1 : 以下、名... - 2018/11/16 16:08:07.18 oBHl5UyH0 1/68

・時期的には高校時代で、ハルオ、大野姉妹、日高、宮尾が互いに顔見知りとなった後のいつかです。
・人によって非道徳的、卑猥などと受け取れる箇所があります。苦手なかたは御注意ください。
・くにおくんネタはありません。

元スレ
【ハイスコアガール】大野真「晶の体育祭へ行くわよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542352086/

2 : 以下、名... - 2018/11/16 16:10:03.25 oBHl5UyH0 2/68

――大野晶専用車車内


ブロロロロ…


ハルオ「……」

日高「……」

宮尾「……」

「ねぇ、後ろの席の3人」

ハルオ「……何スか」

「何か喋んなさいよ」

宮尾「はあ」

「ずっと黙っちゃってどうしたのよ。これからお通夜に行くんじゃないんだからさ」

日高「……」

「小春ちゃんも。何でそんな緊張したみたいな顔してんの?」

日高「だって実際、緊張してますから……」

3 : 以下、名... - 2018/11/16 16:13:33.98 oBHl5UyH0 3/68

「どうして?」

日高「だって、私が上蘭高校の体育祭へ行くなんて……」

「別に普通よ。ただ単に他校の運動会を見物しに行くだけよ」

日高「私たちって大野さんとは赤の他人なのに、お姉さんと一緒に保護者席に座っちゃうなんて……」

「まだ言ってる。全っ然問題ないわよ。誰かに何か訊かれたら親戚ですって言えばいいの」

宮尾「そうですね……こんな機会でもなければ、上蘭の校内に入るなんてできませんしね」

ハルオ「……」

宮尾「なぁハルオ?」

日高「…宮尾君」

宮尾「何だ? あっそうか、入試で…」

ハルオ「……俺は入ったことあるよ、校内」

宮尾「悪かった、ハルオ」

4 : 以下、名... - 2018/11/16 16:16:08.82 oBHl5UyH0 4/68

「はぁ? 何よ今のは。ハルオくん、ひょっとしてまだそんなこと気にしてんの?」

ハルオ「そういうわけじゃないよ……」

「じゃあ何なのよ。アンタは違う高校へ行くことにしたんだから、もうただの他校でしょうに」

ハルオ「分かってるよ……」

「日曜で天気もいいんだからさ、楽しまなきゃ損だよ?」

宮尾「はい、せっかく誘ってもらったんですから。今日はありがとうございます」

「ううん、お礼を言うのは私の方。みんなには無理に来させて悪かったわね」

じいや「もし皆様がお出でくださらなかったら、保護者席にいるのは真様だけになってしまいますので」

ハルオ「あれ? じいやは?」

じいや「私の務めは送り迎えだけ。私がそのような場所にいることは差し出がましいことです」

日高「お父さんとお母さんは…」

「ロスにいる。ほんのたまーにしか帰って来ないのよ」

宮尾「保護者席で応援するのがお姉さんだけじゃ、大野さんは少し寂しいかもしれませんね」

ハルオ「今日、大野はもう学校へ行ってるんだな」

じいや「朝早くにお送りしました。生徒さんたちには様々な準備あるそうで」

「行きも帰りも、晶は私たちと別行動」

日高「あの……私もありがとうございます。今日のことだけじゃなく、いろいろ……」

「気にしないで。あれはただのお近づきのしるしよ」

ハルオ「いろいろ?」

日高「うん。お姉さんにはお世話になっちゃって……」

宮尾「世話になった? どういうことか訊いてもいいか?」

5 : 以下、名... - 2018/11/16 16:18:21.45 oBHl5UyH0 5/68

「小春ちゃん家(ち)が酒屋さんって聞いて、私の家からお酒を頼むように、私が家の人に言ったのよ」

日高「それが、ものすごくて…」

宮尾「ものすごい?」

日高「外国の1本何万円もする高級な物ばかり、シャンパン50本、ワイン100本」

ハルオ「ええっ!?」

宮尾「それは確かにものすごいな……」

「私の家でパーティが開かれる予定があってね。それ用とかでね」

ハルオ「さすが大野の家……やることのスケールがハンパねぇ」

日高「全部ウチで扱ったことのない物で、お父さんもお母さんもてんてこ舞いで…」

「ありゃ。逆に迷惑だった?」

日高「あっ、そんなことありません。父は“商売の幅が広がった”って喜んでました」

「それなら良かった。とにかくさっきも言ったとおり、ただのお近づきのしるしよ」

日高「それで今日の、大野さんの体育祭に呼んでもらってることをお父さんに話したら…」

宮尾「ああ」

日高「“今後のこともあるから絶対行け。行ってゴマすってこい”って…」

宮尾「おいおい、そんなのここでバラしていいのか」

日高「いいの。私もそんなこと言うお父さんにちょっと呆れてたから」

「ゴマするも何も、小春ちゃんは晶の友達で私の知り合いじゃん。誘うのは当たり前よ」

6 : 以下、名... - 2018/11/16 16:19:55.99 oBHl5UyH0 6/68

日高(“友達”……)

日高(友達か……)

日高(お姉さんは、私と大野さんと矢口くんのこと……どのくらい知ってるんだろう)

日高「あの、お姉さん」

「何ー?」

日高「私が来ること、大野さんへは…」

「もちろん言ってあるわよ。それがどうかした?」

日高「あ、いえ、何でも……」

ハルオ(そうか……)

ハルオ(だから日高が今、ここにいるのか……)

ハルオ(大野と日高の接点なんてほとんどないはず。呼ばれても行く理由がねぇ)

ハルオ(でも家の事情があるなら……)

宮尾(俺が誘ってもらえたのは、単純に人数を増やす目的だと思うが…)

宮尾(日高にはそういう背景がある。だからあいつは断れなかったんだろう)

宮尾(まぁ、保護者席に大野さんが来ることはほとんどないと思うし…)

宮尾(今日は俺が気を使う必要なんてないのを祈るぜ)

