この駅の“キヨスクのおばちゃん”は只者ではない――
男「やべっ、電車来ちゃう! おばちゃん――」
おばちゃん「あいよ! 急ぐんだろ? はい、週刊誌とお茶!」サッ
男「えっ!」
男(なんで俺が欲しがってた商品を的確に……)
男「あっ、だけどお金――」アセアセ
おばちゃん「ついでに代金は財布から抜いといたよ」
男「ど、ども……」
男(熟練のスリも真っ青のテクニックだ……)
元スレ
キヨスクのおばちゃん「痴漢ならあたしにしなっ!」痴漢「は、はいっ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1544455094/
OL「…………」
痴漢(いいケツしてやがる……ちょっと触ってやろ)グヒヒ…
おばちゃん「ちょいと待ちな、あんた!」
痴漢「!?」ビクッ
おばちゃん「あんた、痴漢しようとしてたろう」
痴漢「な、なんで分かった!?」
おばちゃん「あたしが何十年、この駅に勤めてると思ってんだい!」
おばちゃん「痴漢ならあたしにしなっ!」
痴漢「は、はいぃっ!」
痴漢「ど、どうですか?」ナデナデ
おばちゃん「全然ダメ!」
痴漢「こ、こう?」ナデナデ
おばちゃん「そんなんじゃ、あたしの尻は満足しないよぉっ!」
おばちゃん「さあ、満足させるまで何時間でも痴漢してもらうからねえ!」
痴漢「ひえええええ……!」
通行人(すげえ、あのおばちゃんまた痴漢を満喫してる……)
新入社員「はぁ~……」
新入社員(会社、行きたくないなぁ……)
新入社員(毎日満員電車に揺られ、上司に怒鳴られ、先輩の顔色をうかがい、夜遅くに帰宅……)
新入社員(社会人ってなんてつらいんだろう……)
おばちゃん「ちょいとあんた」
新入社員「?」
おばちゃん「これ飲みな」サッ
新入社員「これは……栄養ドリンク?」
新入社員(こんなの飲んだって気休めにしか……)グビグビ…
新入社員「――むふっ」
新入社員「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
新入社員「みるみる元気が湧いてきたああああああああああああ!!!!!」
新入社員「上司がなんだ! 先輩がなんだ! うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
新入社員「今の俺なら100時間怒られようとビクともしねえええええええ!!!!!」
新入社員「ありがとう、おばちゃんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」
おばちゃん「頑張ってきな」
夜――
男「ビールちょうだい」
おばちゃん「あいよ」
男「……うめぇ~!」
おっさん「冷や酒くれや」
おばちゃん「あいよ」
おっさん「体があったまるぜぇ……」
男(こうやって、駅で飲む酒もまた格別だよな)
コート男「バーボンくれ」
おばちゃん「あいよ!」
男(バーボンまであるんだ)
貴族「ロマネコンティを頂こう」
おばちゃん「あいよ~」
男(え!?)
猿「猿酒くれ」ウキッ
おばちゃん「あいよ」
男「あんの!?」
男「このキヨスクはなんでもあるんだね」
おばちゃん「まあね。売れるもんはなんでも売るのがあたしの信条さね」
おばちゃん「売りたくないもんといったら、媚びぐらいのもんかねえ」
男(たしかにおばちゃんが媚びを売ってる姿は想像できない)
男「だったらさ……」
男「もし俺が、おばちゃんをくれっていったらどうなんの?」
おばちゃん「ほう……」
おばちゃん「あいよ」サッ
男(捺印済みの婚姻届……!)
おばちゃん「さ、どうするね?」グフフッ
男「…………」
男「遠慮しときます」
おばちゃん「チッ!」
駅員「起きて下さい!」ユサユサ…
酔っ払い「ウイ~……」
駅員「参ったな……全然起きないや。ほっとくわけにもいかないし……」
おばちゃん「おやおや、酔っ払いにも困ったもんだねえ」
おばちゃん「だったらあたしが添い寝してやるよ」ゴロン…
酔っ払い「目が覚めました!」シャキーン
おばちゃん「チッ!」
ある日――
アナウンス『まもなくドアが閉まります。ご注意ください……』
会社員A「あー……乗れなかった」
会社員B「仕方ない、次のを待とう」
俊足男(クックック……)
俊足男(俺の乗車タイムはここから! ギリギリでなきゃ意味がない!)
俊足男「よーい、ドンッ!」ダダダダダッ
男(は、速いッ! あれなら乗れちゃいそうだ!)
おばちゃん「おっとぉ」サッ
俊足男「!」
おばちゃん「駆け込み乗車は禁止だよ!」
俊足男「出たなおばちゃん! 今日こそ抜いてやるッ!」バババババッ
男(なんてフットワークだ! 残像が見えるほどだ!)
