ブォンブォンブォン! ブォンブォンブォン!
青年「イェイイェイイェイ!」
友人「ヒャッホーッ!」
青年「お、こんなとこに白い壁があるぞ」
友人「おお、すっげー落書きしがいのある壁じゃん! スプレーあるしちょっと落書きしてこうぜ!」
元スレ
暴走族「壁にスプレーで落書きしてやろw」美術評論家「素晴らしい作品だ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1546430948/
友人「『喧嘩上等!』『死苦羅面参上!』っと……」ブシュゥゥゥゥゥゥ…
青年「……」ブシュゥゥゥゥゥ…
友人「オメーはなに書いてんだ? ――うおっ、すげえ!」
青年「……これでよし」
友人「なんかすごい絵だな……こんなのスプレーで描いたのかよ?」
青年「へっ、適当に描いただけだよ」
評論家(やれやれ、あそこにいる二人組は暴走族か?)
評論家(あんなところに落書きして……まったく迷惑なガキどもだ)
評論家「……」
評論家(ん!?)
評論家(んんん……!? なんだあの絵は!?)
タタタッ…
評論家「こ、これは……!」
友人「なんだよおっさん」
青年「殴られてえのか? あ?」
評論家「この絵を描いたのは、どっちだい?」
青年「俺だけど。なんか文句あんのか?」
評論家「す、素晴らしい……! これは素晴らしい作品だ!」
青年「!」
友人「そんなにスゲェのか?」
評論家「ああ、すごい。構図、色使い、迫力、どれをとっても超一流だ」
評論家「もし、仮にこの絵をカメラで撮ったとして、その写真ですら数万で買いたがる人が出るだろう!」
友人「マジかよ、そんなすげえのかよ!」
青年「くっだらねー、んなわけねえだろ」
評論家「いや、本当だって! 美術評論家である私の目に狂いはない!」
青年「……行こうぜ」
友人「え、行くの? 写真撮ってかないの?」
青年「そんなおっさんのヨタ話信じるのかよ?」
友人「信じたわけじゃないけど、この絵がすげえってのはマジで思うし……」
青年「ほら、行こうぜ!」ブオオオオオオ…
友人「ま、待てよ!」ブオオオオオオ…
評論家「ああっ、せめて名前だけでも――」
暴走族“死苦羅面”集会場――
ブォンブォンブォン……
友人「野郎ども! 今夜はいよいよ“クレイジートカレフ”との抗争だ!」
友人「奴ら全員、地獄に落としてやるぞ!」
仲間A「うおおおおおおおおおっ!」
仲間B「よっしゃあ!」
仲間C「鉄パイプで頭カチ割ってやるぜ!」
青年「今日は俺も連れてってくれ!」
友人「ダメだ」
青年「なんで!? なんでいつも俺だけ外すんだよ!」
友人「オメーはバイクはともかく喧嘩は全然なっちゃいねえ」
友人「オメーを抗争に連れてくと、俺ら全員の恥になんだよ」
青年「足手まといにゃならないって!」
友人「ダメだ! さぁ、野郎ども、奴らのアジトに乗り込むぞ!」
ブォンブォンブォン……
青年「くっそー……またミソッカスかよ」
青年(あいつは俺と友達として付き合ってくれてるけど)
青年(総長の時のあいつは、いつも俺をのけ者にしやがる……)
青年(俺だって……俺だってやれるのに……!)
――
――――
ブォンブォンブォン!
青年「イヤッホーッ!」
友人「ヒャッハーッ!」
青年「バイクはいいぜ!」
青年「こうして暴走してると、嫌なことを何もかも忘れられる!」
友人「だな!」
ブォンブォンブォン……
青年「!」
友人「誰か道路にいるぞ!」
キキーッ!
青年「……ふう」
青年「あっぶねえ! てめえ、なに道路に突っ立ってんだ! 死にてえのか!」
評論家「やっと見つけたよ……」
青年「てめえは……!」
友人「こないだの……美術評論家!」
評論家「ようやく思い出した……」
評論家「君はかつて日本中を感動させ若くして亡くなった天才画家……その一人息子!」
評論家「その才能は父を遥かに凌駕するといわれたが、すぐに画壇から消えてしまった」
評論家「ほんの僅かしか発表されなかった君の絵は、今でも破格の額で取引されている」
青年「……」
友人(マ、マジかよ……)
評論家「君が生きていると分かれば、あらゆる美術関係者が君のもとへ群がるだろう」
評論家「君は美術界の至宝なんだよ! 暴走族なんてやってていい存在じゃない!」
評論家「さぁ、私とともに来るんだ! 私が君をプロデュースしてあげよう!」ガシッ
青年「は、はなせ!」
評論家「はなすものかぁ! 絶対はなさないぞ!」
青年「……殴るぞ!」
評論家「殴る? 本望だよぉ! 君のような天才に殴ってもらえるのならぁぁぁ!」
バキィッ!
