隊長「魔王討伐?」
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933 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:07:24.97 XUuL3A850 890/1103


~~~~


魔王妃「...誤算でした」


ぽつりと呟く、独り言をしてしまうほどに追い詰められていた。

身体に残る痺れ、そして久方ぶりに我が身に向かってきた闇。

完全に想定外の出来事が起きていた。


魔王妃「困りました...街への侵攻はある程度順調なのですが...」


彼女が今いる場所はどこかの街中の宙。

そしてそこには、使い魔として生み出したゾンビやT-REXが跋扈する。

ここには抵抗する者などいない、殺戮の跡地であった。


魔王妃「...早く、炙り出さないと」


魔王妃「どこにいるのですか..."あの子"は...」


魔王妃「いえ...もう...本物の"あの子"などいない...」


魔王妃「...」


そこにあったのは怒りの表情なのか。

それとも悲しみの表情なのか、絶妙な顔つきをしていた。

まるで、なにか理由があってこの世界を襲撃しているような。


魔王妃「...随分と早いですね」


そして地上に投げかけたのはこの言葉であった。

聞いたことのない、機械の鼓動のあとに続くのは扉の開閉音。


隊員「...Jackpotだ、大当たり」


隊長「善良なる市民の、情報提供に感謝しなければな」


魔女「...」ブツブツ


ウルフ「がるるる...もう逃さないよっ!」


魔王妃「...どうやって、私の居場所を?」


ただただ疑問であった。

魔力を頼りに探したとしても早すぎる。

はじめから居場所がわかっていなければこの捜索速度は不可能。


隊長「...この世界は監視社会と化している、お前のような派手な女はすぐに特定できる」


隊員「SNS...といっても伝わりませんね...ともかく、情報を提供してくれた市民がたくさんいる」スチャ


端末をしまいアサルトライフルを構える、彼が直前までみていたのはSNSであった。

このような世紀末のような出来事、そして浮遊する女がいればどうなるか。

画像投稿され、多量に情報が拡散されるのは間違いなかった。

934 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:09:03.24 XUuL3A850 891/1103


魔王妃「...どうやら、撤退は不可能みたいですね」


魔王妃「ならば...応戦するまでです...」


その言葉を待ってかのように、2人が魔法を唱え終えた。

1人は獣の子に、もう1人は同じ見た目をした男に。

稲光する右手と黒に包まれる身体。


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


魔女「────"属性同化"、"雷"」


そしてそれに続く、高速詠唱。

魔女が数分もかかると謳う魔法をものの数秒で発動させる。

彼女の身体が冷気に包まれる。


魔王妃「────"属性同化"、"氷"...」


────パキパキパキッ...!

魔女のモノとは違い、魔王妃の同化は全身に及ぶものであった。

その余波であたりにある摩天楼の低階層が凍てつき始める。


隊長「俺とウルフが前にでるッ! 魔女と隊員は後方を頼むッ!」


ウルフ「──ガウッ!」


魔女「わかったわっ!」


隊員「わかりましたッ!! お気をつけてッ!」


ドッペル「...俺は一度隠れておくか、真っ向から狙われるのは勘弁だ」


返事も待たずに、黒い隊長は闇へと消える。

そして先制を仕掛けたのはウルフであった。


ウルフ「────くらえッ!」ブンッ


────バチッ...!

ただの正拳突きが、とてつもない射程を持っている。

意外にもその攻撃はまともに命中する。


魔王妃「くっ...!」


彼女から見ればライフルから射撃される銃弾よりも避けやすいはず。

なにもどうして当たってしまうのか、それは本命が残っているからであった。

存在するだけで抑止力を誇るアレが控えているというのに、こんな粗末な雷を避けている余裕はない。

935 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:10:34.13 XUuL3A850 892/1103


魔王妃「...くる」


──バババババババ■■■ッッッ!!

これだけは当たる訳にはいかない。

彼女はすでに気づいていた、あの武器は直線状に攻撃をしてくる。

ならば射線にいなければ、雷よりも早いあの攻撃を見切る必要などない。


隊長「──避けた...いや、この武器の性質に気づいたか...」


魔王妃「あぶないですね..."風魔法"」


──ヒュンッ!

殺意のこもった、鋭い風が隊長に向かう。

これが当たったのならば簡単に胴体は真っ二つになるだろう。

まともに当たればの話であった。


ドッペル「やらせると思うか?」


────■■...ッ!

隊長の胴体を包む闇が、向かい風を殺した。

その自動防御とも言える圧倒的な性能。


魔王妃「...やはり、先にドッペルゲンガーを引きずり出して潰すべきですね」


ドッペル「物騒だな、宿主に守ってもらうか」


隊長「...よくもまぁ、そんなことをほざけるな」


魔王妃(...あの人間の武器と、ドッペルゲンガーの相性が良すぎる)


魔王妃(あの発射速度といい、射程といい...遠距離戦では確実にこちらが不利)


魔王妃(かといって肉薄すれば、闇が迫ることは確実...)


魔王妃(...そして先程いた人間の数が足りません、後方に徹しているのは人間が1人と魔物の子が1人)


魔王妃(なにか仕掛けるために、離脱したのでしょうか...)


──バチッ...!

そう考察している間にも、ウルフによる雷が何度も被弾する。

おそらく効果的な負傷を追わせることはできていない、だが問題はそこではなかった。

いかに効き目がないとはいえ、蓄積させれば当然痺れが生まれる、それが例え氷の身体をしていたとしても。

936 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:11:55.85 XUuL3A850 893/1103


魔王妃(...この雷を避けている暇はない、あの武器を目視するので精一杯)


魔王妃(あまり時間をかけれませんね...ならば──)


──ズンッ...!

主人の危機を察知してか、使い魔が現れる。

その重厚すぎる音、旧世界での生態系の覇者。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


魔王妃「...頼みましたよ、ドラゴンさん」


ウルフ「うっ...」


その暴君を前にして吠えることのできる狼など存在しない。

野生が野生を威圧する、押し殺すことのできない感情がウルフを襲う。

地帝戦の時のように、魔力薬はもうない。


隊長「ウルフッ!」


魔女「あのドラゴンは私たちに任せてっ!」


隊員「Captainは引き続きあの女をッッ!!」


魔王妃「...さぁ、集まりなさい」


────ガサガサッ...!

なにかモノをどかす音が聞こえる。

まるで歩くために無理やり動かしたような音が。


隊員「────ZOMBIESッ!」


魔女「隊員さんはこいつらを、私があのドラゴンを相手にするわっ!」


隊員「UNDERSTANDッ!!」スチャ


──ババババッッ! ババッ!

的確な判断であった、銃を前にして接近ができるゾンビなどいない。

彼の精密な射撃が続々と集まるゾンビらを射殺していく。


魔女「──"雷魔法"っっ!!」


──バチッ...! バチバチバチバチッ!!

そして魔女から放たれる、一閃の稲妻。

それがあのドラゴンに被弾すると、まるで拡散するかのように雷が展開する。


T-REX「──HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOWLッッ!!」


まるで、狼の遠吠えのような轟音であった。

少なくとも苦しんでいる、当然だった。

雷が怖くない動物など存在しない。

937 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:13:26.10 XUuL3A850 894/1103


隊長「ウルフッ! 魔王妃にだけ集中しろッッ!!」


ウルフ「う、うんっ!」


魔王妃「..."属性同化"、"風"」


氷の身体に風が伴う、そしてそこから生まれるのは吹雪。

冬場の自然現象で最も恐ろしい出来事が起こる。

視界が白く染め上げられる、そして奪われるのはそれだけではなかった。


魔女「嘘っ!? 属性同化を重ねた...っ!?」


隊員「まずい、Whiteout寸前だぞッ!?」


魔女「...視界もそうだけど、風の音が凄まじすぎる...これじゃ意思疎通なんて無理よ」


隊員「だろうな...ここはともかくあの女の周辺にいるCaptainとウルフが危ない」


──バババッ!

──バチバチバチバチッッ!

幸いにも後方に展開していた彼らはそれほど視界と聴覚を奪われずに済んでいた。

ならば戦地の中心へと向かい、助けに行くべきであった。

しかしそのようなことを簡単に許してくれる使い魔などいない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


ZOMBIE「Ahhhhhhhhhhhhhh...」


魔女「頑丈すぎるわ...怯ませて動きを止めることができても、何度やっても倒れない...っ!」


隊員「こっちは数が多すぎる...処理に追われてそれ以外のことができない...」


攻撃手段の相性は良いはず、どちらとも完封勝利が約束されている。

だがそれは時間をかければの話であった、今はソレを求められていない。

今すぐに必要なのは多少の負傷を覚悟した、速効性の勝利。


隊員「...役割を変えよう、いいか?」


魔女「私もソレ、今思ってたところっ!!」


魔女がゾンビの群れを相手に、隊員が恐竜を相手に。

果たしてどのようなことになるかなど、想像がつかない。

T-REXの硬い皮膚を銃弾で貫けるか、ZOMBIEたちが集まる速度に魔女の魔法や詠唱速度が追いつけるか。


魔女「ねぇ、数秒間私を守ってくれない?」


隊員「いいぞ、そのかわりそれが終わったら数秒間手を貸してくれ」


魔女「話がわかる人ね、じゃあよろしく」

938 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:14:45.76 XUuL3A850 895/1103


隊員「あぁ...まかせてくれ」スッ


────からんからんっ

彼が取り出したのはピンを抜いた手榴弾。

しかしその見た目は、隊長の持っているモノとは違う。

そしてそこから炸裂するのは爆発ではなかった。


隊員「目を瞑ってろ、眩しいぞ」


魔女「わかったわ」


────カッッッッッ!!

言われたとおり、手で顔を遮る。

するととてつもない輝きが指の隙間から差した。


T-REX「────ッッ!?!?」


ZOMBIE「────ッッ!?!?」


魔女(...眩しいわね、これを直視したら完全に動きがとまるわけね...光魔法みたい)


隊員「ほら、あと3つほどあるぞ」ポイッ


────カッッッ!!

1つで数十秒ほど、相手の視界を奪うことができる。

それが3つもあるというならば、1分近く余裕を貰えることができる。

そんな時間があれば、彼女の魔法の威力がどうなることか。


隊員「...次で最後だ、間に合うか?」ポイッ


────カッッッッッッ!

眩いの閃光はあと1度しか時間を作ることはできない。

できれば大事にとっておきたかったフラッシュバン。

だがこのタイミングで使わなければ、どこで使うのか。


魔女「ありがとう、十分よ...伏せて...」


魔女「────"雷魔法"っっっっ!!」


──バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッ!!

その雷は、360度すべての方向へと放電する。

そのあまりの威力に腐った死体どもは、感電は愚か焦げ付いてしまう。

それどころではない、蒸発寸前の動かぬ死体たちがあたりに転がっていた。

939 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:16:10.48 XUuL3A850 896/1103


隊員「...君は将来...発電所で働いたほうがいい...いい給料を貰えるぞ」


魔女「そう? こっちで暮らすつもりだからいいかもね」


魔女「それよりも...あのドラゴンはまだ生きているのね」


T-REX「...GRRRRRRRRR」


足元、脛あたりをよく見てみる。

そこにはまるで破裂したかのような赤黒さの中に、黄ばんだ白色が見えていた。

魔女による雷の威力が伺える、だがまだ生きている。


隊員「骨は無事みたいだな、よかった」


魔女「...くるわよっっ!」


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ズシンッ...! ズシンッ...!

あの映画で見たシーンを彷彿とさせる。

大怪我を無視してまでこちらに突進をしてくる様は、とても恐ろしかった。


隊員「──注意を逸らせッッッ!!」


先程隊員が言った、数秒間手を借りたいというのはこのことであった。

彼はすでにT-REXの弱点に気がついていた、というよりもわかっていた。

あの硬い皮膚を前に銃弾などまともに効かない可能性がある、ならば確実性を得たかった。


魔女「──"雷魔法"っっ!」


────バチッ...!

その一筋の雷は、暴君には直撃しなかった。

だがその音だけで警戒を誘うことは簡単であった。

たとえ知性がなくても、先程我が身をここまで削った魔法を無視することはあり得なかった。

隊員と魔女に走り向かっていたT-REXは、愚かにも真横に落ちた雷の方角を向いてしまう。


隊員「...Snipe」


──カチッ...

アサルトライフルに備え付けられたセレクティブファイア機能。

隊長がフルオートでのアサルトライフルの扱いに長けている。

隊員Bがスナイパーライフルの扱いに長けている、そして彼はその中間の立ち位置にいた。


隊員「......Fire」


──バッ!

セミオートで発射された、たった1発の銃弾。

過去に女騎士が、光竜に致命傷を与えたあの一撃。

だがこれは偶然ではない、彼の生み出す射撃精度がT-REXの光を奪う。

940 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:17:19.07 XUuL3A850 897/1103


T-REX「────────ッッッッ!?!?!?」


音にならない悲鳴が発せられる。

身体に見合わぬあの小さな小さな瞳から吹き出すのは赤色。

見るまでもない、射撃は成功の様子だ。


魔女「...目に当てたの? あの小さな目に?」


隊員「当然だ、Captainに教えてもらったからな」


隊員「...ほら、もう片目も貰うからな」


──バッ!

長距離への射撃精度ならば、隊員Bに劣るだろう。

だが彼と隊長は、近距離ならばたとえ激しく動く相手であっても。


T-REX「────ッッッッッ!?!?!?」


隊員「──FOO! Fuck yeah!」


両目から赤き涙が流れてしまう。

とても可哀想な光景でもあり、その一方で致し方のないモノでもある。

一度は絶滅してたというのに、またこの世に戻されてはこの始末。


隊員「...やったかッ!?」


────ズシィィィィィィンッッッ!!

視界を奪われた暴君、その衝撃で遂には倒れ込んでしまう。

そして大きく開かれた口から発せられるのは、もがきのうめき声。


隊員「...あの映画の大ファンだったんだがなぁ」


魔女「これで、このドラゴンはもう動けないわね」


隊員「あぁ、もう立てないだろうな...」


魔女「もう道を塞ぐ使い魔はいないわね...急いで助けに────」


──バコンッ!

遠くから聞こえたというのに、思わず耳を塞ぎたくなる轟音。

その音だけで威力が伺える、そして視界に映ったのは。


隊員「────上を見ろッッ!!」


魔女「──ウルフ...?」


ホワイトアウト現象から飛び出してきたのは、狼の娘。

わずか数秒の出来事、だがそれ故に目で追うことができた。

誰しも異物が空を飛んでいたら、たとえ一瞬であっても視界に捉えることができるだろう。

941 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:18:55.83 XUuL3A850 898/1103


魔女「...っっ!?」


そして不可視の白の空間から感じる、3つの魔力。

氷、風、そして最後に感知できたのは、爆発の気配。

彼女は同時に3つの同化を行っていた。


魔女「嘘でしょ...いや、それよりも...っ!」


隊員「──私があの子を追うッ! 君はCaptainと急いで合流しろッッ!」


魔女「...わかった、ウルフを頼むわよ」


隊員「あぁ、任せろッッ!!」ダッ


的確な判断であった。

魔女は治癒魔法を唱えることができる、なのでウルフを追うのは彼女の方が良い。

だがそれは地雷であった、例え上記が事実であっても、ある1つの問題点が存在していた。


隊員「ハァッ...ハァッ...!」


特殊部隊の彼が息を切らすほどの全力疾走、歩道に蔓延る雪が足元の調子を悪くする。

闇雲に走っているように見えるこの光景だが、むしろ逆で彼には考えがあって走っている。

彼の持っている土地勘が、ウルフが吹き飛ばされた方角への最短道を割り出していた。

たとえ魔女が魔力を感知したとしても、この迷路じみた合衆国の裏路地を全力疾走できるであろうか。


隊員「...ッ!! GET OUT OF MY WAYッッッ!!」スッ


──バッ! バッ! バッ!

三連のセミオート射撃が、裏路地にはびこるゾンビを射殺する。

これが意味する出来事に彼の足は更に加速する、ここにすらゾンビがいるということは。


隊員(まずい...急がないとZombieに群がられているかもしれない...)


隊員「────FOUNDッッ!!」


全力で走ること数分、ようやくウルフを見つけることができた。

とてつもない距離に吹き飛ばされたというのに身体に目立つ外傷は見当たらない。

その異様感を無理やり納得させ、彼女に近寄った。


隊員(...右手が元通りになっている、効力切れってところか?)


隊員「おい、大丈夫か? 返事ができるか?」


ウルフ「う...げほっ...う、うん...」


隊員「どこが痛む?」


ウルフ「お...おなか...ここにあたった...」


隊員「...服はボロボロになってしまっているが外傷は見当たらない、どうやら内蔵が痛むみたいだな」

942 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:20:13.35 XUuL3A850 899/1103


ウルフ「こ...ここは?」


隊員「ここはCaptainたちが居るところからかなり離れたところだ」


隊員「...GunShopのようだな、その丈夫すぎる身体で店のガラスを突き破ったみたいだ」


ウルフ「ごめん...な、さい...」


隊員「謝るな、今肩を貸してやる」グイッ


自力で立つことが困難と思われるウルフを、起き上がらせた。

すると彼女のおしりで下敷きにされていたのか、ある武器の弾薬が目に入る。


隊員「これは...」


ウルフ「どうしたの...?」


隊員「いや、少し座って待っててくれ」


そういうと彼はやや歪な形になってしまった弾薬箱を手に取る。

そのパッケージには翼の生えたドラゴンが火を吹いているイラストが描かれていた。

それが何を意味するのか、隊員にはわかっていた。


ウルフ「...」ジー


彼が何かをしに行っている間に、ウルフはあるモノに視線を奪われていた。

視線の先には隊長の家にもあったあの光る箱、テレビが存在していた。

そこに移されていたのは、販促用に流されているとある映画。

男が両手に拳銃を持ち、派手な動きをするあの名作。


隊員「すまん、待たせたな...行こう」


ウルフ「あっ...うん」


座り込んでいたウルフを再び抱き寄せ、肩を貸した状態に。

気づけば彼は新たな武器を手にしていた。

そしてウルフも、新たな試みをする。


ウルフ「ねぇ...これ、もう1個もってない?」


隊員「ん? ハンドガンか? 持っているが...どうした?」


ウルフ「えっとね、借りたいの」


隊員「...あぁいいぞ、こっちも手持ちが増えて多分使わないと思うしな」


彼が新たに手にしたのはソードオフのショットガン。

そしてウルフが手にしたのは、隊員から預かったハンドガン。

この2つがこの先どのようにして活用されるのか。


~~~~

943 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:23:05.81 XUuL3A850 900/1103


~~~~


隊長「──ウルフがやられたッッ!?」


局地的ホワイトアウトに囚われた隊長が吠える。

聞き間違えでなければ、爆発音とともに聞こえたのは悲鳴。

聞き覚えのあるあのウルフの声に違いなかった。


隊長「クソッ...なにも見えんし聞こえんぞッッ!?」


ドッペル「...まずいな、あの女...属性同化とやらの魔法を3つも重ねがけしているのか」


ドッペル「お前の身を闇で守ることはできても...これでは防戦一方だな」


隊長「せめて、魔王妃の居場所がわかれば...お前は魔力を感知できないのかッ!?」


ドッペル「出来てたまるか...あれを簡単に且つ高精度にこなしているあの女に感謝してろ」


隊長「...どうすれば────」


────ドクンッ...!

いくら攻撃から身を守ることができても、状況を打破することができない。

そのような手詰まりに近い現状、焦燥感からか心拍数があがる。


ドッペル「...くるぞ、爆だ...焦らず"俺"に任せろ」


──バコンッ!

その爆発は、あまりにも精密なモノであった。

あと僅かでも反応が遅れていたら直撃していたであろう。

野球ボールほどの大きさしかない爆発が、闇に飲まれた。


ドッペル「...ここまで小さな爆発も操れるのか、もう少しで展開している闇の僅かな隙間に通すところだった」


隊長「足元に手榴弾が転がったかと思ったぞ...」


ドッペル「まずいな...向こうはどうやら俺の闇の魔力を感じ取り、攻撃しているみたいだ」


隊長「...やはり感知をしてくるか、向こうは見えなくても攻撃ができるわけだ」


ドッペル「どうするか? 一度闇を取り払うか?」


隊長は魔力を持たない、よって感知による座標の特定はされないはず。

だがそれは同時に身を護る盾を捨てるような行為であった。


隊長「それはできない...もし当てずっぽうで魔法を大量展開されたら...」


ドッペル「...今現在感知されているということは、闇を取り払えばその変異にすぐに気づかれる」


隊長「そうなれば奴はナパーム爆撃みたいなことをしてくるかもしれん...いくらなんでも当たる」


ドッペル「参ったな...せめて奴の居場所がわかれば、闇の一撃が届くんだが」


隊長「振り出しにもどったな、もう少し考えさせてくれ...」ピクッ

944 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:24:05.53 XUuL3A850 901/1103











「──きゃぷてんっっっ!!」










945 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:26:07.97 XUuL3A850 902/1103


ほんの少し、僅かに聞こえたその最愛の声。

たとえ台風の中でさえでも聞き取ることができるだろう。

自身の聴覚を頼りに、彼女のいる方向へと声を投げかける。


隊長「──こっちだッ! わかるかッ!?」


ドッペル「...やかましいぞ」


憎たらしい影の嫌味などに返事はしない。

人として限界の大きな声が吹雪と共に轟く。

彼女には聞こえただろうか、結果はすぐにわかった。


魔女「──っ!」


ドッペル「...顔の周りの闇を除けてやる、今のうちに耳打ちで情報を共有しろ」


全身に纏う闇が、一部取り払われる。

そして彼女の柔らかそうな耳に接近するのは彼の口元。


隊長「──魔王妃はどこだッッッ!?」


魔女「────っ!」スッ


──バババババ■■■ッッッ!

そして彼女は指をさした。

隙かさずに隊長はそこへ銃弾を打ち込む。

そして響くのは、闇の音だけではない。


隊長「──やったかッ!?」


魔女「やってないっ! 逃げてるっっ!!」


猛烈なホワイトアウト、そして吹雪が視界と聴力を奪っていたというのに。

先程まで隊長たちを襲っていた環境は急激に変化を始める。

見る見る間にも、周りの景色が浮かび上がっていた。


ドッペル「...あの女に命中したようだな、闇が当たれば姿をくらますか」


魔女「転移魔法じゃないっ!? まだ魔力を感知できる距離にいるわよっっ!」


隊長「────急いで車に戻れッッ!」ダッ


──ガチャッ! バタンッ!

その言葉とともに、2人の足はすでに動いていた。

迅速な行動、気づけば既に隊長の足はアクセルペダルを踏んでいた。


魔女「──ウルフたちはっ!?」


隊長「隊員を信じろッ! アイツは俺が知っている中で一番優秀だッ!」


ドッペル「...一度闇をすべて取りはらうぞ、車とヤラが壊れかねん」

946 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:29:56.85 XUuL3A850 903/1103


魔女「隊員さんがウルフの方へ行ったなんてよくわかったわねっ! まだ言ってないわよっ!?」


隊長「アイツならそうするッ! それよりももう大声で喋るなッ! 舌を噛むぞッ!」


魔女「...居たっ! 風の属性同化で、凄い速度で空を飛んでるわっ!」


隊長「──まずいッ! 逃げられるッ!?」


このような轟音を鳴らし追跡されたのならば誰だって気づく。

魔王妃はこちらを確認すると、車で追えないような裏路地へと姿を眩ませた。

その一方で飛行速度は保ったまま、邪魔になり得る障害物は同化させた風が追い払う。


隊長「────どうすれば」


魔女「──こうするのよ」クピッ


────ゴクンッ!

彼女から聞こえたのは、なにかを飲む音であった。

そして皮肉にも、この変化に気づけたのはドッペルゲンガーだけであった。

彼だけが感じ取ることができた、魔力量の変化。


魔女「"属性同化"、"雷"」


彼女が飲んだのは女賢者から渡された魔力薬。

無限のように湧く魔力が可能にするのは、詠唱速度の向上だけではなかった。

先程は右手だけしかできなかった同化が今度は全身へと。


魔女「もう逃さないわよっ──」


──バチンッッ!!

