キョン「……?」
ハルヒ「なーにぼさっとしてんのよ!電気よ、で・ん・き!」
キョン「あ、ああ」
みくる「?」
古泉「……」
長門「……」
ハルヒ「もう春だって言うのに、一向に陽が長くならないわ」
キョン「そうか?」
ハルヒ「なんか最近PCのモニターの調子も悪いし……コンピ研の連中、よくもこんな不良品押し付けてくれたわね」
元スレ
ハルヒ「キョン、暗くなってきたから電気つけなさい」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1239371208/
キョン「どれ……うわ、画面真っ白だな、確かに壊れてるかもしれん」
ハルヒ「真っ白?」
キョン「明度のスイッチがおかしくなってんじゃないか……ああ、これで直った」
ハルヒ「はあ?」
キョン「お前なあ、他人を疑う前にしっかり自分でトラブルシューティングをしろよな」
キョン「こんなことでいちゃもんを付けられる隣の連中の身にもたまにはなってやれ」
ハルヒ「あんた寝ぼけてんの?明度はあたしが上げたのよ!」
キョン「……?」
ハルヒ「あーあー、もう画面真っ暗」
キョン「……ハルヒ?」
ハルヒ「それよりキョン、早く電気つけてよ」
キョン「おい、お前……」
ハルヒ「あんたそんなに暗いのが好きなの?根暗はこれだから嫌なのよ!」
みくる「涼宮……さん?」
古泉「……電気はついてます。今しがた彼がスイッチを入れてくれたおかげでね」
ハルヒ「え……そ、そう?蛍光灯壊れたのかしら」
キョン「……」
長門「……」
みくる「そ、そんな」
古泉「……非常に言いにくいのですが、この部屋は今、明るすぎるくらいです。」
ハルヒ「え?……何よ、それ」
キョン「冗談にしちゃ笑えないぞ、ハルヒ」
ハルヒ「なに……?あ、あんたたちこそ、もうエイプリルフールは」
古泉「……これは」
みくる「と、とにかく病院へ!」
~翌日~
古泉「――ええ、機関の傘下の病院になります」
キョン「……」
古泉「現代の持てる医療技術の全てがあると言っても過言ではないですよ」
キョン「そんなことはどうだっていいんだ」
古泉「でしょうね」
キョン「どうなんだ、ハルヒのやつは」
古泉「体温、バイタル共に至って正常。脳にも異常は見られませんでした」
古泉「ただ、急激に視神経が衰退しています」
キョン「……」
古泉「理由はわかりません。こちらとしても最善を尽くしてはいるのですが」
キョン「ハルヒの目は?」
古泉「今はもうほとんど見えていないでしょう。彼女は闇の中にいます」
キョン「どうなってんだよ……」
みくる「ふぇ……そ、そんな」
長門「……」
キョン「長門!どうにかならないのか!」
長門「今現在、私に涼宮ハルヒの情報へのアクセス権限が認められていない」
キョン「?」
長門「つまり、手出しはできないということ」
キョン「そんな」
古泉「非常に困った事態ですが、我々は見守ることしかできません」
キョン「くそ……」
みくる「うぅっ……」
長門「……」
古泉「とりあえずあなたは、今日の放課後彼女に会いに行ってあげてください」
キョン「言われなくたって行くさ!」
古泉「では、こちらで車は手配しましょう」
キョン「お前らも来るんだろう?」
古泉「……僕は仕事がありますので」
キョン「何?」
みくる「……わ、私も、やらなくちゃいけないことがあります」
キョン「朝比奈さん?」
長門「ここはあなたひとりでいくのが適切」
キョン「お前らまでどうしちまったんだ!」
古泉「わかってください、これは涼宮さんだけの問題じゃない」
古泉「世界の緊急事態なんです。僕達はそれぞれ、そういう組織の人間ですから」
キョン「……そうか、すまなかった」
みくる「本当にごめんなさい……」
キョン「いえ、いいんです。それより古泉、放課後まで待たなくていい、今すぐ車をよこしてくれ」
~病室~
コンコン
ハルヒ「……だれ?」
キョン「俺だ、入っていいか?」
ハルヒ「キョン……キョンなの?」
ガチャ
キョン「どうだ、気分は?」
ハルヒ「最悪よ、こんなの」
キョン「……」
ハルヒ「医者が目に包帯ぐるぐる巻きにして、これじゃ何も見えないし、不便極まりないわ」
キョン「仕方ないだろう、今は」
ハルヒ「ほんと大げさよね、たかだか眼精疲労くらいで」
キョン「(そうか、知らされてないんだな……)」
