ロック「ああ。起こしに行ったんだけど、体調が悪いみたいだったよ」
ベニー「そいつは珍しいな。レヴィが体調不良なんて、メンテナンスをおこたってるのかな?」
ダッチ「ベニー・ボーイ。誰にだってそういう日はあるもんだ」
ロック「う~ん……だけど――最近多いんだよね」
ダッチ「そりゃあ単なる飲みすぎだ。ロック、お前がどっかで止めてやらないからこういう事になる」
ロック「あいつの酒の管理もペイの内かい、ダッチ?」
ダッチ「そういうこった。まあ、今日はオフだから思う存分眠りこけてりゃ良い。誰も文句は言わねえさ」
ロック「確かに。――ヘイ、ダッチ。冷蔵庫のレモンを一つ貰って良いかい? レヴィに頼まれてるんだ」
ダッチ「好きにしな。どうせ俺が一杯やるときに使おうと思ってたやつだからよ」
ロック「……サンキュー、ありがたく貰っておくよ。――それじゃ」
…バタンッ!
ダッチ「……――ベニー。お前さん、“どう”思うよ?」
ベニー「――何が?」
元スレ
ベニー「あれ? ロック一人かい?」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1233231355/
ダッチ「レヴィは“ああ”だが、体調の管理に関しては文句の付け所がなかった」
ベニー「そうだね。――確かに、今まで彼女が体調不良だなんて無かったかも」
ダッチ「それが、最近はどうだ?――仕事中も、まるで今にも口がナイアガラの滝みたいになりそうな時がある」
ベニー「……前日に飲みすぎた、ってだけじゃないかな」
ダッチ「ほぼ毎日ってのが気になるンだよベニー。――しかも、ロックはさっき何を持って行った?」
ベニー「おいおいダッチ。何が言いたいのかサッパリだ」
ダッチ「これは俺の推測だがな。……――レヴィの奴、“デキ”ちまったんじゃあねえか?」
ベニー「――はは、まさか、そんな」
ダッチ「言い切れるかい? 少なくとも、俺は歩いてて流れ弾に当たる可能性よりゃ高いと思ってる」
ベニー「……もし、そうだとしたら――確かめる必要があるかもしれないね」
ダッチ「そうだな。――これは、あの二人の問題だけじゃあねえ。ラグーン商会全体の問題になってくる」
ベニー「――ねえ、ダッチ。もし、“そう”だった場合はどうするんだい?」
ダッチ「……――俺に子守が出来ると思うかい?」
ベニー「いいや、子供は走って逃げ出すだろうね。生まれたてで、金メダリストになるかもだ」
ダッチ「違いねェ」
・ ・ ・
レヴィ、自宅
ロック「――レヴィ、調子はどうだい?」
レヴィ「……これが御機嫌な風に見えるか? 目ン玉の代わりに飴玉でも詰まってるのかよ……」
ロック「とりあえず、ご希望のレモン水。ダッチ直送の新鮮なレモンを使ってる」
レヴィ「そいつァクールな味がしそうだな。この“ムカつき”も火星までぶっ飛びそうだ」
ロック「――っと、無理するなよ。まだ気持ち悪いんだろ?」
レヴィ「アタシが吐いたら、掃除する奴がすぐそこに居るから大丈夫だ。なあ、ロック?」
ロック「……勘弁してくれ。ただでさえ散らかってる部屋なのに、臭いまでつくと“手に負えない”」
レヴィ「……ゴクッ……ゴクッ」
ロック「ゆっくり飲めって――」
レヴィ「……――やべェ。気持ち悪ィ」
ロック「!?――ま、待ってろよ!? 頼むから――」
レヴィ「……あ゙ァァァ……もう、駄目だ――」
ロック「袋、袋、袋!――ああもう、なんでこんなに散らかってるんだッ!?」
レヴィ「……」チョイチョイ
ロック「どうした!? 何か――」
グイッ!
ロック「う――わッ!? ちょっ、おい、まさかレヴィ!?」
レヴィ「……――う」プピッ…
ロック「やめ――!?」
レヴィ「うお゙えェェェ~~~……!」ダバダバダバダバッ…!
ロック「うわっ、わっ、わああァァァ――!?」
・ ・ ・
ロック「……――どうして俺がこんな目に」
レヴィ「アタシが苦しンでるってのに、呑気なツラしてッからだ」
ロック「だからって、人のシャツの中に吐くか!? おかげで服が全部“オシャカ”だ」
レヴィ「良かったじゃねェか。アタシのおかげで、あのホワイトカラー臭が抜けねえクソダサい服を着なくて済むようになった」
ロック「確かにな。あれだけ酸っぱい臭いを付けられちゃ、いくら俺だって着るのはゴメンだ」
レヴィ「アタシが選んでやったアロハの出番だな」
ロック「そいつはもっとゴメンだ。――吐き気の方は?」
レヴィ「喋ってりゃ多少気がまぎれる。……ッつうか、思い出させンな。――袋は見つかったか?」
ロック「見つけたけど、俺の服の棺桶になってる」
レヴィ「そうかい。――そいつは“災難”だったな」
ロック「……――しかし、お前は寝巻きって物を持ってないのか?」
レヴィ「そンなもんは必要ないからな。そいつを買う位だったら一杯やった方が遥かにイイ」
ロック「――“そのザマ”でよく言えたもんだ」
レヴィ「……うるせェよ。――ところでロック、アンタが持ってきた紙袋の中身は何なンだ?」
ロック「目ざといな」
レヴィ「へへっ! 酒だったら上等だ、それ以外なら――まあ、なンでもいいから教えろよ」
ロック「残念だけど、こいつの中身は酒じゃない。だけど、“今のお前は喜ぶと思うぞ”」
レヴィ「――へェ、そうかい。そりゃ楽しみだ」
ロック「お前のために持ってきた――」
ガサガサッ
レヴィ「……」ニヤニヤ
ロック「――腹巻だ」
レヴィ「……――こいつは嬉しいね。嬉しくて涙がでそうだぜ、ロック」ガクッ
レヴィ「ヘイ、ヘイ。あんたはアタシにこんなジジババくせェもんをつけろって言ってンのか?」
ロック「えっ? そうだけど――気に入らなかったか?」
レヴィ「……やれやれ、まさか天下の二挺拳銃様にチューブ・トップを贈る奴がいるとはな」
ロック「馬鹿にするなよ、レヴィ。ちゃんと日本製の腹巻だ」
レヴィ「――へいへい、そいつはよござんしたね」
ロック「腹を冷やしちゃ、体調も良くならないぞ。――クーラーを消す気は?」
レヴィ「微塵も無いね。せっかくこの間修理したばっかなンだからな」
ロック「だったらコイツの出番だな。クールなお腹も、暖かくなる」
レヴィ「――そいつは、アタシにハラワタ煮えたぎらせろって意味か?」
ロック「違うよ。純粋に体調を心配してるって事」
レヴィ「――チッ!……しょうがねェなあッたくよ」モソモソ
・ ・ ・
ロック「――食欲は? 何か買ってくるか?」
レヴィ「ねェよそンなもん。……食いモンの話はするなよロック? 今度はビネガーを顔にぶち撒けるぞ」
ロック「……――あ~、じゃあ――レモン水は?」
レヴィ「まあ、それなら何とかいけそうだ」
ロック「待ってろよ。――ちょっと買出しに行って来る」
レヴィ「ヘイ、ダッチはまさかレモンを一つっきゃ寄越さなかったのかい?」
ロック「――あのな、普通は何個も使うと思わないだろ? そして、その一個はどこに?――正解は、俺のシャツへだ」
レヴィ「過ぎた事を根に持つなよ。ハゲるぞ?」
ロック「……」
レヴィ「――あん? なんでェなんでェ、まさか気にしてンのか?」ニヤニヤ
ロック「……はぁ、行って来るよ。後で服代とレモン代を請求するからな」
レヴィ「しまらねェ捨て台詞だな」
ロック「……――チーズがたっぷりかかったピザ」
レヴィ「ッ……おい、コラ、ロックてめえ――」
…バタンッ!