車に雷が落ちたかのような衝撃が生まれる。

ドアも開けずに飛びたった影響で、軍用車の助手席付近が完全に破壊されていた。


隊長「...凄まじいな」


ドッペル「見ろ、あの女が魔王の妻を追いかけているのが見えるぞ」


隊長「...今は魔女に任せるしかないか」


ドッペル「そうだな、それよりも人の姿が見当たらんな...これなら存分に闇を放てる」


隊長「先手は取られたが...我が国の部隊がこれ以上の被害を出させるわけがない」


ここはこの国屈指の大都市であるにもかかわらず、人の姿は見当たらない。

あたりに居るのはすでに銃殺されたような死体しか見当たらなかった。

どうやらすでに一般市民の避難、そして救護は完了している。


隊長「...HQ HQ」


~~~~

947 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:31:39.23 XUuL3A850 904/1103


~~~~


ウルフ「ご主人たちがいない...」


隊員「車がない...状況を察するに、魔王妃は逃走して、Captainたちは車で追いかけたってところか?」


ウルフに肩を貸しながらも、冷静に状況を分析する。

ほぼ正解に近い考察を出しながらも、やや途方に暮れてしまう。


ウルフ「ん...もう大丈夫だよ」


隊員「...」


ウルフの顔、やせ我慢をしているようなモノではない。

本当に身体の不調がある程度緩和されている。

その事実に彼は再度実感してしまう。


隊員(服もほぼボロボロで脱げかけ、そこから見える濃い毛並み...)


隊員(そして被っていたニット帽はいつのまにか脱げている...そこから見える犬の耳...)


隊員「...本当に、人間じゃないみたいだな」


ウルフ「うん?」


隊員「いや...なんでもない...それよりもどうするか」


あたりは暗く、申し訳程度の街頭が道を照らしている。

先程の魔王妃が放った魔法の影響か、摩天楼を彩る明かりはほぼ壊滅していた。

薄暗い日差しが落ちようとしている。


隊員「...もう夜になる、辺りも暗い...奇襲に気をつけろ」


ウルフ「うん」


隊員(夜か...ゾンビものの映画だと夜に被害が拡大するんだがな...)カチャ


だがそのようなことはなかった、なぜなら彼はすでに情報を持っていたから。

片耳から聞こえる状況の最新情報、ラジオの如く自動的に聞くことができる。

本部の報告によると、ここに住む市民の9割をセーフゾーンに誘導できた模様だった。


ウルフ「うわっ! ビックリした...」


隊員「ん...あぁ、すまん...少し明るさが強かったな」


そして彼が手にかけたのは、銃に取り付けられたある装備。

ボタン一つで、射線の先を照らすことのできるタクティカルライト。

これで夜でも視界を確保できるだろう。

948 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:33:22.58 XUuL3A850 905/1103


隊員「少しばかり歩くぞ、途中で動かせそうな車があったらそれに乗ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「...ハハ、元気な返事だな」


ウルフ「えへへっ...」


先程の激戦、最前線にいなくてもその疲労値は凄まじいものであった。

未曾有の攻撃である魔法、そのようなモノと対峙すればそうなる。

だがそんな中、彼女の眩しい笑顔が隊員を癒やしていた。


ウルフ「...あれって、さっきの」


隊員「あぁ...T-REXか」


T-REX「────」


少しばかり歩いていると、先程の場所へと到着していた。

そこにいたのは、両目から紅を流していた暴君の竜。

だがその様子はとても静かなものであった。


隊員「出血多量だな、完全に絶命している」


ウルフ「...すごい大きいね」


隊員「そうだろ? 子どもの時は大好きだった」


隊員「だが実際に対峙してみると...なんとも言えんな」


ウルフ「そうなの?」


隊員「あぁ、かっこいいと思っていたが...やはり怖い」


隊員「それに先程はまだ明るかったから動きがわかりやすく、眼を狙えたが...この暗さだともう無理だな」


隊員「...新たなコイツが現れたら、もう手に負えないかもな」

949 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:34:23.21 XUuL3A850 906/1103


ウルフ「うーん...今の所、この辺にはいないみたいだよ」


隊員「わかるのか?」


ウルフ「うん、足音がすごいから...すぐわかるよ」


隊員「あぁ、そうだな...あの足音は映画でもすごかった」


ウルフ「えいがってなに?」


隊員「知らないか、今度見せてや────」ピクッ


軽く雑談をしながら、横たわるT-REXを通り過ぎようとした瞬間。

とてつもない違和感が彼を襲った、この死体の背中にできている新しい傷跡。


ウルフ「これって...」


隊員「...これは、噛み傷か?」


ウルフ「...たしかに、噛んだらこんな傷ができるけど」


隊員「Zombieでも群がったか...いやそれにしては...」ピクッ


考察をしている彼にある予感が走る。

もし自分が魔王妃なら、もし自分が兵力として恐竜を蘇らせるとしたら。

はたして強大であるかわりに愚鈍なT-REXだけだろうか。


隊員「...ヤバい、ヤバい...この予想が当たりならかなりヤバいぞ」


ウルフ「ど、どうしたの...?」


隊員「耳を澄ませてくれ...聞こえないか...?」


ウルフ「え...?」ピクッ


彼女の耳が立つ、このやや暗闇の中で頼れるのはコレしかなかった。

だがすでに遅かった、たとえ彼女の聴力を持ってしても厳しい。

居場所と数は特定できたとしてもその迅速な動きに対応できるであろうか。

950 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:35:04.97 XUuL3A850 907/1103











「────CRRRRRRRRRRRRッッ!!」










951 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:37:16.83 XUuL3A850 908/1103


ウルフ「────うしろっっ!!」


隊員「──"RAPTOR"だッッッ!!」


ラプトルと呼ばれる、比較的小型の竜。

某映画の影響でデイノニクスという恐竜がそう総称されている。

そして、その映画のお蔭でこの恐竜がどれだけ恐ろしいかもわかっていた。


RAPTOR「CRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ドカッ!

気づけば背後にいた暗殺を得意とする竜。

隊員はあっという間に押し倒され、かつ武器を解除されてしまった。


隊員(アサルトライフルが押し倒された際にどこかに...)


隊員「グッ...なんてッ...力だッ...!」グググ


RAPTOR「CRRRRRRッッ! CRRRRRRRRRRッッッ!!」グググ


ウルフ「──ガウッッ!!」スッ


──バキッ!!

ウルフが繰り出す回し蹴りが、ラプトルに命中する。

普通の人間なら全く効果が得られない、だが彼女は魔物だ。

その威力故に、ラプトルの身体は持ち上がる。


ウルフ「だいじょうぶっ!?」


隊員「あ、あぁ...すごい威力だな、Raptorを軽く吹き飛ばしてたぞ...」


RAPTOR「CRRRR...ッ!」スッ


隊員「──ッ!」スチャッ


蹴飛ばされたラプトルはすぐさまに立ち上がる。

そしてそれを察知して、彼はサイドアームのショットガンをすばやく取り出す。

しかし発砲することはなかった。


ウルフ「...にげた」


隊員「逃げたか...あの阿婆擦れ、厄介なモノも蘇らせやがって...」


ウルフ「さっきのよりかなり小さいけど...その分すばやいね」


隊員「あぁ...だが奴の恐ろしさはそこじゃない」


ウルフ「う?」


隊員「奴らは群れで襲いかかる...今のが数匹いたら、多分殺されていた」

952 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:38:49.54 XUuL3A850 909/1103


隊員「そして最も厄介なのが...賢すぎるところだ」


ウルフ「そうなの?」


隊員「...あぁ、知性のない動物だからといって侮るな、容易に背後を取られるぞ」


隊員「それも集団で、戦術地味た行動もしてくる...映画ではそうだった」


ウルフ「...気を引きしめなきゃね」


隊員「慎重に動くぞ...お互いは必ず、お互いの背中を守ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「まずは車を探すぞ...とてもじゃないが車がないと奴らに追いつかれる」


道に転がっている明かりの元へと向かう。

そこにあるのは、先程武器飛ばされたアサルトライフル。

それを拾うとすぐさまに行動に移る。


ウルフ「...」ピクッ


隊員「どうした?」


ウルフ「...いる、それも7匹はいるよ」


隊員「まずい...早すぎる...囲まれたら終わるぞ」


ウルフ「早く行こっ...?」


隊員「あぁ...俺が後ろを向きながら歩く、ウルフは前を見ながら歩き始めてくれ」


ウルフ「わかったよ」


隊員「...ッ!」


──ガサ...ガサ...

ウルフの耳がなくともわかる、後方に奴らがいる。

街路樹の裏、廃棄された車の影からチラリとみえる長い尻尾。

タクティカルライトでソレを照らすたびに、緊張感が生まれる。


隊員「絶対に油断するな...」


ウルフ「う、うん...」


彼女はラプトルについてなにもしらない。

だがそれでいて同じ野生動物でもある。

野生が告げる、あの動物の危険性がウルフにも緊張感を与えていた。

953 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:40:42.26 XUuL3A850 910/1103


隊員「...クソッ、様子を伺ってるみたいだ」


隊員「来るならすぐ来てくれ...」


ウルフ「...ッ!」ピクッ


────ポタッ...!

今はニット帽を被ってはいない、なのですぐに感じ取ることができた。

ウルフの敏感な耳がある液体を察知した、今は冬だというのに季節外れの天候に。


隊員「嘘だろ、こんなときに雨かよ...ッ!?」


ウルフ「う...この感じ...かなり降りそうだよ...?」


隊員「勘弁してくれ...野戦での雨は本当に厳しいんだぞ...ッ!?」


ラプトルが与えるプレッシャーからか、言葉に余裕を伺うことができない。

やや焦燥に駆られた隊員が思わず強い口調でウルフに投げかけてしまう。

それほどに、今のこの天候がどれほど不幸なのか。


隊員「...すまない、少し冷静を欠いた」


ウルフ「...しかたないよ、あたしも雨きらいだもん」


隊員「そうか...だが不幸中の幸いにも、この道路にはロードヒーティングがある」


ウルフ「なにそれ?」


隊員「要するに地面がある一定の温度を保つから、雪が降っても積もらない」


隊員「だからアイスバーン状態に...凍結しないから足を取られることはないってことだ」


ウルフ「...そうなんだ」


隊員「あぁ、だから歩行に関しては問題なく進められるぞ」


ウルフ「たしかに、そういえばこの道にだけ雪がつもってないねっ!」


隊員「そういうことだ」


他愛のない雑談、この切り替えの速さこそが隊員の良さであった。

つい昨日までは隊長という大事な人物を失い、その強みが失われていた。

だが今は違う、彼の話術が緊張感をほぐしていた。


隊員「...しかし、一向に襲ってこないな」


ウルフ「うーん...とびかかってくる気配はたまに感じるけど...」


隊員「警戒しているのか...却って厄介だな」

954 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:43:25.28 XUuL3A850 911/1103


ウルフ「気をつけてね、雨が強くなってきているから聞きづらくなってきたよ」


隊員「...あぁ、大丈夫だ、この目でしっかりと注意しておく」


徐々に雨が強くなる、ハリケーンとまではいかない大雨だ。

ゆっくりと道を進むなかラプトルへの牽制も怠らずにいた。

アサルトライフルの射線を何度も変化させるも、常にどれか1匹のラプトルに向けていた。


隊員(銃を持ったテロリストを相手にしている方が気が楽だな...野生動物はいつ襲ってくるか全く検討がつかない)


──ゴロゴロゴロゴロゴロ...ッ!

その時だった、ラプトルに警戒しているとはるか上空から鳴り響く轟音。

まるで意思を持ったかのような雰囲気のある雷が響いた。

その音を奴らが利用しないわけがなかった。


隊員「──くるぞッ! 2匹だッッ!」


ウルフ「────わかったっ!」


RAPTOR1「CRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」


まずは2匹のラプトルが襲いかかる。

なにか狙いがあるのか、その2匹は愚かにも真正面から走り込む。

確かに不意打ちに近いかもしれないが、この武器を前にしてソレは自殺行為であった。


隊員「──Bye bye mother fucker...」スチャッ


──バッ! バッ!

2つのセミオート射撃が2匹のラプトルに命中する。

彼らはかのティラノサウルスではない、よってその皮膚の厚さは薄い。

とてもじゃないが、銃弾を堪えることはできない。


隊員「...こいつらなら一発で仕留められそうだ」


ウルフ「──後ろっっ!!」


RAPTOR3「CRRRRRRRRRッッ!!」スッ


隊員「────しまっ!?」


──ドカッ!!

決して油断していたわけではない、遠くで響く雷が、視線に広がる雨が彼の隙を産ませていた。

人間は大雨の中、果たして従来の集中力を持続させることはできるだろうか。

隊員の後ろを取った新手のラプトル、響いたのは雷の音ではなく鈍い打撃音であった。

955 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:45:02.48 XUuL3A850 912/1103


隊員「......」


隊員(...身体に痛みはない)


思わず目を瞑っていた、その最後の光景には両手を上げ飛びかかろうとしたラプトルが鮮明に残る。

そして聞こえた鈍い音、間違いなく押し倒されたと思っていた。

恐る恐る視界を開けばそこには彼女がいた。


ウルフ「...」


隊員「...これは」


隊員(RAPTORの頭部が陥没している、まるでハンマーで殴られたかのような傷跡だ)


弱々しく横たわるラプトルを尻目にそう考察した。

ウルフが何をしたか、一目瞭然であった。

だがまだ会話を許してくれる状況ではなかった。


RAPTOR4「CRRRRRRッッッ!」


隊員「──ウルフッ! 新手は上だッッ!!」


新たなラプトルが廃車の屋根から信号機へと飛び移り、そこから奇襲をかけてきた。

その1匹だけではない、いままで機を伺ってきたすべてのラプトルがウルフに目掛けていた。

奴らの動きはすばやく隊員はアサルトライフルの照準を合わせることができなかった。

だがそれは違かった、あえてそうしなかったのであった。


ウルフ「...ガウッッ!!」


──ガコンッ...!

彼女の両手には、ハンドガンが握りしめられていた。

その持ち方は従来のものではなく、銃身を握りしめたものであった。

そこから放たれるのは銃撃ではなく、打撃。


隊員「──Gun kata...ッ!?」


──ドガッ! バキッ...! ダンダンッ! 

銃身を握りしめハンマーのように殴ったかと思えば、直ぐ様に元の持ち方へと戻し発砲する。

それだけではない、まるでトンファーのように持てば奴らの爪での攻撃を弾くことができる。

人間では受け流すことができない、だが魔物の筋力ならたとえ恐竜であっても。


隊員「ウルフの方が力は上なのか...」


ウルフ「────よしっ!」


──バキッ...! ダンッ!

最後の1匹、飛びかかりの攻撃を受け流しそのまま地面へと投げ飛ばす。

そして繰り出される一撃の発砲音。

956 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:46:47.08 XUuL3A850 913/1103


隊員「今ので7匹目...全滅させたか」


ウルフ「そうみたい...うまくいったね」


隊員「...Gun kataか...実際に見たのは初めてだ」


ウルフ「がんかた?」


隊員「二丁の銃を使った近接格闘術のことをそう呼ぶんだ...映画の中ではな」


ウルフ「そうなんだ!」


隊員「こうもRAPTORをあしらうとは...流石だな」


ウルフ「...ううん、あと1匹多かったらヤラれてたよ」


隊員「...」


初めは7匹に追われ、2匹は隊員が射殺した。

そしてその後ウルフがガン=カタを駆使して5匹を始末した。

5という数字、それが彼女の限界であった。


隊員「...進もう、RAPTORは7匹だけじゃないはずだ」


ウルフ「うん...それにしても、雨が強いね」


隊員「あぁ、おまけに雷も鳴っている...急いで車にのって安全に移動しよう」


────カッ!

その時だった、まばゆい閃光が夜空を煌めかせた。

どこか近い場所で雷が落ちたようだった。

その明るみは、一瞬だけであったが暗闇の摩天楼を照らす。


隊員「...見えたか?」


ウルフ「うん...見えちゃったよ」


隊員「...前方以外囲まれている、10匹はいるぞ」


あたりは夜の帳、そして静寂とは正反対の雨の轟音。

頼れるものはウルフの嗅覚と聴覚、そしてタクティカルライトの視野。

一難去ったところで、緊張感が再度生まれる。


隊員「...5匹以上は相手にするな、わかったな?」


ウルフ「でも...もし全員でおそってきたら...?」


隊員「その時は...まかせてくれ...絶対になんとかする...」


彼の顔は水でずぶ濡れであった。

雨の仕業か、はたまた冷や汗がそうさせているのか。

とにかく進むしかない、再びウルフが先頭になり隊員が後方の帳を照らす。

957 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:48:12.59 XUuL3A850 914/1103


ウルフ「...ねぇ! あれってっ!?」


隊員「...ッ!」


いつラプトルが襲ってくるかわからないこの緊迫状態。

再度進み始め数十分は経った、そんな中ようやく希望の光が見えた。

そこにあったのは、唸り声をあげながらも主人を待つ鉄の塊。


隊員「でかしたぞ...ッ! そのままゆっくり、派手な動きをせずに乗るぞ...」


ウルフ「うん...っ!」


隊員(助かった...あの様子だと鍵は挿しっぱなしみたいだな...)


────ゴロゴロゴロゴロッ...!

車を見つけたその時、遠くで雷が鳴り響いた。

それが影響してか、わずかに生き残った街灯が反応する。


ウルフ「──うわっ!?」


隊員(こんなときに停電かよ...ッ!!)


隊員「──離れるなッ! これだけが頼りだッ!!」


視覚は完全に奪われた、この暗闇に抵抗できるのはタクティカルライトのみ。

彼は背中でウルフの体温を感じ取ると、そのまま押すように前に進ませる。


隊員「...いいか? 一瞬だ...一瞬だけ前を照らす」


隊員「その一瞬で車の方向を完全に把握してくれ...いいな?」


ウルフ「...っ!」


前方のどこかに車がある。

本当ならずっと前を照らしてやりたい、だがそれを許してくれるラプトルなどいない。

あの狡猾な奴らが暗闇を利用しないわけがなかった。


隊員「...ッ! ...ッ!」


隊員(ヤバい...生まれて初めてだ...ここまで緊張するのは...)


隊員(これならPredatorに追われている方がマシかもしれないぞ...)


隊員(...まだだ、まだ前を向けない)


おおよそ10匹の奴らがこちらを狙いすましている。

彼ができるのは、ラプトルたちに光を当てて警戒心を強めさせることしかできなかった。

素早く手を動かし多くのラプトルに光をあてるだけという警告を送っていないと既に襲われている。

958 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:49:22.65 XUuL3A850 915/1103


ウルフ「...」ピクッ


隊員「...すまない、まだだ...まだ無理だ...」


ウルフ「ううん...違う...聞こえたよ」


──ブロロロロ...ッ!

彼女にだけ聞こえた鉄が煙を吐く音、雨の轟音に紛れた希望の音が。

獣の耳をもってようやくそのエンジン音が聞こえるところまで詰め寄っていた。

あてずっぽうながらも、じりじりと進んだ甲斐がここにあった。


隊員「...やっぱり犬っ子は最高だ」


ウルフ「...うん、間違いないよ、なんか変なにおいもしてきた」


雨によりあたり周辺の匂いが流されていた。

雨によりあたりの音もかき消されていた。

狼という種族の長所を奪われていたが、ここにきてようやくそれが生きる。


隊員「このまま、進めるか?」


ウルフ「うん、だいじょうぶ...後ろはまかせたよ?」


隊員「...YES SIR」


思わず口角が上がってしまう。

ようやく逃げ足を確保することができた。

ゴールはすぐそこ、その事実が彼に癒やしを与えていた。


ウルフ「あとちょっと...」


隊員「いいぞ...まだ襲ってくる気配はない...このままいけるぞ...!」


──ザアアアアアアアアアアァァァァァァァ...!

車という存在に射幸心が煽られている、この雨の轟音すら気にならない程度に。

だが彼らから生まれたのはソレだけではない、いままで絶対に避けていたある感情がそこにはあった。


ウルフ「──ついたっ!」


隊員「そのまま乗...れ...」ピクッ


言葉が詰まってしまっていた、一体なぜなのか。

ウルフの手によって開けられた助手席側の扉。

そして開けた瞬間、車の窓ガラスになにかが映った。


ウルフ「────嘘」


────カッ!

雷が暗闇を照らした、そしてその閃光が見せてくれたのは。

彼らは実感する、ここにきて初めて油断というものをしたということに。

959 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:50:50.36 XUuL3A850 916/1103


隊員「喋るな、動くな、目を合わせるな...コイツは動きに反応するらしい...」


ウルフ「...」


──ズンッ...!

その強烈な足音が物語るのは、圧倒的な恐怖。

先程の明るいときですらここまで近寄られたことはない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...」


ウルフ「...」


先程とは別のレックスがそこにいた。

助手席に乗り込もうとしたときに開いた扉が唯一の隔てり。

彼らができるのは沈黙、そして不動であった。


隊員(...まさかこの雨音がT-REXの足音すらかき消しただなんて)


隊員(ふざけるな...B級映画ですらこんな展開をしないぞ...)


隊員(......いや、そうさせてしまったのは...油断か)


自責の葛藤、そして手には震え。

先程までラプトルを照らしていたライトは大いにブレている。

頭は冷静でいても、身体はもう抑え込めない。


隊員(...震えているのは自分だけじゃないか)


隊員(すまん...ウルフ...たとえ魔物とかいう種族でも、女の子にこれは酷すぎる)


ウルフ「...」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRR...」スンッ


あと僅かで車内へと入れるというのに、大雨の中で往生させられている。

急激に体温が低くなる、それは身体に付着した水分が影響しているだけではない。

眼の前へと移動してきた奴が匂いを嗅いでいるからだ。


隊員(...汗は雨に流れている...動物的な匂いはしないはずだ)


隊員(頼む...生き物だと気づかないでくれ...)


ウルフ「...」ブルブル


隊員の横で震えるウルフ、本能に刻み込まれた生態系の存在。

大きさがあまり変わらないラプトルなら話は別。

狼がティラノサウルスに立ち向かえるわけがなかった、そして劣悪な状況は更新される。

960 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:51:52.85 XUuL3A850 917/1103


隊員(...嘘だろ)


────しと...しと...

先程まで聴力を奪っていた豪雨が、弱い音へと変わる。

この状況でなんと雨はあがってしまった。

その一方で身体から湧き出る冷や汗は止まらない。


隊員(まずい...雨が上がったことで匂いが流れなく...)


隊員(それに...T-REXだけじゃない...RAPTORもあたりにいるはずだ...)


隊員(奴らもT-REXの存在に警戒しているはずだ...すぐには襲いかかるとは思えんが...)


隊員(どうする...どうやって────)ピクッ


この状況、あの映画でも似たようなモノがあった。

あの時は発煙筒を使うことでこのデカブツを誘導することができた。


隊員「...」スッ


隊員(...気づくなよ...俺が動いていることに)


T-REX「GRRRRRRR...」


ごく僅かに腕を動かす、そして取り出したのはサイドアーム。

未だに近くに鎮座するT-REX、少しでも不審に思われたらお終いであった。


隊員「...」


隊員(一か八かだ...もしかしたら本命よりも射撃音に反応するかもしれない)


隊員(だがやるしかない...このままT-REXが大人しくこちらの様子を伺うだけとも限らない...)


隊員(タイミングは..."見えた"らだ)


先程まで恐怖によってブレていたタクティカルライトの光。

いかにして不自然な動きをさせずに、T-REXの目に入らないようにズラしていた。

その光をある方向へと固定させる。


隊員「...」


隊員「......」


隊員「.........」


まるで時が止まったかのような感覚でもあり。

まるで時が加速したかのような感覚でもあった。

矛盾するその体内時計、並々ならぬ緊張感がソレを実現させる。

961 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:53:11.85 XUuL3A850 918/1103


隊員(...まだかッ!? まだ映らないのか...ッ!?)


ウルフ「...ぅぅ」ブルブル


隊員(まずい...ウルフも限界が近い...)


T-REX「...」スッ


そんなときだった、T-REXは動く。

こちらの様子を伺うために頭を下げていたが、その格好をやめた。

まるでどこか別の方へと向かうようなそんな素振りに見えた。


隊員(これは...なんとかなったのか...?)


