隊長「魔王討伐?」
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77 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:50:13.26 ooAlurkw0 1005/1103


────□□□□□...!!

不気味なほどに神聖な雰囲気が醸し出す。

見た目はただの人間だというのに。


隊長「久しいな、魔術師...いや、今は魔王妃か...」


魔王妃「...黙れ、偽りの勇者が...どうせその記憶も、奪い去った勇者のモノだろう?」


隊長「まぁ...そうなるな」


見た目は隊長だというのにその声は違っていた。

男にしてはやや女々しく、女にしては少しサバサバしすぎている。

この中性的な声色の持ち主こそ勇者であった。


ドッペル「...とっとと出てってもらおうか、俺の住処だぞ」


隊長「そういうな...先に寝床にしていたのは私のほうだ」


ドッペル「チッ...いつから居座っているんだ?」


隊長「答えるつもりはない...」


どこか無気力で掴みどころのないその口調。

その底知れぬ存在感に、野生動物は警戒心を高めていた。

それをみた彼のような者は声を投げかけた。


隊長「そう警戒するなウルフ...今まで一緒に過ごしてきただろう?」


ウルフ「...っ!」


魔王妃「耳を傾けないでください、あれはこちらを混乱させようとするだけの話術です」


隊長「...ひどいな、ご主人とその女のどちらを信用するつもりだ?」


魔女「ちょっと、ウルフを惑わさせないでちょうだい」


そう言うと彼女はウルフの前に立った。

その眼差しはとても鋭く、愛するものに向けるものではない。

魔女にはあのような小賢しい話術など効かない。


隊長「...随分と嫌われたものだ」


魔女「そりゃそうよ、あんたはあなたじゃないんだから」


隊長「要所々々で手を貸したじゃないか...光の属性付与で」


魔女「それはどうも、でも出てってもらうから」


魔王妃「...それにその光魔法は元々勇者のモノです、我が物顔をするな」

78 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:51:59.12 ooAlurkw0 1006/1103


隊長「...ならば、これならどうだ■■■■■■」


──■■■■■■■■■■■■...

突如現れたのは闇。

これが過去の勇者を侵しつくした邪悪な代物。

魔王のモノとは比較にならない、それはどのような意味を持つのか。


魔王妃「──こんな粗末な闇に勇者は飲まれたのですか...」


比較にならないというのは格下という意味であった。

しかし闇を侮ってはいない、それ故に勇者は乗っ取られた。

ここには光魔法を放つことのできる者はいない、なおさらだった。


隊長「...その粗末な闇に抵抗策がないのは辛いだろうな」


ドッペル「──そうはいかないぞ?」


──■■■■■...ッッ!!

隊長が放った闇にどこからか生まれた闇がぶつかり合う。

上位属性同士の相殺、これだけでは決して決着などつくことができない。

だがここには黒以外の色が多々ある。


魔女「──でかしたわよっ! 初めて褒めてあげるわっ!!」


ウルフ「────っっ!!」ダッ


ウルフが隊長に向けて走り出す。

そして魔女がそれを援護する体制に。

隊長の姿を借りし者は、その光景を不思議に思っていた。


隊長「...闇に突入するつもりか?」


魔王妃「────"風魔法"...」


──ヒュンッ!

1つの風切り音が摩天楼に響く。

彼女は見逃さなかった、わずか一瞬だが闇がウルフらに気を取られたのを。


隊長「──やはり揺動だな、"光魔法"」


────□□□□□□□...

闇は消え失せ、圧倒的な質を誇る光が即座に生まれる。

過去の魔王を追い詰めたこの白い魔法、それがどれだけ恐ろしいモノか。

魔王妃の作り出した疾風はまるでそよ風のような威力に。

79 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:53:58.75 ooAlurkw0 1007/1103


ウルフ「──うっ...!?」フラッ


魔女「まずい...光の威力が高すぎる...っ」


威力とは殺傷性のことではない。

あの偽物の勇者が作り出したわずかな閃光は辺りを一瞬で通過した。

それだけだというのに、魔物の身体は悲鳴を上げる。


魔王妃「──速すぎる、見えない...っ!」


ドッペル「避ける以前の問題だぞ...今のはッ!?」


己の意思に反して、身体が脱力する。

あのお粗末な闇の質とは反比例する光の質。

わずか一瞬でその光は地平線まで届き、そして魔物だけを封殺する。


ウルフ「────ッッ!!!」


──ガリィッ...!!

魔女、魔王妃、ドッペルが膝をつく中、彼女だけは違った。

舌を噛むことで己の精神を鼓舞させ、無理やりでも動こうとする。

そして可能にしたのは指先の動きだった。


隊長「────なに、動けるのか」


──ダンッ...!!

4人の魔物の中で一番立場が弱い者と認識していた。

実際にそうだった、ウルフは魔女ほどに魔法も使えずドッペルゲンガーのように闇を扱えない。

そして魔王妃のような圧倒的な魔力も持っていない、だがそれが故に偽の勇者はまともに喰らってしまっていた。


隊長「──グッ...ここまでの威力なのか...この武器は...ッ!!」スチャ


腹部に感じる激痛、初めて身に受ける異世界の武器。

今まで隊長越しに見ていたこの銃というモノを初めて身に受ける。

だからこそ同じく彼女もコレをウルフに向けていた。


魔女「──ウルフっ! 避けれるっ!?」


ウルフ「ごめん...無理...」


ドッペル「──チッ! あの狼を失うのは痛いぞ、なんとかできないかッ!?」


魔王妃「それができてればもうやってます..."転移魔法"」


しかし彼女の魔法は不発に終わる。

今現在は光が出ていないというのにまだ魔王妃の魔力は回復していない。

圧倒的な白き閃光が、ここまで身体に残るとは計算外であった。

80 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:55:41.52 ooAlurkw0 1008/1103


隊長「...くたばれ」


ウルフ「──ッ...」


今までご主人と呼ばれ慕われた者が発していいモノではなかった。

冷たすぎるその言葉、そして続くのは銃撃音。

ウルフに向けられたアサルトライフルが牙を向く。


魔女「────ウルフっっっ!!」


────ドシュンッ...!

その音は、どこから聞こえた。

明らかにこの激戦の場に居いない、遥か遠くからこだました。

鈍すぎるその重低音は隊長の持っているモノだけを完全に狙撃する。


隊長「──な...どこからだッ!?」


この光景は人格を奪う前の隊長の内部精神から見ていたというのに。

この魔物には銃の知識はない、アンチマテリアルが可能とする射撃距離を知らない。

だからこそこの攻撃を予測できずにいた、いつの間にか身を隠していた隊員による一撃を。


魔女「...最高ね、隊員さん」


魔王妃「──"転移魔法"」


そしてこの女の魔力は、わずかに復活をする。

そのわずかで、難しいと言われているはずのこの魔法を簡単に熟していた。

光の影響が未だに抜けないウルフを自らの懐に呼ぶ。


隊長「──"光魔法"」


ドッペル「──身を隠せ、闇で時間を作る■■■■■■」


──□□□□□ッッ!!

────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!

粗悪な闇が光に飲み込まれる。

わずか一瞬で黒の防壁は崩れ去ってしまう。

だがこの局面で、一瞬でも時間を稼げるのなら十分であった。


魔王妃「──"転移魔法"」


────シュンッ!

身体がどこかへ消える音が響く、それも4つも重なっている。

彼女が可能としたのは4人同時の瞬間移動、そして魔物たちは後方にあるモノに身を隠す。

81 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:57:05.70 ooAlurkw0 1009/1103


魔王妃「...この世界は障害物が沢山あっていいですね」


魔女「これ...車ね...それもとても大きな」


ドッペル「驚いた...まさか数カ所に別れている複数人を同時に瞬間移動させるとは...」


ウルフ「────見てっ! 光がっ!」


彼らが身を隠したのは乗り捨てられた大型のトラック。

光魔法自体には殺傷性はない、つまり魔力が介さないモノの前では無力。

偽の勇者が放った光はトラックを貫通させることができず、ただ地平線へと向かうだけだった。


魔王妃「...恐らく次は闇魔法が来ます、この障害物を破壊するために」


ドッペル「そうだろうな、俺ならそうする」


魔女「...闇はドッペルゲンガーが相殺できたとしても、さっきのアレみたでしょ?」


アレとは一体なんのことなのか。

それは魔法を唱えられるモノだけにしかわからない。

先程の光魔法、圧倒的だったのは質と範囲だけではない。


ドッペル「...1秒にも満たずに、唱えていたな」


魔王妃「...あの子が得意だったのは、超高速詠唱とその圧倒的な質を誇る光魔法です」


魔王妃「それが故に...過去の魔王...歴代最強の魔王を相手に意表をつけたのです」


魔女「...まずいわね、わずか一瞬でも隙を与えたら魔物の私たちは完封されるわ」


魔女「だからといって光に抗える人間の隊員さんを前線に立たせる訳にもいかないわ」


ドッペル「...同感だ、どこからでも狙撃が出来るという強みが俺たちにもない、この手札を明かすのは愚策だ」


ドッペル「それはこの狼も同じだ、遊撃じみたあの動きは絶対に要となる」


ウルフ「...」


託されているのは現代兵器。

桁違いの魔法に抗えるのはこれしかない。

隊員の持つアンチマテリアル、そしてウルフの持つハンドガンが鍵。


魔王妃「そうですね...あの武器たちで意表を突くしかありません」


魔王妃「この武器には詠唱が必要ありません、偽勇者の超高速詠唱なんて目ではないですから」

82 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 08:58:48.40 ooAlurkw0 1010/1103


魔女「意表...ねぇ...」


ドッペル「...どうかしたか?」


魔女「...ねぇ、1つ提案なんだけ────」ピクッ


ドッペル「...は?」


彼女がドッペルゲンガーに何かを伝えた。

だがそれと同時に察知したのは、黒の気配。

大型のトラック越しに聞こえたのは、闇の詠唱。


隊長「────"闇魔法"■■■」


──■■■■■■■■■■■■...ッッッ!!

お粗末とは言っても、歴とした闇。

ただの物質であるトラックなど簡単に破壊できる。

隠れ蓑を失った者たちは一度逃げるしかない。


魔王妃「"転移──」


隊長「────"光魔法"」


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッッ!!

果たして歴代最強の魔王を討った者が、逃してくれるだろうか。

膨大な光が隊長の身体に纏わりつく、それが意味するのはなにか。

こちらがなにか対策をする時間すら与えてくれはしない。


魔王妃「────うっ...またですかっ!?」


ドッペル「──しま...ッッ!!」


魔力を持つものが次々と倒れ込む。

そもそもが無理な話であった、光に抗えるのは人間か魔王級の闇を持つ者。

だが前者は光以外の魔法の前では無力、後者はこの世界に居やしない。


魔女「──ぐっ...」


ウルフ「──うごけ...な...い...ッッッ!!」


今度ばかりは歯を食いしばっても動けない。

一撃を与えられただけ善戦できたと言える。

そして一番初めに目をつけられたのはウルフであった。


隊長「...さっきは良くもやってくれたな...できれば同じ武器でトドメをさしたかったが」


ウルフ「うぅ...」


本物の隊長がいつも持っていた武器はない。

正確に言うとその武器は元の形状を保っていなかった。

対物ライフルが狙ったのは隊長のアサルトライフルであった。

83 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:00:02.47 ooAlurkw0 1011/1103


隊長「残念ながら粉々だ...これが私の身に向けられていたと考えると恐ろしい...」


隊長「その小さな武器でさえ、激しい激痛が走ったというのに...」


隊長「...この世界は素晴らしい」


その顔つきはまるで侵略者。

この魔物もなにか野望があるに違いない。

そのような口ぶりであった、だが今はそれを考察している暇などない。


魔女「────ドッペルゲンガーっっっ!!」


彼女は力を振り絞る。

そしてようやくできたのは声を荒げること。

魔女は伝える、それがなにを意味をしているのかは彼にはわかっていた。


ドッペル「──正気かッ!? この局面でヤレというのかッ!?」


魔女「もうそれしかないわよっっ!! 早くっっ!!」


ドッペル「動けたらやっているッッ! クソッタレッッ!!」


魔王妃「ぐっ..."転移魔法"」


なにをするかはわからない、だが魔女はドッペルゲンガーを呼ぼうとしている。

ならばできるのはそれの援助、しかしそれは不発に終わる。

その様子を見ているはずだというのに偽の勇者は眺めているだけだった。


隊長「...無駄だ、何をしようともこの勇者の光の前では無力」


隊長「そうおもわないか? ウルフ」


ウルフ「...っっ!!」


憎たらしくてたまらない、同じ人物に名前を呼ばれているというのに。

いつもの逞しくて、頼れて、とても優しい男の声ではない。

同じ見た目だというのに、その事実にウルフは口から血を垂れ流してしまうほどに。


隊長「...さよなら、"闇魔法"■■■■」


そして唱えられたのは、極めて小さい闇。

だがそれでも、ただの野良魔物を仕留めるには十分であった。

これが闇魔法の恐ろしさ。


ドッペル「────まずいッ! 殺られるぞッ!!」


魔女「────ウルフ」


──からんからんっ...!

闇がウルフに向かおうとしたその瞬間、なにかが落ちた。

重そうなアンチマテリアルを背負いながらも、彼は果敢に走り込む。

84 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:00:32.95 ooAlurkw0 1012/1103











「────You missed me...Right?」










85 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:02:36.22 ooAlurkw0 1013/1103


────カッッッッ!!

そこから生まれるのは、光魔法とは違う光。

激しい閃光があたりを貫く、これが最後の1個。

そして隊員は思い切り振りかぶる。


隊員「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」


────バキィッッッ!!

隊長のモノに比べれば弱いかもしれない、ウルフのモノとは比較にならない。

だが特殊部隊の彼が繰り出すストレートは通常の人間には致命的だ。


隊長「──ぐ...ふ...っっっ!?」ドサッ


その威力故に身体が勢いに負けて倒れ込む。

パンチで人は吹っ飛ばせるのか、彼自身は半信半疑であった。

だがそれは確信となる、自らがそれを証明してしまった。


隊員「──掴まれッッ!!」グイッ


ウルフ「────うんっ!!」ガシッ


ウルフの肩を強引に抱き寄せる。

俗に言うお姫様抱っこ、だがそのような甘酸っぱい言葉に浸る場面ではない。

そして彼はもう1人の女の元へと急ぐ。


隊員「運べばいいんだなッ!?」


魔女「お願いっ! 急いでっっ!!」ガシッ


両腕にウルフを、背中にはアンチマテリアルとアサルトライフルを。

力を入れることのできない魔女を運べる方法はもう1つしかなかった。

両腕に負担をかける、2人の女性を彼はお姫様のように運ぶ。


隊員「グッ...も、もうちょい...鍛えておくべきだった...ッ」


魔女「...ふふ、頑張ってっ! 私が重いって言いたいのっ!?」


その些細な一言が、意外にも魔女に刺さる。

女性に向かって重さの話は禁忌、だがそういうことではない。

この局面だというのに、思わず笑ってしまうような彼の言葉が魔女の精神を安らげていた。

86 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:04:03.69 ooAlurkw0 1014/1103


ドッペル「──でかしたぞッ!」


隊員「あとは何をすればいいッ!?」


ドッペル「魔女を俺の近くに置けッ! そして時間を稼いでくれッ!」


魔王妃「──わかりました...」


そして彼女は立ち上がった。

他の者たちはまだ光に悩まされいるというのに。

やはり彼女は頭ひとつ抜けている、それは魔法の質や魔力量の話だけではない。


魔女「もう立てるの...?」


魔王妃「伊達に魔王の妻を担っているわけではありません」


その強さを誇示する発言とは裏腹。

身体がまだフラつき、足は少しばかり震えている。

まだ完全に魔力が回復したわけではない、だがヤラなければならない。


隊員「...大丈夫か?」


魔王妃「...いいえ、まだこの身は光に侵されています」


魔王妃「この光が味方のモノだった頃は頼もしかったですね、でも逆では恐ろしい限りです」


勇者の光魔法、その真の恐ろしさ持続性であった。

彼ら魔物が受けたあの光はただの魔法であって属性付与ではない。

魔法で一番難しいと言われるのは持続させることだろうに。


魔王妃「...これから私と貴方で前線に出ます、そして時間を稼ぎます」


魔王妃「光魔法は任せました、闇魔法は私が対処します...いいですね?」


隊員「あぁ...わかった、そして任せろ」


ウルフ「...まって、わたしも...いく」


身体中を麻酔する倦怠感。

それだというのに、彼女はまだ闘志を漲らせる。

だがその見え透いた虚勢など誰が飲んでくれるか。


隊員「...無理をするな、Captainもそう言うと思う」


ウルフ「...っ!」


魔王妃「今はゆっくりと休んでいてください、あなたをここで犬死させるわけにはいきません」


冷たい言い方、だけどそれは事実。

まともに動けないままの武闘派をどう戦闘に活かせるのか。

不可能であった、野良生まれの魔物が光を前にして抗える訳がない。

87 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:05:19.29 ooAlurkw0 1015/1103


ウルフ「ごめんなさい、もっと...もっとあたしが強かったら...」


隊員「...」


──ぽん...

とてもキレイな音だった。

それは彼の右腕がウルフの頭を撫でた音。

そして隊員は何も語らず、髪を撫で続けた。


魔王妃「...もし私が完全に光に飲まれ、魔力の自己回復が不可能な状況になったならば」


魔王妃「この小瓶の中身を無理やり飲ませてください、お願いします」


隊員「...これは?」


魔王妃「...私がこの世界を侵略するにあたり、不測な事態に備えて持ってきた薬品です」


魔王妃「これを飲めば魔力を補充することができます...言いたいことはわかりますね?」


隊員「そういうことか...わかった、いくつか預かっておこう」


魔王妃「...お願いしますね」サッ


彼女はソレを手渡した。

そして手袋越しにだが隊員は魔王妃の手に触れた。

それは人間のモノと変わらない、柔らかな掌を感じることができた。


隊員「...魔物も人間も変わらないな」ボソッ


魔王妃「なにか言いました?」


隊員「いや? それよりもお目覚めのようだ...ウルフ、下がっていてくれ」


ウルフ「...うん」


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...

膨大な量の光が創造される。

それが意味するのは怒りという感情。

当然であった、まさか人間相手に遅れを取るとは偽勇者も思っていない。


隊長「...やってくれたな、人間の分際で」


隊員「その見た目で凄まれると怖いな...訓練指導中のCaptainを思い出す」


魔王妃「...嫌になりますね、あの光を見ているだけで身体がフラつきます」


隊員「...」


その言葉を聞くと彼は前に出た。

まるで日よけのように、魔王妃の真正面に立ち尽くす。

特殊部隊である隊員がテロリストを庇う。

88 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:06:43.83 ooAlurkw0 1016/1103


隊長「...さて、光魔法を唱えようか...それとも闇か」


隊員「そんな余裕はあるのか? Captainならそんな舌なめずりはしないぞ?」スチャ


──バッ!

そして放たれた精確な音。

彼が最も得意とするセミオートでのアサルトライフル。

早くも隊員は射撃を行う、それが隊長が相手でも。


隊長「────グッ...なっ!?」


魔王妃「いいのですか? 貴方の大切な人なのでしょう?」


隊員「...今は、そうでもない...そう思い込むしかない」


隊長「──正気か...っ!?」


隊長の右太ももから血が垂れ流しになる。

なぜこの様な容赦のないことができるのか。

それは師が教えてくれたあの価値観が影響している。


魔王妃「...私は赤の他人なので容赦なく魔法を放てますが...あなたは身内なのでしょう?」


隊員「...ここでCaptain殺さなければ、誰が死ぬと思う」


ソレは彼にも備わっていたのであった。

かつてドッペルゲンガーが隊長に向けて放った単語。

強すぎる正義が引き金をとても軽くしている、それがたとえ己の師が相手であっても


隊長「──チッ! ならば狙いは...■■■■」


危険すぎる、まさかこの宿主の身内がここまでの覚悟を終えていることを。

魔物だけなら光魔法で完封できるというのに、この世界ではただの人間が恐ろしい武器を持っている。

ならば先に潰さなければいけないのは、あの人間の男。


隊長「────"闇魔法"」


──■■■■■■■■...ッッ!!