・ ・ ・
ロック「――レモンレモン~……っと。――いくつ買っていけば良いんだろうな」
「――ヘイ、ロメオ! 奇遇だねェ!」
ロック「あれ、エダ?――どうしてここに?」
エダ「そンなの決まってるじゃないのさ。今日はせっかくの休日なンだ」
ロック「――あ~……なるほど」
エダ「ッて事でどうだい? 今からだったら、腰が抜ける程楽しめると思うぜ~?」フーッ
ロック「うわわわッ!?」ゾクリ
エダ「にひひひ! 初々しい反応をするじゃないか」
ロック「――ざ、残念だけど、ちょっと用があるんだ。悪いね」
エダ「用? 仕事かい?」
ロック「いや、ちょっとした“お使い”さ。買うものはレモン、お駄賃は無しだ」
エダ「へェ、レモンなんて何に使うのさ」
ロック「レヴィが気持ち悪いらしくてね。レモンを買って帰らないと殺されそうなんだ」
エダ「……――なるほどね。そうかいそうかい」
ロック「?」
エダ「いや~、道理で最近アイツが大人しいと思ってたら、二人そろって年貢の納め時って事だったとはねェ」
ロック「……ど、どうしたんだい? 何が――」
エダ「隠すんじゃねェよ~!――で、ロメオ。式はいつなンだい? ウチで盛大にやってやるよ!」
ロック「な、なあ。話が見えてこないんだけど……」
エダ「確かにアイツはクソったれのエテ公だが、中々に尽くすタイプだ。知ってンだろ?」
ロック「……――ああ。確かに俺はレヴィに助けて貰ってる――けど、どうして今さらそれを?」
エダ「――ヘイ、“ロック”」
ロック「……どうしたんだ、急に改まって――?」
エダ「――いいかい、泣かせンじゃないよ。……そンな事したら、あんたの尻の穴が増えると思いな」
ロック「……――?」
エダ「アタシの話はそれだけさロメオ!」
ロック「あっ――おい、エダ!?」
エダ「“落ち着いたら”アタシの相手も頼むぜ~! バァ~イ!」
ロック「……――意味が――わからない」
・ ・ ・
ロック「……――まあ、エダの言ってる事はわからなかったけど――レモンも買えたし戻るかな」
「よう、ロック。調子はどうだい?」
ロック「……ミスター・張?――ええまあ、ボチボチって所です」
張「“奇遇”だな。……それと――俺が聞いたのはお前さんの調子じゃあない」
ロック「――へっ?」
張「お前の“相方”の話さ。ちょいと“妙な噂”を聞いたんでね」
ロック「……妙な噂――ですか?」
張「ああ、そうだ。噂の内容は――まあ、この際どうでも良いだろう。
俺が聞いてるのはな、ロック。二挺拳銃の調子はどうか――ってことだ」
ロック「……はあ、まあ――多少気分が悪いだけで、今は特に問題はありませんが。
さっきも、腹巻をプレゼントしたばかりです。……最も、つけたのはしぶしぶでしたけどね」
張「……――腹巻か。そいつは良い、悪くない選択肢だ」
ロック「ど、どうも……」
張「……どうやら、“噂”は本当だったみたいだな。暇つぶしのつもりだったが、“こいつはめでたい”」
ロック「――すみません、ミスター・張。どういう事なんですか?」
張「“どうもこうもねえよ”。悪党だってな、悪党を祝う場合ってのがあるのさ」
ロック「祝う――って?」
張「水臭い事は言いっこなしだ。それとも何かい?
