≪甘ずっパイ≫
男「…………」
女「…………」
男(こいつとのデート、別につまんないってわけじゃないんだけど……)
女(近頃マンネリになってきてるなぁ……)
女「ねえ、甘い物でも食べない?」
男「そうだな。お、ちょうどいいところに≪パイ屋≫なんてのがあるぞ」
女「入ってみよっか」
元スレ
パイ売り婆「いっひっひ、不思議なパイはいかがかね?」孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1537964887/
―パイ屋―
婆「いらっしゃい」
孫娘「いらっしゃいませ」
男(おばあさんと女の子だ……)
女(パイのいい匂いがするわぁ)クンクン
女(店内には何席か食べるスペースもあるのね。なかなかよさそうな店じゃない)
男「えーと、君はアルバイト? それともお孫さん?」
孫娘「孫よ」
婆「この子はうちの看板娘さ。いっひっひ」
女「お店を手伝ってるなんて偉いわね。よっぽどパイが好きなんだ?」
孫娘「あたし、パイ嫌いなのよね」
男「え、嫌いなの」
孫娘「大っ嫌い」
婆「まったく困ったクソガキだろう? いっひっひ」
孫娘「お互い様でしょ、クソババア」
男(なんなんだ、この二人……)
孫娘「そんなことより、色んなパイがあるから見ていってちょうだいよ」
男「うん、どれどれ……」
男「アップルパイにチェリーパイ、ミートパイもある」
女「どれもおいしそー!」
男「……って、バラエティ番組とかで見かける“パイ投げ用のパイ”まで!」
婆「ぶつけたい相手がいるなら、買ってみるのもいいかもねえ」
男「そんな人はいませんけどね」
女「でも、これだけあるとどれにするか決められないね~、どうしよっか」
孫娘「なんだったら、あなたたちの悩みに応じたパイを出すこともできるわよ」
女「悩み? どういうこと?」
孫娘「おばあちゃんはね、不思議なパイを作れるの」
男「商品はショーケースに並んでるパイだけじゃないってこと?」
孫娘「そ」
孫娘「おばあちゃんはお客の悩みを解決できるパイを出す、なんてこともやってるのよ」
男「へぇ~」
孫娘「ただし本当に解決するかまでは保証しないけどね。あくまで自己責任よ」
男「……どうする?」
女「ちょっと……興味あるね」
婆「それじゃ悩みを聞かせてもらおうかい」
男「俺たち、付き合ってからもう何年かになるんですけど」
男「最近どうも……なぁ?」
女「うん、嫌いになったってわけじゃないんだけど、関係がマンネリ化しちゃったっていうか」
婆「なるほど、そういうことかい。だったら、こんなパイはいかが?」
婆「その名も≪甘ずっパイ≫!」
男&女「甘ずっパイ!?」
婆「初恋は甘酸っぱいっていうだろう? これを食べれば初めて出会った時の気持ちを思い出せるよ」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
男「へえ、本当だったらすごいな」
女「せっかくだし、食べてみよっか」
男「…………」モグッ
女「…………」パクッ
男「おおっ、本当に甘酸っぱい」
女「でも、おいし~!」
男「……ん?」ホワァァァァァ
女「……あら?」ホワァァァァァ
婆「いっひっひ、初めて出会った頃の新鮮さを思い出してきたようだねえ」
婆「あんたも早く誰かに恋くらいしたらどうだい」
孫娘「あたし、恋って嫌いなのよね。他人に心を奪われるなんてまっぴら」
婆「やれやれ……困った子だよ」
男「お前、ふざけんなよ!」ガタッ
女「なによ、あんたこそ!」ガタッ
男「お前みたいなムカつく女、初めて出会った!」
女「私だって! こんなサイテーな男、見たことないわ!」
婆「あら?」
男「おいおばあさん、このぶつける用のパイをありったけ売ってくれ!」
女「私にも!」
孫娘「どういうことなの、これ?」
婆「どうやら、この二人……第一印象は最悪だったみたいだねえ。いっひっひ」
男「このぉぉぉぉっ!」ポイッ
女「ぶっ!」ベチャッ
女「でやぁぁぁぁっ!」ポイッ
男「ぶっ!」ベチャッ
孫娘「おばあちゃん……どうすんのこれ」
婆「いひひひ、どうしようかねえ……」
ヒュンッ ヒュンッ
孫娘「ぶっ!」ベチャッ
婆「ぶっ!」ベチャッ
婆「やってくれたねえ……二人とも」サッ
孫娘「あたし、パイぶつけられるのって嫌いなのよね」サッ
男「オラァァァッ!」ポイッ
女「えええいいっ!」ポイッ
婆「い~っひっひっひ!」ポイッ
孫娘「10倍に返してやるわ」ポイッ
ポイッ ベチャッ! ポイッ ベチャッ! ヒューンッ ベチャッ! ベチャッ! グチャッ! …
ベットリ…
男「ハァ、ハァ、ハァ……」
女「ハァ、ハァ、ハァ……」
男「パイをぶつけ合って分かった……俺、やっぱり君が好きだ!」
女「私もよ! またこうやってぶつかり合いましょ!」
婆「おやおや、二人ともすっかり昔の状態に戻ったようだねえ……いっひっひ」
孫娘「次はクリームまみれになった店を昔の状態に戻さないとね」
―おわり―
≪安全パイ≫
―会社―
グラグラ…
弱気男「わーっ! 地震だっ!」ササッ
同僚「え?」
同僚「なんだ……。せいぜい震度2とかだろ、これ。ビビりすぎだろ~」
クスクス… ハハハ…
弱気男「ううう……」
弱気男(なんだよ、前震の可能性だってあるじゃないか!)
