1 : 以下、?... - 2018/12/16 23:01:19.328 QW0WbnYkD 1/17

喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    鬼塚巌(60) 刑事

    【定年退職】

    ホーッホッホッホ……。」

元スレ
喪黒福造「あの事件の犯人、どうしても捕まえたいでしょう?」 老刑事「言われるまでもなく、そう思ってますよ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1544968879/

2 : 以下、?... - 2018/12/16 23:03:18.896 QW0WbnYkD 2/17

とある住宅街。建物と建物の間に、スーツを着た2人の男が潜んでいる。

2人の男は目つきが悪く、何かを見張っているような様子にも見える。

藤本「鬼塚さん。奴は本当にここに現れるのでしょうか?」

テロップ「藤本誠造(32) 警視庁錦町警察署刑事課・刑事」

鬼塚「ああ。あいつはこの辺に潜伏しているんだ」

テロップ「鬼塚巌(60) 警視庁錦町警察署刑事課・刑事」

しばらくした後、人相の悪い男・根津が道に姿を現す。

鬼塚「藤本!!根津がいたぞ!!」

駆け出す藤本と鬼塚。根津の身柄は、藤本によって取り押さえられる。

根津「こらっ、何しやがる!!離せっ!!」

根津の両手に手錠をはめる鬼塚。

鬼塚「逮捕する!!」

3 : 以下、?... - 2018/12/16 23:05:13.260 QW0WbnYkD 3/17

夜。おでん屋台で酒を飲みながら、食事をする藤本と鬼塚。鬼塚の隣には、喪黒福造が座っている。

藤本「俺が言うのも何ですが……。鬼塚さんは、噂通りの人だったようですね」

鬼塚「噂通り……か。その噂の内容がどんなものかは、だいたい想像がつくがな」

藤本「はい。要するに、変わり者で一匹狼ってことですよ」

鬼塚「そういうことだと思ったよ。警察署の中で、俺は周りからよく思われていないからな」

藤本「ええ。俺が鬼塚さんとコンビを組むことが決まった時、みんなから同情されたんですよ」

藤本「『あんな人と組むことになるなんて、大変だね』……と」

鬼塚「まあ……な」

藤本「実際に、一緒に仕事をして分かりました。確かに、鬼塚さんは変わり者ですよ」

藤本「ですが、むしろ刑事としては名刑事と言えるかもしれません」

鬼塚「おいおい……。褒めてるのかけなしてるのか、分からんような言い方だな」

藤本「褒めてるんですよ」

喪黒「…………」

4 : 以下、?... - 2018/12/16 23:07:12.538 QW0WbnYkD 4/17

やがて、藤本は屋台を去る。

藤本「鬼塚さん、お先に失礼します」

鬼塚「おう、気ぃ付けて帰れよ。お前の嫁さんが家で待ってるからな」

おでん屋台の客席で、喪黒と2人だけになる鬼塚。

喪黒「私はさっき、あなたの会話を聞いていましたけど……。どうやら、あなたは刑事さんのようですねぇ」

鬼塚「ええ。俺は、定年間際のしがない刑事ですよ」

喪黒「定年間際……ということは、現在あなたは60歳でしょう」

鬼塚「そうです。俺は3月で定年を迎えるんですよ」

喪黒「見たところ、あなたは警察一筋で働いてきたようですねぇ」

鬼塚「ああ。仕事に追われて、忙しい毎日でした」

喪黒「まさに、完全燃焼でしょう」

鬼塚「完全燃焼ではありませんね。なぜなら、解決できていないあの事件があるんですから……」

鬼塚「あれを解決しないまま刑事を辞めるのは、俺にとっては心残りですよ」

5 : 以下、?... - 2018/12/16 23:09:14.840 QW0WbnYkD 5/17

喪黒「ほう……。どうやら、あなたの心にもスキマがおありのようですねぇ」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

