1 : 以下、?... - 2019/03/07 00:26:08.430 cRU5rXKb0 1/26

「えー、実家暮らししてんの!?」

「そうだけど、なにか?」

「今時、実在する家で暮らしてるなんて信じらんない!」

「くっ……!」

「やっぱり、今の流行は“虚家暮らし”でしょー!」

「虚家?」

「実の反対は≪虚≫でしょ? だから虚家」

「そうだ、よかったら今日うちくる?」

「うん……」

元スレ
女「今時実家暮らしだなんて信じらんない!」男「くっ……!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1551885968/

2 : 以下、?... - 2019/03/07 00:30:04.309 cRU5rXKb0 2/26

「ここが私の家よ」

「……!?」

「なにもない……ただの更地じゃん!」

「あわてないあわてない、今から家を生み出すんだってば」

「実在しない……虚の家をね」

「虚の家……?」

「むむむ……」

3 : 以下、?... - 2019/03/07 00:33:11.861 cRU5rXKb0 3/26

モワモワモワ…

「え!?」

モワモワモワモワモワ…

「みるみるうちにメルヘンチックな家が……!」

ボワンッ

「よし、できた!」

「!!??」

「さ、入って!」

「お邪魔します……」

5 : 以下、?... - 2019/03/07 00:36:01.282 cRU5rXKb0 4/26

「うわっ、広い!」

「玄関だけで東京ドームぐらいの広さがありそう!」

「外観はそこまで広くなかったのに、どうしてこんなに……!?」

「なんたって虚だからね~、何でもありなの」

「へえ~……虚ってすごいなぁ」

6 : 以下、?... - 2019/03/07 00:38:18.494 cRU5rXKb0 5/26

「テレビでも見る?」

「うん」

「こっちの部屋よ」

「うわっ、まるで映画館のスクリーンじゃないか!」

「そ、こんな大画面でテレビを楽しめるの」

「実家だったらこうはいかないでしょ?」

「うん、俺んちにあるのは小さな液晶テレビだけだもん」

7 : 以下、?... - 2019/03/07 00:40:17.603 cRU5rXKb0 6/26

「冷蔵庫もこの通り!」

「まるで業務用冷蔵庫だ!」

「中にはお茶にジュース、ビール……なんでもいくらでもあるわよ」

「なにしろ虚だから!」

「すげー……」

8 : 以下、?... - 2019/03/07 00:43:53.194 cRU5rXKb0 7/26

「プールもあるし……」バシャバシャ

「ジムもあるし」グッグッ

「可愛いペットだって生み出せるんだから!」

虚犬「ワン、ワン!」

「どう、虚家ってすごいでしょ?」

「うん、これじゃ実家暮らしがバカにされるのも無理ないや」

「実在の家じゃ面積もやれることも限られてるからねー」

「さっそく俺も虚家を建ててみるよ!」

10 : 以下、?... - 2019/03/07 00:46:19.722 cRU5rXKb0 8/26

「俺の家には小さな庭があるから……ここに建ててみよう」

「むむむ……」

モワモワモワ…

モワモワモワモワモワ…

ボワンッ

「できたぞ、俺の虚家!」

12 : 以下、?... - 2019/03/07 00:48:43.732 cRU5rXKb0 9/26

「ここからどんどんカスタマイズしていこう」

(部屋は100部屋くらい……)

(屋上にはビアガーデン……)

(ベッドはキングサイズ……)

(廊下にはギリシャ彫刻を大量に……)

(エッチなお姉さんも……)