ブロロロロロ…
弱気男(あの車がもしボクに突っ込んできたら……)
弱気男(もしもこの橋が、ボクが渡ってる最中に崩れたら……)スタスタ
通行人「…………」スタスタ
弱気男(前を歩いてるあいつ、もしかしたら通り魔かも……)
弱気男(ああ、世の中ってなんて危険がいっぱいなんだ!)
弱気男「はぁ~……この世に安全な場所ってないのかなぁ……」
スタスタ…
弱気男「ん、パイ屋?」
弱気男(普段は絶対行きつけの店にしか入らないような慎重なボクだけど――)
弱気男(なぜか、あの店には惹かれるものがある……)
弱気男(入ってみるか……)
―パイ屋―
婆「いらっしゃい」
孫娘「いらっしゃいませ」
弱気男「あ……どうも……」
男「アップルパイうまいな」
女「うん」
弱気男「…………」オドオド
孫娘「ご注文は?」
弱気男「あ、いや、その……」
孫娘「あたし、オドオドしてる人嫌いなのよね」
弱気男「ご、ごめん」
男「どうやらあなたもなにか悩みを抱えてるみたいですね」
女「ホント! だったらおばあさんに相談してみたら?」
弱気男「悩みを?」
男「ここのおばあさんは不思議な力を持つパイを作れるんだよ」
女「私たちもパイのおかげでまたアツアツになれたの!」
孫娘「あの後掃除が大変だったわ。あたし、掃除って嫌いなのよね」
婆「いっひっひ、どうするね?」
弱気男「うーん、だったら……」
弱気男「実はボク……大変なビビりで。危険にあわないように安全に暮らしたいんです!」
弱気男「そんなパイはないでしょうか!?」
婆「だったら……これだねえ。≪安全パイ≫!」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
弱気男「安全パイ? 麻雀の用語みたいですね……」
婆「これを食べれば、あんたは安全に暮らすことができるよ」
弱気男「ホントですか!?」
婆「ただし、食べすぎに注意しないといけないよ。動けなくなっちまうから」
弱気男「ボクは小食ですし、動けなくなるほど食べたりしませんよ」
弱気男「これください!」
婆「いっひっひ、毎度あり」
店を出て――
弱気男(さっそく一口……)モグッ
弱気男(うん、どことなく安心感のある味だ)モグモグ
弱気男「……ん?」
ゴゴゴゴゴ…
弱気男(なんとなくあっちは危険な気がする……こっちの道を行こう)スタスタ
ドガシャァンッ!
弱気男「!?」
ワイワイ… ガヤガヤ…
「なにがあった!?」 「あっちで建設現場の鉄骨が落ちたんだって!」 「あっぶねー!」
弱気男(おおっ!)
その後も――
弱気男(タクシーに乗らないと……。あ、ちょうど一台来てる)
ゴゴゴゴゴ…
弱気男(あのタクシー、なんか危険な感じがする。やめておこう)
~
テレビ『タクシードライバーが乱暴な運転で事故を起こしました……』
テレビ『これが現場の映像です……』
弱気男(さっきボクが乗りそうになったタクシーじゃないか!)
弱気男(すごい……すごいぞ! 安全パイは本物だ!)
―アパート―
弱気男(あれからこのパイのおかげで、ボクは何度も危機を回避できた……)
弱気男(安全パイさえあれば、ボクはずっと安全に生きられる!)
弱気男(でも、どうせだったらもっともっと危険に敏感になりたい!)
弱気男(危険を察知するどころか、危険に近づけないようになりたい!)
弱気男(よぉし、もっともっと食べちゃおっと!)ガツガツムシャムシャ
弱気男「……ふぅ、食った食った」ゲップ
弱気男(うふふ、これでもうボクは危険にあわずに済む!)
弱気男「……ん?」ピクッ
弱気男(あれ、体が動かない!? 動けない!? 声も出せない! どうしてだ!?)
弱気男(んんん……!)
弱気男(んぐぐぐ……!)
弱気男(もしかして……!)
婆『ただし、食べすぎに注意しないといけないよ。動けなくなっちまうから』
弱気男(あれは食べすぎで動けなくなるって意味じゃなく、本当に動けなくなるってことだったのか!?)
弱気男(世の中は危険でいっぱいだから……!)
弱気男(ってことは、ボクはずっとこのままなのか!?)
弱気男(誰か助けて……誰か……!)
弱気男(ああああああっ……!)
