1 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/03 01:49:45.53 t98hVN5/o 1/281前スレの時系列順です
霊能少女「本当の戦いはこれからってやつかな」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520603965/
http://ayamevip.com/archives/51765488.html
幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466012540/
http://ayamevip.com/archives/48660723.html
幼女幽霊「ちょっと昔話でもしようか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525550862/
http://ayamevip.com/archives/51944447.html
元スレ
幼女幽霊「呪いが勝つのか、幽霊が勝つのか実験だよ実験!!」DQN幽霊「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530550185/
▢▢▢▢ 廃病院 ▢▢▢▢
幼女幽霊「……」ポチポチ
DQN幽霊「……」ポチポチ
幼女幽霊「……」ポチポチ
DQN幽霊「……」ポチポチ
幼女幽霊「…………」
幼女幽霊「クソ暇だなオイ」
DQN幽霊「そっスねェ」
幼女幽霊「いやなんでこんなに暇なの。なんで誰も来ないの。もう夏だぞ、誰か肝試しに来いよ」
DQN幽霊「今年はマジで暇っスねぇ。去年の比じゃないっス」
幼女幽霊「マジでどうなってるんだが。暇すぎて死にそうなんだけど」
DQN幽霊「でも俺ら幽霊っスから、もう死んでますけどね」
幼女幽霊「そのゴーストジョーク飽きた。つまんない」
DQN幽霊「……」
幼女幽霊「はぁ……やっぱりネットとかゲームしても一時しのぎにしかならないな。幽霊の性分なのか知らんけど、悲鳴を聞かないとやる気でないわ」
DQN幽霊「そうっスか?俺は結構平気っスよ」
幼女幽霊「そりゃお前は下級霊だからな。足付きは色々あるんだよ、下級と違って足があるから」
DQN幽霊「……胸はないくせに」ボソッ
ゴツンッッッ!!!!!!!!!
DQN幽霊「」
幼女幽霊「次いらんこと言ったらマジで消すぞワレ」
幼女幽霊「しかしあれだな。今年の夏って何かムシムシする。今まではこんなの感じなかったのに」
DQN幽霊「いたた……あーそれ分かるっス。何か蒸し暑いっていうか、ジメジメ感ありますよね。湿気?」
幼女幽霊「いや幽霊に湿気は感じないだろ。気の流れでも変わったんかな」
幼女幽霊「何かこう……気持ち悪い異物感がある。言葉に例えるのが難しいけど」
DQN幽霊「人が来ないのもこれが原因なんスかねぇ」
幼女幽霊「まあそれもあるかもな。さてと」
幼女幽霊「私は暇だし、映画館に行ってくるわ。確か今日公開するやつがいくつかあったし」
DQN幽霊「うわ……一人だけでズルいっス」
幼女幽霊「ならお前もフユウになれば?あっ!下級霊には無理か!HAHAHAHAHAHAHA!!!!!」フワァ
DQN幽霊「……」
DQN幽霊「移動範囲が増えたからって調子に乗って。やっぱあの人馬鹿だな」
DQN幽霊「しかし、本当になんで先輩一人だけ変わったんだろうな……やっぱ原因はアイツにあるのか」
DQN幽霊「もし、先輩が消えてないことをアイツが知ったら……また襲ってくるんだろうか。まあ今の先輩なら勝てるかもしれないけど」
DQN幽霊「あー暇だな。一人だと、先輩に隠れてまたエロ動画でも漁るか」カチッ
DQN幽霊「……やっぱやめとこ。空しいだけだわ」
DQN幽霊「はぁ、先輩からオススメされた映画でも見るか。見ないとまたぶーぶー言われるし」
DQN幽霊「でも先輩の勧めてくる映画って何かつまんないんだよなぁ。B級つーか全体的にチープで幼稚というか」
DQN幽霊「まあ見た目幼女だしな。外見が変わらないと中身も成長しないんだろうな」ブツブツ
ピーーーー
DQN幽霊「ん?この音は」クルツ
カップル男女『』イチャイチャ
DQN幽霊「うおお、マジか。先輩が留守中にまさかの久しぶりの客が来やがった。しかもカップル」
DQN幽霊「どうすっかこれ、連絡しようにも幽霊だから携帯なんて持ち歩いてないもんな。ってことは……」
DQN幽霊「俺一人でやるしかない、か?」
カップル女『ねーここほんとに出るのー?』
カップル男『まじまじ、ネットですげー出るって有名なとこ』
カップル女『やだーこわーい』
DQN幽霊「さてどうっすかな。今まで先輩と一緒におどかしたことは何回もあったが、病院に一人きりってのは初めてからな」
DQN幽霊「まあ何とかなるか。俺も幽霊になって一年はとっくに経った。先輩の横で何度も実演を見てきたし、機材も道具も一通りは揃っているからな」チラッ
DQN幽霊「よし!いっちょやってやりますか!!」バッ
ガチャ
DQN幽霊「えーっと、確かこの部屋だったよな。先輩が人形を置いてたのって」
ムカデ人間『』
武器人間『』
セイウチ人間『』
DQN幽霊「おっ、あった。人間シリーズ。これ持ってくか」
DQN幽霊「んでこっちは……よし、ホッケーマスクとチェーンソー。あと長髪のカツラとソーセージで作ったリアル腸」ガサゴソ
DQN幽霊「これだけあれば足りるか。さて残りはオーブだけだな」
DQN幽霊「おーーーい!!!!オーブ!!!!出てこーい!!!!」
オーブ「」フワッ
DQN幽霊「よし来たか、じゃあさっそく行くぞ。オーブ、この人形の中に入れ」
オーブ「」ヘナッ
DQN幽霊「……相変わらずお前達はやる気ないな。前にいたオーブは活発に動いてたのによ」
DQN幽霊「ほら、早く急げ。もう二階まで来ちまうぞ」
オーブ「」シブシブ
コツンッ……コツンッ……
カップル女「ねー幽霊全然でないねー」
カップル男「あぁ、噂はデマだったのかもなぁ」
カップル女「ねーもう帰らない?何かここ寒いんだけど」
カップル男「いいじゃん、もうちょっと探検しようぜ。せっかく来たんだし」
カップル女「もー男って本当にそういうの好きだよね」
DQN幽霊「よし、もうすぐこの部屋に来る頃だな。おい、準備出来たか?」
ムカデ人間「」カタカタ
武器人間「」カタカタ
セイウチ人間「」カタカタ
DQN幽霊「おぅ……幽霊の俺が言うのもなんだけど、めちゃくちゃ気持ち悪いな。生命を冒涜するかのような動きだぞ」
DQN幽霊「さてこっちも白い布を纏って、カツラを被り、マスクを付ける」カパッ
DQN幽霊「そしてチェーンソーのスイッチを入れて……完璧だな!」ブロロン
ブロロン……
カップル女「ん?」クルッ
カップル男「どした?」
カップル女「いや、何か今さっきエンジン音みたいなのが聞こえなかった?」
カップル男「エンジン音?外に車でも来たんじゃねえの」
カップル女「それにしては音が響いてたような……まるでこの中で鳴らしているみたいな感じだった気がしたんだけど」
カップル男「気のせい、気のせい。ほら、早く先に行こうぜ」
カップル女「う、うん。そうだね」
スタスタ……スタスタ……
ニチャ……ニチャ……
カップル女「……ねぇ、何か変な音がしない?水滴みたいな」
カップル男「あぁ、何だろうなこの音。あっちの部屋からしてないか?」
ニチャ……ニチャ……
カップル女「……」ゴクリ
カップル女「ね、ねぇ……もう帰らない?気味悪いよ」
カップル男「なんだよ、ビビってんのか?」
カップル女「だ、だって変だよ、この音。まるで、何かを咀嚼しているような……」ブルッ
カップル男「はっ、どうせここに住み着いてるネズミか何かが水でも飲んでる音だろ。大丈夫だって」グッ
カップル女「ちょっ!?」
ガチャ……
カップル男「ほら、何もな――」
ムカデ人間「」ムシャムシャ
武器人間「」ムシャムシャ
セイウチ人間「」ムシャムシャ
カップル男「――い?」
カップル女「ひっ……あっ……」
「「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!」」
DQN幽霊「よしよし、第一陣は成功だな」
オーブ「」ツンツン
DQN幽霊「あ?どうした」
オーブ「」フラフラ
DQN幽霊「そのジェスチャーは……もう疲れたって意味か?」
オーブ「」コクコク
DQN幽霊「おいおい勘弁してくれよ。まだ始まったばっかだぞ、本番はこれからだ」
オーブ「」プイッ
DQN幽霊「あーもう、分かった分かった。じゃあ後は正面の出口閉めといてくれるだけでいいよ。残りは俺一人でやるから」
オーブ「」フラー
DQN幽霊「まったく最近のオーブと来たら、すぐに休みたがるんだから」
ダダダダダダダダッ!!!!!
カップル女「はぁっ……!!はぁ……!!な、なにあれっ!?」
カップル女「く、食ってた……!!ば、化け物が人を……!!ねぇ!!!」
カップル男「うるせぇ!!!!んなことより早く逃げるぞ!!!!」
カップル女「ま、待ってよ!!あ、足が……!」
ダダダダダダダダッ!!!!!
カップル男「あった!出口だ!これで外に――!?」ガチッ
カップル男「ど、どうなってんだよ!?おいっ!!!!」
カップル女「ど、どうしたの?」
カップル男「開かねえんだよ!!!!どうなってやがんだオイ!!!!」
カップル女「う、嘘でしょ!?だ、誰か!!ここから出して!!」バンバン
カップル男「ふざけんなよ!!!!おい!!!!」バンバン
ブロロン……ブロロン……
カップル女「!?」
カップル女「な……う、後ろに……何かいる……」ブルブル
カップル男「今の音……ま、まさか……」クルッ
チェーンソー男『ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』ブンブン
カップル「「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
バタッ
チェーンソー男『よっしゃ!!大成功だな!!』ヌギッ
DQN幽霊「いやぁ……俺も中々演技派だよなあ。自分でも感心するくらいの迫真の演技だった。こんなことなら役者でも目指せばよかったぜ」
DQN幽霊「先輩にも見せてやりたかったわ。俺も一人前の幽霊になったんだなぁ……」
DQN幽霊「……ん?」
DQN幽霊「あれ、この驚かせた後はどうするんだ?いつもは先輩が記憶を消して、適当な場所に放っておいたが、今は映画を観に行ってて居ない」
DQN幽霊「暇な先輩のことだから、恐らく新作は一気に全部見るはず。一本二時間として、それをいくつか見るわけだから……」
DQN幽霊「……あれ?もしかしてその間ずっと、俺がこいつらを起きないようにしないといけないのか」
……………………………………………………………………
…………………………………………………
幼女幽霊「たっだいまぁ~」フワァ
幼女幽霊「あー面白かった!大満足の出来だったね。三つとも大当たりの映画だったよ!!私って見る目あるなぁ!!」
DQN幽霊「あ、せ、先輩……やっと帰ってきた」グタァ
幼女幽霊「あ?なんだお前、幽霊のくせにずいぶんやつれてるな。何かあった?」
DQN幽霊「あそこの部屋にいるカップルの記憶を早く消して飛ばしてほしいっス……もう7時間近くもあいつらを見張って、驚かしていたから体力が限界っス……」
幼女幽霊「は?」
シュンッ
幼女幽霊「はい、これで記憶も消えて、どっか適当な公園に飛んだはず」
幼女幽霊「で、なんで私がいない間に客が来て、お前が相手したの?」
DQN幽霊「いやだって……いつも先輩ばっかり美味しい役やってズルいじゃないっスか。俺もやってみたかったし……」
幼女幽霊「んで、その結果がいざ失神させたところまでは良かったけど、その後の処理が出来なくて、あいつらの目が覚めるたびにまた怖がらせに行っていたと」
DQN幽霊「ウ、ウス……そういうことになるっスね」
幼女幽霊「……」
幼女幽霊「馬っっっ鹿じゃないのぉ!?恐怖ってのは鮮度が大事なんだよ!!!!!何度も同じように連続でビビらせたら怖いもクソもなくなるだろうが!!!!!」
幼女幽霊「どうせ、後半の辺りはそいつらもそんな怖がってなかっただろ!!!!さすがに飽きるわ!!!!こんな廃病院でも慣れちまうわ!!!!!」
DQN幽霊「そ、そうっスね……もう最後は殴って無理やり気絶させる形になってたスね」
幼女幽霊「オーブちゃんを見てみろや!お前がこき使ったせいでめっちゃ疲れてるじゃん!これじゃあしばらく使いもんにならねぇだろうが!!!」
オーブ「」キューン
幼女幽霊「せっかくここまでまた増えたのに何やらかしとんじゃこのクソガキがぁ!!!!!!」ボコォ
DQN幽霊「グワハァ!?」ズサー
DQN幽霊「ク、クソガキって……俺、実年齢は先輩より上なのに……」
幼女幽霊「いいか、私達幽霊にとってオーブちゃんは大切なパートナーなんだぞ。奴隷じゃないんだ」
幼女幽霊「仕事をさせる時はほどほどに、休憩を挟まないとダメなんだよ。あの子たち敏感だから、ブラックだと分かったらすぐここから出て行っちまうぞ」
DQN幽霊「えぇ……なんスかそのシステム」
幼女幽霊「まったく、だから私がいない時は客が来ても手を出すなって言っただろ。お前は下級霊なんだから、記憶を消す力も瞬間移動も使えないんだぞ」
幼女幽霊「そんなんで人間に接触してみろ。一瞬のうちあのメスガキみたいなのが来て、祓われちまうぞ」
DQN幽霊「う、うぅ……返す言葉もないッス。ちょっと迂闊過ぎたっス」
幼女幽霊「ほら、オーブちゃんに謝って。いっぱい仕事させてごめんなさいって」
DQN幽霊「い、いっぱい仕事させて、ごめんなさい」
オーブ「」プンプン
幼女幽霊「ふむふむ……」
DQN幽霊「な、なんて言ってるんスか?」
幼女幽霊「これから僕達の奴隷になると約束すれば、許してくれるそうだ」
DQN幽霊「はぁっ!?」
幼女幽霊「よし、いいよ。オーブちゃん。これからこの病院の支配者は上から順に、私、オーブちゃん、腐れDQNの順番だ。好きなだけこき使っていいよ」
DQN幽霊「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?俺、オーブより下なんスか!?一応は幽霊っスよ俺も!!!!」
幼女幽霊「うるせぇ!決まったもんは仕方ないだろ!大人しく従え!」
幼女幽霊「元はと言えばお前が悪いんだからな!!」
DQN幽霊「いやそれはそうっスけど!オーブの奴隷ってどういうこっスか!!あいつらただの毛玉みたいなもんじゃないっスか!それに従うなんて無理っスよ!!」
幼女幽霊「あ、お前今のオーブ差別だぞ」
オーブ「」プンプン
幼女幽霊「このレイシストが……これだからDQNは嫌なんだよ。倫理観ってもんがまるでない。ちゃんと道徳の勉強したの?いつまでも精神が成長しないクソガキが」
オーブ「」コクコク
DQN幽霊「う、うぅ……で、でも……間違ってるっスよ。こんなの……」
幼女幽霊「いいから従えよ。ほら、オーブちゃんが肩揉めって言ってるぞ」
オーブ「」スッ
DQN幽霊「肩ってどこだよっ!?」
幼女幽霊「どうしてもやらないって言うなら、私が強制的に従わせるからな」グッ
DQN幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「い、いやだああああああああああ!!!!!!誰か助けてエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」
▢▢▢▢ 数日後 ▢▢▢▢
オーブ「」クイクイ
DQN幽霊「こ、ここっスか?」モミモミ
オーブ「」プンプン
DQN幽霊「えっ!?そこは肩じゃなくて太もも!?」
幼女幽霊「なにオーブちゃん相手にセクハラしてんの。キモ」