7 : 以下、名... - 2018/11/16 16:23:06.66 oBHl5UyH0 7/68

「小春ちゃんに来てもらった理由はね、ほかにもあるの」

日高「何ですか?」

「やっぱさ、どんな集まりでも“華”がないとつまんないじゃん?」

日高「えっ…」

「私以外は男ばっかなんだし」

日高「そんな……華なんて///」

「おりょ? 照れちゃってかわいーなー」

日高「///」

宮尾「お姉さん、華ってことをいうなら自分自身だってそうじゃないですか」

「ハッハッハッ、ありがとね宮尾君。たとえお世辞でも嬉しいよ」

ハルオ「自分が華じゃねーのをちゃんと自覚してんだな」ボソ

「あ? 何か言ったか小僧!?」

8 : 以下、名... - 2018/11/16 16:24:36.38 oBHl5UyH0 8/68

――上蘭高校校門


ハルオ「スゲェ……」

日高「何あれ……」

宮尾「学校の外からも見える。これってもうスタジアムだよな」

「仮設だけどね。体育祭の時だけ観覧席が作られるの」

日高「さすがリッチな学校ですね……」

「ここの体育祭は気合入ってるわよ。文武両道が学校のモットーだし」

じいや「皆様、IDカードはお持ちですな?」

日高「あ、はい」

宮尾「大丈夫です」

ハルオ「アイディー……これか」

「それ、いつも首からぶら下げててね。そうしないとあっという間につまみ出されるわよ」

宮尾「セキュリティもちゃんとしてるんですね」

「生徒には、いわゆる良家の子女ってのが多いから」

じいや「それでは、私はここで失礼いたします」

「うん。それから、じいや」

じいや「何でしょう、真お嬢様」

9 : 以下、名... - 2018/11/16 16:28:48.96 oBHl5UyH0 9/68

「まっすぐ家へ行くのよ?」

じいや「は? それはどのような意味…」

「途中でパチンコ屋へ寄り道しちゃ駄目よ?」

じいや「うっ」

「じいやって最近、5万円も負けたんだって?」

じいや「ううっ」

「しかも新装開店のとこで」

じいや「ま、真様……なぜそれを」

「家の中で愚痴りまくったって聞いたけど? 大野家にいる人なら誰でも知ってるわよ」

じいや「……」フラフラ

日高「フラフラしながら車の所へ行っちゃいました。大丈夫でしょうか」

「心配ないわよ。その時のショックを思い出したんでしょ、いい薬よ」

ハルオ「お姉さん、パチンコなんて詳しかったんだな。“新装開店”とか“負ける”とか…」

「えぇ? 全然知らないわよ。『黄門ちゃま』とか『マジカルパニック』とか、全然知らないわよ」

ハルオ「知ってるじゃん」ボソ

「じゃあ行くわよ。私に付いて来て」

日高宮尾「はい」

ハルオ「うん」

10 : 以下、名... - 2018/11/16 16:30:51.92 oBHl5UyH0 10/68

日高「お姉さんも上蘭だったんですか? ここのことよく知ってるし」

「うん、途中からだけどね。ほかの学校から転入したの」

宮尾「じゃあ前の学校は…」

「ロスの高校」

日高「えっ。アメリカの高校……」

ハルオ「そうか。大野が中3で日本へ戻って来た時、お姉さんは高校生か」

「姉妹で、日本とアメリカの学校を行ったり来たりよ」

日高「……」

「親の都合に子供が振り回されていい迷惑よ」

日高「アメリカ……」

宮尾「どうした、日高?」

日高「外国かぁ、すごいな、って……私まだ行ったことないし」

「別に大したことじゃないわよ。小春ちゃんだってそのうち、いくらでも行けるようになるんじゃない?」

日高「そうだといいですけど……でもお姉さんと大野さんは旅行とかじゃなくて、住んでたんですよね」

宮尾「……」

日高「すごいなぁ……」

宮尾「何だか日高、そういうところも変わったな」

11 : 以下、名... - 2018/11/16 16:32:57.30 oBHl5UyH0 11/68

日高「変わった? 私が?」

宮尾「ゲームを始めただけじゃない」

日高「……」

宮尾「いろいろなことへ興味を持つようになったんじゃないか?」

日高「うーん……」

宮尾「……」

日高「自分じゃよく分からないけど……」

宮尾「もしかすると、誰かさんの影響がいい面で表れてるのかもな」チラ

ハルオ「何で俺を見んだよ。あと“誰かさん”って誰だよ」

日高(……)

日高(……そうかもしれない)

日高(私、昔に比べると少し変わったかもしれない)

日高(昔は、ほかにやることがないから、勉強ばかりしてた……)

日高(あの頃に比べて、いろいろなことへ少し興味を持つようになったかもしれない)

日高(そうなったのはやっぱり、矢口くんの影響なのかな……)

12 : 以下、名... - 2018/11/16 16:35:21.95 oBHl5UyH0 12/68

「Aブロックの3番」

宮尾「Aブロック……ここはDだからもう少し向こうですね」

ハルオ「ますますスゲェな。全席、番号で指定か」

「全席じゃないよ。ある生徒たちの保護者だけに割り当てられるの」

日高「こういう席ってお相撲の中継で見たことあります」

宮尾「桝席だな。この場合は目の前が運動場で、間近で観戦できる」

「大相撲の席に比べるとかなり広いけどね。一家がそろってお昼御飯を食べられるくらい広い」

ハルオ「ほかの保護者はその後ろの、階段状の席か」

「どんな理由で我が家へこういう、いい席が割り振られてるか知らないけど…」

ハルオ「……」

「学校への寄付金額が影響してる、ってのは聞いたことがある」

宮尾「授業料は当然、全生徒が同じ。でも、ほかの収めてるお金で様々な違いがつけられるわけですか」

ハルオ「ふーん……」

宮尾「ここからAブロック。3番はあそこです」

日高「あれ? 誰かほかの人がもう座ってる」

ハルオ「いや、あれは…」

ハルオ(あの後ろ姿は…)

ハルオ「大野!?」

13 : 以下、名... - 2018/11/16 16:36:49.15 oBHl5UyH0 13/68

「何よ晶、もう開会式が始まる時間じゃない。こんな所にいていいの?」

「…」コク

日高「えーと……お、おはよう、大野さん」

宮尾「大野さん、おはよう」

「…」コク

ハルオ「よう大野」

「…」

「さ、みんな座って」

宮尾「……」

宮尾(いきなり“この3人”がそろう状況か……)

宮尾(今日は俺が気を使う必要なんてないと思ってたのに……)

日高「……」

日高(うぅ……間がもたない)

日高(何か話題……何かないかな)

日高(あ……そうだ!)

日高「お、大野さん…」

「…」

日高「その上蘭のジャージ……すごく可愛いね」

14 : 以下、名... - 2018/11/16 16:38:31.33 oBHl5UyH0 14/68

「ああ、晶が着てるその体操服ね。評判いいみたいね」

日高「はい。この高校のは一流スポーツ用品メーカーが作ってるって話、聞きました」

「デザインも実用性も優秀らしいわね。着てる方はそんなの分かんないけど」

日高「私の高校もこんな可愛いのだったらなぁ……」

「…」

「小春ちゃんの学校は制服がいいセンスしてるじゃん」

日高「制服はまあまあなんですけど、体操服が全然……」

ハルオ「宮尾、日高たちは一体何を喋ってるんだ?」ボソ

宮尾「ファッション談義。いわゆる女同士の話ってやつだ。俺らは黙ってようぜ」ボソ

ハルオ(ファッション……服か)

ハルオ(体操服の、大野……)

ハルオ(そういえば、こいつのこういう格好を見るのはいつ以来だ?)

ハルオ(確か小学校で同じクラスだった時……いや、中3の修学旅行があったな)

ハルオ(……小学校で同じクラス、か)

ハルオ(あれから何年も経つんだな……)

