右京「仕方ありませんねぇ」
元スレ
杉下右京「未来ガジェット研究所・・・ですか」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1363292924/
カイト「ふう…。しかし、秋葉原もこの辺まで来ると昔の電気街って感じですね。オタクの街って感じがあんまりしないって言うか」
右京「長い歴史で見れば、秋葉原が今のように変わったのはごく最近ですからねぇ」
カイト「そこの電気屋なんてブラウン管のテレビ売ってますよ」
右京「今時、珍しいですねぇ…実に興味深い」
天王寺「おや?そちらさん興味あるかい?」
右京「ええ、非常に興味を抱いています。デジタルテレビが主流のこのご時世にこんなにブラウン管のテレビばかりとは」
天王寺「ハハハ、まあ趣味みたいなもんだな」
カイト「売れてるんですか?」
天王寺「ま、それなりにな」
カイト「へー」
???「フワーーーーハッハッハッハ!!!!」
カイト「!?な、何スか?」
天王寺「…ったく、またアイツか」
右京「アイツ…とは?」
天王寺「いえね、上の階を学生に格安で貸してやってるんですよ。きっとそいつです」
右京「なるほど…。それにしても、格安でビルの部屋をお貸しするとは…随分と気前がよろしいですねぇ」
天王寺「まあ、色々とね。…おい、静かにしやがれ!!声聞こえてんぞ!!」
???「フッ、ミスターブラウン。今、世界を揺るがす研究の一つが完成に至ろうとしているのだよ。高笑いの一つくらいでガタガタ言うのは…」
天王寺「追い出すぞてめえ!」
???「…ごめんなさい」
右京「未来ガジェット研究所…ですか。こちらが、先程の方がいる部屋なのでしょうか?」
カイト「あ、杉下さん。また勝手にポスト覗いたりしてる!」
天王寺「そう。ま、いつもの通り下らない発明でもしてんだろ」
右京「下らない発明…ですか。それはまた興味深い」
カイト「杉下さん。そろそろ行きますよ。このダンボール運ばないと」
右京「…そうでしたねぇ。僕としたことが!気になることがあるとついつい調べたくなる…僕の悪い癖」
カイト「本当ですよ。それじゃ、失礼します」
天王寺「今度はテレビ買って下さいよ~」
右京「ええ、その時が来ましたら」
カイト「ふぅ~、いや~やっと解放された~。角田課長も人遣い荒いよなあ」
右京「いいじゃありませんか。どうせ僕たち」
カイト「"暇です"しね」
右京「おやおや。…ところでカイト君」
カイト「?何ですか、杉下さん」
右京「気付きませんか?」
カイト「?何に?」
右京「妙に外国人が多いように思えます」
カイト「ん、でも秋葉原は外国人観光客多いですよ?」
右京「観光客が銃火器を所持していますかねぇ?」
カイト「え?」
右京「そこの外国人の腰をよく見て下さい。何やら重いものをぶら下げています」
カイト「本当だ…でも、銃火器じゃないかも知れないじゃないですか」
右京「もう一つ、歩き方です。彼らのそれは常人とは少し違います。強いて言えば…軍人の歩き方」
カイト「え!?」
右京「長年訓練された仕草というものは、どんなに隠していても見えてしまうものです。もっとも、彼らは隠そうとはしていないみたいですが」
カイト「彼ら…って複数人いるってことですか?」
右京「ええ。それも、恐らく今ここにいる外国人の殆どがそうだと言って過言ではないでしょう」
カイト「ええ!?」
カイト「仮に連中が銃火器を所持した軍人だとして…何するつもりなんでしょうか?」
右京「それはまだ僕にも分かりません」
カイト「街中でサバイバルゲーム…まさか、そんなわけないよなあ」
右京「…カイト君、行きましょう」
カイト「え?何処へ?」
右京「僕はもう1人、同じような歩き方をした人物を先程見ています」
カイト「それってまさか…」
右京「ええ、先程のブラウン管テレビの店です」
カイト「ハァ、ハァ…あれ?店閉まってますね。まあ、こんな時間だし仕方ないか」
右京「!カイト君、店の前にワゴンが停まっています」
カイト「本当だ。店のものかな?」
右京「配達用の車に特殊防弾処理が施されているのは明らかに不自然です」
カイト「え?」
右京「…!上ですか!!」
カイト「あ、確かに明かりが…」
右京「行きますよ、カイト君!!」
カイト「あ、杉下さん!」
カイト「(小声で)杉下さん」
右京「しっ」
???「ゴニョゴニョ」
カイト「中で何が…?」
右京「…どうやら、外国人が数名、中の人間を脅しているようですねぇ」
カイト「え!?」
右京「しかも、銃を構えてるようです。それも明らかに機関銃クラスのものですねぇ」
