1 : 以下、?... - 2018/10/02 00:01:31.254 G+EsIDWBD 1/17

喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    時任一郎(43) 大企業課長

    【病気のすすめ】

    ホーッホッホッホ……。」

元スレ
喪黒福造「いっそのこと、病気になって入院生活を送ってみたらどうです?」 大企業課長「いや、さすがにそれは……」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1538406091/

4 : 以下、?... - 2018/10/02 00:03:31.811 G+EsIDWBD 2/17

早朝。地下鉄を走る電車。車内は通勤・通学のための客ですし詰めとなっている。

満員電車の中で、吊革を必死で掴む一人の中年サラリーマン。彼の目の下にはクマが浮かんでいる。

テロップ「時任一郎(43) 洛セラ東京事業所・課長」

駅に停車する電車。電車を降り、急いで駅から出ようとする時任。


洛セラ株式会社・東京事業所。朝礼で、手帳の文章を読み上げる時任ら社員たち。

部屋の額縁にある創業者の肖像写真。彼は、高僧のように温和な表情をしている。

テロップ「稲村幸一(86) 洛セラ名誉会長」


机に向かい、パソコンを操作する時任。

時任のモノローグ(俺は、洛セラで課長をしている。日本を代表する一流企業の課長、と言うとみんながうらやむだろう)

さらに、取引先と電話をする時任。

時任のモノローグ(だが、その実情は実に悲惨なものだ)

5 : 以下、?... - 2018/10/02 00:05:30.708 G+EsIDWBD 3/17

真夜中。洛セラ東京事業所では、建物に明りがついている。机に向かって熱心に仕事を続ける、時任ら社員。

時任のモノローグ(洛セラは、残業時間が長いことで有名な会社だ)


廊下。左手で頭を押さえながら、床へと倒れ込む中年管理職。彼の元へ、他の社員たちが駆け寄る。

時任のモノローグ(そのせいか、この会社は管理職の過労死が非常に多い)


ある上司が机を叩きながら、若手社員を怒鳴りつけている。

時任のモノローグ(上司による部下へのパワハラは日常茶飯事だ)

ある日。時任課長に退職願を提出するとある社員。

時任のモノローグ(そういうこともあって、洛セラは若手の離職率が高い会社だ)


真夜中。自宅マンション。机の上にある家族写真を見つめる時任。写真の中での時任は、妻や幼い娘とともに笑顔を浮かべている。

時任「お前たちが出て行って、もう2年も経ったか。俺が仕事に明け暮れて、家庭を顧みなかったせいで……」

6 : 以下、?... - 2018/10/02 00:07:34.419 G+EsIDWBD 4/17

翌日。A社。応接室では、時任がA社の社員と商談を行っている。身振り手振りを交え、何かの説明をする時任。

A社社員「分かりました。この話、検討してみようと思います」

A社を出る時任。彼は、憂鬱そうな表情で街を歩いている。

時任(商談はうまくいった……。だが、今の俺は……。会社も仕事も嫌になり始めている……)

時任の後ろを付きまとう一人の男。その男は、そう……。喪黒福造だ。


公園に入り、ベンチに座って休む時任。喪黒も時任の側に座る。

時任「ハーーーーッ……」

喪黒「おやおや……。ため息をつくと幸せが逃げますよ……」

時任「私は疲れているんです……」

喪黒「ならば、ゆっくり休んで疲れでも取ったらどうです?」

時任「そんなわけにはいきませんよ。わが社は厳しいんですから……」

時任「でも、私の心と身体は悲鳴を上げているんです。『会社なんかに戻りたくない』……と」

8 : 以下、?... - 2018/10/02 00:09:39.230 G+EsIDWBD 5/17

喪黒「そうですか……。私の仕事柄、あなたを放っておくわけにはいきませんねぇ」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