鬼塚「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

鬼塚「あなた、セールスマンなんですか……」

喪黒「どちらかと言うと、ボランティアみたいなものですよ。後で、ゆっくり話でもしましょう」


BAR「魔の巣」。喪黒と鬼塚が席に腰掛けている。

喪黒「刑事さん。確か、未解決の事件があるとおっしゃりましたよねぇ」

鬼塚「はい。あの事件が起きたのは、今から14年前でした」

喪黒「今から14年前……。ああ、あの事件ですか!もしかすると、その被害者の母子というのは……」

鬼塚「そうですよ。あの事件の被害者は、俺の妻と娘なんです」

6 : 以下、?... - 2018/12/16 23:11:12.147 QW0WbnYkD 6/17

喪黒「あれは痛ましい事件でした。夜中に家で就寝中だった母親と女子高生が、何者かに刃物で殺されたのですから」

鬼塚「あの事件のことは、今も覚えています。犯人が俺の妻と娘を襲った当時、俺はある事件の張り込みをしていました」

喪黒「そうですか……」

鬼塚「あの時、俺が自宅にいなかったせいで、妻と娘を見殺しにする羽目になってしまいました」

鬼塚「あいつらには本当に申し訳ない。何と謝ったらいいか……」

喪黒「まあまあ……。あの事件は刑事さんが悪いのではなく、犯人が悪いんですよ」

鬼塚「ええ……。あの犯人は、どうしても許せません。奴の正体が何者かは、すでに分かっていますよ」

鬼塚「それなのに、奴は今ものうのうとしている……」

喪黒「犯人は、あなたの自宅の壁に血痕で名乗りを残していますからねぇ。その犯人が、あの有名な……」

鬼塚「そうです。連続殺人犯として知られる『羅刹』ですよ」

鬼塚「あいつは、俺の妻と娘以外にも多くの罪なき人間を手にかけてきました」

喪黒「『羅刹』は、刑事さんのご家族を最初からターゲットにしていたのでしょう」

喪黒「なぜなら、警察への挑戦をPRするためにあの事件を起こしたのだから……」

8 : 以下、?... - 2018/12/16 23:13:15.740 QW0WbnYkD 7/17

鬼塚「その可能性が高いでしょうね。俺が刑事であるというだけで、あいつは俺の妻と娘を毒牙にかけたんです」

鬼塚「『羅刹』だけは許せない!!」

喪黒「刑事さん。あの事件の犯人、どうしても捕まえたいでしょう?」

鬼塚「言われるまでもなく、そう思ってますよ」

鬼塚「俺が妻と娘のためにできる償いは、あの事件の犯人『羅刹』を捕まえることだけです」

鬼塚「……ただ、『羅刹』がどこに潜んでいるのか、未だ見当がついていません」

喪黒「大丈夫です。あなたが地道に捜査すれば、犯人の居場所はある程度見当がつくはずです」

鬼塚「……地道に捜査できる時間があれば、いいんですよ。問題は、俺は定年間際だということです」

喪黒「心配いりません。犯人はどこかにいます。刑事さんが、彼の居場所を見つけ出します」

鬼塚「そうなってくれれば、いいんですがね……」

喪黒「必ず、そうなりますよ。何よりも刑事さんが動き出した時、あの事件も解決へと動き出すのですから……」

喪黒は鬼塚に右手の人差し指を向ける。

喪黒「私があなたに気合を入れてあげましょう……」

9 : 以下、?... - 2018/12/16 23:15:38.927 QW0WbnYkD 8/17

鬼塚「くっ……」

喪黒の右手の人差し指に、目が引き寄せられる鬼塚。

喪黒「さぁ、私の手をよーく見ててください……」

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

鬼塚「うわああああああああ!!!」


夜。錦町警察署、刑事課。デスクに向かい、『羅刹』に関する捜査資料を読み込む鬼塚。

鬼塚(『羅刹』による一連の事件が起きていたのは、2003年から2008年にかけて……)