――俺が、金が絡んでなきゃ他人を祝う事が出来ない薄情な奴とでも?」
ロック「い、いえ! そんな事は――」ブンブン
張「――しかし、アレだな。お前さんはもう少し賢いと思ってたが、自分から墓場に飛び込ンでくと――
……いや、今のは失言だった。――許せ」
ロック「そッ、そんな――やめてください。――俺には、“貴方に謝られる理由が無い”」
張「――そう言って貰えると助かるぜ、ロック」
ロック「あの……一体、“何の話”なんですか?」
張「はっは!――今さら隠すなよ、ロック!」
ロック「へっ?……え?」
張「今度、ウチの店に来な。――知らない仲じゃないンだ。男同士、酒の一杯でもゴチソウする」
ロック「は……はぁ」
張「――じゃあな! 二挺拳銃にヨロシク言っといてくれ!」
・ ・ ・
レヴィ、自宅
レヴィ「――チッ! ロックの野郎……どこで油売ってンだ。ガキの使いもまともに出来ねェってのかよ」
コンコン
レヴィ「遅ェぞロック! ッたく、待ちくたびれて――」
ガチャッ
バラライカ「――随分威勢が良いのね」
レヴィ「あっ、姉御!? なンでここに――?」
バラライカ「彼だと期待させたのならごめんなさいね。――ちょっと、“気になる噂”を聞いたものだから」
レヴィ「……噂? 良い噂かい、悪い噂かい?」
バラライカ「――ちょっと判断しかねるわね。とりあえず、入っても?」
レヴィ「構わねェよ。――おっと、文句を言うのは無しだぜ?」
バラライカ「……――中々素敵な調度品だらけね。“センスが良すぎて理解できないわ”」
レヴィ「おいおい、姉御~……」
レヴィ「――っと、調度良いや姉御。タバコ持って無いか?」
バラライカ「悪いけど、私は葉巻派なの」
レヴィ「……そうかい。――あ~! ッたくロックの野郎、クソうぜェ!」
バラライカ「どうしてそこでロックの名前が出てくるのかしら」
レヴィ「それがよ、聞いてくれよ姉御! あの野郎、アタシに『今はタバコは控えろ』なんてほざきやがるンだぜ?
お前はアタシのお袋かッつうの! ひでェと思わねェか? なあ、思うだろ?」
バラライカ「……――そう、タバコを控えろ、ね」
レヴィ「それに、贈り物のセンスもねえ。見てくれよ、このダサいチューブ・トップを。生春巻きにでもなった気分だ」
バラライカ「……――お腹を冷やさないように、ねぇ」
レヴィ「今だってよ。レモン一つ買うのにどれだけ時間がかかってるッつうンだよ。ひでェと思わないか?」
バラライカ「……――酸っぱいものを……」
レヴィ「? なあ、どうしたんだよ姉御? アタシがモンスターにでも見えるのかい?」
バラライカ「え、え~……と――似たようなものかしら」
レヴィ「――はァ?」
バラライカ「――とにかく、今はロックの指示に従う事ね。彼なら、ミスをする事は無いと思うから」
レヴィ「おい、おいおいおい! 何言ってンだよ姉御!?」
バラライカ「あまり大声を出すのはやめなさい。体に悪いわ」
レヴィ「あん?――多少気分が悪ィだけで別に――」
バラライカ「“レヴィ”」
ジャカッ!
レヴィ「……おいおい姉御、穏やかじゃねえな。どうしてアタシは姉御に殺されそうになってンだ?」
バラライカ「“今すぐベッドに横になって、布団にくるまりなさい”」
レヴィ「ハッ! そのままズドンってか?――姉御、理由はわからねェし、ゾッとしない話だぜそりゃあ」
バラライカ「レヴィ、これは――」
バラライカ「“命令”じゃなく、“お願い”」
レヴィ「……――へっ?」
バラライカ「正直、私もどうしたら良いかわからないの。だから、今すぐ言う通りにしてちょうだい」
レヴィ「――なンかパニクってねェか? いきなり舞台にあげられちまった大根役者みてえなツラだぜ」
バラライカ「……似たようなものよ。いえ、もしかしたら“もっとひどい”かもしれないわ」
・ ・ ・
ガチャッ
ロック「――戻ったぞ~……」
レヴィ「遅ェぞクソバカ。たかがレモンにどンだけ時間かかってンだ?」
ロック「いや……何故か妙に声をかけられて――って、何だか部屋が片付いてないか?」
レヴィ「言い訳はするなよ。……――“これ”か? なンだかわからねェが、さっき姉御が来てな。
アタシにベッドでおねんねしてるように言ったら、部屋を片付けて帰ったンだ」
ロック「――バラライカさんが?……冗談だろ?」
レヴィ「冗談だったらもうちっとマシな事を言うさ。ゴジラが攻め込んで来たって方が、まだ真実味がある」
ロック「どっちもファンタジーには変わりないだろ」
レヴィ「だけどなロック。アタシが言った事はマジだ。――“良い手際”だったぜ」
ロック「……――まあ、助かると言えば助かる、が――」
レヴィ「同感だ。――なんだか気味が悪いぜ」
ロック「あ、そうだ。――レモン水は?」
レヴィ「たっぷり絞ってくれ。……ったく、訳がわからねェ」
・ ・ ・
ラグーン商会、事務所
バラライカ「スーッ……フ~ッ……」
張「火傷顔。ここで吸うのはやめときな」
バラライカ「――あら、そんな事を貴方に指図されるいわれはないわ。ここはダッチの事務所でしょう」
張「ここにはアイツらも来るんだぜ。そいつの煙は、“腹の中に悪い”」
バラライカ「……――確かにそうね」…バチンッ!
ダッチ「御二人さん、ここでドンパチは勘弁してくれよ。――今日は“そンな話”じゃあねえはずだ」
バラライカ「悪いわねダッチ。――“なんとなく”吸いたい気分だったのよ」
ダッチ「そいつは奇遇だな。俺も同じ気分だよ」
張「――やれやれ、まさか大の大人が三人揃って禁煙スペースで話し合いとはな」
ダッチ「勘弁してくれ張さんよ。俺だって、ここが煙も吸えねェ場所になるなンて思ってもなかったンだ」
バラライカ「ええ、本当に――」カチッ
張「“火傷顔”」
バラライカ「……――チッ」…バチンッ!
