釣り人「おう、五郎ちゃん! 今日は釣れたかい?」
男「いや、全然ダメだったよ。魚なんかかかりゃしない!」
男「あーあ、ただ待ってるだけでご飯にありつける方法、何かないかなぁ」スタスタ
男「ってあるわけねーか」スタスタ
男「ん?」
ウサギA「……」ピョンピョン
ガンッ!
バタッ…
男(切り株にウサギが激突して死んだ……)
男「やったぜ! ウサギが手に入った!」
元スレ
男「切り株にウサギがぶつかるのを待ってたらウサギがどんどんぶつかってきて困る」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1546442601/
男「焼くもよし、煮るもよし、今夜はご馳走だな。さて、帰るか」
男(いや、待て待て。もしかしたら、また今みたいなことが起こるかも……)
男(もうちょっと待ってみるか)
ウサギB「……」ピョンピョン
ゴッ!
ドサッ…
男「よっしゃあ! まただ! 今日はツイてる!」
男「ウサギ二羽か……これで数日は暮らせそうだ」
男(もうちょっと待ってみるか? いや、いくらなんでも――)
ウサギC「……」ピョンピョン
ゴキッ!
ボトッ…
男「またかよ!?」
ウサギD「……」ピョンピョン
男(また来た! あいつも切り株めがけて走ってやがる!)
ウサギD「……」ピョンピョン
男「おーい、危ねえぞ! ぶつかるぞ!」
ドゴッ!
ボテッ…
男「これで四回目……! 一体なにが起こってるんだ!?」
ウサギ「……」ピョンピョン
男「またウサギだ!」
男「こいつら何がしたいんだ!? 集団自殺でもしてるのか!?」
ウサギ「と、止まらない……!」ピョンピョン
男「え!?」
ウサギ「きゃああああっ! ぶつかるぅ!」ピョーンッ
ドゴッ!
男「ぐっ……!」
ウサギ「……!」
ウサギ「あなたが……体を張って止めて下さったのですか。ありがとうございます」
男「あ、いや……」
男(つい咄嗟にウサギを助けてしまった……)
男(一回や二回ならいいけど、さすがにこう何度も続くと不気味だしな。放っておけなかった)
男「とりあえず、これ以上ウサギは来ないようだな」
男「これはなんなんだ? お前らウサギは何がしたいんだ?」
ウサギ「それが……私にも分からないのです」
ウサギ「ここ最近、私たちウサギの仲間が何羽も何羽もあの切り株にぶつかっては死んでいるのです」
男「今日だけじゃないのか!」
ウサギ「今日は私たちが調査に向かったのですが、あの切り株に近づいたとたん……」
男「まるで自殺でもするようにぶつかっていってしまったわけか」
ウサギ「はい……」
男「あの切り株、何かあるな……」
男「と、その前にこのぶつかった仲間たちを埋葬してやろう」
ウサギ「ありがとうございます!」
男(あーあ、晩飯にするはずが……何やってんだろ俺)
男「うーん……」
ウサギ「いかがです?」
男「切り株自体におかしいところはないなぁ……」
ウサギ「そうですか……」
男「ちょっと掘ってみるか」
ウサギ「え、掘る?」
男「うん、この下にウサギを引き寄せる何かが埋まってるのかもしれないし」
ザクッ… ザクッ… ザクッ…
男「……」ザクッ
ウサギ「……どうでしょうか?」
男「お?」カチン
男「なんか……骨が出てきたぞ」
ウサギ「骨?」
男「ああ……小さい動物の骨だ」
ウサギ「まさか、ウサギの?」
男「いや、ウサギじゃないな……なんだろ? どこかで見たことはあるんだが……」
ゴゴゴゴゴ…
男「!」
ウサギ「!」
“俺の眠りを妨げる奴は誰だぁ……?”
“俺の怨念を邪魔しようとする奴は誰だぁ……?”
“てめえらか……ぶっ殺してやる!”