鬼塚(奴は首都圏の各地に出没し、罪のない一般人の命を次々と奪っていった……)

鬼塚(『羅刹』の犯罪による各被害者の共通点は、身体を刃物で刺されたことによる失血死……。俺の妻と娘もそうだった……)

鬼塚(それと、現場に証拠をわざと残すのが、奴の一連の犯行の手口だった……)

鬼塚(例えば、犯行に使ったサバイバルナイフを現場に置くことや……。血痕で『羅刹』の名乗りを現場に残すことがそうだった……)


外。刑事として、『羅刹』が事件を起こした各地の現場を回る鬼塚。彼は、現場周辺の住人に聞き取りを行う。1人で道を歩く鬼塚。

鬼塚(『羅刹』……、お前はどこにいるんだ……!?)

10 : 以下、?... - 2018/12/16 23:17:23.727 QW0WbnYkD 9/17

錦町警察署、刑事課。課長に呼び出される鬼塚。

課長「鬼塚さん。ここのところ、あなたは単独行動が目立っているようですね」

課長「捜査をするならば、許可を取ってから行うべきですよ」

鬼塚「……すみません」

課長「もしかすると、鬼塚さんは、『羅刹』による一連の事件を調べていたのではないですか?」

鬼塚「か、課長……!!どうしてそれを……」

課長「やはり、そうですか……。あなたが奥さんと娘さんを失ったお気持ち、察するに余りあります」

課長「でも、これだけは忘れないでください。刑事は私情で動いているのではなく、公僕として動いているんですよ」

鬼塚「はい。分かっていますよ」


BAR「魔の巣」。喪黒と鬼塚が席に腰掛けている。

鬼塚「おかげで、俺は課長にこってり絞られましたよ」

喪黒「まあ、こうなることは私も予想がついていました」

11 : 以下、?... - 2018/12/16 23:19:21.530 QW0WbnYkD 10/17

鬼塚「でも、俺はここで引っ込むわけにはいきません。この捜査は、定年前の俺の集大成の仕事なんです」

喪黒「そうです!その調子!私は、刑事さんを応援していますよ」

鬼塚「ありがとうございます。俺の妻と娘のために、『羅刹』を必ず逮捕して見せますよ」

喪黒「果たして、それだけが捜査のモチベーションでいいのでしょうか?」

鬼塚「どういうことですか!?」

喪黒「『羅刹』の犯行の犠牲になったのは、刑事さんの奥様と娘さんだけではありません」

喪黒「多くの罪もない一般人たちが、あの犯人に命を奪われたのですよ」

鬼塚「ええ、まあ……」

喪黒「鬼塚さんは刑事なのです。刑事ならば私情で動くのではなく、公僕として動くべきでしょう」

鬼塚「はい……。そのことは、課長からも指摘されましたね……」

喪黒「『羅刹』が起こした事件を捜査するためには、公僕としての大義が必要なのです」

鬼塚「公僕としての大義……」

12 : 以下、?... - 2018/12/16 23:21:50.319 QW0WbnYkD 11/17

喪黒「あのまま『羅刹』を野放しにしておいたら、今後も別の市民が犠牲になるかもしれません」

喪黒「それは、警察として非常によくありません。なぜなら、警察は市民の安全を守るために存在しているのですから……」

鬼塚「確かに……。『羅刹』の逮捕を目指すのは、市民の安全を守るため……。喪黒さんに指摘されて、ハッとしましたよ」

喪黒「だから、刑事さん。あなたには私と約束していただきたいことがあります」

鬼塚「約束!?」

喪黒「そうです。もしも『羅刹』が目の前にいた時、刑事さんは果たして冷静な気持ちになれますか?」

鬼塚「うーーん……。あまり、自信はありませんね。なぜなら、俺の妻と娘があんな死に方をしていますから……」

鬼塚「だから、復讐心で頭にカッと血が上り、あいつを拳銃で射殺してしまうかもしれません……」

喪黒「刑事が私情で犯人の命を奪うのは、あってはならないことです」

喪黒「だから、刑事さん。あの『羅刹』と対峙した際は、どんなことがあっても拳銃を使わないでくださいよ」