時任「……ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」

時任「か、変わったお仕事ですね……」

喪黒「何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」


BAR「魔の巣」。喪黒と時任が席に腰掛けている。

喪黒「名高い洛セラの実態がこれとは……。どう見ても、ブラック企業としか思えませんよ」

時任「この会社の正体を知ったら、みんながそう思うでしょう」

時任「でも……。洛セラは世間じゃ評判がいいですし、社員たちの多くは会社に心酔しきっています」

時任「……何もかも、創業者である稲村名誉会長のカリスマ性のおかげなんです」

喪黒「稲村名誉会長は、独特な経営理念をお持ちの人物であり……。世間では、哲人経営者のような評価を受けていますねぇ」

9 : 以下、?... - 2018/10/02 00:12:00.661 G+EsIDWBD 6/17

時任「はい。でも、そのせいもあって……。洛セラでは、稲村名誉会長に対する個人崇拝がすごいんですよ」

時任「何しろ、この企業では……。名誉会長の経営哲学を学ぶ講習が、組織ぐるみで行われています」

喪黒「社員たちに対し、そこまでやるのですか……」

時任「ええ。洗脳教育で、稲村名誉会長への個人崇拝を社員たちに植え付けているんですよ」

時任「そうすることによって、彼らを会社のための兵隊に仕立て上げるってわけです」

喪黒「しかしながら……。洗脳教育で社員を服従させても、精神的に限界を迎える人間は少なからずいるはずですよ」

時任「もちろん、そうですよ。私も、その一人なのですから……」

喪黒「だったら、本格的な休養をとったらどうです?精神的にも身体的にもリフレッシュするために……」

時任「そうしたいのは山々ですが……。わが社では、有給休暇はよほど重要な理由がない限り使えないんです」

喪黒「ならば、時任さん……。いっそのこと、病気になって入院生活を送ってみたらどうです?」

喪黒「そうすれば、本格的に休みを取ることができますよ」

時任「いや、さすがにそれは……。何よりも、病気になって苦しむなんて嫌に決まってるじゃないですか!」

喪黒「時任さん。病気になることにも大切な意味があるんですよ!」

時任「えっ!?」

10 : 以下、?... - 2018/10/02 00:14:25.336 G+EsIDWBD 7/17

喪黒「病気になるというのは、身体によるメッセージの証でもあるんです!」

喪黒「『もう無理はしたくないから、ゆっくり休みたい』という……」

時任「い、言われてみれば……。そう……」

喪黒「人間は病気になることで、健康な時には分からなかった様々な感情を経験します」

喪黒「病気と向き合うことを通じて、人間は精神的に成長しますし……」

喪黒「それだけでなく……。病気を克服することにより、人間は身体的にもたくましくなります」

喪黒「病気になるということも、人間にとっては貴重な経験なんですよ!時任さん!!」

時任「確かに……」

喪黒「じゃあ、時任さん……。いっそのこと入院生活を送ってみましょう!!」

喪黒は時任に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

時任「ギャアアアアアアアアア!!!」


喪黒に誘われ、外に出る時任。2人はいつの間にか、電車に乗っている。

喪黒「次の駅を降りたすぐ先に、とってもいい場所があるんですよ」

11 : 以下、?... - 2018/10/02 00:16:32.285 G+EsIDWBD 8/17

電車を降り、駅を出た喪黒と時任。喪黒は、道路のマンホールのふたを開ける。

喪黒「さあ、この穴の中に入りましょう」

マンホールの中に入る喪黒と時任。2人が入ったところは、どこかへつながる地下道になっている。