キョン「まあ、いい薬だと思ってゆっくり休めよ。普段あれだけ騒ぎまわってるんだ、こういう時間も必要さ」
ハルヒ「……何よ。失礼ね」
ガタッ
ハルヒ「あ……」
キョン「なんだ、飲み物なら俺が取ってやるから大人しく寝てろよ」
ハルヒ「あー、最悪」
キョン「ほれ、持てるか」
ハルヒ「……ありがと」
キョン「……」
ハルヒ「……ねえ、キョン」
キョン「どうした?」
ハルヒ「もし、ね?本当に万が一のことだけど……」
キョン「なんだ?」
ハルヒ「あたしこのまま目が見えなくなったら、どうしたらいいのかしら」
キョン「!」
キョン「な、何馬鹿なこと言ってるんだ」
ハルヒ「……冗談よ、冗談」
キョン「まったく、縁起でもないことを」
ハルヒ「あはは……でもね」
キョン「?」
ハルヒ「――目が見えないってこんなに怖いって、知らなかったわ」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「あたり一面が同じ色でね、まるで死んでるみたい」
ハルヒ「自分がどんな状況に置かれてるのかもわからない」
ハルヒ「あんたがあたしに喋りかけてなかったら、本当は自分は存在してないんじゃないかって思うくらいよ」
ハルヒ「手探りで、本当に文字通り闇の中を彷徨ってる、って感じね」
キョン「……大丈夫だ。すぐによくなるんだから」
ハルヒ「……」
キョン「(ハルヒのやつ震えてるのか……?)」
ハルヒ「あ、あんた、あたしがいないからってだらけた生活送ってたら承知しないわよ!」
キョン「なんだなんだ、急に悪態づいて。本当に元気だけが有り余ってるやつだな」
ハルヒ「無気力のあんたとは違ってね、フン!」
キョン「まったく……」
キョン「……」
ハルヒ「……キョン?」
キョン「ん」
ハルヒ「ああ、まだいたのね。黙ってたからもう帰ったのかと思ったじゃない」
キョン「……まだいるさ。お前が帰れっていうまでな」
ハルヒ「……な、何よ。あつかましいわね」
キョン「なんだ、帰ったほうがいいのか」
ハルヒ「別にあんたの好きにすればいいわよ!」
キョン「じゃあ、もう少しいるさ」
ハルヒ「……あっそ」
~翌日~
キョン「ハルヒのやつ、口では悪態ついてましたけど、多分不安なんだと思います」
みくる「そうですか……でも、当然ですよね」
古泉「おそらく相当な苦痛でしょうね、健常者が視界をいきなり奪われると言うのは」
キョン「……そのことなんだがな」
古泉「どうかしましたか?」
キョン「あいつは今、不安やらなんやらで、かなりストレスが溜まっていることだろう」
古泉「ふむ」
キョン「こんな状況、あいつが望んでいるのか?そもそも、あいつが失明することを望むわけがないだろう」
古泉「その質問の答えはわかりかねますが、ただ一つ言えるのは」
キョン「……」
古泉「今のところ、閉鎖空間が発生する気配は微塵もありません」
古泉「それは裏返せば、僕個人としてできることが何も無い、ということでもあります」
古泉「このままこの状態が続くのならば、それは――」
古泉「世界がそれを受け入れたということです」
古泉「いくら涼宮さんがそういった力の持ち主だとしても、彼女はあくまで無自覚です」
古泉「あなたは風邪を引いたとき、そんな世界が嫌だから世の中を改変しようとしますか?」
キョン「そんなこと俺にできるわけがないだろう」
古泉「涼宮さんも、そう思っているでしょうね」
キョン「……なるほどな」
古泉「本人はまだ完全に失明したことを知りません。そのうちよくなる、と思っているからの停滞ということも充分考えられますが……」
古泉「彼女にいきなり真実を伝えることが、どれほど危険なことか、あなたにも想像がつくでしょう?」
キョン「……ああ」
古泉「だからやっかいなのです。原因がわからないことも含めてね」
長門「……その件について、やはり何か大きな力が今の状況に影響していると考えて間違いない」
みくる「……ど、どういうことですか?」
長門「ただの病気ではない、ということ」
キョン「くそ……俺たちはどうすりゃいい?」
古泉「わかりません……今はまだ、何も」
キョン「ハルヒ、入るぞ?」
ハルヒ「……キョン?あんたもよっぽど暇なのね」
ガチャ
キョン「見舞いに来てやったのに随分な言われようだな」
ハルヒ「だって昨日の今日じゃない」
キョン「別にいいだろ」
ハルヒ「ははーん……さてはあんた、団長様がいなくて寂しいのね?」
キョン「はは、そうかもな」