闇が生まれる、すべてを破壊する漆黒。

まともに喰らえば人間など一撃で葬ることができるはずだった。


魔王妃「...そんな見すぼらしい闇を対処できないとお思いですか?」


魔王妃「──"風魔法"」


──ヒュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

とてつもない突風が辺りを切り裂く。

絶妙に調節された追い風が魔王妃たちだけを通過していく。

そして被害を受けるのは、敵のみ。

89 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:08:24.89 ooAlurkw0 1017/1103


隊長「──無駄だ、どのような規模でも闇の前では...」


そのはずだった、質が悪いとはいえ闇魔法だ。

下位属性では上位属性には敵わない、それが魔法の相性。

だが彼女の狙いは抵抗ではなく対処、彼女の今の目的は勝利ではない。


隊長「...これは」


──■■■...

闇を放とうとしても、それを許してくれない。

ハリケーンと同等の風速を誇る彼女の魔法が、闇の接近を拒否している。

これは魔王妃の魔法規模があまりに巨大だからこそできている。


隊長「...だからどうした? 時間をかければ闇で風など────」


──バッ!

向かい風に空き缶を投げても前に進ませることはできない、だがこれは空き缶ではなく闇。

時間をかければ闇が直線状の風だけを破壊し、攻撃を仕掛けることができる。

だがそのような時間など、果たして確保できるだろうか。


隊長「────グッ...!?」


隊員「...どうした? もっと時間をかけていいぞ?」


隊長「──"光魔法"」


──□□□□...

左腕を負傷しながらも、即時に魔法を切り替える。

一瞬にして湧いたその光は、魔王妃のハリケーンを消し去ってしまう。

だがそれがまた隊員の術中にハマる。


隊員「────ッッッ!!」ダッ


全力のスプリントは凄まじい速さであった。

当然だった、足の速さが人質確保の確率を高めてくれる。

鍛えていないわけがない、だから故の速度。


隊長「──"闇魔法"...」


──■■■■■■■■■■ッッッ!!

溢れ出る闇が、隊長の身体を絶妙に包み込んだ。

これに気安く触れてしまえば、どのような事態を招くのか。


隊員「────うおッ!? 危ない...ッ!」ピタッ


事前に知らされていたこの黒い魔法。

すべてを破壊してしまうと言われているこの闇。

光魔法とは違う、これは人間が相手でも猛威を奮う。

90 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:09:57.64 ooAlurkw0 1018/1103


魔王妃「────もらいました」


闇を感知する、この漆黒が相手なら全力を出せる。

可能な限りの魔力を絞り出す、そして唱える魔法にすべてを注ぎ込む。

そして生まれたのは、獄炎。


魔王妃「──"属性同化"、"炎"」


────ゴオオォォォォォォォォオオオオッッッ!!

彼女の身体が炎と同化する。

それと伴いある要素が変化を始める、それは炎帝が可能にした光への特攻策。


魔王妃「──"転移魔法"」


隊員「────おわッ!?」シュンッ


初めてこの身で実感する瞬間移動という体験。

身体が強制的に移動させられる感覚はどこかスリルのあるモノだった。

気づけば彼は、炎と化した彼女の後方に立たされていた。


魔王妃「──"風魔法"」


──ヒュゴオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

そして間髪入れずに放ったのは、先程消されてしまった風。

それと同等の風速を誇るそれが隊長に向けられていた。


隊長「...無駄だ、"光魔────」


光で魔王妃の魔法をすべて抑えようとしたその時。

いつも通りならこれで魔物を封殺できるはずだった。

だが身体の異変がソレを許してくれなかった。


隊長「うッ...グッ...!?」フラッ


これが本来である魔物の身体ならば、多少熱い程度で済んでいたかもしれない。

だが今は隊長の身体を間借りしているに過ぎない、つまりはただの人間。

果たして人は、自分に熱風を向けられたらどうなってしまうのか。


隊長「────ッッッッ!!!」


──じゅうううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ...ッッ!!

待っていたのは、肌が焼ける音と軽度の一酸化炭素中毒。

魔王妃により極限にまで高められた温度を誇る熱風を喰らえばそうなるのは当然。

声すら上げることができない、そのあまりの苦痛さに耐えれる人間はいない。


魔王妃「...もう魔法を唱えることができませんね」


隊長に襲いかかっているのは熱風だけではない。

真冬の寒空だというのにもかかわらず身体は高熱に喘がされている。

極度の気温差が引き起こす強烈な吐き気と頭痛、身に迫る症状が隊長を苦しめている。

91 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:12:51.67 ooAlurkw0 1019/1103


隊長「────あああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!」


隊員「これは...酷すぎる...」


身体を奪われているとはいえ目の前にいるのは正真正銘の隊長。

尊敬する彼がここまでやられている様を黙ってみているしかない。

隊長を射撃する覚悟は決まって入る、だがその地獄のような風景が隊員の精神を蝕む。


隊員「おい、大丈夫なのか...?」


魔王妃「...駄目です、一向に出てくる気配がありません」


隊員「...それは、つまりどうするつもりだ?」


魔王妃「...」


答えはもう導き出されている。

だけど隊員はそのフレーズを魔王妃に絞り出させるつもりだった。

そうでもしなければ、認識することを拒絶してしまうからであった。


魔王妃「...このまま、彼ごと殺すしかありません」


隊員「そうなってしまうか...やはり、そうなってしまうんだな...」


魔王妃「今、私が放っているこの熱風は...人が生命活動をできるギリギリの威力に調節しています」


魔王妃「ですが...これ以上続くのであれば...それも厳しくなりますね」


魔王妃「...これ以上は、粘れません」


今しかない、この機会を逃せばあの偽勇者を倒すことができない。

ようやく抑えることのできたこの魔法を途切れさせればどうなってしまうのか。

それは例えるなら、せっかく苦労して拘束したテロリストの手錠をわざわざ外してしまうような愚行。


隊員「...言いたいことはわかる...だが、許容できないぞ」


魔王妃「ですが...では、どうすればいいのですか?」


隊員「それは...」ピクッ


言葉に詰まってしまう、そして彼は見てしまう。

熱風に打ち負け、四つん這いになり嘔吐をしている隊長の姿を。

これ以上は本当に危険だった、あと僅かでも続くようなら待っているのは死しかない。


隊員「────ッッッ...!」


──ぐにゃぁ...

己の中の正義がグラつく、隊長ですら背負うことが難しいというのに。

このような精神汚染に、彼より若い隊員が保てるわけがなかった。

射撃はできても射殺はできない彼は、ただこの光景を眺めることしかできずにいた。


92 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:15:07.06 ooAlurkw0 1020/1103


隊長「ああああああああああああああああああああああああッッッッ!!」


魔王妃「...これで、終わりですね」


人の身体は高熱には耐えられない。

もう数十秒も炙ってやれば、確実に彼は死亡する。

そうすれば宿主ごと因縁の魔物を殺すことができる。


魔王妃(...申し訳ありません、恨みならこの身で甘んじて受け入れます)


魔王妃(ですが...今は私を信じていてください...)


あの時魔女と交わした言葉。

魔王妃にはある策があった、それは偽の勇者に悟られないように誰にも口答していない。

己の内に秘めたある計画、絶妙な調整技術が可能とする。


魔王妃「...そのまま死んでください、偽の勇者」


隊長「────ッッッッ!!」


苦しみながらも見せたその眼。

見た目は隊長だが顔つきはどこか見覚えのあるモノだった。

あの顔は、あの子が何かを思いついたときの顔。


魔王妃(──やはり、宿主を捨てる気ですね)


魔女と交わした言葉は、彼を助けることという誓い。

同じ魔物という同胞の約束を破るわけがなかった。

そして魔王妃は機会を伺い始めていた、このまま宿主ごと殺そうとするブラフを仕込みながら。


魔王妃(...あと僅か数秒もしないうちに、あの人間は焼け死んでしまいます)


魔王妃(そうならないように、いつでも即座にこの魔法を止めれるようにしなければなりません)


魔王妃(問題は...偽の勇者がいつ出てくるかですね...)


あと10秒、残された時間はこれしかない。

この僅かな時間のどこかで、どのタイミングで偽勇者が隊長から離脱をするのか。

博打じみたその現状、ついにその時が訪れる。


魔王妃(────来たっ...)


彼女にはわかる、新たな魔力の気配が。

過去にずっと旅してきた仲間のソレを忘れるわけがなかった。

隊長から魔力が漏れ出しているような感覚が魔王妃に伝わった。

93 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:16:27.68 ooAlurkw0 1021/1103


魔王妃「...っ!」


──......

静寂が訪れると同時に炎は鎮まり、風は止む。

それはわずか一瞬の出来事であった、それがどれほどの技巧なものか。

そして前方を確認する、そこには見慣れた姿が。


魔王妃「────いない...っ!?」


隊長「...そんなに意外か?」スッ


────からんからんっ!

そして彼女の足元から聞こえたのは何かが跳ねた音。

見たことのないモノ、未曾有の代物に気を取られていた。

そしていままで見ることしかできずにいた彼が叫ぶ。


隊員「──蹴飛ばせッ! それは爆弾だッ!」


魔王妃「────なっ!?」


だがその警告は遅かった。

彼女が見えたのは内部から何かが破裂する瞬間。

そして聞こえたのは炸裂音であった。


隊長「...あの時、1人旅で孤独を味わっていた私を導いてくれたのは君だ」


隊長「赤の他人だというのに、君は優しく...暖かくしてくれた」


隊長「だから...信じていた、死の直前で...この宿主を哀れんで魔法を止めてくれることを」


────ドォンッッッッ!!

小規模の爆発が彼女の足を奪う。

蹴飛ばせと言われたからか、不幸なのか幸いなのかはわからない。

手榴弾を飛ばした右足が爆風に巻き込まれ、失ってしまう。


魔王妃「────ぐっ...!」ガクンッ


片足を失えば当然立つことは不可能に。

急いで治癒を行わなければならない、今すぐ魔法を唱えれば患部の修復が可能。

だがそれを許してくれるほど状況は甘くなかった。


隊長「"属性付与"、"光"」


──□□□□□□...

その光は身体を包み込む。

誰の身体なのかは明白であった。

なぜなら、己の視界がそれを証明していたからであった。

94 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:17:54.43 ooAlurkw0 1022/1103


隊長「...もう手遅れだ」


魔王妃「────っっっ!!」


全身から魔力を抑制されている感覚が巡る。

だが今はそれどころではない、魔物としての身体は抑えられてしまったのである。

片足を奪われたのならば普通の人間はどうなってしまうのか。


魔王妃「──うわあああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」


それはとても、魔王の妻には相応しくない声であった。

痛みに耐えきれないが故の叫びがあたりに響いてしまう。

それを耳にしてようやく彼がハッとする。


隊員「──SHITッ!!」ダッ


彼女の足からは大量の紅が流れ出ていた。

たとえ魔物という未知の生物であっても、これだけは変わらない。

血を失えば確実に死ぬ、そのために隊員は駆け寄ろうとした。


魔王妃「──こないでぇっっ!! 貴方に死なれたら終わりですっっっ!!」


隊員「──ッ...!」ピタッ


その悲痛の叫びが、隊員の足を止める。

形勢が逆転したこの状況に人間がヘタに近寄れば目も当てられない。

そしてじわりじわりとあの憎たらしい魔物が詰め寄る、それに対し魔王妃は質問を投げかけた。


魔王妃「どういう...ふっー...ことですか...?」


隊長「痛々しいな...右足が千切れているんだ、無理に喋ることはない」


魔王妃「...くっ、質問にぃ...答えろ...」


隊長「...この身体のことか?」


あちこちにできたやけど、それが物語るのは熱風の威力。

たしかに隊長の身体にダメージを与えたのは間違いない。

だというのに偽の勇者の口ぶりからは、その様子が伺えない。


隊長「...もう一度、ドッペルゲンガーという魔物の特性を思い返してくれ」


魔王妃「...?」


正直考え事などしている余裕はない。

足を失って、血を失って、魔力も失って。

だが彼女は冷静に考慮を深める、そして導き出した。

95 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:19:13.78 ooAlurkw0 1023/1103


魔王妃「...まさか」


脂汗が止まらない、それは痛みが影響しているのか。

それとも自分が行っていた行為の罪深さに気がついてしまったのか。

それはあまりにも醜悪な戦術であった。


隊長「...宿主には悪いが、あの熱風の身代わりになってもらった」


隊長「つまり君がずっと燻っていたのは...わかるだろ?」


隊員「──な...ッ!?」


魔王妃「────このクソ野郎...っ!」


脳みそに直接触られたような感覚が2人を襲う。

とてつもない不快感が、徒労感が、そして罪悪感がソレを再現する。

あまりの衝撃に隊員は腰を抜かしてしまう程に。


隊員「じゃあ...俺は...本物のCaptainが苦しんでいるのを見てただけになるのか...ッ!?」


隊長「そういうことになる、声もしっかりと入れ替わっていたというのに...」


隊長「あの風の音は凄まじかったからな...それとも集中し過ぎて気づかなかったのか?」


魔王妃「あの...あの魔力はっ!? 先程、宿主の身体から感じたあの子の魔力はっ!?」


隊長「そんなのは簡単だ、私は宿主の精神世界に居たんだ、余裕で魔法を唱えられる」


隊長「...これ以上聞きたいか? 気の毒だな」


高熱に喘がされているのは隊長本人であって、偽勇者ではなかった。

精神世界に逃げ込むことでこの状況をまるで傍観者のように振る舞っている。

あとはそこから魔力を少しでも垂れ流せば、感知能力持ちは誰もが勘違いをするだろう。


隊員「────ッッ!!」


そして彼を襲ったのは猛烈な吐き気。

あの酷すぎる悲鳴は、隊長の実の声であった。

聞きたくなかった、脳裏に残ってしまったあの悲鳴が脳内をこだまする。


魔王妃「そ...そんな...」


魔王妃「じゃ、じゃあ...なんで...はじめから光魔法を使わなかった...?」


魔王妃「精神世界にいたというのなら...そのようなこともできたはずです...」


たしかにそうだった、そうすれば時間をかけずにこのような状況に持ち込めたはずだ。

しかし奴はドッペルゲンガーである、感情を弄ぶことに関してはピカイチ。

その下劣な理由が明らかになる。

96 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:20:44.66 ooAlurkw0 1024/1103


隊長「...こうすれば、君たちの精神を蝕むことができるからさ」


隊長「闘いとは肉体だけに痛みを与えるだけではだめ...心も痛めつけなければならない」


隊長「その結果が...彼さ」


偽の勇者は指をさした。

その先には、四つん這いで吐瀉物を地面にぶちまける男が1人。

彼はもう立てない、たとえ治癒魔法で身体を癒やしてもだ。


隊員「ゲホッ...Mother fucker...」


魔王妃「...チッ」


魔王妃(ヤラれた...っ! まさか向こうから宿主を表舞台に出すとは思わなかった...っ!)


魔王妃(ここまで自由に人格を入れ替えれるのか...ドッペルゲンガーという魔物は...っ!?)


隊長「さて...このまま放置していれば、そのうち血が足りなくなり勝手に死ぬか」


隊長「それにその男ももう動けなさそうだ...脆いな、人間という者は」


彼らの本来の目的、それは隊長に取り憑く偽勇者を祓うこと。

だが愚かにもそのチャンスを逃してしまっていた。

それどころではない、全く無意味の痛めつけを当人にぶつけてしまっていたのであった。


魔王妃「うっ────」


そして訪れるのは、意識が離れる感覚。

止まることのない血液が右足から開放されている。

どのような生物もソレを大量に失えば、待つのは死あるのみ。


隊長「さよなら、魔術師...」


魔王妃「ふざ...ける...な...」


出血多量で動けず、片足だけでは立つことすら不可能。

そして強烈な吐き気と罪悪感でうずくまっている隊員。

この状況で仕掛けてくる行動は1つしかない、偽勇者は魔王妃の側に寄る。


隊長「...まさか、君ほどの子がただの刃物でトドメを刺されるとは思わないだろうね」


魔王妃「...っ!」ビクッ


そして取り出したのは、唯一残されたミリタリーナイフ。

アサルトライフルは隊員の射撃で破壊されハンドガンは事前にウルフに預けられていた。

超強力な魔法を放てる魔術師の最後が、まさかこれほど物理的なモノになるとは。

97 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:22:21.18 ooAlurkw0 1025/1103


隊員「────まて...ッッ!!」


隊長「...空元気だな、威勢はいいが立ち上がることすらできないじゃないか」


隊員「俺は本気だぞ...ッッ!」スチャ


彼が片手で取り出したのはサイドアームのショットガン。

未だに四つん這いで吐き気に抗っている、両手で扱うはずのアサルトライフルなど構えることができない。

背負っているアンチマテリアルライフルなどもってのほか。


隊員「......ッ!」ピクッ


隊長「...どうした? 撃たないのか?」


先程は偽の勇者にダメージを与えることができずにいた。

だが宿主である隊長の身体自体には負傷させることができていた。

この引き金を引けば、間違いなく攻撃が通用するはずだった。


隊長「...?」


しかし一向に撃つ気配はなかった。

それは偽勇者も若干不思議そうな表情をさせていた。

なぜ撃たない、撃てば攻撃できるのに。


隊長「...なぜ撃たない、流石にそこまで素早く人格を入れ替えることはできないぞ」


自白のようなその問いかけ、偽勇者は不可解で仕方なかったから故。

隊員が発砲した銃撃が先程のような身代わりを隊長にさせることを懸念しているのか。

だが本当の答えは隊員にしかわからなかった。


隊員(...だめだ、今片手で撃てるのはこのショットガンしかない)


隊員(だがこれは...ドラゴンブレスだぞ...ッ!)


隊員(発砲自体は平気かもしれないが、着火したら間違いなくCaptainが身代わりにさせられる...)


そこまで早く人格を入れ替えることは不可能という言葉、それは銃弾には対応できないという意味。

だが今はドラゴンブレスという弾丸を込めている、これは着弾後に発火する特殊弾薬。

炎上という攻撃はあまりにも鈍すぎる、間違いなく身代わりにさせられる。

98 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:23:46.79 ooAlurkw0 1026/1103


隊員(...いや、そもそももう限界だ...これ以上の銃撃はCaptainの生死に関わる)


隊員「...」


隊長「...答える気はなしか、そこで味方が殺されるのを見ていなよ」


隊員「────ッ!」


隊員(──撃つしかないのかッ!? 今ここであの女が殺されるのはまずいッ!)


強すぎる正義が引き金を引こうとする指を動かそうとしたその時。

究極の選択に1つあらたな候補が生まれていた。

それは目の前に現れた1人の女が創り出した。


魔女「...随分とボロボロね」


隊長「...これはこれは、宿主の想い人か」


魔女「なによその声、全然似てないわね...もう1人のドッペルゲンガーを見習ったら?」


隊長「悪いね、私のお気に入りは...過去にいた勇者の身体だからね」


隊長「すべての有事が終われば、この身体は破棄して勇者の身体で生きる予定だ」


魔女「...そう、固執がないならとっととキャプテンを開放してくれないかしら?」


隊長「それはできない、目の前に広げられた料理を前に帰るわけにはいかない」


魔女「あー...そうだった、ドッペルゲンガーってのは悪食だったのね」


偽勇者のこの行動理由は単純であった、それはドッペルゲンガーの習性。

宿主に取り憑き人格を奪い、宿主の身内を殺害し生まれた絶望という感情を喰らう者。

つまりは別に隊長の身体が特別欲しいというわけではなかった。


魔女「...むかつくわね」


隊長「そう言うな、すぐに終わる..."光魔法"」


──□□□□□□□□□□...

光があっという間に、魔女を通過していった。

そして彼女は倒れこんでしまう、ならばなぜ彼女はわざわざ偽勇者の前に現れてたのか。


隊長「...なにも策も考えていなかったのか」


魔女「うっ...ぐぅ...っっ!!」ドサッ


隊長「愚かだな...だが優先順位は変わった」


この場にいる敵は3人、1人は光で拘束をして足を奪った魔物。

1人は自己嫌悪感と不可解だが攻撃をしてこない人間。

そしてもう1人、一時的に光で魔力を封じた五体満足の魔物。

99 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:25:25.14 ooAlurkw0 1027/1103


隊長「...宿主の想い人だ、とても美味だろうな」


魔女「...っ!」


優先順位は明らかだった。

狙いは魔王妃から魔女へと切り替わった。

そしてついに、光に喘がされている彼女の側へと接近し終えた。


隊長「さて...頂くとするか」


ミリタリーナイフが輝く、それは電灯が反射する光。

横たわる魔女は抵抗すら許されない、彼女の魔力は光魔法によって抑えられている。

だがそれは彼女の魔力の話、まだ闘志みなぎる者が残っている。


ウルフ「────ッッッ!!」スチャ


いったいはどのタイミングで現れたのか。

いつの間にかウルフは前線に立っていた。

両手に構えるのは、2人の人間から借りた武器。


隊長「──なっ...!?」


ウルフ「──ガウッッッ!!」


──ダンダンダンダンッッ!!