ダッチ「――全く、本当に“笑えねえ”話だ。どんな反応をして良いのか、大統領にでも聞きたい気分だぜ」
バラライカ「あら、ダッチ。悪いけど正しい答えが得られるとは思えないわよ。お山の大将に聞いてもね」
張「そいつは間違いないな。けれど、“誰に聞いてもわからねえ”って事はわかる」
ダッチ「……――しかしよ、あんたらまでこの話に噛んでくるとは思わなかったぜ」
張「勿論、最初は暇つぶしに有り得ない噂の真実を確かめようとしただけだったさ。
だが、さすがに話が変わってきた」
バラライカ「――そうね。こちらも同じだったけれど――正直、どうしたらいいかサッパリだわ」
ダッチ「こっちとしては、こなせる仕事の範囲が狭まるってのが痛いな。だが、“それだけだ”」
バラライカ「ビジネスの方だったら安心して良いわよ。ダッチ、貴方には借りがあるもの」
張「こっちは――多少人手を回してやるだけになるな」
バラライカ「今のうちに恩を売っておこうっていう算段? あざといわね」
張「そうじゃねえさ。回すのは――俺の私兵だ」
ダッチ「いいのかい張さん? それじゃあ、“あんたには一文の得もねえ”」
張「“得はねえが、役得はありそうだからな”。――名付け親ってえのは、こっちじゃ第二の親なんだ」
バラライカ「まさか、貴方のセンスで名前を付けるつもり? ゾッとしないわね」
ダッチ「――まあまあ、それに関してはここで話してもはじまらねえ。“アイツらに聞いてみなきゃあ、な”」
ベニー「――ちょっと質問があるんだけど、いいかな?」
ダッチ「どうしたベニー・ボーイ。まだ赤ん坊が男の子か女の子かは俺にはわからんぜ」
張「女の子だったら、目元はロックに似た方が良い。――二挺拳銃は目つきが悪すぎる」
バラライカ「性格もロックに似た方が良いわね。……所構わずぶっ放すようなミニ・サイズのレヴィなんて」
ベニー「あのさ、本当にレヴィはデキてるのかい? 確認は?」
ダッチ「いいかい、“言葉にしないでも伝わるもん”って事がある。
犯人がゲロらなかったら逮捕はしない間抜けはいるか? 違うだろ、ベニー・ボーイ」
張「……――火傷顔。妙な噂を耳にしたんだがな――キッズ服を買いあさってるそうじゃねえか」
バラライカ「――あら、こっちも聞いてるわよ。なんでも――ベビー用品を仕入れてるとか」
ベニー「う~ん……判断をするには情報が足りてないように思うんだけどな」
ダッチ「この二人が間違いねえって言ってるんだ。それに、暴力教会にも動きがあるみてえだ。
――これはな、動かしようのない事実ってことだ。」
張「……腹の探り合いはやめようや。――“抱っこをする手は、残しておきたい”だろう?」
バラライカ「あら、“お馬さんごっこがやりやすいようになりたい”のかと思ってたわ」
ベニー「……――なんだか、大変な事になってきたぞ……」
・ ・ ・
少し後――張、事務所
ビウ「張大哥。仕入れの方は順調です」
張「そうか、そのまま引き続き仕入れを続けろ。いいか、抗菌のやつだ」
ビウ「――しかし大哥。ガキの時分から抗菌のものを使ってると、いざという時の抵抗力が――」
張「いいか、ここは“ロアナプラ”だ。汚いもんは山ほどある。
――水、空気、臭い――その全てが、ゴミとクソの集まりだ」
ビウ「……」
張「だからな――“それ位”はしてやっても問題ねえのさ。……問題があるとすれば――」
ビウ「……イタ公が、粉の方に手を出してるって事ですね」
張「ああ、そうだ。奴ら――焦ってこの件に一枚噛んできようとしてやがる。
だが、その噛み方が“スマートじゃない上に、ウィットもきいてない”」
ビウ「……――どうしますか?」
張「――答えは一つだ」
張「――奴らに負けねえ粉ミルクを仕入れろ」
・ ・ ・
同時刻――バラライカ、事務所
バラライカ「――お笑いだと思わないか、なあ軍曹?
白い粉など――必要になるかわからん物に金と手間を割くなど、な」
ボリス「……――しかし、よろしいのですか大尉殿」
バラライカ「構わんさ、好きにやらせろ。――私の指示は覚えているな、同志軍曹」
ボリス「……あれを“本命”だと思わせておいて――裏の方に手を回す、ですね」
バラライカ「その通りだ。まだ張は気づいていないようだ――よくやった」
ボリス「勿論です、大尉殿」
バラライカ「なあ、軍曹。歌は得意か?」
ボリス「……いえ、残念ながら」
バラライカ「ならば、練習をしておくよう徹底しておけ。――今後、必要になってくる」
ボリス「――了解しました」
バラライカ「間抜けな奴らを出し抜くぞ。気付かれぬよう、音を一切立てず――慎重に事を運べ」
バラライカ「――やはり――紙オムツこそが必要だとは思うだろう? 同志軍曹」
・ ・ ・
三日後、ラグーン商会事務所
レヴィ「……――面白くねェ――面白くねェ面白くねェ面白くねェッ!」
ダッチ「――どうしたレヴィ。あまり頭に血を登らせてっと“いざ”って時に何も出来なくなるぜ」
レヴィ「ヘイ、ダッチ! 一体どういうこった!?」
ダッチ「知らねえな。俺には、お前が蒸気機関車になっちまってる理由が、“見ての通り”毛ほどもわからねえ」
レヴィ「なッんッでッだッよォッ!」
ガンッ!
ダッチ「――物に当たるな。事務所のモンもタダじゃねえし、これから“何かと入用になってくる”」
レヴィ「この街はアタシの敵か!? なンで酒もタバコもアタシにゃ売れねェってんだ!? ああ!?」
ダッチ「さあな」
レヴィ「銃で脅しても、サッパリ効果がねェどころか、なンだからしらねえが応援までしてきやがる!」
ダッチ「そいつは良かったな。……――理由がわからねえってんなら、“腹に”手を当てて考えてみちゃどうだ?」
レヴィ「……わけわかんねェよ――クソッ!」
ガンッ!
