1 : 以下、?... - 2019/02/14 01:34:28.051 vVYCy8xl0 1/67

女騎士「起きろと言っている」

勇者「ん~。……もう少し」

女騎士「いいかげんにしろ馬鹿者。早く脱出しないと洞窟が崩れるぞ」

勇者「んあ? ん~。……ゔぇ!?」

女騎士「ようやくお目覚めか」

元スレ
女騎士「起きろ。勇者」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1550075668/

2 : 以下、?... - 2019/02/14 01:35:27.418 vVYCy8xl0 2/67

勇者「だっ、誰ですか貴女!? こ、ここはどこ!?」

女騎士「『私は誰?』は勘弁してくれよ。私は……まあこんなナリだ。女騎士とでも言っておこう」

勇者「は、はあ。えっと……」

女騎士「ここは勇者の霊廟だ。お前はここで、ざっと1000年ほど眠りこけていた。」

勇者「……。は? せ、1000年? ……なにをバカな。僕は魔王を倒したんですよ!」

女騎士「そのあとどうした」

勇者「えっ、それで…………それで……あれ?」

女騎士「瀕死の魔王から最後に魔法を喰らったのを憶えているか?」

勇者「……あ」

3 : 以下、?... - 2019/02/14 01:37:21.119 vVYCy8xl0 3/67

女騎士「憶えているようだな」

勇者「ぼ、僕はーー」

女騎士「お前は勝鬨を上げる間も無く昏睡。死んだと思って仲間は大泣き。後ろ髪を引かれる思いで、お前をここに安置した」

勇者「そっ……なんでそんなこと貴女に分かるんですっ!?」

女騎士「そこの岩壁にそういう碑文が刻んである」

勇者「……。本当だ。『ーー誰も彼を連れて帰る力無く、弔うだけの時もなく。早く島を離れなければーー』これ……剣士の字だ」

6 : 以下、?... - 2019/02/14 01:40:41.464 vVYCy8xl0 4/67

女騎士「そのあと何十年も経って、本土からの入植者がこの島に入ってきた。彼らは綺麗なままのおまえの死体に驚き、この洞窟を飾り付けて霊廟としたわけだ。
いま入っている豪勢な棺は、300年前に島民が寄付を募って用意したものだそうだぞ。……まあ、結果死んでいなかったわけだが」

勇者「じゃ、じゃあ本当に……」

8 : 以下、?... - 2019/02/14 01:41:44.902 vVYCy8xl0 5/67

女騎士「1000年弱経っている。かつて魔王が居を構えたこの島も、いまはサン・ヴェルニー島だ。1000年越しで恐縮だが、魔王討伐おめでとう」

勇者「ヴ、ヴェルニーって僕の……。それに"サン"てーー」

女騎士「あれだけの功績だ。おまけに遺体が腐らないときた。当然列聖されている。だがまぁ生きているんなら、一旦取り消しだな。ははは」

勇者「わ、笑いごとじゃーー」

『……~い。隊長~。おーい』

女騎士「……む、どうやら時間をかけ過ぎたようだ」

9 : 以下、?... - 2019/02/14 01:44:43.658 vVYCy8xl0 6/67

オーク「おーい。あっ! いた! なにやってんですか隊長。さっさと行きますよ! ってーー」

勇者「魔物っ!」

オーク「し、死体が喋ったぁ! マジだったのかよあの婆さん! 黒魔術でもやってやがったのか!」

勇者「女騎士さん! なにをしているんです! 貴女も騎士でしょう!? 早くそいつを倒して!」

オーク「な、なんだこいつ!? いまどき人種差別か!? 出るとこ出るか? あん?」

勇者「な、なにをーー」

女騎士「落ち着け二人とも。軍曹、こいつは1000年前の人間だ。ちぐはぐな発言は容赦してやれ。ーーそれと勇者、今はこういう時代だ。部下への侮辱は控えて貰おう」

勇者「オ、オークが部下……」

女騎士「話は後だ。まず脱出する。地震で構造に限界がきているらしい。ーーほら、生きているならさっさと棺から出ろ」

勇者「は、はい」

10 : 以下、?... - 2019/02/14 01:46:58.106 vVYCy8xl0 7/67

ーー洞窟の外。

勇者「の、のどかな花畑……。これが魔王の城があった島?」

女騎士「軍曹、入り口に立ち入り禁止の看板を」

オーク「あい」

勇者「あ、あの、ここ本当に、魔王の島ですか?」

女騎士「本当だ。今は一つの港町と、2つの農村、3つの漁村がある」

勇者「信じられない……」

女騎士「そうか? 植生など大して変わっていないはずだが。まあいい。さっきも言った通り、大きな地震があってな。この風景ではピンとこないだろうが、町も大きな被害を受けた。お前が目覚めたのもそのせいだろう」

勇者「……そうなんですか。起きれたのはいいですけど、素直に喜べません……」

11 : 以下、?... - 2019/02/14 01:49:07.668 vVYCy8xl0 8/67

女騎士「ま、お前が悪い訳じゃない。気に病むな。地震が起きたのは昨日の朝だ。私の部隊も総出で人命救助にあたっていた。
それがひと段落したとき、霊廟の掃除が日課の老婦人が、『聖ヴェルニーが鼻の頭を掻いた』と駐屯地に飛び込んできてな。……頭がイカれたのかと思ったが、どうも違うらしい。それで崩落の危険もあったんだが、私がお前を起こしに行ったわけだ」

オーク「ったくあの婆さん、危ないから中には入るなって言ったのに」

勇者「な、なるほど。わざわざありがとうございます。……あと、聖ヴェルニーは恥ずかしいんでやめて下さい」

女騎士「はは、そうだな。だがお前の伝説のおかげで、この島は今でも我がガリア領だ。周りの島はほとんどアルビオン領だが、この島のおかげで漁業権が対等なんだぞ。漁民はみんな感謝している」

勇者「そ、そんなつもりで頑張ったわけじゃ無いんですけど。……でもガリアか。……懐かしいな。旅立ったのは3年前のはずだったのに。いつの間にか1000年前か……。もうみんな……」

