関連
国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」


304 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 01:57:30.95 vQonUotnO 213/1333


氷姫「…」コォオオオ…


炎獣「究極氷魔法…。結局完成された技は見たことねぇ。どんな魔法なんだ?」

魔王「…冥界の死神を呼ぶの。呼び出された死神達は、術者が意図した範囲の生命を、刈り取り続ける」

魔王「死の行進、と言われる魔法よ」

炎獣「死の、行進…」

魔王(氷姫…)



氷姫(一度、失敗した術式、か)

氷姫(今度失敗したら、本当に、生きてられないかもね)

氷姫(あの時は、冥界に引っ張りこまれかけた)

氷姫(今思い出しても足が震えて…意識が飛びかける)

氷姫(でも)

氷姫(後ろを振り返ってる暇はもう、ない)

氷姫(あたしには力が必要なんだ)

氷姫(もう、仲間が傷つかない力が)


氷姫(だから…冥界の死神よ)

氷姫(力を、貸しなさい!)









氷姫「究極氷魔法!!」



305 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 01:59:00.30 vQonUotnO 214/1333


将軍「いいかっ!! 魔王は疲弊し、敵はひと所に固まっている!!」

将軍「数々の犠牲の上に掴んだこの機を逃すな!!」

将軍「後ろを振り替えるな!!」

将軍「ただ我らのきりひらく、人類の未来だけを見よッ!!」

将軍「全軍、前進ッ!!」


ドドドドドドドドドドドドドド!!!


将軍(――止めてみせるぞ、魔王っ!!)

魔法兵「ぜ、前方に強力な魔力を感知っ!」

将軍「なにっ!?」

「おい、見ろ!!」

「なんだ、あれは!?」

将軍「っ!?」

将軍(雲が…暗雲が渦巻いて…世界が暗くなっていく…!)

将軍「敵の魔法か!?」

魔法兵「お、おそらく! しかし、このような魔法は聞いてことがありませんっ!」


306 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 02:00:10.48 vQonUotnO 215/1333


ゴオオォォォ…

将軍「くっ、吹雪だと…! 氷の魔術師か!」

将軍「何が起こっている!?」


ドロドロドロドロドロドロ…


将軍(なん、だ!? この地鳴りは!)

「ぜ、前方…敵影多数…!!」

将軍「なんだとっ!?」

「吹雪の中に…きょ、巨大な影が幾つもみえます!」

将軍(どういう事だ…!? 軍勢を呼び寄せたとでも言うのか!?)

将軍(ここまで圧倒的な力を、こうも何度も…!!)

将軍「ちぃ…! だがもはや撃沈する他あるまい!!」

将軍「全軍、抜刀ッ!!」

ジャキィッ!!





キラッ キラキラッ

砲台長「…み、見えた! 抜刀したぞ!!」

砲台長「全砲台、撃ちまくれ!! 敵の結界は消えてるぞォ!!」


ドドーンッ! ズドーンッ!



将軍「よし、援護砲撃が敵に当たっている!!」

将軍「突撃ぃぃいっ!!」

「うおおおおおおおおぉっ!」


死神「…」シャキン…


307 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 02:01:52.11 vQonUotnO 216/1333


将軍(巨大な、鎌…っ!?)


死神「…」ブゥン…

ズバァァアッ!!

「ぐわあああぁあっ!!」

「うわあぁあぁあっ!!」


将軍「ばかな…!!」

将軍(砲撃にもビクともしない耐久力に…巨大な鎌による破壊力…。今までの魔王軍との戦いでは一度も姿を現さなかった)

将軍(こんな化け物を…一瞬にして呼び寄せたとでも言うのか!?)

将軍(そんなことがあるわけがないっ!!)

将軍「くそっ、隊列を立て直せッ!!」




騎士「魔導士隊、てぇっ!!」

ズドドドドドドドドォンッ…!


308 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 02:03:01.13 vQonUotnO 217/1333


将軍「翼の団…!」

騎士「我らを苦しめた天下の王国軍が情けない!! 貴君らはこの程度かっ!?」

将軍「今さら現れて何を言う!! 恐れをなして逃げ出したかと思ったぞ!!」

騎士「我らに恐れなどない!!」

騎士「いつ、なん時も、自由のために剣を取るのは我らだ!!」

騎士「今は人類の自由のためっ!! 今は共に剣を取ろうぞっ!!」

将軍「………人類の自由のために…だと?」

将軍「…くっ、ふふ! 都合のいい連中だ…!」

将軍「良かろう!!」

将軍「我らに遅れを取るなよ!!」

騎士「望むところッ!!」




309 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 11:22:26.22 vQonUotnO 218/1333




狩人「…騎士が、翼の団全軍を率いて王国軍と合流したみたい」

剣士「あの鉄クズ、気合い入れすぎて傷口開いてやがるぜェ、絶体」

魔女「さあ、我らも進まねば」

斧使い「…」コク

エルフ「しばらくは、精霊魔法が効くはずだよ。皆の姿は敵に見えない」

剣士「つっても、あの怪物に効果あんのかよ?」

エルフ「分からないけれど…見るからに闇の住人の風体だ。精霊魔法の効き目があると、信じたいよ」

狩人「もし、こっちの動きを気取られたら…」

斧使い「…」


310 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 11:23:38.69 vQonUotnO 219/1333


ドドドドドドドドドドドドドドドド…

ワァァァ… ズドーン… 

魔女「…色々な戦場を見てきたつもりじゃったが…」

魔女「空を覆う暗雲…絶え間なく吹き付ける豪雪…死の巨人…」

魔女「地獄のような、光景じゃな…」

エルフ「…うん、そうだね」

狩人「騎士…」

剣士「他人の心配してる場合かよ?」

狩人「…っ」

剣士「俺たちゃ、もっと恐ろしい連中と戦いに行くんだぜ…」

剣士「いや、戦いに行くってよりは」

エルフ「剣士」

剣士「…んだよ。そういうこったろうが」

剣士「運が良ければ、一人くらい生き残るかもしれねぇ………そういう戦いだろ、これァ」

剣士「まァ…生き残ることが果たして幸せかってェと…」

剣士「そりゃ、どうだか分からねェけどよ」


311 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 11:24:42.79 vQonUotnO 220/1333


エルフ「そうだとしても…価値あることをしに行くんだと」

エルフ「ボクは、そう信じたいよ」

エルフ「君ほど…覚悟が出来てるわけじゃないから」

狩人「…」

斧使い「…」

魔女「後戻りはできぬ」

魔女「この行軍は、最後は魔王のところへ辿り着き」

魔女「あそこで戦う多くの兵士たちを囮に、魔王と戦う」

魔女「そこには四天王がいるかもしれぬ。それでも、刺し違えてでも」

魔女「妾たちはやらねばならん」


312 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 11:25:32.16 vQonUotnO 221/1333


魔女「…すまぬな。自分のする事を…確認しておきたかった」

魔女「この歳でも………情けないがな」

狩人「…なんだ」

狩人「皆、迷ってるんだね」

狩人「迷いながら」

狩人「逃げ出したい心を必死に押さえて」

狩人「…歩いてるんだよね」

斧使い「…」

剣士「アンタは、そういうわけでも無さそうだなァ?」

斧使い「…」

剣士「…あのよ」


313 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 11:26:51.59 vQonUotnO 222/1333


剣士「確かに俺ァいつだって戦場のド真ん中で、命を死の天秤にかけてきた」

剣士「…とは言えよ。死にたいわけじゃねェよ」

剣士「まだまだ、生きて成り上がってやりたかった」

剣士「もっと金を手に入れて、もっと名声を築いて、もっと女を抱いて…」

剣士「こんな所で死のうモンなら、未練なんざありすぎて化けて出かねねェ」

剣士「それが、こうして平気な顔で講釈垂れてるのにもワケがある」

エルフ「…ワケ?」

剣士「ああ。コツってもんがあるのさ」

剣士「冥土の土産に教えてやるぜ。それはな――」




314 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 13:19:12.08 vQonUotnO 223/1333


「鉄砲隊、てぇっ!!」

パパパパパンッ


死神「…」

将軍「クソ…!! まるで効き目がない!」



騎士「引き摺り倒すぞっ!! 傭兵隊っ!!」

「おうらァっ!!」ドシュッ!

騎士「今だ! 騎士団、突撃ィッ!」

「うおおおおっ!!」


死神「…」ブゥン

ドシャアァアッ!

「ぎゃぁぁああぁッ!!」


騎士「くっ!! 駄目か…!!」


315 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 13:19:59.78 vQonUotnO 224/1333


将軍「もう打つ手がないぞ…!」

騎士「ぬぅ…ッ、このままでは!!」


軍師『その魔法は究極氷魔法です』


将軍「!? な、なんだ!?」

騎士「軍師どのの声…!」


軍師『古い文献から見つけ出しました。その巨人を倒すのは不可能です』

軍師『魔法を詠唱をしている本人を倒す他ありません』


将軍「本人だと…一体どこに!?」


軍師『その吹雪きの吹き出し口。それが魔法の発される大元』

軍師『巨人の鎌を掻い潜り、魔法の詠唱者を倒してください』


騎士「…!」


316 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 13:23:56.70 vQonUotnO 225/1333


騎士「よし…」

将軍「待て! もう、翼の団にも王国軍にも、残存の兵は残り少ないぞっ!!」

騎士「だから何だというのだ」

騎士「ならばその全軍で突撃するのみ」

将軍「っ!!」

騎士「迷う暇はない。死にたくないのならそこで待っていろ」

将軍「何…」



騎士「皆のものッ!! 聞こえた通りだッ!!」

騎士「人類の明日は吹雪きの吹く方にあるッ!!!」

騎士「逆風を進めッ!!!」

騎士「向かい風の奥の希望へッ!!!」

騎士「 我 に 続 け ぇ ッ!!!」


 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド




317 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 13:37:30.03 vQonUotnO 226/1333



軍師『王国兵、翼の団の皆さん』

軍師『辛く、恐ろしい戦いでしょう』

軍師『もう前に進みたくない』

軍師『止めてしまいたい』

軍師『死にたくない』

軍師『いや、いっそのこと殺してほしい』

軍師『――私には、救う事も助ける事も出来ません』

軍師『でも、どうか』

軍師『どうか、人類を救ってください』

軍師『もう、あなたたちにしか、出来ないのです』

軍師『傷つき、絶望と希望の狭間で苦しんだとしても』

軍師『それでもどうか』

軍師『どうか、人類を…』







318 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 13:47:48.83 vQonUotnO 227/1333


ハーピィ「…も、もういいの? 軍師さん」

軍師「…、はい」

軍師「もう、私に紡げる言葉などありはしません」

軍師「ありがとうございました、ハーピィ」

ハーピィ「う、ううん。よ、良かった、よ…」

ハーピィ「で、出来る事が、す、少しでも、あって…」

軍師「…ハーピィ?」

ハーピィ「あ、あはは…ちょっと、一人で魔法を使うのは」

ハーピィ「つ、疲れちゃった、みたい…」

ハーピィ「急に、ね、眠気、が…」


319 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 15:43:02.67 vQonUotnO 228/1333


軍師「ハーピィ…!」

ハーピィ「…ね、軍師、さん」

ハーピィ「か、仇を…」

ハーピィ「取れる、かな…?」

ハーピィ「きゅ、吸血、鬼、さんの…」

ハーピィ「か、仇…」

軍師「…ハーピィ」

軍師「約束します。必ず」

軍師「必ずや、魔王に一矢報います」

軍師「だから…」

ハーピィ「…」

軍師「…眠りましたか」

軍師(…進もう)

軍師(私に、出来ることを…)













雷帝「――あれが、敵の参謀か」


320 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 15:58:18.91 vQonUotnO 229/1333


炎獣「…すげえ」

炎獣「氷姫のやつ…本当に成功させちまいやがった」

炎獣「こんな魔法、見た事ない」

炎獣「すげえな………」


――氷姫「あたしも、自分に、勝ちたいの」

――雷帝「何も言うな」


炎獣「氷姫………雷帝…」

炎獣「…」

炎獣(何だ…? 言葉が、出てこない)

炎獣(″大丈夫か? 無理すんなよ。頑張れよ″)

炎獣(…違う。そんなの、俺の言葉なんかじゃない)

炎獣(上っ面だけの…嘘っぱちだ)

炎獣(………何だよこれ。俺、一体どうしたいんだよ)

炎獣(あんな顔したあいつらに…何を言えってんだよ)


321 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 15:59:11.78 vQonUotnO 230/1333


魔王「炎獣」

炎獣「…ん」

魔王「珍しい、ね。そんな顔」

炎獣「…」

魔王「…」

炎獣「なあ、魔王」

炎獣「何だかさ、変な気分なんだ」

炎獣「氷姫や雷帝のこと、応援したいし心配なんだけどさ」

炎獣「どうしたらいいか、分かんないんだよ」

魔王「そっか」

炎獣「変だよな。なんなんだろうな」

炎獣「どうしてこんな胸の内がざわつくんだろうな」

炎獣「何で俺…」

魔王「…」


322 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 15:59:52.21 vQonUotnO 231/1333


魔王「″氷姫や雷帝を素直に応援出来ない自分が腹立たしい″」

炎獣「!」

炎獣「………そう、なのか。俺」

魔王「″何だか置いてきぼりにされたようで、寂しい″」

炎獣「………」

魔王「″二人が…、羨ましい″」

炎獣「…っ!」

炎獣(俺…!)

炎獣(俺は…、応援なんてハナっならしちゃいないんだ)

炎獣(あの時の二人の表情が頭から離れなくて…かける言葉も見つからなかった自分が、ひどくちっぽけに思えて)

炎獣(俺が戦う理由と、あいつらが戦う理由に、大きく差をつけられたような気分で)

炎獣(何か…なんだか………)

炎獣「…」

魔王「炎獣?」


323 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 16:00:53.11 vQonUotnO 232/1333


炎獣「…おあーーーっ!!」

魔王「きゃ!?」

木竜「ぬお!!」ビクッ

炎獣「…はあ、はあ…」

木竜「な、なんじゃいきなり! 急に大声を出すな!」

魔王「…炎、獣?」ポカーン

炎獣「何でもねえ!」

木竜「何でもないなら静かにしとれ!」バシッ

炎獣「あだっ!」

木竜「姫様の治癒に集中しとるんじゃ、儂は!」

炎獣「ご、ごめん」

魔王「…大丈夫?」

炎獣「………なあ、魔王」

魔王「何?」

炎獣「俺は、どうしたらいいと思う?」

魔王「うーん…」

魔王「それは、多分ね。私が言うことじゃないんじゃないかな」

炎獣「でも、魔王は俺の気持ち分かるんだろ? 今言い当てたみたいに」

魔王「…全部分かるわけじゃないよ。私が言ったことが炎獣の全てだとも、私は思ってない」

魔王「炎獣自身がどうするかは、自分で探さなきゃ」


324 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 17:34:56.34 vQonUotnO 233/1333


炎獣「ちぇっ…」

魔王「ふふ。…きっと氷姫も雷帝も、たくさん悩んだんじゃないかな?」

炎獣「俺、悩むの苦手だ」

魔王「そうだったね。じゃあ身体動かしてみる、とか?」

炎獣「お! それいいかもな!」

魔王「あ、でも。あまり遠くにいかないでね?」

魔王「雷帝にお願いされたでしょ?」

炎獣「…ああ、うん」


――雷帝「お前が守ってくれれば、安心だ」

――木竜「炎獣。おぬしは、おぬしの戦いをせい」


炎獣「…俺の戦いを…」

炎獣「しなくちゃ、だもんな」


325 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 17:36:01.06 vQonUotnO 234/1333


炎獣「…」

魔王(炎獣…。この戦いで、初めての事が沢山あったんだ)

魔王(知らない気持ち、知らない思い。上手く消化する暇もなく、戦いは続く)

魔王(一番経験の浅い炎獣にとって、そういう不安定な中戦っていかなきゃいけない)

魔王(それはきっと、計り知れない不安だろう。…私が)

魔王(私が上手くフォローをしてあげないと)

炎獣「魔王もさ」

魔王「うん?」

炎獣「不安だよな、魔王も」

魔王「えっ?」

炎獣「先代様が死んで…即位した時、まだ魔王は小さかった」

炎獣「それでもそのまま俺たちの先頭に立って、ここまで引っ張ってくれたけどさ」

炎獣「もう少しで人間に勝てるってトコまでようやく来たけど…」

炎獣「人間の反抗は、生易しくなんかない」

魔王「…」

炎獣「魔王も不安なのにさ。俺たちを勇気づけてくれて」

炎獣「ありがとな」


326 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 17:55:06.11 vQonUotnO 235/1333


魔王「っ…」

炎獣「あ、あはは、なんか照れんなぁ!」

炎獣「色々考えてたらさ、なんか言いたくなってさ!」

炎獣「俺は、魔王を支える、魔王の四天王だ!」

炎獣「必ず勝とうな!」ニッ

魔王「………うん」

魔王「そうだね。一緒に、勝とう!」

炎獣「ああ!」



木竜「…」

木竜(………そうじゃ、炎獣。そのお前の、真っ直ぐさが)

木竜(姫様を…お前自身を、救うんじゃ)


327 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 17:56:18.84 vQonUotnO 236/1333


魔王「!」ピクッ

炎獣「…魔王」

魔王「ええ。これは…」

炎獣「敵か。いつの間に、こんな近くまで…」

魔王(これも敵の能力?)





「よォ」

剣士「また会ったなァ? 化け物!!」




炎獣「魔王、下がってろ」

魔王「…うん。気をつけて」

炎獣「ああ」

炎獣「こんな所までのこのこ現れるなんてな! 倒されなきゃ気がすまないみたいだな!?」

剣士「かっかっかっ!」

剣士「どうやらそうらしいぜェ、俺って男はよォ!!」

剣士「………きっちり、倒してくれや!!」ザッ


328 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 18:06:13.48 vQonUotnO 237/1333


砦内部


軍師「…」カツカツカツ…

守備兵「おい、貴様。何処へ行く」

軍師「…軍義の間へ。通して頂けますか?」

守備兵「軍義の間はこの砦の一番最奥にある部屋だ。まさか、あのような演説をしてみせておいて、一人のうのうと安全な場所に逃げ隠れようというのか?」

軍師「…まだ、信用して貰えませんか」

守備兵「貴様ら賊の一団を、我々が完全に信用したとでも思っているのか」

軍師「…」

軍師(この窮地にあっても、我々辺境連合軍と王国軍はこの有り様)

軍師「…人類が、敗北するわけですね」

守備兵「何? …貴様今なんと言った?」

軍師「魔王の圧倒的な戦力を前に、人間の希望は今消え失せようとしています」

軍師「その時ですら、国や、立場、我欲に縛られて…人間とはかくも見苦しいものだったのだな、と思ったのですよ」

守備兵「何だと!? 貴様…!」

ザクッ

守備兵「…!?」

軍師「だから、私の行いも許して下さい」

守備兵「貴…様…ッ! 一体………何
…を………」ズルズル…

軍師「こう見えて、汚い手段には慣れっこなんですよ。知ってましたか?」

守備兵「」ドサッ…

軍師「…遅いか、早いかの違いでしかありませんが、どうか安らかに」

軍師「急がなくては」カツカツ…


329 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 20:45:27.43 qyvQW1qsO 238/1333


軍義の間


軍師「ここが、王国軍最後の関門。不落の城と言われた砦の最深部ですか」

軍師「ここにたどり着く時はもっと別の形なのだと…ずっと思っていたはず、なのですけれど」

軍師「…」

軍師「感傷に浸る時間もないようですね。もうそこに居るのでしょうか?」

軍師「雷帝さん」




雷帝「…」ス…


軍師「なるほど、それが魔界に伝わり伝説の魔剣の力」

軍師「雷光のごとき速さでの移動をも可能にする、というわけですね。こちらの奥の手と同等の力をそう容易く使われたとあっては、翼の団も形無しというものです」

軍師「砦には対魔族の結界がいくつか張られていたと思いますが、それも効果無しですか。いやはや、感服です」

軍師「初めから、こちらの用意した策などものともしないような能力を自負していらしてたんですか?」

軍師「それとも、少しくらいは貴方たちを追い詰めることが出来たんですかね?」

軍師「伺ってみたいものですよ。魔王四天王の一人、雷帝さん」


雷帝「………」


330 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 20:50:00.14 qyvQW1qsO 239/1333