カイト「な、中で一体何が…」
???「そこで何やってるの?」
右京・カイト「!!」
右京「君は…」
カイト「女の子…?」
女の子「あなたたちは何者?あなたたちも連中の仲間?」
右京「僕はこういう者です」
カイト「同じく」
女の子「えっと、確かそれって警察手帳…だっけ?」
右京「警視庁特命係の杉下と申します」
カイト「同じく甲斐」
女の子「私は阿万音鈴羽」
鈴羽「早く助けに行かないと…」
カイト「無茶だ。相手は銃を持っている。それに君は…」
鈴羽「でも私が行かないと…」
右京「阿万音さん。ここは一つ冷静に。確かにあなたは女性にしてはかなり鍛えているようですが、このまま飛び込んでも中の人たちを助けることは困難でしょう」
鈴羽「…あなたたちは何も知らない。今助けないと、未来が…」
右京「阿万音さん!!」
鈴羽「!!」ビクッ
右京「…事情はよく知りませんが、中の人たちを助けたいというあなたの気持ちは分かりました。でしたら、機を待ちましょう」
カイト「…大丈夫、この人は根拠も無しに適当なことを言う人じゃないから」
鈴羽「…分かった」
右京「取り合えず、課長に連絡を」
カイト「はい」
鈴羽「父さん…」
バーーーーン
右京・カイト・鈴羽「!?」
鈴羽「まさか…」
右京「いえ、これは恐らく威嚇射撃でしょう。床に着弾したような音がしました。しかし、予断は許さない状況になったようです!」
カイト「どうするんです杉下さん!?」
鈴羽「やっぱり私が!!」
カイト「ちょ、ちょっと」
右京「!阿万音さん、その手に持ってるのはもしや発煙手榴弾では?」
鈴羽「これで相手の目を眩ませれば…」
右京「いえ、それでは却って危険かも知れません」
鈴羽「何で!?」
右京「見えないことに錯乱した相手がところ構わず銃を乱射する可能性があります。そうなれば、中の人たちは全員無事とはいかないでしょう」
鈴羽「じゃあ、どうすれば!!」
右京「仕方ありません」
カイト「杉下さん!?」
コンコン
右京「失礼します。ピザのお届けに参りました」
カイト「ちょっと杉下さん!?」
???「ソンナモントッテネーヨ!」
右京「おやおや、それはおかしいですねぇ。住所はここで間違いないのですが…」
???「トットト、モッテ、カエレ!!」
右京「持って帰れと言われましても…申し訳ないのですが、日本ではピザをそのまま持って帰ることが出来ないんですよ」
鈴羽「…そうなの?」
カイト「嘘だよ。そんなルールは無い」
???「シツケーゾ!!」
ガチャ
???「………………」
右京「ああ、やはり外国人の方でしたか。申し訳ありません。日本独自のルールでして…」
???「スーツノピザヤナンカ、イルワケネエ!!」
???「ナニモノダテメエ!?」
右京「おやおや、日本ではスーツを着るのが仕来りなのですよ。知りませんでしたか?」
鈴羽「この人は何やってるの?」
カイト「恐らく時間稼ぎ…だと思うけど。もう限界かな?」
角田「おいおい、何だ何だ?いきなり呼び出して…こちとら裏DVD運んでる最中だったんだぞ?」
大木「本当ですよ」
小松「……」コクッ
カイト「角田課長!」
右京「……」チラッ
角田「ん?…おい、あいつら銃火器持ってんぞ!!」
???「チッ!」
角田「現行犯逮捕だ!!」
角田「確保しろ!!」
大木・小松「ハイ!!」
???「チッ、クソオオオオオ」
カイト「いけない!あいつ、銃を…」
???「まゆり!!」
まゆりと呼ばれた少女「!!」
右京「危ない!!」
バーーーーーーン
???「ま、まゆり!!!」
まゆり「お、オカリン…」
???「無事で…良かった」
カイト「杉下さん!!」
右京「うっ……」
角田「おい、早く救急車呼べ!!」
右京「………………」
カイト「杉下さあああああああん!!!!」
右京「………………」
右京「…ここは?」
???「あの日、あの時間。椎名まゆりは死ぬ筈だった」
右京「はい?」
???「だが、死ななかった。何故だ?」
右京「申し訳ございませんが、仰る意味が少し分かりかねます」
???「この世界線での椎名まゆりの死は確定していた。それは変えることの出来ない絶対的なルール。なのに何故…」
右京「僕には、あなたの言葉から推測することしか出来ないのですが…」
右京「椎名まゆりさんとは、僕が庇ったあの女性のことでしょうか?」
???「そうだ」
右京「彼女はあの日あの時刻、死ぬ運命にあった」
???「そうだ」
右京「そして、それは変えることの出来ないルール」
???「そうだ!!!」
右京「果たしてそうでしょうか?」
