隊長「魔王討伐?」
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592 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:13:54.97 +PdZFHeT0 564/1103


~~~~


??1「......」


どこか、暗い部屋の中。

1人の少年が布に包まっている。


??1「......とうさま」


少年は嘆く、その孤独感は文字通りの意味。

呼び名からして心底尊敬している風に思える。

きっと威厳のある父なのだろう。


??2「...坊や、おいで」


いつの間にか柔らかな声が聴こえる。

少年はその声の主に頭を預ける、とても素直であった。

母だ、こんな小さな子が心を許せるのは母親以外ありえない。


??1「かあさま、とうさまはいつもどるの?」


??2「...わからない、でもあの人は私の為にしてくれているの」


??1「...そんなぁ」


??2「嘆かないで、もうしばらくの辛抱だから...」


??1「...うん」


??2「...ほら、きもちいい?」スッ


──ふわりっ...

母と思しき人物が、少年の頭を優しくなでた。

それと同時に香るのは、心地の良い母の香り。

悲しみに近い表情だった彼に笑みが溢れる。


??1「かあさま...もっとして」


??2「...ふふ、甘えん坊ね」


??1「かあさま...」


~~~~

593 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:15:24.44 +PdZFHeT0 565/1103


~~~~


魔王子「────ッ」ピクッ


???「...起きた?」


柔らかい声を投げかけてきた。

しかしそれは過去のものとは違う。

心地の良い夢から覚めた魔王子は、女勇者に問いかける。


魔王子「...どうなっている」


女勇者「あはは...やっぱりそう思うよね」


女勇者「...君が倒れたあと、僕がこの人を倒したんだ」


風帝「────」


女勇者「その後、この人を光で完全に動けなくさせたんだ」


魔王子「...俺が敗北した風帝を、貴様が討っただと?」


女勇者「うん」


魔王子「...ふざけるな」


女勇者「ふざけてないさ」


魔王子「...」


彼女を見つめるが、傷など1つも見当たらない。

自分との差に苛立ちが募るが、寝起きの風が彼を冷静にさせている。

この女は自分と何が違うのか、それは明白であった、白と黒の差であった。


魔王子「...光とは恐ろしいものだ」


女勇者「そんなことないよ、ちゃんと使い方を間違えなければね」


女勇者「っていうか、君も光の魔力を持ってるじゃないか」


魔王子「...どの口が言うか、これは貴様のだ」


女勇者「へ?」


魔王子「説明は省く...下にいる者に聞け」


女勇者「えぇ...よくわかんないなぁ」


女勇者「光の魔力を持ってたから、味方だと思ったんだけどなぁ...」


魔王子「...■」


女勇者「──うわっ、闇だっ!?」

594 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:17:14.33 +PdZFHeT0 566/1103


女勇者「ってことは魔王の息子ってのも嘘じゃなかったのか...」


魔王子「...こいつが勇者なのか」


女勇者「わ、笑ったな?」


魔王子「──ッ」ピクッ


そんなことはないはず。

彼の顔が一瞬にして強張った。

彼の笑顔を見るのは、ただ1人の存在にしか許されない。


魔王子「...笑うものか」


女勇者「...」


ただならぬ雰囲気に彼女は追求することをやめた。

なんとなく察した、彼には笑顔を嫌う理由があるのだろうと。

そんな時だった、馴染みの顔が語りかけてきた。


???「暗黒の王子ともあろう者が...このような小娘に振り回されているのである」


魔王子「...風帝」


風帝「...身体は依然動かないのである...だが、喋ることは苦しいながらできるのである」


女勇者「ふぅん...風帝って言うんだ」


風帝「...」


風帝は魔王子に対して話を続ける。

この女に恐怖感を植え付けられたからであった。

どんなに可愛らしい見た目であろうが、返事をすることが怖くなっていた。


風帝「...吾輩はもうすぐ死ぬであろう」


女勇者「僕は殺す気なんてないよ」


風帝「......このまま魔王城に帰還しても、魔王様に殺されるのである」


魔王子「...なにが言いたい?」


風帝「...魔王子よ、吾輩は四天王最古参...貴方様の小さい頃を唯一知っているである」


風帝「敵に情報を与えるなど、二流がやること...ですが今は魔王軍としての発言ではないである」


風帝「かつての同胞として聞いてほしいである...」


魔王子「...」

595 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:18:31.51 +PdZFHeT0 567/1103


風帝「──今日日は"日食"である...」


女勇者「...え?」


魔王子「そのような日だったのか...」


風帝「気をつけるである...もうじき、日が登るである...」


女勇者「ど、どういうこと...日食だとなにが起きるの?」


風帝「...あ、ある種類の魔物の群れが活動的になるである」


風帝「そいつらは強靭かつ迅速...そしてなによりも人海戦術が得意である」


風帝「...この列車にすら簡単に追いつくである」


女勇者「...そんな」


魔王子「数十年に1度の日食だ...奴ら血気盛んだろうな...」


風帝「...言いたいことは以上である」


魔王子「...あぁ」


風帝「では、頼むである」スッ


動けず、横ばいの状態である。

だが首を差し出した風に見えた。

一体何を頼むのか、女勇者には見当がつかなかった。


女勇者「...え?」


魔王子「...さらばだ」


風帝「...我が弟子よ、今逝くである」


魔王子「────逝け」スッ


────ガギィィィィィィンッ!!

魔王子の抜刀、それにしてはあまりにも鈍い音であった。

いつもならあの尖すぎる空気を裂く音が聞こえるというのに。

なぜなのか、それは彼の剣術が彼女の持つ魔剣によって妨害されたからである。

596 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:19:28.97 +PdZFHeT0 568/1103


風帝「...邪魔をするな、である」


魔王子「...何をする」


女勇者「待って、意味がわからないよ」


女勇者「さっきまでは確かに敵だったよ」


女勇者「でも、今の会話を聞いてたら...僕には家族のように見えていたよ?」


女勇者「...どうしてそんな簡単に殺そうとするの?」


風帝「...やめるである」


女勇者「この人は君のためを思って、日食の情報を教えてくれたんだよっ!?」


女勇者「君が負けても、この人は殺そうとせず連れ去ろうとしてたんだよっ!?」


女勇者「もしかして、日食が来る前に...君だけでも安全な場所に連れて行こうと────」


風帝「────やめるであるッッ!!!」


雷のような叫び声、彼女は口を閉じるしかなかった。

察してしまったのであった、この魔物の覚悟を。

だが察した所で、女勇者は納得できずにいた。


風帝「...頼む、魔王子」


女勇者「──なんで?」


魔王子「────誇りだからだ」


────スパッ...!

果物が切れるような音だった。

転がり落ちるその顔は、非常に穏やかなモノ。

まるで、聞きたかった言葉が聞けたような顔つきであった。


女勇者「────っ!?」


女勇者「......やっぱり闇ってわからないよ」


魔王子「それでいい...光は闇を知る必要はない...」


女勇者「......急いで女騎士を起こさないと」

597 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:20:02.09 +PdZFHeT0 569/1103











「ツヨイ、マリョク、カンジル」










598 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:23:07.16 +PdZFHeT0 570/1103


彼らは勘違いをしていた、まだ時間に猶予があると思った。

だが日食が起きるということは、日が登っても暗いままということ。

もう夜明けだというのに明かりが登らない、日食はすでに始まっていた。


魔王子「──"属性付与"、"闇"■■■■」


女勇者「──"属性付与"、"光"□□□□」


???「コトバ、ヒサシイ、コロス」


光と闇が現れた魔物に直撃する。

敵を確認してから1秒も立っていない。

ずば抜けた判断能力が謎の魔物を消し飛ばした。


女勇者「──いまのはっ!?」


魔王子「..."死神"だ、死霊が媒体を必要とせずに進化した者と言われている」


魔王子「死霊同等に触れると即死だ...気をつけろ」


女勇者「──くるよっ!」


死神1「コヤツラ、ツヨイ、マケン、ホシイ」


死神2「マケン、ナル、ヒツヨウ」


今度は2匹の死神が現れた。

そしてそのうち1匹は形状を変え始める。

その光景はとても神秘的であった、過去に見たことがあるあの光景。


魔王子「..."魔剣化"か、いとも簡単にやられると貴重な場面だと到底思えんな」


女勇者「これが魔剣化かぁ...僕も魔剣ほしいなぁ、これは借り物だし...」


死神1「シネ」


────スパッ...!

死神の横切りが空を裂いた。

魔剣化が進み、死神の1匹が鎌のような形状へ変化していた。

彼らはお互い原始的に、しゃがむことで剣気を回避をした。


魔王子「剣気でこの威力か...」


女勇者「まずいなぁ...僕は剣気を使えないからあの距離だと攻撃できないよ」


魔王子「...ならば指を加えて見てろ■■■」スッ


────■■ッ!

限りのある魔力を節約した、少量の闇が死神に直撃する。

少ないと言ってもその質はあまりにも高純度、死をもたらす威力であった。

599 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:24:36.51 +PdZFHeT0 571/1103


死神1「ヤミ、イタイ、モウスグ、シヌ、オマエモ、シネ」


闇に悶ながらも、死神は特攻を仕掛けてきた。

2人に急接近しながら、鎌を振り回そうとしてきた。


女勇者「──□□ッッ!」グッ


────バキィィ□□□□ッッッ!

光をまとった女勇者のシールドバッシュが炸裂した。

現在は盾を持っていないので、実際は鉄山靠といえる。


死神1「────オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?!?」


魔王子「耳障りだ...■」


闇が魔物を飲み込む。

光がそれを照らすと、死神の姿は確認できなかった。

とても初めてとは思えない連携で、厄介なあの魔物を倒した。


魔王子「...触れたら即死だぞ、何を考えている」


女勇者「うーん、今のは纏っていた光に当たった感じかな」


魔王子「愚かな...それでも人類の希望か?」


女勇者「心配してくれてありがとう、次から気をつけるね」


魔王子「...戯言を」


女勇者「それよりも、早く戻ろう!」


魔王子「そこの梯子から車内に降りろ────」ピクッ


死神3「──ヒトツ、マケタ、フタツ、ホシイ」


死神4「マケン、マケン」


死神5「コロス、マケン、ナッテ、コロス」


魔王子「...先にいけ」


女勇者「うんっ!」


魔王子「────ッ!? 待てッ!」


死神3「..."テンイマホウ"」


詠唱には気づいたが静止の勧告は遅かった。

気づけば、梯子の着地地点に死神がいる。

避けようがない、このまま着地とともに死神に接触してしまうだろう。

600 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:26:07.10 +PdZFHeT0 572/1103


女勇者「しまっ────」


──ダァァァァァァァァァァンッッ!

死は免れない、それ故に彼女は瞳を閉じていた。

すると聞こえたのは、聞いたことのない炸裂音であった。

そして続いたのは、久々の仲間の声であった。


女騎士「...そのそそっかしさは間違いなく女勇者だな?」ジャコン


女勇者「──女騎士っ!?」


女騎士「話は後だ、まずはこいつを倒すぞ!」


死神3「イタイ、コノブキ、シラナイ」


女勇者「僕も知らないんだけど...」


女騎士「私も知らない...だが、前方を全面的に攻撃するモノらしい」スチャ


──ダァァァァァァァァァンッッッ!

死神の頭部に命中し沈黙を余儀なくされた。

アサルトライフルとは違い、簡単に狙いに当てることができる。。


女騎士「...爽快だ」ジャコン


女勇者「いいなぁ、どこで手に入れたの?」


女騎士「借り物だ、それよりきゃぷてんと魔女を守らねば」


魔王子「...目覚めたか」スッ


女騎士「あぁ、魔王子か...屋根に居たのか、道理で見当たらないわけだ」


魔王子「...気をつけろ、奴らの真骨頂は人海戦術だ」


魔王子「今のは斥候程度と考えたほうがいい」


女騎士「ということは本番はここからか...早く彼らを起こした方がいい」


女勇者「あ、そうだ...あの魔物に触れたら即死らしいよ」


女騎士「...それは、もっとはやく言ってくれっ!」


──ガチャッ!

おそすぎる注意にツッコミを入れる中、到着する。

これを開いたら彼らがいるはずだ、女騎士は力強く扉を開けた。


女騎士「...まだ起きていないか、襲われていなくてよかった」


女勇者「あの人たちは?」


女騎士「あぁ、紹介するさ...長旅で疲れていると思うが起きてもら────」

601 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:26:50.21 +PdZFHeT0 573/1103











「ソコダ」










602 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:28:56.21 +PdZFHeT0 574/1103


────ザンッッッ!!!!

女騎士が魔女へと駆け寄ろうとした瞬間に、視界がずれた。

同じ車両にいるのに、魔女たちがどんどん離れていっている風にみえる。


死神6「ハズシタ、ツギ、アテル」


女騎士「──魔女っ!」


死神の鎌による剣気よってこの車両は切断された。

切り離された車両は徐々にバランスを崩し始める。

そして、タイミング悪く彼女が目覚めた。


魔女「────っ!」


前方の部分が傾き、線路と摩擦し合う。

その騒音で魔女の言葉はかき消されている。

ついには車両が跳ね上がり、左方向へ吹き飛ぶ。


女勇者「────"防御魔法"っっ!!」


──ガタンッッ!!

吹き飛ぶ直前、魔女と隊長に魔法がかかる。

そして、彼らは視界から完全に消えてしまった。


女騎士「──魔女おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」


この列車が走っているのは橋の上、そして下には湖。

身を乗り出し、そのまま湖に向かって飛び込もうとする。

しかし、それは仲間によって阻止される。


女勇者「魔法はかけたっ! 祈るしかないよっっ!!」


魔王子「...周りをよく見ろ」


先程の剣気によりこの列車の見晴らしはとても良いモノに

そこから見えたのは、大量に展開している死神共であった。

この列車の速度がなければ簡単に追いつかれている。


魔王子「いま列車を止めるわけにはいかん...助けに行くのも無理だ」


女騎士「...この薄情者っっ!!」


魔王子「なんとでも言え...ここで俺らが死ぬのをあの人間が望むと思うか?」


女騎士「...っ!」


その言葉を聞いて、冷静になる。

軍人としての自分が頭に水をかけたような感覚だった。

戦う者として1番大事なこと、それは犠牲を払ってでも目標を達成すること。

603 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:30:55.44 +PdZFHeT0 575/1103


魔王子「...正直、防御魔法をかけたからといって生きてるとは思えん」


魔王子「最善手は、ここを退けこのまま最速で魔王城へ突入することだ」


非常に非情な決断だった、だがこれが最大に理にかなったものであった。

少人数精鋭が得意な戦略といえば速攻、逆を言えば時間がかかるほどに消耗させらせやすい。

この場を退けても、助けにいく時間すら惜しい。


女騎士「────っ!」


悔しさのあまり、口から血が滲む。

怒りのヘイトは魔王子でもなく、死神でもなく、理解してしまえる自分だった。


魔王子「だが...」


不思議とある物が視線を捉えた。

それは女勇者が持っているユニコーンの魔剣だ。


魔王子「...俺は祈る、それも強く」


この場合の祈りの意味、女騎士には理解できた。

彼の口から初めて聞いた、あまりにも人間臭い言葉だった。


女騎士「...彼らは強い、私も祈ろう、諦めずに」


背負っているショットガンを構える。

この武器を持っていると不思議と勇気が湧いてくる。

この世界で何度も修羅場を乗り越えた彼の気持ちが篭っている。


女勇者「...2人とも、こんなに強いんだね」


女勇者が魔法をかけたのは、彼ら2人が弱いと思ったから。

きっと、このままだと死んでしまうだろうと思ったからであった。

だが魔王子と女騎士はそうは思っていない、防御魔法がかかっていなくとも同じことを祈っただろう。


女勇者「あの2人のことは知らないけど、君たちがそう言うなら生きてるさ」


魔王子「俺の全力を破った男と女だ...簡単に死なれたら困る」


女勇者「へぇ、君の全力かぁ...それも気になるけど、彼らも気になるなぁ」


女勇者「次はちゃんと紹介してよね!」


女騎士「当然だ、まず彼の出身を聞いたら驚くぞ?」


笑みをこぼしながら、雑談を始める。

大量の死神が展開しているというのに、呑気な光景であった。

604 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:32:34.01 +PdZFHeT0 576/1103


死神6「シネ」


──■ッ!

言葉を発した死神の1匹が闇の剣気に切り裂かれた。

無粋な魔物に待っているのは、死あるのみ。


魔王子「死ぬのは貴様らだ...」


女勇者「そういえば、女騎士からも僕の魔力を感じるね」


女騎士「あぁ、話せば長いがな」


女勇者「...ちょっと試すね?」


女騎士「うん?」


女勇者「..."属性付与"、"光"」


返答も待たずして行われた実験。

女騎士の身体が光りに包まれる、先程風帝にも行ったモノ。

待っているのは身体の力が抜けるような感覚、のはずだった。


女騎士「...これはっ!?」


魔王子「...なるほどな」


女勇者「やっぱり...うまくいった!」


女騎士「な、なにがおきているんだ...?」


自分の身体が光り輝いている。

本来なら、風帝のように行動不能になるはず。

しかし決定的な箇所が奴とは違う、だからこそ光を受け入れている。


女勇者「僕の魔力を持っているってことは、光を受け入れられるはずだよ!」


光は光を抑えることができない、フグが自分の毒で死なないのと同じ。

自分の魔力が女勇者の魔力に侵されている、つまりは光に抑制させられる魔力が存在していない。

倦怠感や自分の魔力が使えないが、女勇者による光の恩恵を受け入れられる身体を得ている。


女騎士「これは...非常に頼もしいぞ」


女勇者「悪いけど...僕は遠距離攻撃ができないから、魔法で援護させてもらうよ!」

605 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:34:28.43 +PdZFHeT0 577/1103


女勇者「"治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

別の光が3人を包み込むと、身体にできた傷がみるみる塞がっていく。

賢者の修行を終えた魔女の魔法には劣るが、それでも十分なモノだった。


魔王子「...強い光だ」


女騎士「そうか...女勇者は普通に魔法が使えるのか」


女勇者「えへへ」


女騎士「...完全に魔法が使えないのは私だけか」


魔王子「そう悲観するな、俺も徐々に抑えられている」


魔王子「...あと1日持つかどうかだな」


自分の魔力はすでに枯渇しているというのに。

だが彼女はその差にへこたれない、自分には自分のできることをする。

それが彼女の騎士道、絶対に折れない心の要因であった。


女騎士「せめて足を引っ張らないようにするさ」スチャッ


──ダァァァァァァァァァァン□□□ッッッ!!

光に包まれた散弾が複数の死神の命中する。

肉眼では目視できない弾速、威力、拡散力、そして光。

あらゆる点が優れている攻撃に、奴らは一撃での死亡を余儀なくされた。


魔王子「...どの口がいうのか」

606 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/11 20:36:06.82 +PdZFHeT0 578/1103


女勇者「すっごいねその武器...」


女騎士「予め魔女が弾とやらを大量生産していたようだな...それが吉となったか」ジャコン


弾とやらを作っていたその光景、それは列車に乗り込んですぐであった。

抜け目のない魔女は治癒魔法と伴に、弾丸の精製も行っていたようだ。

鎧の収納に入れた実包を確認する、残り30発程度だが派手にばら撒かなければ十分。


魔王子「...貴様は接近した奴らにソレをぶち込め」


魔王子「遠くの奴らは俺がやる...」


女勇者「僕は魔法であいつらの動きを鈍らせてるかなぁ」


女騎士「...ふふ」


女勇者「どうしたの?」


女騎士「いや...久々に一緒に戦えるな」


女勇者「...そうだね」


女騎士「この絶望的な状況...だというのに、希望が湧いてくる」


女騎士「ここを乗り越え、彼らの生還を祈り...魔王に打ち勝とう」


自暴自棄や楽観的すぎる発言ではない。

彼女自身が心底そう思っている、女勇者の復帰が彼女をみなぎらせている。


魔王子「────くるぞ」スッ


──■■ッッッ!

魔王子の闇の音が、戦いの火蓋を切った。

だが直面しているのは絶望的な兵力差、決して楽な戦いではない。

しかし彼らの心には、少しばかりの余裕を保つ事ができていた。


~~~~

608 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:46:30.35 UVylX/mi0 579/1103


~~~~


???「...ここは?」


身体が冷える、まるで水に浸かっているような感覚。

周囲を確認すると、どうやら浜辺で横たわっていた様だ。

彼女の名前は魔女、そしてその横で倒れているのは当然彼であった。


魔女「──きゃぷてん...っ!」


隊長「────」


少し離れたところに彼は横たわっていた。

列車ごと湖に落ち、流されて浜辺に打ち上げられた様子であった。

未だに目を覚まさないが呼吸はしている、どうやら女勇者による防御魔法が一命をとりとめた。


魔女「...どうしよう」


自分の手持ちを確認する。

幸いにも無くし物はなかった。

目覚めない彼の横で、ハンドガンを力強く握る。


魔女「...」


彼ならどのような決断を下すだろうか。

ここぞという修羅場では、いつも彼の判断に身を委ねていた。

塀の都で、判断に困っていた帽子の気持ちが今になってわかる。


魔女「...こんなに難しいことなんだ」


こんなにも絶望的な状況なのに不思議と涙がでなかった。

これは希望があるからではない、諦めの意味が強かった。


魔女「...進まなきゃ」


か細い腕で、隊長の支える。

体重のある彼を肩で支えるのは厳しいもの。

ただでさえ光に侵されているというのに、それでも彼女は前に進もうとする。


魔女「ここは...」


浜辺を離れると、すぐに景色が変わる。

鬱蒼とした密林の入り口が立ちはだかった。

609 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:48:07.31 UVylX/mi0 580/1103


魔女「...そういえば」


暗黒街の宿で見せてもらった地図を思い出す。

列車に乗れば湖、密林、そして城下町を通過し魔王城に到着する。

無計画に進んだ道は正解だった。


隊長「────」


魔女「...行くわよ」


1人で会話をすることで正気を保つ。

頼れる人が誰もいない、自分自身でどうにかしなければならない。

あまりにも過酷な状況であった、ゆらゆらと彼を支えてゆっくりと歩み始める。


