1 : 以下、?... - 2019/02/12 00:27:25.415 d89KM6La0 1/28

借金取り「今日で返済期限だが、金は用意できなかったようだな……」

「あと一日、あと一日だけ待って下さい!」

借金取り「ダメだ、どうせ夜逃げする気だろ」

借金取り「約束通り、マグロ漁船に乗ってもらおうかァ!」

「イヤだぁぁぁ!!!」

借金取り「たまにこういう絶望に満ちた光景を見られるから、借金取りはやめられねえ!」


――――

――


「あれからもう一年か……」

元スレ
借金取り「マグロ漁船から降りてもらおうかァ!」男「イヤだぁぁぁ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1549898845/

3 : 以下、?... - 2019/02/12 00:30:19.670 d89KM6La0 2/28

ザザーン… ザザーン…

「今回もよく獲れたねえ、おやっさん!」

漁師「おおっ、大漁だ!」

漁師「んじゃあ、久々に港に入るとすっか!」

「はいっ!」



ボォォォォォ…

6 : 以下、?... - 2019/02/12 00:33:22.323 d89KM6La0 3/28

「……ん?」

借金取り「よう」

「あんたは……!」

借金取り「久しぶりだな。ずいぶん焼けて、マグロならぬ真っ黒になったじゃねえか」

「なんの用だよ?」

借金取り「なんの用って決まってんだろ? 迎えに来たんだよ」

「迎えって、まさか……」

借金取り「マグロ漁船から降りてもらおうかァ!」

「イヤだぁぁぁ!!!」

8 : 以下、?... - 2019/02/12 00:37:25.203 d89KM6La0 4/28

「やだ! やだ! 降りたくない! 一生マグロ漁船に乗っていたい!」

「広い大海原を駆け巡り、天候と格闘しつつ、マグロを追いかけるスリリングな日々!」

「俺はマグロ漁業にヤミツキになってしまったんだ!」

借金取り「ダメだ! 期間は一年って話だったろうが! 今すぐ降りてもらう!」

「おやっさん……!」

漁師「せっかく立派になったお前さんを手放すのは惜しい……が、約束は約束だ」

借金取り「ってわけだ。さあ来い」ガシッ

「イヤだ! おやっさんっ! 助けておやっさぁぁぁぁぁん!!!」ズルズル…

漁師「……達者でな」

10 : 以下、?... - 2019/02/12 00:40:10.176 d89KM6La0 5/28

借金取り「これでお前は借金完済したわけだが、こっからはアフターサービスだ」

借金取り「マグロ漁船に代わる食いぶちとして、それなりの企業を紹介してやる」

「はぁ……」

借金取り「ここ行け。面接さえすりゃ入れるようになってるから」

借金取り「じゃあな、これからは陸で頑張れよ」

「……」

12 : 以下、?... - 2019/02/12 00:44:03.596 d89KM6La0 6/28

課長「これ、コピー取ってきてくれるかい?」

「はい」

課長「顔色が優れないねえ、早退するかい? いっそ有給を使った方が……」

「いえ……平気です」

課長「君はまだ入ったばかりなんだ。くれぐれも無理しないようにね」

「……」

(いい職場だ。上司は優しいし、仕事はやりがいあるし、給料も悪くない)

(だけど……物足りない)

13 : 以下、?... - 2019/02/12 00:48:17.364 d89KM6La0 7/28

(マグロ漁船での日々は過酷だったけど、本当に楽しかった)

(こうして目をつぶると、あの頃の記憶が、波の音まではっきりよみがえる……)




漁師「なぁにやってんだ、バカヤローが!」バキッ!

「す、すみませんっ!」


「おやっさん、マグロです! マグロの群れです!」

漁師「よぉっし、稼ぐぞぉ!」


「ひええええ、嵐だぁぁぁぁぁっ!」

漁師「しっかり掴まってろよ! 落ちたら死ぬぞ!」


漁師「ちっ、海賊どもめ……!」

「俺とおやっさんでなら、やっつけられますよ!」




(あの頃に戻りたい……)