・ ・ ・
同時刻、暴力教会
ロック「――それじゃあ、仕入れの件はこれでお願いします」
ヨランダ「中々サマになってきたじゃないか」
ロック「はは、流石に成長しないとウチの約一名に尻を蹴飛ばされるんで」
ヨランダ「――おやおや、もう尻に敷かれてるのかい。……ま、わかってた事だけどねぇ」
ロック「はい?」
ヨランダ「――ボウヤ――いや、“ロック”」
ロック「……――なんでしょうか?」
ヨランダ「何か、“とても喜ばしい隠し事をしてないかい?”」
ロック「……へっ?」
ヨランダ「――なるほどねぇ。後で、サプライズをするつもりかい。――だけど、ちょいとばかしツメが甘い」
ロック「あの――……?」
ヨランダ「まあ、いいさ。――“お手並み拝見させてもらうよ”」
ロック「――はあ……?」
・ ・ ・
その夜――レヴィの部屋
レヴィ「~~~ッ……ロック、タバコ」
ロック「悪いけど、絶賛品切れ中だ。俺がタバコを買おうとすると、非難と一緒にパンチが飛んでくる」
レヴィ「チッ! 使えねェな!」
ロック「……仕方ないだろ?――タバコ一箱で、人間の屑扱いだ」
レヴィ「そりゃあ奇遇だな。アタシは、タバコを売れって銃で脅した奴がタバコ全部に火をつけやがった」
ロック「――マジか?」
レヴィ「マジさ。……正気の沙汰じゃねェよ――酒も、あとはこのボトルを残すのみだ」
ロック「――バオの店をやったの……お前か?」
レヴィ「ちげェよ。――アタシが店に入ろうとした途端、“客が全員店をぶっ壊しはじめやがった”」
ロック「……――この街、何か悪い薬でも流行ってるのか? それとも、何か恨まれるようなことでもしたのか?」
レヴィ「恨みだったら吐いて捨てる程買ってンよ。
――薬も、“こンなイカれた行動を狙ってするようなトビ方をする”もんはねェ」
ロック「……狙われてるのは――」
レヴィ「――面白くねェ事に、あんたとアタシだよ、ロック」
ロック「全く――何が一体どうなってるンだ……」
レヴィ「アタシに聞くんじゃねェよ。こっちが聞きたい位だ――……ッて、酒まで切れやがった」
…ピチョン――
・ ・ ・
翌日
ロック「どうしたんだいベニー? あんたが二人っきりで話したいだなんて、珍しいじゃないか」
ベニー「――ロック。最近、君とレヴィを取り巻く環境に変化があったっていうのはわかってるね?」
ロック「……まあね。ここまでされちゃあ、“言葉の話せない子供だって”察しがつく」
ベニー「――今、僕が君に聞こうとしてるのは、まさにその例え通りの事さ」
ロック「?」
ベニー「ロック。君は言葉の話せない子供じゃないし、取るべき責任――義理は通す人間だ。
だから……“もし、そうだった場合”でも僕は安心してる」
ロック「――なあ、ハッキリ言ってくれ。この街に――“俺とレヴィに何が起こってるんだ”?」
ベニー「良い質問だね。問題の本質を捉えているし、ほぼ満点に近い。
この街はね、ロック――祝ってるのさ。それも、建国記念日なんて目じゃない位盛大に」
ロック「……――何を?」
ベニー「――君と、レヴィの間に子供が出来たって事をさ」
ロック「……――はあァァァッ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! どうして“そんな話になってるんだ”!?」
ベニー「……はぁ。やっぱり出来ちゃあいなかったんだね。――こりゃ、バレたら大変な騒ぎになるぞ」
ロック「……まさか、レヴィに子供が出来たから“こんな事”になってたのか?」
ベニー「そのまさかさ。ホテル・モスクワ、三合会を筆頭に、イタリアン・マフィアやカルテルの連中まで関わってる。
――つまり、連絡会は全滅。ついでに暴力教会の方にも動きがあるみたいだ」
ロック「……――冗談だろ?」
ベニー「冗談なんかじゃないさ。現に、傘下の組織や中小規模の組織もそれに文句一つ言う事なく従ってる。
最近、この街で荒事が“とんと”無いのはそのせいさ。まあ、賞金稼ぎ連中は少し不満らしいけどね」
ロック「……――あれ、痛く無いぞ?」ギュウウウウ!
ベニー「悪いけど、これは夢じゃないよ。今は、この街全体がドリームに包まれてるけどね。
アメリカン・ドリームを越える――そうだな、“ロアナプラン・ドリーム”なんてどうだい?」
ロック「……――悪夢だ!」
ベニー「けどね、ロック。“おかげでこの街は潤ってる”。
今まで抗争で費やしてた力を完全に外に向けられるんだから当然さ」
ロック「……なあ、ベニー。俺は――どうすれば良いと思う?」
ベニー「僕に聞かれても困る。なにせ――“これはもう、キミ達だけの問題じゃない”し、
とっくに僕の手には余る事になってるんだ」
ロック「――は……ははは!」
ベニー「……――まあ、強いて言うとしたら――“グッド・ラック”……かな」
・ ・ ・
事務所
ダッチ「よう、ベニー・ボーイ。“パパ”と一体何の話をしてたんだい?」
張「火傷顔。二挺拳銃に会っちゃいないだろうな? お前さんの顔は胎教に良くない」
バラライカ「それは張、そちらにも言える事だな。お前の息を吸ったら、胎教どころじゃあなくなる」
ベニー「別に。大した話じゃあないさ」
ダッチ「ほう、そうかい。――ところで、ラグーン号にベビー・シートを取り付けようと思うんだが、お前さんはどう思う?
俺個人の意見としては、わざわざジェット・コースターに乗りに行く手間が省けて良いと思うんだが」
張「――甘いな。とろけちまうような甘さだ、火傷顔。――俺は、とっくに煙は吸わなくなった」
バラライカ「“そういう意味”じゃあないの。ベイブがベイビーに近付くな、と言ってるのよ。おわかり?」
ベニー「……――そりゃあ良い考えだ! 僕は、船長の意見に従うよ」
ダッチ「ヘヘ、お前ならそう言うと思ったぜ、ベニー・ボーイ。実はな――とっくに仕入れは済んでる」
張「――鉄火場に残ってるお前さんこそ、ベビーに悪影響だ。“血と硝煙の臭いが抜けてないぞ”」
バラライカ「……――張。貴方、まさか――」
張「――その“まさか”さ。――今の俺の得物は……地球にも子供にも優しい、ウォーター・ガンだ」
バラライカ「……チッ!――いい気になるなよ」
ベニー「……」
・ ・ ・
その夜、レヴィの部屋
ロック「……」
レヴィ「……――マジか?」
ロック「――俺だって信じたくは無いさ。“有り得ない話だが、そう考えると辻褄が嫌が応にも合っちまうんだ”……」
レヴィ「……ここ最近のイカれっぷりは――アタシがあんたに種付けされたって事で起こってたのかい?