女騎士「死んでいる。とっくにな」

オーク「隊長、可愛そうでしょうが」

12 : 以下、?... - 2019/02/14 01:52:25.896 vVYCy8xl0 9/67

女騎士「事実だ。しかしお前のおかげで、子孫たちは元気に生きている。私もその一人だぞ」

勇者「女騎士さん……。うっ、うっ……」

女騎士「なんだ涙もろい。伝承のとおりか」

オーク「……ん? 馬が来る。三頭。……あいつらですよ。隊長」

衛兵隊長「総督。連隊長がいます」

総督「ああ。ーーやあ少佐、無事だったかね」

女騎士「は。……彼はこの通り」

総督「それはそれは。……馬上から失礼、勇者様。貴方が勝ち得たこの島の総督をやっています。お会いできてーーいや、お話できて光栄だ」

勇者「別に……島のためでは」

総督「では私はこれで。忙しいもので。少佐、洞窟は危険だ。以後、絶対に人を入れないように」

女騎士「……は」

総督「ではまた」

勇者(立派な馬だ。きっと手間暇かけて出来た品種なんだろうな。……1000年か……)

13 : 以下、?... - 2019/02/14 01:55:14.781 vVYCy8xl0 10/67

オーク「けっ、いけ好かない野郎だ」

女騎士「そう言うな。人命救助に総督府公館の衛兵も出してくれた」

オーク「ほんの数人ですけどね」

勇者「……あの、僕はどうすれば」

女騎士「とりあえず付いて来い。町まで行くぞ。途中に勇者記念館があるから、そこで私物を回収しろ」

勇者「の、残ってるんですか!?」

女騎士「使えそうなのは剣、胸当て程度だ。服はボロボロだから期待するな。町で用意してやる。いつまでもその白装束だと不気味だからな」

勇者「あ、ありがとうございます」

15 : 以下、?... - 2019/02/14 01:56:57.631 vVYCy8xl0 11/67

ーー勇者記念館

女騎士「邪魔するぞ」

じじい「今日はやってないよ。地震の影響で当分休みだ」

勇者「あの……」

じじい「!? あっ……貴方は……! いやそんな、まさか……。はっ! あの婆さんっ、やっぱり黒魔術を!?」

女騎士「地震で起きただけだ」

勇者(霊廟を掃除してくれてたお婆さん、ヤバイ人なのかな……)