ボコボコッ
男「骨が勝手に動き出した……!」
ウサギ「ひいいいい……!」
ボコボコッ
メキメキ… メキメキ…
男「これは……この骨格は……!」
男「――タヌキ!」
男「そうか、分かったぞ! お前はカチカチ山のタヌキか!」
骨ダヌキ「その通りだぁ!!!」
骨ダヌキ「俺はかつて、ウサギによって散々な目にあわされ、最終的に溺れて死んじまった」
骨ダヌキ「死んだ俺の体は流され、地上に漂着し、土に埋もれた」
骨ダヌキ「やがて、俺が埋まった地点に木が生え、伐採され切り株となった」
骨ダヌキ「俺は地中から怨念の力でこの切り株に強烈な吸引力を与え」
骨ダヌキ「次々とウサギを激突させてったというわけだ! 復讐のためにな!」
男「……で、俺が掘り返しちまった、と」
骨ダヌキ「そうだ! せっかくの楽しい復讐を邪魔しやがって……」
男「復讐って、お前を殺したウサギと今を生きてるウサギは全然無関係だろ!」
骨ダヌキ「無関係? いーや、違うね!」
骨ダヌキ「ウサギという時点でそれは罪! ウサギを絶滅させるまで俺の復讐は終わらねえ!」
男「このクズ野郎が……!」
骨ダヌキ「クズぅ?」
骨ダヌキ「お前らはすぐに藻屑になるんだよ!」
骨ダヌキ「俺の手によってなァ!」ズズズ…
ザバァァァァァァッ!!!
男「み、水……!?」
ウサギ「ものすごい量の水を生み出したわ!」
骨ダヌキ「溺れ死に、ずっと水ん中を漂ってたせいか、怨念パワーを全開にした俺は」
骨ダヌキ「水を自在に操ることができる!」
骨ダヌキ「二匹まとめて溺れ死ねぇぇぇっ!!!」
ドバァァァァァッ!!!
ザバァァァァァッ! ドバァァァァァッ!
骨ダヌキ「この津波のような激流に飲まれたら、ひとたまりも――」
骨ダヌキ「――な!?」
男「しっかりつかまってろよ!」バシャバシャ
ウサギ「はいっ!」
バシャバシャ… バシャバシャ…
骨ダヌキ(こいつ……この激流を泳いでやがる!)
男「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
骨ダヌキ「信じられねえ……魚か、てめえ!?」
男「腕はイマイチとはいえ、これでも釣り人だからな。泳ぎは達者なんだよ」
骨ダヌキ「……!」
男「さすがにもう、あんな大量の水を繰り出す力は残ってないよな? 俺の勝ちだ!」
骨ダヌキ「そういや、この近くには海があったよな?」
男「? ……それがどうした?」
骨ダヌキ「ここらへんの地面……よく濡れて泥になってやがるな」
男「なんだ? なんの話をしてるんだ!?」
骨ダヌキ「こういうことさァ!!!」
ズモモモモモッ!
男「!?」
ウサギ「きゃっ!」
ギュウッ…
男(泥が……俺たちを包み込んで……。泥団子のように……!)
骨ダヌキ「へへへへへ……これでもう動けねえ!」
骨ダヌキ「あとは泥団子になったお前らを海に放り込めば、お前らは海底に沈む!」
骨ダヌキ「俺が味わったあの地獄を、てめえらも体験するがいいぜ!」
骨ダヌキ「あばよ!」ポイッ
バシャーンッ!
ブクブクブク… ブクブクブク…
ウサギ(沈む……沈んでいく……!)ゴボゴボッ
ウサギ(だけど、海に入ったおかげで、固められてた泥が柔らかくなってる!)
ウサギ(これならあなたなら逃げられます! あなただけでも……!)
男(心配するな)
ウサギ(え?)
男(俺のご先祖様は、もっともっと深い海の底から生還した人なんだ)
ウサギ(表情が変わった――)
男(久々に……本気出すか!)