なあ、ロック――悪い冗談はよせよ。いくらアタシでも、それが“とんでもねえ馬鹿話”だって事位わかるぞ」
ロック「……」フルフル
レヴィ「……――だーっはっはっははは! なンだそりゃ! わっけわかンねェ!」
ロック「――レヴィ」
レヴィ「ひーっひひひ! あんたも笑いなロック! ぶわっははははは!!」
ロック「……――レヴィ。――“笑った所で、何一つ問題は解決しないぞ”」
レヴィ「じゃあ、どうすりゃ良いってンだ? このまま“祭”に乗っかってろてのか?」
ロック「――それは……無理だろうな。何せ、“全てが誤解の上に成り立ってる”」
レヴィ「とっととゲロっちまおうぜ。そうすりゃ全て“元通り”。ノー・プロブレムだ」
ロック「……――どうやら、そうもいかないみたいらしい」
ロック「――この街――ロアナプラは今、必死になって一つのダムを作り上げてる」
レヴィ「……ロック。――そのダムは、本来“必要の無いもん”だろう?」
ロック「“俺たちにとっては”な。――けれど、
作り上げてる連中にとっちゃ、もう引き返せない所まで工事は進んでるんだ」
レヴィ「間抜けな話だな。全員水の中に落ちちまえば良い」
ロック「……本当に間抜けな話だが、それによってメシの種が増えてる連中もいる。
――そこが、この問題の厄介な所だ」
レヴィ「――知ったこっちちゃねェよ。アタシらは、てめェがメシを食えりゃそれでハッピーだ」
ロック「これは――そんな単純な問題じゃない。“この街全体の問題なんだ”」
レヴィ「ヘイ、ヘイ! ビビってンのかいロック? 馬鹿が勝手に騒いでるってだけだろうが」
ロック「レヴィ。――“馬鹿でも戦争は出来るだろ”?」
レヴィ「……それじゃあ、どうするつもりなンだよ?」
ロック「……それは――」
レヴィ「……」
ロック「……――どうしよう……!?」ゴロゴロゴロゴロ!
レヴィ「……床を転がンなよロック。ホコリが立つし、メチャクチャウザってえ……」
・ ・ ・
翌日、ラグーン商会事務所
ロック「……」
レヴィ「……――チッ」
ダッチ「――舌打ちとは穏やかじゃねえなレヴィ。今は、波風を立たせるにはよくない時期だ。
何かあったのか? 何かあったんなら、遠慮なく言いな。コンコルドより早急に解決してやる」
レヴィ「……なンでもねェよ」
ロック「――は、ははは……」
ベニー「――ああ、そうそうダッチ。ラブレスのお屋敷にも、言われた通り手紙を送っておいたよ」
ダッチ「オーケイ。これで“抜かり無し”だ」
レヴィ「――そりゃ、“どういうこった”?」
ダッチ「水臭いことは言いっこナシだぜレヴィ。――俺たちはな、特大のスイート・パイを貰うのを待ってるのさ」
ベニー「……――という訳なんだ、ロック」
ロック「……――は、はは――“参ったな”……」
レヴィ「あ~……面白くねェ」
prrrrr!prrrrr!
ベニー「ダッチ、電話だよ」
ダッチ「悪いが、今は手が離せねえ。“本人抜きで話を進めてるから、面倒な事が多いんだ”。
――ロック、代わりに出てくれ」
ロック「あ、ああ――わかった」
ダッチ「――別に、“俺が今やってる仕事をお前さんが片付けてくれても良いんだぜ”」ニイッ
ロック「え、遠慮しとくよダッチ」
カチャッ
ロック「……――ハロー?」
『よう、ロック。景気はどうだい?』
ロック「……――ミスター・張?」
張『――なあ、ロック。……“そろそろ良いんじゃあないか”?』
ロック「……え? え~っ……と――」
張『俺たちはな、そろそろ我慢しきれない所までいってるんだ。“わかるだろ”?――“そろそろ聞かせろよ”』
ロック「……――聞かせろ、というと?」
張『トボけるのはナシにしようぜ。もう、“祭”はとっくにでっかくなっちまってる』
ロック「……は、はあ」
張『“心の準備は、とっくに出来てるだろう”。――これ以上焦らすのは、さすがに野暮ってもんだ』
ロック「……あ~……ははは」
張『安心しな。正直今すぐにでも聞きたい所ではあるが、電話で聞くほど無粋な真似はしねえ』
ロック「――そ、そうですか~……」
張『――全く、ロアナプラ全体を焦らすなんて――お前はとんでもない悪党だな』
ロック「そ――それほどでもありませんって! ホントに!」
張『ははは! まあ良いさ!――“これ以上焦らされるのは性に合わねえ”からな!――ダッチに代わってくれるか?』
ロック「……ミスター・張? どういう意味で――」
張『“ロック”。――聞こえてたろ?』
ロック「……――ダッチ。ミスター・張が代われってさ」
ダッチ「――ほう、そうか」ニヤリ
ロック「……――レヴィ」
レヴィ「どうしたンだよ。――まるで、三日三晩ゲイと一緒の部屋に閉じ込められた後みたいなツラだぞ?」
ロック「――チェック・メイトだ」
ダッチ「――ほう、とうとうやるのかい? バラライカの方は?――ああ、“あっちも今日が良い”って言ってるのか。
他の野郎共は?――オーケー、そいつは良い。今日は、月を旗でファックした時以上のスペクタクルになるな」
ロック「……――しかも、王手飛車取りまで同時にかかってる」
レヴィ「――腹ァくくれよ。……さすがにアタシも、“ヤバイ”って事はわかるけどよ」
ダッチ「――オーライだ張さん。今晩だな?――場所は――まあ、それが妥当な所だろうな。
あんまり上等な所でもいけねえ……――おう、じゃあな張さん。――“また後で”」
――ガチャッ
ロック・レヴィ「……」
ダッチ「――というわけで、だ。今夜の仕事が決まった。――場所はイエロー・フラッグ。
依頼人は――“ロアナプラ”だ」ニイッ
ロック・レヴィ「……――オーケー……」
・ ・ ・
夜――イエロー・フラッグ
シェンホア「――しっかし、よくこれだけ集まったね。店に入りきってないですだよ」
ソーヤー『ガガッ…ロアナプラ中かラ…ザー…人が集まっテるん…だもノ』
ロットン「……いいんじゃないか。こういうのも」
ヨランダ「……――騒がしいね」
エダ「――何人か“間引き”ますか? そうすりゃ、スペースも空きます」
リカルド「姐さん、そりゃまずいっすよ」
エダ「シスターって呼びなクソボケ。――冗談の一つもわからねェのか?」
ワトサップ「――へっ、ここに居る全員を逮捕すりゃあ静かになりそうだな」
バオ「そんな気はねえだろうが。――しっかし、商売繁盛すぎて困るぜェ」ニコニコ
「――せますぎンぞ! おい、バオ! なンとかしろ!」
「まだまだ来るンだぞ!」
バオ「うるせェ! こちとら知ったこっちゃねェんだよ! 文句あるなら出て――」
バルルルンッ!