じじい「と、とにかく奥へ。ここにあるのはあなたがた御一行ゆかりの品ばかりだ! さあ、さあ!」

勇者「は、はあ」

16 : 以下、?... - 2019/02/14 01:59:28.496 vVYCy8xl0 12/67

ーー記念館を回って。

じじい「どうでしたかな? エルルの生家から取り寄せた物まであるのは驚いたでしょう! どれも正真正銘の聖遺物です!」

勇者「はは……あの、一応まだ生きてるんで。ていうか、なんか盗まれた物が飾ってあるみたいな感覚なんですけど……まあ1000年前ですもんね。どれもボロボロだし」

オーク「ショックだわな」

じじい「そして最後、これが我が記念館の目玉、あのジョゼフ・スクリアビン作、『勇者一行』です!」

勇者「うわぁ、大きな絵ですね……。なにがモチーフですか?」

じじい「へ? いやだから、勇者一行です」

勇者「は、はは。全然似てないや。いや、僕だけは似てるか。ずっと寝てたから、顔は描けますもんね」

19 : 以下、?... - 2019/02/14 02:01:25.310 vVYCy8xl0 13/67

じじい「い、一応250年くらい前の作品でして、その、有名な画家が……」

勇者「剣士はもう少し背が低くて、黒髪です。魔術師さんはこんなに胸が大きくないし。美化しすぎですよ。馬も……もっと……小さくて……ロバみたいで……ぐすっ」

オーク「おいおい」

勇者「うっ、うっ……会いたい。みんな……。僕は……うぅ……」

じじい「こ、こりゃ困った」

オーク「まあ、無理もねぇなあ」

女騎士「いまは泣かせてやれ」

20 : 以下、?... - 2019/02/14 02:04:05.081 vVYCy8xl0 14/67

ーーーー

勇者「……じゃあ、この剣だけいただきます」

じじい「こんな事言うのも何ですが、大切にして下さい。重要文化財ですから」

オーク「結局、一番興味を引いたのは壁掛け時計、か」

女騎士「ではなご老体。持ち主が現れたんだ。勝手に売っぱらったりするなよ」

じじい「分かっとるわい! アンタこそしっかりと勇者様の世話をせえよ!」

21 : 以下、?... - 2019/02/14 02:05:33.843 vVYCy8xl0 15/67

ーーーー

女騎士「ほら、町が見えてきたぞ」

勇者「ほ、本当だ。立派な町がある」

オーク「さ、行きましょう。もういい時間だ」

22 : 以下、?... - 2019/02/14 02:07:27.310 vVYCy8xl0 16/67

ーー港町。イル・オー・ヴェルニー。

町人「お、おい、あれ……」

町人「あ、ああ」

オーク子供「勇者様だー」

オーク町人「こら、指差さないの」

女騎士「目立ってるな」

オーク「しゃーないですよ」

女騎士「まずまともな服を着せるか。そうすれば騒ぎもマシになるだろう」

勇者「あはは……ところどころ瓦礫にはなってますけど、皆さん逞しいですね」

24 : 以下、?... - 2019/02/14 02:10:05.624 vVYCy8xl0 17/67

ーー服屋

服屋の主人「いやーお似合いだ」

勇者「そうですか? なんだか落ち着かないな……」

女騎士「少々田舎っぽいが、良いと思うぞ」

服屋の主人「はいはい、そりゃあ軍人さんはエルルから来た都会っ子だからね。だけどウチで一番良い服なのは間違いないよ」

勇者「あ、ありがとうございます」

女騎士「幾らだ?」

服屋の主人「勇者様から金はとれないね」

勇者「いや、そんなわけにはーー」

服屋の主人「さ、行った行った。まだ片付けの途中なんだ」

28 : 以下、?... - 2019/02/14 02:12:11.910 vVYCy8xl0 18/67

ーー大通り

勇者「……あの、女騎士さんてエルル出身だったんですね」

女騎士「ああ。雰囲気で分からないか? どこからどう見ても、垢抜けたエルレジェンヌだろう」

勇者「僕、この島の人かと」

オーク「ぶふっ」

女騎士「笑うな軍曹」

勇者「す、すみません。でも、同郷の人って分かって、なんだか嬉しくて」

女騎士「家も近いぞ」

勇者「本当ですか!?」

女騎士「ああ。お前の生家の前を、犬の散歩でよく通った。あそこも無料で解放されている」

勇者「ぼ、僕の実家が無料で……」

女騎士「まぁ、火事のたびに復元されて、いまの家は3代目だがな」

勇者「……」

オーク「……果たしてそれを実家と呼ぶのか」

29 : 以下、?... - 2019/02/14 02:14:46.893 vVYCy8xl0 19/67

「たいちょー」

オーク「ーーん? ルイの野郎だ」

兵士「た、隊長、いた。はぁ、はぁ……たいちょゴホ」

女騎士「落ち着け。どうした?」

兵士「み、港で救援物資を積んだアルビオン海軍の艦と、ルテニア海軍の艦がかち合っちまって。大型船の船着場が一つしか空いてないもんだから、ど、どっちも譲らなくて、それで……」

オーク「……はぁ、またアレだ。間違えたのはルテニアのほうだろ。この島には滅多に来ねえしな」

女騎士「到着時刻から考えて、アルビオンのアバンダンスが正しい。ルテニアのクニャージ・リヴァーノフは、この島のタイムゾーンを勘違いしたクチだろう。周りの島はアルビオン領で、CMT+1だからな」

30 : 以下、?... - 2019/02/14 02:17:23.703 vVYCy8xl0 20/67

兵士「ええ、こっちもそう説明してるんですが、ルテニアはアルビオン相手だからムキになってて……オマケにCMT+2だなんて聞いてないと、こっちの不手際を主張してるんです」

女騎士「……まったく。本土から離れているからといって舐められているな。ここも立派なガリアだというのに」

兵士「総督は居場所が分からないし、港長じゃ収められないし。とにかく大変なんです!」

女騎士「いいだろう。総督も今は文民だ。この島に私以上の階級の人間はいない。私が話をつける」

オーク「大丈夫ですか!?」

女騎士「明日の早朝には我が軍のエクーとブレアーゼルが入港する。それまでに、少なくともアバンダンスには港を離れて貰わなければならん。時間がない」

オーク「勇者はどうするんです?」

兵士「ゆ、勇者ぁ? あっ、ああああ!」

女騎士「とりあえず連隊駐屯地で面倒を見ておけ。丁重にな」

オーク「了解」

兵士「し、死体が、あ、あ……」

33 : 以下、?... - 2019/02/14 02:19:25.982 vVYCy8xl0 21/67

ーー2時間後。ヴェルニー連隊駐屯地。食堂。

主計課エルフ「え、え、じゃあ彼女がエルフだったらどうですか?」

勇者「そ、そうですね……。やっぱりなんかこう、森の中の神秘的な民っていうのもあるし……。自慢? なのかな」

主計課エルフ「きゃー。森の中の神秘的な民ですって!」

主計課エルフ2「いまじゃ『耳長いね』くらいしか言われないのに!」


オーク「むこうは盛り上がってるな」

一等兵「実際、耳長いだけよな。あいつら」

34 : 以下、?... - 2019/02/14 02:22:23.101 vVYCy8xl0 22/67

バタンッ!

兵士「み、みんなーっ。大変だー!」

オーク「またお前か。今度はなんだ」

兵士「た、隊長が!」

オーク「っ!? 隊長がどうしたっ。まさか軍艦同士の揉め事で、何かあったのか!」

兵士「いや、そっちはあっさり解決して……」

オーク「はぁ?……じゃあどうした?」

兵士「救援物資の分配で、総督と揉めてる」

オーク「っ、あの嬢ちゃん……まったく……」


兵士「総督はいつものアレだ。何でも『慈悲深い総督から島民へ』をやりたがるからよ」

オーク「ったく、この非常時に」

一等兵「やだねぇ」

勇者「……。あっ、あの」

オーク「ん?」

勇者「こんな言い方したらアレですけど、もしかして僕が出れば解決したりしますか? なんて……」

オーク「……へへ。そうだな。したりするかもよ?」

主計課エルフ「きゃー、勇者様カッコいいー!」

35 : 以下、?... - 2019/02/14 02:23:52.052 vVYCy8xl0 23/67

ーー港の端。

総督「わからん奴だな。君は」

女騎士「貴方こそ」

総督「届けられた品は、一旦総督府で管理、仕分けが必要だ。公平に行き渡るためにも」

女騎士「時間がありません。島の反対側の漁村まで、すぐに運ばなければ」

総督「そんな事は分かっている。だからこそーー」

女騎士「ではその漁村の名前は?」

総督「……」

女騎士「答えられませんか。この島には一つの町と、五つの集落があるだけですよ?」

総督「君は総督である私に楯突く気かね」

36 : 以下、?... - 2019/02/14 02:27:09.636 vVYCy8xl0 24/67

女騎士「はっ、何が総督だ馬鹿馬鹿しい。本土でしくじって、島流しにあっただけでしょう。ここはド田舎だ。世界の果てですよ。……でもそれで良かった。
あなただけじゃない。私の連隊だって名前だけだ。小隊に毛が生えた程度の人数しかいない。尉官すらいない。でもそれで良かったんだ。
勇者が眠るだけの、綺麗で静かな島だった。それを貴方はーー」

総督「もういい。……確かに名ばかりだ。お互いな。だが、私は本土に返り咲く。その為に金は貯めた。だがそれだけじゃ駄目だ。良い評判がなくてはな。
今回の地震はチャンスだよ。私の手から救援物資を配る。困窮した島民の救世主として名声を得るんだ。……邪魔をするなら君をーー」