野性味溢れるその唸り声とともに放たれたのは重なる銃声。

アキンボスタイルで射撃されたそれは、隊長の身体を射止めていた。

それを傍観する彼、その光景がとても不可思議で仕方なかった。


隊員「...」


隊員(もうCaptain自体の身体は限界だ、これ以上の負傷は死に直結する...)


隊員(なのにどうして、ウルフは撃てるんだ...?)


魔王妃「...うぅ」


頭の中ががんじがらめになる。

だがソレは、介抱していた女の苦しそうな声で一時的にほどける。

先程彼女の口を封じていた大きめのハンカチで患部を思い切り締め上げた。


魔王妃「い、痛い...っ!」


隊員「我慢しろ...これでも血が完全に止まっていないんだぞ...」


隊員は魔王妃の側に寄り処置をしていた。

だが状況は悪くなるばかり、血は止まらないうえに魔女は抑えられている。

ウルフも果敢に行動しているが、結果は目に見えてわかってしまう。

100 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:26:46.30 ooAlurkw0 1028/1103


隊長「────"光魔法"」


────□□□□□□□□□□□□□□...

あたりを再三照らすのは、この邪悪な光。

それに前にして魔物はすべての行動が許されなくなる。

ウルフの戦術はあっという間に潰されてしまった。


ウルフ「──う...」ドサッ


隊長「...これでもう全滅か?」


この場にいる魔物はすべて光に屈服した。

動くことができるのはもう隊員という男しか残っていない。

だが彼はもう撃てない、これ以上撃つと隊長が死んでしまうことをわかってしまっているからだ。


隊員「...」


隊員(どうする...動けるのは俺しかいない...状況を打破するには攻撃するしかない...)


隊員(だが...それが許されるのはこの銃のみだ...接近して体術をキメようなら闇魔法とやらが俺を確実に殺す)


隊員(しかしそれではまずい...これ以上発砲してみろ...)


これ以上発砲すればどうなるのか、それはこの世界の住民だからこそ理解できてしまう。

無数の銃痕とやけど、普通の人間ならとうに意識を失い危篤な状態なのは間違いない。

今は魔物という強靭な精神がその身体を無理やり動かしている。


隊員(...本末転倒だ、Captainを救うためにはCaptainを殺すことが前提になる)


隊員(一体どうやって...あの身体から、あの憎たらしい偽物を追い出せるのか...)


ドッペルゲンガーを祓うには自らの意思での離脱を促さなければならない。

先程の魔王妃による熱風がいい線をいっていたのは間違いない。

だがそれだと駄目、卑劣なことに偽勇者は人格を巧妙に入れ替え隊長を身代わりをする。


隊員(...もう無理だ、答えはでない...矛盾がどうしても貫けない)


隊員(...諦めるしか、ないのか)


その時だった、彼が視界に捉えた。

それは先程果敢に行動をしていたあの女の子。

倒れ込んだウルフは、落としてしまったハンドガンを握りしめていた。

101 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:28:01.27 ooAlurkw0 1029/1103


ウルフ「......ッ」


隊員「...ッ!」


隊員(なぜ...ウルフは撃てるんだ...?)


隊員(Captainを殺してしまうかもしれないんだぞ...?)


隊員(一体、私と何が違うんだ────)ピクッ


何が違うのか、そのフレーズが彼の頭を貫いた。

そして隊員は見えてしまう、その決定的な差を。

彼女の純粋な瞳が答えを導きだしていた。


隊員「...」


隊員(あぁ、そうか...そういうことか...)


隊員(そんな単純なことだったのか...私とウルフとの差は...)


それは先程まで自分が持っていたもの。

先程の精神攻撃でいつの間にか道に捨てていた。

彼に足りなかったのかただ1つ。


隊員「──Stay true to your toughness...Captain?」スチャッ


──ダァァァァンッッッ!!

足りなかったのは隊長への信頼。

ウルフは信じていた、隊長という男がこの程度で死なないという根拠のないことを。

小さめのショットガンから唸る射撃音、偶然にも彼自身の身体への負担を減らす箇所に着弾する。


隊長「ぐっ...今更になって攻撃してきたか────」


身体に走る違和感、それは熱源の感知。

一体どこからこの高熱は発生しているのだろうか。

答えは明白、それは着弾箇所。


隊長「──なっ...なんだこれはっ!?」


身体が小規模に燃え始める。

まるでそれは竜の息吹、特殊な弾薬が可能にする科学兵器。

この炎は魔法によって造られたものではない、よって光は無意味である。

102 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:29:22.78 ooAlurkw0 1030/1103


隊長「──がああああああああああああああああああああああああっっっ!?」


隊員「...Get out of my face...Bitchッ!」


そして彼は耳を澄ませる。

この後の行動などもう確定している。

先程見せてくれた、卑しいあの身代わり。


隊長「──ああああああああああああああああああああッッッッ!!」


隊員「────ッッ!」ピクッ


さっきとは違う、風魔法による轟音などない。

自分の意識はすべて聴覚に集中させている。

そしてようやく聞こえたその声を、聞き間違えるわけがなかった。


隊員「──飲めッ! そして水をぶちまけろッッ!!」グイッ


彼が取り出したのは小瓶。

これはどこで誰によって渡されたものなのか。

それがどのような効力を持っているのか、明白であった。


魔王妃「────"水魔法"」


魔力を含む薬品、それが可能にするのは水の大砲のような魔法。

だが身体にまとった光がその規模を小さくさせ、まるで水鉄砲みたいな威力にまで抑えられる。

しかしこの状況で、どのような量でも水を自在に出せるということがどれほど素晴らしいことか。


隊長「────ッッ!!」


──ばしゃぁっっっ...!

まるで大きめの水風船をぶつけられたかのような水量。

だがそれでいい、それによって起こるのは消火。

人格入れ替えにより身代わりになった彼は熱にうなされずに済む。


魔女「...今よっ!」


────■■■...

どこからか闇の気配を感じる。

この質は偽勇者のモノではない、ならば答えは1つ。

だがなぜなのか、ソレは魔女の近くから発せられた。

103 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:30:09.12 ooAlurkw0 1031/1103











「...精神世界に逃げ込めるのは、あんただけじゃないのよ」










104 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:31:41.17 ooAlurkw0 1032/1103


その見た目は、とても華麗で可愛らしい女の子。

その色合いは黒く影のような、それらが意味するのはとある事実。


隊長「...憎たらしいほど似ているな」


ドッペル「そう? 感謝しなさいね...愛しの見た目なんだから」


このドッペルゲンガーは魔女の見た目をしている。

つまりは、宿主を隊長から彼女へと移り変えたのであった。

だからこそ可能だった、精神世界へ身を隠せば魔法の影響など受けないのだから。


ドッペル「...さっさと出て行って、この泥棒ネコ..."闇魔法"■■■■」


──■■■■■■■■■■■■...

魔女の見た目、魔女の声色をしたドッペルゲンガーが隊長の胸元へと手を添え姿を暗ます。

そして聞こえたのは闇の擬音、だが確認できたのはその音だけだった、この魔法はどこで発動しているのか。


隊員「...消えたぞッ!?」


魔王妃「違います...彼...いや、今は彼女ですか...彼女はあの男の精神世界へと入り込んだみたいです」


隊員「...つまり、どういうことだ?」


魔王妃「...敵本拠地に強行突破しました」


その様子は他者からは伺うことができない。

唯一状況を把握できるのは、当の本人であった。

彼のその調子を見れば答えは明白である。


隊長「──うッ...あの馬鹿...闇を出しすぎ...だッ!!」フラッ


魔女「予め私の中でずっと詠唱してたもの...とてつもない量を瞬時に出していると思うわ...」


この2人に襲いかかっているのは猛烈な嫌悪感と吐き気。

特に魔女、ドッペルゲンガーの宿主になったのはついさっきである。

治癒魔法や魔法薬ではどうすることもできない痛みが彼らの動きを鈍くさせていた。


隊長「────来るぞッッッ!!!」


──□□□□□□□□□□□□ッッッ!!

彼の身体には3人の人格がある、今の主人格は間違いなく隊長である。

その彼から叫ぶこの言葉、なにが出てくるのは音で認識できる。

ついに宿主を失った彼女が生まれる。

105 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:32:09.98 ooAlurkw0 1033/1103











「────"結界魔法"」










106 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:33:55.86 ooAlurkw0 1034/1103


だがその姿は誰にも目視することはできなかった。

眩い逆光が、その早すぎる詠唱が、魔法による影響が。

様々な要素が偽勇者の身を隠した。


隊員「──何が起きた...?」


魔王妃「...結界魔法です、自分だけの空間を作り込み他者の介入を拒む魔法ですよ」


魔王妃「どうやら突然湧いて出た闇を打ち消すより、離脱のほうが有効だと判断したのでしょうね」


隊員「つまり...奴は戦線を一時離脱したということか」


魔王妃「そういうことになります...わざわざ結界を作り出したのなら、すぐには復帰するとは思えません」


隊員「なら、今のうちに戦況の確認を...それとお前の処置も完全に終わっていない」


そう言うと彼は足早にこの場を去っていった。

未だに身体には光の属性付与が、未だに右足からは出血が止まらない。

それなのに微かとはいえ意識があるこの状況、奇跡としか言いようがなかった。


ウルフ「...だいじょうぶ?」


それを心配したのか1人の狼が寄り添ってくれた。

その毛並みは魔王妃の身体に触れ、とても触り心地のよい感覚が彼女を癒やす。

横になりながらも彼女は質問を投げかけた。


魔王妃「...どうしてここに? あなたのご主人は身体を取り戻したというのに」


ウルフ「えっとね、今は魔女ちゃんに譲ってあげてるの」


魔王妃「そうなんですね...」


ウルフ「それにね...ううん、なんでもない」


ウルフにはわかっていた、野生の感なのだろうか。

死が近い者に寄り添う、それは数多の動物が行ってきた行動。

今この魔王の妻が必要なモノがここに存在していた。


魔王妃「...ごめんなさい、お言葉に甘えます」


ウルフ「うん」


──ぽふっ...

彼女が必要だったのは気を許せる相手であった。

たとえ人型だとしても、ウルフは狼であり犬でもある。

犬相手にわざわざ気を使うことはない、これはアニマルセラピーと形容できる。

107 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:35:24.74 ooAlurkw0 1035/1103


魔王妃「────もうすぐだからね..."勇者"...そして"あなた"...」


ウルフ「...」


ウルフは無言で尻尾を魔王妃の顔面に乗せていた。

そこから感じるのは少しの湿り気、だが彼女は追求せずにただ乗せるだけ。

そしてウルフは、遠目でご主人たちの再会を眺める。


魔女「...おかえり」


隊長「...ただいま」


その言葉にどれだけの意味が込められているのか。

たった4文字のソレをどれほど待ちわびていたのか。

だが彼らは目頭に涙も貯めずに、淡々と会話を続けていく。


魔女「...手、握ってくれない?」


隊長「あぁ...」


──ぎゅっ...

どこか力強い不器用な男の握手、それが魔女の感情を落ち着かせる。

ようやく実感ができた、これは間違いなく、彼の手だ。


魔女「あなたも大変ね、異世界に飛ばされて変なのに取り憑かれて、さらに変なのに身体を乗っ取られて...」


隊長「我ながらそう思う...我が身の出来事の多さに...それに自分の身体がこれほど頑丈だと思わなかった」


魔女「...傷だらけね、ごめんね...まだ光魔法の影響で治癒魔法が唱えられないの」


隊長「...大丈夫だ、まだ魔法がなくても生きていける...死なないさ」


魔女「ふん、どうだか...心配する人の気持ちも考えてね」


それ以降の会話は続かなかった。

お互いはお互いの瞳を見つめるだけの、濃い時間が流れていく。

その様子を見た部下はどのようなコメントを残すのか。


隊員「...Captainにもついに春がきたみたいだ」


ウルフ「あ、おかえりっ!」


隊員「あぁ、ただいま...ところでコレはどうした?」


コレというのは、尻尾で魔王妃の顔を包んでいるこの状況。

だがウルフはそれをどかそうともせず、ひたすらに彼女の顔を隠し続ける。

そして毛むくじゃらの中から声が聞こえた。

108 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:36:55.00 ooAlurkw0 1036/1103


魔王妃「...おかえりなさい、すみません...ただいま夫以外に見せらない顔をしているので」


隊員「まぁ...俺も同じことされたらそうなると思うが...ずいぶんと余裕だな、足が千切れているんだぞ?」


魔王妃「そうでしたね...もう痛みなんて感じていないので...」


隊員「...脳内物質が痛覚を遮断しているのか、どちらにしろその状態が続くと死ぬぞ」


隊員「ひとまず、近場の店に備えてあった救急箱を勝手に持ってきた...まずは消毒して包帯を巻くぞ」


魔王妃「ありがとうございます...助かります」


その言葉を受け入れると隊員はテキパキと処置し始めた。

テロリストとはいえ女性の、それも人妻の脚に触れる。

だが彼に働いている感情はそのような邪なモノではなかった。


隊員「...生きているのが不思議でしかたない」


魔王妃「できれば治癒魔法を唱えたいんですがね...光が強すぎて効力が出る前に抑えられそうです」


隊員「ん...? でもさっきは水魔法とやらを出していたじゃないか」


魔王妃「水魔法はあの男の人に向けて放ちましたが...治癒魔法はそうとはいきません」


隊員「...あぁ、そういうことか」


魔王妃「治癒魔法の対象は私自身の身体です...が、現在光が恒久的にまとわりついているので...」


対象が自分以外ならば、光がすべてを抑えきる前に自身から距離を取ればなんとか発動させられる。

だが治癒魔法は違う、傷が治るまで魔力で自身を治さなければならない。

仮に唱えても1秒程度しか効力を発揮できない、足を切断しているのにその秒数はあまりにも足りない。


隊員「...染みるぞ」


会話を続けながらも彼は処置を続ける。

消毒液を患部に浸透させる、いまさらかもしれないがやらないよりかはマシ。

それを終えると次は丁寧に包帯で包み込む。


魔王妃「...膝から下の感覚がありませんね、とても不思議な気持ちです」


隊員「随分と他人事だな...」


魔王妃「私の世界では四肢欠損はよくあることですから...まぁ"素早く"処置すれば欠損なんて治る怪我ですからね」


隊員「..."素早く"、か」


素早く処置をすれば、その言葉に詰まってしまう。

過去に魔女が魔剣士の腕を治したように、彼女の言葉通り治る怪我である。

だが今は違う、どう考えても手遅れだった。

109 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:39:04.47 ooAlurkw0 1037/1103


魔王妃「...残念ながら、もう遅いですね」


魔王妃「そもそも、爆破によって右足がどこかに行ってしまいましたからね...」


隊員「治しようがないか...」


魔王妃「...闘うということは、こういうことですから」


魔王妃「気の毒だと思わないでくださいね、あなたも戦士ならおわかりでしょう?」


隊員「...」


図星で言葉がでなかった。

彼がしている仕事、そこでは欠損は愚か死者すら出てしまう。

だからこそ理解してしまった、むしろ先程の激戦で死者がでなかっただけ良しと思えていた。


隊員「...」


魔王妃「...どうかしましたか?」


隊員「...いや、なんでもない」


あの時、正常な判断をしていればこのようなことにはならなかったかもしれない。

あの時、引き金が鋼のように重くなければこんなことにはならなかったかもしれない。

そしてようやく、彼が思いを告げる。


隊員「...私と一緒に戦線を離脱してくれ」


その言葉にどれほどの感情が詰まっているのか。

彼は背負いすぎていた、その性格故に。

彼女の脚が奪われたのは自分自身の責任であると勝手に思っている。


魔王妃「...自責ですか?」


そう思われても仕方なかった、どう見てもこの男は負い目を感じている。

それは赤の他人である彼女ですら察してしまう程。

だがそれは真実ではなかった、この言葉の真意はとてもキツいものであった。


隊員「...まともに立てない奴は邪魔にしかならない」


ウルフ「...っ!」


その言葉にウルフは思わず反応してしまう。

微かに体毛が逆立つ、隊員の放った一言に怒りを覚えてしまっていた。

その憤りには意味はない、ただどうしてそんな冷たい言い方ができるのかということに毛を荒立てる。


魔王妃「...」


彼女が闘う理由、旧知の友である勇者を謳う偽物を抹殺するためにわざわざ世界を跨いだ。

だというのになぜこんな若造にそのようなことを言われなければならないのか。

だが彼女が感じた感情は怒りではなく、もっと別の静かなモノであった。

110 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:41:02.25 ooAlurkw0 1038/1103


魔王妃「...今の私は立つことは愚か、魔法すら唱えることができません」


魔王妃「いえ...たとえ魔法が唱えられたとしても、きっと足を引っ張ってしまいます」


片足を失うということはそれだけで劣勢を招いてしまう。

だが彼女は冷静であった、薄々と見えていた諦観がスラスラと言葉を綴る。

しかしどうしても1つ疑問が残っていた。


魔王妃「ですが、なぜ貴方も共に離脱するのですか?」


隊員「...消去法だ」


隊長「...」


なにを根拠に彼はそう選択したのか。

そして気づけば隊長と魔女は近くに寄り話を聞いていた。

彼はそれに臆さずにプレゼンテーションを続けていく。


隊員「先程の闘いで要だったのは、間違いなくお前と...魔女だ」


隊員「だが、お前は残念だが離脱を余儀なくされた...つまり魔女は何があっても最前線に立つしかない」


隊員「...残りは私とウルフと、ドッペルゲンガーだが...後者は言うまでもない、必要だ」


隊員「つまり、私とウルフのどちらかがお前を救護しなければならない...戦線離脱者を1人にすることはできない」


隊員「...しかし、先程は私もウルフもいなければこの集まりは壊滅していた...そのはずだ」


消去法が絞れてきた、だが隊員の言う通り全員がいなければどうなっていたのか。

ここまでの話を否定するものは誰もいなかった、だがここからなぜ隊員が離脱することになるのか。

それは先程とは違う決定的な差異が答えを導き出していた。


隊員「...人間という強みは私じゃなくても作り出せる、今はCaptainが復帰したからな」


隊員「少なくとも彼は、私なんかよりも魔法に詳しいはずだ...それに」


隊員「...どう考えても、私より強い」


魔女「...っ」


一番に反応してしまったのは、魔女であった。

隊員の放ったその言葉、どうしても鵜呑みにできてしまっていた。

隊員よりも隊長のほうが強い、だから隊員は離脱する。


隊員「...ですので、あとはお願いします」


隊長「...」


本来ならば彼も戦線を離脱せざる得ない傷をうけている。

やはり隊員の感情の奥底には、自責も込められていたに違いない。

だからこそ、隊員という男は自らを退けたのであった。

111 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:43:06.50 ooAlurkw0 1039/1103


隊長「...」


沈黙が意味するのは葛藤であった。

冷静に考えを改め、逆に自分自身を離脱させ隊員に続投させるべきなのか。

それとも彼の眼差しを無碍にすることなく、それを受け取るべきなのか。


ドッペル「...悪いけど、あんたがいなければ私はなにもしないわよ」


だがその選択を決めたのはこの魔物であった。

頭の中で響く最愛の人物の声、だがこれは偽物。

その声色の主がようやく彼の身体から姿を現した。


魔女「...どういうつもり?」


ドッペル「言葉通りよ、私の目的はあの光を宿主から追い出すこと」


ドッペル「目的はもう果たされたわ、あいつはこの身体から離脱しているわよね」


魔王妃「...これだからドッペルゲンガーという種族は」


この土壇場の時に、闇魔法というカードが失せようとしていた。

魔王妃のため息に反応して隊長は頭を軽く抱え、ウルフは警戒心をむき出しにする。

だが隊員と魔女だけはドッペルゲンガーの真意に気がついていた。


隊員「...見事なまでにアレだな」


魔女「あら気がついたの? さては経験豊富?」


隊員「いや、人並みにしか経験していないが...このようなのは何度も見てきた」


ドッペル「...なによ」


なぜこの魔物の姿が今も魔女のままなのか。

隊長という宿主を取り戻したのならば、見た目を元通りにしてもいいはずなのに。

その理由は簡単であった、ドッペルゲンガーというのは宿主に偽装する者。

魔女という女に姿を変えたのが運の尽き、もしくは幸いなのか。


魔女「さっきの話の通りなら...キャプテンがいるなら闘ってくれるってことよね?」


ドッペル「まぁ仕方なくね...苦労して取り戻したこの身体を失うわけにはいかないもの、だから手を貸すのよ」


隊長が闘うというのならそれに伴うのは死の危険性。

だが闇という魔法があれば、その危険性は格段に減少させることができる。

せっかく苦労して取り戻したこの宿主を見殺しにするのは惜しい、だから手を貸すと言っている。

112 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:46:19.73 ooAlurkw0 1040/1103


魔女「...本当にそれだけ?」


ドッペル「...?」


しかし、そのような利己的な思考の裏には別の感情が無意識に存在していた。

今現在の見た目は魔女、つまりはドッペルゲンガーは魔女になりきっている。

幾度となく日本のコミックスを読破した隊員にはこう見えていた。


隊員「...見事な"ツンデレ"だな」


ドッペル「ツン...デレ...?」


魔女「あんた、キャプテンのことをどう思っているか口にしなさいよ」


ドッペル「えっと...冷静に見えていて内に秘めた感情が豊かで...良質な餌になり得そうで...」


まず始めに口走ったのは、己が隊長に固執する理由。

至高の絶品という訳ではないが、良質な食事になることは間違いない。

だが彼女は彼女である、だからこそソレ以上の言葉が無自覚に続いてしまった。


ドッペル「...頼りがいがあって...逞しくて...それに格────っ!?」ピクッ


なぜそのような言葉が続くのか。

それは単純、この魔物は魔女に一度取り憑いてしまったからである。

宿主に偽装するということは宿主になりきってしまうということ、それをようやく自覚できた。


ドッペル「──まさかこれが狙いっ!? 謀ったわねっ!?」


魔女「あんな状況でそこまで考えてられないわよ...」


ドッペル「ゆ、許さない...これじゃ...これじゃっ!!」


隊長「...これじゃ?」


その言葉に感情が揺さぶられている。

なぜここまで鼓動が激しくなっているのか。

感情を喰らうものが、感情に振り回されている。


ドッペル(この女...まさか想い人の言葉1つ1つにここまで喜んでいたのね...)