ウルフ「...ふぅ」


だが、それは違かった。

なぜ頭を元の位置に戻したのか。

それはすぐにわかる、誰しも大声を出すときは予備動作が必要。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッッッッ!!!」


その音色自体は今までも耳を刺激してきた。

だがその声量はとてつもないものであった。

人間の耳ですら厳しい轟音、それが狼の耳からすると。


ウルフ「────わああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」


隊員「────ッッ!!」ガバッ


ウルフ「わっぷっ!?」グイッ


隊員「──Shhhhhhhhh...Shh...」


人間の何倍もの聴力を持つウルフ。

彼女に襲いかかる多大なストレスが、思わず声を荒らげさせていた。

隊員が彼女の口を抑え、沈黙を促すがもう遅かった。


T-REX「...GRRRRRRR」


隊員(だめだ...目線が完全にこっちを向いているどころか...目があってしまった)


隊員「...ウルフ、覚悟してくれ」ボソッ


ウルフ「...もが」ピクッ


隊員(RAPTORならともかく...T-REXと真正面から撃ち合ったところで...)


その時だった、この一方的なにらみ合いに水を刺すものが。

今まで彼らを追い続けていた狩人の主。

ソレが偶然にもライトに照らされ、現れる。

962 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:54:32.18 XUuL3A850 919/1103


RAPTOR「CRRRRRRRRRRR...!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...ッ!」


まるで獲物を横取りするな、そのような異議を申し立てているようにも見える。

ライトに照らされているのもあってT-REXの目線がラプトルに向く、それが一筋の勝機を導く。


隊員「────BIG MISTAKEッ! ASSHOLEッッ!!」


──ダァンッッ!

サイドアームにしたソードオフのショットガンから放たれる一撃。

それはただの射撃ではなかった、ある特殊な弾薬が可能にする魔法のような代物。

弾薬に入れられたマグネシウムが着火する。


RAPTOR「──CRRRRRRRRRRRッッ!?!?」


T-REX「──ッ!」ピクッ


ウルフ「──えっ!?」


隊員「────乗れッッッ!!!」グイッ


魔法を使えないはずの人間から放たれた炎魔法のような現象。

燃え盛るラプトル、それに気を取られたT-REXはラプトルの様子を伺うしかなかった。

呆然とするウルフ、そして気づけば助手席に座っていた。


隊員「──とばすぞッ!」


──ブロロロロロロロロッッッ!

彼が足元のペダルを思い切り踏むと、車は唸り声を上げて速度を出す。

緊張を生んでいた現場はすぐに視界から消え失せていった。


ウルフ「な、なにがおきたのっ!?」


隊員「この世界には発火性のある弾薬がある、それを撃ったッ!」


隊員「それよりもヘタに喋るな、道が荒れているから舌を噛むぞッ!」


ウルフ「う、うん...っ!」


──トタタタタタタッッ...!

窓から聞こえるのは、高速の足音。

そして車内のフロアライトによる明るさを利用することで、その全貌が伺える。

963 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:55:52.52 XUuL3A850 920/1103


ウルフ「ついてきてるよっ!?」


隊員「...これだから普通車はッ!!」


RAPTOR「CRRRRRRRRRRッッ!!」


いかに速度を上げたところで民間の車では限界がある。

これがスポーツカーであるなら、これが緊急車両であるのなら。

残念なことに普通車では俊足のラプトルに追いつかれてしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「まえっ! まえにっ!」


隊員「このまま轢くぞッ! なにかに掴まれッッ!!」


言われるがままに、ウルフは取手に捕まった。

そして目の前に見えるのは腐った死体、避けている暇はない、ぶつからざる得ない。


ZOMBIE「──...ッ!」


────グシャァァァァッッッ!!

いくら腐敗した身体だとしても、その衝撃はとてつもないものだった。

フロントに乗り上げた死体の一部が、フロントガラスにヒビを入れる。


隊員「死んでから迷惑かけてんじゃねぇぞッッ!!」


ウルフ「わあああああああああああっっ!!」


隊員「ウルフッ! 眼の前のコレを蹴破れッッ!」


ウルフ「わ、わかったよっ!」スッ


──パリンッ...!

衝撃の出来事が連発する、間違いなく自動車事故を体験したのは初めてだろう。

軽く混乱する、しかしそれでいて指示には答える、考えるよりも先に身体が動いていた。


隊員「外の奴を撃てッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

隊員の手元のスイッチにより、ウルフ側の窓ガラスが開かれる。

そしてそこから放たれる鋭い一撃。


RAPTOR「──CRRッ!?」ドサッ


ウルフ「あたったよっ!」

964 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:57:16.15 XUuL3A850 921/1103


隊員「上出来だッ! 引き続きたの────」ピクッ


────ズンッ...!

遠くから聞こえる、重低音。

それが隊員の言葉を遮った、それだけではなかった。


ウルフ「うそ...もう追いついたの...?」


隊員「いや...これは新手だ...近くにいたのが並走してきたみたいだ...」


──ズンッ...ズンッ...!

そして聞こえる、連続した轟音。

それはすぐ近くに、そしてまた別の音が。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」ズンッ


隊員「...こいつは足が遅いと聞いていたんだが、そうではないみたいだな」


ウルフ「き、きてるよぉぉおっっ!!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


開いた窓のすぐそこに、ティラノサウルスの大きな頭が並んでいる。

そして開かれたのは大きな口、それが車に迫る。


ウルフ「──うわぁっ!?」サッ


──メキメキメキッ...!

ウルフは助手席から運転席側へと身を寄せた。

そうしなければ、確実にあの牙の餌食になっていた。


隊員「あの野郎ッ! 扉に噛み付いていやがるのかッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ! GRRRRRRッッ!」


ウルフ「ど、どうすればいいっ!?」


助手席側のドアに、正確には開いた窓とそのピラーに。

まるで肉がちぎれるような音が聞こえる、噛み付いているのは鉄だというのに。


T-REX「GRRRRRッッッ!」グイッ


──メキッ...! バキッ...!

そしてその捕食行為に耐えられるわけもなく、車の身体は欠損してしまう。

思い切り引っ張られた助手席側のドア全体が外れてしまった。

965 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:58:37.15 XUuL3A850 922/1103


ウルフ「う、うわ...」ギュッ


隊員「随分と風通りをよくしてくれたな...このクソッタレ...」


ウルフ「うぅ...」


隊員「速度は落とせない、だがそれだと危険すぎる...この手を離すなよッ!?」


ウルフ「わ、わかってるよっ!」


藁にもすがる思いで、運転している隊員の腕にしがみ付く。

こじ開けられた助手席からは、外へと導こうとする風がウルフの身体を引く。

それだけではない、その狼の肉を喰らおうとする竜も待ち構えている。


隊員「...いいか? 次に大口を開いたら...その中を撃てッ!」


隊員「奴の皮膚はとてつもなく硬いはずだ、だがその内部はそうじゃない」


隊員「...言いたいことわかるよなッ!?」


ウルフ「...っ!」コクコク


──バサバサバサバサッ!!

風の騒音、返事をすることすら億劫に思える程だった。

だが隊員の指示は伝わった、彼女は片手でハンドガンを構える。


ウルフ「...」


──ズンズンズンッ...!

連続した、巨大な足音。

そして続くのは、古代の唸り声。


T-REX「──GRRRRRRRRRRRRッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

その一撃は見事にも、奴の口内へと命中する。

愚かにも大口を開けていた代償だった、しかしそれではまだ足りない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ!!」スッ


隊員「だめだッ! 一発じゃ怯まないッッ!?」


ウルフ「そんなっ!?」


隊員「──衝撃に備えろッッ!!!」


威嚇していたと思えば今度は頭を大きく振り上げる、繰り出されるのは強烈なあの攻撃。

車の速度は落とせない、落とせば確実に後続しているであろうラプトルの餌食に。

車のハンドルはきれない、きれば確実に速度に煽られ横転する。

966 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 19:59:48.34 XUuL3A850 923/1103


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」ブンッ


────ガッシャアァァァァァァァァンッッッ!!

文字通り頭を使った強烈なタックルが、普通車の助手席側をすべてを破壊する。

それどころではなかった、衝撃に負けた彼ら2人が車外へと飛び出してしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「──うわああああっっ!?」


──ザリザリザリッ! ドサッ!

冬場の冷たいアスファルトが、2人の身体に強烈な擦り傷を負わす。

早くも高速移動が可能な足を失ってしまう、だが絶望に明け暮れている暇などない。


隊員(今ので左腕が折れたな...)


隊員「ウルフッ! 大丈夫かッ!?」


ウルフ「うぅ...だいじょうぶだけど...すぐそこに...」


T-REX「...GRRRRRRRRRRRR」


幸いにもここの街灯はわずかに生きていた、この巨体をライトなしで薄く目視することができる。

そしてその遠巻きに、様子を伺うような素振りをしているラプトルの群れが見える。


隊員(...こちらの装備は、アサルトライフルとドラゴンブレス)


隊員(そしてハンドガンが2丁...厳しいな)


ドラゴンブレス、それは火吹きのショットガンの総称。

対人武器としては非効率的な殺傷道具ではあるが、動物相手には効果は抜群。

だが、いま対峙している動物には相性はよくはない。


隊員(...RAPTORならともかく、T-REX相手に撃っても効果はなさそうだ)


隊員(あの巨体が...あの分厚い皮膚が炎を物ともしないのは確実だ...)


──ズンッ...!

先程の雨の影響か、あたりには水たまりが点在している。

そしてあの巨体が動くたびに、それが波紋を生み起こす。

967 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:02:34.09 XUuL3A850 924/1103


ウルフ「あのね」


隊員「...なんだ?」


時の流れが遅く感じる。

身体が感じているのは、走馬灯に近いものであった。

お互いが死を覚悟している、だからこそ今落ち着いて会話ができている。


ウルフ「こんなにこわいんだね、死ぬ前って」


隊員「...」


ウルフ「...最後まで...いっしょにいてくれない?」


隊員「...もちろんだ、むしろ...犬っ子と最後まで逝けるだなんて光栄だ」


とんだ軽口、その一方で身体には震えが。

それを見透かしてか、ウルフは折れてない方の腕を組んでくれた。

そして徐々に近寄る捕食者。


ウルフ「...あのね、だいじなお友達がいたんだけどさ」


ウルフ「その子は殺されちゃったんだ...それも独りぼっちのときに」


隊員「...そうなのか、それは辛いな」


ウルフ「うん...」


そこから会話が続くことはなかった。

ただ最後にかの魔物の友人のことを、誰かに話したかっただけであった。

そして、目の前には大口を開けた捕食者が。


隊員「...少し諦めるのが早かったかな?」


ウルフ「...ううん、むりだよ」


隊員「...だな、車から投げ出された時点で死んでてもおかしくはなかった」


隊員「こうして死ぬ前の喋れるんだ...諦めは悪かった方だな」


ウルフ「...スライムちゃん、魔女ちゃん、ご主人...さよなら」


隊員「...Captain、先に逝ってます」


T-REX「────GRRRRRRRR」


────ドシュンッ...!

恐ろしく鋭い歯が最後の光景であった。

そして、肉から骨を貫く鈍い音が、最後に聞こえた音であった。


~~~~

968 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:03:45.57 XUuL3A850 925/1103


~~~~


魔女「──居た」


──ゴロゴロゴロゴロッッ...!

空に響く鋭い音。

だがこれは自然がもたらしたモノではない、人為的な雷であった。


魔王妃「...まさか、空を追ってくるとは思いませんでした」


魔女「悪いんだけど、逃げられたら困るのよ」


人型の雷と人型の風が対峙する。

お互いが属性同化を行使している故の現象であった。

その様子はまるで嵐のような。


魔王妃「いえ、もう逃げません...無事に誘導できましたからね」


魔女「...どういうこと?」


魔王妃「簡単な話です、ここは地上からかなり距離があります」


魔王妃「...いくらなんでも、ここから闇魔法が飛んでくるとは思えません」


魔女「...そういうことね」


要は分断されてしまったということ。

魔王妃が逃げる理由、それは闇魔法というカードを持つ隊長がいるから。

いま彼女らがいる場所は宙、アサルトライフルでは狙うことのできない遥か上空。


魔女「...」


魔王妃「おっと、逃がすわけにはいきません」


魔王妃「強力な戦力は1つずつ、確実に潰す必要がありますからね」


ハメられた、冷静に考えれば魔王妃の後ろを追うのは危険すぎた。

このようにいつ踵を返してくるかもわからないはずだった。

無茶な追跡が窮地に追いやられる。


魔女「...へぇ」


だが追いつめられたのは魔女だけではなかった。

彼女は僅かにも油断している、魔王の妻ともあろう女が。

この油断が1つの勝機につながるかもしれない。


魔女「...これを見ても、その余裕が保てるの?」


──バチッ...!

1つの稲妻が魔女の身体から空の雲へと放たれる。

そして響くのは、神の鳴り音。

969 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:06:56.93 XUuL3A850 926/1103


魔王妃「えぇ、余裕ですね..."属性同化"、"炎"」


風の身体に炎が新たに纏われる、そこから生まれるのは熱風。

生身でこれを受けたのならば全身大やけどは免れない。

2者の属性同化がぶつかる、それがどういうことなのか。


魔王妃「────喰らいなさい」


──ヒュンッッ...!

風が魔女を目掛けて襲いかかる。

それだけではない、風とともに来るのは。


魔王妃「...燃えてください」


魔女「そうはいかないのよ」


────バチィッ...!

魔女の身体が消える、どの方向に消えたのか。

魔王妃はそれを目視することができていた。

最後に見失ったのは自身よりも高い場所にある、雲。


魔王妃「...天候に味方されては困りますね」スッ


──ブンッ...!

属性の身体、その右腕を振りかざすと突風が巻き起こる。

その威力故に柔らかな雲を裂くことなど容易であった。

割れた雨雲から現れたのは、人の形をした雷であった。


魔女「げ...もう見破られたか...」


魔王妃「やはり...この雲を利用して目くらましをしつつ、高速移動をするつもりでしたね?」


魔女「...自然発生してた雷がいい感じだったんだけどなぁ」


魔女「──じゃあいくわよ」


その自然な会話から一転し、突如として放たれる。

彼女が気張るように両手を広げると、あたり全体に魔法が生まれる。


魔王妃「──チッ、私の雷よりも質が良さそうですね」


────バチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!

魔女の周り360度に展開する雷の網、その見た目は珠。

なにも対策をしなければ、確実に命中するだろう。

970 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:08:24.41 XUuL3A850 927/1103


魔王妃「雷の密度が濃いですね...」


魔王妃「ですが...距離を取れば当たることはありませんね」


確かに魔女の放った雷は驚異的であった。

だがその見た目の派手さの代償にある欠点があった。

魔王妃の言う通り、その射程の短さに難あり。


魔女「...」


だがそのような見え透いた弱点を、魔女が気づかないわけがなかった。

彼女は賢い者への修行を終えた人物である、距離を取られたのなら取り戻せばいい。


魔女「──そこね」


────バチッ...!

細く鋭い雷が一点に伸びる。

侮りの戦術がもたらしたのは、強烈な一撃。


魔王妃「────うっ...!?」


魔女(...動きが止まった)


身体の痺れに悶える、不可視の風。

魔女の身体の周り全体にはまだ雷が展開している。

ならばやることは1つ。


魔女(──接近戦...)バチッ


魔王妃「近寄らせません...」


雷の珠が超越した速度で接近しようとした瞬間。

猿真似じみた行動を許してしまう、彼女はあの魔王の妻、故に許される。


魔王妃「────燃えろ...」


──ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオッッッ!!

その太炎は炎帝のソレを超えている。

風に焚き付けられた炎は温度を加速させる。

ここに氷竜がいたとすれば、間違いなく刹那的に殺害できる。

971 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:09:22.97 XUuL3A850 928/1103


魔女「──うっ...!?」ピタッ


魔王妃「...よく踏みとどまりましたね」


魔女「あっつ...何考えてるの?」


魔王妃「...ふふ、炎帝ほどの才能がなくても、他の属性の魔法を使えばここまで精錬できるのですよ」


魔王妃「あなたのように、得意な属性ばかりに頼っていては...私には勝てませんよ?」


魔女「...」


魔女(...さっきの一撃、まともに当てたつもりなんだけど...一瞬怯ませただけで致命傷になっていない)


魔女(これじゃ本当に...勝てないかも)


魔王妃「ところで、魔力薬の影響とはいえ...随分と懐かしい魔力をお持ちですね」


魔女「...え?」


魔王妃「とても懐かしいです...彼は私のことなど知らないはずでしょうけど」


魔女「...なに? 大賢者様と知り合いなの?」


魔王妃「...知りたければ、無理やり口を割らせてみてくださいね」


魔女「...腹立つわねぇ」


──バチンッ...!

魔女の身を包む雷の珠が痺れる音を鳴らす。

そしてソレが彼女全身に、特に両手へと収縮する。


魔王妃(両手に属性を...炎帝みたいな戦術ですかね)


魔王妃(いや、それとも...あの狼の魔物のように拳圧と共に雷を放つつもりでしょうか)


魔王妃(...どちらにしろ、接近はありえません...属性同化で実態がない身体とはいえ熱は伝わっているはずです)


魔王妃(身体を炎と同化させていない限り...高温の影響で身体に拒絶反応が起こる...)


魔王妃(...ならば、後者...じゃないにしても遠距離攻撃)


彼女が体制を変化させる。

風と炎の身体、そして少しばかり残る人としての型。

女性らしい特有の腰つき、彼女はいわゆる中腰の姿勢に。

972 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:11:09.02 XUuL3A850 929/1103



魔王妃(来なさい...避けてあげます)


風があるなら、間違いなく高速で後部へと移動できる。

彼女の準備は万端、そして同じく彼女も万端であった。


魔女「──そこっっ!!」


──バチンッ!!

両手を前に突き出すとそこから強烈な雷が生まれる、魔王妃の読みどおり遠距離攻撃。

無駄に地属性の魔法を放たなくとも、これなら魔力を節約しつつ避けることができる。


魔王妃「──まずいですね、少し侮りました」


魔女「悪いけど、今はじめて...全力よ?」


────バチバチバチィィッッッ!!

侮りとは少し違う、魔女の全力はこれが初のお目見えなのだから。

適切な言葉は見誤り、彼女の魔力量を考慮すれば全力がどの程度なのかある程度察せるはずだった。

彼女の全力、それ故に放たれる雷の大きさは凄まじかった。


魔王妃「...」スッ


いまさら新たに地属性の魔法など唱えている時間などない。

ならばできることはただ1つ、そのために魔王妃は両手を前に突き出した。

すでに展開してある、属性同化のありったけをぶつけるしかない。


魔王妃「────っ!」


──ゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッ!

──バチバチバチバチィィィッッッ!!

2つの轟音が交わる、それに伴い生身の人間では耐えられない衝撃波が生まれる。

あたりの雲は怯えるしかなった、その炎に臆して積んでいた雪を雨に。

その雷に誘われて、貯めていた静電気を垂れ流してしまう。


魔女「────っ!」


魔王妃「──やりますね」


魔女「...っ! ...っ!」


残念ながら彼女には話している余裕などない。

その一方で魔王妃は冷や汗こそかいているが喋れている。

実力差がここに浮き出る、だが今はまだ互角。

973 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:12:48.75 XUuL3A850 930/1103


魔女(くっ...少しでも気を抜くと押しこまれる...っ!)


魔女(だけどこのまま属性をぶつけ合っても...必ず負ける...)


魔女(...どうすればっ!?)


魔王妃「...このまま押し切らせてもらいます」


──ゴオオオオオォォォォォォォッッッ!!

互角だと思われていた、属性の押し付けあいに優劣が生まれ始める。

極太の雷の塊が風を纏う巨炎に負ける、このままでは間違いなく炎が魔女へと向かう。


魔王妃「...いくら実態のない雷の身体とはいっても、耐えられますか?」


魔王妃「それ以前に、その属性同化を保てますか?」


魔女「──こいつ...っ!」


見透かされた、早くも魔力がなくなりつつあることを。

そんなことは感知をすればすぐに気づかれる。

逆をいえば、魔王妃はもうすでに感知をすることができるまでの余裕を持っている。


魔女(...あとちょっとね、数分もすれば完全に雷は負けて私の身体を炎が焦がしてくるわね)


魔女(どうする...短い時間で解決策を考えなきゃ...っ)


魔女(どうにか...油断を誘えれば...)ピクッ


何かを考えついた、そのような雰囲気が醸し出す。

だがそれを拒む理性があった、行おうとするのはあまりにも危険。

油断を誘う方法、それは1つしかなかった。


魔女(...ギリギリ魔力は足りるはず...間に合わせるしかないわね)


このままでは負ける、ならば競う必要はない。

つまりは身体を元に戻すということになる。

それがどれほど危険なことか。


魔王妃「────なっ...!?」


当然、魔王の妻ともあろう者でも驚嘆する。

ある程度の力をだしていたといのに、突然手応えがなくなれば。

眼の前にあった巨大な雷、それどころか人型の雷も見えなくなったとすれば。


魔王妃(なにが狙い...っ!? いや、絶好の機会なのは変わりません...!)


魔王妃「──貰いました」


────ゴオォォォォォォォォォォォォッッッ!

炎が魔女の身体を焦がす、それだけではない。

風が更に焚き付け灼熱の温度を生み出す、極めつけは浮遊していた身体が。

974 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:13:51.69 XUuL3A850 931/1103


魔女「──うわあああああああああああああああああああああああっっっ!?!?」


叫ぶしかなかった、身を蝕むやけど。

そして雲がもたらす雨、その温度差に身体が拒否反応を起こす。

そして最後に感じるのは地上へと引っ張られる重力。


魔王妃「...っ!」


魔王妃(狙いはなにっ...!? 全く読めない...っ!)


まるで意味不明な行動、予測できない自体に身を硬直させてしまう。

だが今しかない、属性同化という強力な魔法を使う魔物を仕留める絶好の機会。

重力に引っ張られる魔女をそのまま追い始める。


魔女(────あつい)


感想を述べている暇はない、魔女は次の行動へと移る。

身体が悲鳴を挙げているのなら癒やせばいい。

傷が治るまで何度も、何度も。


魔女「──"治癒魔法"」ボソッ


その声量は、とてもじゃないが他者には聞き取れない。

風が、炎が、うめき声が、雨が、雷が、5つの音がその小声をかき消す。

それだけではない、その治癒力はとても低いものだった。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


魔力がないわけじゃない、こうしなければならなかった。

派手に治癒してしまえばその異変に彼女は気づくだろう。

今必要なのは、追いながらも狙いが読めず困惑している魔王妃。


魔王妃「...このまま手をかけなくても、地面に衝突して終わりですね」


魔王妃(しかしなぜ...まだ魔力薬の効力は続いている様だというのに)


幸いなことに彼女の性格が油断を誘えていた。

彼女は1から10までを調べないと気になって寝れない質。

様々な属性を自在に操る、つまりはかなりの探究心を持っているに違いない、魔女はそう仮説を立てていた。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


意識は消えかけ、生命維持のギリギリまで粘る。

熱に耐え、身を裂く風に耐え、失禁しそうになる落下速度に耐える。

そして時はきた。

975 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:16:19.85 XUuL3A850 932/1103


魔王妃「...っ!」ピクッ


魔王妃(もしかしてこれは...私を地上へと誘い込んでいる...っ!?)


時はきてしまった。

魔王妃は気がついてしまった、これは明らかに地上へと誘導されている。

そして地上には誰がいるのか、忘れてはならないあの黒がいる。


魔王妃「────危なかった、気がついてよかった...っ!」ピタッ


魔女(...どうしてそこで...気がつけるの...っ!!!)


魔女「だめ...失敗したぁ...」


落下する自分を囮にして魔王妃を地上へと誘導する作戦は失敗した。

これしかなかった、せめて隊長の武器の射程範囲内へと誘導できたのならば。

だがそれはできなかった絶望感が彼女を襲った。


魔女(...属性同化をまた発動させて、落下を防ごうと考えていたけど...もう意味はないわね)


魔女(ごめん...スライム...帽子...ウルフ、そしてキャプテン...)