15 : 以下、?... - 2019/02/12 00:51:21.927 d89KM6La0 8/28

課長「この定食屋は安くてうまいんだよ。穴場ってやつさ」

「……いただきます」

「ん、これは……」

課長「この店のマグロ定食は絶品でねえ、量も多いし」モグモグ

「マグロ……」

「……おやっさん」ウルッ

課長「ど、どうしたんだね?」

16 : 以下、?... - 2019/02/12 00:55:47.576 d89KM6La0 9/28

「寝よう……」

「すぅ、すぅ、すぅ……」


ザザーン… ザザーン…

漁師『よーし、網を引き揚げっぞーっ!』

『はいっ!』

『今日も大漁ですね、おやっさーん!』

漁師『……』

『おやっさん?』

借金取り『マグロ漁船から降りてもらおうかァ!』


「うわああああああああああ!!!」

「ハァ、ハァ、ハァ……夢か……」

17 : 以下、?... - 2019/02/12 00:59:46.955 d89KM6La0 10/28

医者「なるほど、夢にまで出てくる、と……」

「はい……」

医者「おそらく、マグロ漁船での過酷で非日常的な日々が、輝かしい思い出に昇華されてしまって」

医者「時折フラッシュバックのようによみがえってしまうのでしょう」

医者「お薬を処方しますので、しばらく様子を見ましょう」

医者「大丈夫、すぐよくなりますよ」

「はい……」

20 : 以下、?... - 2019/02/12 01:04:33.532 d89KM6La0 11/28

「……ダメだ、薬を飲んでもちっともよくならない!」

「それどころか、マグロ漁船への想いがどんどん増幅されてく!」

「なにをしてても、おやっさんとの思い出がよみがえり、漁船に乗りたくてたまらなくなる!」

「乗りたい! 乗りたい! 乗りたい! 乗りたい! 乗りたい!」

「俺はやっぱりマグロ漁船で生きるべき人間なんだ!」

「こうなったら、あの借金取りに頼んで――」

21 : 以下、?... - 2019/02/12 01:06:20.283 d89KM6La0 12/28

借金取り「ダメだ」

「な、なんで……!」

借金取り「借金がねえ奴をマグロ漁船に紹介するわけにゃいかねえし」

借金取り「お前には会社を紹介しただろうが! 普通に働けよ!」

「普通はイヤなんだ! 俺はマグロ漁船で働きたいんだ!」

「人間には職業選択の自由ってもんが――」

借金取り「うるっせえな、とっとと帰れ!!!」

22 : 以下、?... - 2019/02/12 01:09:23.042 d89KM6La0 13/28

「あぁ……」トボトボ

「借金がなきゃ乗せてもらえない、か……」

「今の俺は真面目に働いてるから、借金どころか貯金がある始末だし……」

「!」ハッ

「そうだ! だったらもう一度借金を作ればいいんじゃん!」

「そうと決まれば――」

25 : 以下、?... - 2019/02/12 01:12:53.875 d89KM6La0 14/28

競馬場――

「ドンケツビーリに全財産賭けるよ」

競馬ファン「ちょいとあんた、やめた方がいいって!」

競馬ファン「ドンケツビーリなんざ、競馬界最低最悪の駄馬中の駄馬っていわれてんだから!」

「だからいいんじゃないか」

(よーし、盛大にスるぞ~!)





実況『ドンケツビーリ、まさかの一着ゥゥゥゥゥ! 場内が大騒ぎになっております!』

「なにいいいいいいいい!?」

26 : 以下、?... - 2019/02/12 01:15:24.274 d89KM6La0 15/28

「だったらカジノだ! ルーレットだ!」

「赤の25に全部!」サッ

ディーラー「お客さん、勝負師ですね」

ディーラー(バカめ、ベテランディーラーをナメるなよ。入る場所はいくらでも操作できるんだよ)サッ

ディーラー(って手が滑っちゃった!)

コトンッ

二人「赤の25に入っちゃったぁぁぁぁぁ!!!」

27 : 以下、?... - 2019/02/12 01:17:20.235 d89KM6La0 16/28

「株!」

「FX!」

「仮想通貨!」



「ダ、ダメだ……! なにをやっても金が増えていく……! これじゃとても借金なんて……!」

28 : 以下、?... - 2019/02/12 01:20:10.091 d89KM6La0 17/28

「こうなったら……」シュボッ

「この札束の山……全部燃やしてやる!」

「どうだ明るくなったろうハイパーバージョンだぁぁぁぁぁ!!!」

借金取り「やめろ」

「!」

借金取り「たとえ札束燃やしたって、今のお前じゃどうせ金が増えるだけだ」

借金取り「自分でも分かってんだろ。お前はもう借金を背負う人間じゃなくなっちまったんだよ」

借金取り「大人しく……陸で働くんだ」

「うう……分かったよ……」

31 : 以下、?... - 2019/02/12 01:23:48.644 d89KM6La0 18/28

男は稼いだ金で会社を立ち上げて独立、今では立派な社長になっていた。

秘書「社長、お茶をお持ちしました」

「ありがとう」

「今日のスケジュールは?」

秘書「アメリカの海運会社の社長様と会食が……」

「まだ時間があるな……ニュースでも見よう。テレビをつけてくれないか」

秘書「かしこまりました」ピッ

32 : 以下、?... - 2019/02/12 01:26:15.348 d89KM6La0 19/28

テレビ『続いてのニュースです』

「……」

テレビ『本日、太平洋上を航行していたマグロ漁船から、交信が途絶えました』

「……!」

テレビ『転覆したおそれもあると見られ……』

(この船……! もしかして、おやっさんの船じゃないか!?)