鬼塚「わ、分かりました……。できる限り、そうしますよ……」

喪黒「私は、刑事さんによる犯人逮捕を願っていますよ」

14 : 以下、?... - 2018/12/16 23:24:01.124 QW0WbnYkD 12/17

夜。錦町警察署、刑事課。デスクに向かい、とある捜査資料を読み込む鬼塚。

鬼塚(どうも気がかりだな……。2010年代に入り、未解決の殺人事件が3件ほど起きているが……)

鬼塚(この3件の事件には、共通点がある。それは、被害者が身体を刃物で刺されて失血死しているということ……)

鬼塚(あと、現場には血の付いたサバイバルナイフが置かれてあったということ……)

鬼塚(ただ、『羅刹』の犯行のトレードマークともいうべき、血痕で名乗りを現場に残すことをしていない……)

鬼塚(それと、この3件の現場は、そんなに距離が離れていない。もしも、この3件が『羅刹』の仕業だとするならば……)

考えを進めていくうちに、ある可能性に辿りつく鬼塚。

鬼塚(奴は、これらの事件が起きた場所の周辺に潜んでいるはずだ)


とある山。防寒着を着た2人の女性が、森の中を歩いている。

女性A「ちょっと、これ……」

女性B「あら、何だろう……?」

土の中に埋まった白く硬い何か。女性Bが靴で土を掘ると、地中から見えてきたのは……。何と、人間の髑髏だ。

女性A女性B「キャアアアアアアアアアッ!!!」

15 : 以下、?... - 2018/12/16 23:26:21.512 QW0WbnYkD 13/17

錦町警察署、刑事課。課長が、鬼塚を呼び出す。

課長「鬼塚さん。どうやら、あなたは例の単独行動を続けているようですね」

鬼塚「弁解の余地はありません。処分は覚悟しています」

課長「そのことについてなんですが……。実は……」

課長は、鬼塚に何かの事情を説明する。

鬼塚「な、何だって!?」

課長「科捜研が、山から発見された白骨死体の身元を調べたんですが……」

課長「どうやら、この白骨死体の身元はXX区在住の斑目元彦さんでした」

課長「ちなみに、斑目さんを名乗る人間が生きて生活をしているのですが……。そいつは、妻と子供がいるらしいですよ」

鬼塚「XX区……。3件の未解決事件が起きた現場もXX区でした。……ということは」

課長「本物の斑目元彦さんの命を奪い、彼になり済ました人物が、これらの事件に関わっている可能性があるでしょう」

鬼塚「……やはり。しかも、そいつの3件の犯行は、『羅刹』の犯行と手口が似ています」

鬼塚と課長の元に、藤本が駆けつける。

藤本「お、鬼塚さん、電話です!!あの、あいつから――」

16 : 以下、?... - 2018/12/16 23:28:20.418 QW0WbnYkD 14/17

デスクにいる鬼塚と藤本。電話機の受話器を取り、鬼塚はあの男――『羅刹』と通話をする。

羅刹「斑目の白骨死体が見つかったそうだから、そろそろ俺の正体を明かそうと思ってな……」

鬼塚「そうか……。やはり、お前が『羅刹』か……」

羅刹「ああ、そうだよ。俺は斑目になり済まし、結婚をして子供まで作った」

羅刹「もっとも、俺の妻と子供も今や人質だ。おかげで、14年前に起こした例の事件を思い出しちまったよ」

鬼塚「お前という奴は……」


東京、XX区。住宅街、斑目――になり済ました『羅刹』の自宅。付近に集まる警察関係者たち。

警察関係者たちの中には、鬼塚と藤本もいる。

自宅の2階窓から、姿を現す『羅刹』。彼は、右手にサバイバルナイフを持っている。

羅刹「俺は、おめおめと投降する気はない。鬼塚、俺はお前とサシでけりをつけたいんだ」

1人で、自宅の中に入る鬼塚。彼の頭に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。

(喪黒「あの『羅刹』と対峙した際は、どんなことがあっても拳銃を使わないでくださいよ」)