15 : 以下、名... - 2018/11/16 16:41:00.51 oBHl5UyH0 15/68

「おい、何見てんだ小僧」

ハルオ「ん?」

「体操服の晶を舐め回すように見やがって。姉としては看過できないわね」

ハルオ「な、何言ってんだお姉さん。俺は別に…」

「でも晶が長袖長ズボンのジャージ姿で、残念だったなぁ?」

ハルオ「何のことだよ」

「露出の多い半袖短パン姿を見たかったんだろ? あぁ?」

「…」スック

日高「あ…大野さん」

「…」スタスタ

日高「立ち上がって、行っちゃった……」

「ほれ、晶が逃げちまったぞ。アンタの野獣みたいな視線に耐えられなかったようね」

ハルオ「だから、俺は別に……ただ、あいつのああいう格好を見たのは久しぶりだな、って…」

「おっ、ついに尻尾を出したな! 久しぶりに見て発育度合いをチェックしようとしてたんだろォ!?」

ハルオ「何だそりゃ、変態じゃねーんだから…」

「オメーがまさにその変態だ! 発育した姿を目に焼き付けて、家へ帰った後ナニする気だった!?」

ハルオ「なな、何言ってんだよ! そんなことするわけ…」

「うるさい黙れド変態! マセガキ! 糞童貞! シコリヌス三世!!」

ハルオ「何だよ、そのシコなんとかって……」

宮尾「なあ日高、世界史のローマ皇帝の名前みたいだが…」ボソ

日高「何…?」ボソ

宮尾「こんなの教科書に出て来たっけか?」ボソ

日高「知らないよそんなこと///」ボソ

16 : 以下、名... - 2018/11/16 16:43:06.72 oBHl5UyH0 16/68

『理事長、ありがとうございました! 理事長の開会宣言に続いて、校長先生からの御挨拶です!』


日高「司会の人、何だかプロみたい。ここの先生とかじゃないんじゃないかな」

宮尾「声がプロだよな。普通の人だとあんな声は出せない」

「だってプロだもん」

ハルオ「マジで!?」

宮尾「ああ、思い出しました。どこかで聞いた喋り方や声だな、って思ってたんですが…」

日高「私も。あの人、ラジオのアナウンサーだよね。人気番組のパーソナリティーやってる」

「上蘭のOBなのよ。司会と実況を毎年やってくれてるの」

ハルオ「そうなのか……いろんなことのレベルがいちいち、そこらの高校と違い過ぎるぜ……」

「……」

ハルオ「やっぱ、ここに落ちて良かった……」

「アンタみたいなヌルいヤツは、こういう所で揉まれた方が良かったのにね」

宮尾「文武両道の校風。体育祭も気合いが入ってるって言ってましたが…」

「学年ごとにクラス対抗で優勝を目指す。各種目にポイントがあって、その合計値を競う」

ハルオ「じゃあポイントの高い種目ほど、クラス同士でアツいバトルが展開されるってことか」

「そのとおり。さあ、プログラムだと開会式が終わったら早速、晶が出るわよ」

日高「種目は…」

「女子100メートル走。ポイントが高い種目の一つね」

17 : 以下、名... - 2018/11/16 16:44:50.59 oBHl5UyH0 17/68

『女子100メートル走の出場者を御紹介しましょう! まず第1のコース、A組、大野晶さん!』


「……」

宮尾「あれ? お姉さん、静かですね」

日高「応援しないんですか?」

ハルオ「太鼓や笛や拡声器やチアホーンを持って来ると思ったけどな」

「何それ。一人でそんなことしたらアホみたいじゃない」

ハルオ「普段を見てりゃ、そのアホみたいなことを当然しそうなのに」ボソ

「おい、オメーはさっきから一言多いようだな。あぁ?」

宮尾「まあまあ。でもお姉さん、応援して盛り上げた方が…」

「別にいいのよ。私よりもハルオくん、アンタが応援してあげなさいよ」

宮尾「ああそうだなハルオ、お前がここから大声で励ましてやれ」

ハルオ「俺が?」

宮尾「そうだ。大野さん喜ぶぞ」

ハルオ「そんな必要ねーだろ。もう結果は分かってるんだし」

「ま、そのとおりよね」

宮尾「“もう結果は分かってる”?」

日高「どういうことですか?」


パーン


『今スタート! あっ…速い! A組の大野さん速い! ほかの人を完全に置き去り!』

18 : 以下、名... - 2018/11/16 16:46:44.28 oBHl5UyH0 18/68

「行けぇええ晶!!」

ハルオ「うらぁあああ!! カッ飛ばせ大野ぉぉおお!!」

「10秒切れーっっ!!」

ハルオ「そのままブッチギリだぁぁあああ!!」


『大野さんが1着! 各クラスは遅れて次々とゴール……大野さんの、A組の圧勝!』


「……まぁこんなもんでしょ」

ハルオ「……相変わらず期待を裏切らねぇヤツだ」

日高宮尾「……」

「……何? 小春ちゃん、宮尾君」

ハルオ「……人のことジロジロ見んじゃねーよ、お前ら」

宮尾「何だったんですか今のは?」

日高「二人とも、急に人が変わったみたいに……」

宮尾「もう結果は分かってる、って言ってましたけど」

日高「大野さん、走るのすごく速いんですね。二人ともそれを知ってたんですね」

宮尾「お姉さんが知ってるのはもちろん、ハルオは同じ小学校だったからな」

「……姉が妹を応援するのは当たり前でしょ」

ハルオ「……バトルを見てアツくなって、どこが悪りぃんだよ」

日高宮尾(要するに実は騒ぎたいんだな、この二人は……)

19 : 以下、名... - 2018/11/16 16:49:57.28 oBHl5UyH0 19/68

宮尾「あ、また大野さんが来た」

「晶、おつかれー。まぁ楽勝だったわね」

「…」コク

ハルオ「何だお前。さっきは朝イチからここにいたし、クラスの席にいなくていいのかよ」

「…」

「ほれ小僧、晶が半袖姿になったぞ? 下はジャージのままだけど」

ハルオ「だから、何言ってんだよ……」

「晶が走る時のスタイルだ。さっきみたいにねっとり見ねーのか?」

ハルオ「ていうか、逆に煽ってんだろ……」

宮尾「大野さん、お疲れ様。すごい走りだったね」

日高「私もびっくりしちゃった。大野さんって勉強はもちろん、運動だって何でもすごいんだね」

「…」

日高「ゲームも、ものすごく強…あっ!?」

「どうしたの小春ちゃん? 口を押さえたり、周りをキョロキョロしたり」

日高「あ、いえ、ここでは、その…」

「ははは、気を使わせて悪いわね。大丈夫よ、誰も聞いてる人なんていないから」

日高「……」

「まぁ確かに、上蘭でゲーセンへ行ったことのある生徒なんて、晶以外ほとんどいないと思うけど」

宮尾「ゲームやゲーセンのことくらい、いくら喋っても問題無しですか」

ハルオ「さっきお姉さんが俺へいくら怒鳴りまくっても、周りは全然気にしてなかったしな」

「コイツの言うことはどうでもいいとして、晶が来たことだし…」

日高「何ですか?」

「ちょっと早いけどおやつタイムにしようか」ガサ

20 : 以下、名... - 2018/11/16 16:51:36.40 oBHl5UyH0 20/68

ハルオ「えっ。そんな物があるんか」

宮尾「お姉さんがずっと持ってた大きめの紙袋。何だろうと思ってましたが……」

「ただのおやつよ。ほら、サンドイッチとジュース。フルーツもあるわよ」

日高「わぁ…!!」

ハルオ「どうした日高?」

日高「すっごく綺麗! こんなにおいしそうなサンドイッチ、初めて見ました!」

宮尾「何だかいきなりテンションが上がったな」

日高「盛り付け方がとっても素敵!」

ハルオ「まぁ、女は食い気より食い気っていうからな」

宮尾「同じじゃん」

日高「お姉さん、食べていいですか!?」

「どーぞどーぞ。どんどん食べて」

日高「いただきます!」

宮尾「いただきます」

ハルオ「じゃ俺も頂くとするか。いただきます」

日高「…!!」

ハルオ「ん? また日高…」

宮尾「今度は何だ?」

日高「すっごくおいしい! これがサンドイッチ!?」

21 : 以下、名... - 2018/11/16 16:53:44.82 oBHl5UyH0 21/68

ハルオ「見りゃ分かるべ。んで、自分が今食ってるべ」

日高「どうしてこんなにおいしいの!? お姉さん、どうして!? どうしてですか!?」

「いや、私へ訊かれても…」

日高「だって、入ってるのはハムとレタスとチーズだけ…!」

「……」

日高「それが普通にパンで挟んであるだけなのに…!!」

ハルオ「まぁ確かにうめぇな。コンビニとかのより超うめぇ」

日高「どうして!? これ食べたらもうお店のなんて買えない!!」

「どうしてって言われてもねぇ……私の家はずっとこれだし。逆に、この味以外知らない」

宮尾「……それは、こういうことだな」

22 : 以下、名... - 2018/11/16 16:55:24.52 oBHl5UyH0 22/68

日高「何? 宮尾君」

宮尾「確かに、ここで使われているのはパンやハムとかの普通の食材だ」

日高「うん」

宮尾「特別な材料は何もない。でもこれらの食材はおそらく“一つ一つが特別”なんだ」

日高「どういうこと?」

宮尾「パン、ハム、レタス、チーズのそれぞれが、かなり手間をかけて作られた高価な物なんだろう」

日高「……」

宮尾「スーパーに並んでるような物でもなければ、コンビニの大量生産で使われるような物でもない」

日高「……」

宮尾「さらに、パンの内側にはバターのような物が塗ってある」

ハルオ「そうだな。言われて初めて気付いた」

宮尾「これもただのバターじゃないだろう。それに加えて、中へ挟む具材に合うよう味が調えらてるはず」

ハルオ「こっちはハムとレタスとチーズ、そっちは玉子。中身によって塗ってある物の味が違うのか」

23 : 以下、名... - 2018/11/16 16:57:18.32 oBHl5UyH0 23/68

宮尾「お姉さん、どうでしょう。僕の推理は」

「何回も言うけど、どうって訊かれてもねぇ。私の家ではこれが普通だし」

日高「普通……」

「これを作った、家の人に訊かなくちゃ真相は分からないわ」

日高「家の人……」

「私の家にずーっと前からいる人。料理とか担当の人」

日高「お手伝いさん……ですか?」

「そう」

日高「すごいなぁ……」

「……」

日高「お姉さんと大野さんが住んでる世界……」

ハルオ「……」

日高「私がいる所とは全然違う世界みたいな気がする……」

ハルオ「当然だろ。馬鹿デカい車で子供を学校へ送り迎えするような家なんだぜ?」

24 : 以下、名... - 2018/11/16 16:59:10.47 oBHl5UyH0 24/68

「…」スック

「あれ? 晶もう行くの? 全然食べなかったじゃない」

「…」フルフル

「そうか。あんた、また走ったりするんだもんね。お腹に何も入れない方がいいかもね」

「…」スタスタ

ハルオ「あいつ一体何しに来たんだ? さっきも今も」

宮尾「お前分からないのか、ハルオ?」

ハルオ「んぁ? 分かるはずねーだろ、あの無口女の考えてることなんか」

宮尾「大野さんは、誰かさんを監視しに来てるんだ」

日高「!」

ハルオ「だから、その“誰かさん”って誰なんだよ。監視ってのも意味不明だし」

日高(そうか……)

日高(私と矢口くんが、一緒にいるから…)

日高(様子を見に来てたのか……)