ドッペル(2人同時に...それも恋人同士に取り憑いたのは初めてで考えもしなかった...っ!)


ドッペル(身体が熱い...愛という感情はこれまでだったのね...これじゃ...もう...)


ドッペルゲンガーに植え付けられたのは愛しの人物を思う感情。

それを前に抗える乙女など存在しない、影の彼女は帽子を深くかぶり目元を隠してしまった。

113 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:48:03.04 ooAlurkw0 1041/1103


ドッペル「...ともかく、きゃ...きゃぷてんが闘うのなら、私も手伝うわ」


隊長「お、おう...そうか、それは助かるが...」


隊員「...決まりだな、私たちは一度離脱をする」


魔王妃「わかりました...ですが、渡したいものがあります」


隊員「それは私もだ...まずウルフ、こっちにおいで」


ウルフ「うん?」


そう言うと彼女は軽く尻尾を揺らしながら近寄ってきてくれた。

すると彼はあるものを取り出すとともに、言葉を告げる。

それは隊長の手持ちを見れば当然の判断であった。


隊員「そのハンドガン、Captainのモノだろ?」


ウルフ「そうだよ」


隊員「...今、Captainはほぼ丸腰だ、その手に持っている方を返した方がいい」


ウルフ「あ、そっか...そうだねっ!」


隊長「あぁ、そうか...朧げだが、アンチマテリアルで俺のアサルトライフルが破壊されたんだったな」


今彼が持っているものはナイフと手榴弾だけ。

これでは闘うにも闘えない、ならば2丁の銃を持っているウルフがソレを差し出すのは当然とも言える。

だがハンドガン1つじゃ心もとない、そんな2人に隊員は更に装備を明け渡す。


隊員「...それで、これを使うといい...使い方はわかるな?」


ウルフ「これって...」


隊長「ソードオフのショットガンか...それに弾薬はドラゴンブレスだったな」


隊員「その通りです、これなら心強いでしょう...Captainにはこれを」スッ


彼が隊長に渡したもの、それは見覚えしかない武器。

これは部隊に支給された指定の代物、その見た目の違いは1つもない。

隊長が持っていたアサルトライフルと同じモノが譲られた。


隊長「...手に馴染むな、支給品なだけはある」


隊員「メンテナンスはバッチリです、どうかご活用ください」


隊長「あぁ...わかった」


その銃には隊員の念が込められている。

できることなら彼も続投したかった、そして隊長を蝕んでいたクソ野郎に一発ぶちこみたかった。

しかしそういう訳にはいかない、負傷者を介抱するのも大事な役割である。

強い責任感と淡い自責の感情を背負い、彼は隊長に全てを託す。

114 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:49:11.79 ooAlurkw0 1042/1103


隊長「...迷惑かけたな」


隊員「いえ、無事にこうして...戻ってこられただけでも十分です」


隊員「それに...Captainが年下の女性にゾッコンな様子を見れましたしね」


隊長「...お前、覚えておけよ」


思わず鼻で笑い合ってしまう。

先程まで地獄のような光景を目の当たりにしていたのに。

隊員は苦しむ隊長を、隊長は仲間たちに手をかける光景を見ていたのに。


魔王妃「...これをどうぞ」スッ


魔女「...これって」


そんな彼らを尻目に彼女が渡してくれたのは小瓶。

先程隊員に渡したものと同じ、魔法に関する薬品である。

しかし魔女にはわかった、これがただの代物ではないことに。


魔女「...魔力薬ね、てっきり魔法薬だと思っていたわ」


魔王妃「その通りです、市販の魔法薬では魔力回復量などたかが知れています」


魔王妃「ですけど自作の魔力薬なら瞬時にして、私の魔力量の限界値まで得ることができますからね」


魔力薬の応用的な使用方法であった。

本来魔力薬というモノは、他者に自分の魔力を一時的に分け与えるモノである。

だがソレを自分自身に使えば、自分に自分の魔力を分け与えるという意味のない行動にも思える。


魔女「光への対策用に作ったのね、光魔法で魔力を失ってもこれを飲めば...」


魔王妃「平常時に作った魔力薬ですから、0になった私の魔力から一気に平常時までの魔力量を底上げしてくれます」


以前女賢者が説明してくれた数字の話。

彼女の魔力、その数値が100だとすれば、魔力薬に含まれるその量も100になる。

だがその100という数値はあまりにも大きい、魔王妻の魔力量とはとても凄まじいモノである。

市販で売っている魔法薬では、わずか10ぐらいしか回復できないであろう。

だが魔力薬なら話は別、光によって0にされた魔力を一気に100まで回復できる。


魔女「そうか、そういう使い方もできるのね...私も魔力薬の作り方を覚えたほうがいいかしら」


魔王妃「そのほうが懸命だと思いますが...今教えられるほどの余裕はありません」


魔王妃「ともかく、もし窮地に陥ったらこれを飲んでください...必ず力になるはずです」

115 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:50:32.37 ooAlurkw0 1043/1103


魔女「わかったわ、大事に持っておくわね...でもいいの?」


魔王妃「光魔法により奪われた魔力は回復できますが、今は属性付与により恒久的に魔力を抑えつけられています」


魔王妃「今の私には使いようがありません、どうかご活用くださいね」


その小瓶に秘められた魔力はとても膨大なモノ。

魔女はそれを彼女から受け取った、そしてそれを衣服の収納にしまう。

すると聞こえたのは、少し耳障りな甲高い音。


魔女「...あれ、これって」


隊長「──グッ...!?」


その時だった、彼女は意識を別の方へと飛ばす。

声の主は愛しの人物、それは苦悶のうめき声に近いモノであった。

当然であった、彼は幾度となく炎を受け銃弾に襲われたのであった。


隊員「...大丈夫ですか?」


隊長「あ、あぁ...大丈夫だ...」


ドッペル「...あまり無茶しないほうがいいわよ、現実では様々な攻撃を受けたのよ」


ドッペル「それに光を追い出すために精神世界で大量の闇を放出したのよ、いつ倒れても不思議じゃないわ」


心身ともに、多大な負傷を受けている。

正直なところ彼もすでに立つことが限界にきている。

それは隊長自身も自覚している、ならなぜ先程の隊員の言葉を飲み込んだのか。


魔女「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...

理由はこの暖かい魔法、その優しい光が隊長の闘志をみなぎらせる。

光によって一時的に奪われていた魔力が時間を経て少しばかり回復していた。

そしてその光は彼だけではなくこの場にいる皆も包み込む。


隊長「...相変わらず、心地いいな」


魔女「ここまで効き目があるのは、あなただけよ」


その光は隊長の身体をみるみる癒やしていく。

身体に残ったやけど痕、銃傷による痛々しい傷跡。

そしてわずかにも垂れ流れていた血液が止まる。

116 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:51:30.07 ooAlurkw0 1044/1103


隊員「──ッ! 凄まじいな...部隊に欲しいぐらいだ」


ウルフ「ありがとうっ! 魔女ちゃんっ!」


魔女「どういてしまして...だけど...」


周りにいた皆も癒やしていたはずだった。

しかしどうしても1人だけはそうともいかない。

時間経過ではどうすることもできない、嫌がらせのような属性付与が治癒を拒ませていた。


魔王妃「構いませんよ、最低限の処置はしてもらいましたから...気に病む必要はありません」


隊員「...厄介だな、この光というモノは」


魔王妃「そうなんですよね、この光自体に殺傷能力はありませんが...鎮圧力が凄まじすぎるんですよね」


魔王妃「...っと、光属性に関する愚痴など山程ありますから、ここまでにしておきましょう」


それを言い終わると彼女は指を向けた。

そこにあるのは、魔法で作られた空間の壁。

この光景、隊長たちは一度みたことがあった。


魔王妃「...魔王子に会ったということは、この結界魔法のこじ開け方をご存知ですね?」


隊長「あぁ...あの時はユニコーンの魔剣を使って、一時的かつ局地的に結界を破り侵入したが...」


魔女「...今はその魔剣を持っていないわ、魔王子に託したからね」


魔王妃「なるほど、そういう訳でしたか...夫の結界が破れていないのに魔王子が抜け出した理由がわかりました」


魔王妃「ですが、大丈夫です...あれは魔王が作り出した闇の結界ですから」


魔王妃「今回のこれは...見た目でわかりますでしょうか?」


記憶を辿る、過去にみた結界は2種類。

1つは魔王の創り出した黒い結界、もう1つは大賢者が創った無色の結界。


魔女「...え、もしかして補助魔法なのに属性が関与しているってこと?」


隊長「俺が読んだ本では補助魔法は無属性の扱いになってたはずだが...」


彼が言っている本というのは、向こうの世界で初めて手にした書物。

基礎魔法学の教本、そこには隊長の言葉通りの記載が載っていたはずであった。

だが現在目の前に広がっている結界魔法の色がソレを否定する。

117 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:52:28.46 ooAlurkw0 1045/1103


魔王妃「簡単な話です、属性付与ですよ」


魔王妃「夫は実の息子を抑え込むために、圧倒的な質を誇る闇を結界魔法に纏わせていました」


魔王妃「だから魔王子が闇を持って暴れても、破壊することができなかったわけです」


同時刻程に別世界では魔王が歴代最強の魔王に刺されていた。

つまりはそういうことである、圧倒的な質の差の前には上位属性の相性など無意味。

だからこそ可能な方法が導き出されていた。


魔王妃「...魔王の結界を抜けた時の逆のことをすれば通れます」


あの時は光で闇の結界を抜けた。

ならば逆となると、闇で光をこじ開けることになる。

それができるのは1人しかいない、どうしても彼女の手を借りなければならない。


ドッペル「...」


彼女が見つめる先には白き魔法が展開している。

その圧倒的な質の差に、並大抵の闇など歯が立たない。

だがそれでいい、光が闇を抑えようとした時に生まれる隙を作り出せれば。


隊長「...頼めるか、ドッペルゲンガー」


ドッペル「...」


なぜこの魔物が手を貸さなければならないのか。

その答えは実に単純であり、それでいて業の深いモノ。

捕食の対象が、どうしてここまで愛おしく思えてしまうのか。


ドッペル「...仕方ないわね■■■■」


快諾、そうとしか表現できない返答速度であった。

その様子を確認すると3人は急いで移動を始める。

質の差により闇が作り出してくれる入り口はごく僅か、それでいて刹那。


隊員「────GET THE VICTORY」


そして隊員は勝利の言葉を彼らに向けた。

それを受けた隊長は静かに親指を立てた。

ただそれだけだった、僅かな出来事ではあったがソレを確認できただけ十分であった。


~~~~

118 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:53:47.50 ooAlurkw0 1046/1103


~~~~


??1「...何だこれは?」


ある男性がそうつぶやく。

そこには倒れている女の人が存在していた。

しかし、発している言語は全く理解できない。


??1「...知らない言語だな」


この男、独り言が激しいタイプであった。

なにか作業をしながらも、倒れている女性を相手に話しかけている。

だが返答も虚しく、聞いたことのない言葉を耳にすることしかできずにいた。


??1「...格好もまるで、どこかのおとぎ話に出てきそうなモノだね」


??1「まぁいい...これもなにかの縁かもしれない、奇縁というべきか」


??1「私の生まれた国では縁を大切にするものだ...これから仲良くしようじゃないか」


??1「とにかく、その言語を教えてくれないか? それと血液を採取させてもらおうか」


白衣の男が倒れている女性に迫りよる。

他者を拒みがちな彼が、このような奇縁で琴線に触れてしまった。

注射器片手に迫りくるその姿はなかなか恐ろしいモノであった。


??2「...□□、□□□□□□□□?」


彼女が放った言語はとても白かった。

そしてその表情はどこか柔らかく妖艶。

まるで獲物を見つけた獣のように、はたまた孤独から開放された乙女のような顔つき。


~~~~

119 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:55:43.16 ooAlurkw0 1047/1103


~~~~


隊長「...ここは」


──□□□□□□□□□□□□□□...

あたりからは光の言語が響く。

日本語は愚か、英語ですら当てはめることのできない音。

不思議な感覚が彼を包んだ、しかし彼女らはそうではなかった。


魔女「...なんか、どこか懐かしいような」


ウルフ「うん...どっかで聞いたことある...かも」


ドッペル「...」


ここは偽勇者が創り出した結界の内部。

光の属性付与が関与しているはずだが、身体の調子は平常通り。

どうやら付与されていたのは結界の境界線のみだった様子であった。


ドッペル「...気をつけて、もうすぐよ」


魔女「そうみたいね...だいぶ近づいてるわ」


隊長「...わかった」


内部に侵入して数十分が経とうとしていた。

歩み続けることで、ようやく視認することができる。

だがその直前に影の魔女が動きを見せる。


ドッペル「...身を隠してもいいかしら、あんたの身体に」


隊長「...あ、あぁ...いいぞ?」


今までなら一々確認など取らずにいただろう。

すこし不自然な印象があるが、隊長はそれを受け入れた。

それがどれだけ残酷なことなのだろうか。


ドッペル「...」


そして彼女が隊長に触れると姿を消した。

その表情は魔女のモノであり、わかりやすくもわかりづらい。

矛盾めいたその感覚、男である隊長には永遠に理解ができないであろう。


隊長「...もうじきか」


ウルフ「すごい...気配がするよ...」


魔女「これが奴の本気ってことかしら...とてつもない魔力を感じるわ」


隊長「...」スチャ

120 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:56:17.70 ooAlurkw0 1048/1103











「...結界を抜けてきたところを見ると...あのドッペルゲンガーが手を貸したというところか」










121 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:57:21.84 ooAlurkw0 1049/1103


声が聞こえる、その言語は馴染みのある日本語。

中性的な声色の彼女が投げかけてきたのは考察であった。

ソレは見事に的中するが、だからといってどうもすることはない。


隊長「...これが敵の本体ってわけか」


魔女「これが過去にいた勇者ねぇ...そしてその魔力か...」


ウルフ「...」


ウルフはすでに感じていた。

その圧倒的な実力差に、とてもじゃないが敵う相手ではないことに。

だが今は勇気が彼女の足を支えている、手に持つこの銃器が力を湧かせる。


勇者「...愚かな、勝てると思っているのか...」


勇者「私は歴代最強と謳われている魔王を滅ぼした勇者だぞ...?」


────□□□□□□□□□□...

あふれるばかりの光が産まれる。

それが意味するのは始まりであった。

これが最後の決戦、第一声はもちろん彼が。


隊長「──来るぞッ!」


魔女「──わかってるわよっ!」スッ


彼女が取り出したのは、小瓶。

切り札を早速出すのには訳があった。

最強の光を持つ者の前に、出し惜しみなど破滅に向かうことになるからだ。


勇者「──"光魔法"」


魔女「────っ!」クピッ


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...!

身体に感じる異物の魔力。

本日2度目の魔力薬が身体を蝕む。

まるで蟒蛇に締め付けられたかのような痛みをこらえながらも彼女は言葉を綴る。


魔女「────"転移魔法"」


──シュンッ...!

見よう見まねで彼女が唱えたのは今までの強敵が散々使ってきた魔法。

魔王妃という卓越した魔力が可能にするのは、瞬間移動であった。

視界が変わる、隊長が見えた光景は勇者の背中。

122 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:58:18.96 ooAlurkw0 1050/1103


隊長「──Eat that you」スチャ


──ババババババババッッッ!!

その弾幕はなにも帯びずに放たれた。

ただの銃弾がこの場面において有効的である。

このような代物は光魔法ではどうすることもできないからだ。


勇者「チッ..."闇魔法"」


──■■■■■■■■■■ッッ!!

光に比べ、非常に貧弱な闇が銃弾を飲み込んだ。

だがそれはあまりにも危険な行為であった。

ここに魔王妃が居れば、この闇魔法の合間を狙い撃つだろう。


魔女「──"雷魔法"っ!」


────バチンッッッ...!!

その威力は彼女が今まで放ってきた魔法の中で最強。

もともと得意だった雷の魔法、それが魔王妃の魔力で強化されている。

光魔法は真反対の方へと、闇魔法はその貧弱さ故に死角だらけ、そして新たに魔法を唱える暇などない。


勇者「────うっ...!?」


闇の隙間を稲光る強烈な一撃が彼女の身体へと直撃する。

たとえ魔物の身体だとしても、たとえ勇者という上質な肉体だとしても。

魔を統べる王の妻が介するその雷はとてつもないモノ。


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


その魔法は彼を強化する。

隊長のアサルトライフルが黒く染め上がる。

それが意味するのは1つしかない、追撃だ。


隊長「──OPEN FIREッッ!!」


────ババババババ■■■■■■ッッッ!!

すべてを破壊すると言われる黒の魔法が付与されたソレはあまりにもインチキであった。

それを恐れた勇者がとる行動など1つしかない。


勇者「..."属性付与"、"光"」


────□□□□□□□□□□□□...

この時、勇者は初めてお披露目をする。

自らに付与させた光の威力というモノを。

その輝きは闇を喰らうだけではない、あたり全体に影響を与える。

123 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 09:59:39.26 ooAlurkw0 1051/1103


魔女「──"転移魔法"っっ!!」シュンッ


ウルフ「...ッ!?」シュンッ


その場に残ったのは隊長だけであった。

魔女はウルフを連れどこか目視すらできない離れた場所へと離脱をする。

幸いにもこの光は、あの時見せられた地平線まで追いかけてくるようなモノではなくこの場に留まるモノ。


勇者「──ぐっ...う...っ!!」


光によって魔力に関わるモノ全てを制することができた。

だがそれだけでは駄目、現代兵器であるこの銃撃を防ぐことはできない。

とてもじゃないが目視でコレを避けることは不可能、武の達人ではない彼女では。


ドッペル「気をつけて、属性付与によってここ周辺じゃ魔法なんて一切使えないわよ」


ドッペル「魔女とウルフの援護は期待しないほうがいいわ、私もあんたの身体の中で状況を見てるわね」


隊長「...あぁ、わかった」


──......