雷帝「勿体ぶるな。私が今、貴様の首を落としてしまわない理由はひとつだけだ」

雷帝「何が狙いだ?」

軍師「狙い、ですか。大方察しはついているかと思いますが」

軍師「私は単なる囮なんですよ。貴方なら、まず私を消そうとすると思いましてね」

軍師「ガラにもなく、目立つことをしてまでこうしてついてきてもらった次第です」

雷帝「…軍師が、自らを囮になるなど、下策中の下策だ」

軍師「返す言葉もありません。私はもう、策士などではありません」

軍師「ただ、復讐にかられた一人の醜い女です」

雷帝「…下らん」グッ

軍師「おっと、それで引き裂いておしまい、というのは少し味気ないでしょう」

雷帝「…」

軍師「ね? 貴方もそう思っているから、この刃を下ろさないのではないですか?」

雷帝(…なんだ? この女のこの雰囲気は。ハッタリにしては随分と…)

軍師「人間と魔族の双方の頭脳がこうして相対したのです。少しばかり問答をしてみるのも面白いとは思いませんか?」

雷帝「…」


331 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 21:43:51.97 qyvQW1qsO 240/1333


雷帝「人間の頭脳? 貴様が?」

雷帝「笑わせるな。貴様が囮を演じていたとして、真打ちは誰が担っているというのだ?」

雷帝「外で、氷姫の究極氷魔法とやりあっている軍勢が、あの魔法を突破できるとでも言いたいのか」

軍師「彼らの突撃は、言わば人類の最後の突撃です。後のない者の死に際のひと噛みって、怖いものだと思いませんか?」

雷帝「馬鹿には出来ないだろうな。しかし残念だが、そんなものであの魔法を打ち倒せるほど現実は甘くない」

軍師「でしょうね」

雷帝「何?」

軍師「奇跡でも起これば…私もその可能性は棄てていないんですよ。そこに嘘はありません」

軍師「ですが、それに全てを懸ける気にもなれないのも、実際のところです」

雷帝「奴らも囮か?」

軍師「まあ、そういうことですね」

雷帝「下らんな。貴様の顔を見ていると虫酸が走る」

雷帝「大方、もうひとつの別動隊で奇襲をかける策でも打ったのだろう。エルフやハーピィの奇術があれば、或いは魔王様の元へ別動隊を送ることも可能になるかもしれん」

雷帝「それが何だと言うのだ? こちらの戦力をそこに割かないとでも思ったのか?」

雷帝「その別動隊とやらが、魔王様を撃破できると、本気で思っているのか?」

軍師「…」


332 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 21:53:18.99 qyvQW1qsO 241/1333


軍師「私はね…好きなんですよ、彼らが」

軍師「そのわりには、これまで何度も彼らを危険な目に会わせて来たのですけどね。頭ばかり回るだけで、どうやら私という人間は大切なものが抜け落ちているみたいなんです」

軍師「そういう事はね、これまでにも何度かあって…ここに来る前は、″血の通わない女″とか、″魔族の生まれ変わり″とか色々言われてました」

軍師「それをあの人が…この場所に引っ張ってきて…この翼の団がかけがえのない場所になった」

雷帝「…なんの話だ」

軍師「ふふ。でも人は簡単には変わらないもので、今度は私、翼の団を守るために非情な手を幾つも打ち出しました」

軍師「命の危機に瀕しながら…それでも、彼らはそれを笑い飛ばしてみせたんです」

軍師「″全くいつもいつも殺す気か″って、平気な顔で、戻ってきたんです」

軍師「あの人が、居てくれたから、でしょうかね。全ては」

軍師「最後の最後まであの人に頼って、私は彼らを騙くらかして、死地に送りました」

雷帝「それで? 今度もそうして生きて帰って来るとでも言いたいのか?」

軍師「いえ」

軍師「彼らは死ぬでしょう」

雷帝(…こいつ)

軍師「…あの人は、もういないのですから。奇跡は、起こりません」



軍師「彼らですら、囮なのですよ」

軍師「雷帝さん」




333 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:07:06.18 qyvQW1qsO 242/1333


剣士「おゥらッ!!」ビュッ

炎獣「!」

剣士「でりゃりゃりゃりゃァッ」ヒュバババ!

剣士「どうしたどうした、化け物よォ!! 俺様の神速の剣の前にゃぐぅの音も出ねェかァ!?」

炎獣(こいつの剣筋…どうも気になる。打ち返そうと思えばそれも出きる…けど)

炎獣(なんだ、嫌な気配がする)

剣士「ったくよォ…手抜きで相手されるたァなァ…」

剣士「傷つくだろォが!!」ゴッ

炎獣「…くっ!」

炎獣(コイツも並の戦士じゃあない。いなし続けるのも限度がある! …でも)

炎獣(守るんだ。俺は)

炎獣(まだ、堪えろ…!)

剣士(ちッ…誘いに乗ってこねェ!)


334 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:08:53.30 qyvQW1qsO 243/1333


狩人「剣士…!」

狩人(あの四天王が剣士を狙って挙動を起こした瞬間、魔王を僕が狙撃する…!)

狩人(でも、それじゃあ剣士が…!!)

――「コツってもんがあるのさ」

狩人(…! そうだ)

狩人(僕は僕の仕事をしなくちゃ)



剣士「ちぇえありゃあぁあッ!!」ギュンッ!

炎獣(くっ、かわしきれない! 打ち返すしかない!)

炎獣「ふっ!!」ドシッ

剣士「かフッ…!?」

剣士(なんてェ破壊力だよ。ジャブで死ねるぜ、こりゃ)

剣士(…だが、掛かったな!)


狩人(今!)

――ズドンッ!

炎獣「!」


335 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:26:07.10 qyvQW1qsO 244/1333


炎獣「――ッ」ヒュッ

炎獣「…危なかった」ポロ…

狩人(なっ!? あの体勢から反応をして…弾丸を掴んだっていうのか!?)

炎獣「見つけたぞ」ギロ

狩人(まずい…ッ!)

剣士「うらぁあぁッ!!」ドシッ!

炎獣(! 当て身!)

剣士「今しかねェッ! やれェ!!」


斧使い「っ!」バッ

エルフ「くっ!」バッ


炎獣「ち、あそこにもいたか!!」


斧使い「おおおおおおッ!」

エルフ「魔王ぉおっ!」

ダッダッダッダッ!


魔王「…来たわね」

木竜「姫様! いま力を使われてはまた…!」



336 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:27:07.14 qyvQW1qsO 245/1333


炎獣「どけ」バキッ

剣士「うがッ!!」

狩人「っ! 剣士ぃ!!」


炎獣「…させるかよ」ドッ


狩人(な、なんて跳躍だ! 一瞬でエルフ達との距離を詰めて――)

魔女「狩人」

魔女「おぬしは魔王から照準を外すな」

狩人「!」

魔女「妾たちがもう一度チャンスを作る。だから」

魔女「誰が死んでも、決して視線をそらしてはならん」

狩人「…っ!!」


337 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:38:55.73 qyvQW1qsO 246/1333


炎獣「魔王に、触らせるか!」

エルフ(ーっ! 追い付かれるっ!)

斧使い「先に行け」

エルフ「!? 斧使い――!」

斧使い「…」コク

エルフ「…くっ!」


エルフ「おおおおおおおおおおっ!!」


《…教えてよ。死ぬかもしれない戦いで、少しでも勇気を出す方法》

《あァ。それァな…》


《戦友を信じること、だ…》



斧使い「…」ザ…

炎獣「邪魔するなら遠慮しねえぜ」

炎獣「炎ぉ」

炎獣「パンチッ!」


ゴッ


338 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:40:55.64 qyvQW1qsO 247/1333


《拍子抜けしたか? …でもなこれが案外、バカに出来ねェのよ》

《戦友ってのは、普通の縁とはちょっと違う、奇妙なモンで》

《食うメシも、眺める星も、死ぬ所だって共にするかもしれねェっていう、妙な共同体意識みてェなもんが芽生える》

《目にする最期の景色すら、隣のコイツと一緒なのかもしれねェ…って思うと》

《ああ、もし糞ったれた最期の瞬間を今日のこの日に迎えたとしても》

《俺はひとりじゃないんだって》

《それが例え見知らぬ誰かだったとしても。一緒に逝く奴がいるんだって…そう思える》


斧使い「」ボロッ…

剣士「…斧…使い…!」

狩人「…う」


狩人「うわああああああああああああああああああああああああっ!!」


炎獣「! 死んでも倒れねぇとか、お前ほんとに人間かよ」

斧使い「」

炎獣「邪魔だ」グシャ


《死ぬ瞬間がひとりじゃなくて良いってェだけの事が》

《案外、救いになるもんなんだぜ》




339 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:43:10.48 qyvQW1qsO 248/1333


エルフ「食らえ…!」

魔王「!」ザ…

エルフ「大妖精の矢!!」

エルフ(あれっ…!? 景色が回って)

炎獣「捕まえた」

ボキボキボキッ!

エルフ「ヒュッ…」


剣士「エ…ルフっ!」


狩人(…見ちゃ、ダメだ)

狩人(見ちゃダメなんだ。照準をずらすな)

狩人(照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな)



《…キミがそんな事を思ってたなんて、少し意外だったなあ》

《そうじゃな》

《っるせェ! だから、今まで誰にも教えずにいたんだろォが》

《でもよ。最後の最後くらい…》

《ひとりじゃねェんだって、この感覚を………伝えてみたくなったんだよ》


340 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:46:14.83 qyvQW1qsO 249/1333


魔王「炎獣…!」

炎獣「悪い、魔王。ちょっとヒヤッとさせたか?」

炎獣「でも、気ぃ抜くなよ。まだ終わってねぇ」

魔女「その通りじゃな」

炎獣「!」

魔女「超強化雷魔法」

バリバリバリ…!

炎獣「っ…でけぇ雷でも落とすってか?」

魔女「ああ。妾を殺したところで、もう詠唱は止まらぬぞ」

炎獣「…てめぇも死ぬだろ」

魔女「承知の上じゃ」

炎獣「ちっ!!」

炎獣「爺さん! 全力で離れるぞ!! 魔王、捕まれ!!」バッ


魔女「せいぜい足掻け…」

剣士「…かふっ」

魔女「………すまぬな、剣士。巻き込む」

剣士「…あー、あ」

剣士「…せっかく、なら、絶世の、美女と、心中した、かった、ぜ…」

魔女「それなら、申し分なかろう」

剣士「…ババア、は、ごめん、だ」

魔女「まったく。最後まで口の減らぬ奴よ」

魔女「…だが」

斧使い「」

エルフ「」

魔女「お前の言った通り…」

剣士「………あァ」






《最期の瞬間に、きっと俺らは…》


《ひとりじゃ、ない》




カッ


341 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:48:01.36 qyvQW1qsO 250/1333


ズゥン……





炎獣「はあっ、はあっ…」

炎獣「ギリッギリ、だったぜ」

魔王「炎獣、その腕…!!」

炎獣「あ、ああ。片腕雷に持ってかれちまった」

魔王「爺。私の治療はもう平気だから、炎獣を…!」

木竜「承知ですじゃ」

炎獣「待ってくれ。まだ、終わってねえ」

炎獣「もう一人いる。今の落雷で位置が掴めなくなった」

炎獣「魔王を狙ってる」

木竜「…どうやら気配の消し方が相当上手い奴のようじゃのう」

炎獣「ああ」

炎獣(何処だ。何処から狙ってくる…)









狩人「………皆の、仇」

狩人(食らえ!!)

パァンッ!


342 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:49:20.36 qyvQW1qsO 251/1333


炎獣「!」ドシュッ

魔王「炎獣!」

炎獣「うぎッ…!」

炎獣(俺を狙ってきやがった!? くそ、只の弾丸じゃねぇな、こりゃ…肉体に食い込んでやがる)

炎獣(裏をかかれた、当たり所が良くねえ。…でも)

炎獣(俺の勝ちだ。守りきったぜ)

炎獣「返すぜ、この弾」ズボ…

炎獣「おらッ!」ボッ


ドスッ


狩人「あッ…」

狩人「」ドサ…





343 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/14 23:58:36.54 qyvQW1qsO 252/1333


《…分かる気がする。魔女のばっちゃんが、言ってくれたよね》

《″一緒なら大丈夫″なんだって…》

《…そうじゃったな》

《俺たち翼の団は、ずっと一緒に死線を越えてきた》

《ああ、こりゃァ死ぬかもしれねェなって時、そういう奴らと肩を並べられてるってのは》

《俺に言わせりゃ、幸せな最期だぜ》


《だから、願わくば………》



ズゥ…ン!!

「ぐわァアアァッ!」


騎士「くっ…!!」

騎士(最早、この突撃についてきているのはたった…)

騎士(たったの十騎)

騎士「栄華を極めし王国の正規軍も…」

騎士「共に戦い続けた翼の団も………」

騎士(………もう、その影は見えない)

騎士「…っ」ギュウ

騎士「この戦いに、仮に勝てたとして、それの後人類は…」


死神「…」ブゥン

ドシャアッ!!

「ぎゃあぁああッ!」

「ぬぁあぁあっ!?」


騎士「…!!」

騎士(さらに半分、やられた…!)


344 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/15 00:00:38.75 HMg2PFyqO 253/1333


騎士(――…意味など、ないのか)

騎士(受け入れてしまおうか)

騎士(敗北を。…絶望を)

騎士(もう………止めて、しまおうか)

――「だらしねェな! 鉄人形!」

騎士(!)

――「あれほど死に急いでおったお前が、音を上げるのかの?」

――「だから僕はアテにならないって言ったんだよねー、騎士道精神なんてさ」

騎士(何を…)

――「その鉄の着ぐるみは何の為に着けてんだ、あァ?」

――「もう、止めてあげなよ! 誰でも弱音を吐きたい時はあるでしょ?」

騎士(…)



死神「…」ブゥン


騎士「ッ!」

――ズバァアッ!


345 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/15 00:01:48.21 HMg2PFyqO 254/1333


騎士「…はあ、はあ」

騎士「あ、危なかった…。しかし…」

騎士(しかし、まだ、生きている)

騎士(生きていて、良かった)

騎士(良かったと、まだ思える)

騎士「………さっきのは幻聴か」

騎士「…ふっ。だが」

騎士「思い出したぞ。我輩が誰なのかを」

騎士「――我輩は翼の団、死をも恐れぬ騎士団の長!!」


騎士「この前進は」


騎士「ただ自由を得るために!!!」



《願わくば、一人で立ち向かうアイツらも》

《隣で戦う俺たちを》


《感じてくれりゃ、いいな》




騎士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」











死神「…」


ブゥン…








346 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/15 00:37:21.29 HMg2PFyqO 255/1333




軍師「…」

雷帝「………何を言っている、貴様は」

雷帝「では、貴様の指示にしたがった人間はみな」

雷帝「犬死にだと、言いたいのか」

軍師「…」

軍師「あの人はね…もう居ないんです」

軍師「私は、″翼の団を勝利に導く常勝の軍師″から」

軍師「″魔族の生まれ変わりのような血の通わない女″に、逆戻りしてしまったんです」

軍師「だから、彼らをこうして殺して、平気でいるんですよ」

雷帝「………何だと」

軍師「でもね。ただ死んでいったんじゃ、それって復讐にならないでしょう?」

雷帝「これだけの囮を使った本命が、いるとでも言いたいのか」

軍師「さあ、誰だと思います?」

雷帝「………」

雷帝(騙されるな。圧倒されるな。全てはこの人間の妄言に過ぎない筈だ)

雷帝(単なる時間稼ぎ…だとして、時を得て利があるものなどこいつにはひとつもない)

雷帝(こいつは、もう、狂っているのだ)

軍師「あはははは。こうして、四天王を手玉に取っているのって、悪い気はしないですね」

雷帝「…」ス…

軍師「………さて、そろそろ貴方も痺れを切らして、私を殺してしまうかもしれません」

軍師「だからひとつだけ、種明かしをしましょうか。これを見て下さい」

ジャラ…


347 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/15 00:39:08.49 HMg2PFyqO 256/1333


雷帝(…ネックレス? 何だ、この宝珠。この、波動は…)

雷帝「…ッ! 貴、様…!?」

軍師「凄いでしょう? 港町の武器商会っていう外道の集まりがあってですね、そこに流れていたものなんですけど」

軍師「こんな事もあろうかと、手に入れておいたんですよ」

雷帝「なぜ、そんな事が…ッ!!」

軍師「ね? 私も分かりません。でも、この世も末ってことですよ。汚らわしい私にはよく似合うでしょう?」

軍師「これ、一度首から下げたら、私が死ぬまで取れないんですよ。ちょっと不便なんですけど、それも今日までの我慢ですから」

軍師「それはそうと、貴方の魔剣を使った代償って、呪いの炎に焼かれるんでしたっけ?」

雷帝「!」

軍師「敵がいなくなると、その副作用も発動するんですよねぇ? その呪いと、コレの破壊力、同時に受けて――果たして無事でいられますかね?」

雷帝「くッ――」

軍師「そうそう、コレの起爆のスイッチは、私の″死″です」

雷帝「!」ピタッ

軍師「あはは、迂闊に殺せないですよね、これだと。そうだと思って…」

雷帝(こいつ、舌を――まずい、電撃で気絶させ――)


軍師「」ガリッ


雷帝「!!」


軍師(ねえ)

軍師(私も、貴方達と一緒の場所へ行けますか)

軍師(これだけの事をしておいて)

軍師(許されますか)

軍師(………盗賊………)

軍師(もし出来るなら、貴方の元へ………)




348 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/01/15 00:40:39.12 HMg2PFyqO 257/1333





     ズ   ッ




炎獣「!!」

木竜「な、なんじゃあ!?」

魔王「――この光」

魔王(何故、敵の砦から、この光が!!)

魔王(…待って)

魔王(あそこには、まだ雷帝が…っ!!)




魔王「雷帝っ!!」








361 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 00:24:34.48 FqK2YHoGO 258/1333


「ひゅ…」

「ひゅう…」

「…ひゅう」

「………軍、師」

「騎士、狩人…」

「ひゅ…剣士、魔女」

「エルフ…斧使い」

「ハーピィ………吸血、鬼」

「みんな…」

「………くそ」

「動、けよ………」

「動いて、くれ………」

「…」

フワァアァ…

「………なんだ、よ」

「…今さら、そんなもん」

「成仏しろって…かよ」

「…はっ…俺は、もう、用済み、てか」

「ふざけ…んな」

サラサラサラ…

「…待て」

「待って、くれ」

「まだ、俺は…」

「………」




362 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:41:48.08 FqK2YHoGO 259/1333



ゴゴゴゴ…ドスン!

木竜「よし…これで瓦礫は取り除けたわい!」

炎獣「居たか!?」

氷姫「…こっちには居ないわ!」

魔王「…そんな」

魔王「あっちの瓦礫の山を見てみましょう!」

炎獣「くそ、何処だ!?」

炎獣「何処だよ雷帝! いるんなら返事しろって!!」

氷姫「くっ…」

氷姫(アンタが死んじゃ、意味ないじゃない…!)

氷姫「うっ」グラ…

炎獣「お、おい。大丈夫か、氷姫」

氷姫「…うん」

炎獣「あんな魔法ぶっ放した後だ。そりゃ身体の自由も効かないよな」

氷姫「アンタだって…その腕」

炎獣「ああ、爺さんに治して貰ってたんだけどな。今は、雷帝の方が先決だ」

氷姫「そうね…」スクッ


363 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:46:26.88 FqK2YHoGO 260/1333


魔王「………」

魔王(ひどい破壊だ。砦ひとつが跡形も無く消し飛んでる)

魔王(世界は灰に包まれてしまったかのよう。生き物の気配はない)

魔王(あの時砦を包んだ光は、見間違いようがない。――聖なる波動だ)

魔王(つまり、この大破壊は女神の力がもたらしたもの…という事)

魔王(…女神の力が、なぜ、人を滅ぼす?)

魔王(この破壊が勇者によるものだとしたら………)

魔王(ううん、違う。これもまた、波動自体に捻れを感じる。これは正統な女神の力ではない)

魔王(ねじ曲げられた…偽りの奇跡の力。人間すら飲み込む女神の加護)

魔王(………)


木竜「雷帝!!」

魔王「!」

炎獣「居たのか!?」

氷姫「雷帝…!!」

木竜「これは…」



364 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:50:32.73 FqK2YHoGO 261/1333


炎獣「…どうなってんだよ、これ」

氷姫「………ホントにこれが、雷帝なの?」

木竜「さっきの、正体不明の爆発に巻き込まれたんじゃ。これだけ砦の深部に居ては簡単に出られんかったか!」

木竜「魔剣の呪いで、障壁すら築けず直撃を受けた…それで四肢を失ったんじゃ。今なお、呪いの炎に焼かれておる!」

魔王「…!」

木竜(これが敵の狙いだったか…! しかし、ここまでの状態、果たして………!)