ハルヒ「な、なによそれ」
キョン「お前がいないと静か過ぎて何か物足りない気はするってことだ。平和でいいけどな」
ハルヒ「いちいち言い方に灰汁があるのよあんたは!もっと素直に見舞えないの?」
キョン「お前が言えたことかよ!」
ハルヒ「はー、さっさとこんなとこ退院したいわ」
キョン「……そうだよな」
ハルヒ「なんで至って健康なのにこんなところに閉じ込められなきゃいけないのよ!」
キョン「ま、まあそうわめくなよ……気持ちはわかるが」
ハルヒ「そりゃあの日は少し目の奥に痛みがあったし、ちょっと休まなきゃとも思ったけど」
ハルヒ「もうなんともないのに何よ、この仕打ちは!」
ハルヒ「ええい、こんなもん……」
キョン「よ、よせ!ハルヒ!」
しゅるる
ハルヒ「……あ……あれ」
キョン「バカ、勝手に外したら!」
ハルヒ「なんで……?」
キョン「……あ」
ハルヒ「見え……ないよ?……なんにも、変わらない」
キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「なに……これ……うそよ、こんなの……」
ハルヒ「い……いや、こんなっ……やあ」
キョン「落ち着け、ハルヒ!」
ハルヒ「キョン、どこなの?キョン!」
キョン「(まずい、ハルヒのやつ完全に錯乱してやがる!)」
ハルヒ「見えない……みえないよ……なんで……」
ガシャン!
ハルヒ「痛っ……なに?あたしは今何にぶつかったの?キョン?どこ……きょん……」
キョン「ハルヒ!」
ぎゅ
ハルヒ「う……うう」
キョン「落ち着いてくれ!」
ハルヒ「あたし、もう目が見えないの?」
キョン「違う、すぐに治るんだ。だから安心しろ!」
ハルヒ「ひぐっ……怖いよ……きょん」
キョン「大丈夫だ、俺はここにいるからな」
~病院・ロビー~
みくる「キョンくんっ!」
キョン「ああ……朝比奈さん」
みくる「涼宮さんは?どうなったんですか?」
キョン「今は麻酔を打って眠っています。とりあえず落ち着きました」
みくる「ああ……」
キョン「古泉のやつが今医師に詳しい状況を聞きに行ってますから、もうすぐ帰ってくると思いますよ」
みくる「涼宮さん……かわいそう」
キョン「……」
みくる「なんで彼女がこんな目にあわなくちゃいけないんですか……?」
キョン「……」
みくる「こんなの残酷すぎます……ひっく」
キョン「……くそっ」
こつこつ
キョン「……おお、長門か」
長門「……」
キョン「お前もハルヒの容態を確かめに来たのか?」
長門「それも、ある」
キョン「?」
長門「……今日はあなたに伝えなくてはならないことがある」
キョン「なんだ?ハルヒのことについて何かわかったのか?」
長門「……二人だけで話がしたい」
キョン「ここじゃだめなのか」
長門「他の人間に聞かれることはあまり適切ではないと思われる。あなたのため」
キョン「そうか……じゃあ、朝比奈さん、すいませんが」
みくる「ええ、古泉君が来たらまた呼びに行きますね……」
キョン「で、なんだ話ってのは」
長門「涼宮ハルヒの失明の原因について」
キョン「わ、わかったのか!?」
長門「……確定的なものではない。あくまで候補の一つ」
キョン「かまわん、教えてくれ」
長門「……一週間前、私は涼宮ハルヒから相談を受けた」
キョン「一週間……前?」
長門「その内容に関する出来事が、今回の事件に関与している可能性がある」
キョン「そ、そんなのなんでもっと早く言わなかったんだ!」
長門「……」
キョン「なあ、長門!」
長門「……確証がなかったから。それと――」
キョン「それと?」
長門「あなたの精神に必要以上の負担がかかると感じた」
キョン「……なに?」
長門「……けれど、状況が好転しない以上、あなたに伝えておく必要性を感じた」
キョン「……」
長門「……一週間前、正確な話をすれば、2009年○月×日、午後四時十二分」
キョン「いったい、あいつはお前に何を……?」
~一週間前・部室~
ガチャ
ハルヒ「あら?まだ有希だけ?」
長門「……」
コクリ
ハルヒ「まったく、最近集まり悪いわね……」
長門「……」
ハルヒ「……ねぇ、有希?」
長門「……何」
ハルヒ「たとえばの話だけど」
長門「……」
ハルヒ「男が自転車の後ろに女の子乗せるとしたら、少なからず相手に好意を持っていたりするものなのかしら?」
長門「……?」