身体を焦がすやけどが多大な倦怠感を生み出していた。

すべてのやる気を燃やされてしまい、復帰は絶望だった。

もう1分もない、それを過ぎれば地面へと正面衝突だ。


魔王妃「...危なかったですが、そもそもあのドッペルゲンガーもいないみたいですね」


魔王妃「彼があそこにいると賭けに出たわけですね...ですが、博打すぎましたね」


魔王妃「...同じ魔物という種族ですから、最後まで見届けますよ」


魔物という種族、その王の妻。

哀れみにも近い表情で魔女の最後を見届けようとする。

その時だった、あらたな光が勝機を生み出す。


魔王妃「...」


────カッッッ!!

その音は稲光の音、だが魔女が創り出したモノではない。

これは自然が作り出した、神の鳴り音。


魔王妃「────うっぐ...っ!?」


身体に走る痺れ、完全なる油断。

知性のある生き物は雷に打たれる予想などしない、当然の不意打ちであった。

976 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:18:35.50 XUuL3A850 933/1103


魔女「──っ!」ピクッ


魔王妃「な...どうし...て...」フラッ


不幸な一撃を貰いふらついた彼女、それに留まらず。

あまりの出来事に思わず、身体が地上の重力に負けてしまうほどに。

まさに奇跡であった、この異世界の自然は魔女を応援した様に見えた。


魔女(...ふふ)


魔女「────"属性同化"、"雷"っっ!」


──バチバチバチバチバチッッッ!!

倦怠に負けた身から元気を振り絞ったわけではない、何かを見て元気をもらったような雰囲気。

身体を雷にすることで重力に打ち勝ち浮遊する、これで地面との正面衝突を回避できる。


魔王妃「ぐっ...しまっ────」


──□□□...ッ!

身に感じる危険な音、それは黒くなく、白いモノ。

なぜそんなものがここにあるのか、不可解であった。


魔女「────信じてたわよ、あなた」


隊長「──あぁ、俺も信じていた」


闇の気配などない、だからこそ魔王妃は気づけなかった。

彼はもうすでにここに居た、居てくれていたのであった。

そして放たれるのは弾幕。


隊長「──Open fire...」スチャ


────ババババババババババ□□□ッッッ!!

なぜ彼は、闇ではなく光を使っているのか。

その答えはわからない、彼にすら。


魔王妃「──なぜ」


──グチャグチャッ...!

その高品質な光を前に、彼女の身体は実体を創らされていた。

それどころではない、属性同化という魔法を強制的に解除されてしまっていた。

眩しすぎるが故に。

977 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/24 20:20:35.02 XUuL3A850 934/1103


魔王妃「──なぜ、あなたが...」


隊長「...まだ耐えるのか」


魔女「その武器だけじゃだめ...もっと威力が欲しいっ!!」


──バチバチバチッ...!

この雷は、先程よりかはやや威力が低下している。

それでも決して低すぎるわけでもない。

だというのに、魔王妃の身体にはまともなダメージを与えることができずにいた。


魔王妃「──なぜ、あなたが光を...」


魔女「──頑丈すぎるっっ!?」


隊長「...大丈夫だ、来てくれた」


──バラバラバラバラバラバラッッッ!!

なにかが高速回転する音が訪れる。

雷にも引けを取らないその轟音、その音の主が上空から参上する。

そしてそこから覗くのはあまりにも大きすぎる銃身。


魔王妃「──なぜ、あなたが"あの子"の光を...」


隊員A「──I found enemy」


隊員B「Bitch ass...」スチャ


────ドシュンッ...!

鈍すぎるその音、どうやって発しているのか。

対物だからできる芸当、アンチマテリアルライフルの真骨頂がここに。

たとえ属性を持たぬただの武器であってもその一撃は計り知れなかった。


魔王妃「......そうか、"あの子"...そこに...いる...のね...」ポツリ


1人つぶやく彼女、その表情はどこか嬉しげなモノ。

光の弾幕でできた銃痕、雷によってできた身体の炭、そして対物ライフルの重すぎる一撃。

様々の要素が彼女の属性同化を完全に解除させていた、彼女は地面へと落下するしかなかった。


ウルフ「...」


隊員「...やったのか」


隊員Aが操縦するヘリコプター、そこから覗き込む2人。

ただその様子を見守ることしかできなかった。


~~~~

5 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:31:54.50 czzKzwQ80 935/1103


~~~~


魔王子「...ついにボケたか?」


ここには彼の母親などいない。

彼の暴言はそれが引き金となっていた。

世界が変わる、あたりには闇が醸し出されていた。


魔王子「自らの妻を、知りもしない世界へと送るのか...」


魔王子「...クソ親父がぁ」


彼の周りにはとてつもなく濃い闇が生まれていた。

なぜなのか、それは彼だからこその理由。

父と母を知る息子だから故の理由であった。


魔王「...子にはわからんさ、我らの野望には」


魔王「残念だ...息子を殺すことになるとはな...」


魔王子「...!」


──......

無音が響く、それがどれだけ不気味なモノなのか。

魔王子が抜刀する、光の剣に纏わせるのはどす黒い色。

いよいよをもって始まってしまう。


女勇者「...始まるね」


女騎士「あぁ...備えろ、今までの戦闘の比じゃないぞ」


女賢者「...鳥肌が止まりません、魔王子さんの闇も...魔王の闇も...」


魔王子「俺が全力で叩き斬る...後方に居てくれ」


──■■■■...

闇が広がる、冒涜的な擬音があたりを包み込む。

そして両者の口から同じ魔法が唱えられた。

6 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:32:24.79 czzKzwQ80 936/1103











「────"属性付与"、"闇"」










7 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:34:37.38 czzKzwQ80 937/1103


────ギィィィィィィィイイイイイン■■■■ッッッッ!!!

そして続くのはあまりにも鈍い金属音。

魔王子は早くも、父である魔王に向けて剣気を放っていた。


女騎士「──うっ...!?」


魔王子「女勇者ッ! 女騎士と女賢者の前に立てッ!」


女勇者「そんなことわかってるよっ! "属性付与"、"光"」


──□□□□ッッ!

光の擬音、その心まで照らされるような明るい音が女勇者を包む。

そしてある箇所に光が重点的に集まる。


女賢者「...光の盾といったところでしょうか」


女勇者「絶対に後ろにいてっ! 魔王子くんたちの闇をこれで護るからっっ!」


女騎士「凄まじいな...」


魔王子「──それでいい、それなら...俺も...」


先程の剣気の余波が、魔王によって創り出された闇が彼女たちを襲う。

だが光の盾がここにあるのならばその心配はない。

人の大きさに合わせて作られたこの盾、その面積を補うように光が展開する。


魔王子「本気を出せる...■■■■」スッ


────■ッ...!

素早く剣を鞘に収めたかと思えば、すぐさまに抜刀を行う。

彼の最も得意な基本戦術、その鋭い一撃が闇を纏う魔王に直撃する。


魔王「...これが本気なのか?■■■■■」


魔王子「準備運動だ、そんなことにも気づけないのか?」


魔王「...その口の悪さは誰の譲りだろうか」


女騎士(...絶対に魔剣士だろうな)


魔王「では...今度はこちらの番だな...■■」


魔王の両手に闇が集まる。

そして背中に生えた翼を大きく広げる。

なにが起こるのかは明白であった。

8 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:36:19.01 czzKzwQ80 938/1103


魔王子「──ッ!」


魔王「────喰らえ」シュンッ


────ッッッッッッッッ!!!

音にならない衝撃が耳を貫く。

身にまとった闇でさえ追いつくことのできない速度であった。

翼を利用した超高速接近、そして繰り出されたのは闇の爪。


魔王「...光の魔剣か、だが十分に扱えていないようだな」グググ


魔王子「...ッ! クソッ...!」グググ


剣と爪が鍔迫り合う、一見して互角のような力関係と思えた。

だが決定的な力量差が見て取れる事実があった。

魔王にはもう1つ、手段があった。


魔王子(──片腕でこれか...ッ!?)


魔王「ほら、腕はもう1本あるぞ?」スッ


女勇者「──っ!」ダッ


闇の右手で光の魔剣を掴み取られている。

そして左手が炸裂しようとした瞬間であった。

闇への抵抗手段を持たない彼女たちを置いて、女勇者が突撃する。


魔王「素早い判断だ、だが代償を払ってもらうか...」スッ


魔王子の首元へと伸びようとしていた左手を、別の場所に向けた。

それは光の盾を失った無防備な彼女たち、女勇者の判断は間違いであったのだろうか。


魔王「あのままなにも起きなければ、魔王子の首を跳ねていた」


魔王「正しい判断だ、大事な戦力をここで失う意味などない...」


魔王「...だが、あの人間の女2人は死ぬ」スッ


──■■■■ッッッッ!!!

左手の闇を地面へと叩きつける。

そして生まれたのは、地を這う黒の魔法。

闇が彼女たちへと襲いかかる。

9 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:37:48.95 czzKzwQ80 939/1103


女勇者「──ごめんっ! 避けてっっ!!」


女騎士「言われなくともわかっているさっ!」


女賢者「...そうですね、このぐらい対処できないと足を引っ張るだけですからね」


──■■■■ッッ!!

迫る闇、そして彼女は詠唱を行う。

黒は地面を這っている、ならばその経路さえ潰せば。

彼女は賢き者、光魔法や解除魔法が使えないのならこの魔法を使えばいい。


女賢者「..."地魔法"」


──メキメキメキメキッッッ!

彼女の魔法に反応して、魔王の間の床がめくり上がる。

迫りくる黒の動きが止まる、誰しも道がなければ歩けないのと同じ原理であった。

だがそれを許す魔王もいるわけがなかった。


魔王「...ならこれはどうだ?」スッ


──■■...ッ!

道を失った闇が宙へと浮かぶ。

これならわざわざ床を這わなくても迫らせることができる。

属性付与の魔法故に、簡単に操作できてしまう。


魔王子「...いい加減離せッ! このクソ親父...■■■」


女勇者「僕の仲間を、いじめないでよ□□□」


女騎士(...時間は稼げたな)


女騎士「女賢者っ! こっちだっっ!!」グイッ


女賢者「ぐえっ...もうちょっと優しく引っ張ってくださいね...」


結果的に、女騎士と女賢者では闇に抗えなかった。

だが女賢者が魔法を唱えたことによって、時間を稼ぐことができた。

あの魔王から時間を奪うことができたのならばそれだけで上々。


魔王子「────死ね■■■■」


女勇者「──くらえっっっ□□□□」


人間の女に気を取られすぎた、近くには光の勇者。

そして、剣を手から離し自身と同じような闇の展開をしている実の息子。

10 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:41:20.03 czzKzwQ80 940/1103


魔王「...これはこれは」


────□□□□□ッッッ!!

まず決まったのは、光を帯びた盾による打撃。

そのあまりの眩しさに魔王の闇は萎える。


魔王「────ぐゥ...ッ!?」


──■■■ッッッッ!!

そして次に炸裂するのは息子の拳。

誰に教えてもらったのか、黒を纏った殴りが魔王の顎に直撃する。

魔王の身体はどこかへと吹き飛ばされていた。


魔王子「まさか魔闘士の真似事をするとはな」


女勇者「...かっこよかったよっ!」


女賢者「早速、魔王に一泡吹かせるとは...」


女騎士「...そうだな、っと...落ちてたぞ」スッ


落ちていたのはユニコーンの魔剣。

魔王子の強烈なストレートの威力に負け、魔王はソレを離してしまっていた。

ともかく先制に成功した、状況は魔王子側が有利だろう。


魔王「...なかなかやるじゃないか」


あたりには塵芥、なかなか掃除をする機会がないようだった。

魔の王としての衣装についたソレを手で払い、口の中に貯まる血を吐き捨てる。


魔王「久々にまともな一撃を喰らってしまったな」


魔王子「...抜かせ、わざと受けただろ?」


魔王「...お見通しか、血の繋がりとは面倒なものだ」


女勇者「どういうこと...?」


なぜ不利になるようなことをするのか。

光魔法により自らの魔力を封じられ魔王子の類まれに見る純度の闇を受ける。

それがどれだけ危険なことなのか、わかりきったことだというのに。


女賢者「...狙いがわかりませんね」


女騎士「混乱させようとしているのか...?」


魔王という男がこのような一撃をまともに喰らうだろうか。

そのように問いかければ誰しも疑問に思うだろう。

混乱を招こうとしている、そう言われても不思議ではない現状。

11 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:42:53.34 czzKzwQ80 941/1103


魔王「...」


魔王子「...なぜだ?」


魔王「なにがだ?」


沈黙を破る、息子からの問いかけ。

それは今起きた出来事に関するものではなかった。

なぜ、このように対峙せざる得ない状況に陥ったのか。


魔王子「なぜ...民を見捨てた...」


魔王子「俺の知っている...魔王は...そんな男ではなかったぞ」


魔王「...言ったはずだ」


魔王子「確かに答えは聞いた...だが、その理由を述べてもらったことなどないぞ」


女騎士「...」


事情を知る女騎士。

あの時、炎帝により叩き落とされたあの城下町。

あそこで漏らした魔王子の言葉、今も耳に残っている。


女騎士「無駄だ、訳など話してくれそうにもないぞ」


魔王子「...」


魔王「まさか...人間の娘に言葉を漏らすとはな」


事情を知る顔つき、それだけで魔王は察する。

当然であった、彼は魔王子の父親、息子の行動原理など手にとってわかる。

だからこそ意外でもあった。


女騎士(...私にできるのは、これぐらいか)


女騎士「魔王子、しっかり守ってくれよ?」ボソッ


魔王子「...?」ピクッ


正直言って戦力になることのできない女騎士。

治癒魔法や防御魔法を唱えることのできる女賢者より足手まといかもしれない。

だからこそ彼女は、賭けにでる。

12 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:43:59.13 czzKzwQ80 942/1103


女騎士「...所詮コイツは、愚かな暴君でしかないみたいだ」


女騎士「民の気持ちもわからず、治安を改善しようともせずに椅子に座るだけのジジイに過ぎない」


女騎士「魔族の王...? 笑わせてくれる...これなら魔剣士のほうがいい政治ができるんじゃないか?」


魔王「...煽りか? 悪いが無駄だぞ」


────ピリッ...!

無駄、その言葉とは裏腹にとてつもない威圧感が女騎士を襲う。

お前のような雌などいつでも殺すことができる、そのような意図が組める。


女騎士「...っ! そうやって脅すことしかできないところを見ると、図星のようだな」


女騎士「魔族の王と言うより...蛮族の王といったところか?」


女騎士「これなら納得できるな、民の治安よりも人間界や異世界への侵略を優先するわけだな」


魔王「...まるで全てを知ったような口を叩くじゃないか」


女騎士(...やはり城下町の治安については、なにか訳があるみたいだな)


女騎士(だがそれの追求は今することじゃない...今やるべきことは...っ!)


女騎士「何も語らないお前が悪いんじゃないか?」


女騎士「それにしても、魔王子の母も可哀想なモノだな」


魔王「...」


ある言葉に反応して沈黙が訪れる、禁忌の言葉を連発させる。

キーワードは絞られた、女騎士の巧みな話術がそれを逃すわけがない。


女騎士「このような野蛮な男の政略に付き合わされて、挙句の果てには異世界へとばされる」


女騎士「...考えられないな、同じ女として同情する」


女騎士「それとも..."愛"は盲目といったところか?」


魔王「────ッ!」


────■■■■ッッッ!!

闇が溢れ出る、魔王子と瓜二つのその顔に地獄のような表情が付与される。

先程のモノとは桁違いの質を誇る暗黒が辺りを破壊する、釣れてしまったのはとてつもない大物であった。

13 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:45:40.48 czzKzwQ80 943/1103


女騎士「すまん魔王子、お前の母を侮辱して」


魔王子「...お前じゃなければ首を切り落としていたところだ、安心しろ」


女勇者「...」ブツブツ


女賢者「...」ブツブツ


後ろにいた2人は既に唱えていた。

魔法の練度を高めるために、とても丁寧に。

これから来るであろう超弩級の闇に対する防衛策を。


魔王「女ァ...地獄の底まで付き合ってもらうからなァ...」


魔王「我が妻は自ら志願したんだァ...側近も自らを転世魔法の生贄にしろと志願した」


魔王「彼らの忠誠心を...穢すことは断じて許せん...」


────■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!!!!!!

とてつもない量の闇が魔王城の内部を破壊する。

これが魔王の本気、属性付与が繰り出す最強の黒。


魔王子「...やはり、薄々わかってはいたが...側近は生贄か...」


女騎士「...顔見知りが亡くなるのは、辛いな」


魔王子「あぁ...それにもう...母様とは会えないだろうな」


女騎士「それも...辛いな」


魔王子「...どちらにしろ魔王に背けば四帝や側近、母様にまで刃を向けねばならないことに」


魔王子「だが...母様だけはこの手で殺めずに済んで、良かったと思える自分がいる」


女騎士「...いいのか? 異世界にいった魔王妃は...キャプテンたちによって殺害されるぞ?」


魔王子「仕方ないことだ...仕方ない...ことだからな」


苦渋の決断、そのような苦虫を潰したような顔をしている。

過去の同朋を選ぶか、現在の同朋を選ぶか、そのような選択の答えは明白。


魔王子「俺は...今を生きている...だからこそ、今の貴様らを選ぶ」


魔王子「だから...少し下がっていろ■■■■■」


魔王「────死ね」


──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!

魔王が闇の爪を、前方にかつ一心不乱に振り回す。

過去に魔王子が風帝に見せたあの地獄のような光景。

それを己の素手のみで実現させていた。

14 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:48:06.57 czzKzwQ80 944/1103


魔王子「────死ね」


──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!

ならば当然、こちらも抜刀の勢いで生み出した剣気で応戦するまでだった。

魔王にできるのなら彼にだってできる、闇と闇がぶつかり合う、共喰いじみた光景が広がっていた。


魔王「──その女を差し出せ、殺させろ」


魔王子「それはできん、大事な戦力だ...」


──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!

──■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ! ■■ッッ!

黒がぶつかれば、闇が闇を喰らう。

イタチごっこにすらならない、これが闇属性同士の競り合い。

どちらかが気を抜けばこの暗黒が身を滅ぼす、しかしその気配は一向に起ころうとはしない。


魔王「闇に闇をぶつけても、なにも進展しないぞ?」


女勇者「────ならこれならどう?」


────□□□□□ッッッ!!

遠くから光が魔王へと歯向かう。

彼女には遠距離攻撃ができないはずだというのに、どのようにしてコレを行ったのか。


魔王「...自らの武器を投げ捨てるのか」


女勇者「悪いね、僕は魔王子くんのようなことできないから」


答えは単純、至極単純であった。

彼女は己の剣を、光を纏わせたソレを投げつけてきていた。

だが、上位属性の相性には叶わなかった。


魔王「...残念ながら、無駄だ」


────■■...

魔王子による連鎖剣気を凌ぎながらの動作であった。

上位属性の相性の優劣は質の高さ、という話以前の問題であった。

光を帯びた剣は魔王に避けられてしまった。


魔王子「────...ッ!」


一瞬の好機、たとえ魔王といえども慢心は絶対にしない。

光属性とはそれほどに恐ろしい、それは魔王子自身も味わっている。

ならば絶対に強く警戒をする、その場面を見逃すわけがなかった。

15 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:49:56.25 czzKzwQ80 945/1103


魔王子「──そこだ」スッ


────ブン■■ッ!

この黒の一撃が、どれほどに凄まじいモノか。

魔王の爪から放たれる闇を相殺する中でのこの新たな剣気。

その抜刀はとても素早く、たとえ魔剣士程の達人でも見逃せてしまうほど。


魔王「...見えてるぞ」


連鎖的な剣気の間に造り出した新たな抜刀、だというのにこの王の眼は捉えていた。

両手の爪は魔王子の剣気を殺している、ならば身にまとっている闇をソレに向かわせる。


魔王「─────しまった」


その時だった、視界の端に見えてしまった。

先程、愚かにも自身の武器を投げ捨てた女。

彼女が新たな、それも見知らぬ武器を構えていた。


女騎士「────引き金を引けっっ!!」


女勇者「──っっ!」スチャ


────ダァァァァァァァァン□□□□ッッッ!!

未曾有の炸裂音、そして予感する地獄の痛み。

この期に及んで光による遠距離攻撃など皆無だと勝手に認識していた。

まるで走馬灯、魔王の感覚はとてもゆっくりと。


魔王(...息子の闇は殺せても、このままだとこの光は直撃してしまうな)


身に纏わりついてた闇は、魔王子の一撃を相殺しようとしている。

つまりは無防備、風帝戦での魔王子のような状況。

ならばこの光の散弾はまともに受けることになる。


魔王「"転移魔────」


だが彼は違う、ただの魔物ではない。

魔の頂点である彼がこのような陳腐な戦術に屈するだろうか。

この反則じみた詠唱速度の魔法を唱える、そのはずだった。


女賢者「──"封魔魔法"」


その魔法は、あの時魔女を苦しめたモノ。

とてつもなく長く、そして丁寧に詠唱されたソレ。

たとえ魔王という相手でも引けは取らなかった。

16 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:52:40.04 czzKzwQ80 946/1103


魔王「────なッ」


────グチャグチャッ...!

その封魔魔法はほんのわずかに残っていた魔王の闇によって一瞬で破壊された。

だがこの状況、一瞬でも魔法を封じられたとしたら。

それがどれだけ状況を覆すものなのか。


魔王子「...手が止まってるぞ、クソ親父」スッ


──■■■ッッ!! ■■■ッッ!! ■■■ッッ!! ■■■ッッ!!

その一瞬の隙が連鎖剣気を放つ時間を与えてしまう。

封魔魔法が戦術を奪い、光の銃弾が身をえぐらせ、闇の剣気が壊滅的な負傷を与える。

確実に格下である光と闇、しかしソレを生身で受けてしまえば。


魔王「────グウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!?!?」


魔王子「──畳み掛けろッッッ!!」


女騎士「──それを引けっ! そうすればもう1発撃てるっっ!!」


女勇者「──わかったっっ!」ジャコンッ


女賢者「──これならいけますっ!!」


魔王「...」


なぜ、たった一度だけまともに攻撃を当てられて喜んでいるのか。

先程はわざと当たったが今回は違う、その事実が苛立ちを沸かせる。

実力差を知らないこの無知な餓鬼共が。


魔王子「────ッ!?」ピクッ


その様子に気づけたのは実の息子だけであった。

父親のいつもの表情、憎たらしいほどに冷静さを保つ二枚目の顔。

そんなモノではなかった、感情がむき出しの顔、怒れる表情、それは矛盾したことに無表情に近いモノだ。


魔王子「──女勇者ッッ! 光魔法を唱えろッッ!」


女勇者「────えっ!?」


ショットガンのポンプアクションを終え次弾発射の準備が整っていた。

魔王子による急な要求、それに答えるためにすぐさまに詠唱を行なう。

彼女ならば2秒もあればすぐに放てる。


魔王「...」


尤も2秒あったところで大惨事は逃れられないのは確実であった。

魔王の口から例の魔法が放たれる、いままで苦戦を強いられたあの魔法を黒くした物。

17 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:53:29.50 czzKzwQ80 947/1103











「..."属性同化"、"闇"」










18 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:55:07.64 czzKzwQ80 948/1103


────■■■■■■■■■■■■■■■■■■...

闇が闇を引き寄せる、付与などとは訳が違う。

桁違いの漆黒、とてつもない質量を誇る闇が生まれ続ける。

その影は光すらを奪い取ろうとする。


女勇者「────"光魔法"おおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」


────□□□□□□□□□□□□□□□ッッ!