DQN幽霊「誰も好きでこんなことしてないっスよ!!!!先輩が俺にオーブの命令効かないと成仏する呪いから渋々言うこと聞いてるんスよ!!!!」
DQN幽霊「そもそも、こんなケセランパサランモドキの体の部位とか何がどこにあるのか分からないんスよ!!!!肩も太もももないじゃないっスか!!!!!」
幼女幽霊「は?今のパワハラだぞテメェ」
オーブ「」プンプン
DQN幽霊「じゃあ先輩!このオーブの首がどこか当ててみてくださいっス!!」
幼女幽霊「え?首?」
幼女幽霊「く、首ね。う、うーん……」
DQN幽霊「ほら!自分だって分かってないじゃないっスか!!」
幼女幽霊「う、うるせぇ!!分かってるよ!」
幼女幽霊「こ、ここだ!ここ!ね?オーブちゃん!!」
オーブ「…………」
オーブ「」コクッ
幼女幽霊「よっしゃ!ほら見ろ!当たってんじゃん!!」
DQN幽霊「なんスか今の間」
幼女幽霊「ふふん、そりゃこの病院の主である私ならオーブちゃんのことなら何でも知ってるんだよ!見くびってもらっちゃ困るね!」
DQN幽霊「いや、どう見てもそのオーブちょっと考えていたじゃないっスか。悩んでたっスよ」
ピーーーー
幼女幽霊「あ、客だ。アホなことしてないで相手しないと」ササッ
DQN幽霊「逃げやがった」
幼女幽霊「さーて今日の客は……ん?」
幼女幽霊「あれ、客がどこにもいないぞ。どこのカメラにも映ってない」キョロキョロ
DQN幽霊「装置の誤作動っス?か」
幼女幽霊「いや、そんなはずはないよ。定期的に点検してるし、今まで壊れたことなんて一度もない」
幼女幽霊「一度、病院内に入ってすぐ出たのか?ちょっと録画を巻き戻してみよっか」ピッ
キュルキュル……
スタスタ
幼女幽霊「あ、いた。やっぱり入ってる」
幼女幽霊「5秒も経たずにすぐ出て行ったのか。何しに来たんだコイツ」
DQN幽霊「ん?先輩、今のところちょっと止めてもらっていいっスか」
幼女幽霊「なに?ここ?」ピッ
DQN幽霊「やっぱり、こいつ何か落として行ってますよ。ほら、さっきまでなかったのに、去る時に箱みたいなのが足元に転がってるっス」
幼女幽霊「あ、ほんとだ。なんだこれ」
幼女幽霊「ちょっと待って、こっちのカメラでも確認してみる」ピッ
幼女幽霊「……あるな。箱みたいなのがロビーに転がってる」
DQN幽霊「なんスかね。落とし物には見えないっスけど。むしろわざとらしく残したっていうか」
幼女幽霊「ちょっと見に行ってみよっか」フワッ
スタッ
幼女幽霊「確かここら辺だと思ったけど」キョロキョロ
DQN幽霊「あ、そこに転がってるやつじゃないっスか?」
箱『』
幼女幽霊「――ッッッ!?」ビクッ
幼女幽霊「DQNッ!!私に掴まれッッ!!!!」
DQN幽霊「えっ!?」
幼女幽霊「いいから早く!!ヤバいぞアレ!!」
DQN幽霊「わ、分かったっス!!」ギュッ
シュンッ
箱『』
箱『』ズズズズズッ……
シュンッ
幼女幽霊「はぁッ……はぁッ……」
DQN幽霊「ど、どうしたんスか?先輩、急に大きな声出して」
幼女幽霊「お前……何も感じなかったのか?」
DQN幽霊「感じるって、何を?」
幼女幽霊「……あの箱だよ。アレ、多分呪いか何かの道具だと思う」
DQN幽霊「の、呪いっスか!?」
幼女幽霊「あぁ……間違いない。アレを直接見た瞬間に……一年前のあの時みたいに、背筋に嫌な気配があった。また別の感触だけど」
幼女幽霊「クソ……何がどうなってんだ。なんでこんなところに呪いなんて」
DQN幽霊「俺にオーブに従う呪いをかけたから、先輩に天罰が下ったのかも――」
ボコッ
幼女幽霊「冗談言ってる場合じゃないぞ。アレを駆除しないと、この病院を乗っ取られるかもしれないんだから」
DQN幽霊「いてて……ど、どういうことっスか?」
幼女幽霊「呪いにも色々種類があるんだ。憑依型とか怨念型とか、その中でもアレは一番厄介な浸食型だ」
DQN幽霊「し、浸食?」
幼女幽霊「例えるなら、病原菌のイメージが一番近いと思う。宿主の体を蝕み、その命が尽きるまで喰らい尽くす」
幼女幽霊「浸食型の呪いはその性質が一番厄介なんだ。元を絶たないと、呪いが蔓延するまで止まることがない……早く何とかしないと、アイツの呪いが病院内を包むぞ」
DQN幽霊「ど、どうなるんスか?もしそうなったら」
幼女幽霊「……恐らく、ここに人間が踏み入るだけで死ぬ。そんなどこかのホラー映画に出てくるような“業”が溢れた建物になると思う」
幼女幽霊「それに、私達にも影響がないとは限らないしね。現に、私の中の警戒信号が全力で反応したし、即刻対処しないと」
DQN幽霊「や、やばいじゃないっスか。それって……あの箱を投げ込んだやつって何者なんスか」
幼女幽霊「さあね。今はそれより、目の前の問題を解決するのが先だよ」
幼女幽霊(一瞬、あのメスガキの顔が過ったけど……多分、これはあいつらのやり方じゃない)
幼女幽霊(あの呪いは人間が容易く扱える代物じゃない。一歩間違えば、何人もの人が犠牲になってもおかしくないくらい。守る立場の人間が使うにはあまりに異質過ぎる)
幼女幽霊(……それになんだ、あの呪いは。今まで他人がかけた呪いは数えるぐらいしか見たことないけど、それらと比べても明らかに根本が違う)
幼女幽霊(呪いの源は他者への怨念、嫉妬、憎悪とかの負の感情だけど……もっと別のエネルギーって言うのかな。そういうのを通り越した力を感じる)
DQN幽霊「それで先輩、どうするんスか?あの呪いの箱を止めるには」
幼女幽霊「……まあ、一番手っ取り早いのは私のプライベート空間に堕とすことだろうね。あそこなら外部に呪いが漏れる心配もないし、封印って形で抑えられると思う」
幼女幽霊「でも、一筋縄では行かないだろうね。あいつも意思を持っているはずだし、全力で抵抗してくると思う。そうなれば――戦闘は避けられないか」
DQN幽霊「また戦うことになるんスか……霊能力者の次は呪いを相手に……俺なんかじゃ力になりそうにないっスね」
幼女幽霊「いや、お前は元から頼りにしてないから安心しろ」
DQN幽霊「そ、そっスか」
幼女幽霊「――今度は呪いが相手か。これなら、私も手加減することなく、全力でやり合えるな」
幼女幽霊「あの日以来、私もそれなりに次の戦いに備えて密かに特訓してきたんだ。今の私に敗北の二文字は存在しない。これは実験だ。あいつがまた来た時に、私の力が通じるかどうかの……」
幼女幽霊「呪いが勝つのか、幽霊が勝つのか実験だよ実験!!」
DQN幽霊「!?」
39 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/03 02:33:34.77 t98hVN5/o 37/281今日はここまで
作中では一年経過していますがリアルだと前作から二年近くが経ってようやく続き書けました…待たせてしまってごめんなさい
多分自分も含めて色々忘れてる人が大半だと思うのでこれから自分用に書いておいたキャラ設定的なのも一緒に投下していきます
40 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/03 02:36:34.95 t98hVN5/o 38/281『幼女幽霊』
廃病院に住んでいる10年前に家族と共に交通事故で亡くなった幼女の幽霊。幼女の姿だが、実年齢は18歳。
人を驚かすことが何よりの楽しみで、日々ありとあらゆる方法で来訪者達を失神させている。
幽霊の中でもより強い力を持つ者の証である"足付き"であり、その力は並の幽霊を凌駕する。
ただ、本人は殺すことに躊躇がある為、戦闘ではその力を完全に引き出す事は出来ない。
使用する力は空間操作、瞬間移動、念力、念波、肉体の具現化など。
霊体だけではなく、生身の肉体を召喚することも出来るが、この身体には特殊な力は何もなく、痛覚も感じるため耐久力は一般的なそれとほぼ変わりない。
奥の手として自らの肉体を分裂、増殖することが可能、しかし魂を分割するために個々の力は通常時より下がる。
霊能少女との一件で回復不能の傷を負い、一時は成仏しかけるが、オーブとの融合により復活。
それ以来、地縛霊から浮遊霊へと"突然変異"を果たすが原因は不明。そしてなぜか以前より力が増したらしい。
低予算ホラー映画が大好き、ただしアイドルが主演だと不機嫌になる。
41 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/03 02:37:42.25 t98hVN5/o 39/281『DQN幽霊』
雑魚、弱い、以上。
フワッ……
幼女幽霊「……」ゴクリ
DQN幽霊『先輩、例の箱に……何か黒っぽい影みたいなのが生えてきてるっス』
DQN幽霊『こ、これ……俺でもカメラ越しに感じるくらい嫌な予感がするっスよ』
幼女幽霊「そうか、多分そいつが呪いの本体だな。もうすぐこっちも目視出来る距離になる」チラッ
ズズズズズズッ……
幼女幽霊「……!!」ビクッ
幼女幽霊(や、やっぱり……ただの呪いじゃないな。まるで世界からはみ出した異物みたいに、本能的な嫌悪感がある)
幼女幽霊(あいつ、絶対に人間だけじゃなく幽霊にも影響を与えるぞ。取り込んで一体化してもおかしくない)
幼女幽霊(私がここで止めなきゃ)グッ
幼女幽霊「おい!そこの呪い野郎!!言葉は通じるのか!?」
ズズズズズズッ……
影『』スゥ
幼女幽霊「今すぐここから出て行け!!!!そうすれば見逃してやらんこともない!!!!」
幼女幽霊「でも、これ以上私の領域を犯すっていうなら……容赦はしないぞ!!」
影『』
影『』ズズズズズズッ
幼女幽霊「……そうか、交渉は無駄か」
幼女幽霊「後悔するなよ!!この幼女幽霊様を敵に回すとどうなるか、その身をもって味わえ!!!!」グッ
影『』ブンッ
ズズズズズズッ……
幼女幽霊「ッ!?」サッ
幼女幽霊(影をこっちに伸ばしてきたか。あれは当たると不味いな、私達には毒に近い)
幼女幽霊(ベストな形としては、落とし穴の要領で異空間に堕とせればいいけど……絶対すぐに這い上がってくるな)
幼女幽霊(まずは力を弱めないと!)グッ
影『』ズンッ
幼女幽霊(念力での攻撃、どうだ)ピキッ
影『』グオンッ
幼女幽霊(ッ……効果はないか。物理的な攻撃は効かないとみていいな)
幼女幽霊(まあそりゃそうか。本質的には人間より、幽霊に近い存在だもん。その手の攻撃は全部無効化されるか)
幼女幽霊(あー……あのメスガキの祓いの力みたいな、生のプラスのエネルギーなら楽に対処出来るんだろうな。私みたいな死者だと、死に近いマイナスエネルギーしか使えないから不利ってことか)
幼女幽霊(なら――これならどうだ)
ズルッ
長髪白装束娘「……」
影『』シュンッ
長髪白装束娘「……」ガチッ
幼女幽霊「私の肉体を捕らえたな?馬鹿め、そっちは魂も何も入ってないただの抜け殻……罠だよ」
長髪白装束娘「」キュイイ
長髪白装束娘「」ボンッッッ
影『』ズズッ
影『』ヨロッ
幼女幽霊(やっぱり!マイナスエネルギーではあの呪いを祓うことは出来ないけど、相殺することは出来る。同程度の力をぶつければ勢いが落ちるってことだ)
幼女幽霊(完全には消せないけど、今はそれで十分!)グッ
長髪白装束娘「」ズサッ
長髪白装束娘「」バタッ
長髪白装束娘「」ズルッ
影『』グググッ
幼女幽霊(よし!増殖体でやつを包囲した!これならっ)
幼女幽霊「押し潰れろオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」ブンッ
影『』ググッ
シュンッ……
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
幼女幽霊「あぁ、抜け殻と言っても、自分の肉体が吹っ飛ぶ姿を見るのはあまりいい気分じゃないな」
幼女幽霊「でもこれで……」
影『』ピクピクッ
幼女幽霊「よし!成功だ!」
幼女幽霊「後はあいつの真下に異空間を作って……」グイッ
影『』ピクピクッ
影『』シュンッ
幼女幽霊「もう遅い!そのまま堕ちろッ!!!!」ブンッ
ブゥゥン……
影『』グググッ
影『』ガガガッ
影『』グラッ
シュンッ
キュインッ
幼女幽霊「……成功だな」
幼女幽霊「これでもう二度と地上に出てくることはないだろ。永遠に異空間を彷徨い続けろ」
DQN幽霊「センパーイ!!やったスね!!」フワッ
幼女幽霊「うん、何とかなって良かったよ。あいつも相手が悪かったね。私じゃない大抵の奴になら、呪いは成功しただろうに」
DQN幽霊「でも改めて考えても不思議っスよねぇ。一体誰がこの病院にあんな物を持ち込んだんスか」
幼女幽霊「さぁ……カメラに映っていたやつは一瞬しか顔が見えなかったし、追跡はもう不可能だろうね」
幼女幽霊「考えられる理由としては、何かのきっかけであの箱を入手したやつが、私達の病院の噂を嗅ぎ付けて呪いを相殺しようとか思ったんじゃないの?知らんけど」
幼女幽霊「目には目を、呪いには幽霊をってね」
DQN幽霊「はぁ~……それはまたはた迷惑な話っスね。こっちは平和に暮らしてんのに、一方的に呪いを押し付けられるなんて」
幼女幽霊「まあもう済んだことだしいいよ。呪いは完全に消えたんだから」
幼女幽霊(――でも、なんだろ。今思うと、あの呪い。どこがで似たような気配を感じたことがあるような……気のせいか)
幼女幽霊「いやぁ~それにしても焦ったわ。まさかあんな来客が来るとはね。でも逆に考えると明日じゃなくて良かったよ」
DQN幽霊「明日?明日に何かあるんスか?」
幼女幽霊「あれ?言ってなかったっけ?」
幼女幽霊「明日、この病院で女子会するんだよ。みんな集まって」
DQN幽霊「じょ、女子会?」
57 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/04 01:55:37.94 gLNF7DVBo 49/281『オーブ』
心霊写真などによく映り込んでいる謎の光球のような物体。
ぞの正体は不明な点が多く、人間の残留思念、形を保てない動物霊など、諸説は様々ある。
幼女幽霊が住んでいる廃病院にも大量におり、交友的に接してはいるが、実は当の幼女幽霊もどのような存在かあまり分かっていない。
周囲には物を動かす、音を出す程度の影響しか与えられないが、幽霊と同じく魂そのものには変わりないので内包してるエネルギーはそこそこある。
霊能少女との一件で消滅寸前の幼女幽霊と融合し、一時は病院内から姿を消すが、最近はまた新しい個体が病院内に漂うようになった。
58 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/04 01:57:28.08 gLNF7DVBo 50/281『爺幽霊』
過去に幼女幽霊と共に暮らしていた年配の幽霊。
足がなくDQN幽霊と同じ下級霊だが、二十年以上も現世に留まっていた。
四年前に成仏したらしく、既にこの世には居ないが、幼女幽霊にもたらした影響は多く、廃病院で人をおどかすという行為も元は彼が教えたもの。
幼女幽霊が口裂け女などの他の死者と知り合いなのも彼の交友関係が発端であり、まさに育ての親と言える。
DQN幽霊「えっ!?女子会ってなんスか?聞いてないっスよ」
幼女幽霊「あぁ、そういやお前にだけ伝え忘れてたわ。ごめんごめん」
DQN幽霊「い、いやいや……幽霊の先輩が女子会って。そもそも誰が来るんスか。本当に女子は来るんスか」
幼女幽霊「……お前、それ本人の前で言ったら一瞬で殺されるぞ」
幼女幽霊「そうだ、今のうちに言っておかないとな。一応、あの人達にお前を紹介することになってるから、今のうちにメンバーについて教えておくわ」
幼女幽霊「いいか、明日来るのは全員が私と同格以上の力を持っている人達だ。決して失礼なことをするなよ。でないと本当に殺されるぞ」
DQN幽霊(えっ……先輩の声が急にマジトーンに。そ、そんなにヤバい人達なのか?)