ハルヒ「……いや、特に意味はないのよ。ごめん、なんでもないわ」
ハルヒ「ただちょっと、昨日の夕方にキョンとあの佐々木って子が自転車二人乗りしてるの見かけてね」
長門「……」
ハルヒ「楽しそうだったから、結局あの二人はどういう関係なのかしら、って純粋に疑問を覚えたってだけなんだけど」
長門「……友人」
ハルヒ「え?」
長門「彼はそう、言っていた」
ハルヒ「いや、そうなんだけど。なんか、そういう感じがしなかったって言うか、もっとこう……あー、何言ってんだろあたし」
長門「……」
ハルヒ「やめやめ、こんなどうでもいい話!」
ハルヒ「大体なんであたしがキョンの人付き合いの心配なんかしなきゃいけないのよ、腹立つわね!」
長門「……」
キョン「そんなことが……」
長門「……この件が関係しているとしても、あなたに責任はない」
キョン「……」
長門「……だから今まで報告しなかった」
キョン「そうか……いや、すまなかったな。気を使わせちまって」
長門「……問題ない」
キョン「話してくれてありがとう、長門」
長門「……」
コクリ
キョン「……」
古泉「罪作りな人ですね、あなたも」
キョン「うわ!こ、古泉、いたのか」
古泉「すいません、盗み聞きするつもりはなかったのですが」
キョン「いいさ、長門は気を使ってくれたようだが、隠すことでもない」
古泉「でも、これで少し原因がはっきりしてきましたね」
キョン「……」
古泉「すいません、責めるつもりはまったくないんです」
キョン「わかってるさ……ただ」
キョン「俺がなんとかできるなら、俺がなんとかしなきゃいけない。それだけだ」
古泉「……それが今一番望みのある方法だと、僕も思いますよ」
古泉「手助けできなくて申し訳ありませんが、頑張ってください」
キョン「……言われなくても頑張るさ」
~数日後~
キョン「ハルヒ、入るぞ」
ハルヒ「……また来たの」
キョン「ああ、悪いが明日もくるぞ。あさってもな」
ハルヒ「暇人」
キョン「悪かったな。でも、本当に暇なんだから仕方がない」
ハルヒ「……別に気を使うことなんかないわよ」
キョン「言っただろ?暇だから来たんだ俺は。お前がいないと退屈でな」
ハルヒ「……」
キョン「だから早く元気になって戻って来い。このままじゃ教室が静か過ぎて気持ちが悪い」
ハルヒ「……」
キョン「……」
ハルヒ「……なんか喋りなさいよ」
キョン「え、あ、ああ……」
ハルヒ「喋らないなら、いたっていなくたって一緒よ」
キョン「お、おい」
ハルヒ「どうせあたしは目が見えないんだからね」
キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「何よ?自暴自棄になるなって言いたいの?そんなの無理に決まってるでしょ!」
キョン「……それは」
ハルヒ「あんたにわかる?視界を奪われることがどれだけ孤独で、どれだけ怖いのか」
ハルヒ「自分が今本当はどこにいるかだってわからないのよ。病院だと思ってるけど、ただ私がそう思い込んでるだけ」
キョン「馬鹿なことを考えるなよ」
ハルヒ「馬鹿なこと?あたしにはそれが馬鹿なのかどうかもわかんないわ!」
ハルヒ「手を伸ばした一メートル先に、何があるかもわからないのに!」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「……ごめん。あんたは何も悪くないのに……でも、今はちょっとまともに対応できそうにないわ」
ハルヒ「だから、帰って」
キョン「……いやだね」
ハルヒ「キョン!」
キョン「今までお前が俺にまともに対応してくれたことがあったか?」
ハルヒ「あ、あんたね……」
キョン「怖いなら俺にあたれ、不安なら全部吐き出せ」
ハルヒ「……」
キョン「いつもお前はそうやってストレス発散してるじゃないか」
ハルヒ「人を慰めるのかコケにするのかどっちかにしなさいよ!」
キョン「それでいいんだよ、はは」
ハルヒ「……うう」
キョン「それに、目が見えなくても孤独なんかじゃない」
ぎゅ
ハルヒ「ひゃっ!?」
キョン「な。これで俺がいるってわかるだろ?」
ハルヒ「(キョンの手……あったかいな……)」
キョン「(ちょ、ちょっと臭かったか……?)」
ハルヒ「……セクハラよ」
キョン「わ、悪かったな」
ハルヒ「でも、今日は特別に許してあげるわ」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「明日も、あさっても……特別に許す」