木竜「儂は集中治癒に入る。どこまで出来るか分からん、が、やるしかあるまい…!」

魔王「…お願い、爺」

木竜「お任せ下され」

木竜「…」

ォオォオ…

ピシピシ… パキ…

炎獣「!」


氷姫「これが…ジーさんの集中治癒…」

氷姫(すごい…ジーさんの回りだけ、空気が変わった)

氷姫(足元から、植物が生えてきている…! 生命力が、あの空間だけ満ち溢れてるんだ)

魔王「………」

魔王「お願い、雷帝…」


365 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:52:20.96 FqK2YHoGO 262/1333


木竜(雷帝)

木竜(お前はまだ、死んではならんぞ)

木竜(お前は…姫様にとって、必要な存在なのじゃ)

木竜(必ず、回復させる)

ォオォオォオォオ………


魔王「…暫くは、身動きが出来ないわ」

炎獣「あ、ああ。そうだな」

氷姫「ここで、ジイさんと雷帝を守らないと」

魔王「ええ。ただ、敵の軍のほとんどは、もう壊滅したはず」

魔王(氷姫の究極氷魔法と、あの爆発を受けて人間の生き残りはいない)

魔王(………結局はここまで…)

炎獣「しっかし…すごい爆発だったぜ」

氷姫「あれは…あのエネルギーは一体なんだったの…?」

魔王「あれは――」


ガラ…



366 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:53:47.38 FqK2YHoGO 263/1333


魔王「!」

炎獣「敵か!?」

氷姫(まさか、究極氷魔法の中で、生き残りがいるはず…!)



「ああ。何故、私は生きているのだろうな」

「教えてくれないか? 魔王よ」ユラ…


氷姫「! 何、コイツ…」

炎獣「お前…」

魔王「炎獣、見覚えが?」

炎獣「…ああ。戦場でデカイ声張り上げてたからな。こいつは王国軍の…」

「そう。私はずっと、王国を守るために戦ってきた」

「守るべきものが、王国にはあった」

「色んなものに守られもした。そういう幾つもの想いを胸に進んでいくうち」

「人は私を、将軍、と呼ぶようになった」



367 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:55:41.82 FqK2YHoGO 264/1333


「だが今の私は将軍などではない」

「兵を失い、旗は燃え尽き、剣は折れた」

「私は最早何も持たない」

「そう、私は只の――」





「戦士だ」




368 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 09:57:24.60 FqK2YHoGO 265/1333




【戦士】




369 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:33:32.98 FqK2YHoGO 266/1333


カラン…

戦士(王より授かりし聖剣…これが身代わりとなって折れたのか)

戦士(そうまでして生き延びた私に)

戦士(…今や、何の価値がある?)

戦士(身体は軋み、剣は折れ…)

戦士(兵を失い、誇りは費えた)

戦士(それでも私は)

戦士「…」ザ…

戦士(この者達の前に立ち塞がろうとしている)

炎獣「! …やるってのかよ」

魔王「…」

氷姫(雷帝は戦闘不能、ジーさんはそれにかかりっきり。あたしも魔力を使い切ってて、炎獣も負傷してる)

氷姫(不味い状況と言えばそうだけど…流石にボロボロの人間一人に遅れを取るようなあたしたちじゃない)

氷姫(折れた剣を構えて…コイツに何が出来るって言うの?)


370 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:34:59.78 FqK2YHoGO 267/1333


炎獣「そうまでして戦うのか? お前一人ぐらい逃げたって追わないぜ、今ならな」

戦士「戦うことまで無くしてしまっては、私は戦士ですら無くなる」

炎獣「退かないってか」

戦士「それが、私の権利だ」

炎獣「…そうかよ」

炎獣「じゃあ、手加減しねえからな」

戦士「…いざ」


ヒュオオォ…


炎獣「…」


戦士「…」


炎獣「…」


戦士「…」



371 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:36:10.62 FqK2YHoGO 268/1333



ガラ…


氷姫(瓦礫が…)




戦士「」ドンッ


炎獣「」バッ






戦士(――剣を振る時こそ己を示せ)

戦士(相手の命を奪わんとする時こそ、伝えろ)


戦士(自分が、何者であるのかを…)





372 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:37:38.92 FqK2YHoGO 269/1333



――――――
――――
――



…遡ること三年

王国がその栄華を極めし頃




373 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:39:00.40 FqK2YHoGO 270/1333



王城



「お、おい! 急げ急げ!」

「何事だ!?」

「戦士殿と、女勇者様が、模擬試合をやるんだと!」

「なにっ! そのお二人が!?」

「訓練所だ! 急げ!」



戦士「………」


女勇者「………」


ピリ………



「す、すげえ緊張感だ」

「し、黙ってろよ」


374 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:41:12.02 FqK2YHoGO 271/1333



ドンッ


戦士「」バヒュッ


女勇者「」ズバッ




――ピタッ………



「お…おお!」

「ひ、引き分け!」

「凄まじい剣筋だ! とても俺には見えなかったぞ!」

「さすが、我らが戦士殿!! 女勇者様にも引けを取らぬとは!」

「やはり、"王国軍の鬼"の異名は伊達じゃないぞ!!」


ワァアアアッ!


女勇者「…ふう」

女勇者「腕をあげたな、戦士」チャキン

戦士「…ありがたきお言葉」チャキン

女勇者「なんだ、随分堅苦しいな。お前なら、私と引き分けに持ち込んだと雄叫びでも上げそうものだが」

戦士「…え、ええ。まあ」

女勇者「ああ、そうか。兵共の目もあるからな」

女勇者「フフ。お前も部下の前での振る舞いを気にするほどの立場となった、というわけか。私が歳を取るわけだ」


375 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:42:40.74 FqK2YHoGO 272/1333



戦士「いや、えっと、その」

「そのくらいにしてやって頂けませんか、女勇者様」

女勇者「ん?」

戦士「あ、兄上!」

「我が弟はこれでも今にも踊り出さんほどに喜びにうち震えておるのですよ」ヒソッ

女勇者「くくっ。だろうな」

戦士「兄上ぇ!」

「さ、兵の目があっては女勇者様もおくつろぎになれないでしょう。どうです、これから我らの館にいらっしゃいませんか?」

女勇者「ああ、そうだな。お言葉に甘えるとしよう」

戦士「むぐぐ…」




376 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:43:59.62 FqK2YHoGO 273/1333


女勇者「…うん、良い香りの茶だな」

「ええ、少し前に王城に立ち寄った北国の商人から手にいれたものです」

戦士「………」ズズ…

「こら。音を立てるなよ、女勇者様の前で恥ずかしいだろう」

戦士「…兄上は、作法にうるさすぎるのだ。まるで王族の貴婦人がごとき振る舞いではないか」

女勇者「ハハハ! 確かにな。しかしまあ、国家の大将軍の子息ともなれば、そういう必要も出てくるか」

「ええ。我々とて戦ばかりしている訳にもいきません。時には、婦人方のお相手を勤めるのも重要な役目」

「なのに、お前と来たら。いつもいつもそういう場は面倒だと私に押しつけて…」

戦士「俺は戦士だ。戦いに身を置くものゆえ、そのような茶会とは無縁」

女勇者「相変わらず、弟の方は父親似だな」

「我が一家は武骨ものばかりで困ったものです」

女勇者「おいおい、お父上に聞かれたらまずいんじゃないのか?」

「え、ええ。そうですね。失言でした。どうか内密にお願いします」

女勇者「ハハ。その歳になっても父は怖いか」


377 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:45:42.28 FqK2YHoGO 274/1333


「それにしても、女勇者様はいつも優雅でいらっしゃいますね。やはり、素養が我々一家と違うのか」

戦士「…」ズズ…

女勇者「そうか? 照れるな」

「ですが、神託が下って勇者になるまでは、百姓の子だったんですよね」

女勇者「ああ。お前たちの親父殿と一緒に東方の片田舎で育った」

女勇者「親父殿は私の剣の師でもあるが、どちらかというと年の離れた兄のような存在でな、我らをいつもその強引さで引っ張ってくれた」

戦士「…ん? 我ら、というのは?」

女勇者「賢者だよ。あいつと親父殿と私は、同じ村で育ったのだ」

戦士「! で、では魔王を倒した伝説の勇者一行は、三人とも同郷であった、と!?」

「お前、そんな事も知らなかったのか?」

女勇者「伝説などと、こそばゆいな。まるで絵巻物の中の存在のようだ」

戦士「いや、まごうことなき伝説です! 魔王を倒したのですよ! 人類に光をもたらす偉業だ!」

女勇者「そうおだてないでくれよ。私は何も…」

女勇者「…」

女勇者(――そう、私は何も…)

戦士「…? 女勇者様?」


378 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 10:47:10.34 FqK2YHoGO 275/1333


女勇者「気にしないでくれ。いつまでも古き時代の英雄でいるわけにもいかないさ」

女勇者「世は、新たな時代を迎えている。…お前たちも話は聞いているんだろう?」

戦士「…新たな時代。新国王の即位のことですか?」

女勇者「フッ、確かにそれは欠かせない話題ではあるな。和平と友愛を訴える賢王の誕生に、町は沸き立っているしな」

女勇者「だが、良い話題ばかりが世を賑わわせているわけではない。一部の者たちの間でまことしやかに囁かれていることがある」

「――新たな魔王の出現…ですね」

女勇者「うむ。私が打ち滅ぼした魔王の、娘…か」

女勇者「そんなものが、アイツに居たとは、な」

戦士「しかし、女の魔王などと初めて聞きます。先代を討った女勇者様の敵ではないのでは?」

女勇者「フフ。私にもう一度剣を取れと?」

戦士「先程の見事な剣さばき、衰えのなき技。女勇者様であれば、きっと新たな魔王を打ち砕けましょう!」

「おい…」

女勇者「くっくっくっ」


379 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 11:43:04.19 FqK2YHoGO 276/1333


戦士「その時は、国を離れられぬ父上に代わって、今度は俺が女勇者様のつるぎになります!」

「いい加減にしろ!」スパーン!

戦士「あたっ!? 何をする兄上!」

「お前はよくもまあズケズケと遠慮のない言葉を並び立てられたものだな! 少しは女勇者様のお気持ちも考えろ!」

戦士「何を、偉そうに! じゃあ兄上には女勇者様のお気持ちが分かると言うのか!」

「少なくとも推し量る努力をしろと言ってるんだ、馬鹿たれ!」

戦士「何ぃい…!?」ガタン!

女勇者「お、おいおい、二人とも落ち着いて…」

女勇者「………」

女勇者(き…)


女勇者(キター!wwwwwwwww)

女勇者(美形兄弟のくんずほぐれつwwwwwwwwww小生これが見たかったでござるよwwwwww)

女勇者(あ、いつも冷静な兄が弟の胸ぐらをつかんでwwwwww)

女勇者(ちらりと除く厚い胸板最高wwwwwwwwあ、ちょっとたじろぐ弟堪らんwwwwwwwwwwかwわwいw
いww)

女勇者(いいぞwwwwwwwwwwもっとやれwwwwwwwwww)


381 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 12:44:50.70 FqK2YHoGO 277/1333


(い、いかん。女勇者様の前で、熱くなりすぎた)

戦士「だいたい、兄上はいつもそうだ! 物事は慎重に運べなどと言って、すべき事をしない!」

「っ!」ムカ

「………戦士。この話は後だ」

戦士「それ見たことか! そうやって話を後回しにしても、解決はしないぞ!」

「お客人の前だろう!!」

戦士「…!」

戦士(し、しまった。女勇者様の前で…つい血がのぼって)

「…女勇者様、お見苦しい所をお見せしました。失礼を、お許しください」

女勇者(いやwwwwwwやめんなよwwww)「ハハハ。どうやら、親父殿の血を継いでるのは弟だけではないようだな」

戦士「す、すみません…」シュン

女勇者(や、やっぱもうやめろwwwwwwww可愛すぎかよwwwwwwwww)「気にするなよ。見慣れていると言えば見慣れているしな」ハァハァ

「…ん? 女勇者様、どこかお具合でも悪いのですか? 少し、お顔が上気しているような」スッ

女勇者(バァwwwwwwwwwイケメン面近づけんなwwwwwwwww)「そうか? 今日はよく動いたからな、疲れが出たのかもしれん。そろそろおいとまするか」

「…そうですか。次いらっしゃる時までに、謝罪の意味も込めて極上の茶葉を仕入れておきますね」

女勇者(帰りたくねえwwwwwwwww)「それは楽しみだ。父上に宜しくな」

「はい」




「挨拶ぐらい、直接言っていきやがれ、ババア」


382 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 12:49:10.62 FqK2YHoGO 278/1333


「ち…!」

戦士「父上…!!」


大将軍「昔のツレに挨拶も無しで帰っちまおうなんて、随分じゃねぇか?」

女勇者(ゲッ…帰ってきやがった)「…久しいな、大将軍。相も変わらず剛健そうで何より」

大将軍「そんなに急いで何処行こうってんだよ、女勇者殿」

女勇者(急いでなどいないさ)「うっざ! 賢者とのフラグへし折りやがった貴様に用はないんだよ!!」

戦士「…えっ?」

「えっ」

女勇者「あっ」

大将軍「………」ニヤァ

女勇者(ク、クッソが~!! この老いぼれ筋肉ダルマ!!)


383 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 12:52:57.28 FqK2YHoGO 279/1333


大将軍「訓練所の兵士共が騒いでやがるから何かと思えば、やっぱりお前かよ」

女勇者「…」

大将軍「勇者の身分を使って王城に入り浸るのはいいが、兵隊どもをそういういかがわs

女勇者『テメエエエエ!! このクソジジイ!! 余計なこと言うんじゃねええ!!』

大将軍「ぬ…念話か。器用なやつだぜ」

女勇者『それ以上言ったらずーっと耳元で騒ぎたてんぞ!! 寝れなくしてやんぞ!! いいのかオラァ!!』

大将軍「…ち、いいトシこいて、ガキかよ」

女勇者『いいトシとか言うんじゃねーよジジイ!! こちとらまだアラサーじゃボケ!!』


戦士「…? 一体何が…?」

「だっ、大丈夫だろうか」ハラハラ


384 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 12:56:36.68 FqK2YHoGO 280/1333


女勇者『――それで、あの件はどうなったんだんだ!』

大将軍「…へっ、てめぇで聞いてこいよ」

女勇者「………」

女勇者「二人とも、世話になったな。また近いうちに会おう」

戦士「あ、は、はい!」

「女勇者様も、お元気で」

女勇者「ああ」スタスタ

バタン…

大将軍「ったく、ツラの皮の厚い女だぜ」

「父上、お帰りなさいませ」

戦士「父上、いくら旧友とは言え、女勇者様にあのような暴言の数々は…!」

大将軍「なんだぁ? 俺様に指図とは、おめぇも偉くなったもんだな」ジロ

戦士「っ…」

大将軍「しっかし、てめぇらももう少し物事の本質ってもんを見抜けるようにならねぇもんか?」

大将軍「あのババアはな…男と男の――」

女勇者『ジジイ、言っとくが私の念話の可能な距離はそれなりだぞ。余計な事を戦士きゅん達に言うなよ!!』

女勇者『分かったなッ!!』

大将軍「…」キーン

大将軍「ち、けたくそ悪ぃ」

戦士「…は?」

大将軍「酒持ってこい」

「はい、すぐに侍女に持たせます」

大将軍「お前も付き合え」

戦士「は、はい」


385 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 14:08:12.98 FqK2YHoGO 281/1333


大将軍「王兄様が亡くなり、王弟様の正式な即位式が済んで暫くになる」グビッ

戦士「…」グビッ

大将軍「知っての通り、王弟様は王兄様のような武を誇るような王じゃねえ。むしろ正反対だ」

「…」

大将軍「王兄様のような威厳はなく、むしろ変わり者で通ってる。口を開けば友愛だ、命の尊さだ…。言うこといちいちもっともだが、あれじゃあ国は守れねえ」

(父上…? 何を…)

大将軍「今の世は泰平とは言いがてぇ。魔王軍は新たな魔王の即位に沸き立ち、辺境じゃあ小国が反乱を企ててが燻ってやがる」

大将軍「王弟様は…大胆な改革を押し進めて、和平による治世を実現しようとなさってるが、家臣は少なからず戸惑ってる」

戦士「…和平による、治世?」

大将軍「隣人に理解を示すせば、争いは起こらず平和が手にはいる。そんな女神教会の教義を鵜呑みにして何が出来る」

大将軍「あれじゃあ教会の傀儡だ」

「父上!」

大将軍「いいか」グイッ

「っ…」

大将軍「…真実を見抜く眼を養え。人物の臭いをかぎ分けろ。戯言に耳を貸すな。己の想いの味を噛みしめろ」

大将軍「大事なことは何か…常に感じ続けろ」

「…」

戦士「…」


386 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 14:10:23.84 FqK2YHoGO 282/1333


「父上…何が起ころうとしているのですか」

大将軍「…」グビッ

「確かに、今の王国は不安定です。魔王の復活と、圧倒的な求心力を持っていた王兄様に代わって改革派の王弟様が王位についたこと…様々な混乱が起こることは明白でしょう」

「しかし…それとはまた違う何かが、王国を侵食している気配がするのです」

戦士「…」

大将軍「流石に鼻がきくな、おめぇはよ」

「父上、何か我らが知りえぬ事を探っているのではないですか?」

「…恐らくは、父上と女勇者様のおふたりの力で」

戦士「あ、兄上。何を言ってるんだ…?」

大将軍「…そうかい。なるほどな」

大将軍「おめぇは死んだ母ちゃん似だよ、やっぱりな。その目敏さ…鬱陶しいくらいだぜ」

「父上…! なぜ、我らに隠れて!」

大将軍「甘ったれんなよ、おい」ジロリ

「っ…!」

大将軍「与えてほしいと言えば、何でも与えられると思うのか? 何年俺様のガキやってんだ、ぁあ?」

大将軍「知りたいと思うなら、自分で辿り着いてみせるんだな」

「…」



387 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 14:12:02.28 FqK2YHoGO 283/1333


大将軍「…明日は?」

戦士「え、あ、はい。王室の鹿狩りに招待を受けているので、兄上と二人で行ってきます」

大将軍「んじゃあもう寝ろ。俺はひとりで晩酌する」

戦士「…はい」

戦士「ほら、行こう。兄上」

「…分かった」


ツカツカ…バタン


大将軍「…へっ」

大将軍「ガキが育つのってのぁ、早いもんだぜ」



「…」ツカツカ

戦士「…兄上。一体、何の話をしてたんだ。俺にはさっぱり…」

「…俺にも確かな事何も分からん 」

戦士「…」

戦士「それにしては、必死だったように見えたが。あの父上に、あそこまで食ってかかる兄上を見たのは初めてだ」

「ふっ…だろうな。俺も、いつ殴り飛ばされるか内心ヒヤヒヤしていた」

戦士「はたから見てるこっちは、寿命が縮む思いだったぞ」

「はは。悪いことをしたな」

「…さて、明日は陛下にお供する日だ。万が一にも、不備があるわけにはいかんぞ。早く、寝てしまおう」

戦士「ああ…そうだな」

戦士(何かが、起ころうとしている…? 一体何が…)


388 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 14:13:03.01 FqK2YHoGO 284/1333


夜明け前
大将軍の舘前


「…」ブルル

戦士「よーしよし。調子が良さそうだな」ゴシゴシ

戦士「陛下の前で恥をかくわけにはいかんからな、宜しく頼むぞ」

戦士(…結局、上手く眠れずにこうして夜明け前に床を抜け出して来たものの)

戦士(馬を駆けてみても漠然とした不安は拭いきれぬまま。大人しく寝床にはいっていれば良かったかな)


??「では、また日を改めて文を出そう」

副官「まさか、貴女が直接顔を見せて頂けるとは思わなかった」

??「なに、閣下にまた取引をして頂けるのであれば、我らにとってこれほどの利益になる事はないからな。これは我らなりの誠意だ」


戦士(あれは…父上の副官の…。こんなまだ暗い時分から何を…)

戦士(それよりも、あの副官殿に随分尊大な態度の女だな。あれは誰だ? 後ろに屈強そうな男どもを従えて)

戦士「…よし」


副官「では、また」

??「ご武運を。行くぞ」

強面「へい」

ツカツカ…

戦士「すまぬ。貴殿らは、何者だ?」

強面「!」サッ

??「待ちな」

強面「し、しかし姐さん」

戦士(今、コイツらは何をしようとした…? まさか、剣に手をかけたのか)

戦士(この王城の敷地の只中で、私に向かって、剣を抜こうとした!?)