………………
…………
……
弱気男(動けなくなってからどれだけの時間が流れたんだろう……)
弱気男(ボクはこのまま餓死してしまうのだろうか……)
ピクッ
弱気男「ん?」ムクッ
弱気男「あれ? 動ける? なんでいきなり? やったぁ!」スタタタッ
ドガァァァァァンッ!!!
弱気男「うをおおおおおおおおおおおおお!!?」
ガチャッ
運転手「いてて……スピード出しすぎて、アパートに突っ込んじまった!」
運転手「だ、大丈夫か!?」
弱気男「…………」
運転手「もしもし!? 大丈夫か!?」
弱気男「ありがとう……」
運転手「へ?」
弱気男「あなたのおかげで助かった……危険が来てくれたおかげで助かった……」
弱気男「ありがとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
―パイ屋―
弱気男「いやー、あれ以来、すっかりスリルに目覚めちゃいましてね!」
弱気男「休みの日は、ちょっとした冒険に出かけてるんですよ!」
弱気男「じゃ、今日もおやつにパイを買って……行ってきます!」スタスタ
孫娘「おばあちゃん、あの人すっかり変わっちゃったわね」
婆「不思議なもんで、人間なんてのは安全に安全に生きようとするより」
婆「ちょいと危険に出くわすぐらいのつもりで生きた方が、かえって安全に生きれるもんなのさ」
孫娘「そういうものなの?」
―おわり―
≪酢パイ≫
―パイ屋―
黒服「…………」コソコソ…
コソコソ… コソコソ…
孫娘「さっきからなにやってるの?」
黒服「わっ、バレた! やはり私には才能がないのか……」
孫娘「あたし、コソコソしてる人嫌いなのよね」
孫娘「うちの店になにか用? まさかスパイ?」
黒服「あってるというか、違うというか……」
黒服「この店は悩みを解決するパイを出してくれると聞いて、やってきたのです!」
黒服「実は私、政府直属の秘密諜報組織に所属しているのです」
孫娘「へえ、すごいじゃない」
黒服「ただし、事務要員なのですが」
孫娘「なーんだ」
孫娘「それで? 秘密組織の事務員さんがなんの用?」
黒服「実は私、ある同僚の女性に惚れてまして、プロポーズしたいと考えておりまして」
黒服「そうなるとやはり、給料のいいスパイ要員になりたいと思い立ったのです!」
黒服「そう、我が組織伝説のスパイ≪紫サソリ≫のような!」
黒服「だからお願いします! どうか、一流のスパイになれるパイを売って下さい!」
孫娘「だってさ、おばあちゃん」
婆「だったら……≪酢パイ≫しかないだろうねえ」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
婆「これを食べると、まるで一流のスパイのように気配を消すことができるよ」
黒服「素晴らしい! ぜひそのパイをください!」
―諜報組織の拠点―
黒服「あのっ!」
上司「なんだね?」
黒服「ぜひ、私をスパイ要員にして下さい!」
上司「君が? 事務では優秀だが、とてもスパイ任務に向いてるとは思えんが……」
黒服(ここで酢パイを食べる!)モグッ
黒服(うん、酢の味がきいててうまい!)モグモグ…
上司「……ん?」
上司「あれ!? 黒服君が消えた!?」
黒服「なにいってるんです? 私はここにいますよ」
上司「おおっ! 完全に気配が消えていた! 素晴らしい!」
上司「ふむ……君をスパイとして使ってみるのもいいかもしれんな。上にかけ合ってみよう」
黒服「ぜひお願いします!」
事務女「…………」
事務女「ねえお願い、スパイなんてやめて! 危ないわ!」
事務女「あなたは荒事に向いてる性格してないもの!」
黒服「大丈夫さ。私にはすごいパイがついてるからね!」
黒服「それに、スパイ任務につけば給料もぐんと上がる。そうなったら君に……」
黒服(君に告白する!)