モワモワモワモワモワ…

「すごい、どんどん出来上がっていくぞ! 俺の理想の家が!」

13 : 以下、?... - 2019/03/07 00:51:18.315 cRU5rXKb0 10/26

「フカフカのソファに寝そべりながら、絵画を愛でつつ、大音量でクラシックを聴く!」

「最高だぁ~!」

「ご飯だって念じればすぐ出てくる!」

「しかも虚だから、どんな高級料理だって思うがままだ!」

「一度でいいから、こんだけイクラを乗せたイクラ丼を食ってみたかったんだ!」

「いただきまーす!」

ガツガツ ムシャムシャ

15 : 以下、?... - 2019/03/07 00:55:08.667 cRU5rXKb0 11/26

「おはよう!」

「おはよう、俺もさっそく虚家を建ててみたよ」

「どうだった?」

「最高だよ! 一度虚家を知ったら、もう実家暮らしはできないね!」

「一応家は残しておくけど、多分もう使うことはないと思うよ」

「だよねー!」

16 : 以下、?... - 2019/03/07 00:57:30.207 cRU5rXKb0 12/26

ワイワイ… ガヤガヤ…

「家に地下室を作って丸ごとワインセラーにしたよ」

「俺なんて野球場作ったぜ!」

「僕の家は自然で一杯なんだ! 絶滅動物も一杯いて……」



「みんな、虚家暮らしを満喫してるみたいだな」

「そりゃそうよ。今や実の家――実家に住むメリットなんて全くないもの」

17 : 以下、?... - 2019/03/07 01:00:30.776 cRU5rXKb0 13/26

……

「キョキョキョ……」

「≪実≫の世界の奴らどもめ、まんまと罠にかかりやがった」

「虚構の家が流行したおかげで、≪虚≫である私が侵攻しやすくなった!」

「ついに、≪虚≫が≪実≫を飲み込む時がきたのだ!」

……

19 : 以下、?... - 2019/03/07 01:02:32.587 cRU5rXKb0 14/26

ズズズズズ…

「なんだなんだ?」

「空がどんどん無色になってくぞ!」

「どうなってんの!?」

「うわっ、俺の体も消え始めた!」

「助けてぇぇぇぇぇ!!!」

ズズズズズズズズ…

20 : 以下、?... - 2019/03/07 01:05:12.198 cRU5rXKb0 15/26

TV『緊急速報です!』

TV『現在、≪虚≫が我々の世界を急速に飲み込みつつあります!』

TV『対抗するには、私たち自身が“自分は実在する”と強く心を持つしかありません!』

TV『でないと、世界は丸ごと虚になってしまいます!』

TV『うああああ……! 私の体も……!』

23 : 以下、?... - 2019/03/07 01:07:38.067 cRU5rXKb0 16/26

「キョーキョキョキョ、無駄だ!」

「虚に浸りきり、脆弱化したお前たちの心では、私を阻止することなどできん!」

「この世の全てを≪虚≫にしてくれるわぁっ!」



ズズズズズズズズズズズ………

25 : 以下、?... - 2019/03/07 01:10:40.307 cRU5rXKb0 17/26

「みんなを捜したけど、どうやら俺たちが最後の生き残りのようだ……」

「ってことはみんな、虚に飲まれちゃったの!?」

「そうらしい……」

「そんな……!」

ズズズズズ…

「まずい! 虚がこっちにも来た! 逃げよう!」

26 : 以下、?... - 2019/03/07 01:13:18.382 cRU5rXKb0 18/26

ズズズズズ…

「くっ、追いつかれる!」

「もうダメよ、私たちも飲まれちゃうんだわ!」

「……あそこにあるのは」

「俺の実家!?」

「よし、あそこに逃げ込もう!」

「分かった!」

タタタタタッ

27 : 以下、?... - 2019/03/07 01:17:50.122 cRU5rXKb0 19/26

「ほう……≪実≫の家に逃げ込んだか」

「だが、この程度の家! すぐに飲み込んでやるわ!」

「お前たち二人を飲み込めば、世界は虚一色となるのだ!」

「キョーキョキョキョキョ!」

ズズズズズズズズ…

28 : 以下、?... - 2019/03/07 01:19:44.870 cRU5rXKb0 20/26

「ダメだ、俺の家も飲み込まれていく!」

「周囲が見えなくなってきた! ここまでか……!」

ギュッ…

「!?」

(これは……彼女の手!? こんな状況でも俺の手を握ってくれたんだ!)

(この手の温かさ……これは断じて≪虚≫なんかじゃない! ≪実≫だ!)

29 : 以下、?... - 2019/03/07 01:22:50.793 cRU5rXKb0 21/26

「俺たちは≪実≫なんだァ!!!」

「そう、私たちは≪実≫なの!!!」

「キョッ!?」

「バカな……この状況にあってこれほど心を強く保てるだとォ!?」

「こいつら……一体!?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

31 : 以下、?... - 2019/03/07 01:26:45.532 cRU5rXKb0 22/26

「俺たちの愛は!」

「私たちの愛は!」

「≪真実≫!!!」

「虚なんかに負けない!!!」パァァァァァ

「ぐっ、ぐおおおおおっ!」

「バカな……これが≪実≫の力だというのか……!」

「私などが太刀打ちできるわけがない……!」シュゥゥゥゥゥ…

32 : 以下、?... - 2019/03/07 01:28:58.203 cRU5rXKb0 23/26

「や、やった……!」

「虚が力を失って、なにもかも元に戻ったわ!」

「よかった……しかし、やはり人間は虚に頼ってはいけなかったんだな」

「ええ、幻なんかじゃなく地に足をつけてこそ人間なのよ!」

「よかったら、これからは俺の実家で暮らさないか?」

「うん!」

33 : 以下、?... - 2019/03/07 01:31:26.316 cRU5rXKb0 24/26

「おや、あそこにいるのは……」

「うう……」

「虚じゃない! すっかり縮んじゃって……まるでネズミだわ」

「お前達の真実の愛をもろに浴びて、こんなになってしまったのだ……」

「よくも世界を飲み込もうとしたわね! トドメを刺してやる!」

「ひっ!」

「ちょっと待った」

35 : 以下、?... - 2019/03/07 01:35:09.884 cRU5rXKb0 25/26

「こいつが生き物なのか分からないけど、むやみに命を奪うのはよくないよ」

「俺たちにも、虚に浸りきったって落ち度があるんだからな」

「うーん、確かに」

「虚、世界を飲み込もうとしたことをちゃんと反省するんだったら、命は助けてやる」

「なんだったら、俺の実家に住まわせてもいい」

「本当か!? ありがたい……」

「まったく甘いんだから……だけどそこに惚れたんだけどね」

36 : 以下、?... - 2019/03/07 01:38:17.391 cRU5rXKb0 26/26

数年後――

子供「ワーイワーイ!」ドタバタ

「コラァ、こんな狭い家で暴れるんじゃないの! 壊れちゃうでしょ!」

「おい、狭い家とはなんだ! 俺の昔からの家に向かって!」

「狭いから狭いっていってるんじゃない! いい加減増築しましょうよ!」

「俺の収入でそんなことできるわけないだろ!」

「まったく甲斐性がないんだから! あーあ、虚家が恋しいわ」

「なんだとォ!? 俺だってお前には言いたいことが……!」

ギャーギャーワーワー


「あーあ、まーた喧嘩してやがる。夫婦喧嘩は虚も食えねえや」

「≪現実≫ってのは厳しいねえ」





おわり

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