キョン「……そうか」
ハルヒ「……ありがと、キョン。なんか少し、元気でた気がする」
キョン「団長の役に立てるなら、団員として本望だな」
ハルヒ「団員、か……」
キョン「……?」
ハルヒ「ねぇ、キョン」
キョン「どうした?」
ハルヒ「あんたは、誰にでもこんな風に優しいの?」
キョン「はい?」
ハルヒ「……」
ハルヒ「知り合いの目が見えなくなったから、同情してくれてるの?」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「毎日毎日お見舞いに来て、話し相手になってくれて」
ハルヒ「もしこれがあたしじゃなくて、有希やみくるちゃんや古泉君でも、同じようにした?」
キョン「なんだよ、急に」
ハルヒ「そりゃ当たり前よね……別に意味はないのよ。ただ、なんとなく、ね」
ハルヒ「今日はありがと。少し疲れたからもう寝るわ」
キョン「そうか……明日もまた来るよ」
ハルヒ「……じゃあ、おやすみ」
キョン「ああ、じゃあな、ハルヒ」
バタン
ハルヒ「……手を繋いで、隣にいてくれたキョン」
ハルヒ「でも、それは私が特別だからじゃない」
ハルヒ「もし、私じゃなくて佐々木さんなら、キョンはどうしたの……?」
~数日後~
キョン「おーす、ハルヒ」
ハルヒ「いらっしゃい」
キョン「なんだ随分しおらしくなっちまったな。病院食で毒気も抜けたか?」
ハルヒ「……そうかもね」
キョン「おいおい……」
ハルヒ「……」
キョン「そ、そうだ!差し入れ持ってきてやったぞ!……ってもコンビニのデザートだけどな」
ハルヒ「ありがと、冷蔵庫に入れといてくれる?」
キョン「なんだ、せっかく持ってきてやったのに。今いらないのか?」
ハルヒ「……ひとりじゃ食べられないのよ、情けないことにね。夕食の時にまたお母さんがくるから、一緒に食べさせてもらうわ」
キョン「なんだそんなことか」
ハルヒ「そんなことってなによ!」
キョン「俺が食べさせてやれば済むことだろ」
ハルヒ「な……!」
キョン「ほれ、あーん」
ハルヒ「ちょっと、恥ずかしいからやめなさいよ!」
キョン「別に恥ずかしくないだろ、こうしなきゃ食べられないんだから」
ハルヒ「もう、とにかく置いといて!」
キョン「もうプリンのフタ開けちまったよ」
ハルヒ「何勝手にことを進めてんのよ!」
キョン「いいから、ほれ、口あけて」
ハルヒ「覚えときなさいよ、うう……あー」
キョン「ほい」
ハルヒ「……」
キョン「どうだ、うまいか?」
ハルヒ「……おいひいけど」
キョン「そうか、よかった」
ハルヒ「……もう一口」
キョン「はいはい」
キョン「ま、たくさん買ってきたから残りは冷蔵庫に入れとくぞ」
ハルヒ「……」
キョン「俺、今日も親御さん来るまではいようと思うから、また食べたくなったら言ってくれ」
ハルヒ「……ありがと」
キョン「なに、たいしたことじゃないさ」
ハルヒ「……ねえ」
キョン「?」
ハルヒ「キョンはどうしてここまでしてくれるの?」
キョン「……どうしてってお前」
ハルヒ「毎日毎日学校終わってから、すぐ飛んできて、夜遅くまでずっとここにいるでしょ?」
キョン「言われてみればそうだな」
ハルヒ「そんなのおかしいわよ」
キョン「……いや、俺にできることが何かあればと思ってだな」
ハルヒ「……」
ハルヒ「キョンがここまでしてくれるのは、あたしが可哀相だから?」
キョン「いや、かわいそうというか、なんというか」
ハルヒ「別にあたしだからじゃなくて、困ってる人なら誰でもそうなの?」
キョン「……ハルヒ?」
ハルヒ「もし、ここにいるのがあたしじゃなくて、みくるちゃんや、有希や、もっと別の人……その」
ハルヒ「佐々木さんなら、あんたはどうするの……?」
キョン「……!」
ハルヒ「……正直あんたのことがよくわかんないわ」
キョン「(やっぱりそれを気にしてたのか……)」
ハルヒ「ねえ、聞いてキョン」
ハルヒ「あたし、どうかしてるのかもしれない」
ハルヒ「でもね、どうしてもあんたに聞いてほしい」
ハルヒ「あんたが、あたしの手を握って『ここにいる』っていってくれた時、すごく嬉しかったのよ」
ハルヒ「真っ暗な中にいる自分に、小さな光が差した気がした。大げさじゃないのよ?」
キョン「……」