悲劇の雄叫び、その魔法はあまりにも眩しい。

列車にて死神に襲われたときに放ったまるで太陽のような光魔法。

それをも凌駕する光量、だが相手が悪すぎた。


魔王「...■■■■■■■■■■■■■」


魔王子「──チッ! 凄まじすぎるッッ!?」


身体が魔王へと引っ張られる。

それが意味するのは、闇の質量の多さ。

重力じみたソレが発生するということは、そういうことである。


女騎士「────なにかに掴まれっっっ!!」


女賢者「眩しすぎて、何も見えませんよっっ!?!?」


身体の力が抜ける、そしてあまりにも眩しすぎる。

だが目の前には黒が、底の見えない闇が存在している。

女勇者から少しでも離れればこの闇に飲まれてしまう。


女勇者「──"属性付与"、"光"っっっ!!」


ようやく届いた日差しよけ、それがみんなの身体に染み渡る。

女勇者が付与した光がこの人工太陽の日差しを軽減させていた。

そのかわり失うのは己の魔力、だが背に腹は代えられない。


女賢者「────えっ?」


─────ふわっ...

その可愛らしい音ともに浮かぶのは、深い絶望。

光によって魔力を失った、つまりは完全なる普通の人間。

彼女はまだ21の女性、ただの女性がブラックホールのような引力に抗えるだろうか。

19 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:57:08.59 czzKzwQ80 949/1103


魔王子「な...ッ!?」


女勇者「──嘘っ」


女騎士「────掴まれえええええええええええええっっっっ!!!」


──ガシィィィィィッッッ!!

いつの間にか彼女は武器を返却してもらっていた。

即席で作った槍のような武器、ベイオネット。

それを地面に突き刺すことで支える力を助長させる。


女賢者「──女騎士さんっっ!?」グイッ


女騎士「────死んでも離すなよっ!!!」グググ


身体は光の属性付与によって身体の動きが制限されている。

だが魔力とは関係なしに、持ち前の筋肉がこの行動を可能にしていた。

それでも本当はダルいはずなのに彼女は手を伸ばしていた。


魔王子「この輝きの中で、そこまで動けるのか...尊敬するぞ...」


女勇者「ごめんっ...! 魔法を持続させるので精一杯...助けにいけない...っ!」


女騎士「くっ...魔王子っ! なんとか魔王を止められないかっっ!?」


彼に助けを求めるその時。

突如として突風が襲いかかったかのような錯覚に囚われる。

まるで大きな鳥が、こちらへと羽ばたいてきたかのような。


魔王「...止められるとおもうか?」


魔王子「────女勇者から離れるなッッ!!」スッ


────ブン□■...ッ!!

自らが付与した闇、そしてその上から付与された光。

2つの属性が混ざることもなく、剣気と一緒に放たれる。


魔王「だめだな...光が闇を、闇が光の質を互いに下げているぞ」


────......

闇の身体を持つ魔王にソレが当たる。

だが被弾音すら鳴らない、悲しいことに威力が計れてしまう。


女勇者「くっ...どうすれば...っ!」


魔王「どうすることもできん、もう終わりだ...一撃を与えられただけ誇りに思え」


魔王「いや...茶番を含めれば二撃か...」

20 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 20:59:19.92 czzKzwQ80 950/1103


女騎士「────っ!」グイッ


女賢者「うわ...っ!?」


闇へと引っ張られていた女賢者を力任せに引き寄せる。

甲冑越しとはいえそのまま胸へと抱き寄せ、己の軸足を頼りにする。

床に刺さった歴代最強の魔王の残骸、それを引き抜いて。


女騎士「────っっ!!」スチャ


──ダァァァァァァァンン□□□ッッッ!

属性付与の影響か、拡散された銃弾は輝かしかった。

だが果たして、このような行動が得策になるか。


魔王「...光量が足りてないのでは?」


女騎士「くっ...だめかっ...!」


魔王「諦めはついたようだな...妻を侮辱した代償は払ってもらうぞ」スッ


実態のない闇の身体、そこから現れる黒の翼。

コレで羽ばたかれてしまえば、いかに女勇者が光魔法で闇を払っていたとしても。

その圧倒的な質の差で壊滅するのは間違いなかった。


魔王「...闇の風は冷酷なまでに冷たいぞ」


女勇者「...」


女勇者(...だめ、この光魔法を途切れさせたらそれこそ即座に全滅だ)


女勇者(動けない...どうすれば...っ!?)


女賢者「...っ」ビクッ


女騎士「それは結構、暑いよりかはマシだ...私は汗かきだしな」


魔王「...生意気な、その抱いている娘のように怯えていれば良いものを」


────バサァ■■■■ッ...

風とともに闇が、彼女たちの身を滅ぼす。

暗黒の音が間近に聞こえる、そのはずだった。


魔王「────何?」ピクッ


女騎士「...女賢者を頼んだ」グイッ


魔王が感じたのは新たな闇の気配。

だがこれは自分のモノではない、それでいて息子のモノでもない。

そして女騎士はかなり強引に彼女を突き飛ばした、それを受け取る魔王子、彼は直感する。


21 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:02:24.18 czzKzwQ80 951/1103


魔王子「────やめろ」


女賢者「...女騎士...さん?」


女勇者「────まってっっ!!」


────■...

とても小規模な闇が生まれる。

さらには光に包まれている、まるで線香花火のような黒だった。

だがそれが、どれだけ恐ろしい闇なのか。


魔王「────これはッ!?」


女騎士「特攻させてもらうぞ...魔王...っ!!」ダッ


無謀にも闇の塊へと走り込んでしまう、身体の鎧が次々と朽ち果てていく。

その走行速度は引力も相まって、まるで坂道を下るような速度であった。


魔王「────歴代最強の魔王...ッ!? なぜ貴様がッ!?」


誰が想定できるであろうか、ただの人間が最強の魔剣を所持していることを。

たとえ粗悪な魔力を餌にしたとして、あの堅牢な地帝を貫くことができる代物。

とてつもない質の闇が魔王の闇を破壊していく。


女騎士「────うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


────グチャ■■ッ...!

お手製の槍が刺さる音、たとえ実態を持たぬ闇の身体ですら可能にしたこの刺突音。

だが彼だけではなかった、この音の主は彼女でもあった、最高質の闇を持ったとしてもその身体はただの人間。

折れた刀身と魔王の闇に耐えきれず、ショットガンと彼女の一部が完全に破壊された。


女騎士「...肩付近まで持ってかれたか」


魔王「────ッッ!?!?」


あまりの激痛に、魔王の同化は曖昧なものへと変化していた。

両手や両足などは闇のままだというのに、一部の身体や顔は元の姿に。


魔王(魔王子に持たせていたコレは...ここまでの威力だったか...初めてまともにくらった...ッ!?)


魔王(闇の質にあまりの差があると相性以前の問題になることを失念していた...ッ!)


魔王(クソッ...まさか人間の魔力でもここまで...歴代最強の名は伊達じゃないな...ッ!?)


魔王「────くたばれッッ!!!」


女騎士「──っ!」


魔王が放つ闇が襲いかかる。

ここまで肉薄している、もう回避するのは不可能。

右腕を失い多量の出血にうろたえている人間には避けることができなかった。

22 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:04:26.30 czzKzwQ80 952/1103


女勇者「────女騎士っっ!!」


女賢者「...どうすればっっ!!」


魔王子「.....」


傍から見るしかない、先程の特攻である程度の闇が晴れたとはいえ。

暗黒に身を投げ、女騎士を守ろうという気など起きるわけがなかった。

例えるなら、普通の人間が毒蛇を素手で触ろうとすることができるだろうか。

闇の恐ろしさが脳に染み付いている、動けるわけがなかった。


??1「...あんな蛮勇を見せられたら、動くしかないな」


??2『あァ...そうだなァ...闇に突っ込むのはもう何度目だろうなァ...』


しかし、愚者は現れた。

かつて何度も光を持たずして、圧倒的な闇と対峙者たちが。

万の数の兵を抹殺し、まるで図ったかのようなタイミングで現れる。


??1「...全力で走るのは久々だな」


彼が見せてくれたのは、ただの全力疾走。

過去に隊長を苦しませたこの速度が可能にするのは。


女騎士「──魔闘士」


魔闘士「挨拶は後だ、まずは少し距離を置くぞ」


あと僅かで闇が女騎士に接触しようとしたその瞬間。

ウルフよりも優れた疾走で彼女を救出する、だがそれを許してくれる魔王など存在しない。


魔王「────逃さんぞッッ!!」


??2『──逃げられるんだよなァ、これが...』


────バサァッッッ!!

大きな羽音、魔王の背中に生えてあるモノとは桁が違う。

異形の翼、それの持ち主は1人しかいなかった。


女騎士「──魔剣士」


魔剣士『よォ...お前も"欠損"したクチかァ』


女騎士「...ふっ、心配よりも冗談が先にでるか」


竜の形をした魔剣士が、魔闘士ごと女騎士を攫う。

そしてそのまま光り輝く場所へと導く、そしてすぐさまに女勇者が動く。

23 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:06:07.86 czzKzwQ80 953/1103


女勇者「────さがっててっっ!!」


魔力を集中させるとともに前方へと出る。

女騎士の特攻により魔王は怯む、その成果は目に見える。

明らかに属性同化と共に出現した闇の量が減っている。


女勇者(これなら...これでなんとかなりそう...っ!)


────□□□□□□□...!

そうすると、彼女は既に光り輝いていた盾に光魔法を移行させる。

属性付与により光を纏った盾は更に輝かしく、まるで光魔法を補給し光度を増したかの如く。


女賢者「──女勇者さんっ! 私に付与した属性付与を解除してくださいっ!」


女勇者「わかってるよっ! 女騎士を頼んだよっ!」


魔王の闇の量が減り、光魔法を盾に収めた今。

こうなれば身を守ってくれてる光の属性付与など不必要であった。

前方の魔王を盾越しに警戒しつつ、彼女は女賢者への付与を解除した。


女賢者「──"治癒魔法"っ! "治癒魔法"っ!」ポワッ


女騎士「...すまない...迷惑をかけた」


女賢者「まだしゃべらないでくださいっ! 血が止まっていないんですからっ!」


魔闘士「...この状況で意識があるだけ、褒めたものだ」


魔剣士『あァ...だがこの出血量はやべェぞ...」


失ったのは右腕の二の腕付近、魔闘士が強引に止血していると言うのにも関わらず止まらない。

決して女賢者の魔法の質が悪いわけではない、だがどうしても止まらない。

なぜなら、闇というモノが右腕を奪ったのであるから。


魔闘士「傷口が闇に侵されている...治りが悪いのも納得だ」


女騎士(......そういうことか、通りであの時...地帝は...)


魔剣士「...緊急措置だ、燃やすぞ」


女賢者「そ、それは...」


魔闘士「致し方ない...俺が押さえつけるぞ」


女騎士「すまない...頼んだ...」


隊長の世界でも過去に行われた療法。

焼灼止血法という地獄の等価交換。

出血による死亡は避けられても、他の危険性が迫る。

24 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:08:17.75 czzKzwQ80 954/1103


魔剣士「久々に爆以外を唱えるなァ..."炎魔法"」


──ボォッ...!

ロウソクよりも少しばかり大きな炎。

ゆらゆらと揺れるその温かみのある魔剣士の魔法。


魔剣士「...やんぞォ?」


女騎士「きてくれ...痛いのは我慢する...っ」


魔剣士「......」


炎が女騎士へと迫る。

かつて研究所で魔剣士の心を支えてくれていた彼女。

その彼女に向かって放つ、灼熱の魔法。


女騎士「────うっ」


────じゅううううううううううううぅぅぅぅぅぅ...

焦げる音が響く、そして身体には拒絶反応。

だが身体は魔闘士により強く押さえつけられている、逃れなれない。

ただただ彼女は唇を噛む、それしかできなかった。


女勇者「...」


魔王「クッ...あの女ァ...よくも...」


女勇者「...許さないんだからね」


────□□□□...

怒りという感情が光を強くする。

盾に集中した輝きが激しく膨張する。

それが魔王を、ほんの少しだけ冷静にさせる。


魔王「...なかなかだな、だが剣もなしにどうするつもりだ?」


女勇者「...僕にはこれがある...みんなを護れる盾がある」


魔王「現に仲間の1人の腕が奪われたんだぞ? 護れていないじゃないか...」


女勇者「──っ! うるさいっ!」


──□□□□□□□□□□□□ッッ!

さらに激しさがます、それでいて後方には光が向かわないように調整されている。

内なる感情を押さえつけなんとかして理性を保っている、魔王の挑発は無におわる。


25 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:11:03.20 czzKzwQ80 955/1103


魔王「その程度じゃ...この魔王の闇には敵わんぞ...」


女勇者「あとで泣いてもしらないからね...っ!」


彼女もまた特攻をしかけるつもりであった。

だが女騎士とは決定的に違う、非常に高い安全性が確保されている。

確かに正面から戦っても魔王の闇には敵わない、だが自衛に関しての話は別。


魔王(質の差でこちらが有利なのは変わらんが...かなり濃い闇をぶつけなければ即死は厳しいか)


魔王(挑発に乗っても理性を乱す様子はない...へたに煽っても光だけが増すだけか)


魔王(...ならば、己の戦術のみでやるしかない)


────バサァ■■■■ッッ!!

闇の翼が広がる、ついに激しい戦闘が始まる。

格下相手だとはいっても光魔法を前にしての侮りは死を意味する。

全力をもって魔王の最も得意とする近接格闘を炸裂させようとした、その時。


魔王子「......」


闇の属性付与をいつの間にか解除し、沈黙する魔王子が前にでる。

女騎士の腕が奪われても、女勇者が激しい光を展開しても無言を貫く。

そんな彼がようやく行動に移った。


女勇者「...魔王子くん、どいて」


女勇者「眩しいでしょ...? あぶないよ?」


魔王「...お前の相手は後でしてやる、まずは女勇者を潰させてもらう」


魔王「だから...下がってろ■■■■」


──■■■ッッッ!!

魔王が片腕を素振りさせる、そして生まれたのは闇の衝撃波。

剣を使わずとも、彼は剣気のような技を放つことができたのだった。

驚異的な威力が予想される、魔王子を護るべくと女勇者が盾を構える。


女勇者「...え?」


────□□□□...ッ!!

激しい光、たとえどれほど眩しくとも魔王の闇の前では苦戦を強いられる。

この盾を持ってしても、あの闇に当てればとてつもない衝撃を受けるだろう。

だがこの闇が直撃したとしても即死を防げる、それだけでも十分でもあった、しかし今は彼女の光の話ではなかった。


魔王「────まさかッ!?」


右手に握りしめられた、奇妙なほど豪華な柄。

そしてその細すぎる刀身から輝きが生まれる。

桁違いの光が、あたりを照らし尽くす。

26 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:12:06.27 czzKzwQ80 956/1103











『......』










27 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:13:41.30 czzKzwQ80 957/1103


魔王「馬鹿な...魔剣と一体化しただと...ッ!?」


魔王「その光の剣...手にして間もないはずだろうに...ッ!?」


女勇者「...嘘」


魔王子『......』


どこかで馬の嘶き声が聞こえるというのにまだ無言を貫く。

爆発しそうな感情をまだ抑えている、然るべきときを待つ、その時まで。


女勇者「すごい、僕の光よりも...断然に...」


光の魔力を持つ女勇者。

そんな彼女が驚愕するほどに輝かしかった。

そして時は早くも訪れる、光が剣に収縮する。


魔王子『────死ね□□□□□』スッ


────□□□ッッッ!!

光の剣気、その一撃と同時に放つのは邪悪な言葉。

魔王の重厚なる闇が抵抗するも、わずかに残ってしまった光。


魔王(────この魔王の闇と同等の光だとッッ!?)


魔王「──■■■■■■ッッッ!!」


──■■■■■■■■■■■■ッッッ!!

闇の翼がありったけの黒を光にぶつける、そうすることでようやく止まった。

質の差は同等、ここにきて初めてイタチごっこをすることができる。


魔王子『...どうだ? 息子の成長具合は』


魔王「...驚いたさ、ここまで育つとはな」


意外にもその表情は変わらなかった。

むしろ逆に、冷静なようにも思える。

先程まで妻を侮辱され、怒り狂っていた彼はいない。


魔王「...」


改めて見れば、冷静な顔つきではなかった。

その瞳の奥にあるのはどこか暖かな眼差し。

まるで妻と同等の相手を見るような。


魔王「...どうせ、時間を潰さねばならん」


女勇者「...?」


魔王「初めてだ、属性同化という魔法を使って...全力を出せるのは」

28 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:15:41.48 czzKzwQ80 958/1103


魔王「尤も、先程の一撃で本調子とはいかないがな...」


魔王子『...ヤリあう前から、言い訳づくりか?』


魔王「...そう思えるか?」


魔王子『思えん...これでも俺の父親なのは変わらない...だから...』


魔王子『────死ね□□□□□□』


────□□□□ッッッ!

輝かしい剣気が魔王を襲う。

まともに喰らえば、確実に勝敗がついてしまう威力であった。

まともに喰らわせることができればの話ではあるが。


魔王「...■■■■■■■■■」


闇の言語と共に、溢れ出る漆黒。

周りの雑魚のことなど眼中にない、明らかに魔王子1人を狙っている。

そのような軌道をした闇が光の一閃を滅ぼす。


魔王子『...チッ!』


魔王「どうした■■■■■■?」


こんなものか、と言わんばかりの声色。

それも当然であった、たしかに光の質が魔王の闇に追いついた。

だからといっても魔王子自体の実力が魔王に追いついたわけではなかった。


魔王子『...これでも歯が立たないか□□□□』


──□□□ッッッ!

────■■■■■ッッッ!!

剣気を飛ばせば、すぐさまに闇が相殺してくる。

どうにかしてこの光をまともに当てることができるのなら、勝敗に決め手がつく。

だがあと一歩及ばない、それも当然であった。


魔王「単純な話だ、剣は1つしかないのに、こちらは両手がある」


魔王「...殺したければ、腕を落としてみろ...あの人間の娘の仇でも取ってみろ」


魔王子『────ッッッ!!』


安い挑発、一体化させた魔剣を力任せに降る。

そうした結果聞こえるのは、あまりにも鈍すぎる音。

魔王子がいつも放っているあの鋭い剣気とは程遠いモノであった。

29 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:17:47.19 czzKzwQ80 959/1103


魔王「────なに■■■?」


────バコンッッ!

鈍重なる音、その正体が明らかとなる。

通りで似合わない訳であった、こんな音を魔王子が発するわけがなかった。

剣が1つたりないのであればもう1つ用意すればいい。


魔剣士『──よォ、俺様も混ぜてくれよ...なァ?』


魔王「...愚かだ、そうした無謀さが己の"翼"を失くした理由だ」


魔剣士『ケッ、焦ってんのかァ? 魔王子を捌くのに手一杯なんだろォ?』


彼の爆発が直撃すれば、無視することのできない負傷をするのは間違いない。

先程までのように身体全体に闇が同化しているわけではない。

この些細な剣士が1人増えることが、どれだけ不利な状況へと近づいてしまうのか。


魔王子『...女騎士はどうした?』


魔剣士『出血は止めたが...闇が蔓延るここは危険すぎる...一時撤退させたぞォ』


魔剣士『魔闘士が運び、賢者の嬢ちゃんがひたすら治癒、そして女勇者は付き添いだァ』


魔剣士『女勇者はすぐ戻るとかほざいてたけどなァ...』


魔王子『...それでいい』


────□□□□□□□□ッッッ!!

輝きが増す、今までの戦闘で出していた光量など比ではない。

ここにいるのはわずか3人、出し惜しみをする理由などなかった。


魔王子『...この場にいるのが魔剣士程の男だけなら、巻き添えを作らずに済むな』


魔剣士『ふざけんなァ、魔剣と一体化してひたすら魔力を供給させてねェともう倒れてんぞォ』


魔王子『それができるだけ上等だ』


決して今まで、女騎士らが邪魔だったわけではない。

魔王子が今になって全力の一段階上を出そうとする理由が1つある。

それは、魔王のはらわたに答えがあった。


魔王子『絶好の機会だ、女騎士があのクソ親父のはらわたを捌いていなければ、今の俺の全力もあしらわれていた』


魔王子『そして今、誰も巻き添えを喰らうものがいない...今しかない...ッ!!』


魔王「...チッ」


よく見ると魔王の腹部にはまだ刺さっていた。

桁違いの闇を秘める、歴代最強の魔王がそこに。

とてもじゃないが引っこ抜くことなどできない、触れれば己の手を失うだろう。

30 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:19:02.49 czzKzwQ80 960/1103


魔剣士『...あれでよく動けんなァ』


魔王子『父親なだけはある...俺も過去にあの魔剣に誤った触れ方をしたが...』


魔王子『服の裾に少し闇が付着しただけで、3日は寝込んだぞ』


魔剣士『ゲッ...そんな危険なもんを振り回してたのかァ...』


魔王子『それ以来は魔剣自体に注ぎ込むこと魔力をかなり抑えたさ』


魔剣士『...その抑えた魔力量で、俺様の"翼"をぶった切ったのかァ?』


魔王子『そう言うことになるが...あの魔剣に魔力を注ぎ込む事自体に臆病になっていたと言おう』


魔剣士『ケッ...まぁ自らを滅ぼすような魔剣には出会いたくねェな』


魔剣士『...つーことでェ、任せるぜェ?』


────ドクンッ...!

まるで心臓の鼓動のような音が鳴る。

魔剣士が握る異形の魔剣、それが答えた。


魔王子『...そういえば、魔剣士の魔剣...詳細を聞いたことがない』


魔剣士『あァ? 内緒だァ』ブンッ


────バコンッッッ!!

彼が魔剣を振るうと付与された爆が弾ける。

下位属性の剣気だというのに、魔王の顔に冷や汗を流れさせる。


魔王(この軌道...同化が不安定で生身の箇所を狙っているな...)


魔王「──厄介なッ...」


──■■■■ッッッ!

魔王が左手を強く降ると闇が放たれる。

そうすることで、魔剣士の攻撃は呆気なく破壊されてしまう。


魔王子『────そこだ』スッ


────□□...ッ!

────■■■■■ッッ!!

魔王子の剣気は間髪入れずに破壊される。

右手で放たれた闇は、光を苦しそうに飲み込んだ。

31 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:21:07.68 czzKzwQ80 961/1103


魔剣士『ハッ! 本当に余裕がねェんじゃねェのかァッ!?』


魔王「...うるさい竜だな、殺すぞ」


魔王子『そう簡単には殺させる訳にはいかん...』


両手を使うことで2人の剣気を殺す。

だが明らかに、状況は変化しつつある。

片手で済んでいたというのに急遽両手を強いられれば、当然魔王への負担は大きい。


魔剣士『オラァッ! どんどんいくぜェッ!!!』ブンッ


魔王子『──死ね□□□□□□』スッ


──バコンッッ! バコンッッ!!

──□□□□ッッ! □□□ッッ!

爆発と光がまるで弾幕のように襲いかかる。

前者ならともかく、後者には絶対に触れてはならない。


魔王「...ッッ!!」
 

────■■■ッッッ!! ■■■■ッッ!!

両手を的確に振り回すことで、前方からの剣気を闇で相殺させる。

だがどうして、どうしても通してしまう場面に陥る。


魔王(...捌く余裕がない、魔剣士の攻撃は受けるしかない)


たかが下位属性の剣気。

数万発も喰らうのなら話は別だが、数発程度の被弾は受けることができる。

我が身を犠牲にすることで魔王子の光に集中するつもりであった。


魔剣士『...へェ』


にやり、不敵な笑顔を見せる。

彼は熟知していた、己が魔王の立場ならばどうするかを。

ならばどうするか、魔剣士の剣の振り方が少し変化する。


魔剣士『────そこだァッ!』


──ブンッッッ!!

豪快でいて、緻密な風が飛ぶ。

魔王はそれを目視すると、自らの身体を差し出した。

たった一発、爆属性の剣気など取るに足らないはずだった。

32 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:22:38.24 czzKzwQ80 962/1103


魔王「────なぁッ!?」


──ぐにゅ...

柔らかな肉に、刃物が刺さりこむ音が身体の中から聞こえた。

なぜこのような痛みが生まれたのか。


魔王「────魔剣士ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいッッッッ!!!」


魔剣士『おーこわ...気持ちよかったかァ?』


魔王子『...フッ、お前はそういう奴だったな』


魔王子『乱暴な素振りをしている分際で、小賢しいことを平気で熟す』


魔剣士『...褒めてんのかそれ?』


魔王「グゥゥゥウウウ...ッッッ!!」


腹部に刺さる歴代最強が体内へと潜り込む。

炎帝が見せたあの偏差魔法の如くの精度。

爆風により生まれた押し込む力が、折れた刀身に当たったのであった。


魔王子『────隙だらけだぞ』スッ


──□□□□ッッ!! □□□ッッ! □□□ッッッ!

