男「今さらだが仕事なんぞつまらん」
そんな当たり前の事を、男は吐いた。
男「これならパチンコでもしにいけば良かった」
仕事をサボることもできないくせに。
元スレ
男「人生やり直しスイッチ?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1361101138/
男は、友人はもちろん家族も恋人も居ない。
男「あの時もう少し勉強してればなー・・・」
高卒の男は、線路沿いのアパートまでとぼとぼ帰る。
ふとフェンスを見ると、胡散臭いチラシのなかにさらに胡散臭いものを見つけた。
男「現在キャンペーン中、データの採取に協力を」
チラシには、電話番号と会社の名前が書いてある。
男「夢の人生研究所・・・?」
男はさっそく電話した。
興奮のあまり、何を話していたのかはよく覚えていない。
男「とにかく実験の住所は分かった、まあ暇つぶしにはなるだろう」
男の楽しみはパチンコだけだったので、本人は嬉しそうである。
なけなしのお金でバスに乗り目的地に向かう。
男「えらく田舎のほうに来たな」
気がついたら山の小さな町である。
特に大きな建物もない。
男「こんなところに実験ができるとこなどあるのだろうか?」
男は少し不安になった。
電話で言われた住所に従い、着いた場所はただの平屋である。
男「なんだか逆におもしろくなってきたな」
男は呼び鈴を鳴らした。
すると、初老の男が玄関から現れた。
初老「君はチラシを見てここに来たのか?」
男「あ、そうです」
初老の男の目は嫌に目力があったので、男は当たり障りなく受け答えた。
コミュ障である。
初老「まあ、入れ」
初老は平屋のなかに入っていった。男もそれに続く。
男は一番奥の部屋に招かれた。
初老「今回試してもらうのは他でもない、人生やり直しスイッチだ」
男「人生やり直しスイッチ?」
漫画に出てきそうなくらい、安直な名前である。
そして、初老の手から黒いボールを渡された。
初老「これを握るときに、やり直したい時を思い浮かべるんだ」
男は半信半疑で握った。
とりあえず昨日パチンコに行った時を思い浮かべる。
男(胡散臭えぇえええええ!)
次の瞬間男は何も見えなくなった。
気がつけばじゃらじゃらじゃららと玉が溢れ出てくる。
男「本当にやり直せたのか・・・?」
昨日はボロ負けで、もうパチンコなんぞしないと思ったくらいなのに。
少し触っただけで、ボーナスに入った。
男「やった!」
思わずガッツポーズをした。
気がつくと平屋の一番奥の部屋に居た。
初老「やり直せたかい?」
男は心の底からうなずいた。
それからと言うもの、毎日パチンコをやり直した。
パチンコのために仕事もやめた。
しかし、ここで一つ疑問が出来た。
男「あの時、勉強をもっとしていればもっといい仕事をしてたのかな?」
男は黒いボールを握りこんだ。
見たことのある机に座っていた。実家の勉強机である。
そこには当時使っていた参考書などがあった。
男「もう一つランクの上の大学へ・・・!」
久しぶりの勉強に、楽しみすら覚えた。
男「それからいい大学に入った」
男「人生初の彼女もできた」
あとは前よりもいい会社に入るだけだ。
気がつけば男は平屋の一番奥の部屋にいた。
男「どおしてなんだよおおおおおおおおお!」
叫ばずにはいられない。
男「俺は!いい大学に入って!何人もの女の子にモテて!」
男「かわいい彼女もできて!いい会社ッ!しかも!大企業に入って!」
男「毎日パチンコして!」
頑張ってやり直したのに!
どうしてこの汚いパチンカスのままなんだ!?
すると初老が声をかけてきた。
初老「盛り上がってる最中、申し訳ない」
初老「これはやり直した夢を見る装置なんだ」
初老「だから君の現在も未来も変わらない」
初老「その証拠にスイッチを押してから一時間もたっていない」
男はギラギラした目で時計を見た。
初老「いや・・・未来は変わるかな?」
初老は部屋にある棚を開けた。
そこには白い粉が入った袋だったり、よく分からないキノコ。
変な形の草に、色とりどりの錠剤。
初老「普通に考えればそんなに都合のいい夢など見れるはずもない」
初老「しかし世の中には都合がいいものもあるのだよ」
初老は黒いボールをシュコシュコと押してみせた。
すると、黒いボールは霧吹きのように液体を噴出した。
初老「このなかには幻覚を見せる薬物が入っている」
まあ今のはただの水だが。と付け足した。
初老「さっきの棚のなかのものを上手く組み合わせると」
初老「自分に都合のいい夢もしくは幻覚が見える」
男はギラギラした目で初老を見つめ続ける。
男はとにかくもう一度パチンコがしたい。いい大学に行きたい。
かわいい女の子にモテたい。初めての彼女がほしい。
いい会社、大企業に入りたい。もう一度パチンコがしたい。
そんな事を思いながら、ギラギラした嫌に目力のある目で初老を見つめる。
そして初老は口を開いた。
初老「違法ドラッグの世界にようこそ」
男はもう一度、人生やり直しスイッチを押した。
初老は嫌に目力の強い目で、泡を吹いた男を見る。
そのとき部屋にチンピラが入ってきた。
チンピラ「パパご飯だよ、元気が出るようにしておいたからね!」
チンピラはめんどくさそうにカップラーメンを差し出す。
初老「やっぱり私の娘はいいこだなぁああ!!」
初老「しかも手作りのご飯なんてえぇ!!!」
初老「しかも家内の手作りなんですよおおお!!!」
そうだ、私は妻と娘と三人で暮らしていたんだ。
しかし、妻はもういない。娘もなんだか汚いチンピラに見えてきた。幸せだ。
とりあえず「人生やり直しスイッチ」を押した。
おわり