~~~~


~~~~


魔女「...ひどい臭いね」


密林に入って間もなく、感じたのはその悪臭であった。

生物が腐った匂い、探せば死体が転がっていると思われる。


魔女「...っ」


──ぐちゃっ

次に感じたのは足場の悪さ。

植物の根っこと泥と思しきものが組み合わさって最高に歩き辛い。


魔女「...暗いわ」


そして最後に感じ取ったのはその暗さ。

木々が鬱蒼としすぎて空が見えない、まるでまだ夜が開けてないような感覚だった。


魔女「...借りるわね」


隊長からライトを再び拝借する。

照らす範囲は限られるが、その頼もしさは健在であった。

左手は隊長の肩を支えている、右手はハンドガンを握っている。


魔女「もう1本腕がほしいわね...」


自虐めいたことをいいながらハンドガンを収納した。

自衛できる武器が手元から離れるが、前に進めなくなるよりはマシだった。

610 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:49:57.10 UVylX/mi0 581/1103


魔女「......」


──かさ...かさ...かさ...

明かりを頼りに前に進む、不気味なほどに静かな密林に響くのは。

それは葉っぱが身体にこすれる音、それらが徐々に魔女の精神を蝕んでいった。


魔女「...うぅ」


──かさ...かさ...かさ...

進めど進めど、同じ音。

足取りの悪さと疲労が相まって、気が狂いそうになる。


魔女「...ぐすっ...ひぐっ」


──かさ...かさ...かさ...

おかしくさせてるのは、それだけではなかった。

暗さ、臭い、そして極めつけは、大事な大事な1つの要因。


魔女「起きて...私を1人にしないで...ひぐっ」


隊長「────」


魔女「もう無理だよぉ...」


魔女「誰か...助けてよぉ...」


魔界の密林の恐ろしさがそこにあった。

理性があるほどに蝕んでいく、とてもじゃないが生きていける環境ではない。

この木々の集まりに魔物など存在しない、あるのは植物と狂気だけであった。


魔女「ひっぐ...ひっぐ...」


──かさ...かさ...かさ...

それでも前に進むことをやめない、なぜだろうか。

足が無意識に動く、精神はもう限界なのに身体が勝手に動くというのだ。


魔女「辛いよぉ...」


(「...ツギはあきらめるな」)


魔女「うぅ...ぐすっ...諦めたくないよぉ...」


その言葉は魔女の村で聞いたモノ。

未来永劫に忘れることのない、心の支えであった。

彼に支えられながらも彼女は彼を支え歩き続ける。


~~~~

611 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:51:35.42 UVylX/mi0 582/1103


~~~~


隊長「...お前がドッペルゲンガーか」


ここは隊長の精神世界、そこには同じ人物が2人も佇んでいる。

1人はいつもの彼、そしてもう1人はとても黒い見た目をしていた。

あの時魔闘士が言っていた言葉は聞こえていた、険しい目つきで質問を投げかける。


ドッペル「...あぁ、そうだ」


隊長「...いつ憑いた?」


ドッペル「...事実を知ったら、後悔するぞ」


隊長「...言え」


ドッペル「...じゃあ教えてやる」


ドッペル「ユニコーンの魔剣だ」


ドッペル「お前が帽子の形見として持った剣に俺は憑いていた」


ドッペル「正確に言うと、ユニコーンの時点だがな」


ドッペル「お前があの時...形見を拾っていなければこんなことにはならなかった」


隊長「...ふざけるな」


ドッペル「事実だ、お前ならわかるだろう?」


ドッペル「...俺はお前だ」


隊長「...」


思わず頭を抱えてしまう、あまりにもひどい言葉であった。

顔も声も隊長そのまま、まるで自分自身がそう言ってるような錯覚に陥る。

爆発しそうな感情を抑え次の尋問に移行する。


隊長「...何が目的だ?」

612 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:53:02.54 UVylX/mi0 583/1103


ドッペル「魔女を殺し、それで生まれた絶望を餌として得るためだ」


隊長「...なぜ、いままで身体を奪わなかった?」


ドッペル「...お前が人を殺すのに慣れているからだ」


ドッペル「絶望が俺を強くする...前にそう言ったよな?」


隊長「...あぁ」


ドッペル「身体を奪うには、ある程度の絶望という感情が必要だ」


ドッペル「普通の人間なら生き物を惨殺した瞬間に、自己嫌悪で絶望する」


ドッペル「だから俺はお前の身体で...偵察者や魔法使いを惨殺するように感情を弄った」


ドッペル「だが...お前は絶望どころか嫌悪すらしなかった」


ドッペル「...お前の中の"正義"が強すぎる」


ドッペル「あのいけ好かない人間と対峙して、ようやく俺が出てこれたわけだ」


隊長「...そうか」


苦言を呈された、自分でも殺し慣れしていると自覚している。

だが、その正義がなければ何人のも仲間がやられてたかもしれない。

この正義がまともじゃないことを示されても、彼は嫌悪をしなかった。


ドッペル「...1つだけ、忠告してやる」


ドッペル「これからはあの光を使うな...力が欲しければ魔力と闇を貸してやる...」


隊長「...そんな都合のいい提案があってたまるか」


~~~~

613 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:54:15.89 UVylX/mi0 584/1103


~~~~


魔女「...」


──かさ...かさ...かさ...

彼女は進む、葉っぱが肌に触れこそばゆくとも。

泣き言は言わなくなったが、涙は止まらない。

その顔は泣き疲れた子どものようなものであった。


魔女「──っっ!?」グラッ


──ガッッ!

足元が引っ掛かった、それと同時に転んでしまう。

彼女が転べば支えている彼も同じ、ましては彼は受け身など取れない。


隊長「────」ドサッ


魔女「──きゃぷてんっ!?」


魔女「ごめんね...ごめんね...いたかったよね...」


魔女「ごめんなさい...」


魔女「許して...魔法を使えない私を許して...」


明らかに様子がおかしい。

完全に情緒不安定、いつもの気の強い魔女はいなかった。

一通り謝罪が終わると彼女は膝を立てた状態で座り、縮こまってしまった。


魔女「...ぐすっ」


隊長「────」


こんなにも辛そうな、可哀想な表情をしているのに彼は起きない。

きっと起きていたら慰めてくれているだろうに、その時だった。


魔女「────むぷっっ!?」


──どくっどくっどくっ...

何かが口もとに張り付いて、口内に侵入してきた。

急いで剥がそうとするが徒労におわる、液体が注入されていく。

614 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:56:18.47 UVylX/mi0 585/1103


魔女「──むぐううううううううううううっっ!?」


その異物感に、身体は吐き気を催す。

苦しさのあまりじたばたしたのが幸運だった。

右手に握っているライトが、張り付いているものを照らした。


魔女「むぐうううううっっ!!」スチャ


──ダンッ!

そのような音と共に、魔女は開放された。

口に張り付いていたのは触手、それはウツボカズラのようなものから伸びていた。

ギリギリ残った理性がハンドガンによる射撃を可能にした、急いで口内に侵入した触手を引っ張り出すと。


魔女「────っっ」


──びちゃびちゃびちゃ...っ!

女子が出すような音ではない。

激しい嘔吐感に負け、口から液体を吐き出してしまった。

四つん這いになりすべての液体を排出し終える、ムゴすぎる光景であった。


魔女「げほっ...げほっ...」


魔女「...あれ?」


しかし、吐瀉物を見て彼女はあることに気づく。

左手にライト、右手にハンドガンを握りしめて勇気を振り絞る。


魔女「これって...?」


吐瀉物をじっくり見てみる。

胃液と液体と共に、何かが混じっているのを感じた。

通常なら気づけない量のモノ、賢者の修行を終えているからこそ気がついた。


魔女「...魔力?」


混じっていたのは魔力、肉眼では確認できないがそのような雰囲気を感じた。

だが、今は光によって魔女の魔力はない状態。

自分の魔力ではないのは確かだった。


魔女「...まさかっ!?」


自分の魔力ではない、じゃあ誰の魔力なのか。

先程の失っていた理性が希望に導かれ舞い戻ってくる。


魔女「もしかして、女勇者の魔力...?」


どうやら、この植物の液体は魔力を抽出する作用があるらしい。

恐らく魔物の魔力を奪うことで拘束し、捕食するためのモノと説明できる。

615 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:58:01.12 UVylX/mi0 586/1103


魔女「じゃ、じゃあ...」


未だにお腹から感じる、液体の異質感に耐える。

先程撃ち落としたウツボカズラに接近してみる。


魔女「...まだ、入ってる」


魔女「これを...飲めば...」


まだ、大量の液体がそこには残っていた。

これを飲んでは吐き出すことで、女勇者の魔力を排出することができる。

彼女はそう仮説を立てた、だがそれはどれほどのリスクがあるのか。


魔女「...」


仮説を否定したくなる要素がいくつもあった。

その液体には動物の死骸のようなものが沈み、虫が浮いてたりする。

さらには明らかな腐敗臭と極めつけはその蛍光的な青い色、生物が口にしていい代物ではない。


魔女「でも、飲まなきゃ...」


魔女「...ひどい臭い」


だが彼女は決行する、毒性の有無も考えずに、頭の回る魔女にしてはありえない。

密林に狂わされた理性が、魔力を取り戻したいという焦燥感が、そして隊長を助けたいという執念が。

カタカタと手を震わせながらも錬金術用の器に液体を掬った、それが彼女の決断であった。


魔女「...」スッ


掬ってみてわかる、かなり粘度が高い。

飲み込んでも、すぐにすべてを吐き出すことは難しい。

お腹に残る異質感の原因はそれであった。


魔女「...行くわよ」


──ごくっ!

すぐさまに身体から拒絶反応が現れた。


魔女「────っっ!!」


飲み込んで、すぐに吐き出した。

魔力とともに、身体中の全てが飛び出しそうな感覚だった。


魔女「ぼえっ...げほっ...」


たった一口でこのありさま。

さっきの分と合わせても、ごくごく僅かな魔力しか排出できていない。

少なく見積もっても、あと数十杯は飲まなくてはいけない。

616 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 21:59:19.78 UVylX/mi0 587/1103


魔女「はっ...はっ...はっ...」スッ


──ごくっ!

軽く過呼吸になるが、再び液体を飲み込む。


魔女「────っっっ!!」


立ち膝状態の足元に多量の吐瀉物が広がる。

二口目、わずか二口目で彼女の限界が来てしまう。


魔女「む、むりぃ...むりだよぉ...」スッ


──ごくっ!

泣き言をいいながら、新たに掬う。

彼女の顔は涙と液体等でぐちゃぐちゃになっている。


魔女「────っっ!!」


誰かに脅迫されているような、そんな動き方だった。

口では嘆いているが、身体は勝手に動いている。

彼を助けたいという強迫観念が身体を操っている。


魔女「────はっ、はっ、はっ、はっ、はっ...」


今度はひどい過呼吸が彼女を襲う。

そして、身体から様々な拒絶反応が新たに生まれている。

頭がズキズキと、お腹がキリキリと、喉がイガイガと。


魔女「もう嫌あああああぁぁぁぁぁぁ...」


たった3杯で、掬う手を完全に止めてしまった。

このまま止めていれば、辛い目には合わないだろう。

だが、不幸なことに目線にあるものが入ってしまう。


隊長「────」


魔女「──うっ...の、飲まなきゃ」スッ


──ごくっ!

救いたい者が見えてしまったのなら動かない訳にはいかない。

かすかに理性が残っている、それはいかに残酷なものか。

歯をガチガチと震わせながら再度液体を飲んだ。


魔女「────っっ!」


吐き出したものの一部がサラサラし始めてきた。

胃液が残っていない証拠だ、次からは液体が胃液に希釈されずに胃に入ってくるだろう。

617 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 22:00:27.15 UVylX/mi0 588/1103


魔女「ま...まだよ...」スッ


──ごくっ!

飲んだはずなのに嘔吐感はなかった。

それもそのはず、身体は何度も嘔吐できるように作られていない。


魔女「────っ!?!?」


彼女の腹筋や横隔膜は疲労し、胃の収縮を止めてしまっていた。

お腹にはあの液体が入りっぱなし、地獄の片道切符であった。


魔女「──痛いっっ!?」


身体の中が燃えているような感覚だった。

胃液の希釈もなし、ダイレクトに液体が入り込んでいる。

異質を感じているというのに、吐き出すことができない。


魔女「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっ!!!!」


魔女「────っ!?」


しかし、幸いにも身体の筋肉はすぐに動いてくれた。

ラグがあったものの、5杯目も吐き出した。

だが、そのラグが魔女を非常に苦しめる。


魔女「...っ」


ピタッ、と再び手が止まる。

今度は癇癪を起こしたからではない。

理性があるからこそ、止まってしまった。


魔女「また...吐き出せなかったら...?」


今度ばかりは、本当に吐き出せないかもしれない。

先程味わった恐ろしさがその手を止めていた。

一度感じた恐怖を振り払うことは極めて困難だろう。

618 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/12 22:01:43.54 UVylX/mi0 589/1103


魔女「...」


掬うための手は止まり、ガタカタと震えているだけ。

飲むための口は、歯をガチガチと鳴らしているだけ。

もう二度と飲むために動くことはない、そのはずだった。


魔女「...ごめんね、借りるね」


液体を飲むのを諦めてた魔女は、隊長に近寄る。

そして、震えている手を彼の手に合わせる。


魔女「...汚くなっちゃうかもだけど」スッ


──ごくっ!

互いの指の間に指を絡める、すると震えは止まった。

不思議と勇気が湧いてきたような気がした、液体を飲もうとする腕が進む。


魔女「────っっっ!!」


──びちゃびちゃびちゃ...っ!

目覚めぬ隊長に掛からないように位置取りをしている。

筋肉の疲労に臆することなく嘔吐し続ける、彼女が彼の手を結ぶ限り。


魔女「...私、がんばるからね」


このあと、魔女は23杯分もの液体を吐き出すことに成功する。

経過時間は日没までの約8時間、途中に何度も発狂しかけたりする。

だが握っている手が何度も勇気をみなぎらせた。


魔女「────っっっっ! これでぇ...24杯目ぇ...」


魔女「────っ」ガクン


その1杯が終わると意識が消える。

その消えかけの記憶には、ある感覚が通り過ぎていった。

太陽のような光が抜け稲妻のような光が戻ってくる、そんな幻覚のようなものが彼女を見送った。


~~~~

620 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:17:42.70 NppwIhhA0 590/1103


~~~~


女騎士「はぁ...はぁ...」


疲労困憊した様子だった。

遠距離は魔王子に任せたところで、近距離は自分で対処しなければならない。

接触させらたら即死、一瞬の判断が強いられる緊張が数時間も続けば当然疲れる。


女勇者「大丈夫?」


汗1つかいていない、かなり余裕な表情。

それもそのはず、この中で唯一光に侵されていない。

しかし、もう1人の方は深刻な表情だった。


魔王子「...ッ」


同じく、汗1つかいていない。

だが苦虫を噛み締めたような顔をしている。


女騎士「...私はまだ大丈夫だ」


女勇者「魔王子くんは?」


魔王子「...」


女勇者「...駄目みたいだね」


魔王子「黙れ...まだやれる」


女勇者「嘘だよ、2人ともちょっと休んでて」


女騎士「お、おい...なにをするつもりだ?」


魔王子「...周りをよく見てみろ」


前に出る女勇者は周囲を確認する、死神は数百匹はいる。

魔王子が次々と倒していくが、増援のスピードについていけずこのザマ。


魔王子「...奴ら、列車と同等の速度をだしているがそれ以上の速度を気軽に出せんようだ」


魔王子「接近されることは稀...だが、この列車も次第に目的地へと到着するだろう」


女騎士「...今走っている橋の下は城下町だ、もうじき魔王城につく」


女騎士「そして魔王城についたのなら...この列車は止まる」


女騎士「...万事休すだ」


目的地に到着したのなら、列車は止まるために必然的に速度を落とす。

そうなったのなら、死神は接近が容易になりあとは物量に押され敗色は濃厚だろう。

621 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:22:57.46 NppwIhhA0 591/1103


魔王子「...」


自分の持っている魔剣を握りしめる。

再び一体化をし風帝戦のように全面を攻撃しようと試みる。

そうすれば機転になるかもしれない、しかし不安要素が彼を悩ませる。


魔王子(今度こそは、剣が折れてしまうかもしれん...)


女勇者「...僕にまかせて」


女騎士「...わかった」


この修羅場になにを言い出したか、遠距離攻撃もできない分際で。

なにをするかはわからない、だが彼女は彼女に託した。

女騎士はどうすることもできない無念を悔やんだ顔をしていた。


魔王子「...まだやれると言っている■」


闇を出そうとした瞬間だった。

女勇者が魔王子に目線を合わせてきた。


女勇者「────"属性付与"、"光"」


──□□□□□...

眩い光と音が彼を包み込む。

光の魔力に侵食されていると言っても、魔王子自身の魔力が残ってはいる。

身体に重みが現れた、残りが限られている彼自身の魔力が抑えられてしまった。


女騎士「な...!?」


魔王子「──なにを考えているッ!?」


女騎士「ごめんね、でもこうでもしないと眩しいと思うから──」


死神「────モラッタ、シネ」


裏切りにも近い女勇者の光。

その時だった、その機会を逃す訳がなかった。

1匹の死神が急接近してきた、このままでは接触は免れない。

622 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:24:46.30 NppwIhhA0 592/1103


魔王子(...だめか)


女勇者「────"光魔法"」


────□□□□□□□□□□□□□□□□□□ッッ...!

遠距離攻撃はできない、それは光魔法でも同じであった。

彼女の魔法では遠くの敵まで無力化することはできない。

だが彼女は攻撃する為に魔法を唱えた訳ではない、皆を護るために唱えたのであった。


魔王子「...これは」


女勇者「このまま...日が沈むまで...僕が太陽の代わりに...」


事前に光に包まれていなければ、力は奪われさらには失明していただろう。

眩しすぎていた、それほどに巨大で強力な光だった、とてもじゃないが近寄れない。

これを作るには相当な魔力が要する、それを証明するように女勇者は汗を垂れ流していた。


女騎士「凄い...しかも持続させているのかっ!?」


女勇者「うんっ...だから、ちょっと集中してるから話しかけないで...!」


女騎士「す、すまん...だがこれは凄まじすぎるぞ」


死神「──グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、ッ!?」


魔王子「...!」


女騎士「...死神共も苦しんでいるぞっ! どうやら近寄れないみたいだっ!」


女勇者「──日没まであとどのぐらいっ!?」


死神がいる理由、それは日食だから。

つまりは日食が終われば、食われている日が沈めば。

彼女が創り出したその太陽が、この世の光の肩代わりをしている。


魔王子「────あと少しだッ!」


~~~~

623 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:28:08.67 NppwIhhA0 593/1103


~~~~


隊長「────ッ」ピクッ


ある1人の人物が目覚める、周りが暗くてよく見えない。

あるものを手に取ろうとするがいつもの場所にない。

仕方なく数本しかないサイリウムを折った、すると淡い緑色の明かりに包まれた。


隊長「...?」


──ずる...ずる...ずる...

足元に何かが巻きついている。

そして、何者かに足を引きずられている、そんな音が聞こえた。

触手のようなものが見えたが、もう1つの光景が彼を目覚めさせる。


魔女「────」


隊長「──魔女...ッ!?」


魔女がウツボカズラのような植物に捕食されかけていた。

彼女は気絶して動けず、自身は足を拘束されている。

絶体絶命のピンチだが、彼には心強い武器があった。


隊長「──ハンドガンがないッ!?」


いつもの収納場所にその武器はない。

しかし誰かが自分の身体にベルトでアサルトライフルを持たせておいてくれたようだ。

この武器は長さがありハンドガンよりかは扱いづらい、だが彼は難なく発砲をする。


隊長「────ッ!」スチャ


──ババババババッッ!

実弾に耐えられるわけもなく、植物は沈黙した。

拘束していた触手も同時に沈黙し、隊長は魔女に駆け寄った。

その顔は植物のせいなのか色々な液体まみれだった。


隊長「魔女ッ!? 無事かッ!?」


隊長「すまん...もっと早く気づけば...」


隊長「...お前が持っていてくれたのか」


魔女の両手に握りしめてある、ライトとハンドガンを見つける。

そっと、ほぐすように手を優しく開いてあげた。

624 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:29:34.00 NppwIhhA0 594/1103


隊長「魔女...しっかりしろ...」


隊長「俺だ、Captainだ...わかるか?」


魔女「────」


隊長「...鼓動はある、息もしている...死んではいない...よかった」


隊長「...ここは危険のようだな」


ここは危険な場所、ましては仲間が気絶している状態でこの場に留まるわけにはいかない。

彼女の持ってるハンドガンやライトをしまい、彼女を背負う。

そして暗い密林をアサルトライフルとライトを構えながら進もうとする。


隊長「記憶が確かなら俺は...」


思い返しながら、足を進める。

研究者のこと、闇に飲まれた自身のこと、ドッペルゲンガーのこと。

あまりにも規模の大きい出来事が自分に降り注いでいた。


隊長「...」


過去のことを振り返りながら、苦悶する。

魔女がちゃんと生きていることを確認し安心する。

両極端な気持ちがせめぎ合うなか、ある感情が芽生える。


隊長("あの野郎"は結果的に俺ではなくドッペルゲンガーによって殺された)


隊長(...結局、仲間の仇すらとれなかったのか)


そのドス黒い感情は、狂気。

狂気が彼の過去をフラッシュバックさせた。


~~~~

625 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:31:50.75 NppwIhhA0 595/1103


~~~~


???「...CAPTAIN!」


若い男の声が、車内に響いた。

その声は青くもあり、これからの伸びしろに期待できる声でもある。

キャプテンと呼ばれる男、これは彼がフラッシュバックした記憶。


隊長「...あぁ、すまん...寝不足なんだ」


「しっかりしてください、あなたがこの部隊の責任者なんですから」


隊長「そうだな...軽率だった」


「...今度は、1人で徹夜せずに私を頼ってください」


寝不足の原因、それは昨夜の書類仕事だった。

この頃の隊長には今のような威厳はなく、少しばかりルーズな印象があった。


隊長「それで、奴は?」


???「現在、動きがない模様です」


その声は同じく若い、それでいてハッキリとした喋り方。

芯の強そうな女性の部隊員が現状を報告した。

運転手を除くと、この車内には3人。


「...本当にこの人数でいいのでしょうか」


隊長「報告によれば奴の逮捕には過去14回も失敗に終わっているらしい」


隊長「8回目ぐらいまでは本部も躍起になって追っていたらしいが...」


隊長「末端の俺たちにこの仕事がきたんだ...あとは察してくれ」


隊長「通信は逮捕に成功した時のみ送れとさ...参ったな」


「はぁ...腐ってますね、なんて自由な国なんでしょうか」


「問題児の我々にまわして来るなんて何を考えているんでしょう」


隊長「...その"我々"には俺も入っているのか?」

626 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:33:33.86 NppwIhhA0 596/1103


「...気に入らない上司をぶん殴って、問題児ではないとでも?」


隊長「...お前は気に入らない上司に淡々と暴言を吐いたんだってな」


「そんなことをして...まともなのは私だけのようですね」


隊長「いやお前が一番...まぁ、もうじき現場につくから最終セッティングをしておけ」


「わかりました」


「...了解しました」


隊長はいつもの、男も同じくアサルトライフルとハンドガン、そしてC-4。

女はその華奢な身体つきに似合わず、ショットガンとハンドガンを調整していた。

すると彼らを運んでいた車は動きを止めた、それが意味していることは1つしかない。


「...どうやら、到着した模様ですね」


隊長「...ここか」


「これが14回も特殊部隊を追い返した家ですか...」


「居場所がわかっているのに逮捕できないなんて、一体なにが...?」


隊長「...何人も死傷者がでている、気をつけて行動してくれ」


いつも通りにやればいい。

ただ少しばかり難しい仕事が来た程度にしか思っていなかった。

この出来事が、彼の人生を変えるモノになるとは、この時は思いもよらない。