??「大将軍閣下のご子息、戦士殿とお見受けする」

戦士「…いかにも。そちらは?」

??「"王国軍の鬼"と呼ばれるほどの誇り高い武人に、名乗る程の身分は持ち合わせてはいない。あたしは只の卑しい商人風情」

商人「武器商会の、長を勤める者だ。以後見知りおきを」


390 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:38:17.15 FqK2YHoGO 285/1333


戦士「武器、商会…!?」

戦士「どういうことだ! 貴様らは、陛下のしいた条令により王城への立ち入りを禁じられているはずだぞ!」

商人「ああ…陛下は争いを嫌い、我らを疎んじているからな。しかし、ここには紛れもない我らの入城許可証があるのだ」ピラ…

戦士(! こ、これは…第一級特権の入城許可!? なぜ、こんな物をこいつらが…)

商人「ご理解頂けたか。我らは正当な権利で入城したまでのこと。無用な言い掛かりは勘弁願いたいな」

商人「先を急ぐ身ゆえ、これにて失礼させて頂く。…行くぞ」

強面「へ、へい」

戦士「ま、待て!」

商人「まだ、何か?」

戦士「…なぜ、貴様らがこの舘を訪れる!?」

商人「聞かされていないのであれば、それは我らの口から語ることではない。知りたければ、父上に直接尋ねるが良かろう」

戦士「何…!?」

商人「悪いが、親子の対話不足の問題に首を突っ込んでいる時間もないのでな。失礼する」

戦士「なっ…」

――「父上…! なぜ、我らに隠れて!」

戦士(どういうことだ…!! ち、父上が…!?)


強面「良かったんですかい…姐さん」

商人「ふん…あの温室育ちの若造には何も出来はしないよ」

商人「全ては動き出している…あとは只、運命の坂道を転がり落ちて行くだけさ」



391 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:40:31.95 FqK2YHoGO 286/1333


戦士「はあ、はあ」ダッダッダッ

「おや、戦士様。こんな朝早くにそんなに慌ててどうなさりましたか?」

戦士「父上は、まだ自室か!?」

「い、いえ…それが。先ほど火急の用があるとの事で、お出掛けになりました」

戦士「なんだと…!」

「おい」

戦士「! あ、兄上! 聞いてくれ、父上が…」

「取り乱しすぎだぞ。そんな大声で全ての事をここでぶちまけるつもりか?」

戦士「…!」

「丁度、私も鹿狩りの準備をしようと部屋を出てきたところだ。…お前、この時間にそんなに準備万端な所を見ると、ろくに寝ていないな?」

戦士「あ、ああ…」

「まあいいさ。ちょっと付き合え。…じいや、すまないが、朝食は私の部屋に持って来てくれないか?」

「はあ、分かりました」

戦士「…」



392 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:43:20.30 FqK2YHoGO 287/1333


「…武器商会が…」

戦士「そうなんだ。第一級特権の入城許可証なんて、発行できる人物は限られている」

「…」

(我らにも打ち明けずに…という事はそれだけ表沙汰になることを避けている、ということ)

(条令を破ってまで武器商会の長を招き入れるなどと…いくら父上でも大罪だ)

(そこまでして秘密裏に、父上が運ぼうとしている事…)

――大将軍「このままじゃあ国は守れねえ」


「…」

戦士「…父上に一体何があったんだ」

「………考えたくは、ないが」

戦士「…」

戦士「兄上。思うところあるなら、俺にも話してくれないか」

戦士「…兄弟だろう、俺たち。俺だっていつまでもガキのままじゃない」

戦士「ただ事じゃないのは分かってる。一緒に背負わせてくれ」

「お前…」

(少し、弟をみくびっていたかな…)

「…分かったよ」



393 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:46:13.28 FqK2YHoGO 288/1333


「これは俺の推測の域を出ない話だ。確たる証拠はひとつもない。ひとつの可能性の話だと思って聞いてくれ」

「父上の狙いは………クーデターかもしれない」

「…嘘だと思う気持ちも分かる。しかし、時期と行動から、結び付く点が多すぎる」

「新しい考えを以て王国を導く王弟様への、父上の厳しい進言の数々は城内では有名になる程…」

「そしてそんな父上に、信頼を寄せている他の王族は多い」

「条令を破るほどの危険を犯して、そんな強引なやり方をもって、あの父上しようとしている事…」

「平和を訴え武力を嫌う国王…それに同調し王国への支配力を目に見えて増していく教会」

「混乱の中での、魔王の復活。父上は、この先にあるものに繁栄はないと、見切りをつけたのかもしれない」






「そっちへ行ったぞー!」

「囲え、追い詰めろー!」


戦士「………」

戦士(父上が、陛下を…そんな事が本当にあるんだろうか)

戦士「…」

貴族「おや、戦士殿。この王室の鹿狩りに招待されていながら、この様な場所で一人、何をしておいでかな?」

貴族「お得意の一匹狼を気取るのも良いが…それは陛下への好意を踏みにじっているとも取れるぞ、んん?」

戦士「…」ボー…

貴族「おい、ちょっと」

戦士「ん? ああ貴殿か。すまん、何か言ったか?」

貴族(こ、こんガキャ~…!)


394 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:47:45.30 FqK2YHoGO 289/1333


戦士「貴殿も呼ばれていたのだな。貴族階級の者は、こういう場には縁無きものと思っていたが」

貴族「っ! ま、また偉ぶった態度を! ″自分、こう言う場慣れてますけど、何か?″ とでも言いたげなその態度、気に食わん!」

戦士「いや…何もそこまで言ってないのだが」

貴族「そのような態度でいられるのも今日までだ! これを見よ!」ババーン

戦士「む、騎士の紋章? 教会のものか?」

貴族「その通りっ! 私は晴れて、十字聖騎士団の部隊長に就任したのだ!」

戦士(十字聖騎士団…ああ、そうか。教会直属のハリボテ騎士団)

貴族「どうだっ、この勲章! すごいだろう!? 輝いてるだろう~!?」

戦士(…とは言わないでおくか)

戦士「めでたいな。…にしても、こういう平野は慣れないんじゃないのか? 街道と違って、馬の扱いも難しいものだぞ」

貴族「み、見くびるな! 見ていろ、それ!」パシーン!

「!? ヒヒーンッ!」

貴族「う、うわ!? おい、止まれ!! うおおおおい!!」

貴族「誰か、止めてえええ!!」

パカラッパカラッ…

戦士「…健闘を祈る」


395 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:50:04.46 FqK2YHoGO 290/1333



「やれやれだな」

戦士「兄上…」

「十字聖騎士団…教会の関係者がこんな所まで顔を出すようになるとは」

「正攻法で出世が望めぬと考えた者達が、教会の影響力を利用してのしあがる道を画策している…あれも、その一端だろう」

戦士「そんな者が一部隊を引き受けるのか…まともな軍事行動が取れるのか?」

「さあてね。そんな事よりも、問題はお前だよ」

戦士「何?」

「眉間にシワがよっているぞ。晴れの席に不自然に写る」

戦士「………平然としろ、という方が無理な話だ」

「はあ。だから、お前に話さずおこうと思ったのだがな」

戦士「兄上はどうして普通でいられる?」

「あくまで仮定の話だと言ったろう。俺も本気で父上がクーデターを起こすとは思っていないんだ」

「ただ…少し、私も迷っている」


396 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:52:44.53 FqK2YHoGO 291/1333



「もしかしたら、王位が入れ替わった方が王国のためになる…という事はないだろうか?」

戦士「!」

「一見平穏なようで、脆く危うい基盤に支えられた王国を支えるには…大きな力が、必要ではないのか?」

「王兄様のご子息は、王兄様に似て豪胆なお方だ。そういうお方が中心にならなければ…新たな魔王軍や辺境諸国を抑えられないのではないか?」

「そういう問いを立てずにはいられなくなる」

戦士「…確かに王弟様では王家の支配力が弱い。それは今の王国にとって危険なものであるかもしれない」

戦士「だが、武力によってそれが行わたら、それが本当に正しいことなのか…分からなくなる」

「戦士、お前…」

「!?」ビクッ

「姿勢を正せ、無表情をつとめろ!」ボソッ

戦士「?」


国王「このような隅で、そなたらのような若き武人が暇をもて余しているとは、感心せんな?」


戦士「っ…」

「これは陛下。失礼をお許しください」

国王「何か、悪巧みでもしておったか?」

戦士(!)

「とんでもございません。遠方に、狼の影を見留めたので、弟と共に警戒をしていた所です」


397 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 15:54:50.67 FqK2YHoGO 292/1333


国王「ほう、狼が? それは看過できぬな」

国王「確かに森では餌も少なくなる時期だが…しかし、そなたらの眺める東側の森にはヤマアラシが巣を作っておるゆえ、狼どもは腹は空かしておらぬはずだがな?」

(…いかん、動揺するな)

「はっ。しかし、今年は東側の森の木々に病が流行りました。ヤマアラシの餌も減ってしまい、数を減らしている事が予想されます」

「対して年々増えていく狼の被害から、狼の群れは増え続けているようです。念のため、警戒をした方がよいかと存じます」

戦士(…)ゴクリ…

国王「…ははは! そなた中々博識だな。流石、あの大将軍の息子か」

「恐れ入ります」

(…何とか、なったか)

国王「二人とも余についてまいれ」

「はっ…? しかし、東方への警戒は」

国王「そんなものは、いらぬよ。そもそも東側の森は混交林だ。病の流行ったのはアオマツ。ヤマアラシが主食とするのはアカスギだ」

「えっ…」

国王「ふっ、中々に面白い知恵比べであった。褒美だ、余と並び立つことを許す」

「…ご無礼を…」

国王「構わぬ。ついてまいれ。三度は言わぬぞ」

「はっ…。行こう」

戦士「あ、ああ」


398 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 16:33:48.98 FqK2YHoGO 293/1333


近衛長「陛下、警護は我々が…」

国王「よい。余は少しこやつらと話がしたいのだ」

近衛長「…御意」

「…」

(…まさか、見抜かれているのか? だとしたら、まずいことになる…)

(もしも父上の計画が本当で…それに勘づいた上で我らに詰問するつもりなのだとしたら)

(………知られてしまえば、我が一族に未来はない)

国王「全く、そなたらの一家は困った家臣だ」

「…陛下、これは、その」

国王「見苦しいぞ。余には全て見えている」

(…!)

戦士「…」

国王「そなたら実は…」


国王「――鹿狩りがツマランのだろう?」


「………えっ?」

戦士(んっ?)

国王「弟の方は今日一日ずっとしかめっつらをしておるし…兄の方はずっと涼しい顔をしておったが、内心この式典をサボるタイミングを見計らっておったろう!」

国王「何か考えているのはミエミエだったぞ。余はなんと言っても国王だからな。余を相手にしてサボタージュを働こうなど、甘い甘い!」

「や、あの」

国王「どうせ、″戦場に比べたら鹿狩りなんてぬるいわ、やってらんねー″的なことを考えておるのだろう、ぇえ!?」

国王「挙げ句の果てに、あんな見苦しい言い訳をしおって。余に論破されてやーんの、だっさwww」

「あっ、あの陛下…」

国王「やめとけやめとけwww今さら言い訳しても恥の上塗り乙wwwww国王tueeeeeeだわこれwwwwwww」

「…」ポカーン


399 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 16:36:18.30 FqK2YHoGO 294/1333


戦士「おっ、恐れながら、陛下! 陛下と言えどもそのような愚弄の言葉の数々…」

国王「お前はだぁっとれwwwwwww余がカマをかけるたんびに顔を青くしたり白くしたりしおってからにwwwww」

国王「お前はカメレオンかっちゅーのwwwww」

戦士「ぐぬぬ…!」

国王「あ、怒った? 怒った怒った? 抜いちゃう感じ? 武士の誇り抜き放っちゃう感じ?」

国王「おーい衛兵ー、ここに謀叛人いるんですけどー。打ち首に処せー、もしくは切腹ー」

国王「あ、お前切腹する度胸なさそうだな、プーックスクス」

戦士「切腹くらい出来ます!!」

国王「じゃーやってみーよ」

戦士「望むところッ!!」

「やめんか馬鹿たれ」スパーン

戦士「あたっ」


400 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 16:38:23.60 FqK2YHoGO 295/1333


国王「なーんだ、つまらん。せっかくいい所だったのに」

「………陛下。このような戯れをする為に我らを連れ立ったのでしょうか」

国王「はーあ。お前マジメだなあ。なんか、マジメ。なんか余、ちょっとお前ムリかもしれん」

(こ、この人は…変わり者、とは聞いていたが…)ピキッ…

国王「ま、確かに頃合いか。良いだろう、お前たちをここに連れだったワケを話してやる」

国王「…実は今、余、暗殺されそうなんだよねーえ」


402 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 17:43:57.48 FqK2YHoGO 296/1333


戦士「…は?」

「………それは、どういう…」

国王「もうすぐ、今追われている鹿が森から飛び出してくる」

国王「それを追っている弓使いのうち数人は、鹿を狙うと見せかけて余を狙ってくる」

「…!」

国王「あそこに近衛隊がいるな。あれの数人にも、息がかかっている。狙撃に失敗すれば、余に襲いかかってこよう」

戦士「ま、まさか…」

国王「これ、マジだから。ほんとビビるわ、余を誰だと思ってんじゃいっつーの」

戦士「で、では何故警護の者を遠ざけているのです!? 陛下の側には今我々しか…」

国王「どいつが敵の息がかかった者かまでは余にも分からん。念のためよ」

「…それでは何故、我々は信用して頂けたのですか」

「近衛隊まで裏切るようなこの状況下で、なぜ我々を。言っては何ですが、大将軍の息子などという立場の者など、どの勢力に加担してもおかしくはないと思いますが」

国王「確かにな」ニヤ

戦士「お、おい兄上!」

国王「………匂いが、するのだ」

「…え?」


403 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 17:45:47.31 FqK2YHoGO 297/1333



国王「おぬしらからは、匂いがするのじゃよ」

国王「あの大将軍の、忠義に厚く一本木な、汗臭い匂いと同じ匂いがな」

国王「だから余は、そなたらを信じる」

「…」

戦士「陛下…」


「よーし、鹿が出たぞ!」


「追えー!」


国王「そら、来たぞ。しっかり余を守れよ」

国王「というより、この状況だとそなたらの命も奪われかねんわけだがな?」

(…我々が生き残れるかどうかすら、我々次第だと)

戦士「…そう言うことなら、お任せを。この私に剣を向けることがどういう事か、思う存分分からせてくれましょう」

国王「おー気負ってる気負ってる。あんまりフラグ立てんなよ。腐っても近衛隊だ、奴ら強いぞ」

戦士「有り難い、誉れ高き近衛隊と手合わせ願えるとは」

「…単純な奴め」ハァ


404 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 17:48:56.79 FqK2YHoGO 298/1333


戦士「と、言いつつ兄上も少し楽しそうじゃないか?」

「馬鹿たれ、分かってるのか。これでいやがおうにも国家転覆の陰謀に巻き込まれたのだぞ」

戦士「ふん。誰が相手だろうが、降りかかる火の粉は払うまで」

「…お前のそういう所が羨ましいよ。何はともあれ」チャキ…

戦士「おう。生き残ろうぞ」チャキ…



弓使い「…」キリキリキリ…


戦士「――来る」

「陛下、お下がりください」

国王「へいへーい、と」

国王「………すまぬ」ボソ

国王「余が至らぬばかりに…そなたらの命、無駄にはせぬ…」

(? 今、何と…)



弓使い「」パシュッ






405 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 17:51:00.97 FqK2YHoGO 299/1333


「あっ!?」

「陛下――!」

貴族(や、矢が陛下の方に!!)

ドヨッ



戦士「はッ!」

「ふッ」

カカンッ!



弓使い「は、弾かれた!?」



近衛長「ちっ!」シャキンッ

近衛兵「やむを得ん!」シャキンッ

ダッ

近衛長「王弟様、お覚悟!!」



戦士「来るぞ、兄上」

「ひぃ、ふぅ…五人か」

戦士「おや、割り切れんな。さてどちらが多く倒すか」

「兄に、華を持たせろよ」

戦士「こればっかりはそうもいかんさ」

「ふっ、可愛くない弟だ」



近衛長「女神よっ! 我に加護をっ!!」ダダッ






406 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 18:44:42.27 FqK2YHoGO 300/1333


「は、反逆だ!」

「近衛隊が陛下を!」

「反逆者を捕らえろ!! 陛下を守れ!!」

「そこの弓使いも仲間だっ!!」

ワーッ

貴族「…ど、どうなっているんだ、これは!」

貴族(一貴族の身分から何とかコネで勝ち取った十字聖騎士団の部隊長の座…しかも、王室の鹿狩りのお供に選ばれて出世街道間違いなしだったのに!!)

貴族(へ、陛下の暗殺ぅ!? 私にどうしろと言うんだ!)

「貴族殿! 我々十字聖騎士はどうすれば!?」

貴族「ええい、ウルサイ!! 今考えているっ!」

貴族(はっ。待てよ)キュピーン

貴族(ここで陛下をお守りしたとあれば、十字聖騎士団の株は上がるっ! そうすれば私も…フヒヒ)

貴族「よし! 全員陛下の元へ馳せ参じよ!! 陛下をお守りするのだ!!」


407 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 18:47:20.74 FqK2YHoGO 301/1333


貴族「急げ急げー!」パカラッパカラッ

貴族「戦士殿、助太刀致す………!?」



戦士「御免」ズブ…

近衛兵「」ドサッ…

戦士「…遅いぞ。もう、全員片付いた」

貴族「………さ、流石、見事な腕前…」

戦士「お世辞はいい。守りを固めろ。近衛隊がアテにならん、俺の隊の者達を陛下の元へ集めてくれ」

貴族「むぅっ…!! わ、分かった」

貴族(くそぅ~! またしても邪魔をしよって!!)

「おい、無事か………聞くまでもなかったか?」

戦士「当然だ。しかし、兄上も腕が鈍ったな。一人を相手に苦戦するとは」

「相手は近衛隊だぞ、四人も切り伏せる方がどうかしている」

戦士「そうか? 女勇者様の方が数段強かったぞ」

(比べる対象が女勇者様では…近衛隊も不憫だな)

「…陛下、まだ危険は完全に去ったとは言えません。我らのそばに…」

「…陛下?」



国王「…」

近衛長「」



408 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 18:49:14.72 FqK2YHoGO 302/1333


国王「…そなたらがかつて余に捧げた忠義、忘れぬ」

国王「ろくな埋葬もしてやれぬが、安らかに眠れ…」

近衛長「」


「…陛下は、何を…。奴らは謀叛人だろう…」

戦士「…」

戦士(…自分を裏切った者を…ねぎらうのか)

「…陛下、我らの隊をつけます。王城へ戻りましょう」

国王「………分かっている」



伝令「こ、国王陛下!」

戦士「何だ、貴様は?」

伝令「い、急ぎの報せです! 申し上げます!」




伝令「大将軍が、東の森林部で密かに軍を集結しておりました!」


伝令「大将軍はここを攻めるつもりでいた様です!」






「な――」

戦士「何だとっ!?」



409 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:29:31.08 FqK2YHoGO 303/1333


国王「………今はどうなっている」

伝令「いち早く異変に気づいた女神教会の十字聖騎士団が大将軍を捕縛!」

伝令「現在事態の収拾に当たっています!」

戦士「ば…馬鹿な!!」

戦士「父上が!? 本当にそのようなことを!!」

(父上が………本当に…!?)

(…そんな、いくら何でも早すぎる!)

(それでは、この近衛隊は…!)


シャキン…


戦士「!?」

「…!」

貴族「う、動くなよ…この反逆者どもめ」

戦士「なんだと…!」

貴族「ち、父親が反逆を犯したのだぞ! 貴様らが何も知らぬはずはあるまい!!」

戦士「………そ…それは…」

(まずい…!!)

貴族「それ見ろ! 奴らは共謀者だ!! …反逆の共謀者を捕らえろぉ!!」


410 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:30:49.07 FqK2YHoGO 304/1333


戦士「くそッ!」チャキ!