25 : 以下、名... - 2018/11/16 17:01:56.35 oBHl5UyH0 25/68

「ううん、それだけじゃないと思うな」

宮尾「ほう。と言いますと?」

「晶は、この学校で仲のいい友達がいないらいしんだよね」

宮尾「……」

「もちろん、話す生徒が全然いないってわけじゃないみたいだけど」

日高「……」

「あの子は勉強も運動も、何をやらせても完璧にこなせる。超が付くほどの優等生」

ハルオ「……」

「でも友達関係については、それは逆効果なのよ」

宮尾「失礼な言い方かもしれませんが、大野さんには“孤高”みたいな雰囲気がありますね」

日高「すごく綺麗だし……」

ハルオ「学校へ車で送り迎えがあるほどのお嬢様だ」

「晶には欠点がない。だから周りの生徒たちは、遠巻きに眺めるだけになっちゃってるらしいの」

ハルオ「あいつのことだ、自分から友達を作ろうともしないんだろうな」

「多分そのとおり。あの寡黙な性格だもんね」

日高「だから、大野さんは今日…」

「うん」

日高「クラスの席にいなくて…」

「ここへ来るのよ。ここで友達のみんなといる方が楽しいのよ」

日高「……」

「ハルオくん、小春ちゃん、宮尾君と一緒にいるのが楽しいのよ」

26 : 以下、名... - 2018/11/16 17:05:47.35 oBHl5UyH0 26/68

――正午前


宮尾「もう昼か。早いな」

ハルオ「おやつを食ったばっかだと思ったけどな」

「お腹空いたね」

ハルオ「うん。ペコペコだ」

宮尾「ハルオは大野さんが出場するたびに騒ぎまくってたからな。そりゃ腹も減るだろう」

ハルオ「それを言うならお姉さんも同じだぜ」

「だから、姉が妹を応援するのは当たり前でしょ」

ハルオ「俺だって、バトルを見てアツくなってどこが悪りぃんだよ」

日高(何よ、もう……)

日高(何だか全っ然面白くない)

日高(矢口くんはただ勝負を見て騒ぎたいだけ、って分かってるけど…)

日高(大野さんが出てくると必ず大声で叫んで…)

日高(ハードル走の時は“大野、そんなの全部倒せ!! 蹴散らせやぁああ!!”とか)

日高(女子騎馬戦の時は“どりゃあああ行け大野!! ブチかませぇぇええ!!”とか)

日高(ただ騒ぎたいだけって分かってるけど…)

日高(大野さんの名前を何回も呼んで……)

日高(大野さんを応援して……)

日高(何だか全っ然面白くない……!)

27 : 以下、名... - 2018/11/16 17:07:06.19 oBHl5UyH0 27/68

「小春ちゃん?」

日高「え…えっ!? な、何ですかお姉さん!?」

「どしたの? 真剣な顔して」

日高「あっ、別に……その、何でも……」

ハルオ「日高も腹減ったんじゃねーの?」

日高(…!)

ハルオ「だからそんな顔してんだ」

日高(…この馬鹿男!)

宮尾「お姉さん、お昼御飯はどうするんでしょうか」

ハルオ「俺らは何も用意してきてないぜ。呼んでもらった時に言われたとおり」

「心配しないで。そろそろよ」

ハルオ「へ? 何が?」

「ほら来た」

メイドA「お待たせいたしました。こんにちは皆様~」

メイドB「こんにちは。御昼食をお持ちしてまいりました~」

28 : 以下、名... - 2018/11/16 17:09:27.35 oBHl5UyH0 28/68

日高「わぁ…可愛い! 可愛い服着た、綺麗なお姉さんが二人!」

宮尾「このお二人は…」

「私の家のお手伝いさん。お昼御飯を持って来てもらったのよ」

日高「あの、こういう服って何て言うんでしたっけ!?」

メイドA「メイド服でございますわ、お嬢様」

日高「そんな…“お嬢様”なんて///」

宮尾「日高、かなり嬉しそうだな」

日高「服も可愛いし、メイドさんたちも綺麗だし…!」

「家の中でも若くて特に美人の二人に来てもらったからね」

メイドB「あら真様、 普段はそんなこと仰ってくださらないくせに」

メイドA「誉めていただいても何も出ませんよ~」

「じいやはどうしたの? お昼くらい一緒に食べればいいのに」

メイドB「車の中で控えております。“今は真様とお顔を合わせたくない”などと言って」

メイドA「真様、何かなさったんですか? もしかして苛めたりしたのではありません?」

「そんなことしないわよ。例の、5万円負けたことをチクリと言ってやっただけよ」

メイドB「あの話ですか。年甲斐もなくCR機へ手を出すからそのようなことになるのでしょう」

メイドA「大人しく羽根物で遊んでいればよろしかったのに」

ハルオ「何でこの家の人たちはこんなことに詳しいんだ?」ボソ

メイドB「ところで、晶様のお姿が見えませんけど」

「そのうち来るわよ。…ああ来た。晶~、お昼にしよ~」

メイドA「では早速、始めさせていただきましょうか」

29 : 以下、名... - 2018/11/16 17:12:48.03 oBHl5UyH0 29/68

「今日は何?」

メイドB「前菜はカルパッチョ。メインはお魚が舌平目、お肉がブッフ・ブルギニヨンですわ」

ハルオ「ブッブルブル…何スか?」

「ブルブルって何よ。ブッフ・ブルギニヨン、牛肉の赤ワイン煮ブルゴーニュ風ね」

メイドA「デザートはブルーベリーのアイスクリームでございます」

宮尾「すごいですね、こういう場でもフルコース料理ですか」

日高「え……私、マナーなんて何も知らない」

「そんなの気にする必要ないわよ。レストランやビストロにいるわけじゃないんだし」

メイドB「真様の仰るとおりです。器を手に持って、フォークだけで気さくに召し上がってください」

メイドA「主食はバゲットと御飯、つまり白米の2種類を御用意しております」

ハルオ「バゲ…?」

「パンよ。フランスパン」

メイドB「お飲物はミネラルウォーター、普通の物とガス入りとを持ってまいりました」

「あと、さっきのジュースがあったわね。好きなの飲んでね」

ハルオ「ガスぅ!?」

30 : 以下、名... - 2018/11/16 17:15:43.26 oBHl5UyH0 30/68

宮尾「いちいちうるさいな、ハルオ」

ハルオ「飲物にガスが入ってんスか!? どゆこと!? 毒じゃねーの!?」

メイドB「あら、これは言い方が少々不適当だったかもしれません。失礼いたしました、お坊ちゃん」

日高「あのぅ…」

メイドA「はい、お嬢様?」

日高「すいません、私も分かりません……」

メイドB「ガスとは炭酸のことですわ。炭酸入りのお水ということです、お坊ちゃん、お嬢様」

日高「あ。炭酸水のこと…」

宮尾「日高ん家の店にもあるか」

日高「うん、お酒の割り材だから。でもガス入りなんて言い方、初めて聞いた……」

ハルオ「……」

宮尾「ハルオはまだ釈然としない顔してるな」

ハルオ「だってよ……炭酸がただの水に入ってんの? ジュースとかなら分かるけど……」

「別に普通よ。ヨーロッパとかだと普通にそこら辺で売ってる飲物よ、炭酸水」

日高「はぁー……」

宮尾「日高。ため息なんかついて、どうした」

日高「やっぱり、別世界……お姉さんと大野さんの家……」

31 : 以下、名... - 2018/11/16 17:18:10.81 oBHl5UyH0 31/68

「ところでさ」ボソ

メイドA「何でしょう真様、お声をひそめて」

「お酒、ないの?」ボソ

メイドA「まあ、何を仰るのかと思ったら」

メイドB「こちらの学校では、敷地内は全面禁煙・禁酒とうかがっておりますけど」

「えぇー? こういう天気いい日の真っ昼間から、冷えた白ワイン飲むのが最高なのになぁー!」

メイドA「そのようなことを大きなお声で……」

「んなこと言ってもさ、ホントは持って来てくれてんじゃないの? ホラ出しなさいよ」

メイドB「困ったお嬢様ですねえ」

「出さないとあなたたちの豊満な肉体にいろんなことするぞ? ほれ、うりうり」

メイドA「ちょっと、おやめください……ではこれ」

「おっ。その一見、何の変哲もない水筒は…?」

メイドB「まさかボトルのままお持ちすることはできませんから」

メイドA「入っているのは白。シャトー・リューセックの1985年でございます」

「さっすがぁ、話が分かるぅ! あなたたち大好き!」

メイドB「でもそういう状態なので当然、冷えてはおらず常温です」

「全然問題ありませーん」グビグビ

メイドA「あっ、水筒から直接…」

メイドB「はしたないですよ、真様?」

「いーじゃん。この場で私以外、飲む人いないんだし」プハー

メイドA「それは仰るとおりですけど……」

「それとも小僧、オメー飲むか? 私に付き合うか?」

ハルオ「小僧呼ばわりしながら酒勧めるって、矛盾してんだろ……」

32 : 以下、名... - 2018/11/16 17:20:36.55 oBHl5UyH0 32/68

宮尾「日高、顔が穏やかになったな。機嫌が直ったみたいだな」

日高「え? 私、不機嫌になったりなんか…」

宮尾「してないって言うのか?」

日高「……」

宮尾「まぁこういううまい物を食えば機嫌だって直るさ。腹が減っては何とやら、っていうしな」

日高「うん……」

宮尾「……」

日高「宮尾君の言うとおりかも」

宮尾「そうか」

日高「出されるお料理、全部今まで食べたことのない物で……」

宮尾「ああ」

日高「全部おいしくて……」

宮尾「良かったな」

33 : 以下、名... - 2018/11/16 17:21:52.88 oBHl5UyH0 33/68

ハルオ(そうか……?)