おばちゃん「甘いッ!」ズザァァァァ
俊足男「ぐはぁぁぁぁぁ!」ドテッ
おばちゃん「あたしの目が黒いうちは、駆け込み乗車なんてしゃらくさいマネさせないよ!」
俊足男「また……負けちまった……」ガクッ
駅長「うおっほん!」
男(出た駅長! ここの駅長は体が大きくて、態度はそれ以上に大きいんだよな……)
駅員「駅長! おはようございます!」
駅長「なんだね、その挨拶は! 気合が入っとらんぞ! まったく……」ガミガミ…
駅員「す、すみません……」
男(虫の居所が悪かったんだろうな……気の毒に)
おばちゃん「ちょいとあんた!」
駅長「!」ビクッ
おばちゃん「まーた偉そうにして!」
おばちゃん「みんな、一生懸命働いてるだろうが!」
おばちゃん「ふんぞり返ってるだけのあんたが偉そうなクチ聞くんじゃないよ!」ガミガミ…
駅長「す、すみません……」
男(たとえ駅長といえど、おばちゃんには敵わないようだ……)
ドヨドヨ…
青年「大変だ! プラットホームに不審物が!」
おばちゃん「どれどれ……」
チッチッチッチッチッ…
おばちゃん「こりゃ時限爆弾だねえ。あと数十秒で爆発しちまうよ」
青年「なんですって!? それじゃ警察を呼んでも間に合わない!」
おばちゃん「ま、大した爆弾じゃない」
おばちゃん「あたしに任せときな」ズババババッ
青年「早い……なんて手つきだ……」
おばちゃん「ほら、解除できたよ」サッ
青年「おおっ!」
おばちゃん「ついでに爆弾魔も捕まえといた」サッ
爆弾魔「トホホ……」ガックリ
青年「えええええ!?」
アナウンス『人身事故の影響で、現在運転を見合わせております……』
ザワザワ… ドヨドヨ…
「いつまで見合わせてんだよー!」 「まだなのー!?」 「早く動いてくれ……」
「ふざけんなーっ!」 「この後約束があんだよ!」 「この辺ヒマ潰せる場所ないしよ~」
男(みんなイラついてるな……)
おばちゃん「…………」
おばちゃん「よぉし、あたしが一肌脱いでやる!」
男「おばちゃん!?」
おばちゃん「退屈してる利用者のみんなァ!」
おばちゃん「あたしのロックを聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
男「よりによってロックかよ!?」
おばちゃん「イエェェェェェェイ!!!!!」
おばちゃん「駅にたたずむ静かなオアシス! それがキヨスクゥ!!!」
おばちゃん「今日もキヨスク! 明日もキヨスク! 気安く立ち寄りなァァァァァ!!!」
おばちゃん「センキューッ!!!!!」
ワアァァァァァ……!!!
ウオオオォォォォォォ……!!!
男(あれだけ苛立ちに満ちていたプラットホームが、今やライブ会場ばりの熱気に満ちている!)
男「いいぞ、おばちゃーん!」
そう、この駅ではおばちゃんは無敵――
キヨスクのおばちゃんの不敗神話はいつまでも続くと思われた――
あの事件が起こるまでは――
幼女「ママー! 下に線路があるよ、線路ー!」
母「!」
母「コラ、落ちちゃうわよ! 早くこっちに来なさい!」
幼女「線路、さわりたーい!」
幼女「きゃっ」ドテッ
幼女「いたたたたた……」
母「キャーッ!!!」
男(子供が線路に落ちた! もう電車が来るのに!)
おばちゃん「あたしが助ける!」ダッ
男「おばちゃん!」
おばちゃん「とうっ!」バッ
男(ためらいなく線路に飛び降りた!)
おばちゃん「ほれっ」ヒョイッ
幼女「わっ」
母「ありがとうございます!」ガシッ
男(さすがおばちゃん、子供を助けたぞ! だけどもう、電車が来ちまう!)
ゴオォォォォォ……!
ゴオオオオオオオオオオオ……!!!
キキキキキキィィィィィ……!
男「おばちゃん……」
男「おばちゃああああああああああああああああああん……!!!」
ザワザワ… ドヨドヨ…
男「なんて、ことだ……」
男「キヨスクのおばちゃんが……!」
男(いくら無敵のおばちゃんでも、電車に轢かれたらさすがに……!)
「い、いや……! あそこを見ろ!」
おばちゃん「ふぅ……とっさに運転席に避難して助かったよ」
運転士「いつの間に……!?」
オオオオオ……!
男「すげえええええええええええ!!!」
男(すげえや……やっぱりこの駅では、おばちゃんは無敵だ! 最強だ! 不敗なんだ!)
母「ありがとうございました……!」
幼女「ありがとう、おばちゃん!」
おばちゃん「なぁに、あたしはキヨスクの店員として当然のことをしたまでさ」
おばちゃん「怖かっただろう。ガムあげるよ」
幼女「ありがとー!」
幼女「ところで、おばちゃん」
おばちゃん「なんだい?」
幼女「キヨスクってなんで“キヨスク”っていうの?」
おばちゃん「…………」
男(たしか元はトルコ語で……)
おばちゃん「ごめんねえええええ! おばちゃんも知らないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
男(今この瞬間、おばちゃん不敗神話が崩れた……!)
― 完 ―