(間違いない! おやっさんの船だ!)

36 : 以下、?... - 2019/02/12 01:29:22.640 d89KM6La0 20/28

「おやっさん!!!」ダッ

秘書「社長!? どこに行かれるんですか!? 会食が――」

「すまない、キャンセルだ!」

「おやっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」ダダダダダッ

(といっても、どうすれば……!)

(とりあえず、あの借金取りのところに行ってみるか!)

38 : 以下、?... - 2019/02/12 01:33:35.333 d89KM6La0 21/28

借金取り「やっぱり来ると思ってたぜ」

借金取り「さっきのニュース、見たんだろ?」

「そうだ! 俺はおやっさんを助けないと!」

借金取り「風の便りじゃ、あんた今はもうどこぞの会社の社長だろ?」

借金取り「海のことは海の連中に任せておけばいいんだよ。会社に戻れよ」

「たしかにそうかもしれない……」

「だけど、おやっさんは俺の恩人、あの一年があったからこそ今の俺があるんだ!」

「ここでおやっさんを見捨てるくらいなら……死んだ方がマシだ!」

借金取り「……いうじゃねえか」

39 : 以下、?... - 2019/02/12 01:36:07.497 d89KM6La0 22/28

借金取り「だったら行くか。あのおっさんのところに」

「しかし……どうやって」

借金取り「ヘリをチャーターする。費用はあんたがもってくれよな」

「もちろんかまわないが、操縦はどうする? 腕のいい人間を雇わないと……」

借金取り「俺が操縦する」

「できんの!?」

42 : 以下、?... - 2019/02/12 01:39:21.672 d89KM6La0 23/28

ババババババババ…

借金取り「ここらへんで、あのおっさんの漁船の消息が途絶えたはずだ」

「おやっさん……」

借金取り「ちっ、砂漠で砂粒を探すようなもんだな」

「……」

「いた!!!」

借金取り「えっ、どこに!?」

「あそこ! あれはおやっさんの船の一部だ!」

借金取り「あんな小さいのよく見つけたな……よし、近づくぞ!」

44 : 以下、?... - 2019/02/12 01:43:33.319 d89KM6La0 24/28

漁師「う、うう……」



「おやっさん!?」

「よかった、船の残骸にしがみついてた! 今助けるからなー!」

借金取り「ヘリを近づけるぞ! 手を伸ばしてやれ!」

「分かった!」

バババババババババ…

「もうちょっと近づけてくれ!」

借金取り「ダメだ、これ以上はこっちがあぶねえ!」

「くっ……!」

45 : 以下、?... - 2019/02/12 01:46:25.721 d89KM6La0 25/28

借金取り「どうだ!?」

「どうしてもあとカード一枚分、届かない……!」

(カード一枚分……!? そうだ!)サッ

借金取り「それは……ブラックカード!」

「おやっさん、これに掴まってくれーっ!」

漁師「おうっ……!」

ガシッ!

47 : 以下、?... - 2019/02/12 01:49:48.841 d89KM6La0 26/28

借金取り「ふぅー、間一髪だったな」

漁師「でかい波にブチ当たっちまって……本当にありがとよ……」

「いいんだよ、おやっさん。俺たちの仲じゃないか」

借金取り「だが、あんたのマグロ漁船は沈んじまったな……」

漁師「いいさ、命があればいくらでもやり直せる。また金を貯めて、新しいのを買うさ」

(買うさって、おやっさんも分かってるはずだ。マグロ漁船は安くない)

(かといって、おやっさんは施しを受ける性格でもない)

(だったら――)

48 : 以下、?... - 2019/02/12 01:52:05.319 d89KM6La0 27/28

「おやっさん……しばらく俺の会社で働かないか?」

漁師「え? だけど、俺は漁しかやったことねえし……」

「実は俺、海洋関係の事業にも取り組もうとしてて、おやっさんの知識をぜひ借りたいんだ!」

「頼むっ!」

漁師「そこまでいわれたらしょうがねえ……雇ってもらおうかな」

「頼りにしてるよ、おやっさん!」

借金取り「……」

50 : 以下、?... - 2019/02/12 01:55:55.929 d89KM6La0 28/28

「なぁ、おやっさん」

漁師「ん?」

「いつの日か、またおやっさんが漁船手に入れたらさ」

「休みの日にでも、俺を漁に連れてってくれないかな?」

漁師「もちろんだとも! 社長だからって遠慮しねえ、たっぷりしごいてやるぜ!」


借金取り「……フッ」

借金取り「たまにこういう希望に満ちた光景を見られるから、借金取りはやめられねえ」







― おわり ―

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