ハルオ(確かにうめぇけど…)

ハルオ(体育祭の昼飯、弁当っていったら…)

ハルオ(握り飯やいなり寿司、おかずは唐揚げ、玉子焼き、ウインナーとかで…)

ハルオ(そういう物を貪り食って、お茶や麦茶で胃に流し込んで…)

ハルオ(普通、そんな感じじゃねーか?)

ハルオ(食わせてくれたお姉さんには悪りぃが…)

ハルオ(俺的には、何だろう……こういうのを“口に合わない”っていうのかな)

ハルオ(大野は駄菓子や屋台の食い物を好きみてぇだけど、分かる気がするぜ)

ハルオ(普段こういう料理ばっかだから…)

ハルオ(たい焼き、綿菓子、ラーメンとかの味が新鮮なんだろうな……)

34 : 以下、名... - 2018/11/16 17:24:59.08 oBHl5UyH0 34/68

メイドB「食後の紅茶でございます」

宮尾「ありがとうございます。こんな綺麗な人たちにお世話してもらって、すごく嬉しいです」

メイドA「まあ、こちらのお坊ちゃんはお口が上手でいらっしゃるのね」

メイドB「お坊ちゃんも、とてもハンサムですわよ」

メイドA「ハンサムでお口が上手。大人になったら女性を困らせるような男性になるのではありませんこと?」

メイドB「将来有望ですわ」

ハルオ「いやぁソイツはもう今からっスよ。これまで何人の女子が告白して玉砕したことか」

メイドA「あら、まだ高校生なのにもうブイブイいわせてらっしゃるの?」

メイドB「実は危ないかたなのね。受精させられそう♪」

ハルオ「さっきのパチンコの話といい、この人たちがたまに見せるこういう品の無さは一体何なんだ?」ボソ

宮尾「綺麗な人たちを綺麗と言っただけです。何か間違ってますか?」

メイドA「まあ、このお坊ちゃんたら……ねえお坊ちゃん、年上の女性はお嫌い?」

宮尾「もちろん好きです。好きな気持ちに年齢は関係ありません」

メイドB「でもお坊ちゃんが大人になる頃には、わたくしたちはおばさんになってしまっていますわ」

宮尾「綺麗な人は何歳になっても綺麗だと思います」

メイドA「あら。ではわたくしたち、期待してしまってよくて? ふふふ」

メイドB「ふふふ」

35 : 以下、名... - 2018/11/16 17:26:39.23 oBHl5UyH0 35/68

ハルオ(宮尾のヤツ、よくあんな歯の浮くようなセリフを口にできるぜ)

ハルオ(でも……宮尾の言うとおりだ。マジで綺麗だな、この人たち)

ハルオ(こんな美人ってホントにいるんだな)

ハルオ(雑誌やテレビの中だけって思ってたが…)

ハルオ(人目を引く美人……こういう人たちのことをいうんだな)ポー

日高「……」


ドガッ バシィ


ハルオ「痛でェ!? なっ何しやがる大野! 日高!」

日高「あらゴメン矢口くん、手が滑っちゃった」

ハルオ「手が滑…!? テキトーなこと言ってんじゃねぇぞゴルァ!!」

日高「でも矢口くんだって悪いんだよ? よそ見してたんだから」

ハルオ「なっ…よそ見だァ!?」

日高「ね、大野さん?」

「…」コク

ハルオ「ますますテキトーなこと言いくさって!! 誰がよそ見なんか…!」

日高「へー、よそ見してないんだ。じゃあよそ見しないで、何を見てたのかな?」

ハルオ「うぐっ」

日高「よそ見しないで、な・に・を、見てたのかな?」

ハルオ「ぐぐ…」

36 : 以下、名... - 2018/11/16 17:30:25.68 oBHl5UyH0 36/68

「ハイ、ハルオくんが悪い!」

ハルオ「何だよ、お姉さんまで……」

「ハイみんな、ちょっと話があるんだけど」

ハルオ「話?」

宮尾「何ですか?」

「……晶」

「…」

「保護者参加の二人三脚、結局どうするの?」

「…」

「前にも言ったけど、私はパスだからね」

「…」

宮尾「生徒とその保護者が組む二人三脚競走ですか」

「そう。クラスの中で晶がこの種目をやることになったらしいのよ」

日高「大野さんは走るのがとっても速いから、みんな期待したんですね」

「この種目はポイントが高いの。もし1着になれば学年優勝に向けて大きな上積み」

宮尾「で、誰が大野さんと一緒に走るんですか?」

「それが決まってないのよ」

ハルオ「はぁ? 何だそりゃ。もう当日だぜ」

「しかもスタートまであと1時間半くらいしかない」

「…」

「晶は私が出るのを考えてたみたいだけど、断ったの」

「…」

「走るのなんてタルいし。走っても万一コケたりしたら、とんでもないことになるからね」

37 : 以下、名... - 2018/11/16 17:32:42.44 oBHl5UyH0 37/68

ハルオ「……こいつは怪力の持ち主だ。お姉さんを引きずってでもゴールしようとするだろうな」

「多分。そんな目に遭うのは嫌だって断ったのよ」

日高「でもお姉さんのほかに、出られる人は誰もいないんじゃ…」

「表向きは、ね」

ハルオ「“表向き”?」

日高「どういう意味ですか?」

「この種目には生徒以外が出られる。だから各クラスはそれを踏まえた作戦を立ててくるのよ」

宮尾「つまり……保護者じゃない人を出場させるんですね?」

「当然の作戦。走りの得意な協力者を見付けてきて、親戚のふりをさせて出てもらうの」

ハルオ「ズルじゃねーか」

日高「信じられません。優秀な上蘭の人たちがそんなことするなんて……」

「むしろ生徒たちは毎年、どれだけ強力な助っ人を連れてこられるか、面白がって競争してるわ」

ハルオ「家族かどうかチェックしないんか」

「出場する人へ向かって学校が“本当に生徒の身内のかたですか?”って訊けるわけないでしょ」

宮尾「血縁関係について問いただすなんて、プライバシーの侵害も甚だしいですね」

「各クラスはそういうのも分かった上で、作戦を立ててくるのよ」

日高「とにかく、どうするんですか……? もう時間がないのに……」

「あなた、走ってく?」

メイドA「わたくしが?」

「小さい頃クラシックバレエやってたって聞いたわよ。運動神経いいんじゃない?」

メイドA「真様、御冗談を。この服装で走るなどあり得ませんわ。仮装競走ならともかく」

38 : 以下、名... - 2018/11/16 17:36:09.73 oBHl5UyH0 38/68

ハルオ(大野のやつ、何も手を打たねーまま今日になっちまったのか)

宮尾(頭脳明晰な大野さんが……何とかしないとクラス全体に迷惑が掛かるぞ)

ハルオ(だがある意味、当然の結果なのかもしれねぇ。ゲーム以外での共同プレイなんてこいつには……)

宮尾(大野さん、人付き合いが苦手そうだしな。何かを人へお願いするなんて慣れてないのかもしれない)

ハルオ(どうすんだ大野……)

宮尾(このままだと……)

「…」ジー

ハルオ(ん? 大野…)

宮尾(大野さんが…)

ハルオ宮尾(何かを見てる?)

ハルオ宮尾(その視線の先にあるのは……?)