勇者「おーい。すみませーん!」

女騎士「! 勇者……なぜここに」

勇者「あのー! ここの物資ですけどー! よければ運ぶの手伝わせてくださーい! 配るんですよねー! いますぐー!」

総督「チッ……。ええー。勿論です。勇者様ー。私からもお願い致しまーす」

女騎士「っ、貴様……」

総督「こういう変わり身の速さが必要なんだよ。本土ではね。ーーでは。命拾いしたな、少佐」

37 : 以下、?... - 2019/02/14 02:29:50.996 vVYCy8xl0 25/67

ーー漁村。ル・レラン

漁師「いやー。助かった。魚だけじゃどうしようもなくてよぉ。真水も必要だし、やっぱ陸のもんも食わなきゃなぁ」

漁民「へっ、いっつも畑仕事なんざ男の仕事じゃねぇとか言ってるくせによ」

勇者「はは。畑仕事も大変ですよ」

漁師「わ、分かってまさぁ勇者様。それよりコレ、島の特産品。アンチョワの塩漬け。パンに乗せてどうぞ。うまいんでさぁ、コレが」

勇者「ど、どうも。ーーん? ……この瓶の絵」

女騎士「あ」

勇者「こ、これ、洞窟で寝てるときの僕の絵ですよね! しかも、『いつまでも新鮮』『サン・ヴェルニー島のアンチョワ塩漬け』って……」

漁師「あ……。いやー。参ったなこりゃ」

38 : 以下、?... - 2019/02/14 02:31:41.296 vVYCy8xl0 26/67

漁民「か、勘弁してくださいっ。勇者様っ。島の特産品なんです!
いつまでも腐らない勇者様のお身体にあやかって、保存のきくアンチョワを売ってるんです! リグリア産のアンチョビに負けないためには、勇者様の絵を載せるしかーー!」

女騎士「とっくに死んでいる思ってたからな。許してやってくれないか」

勇者「え、ええ……はい。まあお役に立っているんであれば……」

漁民「ありがとうございますっ」

勇者(これ、島の外にも出回ってるんだ……。今じゃ僕ってアンチョワの瓶の人なのかな。なんか恥ずかしい。)

女騎士(そういえば、小さい頃はアンチョワの瓶の人って呼んでいたな。本人には口が裂けても言えんが)

40 : 以下、?... - 2019/02/14 02:34:17.941 vVYCy8xl0 27/67

ーー夜。ヴェルニー連隊駐屯地。兵舎。

勇者「ほとんどの人は家に帰るんですね」

オーク「ま、小さな島だ。わざわざ兵舎で寝泊まりする必要も無いってね。新兵が最初の半年暮らすだけさ。あとは金のない奴がこの通り、家賃がタダのここに住み着いてる」

兵士「人を貧乏人みたく言うない。節約志向なだけだ」

主計課エルフ「じゃあ勇者様、また明日」

主計課エルフ2「おやすみなさーい」

勇者「ええ、おやすみなさい」

ーーーー

オーク「……部屋まで案内するよ」

勇者「……。ええ」

オーク「寝るのが怖いか?」

勇者「はは、お見通しですか。……もしいま寝て、起きたらまた1000年経ってたらどうします? 今日出会った人たちも、とっくにみんな死んでて……。みんなだってそうだ。僕にとっては、昨日まで生きていたみんなが……」

