居間――
父「いらっしゃい」
母「あけましておめでとう」
親戚「あけましておめでとうございます」
ガキ「おめでとうございまーす!」
男「……」
元スレ
親戚のガキ「おとし玉ちょーだい」男「一銭もやるものかぁっ!!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1483370854/
ガキ「ふむふむ……」ペラペラ…
母「あら、なにを読んでるの?」
親戚「宇宙の本です。この子、宇宙に興味があって……」
父「へぇ~、すごいな」
母「まだ小さいのにね……勉強熱心ねえ……優秀なお子さんねえ……」チラッ
男(俺を見るな!)
親戚「自分で宇宙人と交信するために、機械を組み立てて電波を発したりもしてるんですよ」
母「まぁっ、すごい!」
父「宇宙人、いるといいねえ」
ガキ「宇宙人はいるよ!」
父「そうだね、宇宙は広いんだから、きっといるさ!」
母「将来は宇宙飛行士ね!」
男(ケッ、とんだ電波クソガキじゃねえか)
ガキ「……」チラッ
男「!」ギクッ
ガキ「……」スタスタ
男(こいつ……まさか!)
ガキ「おじさん」
男(まだおじさんなんて年じゃないのに……!)
男「……なんだい?」
ガキ「おとし玉ちょーだい」
男(やっぱり!)
ガキ「ちょーだい」
男「うぐっ……!」
男「やるものか……」
ガキ「へ?」
男「やるものかぁっ! 一銭もやるものかぁっ!!!」タタタッ
父「コラッ!」
母「待ちなさい!」
部屋――
バタンッ!
男「ハァ、ハァ……こうやって閉じこもっておけば……」
ガキ「ちょーだい! ちょーだい!」ドンドンドン
男「やらねーっていってんだろ!」
ガキ「どうしてもくれないの?」
男「ああ、しがないフリーターにお年玉をやる余裕はねえよ」
男「俺のオヤジとお袋からもらいな」
ガキ「だったら部屋に入るけどいい?」
男「入れるわけねーだろ!」
ガキ「いや、入れるんだな、それが」
男「……は!?」
男(入れるわけねえ! こうやってドアノブをがっちり押さえとけば……!)グッ…
ガキ「おじさん、おじさん」
男「あん?」
ガキ「ぼくは後ろだよ」
男「なっ……何ィィィィィッ!?」
男「て、てめえっ! どうやって、この部屋に入りやがった!? 窓からか!?」
ガキ「そんなことどうだっていいじゃん」
ガキ「おとし玉ちょーだい」
男「ぐっ……!」
男「やるもんか! 絶対やるもんかぁ!」タタタタタッ
男「うおおおおおおおおおおおおおお!」タタタタタッ
男(ついてきてるか?)チラッ
男(いない! そりゃそうだ、ついてこれるわけねえ!)ニヤッ
男(なにしろ俺の足の速さは100m12秒!)タタタタタッ
男(宇宙の本なんて読んでるあんなクソガキについてこられるわけねえんだ!)タタタタタッ
近所の公園――
男「ハァ、ハァ、ハァ……」
男「ここであの親戚が帰るまで、時間潰すとするか……ちと寒いけど」
ガキ「おとし玉ちょーだい」
男「!?」
男(俺は最短距離でここまで走ってきたはず! それなのになんで!?)
男(近道を知ってるとか!? いや……ありえねえ!)
男「なんで!? なんでここにいるんだよ!? どうやって追いついたんだよ!?」
ガキ「ねえねえ、おとし玉ちょーだい」
男「く、来るな……近寄るな……」ジリ…
ガキ「おとし玉ちょーだい」
男「……一銭だってやるものかぁっ!!!」タタタタタッ
男(足で撒けなかったんなら、バスだ!)
男(バスに乗ればついてこれねえだろ!)タタタタタッ
男「おっ、ちょうどバス停にバス来てる!」
男「乗ります乗ります!」
運転手「乗ってけドロボー!」
プシュー… バタン…
男「ふう、これで一安心だぜ」
次のバス停――
運転手「降りる人は足元に気を付けやがれよっ!」
プシュー…
男「さて……ここで昼飯でも食ってから帰るとするか」
ドンッ!
男「あ、すみませ――」
ガキ「……」ニコニコ
男「うわぁっ!?」
男「てめえ、このクソガキ! どうやってここまできやがった!」
ガキ「おとし玉ちょーだい」
男「ぐっ……!」
男(あげちまうか……!?)
男(なにも大金あげなきゃいけないってわけじゃないんだ。三千円ぐらいで済ませれば……)
男(いや、ここまで来たら意地だ!)
男「絶対に、ずぇったいに、やるもんかぁぁぁぁぁっ!!!」
レンタカーショップ――
店員「いらっしゃいませ」
男「レンタカーを貸してくれ!」
店員「かしこまりました!」
男(車で逃げられるところまで逃げまくってやる!)
ブロロロロ……
男(高速道路に入った……)
男(後ろからつけてくるような車もないな)チラッ
男(よし、いける!)
男(このままサービスエリアまで走って、夜まで大人しくしてりゃお年玉やらずに済む!)