黒服「とにかく、見ててくれよ! 絶対すごいスパイになってみせるから!」
黒服「そう、うちの組織で伝説になってる正体不明のスパイ≪紫サソリ≫のように!」
事務女「…………」
しばらくして――
上司「あれから色々テストをしたが、君の気配を消す力は本物だ」
上司「さっそく、君をある任務に使うことに決まった」
上司「ただし、無理はしないように。危ないと思ったらすぐに引き返してくれ」
黒服「ありがとうございます!」
黒服「よぉし、この初任務、絶対成功させてみせるぞ!」
事務女「ねえ、考え直して……」
黒服「大丈夫! 絶対成果を上げてみせるよ!」
任務当日――
黒服(あの外国人のワルが大勢いる店に乗り込んでくればいいんだな)コソコソ…
黒服(危険な任務だけど、酢パイさえあれば大丈夫!)モグモグ…
黒服「よし、行こ――」
事務女「待って!」ガシッ
黒服「え」
事務女「やっぱりあなたにこんな任務は無理よ! 行っちゃダメ!」
黒服(あれ? 酢パイを食べたはずなのに、どうして……)
事務女「私、あなたが好き! だからスパイなんて危ないことやって欲しくないの!」
黒服「…………」
黒服「……嬉しいよ、ありがとう。分かったよ……私はスパイをやめるよ」
―パイ屋―
黒服「……というわけで、私はスパイ要員をやめ、やはり事務仕事をこなすことにしました」
黒服「スパイになれなかったのは残念ですが、彼女と付き合うことができましたし」
黒服「結果オーライですかね!」
婆「そりゃあなによりだねえ」
孫娘「あたし、ノロケ話嫌いなのよね」
孫娘「それにしても、事務の人に見破られちゃうなんて、おばあちゃんのパイも大したことないね」
婆「いうじゃないか、クソガキ」
婆「おかしいねえ。酢パイを食べれば一流のスパイのように気配を消せるはずなんだけど……」
孫娘「だったら、超一流のスパイだったら見破れるってこと?」
婆「そうなるねえ」
孫娘「あ」
婆「どうしたんだい?」
孫娘「あのお客さんの組織にいる伝説のスパイ≪紫サソリ≫の正体って、もしかしたら――」
―おわり―
≪おっパイ≫
黒髪女「あの……付き合って下さい!」
イケメン「ごめん……」
黒髪女「ど、どうして……」
イケメン「胸が……」
黒髪女「え?」
イケメン「君ってさ……胸が小さいんだよね」
黒髪女「!」ガーン
―パイ屋―
孫娘「それでたまたま見かけたこの店に寄ったわけね」
黒髪女「そうなのぉ~」シクシク
黒髪女「男なんて、男なんてぇ、クキーッ!」
孫娘「あたし、女の価値は胸の大きさにあると思ってる男って嫌いなのよね」
婆「あんたもでかくはないからねえ」
孫娘「うるさいババア。まだ発展途上よ」
婆「まあ、そんなあんたには≪おっパイ≫がオススメだねえ」
黒髪女「おっパイ?」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
婆「一口食べてごらん」
黒髪女「はい……」モグッ
黒髪女「!」ムクムク…
黒髪女「胸がおっきくなった!」
婆「いっひっひ、どうだい? すごいだろう?」
黒髪女「はいっ! ようし、このナイスバディで世の中の男を悩殺してやる!」
孫娘「……おばあちゃん」
婆「なんだい?」
孫娘「さっきのパイ、あたしにも――」
孫娘「ううん、なんでもない」
婆「?」
黒髪女「ふんふ~ん」ボインッボインッ
通行男A「うおっ! なんだあの女!」
通行男B「すげえ……モデルか? グラビアアイドルか?」
通行男C「鼻の下が伸びちまうぜ……」
黒髪女(うふふ……すれ違う男がみんな、私の胸を見てるのが分かるわぁ~)
黒髪女(だけど、世の中を見渡すと――)チラッ
セクシー女「…………」ボインッ
黒髪女(私より胸が大きい女はまだまだいる……!)
黒髪女(負けてたまるもんですか!)
黒髪女(もっと! もっとおっパイを食べなきゃ……!)ガツガツムシャムシャ
ボイーンッ
黒髪女「やったわ! ものすごく大きくなった!」
黒髪女「今の私は、間違いなく胸の大きさ世界一だわ! オーッホッホッホッホ!」
フワッ…
黒髪女「え?」
フワフワ…
黒髪女「ちょっ、体が浮き始めた!」
黒髪女「どうなってんのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
フワフワ…
黒髪女「ひいいいいっ! どこまでいくの!? もう屋根よりも鯉のぼりよりも高いわ!」
カラス「カー、カー」バサバサ
黒髪女「ゲ、カラス!」
カラス「カー!」ツンツン
黒髪女「ちょっ、やめて! 胸をつつかないで!」
ブスッ
黒髪女「あ」
黒髪女「あらぁぁぁぁぁっ!!! 胸がしぼんでぇぇぇぇぇ!!!」プシュゥゥゥゥゥ…
カラス「アホー!」
黒髪女「このバカガラスがぁぁぁぁぁ!!!」
ヒュルルルルルル…
ドサッ!
黒髪女「いたたたた……!」
黒髪女(しぼみ途中だった胸がクッションになって、助かったわ……)
青年「大丈夫ですか?」
黒髪女「はい……」
黒髪女(あ~あ、胸がすっかりしぼんじゃって……まな板みたいに……)
青年「!」ハッ
青年「あ、あのっ!」
黒髪女「はい?」
青年「僕、あなたのような胸がぺったんこな女性がタイプなんです!」
青年「付き合って下さい!」
黒髪女「えっ……」ドキンッ
黒髪女(これ……もしかして、運命の出会い……?)