~~~~


~~~~


隊長「...これは」


この家の外見は富裕層の1軒屋。

近辺には何も存在せず、孤立した立地ではあるが妙な所などなかった。

だが潜入して間もなくその異常さが測れてしまう、玄関に散らばっていたモノとは。

627 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:36:15.87 NppwIhhA0 597/1103


「Marijuana、Coke、Meth...全部ドラッグですね」


隊長「...どうやらこの建物自体は、ギャングたちのたまり場と化しているみたいだな」


「まずいですね...そんなに手錠もってきてないですよ」


「こんな奴ら、ぶっ殺してやればいいのでは?」


玄関は愚か、家の全体の床に転がっていた。

注射器、そして何かを燃やしたような跡、不快な香り。

そして極めつけは自力で起き上がることのできないギャングたちが横たわっていた。


隊長「...こいつらは動かなさそうだ、放置しておけ」


隊長「それよりも、ここがたまり場になっているならば..."奴"はここを家として使用していないようだ」


「...隠し部屋、地下室、それとももぬけの殻」


「その3つが有力ですね...私としては隠し部屋だと思います」


隊長「もぬけの殻はありえないだろう、奴は何度も実験を繰り返しているらしい」


隊長「実験道具ごとの逃走は時間も費用もかかるだろう...まだ潜伏しているはずだ」


「私もその意見に賛成です」


「...探索するために、散開しますか?」


隊長「あぁ...注意を怠るな、この屑共が目覚めて襲ってくるかもしれんからな」


~~~~

628 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:39:14.75 NppwIhhA0 598/1103


~~~~


隊長「...」


いくら広めの家だとしても、野外に比べたら狭い。

その狭さの中、器用にアサルトライフルでクリアリングを行う。

隊長の顔つきは若く、この頃から卓越したセンスの持ち主だということが伺える。


隊長(...それにしても、キマっている奴らが多いな)


彼は今2階部分と探索している。

その途中で通過した階段、廊下、そして2階の部屋にまでギャングたちが横たわっていた。

どれもこれも起きる気配は無く、不気味なものだった。


隊長(こいつら、なぜここに溜まってるんだ?)


珍しく勘が鈍い、いつもならある程度察しがついていたかもしれない。

それもそのはず、これは過去の記憶、キャプテンを務めてはいるがまだ青い。


隊長「────ッ!」ピクッ


そして、彼は見つけてしまった。

犯罪者嫌いを助長させる、無残な姿を。


隊長「...レイプか」


その子は両手両足がベッドに拘束され、身体は穢れていた。

ドラマや映画、現場の後始末、間接的にはその光景を何度も見てきた。

だが、現場での直接的な場面には初めて遭遇した。


隊長「...」スッ


乱れたブロンドヘアーを整えてあげ、顔を露出させる。

可憐な風貌だが、その顔に命は感じなかった。

そっと、目を閉じさせてあげた。


隊長「...Shit」


嫌悪感が沸き立つ。

今現在の隊長が犯罪者を毛嫌いするルーツがここにあった。

そのストレスに耐えきれず、設置されていた録画カメラを蹴飛ばした。

629 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:42:14.16 NppwIhhA0 599/1103


隊長「...」


──ガタッ!!

その時だった、この音は蹴飛ばしたカメラの音ではない。

物音がした方にアサルトライフルの照準を合わせる、そこに居たのは。


???「AAAAAAAAAAAAAA...」


隊長「...お前か? これをやったクソギャングは...」


ギャング「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!」ダッ


隊長「────ッッ!」スッ


──バキィィィッッッ!!

隊長の拳が顔面にぶち当たる。

飛びかかってきた勢いもあってか、顔面崩壊レベルの骨折になっている。


隊長「Fuck you...」


手をプラプラさせ、自身の拳に走る痛みを拡散させようとする。

手袋のおかげか、幸いにもコチラは骨折せずに済んだようだ。

じたばたと暴れているギャングの腕を手錠で拘束し、胸ぐらをつかむ。


隊長「ギリギリ生きてるな? 悪いが喋ってもらうぞ」


ギャング「aaaaaaaaaaaaaa...」


隊長「...チッ、やりすぎたか」


騒ぎを聞きつけてか、階段を登る音が聞こえる。

2人分の足音、おそらく部隊の仲間だ。


「Captain? なにかありました...ってすごいことになってますね」


「...レイプ犯ですか? なら当然の報いですね」


隊長「あぁ...こいつ下半身だけ裸だし、ほぼ確定だろう」


隊長「ただ、やりすぎた...喋れないようだ」


「うわ...これ治るんですか?」


「歯が何本も折れてますね」

630 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:43:49.94 NppwIhhA0 600/1103


ギャング「aaaaaaaaaaaaaaaaaa...」グッグッ


隊長「...おかしいな」


「なにがです?」


隊長「対峙したときもそうだったが...興奮しすぎではないか?」


ギャングの腕は手錠で拘束されている。

派手に動けば痛みが走るだろう、それなのに手錠を引きちぎろうとしている。

まるで、人間の理性を失っているような光景だった。


「確かに...言われてみればおかしいですね」


「キマっているのでは?」


隊長「...情報を吐かないなら、放置だな」


「念のため私の手錠で足も拘束しておきますか」


「当然です、レイプ魔に人権などありません」


隊長「...まだ容疑の段階なんだけどなぁ...問題児チームと言われるのがわかる」


「致命傷を与えたあなたがいいますか」


隊長「...減給で済めばいいさ」


「それよりも、地下室を発見しました」


「扉はかなり歪んでいて、開けることはできませんでしたが...」


隊長「Jackpotだ、早速向かうぞ」


~~~~


~~~~


──ボンッッ!!

小さな炸裂音とともに、歪なドアは破壊された。

彼の所有していたあの装備は、このように使われた。


「C-4は便利です、さすがマスターキー」


「何を言っているんだか...」

631 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:45:45.72 NppwIhhA0 601/1103


隊長「...どうやら、奴はここにいるな」


3人がクリアリングをしながら辺りを確認する。

その内装はいかにも、ラボといえるようなモノだった。


「真っ白ですね、形から入るタイプなんでしょうか」


「Clear...大学のラボですらこんなあからさまじゃないですよ」


隊長「様々な実験装置のようなものがあるな...奴の資金源が気になる」


「どうせマネーロンダリングですよ、そっちを潰すより直に逮捕したほうが早いと思います」


隊長「あぁ...逮捕したら尋問しなければな」


──ガタンッッ!

奴に資金を与えている奴らも、今後調査しなければならない。

増える仕事の段取りを考えているその時だった。

奥の方の扉から、裸の女性が現れた。


隊長「──Freez...」スチャ


「...Civilian?」


???「...」


女性が沈黙するが、息がかなり荒い。

裸ではある上に髪の毛は丸刈りにされている。

まるで、映画にでてくるような実験体のような見た目であった。


隊長「そのまま動くな、ここでなにを──」


実験体「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!」ダッ


女性が全速力でこちらに走ってきた。

その顔は人であることを忘れているような顔。

隊長目掛け飛びかかってきた。

632 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:48:22.10 NppwIhhA0 602/1103


実験体「──ッッッ!?」


──ダァァァァァァァァンッッッ!!

鈍い銃声とともに、女性は吹き飛ばされた。

ジャコンッ、そのようなポンプの音とともに女は叫ぶ。


「────FUCK OFFッッ! BITCHッッ!!」


「...なにを考えている、死んで尋問できなくなったらどうする」


「明らかに向こうに殺意がありました、正当防衛です」


「殺意があろうと向こうは丸腰だぞ、テーザーを使え」


隊長「...この際、女のトリガーハッピーのことは置いておこう」


隊長「だが...この女性、明らかに様子がおかしい」


撃たれた女性は足を中心に被弾した模様だった。

これでは立つことは不可能だろう、しかし女性はもがいている。

そのもがき方は痛みに耐えきれなくてという風には見えなかった。


実験体「AAAAAAAAAAAAAッッ!」


「まだ襲いかかろうとしてますね」


「...Zombieですか?」


隊長「そんな非現実的なことがあってたまるか」


「...見てください」


女が女性の首元に指をさす。

そこには大量の注射器の跡があった。


隊長「...なにかを投与されたのは間違いないな」


「ドラッグですかね...」


隊長「なんとも言えん...」


──ガタンッッ!!

再び、奥の扉から裸の女性が現れる。

その数は多く、わらわらとこちらの部屋に入ってきている。


隊長「...あながちZombieなのかもしれんな」


「どれもこれも女性ばかりですね...」


「...虫唾が走りますね」

633 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:50:56.56 NppwIhhA0 603/1103


実験体A「AAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ダッ


隊長「彼女らも、なにかを投与されているみたいだな」


隊長「...発砲は控えるな、でないとこちらが殺されるぞ」


──ダァァァァァァァァンッ!!

その言葉を聞いてか、それとも彼女のトリガーが軽すぎるのか。

射撃音とともに3人のエネミーが倒れ込んだ。


「──KILL THE BITCHッッ! HAHAっ♪」ジャコン


「トリガーが軽すぎる...と言ってられませんね」スッ


──バババッ!! バババッ!!

精密な射撃回数と精度とともに、エネミーを排除していく。

単純な話、激しく動いているとはいえ直線上に走る彼女らなど唯の的に過ぎない。


隊長「...14回も失敗しているのはこいつらが原因なのか?」


「わかりません...たしかに危険なのはわかりますが...」


「これなら、銃をもったギャングたちのほうが危険ですね」


すべてのエネミーを倒し、冷静になった彼らたちが疑問に答えた。

異常な興奮状態で襲いかかるとはいっても所詮は丸腰。

銃を持っている特殊部隊の敵ではないのは確かだった。


隊長「...進むぞ」


被弾して横たわってもなお、うごめいている彼女らを素通りする。

扉を越えた先は先程の白の空間とは別の色で彩られていた。

鼻に刺さる腐敗臭、そしてそこには遺体が大量に転がっていた。


「──ひどい」


「Captain...これはもしかして」


隊長「...14回目の作戦は1ヶ月前だそうだ」


隊長「この遺体の状態からして...別の部隊と断言できる」


隊長「...今回はお前のトリガーの軽さに助けられたな」


そこには銃器と肉塊が大量に転がっていた、形状が保てない程にめちゃくちゃにされている。

おそらく、この部隊は女性たちをできるだけ射殺せずに対処したと思われる。

それは失敗に終わり、暴虐の限りを尽くされた無残な結果に。


「...あそこで撃ってなければ私たちもこうなっていたわけですね」

634 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:52:31.94 NppwIhhA0 604/1103


「首元は歯型でいっぱいだ...とんだキスマークですね」


隊長「しかし...なぜ襲いかかるのか」


「...私としては、薬物による影響としか思えません」


「キマった奴が理性を失い、殺人事件を起こすなんてよくある話ですね」


隊長「...そうだな」


部下の言葉に納得をしてしまう、過去の隊長にはするどい勘など備わっていなかった。

血みどろの部屋を通り抜け奥に進む、隊長が言葉にしなかったある1つの考えが今後彼を苦しめる。


~~~~


~~~~


──ガタンッッ!!

2人の足がドアを蹴破った。

そしてすかさずに彼らは行動を始める。


隊長「...Clear」


「こっちもClearです」


「異常なし...どうやらここが実験施設のようですね」


辺りを見渡せば簡単に察することができた。

大量の医療器具のようなものと、ホルマリンが詰まった大きなカプセルが並んでいた。

そしてその中には、肉塊のようなものが浮いていた。


隊長「なんなんだこれは...」


「まるで、サイコホラーの映画みたいですね...」


「一体、なにを実験しているのでしょうか」


あまりの光景に、3人は目を奪われてしまった。

3人とも大学は出ており、ある程度の知識は所有している。

だがそれを遥かに凌駕する情報がこの部屋には詰まっていた。


「...これは」


男が落ちていた注射器を手に取った。

そのラベルには、ある物質名だけが載せられていた。

635 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:56:05.90 NppwIhhA0 605/1103


「..."α"アドレナリン?」


「──もしかして...」


隊長「なにか...わかったのか?」


「...仮説を立ててもよろしいですか?」


隊長「あぁ、頼む」


「おそらくですが...彼女たちが打たれたのはドラッグではなくアドレナリンです」


「アドレナリンには興奮成分が含まれています...おそらくそれが影響して攻撃的になっているのかと」


「ですが...」


彼女たちが攻撃的な理由が判明したが、1つ疑問点が生まれていた。

それは得意分野でない隊長や男でもわかったことだった。


隊長「医療にもアドレナリンは使われているはずだ...だが」


「それが原因であのような状態になっている...そんな事例は聞いたことないですね...」


「...大量摂取でああなったということは?」


「...それなら副作用で強い疲労感などが起こるでしょう」


「あんなにアクティブに動けるはずがありません...」


「...やはり仮説に過ぎませんね」


柄にもなく自虐めいたことを吐き出す。

だがこの仮説にはある1つの考慮が抜けていた、それは奴のことであった。


隊長「...いま追っている奴は優れた科学技術を持っていると聞いた」


隊長「αというのは...手を加えたということか?」


「...かもしれませんね」


隊長「...見ろ」スッ


隊長が指を指したその先。

病院などでよく見るカーテンに仕切られたベッドだった。

影がカーテンに写り込んでいる、2人はその光景を確認すると行動を始めた。


「...」


男が先陣を切った、アサルトライフルを構えながら。

カーテンつかみ一気にそれを引っ張った、そこに居たのは。

636 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 22:57:45.21 NppwIhhA0 606/1103


隊長「...これは?」


「投与前の状態ですかね...」


実験体B「────」


そこには、裸で坊主頭ではあるが眠っている女性がいた。

身体は拘束されているが、健康状態は良好そうであった。


隊長「...まさか」


その顔を見て、思い出す。

髪型は変わり果てているが見覚えがある。

昨夜の書類に強い心当たりがあった。


隊長「──ッ!」ピッ


インカムに手をかけた、本部に連絡を入れるつもりだ。

本来なら逮捕に成功した時のみに許される行動だった。

しかし、それは失敗におわる。


隊長≪急いで調べてもらいたいことがある、昨日送られてきた失踪届を──≫


≪ザーッ...ザーッ...≫


隊長「──こんな時に故障か?」


「...どうしましたか?」


隊長「...それがだな」


──ガコンッッ!

核心をついた仮説を行おうとしたその時だった。

その音と同時にあたりが暗闇に包まれた。


「──なんですかっ!?」


「ブレーカーが落とされたか?」


隊長「...いや、それだけではなさそうだ」


「今、ライトを──」ピクッ


女がライトをつけようとしたその瞬間。

隊長に引き続き、状況に気づいた男がそれを制止した。


「...耳を澄ませ、いるぞ」


その言葉通り冷静に耳を研ぎ澄ます。

微かに聞こえる鼻息、音は小さいがとても荒い、彼女らだ。

637 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 23:00:07.50 NppwIhhA0 607/1103


隊長「...今の状況、こちらもあちらも目視できないはずだ」


虫の羽音並の小声で、状況を伝えた。

お互いに闇に包まれている、こちらが動けば奴らも動くだろう。

このまま静止状態でいればやり過ごせるかもしれない、そんな時だった。


実験体B「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!」


──ガチャンッ! ガチャンッ!

この唸り声と騒音は隊長の辺りから鳴ってしまっていた。

ベッドに横たわっていた彼女はすでに投与済みだった模様。

その音に釣られ、彼女たちが向かってくる音が暗闇に響いた。


「──FUCKッッ!」


──ダァァァァァァァンッ!!!

暗闇に向けて射撃した銃弾は、あまり効果的ではなかった。

ぺたぺたぺたぺた、と可愛らしい裸足の音が聞こえるが当人たちにとっては恐怖の音でしかなかった。


「くっ...ライトを──」カチッ


実験体C「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ガバッ


「────HOLY SHIIIIIIIIITッッ!」


──ババババババババババッッ!!

男の冷静な性格には似合わない、フルオート射撃。

射撃音の後には、まるで肉が何かに刺さったような音が響く。


「──がああああああああああああああああああああッッ!?!?」


隊長「────ッッ!!」スチャ


悲鳴のする方にライトを構えた。

そこには、数人に群がられる男が叫んでいた。

ライトに照らされた場所を確認すると、トリガーハッピーが超精密射撃を行った。


「...っ」スチャ


──ダンッ ダンッ ダダンッ!!!

その音はサイドアームのモノ、素早く取り出したハンドガンが彼女らを葬った。


「──MOTHER FUCKING ENEMYSッッッ!!」


いくら青いとはいえ、その隙を隊長が見逃すわけがなかった。

負傷した男の肩を支え、急いで戦線離脱を試みる。

638 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 23:01:35.24 NppwIhhA0 608/1103


隊長「──I NEED BACKUPッッ!」


「UNDERSTANDッッ!!」


暗闇の中、無我夢中で距離を作ろうとした瞬間だった。

隊長の持っているライトが、入ってきたドアとは別のドアを見つけた。


隊長「──MOVEッッ!!」


その声に反応して、女が腰にあるモノに手をかけた。

黒くてまんまるでピンが刺さっているものだ。


実験体D「AAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」


「ROOM SERVICE♪ FUCK...」


──からんからんっ

急いでドアを越え、彼女らが入らないように2人がかりで入り口を抑えている。

すると、けたたましい炸裂音のあとに沈黙が訪れた、彼女らはグレネードによって処理された。


隊長「...やったか」


確証を得るため、少しだけドアを開けた。

そこにあったのは、肉片と絵の具のように赤い液体だった。


「いません、殲滅しました...」


隊長「...具合はどうだ?」


「大丈夫です、このまま作戦を続行しましょう」


脂汗をかきながら、そう返答した。

しかし、その小芝居はすぐに見破られてしまう。

隊長がライトで、彼の手を照らした。


隊長「...かなり深く噛まれているな」


「こ、これは...」


「...すみません、しくじりました」


隊長「もはや野生動物だな...彼女らは」


「応急処置をします、動かないでください」


「...ッ!」ピクッ


「エグいですね...こんなにも深く...」


収納から、包帯をとりだした。

手早く処置を行う様は、トリガーハッピーとはいえ女性らしさが詰まっていた。

その傍らに、隊長がこの部屋のあたりを散策しているとあるものを発見した。

639 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 23:03:15.40 NppwIhhA0 609/1103


隊長「...ブレーカーがこんなところに」


──ガコンッッ!

すこし重たいレバーを上げるとあたりが光に包まれた。

どうやらこの部屋は監禁部屋のようで、いくつもの鉄格子付きの個室があった。

そして、男の全貌が明らかになった。


「...装備越しにも噛まれてますね」


手のひらには1箇所だけだったが、足の方は数カ所も噛まれていた。

布でできているとは言え、特殊部隊の装備である。

かなり頑丈にできているというのに、その噛み跡からは血が少し混じっていた。


「...ここから先は役に立てなさそうですね」


隊長「今はそんなことを言っている場合ではない」


隊長「...2人はここで待機していろ」


「それは危険すぎます...ここは撤退しましょう」


隊長「...それはできない」


「なぜですっ!?」


怪我人が出ている、普通なら撤退は許可されるであろう。

しかしそれは許されなかった、その理由はこのブレーカーに存在していた。


隊長「...このブレーカーは手動で下げられた可能性がある」


隊長「彼女らがこれを下げれるとは思えない」


「...それはつまり」


隊長「そうだ...誰かが俺たちを監視している」


「..."奴"ですね」


隊長「あぁ、そいつは過去14回も逮捕を逃れている...ここで撤退すれば相手の思う壺だ」


隊長「だが、怪我人は許容できない...だから、俺1人で行く」


「...なるほど」


隊長「...わかってくれ」


「...」


隊長「...お前らは、ここで待機しながら本部への通信を試してくれ」


隊長「ここで得た情報はなんとしても持ち帰らないといけない」

640 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/13 23:06:10.18 NppwIhhA0 610/1103


隊長「...おそらく、ここに関する情報は過去14回とも持ち帰れずに全滅したと思われる」


「でしょうね...彼女らの情報なんて一切知らされていませんでしたし...」


隊長「...頼んだぞ」


2人とも返事を行わなかった、その指示に不満があったからだろう。

しかし、最善案は隊長が提示したものであることは間違いない。

部下の2人は沈黙、その沈黙を肯定と受け止めた彼は1人進んで行く。


「...」ピッ


≪ザーッ....ザーッ...≫


「この分だと、ジャミングされていますね」


「監視を受けているかもしれないんだ、当然ですね」


「...足の方も処置します」


「...」


痛いほどに、静かだった。

なによりも心に響いたのは、現状立つことすら厳しい状況の自分だった。

自分のせいで、女はここに留まらなければいけない。


「...この処置が終わったら、Captainと一緒に行ってくださ────」


「──それはできません」


「...この作戦の目的は奴の逮捕です、私の護衛ではありません...行ってください」


「...それはできません」


女とて、それはわかっている。

いま自分が隊長についていけば逮捕できる確率は上がるだろう。

だがここを離れてしまったら男の安否は保証できない。


「...わかってください...私を必要としてくれたCaptainの邪魔だけはしたくないんです」


「こんなひねくれ者の私と仲良くしてくれる上司は彼だけなんです」


「...私だってそうです」


「なら...わかりましたね...?」


「...ごめんなさい」スッ


処置を終え、ショットガンを力いっぱい握りしめる。

そしてそのまま男から離れていった、何度も振り返りそうになるが、女は前を見て去っていった。