オーク「明日、蹴ってでも起こすよ」

勇者「……優しいんですね」

オーク「魔物とは思えねぇか?」

勇者「あはは。あなたも人間ですよ。……魔物なんて居なかったんだ。こっちがそう決め付けただけで。……女騎士さんは?」

オーク「隊長は士官用の宿舎だ」

勇者「そうですか。ずっと一緒だったから、離れると寂しいな」

43 : 以下、?... - 2019/02/14 02:38:02.341 vVYCy8xl0 28/67

ーー深夜。

『いつもの酒場じゃないのか』

『こんな夜更けまでか? 隊長らしくない』

勇者「……オークさんと、兵士さんの声?」

オーク「とにかく、唯一の士官の居場所が分からないとあっちゃあえらいことだ。下士官の俺が指揮官だぞ。そんなの御免だね。器じゃない」

兵士「だろうよ。俺たちゃ階級なんて気にしたこともないしな。隊長だけが俺たちの親分だ」

オーク「とりあえず酒場を見に行ってくる」

兵士「俺は駐屯地をもう一回りするよ」

かちゃ。

勇者「オークさん」

オーク「! ゆ、勇者。起こしちまったな。悪い」

勇者「元々寝てませんから。それより女騎士さんを探すんでしょう? 一緒に行かせてください」

47 : 以下、?... - 2019/02/14 02:39:53.960 vVYCy8xl0 29/67

ーーイル・オー・ヴェルニー。酒場、レ・エロー前。

総督衛兵「それでっ! 連隊長とマスターはどこへ行った!?」

酔った親父「し、しらねぇよぉ。二人でこそこそ話し込んで、急に店じまいにしやがるもんで、俺も訳がわかんねぇ」

総督衛兵「他に誰か、二人の行き先を知る者は居ないかっ!?」

町人『…………』

総督衛兵「誰も居ないのか! 隠し立てすると為にならんぞ! どうなんだ!」

衛兵隊長「よしたまえ。我々があまり好かれていないのは、君たちの威圧的な態度のせいだぞ」

総督衛兵「は、はい。申し訳ありません」

48 : 以下、?... - 2019/02/14 02:41:15.923 vVYCy8xl0 30/67

衛兵隊長「皆さん、お騒がせしました。ではこれで。駐在殿ももう結構です」

駐在警官「平和な島だ。厄介ごとは勘弁してくださいよ。こっちは逃げた家畜捕まえるのが唯一の仕事だってのに」

衛兵隊長「もちろん。島の人々とは友好的な付き合いを望んでいます。ではーー」

町人「……けっ、てめえが一番好かれてねぇってんだ」

駐在警官「こら、滅多なこと言うんじゃないよ。ほら解散だ、解散」

49 : 以下、?... - 2019/02/14 02:43:09.263 vVYCy8xl0 31/67

ーー物陰

勇者「な、なんか大変な事に」

オーク「不味いな」

勇者「ど、どうするんですか?」

オーク「レ・エローのマスターと出かけたって事は……。もしかしたら、もしかするかもしれない」

勇者「もしかして、駆け落ちですか」

オーク「いい大人がンなことしねぇよ。大体島のどこに逃げるんだ」

勇者「た、確かに。じゃあ一体……」

オーク「マスターは隊長と同じ本土人だ。島に来た時期もそう変わらねぇ。だから噂好きはみんな、二人がスパイじゃねぇかって言ってたんだ」

勇者「間者、って事ですか。一体どこの?」

オーク「本国さ。総督の悪事を暴くため、ガリアの情報組織から来たーーってのが一番人気のある説だな」

勇者「悪事? こんな平和な島で?」

オーク「ああそうさ。この島はな……まあアンタの名前が付いているのに申し訳無いがーーいわゆるパラディ・フィスカルなのさ」

51 : 以下、?... - 2019/02/14 02:45:04.769 vVYCy8xl0 32/67

勇者「パ、パラディ? 何です?」

オーク「租税回避地(タックス・ヘイヴン)だ。最近有名になりつつある」

勇者「なんなんです? それ」

オーク「簡単に言やぁ、企業の税金がバカみたい安い土地さ。だから大陸中の大企業が支社を作ってる。そこに金を流して税金逃れって寸法だ」

勇者「大企業……。僕の時代だと貿易くらいしか思いつかないですけど」

オーク「ま、今も大体そんな感じだ。が、もうちっと複雑さ。
ーー例えばあの三階建ての建物。あそこにはガリアの総合商社と、トロイセンの農機具メーカー、リグリアの飛行箒メーカー、それにユールコルシアの高級家具メーカーの支社が入ってる。
あんなちっぽけな建物にだ。馬鹿みたいだろ。どの会社の製品も島で一度も見た事がねぇ。オマケにオフィスは共同だとよ。はっ、隠す気もねぇわけだ」

勇者「……ガリア本国は?」

オーク「元々は本国の指示で税金を下げたんだ。だが目的はもちろん税金逃れじゃない。企業誘致で島の活性化を図る為だ。それを総督が捻じ曲げて、私腹を肥やしてるってわけさ」

勇者「そ、そんなことが」

52 : 以下、?... - 2019/02/14 02:47:27.342 vVYCy8xl0 33/67

オーク「だからこそ、隊長がそれを調べに来た本国のスパイなんて噂が立つ。もっとも、にわかに真実味を帯びてきやがったが」

一等兵「おい」

オーク「! な、なんだお前か。脅かすな」

一等兵「兵士の奴が、勇者の霊廟に向かう灯りを見たそうだぞ。多分隊長だ」

勇者「え? あそこへ? なんで……」

オーク「……やっぱりな。何かあるんだ。あそこに」

一等兵「急いだ方がいい。きっと衛兵連中も向かってる」

勇者「ぼ、僕のお墓だけじゃない?」

54 : 以下、?... - 2019/02/14 02:48:26.130 vVYCy8xl0 34/67

ーー勇者の霊廟

マスター「魔力式の隠し扉か。よく気がついたな」

女騎士「伊達に毎日調査していないーーと言いたいところだが、地震の影響で装置の一部が露出していた。それで気がついたんだ。動力部はトロイセンのメーカーが作っている魔力式ソレノイド。この島で、初めてあの会社の製品を見た。粗末なオフィスはだいぶ前からあったがな」