痛みに喘ぎ魔剣士に怒りを向けている間。

その僅かな刹那に、ありったけの剣気が放たれる。

闇で相殺する暇など与えてくれない。


魔王「────ッ」


これを受けたら、死ぬ。

光で身体の自由を奪われ輝きの中に眠る鋭い剣気が身を裂く。

時間の流れが遅く感じてしまう、つまりは魔王という男は。


魔王(これが走馬灯とやらか、つまり死を感じているわけか...だが)


魔王「────まだ死ぬわけにはいかない」


────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...

彼の感情に比例して闇が姿を現した。

新たな魔法を発動したわけではない、これは魔王の意地。

その単純な理由で惨劇を生み出そうとしている、わずか一瞬で大量の闇がばら撒かれたのであった。

33 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:24:02.34 czzKzwQ80 963/1103


魔剣士『──チッ! 魔王子ィッ!』


魔王子『わかっている...後ろに下がっていろ...』


呼吸を整えることで身体の光を集中させる。

女勇者が与えてくれた属性付与、そして一体化しているユニコーンの魔剣。

すでに魔王子は光属性の扱い方を熟知していた。


魔王子『...女勇者、技を借りるぞ』


──□□□□□...

まるで盾、前方に光を展開させる。

魔王の闇にも引けを取らない質を誇っている。

これなら防御面に限っては心配など生まれない。


魔王「────"転移魔法"...」シュンッ


そのはずだった、彼らは闇だけを恐れすぎていたのであった。

背筋が凍る、突如背後に現れた気配はとてつもないモノ。

誰しもが思っていたはずだった、魔王という男が感情だけに任せて闇をばら撒くだろうか。


魔王子『────しまった』


魔剣士『──そのまま前方の闇を受けてくれェッッ! 魔王は俺様が相手をするッッ!!』


魔王「...ゲホッ」


転移魔法がどれだけ身体に負担をかけたのか。

血反吐を吐きながら手のひらに闇を集中させる。

腹部の痛みを堪え、そしてソレを地面へと叩きつける。


魔王子『──地面だ、翔べッッッ!!』


魔剣士『んなことはわかってるッッッ!!』ブンッ


────バコンッ!

地面に向かって放たれた剣気。

爆発の勢いを利用して、宙へと身体を持ち上げた。


魔剣士『ウッ...!?』


──■■■■■...

まるで底なしの沼のようだった。

すでに闇は展開していた、あと少しでも遅ければ足元から滅びていた。

だがまだ危機は去っていない、当の本人が黙っているわけがない。

34 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:25:28.28 czzKzwQ80 964/1103


魔王「...逃げ場はないぞ」


魔剣士『...あァん? 竜を相手に空中戦かァ?』


魔王子『────ッッ! 闇が光に衝突するッ! 衝撃に備えろッッッ!!』


魔王子が創り出した光の盾に、津波のような闇が接触する。

そのときに生まれる衝撃は計り知れなかった、彼程の男が声を上げてしまうほどに。


魔王子『──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!?』


──□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!

少しでも気を抜けば、光の質が弱まる。

弱まってしまえば、あっという間に闇が身体を飲み込むだろう。

とてつもない負担が魔王子を襲った。


魔王子『────ッッ...!』フラッ


──■...

結果的に魔王子は闇を払うことに成功する。

だが彼の本質は闇である、光を使いこなせている様に見えるが違っていた。

頭の中に激しく巡る、知恵熱にも似た痛みが。


魔王「...あの闇を抑えたか、だが終わりだな」


魔剣士『...ッ! てめェッッ!!』


魔剣士程の男が気づかないわけがなかった。

先程までギラギラと殺意を向けていたというのに。

魔王の目線は既に変わっていた。


魔剣士『──この俺様を無視するつもりかァッ!?』


魔王「...そのとおりだ、戦力は1つずつ潰させてもらう」


大きな翼を広げ、得意の急降下を始める。

先程まで宙に浮いていた魔剣士へと攻撃をしようとしていたというのに。

場面の切り替わりが激しい、この適応力こそが魔の王たる所以。


魔王「...死ね」スッ


────■■■■ッッッ!!

両手を思い切り、空振りさせる。

そうして生まれた闇が魔王子へと向かう。

彼は今気絶に近い状況、とてもじゃないが質の高い光を操れてはいない。

35 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:28:18.69 czzKzwQ80 965/1103


魔剣士『────させるかよォォォオオオオッッッ!!』バサッ


一瞬の出来事であった。

右腕と一体化していた魔剣が即座と背中へと移動する。

その姿は竜とも呼べず、また人とも言えない。


魔剣士『──オラァッッッッ!!』ビュンッ


その飛行速度はまるで燕。

人と同等の大きさだというのに、それを考慮するととてつもなく素早い。

魔王の闇など取るに足らない、すぐさまに魔王子を拉致することができた。


魔剣士『起きろッッ! 寝てる場合じゃねェぞッッ!?』ガシッ


魔王子『グッ...』


魔剣士(駄目だ、意識が朦朧としていやがるゥ...一体化が解除されていないだけマシかァ...)


魔王「...その形態で、翼を得るとはな」


魔剣士『...チッ!』


────バサァッッ!!

異形の翼から音がなる。

魔王子が起きないとなると、戦況はどう考えても不利。

ならば今は起きるまでの時間を稼がなければならない。


魔王「...逃がすと思うか?」


魔剣士『思わねェな...魔王が最も得意とするのは空中戦だと聞くしなァ』


魔王「ならば、なぜ翼を生やした?」


魔剣士『こうでもしねェと、終わっちまうからだよォッッ!!』


────ヒュンッ...!

まるで風が鳴く音、それを再現したのは魔剣士の翼。

彼はとてつもない速度で逃げに徹する。

魔王が放った闇の影響で、あちらこちらに窓ができた魔王城から飛び出した。


魔剣士『──頼むッ! 速く起きてくれェッ! 本当に時間なんて稼げねェぞッッ!!』


魔王子『────...』


魔剣士『クソッ! しかも魔王子の光で全力の速度も出せ────』ピクッ


────■■■■■■...

闇の気配がする、現状だせる最高速度を出しているというのに。

竜の翼にこうもあっさりと追いつかれてしまうとは。

それでも最善手を得ようとする魔剣士、頭の中ががんじがらめになったような感覚が襲う。

36 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:29:40.64 czzKzwQ80 966/1103


魔王「────そこだ■■■」


──■■■ッッッ!!

背後から迫るのは、魔王の闇爪。

魔王の基本的戦術は宙でも健在であった。


魔剣士『──あっぶねェなァッッッ!!』スッ


魔王「...逃げてばかりじゃどうにもならんぞ」


魔剣士(まずいなァ...やっぱり宙に逃げるのは悪手だったかァ...?)


魔剣士(いや...こうでもしねェととてもじゃないが時間なんて稼げねェ...)


魔剣士『...ケッ! 逃げるだけだと思うなよォ?』


魔剣士の身体が変異する。

いつぞやのウルフのようなとても不安定な見た目に。

身体は人のままだが、頭の形が徐々に竜へと変貌する。


魔剣士『────喰らいなァッッッ!!』


────ゴォォォォォオオオオッッッ!!

竜が吐いたのは、炎の吐息。

凄まじい密度を誇るそれは魔王へと向かう。


魔王「...無駄だ」


────■■■■...

当然の結果であった、この炎は炎帝のモノよりも劣る。

そのようなお粗末な火が魔王に抗えるだろうか。


魔剣士『──...ッ!』


魔王「まるで灯火だな...剣も持たないでどうするつもりだ?」


魔剣士『...まずいなァ、もう無理かもしれねェ』


魔王子「────...」


魔王「お遊びはここまでだ...諦めてもらうか」


────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...

魔剣士はこの光景を一度見たことがあった。

あの時は属性付与で行っていたが、今も似たようなモノ。

魔王が両手を掲げ、闇を集め始めている。

37 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:31:01.54 czzKzwQ80 967/1103


魔剣士『──これはッ...!?』


魔王「...かつて空を滅ぼした技だ、見たことがあるだろう?」


かつて、魔王城はある危機に会っていた。

それは反乱でもなく、人間界からの侵攻でもなく、自然的な現象。

魔王子たちも苦しめられたあの自然現象。


魔剣士(あれは...前の日食の時に使った奴じゃねェか...ッ!)


魔剣士(魔界の空全体に蔓延った死神共を、一撃ですべてを滅ぼした大技...ッ!?)


魔王「安心しろ...空には誰もない...ここにいる者だけだ」


魔王「だから...」


──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■...

滅びの魔法とも言えるソレは、既に備わっている。

光魔法を唱えるのに2秒かかる女勇者など比較にならない。

わずか数秒、それだけで魔界全体の空を殺せる闇を創り出していた。


魔剣士『────ッッ...!!!』


魔剣士(やりたくはねェがァ...覚悟を決めるかァ...)


なにかをしようとするために魔剣士は翼を構える。

まるでこれから、闇に向かって突撃しようとするような。

とても無謀な挑戦のようにも見えた。


魔王「────死ね」


魔王子の口癖は父親譲りであった。

その残酷な言葉とともに放たれるのはこの世の終わりとも言える黒。

そして行なわれるのは無謀とも言える特攻。


魔剣士『──オラァッッッ!!』


────バサァッ...!

翼をなびかせながら彼は漆黒へと向かう。

あまりにも衝撃的な出来事、刹那的な時間が流れる。


魔王「──愚かな...」


両手の闇が開放される、その余波で突撃してきた魔剣士は滅びる。

そう思い込んでいた、だが肝心なことを忘れている。

彼ほどの男がこの大量の闇の気配を無視して眠り込むだろうか。

38 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:32:10.38 czzKzwQ80 968/1103


魔王子『────死ね』スッ


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□...

光が迫る、両手を掲げたままだと我が身を貫かれる。

この闇を開放するのは後、今やらねばいけないことは1つ。

創り出した膨大な闇で息子の光を止めなければならない。


魔王「──今頃お目覚めか、それとも狸寝入りか?」


魔王子『...あれ程の闇を出されて、気づけない訳がないだろう』


──□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!!

──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!

上位の属性同士が正面から衝突する。

鍔迫り合いのようなその光景、それほど間近で光と闇が抗う。

そしてその余波をただ1人が被る。


魔剣士『────とっとと決着つけてくれェッッ! 死んじまうぞォッッ!!』


魔王子『──それができれば苦労しない...頼む、耐えてくれ...ッ!』グググッ


魔王「グッ...ウッ...■■■■■■■」グググッ


魔王子には翼はない、だから魔剣士に抱えてもらい宙に存在している。

つまりは魔剣士もこの光と闇の鍔迫り合いに参加しているということになる。

下位属性しか所持していない彼がこのような激戦に長く参入することができない。


魔剣士『死ぬゥッッッ!! 本気でくたばりそうだぜェッッッ!!』


魔王子『──耐えろッッ!! 竜の底力を見せてみろッッ!!』


魔剣士の身体に走るのは滅びの感覚。

あまりの衝撃に目を開くことすらままならない。

何が起きているのか全くわからないというのに、身体には強烈な違和感が生まれる。

39 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:32:45.11 czzKzwQ80 969/1103











『────とっととくたばれッッッ! クソ親父ィィィイイイッッッ!!!』










40 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:33:19.57 czzKzwQ80 970/1103











「────まだ妻の野望が残っているッッッ!! くたばるのは貴様だァァァアアアアッッッ!!!」










41 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:34:59.43 czzKzwQ80 971/1103


普通の言語じゃ表現できない轟音が鳴り響く。

魔王城の上空、ここにて決着がついてしまった。

だらりという音が聞こえる、凄まじい一撃を受けて意識を保てる者などいない。


魔王「...さらばだ、愛しい息子よ」


魔王子『────ッ...」


魔剣士『──クソッ...タ...レ...」


勝利をもぎ取ったのは魔の王。

当然だった、魔界すべての空を滅ぼすことのできる闇を彼らにぶつけたのだった。

たとえ同等の質の光を持っていたとしても、圧倒的な質量に叶うはずがなかった。


魔王「...できれば、妻の野望を...共に果たしたかった」


魔王「あの世があるなら、先に待っていてくれ...」


ポツリと呟く、手向けの言葉であった。

力を失った魔王子たちは魔王城へと落下する。

それを他人事のような面持ちで、眺めるだけであった。


魔王「...来たるべき時に備えなければならない」


激しい戦闘の疲れからか、独り言。

気だるそうに翼を扱い自らも下降を始める。

魔王の闇が作り出してしまった天窓から、魔王城へと帰還する。


魔王「...おや?」


魔闘士「...」


女勇者「...」


そこに待ちわびていたのは、勇気ある者。

そして武を極めた、魔の闘士がそこにいた。

その2人はとても遥か上空から落下したとは思えないほどに綺麗な2人を見つめていた。


魔王「そうか、魔闘士が受け止めたのか」


魔闘士「...だったらどうした」


魔王「...いや、遺体は綺麗な方が弔い甲斐がある...感謝する」


女勇者「...っ!!」


その一言、決して煽りの意味ではなかったはず。

だがこの場にいる2人にはそう聞こえてしまった。

感情を揺さぶられ、彼女は落ちている彼の魔剣を拾う。

42 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:36:22.70 czzKzwQ80 972/1103


魔王「...やめておけ、勝てると思うか?」


女勇者「うるさいっっ!! よくも魔王子くんをっっ!!」


魔闘士「...冥土の土産には丁度いい、魔王相手に殴り合いといこうか」


敵意を向けられてしまった。

だが魔王子という最大の障害がなくなった今。

もはやまともに戦う気などありはしなかった。


魔王「...そうか、死ね」


──■■■■■...

未だに不安定な同化、腹部に刺さった折れた魔剣が阻害する。

だがこのような状況でもこの2人を屠るのには申し分なかった。

最大戦力である魔王子と魔剣士も、既にこの状態で倒したのだから。


魔王「────なっ」


女勇者だからといっても彼女の光は先程の魔王子よりも質が悪い。

魔闘士も下位属性しか扱えないはず、もう驚異などない、そのはずだった。


魔王「──なぜだ...ッ!?」


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□...

その光はとても暖かくとても雄大であった。

まるで太陽と遜色のない代物、それがなぜここにあるのか。

答えはすぐにわかった、わかっていた。


女勇者「────□□□□□...』


彼女の右手にある、ユニコーンの魔剣。

それが身体を同化し始める、なぜ彼女が、人間である彼女が。

この剣を持って僅かな時しか過ごしてきてないの彼女が。


魔王「──なぜ一体化を...魔王子の魔力に馴染んでいたその魔剣と...ッ!?」


いつぞや魔剣士が言っていた、魔剣との一体化。

己の魔力を魔剣に慣れさせることができれば、可能だと言った。

だがそれは数十年単位もの時間が必要と言われる、しかし問題はそこではなかった。


魔王「ふざけるな...1つの魔剣が別の人物と一体化するなど聞いたことがないぞ...ッ!?」


魔王「それも...我が息子の光よりも、桁違いに眩いだと...ッ!?」


女勇者『...□□□□』


不可解な現象に気を取られてしまう。

誰でもそうだ、自分の中にある常識が覆されるとどうなることか。

だがそれが命取りへと繋がる。

43 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:37:47.21 czzKzwQ80 973/1103


女勇者『────□□□□□□□□ッッッ!!』スッ


光の言語が可能にするのは彼女が苦手とするあの攻撃。

魔剣と一体化した右腕を宙へ向かって突き刺す。

すると生まれるのは、アレしかなかった。


魔王「────剣気ッ!?」


──□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッ!!

それは、あまりにも輝かしかった。

己の色彩では捉えることのできない限りなく無に近い白。

もう少し反応が遅れていたら、この一撃が顔を貫いていた。


魔王「──危ないな」


どのような出来事が起きたとしても、身に迫る危険が魔王を即座に冷静にさせる。

それが故に彼は魔の頂点に立てている、そうでなければ魔王という座をとうに奪われているだろう。


魔王(...そういうことか、あの時の魔王子には...あの勇者の属性付与が備わっていた)


魔王(つまりあの魔剣と馴染んだ魔力は息子のモノではなく、あの女のモノだったか...通りで一体化できるわけだ)


魔闘士「...今のが見えるのかッ!?」


女勇者『ぐっ...□□□...身体が、言うことを聞かない...□□□□』


女勇者『ごめん...□□□□光は生み出せても、もう一歩も動けない...っ!?』


魔王「これは...暴走に近いみたいだな?」


──からんからん□□□...ッ!

左手に予め持っていた盾を落としていまう。

皆を護るために、この旅を共に過ごしてきたというこの装備を。

魔剣との一体化で得た代償が彼女を締め付ける。


魔闘士「...落ち着け、己の魔力を魔剣に委ねろ」


魔闘士「いつも通りだ、魔法を制御する感覚を思い出せ...ッ!」


女勇者『いつも...□□...どおり...?』


魔剣を所持していないというのになぜこのような助言ができるのか。

それは単純な理由であった、彼は武道家だからこその訳がある。

44 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:39:31.08 czzKzwQ80 974/1103


魔王「────助言はやめてもらおうか...■■■■」


魔闘士「──ッ! 盾を借りるぞッッ!!」スッ


魔剣に破れたことのある武道家が、次の対戦に備えてソレを調べ尽くさない訳がなかった。

だからこそ助言ができた、魔力の操作を乱すことができれば魔剣への対抗策を得ることができる。

逆をいえば、魔力を安定させることができれば一体化など造作もないとも言える。

その助言がこの戦況を逆転させてしまう、それを察知した魔王は狙いを魔闘士に絞った。


女勇者『魔闘士くんっ...□□□□っ!』


魔闘士「俺に構うなッ! 魔王が今お前を狙わないということは、女勇者の光に抗えないということだッ!」


魔闘士「ならばソレが勝利の鍵だッ! 時間は稼いでやるッ! とっとと制御しろッッ!!」


魔王「──時間など与えんぞ...ッッッ!!」


魔王子と瓜二つの顔、それは冷静な面持ち。

だがその表情からは想像もできない焦燥感が溢れ出る。

この決戦の鍵は間違いなく女勇者なのは間違いない、だが鍵はもう1つある。


魔王(──女勇者とて人間だ...眼の前で味方である魔闘士を殺せば...心が乱れるはずだ...ッ!)


魔王(ならば、こちらの勝利の鍵は魔闘士...貴様だ...ッ!!)


魔王「────死ね■■■■■」


──■■■■■■■...ッッ!!

とてつもない闇の気配、直ぐ側にまで迫っている。

まるで一瞬凍えたかのような錯覚にとらわれる。

死の予感が招く寒気、それをこらえながら彼は盾を構えた。


魔闘士「────死にたくなるほど気だるいな...」


力が失せる、それは闇も魔闘士も。

この盾に秘められた光は尋常な代物ではない。

先程落としてしまったとはいえ、一体化した女勇者が握っていたモノだ。


魔王「──クソッ...!!!!」


魔闘士「グぅぅぅぅぅぅぅうううううッッッ...!!!」


──□□□□□□□□□ッッッ!!

闇が盾へと衝突した音、それは白かったと表現できる。

それが何を意味するのか、魔王の焦りを見ればわかってしまう。

魔闘士の持つ光が優位に立っている、魔王程度の闇では破壊することができない。

45 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:40:31.50 czzKzwQ80 975/1103


魔王「この盾を貫けぬとも、盾の所有者がこの衝撃に耐えられるかッッッ!?」


魔闘士「...ぐぅうううッ、...ッ!!」


早くも息が切れ始める、魔の武道家だというのに。

己の身体がどれだけ魔力に依存していたのかが痛感してしまう。

この光の盾を持っているだけだというのに。


魔闘士「ま...まだだ...時間を...ッ! 稼がねばならん...ッ!!」


光がかき消す闇、その実害がないとはいえ盾越しに感じる衝撃は計り知れない。

光によって己の身体は普通の人間程度、もしくはそれ以下になっているというのに。

限界は既に来ている、だが彼はまだ立っている。


魔王「...なぜだッ!? なぜ立てているッ!?」


闇の猛攻が続く今、不可解でしかなかった。

彼が今立てている理由など存在しない。

全くもって理にかなったモノではない要素がソレを可能にしていた。


魔闘士「────知るか...ッ!」


当の本人でさえ立てている理由がわかっていない。

無意識の欲求、武道家だからこそ彼はしぶとかった。

貪欲なまでに勝利に拘る、だがこの窮地にそのような自覚を芽生えさせている暇などない。


魔王「──ならばこれを受けてみろ■■■■...」


────■■■■■■■■■■...

新たな闇の気配、見なくともわかる。

圧倒的な量を誇る黒が生み出されていた。

光の盾を滅ぼす為のモノではない、盾を持つ彼を疲弊させ盾を弾き落とす為の闇だ。


魔闘士「────これは」


例えるなら人が盾で大きめの波から身を守ることができるだろうか。

不可能だ、正面からの波は防げても圧倒的な質量が盾を持つ腕に多大な負荷をかけるだろう。

そうなったのならば、腕は疲弊し盾の構え方が曖昧になるだろう。


魔闘士「──クソッ...」


後方を確認しなくともわかる。

光の根源、主である魔力が微動だにしていない。

女勇者はまだ一体化の制御を可能としていない。


魔闘士「...あとは任せたぞ、女勇者」


結局は間に合わなかったが、十分時間を稼ぐことができた。

次の魔王の攻撃によりこの身が滅びたその瞬間に、彼女が動けるようになることを祈って。

そのわずかな可能性を信じて、彼は最後まで時間を稼ごうとする。

46 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:43:10.76 czzKzwQ80 976/1103


魔王「────死ね■■■■■■■■■」


────■■■■...

黒の音が遠く聞こえる、なぜなのか。

意識が消えかけているからなのか、それとも別の理由があるのか。

死の直面だというのにも関わらず、どうしても聞きたい声がそこにあったからだ。

盾を構える魔闘士の懐にある人物が潜り込んだ、それが聞きたかった声であった。


魔闘士「──動けるのか?」


女騎士「──あぁ、片腕をなくした程度では騎士を辞職することはできんからな」


魔闘士「そうじゃない...この光を持っても、動けるのか?」


女騎士「あぁ、お前と違って私は人間だからな...かなり気だるいが二日酔いよりはマシだ」グッ


彼女は人間、その魔力は後天的に得た存在。

彼女は騎士、その筋力は魔力により強化されたモノではない。

身体は重いのは事実だ、だが上記の理由が盾を強く支えていた。


魔闘士「...これだから人間は」


────■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!

──□□□□□□□□□□□□ッッッ!!!

強い闇が、強い光によってかき消されていく。

ここまでは想定通りだというのに、その様子は不沈艦の如く。

それを見てしまっては、絶句するしかなかった。


魔王「────な...ッ!?」


女騎士「ぐっ...なかなかの衝撃だったな...」


魔闘士「なんとかなったか...それよりもあの賢者はどうした?」


女賢者「呼びましたか?」


────ずるずるっ...!

小声のようで、はっきりとした音が聞こえる。

この激戦の轟音でかき消されているはずだというのに。

超越した集中状態が会話を可能にしていた。


女賢者「その盾で守っててくださいね...私は2人を引きずっているのに精一杯なので...」ズルズル


女賢者「..."治癒魔法"」


──ぽわっ...!