サービスエリア――
男「ふう、着いた着いた」ガチャッ
男「ここでラーメンでも食いながら、のんびりしてれば……」
「おじさーん」
男「!?」ブフォッ
男「なんで……!? なんでいんだよ!?」
ガキ「おとし玉……ちょーだい」
男「ふ、ふざけんな! 絶対やらねえっていったろ!」
男「そうだ! きっとお前は俺が移動し続けてたら、追ってこれねえんだ!」
男「だったら、ずーっと車で走ってやる! そうすりゃお前にお年玉あげずに済む! ざまあみろ!」
ブロロロロ……
男「こうなったら、ガソリンがなくなるまで走り続けてやる……!」
ガキ「残念だけど、おじさん」
男「!?」ギョッ
ガキ「ぼくからは逃げられないよ」ニコッ
男(助手席に……! 走り出した時はいなかったのに……いつの間に!?)
男「うわぁぁぁぁぁっ!」ギュルッ
ギュルルルッ!
男(やべっ、ハンドル急に切ったらスリップした!)
男「うわぁぁぁぁぁ、死ぬ――」
ガキ「しょうがないなぁ」
ガキ「この車ごと……どこか広いとこへワープ!」ポチッ
海岸――
パッ!
男「あ、あれ……?」
男(俺はたしか高速道路で事故ったはずじゃ……)
ガキ「……」
男「あっ、ガキもいる! お前、何しやがったんだ!?」
ガキ「車ごとワープさせたんだよ」
男「ワープ……? 車ごと……? どういうことだ……?」
男「まさかお前……瞬間移動の能力者か!?」
ガキ「違うよ、この装置を使ったんだよ」
男「なんだそりゃ」
ガキ「宇宙人からもらった、ワープ装置だよ」
男「なん……だと……!?」
男「宇宙人って……ハハハ、まさか、いるわけがない!」
ガキ「それが……いたんだよ」
男「証拠見せてみろよ!」
ガキ「このワープ装置がなによりの証拠だと思うけど?」
男「宇宙人なんてありえねえ! どうせ自作したんだろ!?」
ガキ「小学生がワープ装置を自作できる確率と、宇宙人がいる確率――」
ガキ「どっちもありえない具合では大差ないと思うけど」
男「うぐっ……たしかに」
男「そうか、これでワープして俺を追いまわしてたんだな!」
男「こんな装置まで使って、そんなに金が欲しいのか、このクソガキ!」
ガキ「お金? そんなものいらないよ。お小遣いには不自由してないし」
男「へ?」
ガキ「ぼくが欲しいのは……おとし玉さ」
男「ど、どういうことだ!?」
ガキ「ぼくのもとに現れた宇宙人は、こういったんだ」
宇宙人A『前々から我々はこの星に目をつけていたんだ』
宇宙人A『そして、この星から電波を発していた君のもとへ降り立った』
宇宙人B『小僧、このワープ装置を貸してやるから、この星で一番の美女を連れてこい!』
ガキ「……ってね」
ガキ「だけど、一番の美女を連れてったら、その人がどうなるかは明白」
ガキ「それどころか、あいつらが地球を気に入っちゃって、地球そのものが危なくなる」
ガキ「ここまでいえば、もう分かるでしょ?」
男「……分かったぜ!」
男「つまり、こういうことだろ!?」ボトボトッ
女「俺の二つのタマを落とせ、と!」シャキーン
ガキ「その通り!」
女「さあ、その宇宙人とやらのところに連れていけ!」
ガキ「ありがとう、おじさん!」
円盤――
宇宙人A「……」
宇宙人B「遅いな……なにやってんだ、あの小僧!」
宇宙人A「いや……来たぞ!」
宇宙人B「おおっ!」
ガキ「遅くなってごめんなさい!」
宇宙人A「ずいぶんかかったな」
宇宙人B「で、地球一の美女ってのはどいつだ?」
ガキ「この人だよ!」
女「うふ~ん、あはぁ~ん」
宇宙人AB「え”」
女「お兄さんたち、抱いてぇ~ん」
宇宙人A「な、なんだこの不細工は!? 色んな種族を抱いてきたが、こんなブス見たことない!」
宇宙人B「うえっ……吐き気がしてきた」
宇宙人A「お前、これ抱けるか?」
宇宙人B「ムリムリムリ! 10万エリアンあげるっていわれてもムリ!」
宇宙人A「だよね……」
※エリアン…宇宙における通貨単位。
10万エリアンは日本における1000万円に相当する。
宇宙人A「もういい! こんな星、二度と来るもんか!」
宇宙人B「ああ! 絶対来ねえ!」
宇宙人A「さらばだ! あ、ワープ装置は返してもらうからな!」サッ
ビューンッ!
ガキ「……」
女「……」
女「タマをつけて……」カチャッ
男「よっと」シャキーン
男「……終わったな」
ガキ「うん、これで地球は救われたんだ」
ガキ「おじさんの“おとし玉”のおかげでね」
男「へっ……しかも黄金だぜ」
男「おいガキ」
ガキ「なに?」
男「ほら、一万円」サッ
ガキ「え? ぼく、お年玉はいらないって――」
男「お年玉じゃねえよ」
男「地球を救ったヒーローに対するお駄賃さ」ニヤッ
おわり