魔王「人間どもと和解して世界は平和になった……」
魔王「というわけで、お前たち夫婦、ワシの家で暮らさんか?」
息子「いいけど……あの城で?」
魔王「いや、もう権勢を振るう時代でもないし、魔王城は取り壊した」
魔王「今度、新しく家を建てる予定なのだが、そこで三世代同居というのはどうだ?」
息子「どうする?」
嫁「私はかまわないわよ」
息子「じゃあ子供も連れてオヤジと一緒に暮らすよ」
魔王「本当か! ならばさっそく工事に取りかかろう!」
元スレ
魔王「世界も平和になったしマイホームを建てて息子夫婦と暮らすことにした」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1553856670/
魔王「この設計図の通り、家を建ててくれ。金はいくらかかってもかまわん」
建築家「分かりました、拝見します」
建築家「……」
建築家「えーと、本当にご家族で住むんですよね? この家に」
魔王「その通りだが?」
建築家(ま、いいか。後で揉めても面倒だし、設計図の通り作ろう……)
魔王「おーい、家ができたぞ!」
孫「おじいちゃーん!」
魔王「おお、よしよし」
息子「ついに出来たんだ」
嫁「さっそく引っ越しましょうか」
魔王「ワシ自ら設計した自信作だ! 四人で仲良く暮らそうではないか!」
孫「どんな家か楽しみー!」
ズゥゥゥゥゥン…
魔王「ここだ」
息子「う……」
嫁「……!」
孫「わーっ、かっこいい! ドクロだ! 屋根にはツノ生えてる!」
息子「オヤジ……なんだよこのおどろおどろしいデザインは」
魔王「そりゃあ、魔王の家なんだから、こういうデザインでないとな」
バサバサッ バサバサッ
孫「すっげー! コウモリ飛んでる!」キャッキャッ
息子「わざわざどっかから持ってきたのか……」
嫁「まあいいじゃない、あの子は喜んでるし」
息子「早くも嫌な予感がしてきた……」
魔王「さ、入ってくれ」
息子「!」
チャララ~♪ チャラリララ~♪ デロデロデロデロデロ~♪ デレレレレレ…♪
息子「な、なんだこのやたら荘厳なBGMは!?」
魔王「魔王の家なんだから、こういう音楽がかかってなくてはな」
魔王「有名な作曲家に依頼したんだぞ」
息子「落ち着かないよ、これ……」
魔王「家の中を案内しよう」
息子(どこもかしこも不気味なデザインだ)
嫁「いくつも部屋がありますね」
孫「すげー! すげー!」
魔王「なにしろ魔王の家なのでな」
息子「こんなに部屋があったって、掃除が大変になるだけ……」
カチッ
息子「ん? なんか踏んだ……」
グオオオオオッ
息子「おわっ!?」ババッ
――ズシィンッ!
息子「なんだこりゃ!? トゲ天井が降ってきた!」
孫「わーっ、すごいや!」
魔王「ふふふ、これもおじいちゃんの設計なのだ」
息子「俺、押し潰されるとこだったんですけど」
嫁「こっちは壁が押し潰してきたわ……!」グググッ…
息子「わーっ! 妻が大ピンチ!」
嫁「ふんっ!」グイイイッ
孫「お母さんすげー! 力ずくで壁を押し返した!」
魔王「ほう、さすがワシの息子が嫁にしただけのことはある」
息子「そりゃ下手すりゃ俺より強いし……」
パカッ
息子「うおっと、こっちには溶岩の落とし穴が!」
グツグツ…
息子「オヤジィ!」
魔王「ん?」
息子「なんだこの家、罠だらけじゃねーか!!!」
魔王「だって魔王の家だぞ? 罠の一つや二つ設置しておかねばな」
魔王「いつ勇者が攻めてくるかもしれんし……」
息子「勇者とは和解したっていったじゃねーか!」
魔王「和解とは破られるためにある」
息子「そんなことないから!」
息子「ったくこれじゃおちおち家の中を歩けない……」カチッ
ヒュバババババッ
息子「今度は矢がいっぱい飛んできたぁ!」
嫁「あら? この扉開かないわ」ガチャガチャ
魔王「ああ、その扉は向こうにあるスイッチを押さねば開かない仕組みになっておる」
嫁「あ、そうなんですか。さすがお義父さん、仕掛けが凝ってらっしゃる」
魔王「むふふ、そうだろうそうだろう」
孫「宝箱がいっぱいあるー!」
魔王「なにしろ魔王の家だからなぁ。最強の武器も置いてあるから探してみるといい」
孫「うんっ!」
息子「そういやオヤジは現役の頃、わざわざ勇者のために最強の剣を城に置いてたらしいな……」
嫁「ご飯できたわよー」
孫「わぁーい! キングピラニアの丸焼きだ! ぼくの大好物!」
嫁「コラ、おじいちゃんが来てから食べなさい」
孫「早く食べたーい」
息子「俺が呼んでくるよ」
嫁「悪いわね」
息子「オヤジの部屋は……この上か」
スタスタ…
息子「長いな……」
スタスタスタ…
息子「何段あるんだ!? この階段!?」
スタスタスタスタスタスタスタ…
息子「ハァ、ハァ、ハァ……」
息子「オヤジィ……飯……」
魔王「おお、もうそんな時間か」
息子「てか、なんなんだよ、この無駄に長い階段は!?」
魔王「魔王の部屋の前では、無駄に長い通路や階段があるのがお約束であろう?」
息子「こんなの昇り降りするの大変だろ……」
魔王「分かっとらんな。大変だからこそ、最終決戦が盛り上がるのではないか」
息子「お、地下室もあるんだ。酒を保存するのにいいかも」
孫「探検できそう!」
息子「なんだこれ? 地下牢……?」
人間「うう……助けて……」
息子「に、人間!?」
孫「わっ、生で見るのはじめてー!」
息子「どうして……。魔族と人間は和解したはずなのに……」
息子(やはりオヤジはまだ人間に憎しみを……?)