~~~~

642 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:17:28.90 BYaPhkOk0 611/1103


~~~~


隊長「...」


いつ敵が現れるかわからない、いつ罠を踏むかわからない。

極度の緊張状態が続く中、行き止まりに扉を見つけた。

一呼吸おいてドアを蹴破ろうとした瞬間だった。


「──まってくださいっ!」


隊長「──ッッ!」


後ろから声をかけられて軽く身が浮いた。

しかしその聞き慣れた声に鼓動は平常通りに戻っていく。

そして少しばかり圧のある声で返事をする。


隊長「...待機を命じたはずだ、命令無視は許されんぞ」


「申し訳ございません...ですが、彼と私の意思で来ました」


「処罰なら逮捕後にお願いします...」


隊長「...とっとと終わらせるぞ」


「...はいっ!」


隊長「...Three、Two、One」


────ドガァァァッッッ!!

2人の蹴りがドアを吹き飛ばした。

そしてその部屋の中には白衣を着た男がいた。


「──PUT YOUR HANDS UPッ! MOTHER FUCKERッ! 」


研究者「...やぁ」


女がかなり汚い言葉で叫ぶが、それを無視してのんきに挨拶をした。

異世界では研究者と名乗っていた男が背中を向いてパソコンをいじっている。

手を挙げないどころかこちらすら向こうとしない研究者に、再度命令をだそうとした時だった。

643 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:19:29.50 BYaPhkOk0 612/1103


隊長「こ、これは...」


研究者「見ての通りさ、失敗作だよ」


ここは隔離所なのだろうか、大量の遺体が転がっていた。

女性たちと共に、子どもの遺体も存在していた。


「...Jesus」


研究者「子どもの身体はだめだね...変化に弱すぎる」


研究者「男性の被験体がほしいところだけど...私では女性や子どもしか拉致できないよ」


隊長「...狂っているのか?」


研究者「その言葉は学生の時から聞き飽きてたよ」


研究者「...それにしても、ここに来るなんて君たちが初めてだよ」


研究者「大体は撃つのを躊躇ったり、パニックになったりして全滅なのに」


研究者「随分と...人を殺し慣れているんだね?」


「...ふざけたこと言わないでください」


研究者「だってそうだろ、彼女らは異常興奮しているだけだよ」


研究者「...ただの市民じゃないか、それに発砲するだなんて君たちのほうが狂ってるよ」


隊長「────ッッ!!」ピクッ


この研究者の煽りが、想像以上に隊長を揺さぶった。

たしかに言われてみれば彼女らは薬を投与された市民である。

罪のない彼女らを射殺したという事実に変わりない。


研究者「...ほら、狼狽えているじゃないか」


「...Captain?」


研究者「所詮君らは、正義を謳った殺人鬼なのさ」


隊長「...黙れ」


「Captain、冷静になってください...これは挑発です」

644 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:21:14.81 BYaPhkOk0 613/1103


研究者「...ほら読んであげるよ」


そういうとタイピング作業をやめ、ある冊子を取り出した。

無機質な作りのノート、そしてそこには鉛筆で殴り書きしたような文が見えた。


研究者「これは投与してからどれぐらいまで理性が残っているかの実験に使った日記だよ」


研究者「ここに来るまでに監禁部屋があったろ? そこに備え付けてたんだけど」


研究者「...この子はかなり不安がっていたみたいだね、投与前から書いてるや」


研究者「..."お母さんごめんなさい、わたしがまちがってたよ"」


研究者「"死にたくない、死にたくない、お父さん助けて"」


研究者が朗読したというのに、隊長にはまるでその日記を書いた女性の声に聞こえた。

犯罪者なら状況によっては射殺することはある、だが市民を殺してしまったのはこれが初めてだった。

自分の中の正義がグラつく感覚が、幻聴じみた声を産ませていた。


隊長「...やめろ」


研究者「かわいそうに...私は薬を投与しただけで殺してはいないさ」


「──CAPTAINッ! 耳を貸してはいけませんっ!」


研究者「だから...殺したのは君たちだよ」


──ダンッ!

ぐらっ、そう音を立てて自分の中の何かが崩れた。

そして、その音がある感情に変わり右腕を動かしてしまった。


研究者「...随分感情的だなぁ、殺されかけたよ」


隊長「フーッ...フーッ...フーッ...」


右腕にはハンドガン、そして思わずトリガーを引いてしまっていた。

しかしそれは別の手によって阻まれた、自分の左腕ではない、両手で止められていた。


「...落ち着いてください」


この状況で、一番落ち着いていたのはトリガーハッピーであった。

抑えていた両手をそのまま動かし、隊長の手を包んだ。

645 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:23:26.17 BYaPhkOk0 614/1103


「初めてここに来て襲われたとき、私は躊躇なく発砲しました」


「...あの時、私が発砲していなければCaptainたちが殺されていたかもしれません」


隊長「...ッ!」


「なぜ私はトリガーハッピーなのか...銃を撃つのが好きだからという理由ではありません」


「...この銃で仲間の無事を得られて嬉しいからですっ!」


「この事件が明るみになって、市民を躊躇なく殺した殺人鬼と罵られようと」


「この銃で仲間を助けたことを誇りに、トリガーハッピーを続けていきますっ!」


倫理的には、治安を守るものとしては大きく間違っている。

だが彼女の正義は大きく、そして揺らぐことのないモノだった。

その言葉が隊長の正義を持ち上げ、舗装していく。


隊長「...とてつもない覚悟だな」


「見直しましたか?」


隊長「...初めから歪んだ目でお前を見てないさ」


ここに、隊長の強すぎる正義のルーツが存在していた。

たとえ人殺しの偏見を受けても、仲間を守れる誇りが彼の心を支える。


研究者「なんとまぁ...都合のいい話だね」


研究者「聞こえはいいけど、人殺しだよ?」


隊長「...そんなことは銃を持ったときにわかっていた」


隊長「おしゃべりはここまでだ...逮捕だ」


研究者「...はいはい、手をあげますよ」


──ガチャッ...!

2人が研究者に近寄って、手錠をかけようとしたその時だった。

ドアに誰かが立ち止まっていた、振り返るとそこには見慣れた顔の人物がいた。


「...」


隊長「...男か、大丈夫か?」


「もう、歩けるんですか?」


「...」ズルズル


研究者「...おや?」


足を引きずりながら、こちらに近寄ってくる。

その息は少しばかり荒かった、その様子をみて研究者はほくそ笑んだ。

646 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:25:44.84 BYaPhkOk0 615/1103


「──Cap...tain...」


隊長「...?」


研究者「あらら」


「...まさかっ!?」


先に声に出したのは女だった。

しかし隊長もうすうすと感づいていた。

だが認めたくなかった、どうしても認めたくはなかった。


「...私が、私であるうちに...殺してくだ...さい...」


人としての最後の理性、そして最後の言葉がこれであった。

そして研究者は余計な一言を女に添える、運命はこのマッドサイエンティストに追い風を送る。


研究者「仲間がまた襲われそうだよ、撃たないのかい?」


「こんなの...ひどすぎます...」


「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」ダッ


隊長「──No...」スチャ


異常興奮した男が女に駆け寄った。

それに気づいた隊長はハンドガンの照準を男に向ける。

撃てるわけがなかった、仲間のために仲間を撃つだなんて、そんな正義など彼らにはなかった。


「────っっ!!!」


──ブチブチッッ!!

女の首元が噛みつかれた。

その音はあまりにもエグく、深く食い込んでいた。

そして、この隙に研究者は逃げ出した。


研究者「いいものを見せてもらった、これをあげるよ」


──からんからんっ!

隊長の足元に、注射器を投げた。

そんなことなど気にせずに隊長は立ち尽くしていた。


研究者「αアドレナリンは血液感染の性質を持っている、このままだとどんどん蔓延するかもしれないよ」


研究者「だから、このワクチンを使うといい...問題はここで使い切るか、持って帰るかだね」


研究者「これは1人分しか入ってないけど、量産は容易だと思うよ...じゃあまたね」


この外道はこの状況で究極の選択を押し付けてきた。

仲間のためにここでワクチンを使うか、人類のためにワクチンを持って帰るかの選択。

自分の言いたいことを言ったらすたこらと逃げてしまう、だが隊長はそれどころではなかった。

647 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:27:38.05 BYaPhkOk0 616/1103


隊長「────NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!」ダッ


──ドカッッ!!

だいぶ判断に遅れたが、ようやく行動に移る。

射撃ができないのなら取り押さえることしかできなかった。

男にタックルを浴びせ、そのままマウントをとり拘束する。


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」グググ


隊長「頼む...ッ! 抵抗しないでくれ...ッ!」グググ


馬乗りになっているはずの隊長が押され気味であった。

リミッターが完全に外れている成人男性の力はとてつもない。

あっという間にマウントは解除され、隊長が突き飛ばされた。


隊長「──ッ!」ドサッ


突き飛ばされ、仰向けの状態から起き上がろうとした瞬間だった。

完全に理性を失った男の視線が合う、そして先程の最後の言葉が頭を巡った。


隊長「...やるしかないのか」


ハンドガンを力一杯握り占める。

その手は震えており、照準がかなりぶれる。

正義のために、初めて仲間を殺す覚悟をきめる。


隊長「許してくれ...」スチャ


──ダンッ!

部屋に、小さめの銃声が響いた。

その音は隊長からではなく、女の方から聞こえた。


「...」


トリガーハッピーはこの日初めて、静かに発砲を行った。

発砲した向きが関係し、2人とも返り血を浴びずに済んだ。


「────」


いくらモンスターめいた状態でも、彼は人間である。

頭に浴びた銃弾を受け、そのまま倒れ込んでしまった。


隊長「...なんてことだ」


そのあまりの光景に、隊長は頭を抱えてしまった。

理由はどうあれ、仲間が死んでしまった。

仲間が仲間の手によって、死んでしまった事実が彼を襲った。

648 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:29:18.60 BYaPhkOk0 617/1103


「Captain...」


首元を深く噛まれた女が近寄ってきた。

そのあまりの痛々しさに隊長は静かにパニックに陥る。


隊長「俺は...どうしたらいいんだ...」


「...行ってください」


隊長「どこに行けばいいんだ...部下を残して...」


「もうここに部下はいません...直に私も...」


すでに血液感染が進んでいると思われる。

もうここにまともな状態な人間は、隊長しかいないだろう。

だが1つだけこの最悪な状態を打破できる代物が存在していた。


隊長「...そうだ、ワクチンがッ!」


乱雑に投げしてられたワクチンを入手する。

これを打てば、女だけでも助けることが可能。

早速女に注射器を刺そうとした瞬間だった。


「──だめですっ!」


しかし、それを大声で否定をした。

軽いパニック状態の隊長はその声を聞いて動きを止めてしまった。


隊長「...なぜだ」


「これを使えば貴重なワクチンがなくなります...」


「近い将来...このウィルスめいたものが蔓延し、国中がパニックになるかもしれません」


「その時までに...これを量産しておくのが最善です...」


隊長「...ふざけるな」


隊長「これ以上...仲間を失ってたまるか...」


隊長「...使うぞ」


「──動かないでくださいっっ!!」スチャ


そう言うと、女は自分の頭にハンドガンを突きつけた。

その顔は、血と涙でめちゃくちゃであった。


「このまま使ったのなら、頭を撃ち抜きます」


「Captainに言いたいことも言わずに...死にます」


隊長「...頼む、わかってくれよ...ッ!」

649 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:31:40.27 BYaPhkOk0 618/1103


「そちらこそ...わかってくださいっ!」


「ソレがどれだけ重要なものかを...っ!」


ワクチンの価値、そんなことは隊長にだってわかっている。

何度も仲間の死に遭遇した、だがこれほどまでに残酷な場面は初めてであった。

あまりにもひどい現状に隊長はついに沈黙するしかなかった。


「...忘れないでください、人を撃つことを躊躇ってはいけません...」


「それが犯罪者でも...市民でも...仲間でも...障害になるなら...殺すしかないんです...」


「そこで殺すという選択肢を取らなかったことで、誰かが殺されるかもしれません...」


「仲間を守れるのなら...たとえMURDERと罵られても私は満足です...」


女の強すぎる正義、それ隊長の心を完全に支えた。

障害になるなら殺すしかない、そこで殺せば被害は最小限に留めることができる。

特殊部隊という仕事の真骨頂がそこにあったのかもしれない。


隊長「...どうしてそこまで強くなれる」


「...こんな私に偏見もなく、ありのままを評価してくれる仲間がいるからです」


「あなたも...彼も...たった2人しかいませんが、私には十分でした...」


「さっきの言葉は...彼の受け売りです...」


「いくら犯罪者が相手でも、人を殺しすぎて悩んでいる私に彼はそう言ってくれました」


「私にはトリガーが軽すぎると怒りますが...彼だって結構軽いんですよ」


エグい傷口には似合わない微笑ましい笑顔だった。

男と女、彼らがこの末端の部隊にとばされた理由はそのトリガーの軽さだったのかもしれない。

少なくとも男はそのトリガーの軽さで上司と口論になった、そのような背景が思い浮かべられた。


隊長「...トリガーの軽さなんて気にしていなかった」


隊長「2人とも...今まで一度も市民や仲間に誤射などしなかったからな」


隊長「...いい腕だ、いい腕だったな」スチャ


「...はいっ」


隊長「...いいな?」


「絶対に...あのMOTHER FUCKERをぶちのめしてくださいね...?」


隊長「当然だ...仇は討つ」


──ダンッッ!


~~~~

650 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:34:22.10 BYaPhkOk0 619/1103


~~~~


隊長「...すまない」


どれだけ時間が経過したのだろうか。

フラッシュバックは終わった、今も足は進めている。

最後に聞こえたハンドガンの銃声が今も耳に残っている。


隊長(10年もの間、アイツを追った...)


隊長(身体も、精神も、すべて鍛えたつもりだった)


隊長(なのに俺は...怒りに囚われ...身体を乗っ取られた)


隊長(...この手で仇すら討てずに終わった)


隊長「...すまない」


すべてが無に終わったような感覚だった。

彼の正義はまだ生きている、だがそれを支える彼の精神は完全に崩れた。

2度目の謝罪、そして目から熱いものが流れ、ついには進めていた足すら止まってしまう。


魔女「...泣いているの?」


背後から、弱々しい声が聞こえた。

本当なら嬉しいというのに、今はすべてが無気力になっている。

目を覚ました喜びを捨て、おぶさっている魔女に淡々と返答をする。


隊長「魔女...起きたか」


魔女「うん...おはよ」


隊長「...俺はもう、動きたくない」


魔女「...どうして?」


隊長「もう、だめなんだ...」


隊長「心が折れてしまったような気がするんだ...」


魔女「...一回、座ろうか」


その弱々しくもあり、優しさのつまった小声に彼は従った。

ある程度の太さのある木の根元に、2人が寄りかかった。

651 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:35:28.41 BYaPhkOk0 620/1103


魔女「もう、辛いの?」


隊長「あぁ...」


魔女「...そっか」


隊長「...」


魔女「喋りたくもない...?」


隊長「...あぁ」


魔女「そっか...」


ただ時間が過ぎていくだけの不毛な会話だった。

一向に話は進展しない、だが魔女がそれを打破してくれた。


魔女「...私はね、辛いことがあったらお姉ちゃんにいつも慰めてもらってたの」


魔女「こうやってね...」スッ


隊長の手に自分の手を重ねてきた。

基礎体温の差なのだろうか、手袋越しでも温かみを感じる。


隊長「...」


魔女「...ゆっくりでいいから、私に教えて?」


魔女「何があっても、この手を離さないから」


魔女「何があっても...あんたの味方でいるから」


口を縫った糸がほつれていく感覚があった。

重く閉ざされた隊長の思考がどんどん開放され始めていった。

魔女の手を強く握りしめた、彼女に全てを明かす覚悟ができた様だった。


隊長「...俺は───」


過去にあった出来事、人を殺せる理由も、研究者がどれほど憎かったかも。

生まれて初めて両親以外の前で弱音を吐いた、情けない光景だったのかもしれない。

全てを話した、それでも魔女はずっと手を握っていてくれていた。

652 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:36:43.65 BYaPhkOk0 621/1103


隊長「...仇すら討てない男になにができるのだろうか」


隊長「部下の想いを紡ぐことができなかった今...帽子の想いも継げる自信がないんだ...」


魔女「...こっちの世界に来る前も、大変だったんだね」


隊長「あぁ...」


魔女「...がんばったね」


隊長「...頑張っていない」


魔女「がんばったんだよ」


隊長「...頑張っても、達成できなければ意味がないだろ」


魔女「それでも、がんばったんだよ」


隊長「やめてくれ...」


目頭が熱い。

思わず、顔を反らしてしまった。

泣き顔なんてモノは、彼女に見られたくない。


魔女「...私が同じ立場なら、すぐ心が折れちゃうよ」


魔女「さっきも...もうダメかと思ったことがあったんだ」


隊長「...」


魔女「でもね...なんとか乗り越えられたんだよ」


魔女「...なんでだと思う?」


握られている手をさらに強く握られた。

それに反応して反らした顔を元の位置に戻した。

そこには、こちらを見つめている魔女の顔があった。


魔女「...ちゃんと言ってなかったから言うね」

653 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:37:18.05 BYaPhkOk0 622/1103











「"あなた"のこと...好き...なの...」










654 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:39:00.38 BYaPhkOk0 623/1103


その言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が早まるのを感じた。

どくどくと、初めてビールを飲んだ時のように。

目頭の次は顔全体が熱くなっていた。


魔女「あなたが居てくれたから...心が折れずに済んだの」


魔女「...護りたいと思える人がいるから、折れなかったの」


魔女「私は...何があってもあなたに着いていくよ」


魔女「辛いことがあったのなら...私が支えてあげるから...」


隊長「...魔女」


その愛の告白は、甘酸っぱいものではなかった。

慈しみに近い、まるで往年の夫婦が使う言葉だった。

その暖かみのある言葉に、ついに隊長も吐露をした。


隊長「...俺だって、お前のことが好きだった」


隊長「いい年こいて、一目惚れだった」


魔女「...」


隊長「...俺は37だ、お前とは歳が離れている」


隊長「俺の世界じゃ変態扱いされるかもしれん...だがもうどうでもいい」


隊長「──お前が居てくれるなら頑張れる...一緒に着いてきてくれるか?」


魔女「...もちろんよ、どこまでも」


強い握手を交わした、新たに護るべき者が増えた。

背負うべき命が新たに増えた、その命の重みがまた1つ彼を支えていった。

強すぎる正義を支えられる精神が、彼女のお陰で培っていく。


隊長「...魔女」スッ


──ぱちーんッ!

映画のラブシーンなら、ここでキスの1つぐらいは定石だろう。

だが次の瞬間、彼が得られたのは唇ではなかった、それはその音が証明してくれる。


隊長「...なぜ叩いた?」


魔女「...ごめんなさい」


魔女「でも、できない理由がこちらにはあるのよ」


それもそのはず、魔女は先程までかなりの量の吐瀉物を出していた。

できるわけがなかった、隊長が痛みで涙を流すのはこれが初めてだろう。

頬が痛いのか、心が痛いのか、両方なのかは本人のみぞ知る。

655 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:40:16.72 BYaPhkOk0 624/1103


隊長「...」


魔女「...そんなに落ち込まないで、あとでしてあげるから」


隊長「あぁ...あ、あぁ...」


魔女「...そうだ、"アレ"を試してあげるわ」


隊長「...アレ?」


魔女「..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

身体に染み渡る、いつもの感覚。

魔女の手のひらから何かが身体に浸透していった。

それを見て隊長は驚愕をした。


隊長「──魔法が使えるのかッ!?」


魔女「えぇ、言えないけど使えるようにしたの」


魔女「でもそんなことは今はどうでもいいの..."治癒魔法"」


──ぽわぁっ...!

再び、暖かみのあるなにかが身体に浸透していった。

心なしか、いつもより心地の良い感覚だった。


魔女「...ねぇ、知ってる?」


隊長「...なんだ?」


魔女「治癒魔法ってね、相手を想っていれば想ってるほど、心地よくなるんだよ?」


その言葉がどのような意味を持っているのか。

身体に走る心地よさが身にしみている。

それは愛の言葉やキスよりも情熱的なモノだった。


隊長「...暖かいな」


魔女「悪いけど...もっとしてあげるから」


魔女「止めれないわ...魔力も、この気持も...」


隊長「...お、お手柔らかに頼む」


みなぎる魔力で創られた愛が、隊長を包み込む。

それは、これまでの苦い記憶や激しい闘いを癒やすモノ。

密林の狂気など、もう寄せ付けないだろう。