一同「!?」
ソーヤー『ザザッ…オープン…バーにすレば…ザザッ』
シェンホア「――おう、それ良い考えね」
バオ「おい、おい、おい、おい!? お前ら、ちょっと待て! 待ちやが――」
・ ・ ・
バラライカ「――何? この店って、オープンバーだったの?」
ボリス「……いえ、そんな事はなかったと思いますが」
バオ「チクショウッ! てめェら、俺の店をなンだと思ってやがる!?」
シェンホア「もっと右の方削るます」
ソーヤー『ガガッ…楽しイ……』ウットリ
「いいぞ、もっとやれやれ!」
「だれか斧持ってこい!」
バオ「――ああもう! 勝手にしやがれってンがクソ野郎共がァ!!」
バラライカ「――だ、そうだぞ。“もう少し広くして来い”」
ボリス「了解しました――」
バオ「!? おい、待て! なンだそりゃ!? 何をするつも――ああァァァ!?」
――キキイッ…バンッ
張「……――火傷顔。こりゃ、一体何の騒ぎだ?」
バラライカ「――ちょっとした“改装”よ」
・ ・ ・
ベニー「――ダッチ、一つ聞いてもいいかい? 僕は、道を間違えた覚えはないんだけど」
ダッチ「そうだなベニー・ボーイ。――俺の頭の中のカー・ナビもここがイエロー・フラッグだって言ってるぜ」
バラライカ「あら、ダッチ。遅かったじゃない」
張「待ちくたびれたぜ」
ダッチ「よう、こりゃ一体どういう事だ? あんたらが居るって事は、場所は間違っちゃいねえはずだが」
バオ「……お……俺の店……!」
ダッチ「――オーライ、なんとなくわかった。――バオが、ちょいとばかりアンラッキーだったってことだな」
バラライカ「そう。“それだけの事よ”」
張「二挺拳銃と、ロックは?」
ダッチ「ウチの従業員はシャイでね。車の後部座席で内緒話中だ」
張「――そうかそうか。――“そいつは楽しみだ”」
バラライカ「ええ、“本当にね”」
ベニー「二人に声をかけるかい?」
ダッチ「……――いや、“それ位は”二人のタイミングに任せようか」ニイッ
・ ・ ・
車中
レヴィ「――ヒュー! こいつはすげェ騒ぎだな!――こン中に爆弾を投げ込んだら、さぞかし爽快だろうぜ」
ロック「……はは、正直――そうしたい気分だよ」ズーン
レヴィ「まァ、爆弾を投下することに変わりはねェだろ? 蜘蛛の子よりも早く散るだろうぜ」
ロック「――“それだけで済むと思うか”?」
レヴィ「……まあ、間違いなくその蜘蛛は真っ先にアタシらに噛み付くだろうな。――とっくに巣にはかかってンだ」
ロック「……」
レヴィ「――安心しなよ、ロック。――アタシがハッキリ言ってやるよ、“クソ食らった間抜け共”ってな」
ロック「レヴィ……?」
レヴィ「アタシが出ていきゃ、そっちに目がいく。
そうしたらお前は、すぐさま運転席に行ってエンジンをかけな。――“あとは分るな”?」
ロック「おい、レヴィ!?」
レヴィ「――良い子にしろよロック。聞き分けってのは大切だ。――上手くやれよ」
ロック「おい、レ――」
…ガチャッ!
「――おッ出きやがったぜ!」
「いよいよだな!」
張「――まずは二挺拳銃だけか。これも演出か?」
バラライカ「ロックのことだから、ありえるわね」
レヴィ「――いいかクソ野郎共! てめェらは馬鹿だ! 救いようのねェクソッタレ共だ!」
パチパチパチパチ!
レヴィ「拍手してンじゃねェ!――クソッ! うざってエェェェ!!」
シェンホア「照れてるか、らしくないですだよ」
ソーヤー『わカる…ガガッ…わ』
レヴィ「――いいか! よく聞きな! アタシは――」
ダッチ「――おっと、ちょいと遅れてロックの登場か」
レヴィ「!?」
ロック「……――レヴィ。そこから先は――俺が話す」
レヴィ「おいコラ、クソボケロック! どういうつもりだ!?」
グイッ!
ロック「……――腹は決まったって事だレヴィ。――“それだけだ”」
レヴィ「――あん?」
ロック「――え~……皆様、わざわざお集まりいただきありがとうございます」
――しぃ…ん
ロック「――知っての通りだとは思いますが……」
レヴィ「……チッ、バカ野郎が」
ロック「……――子供が出来ましたので……僕達二人は一時――日本に行ってきます」
――しぃ…ん
レヴィ「……――へっ?」
ロック「――知っての通り俺は日本人なので、日本に居る両親に挨拶を、と――!?」
ぐいっ!
レヴィ「ロック、どういうつもりだ!?」
ロック「合わせろ」ボソッ
レヴィ「あん?」
張「――ロック。めでたい席で、“寂しいことを言うな”よ」
バラライカ「そうね。――“色々と無駄になってしまうもの”」
エダ「ヘイ、レヴィ! 二度と日本には行かねェんじゃなかったのか!?」
ロック「――申し訳ないが、これは“二人で決めた事なんだ”。……な、レヴィ?」
レヴィ「……そ、そうだなロック。“これに関して、とやかく言われるのはごめんだぜ”」
ダッチ「……――二人共、そんな離れ技で皆納得すると思ってるのかい?
今――俺まで穴の穴にツララをねじ込まれてる気分だ」
ロック「――“気持ちはわかるけど――籍の問題があるだろう”?」
レヴィ「……あ~……その通りだ」
ロック「俺はな、ガキの頃から決めてた事があるんだ。届けを出す時は、ゆっくりと二人でってな」
レヴィ「……おい、この流れはマズいんじゃねェか?」ボソッ
ロック「――という訳なんだ。……――すまない」
レヴィ「……――アタシはもう知らねェぞ」
「――ッざけンじゃあねェぞコルァ!!」
「ここまで盛り上げさせといて、今さら何言ってンだァ!!」
「こちとら、そンなんじゃあ収まりがつかねェとこまでき――」
プシュッ! プシュッ!