幼女幽霊「まず一人目が口裂け女さん」
DQN幽霊「えっ!?く、口裂け女ってあの口裂け女っスか!?」
幼女幽霊「“さん”付けろよお前。殺されるぞ」
幼女幽霊「そう、あの都市伝説の張本人だよ。ちなみに実年齢は今年で60だったかな。まあ姿は20代のままで止まってるけど」
DQN幽霊「ろ、ろくじゅうっ!?」
幼女幽霊「そりゃそうだよ。口裂け女の都市伝説って1980年ぐらいだよ?順当にいけばそれぐらいの歳をとるよ」
DQN幽霊「ってことは……もう40年近くもこの世界にいるってことじゃないっスか。と、とんでもなくないっスか?」
幼女幽霊「まあね。前に話したと思うけど、死者には二つのタイプが存在するんだ」
幼女幽霊「一つは私達のように肉体を持たない幽霊、そしてもう一つは肉体を持つ怪物。口裂け女さんはこの怪物に該当する」
DQN幽霊「怪物……」
幼女幽霊「この人の特徴は身体能力の高さだね。特に足がめちゃくちゃ速い」
幼女幽霊「いやほんとにマジで速いからな。ボルトなんて目じゃないよマジで。怪物の中でもあの人以上に速いやつは存在しないと思う」
幼女幽霊「足が速いってことはそれだけ筋肉もあるってことで、蹴りの威力も壊滅級。まともに食らったらまず間違いなく肉片ひとつ残らない」
幼女幽霊「あと奥の手として、私と同様に分裂と増殖をすることが出来る。口裂け女の噂って全国的にあったでしょ?あれはこの能力が原因だったりする」
DQN幽霊「……ど、どんだけっスか。それ」
幼女幽霊「そして口裂け女さん一番のチャームポイントと言えばその裂けた口、まあ普段はメイクで隠してるんだけど」
DQN幽霊「え?隠せるんスかそれ」
幼女幽霊「本人の職業がメイクアップアーティストだからね。特殊メイクさながらの神業で上手く隠してるよ」
DQN幽霊「せ、先輩と違って働いてるんスね」
幼女幽霊「そこが怪物と幽霊の違いだよ。怪物は肉体があるから、どうしても栄養を摂らないといけない。だからお金が必要になる」
幼女幽霊「そりゃ、泥棒でも何でもするってなら話は別だけど、今のご時世はどこにでも監視カメラがあるからね。そんなことを続けていたら、いつか必ずバレる」
幼女幽霊「だから、怪物の人は人間の中に混じって働いているパターンが多いよ。黙っていればまず正体を見破られることはないし」
DQN幽霊「大変スねぇ……怪物も」
幼女幽霊「まあこの人は比較的に人格者だからそんな怒ることもないと思うけどね。性格的にもっとヤバいのは他にいるし、全然序の口だよ」
DQN幽霊(これで序の口か……)
幼女幽霊「次はテケテケちゃん。この子も怪物だね、テケテケの都市伝説は知ってる?」
DQN幽霊「何か電車に轢かれて、上半身だけになった女の子の話じゃなかったスか?噂を見たり聞いたりすると、その人を襲って来るっていう」
幼女幽霊「後半はデマだけど、まあ大体そういう認識でいいよ。見た目は上半身だけの女子高生」
幼女幽霊「でも知能も半分になっちゃって、8歳くらいの女の子みたいな性格なんだけど」
DQN幽霊「どういうことっスか……?」
幼女幽霊「電車で轢かれて半分になったところまでは合ってるんだよ。でも下半身を失ったのと一緒に、その衝撃で幼児退行しちゃったんだ」
幼女幽霊「肉体だけじゃなく、精神的にも半分になったってわけ」
DQN幽霊「マジっスか……それは初耳っスね」
幼女幽霊「まあ本気を出せば、下半身を召喚することも出来て知能も戻せるんだけどね。私が肉体を出せるのと一緒で」
DQN幽霊「え?じゃあずっと出していればいいんじゃないっスか?」
幼女幽霊「元の姿に戻るにはかなり力を使うんだよ。奥の手ってやつ。その力を使うと丸一日は動けなくなるらしいし」
幼女幽霊「だから普段はテケテケの姿のままってわけ。そっちのほうが落ち着くらしいし」
DQN幽霊「へぇ~……」
幼女幽霊「テケテケちゃんの特徴はまあとにかくすばしっこい。例えが悪いけど、ゴキブリみたいに俊敏に動くから捕まえるのがとにかく難しいんだよね」
幼女幽霊「それに加えて、テケテケちゃんは相手に触れるだけでその部位を切断出来る能力があるからね。相手にはしたくないタイプだよ」
DQN幽霊「お、恐ろしいっスね。自分と同じように相手を真っ二つにするんスか」
幼女幽霊「でもテケテケちゃんはこのメンバーの中では一番優しいからね。人懐っこいし、襲われる心配はないから安心していいよ」
幼女幽霊「ちなみに余談だけど、テケテケちゃんの保護者は口裂け女さんだったりする。二人で一緒に暮らしているらしい」
幼女幽霊「本人はよくも悪くも無邪気だからね。もしかしたら何か事件を起こすかもしれないし、姉御肌の口裂け女さんが面倒見ることにしたんだって」
DQN幽霊「話だけ聞いてると、その二人はかなり普通っスね。ちょっと安心したっス」
幼女幽霊「だから言ったでしょ。かなりマシな部類だって」
幼女幽霊「次は花子さん、さすがにこれは有名だよね。学校の七不思議皆勤賞で日本で一番知られている幽霊」
DQN幽霊「うぉぉ、マジで実在したんスか」
幼女幽霊「この人はもう70年近くも幽霊やってるからな。同じ幽霊でも、私達とは格が違う、生きるレジェンドだよ。死んでるけど」
DQN幽霊「な、ななじゅうっ!?」
幼女幽霊「前に話したことあったじゃん。知り合いに私と同じ足付きのフユウ霊が二人いるって、その一人がこの人」
幼女幽霊「花子さんの能力はまあ私の完全上位互換だと思っていいよ。幽霊として完成形の力を持ってる。それに加えて、水を自由自在に操ることが出来るから、私でもあの人には敵わない」
幼女幽霊「花子さんの噂って日本中にあるじゃん?あれはあの人が水がある場所にワープ出来る能力を使って、全国を移動した時に出来た名残らしいよ」
DQN幽霊「に、日本中をワープしたって、先輩の瞬間移動の能力でもそこまで出来ないっスよね」
幼女幽霊「うん、私の有効射程は精々数百メートルが限度」
DQN幽霊「そう考えるとマジで格が違うっスね……先輩でも最強クラスだと思っていたのにそんな上がいるんスか」
幼女幽霊(……確かに、花子さんのワープ能力は驚異的。でも――いるんだよね。更にその上を行く、文字通りの化け物が)
幼女幽霊「花子さんもかなりまともな人だからその点は安心していいよ。見た目は私と一緒で、子供のまま歳とってないけど、実年齢はお婆ちゃんだからね。言葉遣いも若干古臭いし」
幼女幽霊「んで、まともな人達はここまで。ここから先は取り扱い要注意の危ないゾーンだ」
DQN幽霊「えっ……もうまともな人いないんスか」
幼女幽霊「そう、残りの三人は絶対に怒らせちゃダメな人。本音を言うと私でもあんまり関わりたくないくらい」
幼女幽霊「性格が地雷どころか、核弾頭レベルで爆発したら不味いからよく聞いておけよ」
DQN幽霊「……!」ゴクリ
幼女幽霊「まず一人目、こっくりさん。この人も有名だね。まあ正確に言えば人じゃなくて動物の霊なんだけど」
DQN幽霊「こっくりさんってアレっスよね?10円玉で何でも好きなことを教えてくれるけど、失敗すると祟られる狐の霊ってやつ」
幼女幽霊「うん、こっくりさんはこれまでの人と明確に違う点が一つあって、人間の霊じゃないってことなんだよね」
幼女幽霊「どちらかと言うと、霊よりオーブちゃんに近い」
DQN幽霊「え?オーブが危ないんスか?」
幼女幽霊「これも前に言ったけど、オーブちゃんってただ姿を生前の形に具現化出来ないだけで、単純なエネルギーだけなら姿を現すのに使ってない分、普通の幽霊より強いんだよ」
幼女幽霊「こっくりさんはその強化版みたいな感じだと思っていい。10円玉にしか憑依出来ないけど、その力は足付きのそれに匹敵する」
幼女幽霊「まあ……一番危ないのはこっくりさんじゃなくて、その後ろにいる人なんだけど」
DQN幽霊「どういうことっスか?」
幼女幽霊「聞いたことあるでしょ。こっくりさんの正体はお稲荷様、狐の神様だって」
幼女幽霊「実はそれって半分は合ってるんだ。こっくりさんって複数いるんだけどさ、それを統率しているのがお稲荷様、幽霊でも怪物でもなく、神の一人だって言われている」
DQN幽霊「か、神って……」
幼女幽霊「……私もさ、半分信じてなかったんだけどね。神なんて存在するわけがないって。でもこっくりさんに初めて会った時に感じたんだ」
幼女幽霊「その背後に、絶対的な、人の力では絶対に覆すことが出来ない力を持った存在がいるってことに」
幼女幽霊「だから、こっくりさんを怒らせるような行為は絶対にしちゃダメ。お稲荷様に祟られたら、成仏する方がマシってぐらいの状況になるかもしれないからね」
DQN幽霊「ウ、ウス……了解っス」
幼女幽霊「んで次は、ひきこさん。名前は聞いたことはある?」
DQN幽霊「いや……すみません。それだけは聞いたことないっスね。前に先輩から名前だけは聞いたことがあった気がするっスけど」」
幼女幽霊「そう、まあ知らないのも無理はないか。この人は比較的に新しい都市伝説の怪物だからね。ここ10年ぐらいで有名になった、私と同じ新参だし」
幼女幽霊「ひきこさんの由来は引き籠り。生前はイジメられていて、そのイジメに耐え切れなくて自殺した女の子が怪物化したのがひきこさんって言われている」
幼女幽霊「まあこれだけならよくありそうな話なんだけど……ひきこさんは怪物化した際に、他には類を見ない特別な力を手に入れちゃったんだよね」
DQN幽霊「ど、どんな力なんスか?」
幼女幽霊「怪力だよ。それもとてつもない、怪物の中でも頂点の、物理最強」
幼女幽霊「怪物で身体能力が上がるってのは珍しいことじゃない。むしろ一番オーソドックスな変化なんだけど……あの人の場合はそのレベルが違う」
幼女幽霊「恐らく、単純な力勝負ならあの人に勝てる人は誰もいないと思う。それ程の……超人的、超常的、超越的な怪力を持っている」
幼女幽霊「多分、この病院なら三分で平らに出来るよ。いや、もっと早いかも」
DQN幽霊「え、えぇ……どんだけっスか」
幼女幽霊「いやはや、あそこまで極めているのを見ると、笑いしか出てこないね。結局、単純な暴力が一番対処が難しくて、強いんだなと思わされるよ」
幼女幽霊「これで性格がマシだったらどれだけ良かったか……」
DQN幽霊「そんなに問題がある人なんスか?」
幼女幽霊「うん、ヤンデレとかメンヘラって言うのかな……とにかく面倒くさい、色々拗らせている感じ」
幼女幽霊「もしあの人に彼氏が出来たら、他の女に合わせないようにその男の四肢をモぐんじゃないかなってくらいのヤベェ性格」
DQN幽霊「お、おう……」
幼女幽霊「恐らく、この世界で一番怪物になっちゃイケないタイプの一人だと言ってもいい」
幼女幽霊「でも何でか知らないけど、怪物ってそういうのが多いんだよね。幽霊の人はまともな人が多いんだけど、怪物の人は血の気が多いっていうか、闇が深いっていうか……そんな人が多いんだよ」
幼女幽霊「あ、それと、ひきこさんの意味は引き籠りだけだじゃなく、もうひとつの意味があるんだけど、何か分かる?」
DQN幽霊「引き籠りともう一つの意味っスか?引きずり……とかっスかね」
幼女幽霊「惜しいね。“挽子”つまり相手を挽き肉するからひきこさん。ひきこさんを相手にしたら最後、挽き肉になるまで引き摺られ、そこには肉の道しか残らないという逸話がある」
DQN幽霊「……」ゾォー
幼女幽霊「さて、これまで五人紹介したけど、次が最後の一人だよ」
DQN幽霊「ど、どの人もヤバい人達ばっかスね……正直会いたくないんスけど」
幼女幽霊「いやまぁ……最後の一人に比べたら、まだこの人達はマシな部類なんだよね……ひきこさんちゃんでさえも」
DQN幽霊「え?まだヤバいのがいるんスか?」
幼女幽霊「うん……その人は今でも人を殺している超危険人物。正確に言うと、一人じゃなくて二人なんだけどさ」
幼女幽霊「その人達の名は――」
幼女幽霊「“メリーさん”」
79 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/04 21:43:41.33 gLNF7DVBo 68/281『幽霊』
死者の魂が何かの因果で現世に留まり、肉体を捨て生前の姿の形となり現れた形態。その容姿は個体差があるが、基本的には死の直前の姿となる。
事故や病気などの突然死をした者に多く、平均的には数年で自然消滅する。
肉体を持たない故に、睡眠や食事などの生命活動の維持をする必要がない。
大まかに分類すると、ジバク霊とフユウ霊の二つの種類が存在する。
ジバク霊は土地に縛られた霊、活動領域は生前に自分が亡くなった区域の周辺であり、それ以上の移動は不可能。
一方のフユウ霊は人間と同じく、移動制限がなく自在に行動することが出来る。しかし、幽霊は生気に耐性がない為に力を持たない者は短期間で消滅する。
基本的には殺気を出さない限り、その姿を人間が視認することは出来ない。例外として、力を持っている者や、まだ幼い子供はその気配を感じ取ることが出来る。
一般的な幽霊は足がない。しかし、極少数だが足が付いている通称"足付き"と呼ばれる個体が存在する。
これらの者達の力は強力であり、共通として寿命というものが存在しない。
しかしそれは絶対的な不老不死という意味ではなく、生のエネルギーを直接浴びれば、その魂は消滅する。
80 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/04 21:44:46.14 gLNF7DVBo 69/281『怪物』
死者の魂が何かの因果で現世に留まり、再びその肉体に舞い戻った形態。幽霊とは異なり、自らの肉体を持っている死者。そのため見た目は生きている人間と変わりない。
怪物は殺人、自殺などの死を実感しながら死ぬとなりやすいと言われている。前後関係は不明だが、幽霊と比べ性格に難があるのが多い傾向が目立つ。
怪物の最大の特徴はその身体能力にあり、常人離れした怪力、驚異的な再生能力、化け物じみた肉体の変化などの異常性を発揮する。なぜ死者になるとこれらの力が発現するのかは不明。また、生前の末路にその能力が大きく関連する。
肉体がない幽霊とは違い、怪物は睡眠、食事などが必要であり、普通に暮らして行くためには人間の社会に紛れ込む必要がある。
個人差ではあるが、味覚が変化し人間の肉を好んだり、腐乱臭がする個体も存在する。
82 : 以下、名... - 2018/07/05 02:16:55.18 /Cv+lc2lo 70/281ひきこさんとか全然知らない。メジャーなの?