戦士「出来るものならやってみろッ!! 俺を捕らえるまでに刺し違えてでも殺してやるぞッ!!」

ゴォ…

貴族「ひッ…」

「…な、なんていう威圧感だ」


「よせ、戦士」

戦士「…でも、兄上!」

「大人しく捕まろう」

戦士「…今なら陛下を人質にとって逃げられる!」

「そんな事をして、どうなる! お前はこの場で全てを失うつもりか!」

戦士「っ…」

「何も分からないまま…ただ汚名を着せられて逃げ出すのか」

戦士「………くっ!」

「――必ず、挽回のチャンスがあるはずだ」ボソッ

戦士「………」

戦士「分かった」

ポイ ガシャン…

貴族「ふ…ふはは!」

貴族「武器を捨てたぞ!! 今だ!! 捕らえろ!!」

ワーッ


――――――
――――
――



411 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:51:44.09 FqK2YHoGO 305/1333





王城 裁きの間



国王「…大将軍よ。このような場でそなたと向き合う事になるとは…とても残念だ」

大将軍「………」

国王「何も、話さぬか。それもまた、そなたらしい」

大将軍「………」

大領主「陛下。既にこのような場を設ける段階は過ぎております。それほど、この者の罪は重く、そして許されざる事です」

大僧正「我ら女神教会も同じ見解です。即刻、処罰を下すことをここに進言します」

国王「………」

大将軍「………」


412 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:52:58.61 FqK2YHoGO 306/1333


国王「…どのような罪を犯した者でも、最後の言葉をこの世に残すことは許される」

大将軍「………」

国王「かの者たちを、ここへ」


ゴゴゴ…


「歩け。ここに跪け」

戦士「くっ…。このような屈辱…!」

「発言は許されていない」

「………」



大領主「…! なぜ、あの者たちが」

大僧正(陛下の独断か。また勝手をなさる…)



大将軍「………よぉ、クソガキども」

戦士「!! ち、父上っ!!」

「父上…!!」


413 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:54:19.49 FqK2YHoGO 307/1333


戦士「ち、父上!! なぜですか!! なぜ…!!」

「黙れ!」グイッ

戦士「ウグッ…」

「…父上っ!」


大将軍「…ったくよぉ、てめぇらはいつまでたっても俺様のガキらしくなりやがらねえ」

大将軍「父上父上ってよ、気色悪ィっつーのに…爺の奴の教育の賜物だぜ」

戦士(父上――)

大将軍「だがよ。てめぇらの人生はてめぇらの人生だからよ。それで、いい」

(父上…!!)

大将軍「俺様が教えられたことなんざ、剣の振り方ぐれぇのもんだ」

大将軍「だが、それでも俺様は満足だ」

大将軍「…忘れんなよ。己の全てを、伝えるために剣を振れ」


414 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 19:55:30.17 FqK2YHoGO 308/1333



大将軍「てめぇの伝えたいことを…忘れんな。もののふだったら、その剣に誓ったことを忘れるな」

大将軍「相手の命を奪う剣だから…そいつでお前が正しいと思う道を示せ」

大将軍「人を切り伏せる時こそ…自分を伝えろ」


戦士「ち…父上ぇ!」

「父上…っ!」



大将軍「あばよ」

大将軍「…ま、元気でやれや」



裁判長「――時間である。退場を命じる!」


「さあ、下がれ」

戦士「父上!! 父上ぇ!!」

「くそぉっ…父上…っ!」




戦士「うわあああああああああああああああああっ!!!」



415 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 21:32:37.97 FqK2YHoGO 309/1333



国王「…他に、言い残す事はあるか?」

大将軍「………」

大将軍「さっきも言ったように、俺様があいつらに教えたことなんざ剣くらいのもんだ」

国王「分かっておる。あの者たちは、狩り場で余を守るために戦った」

大将軍「…そうかい」

国王「…」


大将軍「ありがとう、ございます。陛下…」


国王「…」



裁判長「引き続き、刑を執行する!」



416 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 21:33:47.37 FqK2YHoGO 310/1333


大将軍「…へっ」

大将軍(偉そうなことを言って、このザマとはな…)

大将軍(政治やら駆け引きやら立場やら、随分面倒なもんを背負っちまったが)

大将軍(あいつらの目を見たら、思い出しちまった)

大将軍(ただただ、剣でのみ己を語ってたあの頃を)

大将軍(ただの、いち戦士だった、あの頃を――)



「構え!!」


ガチャ…




大将軍(懐かしいぜ)









――パァン…



417 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:18:28.85 FqK2YHoGO 311/1333


――――――
――――
――

王城 とある一室


見張り兵「食事です」カタ…

「…すまない」

「………」

「なあ、少しは食べたらどうだ」

戦士「………」

「…今さら、我らを毒殺しようなどという輩はいない。その価値がない」

戦士「…もはや、何の身分も持たぬ雑兵だからか」

「反逆罪に問われなかっただけ救われた方だ」

戦士「もはや、誰も信じられぬ」

「………」


418 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:22:50.28 FqK2YHoGO 312/1333


戦士「我が一族は、その身分を追われた。私と兄上にあてがわれたのは、この小さな部屋ひとつ」

戦士「剣を振るう場所すら奪われ、ただ生かされているのみ。これでは囚人と変わらない」

戦士「そんな辱しめを受けてまで、永らえる命ではない。俺は、一族の誇りまで失った覚えはない」

「…誇りが邪魔をして、生きることを捨てててしまうくらいなら…」

「それを失った人生を受け入れる勇気も、時として持つべきだ」

戦士「………俺はな、兄上」

戦士「父上が真の反逆者であったとは、今も信じていないんだ。きっと何かの間違いだ」

戦士「父上が、そう簡単に陛下を…我らを裏切るわけはない」

「…そうだと信じたくても、それを示す証拠を探す手立てすら、我々にはないのだぞ」

戦士「だとしても。…父上は反逆者ではない」

「………」

「頑固な奴だよ、お前は」

戦士「兄上は、そう思わないのか?」

(…)

「俺はな…」

ガチャ…

見張り兵「失礼します」


419 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:25:35.70 FqK2YHoGO 313/1333


見張り兵「食事をお下げします」

「あ、ああ。すまないな」

見張り兵「…戦士殿、やはり手をつけていらっしゃらないのですね」

戦士「…」

見張り兵「あの、これ良かったらどうぞ」ゴト

「…パン?」

見張り兵「俺の知り合いで、パン職人のヤツがいて、そいつに特別力のつくようなパンを焼かせたんです」

戦士「…お前。分かっているのか? こんな事をしたら…」

見張り兵「いいんです。俺、前に一度だけ戦士殿に稽古をつけてもらったことがあるんです。厳しかったけど…でも、あの一切妥協を許さない剣が」

見張り兵「俺には、すごく嬉しかったんです。ああ、俺みたいな下っ端にも本気でやってくれるんだなって」

戦士「…」

見張り兵「実は、これを焼いた職人も元々兵士で…戦士殿には大恩があるって。今の境遇を聞いたら、いてもたってもいられないって、コイツを焼いてくれたんです」

見張り兵「毒の仕込み様がないようにしました。良かったら、食べてください」

「…」

見張り兵「王国軍の…特に戦士殿の隊にいた連中は、お二人の解放を望んで声をあげています。どうか、もう暫くの辛抱を…」

戦士「………すまん」

戦士「有り難く、頂く」


420 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:29:33.50 FqK2YHoGO 314/1333


戦士「…」ガツガツ

「…俺に言わせれば」

戦士「…」ガツガツ

「全てが誰かの仕組んだ策略で、父上はそれに陥れられた、というのならば。俺たちを殺そうとしている人物は、役者を使ってでもああいう嘘を吐かせるな」

戦士「…」ゴクン…

「甘いよ…お前は」

戦士「………匂いが、するんだよ。兄上」

「なに?」

戦士「あの兵士も。狩り場でお供した陛下からも。最期に出会った、父上からも」

戦士「…この人は信用に値するって、匂いが」

「………」

戦士「…真実を見抜く眼を養え。人物の臭いをかぎ分けろ。戯言に耳を貸すな。己の想いの味を噛みしめろ」

戦士「覚えているか。父上が最後に酒を酌み交わした時に言っていた言葉。…俺は、自分は鼻が効く方なんだと、信じていたい」

「…」


421 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:31:18.46 FqK2YHoGO 315/1333


「お前、女勇者様に憧れてるよな」

戦士「…ぇあっ?」

「いっつもいっつも、女勇者様が近づくと顔をみっともないくらい真っ赤にして…それくらい、憧れているよな」

戦士「んな、なななな、何を言い出すんだ兄上っ!」

「でも、その憧れは単純なものじゃない。…お前はなりたいと、ずっと思っているんだよ」

「――勇者に」

戦士「…」

戦士「子供の頃言ってた事、兄上がまだ覚えてるなんてな」

「お前は…つくづく甘ちゃんだよ」

「人物の人となりを見極めると言ったってその単細胞じゃあ、いつ騙くらかされても文句は言えない。言う頃には、命は無いかもしれないんだ」

戦士「兄上…?」

「あの夜、父上が言ったことがもうひとつある。″大事なことは何か、常に感じ続けろ″」

「………どうやらお前が一番優れているのはそれさ。そしてそれは、誰しもが真似出来ることではない」

戦士「…」

「俺はな。お前にはひょっとしたら――」


見張り兵「な、何者だ!? うっ!」

ドサ…

戦士「!?」

「な、なんだ? さっきの兵士の声か?」


422 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 22:33:08.52 FqK2YHoGO 316/1333


???「そこを動くな。物音も立てるな。何かあれば、この兵士を殺す」

戦士「…っ!」

戦士(何者だ!? 刺客か!?)チラ

(…いや、おかしい。だとしたら、この立場の我々に、見張りの兵士を人質に取るなんて事をする必要がどこに…)

???「…なーんてな。許せよ。本当に声を上げられては困ることになるのでな」

戦士「こ、この声…」

「…まさか」

???「よっと」カチャカチャ…ガチャン


ギィ…


女勇者「やあご両人。助けに来たぞ」


 戦士「「女勇者様!」」


423 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 23:27:55.86 FqK2YHoGO 317/1333


女勇者「再会を喜びたい所だが、時間がない。すぐに異変に見回りの兵士が気づくはずだ」

女勇者「脱出するぞ」

「!」

戦士「ど、どうして…」

女勇者「どうして? 野暮なことを聞くんだな。そんなものひとつに決まっているだろう」

女勇者「君らと、君らのクソオヤジ殿の無念を晴らすためだよ」

戦士「…!」パア

女勇者「お前たちはあの男に似て、やられてばかりは性に合わない性格だと思っていたんだが…私の思い違いだったか?」

戦士「…ははっ!」

戦士「ちょうど、身体がなまってしょうがないと思っていたところですよ!」

女勇者「そう来ると思ったよ。受け取れ」ヒョイ

戦士「お、俺の剣!」ガシャ…

女勇者「さて、お前はどうするんだ?」

「私は…ここに残ります」


戦士「――…え?」


424 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/04 23:36:33.59 FqK2YHoGO 318/1333


戦士「あ、兄上? 何を言ってるんだ」

「女勇者様。ここを出て何処に向かうおつもりですか?」

女勇者「さあてね。とりあえずは武器商会の連中の所へ潜り込んでみようかと思っている。奴らが一枚噛んでいるのは間違いなさそうだ」

「そうですね、それが良いと思います。恐らくその辺りを叩けばホコリは出てくるかもしれません」

「女勇者様と戦士で、外から探りを入れて下さい。俺は、そこが動いたことによる内部の動きを探ってみます」

女勇者「そうか。ま、好きにするといい」

「…すみません」

女勇者「気にするな。どーせ私も、こんな立場惜しくはなかった」

「ありがとう…ございます」

戦士「な、何を言ってるんだ!? ここに残るって、どうして!?」

「…戦士。俺はな、お前みたく真っ直ぐな男じゃないんだよ。自分が可愛くて、保身に走るような、情けない男なんだ」


425 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/05 00:02:01.54 Wn6Lxm92O 319/1333


戦士「保身だと…!? こんな所に留まることが、何の保身になるっ! 我らにこれ以上失うものなど、あるものか!」

「それでも俺は、いつかまた我らの栄光を取り戻せると思っていたいんだよ。…お前の帰ってくる場所は、必要だ」

「お前みたいな奴は、この国に必要なんだ」

戦士「わけの分からないことを言うな!!」

女勇者「落ち着け、戦士。声がでかい」

「俺はな、戦士。女勇者様に全ての罪を被せて、全てにそ知らぬフリをしようとしているんだ」

「そうしてここでしぶとく生きてる事で、得られる事は必ずあるはずだ。逆に、俺も一緒に脱出してしまえば、その機会は永遠に失われる」

戦士「だからって、こんなチャンスも二度と来ないのだぞ!」

「分かっている。だが、それでいい。囚人ならば私にお似合いだ。…俺は、父上のことをお前みたく信じることは出来なかった」

戦士「…!」

「安心しろ。それでもむざむざ生き恥をさらすつもりはないさ。必ずこちらからも鍵を掴んでみせる」

女勇者「もう、時間がない。行くぞ」

戦士「兄上…!」

「俺も誰に似たのか頑固なものでな。聞き分けてくれ」

戦士「………」

戦士「必ず、生きて会おう。約束だ」

「ああ…約束だ」


426 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/05 00:07:35.20 Wn6Lxm92O 320/1333


女勇者「…達者でな」

「このご恩は忘れません。…弟を、宜しくお願いします」

女勇者「任せておけ。行くぞ」

戦士(兄上…――)

ダッ…


(さらばだ…弟よ)

(お前は、女勇者様の隣に並び立つに相応しい男だ。俺はいつも…)

(――そんなお前を眩しく感じていた)

「………さて」

「ああ言ってみせた以上…俺も上手くやらなければな」



434 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 00:16:00.38 bC6YCU4IO 321/1333





地下水路


女勇者「こっちだ」

戦士「…こんな所があったなんて」

女勇者「驚きだろう? この地下水路は迷路のように入り組んでいる。下手に迷い込めば、生死にかかわるほどだ」

女勇者「お前の兄には優雅だなどと言われたが、これでも私は勇者に成り立ての頃なんかはかなりのお転婆でな。この水路を冒険と称して歩き回ったものさ」

戦士「お、女勇者様が、ですか?」

女勇者「私は、お前が憧れているような人物ではないよ。勇者もただの人間だ」

女勇者「さ、行こう。兄はすぐに我らのことを話すだろう。捜索の手が入っても、しばくは見つからないくらいは奥に潜伏せねばな」

戦士「…あ、兄上がすぐに話す、とはどういう意味ですか?」

女勇者「その方があいつとお前のためなのさ。言っていたろう、私に罪を被せて自分はそ知らぬフリをすると」

女勇者「乱心した女勇者が王城の一室を襲撃、幽閉されている大将軍子息の一人を誘拐した…そういう事にするんだ」

戦士「…し、しかし、それでは女勇者様が!」

女勇者「あの部屋を襲撃した時点で、私の罪はどう転んでも変わらんからな。だったら、お前たち兄弟は被害者という事にしておいた方が、後々やりやすいだろう」

女勇者「まったくお前の兄はよくよく頭の回る男だよ」

戦士「………」



435 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 00:22:00.62 bC6YCU4IO 322/1333


女勇者「納得いかない、という顔だな?」

戦士「兄上は…結果として一番利が得られそうな事を躊躇なく選べる。俺には、そういう駆け引きは向きません」

女勇者「ま、そうだろうな。私も兄上も、お前にそういう部分は期待してないよ」

戦士「うっ…」

女勇者「だが、この先その兄はいないぞ。生き残るためには、あらゆる判断が必要になる。よく、覚えておけ」

戦士「…はい」

女勇者「これからの事についてだが…」

戦士「武器商会、ですね?」

女勇者「ああ。お前たちも何か掴んでいたようだな」

戦士「はい。あの日の…謀反が行われた日の早朝、武器商会の長と名乗る女が我らの館に出入りしてるのを、この目で見ています」

女勇者「ふむ…」


436 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 00:26:03.19 bC6YCU4IO 323/1333


女勇者「私もアレコレ探りを入れていたんだが、どうやら親父殿が武器商会を通じて密かに軍備を整えていた事は確かなようなのだ」

戦士(………父上、なぜ)

女勇者「だが、それが反逆の為とはどうしても私には思えなくてな。あいつは、人を裏切るようなやり方が何よりも嫌いな男だった」

女勇者「信じたいんだよ、私も」

戦士「…女勇者様」

女勇者「そろそろポイントか。…うん、あそこの縦孔がそうだな」

女勇者「そこの梯子を登ると、地上の井戸に繋がる。ちょっと顔を出して覗いてみろ」

戦士「は、はい」

ガタガタ… ゴトゴト

「おう、それはこっちに積め!」

「急げよォ、出発まで時間がねえぞ!」


戦士(…! あいつらは!)

女勇者「見えたか?」

戦士「武器商会…!」ギリ

女勇者「おいおい、そのまま突っ込んで行ってしまいそうだな。まあ待て、武器商会の連中は異様に用心深く、厄介だ」

戦士「…はい。しかし、どうするのです? あの様子では…近づく事すらままなりません」

女勇者「奴らの荷馬車のひとつに、底に穴を開けたものを紛れ込ませる。これは私のツテで協力者がいるので恐らく問題なく済む」

戦士(そ、底に穴を開けた荷馬車? そんな物を一体…)

女勇者「商隊の街中を通る間、水路からの縦孔が蓋をされている箇所の上を通る。我々は、穴の開いた荷馬車が頭上を通過する時を見計らって…」

戦士(まさか………)

女勇者「縦孔から飛び上がり、馬車に乗り込む」




437 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 00:27:44.76 bC6YCU4IO 324/1333



役員「社長、荷の積み込み終わやした」

商人「よし。それじゃあ、後の事はあんたに一任する」

役員「へい。お気をつけて」

商人「ああ。進め!!」

ガタガタガタ… ゴロゴロゴロ

「な、なんだいありゃ。何かの凱旋パレードかい?」

「港町の連中だ…。武器を積んだ馬車をしこたま引き連れて、今度はどこに行くつもりだか」

「ヤバい連中らしいぜ、関わらん方が身のためだ」

御者「ぁあん?」ギロ

「うっ…それ、言わんこっちゃないだろ」

御者「…フン」

御者(と、粋がってみたはいいものも、俺もまだ社内じゃ下っ端も下っ端、社長が恐くてしょうがない今日この頃)

御者(入る会社間違えたかなぁ。とにかく、今はこの荷を粗相なく送り届けにゃあ…)


――ドスン!


御者「うわっ!? なんだ、今の音?」

御者(ままま、まさか、なんか落としたか!?)

御者「…? いや、そんな感じもないな」

強面「おい、そこ! チンタラして隊列を乱すんじゃねぇ!」

御者「は、はぃっ!」ビクゥッ

御者(気のせいか…?)


438 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 00:30:34.74 bC6YCU4IO 325/1333


荷馬車の中

女勇者「………どうやら、上手く行ったみたいだな」

戦士「…か、かなり無茶があった気がするんですが」

女勇者「結果良ければ全て良しだろう? タイミングは際どかったけどな。あのポイントなら商隊もそこまで速度を出していないということは分かっていた」

戦士(際どいどころの話じゃないぞ、成功したのが奇跡みたいなものだ)

女勇者「これくらいで音を上げるなよ。私が現役の頃はもっと無茶をしていた」

戦士(…お、恐るべし勇者一行)

女勇者「さーて、どこに連れていってくれるのか…」

戦士「えっ。分かっていないのですか?」

女勇者「ああ、そうだが?」

戦士(えええええっ!?)

女勇者「ま、この混乱の中で商人自らが動くんだ。それなりの場所に連れていってくれるだろう」

戦士「そ、そんなテキトーな!」

女勇者「他にアテもないのだからしょうがないだろ? あとは運任せさ。果報は寝て待て、せいぜい身体を休めておけよ」

戦士(………お、俺はとんでもない人についてきてしまったのかもしれない)





439 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 01:01:39.04 bC6YCU4IO 326/1333


貴族「…おかしいな。何故、女勇者様が戦士を連れ去る。なんの目的で?」

「それは私には分かりかねます」

貴族「………」

貴族「まさか、かつての戦友の子息たる貴様らに、情でも沸いたか? 所詮は、女だからな」

「…」

貴族「まあいい。いつまでも知らぬ存ぜぬで通ると思うなよ」スタスタ


(…あのような者が、王城で大きな顔をするようになるとは。王国もいよいよ救いがない)

(二人は、無事に脱出しただろうか…)

「…」

――戦士「父上が真の反逆者であったとは、今も信じていないんだ。きっと何かの間違いだ」

(そうであったなら、どれだけ心が安らぐだろう。そう信じきれれば私も…)

(いや…あいつの言うことに賭けてみよう。そう決めたのだ。)

(考えろ。父上を陥れて一番得をする人物………)

(父上を一番大きな障害に感じていたのは、国王陛下であるはずだ。改革派の陛下にとって、父上は邪魔な存在であったはず…)

(しかし、どうにも釈然としない。なぜ陛下は狩り場で、我らにその身を守らせたのか)


440 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 01:04:02.66 bC6YCU4IO 327/1333


(近衛隊や弓使いの殺意は本物だった。あれは父上の反逆を確実なものにするために張り巡らせた策略だったのか?)