~~~~

656 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:41:32.89 BYaPhkOk0 625/1103


~~~~


女勇者「はぁ...はぁ...」


女勇者の創り出した太陽は沈んでしまっていた。

あの巨大な魔法を長時間も維持させるのは不可能だった。

眩い光が沈むとあたりには静寂が現れていた、どうやらもう1つの太陽も同様であった。


魔王子「...間に合ったか」


女騎士「敵影なし...日食も沈んだ...やったぞ!」


女勇者「はぁ...よかった...」


魔王子「...これが、勇者という者か」


女勇者「...えへへ、照れるね」


女騎士「身体は大丈夫か? あれほどの魔法を続けたんだ...疲れてないか?」


女勇者「ちょっとね...でも、そこまで疲れてるわけじゃないよ」


魔王子「...見ろ」スッ


会話をする2人を遮って、魔王子が指をさした。

停泊している列車から下車すると、そこには目的地。


女騎士「...これが、魔王城か」


女勇者「おっきな橋だね」


女騎士「橋の下は...街みたいだな」


魔王子「この橋を通ったら、いよいよ本拠地だ...」


女騎士「...きゃぷてん、先に行っているからな」


女勇者「...いよいよ、本番ってことだね」


魔王子「あぁ、気を引き締めろ」


3人がそれぞれ、覚悟を決めた顔つきになる。

これから先かつてない激しい戦闘になることは間違いない。

光に包まれた彼らが橋に向かって歩きだした、すると橋の奥にこちらに向かってくる者たちが現れた。


魔王子「雑魚か...蹴散らしてやろう」


女騎士「...光に包まれている今なら楽勝さ」

657 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:42:54.28 BYaPhkOk0 626/1103


女勇者「あっ、魔王子くん」


光と言うフレーズで女勇者が思い出した。

その締りのない声、若干苛立ちながらも返答をした。


魔王子「...なんだ?」


女勇者「光の属性付与を解除した方がいいかな?」


魔王子は今現在光に包まれている。

たしかに心強いが、彼の力の源は闇である。

たとえ抑えられているとしても得意な闇を使用したほうがいい。


魔王子「そうしてもらおう...」


女勇者「わかった! じゃあ解除するね──」


──ゴオォォォォォッッ!!!!

女勇者が魔王子に触れようとした瞬間だった。

上空から、けたたましい炎が襲い掛かってきた。

先程の雑魚から放たれたものではないらしく、雑魚たちは呆然としていた。


女勇者「────"光魔法"」


────□□□□□□□ッ!

仕方なく属性付与の解除を中断し、光を創り出した。

その光は巨大な炎を包み込み消滅させていった。

そして、その様子を見て魔王子は冷や汗を垂らす。


魔王子「...炎帝、よりにもよって貴様か」


空を見上げると、炎に包まれた小柄な美少年がこちらを見ていた。

炎帝と呼ばれるもの、そしてその実力を知る魔王子は苦言を申していた。


炎帝「君たちは下がってなよ...巻き添えを食らうよ?」


先程現れた雑魚たちに話しかけていた。

急いで城内に戻る姿を確認すると、今度はこちらに話しかけた。


炎帝「やぁ...久しぶりだね」


魔王子「...お前の出る幕か?」


炎帝「あれほど眩い光を出されたら、興味がでるのは当然さ」


魔王子「...チッ」

658 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:44:14.93 BYaPhkOk0 627/1103


女騎士「魔王子...あいつは?」


魔王子「炎帝だ、魔王軍最大戦力の1人...」


魔王子「そして、魔王を除けば最強と言われている人物だ」


魔王子が若干臆する理由がわかった。

この炎帝という男、かなりの実力者。

前哨戦でこのような男が来るとは思いもしなかっただろう。


女騎士「...早くも全力で潰しにきたか」


炎帝「...悪いけど、これは私が自主的にここにきたんだ、魔王様の命令じゃないよ」


女騎士「なんだと?」


炎帝「私がここにいる目的、それは女勇者だよ」


女勇者「...僕?」


炎帝「研究所から連絡がきてないけど...君がここに居るということは、そういうことだろう」


炎帝「君は側近様のお気に入りだ...再び拉致させてもらうよ」


女騎士「...そう安々とやらせてたまるか」


魔王子「まさか前哨戦で貴様と戦うとは思わなかったが...」


魔王子「...今ここで貴様を殺してやる」


炎帝「...君たちには用はないよ」


炎帝「"爆魔法"」


──バコンッッ!!

この時3人は、ほんの少しばかり油断をしていた。

なぜなら身体が光に包まれているからであった、普通の魔法なんて無力化できるはず。

魔王子と女騎士の真後ろで爆発が起きた、光がその威力を抑え込んだはずだった。


魔王子「──なッ!?」


女騎士「──ぐあっっ!?」


痛みと共に、なぜか身体は吹き飛ばされていた。

2人は魔王城の橋の下、その奈落へと突き落とされてしまった。


魔王子「──炎帝ィィィィィィイイイイイイイッッッ!!!」


地獄の雄叫びのような、怒声が奈落に響いた。

分断作戦は成功してしまった、ここには炎帝と女勇者しかのこらなかった。

659 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:45:39.83 BYaPhkOk0 628/1103


女勇者「みんなっっ!?」


炎帝「...光については対策を練らせてもらったよ」


女勇者「...よくもっ!」


炎帝「この橋の下は城下町の中心だ、雑魚の魔物しかいない」


炎帝「女の方はともかく、魔王子様なら無事だろう...」


炎帝「もっとも、ここに戻ってくるのには時間がかかると思うけどね」


女勇者「...時間稼ぎかい?」


炎帝「...あのヤンチャな子と一緒にいられたら困るんだよ」


炎帝「あの子と一緒だと、君を殺さずに拉致することなんて難しいからね」


空に浮いていた炎帝が地上に降りてきた。

お互い睨み合い、いまにも戦いが始まる雰囲気を醸し出す。

女勇者がユニコーンの魔剣を強く握りしめる。


女勇者「...」


炎帝「じゃあ...いくよ」


炎帝「"属性同化"、"炎"」


先制したのは炎帝。

みるみると身体が炎へと変化していく。

身体の原型はなくなり、完全に炎と化した炎帝が話しかける。


炎帝「風帝が羨ましいよ...炎は風と違って目視できるからね」


女勇者「...おいでっ!」


女勇者の戦法は変わらずであった。

接近したところを狙い、一瞬で光を包み込ませる。

風帝戦で行ったものだった、炎帝も拉致が目的なら接近は不可欠だろう。


炎帝「...」


──ゴウッッ!!

燃える炎が身に迫る音だった。

しかし狙いは女勇者ではなく、その周りであった。


女勇者「どこを狙っているんだい? "光魔法"っ!」


────□□□□□□□□□□□□ッ!

比較的に接近してきたので、光を試みた。

だが、炎は素早く身をこなし回避に成功した。

660 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:47:01.36 BYaPhkOk0 629/1103


炎帝「その光に包まれるわけにはいかないんだよ」


女勇者「...早く私を捕まえないと、魔王子くんたちが追いついちゃうよ?」


炎帝「煽るねぇ...君、結構戦略的だね」


──ゴウッッッ!!

熱風とともに、女勇者の周りを燃やす。

再びの行動に彼女も若干困惑をする。

同じく光魔法を行おうとしたが、今度は距離を取られてしまった。


女勇者(...狙いが読めない)


女勇者(僕の魔力切れが狙いなのかな...)


女勇者(さっきから光魔法を無駄に使わせようとしている風にも思える...)


女勇者「...」


炎帝「どうしたのかな?」


女勇者「...悪いけど、魔力切れ狙いは無理だよ」


女勇者「確かにさっき、ものすごい量の魔力を使ったけど...まだ元気だよ」


炎帝「...へぇ、あれほどの魔法を行ってもか...すごいね」


女勇者「...っ!」


その炎とは裏腹に冷たい口調から察する。

狙いは魔力切れではない、ではなにが目的なのか。

この勝負は早速心理戦へと移行し始める、読めない行動に冷や汗を垂らす。


炎帝「まだまだこれからさ...熱い戦いほど楽しいものはないよ」


女勇者「...その割には冷めてるよね」


炎帝「内心では燃えてるさ...君のような強い子と戦えるのは嬉しいよ」


女勇者「じゃあ、まともに戦ってみようよ」


炎帝「それはできない...私が負けてしまう」


──ゴゥッ...!

軽くお話をしている間に、炎帝が女勇者に仕掛けた。

彼女の周り360度を炎の壁で取り囲む、しかしその光景に女勇者は意外にも冷静であった。

661 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:49:28.07 BYaPhkOk0 630/1103


女勇者「...えいっ!」ダッ


女勇者はそのまま炎の壁に飛び込んだ、列車で使用した属性付与はまだ続いていた。

身体にまとっている光が一部を消火し焦げた匂いだけを残した。

自ら炎に身を投げることに踏ん切りがついた女勇者は炎の壁から脱出をする。


炎帝「...やはり魔力のこもった炎では簡単に消されてしまうね」


女勇者「君はすぐに距離を取るなぁ...」


その脱出劇を見て、すぐさまに炎帝はそれなりの距離に身をおいてた。

遠距離攻撃が苦手な女勇者にはなにもすることができない。

一向に勝負の展開が進まない、疲労からか汗が流れてきていた。


女勇者「...本当になにが目的なんだい?」


女勇者「魔王子くんが戻ってくる可能性がある...時間をかける戦いなんて無意味じゃないかい?」


炎帝「...たしかに、そうだね」


炎帝「私の炎なんて、光魔法の前では簡単に消火されてしまうしね」


炎帝「...炎はね」


女勇者「...?」


なにか、含みがあった言い草だった。

女勇者はその言葉に引っかかるが、答えは見いだせなかった。

考えている間にも炎帝はしかけてきた、いや、既にしかけていた。


炎帝「...ほら、足元だよ」


女勇者「────え?」


裸もほぼ同然の彼女、当然靴など履いていない。

足裏の神経を注ぐとある点に気がついた、微妙に心地の良い温度だ。


女勇者「...あったかい?」


炎帝「その地面に光魔法を放ったらどうなると思う?」


女勇者「どうって...」


ありとあらゆるものを無力化すると言われている光魔法。

だがそれは俗説であり、本来は魔力を無力化するものである。

光属性の所有者である彼女はしっかりと理解をしていた。

662 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:51:10.09 BYaPhkOk0 631/1103


女勇者「...なにも起きないさ」


炎帝「...そうだろうね」


女勇者「なにが言いたいんだい?」


炎帝「...ははは」


炎が笑っている。

顔があるなら見てみたい、そのような高笑いが辺りに響いた。

不審に思いながらも、彼女は再度問だたそうとすると彼は答えた。


炎帝「...それが光の弱点さ」


女勇者「...?」


炎帝「わからないのなら、やってあげるようか...今度は暖かいじゃすまないよ?」


──ゴォォォォウッ!!

炎帝の炎の身体が激しく音を立てた。

それに伴い、辺りの温度は急激に上昇し始める。

離れている女勇者でさえも、その気温の変化に反応した。


女勇者「──あっつっ!?」


炎帝「ほら、もっとだよ」


さらに温度は上昇し続ける。

炎帝の足元の地面は融解をし始めている。

その温度に伴い炎帝の身体は紅く、そして眩く光り始める。


女勇者「────"光魔法"っ...!」


────□□□□□□□□ッ...!

あまりの出来事に反応が遅れた。

光を使い、気温の上昇を防ごうとする。


炎帝「"転移魔法"」


その詠唱は女勇者のよりも速い。

光には抗えない彼だが、彼女より遥かに経験を積んでいる。

そんじょそこらの小娘に詠唱速度で負けるはずがなかった。


女勇者「どこっ!?」


炎帝「上だよ...さぁもっとだ」


気づけば炎帝は上空に移動していた、かなりの距離をとられている。

光魔法を遠方に飛ばしたところで簡単に逃げ切れてしまうだろう。

安全な位置にいる炎帝は、なおも身体を激しく燃やし続ける。

663 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:54:24.02 BYaPhkOk0 632/1103


女勇者「──あついっ!!!」バサッ


肌を布1枚でしか保護できていない今、高温をモロに浴びている。

地面もかなり熱くなっているので裸足での移動も厳しい。

裸になってしまうが、その布を地面に敷くことで足元からの温度を防いだ。


女勇者「これっ...どうすればっ!?」


炎帝「どうもすることはできない、君には私を止められない」


炎帝「光属性の弱点...魔力を抑えられても、魔力によって発生した現象は抑えられない」


炎帝「炎は消火できても、炎によって上がった温度は抑えられない...そうだろう?」


炎帝「だってこの超高温は魔法によって作用されたものであって、魔法ではないのだから」


いままで、そのようなことを気にしたことがなかった。

なぜ今になって光魔法の弱点に気づいてしまったのか。

もっと前から知っていれば、なにか対策が練れたかもしれないというのに。


女勇者「じゃあ、始めの爆魔法も...っ!?」


炎帝「そうさ...わざと位置をずらすことによって、爆風だけを彼らに浴びせたのさ」


光の属性付与を与えていた2人が吹き飛ばされた理由が分かった。

爆魔法によって発生した爆風は魔法ではない、これが直撃であれば抑えられたはずだ。

偏差魔法と言うべきか、このような緻密な魔法と対峙したことがなかったのが運の尽きであった。


女勇者「そんな...」


炎帝「悪いけど、光についてはここ数年で研究が進んだのさ...君はそこで指を加えて見ているといいよ」


炎帝「そして...その意識が途絶えるまでの高温を肌で感じるといい」


深い絶望感が彼女を襲った。

遠距離攻撃ができない女勇者に、光魔法が通用しない戦術をとられている今。

肌で感じる高温がジリジリと身体を燃やしていく、それを味わうことしかできない。


女勇者「...負けた」


???「...その魔剣にどのような思いが募っているか知っているのか?」


女勇者「...え?」


???「俺も聞いただけだが...その剣には平和の念が篭っているらしい」


???「あの男...キャプテンという男に、そして魔女という女にそう聞かされた」


ぽつりとつぶやいた敗北の言葉、それに誰かが答えてくれていた。

握りしめているユニコーンの魔剣、それがどういう意味をもっているのか。


~~~~

664 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:56:10.54 BYaPhkOk0 633/1103


~~~~


魔王子「...ゲホッ」


少し前、爆風によって吹き飛ばされたあと。

着地は失敗に終わり、もろに地面に叩きつけられていた魔王子。

普段なら少し痛む程度であったはず。


魔王子「...」


今は女勇者によって身体が光に包まれている。

よって、魔王子の身体は魔力が抑えられている。

身体の強度は人間より少し硬いぐらいであろう。


魔王子「折れたか...」


両手両足、腰の一部の骨が折れている。

とても立てる状況ではなかった、しかし折れているのは骨だけではなかった。


魔王子「最強と言われた魔王の最後がこれか」


魔王子「...風帝がこれを見たらどうするだろうか」


魔王子が持っていた魔剣は折れてしまった。

風帝は過去の偉人を重んじる性格、中でも歴代最強と言われた魔王を特に敬愛していた。

その魔剣と化した魔王がこうもポッキリといっている、確実に卒倒するだろう。


魔王子「...行かねば」


思い出に耽っている場合ではない。

いまもこうしている間に女勇者が炎帝と戦いを繰り広げているだろう。

魔王軍最強と言われている奴が相手、すぐさまに助太刀をしなければならない。


魔王子「──ッ!」


──ズキッ!

身体に鋭い痛みが走った。

いままでまともに感じたことのない痛みであった。


魔王子「...クソ」


魔王子「立て...助けに行かなければ────」ピクッ


無理矢理にでも身体を起こそうとした瞬間。

自分の発した言葉に強い違和感を覚えた、一体誰を助けるのか。

665 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:57:24.41 BYaPhkOk0 634/1103


魔王子(...この俺が、人を助けるだと?)


魔王子(なぜだ...?)


魔王子(目的が...わからない)


痛みのあまりに感じたのは疑問。

なぜ、暗黒の王子と恐れられた彼が人を助けることになっているのか。

彼に敗れ、旅に同行するのはわかるが人を助ける理由にはならない。


魔王子「...俺はなぜ人を助けようとしたんだ」


思考がつい口にでてしまう。

先程のような痛みをごまかすための愚痴ではない。

誰もいないこの場に問いかけてしまった。


???「...仲間だからじゃないのか?」


誰もいないはずの場所から、答えが帰ってきた。

ショットガンのストックで地面をささえ、杖のように扱っている。

彼女もまた、女騎士も相当のダメージを負った模様であった。


魔王子「...仲間だと?」


女騎士「私はそう思っていたが...」


魔王子「戯言を...俺は魔物だ」


魔王子「お前らは...人間だ、相反すると思わないか?」


女騎士「...私にはわからん」


女騎士「前も言ったような気がするが...戦争相手がたまたま魔物なだけだ」


女騎士「...別に魔物を忌み嫌っているわけではない...少なくとも私はな」


魔王子「...」


女騎士「...お前はなんで魔王を倒そうとしているんだ?」


女騎士が、腰をおろした。

信頼している仲間に見せる無防備な姿。

あぐらをかいて、猫背で、そのような姿勢。

666 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 14:58:55.87 BYaPhkOk0 635/1103


魔王子「...親父が気に入らないだけだ」


女騎士「どこが気に入らないんだ?」


魔王子「...」


女騎士「...」


女騎士「...じゃあ、私が...私たちがなぜ魔王を討とうとしているかを言おう」


女騎士「私と女勇者は、人間側の平和のために魔王を討つ」


女騎士「人間界には少ないながらも魔物がいる...中にはいい奴もいる...魔女とかな」


女騎士「だが...悪い奴もいる...強奪や強姦、殺人までをする魔物がいるんだ」


女騎士「そして最近は、その悪い奴らが蔓延りだしてきたんだ」


女騎士「それで、人間界で一番大きい国の王が我慢ならないと魔王討伐命令を出したんだ」


女騎士「魔王を討てば、魔物もいなくなると...今思えば短絡的な命令だったかもな」


女騎士「...どうだ? 簡単だろ?」


魔王子「...簡単だな」


女騎士「はは、そんなもんさ...戦争のきっかけなんてな」


魔王子「...俺も似たようなものだ」


魔王子「今の親父の政策...人間界侵略を企てた政策が気に入らない」


魔王子「人間のことなんかどうでもいいが...問題なのは人員だ」


魔王子「侵略となると、魔界の各地から腕に自身のある者たちを集めるのだが」


魔王子「その徴兵された屑共が非常に気に食わない...」


女騎士「...なるほどな」


魔王子「...俺は徘徊が趣味でもあった」


魔王子「以前この城下町で歩いていると、武装した男たちが誰かを嬲っていた」


魔王子「これでも俺は王子だ、話したりはしないがここの民の顔はある程度覚えている」


魔王子「だがその男たちの顔は全くもって記憶になかった...つまりは徴兵された人員だろう」


魔王子「...虫唾が走った、気づけば剣を抜いていた」


魔王子「だが、奴らは俺が力を見せると急にヘラヘラとゴマすりをしやがった」


魔王子「この俺に敵わないと瞬時に理解したのだろうな」


667 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 15:00:08.69 BYaPhkOk0 636/1103


魔王子「...それが俺の逆鱗に触れた」


弱き者を虐げていた、よそ者の傭兵たち。

力を見せつけては傲慢し、力を見せつけられたら謙る。

そのコウモリ野郎加減が、手のひらの回転力が彼の怒りを誘った。


魔王子「屑共を殺したあとは、親父に直訴した」


魔王子「あのならず者共をどうにかしろ、と」


魔王子「そしたら親父はこう答えた」


魔王子「"それはできん"...とな」


魔王子「その時...俺の中にある親父の、崇高な父上が崩れた」


魔王子「この魔界の王が、なぜ民を守らない...」


魔王子「...以前の父上なら、そう答えなかっただろうな」


魔王子「それから暫く...政策を変えようとしない親父に、気づけば俺は剣を向けていたわけだ」


女騎士「...それが、魔王子の目的か」


魔王子「そうだ...俺が魔王を殺し、新たな魔王になる」


魔王子「...そして、この魔界で平和を求める魔物に答えていくつもりだ」


そのためなら例え同胞ですら殺す。

絶対的な覚悟が彼を動かしている。

この暗黒の王子と恐れられた者の動力源は、民の平和であった。


女騎士「...だから、さっきから見られているだけなんだな」


女騎士が周囲を見渡した、ここは屋外の城下町路地だ。

魔物が窓や影からこちらを見ている、ただ見ているだけであった。


女騎士「...愛されているんだな」


普通なら襲い掛かってくる、だがこの城下町にいる者たちは平和を願っている者が多い。

話したことはない、だが顔なじみの魔王子が苦しそうな顔をしている。

襲う理由なんてあるわけなかった。

668 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 15:01:09.84 BYaPhkOk0 637/1103


魔王子「...」


──からんからんっ

魔王子たちのすぐそばに、瓶が転がってきた。

そしてそれと同時に言葉がついてきていた。


???「...魔王子様に使え」


城下町に住む魔物が、薬草を液体状にしたものを投げていた。

人間である女騎士に拒否感がある、そのような口調であった。


魔物「今の魔王様には逆らえない...この街は暗くなってしまった」


魔物「...魔王子様、託します」


おそらく、厳しい箝口令が敷かれているのであろう。

必要最低限の言葉だけで、魔物の男は希望を託した。

魔王子の表情は変わらなかった。


女騎士「...照れているのか?」


魔王子「黙れ...早く飲ませろ」


瓶の蓋を開け、横たわっている魔王子に飲ませる。

ゴクゴクと、カラッカラの喉が水を求めているような飲みっぷりであった。

身体の傷を癒やしてくれるモノとはいっても、薬草であるので苦いはずだ。


女騎士「...なぁ」


魔王子「...?」


女騎士「さっき、仲間かどうかって言ってたよな?」


女騎士「...仲間の絆とか、そういう臭いことを言うつもりはない」


女騎士「お前と私は、いうなれば利害の一致」


女騎士「きゃぷてんはただの同行の旅」


女騎士「女勇者に至っては、王に命令されたから付いていっているだけだ」


女騎士「長年の付き添いなんてもってのほか、女勇者以外は出会って1週間も経ってない」


魔王子「...」


厳しい言い方かもしれないが事実である。

この関係性で仲間がどうのこうのなど言えない。

だが、1つの要素が彼女らの結束を強めていた。

669 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/15 15:03:04.39 BYaPhkOk0 638/1103


女騎士「...自分だけじゃだめなんだ」


1人なら、この旅は必ず失敗に終わる。

魔王子がいなければ、風帝に列車を破壊されていたかもしれない。

女騎士がいなければ、魔剣士は今も牢獄の中だったかもしれない。


女騎士「私は女勇者にも、そして..."キャプテン"にも助けられた」


女騎士「なら私は...彼らの背中を護る義理がある」


女騎士「ただ、それだけでいいじゃないか」


女騎士「そういう間柄の仲間だって、きっとあるはずだ」


自分だけじゃだめなら他者の力を借りるしかない。

冷たい関係性、だがこれが大事なことであった。

互いの背中を護れる信頼関係、それだけが重要であった。


女騎士「そこから始めて、後から仲良くなればいいさ...私にとっての女勇者や魔女はそれだ」


女騎士「私はお前になら背中を任せられる...お前も、キャプテンや女勇者に背中を任せられるだろう?」


女騎士「絆とかではない、任せられる頼もしさを信頼しているからだ」


魔王子「...フッ」


嘲笑に近い、鼻を鳴らした音。

楽しいから、愉快だから笑ったわけではない。

この状況でこんなことを言い出す人間に呆れてしまっていた。


女騎士「笑ったな?」


魔王子「まさか、合理的に魔王に挑む者がいるとはな」


魔王子「俺が読んだ物語では、勇者側はいつも絆を抱いていたぞ?」


女騎士「いいだろ? これなら種族とか関係ないだろう」


魔王子「あぁ...余計な気を回さないで楽だ」


魔王子「ならば、俺は..."女勇者"を助けねばな」


女騎士「もう、動けるのか?」


魔王子「...さっさと行くぞ、"女騎士"」


魔王子「"キャプテン"の無事も祈らればならないしな」


絆、そのような軽い言葉の関係になったわけではない。

背中を護るだけの薄い信頼関係が、彼を仲間に馴染ませていた。

その薄さは紙よりも薄く、だがダイヤモンドより硬い。