光魔法とは違う、とても優しさのある明かりが2人を包み込んだ。

闇による攻撃を受けたというのに、その治癒速度は比較的平常通りであった。

女騎士の時とは違う要素が彼らの傷を癒やしていた。

47 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/26 21:45:59.77 czzKzwQ80 977/1103


魔王子「────ッ! ゲホッッ!!」


魔剣士「──あァ...今度ばかりはくたばるかと思ったぜェ...」


女賢者「...女勇者さんの光に感謝です、2人を侵していた闇が簡単に払われてましたよ?」


女賢者「もっとも...そのおかげで私の魔法もかなり制限されていますが」


魔王ほどの男がトドメを刺さなかったのだろうか。

違う、これはトドメを刺せなかったのであった。

彼らのくどいほどの生命力を彼は予期することができなかった。


魔闘士「──生きていたかッッ!!」


魔剣士「あァ...なんとかなァ...」


女賢者「まだ喋らないでください、制限された治癒魔法じゃ健康な状態まで癒せません」


魔剣士「通りでなァ...まァ闇に喘がされ続けるよりかは遥かにマシだァ...」


魔王子「──ゲホッ...吐血が止まらん...」


女賢者「...2人ともお腹に穴が空いてたというのに...さすが魔物ですね」


魔剣士「その穴もまだ塞がってねェしなァ...」


女賢者を含む3人が前方の女騎士らから距離を十分取れた。

これで盾を越してこない限り、魔王の闇が襲いかかることはないだろう。

尤も、それを許してくれない彼女がそこにいる。


女勇者『...□□□□□□□□□』


魔王「...これは」


一体どこで間違えてしまったというのか。

どれほど己の運が悪いのか、野望を叶える代償だというのか。

彼は冷静な顔つきをやめてしまう。


魔王「...」


この表情は一体なにを表しているのか。

喜怒哀楽、これら4つに属さない謎の感情。

彼の瞳の奥には一体なにが見えているのか。


魔王「...フッ」


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□...ッッッ!!

そして聞こえたのは光の音。

腹部に刺さっている歴代最強の魔王が震えているような感覚。

そこには終わりが待っている、全ての終わりが待ちわびている。


~~~~

49 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 21:59:17.27 GmvGoknR0 978/1103


~~~~


隊員「...やったか」


世界が切り替わる、ここは現実世界。

そして目の前に広がるのは、血痕。

射殺された魔王妃が横たわる道路に皆が集まる。


魔王妃「────」


ウルフ「...まだ生きてる」


隊員「冗談だろ...?」


ヘリコプターが着陸できる場所などそう簡単に見つからない。

それを察した隊員AとBは縄ハシゴを降ろし、ウルフと隊員を先に合流させていた。


魔女「...生きてるわね」


脈を計っているわけでもないというのになぜ断定できるのか。

それはある魔法が結論を表していた、遠くに見えるのは生きる屍。


魔女「使い魔召喚魔法がまだ発動しているわ、あれは術者が死亡すると自動的に消滅するはずよ」


隊員「...あの攻撃を受けても、まだ息があるのか」


魔女「...生きてはいるけど、気絶はしているみたい」


────□□...

その時だった、どこからか違和感が生まれる。

思わず彼女は後ろの人物を確認してしまう。


魔女「...え?」


隊長「...どうした?」


魔女「あれ...? ごめん、気の所為だった」


隊長の方から強い光を感じた、だがそれは刹那の出来事であった。

もしかしたら先程の光の銃撃による残り香的なモノなのかもしれない。

少なくとも、今の隊長から光など一切感じなかった。

50 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:01:23.20 GmvGoknR0 979/1103


隊長「さて...どうするか」


隊長「このまま寝首をかくか...それとも鹵獲か...」


隊員「...私としては、鹵獲が優先だと思われます」


隊員「このような超常現象...その実物を見せない限り納得はされないでしょう」


魔女「...そうね、その通りだと思うわ」


当然だった、彼女には山程聞きたいことがある。

今はまだ殺すべきではない、隊員と魔女はそう意見を述べた。

おおよそ隊長も同じ意見だと思われた。


隊長「...いや、危険すぎる...このままトドメを刺すべきだ」


魔女(...え?)


隊長「確かに、この身柄を確保したい事実もある...だが今必要なのは人命救助だ」


隊長「今もまだあの屍共に襲われている人々がいるかもしれん...」


隊員「確かに、この女を殺害すればZombie共は消滅するらしいですが...」


隊長「...それに、鹵獲に失敗してまた被害が拡大したら目も当てられん」


隊員「それもそうですね...このまま寝首をかく他ないですかね...」


ウルフ「...?」


ウルフの顔つきが変わる。

それはとても困惑したようなモノであった。

なぜそのような表情をしているのか、魔女にはわかった。


魔女(...なに? なんなのこの違和感は...?)


魔女(どこもおかしい所なんてないのに...でもどうして心が落ち着かないの...?)


隊長の発言、このまま魔王妃の寝首をかくとのこと。

確かに彼の言葉にしては少しばかり野蛮かもしれない。

だがそれでいて理にかなっている、隊長らしい思慮でもある。


魔女「...ね、ねぇ────」


どうしても、この違和感を追求したい。

その欲求に耐えきれずに彼女は彼に質問をしようとする。

その時であった。

51 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:02:28.69 GmvGoknR0 980/1103


魔女「────っ...」ピクッ


隊長「どうかしたか?」


魔女「いえ、なんでもないわ...ちょっと疲れたから座らせてもらうわね」


隊員「...全身にやけど痕が...大丈夫か?」


魔女「大丈夫よ、あとで魔法でさっぱり治せるから...ウルフ、一緒に座りましょ?」


ウルフ「うん? いいよっ!」


隊長と隊員が打ち合わせをする中、彼女たちは摩天楼の足元で座り込む。

冬のコンクリート、とても冷たいがそんなことを言っていられる場合ではない。

多大な疲労感をいち早く癒やしたい、魔女とウルフは座り込んでしまった。


魔女「...ねぇ、ウルフ...なんか、変じゃない?」


ウルフ「...ご主人のこと?」


魔女「やっぱり...気がついたのね」


ウルフ「うん...でも、どこもおかしいところがないよ」


ウルフ「においも間違いなく、ご主人だよ」


魔女「でも...なんなんだろう、この違和感...」


ウルフ「...つかれてるんじゃない?」


魔女「そうかなぁ...そうかも...」


ともかく、これにて闘いは終了した。

隊長と出会ってからずっと戦闘続きであった。

いまようやく、この長い旅の終止符が打たれた。


魔女「これで、終わったのね」


ウルフ「...そうだね」


ウルフが魔女に身を寄せる。

闘いは終わったのだ、この世界でやれることはすべてやった。

あとは魔王子たちがあの世界を掴んでくれていることを願って。


魔女「スライム...帽子と会えてればいいね」


ウルフ「...そうだね、きっとあえてるよ」


声が徐々にか細くなっていく。

もう闘う必要はない、今初めて心を落ち着かせることができた。

スライムが戦死したという事実をようやく受け止めようとする。

52 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:03:55.34 GmvGoknR0 981/1103


ウルフ「...少し、ねむたいよ」


魔女「そう...ね...ちょっとだけ寝よう?」


魔女「きっと...あとはキャプテンが後始末してくれる...わ...」


過去の激戦、過度の疲労感、そして過酷な出来事が彼女たちを眠気にさそう。

ウルフはもうすでに眠りについた、可愛らしい小さな寝息を立てている。

そんな彼女の頭を肩で受け止めつつも魔女のまぶたも下がり始めていた。


魔女「...これからどうしよう」


魔女「もう、あっちの世界に戻れることなんて...ないだろうし...」


魔女「どうしたらいいと思う? キャプテン...」


うつらうつらと船を漕ぎながら、独り言を済ませていく。

もう限界が近い、眠気に負けそうになりながらも彼女は視線を送る。

最愛の人物、眠気を惜しんでまでも彼を見つめていたかった。


魔女「...あれ?」


その乙女のような仕草がある要素に気づくことができた。

先程まで彼女を悩ましていた違和感、それがついに判明する。

それは意外にも単純なモノであった。


魔女「...ドッペルゲンガーがいない」


あの憎たらしいまでに、隊長と瓜二つのあの魔物。

魔王妃を仕留めたならば、その様子を伺いに現れてもいいはずだった。

だが現時点で闇の魔力を感知することができない。


魔女(キャプテンの中にいるのかしら...)


表舞台にいないのならばあの魔物は隊長の精神に潜んでいる。

ドッペルゲンガーとはそういうモノだ、だがそれだと1つ疑問点が生まれる。


魔女(あれ、そういえばさっきは...)


魔女(闇じゃなくて...久しぶりに光を纏っていたような...)


ふと思い返せば、魔王子と対峙した時以来だろうか。

久々にみた彼の光によって魔王妃を破ることができた。

だがなぜ今になって光なのか、あの場面なら闇でも勝てたはずだ。

53 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:05:35.93 GmvGoknR0 982/1103


魔女(...そもそも、あの光ってなんなの...?)


魔女(キャプテンが言うには、神からあの力をもらったって言っていたけど...)


魔女(...だめ、わからない...けど気になって仕方ない)


今まで一度も深く考えている暇などなかった。

光を扱えるという戦力がとても重要だったがために追求などせずにいた。

だが今はもう戦う必要などなく十分に時間は作れてしまう、無意識の知識欲が彼女をドンドンと刺激する。


魔女(...私じゃわからない...でもここにいる皆に聞いたところでわかりっこない)


魔女(当の本人ですら、理にかなった説明ができないんだから...)


魔女(...もう1人しかいないじゃない)


隊長に聞いてもわからない、ウルフに聞いてもわからない。

だが一度刺激されてしまったこの欲求は止めることができない。

ならば尋ねるしかない、彼女に。


魔女「...ごめんウルフ、動くわね」


ウルフ「うぅ...?」


肩に寄り添ったウルフを優しく動かした。

冷たいながらもどこか心地いいこの道路の上で横にした。

そして、ふらふらと隊長たちの方に歩み寄った。


魔女「...ねぇ、待って」


隊長「どうかしたか?」


魔女「ごめん...魔王妃にどうしても聞きたいことがあるの...まだ殺さないで」


隊長「...しかしだな」


隊員「危険じゃないか? また魔法でも放ってきたらどうする」


魔女「それは...そうだけど...」


──■■...

その時だった、わずか一瞬にも満たない。

ほんの少しだけ、まるで蚊の羽音のような黒い音が聞こえた。

当然誰も気づかなかった、魔力を持たない者は。

54 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:06:39.85 GmvGoknR0 983/1103


魔女(──今、闇が...っ!?)


魔女「...えっ...と」


隊長「...どうかしたのか?」


気づけたのは魔女だけであった、その闇が現れた場所に。

思わず顔を強張らせながらも彼女は彼の顔を見つめる。

どうして、なぜこの場所から闇が生まれたのか。


魔女「...ごめんなさい、ちょっと疲れすぎたみたい」


魔女「もう...魔王妃のことは任せるわ...」


隊長「...そうか」


隊員「では...実行しますか...」


魔女「...私も、付き添うわ」


こうして3人が倒れている魔王妃へと近寄る。

話し合いの結果、どうやら隊員が引導を渡すことになったようだった。

彼のみが武器を構えいつでも射殺する準備を整えていた。


魔王妃「────」


隊員「...本当に生きてるのか、不思議なぐらいだ」


隊長「...」


魔女「...」


隊員「では...やりますよ」スチャ


アサルトライフルの照準が横たわっている彼女の頭へと向けられる。

このままなにも起こらなければ確実に仕留めることができる。

そしてもう、激しい戦闘など起きることはないだろう。


魔女「...」


本当にこれでいいのだろうか。

このまま一生、隊長は謎の光に付き纏われることになる。

あの不可解な光がどうしても魔女を不安にさせる、それが魔女の猜疑心を煽る、彼女は裏切りを決意する。


魔女「..."治癒────」


気狂いとも表現できてしまう、その戦犯的な行動。

それを実行してしまう、もう後戻りはできない、そのはずだった。

55 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:08:01.32 GmvGoknR0 984/1103


隊長「────ウッ...!?」


彼の嗚咽とも取れる声がそれを阻害した。

まるで、身体の中でなにかが暴れまわっている。

彼ほどの男が身を丸くしてしゃがみ込んでしまってた。


隊員「──Captain...?」


魔女「え...だ、大丈夫?」


隊長「...手こずらせやがって■■■■■■」


その闇の言語とともに現れたのはどう考えてもあの魔物。

ドッペルゲンガーがようやく登場した。

なにか苦しそうな顔つきで、隊長の身体を乗っ取っている。


魔女(────嘘...っ!?)


過去に魔闘士と共にこの現象を見たことがある。

ドッペルゲンガーという魔物は宿主の身体を乗っ取る。

油断した、油断してしまった、だが彼らしき者が叫んだ言葉は意外の一言であった。


隊長「────俺を気絶させろッッッ!!」


隊員「──は...?」


隊長「早くしろッッ!! もう抑えられんッッ...■■■!!!」


魔女「──っ..."雷魔法"っっっ!!」


──バチバチバチバチバチッッ!!

隊長がドッペルゲンガーに乗っ取られた、そのことを理解していた彼女はすでに臨戦状態であった。

言動に多少困惑しつつも、人が死なない程度に調整された魔法が直ぐ様に隊長を襲う。


隊長「──グ...ッッ!! 手加減をするなッッ!!」


魔女「ど、どういうこと...っ!?」


雷に悶ながらも、彼は叫び続ける。

なぜ気絶をさせようとしているのかは一向にわからない。

だが切羽が詰まっていることは確実であった。


56 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:09:48.24 GmvGoknR0 985/1103


隊長「まずい...っ! 早く■■□────」


────ガコンッッ!!

後頭部に激しい痛みが走る。

その一撃は、あの獣からの重いモノであった。


隊長「────ッ」ドサッ


ウルフ「────フーッ...フーッ...」


魔女「...気絶、したみたいね」


隊員「何が起こったんだ...?」


その問いかけに答えられる者などここにはいない。

わかることは1つだけ、それも仮説に過ぎない。

ふらつくウルフを抱き寄せ、彼女は答えた。


魔女「...わからない、だけど今のキャプテンは本当のキャプテンじゃないわね」


隊員「...どういうことだ」


魔女「あのね、まず大前提の話なんだけど...」


彼女は語る、向こうの世界で隊長がどのような魔物を引き連れてきたのかを。

ドッペルゲンガーに取り憑かれる、その呪いのような出来事を説明した。

隊員はとても険しい顔つきでその言葉を受け止めた。


魔女「...さっきの様子を見ると、キャプテンとしての人格がなかったように思えるの」


隊員「確かにそうだな...つまりドッペルゲンガーに乗っ取られたってことか」


魔女「そうなんだけど...でも、おかしいと思わない?」


隊員「あぁ...奴は気絶をさせろと懇願していたな」


魔女「そうなのよ...それが...この話を難しくしているの」


あの時、研究所で一度だけ見せられた。

ドッペルゲンガーによる宿主の乗っ取りというのは今回みたいなモノではない。

いままで経験したことのない事態に隊員は愚か魔女ですら頭を抱えてしまう。


隊員「...Captainは気絶したが...目を覚ましたらどうなるのかが分からない」


隊員「こちらも全力を持って対応するつもりだが...魔法の話には全くついて行けない」


隊員「その魔法のExpert...魔法に長けている君ですら理解の追いつかない現象にどう対応すればいいか」


魔女「...そうね」


正直に言って手詰まり、また目を覚ましてはこのような暴走に巻き込まれてしまえば。

1日2日だけなら話は別だがそのような確証などない、このまま隔離病棟にブチこむしか手はないのかもしれない。

57 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:11:12.06 GmvGoknR0 986/1103


魔女「...1つだけ、手段があるわ」


そして魔女は頭の中で線路をつなぐ。

どうしても聞きたかったことをこの現象に繋げる。

これはもう尋ねるしかなった、自分よりも遥かに魔法を長けている者に。


魔女「......魔王妃に聞くしかないわ」


隊員「...正気か? それでこそ危険だ」


隊員「また先程のように暴れ回られたらどうする...Captainが動けない分、より苛烈な戦闘になるぞ」


魔女「でも...そうするしかないじゃない...」


魔女「もしキャプテンが目を覚まして、何事もなかったような素振りをみせても...」


魔女「また発作的にさっきの出来事が起きたらどうするの? あの人の人生滅茶苦茶になるわよ」


魔女「だったら...多少危険を背負ってまで...解決方法を知っているかもしれない魔王妃に聞くべきよ...」


実に女性的な発言だった。

愛する人のためなら世界を敵に回してもいい。

彼女が言っているのは、それと同義であった。


隊員「...しかしだな」


ウルフ「...魔女ちゃんがそう思うんなら...だいじょうぶだよ」


魔女「ウルフ...」


ウルフ「もう...誰も失いたくないよぅ...」


ウルフも直感していた、それは単純すぎる結論。

もしこのままを維持するのであれば、隊長はこの病魔じみたなにかに侵される。

原因不明の病を患ったまま長生きなどできるはずがない。


隊員「...わかった、鹵獲の方向に話を進めよう」


隊員「だがまず先に...どうやって抑えつけるかを決めよう」


魔女「...そうね、どうしようかしら」


ウルフ「力で抑えつけるのは...むりそうかな?」


魔女「...いえ、それしかないわ」


隊員「それで大丈夫なのか...? もし魔法を唱えられたらどうする」

58 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:12:59.38 GmvGoknR0 987/1103


魔女「平気よ...魔法って意外な話、物理的に抑えることができるの」


隊員「...それはどうすればいい? 本当に文字通り拘束させるだけか?」


魔女「そうね、あとは口を塞げば問題ないわね」


隊員「そんな単純でいいのか...?」


魔女「そうよ、魔法は魔力の込められた言葉...詠唱をしなければ扱えないわ」


魔女「だから...口を塞げば魔法自体はなんにも怖くないわ」


隊員「それを先に言ってくれ...知っていればあの時がもっと楽に...」


単純でいて簡単な方法。

口を塞ぎさえすれば魔法なんてものは恐るるに足らず。

だがそれがどれだけ難しいことなのか、すぐに分かってしまう。


隊員「...いや、今のように気絶している状態じゃなければそもそも接近すらできなかったな」


魔女「まぁ...そういうことね」


隊員「とにかくわかった...魔法への対策がわかっただけでも上等だ」


隊員「...この布で口を塞ぐぞ」


そうして取り出したのはただのハンカチ。

男性用の少し大きめな物、これなら口を覆うことができる。

そして少しばかり締めれば簡易的なギャグになりえる。


魔女「...なんか絵面が厳しいわね」


隊員「あ、あぁ...一応人妻だからな」


魔王妃「────」


髪の乱れた人妻がなおのこと淫靡な雰囲気を醸し出す。

傍から見れば間違いなく暴漢と間違われるであろう。

しかし、これにて魔法への防御策が完了する。


隊員「...できたぞ」


魔女「これだけ締めてあれば...唸り声しかあげれなさそうね」


魔女「それじゃ、ウルフ...ってどうしたの?」


ウルフ「うーん...ちょっと服が邪魔になってきた...」


隊長から借りた洋服は既に原型を留めていなかった。

こうなってしまえばもう邪魔でしかない、この状態だと全力で走るときに支障がでる。

せっかくの隊長の服をダメにした罪悪感と、不快感に負け彼女は脱ぎ始める。

59 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:14:48.80 GmvGoknR0 988/1103


ウルフ「よいしょっと」ヌギ


隊員「それで全裸か...完全に犬だな...」


魔女「ちょ...呼吸が荒いわよ...?」


隊員「いや...すまない...犬が...好きなんだ...犬が...」


かなりオブラートに包んだ発言。

ウルフの全裸というものは、人間のようにすべてが包み隠されていない状態ではない。

身体の数箇所に濃い体毛が生え揃っている、つまりは公共の場でも問題ない見た目である。


ウルフ「動きやすくなったのはいいけど、これをしまえなくなっちゃった」


隊員「...これを貸してやろう」


そう言うと彼は右太もも付近に装備していたモノをウルフに与える。

手付きに迷いはない、この行為に他意はなく単純な施しの為の行動だった。

ウルフの右太ももになにかが装備された。


ウルフ「...いいの?」


隊員「あぁ、ウルフがつけていたほうがいい...私は今ハンドガンを持っていないからな」


魔女「...いいわねそれ、邪魔にならなそうだし」


隊員「そうだろ? Holsterっていう装備品だ、これで1丁は仕舞えるな」


ウルフ「ありがとうっ! もう1個はずっと手に持っとくよっ!」


隊員「...」


犬のように尻尾を振るい、女児のような明るい表情。

この光景をみて隊長は父性を芽生えさせていた。

だが隊員は別の感情に身を焦がす。


隊員「...Mother fucking pretty」ボソッ


魔女「だ、大丈夫?」


隊員「あ...あぁ...ここしばらくCaptainを探すので精神的に参っていたが...どうやら特効薬が見つかったみたいだ」


魔女「そ、そう...よかったわね」


隊員「...ちょっと夜風に当たってくる、このままの興奮状態じゃまともに動けない」


魔女「あ、はい...魔王妃はたぶん何もしない限り起きないと思うから...ゆっくりね?」


そういうと彼は鼻を抑えながら暗闇の摩天楼に向かう。

そこから聞こえるのは、謎の奇声と銃声、そしてそれの被害を被るゾンビの断末魔。

時が流れていく、不測の事態に備えてウルフはひたすらに魔王妃の真横で待機していた。

60 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:16:46.43 GmvGoknR0 989/1103


隊員「...今戻った」


魔女「早かったわね...その荷物は?」


ウルフ「────っ!」ピクッ


わずか10分も経っていない、鼻にティッシュを詰めた彼の興奮は収まったのだろうか。

そのようなことはどうでもよかった、肝心なのは彼の新たな手荷物。

透明な袋に入っている何かとぶら下げているなにか。


隊員「...こっちはWestpouchという腰につける鞄だ、ハンドガンは入らないがMagazineは入るはず」


隊員「そしてこっちは、食料だ...代金は店にそのまま置いてきた」


魔女「あー助かるわ...ちょうどお腹が減ってたのよ」


魔女「とりあえずその鞄をウルフに着けて...ってウルフ?」


ウルフ「へっへっへっへ...ちょこの匂い...」


隊員「あ、あぁ...Chocobarはあるけど...犬にこれはまずいと思うんだが」ゴソゴソ


わざとらしく、本人にそのつもりはないがそう見えてしまった。

それが運の尽きであった、獣相手にエサを見せつけるほうが悪い。

ましてはウルフは極度の疲労状態、すぐさまにも口に何かを入れたいはず。


ウルフ「────いただきまぁす」


──ドサッ...!

その俊足は、戦闘以外でも発揮される。

とてもじゃないが人間には見えない、手も足も出せないどころか押し倒された。

そして貪られる、チョコバーを持っている彼の腕。


魔女「...あ、さっきの飲み物あるじゃない」


そしてそれを止める元気もない魔女。

黒いシュワシュワする飲み物と、ウルフが暴れて飛び散った棒状の芋を拾い食いする。

どこか不気味な声を上げている隊員を余所目に、魔女は体力を癒やしていた。


隊員A「...What's happened?」


隊員B「...Nightmare」


~~~~

61 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:18:42.02 GmvGoknR0 990/1103


~~~~


??1「...終わったんだな」


抉れた大地にいるのは、男が1と女が2人。

男がぽつりとその言葉を漏らす、そして1人の女が返事をする。


??2「終わりました...これで...やっと...」


??1「...魔王と共に死神が大量に沸いた時はもう駄目かと思ったぞ」


??2「そうですね、あの子に感謝するしかありません」


??1「...まさか勇者が、太陽に属性付与をかけるとは」


勇者「...」


いままでの会話に参加せずにいた者、それは勇者と呼ばれていた。

女勇者が可憐というなら、この勇者にふさわしいのは美人という言葉であった。

だがその表情は、この世の修羅を乗り越えた非常に険しい顔つきであった。


勇者「...勝った、勝ったんだ」


勇者「賢者...魔術師...よく生き残った...っ!」


そして残りの男女の名前、賢者と魔術師。

賢者と呼ばれる男は激戦の果の疲労感に負けそのまま座り込んだ。

魔術師と呼ばれる女は落ちていた剣を拾っていた。


魔術師「まさか、トドメを刺されたくないがために...己を魔剣化させるだなんて」


賢者「魔剣には詳しくないが...魔剣から肉体を取り戻した事例など聞いたことがない」


賢者「...結界魔法で封印する手間が省けた、実質的に魔王はこの世を去ったと言える」


魔術師「そうですね...」


激戦地に雨が降る、それでいてギラつく光が眩い。

俗に言うお天気雨が彼らの身体を冷やし、癒やしていた。

大地の恵みが全身を巡る。


賢者「...心なしか、いつもより日差しが強いな」


魔術師「これも、勇者の属性付与による影響でしょうか」


賢者「死神はわずかな光属性でも嫌う...もう二度と地上に現れないだろう」


賢者「...いや、日食時はどうなるのか...まぁ奴らは人間界には現れないからもう気にしなくてもいいか」


些細なことが気になるところを見ると、賢き者であるのは間違いない。

そして現れるのは沈黙、3人は余韻に浸りこのまま眠りについてしまいそうになる程に。

62 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:19:54.39 GmvGoknR0 991/1103


魔術師「...これから、どうしましょうか」


賢者「魔王は倒したんだ、もうやるべきことなどないはず」


魔術師「...そうですね、このまま人間界へと帰還しましょうか」


賢者「さっさと帰ろう、魔界の空気は人間には合わない」


勇者「...帰ろう、故郷が待っている」


座り込んでいた賢者が立ち上がり、魔術師は魔剣を手荷物にする。

そして勇者も、この激戦により更地と化したこの場所から離れようとした瞬間。

妙な感覚が襲いかかる。


勇者「────っ...」


──どくんっ...!