―おわり―
≪孫娘がよく食べるパイ≫
―パイ屋―
男「いやー、この店のパイはどれもうまいね」モグモグ
女「ホント」モグモグ
婆「いっひっひ、どうもありがとうねぇ」
男「ところで、孫娘ちゃん」
孫娘「なに?」
男「この店にはこれだけのパイがあるのに、君の好きなパイはないの?」
孫娘「ないわ」
男「即答!?」
女「昔から嫌いだったの?」
孫娘「ううん、昔は好きだったわ。でも小さい頃――」
~
婆「さ、たーんとパイをお食べ」
孫娘「うんっ!」
婆「もっともっとお食べ」
孫娘「う、うん」
婆「もっともっとォォォォォ!!!」グイグイ
孫娘「んぐっ……んがっ! ……ぐえっ!」
~
孫娘「これで嫌いになったの」
男「おばあさん、そりゃ100%あんたが悪いわ」
婆「やっぱりそうかい?」
婆「でも、この子もまったくパイを食べないってわけじゃないんだよ」
婆「よく食べるパイもあるのさ」
男「へぇ~、どんなパイ?」
婆「これさ」サッ
男「うおっ、緑色のパイ……?」
女「あんまりおいしそうには見えないけど……」
婆「たしかにうまくはないよ。ほら、お食べ」
孫娘「うん」モグッ
孫娘「…………」モグモグ
孫娘「まずい! もういっパイ!」
婆「ほらね?」
男「ああ、なるほど……」
女「青汁で作ったパイなのね、きっと」
男「でも、店をよく手伝ってるよね。おばあさんのことは好きなの?」
孫娘「好きじゃないわ」
男「じゃあ嫌いなんだ?」
孫娘「……嫌いじゃないわ」
男「やっぱり好きなんだ!」
孫娘「好きじゃない」
男「じゃあ嫌いなの?」
孫娘「……嫌いじゃないってば」
男「はっきりしないなぁ、どっちなの?」
孫娘「…………」
ベチャッ!
男「ぶっ!」
孫娘「あたし、0か1かでしか物事を考えられない人嫌いなのよね」
婆「いっひっひ、この子とあたしの関係は好き嫌いで表せるもんじゃないのさ」
女「今のはあんたが悪い!」
男「す、すみませんでした……」ベットリ…
―おわり―
≪疲労困パイ≫
―会社―
社員「試合はどうなったかな……」ポチポチ
課長「コラッ、スマホいじってないで仕事しろ、仕事!」
課長「さっきから見ているが、全然仕事してないじゃないか! 何しに会社に来てるんだ!」
社員「……ちっ」
社員(仕事の合間にちょっとスマホ見るぐらいいいじゃねえかよ!)
ペチャクチャ… ペチャクチャ…
社員「でさぁ~」
課長「コラ、いつまでしゃべってる! 口じゃなく手を動かせ、手を!」
社員(ったく、うるさいなぁ……)
社員(俺は疲れやすいんだっての。一時間働いたら15分は休まなきゃ体がもたねえ!)
社員(今時社畜なんて流行らないんだよ!)
社員(あーあ、今日も疲れた……。課長がガミガミうるさいせいで……)
社員(こういう時は糖分を取らないとな!)
社員(おっ、こんなところにパイ屋なんてあったのか。どれ入ってみるか)
―パイ屋―
婆「いらっしゃい」
孫娘「いらっしゃいませ」
社員(へぇ~、よさそうな店じゃんか)
社員「うん、このチェリーパイうまい!」モグモグ
婆「ありがとうよ」
社員「ところでおばあさん。俺、疲れやすいんだよね。なにかいいパイないかな?」
婆「あるよ。≪元気一パイ≫ってやつがね」
婆「これを食べれば、元気一杯になるよ」
社員「へぇ、あるんだ!」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
社員「じゃあ逆に、疲れるパイってあるの?」
婆「あるよ」
婆「これさ。≪疲労困パイ≫……一口食うだけでどっと疲れが出るよ」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
社員「面白いパイだね……一切れいいかい?」
婆「いいとも」
社員「…………」モグッ
社員「うおっ!」ズゥゥゥゥン
社員(ものすごい疲労感が襲ってきた! 久しく味わってなかった感覚だ!)
社員(そうだ! いいこと思いついた!)
社員「おばあさん、この疲労困パイを売ってくれないか?」
孫娘「えっ、疲れやすいんじゃなかったの」
婆「毎度あり」
社員「フフフ……いいものが手に入ったぞ」
社員(これを課長に食わせて、疲れやすい人間の気持ちを味わわせてやる!)
次の日――
―会社―
社員「課長」
課長「ん?」
社員「外回り中にパイを買いましてね。よろしければいかがです?」
課長「おお、ありがとう」
課長「…………」モグッ
課長「ほぉ、うまいね」モグモグ…
社員(食べた!)
社員(疲れてしまえ! 疲労困憊してしまえ~!)
社員(日頃どれだけ部下に無茶を強いてるのか思い知れ! ブラック上司!)
ズゥゥゥゥン…
課長(な、なんだこの疲労感は……!?)
課長(まるで徹夜明けのような疲れがどっと押し寄せてきた……)
課長(風邪か? いや、なんというか純粋な疲れだ……なんなんだこれ)
課長(だが、私は課長! 私は上司ッ!)
課長(日頃、部下達に厳しく接しているのだから、こんなことで屈するわけにはいかん!)
課長(うおおおおおおっ……!)