あと八尺様はどうした
83 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/07/05 20:00:31.79 0wnovfD1o 71/281>>82
ひきこさん自体の知名度は恐らくこのメンバーの中では一番低いと思われます…歴史的にも2000年前後ぐらいに生まれたものだったので
八尺様はネット怪談としてはとても有名なので出そうかどうか迷ったんですけど…どうしてもこの面子の中だと、ネットの書き込みが初出な八尺様は浮くんじゃないかと思いました
都市伝説の一番面白いところは人から人への口伝で話が広がって行くアナログかつアングラなところだと思うので、個人的にそこにデジタルが関わってくると本当に実在するんじゃないかという不安感より先にもう出来がいい創作話っぽく感じちゃうんですよね
そう考えると本当の意味での都市伝説は洒落怖などのネット怪談黎明期前のひきこさんが最後の世代なんじゃないかなと思ったりしました
DQN幽霊「メリーさんって……あの電話をかけてくる話っスよね?最後は後ろにいるっていう」
幼女幽霊「そうだよ。この人達が明日来るメンバーの中で一番ヤバい。いや、世界中の幽霊、怪物の中でも最も凶悪だと言ってもいい」
DQN幽霊「ど、どういうことっスか?それに一人じゃなくて、二人って意味もよく分からないんスけど」
幼女幽霊「じゃあまずはそこから話そっか。メリーさんの話ってどこまで知ってる?」
DQN幽霊「えーっと、最初は確か、外国の女の子が人形を捨てるところから始まったんじゃないっスか?それでその人形に、女の子が殺されるって感じだったと思うんスけど」
幼女幽霊「うん、それで合ってるよ。大事なのはメリーさんが“どっち”なのかってこと」
DQN幽霊「えっ……?」
幼女幽霊「だから、都市伝説で有名なメリーさんはどっちなのかってことだよ。殺された女の子なのか、捨てられた人形なのか」
DQN幽霊「そ、そりゃあ……人形じゃないんスか?女の子は被害者なわけなんですし」
幼女幽霊「じゃあ質問、メリーさんの容姿ってどんなイメージがある?」
DQN幽霊「う、うーん……メリーさんって名前ですし、外国人の……」
DQN幽霊「――!?」
幼女幽霊「そう、気が付いた?」
DQN幽霊「メリーさんの姿は外国人の女の子……でもそれは都市伝説だと殺された女の子の姿のわけで」
DQN幽霊「じゃあ、メリーさんの正体って……」ゾクッ
幼女幽霊「そう、メリーさんは一人じゃない。二人いる」
幼女幽霊「殺されて怪物化した“リリー”そしてその肉体を手に入れた人形の“メア”」
幼女幽霊「二人合わせて『『メリーさん』』ってわけ」
DQN幽霊「……!?」
DQN幽霊「い、いや!どういうことっスか!?それってつまり、二重人格ってことになるんスか!?」
幼女幽霊「二重人格に近いけど、ちょっと違うかな。メリーさんの肉体には確かに二つの魂が存在している」
幼女幽霊「メアとリリー、二人合わせてメリーさん。ややこしいよね」
DQN幽霊「い、いや……まったくワケが分からないんスけど」
DQN幽霊「ど、どうして、殺された女の子とその人形が一つになってるんスか?話の流れだと、メアがリリーの体を乗っ取ったところまでは理解出来るんスけど……リリーは怪物になったんスよね?」
DQN幽霊「それだとまるで、幽霊と怪物が共存してる体じゃないっスか……」
幼女幽霊「その通り、メリーさんが他の死者とは違うのはその肉体」
幼女幽霊「普通は怪物の中に幽霊が憑依することなんて出来ない。幽霊が憑依出来るのはあくまで生きた人間だけだからね。死者の体に死者の魂が入ったら、そのマイナスエネルギー同士が反発して肉体が持たないどころか、両者が消滅する可能性もある」
幼女幽霊「でも不思議なことに、メリーさんの肉体はその不可解な現象を体現している。奇跡的なバランスで“メア”と“リリー”の存在を保っている」
幼女幽霊「だから、メリーさんは怪物の力と幽霊の力、この二人分の力を100%使うことが出来るんだ。正直、これだけでもトンデモないんだけど……もうひとつ、メリーさんには固有の能力がある」
DQN幽霊「それってまさか……さっきの話に出てきた、後ろにいるってやつスか?」
幼女幽霊「そう、話の中だと私の瞬間移動や、花子さんのワープ能力に近い現象だけど、その原理は全く違う」
幼女幽霊「私達が飛ぶ時は、“道”を使って移動しているんだ。この“道”ってのは共通していて、瞬間移動が使えるやつなら誰でも通る世界の隠し通路みたいなモノ」
幼女幽霊「だから、ある程度の力を持った者同士なら、どこに飛ぶか予測できるんだよね。出入りの一瞬は“道”が開くから」
幼女幽霊「でも、メリーさんの瞬間移動は“道”を通らない。普通の瞬間移動が座標の点と点を繋ぐ線を通っているとしたら、メリーさんはその線を通らず移動している」
DQN幽霊「ど、どういう意味っスか」
幼女幽霊「――私にも、どうなってるかまったく分からないんだよ。とにかく、メリーさんの瞬間移動は予備動作がまったくない。だから、突然、気配もなく背後に現れる」
幼女幽霊「多分、あの人達は“道”ではなく“裏道”を使っているんだと思う。他の誰にも使えない裏道を通って移動しているから察知されることがない」
幼女幽霊「分かる?この恐ろしさが……はっきり言って、メリーさんに勝てる人物は誰もいないよ」
幼女幽霊「口裂け女さんも花子さんも、ひきこさんちゃんも、誰もあの人達に勝つことが出来ない。なぜなら必ず先手を取られるから。回避不可能な位置から即死級の攻撃がね」
幼女幽霊「それに、メリーさんは一人じゃない。もし仮に……奇跡的に倒すことに成功しても、まだメアかリリーのどちらかが残ってる」
幼女幽霊「まさに『最凶』だと言ってもいいよ。以前、お前にも話したことがあっただろ。私が知っている人の中で誰が一番強いかって」
幼女幽霊「それがメリーさんだ」
DQN幽霊「……や、やばいっスね。想像以上にそれは」
幼女幽霊「これは私の想像だけど、恐らくメリーさんの瞬間移動が発動する条件はその存在を認知している者、またはその関係者だと思う」
幼女幽霊「――メリーさんの都市伝説は日本だけじゃない。海外でも、その一部が伝えられている」
幼女幽霊「それに加えて、メリーさんの別称はありとあらゆるところで有名になっている。『凶刻』『禁忌』『刈人』このどれらの名前を知っているだけで、メリーさんに後ろから襲われる可能性があるんだ」
幼女幽霊「私達の世界でこれらの名前を一つでも知らない者は存在しない。これがメリーさんが最凶たる所以だ」
DQN幽霊「い、いや……なんでそんな人と先輩は付き合ってるんスか。今すぐ縁切った方がいいっスよ」
DQN幽霊「だってメリーさんって今でも人を殺してるんでしょ?ヤ、ヤバいっスよ」
幼女幽霊「人を殺しているのは人形のメアの方だよ。殺されたリリーは普通に大人しくていい子だから」
幼女幽霊「私でもメア本人と会ったことは一度もないし。明日来るのもリリーだけで、メアはいつもその時間は眠ってる」
DQN幽霊「いやそれでも……リリーはメアのことを認識しているんスよね。じゃあなんでメアを止めないんスか?」
DQN幽霊「そもそも、メアの正体ってなんなんスか?元は捨てられた人形らしいっスけど…… 人形に魂はないっスよね」
幼女幽霊「メアの正体に関しては分からない。どこから来たのか、何者なのかさえも」
幼女幽霊「リリーがメアを放っているのは……どうしてだろうね。リリーも自分の中に凶悪な魂があることは知っているはずだし、やろうと思えばどうにか出来るとは思うけど……」
……………………………………………………………………
………………………………………………
メリー「あぁ……明日は待ちに待った女子会ですわ。皆さんと会うのは何年振りでしょうか」
メリー「心が躍りますわ……皆様、元気でいらしているでしょうか」
『ねぇ、一人くらいは刈ってもいいでしょ?』
メリー「……駄目ですわ。メア、あの方々はわたくし達の大切なご友人です。それに、今日はもう三人も殺したではありませんか。もう満たされたでしょう?」
『それがねェ……何か、最近飽きてきたんだよね。一般人を刈るのも』
メリー「ほう、ではもう殺しはやめたらどうですか?今までに何万、何十万も殺したんです。もう十分でしょう」
『それは無理だよ。メアは人を殺さないと死んじゃうもん。リリーも、知ってるでしょ?同じ器にいるんだから』
『何ていうか、歯ごたえが欲しいんだよね。一方的に刈るより、ある程度抵抗してくれないと面白くないよォ』
メリー「……それでも、あの方々に手を出すことだけは許しません。これだけは譲れませんわ」
『仕方ないなァ……そうなると、やっぱりあの人しかいないよねェ。私達の“飢え”を満たしてくれるのは』
メリー「本当に実在するのですか?その人物は……手掛かりは何もないのでしょう」
『それだけは間違いないよ。分かるんだ。彼は私達と同じ、命を刈ることだけが生き甲斐で、それ以外に何も興味を持たない』
『あァ……どこにいるの。影の王子様』
▢▢▢▢ 翌日 ▢▢▢▢
DQN幽霊「……」ソワソワ
幼女幽霊「なにソワソワしてんのお前。キモ」
DQN幽霊「い、いやだって……もうすぐ時間じゃないっスか。女子会の」
幼女幽霊「だからなんでお前が緊張してるんだって聞いてんの」
DQN幽霊「い、いや!そりゃ緊張するっスよ!」
DQN幽霊「ただの女子会ならまだしも、面子が化け物揃いじゃないっスか!!正直俺、会いたくないっスよ!!」
DQN幽霊「というか、なんで女子会なのに俺が出なくちゃいけないんスか!!」
幼女幽霊「仕方ないじゃん。お前のこと話しちゃったんだから」
DQN幽霊「あーもう嫌だなぁ……家に帰りたい……」
幼女幽霊「お前の家って実質ここだろ。まあそんな緊張することもないよ」
幼女幽霊「お前、元DQNじゃん。こういう目上の人間にゴマをするの得意だろ」
DQN幽霊「そういう問題じゃなくてぇ……」
ピーーーー
幼女幽霊「あ、誰か来た。ほら、出迎えに行くぞ」フワッ
DQN幽霊「行きたくねぇ……」
口裂け女「変わらないわね。ここも……いつ来ても不気味な病院だわ」
テケテケ「そうー?わたしはここの空気好きだよ、だよ!」
口裂け女「というか、何かここ蒸し暑くない?湿気?」パタパタ
テケテケ「んー?というか、この町が何か変な感じするよね、よね」
口裂け女「あぁ、アンタも感じてた?確かにおかしいわよね。前に来た時とはまた違う感じがするわ」
テケテケ「ま、どうでもいいけどねー!ね!」
幼女幽霊「口裂け女さーん!テケテケちゃーん!おひさー!!」フワフワ
口裂け女「久しぶりね、幼女幽霊。直接会うのは二年ぶりかしら?」
テケテケ「久しぶりー!会いたかったよー!よー!」ダキッ
幼女幽霊「あーもう!テケテケちゃんは本当に可愛いなぁ!ぎゅー!」
テケテケ「えへへ、ぎゅー!ぎゅー!」
DQN幽霊「」ソロー
DQN幽霊(あ、あれが……口裂け女とテケテケ)
DQN幽霊(口裂け女の方は物凄いスタイルのいい美女だ。さすが本職、男の俺から見てもメイクの技術の高さが分かる。口が裂けているようにはとても見えない)
DQN幽霊(テケテケの方は下半身がない分、アンバランスだがどこか小動物的な可愛さを感じる……ちょっと腸が出てるけど)
口裂け女「ん?そこの奥にいる柄が悪い男が例の新人?」
幼女幽霊「あ、はい。そうです。元ヤンキーの下級霊なんで好きなだけコキ使っていいですよ」
幼女幽霊「なあDQN!!!!お前パシリ大好きだよなぁ!?」
DQN幽霊「」ビクッ
DQN幽霊(こ、この野郎……適当なこと言いやがって)
DQN幽霊「ウ、ウス……DQN幽霊です。パ、パシリ大好きです。よろしくお願いします」
口裂け女「へぇ~……」ジロジロ
口裂け女「幼女、アンタ男の趣味悪いわね」
幼女幽霊「はぁっ!?」
口裂け女「話を聞くに、もっといい男かと思ったけど……典型的なモブ顔じゃない。どこが気に入ったの?」
幼女幽霊「い、いや!そんなんじゃないですから!!!!マジでやめてくださいよ気色悪い!!!!」
テケテケ「ふー!ふー!照れてるー!てるー!」
幼女幽霊「テケテケちゃんは黙ってて!!!!」
幼女幽霊「こいつは居場所がないって言うんで、仕方なく置いてるだけのオブジェクトですよ!全然そんな関係じゃないですから!!」
幼女幽霊「私のタイプはもっとデカプリオみたいなイケメンだし!こんなクソみたいなセンスの悪いヘアスタイルで、一日中何も考えてなさそうにボケーっとしてるやつなんて論外ですよ!」
DQN幽霊「いや俺も先輩は先輩として尊敬はしてるけど、そういう対象じゃないっスよ。チンチクリンだし、俺ロリコンじゃないっス」
DQN幽霊「それに、実体の方も胸が小さ――」
ボゴォ!!!!!!!!!!!
DQN幽霊「へぶちっ!?」ズサー
幼女幽霊「あ?誰がチンチクリンの貧乳だコラ。もう一度言ってみろ。口とケツの穴縫い合わすぞコラ」
口裂け女「全部嘘よ。冗談でそんな本気にならないで」
テケテケ「ひゅー!ひゅー!」
幼女幽霊「と、とにかく!こんなところで立話もなんだし、上がってくださいよ」
口裂け女「じゃあお言葉に甘えて。あのジジイにも線香上げたいしね」
テケテケ「ねえどきゅん!競走しようよ!どっちが速いか競走!競走!」
DQN幽霊「え?競走っスか?別にいいっスけど」
テケテケ「じゃあ、よーいドン!!ドン!」ビューン
DQN幽霊(はやっ!?)
口裂け女「もうジジイが成仏してから何年経った?」スタスタ
幼女幽霊「今年で四年目ですね」
口裂け女「そう……もう四年か。しかしまさかあのジジイが先に行くとは思わなかったわ」
口裂け女「アイツ、足がないただの幽霊なのに本当にしぶとかったからねぇ。花子さんより長くいると思ってたわ」
幼女幽霊「はは、私もそう思ってましたよ」
口裂け女「……幼女、良かったわね。新しい同居人が出来て。前に会った時よりも元気そうで安心したわ」
幼女幽霊「えっ、そ、そんなことないですよ!」
口裂け女「照れるなって。アンタと私の仲でしょ」グイッ
幼女幽霊「も、もう!本当にそんなんじゃないですから!」
テケテケ「どきゅんおそーい。幽霊なのに、なのに」
DQN幽霊(な、なんだこいつ……ま、まったく追いつけねぇ。こっちは疲れを知らない霊体で、向こうは生身の肉体を持っているのに)
DQN幽霊(というか、すげぇ移動方法だな……腕の力を完全に操って走ってる。テレビかどっかで脚の筋力は自分の体重を支えているから、腕に比べて数倍のパワーがあるってのを聞いたことがあるが……その役目が逆になっているのか)
DQN幽霊(これ、人間相手なら相当手強いんだろうな……動きが変則的で、読みづらい。多分、あの眼帯女が相手にしたら先輩以上に苦戦するんじゃないか)
テケテケ「どきゅんー!早くー!置いていくよ!いくよ!」ダッ
DQN幽霊「あっ、ちょ、待ってくださいっス!」
テケテケ「お待たせ―!たせー!」
口裂け女「ずいぶん遅かったわね。病院を一周してきたの?」
テケテケ「うん!いっぱい走って楽しかった!かった!」
口裂け女「それは良かったわね」
DQN幽霊「つ、疲れた……身体的な意味じゃなく、精神的に疲れた気がする」
DQN幽霊(こ、これであと四人も控えてるのか……俺の身は持つのだろうか)
幼女幽霊「それでー!その霊能力者を見事に私が撃退してやったんですよ!!」
幼女幽霊「まあそこそこ手強かったですけどね!でも私に比べたら毛虫レベルでしたわ!」
DQN幽霊「……」
テケテケ「幼女ちゃんすごーい!すごーい!」
口裂け女「へぇ、アンタも奴等と遭遇したんだ。今時珍しい」
幼女幽霊「え、く、口裂け女さんも戦ったことあるんですか?」
口裂け女「まあそりゃね。何十年も怪物やってたら何回も会うことはあるわ。私の場合は知名度が凄かったし」
口裂け女「もう10回以上は返り討ちにしてるわよ。もっとも、最後に殺ったのは20年近く前だけどね。そこから私もあんまり目立たないように潜伏することにしたわ」
テケテケ「わたしもやったことあるよー!三回ぐらい?だったかな!かな!」
幼女幽霊「えっ……テ、テケテケちゃんも?」
幼女幽霊「あの、じゃあなんで教えてくれなかったんですか?こっちは危うく死にかけ――てはないですけど、事前に知っていたらもっと対策とか色々出来たんですけど……」
口裂け女「だって、まさかこんな辺境の病院にやってくるとは思わなかったしねぇ。最近はあいつらの数も減っているらしいから、もう廃業したのかと思っていたわ」
テケテケ「聞かれなかったし!し!」
口裂け女「それに、そんな強くなかったでしょう?もし遭遇しても、アンタなら楽に勝つって分かっていたし」
幼女幽霊(え?も、もしかして普通の霊能力者ってもっと弱いの?あのメスガキが特段強かったのか?)
幼女幽霊(いや……まあ何かそんな予感は薄々してたけどさぁ……あんな人間がそこら中にウロウロしてたら、幽霊や怪物なんてとっくに絶滅だし)
幼女幽霊(……運悪いな、私も)
口裂け女「多分、今日来るメンバーは全員経験あると思うわよ。名が知れ渡ったらまず間違いなく奴等が襲ってくるし」
幼女幽霊「え、そんなに頻繁に襲ってくるんですか?」
口裂け女「まあね。昔はもっと多かったわよ。私が怪物に成りたての頃なんて、日本中が心霊ブームだったし、それだけ本物の怪物や幽霊も沢山いたわ」
口裂け女「でも、最近は国内だとだいぶ少なくなったらしいわ。海外だとまだ活発らしいけど」
幼女幽霊「へぇ~……」
口裂け女「あ、そうだ。病院についたら呼んでおくように頼まれたんだった」ガサゴソ
幼女幽霊「ん?それって……」
DQN幽霊「10円玉と、紙?」
口裂け女「そう、こっくりさん降臨用の道具。あの子、自分で出てこられないから、こっちから呼ばないと来られないらしいわ」
口裂け女「さぁ、みんな、10円玉に指を置いて。呼ぶわよ」スッ
テケテケ「んー、んー」スッ
DQN幽霊「え、これ俺もやるんスか?」
幼女幽霊「全員参加だっつの。早く指置け」スッ
口裂け女「じゃあ呼ぶわよ。こっくりさん、こっくりさん、おいでください。おいでになさりましたら、はいにお進みください」
シーン
DQN幽霊「……う、動かないっスね」
テケテケ「寝てるのかな?かな?」
幼女幽霊「あーありそう。狐って夜行性だし」
口裂け女「……アイツ、時間はちゃんと伝えたのに。いいわ、無理矢理叩き起こしてあげる」
口裂け女「」スゥ
幼女幽霊「あっ!やばい!耳塞げ!」ギュッ
テケテケ「!!」ギュッ
DQN幽霊「えっ、なに?」
口裂け女「おい!!!!!こっくり!!!!!おい!!!!こっくり!!!!いいからさっさと出てきやがれ!!!!いやがったらはいに進みやがれ!!!!!」
DQN幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊(な、なんだこれ!?耳が潰れそうだ……!なんで幽霊なのにこんな音が聞こえッ……!?)