身体にまとわり付いていたはずの闇が消え失せ黒の音が消滅する。

勇者により光の拠点が作られてしまった以上、この場を崩せるのは隊長の持っている武器だけになる。

隊長は改めて、力強くアサルトライフルのグリップを握りしめた。


勇者「まさか、本当に渡り合えると思っているのか?」


隊長「...どういう意味だ?」


その時だった、唐突に偽勇者は語りかけてきた。

まるで己にはまだ秘めたる力がある、そのような言い回しであった。

だが彼女は感情を喰らう魔物、これは動揺を誘うはったりかもしれない。


勇者「言葉通りだ...その武器だけで、私に勝てるとでも?」


隊長「...Bluffか? 悪いがその手には乗らない」


このまま勝利を掴める、そのような意味に聞こえるが真意は違っていた、隊長にはコレしかないのである。

銃という武器しかない、例え偽勇者が新たな力を見せてきたとしてもコレで抵抗するしかない。

ならばやるべきことは1つ、余計な感情で平常心を崩さずにいつもどおり冷静で振る舞うこと。


勇者「私は勇者だ、絶対的な力を持つ勇者だ」


隊長「...随分と溺れているな」


ドッペル「...待って」


どこか理性を崩し始めた偽勇者。

だが隊長越しに見ていた彼女はなにか予感を察知する。

それはすぐに目視することができた、彼女の両腕に光が、魔力が収縮する。

124 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:01:26.88 ooAlurkw0 1052/1103


勇者「...もっと力を」


──□□□□□□□□□□□□□□□...

膨大な量の光が、魔力が偽勇者に集まりだす。

その規格外の魔力量にドッペルゲンガーは思わず声を上げる。


ドッペル「な、なにが起きようとしているの...?」


隊長「...光魔法か? だが人間の俺を相手に────」ピクッ


人間である隊長を前に光など無意味。

隊長はすぐに悟った、これこそがブラフであると。

しかしこの場においてわかりきった事実を行おうとする者などいるだろうか。


隊長「...油断はしないほうがいいな」


ドッペル「...正直、精神世界に逃げ込んでいる今でさえ足がすくんでいるわ」


隊長「...」


心の中にいる偽物の魔女が震えている。

その感覚は隊長にも伝わっていた、あれほどの魔物がここまで竦み上がっているとは。

彼には魔力を感じることはできない、だが目の前に展開している魔力量の規模が伺えていた。


勇者「...君は知っているか?」


隊長「...」


勇者「私がどのようにして、君に取り憑いたかを...」


沈黙を続ける隊長をよそに彼女は語り続ける。

なにかどうしても伝えたいことがある、そのような嬉々とした口調。

だがこの様子、隊長にはどこかで見覚えがあった。


勇者「..."研究者"」


その名はあちらの世界での奴の名前。

それを聞いただけで己の血液が沸騰するような衝動に駆られる。

だが彼はもう果てた、その事実を脳に納得させ冷静を保つ。


隊長「...」


ドッペル「そうよ、落ち着いて...衝動に駆られたら勝てる相手でも負けてしまうわ」


勇者「研究者ぁ...そう研究者だ...ふふ...」


125 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:02:59.10 ooAlurkw0 1053/1103


隊長「...正気じゃないな」


ドッペル「...どうやら、知能はそこまで高いわけじゃなさそうね」


銃撃を何度も受けている、それは決定打に限りなく近い負傷である。

身体に走る痛みが彼女の理性を崩し始めていた、それにより露呈するのは。

勇者に取り憑いたドッペルゲンガー自体の知能の低さであった。


隊長「...力に見合った理性を持ち合わせていない、だから力に溺れているのか」


ドッペル「いくら勇者が賢かったとしても、取り憑いた本人が馬鹿なら意味ないわね...」


ここに偽勇者の行動理念の底が見えたような気がした。

この魔物は勇者という強力な人格を奪うことができてしまっていた。

一度味をしめてしまったら最後、その欲求は貪りへと変貌する。


ドッペル「だからこそ、ここで止めないとまずいわね...この世の全てを乗っ取るかもしれないわよ」


隊長「...」


たとえ知能が低くても魔法という超常現象を扱えてしまう。

特に危険なのが闇魔法である、黒い魔法の性能をなにも知らない軍隊が敵う相手ではない。

偽の魔女の言葉に、嫌になる程に説得力を感じてしまう。


勇者「ふふ、ふふふふふふふふふふふ...」


勇者「君と出会ったのは、どこだと思う?」


隊長「...さぁな、夢の世界で会ったか?」


勇者「懐かしい、もう何年も前になるのか────」


懐かしい、その言葉が答えを浮かび上がらせた。

研究者という単語、そして何年も前という単語。

過去にあのマッドサイエンティストと対面したのは、あの時しかない。


勇者「──君は殺したね、自らの仲間を」


隊長「────IN YOUR FACEッ! BITCHッッッ!!!」スチャ


──バババババッッ!!

己の感情が弾けてしまう。

彼は赦せなかった、彼女たちのことを軽々しく口にすることを。

気づけば指がトリガーを引いていた、まるであの時の部隊にいてくれた彼女のように。

126 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:04:37.33 ooAlurkw0 1054/1103


隊長「──ッ!?」


ドッペル「...なっ!?」


勇者「どうだ、驚いただろう...私からすればこのような事は造作もないんだ」


偽勇者を包む光が弾丸に付与された闇を滅ぼした。

それだけなら話はわかる、だが隊長らが確認したのはそれだけではなかった。

まるで銃弾が外れたかのような手応えの無さ、それが意味するのは1つ。


ドッペル「あ、あれは...属性同化とかいう魔法...っ!?」


隊長「な...んだと...ッ!?」


それとしか形容することはできなかった。

これは付与どころの話ではない、偽勇者の身体は光そのものへと移り変わっていた。

それは魔王妃が沢山みせてくれた属性と同化する魔法に酷似した現象。


勇者「散々見せてもらったよ...お蔭でこんなにも簡単に真似することができた」


──□□□□□□□□□□□□...

先ほどとは比較にならない膨大な量の光が生まれ続ける。

属性同化というモノの真骨頂、それは己の実態を無くすということ。

対抗策など1つしかない、だがこれは圧倒的な質を誇る光である。


隊長「まずい...実態のない相手に銃は無意味だ...ッ!!」


ドッペル「それだけじゃないわ...今まで属性同化の相手には闇か光魔法で抵抗できたけど...」


ドッペル「...無理だわ、私の闇じゃ一矢報いるどころか...瞬殺されるわね」


これでは偽勇者相手になにもすることができない。

ただその様子を眺めることしかできない、ここに来てこのような切り札が来るとは。

だがそれはまだ序章に過ぎなかった、これからは眺めることすら不可能になってしまった。


勇者「...散々見せてもらったのは魔法だけじゃない...そうだろ?」


──□□□□□...

光が、魔力が形を成していく。

そして偽勇者の腕にはある武器が創られていた。

これは魔法の域を超えた創造、彼女の魔力は1つの段階を越える。


勇者「重たいな...女の私では少々厳しいか」スチャ


────バババババッッッ!!

正しく構えて撃つことはできなかった。

彼女は腰にソレを構えて、容赦なく引き金を引いた。

なぜ偽勇者は、風貌に似合わないその現代兵器を所持しているのか。

127 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:05:46.36 ooAlurkw0 1055/1103


隊長「────ウッ...!?」


慣れていない射撃、極めて精度の低いモノだった。

しかしそれでいて人に当てるのには苦労しない、それがこの武器の強み。

輝かしい見た目をしているアサルトライフルが、隊長の左足を中心に被弾しまくる。


ドッペル「──なにもないところから武器を創りあげたですって...っ!?」


隊長「あの女ぁ...やってくれるな...グッ...!」


足から感じるこの激痛は間違いない、銃痕だ。

そして眩しいながらも、彼女の次の行動が見えてしまった。

銃口がこちらを向いている、確実に追撃の準備を終えていた。


ドッペル「──走ってっ!」


隊長「────ッッ!」ダッ


──ズキィッ...!

我が身を蝕むのは鋭い痛覚。

当然であった、立っていることすら凄まじいというのに。

足を撃たれた人間に走ることなど無謀とも言える。


勇者「...さよなら」スチャ


────ババババッッ!!

たとえ初めて射撃したとしても、走ることのできない人などただの的当てにしかならない。

彼女の持つ輝かしいアサルトライフルの照準は確実に隊長の頭部を狙っていた。

そしてこの重厚な射撃音、もう終わりだ。


勇者「────っ!?」


しかし偽勇者の視界が捉えたのは隊長の死骸ではなかった

尤も視界に捉えたという表現は間違えていた、彼女は見えていない。

その迅速なる獣の速度に追いつける者などそうそういない。


隊長「────ウルフッ...」


ウルフ「──しっかりっ! ご主人っ!」グイッ


隊長「すまない...助かる...」


彼の肩を支え果敢にも遁走するウルフ。

だがその勢いは初めだけ、徐々に身体を蝕み始める。

属性付与、それ以上のなにかを発動している偽勇者の光によって。

128 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:06:58.09 ooAlurkw0 1056/1103


ウルフ「──フゥーッ...! フゥーッ...!」


たとえ強靭な身体能力の持ち主だとしても、彼女は魔物。

魔物に必要不可欠な魔力が制限されている今、徐々にウルフの身体が衰えていく。

不変な少女並の体力へと変貌した彼女は息を切らし始め、走る速度が急激に遅くなる。


勇者「哀れな、この武器の射程を知っているだろう?」


ウルフ「...ッ!」スチャ


それはこちらも同じであった。

だるい身体にムチを撃ち、無理矢理にも片腕を動かす。

そして偽勇者に向けられたのは、ソードオフのショットガン。


勇者「...無駄」


──ダァァァァンッッ!!

その炸裂音は無情にも、響くだけであった。

着弾箇所を発火させるその非人道武器は虚しくも効果を得られず。

実体のない光に向かって射撃してもなにも起きない、当然の結果であった。


ウルフ「そ、そんな...」


隊長「クソッ...」


もう打つ手はない、この光を前に魔物など太刀打ちできない。

たとえドッペルゲンガーが隊長の精神世界から姿を現したところでなにもすることができない。

光に唯一抗える隊長も、あの神業じみた創造能力を前に負傷を余儀なくされている。


勇者「残念...だけど、神の如くに力を得た私に敵うはずがない」


勇者「この勇者の光や膨大な魔力と...この未曾有の武器があれば、敵はいない」


勇者「これから先は神を名乗ることも烏滸がましくない...フフ...」


神、そのような名称に相応しい。

なにもないところから物質を作り出す、これは神の所業と言わざる得ない。

隊長とウルフはもう神を名乗る女の前にひれ伏すしかない。


ドッペル「...随分と傲慢な神様もいたものね」


────■■■...

淡い闇の音と共に姿を見せたのは、最愛の偽物。

魔物である彼女がこの光に耐えられるわけがない、だというのになぜ。

ドッペルゲンガーは背中を隊長たちに向ける。

129 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:07:58.37 ooAlurkw0 1057/1103


ドッペル「行って、時間を稼ぐわ」


隊長「...どういうつもりだ」


ドッペル「いいから早く、今ならまだウルフはあんたを担いで移動できるわ」


ウルフ「...ッ!」グイッ


偽物とはいえ、とても聞き慣れた声に反応する。

命令に対し忠実に全うする、それが狼という生き物。

彼女は歩行を進める、安息を作ることのできる本物の元へと。


隊長「...」


ドッペル「...」


そしてお互いは無言を貫く。

かつて見せた、隊長と魔女の愛の沈黙。

それとは遥かに違う、今の2人の面持ちはとても険しいものであった。


勇者「まずは君からか、まさか同胞から殺すことになるとは」


ドッペル「...一体、どうしちゃったのかしらねぇ■■■」


膨大な光に歯向かうのは儚すぎる黒の魔法。

そして彼女は自虐めいた言葉を漏らす。

心変わりにも程がある、だが乙女の感情を抑えることなど不可能。


ドッペル「失敗したなぁ...あの女に取り憑かなければ────」


よかった、などとは言わなかった、このドッペルゲンガーは味を知ってしまった。

絶望とは程遠い希望という美食を、それはとても愚かなことであった。

これから死にに行くというのに彼女の表情はとても微笑ましかった。


ドッペル「...あんたの為に尽くすことができることが、こんなにもいい食事になるなんてね」


~~~~

130 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:08:59.06 ooAlurkw0 1058/1103


~~~~


魔女「────キャプテンっ!」


しばらくして、ウルフは退避に成功する。

結界内のどこかで気を伺っていた魔女の元へと帰還する。

脂汗にまみれた隊長の様子を見て、彼女はすぐさまに処置を行う。


魔女「..."治癒魔法"」


──ぽわっ...

今までの比にならない、とても心地の良い明かりが隊長を癒やす。

銃痕からタレ流れ続けていた血は止まり足の調子を万全にさせる。

そして魔女は状況の確認をする。


魔女「...ごめん、助けに行けなくて」


隊長「いや...むしろそのほうがいい、魔王妃の魔力を簡単に失うわけにはいかない」


ウルフ「げほっ...げほっ...」


魔女「ウルフ、ありがとう...ゆっくり休んでて」


ウルフ「...うん」


魔女は光によって魔力薬の効果を失うことを恐れていた。

だが初っ端の転移魔法がなければ、全滅は免れなかった。

決して飲むタイミングを間違えたとは言えない、だからこその苦悩。


魔女「...桁違いの魔力を感知したから、ウルフにお願いしたのは正解だったわね」


隊長「いい判断だ、ウルフが来なければ俺は殺されていた」


魔女「...なにがあったの? 光魔法だけならあなたを殺せることはできないはずよね」


隊長「...奴は神の所業をした...恐らく魔力を使って何もない所から物質を作り上げていた」


隊長「そして作り上げたのは...この武器だ」スチャ


そうしてちらりと見せたのは彼の武器。

アサルトライフルという最強の装備を勇者が所持している。

隊長ほどの男が不意を突かれるわけだ、足の怪我も納得できる。


魔女「...ドッペルゲンガーは?」


隊長「...」


口を開くことを躊躇う。

なぜ、この前まで殺してやりたいほどに憎んでいた相手を。

相手も当然そのように思っていたはずだというのに、困惑して当然であった。

131 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:10:15.56 ooAlurkw0 1059/1103


隊長「...俺とウルフを庇い、1人残った」


魔女「...そう」


だが魔女にはその行動理念がわかっていた。

私という人物になりきっているということは、そういうことである。

謀らずともにドッペルゲンガーを更生させたとも言える、それがどれだけ罪深いことなのか。


魔女「...本当にわからないの?」


隊長「...」


その魔女の言葉が胸に刺さる。

隊長ほどの男が気が付かないわけがなかった。

だがソレを受けれ入れてしまうという事実がたまらなく不安であった。


隊長「...わかっている、だが答えることはできない」


隊長「俺には...お前がいるからな」


その時、肩の荷が下りた、いままで抱えていた邪念が消え失せる。

己の身体に住み着き、感情を弄び、あまつさえは魔女を危険な目にあわせた。

そんなドッペルゲンガーという魔物が嫌いでしかたなかった。


隊長「...奴も丁重に弔うことにする」


魔女「そう、賛成ね...もう他人の気がしないしね」


あの魔物の見た目は魔女、他人の気がしないわけがなかった。

この前までどちらかといえば敵であったはず、彼女との奇縁が隊長を生かしている。

彼女がいなければ今頃隊長は死んでいるだろう。


魔女「────っ」ピクッ


その時だった、魔女がなにかに感づく。

これの膨大な量の魔力は間違いない、憎たらしい方のドッペルゲンガー。

奴がここに向かっている、それがどういうことか。


魔女「...十分時間稼ぎしてくれたわね」


隊長「...あぁ、勇敢だった」


魔女「あの子のおかげで、あなたの傷を癒やすことができたもの」


ウルフ「...くるっ!」


────□□□□□□□□□□□□□□□...

まるで山のような大きさ、巨大な光がこちらを照らす。

そしてその中心には人物が1人、そしてもう1人。

髪の毛を無残にも掴まれ、無理やり運ばれてきた彼女がそこにいた。


132 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:11:24.08 ooAlurkw0 1060/1103


ドッペル「────」


隊長「──...ッ!」


魔女「...あの子の魔力、全て抑えられているわ」


勇者「果敢にも抵抗したきたんだ、弔ってやるといい」ポイッ


────ドサッ...

力なく横たわる偽の魔女。

彼女からは魔力も、生気も感じ取ることができない。

ぼろ布のように扱われる様が隊長たちの怒りを誘う。


隊長「...大事な仲間だ、よくもやってくれたな?」


勇者「その大事な仲間をおいて逃げたのは、どこのどいつか?」


魔女「...腹が立つわね、女勇者のほうが100倍可愛げがあるわ」


ウルフ「ガルルルルルルルルル...」


勇者「そう言うな、直にそのような減らず口もたたけなくなるぞ」


その高圧的な態度、まさにそのとおりであった。

この偽勇者が連れてきた光が、徐々に魔女とウルフの魔力を削る。

せっかく魔王妃から借りることができた魔力が徐々に失い始めていた。


隊長「...ッ!」スチャ


────ババババババッッ!!

再度射撃を試みるが、効果は得られず。

実態のない彼女の身体に物理的な有効打など存在しない。

もう打つ手は魔法しかない、だがこの光を相手に魔法など歯が立たない。


勇者「...詰みだ、もう諦めてくれ」


隊長「クソッタレ...」


ウルフ「うぅ...」フラッ


魔女「くっ...」グラッ


なにもすることができないうちにウルフは倒れ込む。

圧倒的な魔力量を誇る魔女ですら立つことが困難になる。

もうなにもすることはできない、勝敗は目に見えている。

133 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:12:19.07 ooAlurkw0 1061/1103


隊長「...ッ」


勇者「そう睨まないでくれ、君は私に感謝しなければいけないことがあるんだぞ?」


隊長「...なんだと?」


勇者「君も一度は思ったことがあるはずだよ」


ニヤニヤと、軽く人をバカにするような口ぶり。

そしてその語ることで悦に浸る正確、どこか奴の面影がある。

一体何のことを述べているのか、確かにソレは隊長も疑問に思ったことがあることだった。


勇者「...なぜこの世界の特定言語を彼女たちが使っているのか、だね」


隊長「...なに」ピクッ


魔女「...え?」


その言葉に魔女は混乱せざる得なかった。

自分の話している言語のどこがおかしいのか。

それだというのに、身体中に走る異様感に駆られてしまう。


隊長「...おかしいと思っていた...まさか、お前がなにかしたのか?」


勇者「そういうことになる、感謝してもらいたいね...でなければ君はその子と会話すらできないのだから」


魔女「...ど、どういうこと?」


勇者「...あの世界本来の言語は私が奪い...日本語という言語と入れ替えたのさ」


ここに、隊長が長らく抱いていた疑問が解消される。

しかし一体なぜ、この偽勇者はそのようなことをしたのか。

そしてどのようにして言語の認識をすり替えたのか、全く意図が読めずにいた。


隊長「...一体何のために?」


勇者「ふふ...どうしても聞きたいか...そのはずだ...ふふふ...」


勇者「教えてあげよう...なぜ私がそのようなことをしたのかを」


勇者「それは簡単さ、あの世界の言語には...力が篭りすぎているからだ」


隊長「どういうことだ...?」


勇者「君も聞いたことがあるはずだ...本来の言語の音を...今もね」


──□□□□...

耳を澄ませば、聞こえてくるのは光の音。

いままで疑問に思わなかったその音こそがこの話の正体であった。

彼の中で1つの線が繋がってしまう。

134 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:13:39.51 ooAlurkw0 1062/1103


隊長「...まさか、この音なのかッ!?」


勇者「ご明答、この□□□□□や■■■■■こそが、あの世界本来の言語さ」


魔女「────っ!」ピクッ


魔女に走るのは衝撃であった。

今までなぜ気づかなかったのか、自分が別の言語を話していることに。

まるで頭の中を誰かにいじられ、その認識を抑え込まれていたかのような。


魔女「──な...にこれ...」


──ズキッ...!