評論家「あびゃぁっ!」
青年「!」
友人「代わりに俺が殴ってやったぜ」
青年「……」
友人「今の話……本当なのか?」
青年「……ああ」
青年「俺は天才だった親父の才能を存分に受け継ぎ、かつて画家としてデビューした」
青年「描いた絵はどれもこれも高く評価され、とんでもない額で売れた」
青年「俺も自分の才能や作品が評価されて嬉しかった」
青年「だけど、ふと気づいたんだ」
青年「最初は絵を描きたかったから描いてたのに、いつしか周囲のいいなりになって」
青年「売れるために、褒められるために、絵を描いてる自分に……」
青年「だから俺は――」
『こんなの違う! こんなの俺が描きたい絵じゃないっ!』
青年「画壇から姿を消したんだ……」
青年「そんな時、俺はバイクに出会った」
青年「バイクにまたがって、ぶっ飛ばしてる時だけは嫌なことを忘れられた」
青年「そして、お前と出会って――」
友人「暴走族になった、か……」
青年「ああ、暴走してる時だけは画家だった頃の自分を忘れられるんだ!」
青年「なぁ、俺もっと頑張るから! だからちゃんと“死苦羅面”の一員として扱ってくれよ!」
友人「わ、分かった! 分かったよ!」
ブォンブォンブォン!
友人「お、おい……飛ばしすぎじゃねえか?」
青年「いいんだよ! 暴走族がスピードの出しすぎ気にしてんじゃねえよ!」
友人「たしかにそうだけどさ……」
青年「ヒャッホーッ! どけどけどけぇーっ!」
友人「……」
暴走族“死苦羅面”集会場――
ブォンブォンブォン……
ザワザワ… ドヨドヨ…
友人「どうした?」
仲間A「そ、それが……」
友人「なにい!? あいつがたった一人で“駄亜駆寝巣”の本拠地に乗り込んだだと!?」
友人「で、どうなったんだ!」
仲間B「普通なら殺されるとこですけど、弱すぎたから見逃してもらえたとか……」
友人「……!」
友人「お前、なにやってんだ! 今お前が生きてるのは奇跡みてえなもんだ!」
青年「すまねえ……」
友人「それだけじゃねえ! 危うく“駄亜駆寝巣”と全面抗争になるとこだったぞ!」
青年「本当に悪かったと思ってるよ……」
青年「だけど、俺、あの“駄亜駆寝巣”に一人で乗り込んだんだぜ?」
青年「その度胸は認めてくれよ! 俺を本格的に暴走族にしてくれよぉ!」
友人「……」
友人「今だから話すが、俺はお前と出会った時、“こいつは暴走族になるべき人間じゃない”と思った」
友人「普通に生きてくべき人間だと思った」
青年「!」
友人「だから、抗争には参加させなかったんだが……そこまで本気ならしょうがねえ」
友人「お前を本当の仲間として認めてやる」
青年「ホントか!」
友人「ただし……俺との勝負に勝ったらだがな!」
青年「勝負? どんな? 喧嘩か?」
友人「いや、チキンレースだ!」
ブォンブォンブォン……
友人「ルールは単純」
友人「俺とお前があの崖に向かってフルスロットルでバイクを走らせる」
友人「先にブレーキかけた方が負けだ」
青年「……!」
友人「もし、お前が勝ったら、お前を本当の仲間にしてやる。抗争も参加させてやるよ」
友人「ただし、お前が負けたら――」
友人「チームを抜けろ」
青年「わ、分かった……」
ブォンブォンブォン……
友人「いくぜ」
青年「……」
青年(俺は死なんか恐れちゃいないんだ)
青年(絶対こいつより先にブレーキはかけない!)
青年(つまり、どのみち絶対に“負け”はない!)
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
友人「……」
青年「うおおおおおおおおおおっ!」
友人「……」
青年(もうそろそろブレーキかけなきゃまずいけど……友人はかけるつもりはないらしい!)
青年(なら俺だってぇ!)
青年(こんなにスピード出すのは初めてだぁぁぁぁぁ!)
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
青年「!」ハッ
青年(なんだ……? 暴走してたら、いきなりモチーフが浮かんできた……)
青年(とても斬新で、独創的で……今まで思いもつかなかったモチーフが!)
青年(ああ……描きたい! 急に絵を描きたくなってきた! あんなに描きたくなかった絵を!)
青年(し、死にたくないっ……! 生きて絵を描きたいっ……!)
青年(だけど、もう間に合わな――)
キキーッ!
青年「うわあああああああっ!!!」
ガシィッ!
ドガシャァァァァン…
青年「ハァ、ハァ、ハァ……」
友人「間一髪、だったな。お前のバイクは落ちちまったけど」
青年「う、ううう……」
友人「さ、引き上げてやる!」グイッ
青年「ありがとう……」
友人「いいってことよ」
青年「あの……俺……」
友人「分かってるよ」
友人「行けよ……行っちまえ。俺らのことなんざとっとと忘れろ」
青年「ごめん……」
友人「ただしやるからには、絶対すごい画家になれよ!」
青年「ああ……絶対なるよ!」
――
――――
司会「本日のゲストは『芸術は暴走だ』の言葉でおなじみのこの方です!」
画家「どうも」
司会「先日開かれた個展も、大盛況でしたね。海外からも大勢の方が訪れて……」
画家「おかげさまで、ありがとうございます」
司会「今後の活動の方針などは何かございますか?」
画家「そうですね。これからも作品をたくさん発表して」
画家「自分の道をフルスロットルで突っ走っていきたいと思っています」
父「今テレビに出てるこの人、昔俺の友達だったんだぞ! よく一緒に走ったもんだ!」
息子「えー、絶対ウソだよー!」
息子「こんなすごい人が、父ちゃんみたいなバイク野郎なんか相手にするわけないじゃん」
父「いや、マジなんだって……」
母「あんた、またそのホラ話してんの? いい加減やめなさいよー!」
父「マジなんだけどなぁ……」
― 完 ―