幼女幽霊「言い忘れたけどさ、口裂け女さんの声ってめちゃくちゃ響くんだよね。文字通り魂にまで」
テケテケ「怒るとめちゃくちゃうるさいんだよー!だからなるべくみんな怒らせたくないのー!のー!」
DQN幽霊「さ、先に言ってくださいよ……」プルプル
スッ……
口裂け女「あら?10円玉が動き始めたわね」
『う』
『る』
『さ』
『い』
幼女幽霊「うるさい?」
テケテケ「あははー!言えてるー!るー!」
口裂け女「アンタが寝てるから悪いんでしょうか」
『な』
『ん』
『で』
『よ』
『ん』
『だ』
『の』
口裂け女「なんでって、まさか忘れたの?今日はみんなで集まるって約束してたでしょうか」
『わ』
『す』
『れ』
『て』
『た』
口裂け女「はぁ……そんなことかと思ったわ」
DQN幽霊(……もしかして、10円玉での筆談でしか会話できないのか?テ、テンポ悪いな)
テケテケ「久しぶりー!こっくりさん!ねぇ、いつものあの姿見せてよー!よー!」
DQN幽霊(あの姿?や、やっぱり10円玉が本体じゃなかったんだな。狐の霊らしいが、一体どんなやつなんだ……)
『わ』
『か』
『っ』
『た』
ボンッ
尻尾『』フリフリ
テケテケ「わー!フサフサー!気持ちいいー!いいー!」モフモフ
DQN幽霊「……」
幼女幽霊「あれがこっくりさんの実体の狐の尻尾だ。めちゃくちゃ毛艶いいから触ったら気持ちいぞ」
DQN幽霊「そ、そっスか」
口裂け女「さて、これであと残り三人ね。花子さんはもうじき来ると思うけど」
「もういるぞ。とっくにな」
花子「ここのトイレは設備は整っているが、掃除がなっていないな。一体誰が当番じゃ?」
幼女幽霊「あ、花子さんご無沙汰です」
幼女幽霊「トイレの当番はこいつですよ。前に言ってた新人のDQN幽霊です」
花子「ほう……そうか。主が噂の」ジロッ
DQN幽霊「」ビクッ
花子「ふむ、掃除が下手そうな顔をしておるわ。いいか、次からはもっと腰を入れて磨くんじゃぞ。トイレは心の安息所、そこが汚れたままならば人の心も穢れる」
DQN幽霊「わ、分かりました……」
DQN幽霊(……って言われても、俺も先輩もトイレ使わないしな。ここにあるの全部来客用だし)
花子「ん?幼女、主、貴様……」
花子「…………」
花子「前より一段と可愛くなったか?」
幼女幽霊「そんなぁ!花子さんも前より綺麗になってますよ!1歳くらい若返りました?」
花子「うぬ?分かるか?実は最近いい化粧水を見つけてな。それを使ったせいかもしれん」
DQN幽霊(幽霊に化粧水ってなんだよ)
DQN幽霊(しかし、こう見比べてみると……先輩と花子さんって何か似てるな。同じ幽霊だし、子供の姿だし)
DQN幽霊(まあ口調はかなり違うけど。これが噂のロリババアってやつか)
テケテケ「花子ちゃーん!ちゃん!」ダキッ
花子「おうっ、主はいつも元気じゃな。テケテケよ。口裂け女も、相変わらず化粧が濃いな」
口裂け女「一言余計だっての」
花子「ん?まだひきことメリーは来てないのか」
幼女幽霊「まあメリーさんはあの能力がありますし、すぐ来るんじゃないですか?ひきこさんちゃんの方は分からないですけど」
テケテケ「ひきこちゃん来ないのー?のー?」モフモフ
尻尾『』フリフリ
口裂け女「来ないってことはないわよ。あの子は自分だけ仲間外れにさせられるってことが一番嫌な性格してるし。もうすぐ――」
ドゴォォォォン!!!!!!!!!!!
「「「「「「 !? 」」」」」」クルッ
DQN幽霊「え、なんスか今の音。上から何かが壊れたような音がしたんスけど」
幼女幽霊「ここは地下だから、ちょうど正面出入り口の辺りだね。ってことは」
口裂け女「……アイツね。間違いないわ」
テケテケ「こんなこと出来るの一人しかいなもんねー!ねー!」
尻尾『』フリフリ
花子「ひきこの奴、門を壊して入ってきおったな」
パラパラッ……
ひきこ「……壊れた」
ひきこ「……これって、私が悪いの?普通に開けただけなのに」
ひきこ「……いや、違う」
ひきこ「私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない
私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない
私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない
私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない
私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪くない」
ひきこ「……よし、落ち着いた。行こう」スタスタ
DQN幽霊「え?今のがひきこさんなんスか?」
幼女幽霊「まず間違いないよ。開ける時に間違って壊しちゃう人なんて、ひきこさんちゃんぐらいしかいないし」
口裂け女「あの子、未だに自分の力が制御出来ないらしいわ。まあ力が力だし、仕方ないとは思うけど」
テケテケ「強いもんねー。ひきこちゃんって。わたしも腕相撲したことあるけど、腕が取れちゃったよ!よ!」
尻尾『』フワフワ
花子「単純な力ではあれに勝る者はいないであろうしな。儂でも聞いたことがない程じゃ」
DQN幽霊(や、やっぱり……強いのか。そんなに)
幼女幽霊「じゃあDQN、ひきこさんちゃん迎えに行ってあげて」
DQN幽霊「えっ!?俺が!?なんでっスか!?」
幼女幽霊「だってこの中だとお前が一番格下だし、いいから早く行け」
DQN幽霊「う、うそぉ……」
ひきこ「…...」
ひきこ「……みんな、どこにいるの?見当たらない」キョロキョロ
ひきこ「……まさか、女子会っていうのは嘘で、私を騙した?」
ひきこ「……」
ひきこ「……いや、それはないか。幼女ちゃんがそんな酷いことするわけないもん。“アイツラ”じゃあるまいし」
ひきこ「……でも、もし本当にそうだったら」
ひきこ「みんな、挽いてやる」ゴォォ
DQN幽霊「あ、あのぉ~……」
ひきこ「!?」バッ
ひきこ「……誰?」
DQN幽霊「あ、どうも。お初にお目にかかります。自分、新人のDQN幽霊です」
DQN幽霊「ほ、他の皆さんはもう既に地下に集まっているので、案内にきたっス……じゃなかった、来ました」
ひきこ「……そう。分かったわ。じゃあそこまで連れて行って」
スタスタ スタスタ
ひきこ「……」
DQN幽霊「……」
DQN幽霊(ぶ、物理最強の怪物だって言うからどんなゴリラ女かと思ったら……前々そうは見えないな)
DQN幽霊(髪は長め、雰囲気はかなり暗そうなタイプ……想像と真逆だな)
DQN幽霊(しかし――)チラッ
ひきこ「……」
DQN幽霊(む、胸はかなりでかい。俺の眼だと、ありゃG以上はあるぞ。先輩と比べたら正に天と地だ)
DQN幽霊(こりゃ確かに最強だわ……うん、間違いない)
ひきこ「……何か?」
DQN幽霊「い、いやっ!?そ、そのっ」ビクッ
DQN幽霊「そ、想像とだいぶ違う感じだなって。ひきこさんは力が凄いと聞いていたので、屈強な肉体を持つお方だと思っていたんですけど」
DQN幽霊「実際はとてもお綺麗で、まるでお姫様のような方だな……」
ひきこ「……」
ひきこ「……ねぇ、あなたはイジメってしたことある?」
DQN幽霊「え?イジメっスか?」
DQN幽霊(イジメ、そういえばひきこさんはイジメが原因で自殺したんだっけか。あ、あんまり触れたくない話題を振られたな)
DQN幽霊「い、いや、自分はしたことないっスね。自分、こんな身なりなんスけど、グループの中ではかなり下の方にいましたから」
DQN幽霊「まあパシリってやつです。今でも幽霊としての力は一番下っスから、あんまり変わってないっスけどね」
ひきこ「……そう」
ひきこ「ごめんなさい。あなたのことを誤解してたわ。そんな見た目だから、てっきり私の一番嫌いなアイツラの同類かと」
DQN幽霊「ア、アイツラって?」
ひきこ「……私を殺したやつらのことよ。知識も良識も常識もない、人未満の猿共」
ひきこ「最低のやつらだったわ。死んで当然の社会のゴミ、まあ最後は私が殺してやったんだけど」
DQN幽霊「……!」ゴクリ
DQN幽霊「も、もし俺がそいつらと同類だったら……どうしたんスか?」
ひきこ「……挽殺した」
DQN幽霊「」ビクッ
ガチャ
DQN幽霊「お、お待たせしたっス」
ひきこ「…...」
幼女幽霊「あ、ひきこさんちゃん久しぶりー」
ダキッ
ひきこ「会いたかった。あぁ。やっぱり幼女は可愛いなぁ」ギュー
幼女幽霊「あ、あはは……わ、分かったから。離れて、ちょっと苦しい」
幼女幽霊(ひきこさんちゃんの力って幽霊にも通じるからな。やっぱりちょっと危ないや)
口裂け女「アンタ遅いのよ。とっくに待ち合わせ時間遅刻してるわよ」
ひきこ「……」
ひきこ「……相変わらず化粧が濃いな。おばさん」
口裂け女「あ?今なんつった?」
DQN幽霊「え、なんスか?あの二人って仲悪いんスか?」ボソッ
幼女幽霊「いや、仲が悪いっていうか……ひきこさんちゃんが一方的に毛嫌いしてるっていうか」
幼女幽霊「実は口裂け女さんってさ、生前はレディースの頭だったらしいんだよ。今でも若干スケバンっぽいだろ」
DQN幽霊「あぁ、ちょっと分かるっス」
幼女幽霊「だから、その雰囲気が気に入らないらしくてさ。会うたびにあんな感じなんだ」
DQN幽霊「そうだったんスか……自分はそんな態度はとられなかったっスけどね」
幼女幽霊「いやだって、お前見た目は若干不良っぽいけどそれだけだろ。まったくオーラないし、イキってるようにしか見えないし」
DQN幽霊「……」
テケテケ「ひきこちゃんも久しぶりー!会いたかったよー!よー!」ダキッ
ひきこ「あぁ、テケテケちゃんも可愛いなぁ……元気だった?あのおばさんに変なことされてない?」
口裂け女「あ?」
テケテケ「うん!わたしはいつも元気だよ!」
テケテケ「でも昨日は無理矢理ピーマン食べさせられたんだ!おぇおぇ」
ひきこ「それ児童虐待だよ。急いで警察に行こう」
口裂け女「ええい、いい加減にテケテケから離れなさいよ。このロリコンが」
ひきこ「あ?誰がロリコンだって?」
パチパチッ……パチパチッ……
DQN幽霊「先輩!火花が出てるっスよ!止めなくていいんスか!?」
幼女幽霊「大丈夫だって、大抵は軽い口喧嘩だけだし。殺し合いに発展するのはたまにしかないよ」
DQN幽霊「殴り合いじゃなくて、殺し合いの時点でヤバいっスよ」
花子「これ、主らもこんなところで喧嘩はやめておけ。せっかく遠路遥々皆の衆が集まったんじゃ。今日くらいは仲良くせんか」
ひきこ「……花子さんに免じて今は引いてあげるわ。感謝しなさい、お・ば・さ・ん」
口裂け女「このガキが……!人が黙って聞いてたら好き勝手言って……!」
幼女幽霊「ま、まあまあ……あ、ひきこさんも揃いましたし、あと来てないのはメリーさんだけですね。珍しい」
口裂け女「っ……確かに、メリーが遅れるのは珍しいわね。この中だと遅刻と一番縁遠いのに」
花子「誰かあやつの連絡先を知っているやつはいないのか?電話をかければ瞬時に飛べるんじゃろ?」
口裂け女「別に電話じゃなくても良かったと思うけど、なら私がかけてみるわ」スッ
プルルルルルル……
幼女幽霊「ん?」
幼女幽霊「あ、ごめんなさい。私の携帯だ。番号は……非通知?」
DQN幽霊「先輩、もしかしてメリーさんじゃないんスか?」
幼女幽霊「う、うん……多分そうだと思う。私の携帯って基本的に連絡には使ってないし、このタイミングってことはあの人しかいないだろうし」
幼女幽霊「でも……私、メリーさんに番号教えてないんだけど。なんで分かったんだろ?」
口裂け女「いいから早く出なさいよ。コール切れるわよ」
幼女幽霊「あ、はい。分かりました」スッ
幼女幽霊「もしもし?メリーさん?」
『……』
幼女幽霊「おーい、もしもーし」
DQN幽霊「!?」
幼女幽霊「あれ……何かずっと無言電話なんですけど」
DQN幽霊「せ、先輩……う、後ろ……」
幼女幽霊「は?後ろ?」クルッ
メリー「バァッッッ!!!!!!!!」
幼女幽霊「うわぁ!?」ビクッ
メリー「あははは!ごめんなさい、せっかくだから驚かしてあげましょうと思って、びっくりなさりましたか?」
幼女幽霊「い、いや!めちゃくちゃビビりましたよ!もう、声かけてくださいよ!」
DQN幽霊(せ、先輩が簡単に後ろを取られた。しかもこの人、突然に、まるで最初からそこにいたように、自然に現れた)
DQN幽霊(こ、これが……メリーさんの瞬間移動。やべえな……)
メリー「皆さん、ごきげんよう。あぁ、このような場にお呼び頂き、光栄の至りですわ」
メリー「リリー、ここに馳せ参じました。少し遅れてしまって申し訳ございませんわ」
テケテケ「リリー!おひさー!ひさー!」ダキッ
メリー「えぇ、お久しぶりですわ。相も変わらずお元気そうで安心しました」
花子「ふむ、これで全員揃ったかの」
幼女幽霊「ですね」
DQN幽霊「……」ゴクリ
DQN幽霊(あ、改めて考えると……俺、何かすごい場違いだよな)
DQN幽霊(足付きでその実力は折り紙付きの先輩、その存在はまさに死せる伝説の口裂け女、テケテケ、こっくりさん、花子さん、ひきこさん)
DQN幽霊(そして……メリーさん)
DQN幽霊(ま、まさに最恐の女子会だ。ってか、この手の話って本当に女子率高いな……女の方が蘇る適正が高かったりするのか?分からん)
DQN幽霊(う、うわぁ……胃がないのに腹の辺りが痛くなってきた……早く終わんねぇかなぁ……)キリキリ
幼女幽霊「んじゃ、全員揃ったところで乾杯しますか。ほらDQN、みんなに飲み物配って」
DQN幽霊「う、うす」
DQN幽霊「ど、どうぞ」サッ
メリー「あら?アナタは……見ない顔ですわね。新人さん?」
DQN幽霊「そ、そうです。新人のDQN幽霊です。よ、幼女先輩にこの病院に住まわせてもらってるっス」
DQN幽霊「よ、よろしくお願いします。え、えーっと……メ、メリーさん?」
メリー「そんな謙遜なさらなくて結構ですわ。どうぞ気さくに、リリーとお呼びください。DQNさん」
DQN幽霊「い、いやそんな!!!!「さん」なんてとても恐れ多いっスよ!!!!自分は下級霊で、生まれも育ちも最底辺っスから、どうぞ奴隷のように扱ってください!」
メリー「死者に生前の階級は関係ありませんわ。わたくしから見れば、皆さんは平等に敬愛すべき同胞です」
メリー「こんな不束者ですが、仲良くしてくださいな」
DQN幽霊(な、なんだ?この人……今まで会ってきた誰よりも丁寧な人だな。先輩とは大違いだ)
DQN幽霊(リリーの方は大人しくていい子だとは聞いていたが、まさか本当にその通りだとは……とても凶悪なもう一人の人格がいるとは思えないな)
幼女幽霊「さ、グラスも渡ったことだし、やりますか」
幼女幽霊「かんぱーい!!!!」
「「「「「「 かんぱーい!!!!!!! 」」」」」」
DQN幽霊「か、かんぱーい」
DQN幽霊(……いや、俺、霊体だから飲めないんだけど)
ワチャワチャ……ワチャワチャ……
口裂け女「それでね、結局その乱暴なディレクターにこっちは車で轢き逃げされたわけ。本当に信じられないわ。今度会ったら八つ裂きにしてやる」
花子「……そやつ、儂のところにも来たぞ。取材だなんだの言っておったが」
尻尾『』ブンブン
口裂け女「え?こっくりさんもそいつに呼ばれたことあるって?」
ひきこ「あぁ、テケテケちゃんは本当に可愛いな……」ギュッ
テケテケ「うげー!もうちょっと優しく抱いてよー!力強すぎー!ぎー!」
ひきこ「ねぇ、テケテケちゃん、あのおばさんのところじゃなくて、私の家に来ない?毎日美味しいお菓子をいっぱい食べさせてあげるよ?」
テケテケ「おっぱいで息できないよー!よー!」フガフガ
幼女幽霊「で、最後に私の奥の手でそのメスガキを負かしてやったんですよ!いやぁ、あれは本当に見事な作戦だった。うんうん」
メリー「まぁ!それは素晴らしいですわね!」
DQN幽霊(まーた話盛ってるよ、この人)
幼女幽霊「リリーもこんな感じの霊能力者と戦ったことってあるの?口裂け女さんは名が知れ渡ってる大抵の怪物は戦ったことがあるって言ってたけど」
メリー「えぇ、ですが、わたくしはそのような争い事は好まないので、その手の輩が襲ってきた時はメアが対処していますわ」
メリー「狩人(ハンター)とわたくしの祖国の怪物は呼んでいました。異形の者を狩る人間のことを総称して、こう呼んでいると」
幼女幽霊「へぇ、やっぱりあるんだ」
幼女幽霊「……ねぇ、その狩人達ってさ、メアは殺したの?」
メリー「はい、一人残らず」
幼女幽霊「……」
DQN幽霊「……」
幼女幽霊「リ、リリーはさ、メアが人を殺しても、何も感じない?一応、自分の身体なんだし、ちょっと嫌だなーとか思ったりとか」
メリー「……やはり、あまりいい想いはしませんわ。でも」
メリー「この世界は常に弱肉強食。人間が他の生命を喰らって生きるように、弱者が自然淘汰されるのはこの世界の理だとわたくしは感じています。世界がそうなると仕向けているなら、わたくしはそれに従うまでです」
幼女幽霊「そ、そっか」
DQN幽霊「……」
DQN幽霊(あぁ、そうか。多分、死者になるとこの考え方が普通になるんだろうな)
DQN幽霊(もはや、人間は自分と違う生物なんだ。俺も、心当たりがないわけじゃない。降りかかる火の粉は払い殺す。向こうも全力でこっちを殺しに来ているんだから、こっちも相応の殺意を持たないと死ぬ)
DQN幽霊(でも、先輩は……多分、そんな考えをこの中で唯一持っていないんだろう。あの女が襲ってきた時も、全力で殺す気でいたらもっとやりようはあったはずだ。本当、優しいていうか、甘いっていうか……)
DQN幽霊(まあ、そこが先輩のいいところだけどな)
メリー「最近は狩人の数も少なくなってきましたけどね。というより……どうやら、わたくし達が彼らのブラックリストに入ってしまったようで、もう向こうから襲ってくることはなくなりましたけど」
幼女幽霊「え、ブラックリストってどういうこと?」
メリー「どうやら、彼らをメアが逆に刈り過ぎてしまったようでして……こちらから手を引いたと聞きましたわ。真偽は分かりませんが、その証拠にここ十年は一人も見ていないと聞いています」
幼女幽霊「マ、マジですか……」
DQN幽霊「は、半端ないっスね」
ドスンッッッッ!!!!!!!