喪黒と時任がしばらく歩くと……。大型の自動ドアが見える。自動ドアの側には、『地下病院』の看板がある。

喪黒「ここは、『地下病院』です」

時任「こんな所に病院があるのですか……」

自動ドアをくぐり、『地下病院』の中に入る喪黒と時任。病院の玄関前には、タッチパネル式の自動券売機がある。

喪黒「時任さん。この券売機から、お好きなコースをお選びください」

時任「お好きなコースというのは……」

喪黒「好きな病気にかかり、好きな期間だけ入院できるんですよ」

時任「えーーっ!?そんなことができるんですか!?」

喪黒「できます」

13 : 以下、?... - 2018/10/02 00:18:36.946 G+EsIDWBD 9/17

時任「そ、そうなんですか……。じゃあ、私は……」

自動券売機の画面を、指で操作する時任。

時任「入院は2週間で……。病気の症状は……、これと……、これと……」

自動券売機の中から、数枚の券が出てくる。受け付けの前に立つ喪黒と時任。時任が持つ券を手にする受付嬢。

受付嬢「この病院は初めてですか?」

時任「はい……」


待合室で、ソファーに座る時任と喪黒。他のソファーには、見かけない顔の患者たちがいる。

診療室。医者や女性看護師を前に、椅子に座る時任。女性看護師が紙コップに入った水を時任に渡す。時任が水を飲むと……。

時任「な、何だこの感覚は……。身体が変だ……」

医者や女性看護師、室内の輪郭が次第に歪んでいく。意識が遠ざかる時任。

時任「ここは……」

喪黒「気が付きましたか?時任さん」

目を覚ます時任。彼の側には、医者、女性看護師、喪黒がいる。左腕に点滴をつけて、ベッドに横たわる時任。

14 : 以下、?... - 2018/10/02 00:20:34.987 G+EsIDWBD 10/17

女性看護師「これから入院生活を送るのですよ。時任様」

時任「それにしても、ずいぶん急な話じゃないですか……。くっ……、身体が熱い……」

医者「あまり無理はなさらない方がいいですよ。今の時任様は、病気のような症状が出ているんですから……」

時任「そ、そんな……」

喪黒「なぁに、心配はいりません。特殊な薬を飲んで、一定の期間だけ……。病気の疑似的な症状を味わうのですから……」

喪黒「この薬には副作用も後遺症も一切ありません」

時任「そうですか……」

医者、女性看護師、喪黒が立ち去り、病室で一人だけになる時任。彼はベッドの上で考える。

時任(気が付いたら、俺はこんなところに入院してしまった。まあ、仕方あるまい。なるようにしか、ならないから……)


数日後。時任が入院している病室に喪黒が訪れる。喪黒は、2人分の紙パック飲料を手にしている。

喪黒「時任さん、これ」

時任「ああ、どうも……」

病室の中で、紙パック飲料を飲む喪黒と時任。

15 : 以下、?... - 2018/10/02 00:23:04.625 G+EsIDWBD 11/17

喪黒「時任さん。入院暮らしには慣れましたか?」

時任「ええ。まあ……。会社で仕事に追われていた時に比べると……」

時任「何だか、時間の流れがゆっくりしたものになったような気がします……」

喪黒「入院生活は、健康に気を使った規則正しいものですからねぇ」

時任「ブラック企業の社員の生活よりも、入院生活の方が健康的とは……。ある意味、皮肉なものですね」

喪黒「今の時代の会社員たちは、働き過ぎなのです。だから、どんな形であれ休みを取るべきなのですよ」


喪黒がいなくなり、しばらくした後……。時任の前に食事が運ばれてくる。病院食を食べる時任。

時任(いよいよ、おかゆから病院食……。これが病院食の献立か……。)


翌日。女性看護師が、時任の左腕の点滴を取り換えている。女性看護師の姿を見つめる時任。

時任(俺は……。女性からこんなに優しい扱いを受けたことは、今までなかったな……。母親や別れた妻も含めて……)