???「何!?」
右京「現に彼女は生きているのでしょう?」
???「だから聞いている!!何故、ルールが変わった!?」
右京「さて…残念ですが僕には分かりません。ただ一つ言えるとすれば…」
???「言えるとすれば…?」
右京「何をどうしても変わらない運命など、つまらないじゃありませんか」
「…さん」
右京「…ん」
カイト「杉下さん!!良かった、目が覚めて!!」
右京「カイト君…ここは、病院でしょうか?」
角田「そうだよ。オタクもしぶといねえ」
米沢「警部殿が撃たれたと聞いて、飛んで駆けつけました」
伊丹「ったく、その米沢を追って来ちゃいましたよ」
三浦「おい、米沢!仕事放って来るんじゃねえよ!」
米沢「これは返す言葉もございません…」
芹沢「カイトも大変だったな」
カイト「本当ですよ」
右京「…皆さんにご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません」
伊丹「じゃ、我々は帰ります。行くぞ、米沢」
米沢「ハッ」
三浦「失礼」
芹沢「では」
右京「…そう言えば僕が庇った女性は?確か、椎名まゆりさん…でしたか」
カイト「ああ、彼女なら無事ですよ。あの後気絶しちゃいましたけど」
角田「おお、アンタの血がびっちゃり飛び散って、まるで銃で撃たれたみたいになってたな」
右京「そう…でしたか」
カイト「あれ?杉下さん、彼女の名前、何時どうやって知ったんです?」
右京「さて、何時何処でしょうかねぇ」
角田「しかし、連中何者だったんだろうな?」
カイト「取調べでも何も言わないですもんね」
角田「武装した外国人なんて明らかにただものじゃねえってのになあ」
コンコン
???「失礼します」
右京「はい、よろしいですよ」
ガチャ
???「あなたがまゆりを庇ってくれた…」
右京「君…その声は確か」
???「俺は鳳凰院…いえ、岡部倫太郎と言います」
カイト「あー、その声。確か、あの時高笑いして怒られてた」
岡部「あの時にいたんですか?」
カイト「偶然ね」
岡部「そうですか」
右京「………………」
カイト「?どうしたんですか、杉下さん。彼の顔じっと見て」
右京「君、何処かで会いませんでしたか?」
岡部「え?いや、多分初対面だと思いますけど」
カイト「あれじゃないですか?突入の時に顔を見たとか。ほら、現場に彼いましたし」
右京「…それだけでしょうかねぇ」
岡部「?」
???「…………」
伊丹「おい、何とか言ったらどうなんだ!?」
三浦「あの外国人連中との繋がりはなんだ!?」
芹沢「どっかの女怪盗みたいな格好して…いくら秋葉原だからってその格好はちょっとやりすぎでしょ~」
???「FB…」
伊丹「ああん?」
萌郁「…………!!」
三浦「おい!!」
伊丹「くっ、この女、舌噛みやがった!!おい、救急車!!」
芹沢「ハイ!!」
カイト「…結局、あの事件、何も分からないままでしたね」
右京「ええ、捕まえた外国人たちは未だ黙秘を続け、首謀者と思われる女性は取調べ中に自殺してしまいました」
カイト「何か掴みどころのない事件でしたよね。ところで、彼らは?」
右京「ええ、岡部君たちはあのビルを引き払い、それぞれ実家へ戻ったそうですよ」
カイト「まあ、あそこにはもう二度と住めないだろうなあ」
右京「あの時、一緒に居た阿万音鈴羽さんの行方も分からなくなりました」
カイト「彼女、何者なんでしょうねえ?煙幕手榴弾なんか持ってて、彼女もただものじゃないですよ」
右京「ええ、不可解なことばかりを残してこの事件は終息を迎えようとしています」
カイト「それにしても、杉下さん回復力もパないですね。撃たれてそんなに経ってないのにもう退院ですか」
右京「出血こそ多かったですが、急所は外れていたようです。それに撃たれたのは初めてではないもので」
カイト「マジっすか!?まあ、杉下さんなら撃たれても不思議じゃないけど」
右京「君、それどういう意味です?」
カイト「いやいや、別に悪い意味じゃないですよ」
右京「悪い意味ではない、と付ければ何を言ってもいいってわけでは無いのですよ、カイト君」
カイト「あー、ホントすいません!」
角田「暇か?」
カイト「あ、課長」
角田「お、元気そうじゃん!」
右京「ええ、おかげさまで。まだ少し痛みますが、業務に支障はありません」
角田「なら手伝ってよ。この間の裏DVD。中身を確認しないといけなくてさ」
カイト「え?まさか俺たちが…」
角田「暇なんだろ?」
右京「ええ、よろこんでお受けいたします」
カイト「は~、あ~あ…」
完