女「どこかで休まない?」
男「そうだな。じゃあスタバかドトールにでも……」
女「ねえ見て! あそこ!」
≪獅子カフェ≫
男「獅子カフェ……?」
女「猫カフェっぽい名前ね。ホントにライオンがいるのかな?」
男「まさか……どうせライオンのぬいぐるみが置いてあるとかだろ」
女「ねえねえ入ってみようよ!」
男「うん、どんな店か気になるし」ギィィ…
ライオン「いらっしゃいませ」
男女(獅子だ!!!)
元スレ
ライオン「猫カフェに対抗して獅子カフェを開いてみました」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1545060366/
女「ライオンだ……!」
男「ホントにホントにホントにホントにライオンだ……!」
ライオン「お、サファリパークですね。私も一度行ってみたいですねえ」
男(行く必要ねーだろ)
ライオン「二名様ですよね? 空いてるお席にどうぞ」
男「じゃあ、ここで……」スッ…
女「うん……」スッ…
ライオン「ご注文は?」
男「ホットコーヒーで」
女「私も」
ライオン「かしこまりました」
ライオン「…………」テキパキテキパキ
男「あの……二足歩行がお上手ですね」
ライオン「訓練しましたからねえ。ただし、走る時はやはり四足になってしまいますが」
男「はぁ……」
男「えーと……なんでライオンさんがカフェを?」
ライオン「私、元々サバンナの生まれでしてね」
ライオン「しかしサバンナも今は不景気で、いっそ新天地で出稼ぎしようと思い立ちまして」
ライオン「女房と子供を連れて日本までやってきたんです」
女「地方から出てくる若者じゃないんだから……」
ライオン「それで、日本では今、猫カフェというのが流行ってるでしょう?」
ライオン「だったら同じネコ科である私も、獅子カフェをやってみよう、と決心したんですよ」
男「なるほど……」
女「突っ込む気も失せてくるわ……」
ライオン「それとよく、オスライオンはニートとかいわれるじゃないですか」
男「ああ、たしかに」
女「狩りはメスに任せて自分は寝てる……っていうわね」
ライオン「実際にはオスにも役割はあるんですが、そういうマイナスイメージも払拭したくてですね」
ライオン「こうしてオスライオンである私が、カフェを経営している姿を見てもらえれば」
ライオン「オスライオンもちゃんと働くんだな、と思い直してもらえると思いまして」
男「働くのはともかく、方向性間違ってる気がしますけど……」
女「みんなが期待してるのは勇ましく戦ってる姿よね」
ライオン「争いごとは好まないもので、ハハ」
女「でもたしかに、立派なたてがみよね」
男「うん、俺らがライオンに抱いてるイメージ通りだ」
ライオン「ありがとうございます」
ライオン「これ毎朝セットに一時間かかってるんですよ~」ファサッ
男(一気にイメージ崩れた……)
ライオン「さ、コーヒーです。どうぞ」
男「いただきます」ゴクッ
女「いい匂い……」ゴクッ
男「うまい!」
女「ホント! 一流の喫茶店と比べても遜色ないわ!」
ライオン「ありがとうございます」ニッコリ
男「ところでライオンさんは、やっぱり『ライオンキング』見た?」
ライオン「あ、見ましたね~」
ライオン「とても感動的で、素晴らしい映画でしたよ」
男「だよねぇ。ハクナマタタ~」
女「私は劇団四季のを見たことあるけど、あっちも素敵だったわ」
ライオン「ただ、あえて苦言を申し上げるならば……」
ライオン「ストーリーが今一つリアリティに欠けてるかな、と……」
男女(お前が言うな)
男「じゃあ、お会計を」
女「おいしかったわ!」
ライオン「ありがとうございました」
ライオン「では、来店の記念にこちらの粗品をどうぞ」
男「お、これは歯ブラシだね」
女「メーカーはまさか……」
ライオン「ライオンです」
……
ギィィ…
ライオン「いらっしゃいませ」
男「また来ちゃったよ」
女「すっかり気に入っちゃって。常連になっちゃいそう」
ライオン「それはそれはありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
男「ところで、ライオンさんは怒る時ってあるの?」
ライオン「怒る時……ほとんどありませんね」
女「そうよねえ。とても温厚そうだもん」
ライオン「はい、野球で贔屓の球団が負けてる時も、怒るより泣いちゃいますから」
男「野球見るんだ? どこのファン?」
女「まあ、聞くまでもないけど」
ライオン「阪神です」
男女(なんでだよ……)
高校生「……でさぁ~」
高校生「やっぱり陸上で最強の動物っていったらゾウっしょ!」
女子高生「えぇ~、絶対サイだと思う~」
高校生「いや、ゾウだって! あのデカさはヤバイっしょ!」
女子高生「サイだよ~。あのツノで突かれたらどんな動物もイチコロだもん!」
ライオン「…………」ピクッ
男「え!?」
女(ライオンさんの表情が変わった!?)