さらに数日後――。病室で、喪黒と会話をする時任。

喪黒「時任さん。あなたも、そろそろ退院の日が訪れますよ」

16 : 以下、?... - 2018/10/02 00:25:32.401 G+EsIDWBD 12/17

時任「分かってますよ。ですが、私は2週間も無断欠勤をしていますから……。間違いなく、会社は私をクビにするでしょう」

喪黒「大丈夫です。退院後も、あなたには前と同じような生活が待っていますよ……」


そして、退院の日――。『地下病院』玄関前の自動ドアが開く。病院を出て、地下道を歩く喪黒と時任。

喪黒と時任は梯子をゆっくりと登る。喪黒がマンホールのふたを開けると……。2人の頭上に、太陽の光が差し込む。

マンホールを出て、駅の側に立つ喪黒と時任。

時任「も、元の世界に帰っている……!」

喪黒「時任さん。スマホの画面を見てください」

時任「ええと……。こ、これは……。スマホの画面の日にちが、2週間前……!?」

時任「確か……。私はある程度の間、入院していたはずですが……」

喪黒「時任さん。あなたのスマホは正常ですよ。なぜなら、あの『地下病院』は、現実世界とは別の空間なのです」

喪黒「この世界では全然時間が経っていませんから、洛セラ社員としてのあなたの身分も保証済み……というわけです」

時任「そ、そんなバカな……」

喪黒「ねぇ、時任さん……。『地下病院』での入院生活は、いかがでしたか?」

17 : 以下、?... - 2018/10/02 00:28:05.885 G+EsIDWBD 13/17

時任「ええ。おかげさまで、今までになくゆっくり休めましたよ……。精神的にも、身体的にも……」

喪黒「それはよかったですなぁ」

時任「喪黒さん。貴重なご経験、本当にありがとうございます」

喪黒「いえいえ……。時任さんが満足していただければ、私としては何より……」

喪黒「……とはいえ。私はあなたに、どうしても忠告しておきたいことがあるのですよ」

時任「は、はあ……」

喪黒「時任さんが入院生活を送り、病気を治すのは……。以前よりも健康的な生活を送るためなのですよ……」

喪黒「だから、病気を治した後は……。健康体となった今の生活を大切に生きてください」

時任「ええ……。それは十分承知していますよ」

喪黒「時任さん、約束してください。『地下病院』で入院するのは、今回の1度のみにしておくべきです」

時任「わ、分かりました……。喪黒さん」


夜。洛セラ東京事業所。残業をする時任ら社員。眠そうな表情で机に向かい、パソコンを操作する時任。

時任(うっ……。眠い……。あの『地下病院』で規則正しい生活を送っていたせいで……)

時任(今の時間に、ものすごい睡魔が襲ってきている……。前なら、この程度の夜更かしは平気だったのに……)

18 : 以下、?... - 2018/10/02 00:30:22.927 G+EsIDWBD 14/17

ある朝。いつも通り、満員電車に乗る時任。しかし、表情は前よりも憂鬱そうになっている。

洛セラ東京事業所。部長に呼ばれ、説教を食らう時任。ネチネチと小言を唱える部長。

時任(ことあるごとに、俺に嫌味を言うこの部長……。俺はこいつが嫌でたまらない……)


夜。机に向かい、残業をする時任ら社員。時任は、右手の指で目元を抑える。

時任(まるで生き地獄だ……。休みたい……。眠りたい……)

男性社員・高橋が、突然、奇声を上げて窓へと走る。

高橋「ウオーーーーーーッ!!」

時任「どうしたんだ、高橋!?」

高橋は窓を開け、そのまま下に向かって飛び降りる。人間が地面に叩きつけられる音。ドサアッ!!!