(現に、陛下は襲撃を予期していた。…とは言えあのやり方は危険すぎる。しかも、その警護をなぜ…)

――戦士「狩り場でお供をした陛下からも」

(お前は、陛下が信用に値すると言っていたっけな…)

(………まさか)

(まさか、陛下は我らを守るために…? 反逆の罪から我らを救うために、わざとあのタイミングで呼び寄せたのか…!?)

(それが事実だとすれば、あの日陛下の暗殺を目論んでいた人物は)

――近衛長「女神よ、我らに加護をっ!!」

(………そうだ。仮に、父上が軍を率いていたとすれば…それを、十字聖騎士団ごときが撃破できるはずがない!)

「なぜ、もっと早く気付かなかったんだ…!」


ガタ…

「…! しかし!」

「良いと言っているのです。扉を開けなさい」

「はっ…」

(…今度は誰だ?)

ギィ…

「! じょ…」

「女王陛下!?」


女王「久しぶりだのう。最後に会ったのは宮殿での茶会であったか?」

女王「--少し、そなたと話がしたい」





442 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 09:49:05.43 bC6YCU4IO 328/1333


商人「荷降ろしはまだ済まないのか」

強面「へ、へえ。ほぼ済んだんですが…」

商人「なんだ?」


御者「すいません! すいません!!」

三下「ボケが、謝って済むかこのヌケサク!!」

商人「何事だ」

三下「しゃ、社長! い、いえこの阿呆が。とんでもねぇ失態をやらかしたもんでして!」

商人「…簡潔に話せ」

三下「は、はい! 荷馬車をその、ひとつ間違えて引いてきちまって…穴の空いたボロの、別の荷が入った物でした…っ!」

商人「なんだと? …これか」

御者「お、お許しをぉ…!」

商人(なんだい、これは? 見た目は我が社の荷馬車その物だが…どこか奇妙だ)

商人「出発の際の二重確認は?」

三下「はっ、そ、その時はしっかりやった筈なんですが…」

商人「………イヤな臭いがするね。頭の良い女の臭いだ」

商人「何者かが潜り込んだやもしれん。運び込んだ商品の警戒を強めろ」

強面「へ、へい! …向こうには伝えますかい?」

商人「交渉の前にこちらが下に見られる情報を伝えてどうするんだい。商品さえ無事なら後はどうなろうと知ったことではない」

強面「へい!」

タタタタ…


女勇者「…ふう、行ったか。流石に切れ者という感じだな、あの女社長」コソ…

戦士「間違いありません、あの女です」

女勇者「やはりな。ま、自分達の荷以外には興味が無いようで何よりだ。ラッキーだったよ」

戦士「…本当ですね」


443 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 09:53:49.94 bC6YCU4IO 329/1333


女勇者「さて、と。ここはどこだ?」

戦士「随分と長い距離を移動してきましたが…気温が低いですね。かなり揺れましたし、山岳地帯の方へ移動したんでしょうか」

女勇者「そんな田舎に武器商会が何の用で…ん?」

戦士「どうかしましたか?」

女勇者「何か、歌が聞こえないか?」

戦士「確かに…これは…」

戦士「………聖歌?」

女勇者「おい、あそこ…あの建物、聖堂か!?」

戦士「こ、この荘厳な大聖堂、間違いありません!」

戦士「ここは、女神教会の総本山…教皇領です!!」

女勇者「武器商会が、教皇領に!? 女神教会は確か…陛下の主張に同調して、軍縮を訴えていたはず…」

戦士「! 誰か来ますっ!」

ガシャガシャガシャ…

十字聖騎士Ⅰ「異常なしか。ん、ここは…武器商会の連中の荷馬車」

十字聖騎士Ⅱ「…まったく無駄に豪奢な荷馬車でありますな。たかだか積み荷を運ぶ物をなぜこれだけ飾り立てる必要があるのか」

十字聖騎士Ⅰ「虚勢さ。自分達にはこれだけ力があるという事を示して、我らに舐められまいとしているのだ」

十字聖騎士Ⅰ「まあ…この先も顔を出すことは増えるだろう。変に毛嫌いせず、愛想良くしておいた方が我々のためかもしれぬな」

ガシャガシャガシャ…


445 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 09:57:09.98 bC6YCU4IO 330/1333



戦士「…どういう事だ!? 十字聖騎士が武器商会を黙認しているなんて」

女勇者「………」

女勇者「藪をつついたら蛇が出た、とはこのことだな」

女勇者(女神教会め…ここまで政に深く関わっているとはな)

女勇者「潜入出来る箇所を探そう。商人の取り引き内容を確認するぞ」

戦士「は、はい」




「こちらでお待ちください」

商人「…ふん」

商人(呼びつけておいて、勿体ぶった態度だね。女神に仕える方々はお忙しくあらせられるってかい?)

商人(ここまで来て下々の者と少しでも上であろうって言うのか? 面倒なことだ。ま、あたしはやりたい様にするだけだがね)

商人「冷えきった外から連れた客人に、暖かい茶の一杯も出ないとは、女神様は作法には疎いのかい?」

「…し、失礼しました。すぐお持ちします」

強面(さ、流石社長。天下の教皇様の懐だってのに、全く気圧されねぇ…)


446 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 09:59:06.98 bC6YCU4IO 331/1333


ヒュゥウウ…

女勇者「よっ。ほっと」ヒョイヒョイ

戦士「ぜえ、はあ…」

女勇者「どうした、随分息が荒いな」

戦士(こ、こんな断崖絶壁を岩から岩へと移動すれば、息も上がるぞ普通)

女勇者「おっ、あそこから大聖堂に飛び移れるぞ」

戦士「あ、あそこを? それは飛び移るというよりは落ちると言うのでは…」

女勇者「それっ」ピョーン

戦士「!」

女勇者「おっとと」スタッ

女勇者「おーい、お前も早く来い!」

戦士「ハ…ハハ…」

戦士(兄上、不肖の弟、これにて最後を迎えるかもしれません)

女勇者「はーやーくー」

戦士「…ええい、ままよ!」バッ


448 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 10:04:04.10 bC6YCU4IO 332/1333


女勇者「…おっ、どうやら当たりを引いたな。見ろ、商人だ。こんなバカ広い聖堂を貸し切って密談とは、豪勢なものだな」

戦士「…ひゅー…ひゅー」

女勇者「天窓から侵入するぞ。この造りなら、距離が離れていても声は響いてくるだろう」

戦士「…あ、あい…」





大僧正「おやおや、お待たせてしまいましたかな。これは失礼」

商人「…我ら商いに生きる者にとって、時間は生命だ。女神様に仕え、心穏やかに日々を享受している貴殿らとは時の流れ方が違う」

大僧正「以後、肝に命じておきましょう」

商人(…タヌキめ、こちらの態度は面白くないだろうに、おくびにも出さんとは。腹の探り合いは無駄か)

商人「率直に聞こう。何故、クーデターを潰した?」

商人「貴殿と私、そして大将軍の同意の元のあの合戦であったのではなかったのか? 聞かされていた話とはまた随分と違った結末だ」

商人「これは教会の裏切りと見なされても文句は言えぬぞ」


449 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 10:47:22.86 bC6YCU4IO 333/1333


女勇者(どういうことだ? 大将軍が取り押さえられたのは、武器商会の本意ではなかったのか?)

戦士(…武器紹介は、本気でクーデターを完遂させるつもりでいた…?)


大僧正「我々が裏切った等と、とんでもない事です。事実はその逆、我々は裏切り者を糾弾したに過ぎません」

商人「…大将軍が、裏切ったとでも?」

大僧正「ええ、その通りです」

大僧正「当初、我らの狙いは現国王を廃し、王兄様のご子息を王座に据えることで、強い王国の復活を図ることでした」

大僧正「そうすることで、軍備の拡大は進み、武器商会の方々も利益を得て、我々は魔王軍から女神の聖なる地であるこの教皇領を守ることが出来る」

大僧正「ですが、事を起こす直前になって状況は変わったのです。………お入りください」

ギィ…

副官「…」

商人(! この男、大将軍の)

大僧正「彼の口から直接聞く方がよいでしょう。さ、お話になってください」

副官「…はい。大将軍様は、陛下を倒したのちに王室を廃し、自らが政権を握るつもりでおられました」

商人「!?」

副官「王兄様の息子を王位に据えても、王兄様ご本人のような求心力はもう望めないと…時折もらしておりました」



戦士(な、何を言っている…あの男はっ…!)

戦士(父上が自ら政治の主導を握ろうなどということが…そんなことを言うわけがあるか!)

戦士(なぜ、こんな馬鹿げたことが、父上の腹心であったあの男の口から並べ立てられる…!?)

女勇者「…」


450 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 10:48:43.50 bC6YCU4IO 334/1333


大僧正「聞いての通りです」

大僧正「彼が我々に知らせてくれなければ、大将軍は暴走をし、王国を大混乱に陥れるところでした。すんでのところで、我々は道を外さずに済んだのですよ」

商人「………」

商人「下らぬ芝居はそこまでにせよ」

大僧正「なんですって?」

商人「そのような詭弁で、この私を言いくるめられると思うてか。すべては教会が実権を握るための策略であろう」

商人「今回の一件で王国軍部はほぼ無力化された。その為に駆り出されているのが教会お抱えの十字聖騎士団だ。王家を助けた、という既成事実を盾に今や軍部もその手に握っているというわけだ」

商人「そうして我らを呼びつけ、今度は教会自らが、主導者を失った軍部を抑えつけるだけの力を手にしようというわけだな」

大僧正「…」

商人「大将軍が、そこまで愚かな男であったとは思わぬ。王室を廃して維持できる王国などありはしない」

商人「あの男はそれだけの思慮はある男だったはずだ…が、部下に裏切られるとはな。憐れだ」

副官「………」



戦士(何故だ。何故)

戦士(――副官が父上をそしり、あの女が父上の肩を持っている)


451 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 10:50:15.43 bC6YCU4IO 335/1333


商人「家族を人質にでも取られたか? だが、この場でその命を落とすことはあるまい?」チャキ…

商人「真実を言え!」

副官「…」

商人(こいつ、眉ひとつ動かさないとは…)

大僧正「………商人殿はなかなかに面白いことをおっしゃる」

大僧正「しかし、何処にも証拠などありはしない。そうでしょう?」

大僧正「動かぬ生き証人である彼がこのように言っているのです。それを、我々が捻じ曲げて推測することは、簡単なことですよ。違いますか?」

商人「ふん、犯罪者はみなそう言うのだ」

大僧正「人聞きの悪いことをおっしゃらないで頂きたい。相手を貶めることは、お互いの為になりますまい。新たな契約を前にしているのであれば尚のこと」

商人「何だと?」

大僧正「過ぎたことをいつまでも掘り返しているよりは、新たな道を共に歩みましょう、と言っているのです」

大僧正「商売人である貴女を呼んでおいて、なんの商談もなく返すほど、我らも世間知らずではありません」

商人「回りくどい言い方だな。話があるならとっととするがいい」

大僧正「…近々、魔王の配下による襲撃が行われます」

商人「!?」

大僧正「我々はそれに備えたいのです。そして、そのためには大きな武力が必要、という訳です」


452 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 11:43:45.88 bC6YCU4IO 336/1333


商人「要領を得ないな。何故、魔王の動向なんてものが読める」

大僧正「読めるのではありませんよ。そうするようにしむけるのです」

商人「! まさか…」

大僧正「近々、王国建国の儀式が執り行われます。年に一度、栄光ある王国の繁栄を願う大きな祭り」

大僧正「国王陛下は、この儀式でこの地に大いなる安寧を世にもたらそうと意気込んでおられます。なんと、魔王の配下を祭りに招き、魔族との和平を訴えようと言うのです」

大僧正「誠に素晴らしい心意気、実現すればこんなにも素晴らしいことはありませんが…」

商人(………)

大僧正「魔族に恐怖を抱いた一部の兵士が、魔族に攻撃をしかけてしまっても…それもまた、致し方ないことでしょうなぁ」



戦士(な、なんだ…こいつらは、一体何の話をしている?)

女勇者「…ゲスが」



大僧正「魔族は当然応戦するでしょう。しかし人々の目には、“建国の儀式に招かれた魔族が、突如人間に牙を剥いた”…という風に映る」

大僧正「客人として招いている以上、敵の攻撃は王国の只中で起こるでしょう。それは、国王陛下の喉元にも届きかねない危険な刃だ。当然、人々の命も危険にさらされる」

商人「…そして、人の世は軍拡の風潮を強める。最早、国王陛下の手には負えぬほど」

大僧正「お察しの通りです。我々は、その風を受けて十字聖騎士団を中心に王国軍の強化に乗り出します」

商人「なるほどな…。それが女神教会の描いた絵というわけか」

大僧正「取引を、受けて頂けますかな?」

商人「断れば、外に控えている聖騎士がなだれ込んで来て、あたしは斬り殺すってわけかい?」

大僧正「…」ニコ…


453 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 11:44:58.23 bC6YCU4IO 337/1333


商人「いつの間に教会ってのは、ここまで血なまぐさい場所になっちまったのかねえ」

商人「…ひとつ、聞かせな。そんなことをしたら魔王軍との戦争をおっ始めるも同じこと」

商人「聞けば、あちらには新たな魔王が誕生したというが、こちらにはまだ神託を受けた新たな勇者が現れていない」

商人「その戦いに勝ちが望めると思うのかい?」

大僧正「おやおや、貴女ともあろう方が勇者の伝説を真に受けていらっしゃるのですか?」

商人「何?」

大僧正「何のために、あの男を使って研究を進めているのです?」

商人「!」

商人(………何故この男が魔導砲のことを知っている)

大僧正「驚くことはありますまい。あの男のもたらす知識は、我らが蓄えている知識に他なりませんから」

商人「き…貴様らは一体………!」



女勇者(まさか、教会はあの研究を…)

戦士「女勇者様」

女勇者「ん?」

戦士「お許しください。これ以上は黙って見ていられません」

女勇者「え? あ、おい、ちょっと待て」

戦士「っ」タッ



スターンッ!



商人大僧正「!」

戦士「そこまでだ!! 王国に巣食う闇め!!」

戦士「これ以上のたくらみごとは私が許さん!! すべてを白日の元にさらすがいい!!」


454 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 12:06:07.50 bC6YCU4IO 338/1333


商人(あれは…あの時の若造か)

大僧正「くせものだ」パチン

バタン! ダダダダダダ…

女勇者(あーあー。やってくれたな戦士よ。…それにしても、出てくる出てくる。こんな数の聖騎士が待機していたとは)

大僧正「誰かと思えば、裏切り者の息子ですか。せっかく永らえた命、大事にしてにしていればいいものを」

戦士「黙れ!! 女神に仕える身でありながら俗世にまみれ、政に関わった挙句、王国を混乱に陥れんとしたその罪、死よりも重いぞ!!」

大僧正「何を言うのやら。王国を混乱せしめたのはお前の父でしょう」

戦士「父上はそんな愚かなことはしないっ!!」

大僧正「…お話になりませんね。もう少し、大人だと思っていたのですが」

戦士「私は戦士だ。剣を授かった時から一人前と認められている。己の命を賭して誠心誠意勝負をすることを魂に刻んでいる」

戦士「陰に潜み、高みから謀をめぐらすだけの腑抜けを、私は王国民としての責務を果たすひとりの成人として認めない!」

大僧正「…何を」

商人「はっはっは! 面白い! 大僧正殿、ひきつっているぞ。こういう奴は苦手か」

商人「何も出来ぬ若造だと思っていたけどね。ここまで来るとはやるじゃないか」カチャ…

戦士(! 小銃を…卑怯な)

商人「口だけじゃないって所を、見せてみな」

戦士「望むところ!」ダッ

商人(前に出るか、いい度胸だ!)ズドン!!


455 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 12:08:03.66 bC6YCU4IO 339/1333


戦士の背後の聖騎士「はぐッ」ドシュッ

戦士(! 後ろから斬ろうとしたのか!?)

商人「こいつらに騎士道なんてモノはないぞ。次は射殺しにかかってくるかもしれん。気を抜くな」

戦士「…何のつもりだ」

商人「お前にそれを教える義理はない。せいぜい暴れまわるがいい」

大僧正「…商人殿。賢い貴女なら我らを敵に回すことがどういうことか、理解していると思っていたのですが」

商人「その言葉、そのままそちらに返そう!」

商人「我らに見せぬ手の内を持って、我らを意のままに操ろうという傲慢さを、教会が持っていることはよく分かった!」

商人「我々武器紹介は何処にも属さぬ! 我らの道は我らが己で選ぶ!!」


456 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 12:29:14.88 bC6YCU4IO 340/1333


商人「この女神教会に大僧正殿に組する者がどれだけいるのか? 純粋に女神だけを信ずる教徒たちにこの騒動を知られれば、隠蔽するのも一苦労だろうな?」

大僧正「…」

商人「これ以上、騒ぎにされたくなければ貴様らの手の内を我らにさらすのだな!」

戦士「ふざけるな、貴様らの交渉の手助けをするつもりなど毛頭ない!」

商人「まあそういうな。お前にもひとりでこの囲みを突破できる自信はあるまい。力を貸せ…!?」フワ…

商人(この香の匂いはなんだ…!? 女モノだぞ。なぜ冷気にのって…)チラ

女勇者(おっ、気づいたな。我らはあの扉より脱出する、援護せよ)チョイチョイ

商人(………なんだ、あの天窓のところにいる奴は)

――「イヤな臭いがするね。頭の良い女の臭いだ」

商人(そういうことか。この単細胞がひとりでここまでたどり着けるわけがないと思ったが)

女勇者『借りは、返す。合図する。5、4、3…』

商人(念話まで使うのか。何者だ…? チッ、まあいい。恩を売っておいてやる)

商人「女との取り引きは、しないタチなんだがね」

戦士「何?」

女勇者『戦士、前方の扉へ駆け抜けろ! 教会の闇を暴く!』

戦士(! お、女勇者様! よし)

商人「行けえ!!」

パンパンッ!!