メリー「あら?」クルッ
DQN幽霊「なっ!?な、なんスか今の音!?」クルッ
幼女幽霊「あ、やばい……あの破壊音を出せる人物は一人しかいない」
口裂け女「コイツ……!!今のパンチ本気だったわね。当たったらどうするつもりなの」
ひきこ「本気?軽く撃ったつもりだったんだけど」
ひきこ「あっ、ごめん。あなたにはこの程度の力でも死んじゃうか」フフッ
口裂け女「……あ?」プチッ
口裂け女「はぁ……クソガキが。下手に出たら調子に乗りやがって」
口裂け女「アンタ、自分がこの私より強いと思ってんの?力の差すら理解していないようね」
ひきこ「……あ?じゃあ試してみる?」
口裂け女「いいわよ。そろそろ教育が必要だと思っていた頃だし」グッ
口裂け女「かかってきなさい。年季の違いってもんを教えてあげるわ」
ひきこ「……っ!!!!」ダッ
花子「そこまでじゃ」ピッ
花子「まったく、だからやめろと言っておるじゃろ。二人とも冷静になれ。特にひきこ」
幼女幽霊「そ、そうですよぉ……喧嘩はやめましょうよぉ……」ヒョコッ
幼女幽霊(冗談じゃない。こんなところで二人に暴れられたら……私の病院がぺしゃんこになる)
DQN幽霊「ウ、ウス。仲良くが一番っスよ」ヒョコッ
メリー「そうですわ。同じ死人同士、踊らにゃソンソンというやつです」
尻尾『』フリフリ
テケテケ「えー?わたしはどっちが勝つか気になるけどなーなー」
口裂け女「……チッ。私は最初から冷静だっての。問題なのはそこのクソガキだけでしょ」
口裂け女「生前にイジメられて自殺したからって、その八つ当たりを私にぶつけるのはやめてほしいわ」
ひきこ「……あ?なんだって?」
花子「はぁ……やめんか。前のことに関してとやかく言うのは禁句だと前に決めたじゃろ」
花子「口裂け女、主もその裂けた口の過去について言われるのは嫌だと言っておったじゃろ」
口裂け女「……」
花子「ひきこ、主はいい加減に挑発するのはやめろ。どうしても相性というものがあるのは分かるが、公の場では控えるべきじゃ」
ひきこ「……だって」
花子「だってもひったくれもない。次につまらん争いをしたらさすがの儂も怒るぞ」
ひきこ「……ごめんなさい」
DQN幽霊(おぉ……さすが最年長の花子さんだ。あのひきこさんと口裂け女の争いを簡単に収めた)
DQN幽霊(実力的にはメリーさんを除くと花子さんが一番強いのか?まあ70年近くも幽霊やってるもんな。存在自体がレジェンドか)
幼女幽霊「さ、さあ!仲直りもしたことですし、そろそろメインイベントでもしましょうか!」
幼女幽霊「レッツ!焼肉パーティー!!」
DQN幽霊(え?焼肉?)
ジュー……ジュー……
長髪白装束娘「うひょー!そろそろ焼けてきたな!」
長髪白装束娘「今日のために特上肉を用意したんですからね!さぁ、ドンドン食べてください!!」
DQN幽霊「……」スッスッ
口裂け女「へぇ、いい肉仕入れたじゃない」モグモグ
テケテケ「んー♪おいしー♪しー♪」パクパク
尻尾『』モグモグ
花子「うむ、美味じゃな」モグモグ
ひきこ「……おいし」モグモグ
メリー「たまにはこういう食事もいいですわね」モグモグ
DQN幽霊(……なんで幽霊や怪物が集まって廃病院で焼肉してるんだ。しかも俺以外みんな肉体持ってるし。俺だけ肉食えねえし)
DQN幽霊(しかも、ここ病院の地下だぞ。めっちゃ煙いわ)
モクモク……モクモク……
口裂け女「ねぇ、換気したら?さすがにここだと煙が立ち込めるんだけど」
長髪白装束娘「あーすみません。ここ換気扇ないんですよ。普段使う機会なんてないですし。隠し通路ならあるんですけど」
口裂け女「マジで?いや私達なら一酸化炭素中毒の心配はないけど、さすがにうざったいわね」
テケテケ「んー確かにちょっと気になるね。ね」
ドゴオオオオオオオオオン!!!!!!!!
ひきこ「……これでいいでしょ」モグモグ
花子「む、確かに風通しはよくなったな」
メリー「ワオ!さすがひきこさんですわね!」
尻尾『』モグモグ
長髪白装束娘「あ、はい……」
長髪白装束娘(え、ちょ、何無断で人の家の天井ぶち破ってんの?それ後で修理するの私なんだけど……)
DQN幽霊(うわぁ、さすが物理最強。ちょっと殴っただけで上まで大穴開けやがった。本当にその気になればこの病院なんて一瞬で潰せるな)
DQN幽霊(……先輩はみんなが帰ったら一人であの穴を修理するのか。大変だな)
DQN幽霊(……)
DQN幽霊(んなわけないだろ!いい気味だわ!一人だけ肉体出して特上肉食いやがってええええええええええええ!!!!俺は食えねえのにいいいいいいい!!!!!)
DQN幽霊(もっと暴れていいっスよ!ひきこさん!先輩に報いを与えてやれ!)
長髪白装束娘「ん?おいDQN、手が止まってるぞ。早く焼けよ。お前どうせ食えないんだから」モグモグ
DQN幽霊「」イラッ
DQN幽霊「はい、先輩。この肉焼け頃っスよ。どうぞ」
長髪白装束娘「おっ、サンキュー」パクッ
長髪白装束娘「……これまだ生じゃねえか!!!!!!」
テケテケ「うまっ!うまっ!」モグモグ
口裂け女「コラ、野菜もちゃんと食べときなさいよ。栄養偏るわよ」
テケテケ「えー別にいいじゃん。わたし人間じゃないし、し」
口裂け女「んなこと言ってるからいつまで経っても身体が大きくならないのよ。アンタ、今年でその姿のまま何年経ったのよ」
テケテケ「んー……20年くらいかな?かな?」
口裂け女「ほら見てみなさい。このままだとずっと幼児体型のままよ」
テケテケ「むー!その気になればわたしも大人になれるもん!もん!」グッ
口裂け女「こんなところで下半身出そうとしない。帰りに誰が運ぶと思ってんのっと」ヒョイッ
グッ
口裂け女「ん?」グイッ
ひきこ「……」グイッ
口裂け女「……ちょっと、箸を離してくれない?その肉は私が先に取ったんだけど」
ひきこ「……嘘。私の方が速かった」
口裂け女「」イラッ
口裂け女「た、確かに。アンタの方が一瞬速かったわ。そこは認めてあげる……でも、年功序列って言葉知ってる?ここは目上の私に譲る場面よ」グイッ
ひきこ「それは人間社会の話。死者の世界は完全実力主義。だからこの肉は私のモノ」グイッ
口裂け女「あ、あのねぇ……肉なら他にもあるでしょ。どうしてそんな意地を張るわけ?さっき花子さんに注意されたこともう忘れたの?」
ひきこ「それとこれは話が別。他の肉なんて関係ない。今、この肉は私が食べる権利がある」
ひきこ「ここで譲るのは納得出来ない。正当性があるのは私の方」
口裂け女「……あぁん?いいから寄越しなさいよ。ここまで来たら私も引かないわよ」グッ
ひきこ「そう、なら勝手に食べれば?私からこの肉を奪えたらの話だけど」グイッ
口裂け女「!?」ブンッ
口裂け女(こ、こいつ……強引に肉を!単純な力勝負だとこいつにはまず勝てない!このままだと肉が……!)
口裂け女「こ、こいつ……!!」グイッ
ひきこ「……ッ!!」グッ
メリー「いいのですか?あのお二方、また争いをしているように見えますわ」
花子「もう儂は知らん。それより今は肉じゃ」パクッ
花子「あんだけ釘を刺したんじゃ。小競り合いはあっても声を荒げるような真似はもうないじゃろ。多分な」モグモグ
メリー「そ、そうですわね」チラッ
口裂け女「ぐおおっ……!!」グイッ
ひきこ「ぬぐぐ……っ!!」グイッ
尻尾『』モグモグ
DQN幽霊「……」
DQN幽霊(誰も突っ込まないけど、こっくりさんはどうやって食ってるんだよ)
長髪白装束娘「あ、花子さん。一杯どうぞ」スッ
花子「む?おぉ、悪いな。酒まで用意しておったのか」
長髪白装束娘「一応、飲む人もいるかと思って用意しときました。私はあんまり詳しくないですけど、この銘柄花子さんが好きだって前言ってましたし」
花子「んっ……ぷはぁ。やっぱり美味じゃね。肉とよく合うわ」
花子「幼女、主は飲まないのか?」
長髪白装束娘「私まだギリギリ未成年ですよ。飲めませんって」
長髪白装束娘「それに、前に一度飲んだことあったんですけど……まだ口に合いませんでした」
花子「ふふ、まだまだ子供じゃのう幼女も……この味が分からんとは」ゴクッ
長髪白装束娘(……見た目的には花子さんが一番子供ですけどね)
長髪白装束娘「あ、そうだ。花子さん、知ってますか?あの去年あったカルトの集団自殺」
花子「あぁ……あったな。そんなことも。あれがどうかしたのか?」
長髪白装束娘「いや、個人的に何か気になっている事件なんですよね。だって、一気にあれだけの人数が自殺するなんて……尋常じゃないですよ」
長髪白装束娘「事情通の花子さんなら、もしかして世間では出てない情報も知ってたりするのかな、とか思ったんですけど」
花子「……」
花子「……確かに、あの事件は尋常ではないな。儂も長いこと幽霊をやっているが、あんな気配を感じたのは初めてじゃ」
長髪白装束娘「え……?ど、どういうことですか?」
花子「一応、儂も何か気にかかってな。事件が起きた後、すぐに現場に行ったんじゃ」
花子「直接、あの空気を体感した身から言わせれば……確実に、あの宗教団体は何かを企んでいたことは間違いない。霊的な、それすらも超越したモノを呼び出そうとしていた」
長髪白装束娘「え!?マ、マジですか!?」
花子「あぁ……主も、ニュースや記事で知っておるはずじゃ。地下に妊婦が監禁されていたと」
花子「そこで、何かが起きたのは確かじゃ。あの残り香……今までに感じたことのない気を感じた。邪悪というには余りに純粋、殺意というには余りに鋭い、そんな気がな」
花子「……もしかしたら、奴等はそれを呼び出すことに成功したのかもしれん。その証拠に、現場の近くではソレに誰かが応戦したと思わしい跡がいくつかあった」
長髪白装束娘「応戦って……誰がですか?」
花子「誰、という問いには答えられないが……恐らく、その場に居合わせた力を持つ人間じゃなろうな。それもかなり強力な」
花子「勝敗も、恐らくその人間が勝ったと思われる。近くの井戸に、封印式が張ってあった。状況から見れば、呼び出されたモノを封印することに成功したのじゃろうな」
花子「……まあ、その封印式も外部から破られていたがな。結果的に言えば、その宗教団体が呼び出したモノは現在も、どこかでのうのうと自由を満喫しているということになる」
長髪白装束娘「そ、それって……」
花子「ま、結局は全て状況証拠からの推測でしかない。真実は当事者たちにしか分からんということじゃな」
花子「さ、こんな辛気臭い話は終わりじゃ。女子会を楽しむとするかの」
長髪白装束娘「あ、はい……」
長髪白装束娘(や、やっぱり噂は本当だったんだ。あの事件はただのイカれたカルトの集団自殺じゃない。とてつもない闇の裏がある)
長髪白装束娘(あー……めっちゃ興味あるなぁ。私も野次馬に行きたい。でも私の行動範囲は広まった今でもこの町いっぱいくらいしかないし……)
長髪白装束娘(いっそのこと向こうから来てくれないかなぁ)
……………………………………………………………
…………………………………………
ポーン ポーン
メリー「あら?もうこんな時間ですわね」
メリー「申し訳ございません。皆様方、わたくしはここでお暇させてもらいますわ」
長髪白装束娘「え?もうリリー帰っちゃうの?」
メリー「はい、実はこの後、少し用事があるので……すみません。このような日に」
メリー「今日はとても楽しい日でしたわ。また機会があったら声をかけてください。すぐに飛んできますから」ペコリ
DQN幽霊「お、お疲れ様っス!」
口裂け女「ん、お疲れ」
テケテケ「バイバイー!バイ!」
花子「またの」
メリー「では、皆様方の明日に幸運があるように祈っていますわ。さようなら」
シュンッ
テケテケ「あーリリー行っちゃたねぇ。寂しいなぁなぁ」
DQN幽霊(ほっ……よ、よかった。メアの方は結局出てこなくて)
DQN幽霊(多分、安堵してるのは俺だけじゃないはずだ。みんな心のどこかで……先輩みたいに、メアを恐れていたんだろうな。空気が変わった気がする)
DQN幽霊(ほんと、リリーの方はこの中で一番の淑女なのになぁ……)
ひきこ「Zzz……Zzz……」
長髪白装束娘「ひきこさんちゃん、ちょっと起きてよ。ここで寝ないで」
口裂け女「そいつ、そんな酒飲めないくせに結構行ってたわね。もう潰れて今日は動けないんじゃないの」
長髪白装束娘「えっ!?ちょ、お、起きてよ!ひきこさんちゃん!!」
長髪白装束娘(じょ、冗談じゃない!ひきこさんちゃんをこの病院に泊めたら……寝返りを打つだけであちこち壊されかねない!!)