~~~~

672 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:18:48.40 cDaZ0bIE0 639/1103


~~~~


隊長「...抜けたか」


魔女「ここが...城下町の郊外ってとこかしらね」


密林を抜け、ようやくたどり着いたのは城下町。

はるか遠くには微かに魔王城らしきものが見える。

列車から離脱はしたが、彼らは着々と前に進んでいた。


魔女「薄暗いわね...日はもう落ちたのかしら」


隊長「みたいだな、完全に暗くなる前に魔王子たちと合流しなければ」


魔女「その前に、この門を通らないといけないわね」


そこには分厚い塀と巨大な門、そして数人の門番がいた。

塀の都の比ではない、手榴弾で穴をあけるようなことは不可能。

大きく開いている門を潜るしかなかった。


隊長「素直に通してもらえそうにはないな」


魔女「...強行突破ね」


隊長「...まずいな」


強行突破をしようものなら、確実に騒ぎになる。

騒ぎになれば、侵入を防ごうと兵士が続々と投入されることは確実。

しかし、ここを潜らなければ魔王城へと向かうことはできない。


隊長「...何分走れる?」


魔女「魔力も戻ったおかげで魔界の空気が身体に馴染んでいる今...数十分は全力で走れそうよ」


魔女「問題はあなたね...」


隊長「ただの人間であることが悩ましいな...」


魔女「...こうしましょう」


策を練る魔女、そしてその策に乗る隊長。

強行突破は避けられない、どのタイミングで始めるか。

お互いに納得できたあと、密林の茂みに隠れて機会を待つ。


魔女「...」


隊長「...」


2人がかりで門番を注視する。

数分はたっただろうか、ついに動きがあった。

門番は一瞬だけ後ろを向いた、誰かに話しかけられたのだろう。

673 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:21:22.13 cDaZ0bIE0 640/1103


魔女「────"風魔法"」


────ぶわぁっ!

その風は大きな音を立てて門に向けられた。

殺すことが目的ではない、どれほど時間を稼げるか。

風力は膨大ではあるが、あまりにも鈍い風が門番を襲った。


魔女「怯んだっ! 今よっ!」ダッ


隊長「よしッッ!!」ダッ


あまりに出来事に目を白黒させている門番。

その間に2人は門を潜り抜けた。

超強行突破、鈍い風が大幅に時間を稼いでいた。


兵士1「──て、敵襲ッ!」


大声で叫ぶ、すると様々な魔物が現れた。

窓を開き野次馬をする一般市民と分類される魔物

休憩中だったのだろうか、急いで鎧を装着してこちらに向かおうとする魔物。


魔女「案外普通ねっ!」


隊長「魔界といってもなッ!」


魔界の城下町、その外観は意外にも普通であり塀の都と遜色はなかった。

家が連なり一般市民が存在し、その民たちを守ろうと警備する兵士が居る。


魔女「"風魔法"っ!」ヒュン


隊長「──うおッ!?」


走りながら城下町を観察している間に魔女が追加の魔法を唱えた。

今度は怯ませるためではなく、自分たちに向けている。

隊長と魔女の背中を優しく押す風が、彼らの速度を上昇させた。


兵士1「逃がすなッ! 魔王城へ行くつもりだッ!」


魔女「ただ闇雲に大通りを走ってるだけなんだけどっ!」


隊長「好都合だッ! このまま直進が魔王城らしいぞッ!」


兵士2「捕らえろッ! 魔王様に合わせる顔がないぞッ!」


兵士1「──"氷魔法"ッ!」


──パキパキパキィッ...!

追ってきている兵士の1人が仕掛けてきた。

じわりじわりと氷は隊長たちの足を凍らせようと迫ってくる。

氷が通った地面は凍りついている、かなりの精錬された魔法。

674 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:23:11.20 cDaZ0bIE0 641/1103


魔女「追いつかれるわよっ!」


隊長「──ッ」スッ


────からんからんっ!

走りながら取り出したモノからピンを抜く。

後方確認もせずに後ろに向かってソレを投げた。

すると後方から聞こえたのは、強烈な爆発音であった。


兵士2「爆弾かッ!? 気をつけろッ!」


兵士1「クソッ! 氷が砕かれたぞッ!」


手榴弾による足止めは成功、氷の進行を一時的に止めた。

氷魔法の効力はまだ残っているが、もう隊長たちには追いつけないだろう。


隊長「撒いたかッ!?」


魔女「──前にいるわっ!」


兵士3「連絡にあった侵入者を発見...捕縛する...」


目の前に現れた新たな兵士、その数は1人。

しかしその佇まい、かなりの実力を保有している風に見えた。

足を止めるわけにはいかない、走りながらも応戦することに。


兵士3「..."雷魔法"」


────バチィッ...!

線の細い雷が走った。

そのあまりの速度を視認できなかった隊長はモロに魔法を浴びてしまう。

威力はかなり抑えられている、だが身体に雷を浴びる事自体が失敗だった。


隊長「────AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!?」


魔女「──ごめんっ! "雷魔法"っ!!」スッ


──バチッッ!

魔女がすぐに対処を行った。

足をとめ、隊長の背中に手を当てて魔法を唱えた。

これもまた、かなり威力を抑えたモノだった。


隊長「──OHッッ!?」


再び体に稲妻が走った。

今度は身体に痺れが周るような感覚ではなく、身体から出ていくような感覚。

魔女は自分の雷で、兵士の雷を誘導し体外へと放り出した。

675 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:24:43.89 cDaZ0bIE0 642/1103


兵士3「...やるな、これは手厳しそうだ」


隊長「ゲホッ...テーザー役か...すまん、助かった」


魔女「いいの、でも後ろから...」


兵士2「いたぞッ!」


気づけば囲まれていた。

先程氷魔法と共に追ってきていた兵士、そして新たな者も。

四面楚歌であり逃走は不可避でいて闘争が不可欠、彼は背負っていたアサルトライフルを握る。


隊長「...まずいな」


魔女「やるしかないわよ」


隊長「あぁ...」


いくらこの武器が優秀だからといっても、この状況ではあまり期待ができない。

このアサルトライフルという武器は複数相手への射撃はできない。

よって1度に戦える相手の数は限られる、このような囲まれている状況が既に不利であった。


隊長「俺は援護をする、すまないが魔女が主力だ」


魔女「──えぇ、わかったわ」


兵士1「主力はあの女のようだがあの男は爆弾を持っている、気をつけろッ!」


兵士4「尋問が待っている、殺すなよ?」


兵士3「...」


じりじりと兵士たちが迫ってきている。

強行突破は失敗に終わる、だがこれをしなければどうやって城下町へと入れただろうか。

魔女が攻撃行動に移ろうとしたその時だった。


兵士2「な、なんだ...?」


──ズシッ...ズシッ...

なにか巨大なものが迫ってきているような、そのような音が聞こえる。

兵士の1人が後方を確認する、隊長も横目でそれを目視しようとした。

迫ってきていたモノの全貌が明らかとなった。

676 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:27:09.78 cDaZ0bIE0 643/1103


兵士3「..."巨狼"か? なぜここに」


魔女「...え?」


巨狼「...」


先程、雷魔法を放った兵士が冷静に分析をする。

その一方で魔女と隊長がその光景に呆然とする。

この大きな狼ではなく、その背中に乗っている者たちを見て、呆然とする。


???「──つかまってぇっ!」


白い毛並みの狼がこちらに向かって走ってきている。

それと同時に、どこか懐かしい雰囲気のするゆるい声が響いた。

その声を聞いてようやく2人は行動に移った。


隊長「────突っ込めッッ!!」ダッ


魔女「──えぇっ!!」ダッ


気づけば狼はその巨体を駆使して囲んでいた兵士を蹴散らしていた。

そして隊長たちは突っ込んだ、狼にではなくその上に乗っていた水に。


隊長(この濡れた感触がしない水...懐かしいな)


水が2人を取り込むと、狼は颯爽と大通りを駆けて行った。

その光景に兵士は愚か、野次馬も固まってしまっていた。


兵士3「...魔王城へ連絡をいれろ」