人間「あ、自分バイトっす」
息子「バイト!?」
人間「雰囲気出るから、週五日、9時から5時までこの地下牢にいてくれって雇われまして」
息子「うちのオヤジが迷惑をおかけしまして……」
人間「とんでもない! わりと快適な牢屋ですし、日給10000ゴールドもらってますし!」
息子「結構高給ですね! 俺がやりたいくらいだ!」
孫「お父さーん! 今日やっと家の罠、全部ノーダメージで回避したよー!」
息子「いつの間にかたくましくなって……」
息子「ごめんな、こんな家に住むことになってしまって……」
嫁「ううん、あの子は前より生き生きしてるし、私も結構楽しんでるし」
息子「……」
嫁「それに、あなたもホッとしてるでしょ?」
息子「なにに?」
嫁「お義父さんがまだまだ元気でらっしゃるから」
息子「……ああ、そうだな」
息子「人間と和解してから、オヤジはすっかり老け込んじまったから」
息子「こんなぶっ飛んだ家を建てる気力ぐらいはあるんだって知って安心したよ」
息子「昔のオヤジは本当にすごかったからなぁ……」
息子「お袋が若くして亡くなったから、男手一つで俺を育てつつ」
息子「荒くれだらけの魔族をまとめて、魔族を差別する人間とも堂々と戦ってさ……」
息子「ついに平和を掴み取ったんだから……。実の子として誇らしかったよ」
嫁「だから今まで頑張った分、せめてお義父さんの好きなようにさせてあげましょうよ」
息子「ありがとう……」
……
魔王「……」
息子「オヤジ」
魔王「……」
息子「オヤジーッ!」
魔王「おお、お前か。気づかなかった」
息子「……」
息子(とはいえ、流石のオヤジも寄る年波には勝てないよなぁ……)
ある日――
魔王「……」
魔王(ワシもすっかり衰えた……)
魔王(顔はしわだらけ、絶大な魔力は失われ、老眼になり、物忘れも激しくなってきた……)
魔王(勇者たちと幾度も戦ったあの日々が懐かしい……)
「やい、魔王! 正義の勇者が成敗してくれる!」
魔王「!?」
魔王(勇者!?)バッ
魔王「……!」
孫「いざ勝負だ、魔王!」
嫁「私は戦士よ!」
息子「なんで俺が僧侶かなぁ……まあいいけど」
孫「さあ、行くぞーっ!」
魔王「……」ホロリ
魔王「来い……勇者ども! まとめて地獄に送ってくれるわ!」
魔王「……ハァ、ハァ、ハァ」
孫「おじいちゃん、つよーい!」
嫁「ええ、ビックリしました。私も上級魔族なのに……」
息子「まだまだ魔王としてもやっていけそうじゃんか」
魔王「いやいや、本気でかかられたらもうお前たち一人一人にもかなわんよ」
息子「オヤジ、まだまだ元気でいてくれよな」
魔王「分かっておる! なんたってワシは魔王だからな!」
魔王「フハハハハハハ……!」
ハッハッハッハッハ……
……
…………
魔王「……」
医者「皆さん、どうかお声をかけてあげて下さい」
息子「オヤジ!」
嫁「お義父さん!」
孫「おじいちゃーん!」
魔王「……う」
息子「オヤジ!!!」
魔王「み、んな……」
息子「……!」
魔王「これで勝った、と思うな……」
魔王「ワシは必ずよみがえり、次こそお前たちを滅ぼすであろう……」
魔王「だから、達者でな……」
魔王「……」
孫「おじいちゃぁぁぁぁぁん!!!」
嫁「ご立派だったわ……」
息子(オヤジ……最後まで魔王らしかったぜ……)
ゴゴゴゴゴ…
息子「――ん?」
孫「なんだこれー?」
嫁「地震かしら?」
息子「いや、これは……この家だけ揺れているような……」
ゴゴゴゴゴゴゴ…
息子「――まさか!」
息子「みんな、逃げるぞっ!!!」
医者「ふぅ~、ビックリしました」
人間「助けて下さってありがとうございます」
嫁「いえいえ」
孫「おうちが跡形もなく崩れちゃったー! わーっ、すっげー!」
嫁「あなた、お義父さんのご遺体は?」
息子「ちゃんと運んであるよ」
息子「どうやらこの家、オヤジが死んだら崩壊するように設計してたらしいな」
息子「まったく……最後の最後まで魔王(オヤジ)らしいや……」
おわり