マスター「はっ、どうりで総督府公館にも、島唯一の法律事務所にも証拠がねぇわけだ。悪人どもが」

女騎士「さあ、早く出よう。重たくて仕方ない」

マスター「機密文書だけでこの量だからな。俺も手が痛いよ。まったく」

「だったら」

『!』

56 : 以下、?... - 2019/02/14 02:50:15.910 vVYCy8xl0 35/67

総督「手伝いましょうか? お二人さん」

マスター「……あーあ」

女騎士「……諦めろ総督。独立した小国ならまだしも、ガリア領でこんな悪事。長続きするわけがない」

総督「悪事とは聞き捨てならないな。私は本国の意向に沿って、島を運営しているつもりだ」

女騎士「なら、我々も本国の意向だ。通して貰うぞ」

衛兵隊長「いいや連隊長。ーー残念だがこれまでだ」

女騎士「はっ、当然、貴様も居るわけだ……」

衛兵隊長「士官学校では優しくしてやったのに。残念だよ」

女騎士「……目つきがいやらしくて、あの頃から大嫌いでしたよ。先輩」

衛兵隊長「ふふ。抜け。同じ〈エスカリボール〉同士、正々堂々勝負といこうじゃないか」

女騎士「あなたに正々堂々を期待したことはないが、いいでしょう」

58 : 以下、?... - 2019/02/14 02:56:44.530 vVYCy8xl0 36/67

ーー洞窟の外の茂み。

オーク「……遅かった。やっぱり洞窟の前は衛兵が固めてるな」

勇者「あ、あんなに居たんだ」

兵士「島を守る俺たちより、総督府公館を守る兵士のが多いんだぜ」

オーク「しっ、連中、何か騒いでるぞ」

59 : 以下、?... - 2019/02/14 02:59:26.234 vVYCy8xl0 37/67

総督衛兵「ぜ、全員下がれ!」

総督衛兵「た、隊長ー!」

女騎士「ーーそらっ! どうしたっ! そんなものか!」

衛兵隊長「ぐうぅぅ!」

ーー


勇者「っ! 女騎士さん!? 女騎士さんが出てきましたよ! それにあの人ーー」

オーク「衛兵隊長だっ。ザマァ見やがれ! 圧されてやがる!」

60 : 以下、?... - 2019/02/14 03:00:22.138 vVYCy8xl0 38/67

女騎士「剣を捨てろ! ここで殺す価値もない! 本国に送還してから洗いざらい吐いて貰うぞ!」

衛兵隊長「誰がお前なんかにぃっ! くそぉっ! 貴様ら、手伝わんか!」

総督衛兵「えっ!? しかしーー」

衛兵隊長「馬鹿どもが! 大昔の決闘じゃないんだよ! さっさと殺せ! さあ!」

総督衛兵「は、はいっ」

総督衛兵「か、かかれー! 隊長に加勢しろー!」

61 : 以下、?... - 2019/02/14 03:02:05.317 vVYCy8xl0 39/67

オーク「ま、不味い! 出るぞ勇者! ……勇者? どこにーー」

兵士「お、おい! あれーー」



総督衛兵「あ、あ……。い、いつの間に……。ゔっ、ぐふ。……いづのまにいぃぃぃ……あぁぁ……ぁ」

勇者「まずひとり」ギロッ

衛兵たち『!? ひっ……』

女騎士「なっ……」

衛兵「うっ、うわぁ! 勇者だ!」

衛兵隊長「ええい、狼狽えるな! なにが勇者だ! 起き抜けの小僧に何が出来る!」

勇者「そこのお前」

衛兵「!?」

勇者「剣をーー」スッ

クルッ、ゴキッ。

衛兵「ぐはっ」

勇者「借りるぞ。俺のは文化財になっちまったからな」スチャ

63 : 以下、?... - 2019/02/14 03:03:39.863 vVYCy8xl0 40/67

女騎士「な、なんて動き。1000年前にあんなに洗練された格闘術が……」

衛兵隊長「な、なにを呆けている! かかれー!」

衛兵「う、うぉーっ!」

衛兵「囲んで倒せー!」

勇者「甘い」

衛兵1「ゔっ」
衛兵2「あがっ」
衛兵3「げふっ」

勇者「はっ、まるで相手にならないーーなっ」

背後にいた衛兵「ごっ……!」

勇者「ーーっと」

65 : 以下、?... - 2019/02/14 03:05:24.322 vVYCy8xl0 41/67

オーク「つ、強い」

兵士「俺たちも出るぞっ」


『らあぁぁあ!』

衛兵「! なっ、何だ? 連隊の奴らか!」

オーク「降参しやがれてめえらぁっ!」

衛兵分隊長「ふ、ふざけるな! 俺たちは貴様ら田舎の兵士とは違う! 本国から来たーーぐっ!?」

勇者「よそ見はいけないな」

ドサッ。

衛兵分隊長「」

衛兵「よっ、よくも分隊長を! くそ! これでも喰らえ!」

勇者「っ?」

67 : 以下、?... - 2019/02/14 03:07:32.378 vVYCy8xl0 42/67

勇者(何だ? 剣刃が光っている。魔法? 斬撃の延伸か? ただの兵士がそんな真似ーー)

女騎士「避けろ!」

衛兵「そらぁっ!」

ドンッ

女騎士「くっ……」

勇者「!!! なっーー」

勇者(光!? 斬撃の投射!? そんなことが!? 女騎士さん僕を庇ってーー)

ドサッ

女騎士「……」

オーク「た、隊長ぉー!」

兵士「くっ、くそっー!」

勇者「い、一体なにが」

衛兵隊長「……は。そうか! あははは! 傑作だ! 勇者様はペネトレイト・レイを知らないか! そうだよな。〈カリボール〉の時代の人間だ!」

68 : 以下、?... - 2019/02/14 03:09:10.400 vVYCy8xl0 43/67

勇者「な、に……?」

衛兵隊長「剣だっ! 〈カリバーン〉だよっ、ははは!」

勇者「カ、カリバーン? アルビオンのーー」

オーク「んなこたどうでもいい! 隊長を早く!」

衛兵隊長「はははっ、諦めろ! 貴様ら全員ここが墓場だ! よかったな勇者様! 今度はみんなで霊廟行きだ! 寂しくないだろう!?」

総督衛兵「よっ、よしっ。連隊長は倒したんだ。勇者だって……!」

衛兵「や、やれるぞ!」

連隊長「そうだ諸君! 奮い立て! こいつらを殺して、一緒に本土へ帰ろう! 我が麗しのガリアに!」

総督衛兵隊『う、うぉぉお!』

オーク「くっ、このおぉお!」

69 : 以下、?... - 2019/02/14 03:11:16.802 vVYCy8xl0 44/67

衛兵「なにが勇者だっ! そらっ! もう一丁お見舞いしてやる!」

衛兵「近づかずに剣の魔法で仕留めろ!」

ドンッ ドンッ

勇者「くっ、切っ先から光の矢!? こんな雑兵がっ」

衛兵隊長(ふ、ふふ……。そうだ殺しあえ。お互い人数を減らしてくれた方が、後の"処理"が楽で助かる。本土へ帰るのは私と総督2人でいいんだ……。ああ、悠久の都エルル。私はもうすぐーーぐ、ぐぅ?)

衛兵隊長「ぐうぅ!? なっ、なぜっ……オエェっ。なぜ!?」

女騎士「隙ありだ」

70 : 以下、?... - 2019/02/14 03:13:56.023 vVYCy8xl0 45/67

衛兵隊長「なぜえぇ!!」

女騎士「同じ〈エスカリボール〉では無かったという事だ。貴様のはガリアのライセンス生産品。私のはアルビオン製の〈エクスカリバー M-1〉。認めたくはないが、やはり本国仕様はモノがいい。鞘の防御魔法も優秀だ」