高校生「ゾウだよ!」
女子高生「絶対サイ!」
ライオン「…………」ビキビキッ…
男(まさか、あの子たちの強さ議論でライオンさんのプライドが傷ついた!?)
女(“百獣の王の俺様こそが最強”だと……!)
ライオン「…………」メキメキ…
ライオン「君たちィ!!!」
高校生&女子高生「は、はいっ!」
ライオン「陸上最強はカバだよ、間違いない!」
ライオン「私もサバンナにいた頃、カバに何度も痛い目にあわされてね……」クドクド…
男女(カバ派かよ……)
ライオン「熱くなりすぎました、これは失礼」
男「すごい早口でしたよ」
女「カバってそんなに強いんですか?」
ライオン「ええ、“バカ”の語源は“カバに挑んだ愚か者は必ずひっくり返ることから”と」
ライオン「いわれるくらいですから」
男「ウソくせえ……」
女「出典・民明書房って感じ……」
ライオン「あ、ちなみにウナギのかば焼きは大好物です」
男「聞いてないよ」
……
男「こんにちは」
女「また来ちゃった~」
ライオン「いらっしゃいませ」
男「……ん?」
子ライオン「……ガル」
男「え、子供!?」
女「わっ、可愛い!」
ライオン「今日は息子にも店を手伝わせてまして」
男「へぇ~」
ライオン「じゃあ、コーヒー豆を挽いて」
子ライオン「ガル」ゴリゴリ…
ライオン「コラ、そうじゃないだろ! そんなんじゃおいしいコーヒーはできないぞ!」
子ライオン「ガルゥ……」
男(わっ、厳しい!)
女(獅子は子供を谷底に突き落とすって本当なのね……)
子ライオン「ガル!」サッ
ライオン「お、できたか。どれどれ……」ゴクッ
ライオン「うん、おいしぃ~! お前はコーヒーの天才だ! 今すぐ喫茶店を開けるぞ!」ナデナデ
子ライオン「ガルル……」ニコッ
男(全然厳しくなかった……)
女(突き落とすどころか持ち上げまくってるわ……)
ある日――
強盗A「最近このカフェ流行ってるらしいぞ」
強盗B「獅子カフェ? ふざけた名前のカフェだな」
強盗A「食べログによると『穏やかな店主』らしいし、ちょっと刃物突きつけりゃすぐ金出すだろ」
強盗A「レジに10万か20万くらい入ってるに違いねえ!」
強盗B「よし入ろうぜ!」
ギィィ…
強盗A「やいっ!」
強盗B「金を出しやがれ!」
ライオン「わっ!?」
強盗A「わっ!?」
強盗B「わっ!?」
強盗AB(なんでライオンが!?)
ライオン「わーっ!!?」
強盗A「わーっ!!?」
強盗B「わーっ!!?」
ライオン「わわあああああああっ!!!??」
強盗A「うわわわわわっ!?」
強盗B「わあああああっ!?」
後日――
男「すごいね! 『獅子カフェの店主、強盗撃退』だって。ニュースになってるよ」
女「ホント!」
ライオン「いやぁ、私はただ叫んでただけで……」
男「ようするに、吼えたんでしょ?」
女「ライオンに吼えられたら、そりゃ逃げるわよねえ」
ライオン(ホントに悲鳴上げてただけなんだけどな……)
ワイワイ… ガヤガヤ…
客A「アイスティーひとつ!」
客B「サンドイッチのセットください」
客C「ナポリタン!」
男「俺たちが最初に来た時は結構空いてたのに、にぎわってきたね」
女「流行ってよかったわね!」
ライオン「これも皆様のおかげです」
……
密猟者A「……近頃じゃサバンナでも密猟者の取り締まりが厳しくなってきた」
密猟者B「ああ……だが、ライオンの剥製が欲しいなんてバカな金持ちは未だに多い」
密猟者A「今だったら希少価値もついて、きっととんでもない値段で売れるぜ」
密猟者B「……どうする?」
密猟者A「だったら、獅子カフェってのが狙い目だな。なにせ店主が本物のライオンらしい」
密猟者A「動物園襲撃するよりよっぽど楽だぜ」
密猟者B「よし……さっそく仕留めに行くか」ジャキッ
男「今日はホットドッグとホットコーヒー!」
女「私は紅茶にしよっかな~」
ライオン「かしこまりま……」
ギィィィ…
密猟者A「全員動くな!」ジャキッ
密猟者B「そこのライオン、悪いが剥製になってもらう……」
ライオン「あ、あなたたちは……まさか密猟者!?」
密猟者A「その通り!」
密猟者B「コーヒー好きのライオンさんにゃ、金持ちのコレクションになってもらおうか」
ライオン「くっ……!」
女「ど、どうしよ!? あんなので撃たれたら、いくらライオンさんでも……」
男「…………!」
男「ライオンさんに手を出すな!」ガシッ
密猟者A「なっ!」
密猟者B「このっ!」バァンッ!