ハルヒ「前にも一度こんなことがあったの……あんたと初めて喋ったときのこと」
ハルヒ「キョンは忘れちゃったかもしれないけど、あたしは一生忘れない」
ハルヒ「目の前のあんたと一緒なら、きっとおもしろい毎日が過ごせる気がする、そう思ってただワクワクしたわ」
ハルヒ「それで、無茶苦茶に振り回してもあんたはいつも隣にいてくれて」
ハルヒ「でもね、どこかで同時にそれが特別なことであってほしい、って思ってたのよ」
ハルヒ「というか、勝手にあたしはそう思い込んでたのかもしれない」
ハルヒ「でも、時が経つにつれて段々そうじゃないってことがわかってきちゃったのよね」
ハルヒ「あんたはみくるちゃんにも、有希に対しても、周りの誰に対してもやさしかったんだもの」
ハルヒ「ただ、私が人よりわがままをごねてるから、黙って言うことを聞いてくれてただけなのに」
キョン「……ハルヒ、俺は」
ハルヒ「それに気付いて、あたしは愕然としたわ」
ハルヒ「正直、あんた少しはあたしに気があるのかと思ってたのよ」
キョン「……」
ハルヒ「でもね、そんなのまたあたしの勝手な思い込みだった」
ハルヒ「心の奥で、ただ、そうだったらいいな、って思ってただけなのよ本当は」
キョン「……お前」
ハルヒ「……」
ハルヒ「そして、自分のわがままで、あんたに迷惑ばっかりかけてるあたしが嫌いだった」
ハルヒ「でも、どこかでそれを否定しようとして、今まで以上にわがままになったわ」
ハルヒ「ほんとバカみたい。子供じみてて、何もわかっちゃいないのよ」
ハルヒ「そんなことしてるから、罰が当たったの」
キョン「……バチ?」
ハルヒ「少し前のことだけど、あたしたまたま通りがかったときに見たのよ」
ハルヒ「あんたが、佐々木さんと二人乗りで楽しそうにしてるところ」
キョン「!」
ハルヒ「あたしね、あんたのあんなに楽しそうな表情見たの、初めてだった」
ハルヒ「それで、思ったのよ。ああ、自分はキョンの日常にとってすごく邪魔な存在なんじゃないかって」
ハルヒ「でも、それを確信したとたん、なんだか今まであんたと居て楽しかった自分が否定されていくようで苦しかった」
ハルヒ「それと同時に佐々木さんが、あんたにとっての特別なんだって思って、すごくすごく悔しくって」
ハルヒ「こんなの嘘、こんなの現実じゃない、見たくないって思った」
ハルヒ「ほんとに子供でしょ?そんなこと考えてるから、罰が当たって目がみえなくなったのよ、きっと」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「……ううっ……ひっぐ……うぁ」
ハルヒ「大好きなのよ、あんたのこと……どうしようもないのよ!」
キョン「!!!」
ハルヒ「毎日気にかけてくれて、二人で居られて……本当はあたしこの数日すごく幸せだったわ」
ハルヒ「でも、幸せになればなるほど、どこかでまだ期待してる醜いあたしがいるの」
ハルヒ「ずっと目が見えないままなら、キョンもずっと傍にいてくれるんじゃないかとさえ考えたわ……」
キョン「な、何をバカなことを言ってるんだお前!」
ハルヒ「ほんと、救いようのないバカなのよ……薄汚くて、わがままで」
ハルヒ「今もこうやって優しくしてくれるキョンが好き……でも、そんなあんたに甘えて迷惑かけてるあたしは大嫌い」
ハルヒ「だから……もう来ないで。あんたが傍で優しくすると、あたし、また勘違いするから……」
キョン「……」
ハルヒ「ごめんなさい……ごめんなさい……ぐす……ひぐっ」
キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「……」
キョン「俺は今、すごく残念な気持ちだ」
ハルヒ「……そうでしょうね」
キョン「お前は本当に自分勝手で、勝手になんでもわかった気になって……」
ハルヒ「ううっ……ひっ……うぁ……」
キョン「最低だ、そんなもん」
キョン「俺がどれだけお前のことを心配して毎日過ごしてるか、お前にわかるか?」
キョン「お前が特別じゃない?優しいから同情で毎日毎日見舞いに来る?そんなやつ頭がイカレてるとしか思えんな」
ハルヒ「……え?」
キョン「少し冷静になったらどうだ」
ハルヒ「……あの」
キョン「お前には自転車の二人乗りする男女と、手を繋いでプリンを食べさせてやる男女のどちらが仲良く見えるんだ?」
ハルヒ「!?」
キョン「お前は俺がお前にプリン食べさせてる時どんだけ幸せな顔してたか知らないだろ!」