衛兵隊長「ぐっ、……ふふふふ」

女騎士「なにがおかしい」

衛兵隊長「いやなに、げぼっ、やはり君は私の理想の……り、そう……のーー」

衛兵隊長「」

衛兵「あ……。そ、そんな……隊長が」

衛兵「お、おしまいだぁ」

女騎士「さあ全員武器を捨てろ! 望み通りガリア本国へ帰してやる! 凱旋とはいかんがな」

72 : 以下、?... - 2019/02/14 03:15:34.891 vVYCy8xl0 46/67

ーー洞窟内

マスター「終わったな。おら行くぞ」

総督「くっ、離せ! なぜこの私が!」

マスター「ぐちゃぐちゃ言ってると"撃つ"ぞ?」

総督「っ、わ、わかった。わかったから」

マスター「お利口だ。これ(マニューリン MR93 リボルバー)が何か知ってるってことは、この島の秘密も知っているのかな?」

総督「? い、 一体何のことだ?」

マスター「ああ、知らんならいい。忘れろ」

総督「痛っ、わかった。わかったよ!」

74 : 以下、?... - 2019/02/14 03:17:15.136 vVYCy8xl0 47/67

ーー帰り道。

オーク「ほれ、さっさと歩け悪人ども」

衛兵たち「うう……」

女騎士「すまなかったな。起きてすぐ、人間同士の殺し合いに巻き込んでしまった」

勇者「いえ、感覚的には実戦続きなので」

女騎士「確かに、1000年のブランクは感じなかった」

勇者「……でも、驚きました。剣から光の矢が飛んできて、貴女を……」

女騎士「ああ」

勇者「信じられません。あんな攻撃をあんな普通の兵士が撃つなんて」

女騎士「無理もない。衛兵隊長が言っていたろう。お前は〈カリボール〉の時代の人間だと」

75 : 以下、?... - 2019/02/14 03:18:59.658 vVYCy8xl0 48/67

勇者「ええ。あれはどういう……」

女騎士「あれは"剣による遠距離攻撃が出来ない時代の"という意味だ。現在は〈エスカリボール〉……というか、まあアルビオンの〈エクスカリバー〉シリーズに代表される、射撃魔法付きの軍用刀剣が当たり前の時代でな」

勇者「えくす……かりばー」

女騎士「そうだ。遠距離攻撃魔法を組み込んだ画期的なカリバーン、それが〈エクスカリバー〉だ。頭のエクスは"外へ"を意味する頭字語、"ex"。間合いの外を討つ剣に相応しい名前だろう」

勇者「なるほど。それでエクス、カリバー」

マスター(俺の世界じゃ魔法がないから、exは出どころ不明となっているがね)

76 : 以下、?... - 2019/02/14 03:21:25.073 vVYCy8xl0 49/67

女騎士「最初の〈エクスカリバー〉が出来たのがおよそ700年前だ。爆睡中のお前は知る由もないな。以来、〈エクスカリバー〉シリーズは軍用刀剣のシェアトップを独走し続けている。
残念ながらガリア軍も自国製がトライアルで敗れ、〈エスカリボール〉の名で採用しているし、私の腰にぶら下がってるのはM-1という最新のエクスカリバーだ。
……これのおかげで命拾いした」

勇者「……僕は、貴女のおかげで命拾いしました。本当にありがとうございます」

女騎士「ふっ。勇者に恩を売ったか。あとで何に化けるか楽しみだな」

勇者「あはは、怖いな。でも僕は起きてからずっと、恩を売られっぱなしですよ」

77 : 以下、?... - 2019/02/14 03:22:48.185 vVYCy8xl0 50/67

ーー翌朝。 連隊兵舎。

女騎士「おい、起きろ」

勇者「んぶぁ! ……はい!」

女騎士「おお、寝起きがいいな」

勇者「もう1000年寝るのは御免ですから」

女騎士「はは。安心しろ。8時間くらいしか寝ていないぞ」

勇者「……ぐすっ。良かったです」

女騎士「泣くな。食事を摂ったら出かける
ぞ」

78 : 以下、?... - 2019/02/14 03:24:34.328 vVYCy8xl0 51/67

ーー港

勇者「ふ、船って……これ……」

女騎士「ガリア空軍南帯洋艦隊所属、空中巡洋艦エクーだ」

勇者「し、信じられない。こんな……鉄の船が、浮いてる……」

女騎士「今朝方着いたばかりだが、本来は島に寄らずにガリアまで戻る予定でな。救援物資を下ろしたら、夕方にも出航する」

勇者「は、はあ」

女騎士「あれに乗ってガリアに帰れ」

勇者「えっ!?」

女騎士「あれなら一週間でガリアまで行く。エルルは様変わりしたが、シュルイユ宮殿などはまだあるぞ。あれは確か1000年前にはあったはずだ」

勇者「え、いやーー」

80 : 以下、?... - 2019/02/14 03:26:04.575 vVYCy8xl0 52/67

女騎士「それと、生家近くのパサージュ・サン・ヴェルニー噴水広場には、お前の銅像が建っている。デスマスクから取った顔の造形は見ものだぞ。鏡持参で見に行くといい」

勇者「デ、デスマスク……。って、そうじゃないですよ! なんでそんなに急いで帰そうとするんです!?」

女騎士「海路は倍以上の時間がかかる。空路で行くチャンスはこれだけだぞ」

勇者「で、でも……」

女騎士「私もこの島での任務はお終いだ。5日後にはブレアーゼルに乗って島を離れる。リグリアのポルト・ピアクシオで下艦し、陸路でガリアに向かう予定だ。向こうで会おう」