扉の前の騎士「うがッ」ドサッ…

女勇者「駆け抜けるぞ、戦士!」

戦士「応!」


457 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 12:31:11.64 bC6YCU4IO 341/1333


大僧正「…あの女、だれかと思えば十五年前の英雄様ですか。引退した化石が、出張ってくるとは」

ワー ワー

強面「このクソ鉄仮面ども! 姐さんをどうする気だぁ!!」

商人「さあて、どうするんだ大僧正殿? ウチの連中は短気でねぇ。ああやって暴れだしちまったら、あたしが号令をかけるか死ぬまで止まらないよ」

大僧正「くっくっく。愚かな。足掻いたところで何も変わりはしないのに」

商人「…何?」

大僧正「いいでしょう、見せて差し上げます。この女神教会の神秘を」

大僧正「人智を超えた、奇跡を。そして痛感するのです」

大僧正「――己が無力を」




458 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 12:32:24.20 bC6YCU4IO 342/1333


戦士「ぜっ!」ブォン

「がはぁ!?」

女勇者「ふっ」ヒュン

「ぐえっ!」

戦士「女勇者様! 何処へ向かうのですか!?」

女勇者「あー、えーっとね、それはホラ、あのー…」

女勇者(しまったなー。この頑固者を動かすためにああ言ったが、ぶっちゃけ特にアテがあるわけじゃなかったりして)

戦士「女勇者様、このままでは!!」

女勇者「あーもうウルサイな! お前もちょっとは考えろっつーの!」

戦士「また考え無しですか!?」

女勇者「じゃかあしいわい! お前に言われたくねーわ!!」

女性「あなたたち…!」ザッ

戦士「!?」

女性「こちらへ! ついてきて!」

女勇者(…なんだ? 見たところ僧侶の出で立ちだが…)

僧侶(女性)「早く、急いで!」

戦士「しかし、そちらは教会の…」

女勇者「イヤ、面白い。ついてってみよう」

戦士「…女勇者様? 何か考えが?」

女勇者「無論、そんなものは無い」

戦士「…」ハァ


459 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 14:20:56.00 bC6YCU4IO 343/1333


戦士「ここは…」

女勇者「十字聖騎士団の、兵舎か?」

僧侶「今は、ここの部屋の方は全員大聖堂の方へ出払ってるわ。この甲冑を身につけて!」

僧侶「聖騎士に紛れれば、姿を眩ませられるわ」

戦士「ちょっと待て。教会の人間であるあなたが、なぜ我々に協力するんだ?」

僧侶「………それは」

女勇者(身なりからして、それなりに地位のある僧侶だな。しかし、見たことの無い聖衣を着ている)

僧侶「…大聖堂でのやりとり、全てではないけど私も聞いていたの」

女勇者「あれをか? どうやって?」

僧侶「そういう力が、私にはあるの。…貴女は、教会の闇を暴く、と言ったわよね」

女勇者(念話を、傍受したのか!? そんな技は聞いたことがないぞ)

僧侶「私は、女神教の純粋な教徒。だけど…近頃、教会上層部があやしい動きを見せているのには気づいていたわ」

僧侶「いえ、本当はずいぶん前から…」

戦士「…」

僧侶「教会が間違いを犯そうとしているのなら、それを防ぎたいの。これ以上指を加えて見ている傍観者ではありたくない」

僧侶「女神教会が、今どんな暗闇を抱えているのか、知りたい。お願いです。力にならせてください」


460 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 14:23:48.84 bC6YCU4IO 344/1333


女勇者(ふむ。さて、どうしたものか)

戦士「…」ガシャ…ガシャン

女勇者「お、おい戦士。もう着込んでいるのか? これが罠ってことも…」

戦士「この女性についていくと行ったのは女勇者様じゃないですか。それに、この短時間にそこまで手の込んだ罠は誰も張らないでしょう」

戦士「俺は、このひとを信じます」ガシャ…

女勇者「…やれやれ」

女勇者「しょうがないな。ウチのイノシシ男がそう言ってるんでね、あなたの案に乗らせて貰うよ」

僧侶「…!」パア

戦士「誰がイノシシですかっ、誰が!」

女勇者「そういう所は憎らしいほど親父殿にそっくりなんだよ、お前。よく言われるだろう?」

戦士「ま、まあ言われてみれば、そうかな…?」

女勇者「おっ、なんだなんだ? 顔を赤くしちゃってっ! 照れてるのか?」

女勇者「デュフフ、親子モノかあ、妄想が捗るわい」

戦士「…な、何の話です?」


僧侶「! 二人とも、あれを見て!」

戦士「ん…?」


副官「…」フラ…


461 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 14:26:02.23 bC6YCU4IO 345/1333


戦士「あの男…!」

僧侶「最近よく、ここで姿を見かけるの。でも、様子がおかしくて…気になっていた」

僧侶「心が閉じている。いえ…何かに、心を支配されているみたい」

女勇者「ふむ。副官が今回の件の鍵を握っているのは間違いなさそうだ。商人も言っていたが、彼が語ったことが真実とは考えにくい…」

戦士「では、そのように言わされていた?」

僧侶「…彼の後をつけましょう。あなたたち二人を巡回の供に連れているという事にして、動くわ」

戦士「分かった」

女勇者「うー、汗臭い甲冑だな」

僧侶「行くわよ」



副官「…」フラ…

女勇者(どんどん人気の無い所に行くな…)

僧侶(こっちは…では、やはり)

バタバタバタ…

十字聖騎士Ⅲ「僧侶様! こんな所にいらしたのですか!」

僧侶「あ、はい。ご苦労様です。何やら、事件があったようですね」

十字聖騎士Ⅲ「どうやら、賊が侵入したようなのです。僧侶様の身に何かあっては一大事だ、お部屋にお戻りになって下さい」

女勇者(僧侶様…か)

僧侶「そうですね。ですが、こちらの方々が護衛を引き受けて下さったので、大丈夫です」

十字聖騎士Ⅲ「はあ…しかし、この先には″虚無の塔″しかありませんが」

僧侶「…このような時にこそ、あそこで祈りを捧げたいのです」

十字聖騎士Ⅲ「そう、ですか。いや、差し出がましいことを言ってすみませんでした。道中、お気をつけて!」

僧侶「ありがとうございます」


462 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 14:27:39.37 bC6YCU4IO 346/1333


女勇者「なあ、あなたは何者なんだ」

女勇者「こうなった以上は一蓮托生の身だ。身分くらいは明かしてくれても良いと思うのだが」

僧侶「…貴女は、十五年前に魔王を倒した女勇者さんね。そして、貴方は先日反逆者として処刑された大将軍の末の息子さん」

戦士「っ! 知っていたのか」

僧侶「知っていた、というよりは分かったのよ。貴方たちの目を見ているうちに、その生きてきた道が、透けて見える」

僧侶「子供の頃からそう言うことがよくあったの。女神様に与えられた特殊な力だと気づくには、少し時間がかかったけれど」

女勇者(神通力、か…。教会には超常の力をもった人間がいると聞いていたが、本当に…)

僧侶「女神教会は、この力を持った私を特別な待遇で迎えてくれたわ。それ以来、私は教会のために尽力してきた。けど…」

僧侶「女神教会には、いつもモヤがかかっているようだった。教徒としての使命を果たすこととは別の、何かの目的を持っているかのように感じられたわ」

戦士「何かの目的?」

僧侶「ええ。それはいつも巧妙にカモフラージュされていて、私の力を以てしても垣間見ることは叶わなかった」

僧侶「私はいつも………待って、着くわ」


虚無の塔

副官「…」フラ…



463 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 14:28:53.54 bC6YCU4IO 347/1333


僧侶「やはり、入っていくわね」

女勇者「やはり? ある程度目星はついていたということか?」

僧侶「ええ。ちょっと待って」カランカラン…

戦士「なんだ? その鐘の音は」

聖騎士?「へいへい、お呼びですかお姫様、っと」

戦士(! コイツ、いま何処から現れた…!? 気配が感じ取れなかったぞ)

僧侶「私は、お姫様なんかじゃないのだけど」

聖騎士?「や、呼び方は個人的な気分の問題だ。気にしないでくれよ。…お? 高貴な女性の香りが致しますな」

女勇者(高貴な女性?)ピクッ

僧侶「よく鼻が効くわね…」ハァ

女勇者「僧侶殿、この御仁は?」

僧侶「ああ、そうね。彼も仲間よ」

聖騎士?「えっ、俺って僧侶ちゃんの仲間だったの? 言っとくけどなあ、俺はただ…」

僧侶「″教会のお宝をかっさらいに来ただけ″、でしょ?」

僧侶「――盗賊さん」


盗賊(聖騎士?)「そうそう…ってバラしちゃうのかよ!?」


464 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 16:48:53.44 bC6YCU4IO 348/1333


戦士「盗賊…だと!?」

戦士「貴様! 辺境を通る王国の荷を狙って荒らし回ってる盗賊団の首領か!?」

盗賊「うぉっ!? お、おいおい軍人さんか!? ちょっと僧侶ちゃんヤバいってコレ!」

戦士「こんな所まで紛れ込むとは、肝だけは据わっているようだな…!」スラ…

女勇者「よせ、イノシシ男」

戦士「しかし、女勇者様! この男は重罪人の!!」

女勇者「重罪人と言うのであれば、もはや私もそうだぞ。クーデターの重要参考人の誘拐、教皇領大聖堂への不法侵入、鎧の窃盗…」

女勇者「ちなみにうち幾つかはお前も当てはまっている」

戦士「ぐむっ…。しかし、この者は王国の重要な荷を積んだ隊商ばかり狙う極悪人です! そのためにどれだけの被害が出ているか…!」

盗賊「…参ったねえ、こりゃ。俺も有名になったもんだわ」

戦士「何を暢気な!」

僧侶「止めませんか、仲間割れは」

戦士「仲間!? こんな男と誰が…」

女勇者「いい加減にしろ!」

女勇者「私たちの目的を忘れたのか? お前は何のためにここにいる? コソドロを捕まえるためか? 違うだろう!」

戦士「…!」

盗賊「こ、コソドロ…」

女勇者「お前に兄のような駆け引き上手になれとは言わない。だが、己が一番に何を成すべきか…それは忘れるな」

戦士「………っ。はい」チャキ…

盗賊(ひえ~、おっかねえ連中だな)


465 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 16:57:17.92 bC6YCU4IO 349/1333


僧侶「それじゃあ、改めて。こちらは盗賊さん。ここ教皇領に忍び込んでいた所を私が見つけたんだけど、ある取り引きをして色々と協力をして貰ってるの」

盗賊「条件は忘れてないだろーな、僧侶ちゃん?」

僧侶「勿論。こちらは、女勇者さんと戦士さん」

女勇者「宜しく頼む」

戦士「…」

盗賊「そうですかぁ、こちらの美人なお姉さんは女勇者さんって言うんでs…」

盗賊「って、ぇえ!? 女勇者ぁ!? って、あの伝説の!?」

僧侶「そうよ」

盗賊(どうりで並の迫力じゃねーと思ったぜ。しかも戦士って言えば、王国軍の鬼って言われてる武人じゃねえかよ)

盗賊「ずいぶんと有名人が集まったもんだねぇ、こりゃ。アンタらみたいのが、こんな所に何の用だい?」

女勇者「話すと長いんだ、勘弁してくれ。それとも、そちらも僧侶殿との条件とやらをここで話す気があるのか?」

戦士「…」ギロ

盗賊「い、いやァまあ行きずりの関係だし、お互い深入りはしないでおこう」

女勇者「それが懸命かもな」

僧侶「行きずりの関係だなんて、そんな。仲間よ?」

盗賊「あのなあ、僧侶ちゃん…」


466 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 16:58:51.21 bC6YCU4IO 350/1333


僧侶「私、憧れてたの。歴史に出てくる、勇者一行ってものに!」

僧侶「確か、あった筈だわ。歴代の魔王を倒した勇者一行に、女勇者・戦士・僧侶・盗賊のパーティが!」

盗賊「勇者一行…つっても、俺らが向かう先は魔王城じゃなくて、女神様の総本山の懐だぜ」

戦士(…そもそも、″仲間″というにはあまりにお互いの目的が違いすぎる)

女勇者「そう、だな。それに、あなたには分かってるんじゃないのか?」

女勇者「私はとっくに、女神の加護を失っている」

僧侶「…そう、か。そうよね。ごめんなさい、無神経だった」

女勇者「いや、気にしていないさ。それより、いつまでもこんな所で話し込んでるわけにもいくまい?」

戦士「そうだ。副官はこの塔の中に消えた。後を追うんだろう?」

僧侶「ええ、そうね。中に入りましょう」


467 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 17:01:01.22 bC6YCU4IO 351/1333


虚無の塔 内部

シーン…

戦士(なんだ? いやに静かだ。礼拝堂のような造りになっているが…)

女勇者「ずいぶん、がらんとしているな。人の気配がない。副官は何処に消えた?」

僧侶「ここは、魔神の力が封じられし場所として普段は立ち入りが禁じられているわ。特別、災厄の前触れが訪れた時にだけ、それを沈めるための儀式を執り行うところ」

僧侶「けれど、ここに人が近づけないことに別の理由があるのではないかと、調べてもらっていたの。…盗賊さん」

盗賊「はいよ。どうやら日に数人の教徒が出入りしてるぜ。しかも真夜中にコソコソと隠れるようにな。そんでもって、この秘密の通路から…」ガコッ

ズズズ… ドスン

盗賊「地下へと消えていくってワケよ」

戦士「!」

女勇者「…」

僧侶「地下には、入ったの?」

盗賊「ああ、中は特別見張りがいるわけじゃないぜ。ただ、下はそれなりに広くって、研究室みたいな所には人もいる」

戦士「研究…?」

僧侶「他に何か見たかしら?」

盗賊「………ああ。でも、アレは…」

盗賊「口で説明するより、見た方がはえーよ、多分な」

僧侶「…分かったわ。では、行きましょうか。盗賊さん、先導をお願いできる?」

盗賊「いいぜ。ああ、それと…」

盗賊「あんたらが来る前、エラソーな格好の坊さんと、殺気ムンムンの女が入ってった。ありゃ、武器商会の人間だな」

戦士「! 大僧正と、商人か…!」

女勇者「…いよいよ核心っていう所まで来たみたいだな。この先、想像を絶するような現実が待っているかもしれないぞ、戦士」

戦士「…」

女勇者「覚悟を決めておけ」

戦士「はい」


469 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 18:34:28.49 bC6YCU4IO 352/1333


盗賊「こっちだ」

女勇者「通路は狭いが、かなり歩くな。確かにずいぶん広いみたいだが」

戦士「貴様、何処へ向かっている? 副官の…あの男の行く先が分かっているのか?」

盗賊「確実に分かるってワケじゃあないが、向かう場所がそう多くないって事くらいは、突き止めてるぜ」

盗賊「さて、と…」

僧侶「! 扉…。何か光が漏れてるわね」

盗賊「少々ショッキングな光景がこの先広がっているが…大声なんか上げないでくれよ。とくに僧侶ちゃん」

僧侶「わ、分かってるわよっ」

盗賊「そんじゃあ、入るぜ」

女勇者「ああ」

ギィ………

戦士「!!」

僧侶「うっ…!?」

女勇者「こ、これは…」

ゴポ… ゴポ…

盗賊「………人間、らしいな」

戦士「ど、どういうことだ…。…人間が…生えてきてる…?」

女勇者(………水槽に液体が貯められ…そこで人間のような生物が、まるで植物のように地面から生えている…!)

僧侶「っ…!!」

盗賊「皮膚が出来あがらない内から、内臓が出来上がっちまってる。まるで見た目は獣に食い破られたみてえだが」

盗賊「その逆だ。コイツらは、ゆっくりと成長して自分を形造ってる最中さ」


470 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 18:38:14.72 bC6YCU4IO 353/1333


僧侶「ど…どういうこと…!?」

盗賊「どうやら、人間を人の手で生み出してるみたいだな。ここはその実験場ってところか」

女勇者(こんな技を…何のために…)

戦士「そんなことが、可能なのか!?」

盗賊「現実、目の前で行われている。こっちを見てみな。恐らく成功例だろう。だいぶ人間らしい形になっている」

女勇者「…既に、完成した人間がいるのか?」

盗賊「さあ、そこまでは知らねーよ。盗み聞いた会話で分かったのは、奴ら曰く″実験は順調″ってことくらいだ」

僧侶「馬鹿な…っ! こんな事は生命への冒涜よ!! 侵してはならない禁忌に他ならない!!」

盗賊「おい、だから言ったろ、興奮すんなって。…気持ちは、分かるけどよ」

僧侶「…こんなに…こんなに深い闇を抱えていたなんて。大僧正様は…教皇様は、いったい何のおつもりで…!」

戦士「…ここに文字が書かれてる。番号0七四号。魔力値推定Aマイナス。合格基準クリア」

戦士「魔力の高い人間を産み出そうとしているのか?」

女勇者「かもしれないな。魔力は人間の場合、平均的に女の方が高い事が多い。見たところ、造られているものの性別はすべて女だ」

僧侶「――それが命を弄っていい理由にはならない」

僧侶「止めさせなければ。こんな事は」


471 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 18:40:13.30 bC6YCU4IO 354/1333


戦士(魔力の高い人間を生み出す…それにどんな意味がある?)

戦士(人間兵器にするつもりか。それとも別の何かの…。おぞましい。果たして、こうして生まれた者が人間と言えるのか)

盗賊「望んでいようが、そうでなかろうが、コイツらはこうして此処に生命を受ける」ボソ

戦士「!」

盗賊「どんな人生が待ち受けていようと、それを必死に生きようとするだろう。あんたたち王国の人間は、コイツらをひとりの国民として迎え入れてやれるか?」

戦士(ひとりの、王国民として…この者たちを?)

盗賊「俺には、悪いけど期待できねーよ。使うだけ使って、用が済んだらポイ、だろう? 辺境の植民地にそうしたように」

戦士「なんだと?」

盗賊「武力で王国を栄えさせた前国王は、そりゃああんたらにとっちゃ良い王様だったんだろうさ。けどな、俺たち辺境の諸部族にとっちゃ…悪魔そのものだった」

盗賊「魔王も国王も、対して代わりはしない。理由もなく侵略し、俺たちから全てを奪い去っていった」

戦士「それは…人類の力をひとつにまとめて魔族に対抗するためで!」

盗賊「まとめる? 笑わせんじゃねーよ」

盗賊「あんたらは、只、押さえつけただけだろーが。土地も人も奪って、宗教すら自由を禁じた」

戦士「………」

盗賊「俺は、コイツらを救ってみせるぜ。自由な人生を歩ませてみせる。こんな所で、奴隷みたいに人生を終わらせるなんて事を…させてたまるかよ」

戦士「………」

女勇者(ふむ…。戦士にとっては、良い出会いかも知れないな)


472 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 18:42:36.07 bC6YCU4IO 355/1333


女勇者(で、出来ればもうちょっと取っ組み合ったりして、組んず解れつ…デュフフ)

僧侶「…進みましょう」

女勇者「え、あ、ウン。そうね」

僧侶「これが教会の抱えた秘密の全てであるようには思えません。真実を、手にしなければ」

盗賊「あのボンヤリ野郎は、この先の研究室にいると思うぜ。教会の連中も多少なりとも居るハズだ。バレずにコッソリ、とは行かなくなるかもしれねーな」

戦士「声を上げる暇もなく倒せば良いだけのことだろう」チャキ…

盗賊「あらそ。じゃ、この先は武闘派にお任せってことで」

女勇者「そちらも相手に気づかれずここまで調べあげたんだ、それなりに使うんじゃないのか?」

盗賊「おっ、俺ってば強キャラ臭漂ってる? 嬉しいねえ!」

盗賊「でもま、適材適所ってもんがある。俺よりデキる連中の土俵には、出張らないさ」

戦士「せいぜい俺の刃圏に入らないように身を縮めていろ」

盗賊「へいへーい」

女勇者「では、行くぞ」

僧侶「…ええ」




473 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:29:06.00 bC6YCU4IO 356/1333


副官「…」ボー

僧正「ふう。なんとか無事に済んだわい」

聖騎士「魂移し…でしたか。なんとも恐ろしい技ですな。何でも、心を支配し自在に操れるとか」

僧正「別人の身体に乗り移るというのも、気持ちのいいもんじゃないぞ」

聖騎士「私はいち騎士ですから、そのような技を操るお気持ちは分かりかねますが」

僧正「なに、研究が大成すれば、魔法に心得のない者でも扱えるようになるであろう。…今回この男を使った術式については概ね成功したのだからな」

僧正「それよりも、早く始末してしまえ」

聖騎士「もう、宜しいのですね」

僧正「万が一にもこの男が外部の人間の手に渡っては面倒だ。一応、証拠としての役割は果たしたのだしな」

僧正「用済みだよ。大僧正様の許可も得ている」

聖騎士「では…」チャキ

副官「………」ボー

ガタ…

僧正「ん? 何の音だ――」

戦士「」ビュンッ

聖騎士「なっ!? 貴様は!!」

戦士「南無三!!」ズドッ


474 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:32:39.91 bC6YCU4IO 357/1333


聖騎士「う、ゲッ…」

ドサッ…

僧正「ちぃ、つけられていたか!?」

僧正「ぬぅ…」グォォオン…

戦士(! 妖術を使うつもりか)

僧侶「させないわ!」ォオ…!

僧正『き、貴様! 何故ここに!?』

僧侶『僧正様、あなたの操る術ではわたしは取り込めない!』

僧正『おのれ、教会の聖女たる者が教会を裏切るか!!』

僧侶『裏切りは、どちらだ!』

僧侶「今のうちに!」

戦士「ふッ!」ビュッ!