骨ダヌキ「これで奴らは海の底だ……」
骨ダヌキ「そうだ、せっかくこうして掘り起こしてもらえたんだ……」
骨ダヌキ「もうあんな切り株なんぞに頼らず、俺の手で直接ウサギを殺しまくってやるぜ!」
骨ダヌキ「で、いつだったかのババアみてえに汁にして食ってやる!」
骨ダヌキ「ギャハハハハハハハハハハハッ!!!」
ゴボゴボゴボ…
骨ダヌキ「――は?」
骨ダヌキ「ま、まさか……!」
ゴボゴボゴボゴボゴボ…
ザバァァァァッ!!!
男「ふうっ……泳ぎ切れた」
ウサギ「すごいです……」
骨ダヌキ「な……!? なにィィィィィ!?」
骨ダヌキ「なんなんだお前……いったい何者だァ!?」
男「教えてやろう」
男「俺の名は浦島五郎……浦島太郎を初代とすると五代目ってとこかな」
骨ダヌキ「浦島……! 聞いたことがある……竜宮城から生還したっていうあの英雄か!」
ウサギ「あなたは子孫だったなんて……!」
男「そして――」
男「初代は玉手箱を開けてしまい老人になってしまったが、おかげで身に付き、代々伝わる能力がある」
骨ダヌキ「能力……!?」
男「それがこの――“玉手煙”だ!」
男「ふぅーっ!」モクモクモクモクモク…
骨ダヌキ「な、なんだこの煙は!?」モワモワモワモワ…
骨ダヌキ「!?」ボロッ…
骨ダヌキ「ひいいっ! 俺の体が……朽ちていく!」ボロ…ボロ…
男「その煙には浴びた者を老化させる力がある。たとえ怨霊だろうと老化させる」
骨ダヌキ「うわぁぁぁぁぁっ!」ボロボロ…
男「あまりに強力で凶悪だから、一族の掟でめったなことでは使用を禁じられているが――」
男「今回は使わせてもらった」
骨ダヌキ「ひえぇぇぇぇっ! た、助けてくれぇぇ……!」ボロボロボロ…
男「成仏しろ……古狸」
骨ダヌキ「おお……おおおお……!」グズグズグズ…
ブスブスブスブス…
ウサギ「ありがとうございました! これでこれ以上、ウサギが死ぬことはないでしょう……」
ウサギ「このお礼は必ず……」
男「いや、気にしないでくれ」
男「俺だってこんな異常事態じゃなきゃ、労せずしてウサギを手に入れられたって喜んでただろうから」
男「それじゃ」スタスタ
男「はぁ……今日の晩飯どうしよ」ガクッ
……
…………
男「あーあ、今日もほとんど魚が釣れなかったなー」
男(おっ、これはあの切り株だ。そういやタヌキは退治したが、これはそのままだったな)
男(また動物がぶつからないかなー、なんて期待して待ってみたりして……)
男「……」
男「……」
男(んなことあるわけないか)
美女「あのう……」
男「はい?」
男(誰だこの人?)
美女「浦島五郎さん、ですよね?」
男「ええ、そうですが」
美女「よかった! ここに来ればまた会えると思っていました! 恩返しに来ました!」
男「? 俺に、あなたのような美人の知り合いはいませんよ?」
美女「あっ、そうですよね。名乗らないといけませんね」
美女「私はウサギです。あの時、あなたに助けていただいたウサギです!」
男「ああ、あの時の……!」
美女「あなたに恩返ししたいと強く願ったら、神様に人間にして頂くことができたのです」
男(“鶴の恩返し”ならぬ“兎の恩返し”というわけか)
男「へえ~、これだけ美人だってことは、ウサギとしても相当美人だったんだろうな」
美女「やだ……もうっ! 浦島さんったら!」
美女「私、これでも自前で野菜を作っておりまして、料理も得意なんです」
美女「だから、これからはあなたのご飯は私が用意いたしますね!」
男「そりゃありがたい!」
男(どうやら俺は、この切り株で待ってたおかげでご飯にありつくことができたようだ)
おわり