テキパキテキパキ…
課長「うむ、この件は……」
課長「あ、どうも、いつもお世話になっております」
課長「君、この書類を頼む」
社員「…………!?」
社員(疲労困パイをあんなに食べたのに、バリバリ働いている……!)
社員(疲れてるはずなのに、弱みを見せない……!)
社員(すげえ……!)ジーン…
社員「課長ッ!」
課長「な、なんだね?」
課長(疲れてるから、正直話しかけてこないで欲しいんだけど)
社員「俺、目が覚めました!」
社員「今まで自分がいかにチンタラ働いてたか、よく分かりました!」
社員「今日から俺、バリバリ働きます!」
課長「…………!?」
課長(突然やる気になったのはありがたいが、いったいなぜ……!?)
それからというもの――
―会社―
社員「うおおおおおおおおお!!!」バリバリ
課長「お、おい……無理しすぎだ。過労死してしまうよ」
課長「ほら、小銭やるからゆっくり缶コーヒーでも飲んできなさい。な?」
社員(ったく、うるさいなぁ……)
―おわり―
≪先パイ≫
―中学校―
先輩A「この荷物持ってくれよ!」
少年「はい……」
先輩B「ちょっと金貸してくれや!」
少年「は、はい……」
先輩A「いやぁ~持つべきものは言うことをよく聞く後輩だな!」
先輩B「まったくだぜ! アッハッハ!」
少年「ううう……」
少年(ぼくがこいつらより年上だったら、いじめられずに済んだのに……)
少年「はぁ~……」トボトボ…
孫娘「お店の前に木の葉がいっぱいだわ」サッサッ
ドンッ!
少年「あっ……!」
孫娘「あたし、前見ないで歩く人嫌いなのよね」
少年「ご、ごめんなさい……」
孫娘「あなた、ずいぶん落ち込んでるけど、どうしたの?」
少年「……あ、いや……」
孫娘「あたし、ウジウジしてる人も嫌いなのよね」
少年「ご、ごめ……」
孫娘「…………」
孫娘「悩みがあるなら、うちのおばあちゃんに話してみたら?」
―パイ屋―
婆「ほぉう、いつもいつも先輩にいじめられてるのかい」
少年「はい……だからいつもぼくの方が年上だったら、先輩だったらって妄想してるんです」
婆「だったら本当に先輩になっちまえばいい」
少年「え?」
婆「この≪先パイ≫でねえ」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
少年「先……パイ?」
婆「これを食べれば、あんたが先輩になることができるのさ」
少年「ほ、本当ですか!?」
婆「試しに食ってから、そこらを歩いてるあんたの同級生にでも話しかけてごらん」
少年「は、はい!」モグモグ…
少年「あの~」
級友「あ、先輩! いつもお世話になってます!」
少年(ホントだ……同い年なのにぼくを先輩扱いするようになった……!)
少年「おばあさん、このパイください!」
婆「いっひっひ、毎度あり」
孫娘「…………」
―中学校―
少年(あ、先輩たちだ。ようし、先に先パイを食べて……)モグッ
少年「や、やぁ」
先輩A「先輩じゃないっすか!」
先輩B「ちいーっす!」
少年(やった! ぼくが先輩になったんだ! これからはこいつら相手にイバれるんだ!)
先輩A「先輩、いいとこで会った。ちょっと腹減ってたんだ」
先輩B「なにか甘いもんでも買ってきて下さいよ」
少年「な、なにいってるんだ! ぼくは先輩だぞ!」
先輩A「あ?」
少年「!?」ビクッ
先輩B「先輩ってだけでイバらんで下さいよ~、年功序列が通用する時代は終わったんスよ?」ドカッ
少年「ぐえっ……!」
先輩A「ほら、早く行ってこいよ」
先輩B「ダッシュで!」
少年(あれ……? こんなはずじゃあ……)
少年「ううう……」トボトボ…
孫娘「やっぱりこうなったのね」
少年「! 君は……パイ屋にいた……」
孫娘「いくら先輩になっても、結局自分が変わらなきゃ意味ないのよ」
少年「…………!」
孫娘「ああいう奴らは相手が年下だろうが年上だろうが、自分より弱いと思ったら」
孫娘「ターゲットにしてくるんだから」
少年「でも……変わるっていってもどうすれば……」
孫娘「はい、これ」サッ
少年「これは……?」
孫娘「パイ投げ用のパイよ。甘いものを頼まれてたんでしょ?」
少年「あいつらにぶつけろっての……? 無理だよ、そんなの……」
孫娘「できないのなら、いじめられ続けるだけね」
少年「うぐ……」
孫娘「ずっとこのままでいいの?」
少年「…………」グッ
少年「分かったよ、やってみる!」
先輩A「お、戻ってきたか」
先輩B「なんでさっきはお前なんかを先輩扱いしちまったんだろうな」
先輩A「さっさと甘いもん出せや。買ってきてくれたんだろ?」
少年「……先輩」ボソッ
先輩A「あ?」
少年「えぇいっ!」ポイッ
先輩A「ぶっ!」ベチャッ
先輩A「うぇっ……ぺっ、ぺっ」ベットリ…
先輩B「てめえ、何しやがる!」
少年「先輩……ぼくはもうパシリはやめる! このパイで戦ってやる! 覚悟しろ!」
先輩A「覚悟すんのはてめえだよ……!」
先輩B「こっちは二人、二対一なんだ――ぶっ!」ベチャッ
少年「!?」
孫娘「あいにくだけど、こっちも二人よ。あたし、弱い者イジメする奴嫌いなのよね」
少年「あ……」
孫娘「パイ投げ用のパイはたっくさん用意してあるから、正々堂々パイ投げ勝負よ」
少年「うん!」
先輩A「ぐ……」
先輩B「やってやろうじゃねえか!」
ワァァァ……! ウォォォ……!