「…」ジー

日高「え…?」

「…」ジー

日高「わ、私!?」

39 : 以下、名... - 2018/11/16 17:37:50.10 oBHl5UyH0 39/68

「…」コク

日高「私!? 私が走るの!? 大野さんと!?」

「…」コク

宮尾「ふむ……」

「…」

宮尾「大野さんらしい合理的な判断だな」

日高「宮尾君? どういうこと?」

宮尾「日高。まずこの場で、大野さんと二人三脚のペアを組める可能性があるのは誰だ?」

日高「それは……宮尾君、矢口くん。それから、私……」

宮尾「そして、その中で最初に候補から除外されるのは誰だ?」

ハルオ「宮尾、どーせ俺だって言いてぇんだろ?」

宮尾「そうだ。ハルオは勉強はもちろん、運動も全く駄目だ」

ハルオ「ぐっ、テメェ……まぁそのとおりなんだけどよ」

宮尾「コイツはゲームしか能がない、馬鹿でアホだ」

ハルオ「おい宮尾、いい加減にしねーと俺もう泣くぞ?」

宮尾「だからハルオは真っ先に候補から外れる。次に、ペアの相手を俺とする場合」

日高「うん」

40 : 以下、名... - 2018/11/16 17:39:37.12 oBHl5UyH0 40/68

宮尾「この可能性も簡単に排除できる。大野さんは多分、俺が引き受けるはずがない、と考えてるからだ」

日高「……」

宮尾「俺が大野さんの腰へ手を回し、体を密着させて走る」

日高「……」

宮尾「誰かさんの前で俺がそんなことをするはずがない、と考えてるんだ。そして、その考えは正しい」

ハルオ「宮尾、俺はもうツッコまねーぞ」

宮尾「大野さんらしい合理的な判断だ」

日高「……」

宮尾「日高しかいないんだ」

41 : 以下、名... - 2018/11/16 17:40:51.99 oBHl5UyH0 41/68

「小春ちゃん、姉の私からもお願いするわ」

日高「お姉さん……」

「晶を助けてあげて。このとおりよ」ペコ

日高「そんな…お姉さんが私なんかへ頭を下げたり、手を合わせたりしないでください」

ハルオ「日高。お前、走るの速かったよな」

日高「普通だよ……不得意ってわけじゃないけど」

宮尾「背の高さも大野さんと同じくらいだ。日高こそが適格だ」

日高「……」

ハルオ「日高。お前には今、バトルの舞台が用意されたんだぜ?」

宮尾「日高が最後の頼みの綱なんだ」

日高「……」

「…」

日高「分かった。やる」

42 : 以下、名... - 2018/11/16 17:42:36.26 oBHl5UyH0 42/68

「ありがとう!! 小春ちゃ~ん!!」ギュッ

日高「ちょ、お姉さん抱き付かないで…」

ハルオ「よし日高、やっぱオメェは勝負師! 真の漢(おとこ)だ!」

宮尾「男じゃないだろ……俺も、日高の決断に敬意を表するぜ」

日高「それで大野さん、私どうすればいい?」

「…」スッ

日高「あそこが集合場所なのね。いつ行く?」

「今から1時間後ってとこね」

日高「分かりました。じゃあ大野さん、私はそれに合わせてアップしておくから」

メイドA「まあすごい。本格的」

メイドB「晶様、心強いことでございますね。本当に良かったですわね」

「…」コク

メイドA「では皆様。今回のお食事、大変お粗末様でございました~」

「…」スック

メイドB「お粗末様でございました~。これよりお片付けをさせていただきたく存じます~」

「…」スタスタ

43 : 以下、名... - 2018/11/16 17:43:39.15 oBHl5UyH0 43/68

「小春ちゃん、靴は?」

日高「スニーカーです。問題ないと思います」

「スカートで走りにくくない?」

日高「大丈夫です。ミニにしてきて良かった」

ハルオ「日高」

日高「何?」

ハルオ「コケるなよ?」

日高「……」

ハルオ「ケガするだけじゃ済まねぇぞ?」

日高「……」

ハルオ「あいつはお前を引きずってでもゴールしようとするぞ?」

日高「それが何? 矢口くん」

ハルオ「……」

日高「ケガすることも、ほかのことも怖くなんかない」

ハルオ「……」

日高「怖気づくくらいなら最初から引き受けたりしない。ちゃんと走り抜いてみせる」

44 : 以下、名... - 2018/11/16 17:48:49.08 oBHl5UyH0 44/68

――二人三脚スタート前


『皆様、大変お待たせいたしました! これより保護者参加の二人三脚です!』

『毎年、激戦となるのはもちろん、準備段階での熾烈な駆け引きもあると噂されるこの種目』

『今年はどんなペアが息の合った走りを見せ、高ポイントを獲得するでしょうか!』


ハルオ「うわ~ホントだ。お姉さんの言ったとおりだぜ」

宮尾「スタート地点にいる人たち、見るからに速そうだな」

ハルオ「何かよぉ、保護者役の人がみんな“陸上部の速水”って感じじゃねーか?」

宮尾「何だそれ。保護者“役”って言い方は当たってるんだろうけど」

ハルオ「よくマンガに出てくるだろ? 陸上部の速水っていう、名前からして速そうなキャラが」

「生徒が男女別なのはほかの種目と同じだけど、組む保護者は男と女のどっちでもいいのよね」

宮尾「女子のペアは日高と大野さんだけです。ほかは全て、保護者役が大人の男性」

「400メートルっていう長丁場だから」

宮尾「二人三脚でその距離ですか。持久力も必要なんですね」

「ま、ここまでたどり着いた、出場できただけでも御の字よ……」

45 : 以下、名... - 2018/11/16 17:49:59.01 oBHl5UyH0 45/68

宮尾「と言いますと?」

「私、小春ちゃんには心の底から感謝してるの」

宮尾「……」

「晶の窮地を救ってくれたんだから……」

宮尾「……」

「もし棄権にでもなっちゃったら、クラスの中であの子の立場がどうなってたことか」

宮尾「そうですね……ただでさえ孤立してるみたいなのに」

「だから、小春ちゃんが引き受けてくれて、出場できただけでも…」

ハルオ「お姉さん!」

「え? 何よ」

ハルオ「お姉さんらしくねぇぜ! さっきからそんな眠たいこと言ってよォ!」

「え……」

46 : 以下、名... - 2018/11/16 17:51:24.80 oBHl5UyH0 46/68

ハルオ「“出場できた”ってことは、まだスタートラインに立っただけ、ってことじゃねーか!」

「……」

ハルオ「出場がゴールじゃねェ、勝負の決着がゴールなんだ! バトルはまだ始まっちゃいねーんだぜ!?」

「……」

ハルオ「大野だって、日高と組もうと思ったのは勝ちてェからだ!」

「…!」

ハルオ「大野は絶対、1着を狙ってる!」

「そうね……分かったよハルオくん! よし、気合いと酒入れて応援するわ!」グビグビ

ハルオ「お前も声出せ宮尾! 俺たちがここからあいつらへパワーを送るんだよ!」

宮尾「分かった。強そうな競走相手ばかりだが、二人が負ける場面なんか当然、見たくない!」

ハルオ「燃えてきたぜ! 逆境に打ち勝て大野! 日高!」

47 : 以下、名... - 2018/11/16 17:52:56.44 oBHl5UyH0 47/68

『1コースはA組。大野晶さんと、いとこのお嬢さんの可愛らしいペアです!』


日高(矢口くんの声が、このスタート地点まで聞こえる……)

日高(また保護者席で大騒ぎしてるんだな……)

日高(お姉さんも、宮尾君も叫んでる……)

日高(矢口くん、私たちを応援してる)

日高(“私たち”を応援してる)

日高(今は大野さんだけを応援してるんじゃない)

日高(私と、大野さん。私たちを応援してるんだ)

「…」グッ

日高(大野さんの手に力が入った)

日高(私の腰へ回した手に…!)

日高(行くぞ…!!)


パーン


『各クラス一斉にスタート!』

『まず抜け出したのはF組、G組……そしてA組!』

48 : 以下、名... - 2018/11/16 17:54:57.78 oBHl5UyH0 48/68

「いい感じじゃん! さっきペアを組んだばっかなんて信じらんない!」

宮尾「想像以上に息が合ってますね。その調子だ! 日高! 大野さん!」

ハルオ「うらぁぁあああ!! 行けやぁぁあああ!!」


『A組出た! A組が先頭!』

『女の子同士のペアがリード!』


日高(トップに立てた。今、私たちが1位)

日高(思ったよりうまくいってる)

日高(大野さんが私へ合わせてくれてる)

日高(ほかの組は予想したより速くない)

日高(思ったよりうまくいってる)


『A組ペア、軽快な走り!』

『全ペアの中で最も二人の体格差がないのが功を奏しているか?』

49 : 以下、名... - 2018/11/16 17:56:50.95 oBHl5UyH0 49/68

「すごい! 二人の脚と手が完全に同じ動きしてる!」

宮尾「二人の脚の長さがほとんど同じで、歩幅がそろっているのは有利です!」

ハルオ「よっしゃぁあ!! そのままブッチギリだぁぁああ!!」


日高(順調…)

日高(すごく順調)

日高(逆に、ちょっと拍子抜け)

日高(スタート前の緊張は何だったんだろ)

日高(私、力が入り過ぎてた…?)


『食らい付こうとするF組、G組!』

『だがA組がリードを広げる! このまま独走か!?』

50 : 以下、名... - 2018/11/16 17:58:00.82 oBHl5UyH0 50/68

日高(相手が大野さんだから…)

日高(私、力が入り過ぎてた?)

日高(緊張して損したかも)

日高(このままなら勝てる)

日高(ていうか、楽勝?)