口裂け女「もう瞬間移動で適当な場所に飛ばしたら?」
長髪白装束娘「え、い、いいんですかね。そんなことして」
口裂け女「だって起きないんじゃ仕方ないでしょ。後でアンタから謝罪メールでも送っておけば、そんな怒らないわよ」
長髪白装束娘「そ、そうですね……うん、よし」グッ
長髪白装束娘「ひきこさんちゃんごめん!じゃあバイバイ!」
ひきこ「Zzz……Zzz……」シュンッ
長髪白装束娘「ふう……後でvsひきこさんシリーズの映画見るから許してね。ごめん」
尻尾『』ツンツン
長髪白装束娘「ん?どしたのこっくりさん」
尻尾『』フリフリ
長髪白装束娘「え?こっくりさんも帰るの?」
尻尾『』コクッ
長髪白装束娘「分かった。じゃあこれ、お土産のお稲荷さん。帰ったら食べて」
尻尾『』スリスリ
長髪白装束娘「わっ、そんなに嬉しいの?くすぐったいって」
シュンッ
口裂け女「もう半分帰ったわね。どうする?もう私達も帰る?」
花子「そうじゃな。ここら辺でお開きにするか」
テケテケ「えー?もう帰っちゃうの?もっと遊びたいーいー」
口裂け女「仕方ないでしょ。ほら、準備した」
DQN幽霊(や、やっと終わったのか……ふう。長い一日だった)
DQN幽霊(あー……何とか乗り切った。一時はどうなることかと思ったが)
口裂け女「じゃ、今日は場所借りて悪かったわね」
長髪白装束娘「いえ!私も久しぶりにみんなと会えて楽しかったですし、またやりましょう!女子会!」
花子「うむ、身体には気を付けるんじゃぞ。幼女――色々とな」
テケテケ「バイバイー!幼女ちゃん!どきゅん!」
DQN幽霊「ウ、ウス。お気をつけてお帰り下さいっス」
長髪白装束娘「またねー!テケテケちゃん!」フリフリ
口裂け女「あ、DQN、ちょっと」クイクイ
DQN幽霊「え?お、俺っスか?何か?」
口裂け女「いいから早く来なさいよ。何も取って食おうとはしないわよ」
DQN幽霊「な、なんスか?俺、何かやりました?」
口裂け女「そんなんじゃないって。耳貸して」
DQN幽霊「え、え?」スッ
口裂け女「もし、次に幼女に何かあったらアンタが止めなさいよ。あの子のことは任せたわ」ボソッ
DQN幽霊「?」
DQN幽霊「え?そ、それってどういう意味っスか?」
口裂け女「時が来たら分かるわよ。じゃあね」フリフリ
幼女幽霊「お達者でー!」フリフリ
DQN幽霊「……」
DQN幽霊(先輩に何かあったらって……どういうことだ)
テケテケ「あー!楽しかったなぁ!また女子会やろうね!ね!」
口裂け女「ま、そのうちね」
花子「最初はもっと早く集まる予定じゃったしな。次に皆の衆が揃うのはいつになるやら」
テケテケ「あ、そうだ。わたしずっと気になってたんだけどさ」
テケテケ「あれって本当に幼女ちゃんなの?前に会った時と全然気配が違ったけど」
口裂け女「……」
花子「……」
テケテケ「さすがに幼女ちゃん本人には聞けなかったから何も言えなかったけどさー何か違ったよね。ね」
口裂け女「アンタ、そんな気遣い出来るタイプだったのね。もっと無神経だと思ってたわ」
花子「全員気付いておったじゃろうな。分からなかったのは本人である幼女と下級霊のDQNくらいじゃろう。あえて言わなかったが」
テケテケ「む!わたしそんな無神経じゃないもん!もん!」
テケテケ「で、幼女ちゃんに何があったの?の?」
口裂け女「まあ……話を聞く限り、一年前に来た霊能力者ってやつが原因でしょうね。そいつとの戦闘で“突然変異”したんじゃないの」
花子「じゃな。ジバクからフユウ霊に変わったのがいい証拠じゃ」
テケテケ「とつぜんへんい????」
口裂け女「怪物にはない、幽霊だけが持っている特性。自らの概念すらも捻じ曲がらせて適応するのよ。肉体を持たない幽霊だからこそ可能な荒業ってやつ」
テケテケ「???」
口裂け女「はぁ、アンタに分かるように説明するのは難しいわね。花子さん、任せたわ」
花子「うむ、まあようは身の危険を感じ、生き伸びる為に性質を変えて変化した、と言った方が分かりやすいな」
テケテケ「うーん、何となく分かるような、分からないような、な」
花子「そう難しく考える必要はない。幽霊というのは魂で出来た精神体じゃ。つまり、どんな形質にも変化することが可能ということなのじゃ」
花子「どのような環境にも、それに合わせて適応することが出来る。まあ滅多にない現象じゃがな。突然変異をした幽霊なぞ、足付きよりもっと数が少ない」
テケテケ「んー、でもそれって怪物にも出来るんじゃないのかな?かな?」
花子「怪物が出来るのはあくまで自己の肉体の変化、改造のみ、それも常識の範囲内でな。いくら頑丈と言っても、根本的には人間と変わらん」
花子「しかし、幽霊は肉体という器がない。つまり、器を自ら作ることが出来るんじゃ。これが幽霊の突然変異。ただの霊体ではなく、何かを取り込み一体と化した姿になる」
テケテケ「へー……例えばどんなのになるの?」
口裂け女「私が聞いた話だと、水や炎と一体化したって話は聞いたことあるわ。あと、細菌に適応して、呪いを感染させたりね」
花子「他にも、電子世界と融合し二次元の存在になったり、天災そのものに成り果てた奴もおるな」
テケテケ「うげぇ、何かゲームの話みたいだね。じゃあ幼女ちゃんはどんな突然変異になったのかな?かな?」
口裂け女「……さあね。目に見えた変化はなかったし、本人も気付いてないみたいだし」
花子「しかし、幼女も運がいいのか悪いのか……話を聞く限り、病院に来た霊能力者は二人組ではなく一人だったとはな」
口裂け女「あいつらって基本的にはコンビで襲ってくるしねぇ。一人でやって来たってことはよっぽどの馬鹿か、それともそれだけ腕に自信があるのか」
テケテケ「え?そうなの?なの?」
口裂け女「覚えてないの?アンタを襲った狩人も二人組じゃないの?」
テケテケ「あっ、言われてみれば確かにそうだった気がする。する」
口裂け女「はぁ、しっかりしなさいよ」
口裂け女「そういえば私も単独でやってるやつは相手にしたことはないわね。花子さんは?」
花子「……あるぞ。半世紀ほど前に、一度だけな」
口裂け女「へぇ、強かったの?」
花子「まあな、儂の経験でもあれほど苦戦したのはあれが最初で最後じゃった。眼帯を付けた、見た目は儂と変わらん童女……」
花子「結局は勝負がつかず、両者痛み分けで終わったがな」
口裂け女「ふーん……なら、幼女もそれに近い状況に陥った可能性が高いわよね。それが突然変異のきっかけか」
口裂け女「やっぱ、追及するべきだったかしら。あの病院の嫌な雰囲気も気になってたし」
テケテケ「ねぇ、何か蒸し暑いというか、居心地悪かったよ」
花子「……いや、病院だけではない。僅かだが、この町全体に、病院と同じような気配がするぞ」
花子「もしかしたら、何かが起きようとしているのかもしれん。この町で、何かが」
口裂け女「どういうこと?」
花子「いや、儂にも分からん。ただ……生者でも死者でもない、何かの気配がするような……」
花子「…………」
花子「いや、辞めておこう。儂らはこの町とは無関係じゃ。余計な詮索はしない方がいいの」
花子「……ところで口裂け女、気付いておるか?」
口裂け女「……えぇ、とっくにね。さっきからこっちにビンビンに飛ばしてきてるし」
花子「……どうするのじゃ。儂も手を貸してやってもいいが」
口裂け女「いいわ。向こうは私に用があるみたいだし。花子さんはもう帰っていいわよ」
花子「……そうか。気を付けるんじゃぞ」
テケテケ「んー?何の話―?しー?」
花子「いや、では儂はここで失礼する。達者でな。テケテケ、口裂け女」シュンッ
テケテケ「あー……花子さん行っちゃったね。急にどうしたんだろ?だろ?」
口裂け女「テケテケ、ここの坂を下ったところに自販機があったでしょ。私、今すごく喉が渇いてるからお茶買って来て。500円あげるから、残りはアンタの好きなジュース買っていいわ」ピンッ
テケテケ「えっ!?500円もくれるの!?るの!?」
テケテケ「分かった!買ってくる!!くる!!」ビューン
口裂け女「……さて」
口裂け女「これで邪魔者はいなくなったわよ。さぁ、姿を現しなさいよ」
口裂け女「――メア」
「あっはぁ♪さっすがァ……完全に気配消してたのに」スッ
メリー「やっぱり、私の眼に狂いはなったねェ……口裂けのおねーさん、アナタがあの中で一番強いんだねェ♪」
口裂け女「……」
口裂け女(気配を消してた?どこが、こっちを睨み殺すくらいの殺気を放ってたくせに)
口裂け女「それで、何の用?今日はアンタは来ないってリリーから聞いてたんだけど」
メリー「別にィ?ただ挨拶に来ただけだよ。あなた達には手を出すなって、リリーから言われてるし」
メリー「ただ、あなたが私達とヤりたいって言うなら……話は別だけどォ」クスッ
口裂け女(つまり、ただの挑発に来たってことね。あーもう……面倒臭い)
口裂け女「お生憎様、こっちはアンタに全然興味ないわ。いいからさっさと消えなさい」
メリー「……そう、つまんないの」
シュンッ
口裂け女「!?」クルッ
メリー「動かないで♪首、切れるよ?」スッ
口裂け女(こいつ!瞬間移動で後ろに……)
口裂け女(やっぱり、この能力は驚異的だわ。どうしても判断が一瞬遅れる……もし、本気で殺しに来てたら、さっきの一瞬で殺されてた)
メリー「……やっぱり、口裂けのおねーさんでもこの程度か。これじゃあ私達の飢えは満たされないなァ……」
口裂け女「は?じゃあ試してみる?」ピキッ
メリー「強がってもダメだよォ?冷や汗、かいてるよ?」
メリー「ってなると……もう“影の王子様”しかいないよねェ。今、どこにいるんだか」
口裂け女「……影の王子様?」
口裂け女「――!アンタ、それってまさか……」
メリー「そう、私達と対極の存在であるあの人。聞いただけでワクワクするよねェ……伝説の狩人なんて」
メリー「その殺し方も全て背後からの一撃、まさに私と同じ、これは運命感じちゃうよねェ?」
メリー「でも、いつまで待っても来てくれない……焦らされるのも悪くないけど、そろそろ渇き過ぎて干からびちゃうよォ」
口裂け女「……」
メリー「はァ、話してるだけで我慢出来なくなっちゃた。じゃあ、もうイクね?」
メリー「バイバイ♪口裂けのおねーさん♪」シュンッ
口裂け女「……っ」フゥ
口裂け女「はぁ……はぁ……クソ、もう最悪」グッ
口裂け女(ちょっと後ろに回られただけで、こんなに汗が……やっぱりあの子達は別格だわ)
口裂け女(……影の王子様、か。確かに『禁忌』を倒すには同じ『禁忌』のアイツにしか出来ない。性質上、いつかは巡り合う運命か)
口裂け女(出来れば共倒れしてくれるのが私達怪物にとってはベストなんだけど……)
テケテケ「おーい!おーい!」フリフリ
口裂け女「……」
テケテケ「ん?どうしたの?何かあった?あった?」
口裂け女「いえ、何もないわ」
テケテケ「でも化粧落ちてるよ?よ?」
口裂け女「……!!」スッ
口裂け女「……今日は暑いわね。こんなにメイクが乱れるなんて、早く直さないと」
口裂け女「ん?お茶はどうしたの?」
テケテケ「あー……それがねーねー」
テケテケ「わたしの身長だと、ボタン押せなかったんだ。えへへ、へへ」
口裂け女「……馬鹿ね。ジャンプすれば届くでしょ」
テケテケ「あっ!そ、そうだ!しまった!った!」
口裂け女「はぁ。ほら、行くわよ。私が買ってあげるわ」
テケテケ「うん!うん!」
口裂け女(化け物は化け物同士で潰し合えばいい。私達は平穏に過ごさせてもらうわ)
口裂け女(――いつか来る、最後の時まで)
……………………………………………………………
……………………………………………
「一年振りか。ここに来るのは」
「……蒸し暑いな。これはただの気象現象じゃない。やっぱり、この町にいるのは間違いないか」
「さて、行くか……まずはあの病院に」
幼女幽霊「うーん……」
DQN幽霊「どうしたんスか先輩」
幼女幽霊「いやさ、さっきひきこさんちゃんが出てる映画見たんだけどさぁ……凄い映画だったんだよ」
幼女幽霊「その感想を率直に送るかどうか悩んでる」
DQN幽霊「え?いい映画ならそのまま普通に言えばいいじゃないっスか」
幼女幽霊「誰がいい映画なんてなんて言ったんだよ。凄い糞だよ糞。有象無象のサメ映画とゾンビ映画に真っ向からタイマン張れるくらいのな」
DQN幽霊「え、えぇ……どんなタイトルの映画なんスか」
幼女幽霊「ひきこさんvs貞子って映画」
DQN幽霊「……タイトルの時点で突っ込みどころ満載っスね」
幼女幽霊「いやマジでこれは酷いと思ったよ。私も色々糞映画は見たけどさ、本当に訴えられるくらい酷いと思うよ、これ」
幼女幽霊「まずタイトル詐欺とかそういうレベルじゃないからね。貞子に謝るべきだよ。いくら今の貞子が原作とかけ離れたエンターテイメント化した存在になったと言ってもさ、限度があるからね」
幼女幽霊「内容に関してはまあ正直、こんなタイトルを借りた私も悪いと思うよ。見えてる地雷を踏んでるようなもんだし」
幼女幽霊「ただ、それを差し引いても酷いとしか言いようがない」
DQN幽霊「ど、どんな映画なんスか?」
幼女幽霊「まずタイトルに貞子って付いてるけどさ、貞子は出てこないよ」
DQN幽霊「は?」
幼女幽霊「いや本当に出てこないよ。少なくともお前が思ってる貞子は」
幼女幽霊「この監督はさぁ……ひきこさんを自分が考えた最強の怪物にでもしたいのかな?って思うんだよ。とんだメアリースーだよね。もうひきこさんちゃん本人を哀れむレベル」
幼女幽霊「てか、このひきこさんvsシリーズって何本か出てるんだけどさぁ、いじめ描写がクソ多いんだよね。もうひきこさんvsいじめ、パートⅣ、Ⅴ、Ⅵでいいよ」
DQN幽霊「え、他にも出てるんスか?」
幼女幽霊「あるよ、ひきこさんvs口裂け女、ひきこさんvsこっくりさんとか」
幼女幽霊「まあこれらはvs貞子に比べたらかなりマシだけどね。割と見られる部類だよ」
DQN幽霊「それ先輩の感覚が麻痺してるだけじゃないんスか?」
幼女幽霊「うーん、どうしよう。割と本人はこの映画褒めてたんだよなぁ。どう見てもあの人、本編の面白さよりいじめっ子がどれだけ凄惨に死ぬかどうかで評価してる節があるんだよね」
幼女幽霊「昨日あんなことしちゃったし、やんわり過激な言葉は控えて送るか。えーっと……サメ映画と同じくらい笑えましたっと」
DQN幽霊「……嘘は言ってないっスね」
幼女幽霊「よし、じゃあお前も見ろよ。ひきこさんvs貞子」
DQN幽霊「はぁっ!?な、なんで俺も見るんスか!?」
幼女幽霊「うるせぇ!私も見たんだからお前も見ろや!!!!この理不尽を私だけが味わうなんて不公平だ!!!!」
幼女幽霊「嫌なら強制的に椅子に縛り付けてやるからな!!!!観念しろ!!!!!」ガシッ
DQN幽霊「ちょ、やっ……は、離せエエエエエエエエエエエ!!!!!」
ピーーーー
DQN幽霊「せ、先輩!客っスよ!ほら!」
幼女幽霊「あ?チッ……運が良かったな。今日は見逃してやる」
幼女幽霊「さて、誰が来たのかな――」
幼女幽霊「!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!???」ビクッ
幼女幽霊「あ、あわわ……わわわわわ……」ブルブル
DQN幽霊「せ、先輩?どうしたんスか?」
幼女幽霊「あ、あいつ……ま、また来やがった……あっ……あっ……」ブルブル
DQN幽霊「あいつ?」チラッ
霊能少女『……』
DQN幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「マ、マジかよ……こいつ……せ、先輩!どうするんスか!?」
幼女幽霊「ど、どうするも何も……い、いや、急に来られても心の準備が」
幼女幽霊「い、一応次に攻めて来ても対策が出来るように、色々仕掛けは作ってあるけど……」
DQN幽霊「い、今こそ!それの出番っスよ!!早く!早く!」
幼女幽霊「お、おう!じゃあ早速準備を……」
霊能少女『……もしもし?聞こえてる?』
幼女幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「!?」ビクッ
霊能少女『……反応はないか。音声は拾ってない?』
幼女幽霊「な、なんだこいつ……どうやってカメラの位置を特定したんだ」
DQN幽霊「い、いやそれよりも……こっちに話しかけてるっスよ」
霊能少女『……ならこれで』カキカキ
幼女幽霊「か、紙に何か書いてるな」
DQN幽霊「こ、これって……こっちにコンタクトを取ろうとしてるんじゃないっスか?前はこんなことしてこなかったですし」
幼女幽霊「い、意味分からん……何がしたいんだこいつは」
DQN幽霊「あ、書き終わったみたいっスよ」
『今日は話をしに来た』
『アナタに協力してもらいたいことがある』
幼女幽霊「え……?」
DQN幽霊「……は?」
DQN幽霊「な、何言ってんだこいつ、話がある?協力してほしい?」
DQN幽霊「ど、どうするんスか先輩?こんなこと言ってますけど」
幼女幽霊「……どうするもこうするも、こんなの無視だ無視。なんで私を殺しかけたやつと話なんかしなくちゃいけないんだ」
幼女幽霊「まあこいつが何しに来たかは興味がないこともないけどな。それでもわざわざ危ない橋を渡るつもりはないよ」
DQN幽霊「そ、そうっスよね」
幼女幽霊「しかし、なんでまたここに来たんだあのメスガキ……私を始末出来なかったのが分かっていたなら、もっと早く来たはずなんだけど」
DQN幽霊「何か……ワケ有りっぽいっスよね。協力したいって言葉が気になるっス」
幼女幽霊「……」
霊能少女「……返答なしか。あの幽霊達がカメラをこの病院中に仕掛けていることは確かだし、このメッセージも見てるはず」
霊能少女「もう既に根城を変えたとは考えられない。この付近に他の建築物はないし、確かに気配がする」
霊能少女「……つまり、居留守。ワタシには会いたくないと」
霊能少女「仕方ない。ならこっちにも考えがある」スタスタ
DQN幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「せ、先輩!見てくださいっス!!あの女が消えたっ!」
幼女幽霊「えっ!?うそっ!?」バッ
DQN幽霊「ちょ、ちょっと目を離した隙に……ま、まさか!前みたいにもうこの部屋に!?」キョロキョロ
幼女幽霊「い、いやそれはないと思う。あの時は私が瞬間移動してきた道をあいつも通ってこっちに来たから」
幼女幽霊「幽霊と違って、人間は自分で道を作ることが出来るやつはかなり少ないって聞くし……多分、普通に移動したんだと思う」
DQN幽霊「クソ、一体どこに行きやがった……ん?」ピクッ
DQN幽霊「せ、先輩、17番カメラと18番カメラの映像にノイズが……」
ザザァー……ザザァー……
幼女幽霊「……!」ゴクリ
幼女幽霊「こ、この道順は……、ま、間違いなく、ここの部屋を目指してるな」
DQN幽霊「どうするんスか先輩……また戦り合うんスか」
幼女幽霊「馬鹿言え。さっきも言っただろ、戦うつもりはないって」
DQN幽霊「え?で、でもここに向かっているのは確定なんスよ?鉢合わせるのは不可避じゃないっスか」
幼女幽霊「前回は瞬間移動でこっちの部屋に入られたけど、正面からやってくるなら話が別だよ。こういう時の為に、地下の扉には電子キーを付けておいたんだからな」
幼女幽霊「ククク……16桁の暗証番号を入れないと、この扉は決して開くことはない。常人離れした怪力を持っている怪物や、霊体化できる幽霊と違って、あいつ本人はただの人間のガキだからな」
幼女幽霊「単純だけど、この方法が一番効く。いくらあいつが私達相手に強くても、金属の扉相手だと何も出来ないってことよ」
DQN幽霊「い、いつの間にそんなものを……でも、理には適ってるっスね。確かに物理的な手段はあの女の最大の弱点とも言える」
DQN幽霊「さすが先輩っス!!!!よっ、日本一!!!!」
幼女幽霊「ははははははは!!!!!もっと褒めろ!」
コンコン
幼女幽霊「」ビクッ
DQN幽霊「」ビクッ
『もしもし?ここにいるのは分かってるんだけど』
DQN幽霊(き、来やがった…...)