ベチャッ! グチャッ! ベチャッ! ベチャッ! バシャッ! …
先輩A「――ぶべっ!」ベチャッ
先輩B「――ぎゃぶっ!」ベチャッ
少年「ど、どうだ!」ベットリ…
先輩A「ち、ちくしょう……こいつがここまでやるなんて……」ベットリ…
先輩B「もう行こうぜ……やってらんねえや!」ベットリ…
タッタッタ…
少年「やった……のかな……?」
孫娘「これでもう、あいつらもあなたに近づかないでしょ」ベットリ…
少年「あ、ありがとう……君のおかげだよ」
孫娘「あたし……」
少年「?」
孫娘「今のあなたは……嫌いじゃないわ」
少年「!」
婆「いっひっひ、ようやくうちの孫も少しは色恋ってもんを覚えてきたかねえ」コソッ
―おわり―
≪大失パイ≫
―パイ屋―
ピアニスト女「この≪大失パイ≫さえ食べさせれば、あの女に大失敗させられるのね!」
婆「その通りさ、いっひっひ」
孫娘「あたし、こういう手段を選ばないやり方嫌いなのよね」
ピアニスト女「ふん、手段なんか選んでられるものですか!」
ピアニスト女「私がピアニストとして、世界に羽ばたけるかどうかの瀬戸際なんだから!」
…………
……
~回想~
音楽家「世界大会に出られるのは一名のみ……」
音楽家「あなた方二人のうち、今度のコンクールで優秀だった方を出場させます」
ピアニスト女「!」
ライバル女「!」
ピアニスト女(どちらか一人だけ……)
ピアニスト女「正々堂々競い合いましょう!」
ライバル女「う、うん」
ピアニスト女(――とはいったものの、あの子とは親友同士、ライバル同士、実力はよく分かる)
ピアニスト女(はっきりいって……勝てない!)
ピアニスト女(たとえ、私がベストの演奏をできたとしても、あの子には……!)
ピアニスト女(あの子が大失敗しない限り……!)
ピアニスト女(ん、大失敗?)
ピアニスト女(そういえば、知り合いから不思議なパイ屋さんがあるって聞いたことある……)
ピアニスト女(そこで、あの女に演奏を失敗させられるパイを買うことができれば……!)
…………
……
コンクール当日――
―会場―
ピアニスト女「いよいよ今日ね。お互いベストを尽くしましょ」
ライバル女「そうね……」
ピアニスト女「ところで、昨日おいしいパイ屋さんに寄ったんだけど、よかったら食べない?」
ライバル女「うん、いただくわ」モグッ
ライバル女「おいしい! でも、どこか失敗したような味ね」モグモグ…
ピアニスト女(食べたッ!)
ピアニスト女(これでこの女は大失敗間違いなしだわァ!)
ところが――
ライバル女「…………」ポロロンポロロン…
~♪ ~~♪ ~♪ ~~♪ ~♪
オォォォォ……!
ピアニスト女「!?」
ピアニスト女(これ、どういうこと!?)
ピアニスト女(パイを食べさせたのに全然失敗しないどころか、完璧すぎる演奏じゃないのよぉ!!!)
音楽家「素晴らしい演奏だった。満場一致で、世界大会には君に出場してもらう」
ライバル女「は、はい……」
ピアニスト女「…………!」
ピアニスト女(終わった……私の野望は絶たれた……)
ピアニスト女(あんのババアァァァァァァァァァァ!!!)
ピアニスト女(とんだクソパイつかませやがってぇぇぇぇぇ!!!)