~~~~


~~~~


女勇者「...平和の念」


ユニコーンの魔剣を強く握りしめる。

今にも炎帝に焼き殺されそうだというのに余所見をする。

一方で炎帝も身体を燃やし尽くすのを止めていた、彼が戻ってきたからだ。


炎帝「もう戻ってきてしまったか...」


魔王子「俺の趣味は散歩だ、この辺の近道なら知っている」


炎帝「...参ったね、まさか2人とも無事にここにくるとは」


女騎士「...女勇者、大丈夫か?」


女騎士が問う、しかし返事は帰ってこなかった。

2人の仲はいいはずだというのに、無視はあり得なかった。

彼女は夢中になっていた、握りしめている魔剣に。

677 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:29:05.13 cDaZ0bIE0 644/1103


女勇者「...」


この魔剣の前の所有者、その者の平和の念。

ようやく気づいたその暖かな光、彼女もまたユニコーンについて熟知していた。

同じ光属性の魔力を持つモノ同士、教えられなくても自然とその感覚が伝わった。


女勇者「この魔剣...魔王子くんの前は誰が持ってたの?」


魔王子「...キャプテンという男が、誰かに託されたと聞いた」


魔王子「それ以上は聞いていない...わからない」


女勇者「...そっか」


炎帝「...さて、どうしたものか」


頭を悩ます、このままでは女勇者の拉致など不可能。

杖らしきものをついている女騎士と、その横に涼しい顔で佇んでいる魔王子。

この3人を同時に相手をしながら、女勇者を殺さずに連れ去るなどいくら炎帝でも無理であった。


炎帝(...仕方ない、戻るか)


転地魔法を唱え、魔王城へ戻ろうとしたその時だった。

女勇者の身体から光が消える、その僅かな出来事を見逃す男ではなかった。


炎帝「──貰った」


魔王子「──気を抜きすぎだッ!」


女勇者「────へっ?」


魔剣に夢中になりすぎて気づけなかった。

属性付与の効力が切れ、身体を守っていた光が去っていたことに。

それも当然、この属性付与はかなりの時間の間保っていた、故の自然消滅であった。


炎帝「"炎魔法"」


灼熱の火炎放射が放たれた。

その尋常じゃない発射速度に、新たに魔法を唱えられる者はいない。

魔王子も女騎士も、庇いに行けるほどの距離にいない。


女騎士「──女勇者ぁああああああああああああっっ!!」


炎帝「持ち帰れないのなら、今のうちに殺しておいたほうがいい...側近様には申し訳ないけどね」


魔王子「──クソッッ!!」


────バサァッ...!

誰もが焼かれたと思った、その時だった。

突風が炎よりも早く女勇者を攫い、敷いていた布を女騎士の方角へ吹き飛ばした。

魔法によるものではない、なにか巨大な翼が通ったような風だった。

678 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:31:08.38 cDaZ0bIE0 645/1103


女勇者「...へ?」


??1「...まさか裸で棒立ちしているとは思わなかったぞ」


??2「言ってやんなァ、俺様が初めて見たときは裸で試験管にブチ込まれてたんだぞ?」


??1「まぁいい...戦力を確保できたのだからな」


女勇者が力強く抱きかかえられている。

その者の手には、よくわからない武器があった。

そしてこの者が乗っているのは竜であった、その光景に魔王子は瞳を輝かせる。


魔王子「...魔闘士、魔剣士」


魔剣士「よォ、"翼"はもがれたままだと思っただろォ?」


魔闘士「...魔剣に翼を貰っておいて、何を言うか」


魔剣士「るせェ...こうしなきゃ間に合わなかっただろうが」


その竜の翼はあまりにも醜かった。

まるで、彼の持っている魔剣がそのまま翼になったかのように。


炎帝「...君たちか、久しぶりだね」


魔闘士「まさか、炎帝が先陣をきっているとは思わなかったな...」


魔剣士「...一旦降りるか」


そう言うと、下降をはじめ地面へと降り立つ。

すぐさまに翼は魔剣へと変化を始め、翼のない竜の姿をしていた魔剣士は元通りになる。


女騎士「2人とも無事だったかっ!」


魔闘士「当然だ、所詮雑魚が群がっていただけだ」


魔剣士「何いってやがる、俺様が駆けつけてなかったらヤラれてただろうが」


魔闘士「...黙れ」


女騎士「...ははっ」

679 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:32:21.78 cDaZ0bIE0 646/1103


女勇者「えっと...あの...」


魔王子「どうやってあの姿に...?」


魔剣士「簡単だァ、魔剣との一体化に応用をきかせたんだァ」


魔剣士「時間と神経を使うが、一体化させた腕から背中にかけて魔剣を移動させてよォ」


魔剣士「そっから"竜化"しただけだ、簡単だろ?」


魔闘士「...そのようなことが出来るのは後にも先にもお前だけだろうな」


魔闘士「竜へと姿を変えれる"竜人"と言う種族が、一体化できる魔剣を持っていること自体が稀すぎる」


魔闘士「ましては翼をもがれた竜人などそうそうにいないだろう」


魔剣士「うるせェなァ...あの頃の魔王子に負けちまったんだから仕方ねェだろうが」


魔王子「...また2人の漫談が始まったか」


魔王子もまた、いつもの2人の会話に頭の抱える。

ついに見かねた裸の女が話を遮った、会話に参加できずにいた彼女が。


女勇者「えっと...助けてくれてありがとうっ!」


魔剣士「あァ、人間を助けるだなんてこれが3回目だな」


魔闘士「俺たちもまた、変わってしまったな」


魔剣士「...悪い事じゃねェよなァ?」


魔闘士「...当然だ、久々に心躍る好敵手と出会えたのだからな」


魔剣士「...で、その当の本人がいねェみてェだが」


女騎士「キャプテンのことはあとで説明する...それよりも」


5人が上を見上げると、そこにはまだ炎が鎮座していた。

徐々にその炎は人の身体へと変化を始める。

属性同化を一旦解除したのだろう。


炎帝「悪いけど、引かせてもらうよ」


魔剣士「あァ、その方がいい...お前の本気はここで拝みたくねェ」


炎帝「私としては、ここでヤッてもいいんだけど...色々と支障がでるからね」


炎帝「続きは私の部屋でやろうね..."転地魔法"」


そういうと美少年は消え去った。

彼の本気が拝めるのは魔王城の彼の部屋だけだろう。

そうでなければいけない、彼の部屋は魔法によって特別に強化されている。

680 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:33:52.08 cDaZ0bIE0 647/1103


魔剣士「...どっちにしろ、ブチのめさなければいけねェんだけどな」


魔闘士「ここでやられたらたまったものじゃない」


魔王子「...そうだな」


女騎士「そんなに凄いのか、炎帝は」


魔闘士「奴は1人で戦場並の激戦区を作り出すと言われている」


魔闘士「特に厄介なのは爆魔法だ...ありとあらゆるものが爆発によってはじけ飛ぶ」


魔闘士「それらを対処しながら奴と戦わなければならないわけだ」


女騎士「...なるほどな」


女騎士「だが...なぜ引いたんだ?」


魔闘士「...奴自身、自分の魔法の脅威を知っているからだ」


魔闘士「ここで派手にやれば、我々の戦力を確実に削れるだろう...」


魔闘士「だがここは城下町の中心だ、当然民たちも生活している」


魔闘士「...あんな冷たい顔つきをしているが、奴は敵意のない者には危害を加えようとしない」


女騎士「...そうか」


魔闘士「...それよりも、状況を確認させてくれ」


魔剣士「そォだ、まずキャプテンはどこだ?」


女騎士「...すまない、死神によって列車が襲撃され、その際に分断されてしまったんだ」


女騎士「魔女とキャプテンは湖に向かって落下して...そのまま消息がわかっていない」


魔闘士「...そうか」


魔剣士「チッ...俺様がこっちに向かっているときにも死神共に襲われたが...やっぱりそっちもか」


魔剣士「今からでも探しにいくかァ?」


魔王子「それはできない...時間が限られている」


再び魔剣を翼にしようとしたが、それを遮った。

時間が限られている、それはどういう意味なのか。

681 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:35:17.52 cDaZ0bIE0 648/1103


魔王子「俺の魔力は残りわずかだ、有るうちにヤらねば親父とまともに戦えん」


魔王子「風帝はすでに殺した...残るは炎帝、水帝、地帝、そして魔王だ」


魔王子「四帝を抑えてもらい、その間に俺が魔王を殺す...それしか手が残っていないはずだ」


無茶苦茶な要求、ここにいるのは5人であり魔王子を除けば4人。

その人数で四帝を押さえ込めという話、とてもじゃないが不可能だ。


魔剣士「らしくないなァ...いつもの寡黙な魔王子はどこいったんだァ?」


魔闘士「だが...魔王を相手にまともに戦える者など、魔王子しかいないのもまた事実だ」


女騎士「やるしかないのか...」


魔王子「...頼む」


その意外な言葉に、一部を除く者たちは仰天する。

魔剣士と魔闘士、魔王子に連れ添ってから初めて聞いたその言葉。

思わず目を大きく見開いてしまった。


魔剣士「...頼まれちった」


魔闘士「変わったのは...魔王子もか...意外だ」


魔剣士「俺様は魔王子の意見には賛成だが...1つ訂正箇所がある」


そういうと、魔剣士はゴソゴソと魔闘士の背中を弄くりだした。

大きなかばんのようなものを背負っている、そして取り出したものは小瓶であった。


魔剣士「時間はある、この小瓶で作れるぞォ」


女騎士「...なんだそれは?」


魔剣士「これはだなァ──」ピクッ


意気揚々と語ろうとしたその時だった。

いままで話についていけず沈黙していた女勇者が遮った。


女勇者「あっ、そうだ魔王子くん」


魔剣士「...話を遮るか普通?」


女勇者「ご、ごめんね...でも先にやっとかなくちゃいけないことがあって」


女勇者「魔王子くんと女騎士にかけた属性付与を解除しなくちゃ」


女勇者「特に、魔王子くんは身体の調子が悪くなるでしょ?」


魔闘士「...俺は身体に入った例の魔力が、遂に魔王子の全身に巡っていたのかと思ったぞ」


魔剣士「お前がかけてたのかよ...そりゃ魔王子が眩しいわけだァ」

682 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:36:50.42 cDaZ0bIE0 649/1103


女騎士「...そういえば、付与されていたな」


魔王子「俺はこれのお陰で久々に骨を折った」


女勇者「えぇっ!? "治癒魔法"っ!」


──ぽわぁっ...!

優しい光が魔王子を包み込んだ。

それだけではない、その洗練された魔法は5人全員を癒やしていた。


魔剣士「...流石、女勇者ってだけはあるなァ」


魔王子「とっとと解除しろ...」


女騎士「頼むぞ」


女勇者の手が魔王子と女騎士の手に触れる。

解除をするために身体に付与された光を自分の身体に戻そうとする。

属性付与の解除方法、それは時間経過か付与させた魔力を自分の身体に取り込むかのどちらかでしかできない。


女勇者「...」


前者は後始末をしなくて楽だが、効力切れの時間は不規則で連戦時には先程のような危険性がある。

ならば今のうちに、手間がかかるが後者の方法でやったほうが安心である。

賢者の修行を終えた魔女ですら、その行為には数分の時間がかかるだろう。


女勇者「...はいっ! おしまいっ!」


魔王子「────ッ!?」ピクッ


驚愕した、そのあまりの速度に。

魔剣士や魔闘士ですらその解除速度に感心する。

しかし、当の本人はそれどころではなかった。


魔王子「──離れろッッ!!」


──■■■■■ッッッ!!!

人間には捉えられない速度の闇が魔王子の身体から開放されていく。

見えているのは魔物の2人だけ、魔剣士は女騎士を、魔闘士は女勇者を即座にこの場から離れさせた。


魔剣士「──暴発かァッ!?」


魔王子「わからんッ! だが闇が溢れてくるッ!」


魔闘士「どうなっている...?」


闇の開放が止まらない、明らかにその量は先程までの魔力量を超えている。

彼の身体には女勇者の魔力が蝕んでいたというのに。

まるでその魔力がどこかに消え去ったかのような感覚が彼を襲った。

683 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:39:11.00 cDaZ0bIE0 650/1103


魔王子「──ッッ! いい加減にしろッ!」


自分自身の身体に活を入れる。

咳を我慢するような行為、意識のすべてを頭に集中させる。

これ以上暴発しないように、頭の中で自分を恐喝した。


女勇者「"光魔法"」


──□□□□□...

再び、光が魔王子の身体を包み込む。

正確には放出されている闇だけを器用に包み込んだ。

これにより、ようやく暴発が止まる。


女勇者「大丈夫...? 僕のせいかな...」


魔王子「...ッ!?」


謝罪をしている彼女を尻目に、身体の違和感を確認する。

違和感がないことに強い違和感を感じる。

確信することができた、そしてその言葉を口にする。


魔王子「光が消えた...?」


魔剣士「...は?」


魔闘士「本当かッ!?」


女騎士「──っ! 本当だ!?」


先程の出来事にあっけにとられていた女騎士。

言われてみてようやく気づいた、身体の違和感がないことに。


魔剣士「...まさか」


魔闘士「いや...確かなようだ...2人から光の魔力を一切感じない」


魔剣士「ってことは...さっきの属性付与の解除が原因かァ?」


女勇者「な、なにがどうなっているのさ...」


先程まで自分を除く4人が、女勇者の魔力に悩まされたことすら知らない。

話についてけるわけがなかった、だが4人の会話はどんどんとヒートアップをしていった。


魔剣士「属性付与の解除...属性付与の光とともに蝕んでいた光も一緒に取り込んだってことかァ?」


魔闘士「その可能性は大いにありえる...まさかこんな抜け道があったとは」


女騎士「油汚れは油で落とすとよく耳にするが...それと同じようなことか?」


魔王子「もう少し早く気づくべきだったか...いや、今気づけただけでも幸いか...」

684 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:41:20.18 cDaZ0bIE0 651/1103


女騎士「...待て」


よく見てみれば魔剣士と魔闘士、2人とも顔に疲労感が見えない。

先程の研究所ではかなり疲労困憊した風に見えていたのに。

魔力への知識が若干乏しい女騎士でも、仲間の魔力の分別ぐらいはできる。


女騎士「...お前らからも女勇者の魔力を感じないぞ?」


魔剣士「それは...説明しようとした時にあの女が遮ったからなァ」


魔闘士「...いまからでも説明するか、もう遅いがな」


先程の小瓶を再度取り出した。

今度こそ説明が起こる、遮らないように女勇者は自分の口を抑えていた。

微笑ましい光景だが、4人はその知識への探究心へと夢中になっていたので無視されていた。


魔闘士「雑魚どもは全滅させた、そのあと研究所をある程度探索させてもらった」


魔闘士「そして見つけたのがこの小瓶と...これだ」


パンパンに膨らんでいたかばんから、金属音とともに取り出した。

小さめの鎧、そして剣と盾、誰のものか明白であった。


女勇者「あ、僕の装備だ」


魔剣士「...槍は見つからなかった、悪いな」


女騎士「いや、大丈夫だ...今はキャプテンの武器がある」


魔闘士「さっさと装備しろ、いい加減裸でいると体調を崩すぞ」


女勇者「はぁい、ありがとうねっ!」


魔剣士「...本当に女なのかァ? コイツ」


女勇者「うん? そうだよ?」


魔剣士「そういうことを聞いてるんじゃねェんだよ」


女騎士「...今後、私が指導しよう」


裸であることに抵抗感のない女勇者。

それを治すべく女騎士が名乗りを上げる、しかし彼女も同族である。

過去に隊長を混浴に誘う女が、裸族の女を指導できるのだろうか。

685 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:43:11.56 cDaZ0bIE0 652/1103


魔闘士「...話を戻すぞ」


魔闘士「俺は例の魔力を作った男と対峙したんだが...」


魔闘士「どうも、奴は完璧主義者のように思えた」


魔闘士「ならば...有事のときに備えて、特効薬を作成していると考えた」


魔剣士「そしたら、見事に的中したわけだァ」


女騎士「...それを飲んで、お前らは魔力を復活させたってことか」


魔剣士「そォだ」


半ば投げやりな雰囲気で話を進めている。

なぜなら、すでにこの小瓶の役目は終わっていたからであった。

必死こいて探した薬の存在意義はどこにあるのか。


魔剣士「...もういらねェか」


女騎士「いや...キャプテンは大丈夫だとは思うが、魔女が心配だ...とっといてくれないか?」


魔剣士「おォ、そうだったなァ」


魔闘士「...ではどうするか」


魔剣士「魔力を失うことがない今、急いで魔王城へ突入する意味はねェ」


魔剣士「俺様としては、デカい戦力になるキャプテンと、強い治癒魔法を使える嬢ちゃんを探してェ」


魔闘士「...魔力が戻ったが、俺には遠距離攻撃ができない」


魔闘士「だが今は"この武器"がある...この武器に不可欠な弾薬とやらを作れる魔女が必要だ」


魔闘士「もちろん、キャプテンもな...人間にしては頼れる」


女騎士「私も、捜索の案に賛成だ...戦力云々の前に安否が気になる」


魔王子「...急ぐ必要はないな」


満場一致、隊長たちを探しに行く案が可決される空気だった。

だが、また空気の読めない女が水をさしてしまう。

686 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:44:25.47 cDaZ0bIE0 653/1103


女勇者「そのきゃぷてん? って、人は誰なんだい?」


魔闘士「...」


魔王子「...」


女騎士「...そうだった、まだ説明していなかったな」


魔剣士「...女勇者ってェのは、こんな奴なのかァ?」


女勇者「え...?」


女騎士「これが女勇者の良い所だ、わかってくれ」


魔剣士「...まァ、芯が強いって解釈にしてやる」


女騎士「じゃあ説明するか...まずキャプテンって男はな」


説明しようとすると、4人の口が一斉に動く。

それほどまでに彼は特徴的であった。


女騎士「頼れる男だ」


魔剣士「魔闘士より頼もしいィ」


魔闘士「魔剣士よりかは信用できる」


魔王子「...強い男だ」


女勇者「...」


女騎士を除く3人、魔物である3人がなかなかの高評価を与えている。

はじめは人間だと思っていたが、どうやら違っていたようだった。

女勇者は確信するために思ったことを口に出した。


女勇者「え? 魔物?」


女騎士「いや、人間だ」


魔剣士「異世界から来たっていってたなァ」


魔闘士「神にも会ったとかいっていたな」


魔王子「...そうなのか?」


女勇者「う、うーん?」


余計にこんがらがってしまう。

さり気なく、魔王子も軽くこんがらがっている。

ともかく魔剣士が行動に移る。

687 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:46:04.48 cDaZ0bIE0 654/1103


魔剣士「じゃあ、ちょっくら探してくるぜェ?」


女勇者「うん、直接あって聞いてみることにするよ」


女騎士「任せたぞ」


魔王子「...」


魔闘士「...待て」


翼になりかけた魔剣を止め、魔闘士の方を振り返った。

その顔つきは非常に険しいものであった、思わず魔剣士は真剣な口調で返答した。


魔剣士「...どうした?」


魔剣士「魔王子の調子が戻った今、比較的安全にここで待機できると思うがよォ...」


魔闘士「そのことではない...キャプテンのことについてだ」


なんのことか、さっぱりわからない。

だが、魔闘士だけが知っている事実があった。

研究所で起きたこと、彼が何者に取り憑かれていることを。


魔闘士「...奴はドッペルゲンガーに憑かれている」


魔剣士「...はァッ!?」


魔王子「...真か?」


魔闘士「あぁ...この目でしっかりと見た...奴が闇を纏っていたのを」


魔剣士「冗談だろ...なんて希少なモノにとり憑かれてるんだよ」


魔闘士「わからん...とにかくそういうことだ」


魔闘士「研究所では俺が気絶をさせた...仮にキャプテンが見つかったとしても油断するな」


魔闘士「奴に敵意はないのは重々承知だが...ドッペルゲンガーは敵意むき出しで襲いかかるだろう」


魔剣士「...参ったなァ、とんでもねェ地雷背負ってるなキャプテン」


魔闘士「暴走したらまた、気絶させなければならない」


魔剣士「...わかった、とにかく探してくるわァ」


魔闘士「気をつけろよ...」


魔剣士「あァ...闇魔法は魔王子だけで勘弁だってのォ」


魔王子「──ッ!」ピクッ


飛び立とうとしたその時、魔王子が剣を鞘から抜いた。

折れた刀身、そのことについて猛烈に疑問を感じたが魔闘士もその気配に気づいた。

688 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:49:34.45 cDaZ0bIE0 655/1103


魔闘士「...敵か?」


魔王子「複数...そのうち1つは巨大生物だな」


魔闘士「猛獣使いの可能性が高いな」


女騎士「早速敵襲か、久々に本調子で戦えるな」


魔剣士「けッ、ブチのめしてから行くかァ」


女勇者「えっ! まだ着替えてないのにっ!」


ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、鎧を着込む。

その間にも、大きな足音は近づいてきている。

音から察するに、四足歩行。


女騎士「──くるっ!」スチャ


それぞれが武器を構える。

そして目の前に現れたのは白い獣。

橋の下、城下町から巨大な狼が飛び跳ねて現れた。


巨狼「────うわっ!?」


そのはずだった、5人が目視した大きな狼はなぜか急に視界から消えた。

動体視力が優れている魔闘士には唯一、縮こまった風に見えていた。

そして、狼に乗っていたと思われる者が聞いたこともない言語を発する。


??1「────WOW WOW WAITッ!」


??2「えっ!? なにが起きたのっ!?」


??3「...恐らく、効力切れかと」


??4「ひやあああああああああああああっ!?」


巨狼「くぅーん...」


魔剣士「...はァ?」


そのトンチンカンな出来事に思わず竜は固まってしまう。

それは彼だけではなく初めからいた5人全員もそうであった。

1秒も経っていない出来事、まるで時が止まったかのような沈黙が訪れていた。


??2「────痛っ!?」


──ドサドサドサッッッ!!

宙に浮いていた5人は乱雑に橋の地面に叩きつけられた。

そして、ようやく動けていたのは女騎士だけであった。

689 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:51:19.44 cDaZ0bIE0 656/1103


女騎士「──魔女っ!」ダキッ


魔女「...女騎士っ!」ギュッ


尻から着地した魔女、痛みをこらえながらも女騎士の抱擁に応ずる。

まだ出会って日数も立っていないというのに、旧知の友人のように。


魔王子「...生きていたか、キャプテン」


隊長「魔王子...あぁ、この通りな」


腰から着地した隊長、仰向けの状態からすぐに立ち上がる。

この世界での名前を呼ばれたことに少しばかり驚いた。

だが、それについて突っ込むことなく受け入れていた。


魔闘士「...無事か?」


隊長「...すまない、迷惑かけたな」


柄にもなく、心配をされていた。

初めて対峙した時は敵同士であったのに。

記憶を思い返し、出たのは謝罪の言葉であった。


魔闘士「気をつけろ、あれは一時的に止めたに過ぎない」


魔闘士「また、暴走するかもしれない...あまり感情を激しくさせるな」


魔闘士「ドッペルゲンガーとは感情を揺さぶる魔物なのだからな」


隊長「あぁ...わかっている」


魔剣士「...よォ」


隊長「魔剣士...まだ何日かしか経っていないのに久々な感じがするな」


魔剣士「あァ、ここ数日間は濃密すぎるからよォ」


魔剣士「...また、お前に会えて嬉しいぜェ?」


隊長「...魔闘士と違い、魔剣士は思ったことを素直に口にしてくれるから助かる」


魔闘士「どういう意味だ...まるで俺が口に出していないだけと言いたいのか?」


魔剣士「...違ェねェなァ!」


魔闘士「黙れ魔剣士...ここで決着をつけるか?」


魔剣士「やるかァ!? 魔王をブチのめす前に景気良くなァッ!」


魔王子「...」


その光景をみて魔王子は失笑するしかなかった。

同じくその光景を横目で見ながら女騎士があることに気づいた。


690 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:52:47.23 cDaZ0bIE0 657/1103


女騎士「...もしかして、女賢者か?」


女賢者「え...どうしてわかったんですか?」


魔女「知り合い?」


女騎士「いや、女勇者の仲間候補に名前が上がってたんだ」


女騎士「結局断られたらしいが...似顔絵と似てたんで聞いてみた」


女賢者「...あー、断った覚えがあります」


魔女「そうなのね...やっぱり、強いのねあんた」


女賢者「これでも賢者の修行を終えた身なので...」


少し照れたような口調で、堅苦しく言葉を交わす。

魔女とはあまり会話をしたことがない、女騎士とは初対面。

3人のガールズトークを尻目に、漫談を終えた隊長が2人の魔物娘に近寄った。


隊長「...スライム、ウルフ、大丈夫か?」


スライム「ふわあああ...ちょっとまだ身体が崩れてるけど...だいじょうぶだよ」


ウルフ「...ご主人、もうちょっとねかせて」


隊長「...ここまで運んでくれてありがとう、ウルフ」


ウルフ「...えへへ」


横たわっているウルフの頭を撫でてあげた。

犬を飼っていたことがある、どこを撫でれば喜ぶかは把握していた。

募る話もあるが今は休息を取りたい、そのような微妙な表情をしていたウルフの顔がゆるくなっていた。


女勇者「...」


話についていけない女。

これから魔王を討つ、この者は最重要戦力であるはずだ。

それなのに部外者感が醸し出されていた。


魔王子「...」


そしてその近くで微かに震えている男、剣を鞘に納めて手のひらで顔を抑えていた。

そんな中ガールズトークを抜け出した女賢者が隊長たちの方に寄ってきた。

691 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:53:52.05 cDaZ0bIE0 658/1103


女賢者「...ようやく落ち着いて話せませすね」


隊長「あぁ...さっきまではしがみつくのに必死で話している余裕がなかったからな」


隊長「...助かった、ウルフたちが来なければ失敗に終わってた」


女賢者「全くです...あそこまで強引に走ってるとは思いませんでした」


女賢者「ウルフちゃんの嗅覚に感謝です、それを頼りに追いつきましたから...」


隊長「...ウルフやスライムは疲れているみたいだからお前に聞く」


隊長「まず...あのウルフの姿はなんだったんだ?」


真っ先に聞きたかったこと、それはウルフの姿。

先程魔闘士が目視できた現象は正しかった。

なぜあの巨大な狼の姿へと変化していたのか。


女賢者「大賢者様の"魔力薬"です」


隊長「...それって」


女騎士「ふむ...聞いたことあるな、確か魔力を大幅増幅させる薬だったか?」


女賢者「まぁ、概ねあってますね」


魔女「大賢者様の膨大な魔力をウルフが得て、狼化ってことね」


魔剣士「なるほどなァ...確かに凄まじい魔力を感じたなァ」


魔闘士「湖で逸れ、密林を抜け城下町を経て合流か...なかなかの速さだな、この犬」


ウルフ「...えっへん」


スライム「すごかったね、ウルフちゃん」


2人で会話していたはずが、わらわらと集まってきていた。

人間も魔物も知識への欲は凄まじい、続いて隊長が2つ目の質問を投げる。


隊長「...なぜ、来たんだ?」


女賢者「...帽子さんの願いを、手伝うためでした」


魔女「...っ!」ピクッ


隊長「...見たんだな?」


女賢者「えぇ、スライムちゃんとウルフちゃんが花を手向けてましたから」


女賢者「...ひと目でわかりました」

692 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:54:54.49 cDaZ0bIE0 659/1103


魔剣士「...あの時の、剣士か」


女賢者「...はい」


魔剣士(死因は聞くまでもねェな...話の雰囲気からするに他殺か)


女賢者「...彼はもういません、ですが彼の願いを叶えようとしている人がまだいます」


女賢者「だから、その人に追いつこうと私は足を進めました」


女賢者「...その時、スライムちゃんたちが付いてきてくれました」


女賢者「私がここに、私たちがここに来た理由はソレです」


隊長「...そうか」


自然と、再び手のひらをウルフの頭に置く。

そして優しく、とても優しくそれを動かした。


魔王子「...1ついいか?」


遠巻きにいた、魔王子がこちらに近寄り質問を投げかけた。

ついに女勇者は完全に孤立をしてしまった、1人残った女を置いて会話が始まった。


女賢者「魔王子...さん、ですか?」


女賢者(魔闘士に魔剣士、それに魔王子も...ここまでうまくいっているとは...)


魔王子「あぁ、それで質問だが...」


魔王子「なぜ、俺たちの場所がわかった?」


女賢者「それは...なんでですか?」


自分にはわからない、隊長に聞いてみる。

気づけばウルフはここに向かって走っていた。

魔王城を目印にしてもここは手前の橋、見逃していた可能性が高い。


隊長「...俺は指示を出していないぞ」


ウルフ「あっ! それはね──」

693 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:55:23.12 cDaZ0bIE0 660/1103











「────帽子の匂いがしたからだよ」










694 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:56:47.12 cDaZ0bIE0 661/1103


匂い、いまこの世に彼はいない。

どこからそれは香るのか、原因は1つ。

孤立していた女勇者、そしてその握っている魔剣が注目された。


女勇者「...そっか、そんなに大事な剣なんだね」


隊長「...」


女勇者「...」


その剣に秘められた運命が、光を通して悟らせてくれていた。

自分には荷が重すぎる、彼女はその剣を返却しに隊長の元へと近寄る。


隊長「...女...勇者、だよな?」


女勇者「...は」


勇気ある者、ようやく言葉を絞り出した。

それはいまから魔王城に向かう者にしてはありえない言葉であった。


女勇者「は、はじめましてぇ...」


自分の背丈を遥かに超える男と話すのは初めて、そして彼の強さを聞かされている。

さらにはこの大事なユニコーンの魔剣を勝手に使っていたという事実。

その3つの要素の緊張が相まって、声のトーンが高くなってしまっていた。


???「...フッ、ハハハハ」


思わず誰かが吹き出してしまっていた。

その声は男、笑い声の方向から察するに隊長ではない。

魔剣士のように訛はない、魔闘士のとも違う、では誰か。


魔王子「...これから魔王を討つというのに、初対面の挨拶か」


魔王子「愚かだ...全くもって愚かな集まりだ」


魔剣士「...魔王子が笑ってらァ」


魔闘士「......これは、なんというか、これは...」


その笑い声、長年一緒にいた彼らですら聞いたことのないモノであった。

意外な人物に笑われ、女勇者の顔は徐々に紅く染まっていった。


女勇者「も、もう...っ! しょうがないじゃないかっ!」


女勇者「こんな大事な剣を勝手に使ってるんだ...緊張するにきまってるじゃないかっ!」


魔女「...ふ、あはは」


女騎士「...かつて、魔王の息子と笑い合ってる勇者がいただろうか」


女賢者「そんな設定の物語を書いたら、現実味がないと批判を食らいそうですね」

695 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:58:16.67 cDaZ0bIE0 662/1103


魔剣士「つーかよォ、女騎士と魔王子以外初対面じゃねェの?」


魔闘士「そうだな、直接合うのは初めてだ」


魔剣士「俺様も、ある意味初めてだァ」


魔女「私も」


隊長「俺もだ」


女賢者「...私もです」


スライム「わたしも」


ウルフ「はじめましてだねっ!」


女勇者「あ、あはは...はじめまして」


魔王子「まさか要である勇者が、部外者側とはな」


女騎士「...こんな集まりになるとはな」


女勇者「...魔王子くんも女騎士も笑いすぎっ!」


絆でここに集まっているわけではない。

簡潔にいえば、利害の一致で集まっている。

そのような重くない関係だからこそ、決戦前の緊張など呼び寄せなかった。


女勇者「はいっ! お返ししますっっ!」スッ


隊長「あ、あぁ...だが、それは魔王子に渡してくれ」


隊長「...俺はアイツに、その剣を託したからな」


魔王子「...そういえば」スッ


剣を鞘から引き抜く。

何度取り出しても、刀身は折れたまま。

ゆとりができた今、魔物の男2人はついに疑問をぶつけた。


魔剣士「...折れたのかァ」


魔王子「あぁ」


魔闘士「誰にやられたんだ? まさか風帝か?」


先程魔王子は、風帝を殺したと述べていた。

殺したということは、少なくとも戦いがあったということ。

風帝程の男と戦えばヒビの入った魔剣が折れる可能性が見いだせる、魔闘士はそう推理した。

696 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 19:59:23.04 cDaZ0bIE0 663/1103


魔王子「...聞きたいか?」


魔闘士「あ、あぁ...聞きたいと言われれば聞きたい」


魔王子「...実はだな」


──ゴクリッ!

歴代最強の魔王が魔剣化したモノ、それが折れたとなると相当激しい戦いがあったはずだ。

どのような戦闘を繰り広げたのか純粋に気になっていた、魔物の男2人は思わず生唾を飲み込んだ。


魔王子「...そこの橋から俺ごと落ちた時に、折れた」


魔剣士「...」


魔闘士「...」


女騎士「ん、折れてたのか...気が付かなかったぞ」


彼女の脳天気な反応。

2人がなぜ静かにしているのか理解していない。

歴代最強と言われた魔王の最後が、このザマ。


女勇者「魔王子くんの剣、折れちゃったんだ」


魔王子「...あぁ」


女勇者「...この魔剣、返すね」スッ


魔王子「あぁ」


自身の剣と盾や鎧が手に入った今、ユニコーンの魔剣を持つ意味はない。

それならばこの剣を託された魔王子に返すべきだ。

隊長に託されたときたのなら、なおさらであった。


女騎士「...そうだ」


女勇者「どうかしたの?」


女騎士「ちょっといいことを思いついた...魔王子、折れた刀身をくれないか?」


魔王子「...何をする気だ?」


女騎士「それは見てからのお楽しみだ」


もう使う価値の無い魔王の剣、ならば必要としているものに与える。

これほどまでに軽々しくこの剣が手渡されたのは初めてだろう。

ソレを受け取った女騎士は、先程まで女勇者を包んでいた布を紐状に細工する。

そして出来上がった紐を刀身とともにショットガンに強く巻きつけた。

697 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:00:27.44 cDaZ0bIE0 664/1103


隊長「...なるほど、ベイオネットか」


女騎士「べいおねっと?」


隊長「そうだ、俺の世界だとその形状の武器をそう呼ぶ」


女騎士「妙案だとおもったが...先人がいたか」


隊長「...だが、刺すように使わないとすぐに折れるぞ」


女騎士「私は槍使いだ、そのように扱えば大丈夫だろうか?」


隊長「なんとも言えんな...もう少しキツく締めておこう」ギュッ


女騎士「あぁ、頼んだ」


最強の魔王が、人間の手によって好き勝手にされる。

その光景をみた2人はどうすることもできない。

ただ、固まってその光景をみているだけであった。


魔剣士「...これは不味いだろ」


魔闘士「4代目魔王を崇拝する者がみたら、暴動が起きるだろうな」


魔剣士「...確か地帝も、風帝寄りだったろ」


魔闘士「あの無口か...そういえばそうだったな」


魔剣士「女騎士が地帝と遭遇しなければいいがァ...」


魔闘士「...四帝の中で最も大人しい奴だ、大事にはならないだろう」


魔剣士「そうだといいけどよォ...ッて、そうだァ」


魔剣士「おォい、魔女の嬢ちゃん」


ちょいちょいと、手招きをする。

それが伝わったのか、彼女がこちらに近寄ってきた。

それを見越して再び例の小瓶を取り出した。


魔女「どうしたの?」


魔剣士「あァ、これを飲め」


魔闘士「...おい」

698 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:01:51.62 cDaZ0bIE0 665/1103


魔剣士「あァ? どうし──」ピクッ


嫌な予感がよぎった。

彼女から溢れる、雷のような魔力を。

この小瓶の存在意義、それはもうない。


魔剣士「──どうして魔力が漲ってやがるゥッ!」ブン


その大きな声は、疑問によるものではない。

柄にもなく必死こいて、友のために探した特効薬。

それを彼女に向かって投げつける、幸いにも魔女は上手にキャッチした。


魔女「えっ!? ご、ごめん...?」


魔闘士「...困惑しているぞ、少し落ち着け」


魔剣士「なんなんだよォ...どいつもこいつもよォ...」


魔剣士「結構探すの大変だったんだぜェ...?」


魔闘士「...どうやって、魔力を取り戻したんだ?」


魔女「うーん...ちょっと言えないかなぁ」


隊長「...みんな、いいか?」


そんな彼らを横目に、締め終えた隊長が声を張る。

その言葉には少しばかり緊張感のある雰囲気が感じられた。

各々が彼に注目する、深い緑色のマフラーが風にたなびく。


隊長「...これから、魔王城へ突入する」


隊長「目的がどうであれ、種族が違くても、俺たちは共に闘わねばならない」


隊長「俺個人としての目的がある、魔王が使えるという転世魔法とやらだ」


魔王子「...転世魔法」


隊長「あぁ、大賢者が言うには世界を跨ぐことのできる魔法だ」


隊長「...それを利用して、俺は元の世界に戻りたい」


魔剣士「なるほどなァ...ってことはやっぱり、ブチのめす前に一度交渉しねェとなァ」


隊長「...尋問なら慣れている、任せてくれ」


魔闘士「魔王を尋問するつもりなのか...」


魔剣士「そんぐらいの意気込みがねェとこの先やってられねェぜ」

699 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:03:41.60 cDaZ0bIE0 666/1103


隊長「...そしてもう1つ目的がある」


隊長「先程言った、俺の友であった帽子の願いを叶えるためだ」


隊長「ソイツは魔王を倒し、人間でありながら新たな魔王に就任する」


隊長「そして人間と魔物が平和に過ごせるような政策をする...そう言っていた」


隊長「俺はこの世界に詳しくはない、この世界で過ごしてきたお前らには冗談に聞こえるかもしれない」


隊長「だが帽子は本気だった、アイツの目を見てそう思った」


女勇者(...帽子さん、か)


隊長「しかし...夢半ばに帽子は殺されてしまった...あろうことか、魔物ではなく人間たちによってな」


魔女「...」


スライム「...」


ウルフ「...」


女賢者「...」


女騎士「...辛かっただろうな」


隊長「あぁ、仲間の死には慣れているつもりだったが...」


隊長「...湿っぽい話はここまでにしよう」


隊長「俺は以前、魔王子が魔王を倒す目的を聞いた」


魔王子「...そこからは、俺が喋ろう」


魔王子「俺の目的、それは今の腐りきった政策を正すこと」


魔王子「人間界へと侵略するために、今は魔界中の腕利きのならず者共をここに集めている」


魔王子「...そして元々ここに住んでいる、戦いを好まない者たちが脅かされている」


魔王子「しかし親父...魔王はその民たちのことを気にかけずに侵略を進めようとしている」


魔王子「以前の魔王なら、そんなことは絶対にせずに民を救うだろう」


魔剣士「...確かになァ、最近になって痴呆にでもなったってかァ?」


魔闘士「ここ数年で、急激に攻撃的になったな」


魔王子「...俺の中にある理想であった魔王の像は崩れた」


魔王子「もうそのような父親に用はない...殺してでも魔王の座を奪い取る」


魔王子「そして新たな魔王として君臨し、魔界に平穏を訪れさせる」


魔王子「...それが俺の目的だ」

700 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:07:49.22 cDaZ0bIE0 667/1103


隊長「...俺はその目的に、便乗させてもらう」


隊長「聞こえが悪いかもしれない...だが新たな魔王の適任者など、俺は帽子や魔王子以外に知らない」


隊長「そしてその目的の理念...微かに帽子と近いモノを感じた」


隊長「...魔王子の剣にヒビを入れたのは俺だ、その申し訳無さも要因の1つだが」


隊長「その目的の理念に故に、俺は帽子の魔剣を託した」


魔王子「...利害の一致か、大いに結構」


隊長「よろしく頼む、魔王子」


魔王子「あぁ」


握手などしない、行動する理由がはっきりしているからだ。

強い眼差しがお互いの目を合わせている。

これほどまでに合理的な関係で信用を得ている者たちなどいないだろう。


女勇者「...僕たちも便乗させてもらうよ」


女勇者「僕たちの目的は魔王を倒して、人間界に蔓延る悪さをする魔物の士気を下げること」


女勇者「そう王様に命令されたからここまできたんだよ」


女勇者「2人の目的のような、重みを背負っていないけど...」


女勇者「...」


言葉が詰まっていた、魔王を討てば人間界は平和になるだろうと楽観視していた。

隊長と魔王子、彼らがどれだけの宿命を背負っていたのか。

自分のものと比べると、とても薄っぺらく思えていた。


女騎士「...女勇者」


女勇者「...なに?」


女騎士「...光魔法の属性を持つ人間は希少だ」


女騎士「神によって与えられると比喩されるほどに希少だ...そう書物で読んだことがある」


女騎士「...そして、お前はソレをたまたま生まれ持っていた」


女騎士「ソレを持っていたがために、勇者として選抜されてしまった」


女騎士「ただの田舎娘として過ごしていたのに...数年前に急に王国へと招集されて勇者になった」


女騎士「そしてお前は文句持たれずに王の命令を聞き、ここに来た...違うか?」


女勇者「...そうだよ」


魔闘士(...ただの田舎娘で、あの魔力量か)

701 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:09:16.72 cDaZ0bIE0 668/1103


女騎士「お前と旅をして、数年が経った」


女騎士「...一度も弱音を聞いたことが無い」


女騎士「ただの娘だった者が、愚痴ももらさずにここまで来たんだ...私はそれだけで十分誇りに思える」


女勇者「...」


誰かがやらなければいけない、誰かが魔王を討たなければ、誰かが魔物から被害を受ける。

どんなことがあっても作戦を全うしなければならない、そのような重いモノを小さな背中の娘が背負っていた。

女が背負うには重すぎる、しかしなにも背負っていないからこそ背負えていた。


女騎士「...薄っぺらくないさ」


女勇者「...ありがとう」


彼女の強い眼差しが、隊長と魔王子に向けられる。

3つの思想が3人の頭の中へと入り込む。

目的は違う、だが目的は一緒の思想。


隊長「...俺は帽子のために」


魔王子「俺は魔界のために」


女勇者「僕は人間界のために」


魔王子派の魔剣士と魔闘士、女勇者派の女騎士。

隊長派の魔女、スライム、ウルフ、女賢者、3つの思想が彼らの瞳に魂を宿らせている。

決起集会が終わる、これほどまでに静かなモノはないだろう。

冷静で合理的な彼らだからこそ、この程度のモノで士気を高めることが可能だった。

雄叫びなど必要ない、必要なのは信用、感情によるものではなく客観的な信用だ。

10人が歩み出す、ついに魔王城への進攻が始まった。