男「ぐあっ!」ドザッ…
女「きゃあああああっ!」
密猟者A「あーあ、人を撃っちまいやがって」
密猟者B「まぁいいさ。あのライオン殺ったら海外に逃げる予定だしよ」
密猟者A「まぁな。飛びかかってきたあいつが悪いんだ」
男「うう……」
女「しっかりして! しっかりしてぇ!」
ライオン「…………」ゴゴゴゴゴ…
ライオン「よくも……やってくれましたね」
密猟者A「お?」
密猟者B「なんだ、やる気か?」
ライオン「どんな理由があろうと……」
ライオン「お客様を傷つける奴は許さないッ!!!」ガオォォォォォ
密猟者AB「ひっ!?」
密猟者A「死にやがれ!」ドォンッ!
密猟者B「このおっ!」バァンッ!
ライオン「…………」シュゥゥゥゥ…
密猟者A「し、死なない!?」
密猟者B「なんで!?」
ライオン「そんなチャチな猟銃の一発や二発で倒れるほど、百獣の王は甘くない」
ライオン「どうせお前たちは抵抗しない動物ばかりを狙ってきたんだろう」
ライオン「制裁を受けるがいい!」
バキィッ!!!
密猟者A「ぐびゃあああっ!」
密猟者B「ぎゃぴいいいっ!」
密猟者A「がはっ……よくもやりやがったなぁ……」ゲホッ
密猟者B「人間様に手を出したてめえは終わりだ! 訴えてやる!」
ライオン「…………」
女「ライオンさん……」
ライオン「私は大丈夫です。それより早く救急車を!」
女「は、はいっ!」
男「う、うう……」
裁判が始まった。
裁判長「当日獅子カフェにいたという証人、証言をどうぞ」
男「はい」
男「二人の密猟者は突然店に入ってきて、ライオンさんを撃とうとしました」
男「そして、それを止めようとした俺を撃ったんです」
男「ライオンさんはそれに怒って、二人をやっつけてくれたんです」
女「ライオンさんがやったことは正当防衛よ! なんの罪にもならないわ!」
裁判長「ふむふむ、なるほど……」
密猟者A「ケッ、なにいってやがる!」
密猟者B「俺たちは町にいた危険なライオンを駆除しようとしただけだ!」
密猟者A「そうそう! あの証人の男は流れ弾に当たっただけだ! 事故だ、事故!」
密猟者B「悪いのはライオンだ! ライオンを殺処分にしてくれえ!」
男「デタラメばかりいいやがって……!」
女「なんて奴らなの!?」
裁判長「……被告人、何か述べることは?」
ライオン「私が人間である彼らに暴力を振るったのは事実です」
ライオン「それについては、一切弁解するつもりはありません」
ライオン「また、人間社会に溶け込んでいる以上、私がやったことは許されるものではありません」
ライオン「しかし、私は正しいことをしたつもりです」
妻ライオン「あなた……」
子ライオン「ガル(お父ちゃん)……」
裁判長「判決を言い渡す」
裁判長「被告人(ライオン)にはサバンナへの強制送還及び獅子カフェの閉店を命じる!」
ライオン「…………」
密猟者A「ざまあああああ!」
密猟者B「ヒャッハー!」
密猟者A「カフェなんて開いてた奴が今さらサバンナに戻ったところで生きてけるわけがねえ!」
密猟者B「実質殺処分みたいなもんだなァ!」
裁判長「ただし」
裁判長「送還及び閉店の期間は一週間とする!」
密猟者A「なんだそりゃ!?」
密猟者B「ただの休暇じゃねえか! なんだこの判決! ふざけんな!」
裁判長「ああ、ちなみにお前らは有罪な」
裁判長「店内で猟銃ぶっ放して、しかも人に当てるとか、当分シャバに出れないと思え」
密猟者AB「いやああああああああああああああっ!!!」
男「よかったぁ……!」
女「あの裁判長、ライオンさんは悪くないってちゃんと分かってくれたのね!」
ライオン「ええ、真実を見極めてくれたようで嬉しいです」
ライオン「それじゃ、一週間ほど帰省してきます!」
男「行ってらっしゃい!」
女「サバンナ土産頼んだわよ~」
……
男「お正月から来ちゃいました」
女「あけましておめでとうございま~す」
ライオン「あけましておめでとうございます!」
妻ライオン「主人がいつもお世話になってます」
子ライオン「ガルッ」
男女(一家そろって晴れ着着てる……)
ピーヒャラ~ テケテンテン…
男「ん、この音は……?」
ライオン「ああ、今日は正月なんで、獅子舞を呼んでみたんですよ~!」
獅子舞「…………」カパッカパッ
男「獅子が獅子舞呼んでる……」
女「ライオンさんらしいわ……」
―おわり―