「ッ!? 冷て――」
張「――黙りなクソ共。――でないと、今度は“最大圧力でお見舞いするぜ”」
バラライカ「――奇遇ね張。私も同じ考えだけど――“そのウォーター・ガンのセンスは悪すぎる”」
張「――いいか、ロックは“男を見せた”んだ。“これ以上何を求める”?」
バラライカ「いいか。ここで考えを無理矢理変えさせたところで、抱っこは遠のくだけだ」
「……」
張「今必要なのは何だ? 罵声か? 憤怒か?
それとも自己満足を満たすための文句か?――そうじゃあねえだろう」
バラライカ「仁義を通そうとしてる者の妨げをするのは、“実に不愉快極まる”。
それが、今回のようにめでたい事なら尚更、ね」
張「ロックは筋を通した。――なら、今俺たちがやるべき事は一つだ。
……いいか? 俺だって大量のベビー用品が無駄になってるんだぜ?」
バラライカ「ケチ臭いわね、張。――郵送すれば、“何の問題もなくなるわ”。
……――残念なのは抱っこだけれど、それ位は……我慢……す、るわ」
張「――騒げ。今、やる事はそれだけだ」
バラライカ「……3……2……1」
「――オオオオオオォォォォ!!!」
レヴィ「……――ヘイ、ロック」
ロック「……言うな。――“その場しのぎが、もっとヤバい事態を引き起こしちまった”……」
・ ・ ・
一週間後――飛行機内
レヴィ「……チッ! まさかまた日本に行くことになるとはな」
ロック「――仕方ないだろ? でなきゃ、今頃俺たちは“もっと上空”を飛んでた」
レヴィ「で、これからどうするつもりだ? 行き先はバレちまってるし、与えられた猶予は二週間だ。
どンなトリック・スターでも――逃げられねェぞ?」
ロック「……――とりあえず、ゆっくり考えるさ。――導火線は伸びたんだ」
レヴィ「どこでそいつを千切るか、だな。――うまくやらねェと、解体の時に爆発しちまうぞ」
ロック「“そうならない方法を考えるまでだ”」
レヴィ「……――クソ、面白くねェ」
ロック「? 何か言ったか?」
レヴィ「……なンでもねェよクソバカ、死ね。窓から飛び降りゃ、天にも昇る気持ちでまっ逆さまだ」
ロック「――はぁ……どうすれば良いんだろうな」
レヴィ「アタシに聞くんじゃねえよアホタレが。……――あ~……面白くねェ!!」
・ ・ ・
同時刻――ラグーン商会、事務所
ベニー「――もうすぐ、二人の乗った飛行機が飛び立つ時刻かな?」
ダッチ「そうだなベニー・ボーイ。とっときのクラスの席を貸切なんて、うらやましくてしょうがねえ」
ベニー「まあ、この街の人間のやる事だからね。今さら驚きはしないさ」
ダッチ「そうだな。人間がメシを食って驚く奴はいねえって事と同じだ」
ベニー「――それにしてもダッチ。“あの二人”は、“あれで良かったのかい”?」
ダッチ「さあな。その事に関しちゃ、俺が口出しするるような問題じゃねえ」
ベニー「だよね」
ダッチ「――ま、上手くやる事を願うさ」
ベニー「……――そうだね、本当にそう思うよ」
・ ・ ・
日本、空港出入り口
ロック「……」
…ドサッ
「――おいおい、感動してくれるのは嬉しいが――さすがに反応がオーバーすぎるぜ」
「――そうね。――空の旅はどうだった? その様子だと、中々快適だったみたいだけど」
レヴィ「……――ヘイ、ヘイ……こりゃ、“一体どういう事だ”?」
ロック「……――俺に聞くなよ――頼むから……!」
張「さあ、挨拶をしに行こうぜお二人さん!」
バラライカ「通訳の方は頼んだわよ、ロック」
ロック「……は、はははは……は」
レヴィ「――“こいつは逃げられねえな、ロック”?」ニヤリ
おわり
380 : 以下、名... - 2009/01/30(金) 04:40:57.41 NxpoeUmM0 46/49
こんなくだらねえもん最後まで読んでくれてありがとうよ、クソッタレ共
ここで終わるのが一番“それっぽい”だろ?
[おまけ ロアナプラ編]
シェンホア「今回、私出る意味あたか?」
ソーヤー『ガガッ…活躍…シたじゃなイ』
ロットン「……いなくても良かったのは――“誰だったんだろうね”」
・ ・ ・
バオ「……」
ワトサップ「……――まあ、元気だせや」
・ ・ ・
ヨランダ「……おばあちゃん役は、ここに居るじゃないか」
リカルド「ちょっとファンキーすぎませんか?」
エダ「バカタレ。――“そういう事”は黙っときな」
・ ・ ・
ビウ「置いてきボリス」
ボリス「漢字が出ない人間が吼えるな」
[おまけ ラブレス家編]
ファビオラ「若様! この様な真似をお許しになるのですか!?」
ガルシア「え~……と……」
ロベルタ「――若様」
ガルシア「――な、なんだいロベルタ?」
ロベルタ「“なんなりとお申し付けください”」
ガルシア「いや、何を!?」
ファビオラ「婦長様。調整はバッチリ終わってますよ」
ガルシア「ねえ、何の!?」
ロベルタ「――“若様”」
ガルシア「……――ろ、ロベルタ……?」
ロベルタ「――招待状は出されたというのに……!」ギリッ!
ファビオラ「若様。――私も婦長様と同じ気持ちです」
ガルシア「あ……う……!?」
ロベルタ・ファビオラ「――若様」
[おまけ ???編]
雪緒「私達の出番が来ましたね」
銀次「……――お嬢。残念ですが――それは……」
ヘンゼル「ねえ、姉様。あそこでおかしな事を言ってる人たちがいるよ」
グレーテル「そうね、兄様。出番なんて、ある訳がないのにおかしいわね」
イブラハ「――神よ……ここは一体――!?」
・ ・ ・
竹中「日本が楽しいヨカ―――ン!!」
オシマ――イ