ハルヒ「……あ、あう」
キョン「あのな、いい機会だからはっきり言っといてやる」
がばっ
ハルヒ「ひっ!?」
キョン「お前のこと好きじゃないわけないだろうが……!」
ハルヒ「え?へあ!?ちょっ……んむっ!?」
ハルヒ「んんー!……ふぅん……んんっ……っぷは」
キョン「……」
ハルヒ「……」
キョン「な、なんつー顔をしとんだ、お前は」
ハルヒ「……あ、あの……その……はう」
キョン「……俺の言いたいこと、伝わったか?」
ハルヒ「……た、たぶん」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「……」
キョン「……」
ハルヒ「あのっ」
キョン「そのだなっ」
ハルヒ「あー……」
キョン「いや、うん……」
ハルヒ「ねえ、キョン……あのね」
キョン「な、なんだよ」
ハルヒ「今、あたしすごく辛い」
キョン「……ど、どうして?」
ハルヒ「あの、その……こんなに近くに大好きなキョンの顔があるのに、あたしそれが見れないの」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「すごく切なくて、こう……胸の奥の方がきゅんってなって……ふぇ!?」
ハルヒ「んん……ちゅ……ぷぁ」
キョン「まだ辛いか?」
ハルヒ「……まだ……もっと」
ハルヒ「んん……きょん」
すりすり
キョン「うう」
ハルヒ「あー、どうしよ……何これ」
キョン「今度は何だよ」
ハルヒ「あー……もー……あー!」
キョン「ええい、なんだ!」
ハルヒ「嬉しすぎて……訳わかんないのよぅ……」
キョン「そ、そうか」
ハルヒ「あたまぐるぐるするの……」
キョン「(こっちの台詞だ……)」
ハルヒ「……きょん」
キョン「……ん」
ハルヒ「……えへへ」
ぎゅー
キョン「なあ、ハルヒ」
ハルヒ「なに?」
キョン「まだ、怖いか?目が見えないのは」
ハルヒ「……ううん」
キョン「……」
ハルヒ「あんたの温もりと匂いに包まれて、今すごく安心してる……なんかね、その」
ハルヒ「ああ、あたしはもう大丈夫なんだ、って思うの」
キョン「そうか、ならいいんだ」
ハルヒ「……ありがと」
キョン「あれ、もうこんな時間か」
ハルヒ「……」
キョン「そろそろ親御さんも来る頃だろうし、俺はか……」
ハルヒ「……だめ」
ぎゅ
キョン「お、おいおい」
ハルヒ「もうちょっとだけ……お願い」
キョン「こんなところ見られたら気まずいだろ」
ハルヒ「んー……でも、まだこのままがいいの」
キョン「……ちょ、ちょっとだけだぞ」
ハルヒ「……ね、キョン」
キョン「?」
ハルヒ「今度はあたしから……」
ちゅ
キョン「!?」
ハルヒ「あ、あれ」
キョン「……そこは鼻だ」
ハルヒ「……あう」
キョン「……ずるいぞ、その顔」
ハルヒ「んっ……んちゅ……くちゅ……ふぅん」
ハルヒ「もー」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「なんか、ゾクゾクして、とろぉん、ってなる」
キョン「……そ、そうか」
ハルヒ「こんなの絶対クセになるじゃないの……あんた責任取りなさいよ」
キョン「いくらでもとってやるさ」
ハルヒ「……!?」
キョン「だから、お前は好きなだけわがまま言えばいい」
ハルヒ「キョン……」
キョン「俺は全部それを叶えてやるよ、できることならなんでもな」
ハルヒ「……」
キョン「これからもお前に引きずり回されて、振り回されてやる」
ハルヒ「……うん」
キョン「それはお前が、特別だからだぞ」
ハルヒ「……うん……ぐす」
キョン「おいおい、まだ泣くのかお前は……」
ハルヒ「う、うるさいわね!仕方ないでしょ、すっごく嬉しいんだから!」
キョン「はは」
~数週間後~
医師「じゃあ、包帯を取りますからね」
ハルヒ「……ねえ、キョン……あたし」
キョン「心配するな、大丈夫だ。みんなついてる」
古泉「ええ」
みくる「そうですよっ!」
長門「……」
ハルヒ「……うん」
しゅるる
ハルヒ「……」
医師「目を開けてみてください」
ハルヒ「……」
キョン「……ハルヒ?」
ハルヒ「……」
キョン「どうだ……?」
ハルヒ「……最悪だわ」
古泉「!」
みくる「そ、そんなぁ……」