心が燃やされるような感覚が彼女を襲う。

まるで、内部から身体を引き裂かれているような痛みが伴う。


魔術師「...勇者?」


賢者「どうし...これは────」


いち早く気づけたのは賢者であった。

なぜ気がついたのか、それは彼が魔力の扱いに長けているからであった。

だが既に遅かった、勇者は変貌し始める。


賢者「まさか...ッ!?」


魔術師「────勇者っ!!!」


握りしめられた魔剣がやけに馴染む。

どうしてだろうか、彼女は人間だというのに。

だが彼女は将来魔に染まる、その因果だというのだろうか。


???「────"治癒魔法"」


そして聞こえたのは全く馴染みのない女の声。

彼女は目を覚ます、これは魔術師の過去の出来事。

気絶していたがために夢に見せられた、記憶の断片。


~~~~

63 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:21:43.75 GmvGoknR0 992/1103


~~~~


魔女「────"治癒魔法"」


心地いい明かりが彼女を癒やした。

その傷はまだ残るが、意識を蘇らせることは可能だった。

魔物という生き物はそう簡単にくたばるような生き物ではない。


魔王妃(...随分と、嫌な夢を見てましたね)


魔王妃「...もが」


視界は開けていていく。

そして突きつけられているのは、様々な武器。

そして口には布が、背中には狼が彼女を羽交い締めにしている。


魔王妃(...これでは物理的に逃げることも、魔法も唱えられないですね)


魔王妃(この狼の子...ものすごく力が強い...いくら魔力で強化した私でも脱出は不可能ですね)


魔王妃(...ですが、なぜあのまま殺さずに治癒魔法を...?)


魔王妃(いえ...これは私にとっても好都合です)


魔女「...おはよう、悪いけど聞きたいことがあるの」


魔女の周りには3人の男が武器を構えていた。

もう魔王妃に拒否権などない、そう悟った彼女は首を頷かせた。


魔女「...あんた、"あの光"についてなにかわからない?」


魔王妃「...」


こくりと音が鳴る、きれいな意思表示であった。

それを見た魔女は目を見開いた、やはりこの行動は間違いでなはかった。


魔女「...当人はあの光を、神から貰ったって言ってたけど...それは本当なの?」


魔王妃「...」


彼女は首を振った。

その返答に彼女はどこか安心したような表情を浮かべた。

やはり、理にかなっていない説は抹消したかったのであった。


魔女「...あれは、なんなの?」


魔王妃「...」


なにも音はしなかった。

彼女はなにも反応をせずにいた、それが意味するのは1つしかない。

先程の意思表示だけでは答えられないからだ。

64 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:25:29.43 GmvGoknR0 993/1103


魔女「...いい、わかってるわね?」


その一言で周りの者たちの緊張感が増していく、3人の男が向ける銃口はより正確に。

後ろで拘束しているウルフも新たにハンドガンを彼女に突きつける、魔王妃の口元が開放される。


魔王妃「...随分と乱暴ですね」


魔女「黙って、少しでも詠唱の素振りを見せたら殺すわよ」


魔王妃「...」


その魔女の顔つきに既視感があった。

過去に自身もこのような顔をしていたのだろうか。

大切な者ために、己を修羅に染めるこの表情を。


魔王妃「...あの光は────」


その言葉に、魔王及び魔王妃の野望が詰まっていた。

これをするがために、この夫妻は人間界を侵略しようとしていた。

これをするがために、妻は単身で異世界に旅立ったのであった。


魔王妃「────"勇者による光"です」


勇者の光とは、何を意味するのか。

魔王妃のその苦悶の表情は、何を意味するのか。

理解が追いつかない回答に魔女は追求を行おうとしたその時、ある人物が納得をした。


ドッペル「...そういうことか」


魔女「──っ! ドッペルゲンガー...なんでここにっ!?」


ドッペル「あの宿主の身体から追い出されたのでな...だが気絶させてなければ滅びるところだった」


ドッペル「この身も...あの宿主もな」


隊員「...どういうことだ?」


ドッペル「...それはあの女が説明してくれる」


魔王妃「...話かけるな、腐れた種族が」


怒りを顕にする、どれだけドッペルゲンガーのことが憎いのか。

その理由がついに明らかとなる、魔王妃は回答を続ける。

重すぎる言葉、それをただ飲むことしかできない魔女。

65 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:27:21.92 GmvGoknR0 994/1103


魔王妃「私は...遥か過去に、人間の魔術師として生きていました」


魔王妃「そして私は勇者...そして賢者と出会い、魔王討伐の旅に加わりました」


魔王妃「...簡潔に言いますが犠牲はありましたが、なんとか魔王を討ちました」


魔王妃「問題は...討った後です」


あの世界の真実が紡がれる。

なぜこのような出来事が歴史書に綴られていないのか。

真相を知るものは、わずか2人しかいないからなのか。


魔王妃「────勇者は、ドッペルゲンガーに取り憑かれていたのです」


魔女「...え?」


魔王妃「そして...彼女は...あの忌々しい魔物に......」


そして訪れる沈黙、その答えは明白であった。

あの時魔闘士が強引に気絶させていなければ、隊長もそうなってしまったかもしれない。


魔王妃「あの時、私は殺されました...ドッペルゲンガーによって操られた勇者自らの手によって」


魔王妃「そして彼女は、私を殺した絶望感に負け...死にかけた私の眼の前で...」


魔王妃「...あの光景を忘れることはありません」


魔女「...そんなことが、過去に起きてたなんて」


魔王妃「...この事実を知ってる者は私と今の魔王、そして...賢者だけでしょうね」


やけに引っかかる賢者という名前。

それに先程、大賢者の魔力薬を飲んだときの魔王妃の反応。

彼女はあの魔力を懐かしいと言っていた。


魔女「まさか、あんたが言ってる賢者って...大賢者様のこと?」


魔王妃「...真相はわかりませんが、彼の子孫だと思われます」


魔王妃「彼も殺されたかと思っていましたが...なんとか生き残っていたようですね、それはよかったです」


魔王妃「...脱線しましたね、話を戻しましょう」


脱線した話を戻す、つまりは隊長の身に何が起きているかという話だ。

今の魔王妃の発言から推理すればもう答えは明白であった。

彼の中にもう1人、誰かがいる。

66 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:29:07.11 GmvGoknR0 995/1103


魔女「...まさか、キャプテンは2つのドッペルゲンガーに憑かれていたってわけ?」


魔王妃「そういうことになります...あの光の魔力は間違いありません」


魔女「そんな...いつ...どこで憑かれたのよ...?」


ドッペル「...俺が取り憑いた時にはすでに、奴はいたぞ」


今の発言がどれだけ重要なモノなのか。

逆に言えば、なぜ今までそのことを黙っていたのか。

それはこの魔物は味方ではないからであった、魔女はその事実を頭の中で無理やり理解させる。


魔王妃「...私は長年、あの偽物の勇者を探していました」


魔王妃「ようやく掴めた手がかりは、わずか10年くらい前でした」


魔王妃「...人間界に、勇者の魔力を感じたのです」


魔女「...続けて」


彼女は語る、己の野望を。

10年前、魔物の彼女からすればわずかな時だ、その過去になにが起きたのか。


魔王妃「...その魔力は、とある人間に付着していました」


魔王妃「それを逃すべきではない、すぐさまに私はその者を拉致しました」


魔王妃「...それが、研究者のことです」


隊員「────ッ!?」


研究者というのは、あちらの世界での名前であると隊長は言っていた。

そのことを忘れずにいた隊員はその言葉に動揺する。

まさか、あの男が重要人物だとは思いもよらなかった。


魔王妃「...ですが残念ながら彼を拉致したところで、目的は果たせませんでした」


魔王妃「だけれども、少なくともまだ人間界に奴がいる...そう踏んだ私たちは人間界への干渉を試みました」


魔王妃「侵略を行い、魔界として統治すれば...人探しが簡単になりますからね」


魔女「...それが、魔王軍が動いていた訳ね」


魔王妃「えぇ...そうです」


67 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:31:40.04 GmvGoknR0 996/1103


魔王妃「...しかしですね、ある程度時が経った時に...もう1つの可能性が生まれたのです」


魔女「...転世魔法ね?」


魔王妃「そうです...私の感知能力でも、なかなか見つけることができずにいた訳ですから」


魔王妃「...新たな可能性として、異世界へと着目したのです」


これまでの魔界の動きがようやく明らかとなった。

彼女はついに尻尾をつかめたのであった、あそこで横になっている人間の彼が鍵だ。


魔王妃「...私の目的は、勇者を装う無礼者にトドメを刺すこと」


魔王妃「そして今...ようやく...ようやく、奴を捉えることができました」


魔王妃「身勝手な話にしか聞こえないでしょうが、これを逃すわけにはいきません...」


魔王妃「...離してください、あの憎たらしい魔物を殺させてください」


隊員「...随分都合がいいな、お前が呼び出したZombie共がどれだけ人を殺したと思っている」


魔王妃「...ですが、話したところで納得してくれましたか?」


魔王妃「この世界で私ができるのは...侵略、そしてドッペルゲンガーを炙り出すことです」


魔王妃「...私の野望の邪魔をするな」


あのまま侵略を進めてこの世界を統べることができたのなら。

確かに人探しなど容易だろう、彼女の選択は間違いではない。

醸し出されるの雰囲気は渇望、そして執念。


魔王妃「──私の大切な"あの子"の無念を...晴らさせてくださぃ...」


そして、涙であった。

彼女は女性だ、その考え方は男性と異なる。

愛する者のためなら、全てを敵に回してもいい。


隊員「...」


魔女「...」


主要人物が2人、このチームのトップは間違いなく魔女と隊員。

その他の者は指示を待つことしかできずにいた。

長い沈黙が訪れた後、ようやく答えをだせた。

68 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:32:59.16 GmvGoknR0 997/1103


隊員「──Put the gun down...」


隊員B「Are you mental...?」


隊員A「...」


その命令、真っ先に従ったのは隊員A。

少しばかりの悶着がありつつも、隊員Bも続く。

そして当の隊員の顔つきはとても険しいモノであった。


魔王妃「...ありがとうございます」


隊員「...全てを許したわけじゃないからな」


隊員「別の形で罪を償ってもらう...だがそれはCaptainをどうにかしてからだ」


魔女「...ウルフ、離していいよ」


ウルフ「...わかったよ」


羽交い締めにしていた魔王妃をゆっくりと開放する。

しかし彼女は自力では立てないまで負傷をしている。

それを哀れに思ったのか、優しいウルフは肩を貸してあげた。


魔王妃「...ありがとう」


ウルフ「...どういたしまして」


魔王妃「ではまず...アレを解除します」


そう言うと彼女は、魔力の籠もった言葉を口にする。

それはあの惨劇を引き起こした魔法に関するモノ、すぐに効果は現れた。


魔女「...今の、使い魔召喚魔法?」


魔王妻「それを解除しました」


ウルフ「...っ! 見てっ!」


ウルフが指さした方向、かなり遠くにゾンビが居た。

だがソレは徐々に魂を失っていく、生ける屍がただの屍へと変貌する。


隊員「...これでもう、Civilianに被害はでないな」


魔王妃「...ご迷惑をお掛けしました」


魔女「それで、これからどうすればいいの?」


魔王妃「...え?」


なぜ彼女は困惑をしているのか。

魔王妃は1人で全うしようとしていた。

だからこそ、魔女の発言に言葉をつまらせていた。

69 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:34:46.81 GmvGoknR0 998/1103


魔女「悪いんだけど私が手伝うんじゃないわよ、あんたが手伝うのよ」


魔女「私たちの目的は勇者のドッペルゲンガーじゃないわ、キャプテンよ」


隊員「...Exactly」


ウルフ「そうだねっ!」


魔女「私たちだけじゃどうすることもできない...手の届かないところはまかせるわよ」


魔王妃「...そうですか...そうですね」


魔王妃「わかりました...この身が滅んでも、彼を助けることを誓います」


魔王妃「そのついでに、憎たらしいドッペルゲンガーを祓ってもよろしいですか?」


魔女「...いいわよ、あんただけじゃなにするかわからないしね」


先程まで殺し合っていたというのに。

魔王妃に至ってはこの世界の住民を殺害したというのに。

だが彼女がいなければ、隊長はどうなってしまうのかが明白。


隊員「で、なにをしたらいい」


魔王妃「...まず私がありったけの魔法を彼にぶつけます」


魔王妃「それで彼に憑いているドッペルゲンガーを引き剥がします」


魔女「...引き剥がせなかったら?」


魔王妃「...それしか方法がないのです」


魔王妃「ドッペルゲンガーが自らの意思で離脱しなければ、宿主から離れることはありません」


そう言うと彼女はあの憎たらしい魔物を睨みつけた。

まるで証明をしろと言わんばかりの眼光。

圧倒的な威圧感を持つ彼女に、上位属性を持つはずである彼は思わず返答する。


ドッペル「...たしかにそうだ、第三者がドッペルゲンガーを宿主から引き剥がす方法などない」


ドッペル「ならばできるのは、その宿主から離れたくさせる行為だけだ」


ドッペル「つまり...先程この女が言ったとおり、あの宿主の身体を痛めつけて離脱を促すしかない」


魔女「...本当にそれしかないの?」


隊員「話の内容は理解した...だが、これじゃCaptainへの負担が大きすぎるぞ」


先程の激戦、ある程度の威力は把握している。

だからこそ2人は別の方法を促していた。

あの天災じみた威力を誇る魔法を隊長に当てたとしたら、どのようになってしまうのか。

70 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:36:27.30 GmvGoknR0 999/1103


ドッペル「...ない、こればかりは本当だ」


魔王妃「彼が大事なのはわかります...だけどこれをしなければ彼は二度と自我を取り戻せないですよ」


隊員「...Fuck」


魔女「...わかった、その方向で行きましょう」


ウルフ「...いいの?」


魔女「うん...これしか...手はないみたいだから」


ウルフ「...きっと、ご主人ならたえてくれる...そうだよね」


魔女「そう...ね、いつもの頑丈さを見せてくるわ」


とても不安げな表情をする魔女に、ウルフは身を寄せた。

まるで悲しんでいる飼い主に寄り添ってくれる飼い犬のように。

ウルフの柔らかな毛並みが魔女の頬をうめた。


魔王妃「...あのドッペルゲンガーは宿主を乗っ取ることに成功し、完全に勇者の魔力を得ています」


魔王妃「だから光魔法を扱えています...なので、魔物である私たちは一瞬の油断が命取りです」


魔王妃「...もしもの時は、あなた方が頼りです」


隊員「...わかった、善処しよう...ちなみに光魔法とはどんな魔法なんだ?」


魔王妃「そうですね...魔物には人間とは違う動力源があるんですが」


魔王妃「光魔法はその動力源を抑制する効果があります...つまり、呼吸がしづらくなるのと原理は同じです」


隊員「なるほどな...人間相手にはあまり効果はなさそうだな」


魔王妃「その通りです...ですが、ドッペルゲンガーとは闇の魔物...おそらく闇魔法も放ってくるでしょう」


隊員「...その闇魔法とは?」


魔王妃「単純な話です、闇はすべてを破壊してきます」


魔王妃「黒い魔法が見えたら、絶対に当たるべきではないです」


隊員「...わかった」


ドッペル「安心しろ、光はともかく闇に関しては俺がなんとかしてやる」


魔女「...やけに協力的ね、なにか企んでいるの?」


ドッペル「お前は自分の住処に見ず知らずの誰かが居て、不快だと思わないのか?」


魔女「...あんたも似たようなもんでしょ」

71 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:37:32.09 GmvGoknR0 1000/1103


ドッペル「...ともかく、俺もあの宿主の元へと戻りたい」


ドッペル「一時協力させてもらうぞ...こんな見ず知らずの土地で住処を追い出されるのは溜まったものじゃない」


魔女「そう...ありがとうね」


魔女の愛しの人物と瓜二つのこの男。

純粋な味方ではないが、利害の一致とのことで協力体制に。

彼の黒の魔法がどれだけ優位な手札になるだろうか。


隊員「...Listen to me」


隊員A「Okay」


隊員B「...Understand」


日本語についていけない2人の為に隊員は通訳をする。

それを尻目に彼女は単純に気になったことを魔王妃に投げかける。

先程、殺されたという発言が引っかかっていた。


魔女「...ねぇ、さっき殺されたとか言ってたけど」


魔王妃「気になりますか?」


魔女「気になるわね、少なくとも蘇生が可能な魔法なんて知らないしね」


魔王妃「...そうですね、まずは私と夫との馴れ初めから話しましょうか」


魔女「あー...恋愛話なんて久方ぶりに聞くわね...」


魔王妃「まず、私が死亡した場所は魔界でして...化石のような亡骸がどこかに残っていたらしいんです」


魔女「へぇ...」


魔王妃「それを夫が、使い魔召喚魔法の媒体にしたのです」


魔女「...へ?」


魔王妃「......」


彼女は淡々と語りすぎていた。

そして訪れたのは静寂、つまりは話は終わったということ。

それがどれほど凄まじい状況なのか、魔女は高い声で反応した。

72 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:39:41.87 GmvGoknR0 1001/1103


魔女「えっと...つまり魔王は常に魔法を継続させてるってことっ!?」


魔王妃「そうなりますね、本人はあと200年はいけると仰ってました」


魔女「えぇ...どんな魔力量しているのよ...」


魔王妃「はじめは私の魔力を目当てに蘇らせて、召使いにしていたのですが...」


魔王妃「いつの日か、魔王城の清掃を終えた私の寝床に────」


魔女「──それ以上はいいわ...魔王子の誕生秘話なんて聞きたくないわよ...」


魔王妃「...そうですか」


魔女「というか...死体のままでも魔力は残るのね...そっちの方がびっくりよ」


魔王妃「...亡骸の保存状態が非常によかったらしいです、あとは私の元々の魔力量が桁違いだったので」


隊員「...ちょっといいか?」


他愛のない会話が終わると、隊員たちが合流してきた。

そして彼らの話し合いの結果を伝える、それはとても戦略的な提案であった。


隊員「隊員AとBはひとまず帰還させることにした」


魔女「そう、わかったわ...」


隊員「それで彼らにはある武器を取りに行かせる...この世界でかなり強力なヤツだ」


魔女「...まだ優秀な武器があるの? 正直ウルフの持っている小さなアレだけでも凄いんだけど」


隊員「...強力な武器があることはあまり良いことではないが...今は褒め言葉として受け取っておこう」


隊員「それでだ、そうなるとここにいる人間は1人になるわけだが...」


隊員が懸念しているのは時間だった。

それを述べようとした瞬間に2つの声が答えを導く。

1つ目は時間について、もう2つ目は戦略について。


ドッペル「...あまり時間はないぞ、もうじき目覚める」


魔王妃「...ですが、逆に好都合かもしれません、向こうがどのようにして動くのかがわかりませんから」


魔王妃「決して貶しているわけではありませんが...奴の魔法に人間が耐えれるとは思えません」


魔王妃「初めは武器を取りに行ってもううのを兼ねた退避をしてくれたほうがこちらとしては楽です」


相手がどのような戦術をするのかがわからない中、人間の味方を護るのは至難。

だからといってただの人間がいなければ魔物は光に抗えない。

ならせめて行動パターンが読めた頃にいてくれればコチラとしても楽、魔王妃はそう伝えた。

73 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:40:57.96 GmvGoknR0 1002/1103


隊員「...なるほど、言いたいことは理解した」


隊員「まぁ...先程見せられたあの嵐のような魔法を見せられた後じゃ、食い下がれないな」


隊員「あの魔法以上のモノがくるかもしれないというなら、はっきり言って我々は邪魔にしかならない」


魔王妃「...聡明ですね、そのような判断をしてくれて助かります」


隊員「だが、要所では活躍させてもらう」


隊員「...こちらの世界の武器は、かなり遠くからでも攻撃できるからな」


魔王妃「それは身をもって実感しています、とてもじゃないがアレを予測することは不可能です」


そういうと彼女は腹部の傷を見せつけた。

そこにはエゲツないほどに跡が残った銃痕が。

先程のアンチマテリアルライフル、その威力が伺える。


魔王妃「...魔法も介さずにこの威力は若干引きますね」


隊員「それはコチラのセリフだ...普通コレで撃たれたら跡形もないぞ...」


魔女「それで、結局どうする? 隊員さんも一度退避しておく?」


隊員「...いや、初っ端にその光魔法とやらが来たら一溜りもないんじゃないか?」


魔王妃「そうですね...かなり危ない橋を渡ることになりますが...1人は残っててもらいたいです」


隊員「それなら先程の話通りだ、私がここに残る...すこし離れた場所でな」


魔王妃「...お願いします」


隊員「......あぁ」


とても複雑な表情をしていた。

やはり協力体制とはいえ、この女はテロリスト。

微かに沸き立つ殺意を抑えながらも、彼は返事を全うした。


隊員A「...Be careful...Please」


隊員「I Know...I Know...」


まるで母親のような口ぶりに思わずほくそ笑む。

だが当人は至って真剣、その様子は彼の目を見れば伝わった。

わかってるよ、隊員はそう言葉を投げ返した。

74 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:42:33.94 GmvGoknR0 1003/1103


隊員B「Use this...」スッ


隊員「...Thank you!」


隊員B「...Find somewhere to hide」


彼が渡したのは先程の魔王妃を仕留めた一品。

いい場所を見つけて、隠れながらこれを使えと隊員Bは皮肉交じりに言う。

強烈な武器、アンチマテリアルライフルが隊員の手に。


ドッペル「...そろそろ、来るぞ」


隊員「...Go move...Let's meet again AMIGO!」


彼は彼らしい優しい顔で、上司としての指示をだした。

そしてそれを受け取った部下たちは親指を立てただけであった。

これで最後の会話かもしれないというのになんと素っ気ないモノなのか。


魔女「いいの...? 最後の会話かもしれないのよ?」


隊員「...素っ気なさすぎて、これが最後の会話だと思えんだろ?」


魔女「...そういう意味ね、じゃあ大丈夫ね」


一種のジンクスかもしれない。

こんなしょうもない最後があってたまるか。

彼は何が何でも生き残るつもりだった、この逆説的な意味合いがそれを物語る。


魔女「なんだか...隊員さん、キャプテンみたいね」


隊員「それはそうさ、Captain以外と話をするときは彼を真似ているからな」


魔女「あー、確かに...結構似てるわね」


隊長の口調を真似る男がここに。

だがこの微笑ましい空気感は一瞬にして凍りつく。

それは、隊長の姿形を真似る男がそうさせたのであった。


ドッペル「────奴が目覚めるぞ」


なにか、とてつもなく重苦しい空気感。

それに反応してなのか、激しいビル風が彼らを通過した。

そして目覚めるのは真似られた男。

75 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/27 22:43:08.70 GmvGoknR0 1004/1103











「...偽るのはやめたほうがいいか」














続き
隊長「魔王討伐?」 Part10

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