頭の中が、脳の中身から鋭い刺激が走る。

自分の感覚が失われていく、それでいてまだ何も気づくことができない。

その矛盾が呼び起こすのはとてもキツイ頭痛であった。


勇者「...無理に思い出さないほうがいい、私によって抑えているのだから」


魔女「あ、頭が...割れるように痛い...っ!」


隊長「──魔女ッ! 落ち着けッ!」


勇者「さて...では説明させてもらおうか」


勇者「私はあの世界の言語を奪い、日本語という言語と認識をすり替えた」


勇者「魔法...いや、これは神業と表現したほうがいいかな」


神業、それは先程見せつけられた。

何もない所から物質を作り上げる、それを可能にするのは魔力。

だがソレやコレは明らかに魔法の域を超えている、だからこそ彼女は神業と比喩する。


魔女「...あっちの世界すべての生き物の記憶を...言語を入れ替えたってこと...っ?」


勇者「そういうこと...どうだ? 神の所業だと思わないか?」


魔女「...随分と悪趣味な神様も居たものね」


隊長「一体、何が目的なんだ...?」


目的が不透明であった、なぜ言語を入れ替える必要があるのか。

それは先程も偽勇者が言っていた、力の篭った言語であるから。

この音を聞いてまず思い出すことができるのは、光と闇。


135 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:15:04.64 ooAlurkw0 1063/1103


勇者「...この言語には力があり過ぎる、君も見ただろう?」


勇者「□□□は全てを抑え、■■■は全てを破壊する」


勇者「...私の光魔法や、あの魔王の息子の闇魔法を見れば納得できるだろう?」


隊長「...ッ!」


勇者「...尤も、私の力も全てに及ぶことができなかったみたいだ」


勇者「光や闇属性の魔力の所有者などが、たまに無意識でこの言語を話していたりしていたな」


勇者「幸いにも認識は入れ替わったままだから、誰もその言語について追求することはなかったが...」


魔女「...っ」


未だに偽勇者の言っていることが一部理解できずにいた。

それほどに強力な戒厳令のような神業が記憶に染み込んでいる。

それをあの世界全体にバラ撒いたのだ、やはりこの魔物は神という存在に近いことが伺える。


勇者「私は無から物を創り、生き物の記憶を自在にすることができる」


勇者「...これを神と言わずに、なんと言うんだ?」


偽勇者の行動理念、それはより強き力を得ること。

だがそれは既に叶っていた、もうこの魔物に勝てる要素などない。

彼女が本気になれば、隊長の世界全ての生き物をマインドコントロールすることができてしまう。


隊長「...だからこそ、ここでお前を殺さなければならない」


隊長「お前は危険すぎる...」


勇者「...それは十分理解しているよ」


勇者「そんな君に細やかな贈り物をあげよう...」スッ


──ぽわんっ...

偽勇者が自らの頭に指を添える。

そうしてそこから出てきたのは、光る球体のようなモノ。

それが有無を言わさずに隊長の身体に入り込む。


隊長「────ッ!?」


記憶が混ざる、そのような表現が正しかった。

自分の頭の中に自分ではない者の光景が染み渡る。

それは彼女が体験してきた断片的な過去の出来事、まず見えたのは過去の仲間。


~~~~

136 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:15:58.54 ooAlurkw0 1064/1103


~~~~


勇者「...これは、私がやったことなのか?」


己の剣が血で染め上がる。

そして目の前で横たわるのは、ともに歩んできた仲間。

魔王妃の過去の姿、魔術師がそこにいた。


魔術師「────」


勇者「そんな...なぜ...なぜ私は...っ!?」


賢者「...グッ...ガハッ...」


勇者「なぜ...なんで...どうして...っ!?」


そしてくたばりかけの賢者。

己のした行動に理解ができずにいた勇者。

その様子を見かねた首謀者が声をかけた。


???「...殺してしまったのか」


勇者「──っ! 誰だっ!?」


賢者「ゲホッ...だめだぁ勇者、耳を貸すな...」


その忠告も虚しく、勇者の耳に入ることはなかった。

そして賢者は力尽きてしまった、もう誰もここにはいない。

孤独を強いられた勇者は頭の中に響く声を頼りにするしかない。

137 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:16:35.97 ooAlurkw0 1065/1103


???「酷いことをするじゃないか...仲間を殺すだなんて...」


勇者「そんな...私は殺っていないっ!」


???「じゃあその剣を握っているのは誰だ?」


勇者「──っ...!」


???「...殺したのは誰だ?」


勇者「...」


後に歴代最強と呼ばれる魔王を討ったばかりである。

当然心身ともに疲弊しているというに、この始末。

とてもではないが、誘導尋問のような誘惑に抗えるわけがなかった。


???「...仲間を殺してしまったのか」


勇者「...」


???「...たしか、生まれた国での法律はなんだったか?」


勇者「...」


???「...仲間殺しは重罪、死を持って償え」


勇者「...」


???「やるべきことは...わかるな?」


勇者「...」


なぜこのような単調な惑わしに乗ってしまったのか。

この勇者の欠点はそこにある、たとえ強靭な身体を持っていたとしても。

たとえ膨大な魔力を保持したとしても、至高の質を誇る光を所持したとしても。


勇者「...ごめんなさい」


彼女は弱かった、精神攻撃という卑劣な施しに。

討たれた魔王もこのようにして惑わせてやれば勝ち筋があったかもしれない。

真正面から闘って、この勇者に勝てるものなど居ない。


勇者「────っ!」


頭の中で渦潮に飲み込められるような感覚が巡る。

そして奪われるのは、身体、そして大切な思い出。

もう二度と本物の彼女は現れることはない、すべてを空にするまであの魔物は奪うだろう。

138 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:17:12.00 ooAlurkw0 1066/1103











「...ふふ」










139 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:19:05.08 ooAlurkw0 1067/1103


勇者「...ふふふふふふふふ」


勇者「...やった...ついに、最強の身体を手に入れられた...っ!」


その姿は間違いなく、勇者。

しかしその中身は違う、勇者のすべてを奪った魔物が中にいる。

それがどれだけ恐ろしいことで、怖ろしいことなのか。


魔術師「────げほっ...げほっ!」


そしてどれだけ不運なことなのか。

もう少し早く、彼女が目覚めていたら勇者の罪悪感は多少和らいでいただろう。

もう少し早く、彼女がくたばっていたらこのような光景を見ずにすんだというのに。


勇者「...生きていたのか」


魔術師「...偽物め」


勇者「残念、君の知っている勇者はもういない」


魔術師「よくも...よくも勇者を...っ!」


勇者「...そのままくたばっていれば良かったものを」


魔術師「許さない...絶対に許さない...っ!」


勇者「それは結構、どうぞ勝手に憎んで野垂れ死んでればいい」


勇者「私はこれからこの世界を統べる、忙しくなる...君に構っている暇はないんだ」


魔術師「...」ブツブツ


その時だった、魔術師はなにかを口ずさむ。

それは魔法を唱えるのに必要な詠唱と呼ばれるもの。

だがそれを見た勇者は、慢心が故にからかう。


勇者「今更なにをするつもりだ? 自爆魔法か?」


その油断は必然であった、最強といっても過言ではない身体を手に入れたばかりだ。

気分が高揚して正常な判断などつくわけがない、あのおとぎ話のような魔法など思い浮かぶわけがなかった。


魔術師「...あなたは、異世界を信じますか?」


勇者「...異世界だと?」


魔術師「この魔法は膨大な魔力、そしてその世界に関する記憶を必要とします」


魔術師「...後者は用意することは叶いませんでしたが、やるしかありません」


もはや賭けであった、魔術師に残された手段はこれしかない。

これは最後の抵抗、魔王を討ち折角手に入れた平和な世界をこのような醜悪な魔物に奪われるべきではない。

足りない要素がどのような結果を及ぼすか懸念されるが、もう試すしかない。

140 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:19:50.99 ooAlurkw0 1068/1103











「────"転世魔法"」










141 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:21:39.60 ooAlurkw0 1069/1103


魔術師「...うまく行きましたか」


魔術師「伝説は本当だった...世界を跨ぐ魔法は実在していたようですね...」


魔術師「──げほっ...」


──びちゃぁっ...!

腹部からの流血は愚か、吐血までもが彼女を追い詰める。

ありったけの魔力を使い果たした、もう魔術師を支えてくれる要因はない。

だがそれでもいい、勇者を奪った憎き存在がこの世界から去ったというだけで彼女は満足であった。


魔術師「もしも生まれ変わることができて...異世界へいくことができたのなら...」


魔術師「必ず...かな...らず────」


その呪いのような言葉を吐かずして、彼女は息を引き取った。

魔術師による転世魔法によって、この世は平和を勝ち取ったのであった。

このような悲しい結末を勇者一行が迎えるとは、誰も思いもしなかった。


~~~~


~~~~


勇者「...ここはどこだ」


勇者「こんな暗い場所が...異世界だというのか...」


勇者「こんなところで、私は朽ち果てるのか」


身動きが取れない、身体のすべてが拘束されている。

転世魔法に必要だった、その世界の記憶が足りなかったのが影響しているのか。

勇者の身体は地底深くに転移されていた、異世界の大地が彼女を拘束していた。


勇者「地中深く...誰も私に気づくことができないだろう」


勇者「...私が使える魔法は光魔法...そして元々の私が使えた弱い闇魔法のみ」


勇者「どうすることもできない...このまま果てるしかないのか」


勇者「...せっかく、最強の身体を手に入れたというのに」


光魔法ではどうすることもできない。

闇魔法を唱えようとも、地底でそのようなモノを使えばどうなることか。

落盤の恐れがある、死に急ぐようなことをするのは賢くない。


勇者「...少し、寝よう」


ようやく得た最強の力を得た反面、その絶望感はとてつもなかった。

魔力というモノが身体を強靭にしてしまっている。

無駄に長い寿命、彼女はただ何もすることもない人生を耐えることができるのか。


~~~~

142 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:23:32.99 ooAlurkw0 1070/1103


~~~~


研究者「...やぁ、調子はどうだい?」


勇者「モンダイ...ナイ」


そこには白衣の男と辿々しい言葉を放つ彼女がいた。

一体なぜ、どのようにして地底から救出されたのか。

どのような接点でこの男と出会ったのか。


研究者「...まさか地下に実験施設を拡張工事している時に人間のような生物と遭遇するとは」


研究者「あの地層は数百年前相当の場所だ...君の言う通り本当に人間ではないみたいだね」


勇者「...」


研究者「...それでいて既に日本語を学習している、素晴らしい」


研究者「そして未知の言語...血液中には未知の物質が...君は最高の実験体になりそうだ」


研究者「もちろん丁重に扱うよ、死なれたら困る...君は換えが効かないからね」


研究者「それに...この世界とは別の世界があるって話もとても気になる」


好奇心旺盛のその瞳には邪念などない。

その真っ直ぐな目線に彼女は一種の感情を生み出していた。

数百年にも及ぶ孤独から開放された乙女は、彼と同化する。


~~~~


~~~~


研究者「...ここが異世界というわけか」


草原の上に立つ白衣の男。

そして直ぐ側には、健康的な体格を取り戻すことができた彼女。

そう、彼らは草原地帯へと訪れていた。


勇者「...あの時、魔術師の詠唱が目に焼き付いている...猿真似で本当に世界を跨げるとは」


研究者「凄いね、その勇者って身体の魔力と記憶力には感謝だね」


勇者「そう...やっと、君をこの世界へ連れてくることができた...」


勇者「やっと...やっと私は...この世界に戻ることができた...」


野望がここに蘇る。

彼女はもっと上を目指さないといけない。

神に相応しい力を得なければならない、そのために必要なのは。

143 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:25:30.11 ooAlurkw0 1071/1103


勇者「...まずは、この世界全てを屈服させる」


勇者「そうして得た兵力と共に、あちらの世界も統べる」


勇者「...私は、神になる」


力を求めすぎた結果がコレだ。

もしくは、研究者という悪い男とつるんだ結果がコレかもしれない。

2つの要因が偽物の勇者をより傲慢にさせていた。


勇者「まずは...計画通り、この世界の言語をすり替える」


研究者「そのほうがいいね、まずは自分より強い者たちを弱くさせるのが得策だね」


研究者「...おそらく、この世界の言語は魔法をより強力にさせる効果があるんじゃないかな?」


研究者「それを日本語に置き換えさせることで、本来の威力を下げることができるのでは?」


勇者「...きっとそう、君の言う通りにすれば全てうまく行く」


勇者「君に出会えてよかった...本当に」


勇者「人間なんて...上辺を取り繕い、高みを目指さない倦怠な生き物だと思っていた」


勇者「...だけど君は違う、どのような手段を用いても自分の目的を果たす人だ」


研究者「...まぁその御蔭で、マッドサイエンティストだなんて不名誉な名前もつけられたけどね」


この2人にとっては幸せなことかもしれない。

だがこの世界、あちらの世界においてこの組み合わせは不幸としか言いようがない。

超自己中心的な彼らが、どれほど厄介な存在であるのか。


勇者「────□□□□■■■■っっ」


そしてその呪いの言語は早くも唱えられた。

それは空に向かい、まるで雨のように降り注ぐ。

すでに汚染は始まっている、この世界の住民すべての認識がずれ始める。


研究者「さて、しばらく待つとするか」


研究者「...君と出会って5年、このわずか5年でここまで状況が変わるか」


研究者「ついこの間、実験施設深部に特殊部隊が乗りこんできた時は焦ったが...」


研究者「...しばらくこの世界で雲隠れさせてもらおう」


そういうと彼は懐をいじくりだした。

それはお土産と言わんばかりの代物、向こうの世界で一般的な武器。

熊のような大男にしか所持することが許されない、大きめのリボルバーを取り出した。

144 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:27:14.24 ooAlurkw0 1072/1103


研究者「...まさか、銃で時間を潰す日がくるとは思わなかった」


そう言うと彼はそれを分解し始める。

研究者は暇で暇でしかたなかった、偽勇者の呪いが終わるまで待ち続ける。

それは数時間にも及ぶ、そして時は来た。


勇者「──終わった...」


研究者「...ん、終ったかい」


勇者「これで...本来の言語は封じ込めたはず」


研究者「へぇ...凄いじゃないか、本当に神様になれるんじゃないか?」


勇者「これも君のおかげだ────」ピクッ


その時だった、彼女が感じたのは旧知の魔力。

なぜそれが居るのか、あの時からすでに数百年は経っているというのに。

だがその魔力は間違いなく彼女のモノであった。


勇者「──これは、魔術師の魔力...っ!?」


研究者「...それって、例のあの人のことかい?」


勇者「間違いない...なぜ生きているんだ...それにもう嗅ぎつけたのか...っ!?」


研究者「...」


まずい、その言葉通りである。

異世界に来て早速トラブルに巻き込まれる。

彼がこの世界に来た理由は2つ、好奇心と隠遁だというのに。


研究者「...君は一度、あちらの世界に逃げ込むといいよ」


勇者「...え?」


研究者「私1人なら、容赦をしてくれるはず...だと思う」


研究者「それに君は今、神業のようなことをしたばかりだ...本調子ではないよね?」


勇者「...」


研究者「一度態勢を整えたほうがいい、私の生まれた国では...辛抱する木に金がなるという言葉がある」


研究者「生き急いだ神は殺されるだけだ、今は耐え忍ぶんだ」


なぜこの男、他者である偽勇者をここまでして庇うのか。

彼も感じていたからである、ここまで気の合う人物などいないということに。

それに絶対に逮捕されることのないこの安息の地を手に入れただけで、等価は得ている。

145 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:28:24.63 ooAlurkw0 1073/1103


勇者「...君がそう言うのなら、そうする」


研究者「それがいい、それと...私の記憶を一時的に消すことはできるか?」


勇者「それは造作もない...私は今この世界の住民すべての記憶を操ったのだから」


研究者「そうか、なら頼むよ...もし記憶を読み取る術がこの世界にあるとしたらこの記憶は厄介すぎる」


研究者「君の存在は君が再度訪れるまで抹消していたほうが、後々楽になると思うからね」


勇者「...わかった、頭を出して」


────ぽわんっ...

偽勇者の指が研究者の頭に触れる。

そうして出てきたのは、記憶の光。

それを奪うことで、自らの存在を抹消することができる。


研究者「...はて、君は? それにここは?」


勇者「────"転世魔法"」


そして彼女は再び世界を跨ぐ。

これは彼女の記憶の旅、それは折り返し地点を超えた。

ドッペルゲンガーとしての宿主は、ようやく彼へと移り変わる。


~~~~


~~~~


勇者「...頃合いか」


ここは誰かの精神世界。

時は大幅に過ぎ10年が経とうとしている。

言語を封印し、転世魔法という大掛かりな魔法を連発したツケは支払い終えていた。


勇者「まさか魔力が完全に回復するまで10年も費やすとは...」


勇者「こちらに戻ってきて直ぐに、適当に取り憑いた少年がここまで成長したか」


勇者「...しかしこの宿主、些か野蛮すぎる」


その宿主とは一体誰のことなのか。

1つわかることは、この者は今現在銃を所持している。

だがそれは1人だけではない、周りの友人だろうか、それらもなぜか武装をしている。

146 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:29:35.77 ooAlurkw0 1074/1103


勇者「...結局、この10年間一度も表舞台にでることはなかった」


勇者「まぁずっと引きこもっていたからこそ、10年で完全に回復することができたのかもしれない」


勇者「...退屈だった、こんなことなら彼からEnglishも学ぶべきだった」


勇者「まぁ...最後のこの宿主を見届けて、旅立つとしようか...」


その時だった、宿主に動きがある。

周りには何人かの仲間、そして泣きつかれている女性が1人。

彼らを残して、この男は部屋を出てしまった。


勇者「...この感覚は小用か」


勇者「それにしても、この男...酒に薬物に...やりたい放題だな」


勇者「...つまらない、もっと強い男に取り憑けば、面白いものが見れたかもしれない」


薬物中毒特有の頻尿。

いま自身にどれほどの危険が迫っているのかを知らずしてなのか。

それとも真っ当な危機管理能力をすでに失っているのか。


勇者「...ほらみたことか、足音にも気づけないのか」


勇者「いや...これは、かなりやり手だな...気づけないのも仕方ない」


すでに偽勇者は気がついていた。

何者かが、先程の部屋に突入しようとしていることに。

だが彼女はそれを評する、それほどに素晴らしい潜入であることに。


勇者「...流石に、あの人数相手に物音をたてずに処理することは難しいか」


勇者「ようやく気がついたか...っと、こんな短い刃物しか持っていないのか?」


勇者「先程持っていた武器...あぁ、あの部屋においてきたのか...杜撰すぎる...」


勇者「...おや、これは...少し楽しめそうだ」


一体誰譲りなのだろうか、この実況じみた独り言は。

しかし楽しみはこれだけではないことを彼女は知らずにいた。

まさか、こんなところで顔なじみに合うことができるだなんて想像できるだろうか。


勇者「──この男はっ...!?」


精神世界からその様子を除く。

宿主が取っ組み合いをしているのは、過去にみたことのある男。

あの時もまた精神世界から見ていた、彼を追い詰めていた人間。

147 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:31:06.74 ooAlurkw0 1075/1103


勇者「...奇縁か、彼の真似でもしてみようか」


その微笑みにはどのような意味が込められているのか。

過去の顔見知りに出会い、僅かながら孤独を忘れることができたからなのか。

それとも、なにか良からぬことを思いついた餓鬼のようなモノなのか。


勇者「────"転世魔法"」


その魔法はとある爆発と共に発動した。

世界が移り変わる、そしてその間に彼女は彼へと宿主を変える。

これが始まりでもあり、別の意味での始まりでもある。


~~~~


~~~~


勇者「...さて、一度身体に慣れておくか」


そこは一体どこなのか。

あたりは夜の静寂、そして部屋に男が1人。

慣れない世界での睡眠、身体を一時的に乗っ取るのには好都合。


隊長「...前の宿主とは比較にならない体重の重さだ」


ここは塀の都の宿。

その宿の一室で声を上げるのは、大柄な男。

だが男の声はその見た目とは裏腹に、やけに中性的なモノであった。


隊長「熟睡状態なら入れ替わることができるな...昨日のように浅い眠りだと気づかれる」


隊長「...前回は直ぐ様に魔術師に嗅ぎつけられた、今度は慎重に動くとしよう」


隊長「ひとまず外に出てみるか...」


宿の窓から外へと冒険し始める。

まだ辺りは暗闇、深夜に男が2階の屋根から街へと繰り出す。

慣れない身体を動かしつつ、彼の身体は適当にどこかへと向かう。


隊長「...あれは近衛兵だろうか」


しばらく歩いていると彼はある人物に出会う。

とは言ったものの、その人物とは縁もゆかりもないただの他人。

この深夜にも関わらず、都の警備を担っている数名の兵士がそこにいた。


隊長「...そうだ、久々に魔法を使ってみるか」


隊長「最後に使ったのは...いつだったか、これも10年前だろうか」


リハビリのようなモノであった。

久々に唱える魔法とはいっても、その精度は卓越したものである。

兵士の装備が光り輝く、それが後ほどどのような影響をもたらすかも知らずに。

148 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:32:47.70 ooAlurkw0 1076/1103


隊長「──"属性付与"、"光"」


──□□□□...ッ!