日高(楽…)


グラッ


日高「あッ!?」


ドサッ


『転倒!!』

『何と転倒!!』

『トップを走るA組、まさかの転倒です!!』

51 : 以下、名... - 2018/11/16 18:00:53.03 oBHl5UyH0 51/68

「きゃああっ!?」

宮尾「日高!! 大野さん!!」

ハルオ「だあああッ!! 何やってんだあの馬鹿ども!!」


『A組、起き上がって走り始めた』

『しかし転倒の間に全ペアがその脇を通過』

『A組ペア、トップから最下位へまさかの後退です!』


「二人ともケガしてないみたい。良かった……」

宮尾「取りあえず、大野さんが日高を引きずって走るという地獄絵図にはならずに済みました」

「でも最下位……」

宮尾「いや、お姉さん。勝負はまだ終わってません!」

「そうね……決着はまだついてない!」

ハルオ「そっから全員抜けぇぇええ!! 諦めんなオラァアア!!」


『代わって先頭になったのはF組! それをG組が追う!』

52 : 以下、名... - 2018/11/16 18:03:31.43 oBHl5UyH0 52/68

日高(油断した…!)

日高(私のミスだ…!)

日高(それに今、大野さん…)

日高(私の下敷きに…!)

日高(私がケガしないように…!!)


『G組やや遅れた! 400メートルという長丁場で疲れたか?』

『トップのF組が快調にゴールを目指す!』


日高「大野さん!!」

「…」

日高「飛ばして!! 私ついてくから!!」

「…」コク


『あっ、最下位のA組が…』

『A組が爆発的に加速!』

『これは……何という速さでしょう!!』

『二人三脚とは思えないスピード!!』

53 : 以下、名... - 2018/11/16 18:04:48.16 oBHl5UyH0 53/68

「きたああああ!! 晶!! 小春ちゃん!!」

宮尾「大野さんのペース! それへ日高が懸命に合わせてます!」

ハルオ「行っけぇぇええ!! とっとと全員ブッコ抜けやぁぁああ!!」


『A組ペア、驚異的な走り!』

『最後尾から各ペアを次々と抜き去って、2番手のG組に迫る勢い!』

『抜いた! G組を抜いた!』

『残るは先頭のF組!』

『しかしゴールが近づいている! F組がラストスパート!』

54 : 以下、名... - 2018/11/16 18:05:47.09 oBHl5UyH0 54/68

「こうなったら絶対に1着よ!! 絶対に1着ッ!!」

宮尾「あの二人ならやってくれます!!」

ハルオ「うぉりゃぁああ勝負だ!! 駆け抜けろ!! 大野ぉぉおお!! 日高ぁぁああ!!」


『もうゴールラインは目前!』

『F組が逃げる! A組が追う!』

『並んだ!! ゴール手前で両者ついに並んだ!!』

『1着はどちらのペアか!?』

『A組か!? F組か!?』

55 : 以下、名... - 2018/11/16 18:07:40.52 oBHl5UyH0 55/68

――大野家観覧席


宮尾「あ、日高が戻って来た」

日高「エヘヘー! 勝ったどー!なーんてね♪」

「小春ちゃんすご~い!! ありがとね~!!」ギュッ

日高「ちょ、お姉さん抱き付かないでください…嬉しいけど」

「大好き~!! ほっぺスリスリしちゃう~!!」

日高「もう、くすぐったいですよぉ。ていうかお酒臭っ!」

宮尾「お疲れさん日高! すごかったな!」

ハルオ「よくやった、日高!」

日高「うん!」

56 : 以下、名... - 2018/11/16 18:08:59.38 oBHl5UyH0 56/68

「さ、小春ちゃん座って」

日高「はい!」

「何か飲む? お昼とおやつの時のがまだあるわよ」

日高「じゃあお水ください、ガス入りの!」

宮尾「ほう、憶えたな日高」

日高「今ってガス入りの飲物をゴクゴク、プハー!ってやりたい気分!」

ハルオ「あんな大逆転バトルをやったんだからな、喉も乾くだろうぜ」

日高「お仕事終わった後にビールで乾杯する人たちの気持ちが分かる気がする!」

「それならお嬢さん、一丁いきますか?」

日高「はい!」

「あソレ♪」

ハルオ宮尾「イッキ♪ イッキ♪ イッキ♪」

日高「…」ゴクゴクゴク

日高「…」プハー!