―パイ屋―
ピアニスト女「ちょっとォ!」
婆「おや、血相変えてどうしたい?」
ピアニスト女「あんたの大失パイ、なんの役にも立たなかったわよォ!」
ピアニスト女「大失敗なのはあんたのパイよ、このババア!」
婆「ちょいと落ち着きなって」
ピアニスト女「これが落ち着いていられるもんですかぁぁぁ!!! どうしてくれん――」
孫娘「うるさい」ポイッ
ピアニスト女「――ぶっ!」ベチャッ
孫娘「あたし、やかましい女嫌いなのよね。自分の負けた原因をおばあちゃんに押し付けないでよ」
ピアニスト女「あうう……」ベットリ…
婆「そのライバルには、たしかに大失パイを食べさせたんだろう?」
ピアニスト女「ええ、目の前で食べてたわ……。なのに失敗しなかったのよ……」
婆「だったら考えられるのは、あたしが失敗したか、ライバルが特異体質だったか」
婆「もし、どちらでもないとしたら――」
ピアニスト女「――――!」ハッ
ピアニスト女「…………」ワナワナ…
タタタタタッ
孫娘「あれ、あの人どうしちゃったのよ、おばあちゃん」
婆「あんたもまだまだ勘が鈍いねえ」
婆「あの女も性根から腐ってたわけじゃないってことさ」
―会場―
ライバル女「あの……」
音楽家「なんだい?」
ライバル女「世界大会の話、辞退させて頂けないでしょうか……」
音楽家「え、どうして!?」
ライバル女「代わりにある人を推薦したい――」
「ちょっと待ったァァァァァ!!!」
ライバル女「……あ」
ピアニスト女「あなた……今日のコンクール、わざと失敗しようとしてたのね?」
ピアニスト女「私に世界大会を譲るために……」
ライバル女「!」ギクッ
ピアニスト女「だけど、失敗しようとするのを大失敗してしまった……」
ライバル女「いえ、そんなことは……」
ピアニスト女「いいのよ……ごめんなさい。ずいぶんと気を使わせてしまったわね」
ピアニスト女「ようやく分かった……やはり世界に羽ばたくに相応しいのはあなただったのよ」
ピアニスト女「お願い! 私のことは気にせず出場して! それが私のためでもあるのよ!」
ライバル女「……うん!」
ピアニスト女(ああ……やっと胸が軽やかになった……)
ピアニスト女(この子をどうにか蹴落とそうとしたその瞬間から、私は失敗してたんだわ……)
ピアニスト女「はなむけに一曲弾かせてもらってもいい?」
ライバル女「もちろん!」
ポロロン… ~♪ ~~♪ ~♪
音楽家「…………」
音楽家(コンクールの時よりずっと素晴らしい演奏だ。やっと彼女も化けてくれたか)
音楽家(この二人……日本の音楽界を背負う人材になるのは間違いなさそうだ)
―おわり―
≪お祝い用のパイ≫
―パイ屋―
婆「接待ゴルフでわざと負けなきゃならない? だったら≪連パイ≫なんてどうだい?」
婆「≪力一パイ≫を食べれば、全力を出すことができるよ」
婆「この≪円周率パイ≫があれば、円周率を暗唱できるようになるよ。いい宴会芸になる」
孫娘「あたし、どのパイも嫌いなのよね」
男「今日もここのパイ屋はにぎわってるなぁ」
女「ホント、悩みを抱えてる人って多いのね~」
少年「やぁ、パイを買いにきたよ!」
孫娘「あら、いらっしゃい」
男「あれ? もしかして孫娘ちゃんのボーイフレンド?」
少年「え、えぇと……」
男「何でも嫌いなこの子と仲良くなるなんてすごいなぁ。どうやって口説いたの?」
少年「口説いたってわけじゃ……」
孫娘「あたし、他人の事情にずかずか入り込んでる人嫌いなのよね」
男「す、すみませんでした……」
婆「馬に蹴られて死んじまえってやつだねえ」
孫娘「あの……あたしもおばあちゃんを見習ってパイ作りにチャレンジしてみたの」
少年「え……」
孫娘「ニシンのパイなんだけど、よかったら食べて」
少年「うん!」
婆「どれどれ、あたしが味見してやるよ」モグッ
孫娘「あ」
婆「う~ん、マズイ! 焼き加減が足りないし、あたしの足元にゃ及ばないねえ」
孫娘「……ババア」
少年「そんなことないよ、おいしいよ!」モグモグ
孫娘「あたし、お世辞嫌いなのよね」
少年「お、お世辞じゃないって!」
男(おばあさんも馬に蹴られた方がいいような)
男「――あ、そういえば、俺たちも報告があるんです!」
婆「なんだい?」
女「私たち、結婚することになったの!」
婆「おや、おめでとう」
少年「おめでとうございます!」
孫娘「あたし、唐突な結婚発表って嫌いなのよね」
男「これも、あの時≪甘ずっパイ≫を食べたおかげですよ」
女「あのパイ投げ合戦がなかったら、もしかしたら別れてたかもしれないしね」
婆「だったらお祝い用のパイを出すとしようかねえ」
男「え、本当ですか!?」
女「なんだろ?」
婆「これさ」サッ
男「…………?」
女「すっごく乾いてるパイだけど……」
少年「なんて名前なんでしょうか?」
婆「あんたたち、常連のわりにまだまだパイより甘いねえ。このパイの名前は――」
婆「≪乾パイ≫さ。食べてもうまいし、パイ同士をぶつけるといい音するんだよ」
男「あっ!」
女「なるほど!」
少年「そういうことですか!」
孫娘「あたし、このパイ嫌いなのよね」
婆「いっひっひっひ……それじゃあんたらの結婚を祝して――」
カンパーイッ!
カチンッ
―おわり―
126 : 以下、?... - 2018/09/27 01:40:47.457 6tQiqtq50 89/89これで終わりです
どうもありがとうございました