17 : 以下、?... - 2018/12/16 23:30:27.957 QW0WbnYkD 15/17

2階。サバイバルナイフを持った『羅刹』。彼の側には、ガムテープで縛られた妻と子供がいる。『羅刹』と対峙する鬼塚。

鬼塚「これ以上、罪のない人間の命を奪うのはやめろ!お前を逮捕する!!」

『羅刹』に立ち向かっていく鬼塚。2人による取っ組み合いが続く。サバイバルナイフを振り回す『羅刹』。

しかし、鬼塚により『羅刹』の両手に手錠がかけられる。『羅刹』を連れて、家から姿を現す鬼塚。

鬼塚の腹には、血がにじんでいる。言うまでもなく、『羅刹』との格闘でできた傷跡だ。辛そうな表情の鬼塚。

鬼塚「あ、後は頼みました……」

崩れるように倒れ、意識を失う鬼塚。


とある病院。手術室の前に集まる警察関係者たち。一同は心配そうな顔をしている。

ある程度時間が経った後……、手術室のドアから執刀医が出て来る。

執刀医「皆様……。大変残念なことですが、鬼塚巌様はご臨終となられました」

18 : 以下、?... - 2018/12/16 23:32:25.107 QW0WbnYkD 16/17

霊安室(遺体安置室)。ベッドで横たわる鬼塚の遺体。遺体の側には、喪黒がいる。

喪黒「…………」

喪黒は、鬼塚の遺体に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

喪黒のドーンを受け、鬼塚の遺体は一瞬光り輝く。死んだはずの鬼塚に、何かの反応が起きる。

鬼塚「ウッ……」

喪黒がいなくなった後、霊安室に集まる警察関係者と医者たち。

藤本「それにしても、まるで眠っているように見えますね……」

鬼塚の顔をじっと見つめる藤本。彼はやがて、あることに気付く。

藤本「み、見てください……!!鬼塚刑事には、まだ息があります!!彼は生きています!!」

一同「ええっ!?」

19 : 以下、?... - 2018/12/16 23:35:43.601 QW0WbnYkD 17/17

テロップ「2019年3月――」

とある墓地。妻と娘の墓の前で、手を合わせる鬼塚。鬼塚の側には、喪黒がいる。

墓参りを終え、喪黒と会話する鬼塚。

鬼塚「これで俺は、刑事としてケジメをつけることができました。あの14年間は、本当に長かったです」

喪黒「ご苦労様です、刑事さん。あの事件が未解決だった14年間よりも、あなたの定年後の人生の方が長いですよ……」

鬼塚「ええ……。定年後の人生は、妻と娘の菩提を弔いながら過ごそうと思いますよ」


墓地の前にいる喪黒。彼の背景には、数え切れぬほどの墓石が並んでいる。

喪黒「人間は、生活をしていくために仕事をする必要がありますし……。仕事には、様々な課題や困難がつきものです」

喪黒「仕事をする上で、質や量をこなすことはもちろん必要ですが……。何よりも、忘れてはならないことがあります」

喪黒「それは、いかなる仕事であっても……。いったん取り組んだ以上は、最後までベストを尽くすということでしょう」

喪黒「諦めずやり遂げる、きっちりケジメをつけるという決意ができてこそ……。仕事を完遂することができるのです」

喪黒「鬼塚刑事は、刑事としての仕事を最後までやり遂げました。しかし彼には、定年後の人生を生きるという仕事がまだ残っていますよ」

喪黒「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―

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