勇者「な、なんでそんな時間のかかるっ……」

81 : 以下、?... - 2019/02/14 03:28:19.009 vVYCy8xl0 53/67

女騎士「休暇を兼ねているからだ。途中、トロイセンのバート・バーヘンでゆっくり湯につかろうと思ってな。大陸最高のクアバート、一度行ってみたかったんだ」

勇者「そ、そんな」

女騎士「そんな顔するな。マスターが一緒に同行してくれる」

勇者「そもそも誰なんですかあの人」

女騎士「道中聞け」

勇者「ひ、ひどい」

84 : 以下、?... - 2019/02/14 03:30:44.218 vVYCy8xl0 54/67

「ーーさまー」

「勇者さまー。どこ行っちゃったんですかー」

「勇者さまー、島から出る前に是非ウチの店にー」

「ウチの店にサインしてってくださいー」

「子供たちに冒険のお話をー」


女騎士「はは。どうやら島から居なくなるのがバレたな」

勇者「ええぇ……」

女騎士「1000年も面倒見てくれた島民だ。店の壁にサインくらいしてやれ」

勇者「……そうですね」

女騎士「チヤホヤされて、馬鹿騒ぎして、手厚くもてなされればいいさ。1000年ぶりだ。バチは当たらんだろ」

勇者「はい……」

85 : 以下、?... - 2019/02/14 03:32:22.069 vVYCy8xl0 55/67

ーー夕方。港。

オーク「はいはい、一般人はこの線の外側。空中艦は危ないよー」

島民たち『じゃあな勇者さまー!』
『元気でー』 『もう1000年も寝るなよー』 『あんたはガリアの誇りだー!』 『また来いよー!』

勇者「ううっ、みなざん……あでぃがどう……』

『泣くなー』

『あはは』

86 : 以下、?... - 2019/02/14 03:33:35.400 vVYCy8xl0 56/67

マスター「ほれ、行くぞ。タラップはしっかり手すりを掴んで登らないと危ないからな」

勇者「はい……ぐすっ」

マスター「ったく、とんだ泣き虫勇者様だな」

女騎士「彼を頼んだ、中佐。一緒に働けて良かったよ」

マスター「ああ。俺もだ」

女騎士「またどこかで。ヴィーヴ・ラ・フランス」

マスター「ヴィーヴ・ラ・ガリア」

女騎士「それと、店で西暦世界の酒を出すのはよせ」

マスター「バレてたか」

88 : 以下、?... - 2019/02/14 03:34:34.744 vVYCy8xl0 57/67

女騎士「ラガヴーリンだろ。アイラウィスキーは個性の塊だからな」

マスター「ワイン以外も分かるのか。いいね。じゃあ次はジャパニーズのカスクストレングスを持ってこよう。とっておきだぞ」

女騎士「期待している」

勇者「女騎士さん……僕っ……ぼくっ」

女騎士「泣け」

勇者「ゔえ~ん!」

乗組員「上がりまーす!」

女騎士「ではな、英雄」

89 : 以下、?... - 2019/02/14 03:36:05.775 vVYCy8xl0 58/67

ーーーー

オーク「……いいんすか、乗らなくて」

女騎士「もう上がってしまった」

オーク「……なんというか、俺はあると思いますよ」

女騎士「なにがだ」

オーク「短い時間で男女が惹かれあってですね、それでーー痛てっ!」

女騎士「馬鹿なこと言ってないで戻るぞ」

オーク「見えなくなるまで手ぇ振ってやりましょうよ」

女騎士「……そうだな。……ん?」

オーク「なんか揉めてません?」

90 : 以下、?... - 2019/02/14 03:37:05.947 vVYCy8xl0 59/67

『やっぱり嫌だっ』
『バカ言え、飛び降りる気か!?』
『か、艦内へ入って下さい勇者様!』
『あ、あああああ』

女騎士「」
オーク「」

とぽーん。

91 : 以下、?... - 2019/02/14 03:38:51.215 vVYCy8xl0 60/67

勇者「ーーた、ただいま帰りました」

女騎士「馬鹿か」

オーク「よくあそこから飛び降りようと思ったな」

勇者「女騎士さん! 僕はヒヨコになってしまいました!」

女騎士「……は?」

オーク「頭打ったんじゃないすか」

勇者「目覚めて最初に見た人についていかないと、不安だということに気が付いたんです!」

オーク「……ああ、なるほど」

女騎士「私は親鳥じゃないぞ」

94 : 以下、?... - 2019/02/14 03:40:51.102 vVYCy8xl0 61/67

勇者「お願いです寂しいんです! 僕ひとりぼっちですよ! 見捨てないでください!」

女騎士「ちょ、す、縋り付くなっ。近い……////」

オーク(おお、照れた)

勇者「あと、出会って3日も経ってないですが、好きかもしれないです!」

女騎士「はっ、はあ? な、なにを…… ///////」

96 : 以下、?... - 2019/02/14 03:42:08.464 vVYCy8xl0 62/67

勇者「正直かもしれないだけなんですけど、やっぱりここで別れるのは無いかなって!」

島民『おおー』

勇者「一緒にガリアまでゆっくり帰りましょう! 僕も温泉入りたいです!」

女騎士「いや、そっ、き、急に言われても……そのっ……。こ、心の準備が……」

勇者「準備の問題ですか! 嫌じゃないんだ! いやっほーい!」

島民 パチパチパチ

勇者「やったー」

女騎士「わ、分かった! 分かったからもうやめろ! 恥ずかしい! ーーなんだその顔は軍曹!」

オーク「別に」

女騎士「ぐっ、か、解散だっ! ほら散れ! みんな瓦礫の片付けに戻れ! ほら!」

97 : 以下、?... - 2019/02/14 03:45:14.912 vVYCy8xl0 63/67

ーーエクー甲板。

マスター「若いねぇ」

部下「……どうします?」

マスター「いいさ、行こうーーおい、艦長に予定通り出発すると伝えてくれ」

乗組員「はっ」

部下「……いいんですか?」

マスター「土産は総督一派で充分だろ。それに、ガリアには戻るって言ってるんだ。ちょこっと遅くなるだけさ」

部下「しかしーー」

マスター「下見てみろ、幸せそうだ」


\やったー/ \うるさい!/ \顔赤いぞー/
\はははは/

部下「……そうですね」

マスター「な? 俺はああいうのに水を差すような育ち方してないんだよ。パリジャンだからな。ーーさ、中へ入るぞ。高度が上がってきた。いい加減寒い」

98 : 以下、?... - 2019/02/14 03:46:06.032 vVYCy8xl0 64/67

おしまい。最後文字変わっちゃった。残念。

104 : 以下、?... - 2019/02/14 03:51:28.900 vVYCy8xl0 65/67

こんな時間にごめんなさいね。ここでやったのは気まぐれ。普段はROM専なんだ。
なろうに上げる予定のお話の設定を使っているから、それなりに凝った出来になってしまった。
だからまあ、著作権とは言わないけど、設定に関しては一応知的財産だと主張しておこうかな。

では。

108 : 以下、?... - 2019/02/14 03:57:39.437 vVYCy8xl0 66/67

あと固有名詞は有意味語と無意味語を組み合わせてあるから、気になる人は調べてね。

例えば
イル・オーは"島の村"的な意味のフランス語。
アバンダンスは"豊富な"的な意味の英語。補給艦だからね。
クニャージはロシアの貴族称号。

109 : 以下、?... - 2019/02/14 04:02:36.934 vVYCy8xl0 67/67

なろうに投稿したら、宣伝がてら続きでも書こうかな。
あと5ちゃんに関しては無知なので、HTML化とか一切わかりません。

誰が小銭を稼ごうがどうでもいいから、転載でもまとめサイトでも好きにしていただいて、残してもらえたら嬉しいかな。

じゃあまた。

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