~~~~

702 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:10:37.34 cDaZ0bIE0 669/1103


~~~~


──カツカツカツ...

大きな広間に足音が響いていた。

その音の主は先程の、燃える男。


炎帝「...」


??1「足早に出ていったと思ったら、もう帰ってきたのね」


??2「...」


その男に、ねっとりとした口調で話しかける女。

そしてその横には言葉を発しない女児が1人。


炎帝「...水帝よ、地帝を見習ったらどうだい?」


水帝「お断りね、それよりも早く行くわよ」


地帝「...魔王様、待ってる」


炎帝「...風帝は?」


水帝「さぁ? もうすでにいるんじゃなぁい?」


──ガチャンッッ!!

大きな音とともに、大きな扉を開く。

雑談を交えながら歩いていた彼らの顔つきは険しいものになっていた。

その部屋の主を確認すると、3人は跪いた。


炎帝「...ただいま参りました、魔王様」


炎帝(本来なら、こういう第一声は風帝がやってくれるんだけどねぇ)


水帝「...」


地帝「...」


???「...よくぞ参った、炎帝たちよ」


その広間にある大きな椅子に君臨する者。

この世の魔物を統べる王、その横にはその妃と思わしき女性。

魔王だ、圧倒的な闇を誇る魔王がそこに存在していた。


魔王「早速だが、残念な知らせがある」


炎帝「...と、言うと?」

703 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:12:09.54 cDaZ0bIE0 670/1103


魔王「妻によると...風帝の魔力が途絶えた様だ」


その言葉にどのような意味があるのか。

風帝の魔力がなくなったということは、もうこの世にいない。

思わず水帝は魔王に向かって口を開いた。


水帝「流石の感知能力...恐れ入ります」


魔王「世辞はいい、それよりも同胞を弔え」


水帝「...はい」


地底「...」


炎帝「...魔王子様でしょうか」


魔王「そうだ、奴は仲間を連れ魔王城へと向かっている」


魔王「...もうじき進攻してくるだろう」


魔王「今の魔王城には我と妻、そして側近を含めずにいるとお前たちしか残していない」


魔王「...わかるな?」


炎帝「はい...食い止めろと」


魔王「その通りだ...生死は問わず、全力でやれ」


魔王「...今日この日、この世界における重要な日になるというのだからな」


含みのある言い方であった。

なにか大義を果たそうとしている風に聞こえた。

その一方、炎帝は少し疑問を抱いていた。


炎帝「...まだ、私たちにお教えくださりませんかね」


魔王「...それはできない」


魔王「たとえ息子に反逆されても...まだ言うわけにはいかない」


炎帝「...いえ、私たちは忠実に全うするだけです」


炎帝「魔王様の...部下なのですから」


水帝「...」


地帝「...」


──ガチャンッ!

やや不穏な空気が開閉音にかき消された。

誰かが扉を開いた、そこに居たのは例の人物であった。

704 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:13:52.42 cDaZ0bIE0 671/1103


???「遅くなりました」


魔王「側近か...調子はどうだ?」


側近「えぇ、予定通り本日から実践することが可能でしょう」


側近「それともう1つの実験体も...いえ、こちらは私信なので言い留めておきます」


魔王「そうか...ならば、急ごう」スッ


魔王が椅子から立ち上がった。

そしてその横にいた女性に耳打ちをする。


魔王「...いよいよだな、妻よ」


魔王妃「えぇ...とても待ちました」


~~~~


~~~~


隊長「...」


アサルトライフルの先から煙、火薬の香りが微かに漂っていた。

周りには先程炎帝により退避させられていた魔物が横たわっていた。

その者たちは撃たれただけではなく、切り傷や打撃跡が残っている。


魔剣士「...今のが雑兵かァ」


魔闘士「なかなか腕のある奴らだった...もう少し数がいたら負傷者がいただろうな」


魔王子「気をつけろ、この屑共は腕を買われてここにいる」


女騎士「...なるほどな」


隊長たちは既に魔王城に通ずる大橋を渡っていた。

その際に横たわっている者たちを打ち倒していた。

いまここに敵影はない、少なくとも前方には。


女賢者「...後ろからきてますね」


彼女が感知した魔力は、いま渡った橋の後方から。

今になって出撃命令が出されたのであろう。

先程の雑兵たちが迫ってきていた。


女勇者「...どうしようか、炎帝とかと闘っているときに横槍いれられたら嫌だよ?」


女騎士「また、人海戦術か...」

705 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:15:33.54 cDaZ0bIE0 672/1103


隊長「先を急ごう、追いつかれてはたまったものじゃない」


的確な判断、多くのものが隊長の意見に納得をした。

各々が足を動かし、いよいよをもって魔王城へ突入しようとしていた。

しかし、異議を唱えるものが1人いた。


魔剣士「──待ちなァ」スッ


──ズドンッッ!!!

彼の重すぎる大剣が地面に突き刺さった。

まるでそれは障害物のように、それが揺らぐことなどあり得ない。


魔剣士「俺様たちは今から、魔王軍最大戦力である四帝と闘わねェといけねェ」


魔剣士「だが、その勝負を雑魚の大群に邪魔されてみろォ」


魔剣士「女勇者の言うとおり、必ず此方が不利になる」


魔剣士「今度ばかりは、炎帝たちは本気を出してくる...敵味方関係なく攻撃してくる可能性が高い」


先程炎帝は部外者に被害がでないように1対1の場を設けていた。

しかし今は部外者など存在しない魔王城の中、四帝たちは当然全力を出してくる。

誰が巻き込まれようと、もう関係ないだろう。


魔剣士「...ここは俺に任せろォ」


魔剣士「この竜人...魔剣士様が鼠一匹でも入り込ませねェッ!」


橋に刺さった大剣が完全に障害物となった。

我々ではなく、こちらに迫ろうとしている雑兵たちに向けて。

だが、冷静な言葉が彼の意気込みに水をさした。


女騎士「...無茶だ」


女騎士「魔剣士、お前の実力はわかっている...そしてこの状況だ」


女騎士「その言葉に頼りたい気持ちも十分にある...だが」


女騎士「...数が多すぎる」


魔剣士「...舐めんなよ、女騎士」


魔剣士「たとえ千の数、万の数がいようと雑魚は雑魚だァ」


魔剣士「..."竜"は"雑魚"なんかに負けねェ、そう相場が決まってらァ」


橋の向こう側を向いてこちらを見ずに啖呵を決める、彼はすでに覚悟を完了している。

少なく見ても万の数がいる雑兵に向けて、漲る闘志を高まらせている。

706 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:17:01.79 cDaZ0bIE0 673/1103


女騎士「...だけど──」


────グイッ!

再び彼女が彼を引こうとしたその時だった。

力強い手が、勇ましい声とともに彼女の腕を引っ張った。


魔闘士「どうやら、魔剣士だけでは不安のようだな」


女騎士「...魔闘士っ!?」


魔闘士「俺もここに残る...さっさといけ、女騎士」


早速戦力が2つも削られた、だがここで食い止められなければ。

それほどに人海戦術というものは恐ろしい。

雑魚を相手にしながら四帝を相手にすることなど魔王子にも困難だろう。


女勇者「任せたよっ! 魔闘士くん! 魔剣士くん!」


女騎士「──っ! 死ぬなよっ!」


隊長「任せたぞッ!」


魔女「魔闘士っ! さっきいっぱい弾薬を作ったんだから、派手にぶっ放しなさいね!」


スライム「あなたたちは強そうだからきっとだいじょうぶだよっ!」


ウルフ「がんばってねっ!」


女賢者「よろしくお願いしますっ...」


魔王子「...お前たちには、俺の魔王のとしての姿を見てもらいたい」


魔王子「必ず...生き残れ」


魔剣士「へーへー、言われなくてもわかってるよォ」


魔闘士「この俺たちが、あんな雑魚共に負けると思っているのか?」


魔王子「...思っていないさ」


どこか、優しげな言葉とともに彼は颯爽とした。

この場に残った魔物の男2人、その目の先には万の武装集団。


魔闘士「さっさと全滅させて、キャプテンたちに合流するぞ」


魔剣士「あァ、わかってらァ』


身体が、魔剣と一体化する。

強烈な爆発音とともに魔王城周辺が戦場と化す。

闘いの火蓋が切って落とされた。


~~~~

707 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:19:58.99 cDaZ0bIE0 674/1103


~~~~


隊長「...始まったか」


耳をすませば、遠くから爆発音が聞こえる。

しかしそれでも彼らの足は止まらなかった。

魔王の城だけあって、やたらと広い城内に走る足音が響く。


魔王子「俺についてこい...このまま5階の大広間に向かう」


魔王子「そこに、魔王がいるはずだ」


女騎士「いよいよだな...」


女勇者「どの場面で、四帝が現れるかだね」


女賢者「そうですね...できれば個別に現れてもらいたいものですが...」


そう言っている間に、階段が現れる。

その第一段に足をかけたその時であった。

違和感に気づいたのは、女賢者と魔女だけであった。


魔女「──まってっ!」


女賢者「──階段の一部が魔法の欠片ですっ!」


魔王子、女勇者、女騎士、ウルフは既に足を階段に乗せていた。

隊長は魔女に引っ張られ足を階段に載せていない、スライムは最後尾なので無関係。

魔王子ともあろう者が気づけない程に、巧妙に細工されていた。


魔王子「──転地魔法かッ!?」シュンッ


最後に聞こえたのは、ハメられた男の怒声であった。

気づけば、4人はどこかへと連れて行かれた。

早くも分断されてしまっていた。


隊長「──GODDAMNッッ!!」


魔女「ウルフっ!? 女騎士っ!?」


女賢者「...抜かりました、まさかこんな初歩的な罠が」


スライム「みんなどこにっ!?」


女賢者「まってください...少し魔力を"感知"してみます」


大賢者の元で長年修行した彼女ならできる行為であった。

少し離れた程度ならその人の魔力を感じ取ることができる。

彼女の言う感知とはソナーのような行為であった、しかし弊害も存在していた。

708 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:21:17.41 cDaZ0bIE0 675/1103


女賢者「────っっ!?」ビクッ


この魔王城、おそらく魔王や四帝が君臨している。

それらの強大な魔力をモロに感じ取ってしまう。

大きな大きなプレッシャーが襲いかかる中、微かに感じるモノがあった。


女賢者「──いました、この魔王城の中にいます」


隊長「本当かッ!?」


女賢者「えぇ...間違いないです...」


魔女「よかった...どこか遠くに飛ばされたかと思ったわよ」


スライム「...ウルフちゃん」


女賢者「...早く合流しましょう」


やけに催促を促す、この状況なら戦力は1つにまとめたほうがいい。

だがそれだけではなかった、先程感知をしたからこそ彼女は焦っていた。


???「...侵入者ね?」


どこか、ねっとりとした瑞々しい声で問いかけられた。

相手は1人、その佇まいからして雑兵ではない。


隊長「──誰だ?」スチャ


容赦なく、アサルトライフルを彼女に向けた。

それに続き魔女も身体に稲妻が走っていた。

2人とも、すでに臨戦状態であった。


女賢者「遅かった...やっぱりこちらに向かってきてましたね」


女賢者「...この魔王城、極端に魔力の分布が少ないです」


女賢者「恐らく、この城には魔王と四帝を含めた数人しかいません」


魔女「...ってことは、この人は」


???「あらぁ...感知能力持ちだったのね...」


水帝「その予想通り...私は四帝の1人、水帝よ」


水帝「悪いけど...この城に入ったからには死んでもらうわね」


魔女「...そうはいかないわよっ!」

709 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:23:48.15 cDaZ0bIE0 676/1103


水帝「──"水魔法"」


──バシャッ!!

先に仕掛けてきたのは、水帝と名乗る魔物の女。

その早すぎる詠唱に防御策は愚か、驚嘆の声すら出せなかった。

4人が激流に飲み込まれたかと思われた。


水帝「...あらぁ?」


隊長「...これはッ!?」


辺り一面が形状を保った水に覆われている。

はじめは野良魔物だった彼女が彼らを守っていた。

いつのまにか体積を広げたスライムが、水の身体で激流を飲み込んでいた。


スライム「──ここはまかせてっ!」


隊長「──スライムッ!?」


スライム「はやくっ! ウルフちゃんを探してあげてっ!」


女賢者「──スライムちゃんが時間を稼いでくれますっ!」


女賢者「今のうちにウルフちゃんたちの安否を確認しにいきましょうっ!」


直感的に、スライムが水帝を相手に時間を稼げると悟った。

ならばウルフを見つけ、魔王子たちと合流してからこの場に戻り水帝を倒す。

水帝に追われながら人を探すなど困難、それが最善の答えであった。


隊長「──必ず、生きて待ってろよ?」


魔女「──あんたを死なせたら、帽子に合わせる顔がないんだからね」


スライム「...うんっ!」


3人が階段の一段目を飛ばし2階へ駆け抜けようとした。

しかし、そこまで水帝という者は甘くはなかった。


水帝「...逃さないわよ、"水魔法"」


────バシャバシャッ...!

再び魔法によって、激流が現れた。

それを再度、スライム自らの身体で受け止めようとした。


スライム「──えっ?」


まるで鞭のようなしなりを見せてスライムを避けた。

予想した軌道とは遥かに違う、不覚にも階段へと通してしまった。

710 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:25:32.66 cDaZ0bIE0 677/1103


女賢者「──っ!」


──どんっ!

階段を登っている2人の背中を強く押した。

それが彼女にできる、唯一の抵抗であり手段でもあった。


隊長「──女賢者ッ!?」


女賢者「4階ですっ! 4階あたりにいるはずですっ!」


鞭のような激流は、女賢者しか捉えることができなかった。

水でありながら彼女の足首を掴み、向こうへと引っ張られる。

その力に抵抗できず、隊長と魔女の視界から女賢者が消え去った。


女賢者「──うわっ!」


スライム「あぶないっ!」


──バシャンッ...!

水に引っ張られ、もとの階層に戻された。

そのまま地面へと叩きつけられそうだったのをスライムが受け止めた。


女賢者「...ありがとうございます、スライムちゃん」


スライム「ごめんなさい...魔法をとおしちゃって...」


女賢者「いいんです、肝心の2人を逃がすことができたのですから」


スライム「...うん」


女賢者「それよりも...」


水帝「...まさか、スライム族がこの激戦区となる場所にいるとはね」


スライム「...ふんだ」


女賢者「スライム族を舐めてもらっては困りますよ」


水帝「舐めているつもりはないわぁ...その恐ろしさは熟知してるつもりよ」


水帝「どこにでも生息しているスライム...単純でいて驚異的な特性を持っている」


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」


女賢者「...それはこちらも承知です」


氷のような、冷たい威圧感が辺りを包み込んだ。

じわりじわりと、その恐怖が足元に迫っていた。


~~~~

711 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:26:37.60 cDaZ0bIE0 678/1103


~~~~


魔王子「...ここは?」


気づけば、4人が見知らぬ部屋にいた。

いとも簡単に原始的な罠に引っかかったのを覚えている。

やけに熱いこの部屋、仕掛けたのが誰なのかすぐにわかった。


炎帝「...やぁ」


女勇者「炎帝...っ!」


女騎士「...先程はよくもやってくれたな」


ウルフ「うぅ...あつい」


魔王子「お前にしては、らしくない事をしたな」


炎帝「...よく知らないが、今日は魔王様にとって大事な日らしいんだ」


炎帝「本当なら10人全員焼き殺す予定だったんだけど...頓挫してしまったよ」


炎帝「まぁ、罠のかかり具合を確認しにいった水帝が残りを殺してくれると思うよ」


魔王子「...小癪な」


炎帝「...じゃあやるとするかな」


女騎士「...っ!」ピクッ


女騎士は直感的に理解する、炎帝が今から繰り出すのは本気の魔法。

先程、本気を出していないというのに女勇者を圧倒させた者に立ち向かえるだろうか。

その思考を見越されてたかのように彼は彼女に囁いた。


魔王子「...俺を置いてキャプテンたちと合流しろ」


女騎士「...ふざけるな、置いていけるか」


魔王子「向こうは本気だ...だが、俺も本気でヤる」


魔王子「...本気でヤれば、俺の闇があたりを容赦なく覆うだろう」


要するに、彼女たちに闇が降りかからないように。

退避を命じていたのであった、彼なりの不器用な優しさ。


女騎士「...倒せるんだな?」


魔王子「俺を誰だと思っている...」


女騎士「...わかった、飲もう」

712 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:27:44.15 cDaZ0bIE0 679/1103


魔王子「いいか、俺が隙を作ったらこの部屋から脱出し、階段をみつけ1階へと向かえ」


魔王子「そして水帝と闘っているであろうキャプテンと合流し、各個撃破しろ」


魔王子「それが最善だ」


女騎士「あぁ、了解した」


女騎士「わかったか? 女勇者、そしてウルフ...だっけか?」


ウルフ「うん」


女勇者「...わかったよ」


女騎士「じゃあ頼んだぞ、魔王子」


魔王子「あぁ」


炎帝「...内緒話はもういいかな?」


律儀に待ってくれていた。

それと同時に部屋の温度が上がったようなきがした。

彼が、魔法を唱えようとしたその瞬間を早くも見逃さなかった。


魔王子「────そこだ■■■■」


──■■■ッッ!

ユニコーンの魔剣が抜刀された。

光の剣が闇の剣風に包まれ、それが発射された。


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ


思わず、詠唱を切り替え素早く別のモノを唱えた。

回避せざる負えない、それほどまでに高威力の闇だと瞬時に理解していた。

その顔は、やや驚いたような顔つきであった。


女騎士「──今だっ!」ダッ


ウルフ「わんっ!」ダッ


──ピタッ...!

その隙を見逃さずに、部屋の出口へと走り出した。

しかし強烈な違和感が女騎士の足を止めてしまった。

足音が2つしかない、3人目がついてきていない。


女騎士「...女勇者?」


女勇者「ごめん、先にいって」


女勇者「ここで行ったら、とても嫌な予感がするんだ」


魔王子「──足を止めるなッ! 行けッ!」

713 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:28:59.49 cDaZ0bIE0 680/1103


炎帝「逃がす訳にはいかないよ、"炎魔法"」


──ゴオオォォォォォッッッ!!

強烈な炎がこちらに迫ってきている。

人の足ではもう逃れることができない。


女騎士「しまっ────」


──グイッ!

自分の首元を、強く捕まれ引っ張られる感覚がした。

そして気づけば、炎は女騎士から遠ざかってきた。

違う、女騎士が炎から遠ざかっていた。


ウルフ「──だいじょうぶっ!?」


獣特有の身のこなしで、獣特有の迅速さで女騎士を救助した。

そのまま部屋の脱出に成功する、魔王子の視界から女騎士とウルフが消え去った。


魔王子「...何故残った?」


女勇者「ごめんね、でもとても心配だったから」


魔王子「危うく、燃やされるところだったぞ...」


女勇者「...軽率だったね」


魔王子「...留まったからには、光に期待しているぞ」


炎帝「しまったなぁ...まさか見逃してしまうとは...」


炎帝「...ハハハ」


魔王子「...何がおかしい」


炎帝「いや、どうやら本気を出せるみたいだね、さっきと違って...」


炎帝「本気の魔王子と本気の女勇者と闘うのか...私は...」


炎帝「...燃えてきたよ」


ただならぬプレッシャーが部屋を覆う。

魔王軍最強と呼ばれた男が唯一本気を出せる特殊なこの部屋。

魔王子の頬に一筋の冷や汗が垂れる。


~~~~

714 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:30:27.51 cDaZ0bIE0 681/1103


~~~~


女騎士「...さっきは助かった、ありがとう」


ウルフ「ぶじでよかったねっ!」


話しながら、急いで階段を探す。

無駄に広い魔王城、なかなか厳しい探索かと思われた。


ウルフ「...こっちからご主人の匂いがする!」


犬特有の嗅覚に助けられていた。

あっという間に下へと向かう階段を発見する。


女騎士「...凄いな」


ウルフ「えっへん!」


女騎士「キャプテンの仲間なだけはあるな」スッ


ウルフ「...えへへ」


気づけば、頭をなでていた。

彼女もまた犬を飼っていた経験があった。

どこを撫でれば喜ぶか完全に把握している。


女騎士「...急ごう」


ウルフ「うんっ!」


階段を下り、下の階層へと到着する。

この階段は1つ下にしか通じていない。

新たな階段を探すために、ウルフが鼻を聞かせた時だった。


ウルフ「...だれ?」


女騎士「...敵か」スチャ


どう考えても敵であった、背負っていたショットガンを構えた。

その構え方は射撃をするためのモノではない、トリガーを指にかけるまでは同じ。

だが持ち方が違う、彼女はグリップとストックの付け根を握っていた、まるで槍のように。

715 : ◆O.FqorSBYM - 2018/12/16 20:33:08.95 cDaZ0bIE0 682/1103


???「...侵入者」


か細い声、とても静かでいて威圧感のある声が広間に響いた。

ウルフの髪の毛は逆立ち、女騎士は鳥肌を立てていた。


地帝「この地帝が排除します」


女騎士「地帝か...まぁ、そうだろうな」


ウルフ「...がるる」


地帝「..."属性同化"、"地"」


そうつぶやくと、彼女の身体が大地に包まれる。

自身の身体を大地と同化させる、恐らくかなりの防御を誇っているだろう。

彼女の名は地帝、見た目はただの女児しかしそれでいて恐ろしいほどの実力を持っている。


女騎士(...階段を探している余裕はないな)


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」


地帝「...」


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」


女騎士「そして...ウルフもな」


ウルフ「...もちろんっ!」


四帝と直に対面してわかるその実力差、ただの人間がどこまでできるのか。

彼女の支えは彼の武器、そして彼の刀身、そして横にいる可愛らしい獣であった。


~~~~





続き
隊長「魔王討伐?」 Part7

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