この世界にとって、懐かしい言語で表現できる音が聞こえる。

例えこの音を聞いても、誰もが認識できずに聞き流すだろう。

だが問題は、この深夜にこれほどの独り言をしている男がいることである。


隊長「...鈍ったか、随分と質が低いな...だが、魔法も問題なく使え──」


???「...こんな深夜に、なぜ出歩いている?」


隊長「...あぁ、それもそうか」


???「怪しいな、少し話を聞かせてもらおうか」


兵士が1人、こちらに話しかけてきた。

その声色は少し厳しく、明らかに不審者を問い詰めるモノである。

しかしそのような面倒を受け入れるはずもない、偽の隊長がやることは1つ。


隊長「...久々に全力で走るとしよう」


夜の都をかけていく、重装備だというのに彼の表情は楽しげ。

久方ぶりに身体を動かせる感覚が喜ばしくて仕方なかった。

そして見えるのは、白き世界。


~~~~


~~~~


隊長「────ッ!」


目を見開く、そこには現在の光景。

完全に魔力を失い、気絶に近い倒れ方をしているウルフ。

そして徐々に魔力を奪われ、窮地に立たされている魔女。


勇者「...どうだ? 楽しかったか? わざわざ一部の思い出を日本語に翻訳してやったんだぞ?」


隊長「──FUCKッ! FUCK YOU BITCH...ッ!」


彼が見せられたのが、隊長と彼女の始まり。

それだけならまだ理性を保てた、保てて当然の内容であった。

しかし、最後に見せられたあの記憶が彼の怒りを暴発させる。

149 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:33:42.60 ooAlurkw0 1077/1103


魔女「な、なに...なにを見せられたの...?」


勇者「なぁに、私と彼の出会いを見せたついでに...おまけを見せてあげただけだ」


勇者「...塀の都でなぜか人間の騎士団が光を使っていたのは、不思議だったと思わないか?」


魔女「────っ」


嫌がらせのような言葉であった。

それだけで理解してしまえる、なぜ彼が激怒をしているのかを。

あの都で、あの光がどのようにして彼らの足を引っ張ったのか。


魔女「...そう、あんたの仕業だったのね」


冷静でいてそうではない、ギリギリの感情が渦巻く。

あの時、魔女たちはなにが原因で捕まってしまったのか。

そして魔女たちが捕まっていなければ、誰が亡くならずに済んだのか。


魔女「...この阿婆擦れ」


勇者「随分汚い言葉だな...発言には気をつけろ」スチャ


──バババ□□□ッッ!

綺羅びやかな音色と共に射撃される、現代的な音。

それが向けられたのは魔女、恨みの言葉を代償に牙を剥かれてしまった。

だが彼は前に立つ、愛しの人物を守るために。


隊長「──ッッ!」スッ


──バキィッ...!

なにかが破損する音が響く、なにかが身代わりになった音が響く。

隊長は銃撃から魔女を守った、その時に失うのは両手に持っていたブツ。

部下から預けられたアサルトライフルが果てる。


魔女「──っ! キャプテンっ!?」


隊長「...なんとか、なったか」


なんとかなった、彼はそう言っている。

主力級の武器であるアサルトライフルを盾代わりにしたことで、事なきを得た。

だが失ったものは大きい、彼に残された武器で気軽に使えるのは1つしか残っていない。

150 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:35:03.41 ooAlurkw0 1078/1103


隊長「...」スチャ


勇者「...そんな小さな武器で、私を倒せると思っているのか?」


勇者「実態のない身体、そしてソレは光によって護られている...魔法も無意味だ」


勇者「もう諦めろ...私には何も通用しない...そして君たちは私の攻撃に抵抗できない」


勇者「そこの狼のように、そしてこの君らの偽物のようにくたばるといい」スチャ


──バババ□□□ッッッ!!

再度、この音が彼らを襲う。

まず狙われたのは小さな銃で抵抗の意思を見せる男。

銃撃が彼の腹部へと命中し、身体を貫通させた。


隊長「────グッ...ガハァッ...!」


彼の後ろ姿、そこから見えるのは鮮血。

貫通した弾丸は、腰付近にあった収納を破る。

そこから出てくるのは、血に塗れたあちらの世界の通貨。


魔女「──キャプテンっ!」


隊長「ま、まだだ...魔法は...魔力はここぞというときに取っておけ...ッ!」


魔女「で、でもそれじゃ...」


それでは隊長の血を止めることはできない。

しかしそれでいて、魔女にも理解してしまえる状況に陥っている。

ここで無闇に魔力を使えば、自分もウルフのように動けなくなるという可能性。


魔女(...せめて、魔法薬とかがあれば)


──がさごそ...

己の服に備えてある収納を漁る。

せめて魔法薬があれば、その薬品に含まれている魔力だけを使えば支障もなく彼を癒やすことができる。

だが収納にあったのは魔界へ突入する前に採掘した石ばかりであった。


魔女(──あれっ)


勇者「...さて、そろそろ終わりにしようか」


────□□□□□□...ッッ!!

力強い輝きが辺りを照らす、それが意味するのは魔物への特攻。

魔女を支える力がついに陥落する、むしろ今まで良く耐えれていたとも言える。

急速に感じる倦怠感、魔女に注がれた魔王妃の魔力が抑えられていく。

151 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:37:02.21 ooAlurkw0 1079/1103


魔女「──そん...なっ...!」フラッ


隊長「魔女ッ! 気をしっかりしろッ!」


勇者「無駄だ、魔物は光には抗えない...」


勇者「そして、人間はコレには抗えない...そうだろ?」スチャ


隊長「────ッッ!」


勇者「──死ね」


──バババババ□□□ッッッ!

しかし、その光景を彼は見たことがある。

絶大な威力を誇る銃弾が、全く歯が立たなかったあの出来事。

なぜ今になった記憶が花咲くのか、走馬灯というわけではなかった。


隊長「──これは...ッ!?」


────ガキィンッ! カキィンッ!

まるで鉄に弾かれたような、そんな音が響いた。

一体なぜ、それは意外にも簡単な答えであった。

腰付近、穴の空いた収納から蔓が伸びる、そしてそれは彩りを得る。


隊長「...少女」


血染めの花びら、その硬度はあの時の蕾。

彼女だった物はまた進化を遂げたのであった。

あの時の種は隊長の血液を栄養とし、急速に成長を始めていた。


勇者「──なんだこれは...っ!?」


当然、まさかこのような伏兵を想定しているわけがない。

たった今起きた出来事に彼女は思考を停止させてしまった。

だがこの局面でのソレは致命的であった。


魔女「────っっ!」スッ


────ヒュンッ...!

何かが風を切る音が聞こえた。

それは魔女から偽勇者へと向かう、ある1つの代物。

小さな瓶が空を翔ける、そして発せられるのは懇願じみた指示。


魔女「──あれを撃ってっっ!」


隊長「────ッ!」スチャ


魔女によって投擲されたそれは、激しく回転しながら跳んでいる。

それを捉えることなど常人では不可能、ましては射撃をしろと言われている。

だがこれは魔女の最後の策、ならば彼は応えなければならない。

152 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:38:27.65 ooAlurkw0 1080/1103


隊長「...」


──ダンッ!

ハンドガンから放たれる銃弾。

それはブレることなく、真っ直ぐと瓶へと接近する。

卓越した射撃スキルが可能にするのは、マークスマン。


隊長「...Hole in」


────パリンッ!

瓶が割れる、その中に入っていた液体が散布される。

それはまるで雨のようにあたり周辺に散らばった。

これは一体なんなのか、そして誰が作ったものなのか。


勇者「────っっ!?」


────□□□...

これは光が生まれる音ではなく、逆であった。

周りに展開していた光が、両手に持っていたあの武器が。

それどころではない、身体の中に存在するはずの光の魔力が萎えていく。


勇者「──なにが起こっているっ!?」


状況が理解できない、小瓶に入っていた液体に触れたらこのザマ。

なぜ己の光が失われたのか、魔法など通用しないはずのこの最高の防御性能がなぜ。

光と化していた自身の身体が元通りになっていることすらに気づけずにいた。


ウルフ「────ッ!」ピクッ


同じく、わずか数滴がウルフの身体に付着する。

すると彼女の身体は力みなぎる、空元気にも似たその原動力が可能にする。

歯を食いしばりながらも彼女は立つ、そしてやるべきことを瞬時に理解する。


ウルフ「...うわあああああああああああああああああッッッ!!」スチャ


──ダァァァンッ! ジャコンッ!

──ダァァンッ! ジャコンッ! ダァァァァンッ! ジャコンッ!

──ダァァァンッ! ジャコンッ! ダァァァンッ! ジャコンッ!

シャウティングをしてようやくできたこの闇雲な射撃。

リコイルとポンプアクションが影響して照準はブレブレ。

だがショットガンという銃に精度など必要ない、竜の息吹と称されるその兵器が猛威を振るう。

153 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:39:30.64 ooAlurkw0 1081/1103


勇者「────っっっ!?」


身体が燃える、ここでようやく気づくことができた。

光の身体はとうに失せている、実態のない無敵の身体などない。

これ以上追撃されたら朽ち果ててしまう、だからこそ彼女は対極の魔法を試みる。


勇者「──"属性付与"、"闇"」


──■■■■■■■...

一体なぜなのか、光は抑え込まれたが闇は問題なく扱える。

不可思議で仕方がない、だがそれを追求するのは今ではない。

そう判断した彼女は闇をまとわせ己を燃やしている炎を破壊する。


勇者「ぐぅぅぅ...一体...一体なにが起きている...っ!?」


未だに疑問を晴らすことができない。

私は一体なにをかけられたのか、このような作用のあるモノだと記憶にない。

神の如き魔力を突然奪われて露呈する、この魔物本来の愚直さが。


ドッペル「...私も、死にかけている場合じゃないわね」


あの液体を最後に浴びたのは彼女であった。

その奇跡とも言える水の拡散性、やはり隊長という男は持っているものが違う。

浴びたのはウルフと同じ僅か数滴、完全とはいかないが彼女は匍匐前線で彼のもとへと向かう。


ドッペル「...私に最後の...策がある...わ」


隊長「────ッ!」


か細い声、だがこの場にいる全員が聞き取ることができた。

これが最後の分かれ道、この魔物の生死が勝敗を決定するだろう。

お互いの陣営がどのように動くかは明白。


魔女「──あの子を護ってっっ!」


勇者「────何をするつもりだ■■■■■■■」


隊長「──ウルフッ!」スチャ


ウルフ「──ッ!」スチャ


4人が同時に、それも即座に動く。

偽の勇者は策略を潰そうと唯一使える闇を。

魔女は指示を、そして隊長とウルフはハンドガンを素早く構えた。

154 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:40:49.06 ooAlurkw0 1082/1103


隊長「────撃てッ!」


──ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

小さな銃撃音が連続する、それは当然偽勇者に向かう。

だが相手は闇を纏っている、当然効果的だとは思えない。

しかし遠距離からの抵抗手段などコレしかない現状、押し通すしかない。


勇者「...無駄だ、闇はすべてを破壊する」


──■■■■■■...

黒が容赦なく銃弾を飲み込む。

その質は光に比べ劣悪、だがそれでいて弾丸を完全に破壊できる程の性能を誇っている。

ならばどうすればいい、その答えは過去に解決している。


魔女「──"転移魔法"」


最後に残った圧倒的な魔力は、使い慣れていない魔法に注ぎ込まれた。

あとは彼女が持っている本来の魔力しかない、だが問題などなかった。

魔女が得意な魔法、それさえ使えれば闇など怖くないからであった。


魔女「..."属性付与"、"雷"」


勇者「────なっ」


油断した、まさかこの局面で肉薄してくるとは思いもしなかった。

未だに発砲は続いている、彼女に当たるかもしれないというのに。

だからこそ素早く処理することができなかった、この戦法は過去に宿主越しに認識していたはずなのに。


勇者「──このアマ...っ!」


──バチッ...!

偽勇者の身体に稲妻が伴う、それはもう己のモノのように。

自分に対して害を出すことはない、それが上位属性の仕組み。

彼女は油断をし過ぎていた、光属性という圧倒的な防御性能に頼りすぎていた。


隊長「──NOWッ!」


ウルフ「────ガウッ!」ダッ


──ダンッ! ダンッ! ダダンッ!

お互いが言葉もかわさずに、瞬時に役割を理解する。

隊長は射撃を続投しウルフは突然に疾走する。

ウルフの役割は1つ、こちらの世界でいうHRT。


勇者「────うっ...」


身体に染み渡る鋭い激痛、闇を纏っているというのに一体なぜ。

それは雷という不純物を与えられ、強制的に闇の質を下げられているからだ。

そのようなことをしている内に、彼女の俊足が保護対象へと接触する。

155 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:41:48.26 ooAlurkw0 1083/1103


ウルフ「──どうすればいいのっ!?」


ドッペル「...私をきゃぷてんの所に運んで...お願い...」


ウルフ「わかったよっ!」グイッ


ウルフがドッペルゲンガーに肩を貸す。

もうあとは時間の問題ですらない、数秒もすれば彼女の目的は達成する。

一体なにをするつもりなのかは未だにわからない、だがそれを許してはいけない。


勇者「────させるか■■■■■■■■■」


──■■■■■■■■■■■■■■■...

防御性能は落ちたとはいえ、闇は闇である。

質は限りなく低いが、触れれば致命傷になるのは未だに変わらない。

身体中は血だらけ、銃痕まみれの彼女は感情を爆発させ、闇を大量に放出する。


魔女「..."雷魔法"」


────バチィッ...!

一筋の閃光が黒を貫く、もうこの闇に防御性能などない。

未だに肉薄したままの彼女を忘れてはならない。

全身に巡るのは麻痺の感覚、痺れが偽勇者の意識を揺さぶる。


魔女「やっと魔法がまともに通用するわね...」


勇者「...こ、の...っ!!」


魔女「どう? 私の魔法の威力は?」


勇者「────くたばれ■■■■■■■■」


闇の標的は変更される、その相手はドッペルゲンガーから彼女へと。

先程も述べたように、未だに闇であることには違いない。

魔女の全身を闇が飲み込もうとしたその時だった。


ウルフ「──ガウッ!」ブンッ


狼らしい雄叫びと共に、彼女はなにかを投げつけた。

なにを投げつけられたかなど問題ではない、ただ1つの状況が偽勇者を煽る。

なぜウルフはすでに戦線復帰をしているのか、答えは当然であった。


勇者「もう...運び終わったのか...っ!?」


──ガコンッ...!

とても鈍い音が、辺りに響いた。

彼女が投げつけたのは、弾の込められていない銃器。

隊員から預かったソードオフのショットガンが偽勇者を怯ませる。

156 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:43:41.26 ooAlurkw0 1084/1103


隊長「...なにをするつもりなんだ?」


ドッペル「...私はもう駄目みたい、だからせめて私の力をあんた..."あなた"に託すわ」


これは少し前、ウルフがショットガンを投げつける前の会話。

どこか儚げな口調、そして言葉を受け止める隊長。

その光景にはどこか愛のあるモノであった。


隊長「...お前との出会いは最悪で、印象も先程まで最悪だった」


ドッペル「ごめんなさいね...それがドッペルゲンガーという魔物だから」


隊長「...今は違う」


ドッペル「お互い、心変わりをしたみたいね...というか変わりすぎたわね」


隊長「...特にお前がな」


憎たらしい、自分自身と全く同じ姿だったこの魔物。

だがその姿が愛しの人物に変わると対応は変わる、そんな単純な話ではなかった。

隊長と彼女には芽生えていた、闘いの中での協力姿勢が芽生えさせていた。

帽子が親友とするなら、魔女が恋人とするなら、ウルフたちが戦友とするなら、ドッペルゲンガーは。


隊長「...さよならか?」


ドッペル「えぇ、そうね...さよならね」


ドッペル「...これからは、あなたの持っている"ソレ"越しに見ているわね」


3つのカテゴリーに属さない仲、それはお互いに負の感情をぶつけることのできる存在。

それを表現することは難しい、最も近い言葉で表すなら腐れ縁かもしれない。

そんな仲の彼らが手を取り合う、彼のハンドガンを持つ手を彼女が両手で包み込む。


ドッペル「...今なら、あの時のユニコーンの気持ちがわかるわ」


隊長「そうか、あの時から居たんだったな」


ドッペル「ねぇ...こんな時、こっちの世界でなんて言うの?」


隊長「...Let's meet again」


ドッペル「...れっつみーつあげいん」


──■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!

闇が溢れたと思えば、すぐさまにそれは晴れた。

そこから見えたのは真っ黒のハンドガン、そしてそれを構えるただ1人の男。


勇者「──ま、魔剣化した...っ!?」


その言葉は正しくもあり間違いでもある。

この場合は魔銃化といえるだろう、だが言葉の正誤などどうでもいい。

肝心なのは、それがどのような代物であるかであった。

157 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:44:29.92 ooAlurkw0 1085/1103











「────Let's do this...my friends」スチャ










158 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:47:24.32 ooAlurkw0 1086/1103


──ダン■■ッ!

最後の一撃は、とても小さな音だった。

その闇も決して、魔王子並に質が高いというわけでもない。

だがあの極めて質の低い黒を貫くのには申し分のないモノであった。


勇者「────っ!」


伝説の勇者の身体が限界を迎える、もう耐えきれない。

数十発の実弾と魔法を受けた、でもそれらは所詮物理的かつ下位属性のモノ。

初めてまともに受けた闇という属性、光を介せずに貰ったソレは極めて致命傷。


勇者「──痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!」


勇者「嫌だぁっ! 死にたくなぁいぃっ! 逃げなきゃぁっ...!」


底が見えた、今の彼女は勇者の偽物ですらない。

奇跡的にも莫大な力を得ることができた、ただの三下魔物。

所詮その力は借り物でしかなかった、彼女はすべての魔法を解除し逃げに徹する。


隊長「逃がすな──ッ!」


──ズキッッ...!

隊長が走って追おうとした瞬間、ようやく現れた激痛。

魔力で作られたアサルトライフル、それを喰らった時にできた傷跡が疼く。


魔女「──ウルフは行ってっ! キャプテンは任せてっ!」


ウルフ「うんっ! わかったよっ!」ダッ


その指示を受けウルフは走り出す。

そして気づけば、辺りの結界は崩壊し始める。

だがその光景を意に介さえずに2人は愛を育む。


隊長「あぁ...クソッ、こんな時に...」


魔女「...お疲れ様、あとは任せて、"治癒魔法"」


──ぽわぁっ...

優しい明かりが隊長を癒やす、出し惜しみをする必要はもうない。

偽勇者は逃げた、光も抑えることもできた、もう魔力を失い行動不能になる心配はない。


隊長「...好きだぞ、魔女」


魔女「...私もよ、あなた」


隊長の両手に、魔女の両手が重なる。

彼女はその真っ黒なハンドガンを無視することなく、それも重ねている。

彼らを愛を見つめるモノ、血の色をした華美の花がただ1つそこにあった。


~~~~

159 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:48:31.53 ooAlurkw0 1087/1103


~~~~


ウルフ「──速いっ!」


2人が愛を受け、2人だった者がその光景を見守る中、ウルフは懸命に走っていた。

宙を飛びとてつもない速度で逃げ回る偽勇者、逃げ足だけは一級品である、あのウルフでギリギリ見失わずに済んでいる。


ウルフ「──っ! まわりがっ!」


走りながらも周りの光景を確認する。

結界魔法で隔離されていた空間が元通りになる。

そこは異世界の地、深夜を越え朝日が摩天楼を染め上げる。


ウルフ「────っ!?」


そして見えたのはそれだけではなかった。

そこにいたのは、多数の人間、そしてよくわからない鉄の塊。

その人間たちが構えているのは、己の主人が持っている物と同一。


??1「...どうやらやってくれたみたいですね、私の身体に付与された光も解除されてます」


??2「当然だ、Captainが負けるわけがない」


??3「Over thereッ!」


??4「...Target in sight」


大人数の中、見慣れた顔を見ることができた。

4人の顔ぶれ、そのうち3人はとても大きな装備を構えていた。

その見た目は普通のモノとは違う、彼らが支給されたのはボンベのついた武器。


魔王妃「...ところで、あたな方のその武器はどんなモノなんです?」


隊員「火炎放射器だ、火吹きの銃が効果的に見えそれを報告したら、支給してくれたんだ」


隊員A「──FIREッッ!」


隊員B「...You're going to prison」


魔王妃「便乗させてもらいましょうか..."炎魔法"」


──ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

──ババババババンッッッ! ババババババッッ!