病院。ベッドに横たわる高橋の遺体。彼の側には、医者、看護師、高橋の妻、時任がいる。

高橋の妻「夫を殺したのは、あなたの会社でしょ!!私の夫を返してよおおっ!!」

泣きながら、時任をなじる高橋の妻。彼女に対し、時任はただひたすら頭を下げている。

20 : 以下、?... - 2018/10/02 00:33:54.421 G+EsIDWBD 15/17

数日後、早朝。いつも通り満員電車に乗る時任。電車を降り、プラットフォームのベンチで泣きじゃくる時任。

時任「ウッ……。ウウウウウ……、ウウウッ……」

プラットフォームに到着するもう1台の電車。時任はこの電車に乗り、会社ではなくある目的地へと向かう……。

時任(人間を人間として扱わない洛セラ……。それに比べると『地下病院』は、人間を人間として扱ってくれる……)

別の駅。時任が駅を出て、あの場所へ行こうとすると……。例のマンホールのふたの上には、喪黒がいる。

喪黒「時任一郎さん……。あなた約束を破りましたね」

時任「も、喪黒さん……!!」

喪黒「私は言ったはずです。時任さんが『地下病院』に入院するのは、1度だけにしておけ……と」

喪黒「病気を治した後は、健康体となった今の生活を大切に生きろ……というのが私からの忠告でしたよねぇ」

時任「だ、だって喪黒さん……。あんな会社にいて、健康的な生活なんか送れるわけありませんよ!!」

時任「それが証拠に、この間……。過労に耐えられなくなった部下が突然、発狂し……」

時任「窓から飛び降り自殺をしたんです!私の目の前で……!だから、もう……。私も我慢の限界なんです!!」

喪黒「そうですか……。どうしても、このマンホールの中に入りたいのですね!?」

時任「もちろんですよ!!だから、喪黒さん。マンホールのふたの上からどいてください!」

21 : 以下、?... - 2018/10/02 00:36:41.228 G+EsIDWBD 16/17

喪黒「分かりました……。そこまで言うのなら、私はあなたを止めません」

喪黒「ですが……、どのようなことになっても私は知りませんよ!!」

喪黒は時任に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

時任「ギャアアアアアアアアア!!!」


マンホールのふたを開ける時任。

時任(俺はもう一度、入院生活を送るんだ……)

時任は、マンホールの中へゆっくりと入る。彼が入ったマンホールの穴を、じっと覗き込む喪黒。


ある大学病院。病室。人工呼吸器と点滴を付けた状態で、ベッドに横たわる時任。

時任の側には……。医者、看護師、洛セラ社員たち、そして離婚した時任の妻と娘がいる。

大学病院の医者「時任様は幸い、救出されましたが……。マンホールの中で長い間、酸素欠乏状態が続きました……」

大学病院の医者「従って、彼は脳の損傷が極めて深刻であり……。今後も寝たきりの状態が続くと思われます」

22 : 以下、?... - 2018/10/02 00:39:54.169 G+EsIDWBD 17/17

時任の妻「じゃあ……、主人は死ぬまで植物状態ってことですか?」

大学病院の医者「要するに、そういうことですね……」

時任の妻「ウ……、ウワアアアアアアア……!!!あ、あなたぁーーーーーーっ!!!」

ベッドに横たわる時任に向かい、彼の妻が泣き崩れる。医者、看護師、洛セラ社員たち、時任の娘は、深刻そうな表情をしている。

時任の右手の指が弱々しく震え、何かの文字を書いている。一同は、時任の指の震えに気付いていない。

時任が指で書いた文字は……「こ」「ろ」「し」「て」「く」「れ」だ。


大学病院の前にいる喪黒。

喪黒「人間にとって、病気にかかることは大変な苦痛ですが……。どの病気にも、必ず何かしらの原因と重要な意味が含まれています」

喪黒「なぜなら、人間は病気にかかることで、病気の辛さを学びますし……。その上、健康に対するありがたみも知ることができます」

喪黒「それだけでなく……。病気と向かい合うことは、人間を身体的にも精神的にも成長させてくれる、貴重な経験にもなるのです」

喪黒「従って、病気というものは……。人間に対する心と身体からのメッセージでもあり、学びの機会とも言えるのかもしれません」

喪黒「ところで、時任さんはお望み通り、入院生活と休養を手に入れましたけど……。果たして、彼は今の状態から何を学ぶのでしょうか?」

喪黒「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―

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