ズバンッ

僧正「ぐあッ…」ドタッ


475 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:38:49.29 bC6YCU4IO 358/1333


女勇者「…何とか、間に合ったようだな」

盗賊「お、おい、殺しちまったのか?」

戦士「妖しい術を使う以上、生きていればどのような害を及ぼして来るか見当もつかない」

女勇者「確かにな。それに、今こいつらの話していたことが本当なら…」

僧侶「…″心を支配し、操る術″を使っていた」

僧侶「そのような技が、実在するなんて…彼らの研究は一体、何を得るためのものなのか」


副官「………う、うぅ……」


僧侶「! だ、大丈夫ですか」

副官「…あ…ああ」

副官「私の、手…私の身体」

副官「声も………、そうか、戻ったのか…」

盗賊「…今度は本物、ってか?」

女勇者(だが、それを確かめる術はない…)


476 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:39:44.81 bC6YCU4IO 359/1333


戦士「…副官殿、なのか」

副官「!! あ、ああ…!」

副官「戦士殿…っ! 私は、何と言うことをしてしまったのか…!!」

副官「許して、くれ…! 許してくれぇ…!!」

戦士「…!」

僧侶「落ち着いて…。身体に触るわ。魂が身体から追い出されていたのならば、戻った直後は危険な状態よ」

僧侶「ゆっくり呼吸をするの…。大きく吸って、吐いて………。落ち着いたら、少しずつ、あったことを話して」

副官「………」

副官「…大将軍様は、王国を守ろうとしていらしたのだ…」

副官「…教会の十字聖騎士団が、近々反乱を企てるかもしれないと…話を聞いた大将軍様は、反乱を抑えうるだけの軍備を、整えようとなさって…」

女勇者「………っ」

副官「それを、私が…私の身体が! 勝手にクーデターを行う取引に利用して…!!」


副官「…あの日、暴走する私が率いる兵を、抑えようと駆けつけた大将軍様を…」


副官「教会は、反逆に仕立てあげた…っ!! 」



副官「………許してくれっ…!!」






戦士「………………」


477 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:40:56.05 bC6YCU4IO 360/1333


コンコン…

「お入りください」

女王「うむ」スタスタ

「丁度、茶を入れたところです。どうぞ」コト

女王「頂こう…」

「………」

「女王陛下、その、大丈夫なのですか。国王陛下の妃である貴女様が、私の部屋などに何度も…」

女王「心配せずとも、我が夫はこれしきの事で妬いたりはせぬよ」

「い、いえ。そういう意味ではなく」

女王「ほっほ。冗談じゃ。………女神教会に目をつけられるのではないか、ということじゃな」

「…はい」

女王「嘆かわしい事じゃ。彼奴らは、女神様に祈る時間を惜しんで政に精を出しておる」

(…)

女王「そなたは、どう思っておるのじゃ?」

「…どう、とは?」

女王「陛下の考えを、そなたには話して聞かせてきた。その上でどう思うのか、正直なところを聞いてみたくての」

女王「或いは教会が取って代わってみせた方が、この王国を良き方向へ導く…と考えたりはせぬか」

女王「遠慮はいらぬ。申してみよ」

「………私は」


478 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:42:22.74 bC6YCU4IO 361/1333


「国王陛下が進める改革は、確かに素晴らしいものだと思います。ですが…それだけではこの国を守れると思えません。しかし、教会にもまた、義がありません」

「力は必要です。力を持った上で、それを御した時にこそ、平和が保てると思っております」

女王「…陛下では力に乏しい。が、教会が力を握ってもそれを御するだけだの能力がない」

女王「そういう事か」

「はい…」

女王「…もしかすれば今まではそなたの父が、王国の圧倒的な力そのものとして、自らを押さえつけていたのかもしれぬな」

「…女王陛下は、本当に父上を逆賊とは思っていらっしゃらないのですね」

女王「思っておらぬよ。あやつは忠実な家臣であった。それ故に、陛下に勇み進言することもままあったが」

「ではやはり、あの日のことは…」

女王「確かなことは分かっておらぬ。鍵を握っている人物が行方を眩ませておってな。だが、そなたも読んでいた通り、恐らく女神教会が絡んでいるのだろう」

(女神教会の策略…。権威だけでは飽きたらず、権力までも握ろうと言うのか)

女王「分かっていながら、状況を覆すことが出来なかった。許せとは言わぬ」

「…そのような言葉を、女王陛下自らかけてくださることが…」

「慰みに、なっております」


479 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 19:43:40.58 bC6YCU4IO 362/1333


(しかし、教会の目的が果たされたとき、王国は…)

「…この国は、どうなってしまうのでしょうか」

女王「大将軍が力の番人として腰を据えていたからこそ、暴走することはなかった。その楔を失った今…王国はその力を持て余しておる」

女王「力に、引き摺られておるのじゃ」

女王「教会は…力に取り憑かれておる。人間には不相応なほど強大な力に」

「人間には不相応な力…? それは、王国の実権とはまた違うものなのですか?」

女王「うむ。もっと強大で、恐ろしいものよ」

「………それは、何ですか?」

女王「――例えばそれは、勇者であり、稀に姿を見せる聖女であったりする」

女王「女神様のご加護じゃよ。神秘の力そのものを意のままにしようとしておる」


480 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 20:11:32.91 bC6YCU4IO 363/1333


「女神教会は、女神様の力そのものを手にしようとしているのですか!?」

女王「それを可能にすれば、魔族に怯えて生きる必要がなくなる。天の気まぐれで現れる勇者を待つ必要がない」

「…にわかには、信じられません。そんなことが、本当に出来るのでしょうか」

女王「兄陛下の治世から、もう長い間その研究は秘密裏に行われてきた。…教会の頂点、教皇猊下の指導の元にな」

女王「″神秘の力を人の物とする″。それを現実にするために、兄陛下は協力を惜しまなかった。国の財産は湯水のごとく使われた」

「し、しかし当時はまだ魔王軍との戦も激しく行われていたはず。どこから資金源を得ていたというのです?」

女王「その為の、辺境諸国への進出よ。財政は地方から吸い上げておった」

女王「それに魔王軍との戦いでは、世に知られているほど王国軍は武勇を上げておらぬ。全ては、女勇者の…彼女の大いなる力により持っていたに過ぎぬ」

(そうか…それで今になって辺境の反発が噴出してきたわけだ。しかし…)

「本当に、その力を手にいれることが出来れば…。魔王軍との長い長い戦いの歴史に終止符を打つことが出来るかもしれない」

女王「………」


481 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 20:13:57.35 bC6YCU4IO 364/1333


女王「陛下は、よくおっしゃっていた。人は、神にはなれぬ。大きすぎる力は人の世を乱す…と」

「!」

女王「…神の力を手に入れようなどと、人には無謀なことではないか?」

女王「だからこそ、″魔王を倒す″という目的のためにのみその力が天より与えられてきたのではないか?」

女王「女神教会が研究の末に手にしている力は、歪められた神秘じゃ。勇者が手にするそれと、性質から異なる」

(歪められた、神秘…)

女王「その意見の対立が最初であったかのう。かつて王族では珍しく仲の良い兄弟であった二人は…相容れぬ存在となっていってしまった…」

「女神の力を手にし、大いなる力で支配力を不動のものとしようとなさった王兄様…」

「そして、神秘の禁忌を犯すのではなく、生きている者同士で手を取り合うことで平和を手に入れようとする、王弟様」

女王「うむ。しかし陛下の訴える弁は、一見すると女神教の教義のようにも聞こえる。それを盾に、兄陛下亡きあとの教会は陛下の支持者という立場を取ってきたが」

女王「初めから水面下で教皇と陛下は対立しておった。教皇にとっては、陛下よりも兄陛下の子息の方が操り易い存在であったのだ」

(そうして張り巡らされた罠の中、あの日を迎えた…というわけか)


482 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 20:15:21.62 bC6YCU4IO 365/1333


(…なあ、戦士よ)

(お前の言うことは、正しかったのかもしれんよ…)

「………どうにかして、真実を伝えなくては」

女王「そなたの、弟にか」

「…はい。あいつも真実を探して、動いているのです」

女王「そなたの弟は、武器商会の荷に潜り込み、教皇領へ向かった」

「! な、何故そんなことを!?」

女王「ふふ。我ら王族とて、黙って教会のさせるがままにしておくつもりもないからのう」

女王「色々と手は打ってあるのじゃ。何、そなたの弟にはあの女勇者がついておる。上手くすれば、教会の闇を暴いておる頃やもしれぬ」

「…!」

女王「のう。そなた、弟を信じられるか」

「…もちろんです。たったひとりの…肉親ですから」

女王「ふふ」

女王「その言葉、陛下が聞いたら…さぞ羨ましがるだろうな」

「え…?」

女王「こちらの話じゃ。…よいか、心して聞け」

女王「お前には話そう。女神教会の思惑を打破する策を」






483 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 21:23:30.26 bC6YCU4IO 366/1333




女勇者(………教会は、副官を操り、大将軍を反逆者に仕立てあげた)

女勇者(軍部の頂点に立ち、目を光らせていた大将軍が邪魔だった…というわけだ)

女勇者(そして、国王陛下も同時に暗殺する筈が…それにしくじった。決定的な権力を手に入れたい教会は次の手を打つつもりでいる)

女勇者(それが、建国の儀式の策略)

女勇者(これを機に王国軍までも手中に収め、実権を握るつもりでいる)

女勇者(魔王軍との戦争が起こったとしても…この研究の成果を以てすれば勝利できると確信をしているのだ)

僧侶「…こんなのは間違いよ。全て、間違い」

僧侶「教皇様を、止めなくては」

盗賊「僧侶ちゃんの説得で…この真っ黒教会のボスが今さら止まるってか?」

僧侶「…っ」

盗賊「聞いた限りじゃ、天下の全てをまるでただの駒みたいにしか思ってねーぜ」

盗賊「王国の、お偉いさんですら、よ」

戦士「………」


484 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 21:25:21.42 bC6YCU4IO 367/1333


女勇者「…戦士」

女勇者「どうやら、探し求めた真実は手に入った。…お前はどうするんだ?」

戦士(…俺は)

女勇者「なんなら、怒りに任せて教皇殺しでもしてみるか?」

戦士「!」

僧侶「なっ…」

女勇者「付き合ってやってもいいぞ。私も竹馬の友を殺されているのだ。こう見えて腸が煮えくり返っているんだよ」

僧侶「な、何を言っているの!? それでは憎しみが憎しみを生むだけよっ!」

戦士「………」

女勇者「どうだ?」

戦士「…」

戦士「ふ…。またそうやって、俺を試そうと言うのですね」

戦士「全く、人が悪い」


485 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 21:26:43.22 bC6YCU4IO 368/1333


女勇者(…ふふ)

女勇者「言っただろう? 勇者もただの人間だ」

戦士「そう、ですね…。俺たちはただの人間でしかない。人間は人間らしい生きる道のりを探さなければならない」

盗賊「…」

戦士「今王国を守るために、何をしなければならないのか。それを探します」

戦士「復讐は………暫く、置いておきます」

僧侶「戦士さん…」

戦士「知ったからこそ、出来ることがあるはずなのです。今は、それに全力を尽くします」

女勇者「…イノシシ男が、能ある鷹になったかな?」

戦士「…色々なことがひとつに繋がって、今は不思議と楽な気分ですよ」

戦士「信じていたものが、正しかったのだから」

女勇者「…そうか」


486 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 22:15:16.74 bC6YCU4IO 369/1333


盗賊「それじゃ、どうすんだい? 教会サマの研究は、その全貌が明らかになったワケじゃない。もう少し、進んでみるかね?」

僧侶「…私は、そのつもりよ」

女勇者「ま、その辺の目的は探っておきたいな。が、しかしこの先もこうすんなり行くか…」

戦士「敵が剣を用いて来るならば、遅れを取るつもりは少しもありませんよ」

盗賊「頼もしいこって。この先は俺も未知数だかんな。何が起こるか分からねーぜ」

女勇者「警戒だけは、怠らぬようにしよう」





「その必要は、ありません」

大僧正「この先は、私がご案内しましょう」


487 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 22:18:23.91 bC6YCU4IO 370/1333


戦士「!」

女勇者「貴様…!」

僧侶「…大僧正、様!」

盗賊「げえ!? い、いつの間に!」

大僧正「構える必要はありません」

大僧正「最初から、私は貴方たちを招くつもりでいたのですから」

戦士「何を言っている…!」

女勇者「待て。この感じ…」

僧侶「え、ええ! 間違いないわ!」

僧侶「…副官さんと同じ術にかけられてる!」

盗賊「う、ウソだろオイ! こいつ、教会の黒幕側の奴じゃねーのかよ!?」

大僧正「あれは、私から生まれし奇跡の一部。しかし、偽りの業でもあります」

大僧正「私はこの世界に実体を伴えない身。それゆえ、この者の身を借りているのです」

戦士「実体を、伴えない…!? なんだ、それは…では貴様はなんだと言うのだ!?」

僧侶「そんなもの…この人の世には存在しないわ。そんなものが存在するならば、霊界や天界の…」

僧侶「!」

女勇者(まさか)

大僧正「そう………私は、女神と人に呼ばれる存在」


489 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 22:25:04.31 bC6YCU4IO 371/1333


盗賊「じょ、冗談だろぉ…! 本物の女神が降臨なさったってかぁ…!?」

戦士(これも教会の…)

大僧正「これも教会の妖しい術のひとつだろう」

戦士「!?」

僧侶(そんな…心を)

大僧正「心を読むなんてことが出来るはずがない」

僧侶「!」

盗賊「…っ」

大僧正「逃げ出すとするならば、この四人が全員生存できるだろうか?」

盗賊(お、お見通しってか)

女勇者「心を乱すな! つけいられるぞ! こいつは――」

大僧正「こいつは女神のふりをした化け物だ…」

大僧正「そうして″女神″否定するのは、貴女がその役割を果たさなかったからですか?」

大僧正「女勇者」

女勇者「――!!」

戦士(!? なんのことだ…)


490 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 22:26:56.04 bC6YCU4IO 372/1333



大僧正「ついてきてください」フワ…

盗賊「…お、オイオイ宙に浮いちゃったぜ、あのオッサン」

戦士「…罠であったとしても、先へ進むしかないようだ」

僧侶「!? 通ってきた扉が、壁になってる」

盗賊「マジかよ…。ここまで来てゲームオーバーは、あんまりだぜ…」

戦士「そうとも限らんさ…。誰かが女神を語っているんだとすれば、何の目的でそれをする?」

戦士「教会のほの暗い部分を指揮している大僧正を、妖術で操る立場の者がいるとするならば、それは…」

盗賊「敵の敵は、味方ってか?」

僧侶「…心を読み取る、という技を仕掛けてきた時点で、相手はこちらの心を支配できるほどの影響力を持っているはずです」

僧侶「でも、そうしなかった…」

盗賊「もう操られてるのかもしれねーぜ。あんたらも…もしかしたら、俺もな」

僧侶「…」

戦士「どちらにせよ、進むしかないだろう」

僧侶「そう、ですね」

盗賊「あーあー…とんでもねーことになっちまったなぁ」

戦士「行きましょう、女勇者様」

女勇者「…」

戦士「女勇者様?」

女勇者「あ、ああ。そうだな」


491 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:11:56.93 bC6YCU4IO 373/1333


大僧正「この扉の奥へ…」

戦士「…」スタスタ

僧侶(ここが…この地下施設の最深部?)

盗賊(こんなに深く潜っちまったら、簡単にゃ脱出できねーや)

女勇者「…」

ピシッ

女勇者(!? な、なんだ…身体が、動かない…!)

バタン…!

女勇者(扉が閉まった!)




「おぬしは通ってはならん」

魔女「おぬしは旧き勇者。新しい者共の輪へは入ることはまかりならん」

女勇者「…言ってくれるな。私はまだアラサーだぞ。まだまだ現役だ」

魔女「口ではそう言っても、心が怯えきっているの。妾には分かるぞ」


492 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:14:16.44 bC6YCU4IO 374/1333


女勇者「お前、さっきの水槽の人間のひとりだろう。見た目に反してずいぶん長く生きているな」

女勇者「いつ、造られた?」

魔女「さあ。地下では時の流れは曖昧じゃ。高い魔力を生まれ持つことに初めて成功した、番号〇一七号。…分かるのはそれだけじゃよ」

女勇者「…それがどうして、教会ではなくあの女神もどきに使われている?」

魔女「使われているのではない。ただ為したのじゃ。そうすれば、妾たちをここから救い出す大きな風が吹く、と」

魔女「自由を愛する風が吹くと、そう定められているのじゃよ」

女勇者「…」

魔女「妾はそれを、ほんの少し、垣間見たに過ぎぬ」






バタン…!

戦士(扉が、ひとりでに…)

戦士「! 女勇者様は!?」

盗賊「あ、あら? 俺の後ろを歩いてたと思ったんだけどなぁ」

僧侶「待って。この部屋…人がいるわ。二人…いえ、三人!」


商人「なんだい、若造。生きてたか」


493 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:18:46.49 bC6YCU4IO 375/1333


戦士「お、お前は!」

盗賊(武器商会の女社長か…!)

戦士「何故、貴様がここに!」

商人「知るかい、こっちが聞きたいね。途中から大僧正のジジイがうわ言をしゃべりだしと思ったら」

商人「…女神を名乗りだして、気づいたらここに居たんだ」

戦士「…っ。ここは、なんなんだ」

商人「はっ。分かったらこのあたしが大人しくしてる訳がないだろう」

商人「それとも…そこの隅にむっつり座ってる男どもに聞いてみたらどうだい?」

???「グガー…スピー…」

????「ようやく全員揃った、というわけですか。全く、回りくどいマネをするものですね」

盗賊(なんだ、あの二人…ただ者じゃねーぜ。片方は寝てんのか、あれ。この状況で?)

商人「いい加減口を割ったらどうなんだ? あたしが隠し事が嫌いだってのはよーく知ってるだろう?」

商人「なあ、魔法使い」

魔法使い「そうですねぇ、貴女の怒りは買いたくないものですよ」


494 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:22:40.31 bC6YCU4IO 376/1333


魔法使い「さっきも言いましたが、僕は何も知りませんよ」

商人「…ほう。このあたしに嘘をつこうってかい?」

魔法使い「あはは。参りましたね。どうして怖い人達って、人の嘘を見抜くのが上手いんですかねぇ?」

商人「話す気は無いと言うことだな」

魔法使い「許してくださいよ。そのうちこの状況は説明されると思いますよ」

魔法使い「それに、事情を聞いても貴女の取る道は変わらないと思いますし、ね」

戦士(何者なんだ、こいつは…)

魔法使い「まあ、それはこの場に居合わせた誰しもがそうかもしれませんが…」

盗賊(イミフ…)

僧侶「あなた…人間じゃ、ないわね」

商人「!?」

戦士「なっ…! それじゃあ、魔族か!?」

魔法使い「おや…鋭い人がいましたか。これは困りましたねぇ」

戦士(くっ、何がどうなっている!?)チャキ…


495 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:35:27.56 bC6YCU4IO 377/1333


魔法使い「そんな物騒なものは仕舞って下さいよ。僕が魔族だったら何だって言うんです?」

魔法使い「何の因果か、運命の糸に手繰り寄せられてこうして出会った者同士、魔族だからって差別することはないと思いませんか?」

魔法使い「貴方はどう思います?」

盗賊「お、俺ぇ!?」

盗賊(なんで俺に振るんだよ…!)

盗賊「ん、んーまあ、確かに魔族だからって差別は良くねーかなあ? 魔族にも良い奴は居たしな…ハーピィとか」

魔法使い「ほら、この方もこう言ってる事ですし」

商人「…」ギロ

盗賊(だからなんで俺が睨まれる!?)

戦士「…」

戦士(女神の名を語る何者かに導かれてここには六人の男女が揃えられた)

戦士(武器商会の女社長、盗賊団の首領、教会の僧侶、魔族、大将軍の息子…そしてあと一人は)




???「…ゴー…クカー…」

戦士(!! あ、あの男…)


496 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:49:39.55 bC6YCU4IO 378/1333


戦士(知ってる…知ってるぞ! 見間違うはずもない!!)

戦士(父上が…生涯一度だけ敗北を喫した男!
!)

戦士(…世界最強の男にして…生ける伝説…!!)

戦士「――武闘家…っ!!」



武闘家「…グオー…ゴガー…」



『よく、集まってくれました』


盗賊「…うわっ…なんだ!?」

僧侶「…念話、にしては強烈なテレパシーだわ…」

商人「…女神とやら。対等に話す気があるのなら姿を表すがいい!!」


497 : ◆cJ/Se2MNFnrs - 2017/02/11 23:51:04.79 bC6YCU4IO 379/1333


『それは叶わぬこと。この場には選ばれし者のみしか入れぬ結界を張っているゆえ…肉体のないまま語ることを許して下さい』

盗賊(胡散臭ぇーなー)

僧侶「確かに、聖なる波動を感じるわ…。でも、本当に貴女が女神なの?」

『証明をすることは難しいことです』

『私の持つ奇跡の加護は、今、女神教会によって模倣され偽りの術として蔓延り始めています』

魔法使い「…」

武闘家「…グー…スピー…」




『ただ証明となりしはひとつだけ。私はここにあなたたちを揃えた、ということ』

『魔王を討ち破る六人の英雄を』






『新たなる、勇者一行を!』



続き
国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」【3】


記事をツイートする 記事をはてブする