攻撃をするのは彼ら4人だけではない、先程この地域周辺に散開していた隊員たちもいる。

彼たちはプロ、日夜犯罪者を確実に仕留めるために訓練を重ねている。

飛ぶ鳥に狙いを澄ますことなど造作でもない、それが飛行中のイーグルであっても。

160 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:49:38.29 ooAlurkw0 1088/1103


勇者「────ぐっ...■■■■■!?」


身体に感じる激痛が急いで闇を開放させる。

これは最後の理性かもしれない、だがこれがまずかった。

なぜ魔王妃の攻撃を闇で受けたのか、彼女のは魔法のはず。


魔王妃「──光を使わない...っ!?」


なぜ使わないのか、確かに火炎放射による炎の攻撃は驚異だ。

だが魔王妃の炎はそれとは比較にならない火力であるはず、ならば先にコレを潰すはず。

予想が外れた、そんなときに偽勇者を追いかけていた者が声を上げる。


ウルフ「──光魔法をつかえないみたいなんだよっっ!!」


魔王妃「──っ!?」


一体なぜ、原因解明もしたいところだがそれどころではない。

彼女の新たな計画が生まれる、光魔法という魔法殺しを使ってこないのならば。

やはりあの子の身体はあちらの世界で葬りたい。


魔王妃「...計画を変更します、あの子をあちらの世界へ転移させます」


隊員「なに...? どうするつもりだ?」


魔王妃「ごめんなさい、これは完全に私のわがままです」


魔王妃「...できるのであれば、あの子の身体はあの子の世界に帰したいのです」


隊員「...」


隊員としてはこの世界で奴を確保したい。

この世界で起きてしまった、超常現象のすべての責任を奴になすりつける為。

明らかなヴィランがいてくれるのなら、今後の後処理が楽なことこの上ないからだ。


161 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:50:20.96 ooAlurkw0 1089/1103


隊員「...わかった、で、どうすればいい?」


しかし彼は飲んだ、魔王妃に情が芽生えたわけではない。

逆の立場ならどうするか、もし隊長があちらの世界で朽ち果ててしまったのであれば。

せめて死体だけはこちらの世界に戻してもらいたい、考えることは人間も魔物も同じである。


魔王妃「そのまま打ち続けて、足止めをしてください...時間はかかりません」


隊員「...Understandッ!」


──ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!

──バババババッッッ! バババババババッッッ!

容赦ない弾幕、そして炎が偽勇者を取り囲む。

雷を伴う闇、多少は破壊できてもこの物量には叶わない。

魔力によって大幅に強化された人間の身体、それは無残にも穴だらけ、そして焼け焦げる。


勇者「────っっ!」


理性はもうない、激痛に次ぐ激痛が彼女の化けの皮を剥がす。

もうこの姿をみて勇者だと認識できるものは誰もいないだろう。

ただ1人、彼女の過去の仲間を除いて。


魔王妃「...」


その酷すぎる彼女の最後を見つめる。

もうあの子をこの目でみることはできない。

しかし勇者はすでに死んでいる、奴は偽物にすぎない、覚悟は決まっている。


魔王妃「...さよなら、勇者」


属性付与によって抑制された魔力、解除されたとはいえまだ完全に回復していない。

なけなしの魔力、しかしそれでいて魔女から見れば膨大な量である。

彼女が唱える最後の魔法、それは世界を跨ぐ。


魔王妃「────"転世魔法"」


視界が歪む、それが偽者の最後の光景。

なにが起きているのか、自分がどのようなことになっているのか。

すべてを理解できずに、彼女はただ生きることだけをするしかない。


~~~~

162 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:51:51.56 ooAlurkw0 1090/1103


~~~~


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...ッッッ!!

そして聞こえたのは溢れる光の音。

もう人としての見た目を保っていない、だが彼にはわかる。

この焼け焦げた物体に妻の魔力を感じる、だからこそ魔王は吠える。


魔王「...よくやったな、妻よ」


勇者「......?」


もう喋ることすらできない、だけれどもとても強い生命力を見せている。

勇者という身体、歴代最強の魔王を討った者、だからこそまだ死ねない。

まだ彼女は死に直結する痛みを味わうハメになる。


魔剣士「...あァ? なんだァあれは?」


魔闘士「...焦げた、人間...か、あれは?」


女賢者「え...でも身体のほとんどを火傷して...出血もしてますよっ!?」


女騎士「...あれが本当に人間...というよりも生き物だとしたらとてつもない生命力だぞ」


女勇者『□□□□□□□□□...?』


傍観者が各々述べる、だが彼だけは違う。

たとえ感知能力を持たずしても、実の母の魔力を見誤るわけがない。

だからこそ固まってしまう、この謎の生命体に。


魔王子「...これは?」


魔王「これは我妻の...旧知の友..."だった"ものだ」


魔王子「...なんだと?」


魔王「詳しく説明してやりたいが、時間はないようだ...あれをよく見てみろ」


魔王子「...?」


よく見てみろと言われてもいまいちピンと来ない。

だが彼女は違う、感知能力を持っている女賢者だけは瞬時に理解をした。

その魔力は女勇者のものではなく、あの物体のモノ。

163 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:52:55.80 ooAlurkw0 1091/1103


女賢者「え...嘘...」


女騎士「...どうかしたか?」


女賢者「あれから...とてつもない魔力量を感じます...しかもそれだけじゃないっ!?」


女賢者「よくわかりませんが、微かに光属性が含まれて...それが徐々に...」


うまく説明ができない、それは当然。

この肉塊は研究者の謎の薬、魔剣士と魔闘士を蝕んだ光を打ち消した薬を浴びた者。

しかしその効力は永続ではない、早くもその効果は薄れ始め光を取り戻しつつあった。


魔剣士「冗談じゃねェみてェだな...これは今の女勇者の光よりもやべェかもしんねェぞッ!」


女勇者『□□□□□□...っ!』


魔王「...そういうことだ、時間はもうない」


魔王子「...」


魔王「だから...誰も邪魔をするなよ■■■■■■■■」


勇者「...っ!」


──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!

魔王が偽勇者を羽交い締めにし圧倒的な闇が偽勇者を包み込む。

だが彼女は抵抗をする、徐々に取り戻しつつある光で。

その身体に秘められた光が、自動的に闇を払おうとしている。


魔王「──なんて奴だ...歴代最強の魔王を討っただけはある...」


完全に黒に包まれているというのにその内部にはまだ勇者が存在している。

理性を完全に失ったこそできる芸当、生きたいという感情が反則地味た性能を誇る。

このままではまずい、時間をかければ偽勇者がすべての光を取り戻してしまう。


魔王「...」


この王は葛藤をする、どのようにすれば奴にトドメをさせるか。

少しでも気を抜けば闇から偽勇者を逃してしまう、新たに何かを仕掛けるのは難しい。

ならば手を借りるしかない、次の世代の者たちに。


魔王「...■■■■■■■■■■」


勇者「────っ!?」


──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!

ここで魔王ごと強力な攻撃を与えることができるのなら。

この過去の遺物だけは、確実に仕留めなければならない。

それが妻の野望なのだから、夫はそれを遂げるだけ。

164 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:54:43.39 ooAlurkw0 1092/1103


女騎士「──退避しろっ!」


魔剣士「やべェぞッ! こっちに闇がくるぞォッ!」


魔闘士「チッ...魔王の奴、最後の足掻きといったところか」


女賢者「凄まじい量の闇です...ですが、女勇者さんなら...っ!」


闇が彼らを襲う、その意図とはなにか。

なぜこのタイミングでこの闇を勇者に向けなかったのか。

その答えは簡単である、仲間が危機に陥れば彼女が動くからであった。


女勇者『──□□□□□□□□□□□□っっ!』


この一撃は魔王を確実に葬り去る。

己の腕と一体化したその剣に光が収縮する。

そして彼女が放ったのはとても巨大で分厚く、輝かしい剣気。


女勇者『──□□□□□□□□□□□□□□□□□□っっ!』


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!

その光はすべての闇を滅ぼす、それが例え魔王という圧倒的な質を誇る闇でも。

そしてその威力はとてつもなく、魔物という強靭な身体を簡単に貫く。


魔王「────グッ...ウ...!ッ」


勇者「────っっ!」


それは当然、羽交い締めにされていた勇者もまともに受ける。

光を取り戻しつつあると入っても、現段階での質は女勇者のほうが遥かに格上。

光が光を飲み込む、その光景は闇も同じであった、質に圧倒的な差があればどうなることか。


魔王子「──親父...」


2人の強者が剣気によって吹き飛んだ。

偽勇者は胴体を真っ二つにされ、魔王の胴体には大きな穴が空いていた。

そして女勇者の身体にも異変が訪れていた。


女勇者『──うっ...!?」


──パキンッ...!

一体化が強制的に解除される、それはなぜなのか。

高らかな音がその原因である、彼女の右腕を見てみれば一目瞭然。

長旅に続く激戦により限界を迎えてしまったからであった。


女勇者「...ごめんなさい」


彼女が握る魔剣、その刀身は短くなっていた。

折れてしまった、帽子という男の形見が。

女勇者はその剣に篭もる意思に対して謝罪をしていた。

165 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:56:57.06 ooAlurkw0 1093/1103


勇者「────っ...っ...っ...!」


魔王子「...まだ生きているのか、あの生命体は」


女勇者「よ...くわからないけど...アレも倒すべきなのかなぁ...っ!」


結局のところ、詳しく説明されてはいない。

この謎の生命体がどのような悪影響を及ぼすかも想像がつかない。

しかし鶴の一声が、父という絶対的な存在が発する命令が彼らを刺激する。


魔王「────殺せッ! 奴は妻の仇だッ!」


魔王の最後の言葉、それは妻の野望を助長するモノ。

断末魔だった、死にながらも彼は愛する者の願いを渇望する。

納得はできなくとも理解をすることは簡単であった。


女勇者「──どうしようっ! 武器がないよっ!?」


魔王子「...チッ、どうトドメを刺すべきか...」


その時だった、先程の闇で退避していた者たちが帰ってくる。

1人は己の持っている未曾有の武器を、もう1人は大きな剣を器用に振り回す。

闘いの最後が近い、これでようやく終結することができる。


魔闘士「──これを使え、使い方はわかるなッ!?」スッ


魔剣士「──いいところに剣が刺さってるじゃねェか...」ブンッ


──バコンッ!

魔剣士が剣を振ると剣気が生まれる、そしてソレはある地点で爆発する。

そのある地点になぜか地面に突き刺さっている、ただの剣が爆の影響でこちらに飛んできた。

そしてそれを捉えた男は、難なく自分の手のひらに収めた。


魔王子「...いい剣だ■■■■■■」


女勇者「ありがとう、ずっと使ってきた剣だからね□□□□□□」


魔王子は先程女勇者が魔王に向けて投げた剣に闇を纏わせる。

女勇者は魔闘士が持っている手のひらよりも大きい銃に光を纏わせる。

その2つが放つ剣気、そして銃撃が偽者に向けられる。


勇者「────っ!」


────□□□□ッ!

────■■■■ッ!

2つの音が奏でるのは、死を表現した音。

それを受けてしまった彼女は声を上げることすら許されない。

闘いは終わる、魔王は朽ち果て、過去の光がここにて滅びる。


~~~~

166 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:58:10.41 ooAlurkw0 1094/1103


~~~~


時は過ぎ去り、そして世界も変わる。

ここはアメリカ合衆国のとある一室。

そこにいたのは世界を跨いだ男とその仲間たち。


隊長「...おはよう」


魔女「おはよう、あなた」


ウルフ「おはようっ! ご主人っ!」


2人は彼のマンションに住み着いている。

朝食は魔女が作り、ウルフはこの世の最新情報に耳を立てている。

だが聞こえている言語は英語、当然理解できるはずがない。


魔女「...そろそろ、本格的にこの国の言語を勉強しなきゃね」


隊長「あぁそうだな...あとは国籍も取らないとまともに暮らせないな」


魔女「国籍?」


隊長「そうだ、この国の住民であることを証明する書類みたいなもんだ...」


魔女「それって、どうすれば貰えるの?」


隊長「...」


貰える方法などは意外と簡単ではある。

だがそれを言葉にするのはとても難しい。

まだ、彼女に見合う指輪も探していないというのに。


隊長「...まぁ、追々な」


魔女「なんか誤魔化されたような...まぁいいわ」


魔女「それよりも支度して、今日はお墓参りよ」


──ピンポーンッ!

その時だった、玄関から小うるさい音がなる。

そして聞こえたその足音の主にウルフは飛び上がり、扉を開けようとする。

そこにいたのはこちらの世界で幅広く協力してくれた彼であった。


隊員「おはよ...って、うわっ!?」


ウルフ「おはよぉっ!」


その様子は、大型犬に飛び掛かられた飼い主。

そのまま押し倒されそうになるのをグッとこらえ、彼は彼女を受け入れる。

特殊部隊で鍛え上げられた成果がここに現れる。

167 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 10:59:30.83 ooAlurkw0 1095/1103


隊長「...ずいぶんと懐かれたな」


隊員「へへへ...おはようございます、Captain」


ウルフ「~~♪」


その表情は限りなく緩んでいる。

普段の仕事中のソレとは比べ物にならない。

本当に同一人物なのだろうか、魔女はその光景を見ながら軽く頭を抱える。


魔女「はぁ...それじゃ行くわよ」


ウルフ「わかったよっ!」


魔女とウルフの格好、それはこちらの世界で適応したモノ。

特にウルフ、リュックの背にあたる部分に穴を開けてそこに尻尾を詰め込み隠している。

犬耳も帽子で隠してる、これで人外ということを知られる心配はない。


隊長「...」


魔女「...どうかした?」


隊長「...いや、少しな」


これからこの4人で出かけるのは、お墓参りと言っていた。

だがそれは一体誰の、そしてなんのためのモノなのか。

隊長は疑問に抱いていたことを口にする。


隊長「...なぜ、魔王妃は死んだのだろうか」


魔女「...」


隊員「...」


魔王妃は死んだ、偽勇者を異世界へ飛ばしたあの時に。

原因はわからない、しかし彼女は息を引き取った。

死人に口なし、だが魔女は1つの説をたてた。


魔女「...たぶんだけど、あっちの世界で魔王が死んだと思う」


魔女「あの人...使い魔召喚魔法で甦ったと言ってたわ」


魔女「...あの魔法は発動した主が死ぬと、自動的に消滅する仕組みになっているから」


隊長「...そうか」


間接的に知ることができた、あちらの世界で魔王が果てたことを。

考えられるのは1つ、魔王子か女勇者、あちらの世界での仲間が魔王を討ったということ。

それは喜ばしいことでもある反面、その様子をこの目で見ることができない無念もあった。

168 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:00:11.77 ooAlurkw0 1096/1103


隊長「...帽子やスライムに納得してもらえるだろうか」


魔女「してくれるわよ、だって大切な仲間ですもの」


ウルフ「...そうだよ」


あちらの世界が今どうなっているかはわからない。

だが願うしかない、魔王子が、女勇者が手を取り合い平和を齎している様を。

3人が失った仲間を想う中、部外者が口を開いた。


隊員「...私はあの女を許すつもりはありません」


隊員「奴はこの国の市民を、部隊の仲間を、そして亡くなられた者たちを冒涜した」


魔王妃という女はテロリストである。

この国の人間を数百人規模で殺害し、多大な経済打撃を与えた。

だが話の本位はそこではない、隊員が言いたいことは別のモノであった。


隊員「...ですが、彼女がいなければこの国は愚かこの世界が滅んでいたかもしれません」


隊員「今という時間を与えてくれた人々の気持ちを蔑ろにするわけにいきません」


隊員「...私たちにできることはそれを噛みしめることです」


気持ちの切り替え、だからこそ彼はここにいる。

たとえ憎きテロリストが相手でも、この世界を救う1つの要因であった彼女。

その亡骸を無碍に扱うことはできない、隊員が魔王妃の墓参りに参加する理由はそこにある。


隊長「...そうか、そうだな」


隊長「きっと、あちらでも平和を掴んだに違いないな」


そう言うと彼は歩き始める、扉を開き外へ。

人に見られないようにカバンの奥底に真っ黒な銃を入れて。

その様子を見送るのは、鉢植えにある真っ赤な花であった。


~~~~

169 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:01:48.77 ooAlurkw0 1097/1103


~~~~


再び世界が変わる、ここは魔王の城。

そこにいるのは3人、どこか面持ちは険しいモノであった。

そしてその服装はとても綺羅びやかであった。


魔剣士「...いやァ、慣れねェなァ」


魔闘士「動きづらすぎる...これではまともに戦えんぞ」


魔王子「...馬鹿共め、今日に限って戦いなど起こらん」


そんな時だった、扉が開かれてしまう。

多数の魔物が、そして多数の人間が魔王の間に立ち尽くす。

そして扉を開いた3人の乙女たち、彼女らもまた普段とは違う格好をしていた。


女勇者「...や、やぁ」


女騎士「...ど、どうも」


女賢者「...だめですねこれは」


緊張が彼女たちの調子を崩す、これから始まるのは神聖な儀式というのに。

女賢者は事前に2人に言葉の使い方を教えていたはずなのに。

もうだめだ、そう感じ取った彼女は向こう側にいる彼らに助け舟を願う。


魔王子「...そう緊張するな、いつも通りでいい」


女勇者「本当っ!? いやぁーこういうのって苦手なんだよねぇ~...」


魔剣士「...いやそれは肩の力を抜きすぎだろうがよォ」


魔闘士「あぁ、もう無理だな...これから始まるのは漫才かなにかか?」


女騎士「...ふっ」


女賢者「は、はははは...はぁ、大賢者様もそこにいるというのに...」


会場に集まっている魔物と人間、それぞれの反応は同じであった。

人間側の頂点に君臨する女勇者、魔物側の頂点に君臨する魔王子。

普段の2人からは想像もできないその柔らかな表情に笑いが起こってしまう。


魔王子「...」


女勇者「...」


しかし彼らの視線は確かなものであった。

この2人が勝ち取ったものは、かけがえのないものである。

まだ細かな問題は多々ある、だが今日という日がとても偉大な1日であることは間違いない。


~~~~

170 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:04:24.75 ooAlurkw0 1098/1103


~~~~


??1「...ここは、どこ...?」


辺りには何もなく、ただ白が点在している。

声の主はその光景に理解ができず、苦悶する。

行くあてもなく、この白き世界を眺めていると誰かが話しかけてきた。


??2「□□□□□」


??1「えっ!? えっとぉ...」


??2「...失礼しました、張本人が亡くなられたのであの魔法は解けていると思ったのですが」


??2「どうやら、その言語が頭に染み込んでいるようですね」


??1「あ、あの...?」


話しかけてきた人物には白い翼が生えている。

男でも女でもなく、それでいてどちらとも取れる見た目をしている。

突然の声かけに困惑しながらも、その人物はあるモノを手渡してきた。


??2「忘れ物ですよ」


??1「...え? これって」


??2「では」


──ばさばさばさっ!

まるで鳥のように、この人はどこかへと飛んで行ってしまった。

手渡されたのは剣であった、その見た目はとても豪華でもあり奇妙な感覚がする。

間違いない、これは確かに忘れ物であった。


??1「...どうすればいいんだろう」


すると感じるのは、自分と同じ魔力を持つ誰か。

遠くに仲間がいるような感覚が彼女をさえ冴える。

しかし動こうとしない、彼女が会いたいのは同胞ではなくお友達なのだから。


??1「...」


しかしさらなる違和感が彼女を襲う。

自分と同じ魔力の他に、なにか別人の魔力を感じていた。

それはどこか水のようで水ではない、やや塩辛そうなモノだった。


??1「...なんだろう」


その違和感がようやく、彼女を動かしていた。

彼女は足を進める、身体をゆらしたぷたぷと水音を立てて。

すると持っている剣が少し煌めく、まるで離れ離れの主人に会えた飼馬のような。

171 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:05:18.18 ooAlurkw0 1099/1103











「...やぁ、久しぶり」










172 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:05:44.27 ooAlurkw0 1100/1103











「──また、会えたね」










173 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:06:18.89 ooAlurkw0 1101/1103











「────そうだね、君も一緒に彼らを見護ろうよ...キャプテンが勝ち取った平和な2つの世界を」










174 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:06:52.20 ooAlurkw0 1102/1103











~~終わり~~










175 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/29 11:08:34.24 ooAlurkw0 1103/1103


乙や待ってる等のレスをありがとうございました、とてもモチベーションに繋がりました。
近況などはTwitterでお知らせします、よければフォローお願いします @fqorsbym
HTML化するまで質問などがあれば受け付けます、HTML化した後に質問などがあればTwitterに送ってもらえると返答できます。


主な誤植です、よければ見つけてやってください。
・英語という概念がないのに帽子が「ボール」という単語を使っている。
・英語という概念がないのに帽子が「チョコ」という単語を使っている。
・魔王妃の前設定の名前が「魔王妻」なので、修正漏れによりその名残が残っている。





隊長「魔王討伐?」
Part1  Part2  Part3  Part4  Part5  Part6  Part7  Part8  Part9  Part10


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