ハルオ宮尾「おお~!」パチパチパチ

日高「イェーイ♪」

ハルオ「何やってんだ俺ら」ボソ

宮尾「水なんだからいいだろ。急に一人だけ冷静になるなよ」

57 : 以下、名... - 2018/11/16 18:12:54.81 oBHl5UyH0 57/68

「晶は?」

日高「クラスの席の方へ行きました。まだ出場する種目があるみたいです」

宮尾「それにしても、一時はどうなることかと思ったぜ。まさか転倒するとは」

日高「あれは、私が悪いの」

ハルオ「日高が? 何かあったんか」

日高「私たち、途中までとっても順調に走ってたでしょ?」

「組んだばっかのペアなのにすごく息が合ってる、ってみんなで話してたわ」

日高「それで私が、油断しちゃって…」

「……」

日高「これなら楽勝かも、って思っちゃって。その時に走りのリズムが崩れたんです」

宮尾「邪念……」

日高「うん。集中が途切れた。それで大野さんとのリズムが狂って、バランスが取れなくなったの」

「何もかもうまくいってて、このまま独走って感じだったけどねぇ」

日高「うまくいったことで油断しちゃったんです。スタート前に緊張してたから、尚更……」

宮尾「ハルオが、コケたら大野さんは日高を引きずってでも走る、なんて言ったからじゃないのか」

ハルオ「俺のせいにすんなや。あり得る事態を忠告して何が悪りぃんだよ」

日高「3人ともごめんなさい。転んだことで心配させちゃって……」

「謝らないで。私は逆に、いくら小春ちゃんへお礼を言っても足りないくらい」

日高「いいえ、お姉さん。お礼を言うのは私の方なんです」

「どうして小春ちゃんが?」

日高「転んだ時…いえ、転ぶ時に、大野さんが私を助けてくれたんです」

58 : 以下、名... - 2018/11/16 18:15:01.61 oBHl5UyH0 58/68

ハルオ「転ぶ時に助けた? 意味分かんねぇ」

日高「私たちが倒れる瞬間、見てなかった?」

宮尾「二人でグラウンドへ折り重なったのは見たが…」

日高「その時、上の人の下敷きになったのはどっちだった?」

「……思い出した。晶ね」

日高「はい。大野さんが体を投げ出してくれて、その上へ私が倒れたんです」

ハルオ「……」

日高「私たちの服は二人とも上が半袖だけど、下は私がミニスカートで、大野さんがジャージ」

「じゃあ晶は、小春ちゃんがケガしないように…」

日高「そのとおりです。ジャージの自分の方がケガする確率が少ないからって、守ってくれたんだと思います」

宮尾「だがそれを、転倒する瞬間に判断し、同時に行動へ移した……?」

日高「バランスを崩したのは私なのに、大野さんは何が起きたか一瞬で分かって、先に倒れてくれたの」

「晶にケガは?」

日高「もちろん、ありません」

宮尾「日高を守っただけじゃない。自分自身もケガしないよう、うまい転び方をしたのか……」

ハルオ「やっぱ、あいつの反射神経と身体能力はバケモノだぜ」

日高「でも大野さんは、走って勢いがついてる最中に転んで、しかも人の下敷きになった」

ハルオ「……」

日高「とっても痛かったはず」

ハルオ「……」

日高「私はミスで大野さんをそんな目に遭わせた。だから、絶対に何とかしなくちゃって思った」

59 : 以下、名... - 2018/11/16 18:16:40.07 oBHl5UyH0 59/68

宮尾「それが、最後のあの走りにつながるのか」

日高「転ぶ前はずっと、私のペースで走ってた。大野さんがそれに合わせてくれてた」

宮尾「ああ」

日高「ほかのペアは思ったより速くなかった。私たちが先頭になった」

ハルオ「だが、そこで転倒か」

日高「一気に最下位になった。私は、絶対に何とかしなくちゃって思った」

宮尾「再び走り出してからは、より速い大野さんのペースに切り換えたんだな」

日高「私から言ったの。それ以外考え付かなかった」

ハルオ「あいつのハンパねぇスピードへついていこうとするなんて、無茶しやがるぜ」

日高「でもあの時、自分の中で何かを突き破った気が……脚も、体も、自分の物じゃないみたいだった」

宮尾「普段の運動能力以上のものが出たのか」

日高「私があんな速さで走れるなんて思わなかった」

ハルオ「限界を突破した、ってことだな」

日高「本当に速い人だけが見ることのできる景色。それを見た気がする」

「体へすっごい負担だったんじゃない? 今は何ともないの?」

日高「実はまだ、脚がちょっとガクガクしてます。でも大丈夫です」

60 : 以下、名... - 2018/11/16 18:20:01.60 oBHl5UyH0 60/68

宮尾「順位の発表まで少し時間が掛かったが、あれはどうしてなんだ?」

日高「ビデオ判定をしたんだって」

ハルオ「ビデオ判定!? 高校の体育祭で!?」

「専用の機械があるわけじゃないらしいけどね。微妙なゴールシーンは必ず検証するの」

宮尾「遺恨を残さないようにするためですか。そういうところも気合いが入ってますね」

「各クラス、プライド懸けてるから。学校側も対応しなくちゃならないから大変よ」

ハルオ「やっぱスゲェな上蘭……」

「でもビデオ判定の必要なんかなかったわね。ゴールシーンを見れば結果は明らか」

宮尾「そうですね」

日高「えっ…?」

ハルオ「そうだっけ?」

宮尾「ハルオは分からなかったか? お姉さんの言うとおり一目瞭然だったぞ」

日高「でもゴールはほとんど同時で、実際、ビデオ判定へ持ち込まれて…」

「小春ちゃん」

日高「はい」

「自分がゴールした時のこと憶えてる?」

日高「はい。一応…」

「その時、自分がどんな姿勢をとったか憶えてる?」

日高「あの時は胸をこう、ぐっと突き出して……陸上選手のやり方です」

61 : 以下、名... - 2018/11/16 18:22:14.14 oBHl5UyH0 61/68

「だから勝てたのよ」

日高「?」

「分からない? 小春ちゃんのぐっと突き出したソレが、ゴールラインを一番早く通過したのよ」

日高「!!」

「こんなに立派なモノ持ってんだからね、そりゃ勝てるわ」

日高「///」

「晶じゃ無理だった。あの子が小春ちゃんを組む相手に選んだのは、コレを使う作戦だったのかも」

日高「///」

宮尾「“鼻の差”ならぬ“胸の差”。日高のゴールシーンを見れば勝利は一目瞭然だったぜ」

日高「///」

ハルオ「ふーん、そうだったんか。こいつのこんなトコでも役に立つことが…」


バシィ


ハルオ「痛でェ!? なっ何しやがる日高!」

日高「うるさい! セクハラ男! エッチ! 最低!!」

ハルオ「な、何で俺だけ…」

日高「///」

ハルオ「ほかの二人も言ってたじゃねェか!」

日高「うるさいこのハレンチ男! 変態! シコリヌス三世!!」

ハルオ「だから何なんだよ、そのシコなんとかって……」

62 : 以下、名... - 2018/11/16 18:25:02.82 oBHl5UyH0 62/68

――大野晶専用車車内


ブロロロロ…


「いやー今日は楽しかったねー」

宮尾「はい。すごく楽しい一日でした」

日高「私もです」

「そう。喜んでもらえて何よりだわ」

日高「それに、大野さんのクラスが学年優勝できて良かったですね」

「小春ちゃんのお陰よ。二人三脚で1着になったんだから」

日高「私なんて何も……それより、最後の男女混合リレーの結果が大きかったんじゃないですか?」

宮尾「あれはすごかったな。また大野さんが、それも今日のラストを飾る種目で大活躍だ」

日高「アンカーの大野さん、何人も抜いて1着でゴールした」

宮尾「二人三脚の時みたいに最下位からじゃなかったが、それまでの劣勢を一気に覆したな」

「あれは体育祭フィナーレの、一番ポイントの高い種目だったからね。まぁ貢献はしたわね」

日高「大野さんがいなかったら、クラスは優勝してなかったと思います。間違いなく」

63 : 以下、名... - 2018/11/16 18:26:29.91 oBHl5UyH0 63/68

「晶もすごく楽しそうだった。あんなに楽しそうなあの子を見たのは久しぶり」

宮尾「表情とかは、ずっと変わらないように見えましたが……」

「私はあの子の姉だもん。私には分かるの」

日高「……」

「この体育祭はとってもいい思い出になったんじゃないかな。みんな、今日はありがとね」

宮尾「お姉さんがお礼を言う必要なんてありません。そうしなくちゃいけないのは僕たちです」

日高「うん。そのとおり」

宮尾「ハルオも……あ」

「ん? どしたの?」

宮尾「こいつ、眠っちまってます」

「あら。ハルオくんがずっと黙ってて不気味だなーって思ってたけど、そういうわけね」

日高「今日は一日、大騒ぎしてましたから。矢口くん」

宮尾「さすがに疲れたか」

日高「お姉さん」

「何?」

64 : 以下、名... - 2018/11/16 18:28:02.73 oBHl5UyH0 64/68

日高「お姉さん、今日は本当にありがとうございました」

「……」

日高「今日は私、体育祭に誘ってもらって、いろいろなことをしてもらって……」

「……」

日高「大野さんと走るっていう、考えてもみなかったこともして……」

「……」

日高「大野さんだけじゃなく私にも、いい思い出になりました」

「……」

日高「全部、お姉さんのお陰…」

じいや「お嬢様」

日高「……」

じいや「お嬢様」

日高「え…? 私ですか?」

じいや「はい」

日高「何ですか?」

じいや「真お嬢様も、お眠りになりました」

日高「あ……」

じいや「真様もお疲れだったのでしょう。お酒をたくさん召し上がったようでもいらっしゃいますし」

日高「あ。こっちも…」

じいや「はい?」

日高「宮尾君もいつの間にか眠っちゃってます」

じいや「おや。さようでございますか」

日高「みんな、楽しく騒いで……はしゃぎ疲れたんですね」

65 : 以下、名... - 2018/11/16 18:29:23.11 oBHl5UyH0 65/68

じいや「お嬢様もお眠りになってください。おうちへ着きましたら起こして差し上げますので」

日高「はい。ありがとうございます」

じいや「……」

日高「あ、あの……」

じいや「何でしょう、お嬢様」

日高「あの……今日はありがとうございました」

じいや「はて? 私はお礼を言っていただくようなことを、何もしておりませんが」

日高「……」

じいや「私の務めは送り迎えだけ。そして私は、その務めを果たしているだけでございます」

日高「でも…」

じいや「晶お嬢様を、お乗せして走る」

日高「……」

じいや「皆様を、お乗せして走る」

日高「……」

じいや「私は、この務めを果たしているだけでございます……」

日高「……あ、あの、でも……」

じいや「……」

日高「今日は、ありがとうございました……」

じいや「お眠りください、お嬢様……」

66 : 以下、名... - 2018/11/16 18:30:34.27 oBHl5UyH0 66/68

日高(……)

日高(今日……)

日高(まさか、私と大野さんが……)

日高(一緒に走るなんて……)

日高(考えてもみなかった……)

日高(私たちが……)

日高(協力して、一緒に何かをするなんて……)

日高(……)

日高(大野さん……)

日高(もし……)

日高(もし、矢口くんのことが、なかったら……)

日高(私たち、友達になれたかな……?)

日高(仲良しの友達に、なれたかな……?)

日高(もし、友達になったら……)

日高(大野さんの家へ、遊びに行って……)

日高(別世界の、大野さんの家のことをいろいろ教えてもらって……)

日高(外国のお話を、たくさん聞かせてもらって……)

日高(そういう仲良しの友達に、なれたかな……?)

日高(……)

67 : 以下、名... - 2018/11/16 18:31:51.00 oBHl5UyH0 67/68

日高(ううん……違う)

日高(やっぱり、違う……)

日高(こんな“もし”に、意味なんてない……)

日高(あり得ない“もし”のことを考えても、意味なんてない……)

日高(だって、私たちは……)

日高(矢口くんのことがあったから、知り合った……)

日高(矢口くんのことがなければ、知り合ってなかった……)

日高(だから私たちの間には、いつも、矢口くんがいる……)

日高(いつか……)

日高(いつか必ず、私たちには白黒つける時が来る……)

日高(矢口くんのことを……)

日高(そして、ゲームを……)

日高(いつか……)

日高(いつ……か……)

日高(……)

日高(……)スー

68 : 以下、名... - 2018/11/16 18:34:22.46 oBHl5UyH0 68/68

じいや(お嬢様も、お眠りになりましたか)

じいや(皆様が目をお覚ましにならないよう、より静かな運転を心掛けねばなりませんな)

じいや(皆様を、お乗せして走る……)

じいや(皆様それぞれの青春を、お乗せして走る……)

じいや(皆様、私は…)

じいや(この務めを果たすことに、強い誇りと…)

じいや(深い喜びを、感じております……)


ブロロロロ…





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