長門「……」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「なんで、久しぶりに目を開けて最初に見るのがあんたのマヌケ面なのよ」
キョン「あ……」
みくる「……よかった……本当によかったですぅ……ひっく」
ハルヒ「もー、何も泣くことないじゃないの!みくるちゃんったら」
古泉「それだけ皆あなたの心配をしていたということですよ」
長門「……」
コクリ
ハルヒ「ふふ……ありがとうね、みんな」
ハルヒ「しっかぁし!SOS団団長、涼宮ハルヒはこれしきのことでは倒れないわ!」
キョン「あ……あ……」
ハルヒ「……ちょっと、キョン?」
キョン「す、すまん……なんか俺」
ハルヒ「ちょ、ちょっと汚いわね!鼻水拭きなさいよ!」
キョン「すまん……だめだな、俺は……」
ハルヒ「もう、情けないわね男のくせに!」
キョン「はは……よかった……よかった」
ハルヒ「……な、何よ、大げさなんだから」
キョン「だって、お前……うあ」
ハルヒ「そんな顔されたら、あ、あたしまで……その、泣けて……ぐす」
ハルヒ「ありがと……ありがと……ううっ……みんな……あたしっ……あたしぃ」
~一週間後・部室~
キョン「――と、まあ感動的な出来事を乗り越えて、だ」
ハルヒ「……あー、暇ね」
長門「……」
ハルヒ「ちょっと、みくるちゃん?」
みくる「……ひぃっ!な、なんですかぁ……」
ハルヒ「そろそろ写真集第二弾の作成に取り掛かろうと思うわ……ウフフ」
みくる「ぴぃーっ!」
キョン「そんなことはまるで遠い日の思い出だったかのように、SOS団は日常に戻ったな」
古泉「いいじゃないですか、平和でなによりです」
キョン「……この状況が平和だと思えるのもある種病気だな」
古泉「まったくです……でも、悪い気はしませんよ」
長門「……」
キョン「まあ、退屈はしないわな」
ハルヒ「こぉら、待ちなさい!みくるちゃん!」
みくる「びぇええええええええええ」
キョン「前と同じ日常、か……」
キョン「(本当はひとつ、変わったこともあるんだけどな)」
長門「……」
古泉「フフフ」
キョン「なんだ、急に。気持ち悪いな」
古泉「いえ、なんでもありませんよ」
ハルヒ「ったく、もー。みくるちゃんはいつの間にあんなに逃げ足が速くなったのかしら?」
キョン「そりゃ、人間には環境適応能力があるからな。生きていくためだ」
ハルヒ「ま、いいわ。撮影は後日、新しい衣装を揃えてからにするから。じゃあ、今日は解散!」
古泉「お疲れ様です、ではまた明日」
長門「……」
パタン
ハルヒ「お疲れ様!」
キョン「さて、俺も帰るか」
ハルヒ「……ちょっと」
キョン「……な、なんだ?」
ハルヒ「いいから座りなさい」
キョン「あの、用事なら明日に」
ハルヒ「い・い・か・ら!」
キョン「わ、わかったよ」
ハルヒ「……」
キョン「……」
ハルヒ「んふふー」
キョン「う……」
ハルヒ「よいしょっと」
キョン「なんで膝の上なんだ、いつも」
ハルヒ「ここが新しい団長席だからよ!」
キョン「あのな」
ハルヒ「だから、その……団長以外は乗せちゃだめなんだからね!」
キョン「……ああ」
ハルヒ「……ん、キョン」
キョン「な、なんだよ」
ハルヒ「ほんとによかった……またキョンの顔が見られるようになって」
キョン「……ハルヒ」
ハルヒ「んちゅ……んん……」
ハルヒ「ふにゃ……」
キョン「そ、それにしてもちょっと最近回数が多くないか、一日の」
ハルヒ「だって、なんかその……こう、してないと落ち着かないっていうか」
キョン「な、なんだそりゃ」
ハルヒ「もー……あんたのせいよ、ばか」
すりすり
キョン「ぐぐ……」
ハルヒ「んん、きょん……」
キョン「……ちくしょう」
なでなで
ハルヒ「えへへ」
ガチャ
キョン「!!」
ハルヒ「!?」
みくる「あわわわわわわわわわわわわわ」
ハルヒ「み、みくるちゃん!ち、ちがうのよこれはっ……!」
キョン「ああ……頭が痛い」
みくる「おぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
ばたんきゅー
ハルヒ「きゃー!みくるちゃんが倒れたわ!」
みくる「ありえん……まじでありえん……リア充ありえん……」
キョン「あ、朝比奈さん!しっかりしてください!!」
みくる「うふふ……捕まえてごらんなさぁい……そっちは残像よ……うふふ」
ハルヒ「み、みくるちゃん!?気をしっかり持つのよ!!」
おしまい