幼女幽霊(シーッ、黙ってやり過ごすぞ。あいつはどう頑張ってもここに入ってくることはないんだから)
DQN幽霊(ウ、ウス。了解っス)
『…………』ピッピッ
『…………』ブッブー
幼女幽霊(あははははは!!あいつ適当に番号押してやがる!当たるわけねえだろ!16桁だぞ!)
幼女幽霊(ぶっちゃけ私でもパスワードが書いてあるメモを見ないと覚えてないくらいだし。アホかコイツ)
DQN幽霊(どうでもいいけど、16桁って無駄に多いな。普通に4桁でよくないか)
『……ここにいることは分かっている。今すぐこの扉を開けてほしい』
『さもないと、こちらも強硬手段を取ることになる』
幼女幽霊(あぁん?強硬手段だぁ?出来るもんならやってみろ!この鉄の扉を生身でどうやって突破する気だぁ?)
幼女幽霊(ムリムリカタツムリ~それこそ、爆弾で吹っ飛ばすとかタリバンみたいなことしないと――)
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!
幼女幽霊「へ?」
DQN幽霊「は?」
パラパラッ……
パラパラッ……
DQN幽霊「え……せ、先輩。何か扉が吹っ飛んだんスけど、自爆機能でも付けました?」
幼女幽霊「い、いや……さすがの私でも付けてないよ」
DQN幽霊「え、じゃあなんで爆発したんスか」
幼女幽霊「な、なぜって……そりゃあ使ったんじゃないの。あいつが爆弾を」
DQN幽霊「…………」
幼女幽霊「…………」
DQN幽霊「ちょっとぉ!?先輩どうするんスか!!いとも簡単に突破されてるじゃないっスか!!」
DQN幽霊「そもそも、幽霊が電子キーとかデジタルに頼らないでくださいよ!!!もっと結界とか封印とかオカルトチックな方法なかったんスか!!」
幼女幽霊「う、うるせぇ!仕方ないだろ!その手の術式はあいつの水ぶっかけられたら全部機能停止するんだから!!じゃあ何かお前案があるのかよ!!!!」
スタスタ……スタスタ……
霊能少女「…………」フッ
幼女幽霊「ぐっ!?」ゾクッ
DQN幽霊「うおっ!?」ゾクッ
幼女幽霊(ぐっ……く、くそぉ。一年振りだ。この背筋が凍る感覚も)
DQN幽霊(ま、まさかこんなに早くまたこいつの顔を見るなんて……)
霊能少女「……どうしても顔を合わせる気がなかったから、爆弾で壊させてもらった。だから警告したのに」
霊能少女「ひとつ、誤解をしてそうなので訂正しておく」
霊能少女「ワタシは今日、アナタ達と戦う気はない。さっきのメッセージで伝えたように、協力を要請に来た」
幼女幽霊「は、はぁ……?協力ゥ?何言ってんだよお前」
幼女幽霊「死者を祓う人間がその死者の力を借りるって……本末転倒の支離滅裂だろ。そもそも私が協力すると思ってんのか」
霊能少女「……そう、ワタシも本来ならば馬鹿げたことはしない。でも、状況が変わってしまった。敵の敵は味方、というやつ」
霊能少女「助けてほしい。このままだと、何千、何万の命に関わる」
霊能少女「……いや、もはや手遅れに近い。犠牲者は既に何年も前から」
幼女幽霊「ちょ、ちょっと、ど、どういう意味だよそれ」
霊能少女「今こうしている間にも……事態は最悪の方向に向かっている」
霊能少女「アナタは……恐らく、ワタシが知る中で奴に唯一対抗出来る存在に近い。だから取引をしに来た。アナタの望むものと引き換えに、力を貸してほしい」
DQN幽霊「先輩、な、何かヤバい方向に話が進んでませんか?」ボソッ
幼女幽霊「……うん、私も嫌な予感を感じてる」
幼女幽霊「お、おい……勝手に話進めてるけど、お前はこれから誰とやり合うつもりなんだよ」
幼女幽霊「ま、まさか……私に同族と戦えって言うんじゃないだろうな」
霊能少女「ただの怪物や幽霊なら、アナタの手を借りる必要はない。ワタシ一人で全て対処出来る」
霊能少女「奴はそんな生易しいモノじゃない。文字通りに次元が異なる存在と言ってもいい」
幼女幽霊「は?怪物でも幽霊でもないって……何と戦わせる気?まさか人間?」
霊能少女「そのどれらでもない……呼称は文献によっていくつもある。『神ノ鎌』『勾神之禍魔』など」
霊能少女「ただ、一番使われているのは……」
霊能少女「“かみかま”」
霊能少女「奴はそう呼ばれている」
幼女幽霊「かみ……?」
DQN幽霊「……かま?」
幼女幽霊「な、なんだよそのカニカマって」
霊能少女「カニカマじゃない。“かみかま”」
霊能少女「このような字で書く」カクカク
『神彁混』
DQN幽霊「な、何かおどろおどろしい雰囲気っスね。『彁』の部分が見覚えがない字っスけど」
幼女幽霊「……私もそれ思った。どういう意味なんだそれ、常用漢字じゃないよな?」
霊能少女「知らないのも無理はない。これはいわゆる幽霊文字と呼ばれているモノ」
霊能少女「意味はない。というより、その歴史が失わてしまったという方が正しいか。だから誰にもこれがどんな意味なのかは名付け親以外は分からない」
DQN幽霊「ゆ、幽霊文字……初めて聞いたっス」
幼女幽霊「……んで、そのかにかまとやらは一体何なんだよ」
霊能少女「その件に関しては話が長くなる。最初から話すとかなり長くなるけど構わない?」
幼女幽霊「勿体ぶってねぇで早く言えや」
霊能少女「分かった。では話そう」
霊能少女「ワタシが体験した……あの忌まわしい事件の顛末を」
………………………………………………………………
……………………………………………………
霊能少女「これがあの事件の真相の全て」
霊能少女「“天国の扉”というカルトが成したかった本当の目的は“かみかま”と呼ばれる彼等が神と崇める化物をこの世界に降臨させる儀式を完遂すること」
霊能少女「そして、その儀式は成功してしまった。今、“かみかま”は自由の身となり、この世界を彷徨い続けている」
霊能少女「奴はワタシやアナタ達のような生から産まれた者ではない。死の渦から産まれた正真正銘の異形」
霊能少女「生物が誰に命令されることなく、本能で命を残し続けるように、奴は呼吸をするように死を振り撒く」
霊能少女「……この一年でどれだけの命が奴に奪われたのか、想像も出来ない。それだけ危険な存在。即急に封印しなくては」
DQN幽霊「マ、マジかよ……それって」
幼女幽霊「……!」
幼女幽霊(ま、まさか……あの事件にこいつが関わっていたなんて)
幼女幽霊(そ、それにカルトの本当の目的が化物を降臨させることって……ど、どういうこと?そんなまるで映画みたいな話が現実に……)
霊能少女「どう?分かってくれた?」
霊能少女「はっきり言う。もはや事態は深刻な状況に陥っている」
霊能少女「この儀式を世界で同時に、それも複数で行ったら……被害は更に拡大する」
霊能少女「今、分かっているだけでも日本の行方不明者、変死者はどれぐらいか知っている?」
幼女幽霊「し、知らない」
霊能少女「行方不明者は8万人、変死者は15万人とされている」
霊能少女「この数字を聞いて、少しでも不審に思うことはない?いくら何でも……ここまで数が大きいなんて、どう考えてもおかしい」
霊能少女「日本だけでもこれだけの数の人間が消えたり、謎の死を遂げている。世界的に見れば、この数は何十倍と膨れ上がるだろう」
霊能少女「もしも、この数の1%でも……“かみかま”が関わっていたら、誰にも気付かれていないだけで、これだけの死に関係していたら、どう?」
DQN幽霊「……!」ゴクリ
幼女幽霊(……なんだろう)
幼女幽霊(話は大体分かったけど、腑に落ちない)
幼女幽霊(この違和感が何か分からないけど……おかしい、何かが引っ掛かる。嘘はついてないないみたいだけど)
幼女幽霊(……もしかして、こいつまだ何か隠している?協力を仰ごうとしているけど、私には教えられないもう一つの事実があるような)
幼女幽霊「……ふたつ、質問させて」
霊能少女「何?」
幼女幽霊「まずひとつ、なんで私の力を借りようと思ったの?幽霊の私に力を借りなくても、お前みたいに霊能力者は日本中に、世界中にまだいるんでしょ?」
幼女幽霊「そいつらと手を組んで、徒党を組んだ方が確実じゃん。それがなんで私にのところに来たわけ?」
霊能少女「……もう既に、彼らにもこの事実は伝わっている。そして、“かみかま”に対抗する術も研究されている」
霊能少女「しかし、それではあまりに遅い。幽霊のアナタには分からないと思うけど、人間の集団というのはとても慎重になりやすい」
霊能少女「命を尊重するあまりに、確実に“かみかま”を葬る計画を完成させないと、彼らは動かない。例えこの一分一秒に人が殺されていても、上は仕方のない犠牲と割り切るだろう」
霊能少女「それでは遅すぎる。ワタシは……一刻も早く、奴をまた封印するべきだと思う。それが例え自分の身を危険に晒すような真似でも」
霊能少女「……それに、元々はワタシがもっと慎重に、用心深く考え行動していれば……奴を逃がすことはなかった。これはワタシの責任」
霊能少女「だから、ワタシは直接その手で奴に終止符を打ちたい。これが理由」
幼女幽霊「……」
幼女幽霊「……そっちにも、ワケがあることは分かった。でもなんで私なの?」
幼女幽霊「話を聞くと、その化物は正真正銘の不死なんでしょ?お前でも通用しなかったのに、幽霊の私の力が通じるとは思えないんだけど」
霊能少女「……理由はいくつかある。まずひとつはアナタがもう死んでいるということ」
霊能少女「これなら万が一に失敗したとしても、犠牲は私だけで済む。こちらもあまり死者を出したくない」
DQN幽霊「……つまり先輩ならいくらでも囮にでも何でも使えるってことかよ」
霊能少女「言葉は悪いけど、そう思ってもらって構わない」
霊能少女「でも、これはあくまで建前に過ぎない。真の目的がある」
幼女幽霊「真の目的?」
霊能少女「そう、アナタの力なら……奴を弱らせるほどのダメージを与えられるかもしれない。私の力と異なる、死を司るアナタの力なら」
幼女幽霊「ど、どういう意味だよそれ」
霊能少女「先程も話したように、“かみかま”を呼び出す儀式は多くの死を引き起こし、その空間で出産という命を産み出す行為を行うことで成功する」
霊能少女「つまり、生と死、決して交わることのない二つの事象が関わっている。私の力が通じなかったのは……生の力だけだったから」
霊能少女「私と同程度の死を操るアナタとなら、奴の脅威に成り得る。二人なら、“かみかま”に対抗することが出来る」
幼女幽霊「……その説に何か根拠でもあるの?」
霊能少女「ない。全て私の勘に近い」
幼女幽霊「……」
DQN幽霊「……」
霊能少女「それで、もう一つの質問は?」
幼女幽霊「……お前さっきからまるでその“かみかま”の居場所が分かっているような口振りだけど、どこにいるか分かってんの?」
幼女幽霊「言っとくけど、私は地縛霊だから遠出なんて出来ないからな。精々この町いっぱいだ」
霊能少女「そのことなら心配ない。これを使って“かみかま”がどこにいるか導き出した」スッ
『』グルグル
幼女幽霊「……なんだこの箱」
DQN幽霊「な、何か封印してる感が凄いっスね」
霊能少女「これは“かみかま”の肉片、奴を一時的に封印していた井戸の奥底から発見した」
霊能少女「今から見せるけど……用心して。多分、アナタ達幽霊でもこれは衝撃的なものだと思うから」ガサゴソ
スッ
パカッ
『』
幼女幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「!?」ビクッ
幼女幽霊(な、んだ?これ……さ、さっきこいつの目を直接見た時にも感じた寒気とはまた違うものが。一言で言うと……『キモチワルイ』)
DQN幽霊(んぐッ……い、今までに味わったことがない感覚だ。異物感、って言うんだろうか。とにかく、こいつはここに存在してはいけないような気がする。絶対に)
霊能少女「……ワタシも、これを見るのだけは慣れない。“かみかま”を直接目撃した者として言わせてもらうけど、本物はこれと比較にならないほどの気を保っている」
霊能少女「で、なぜこれで“かみかま”の居場所が分かったかと言うと……」
『』ググッ
幼女幽霊「!?」ビクッ
DQN幽霊「う、動いたっ!?」
霊能少女「そう、こいつは今でも本体の元に帰ろうとしている」
霊能少女「その反応で、どこまで“かみかま”本体が近くにいるか判別することが出来る」
幼女幽霊「ト、トカゲの尻尾みたいだな……」
霊能少女「これを使い、全国をしらみつぶしに渡り歩き、“かみかま”が現在どこを宿にしているかを特定した」
霊能少女「……それを突き止めるのにずいぶん時間がかかってしまったが、これは大きな情報だった」
幼女幽霊「え、え……?そいつってどこか決まった場所にいるの?話を聞くと、スイクンみたいに徘徊しているのかと思ったんだけど」
霊能少女「……その例は分からないけど、確かに、少し前まで“かみかま”は毎日違う場所へと移動していた。まるで渡り鳥のように、どこかで殺人を繰り返していたんだろう」
霊能少女「でも、一ヶ月ほど前から、奴はある場所から動かなくなった。その証拠に、この肉片が同じ方向しか示さなくなった」
幼女幽霊「……その特定の場所って、まさか」
霊能少女「察しが早くて助かる」
霊能少女「“かみかま”は……この町にいる」
DQN幽霊「マ、マジかよ……」
幼女幽霊「……ずいぶん詳細な位置まで特定してるんだな。一体どうやってそこまで絞り込んだんだよ」
霊能少女「難しいことはしていない。特定の場所に留まっているということはそこに何かあるということ」
霊能少女「考えられる候補として一番有力なのは……神彁混を呼び出した天国の扉と関連するもの。それを辿ってみたら大当たり」
霊能少女「この町の南西の山奥にはある無人の古びた神社がある。今は宮司もおらず、荒廃していて人々に忘れられているけど」
霊能少女「……でも、最近その境内で、怪しげな集団がたむろしているという噂があった。調べてみたら、その集団は天国の扉に所属していたメンバーであることが判明した」
霊能少女「あの事件が起きてから、奴等も公には活動出来なくなったみたい。名前も場所も変えて、細々と活動している」
霊能少女「……そして、私の予想ではその神社に神彁混はいる。必ず、絶対に」
幼女幽霊「……」
DQN幽霊「す、すごい偶然だな……今、このタイミングでそいつがこの町にいるなんて」
霊能少女「……偶然か。ワタシはそうは思えない」
霊能少女「全ての運命は……仕組まれているとさえ感じる。ワタシがアナタと闘い、そして両者が生き残り、今この場で手を組むことも……全ては決められていたような、そんな感じがする」
幼女幽霊「……どういう意味だよそれ」
霊能少女「気にしないでいい。深い意味はない」
霊能少女「これが、アナタに協力を要請に来た理由。納得してくれた?」
幼女幽霊「……まあ一応はな」
霊能少女「こちらも、ただで仕事をしてほしいとは言わない。それ相応の報酬を用意している」
DQN幽霊「な、なんだよ。報酬って」
霊能少女「これ」スッ
幼女幽霊「これは……」
DQN幽霊「こ、小切手?」
霊能少女「そう、三千万円分の小切手。ワタシがこの仕事でこれまでに稼いできたお金」
霊能少女「もし、協力してくれるならこれを差し上げる」
幼女幽霊「さっ……!?」
DQN幽霊「三千万っっ!?」
霊能少女「幽霊であるアナタに金銭で交渉するのも変な話だけど、悪い話ではないはず」
霊能少女「これまで、窃盗を繰り返してきたアナタ達には……それなりに後ろめたい罪悪感があったはず。仕方ないとは分かっていても、盗むたびに罪の意識が芽生えている」
幼女幽霊(……まあ、ないと言えば嘘になるけど)
DQN幽霊(普通に犯罪だしな……)
霊能少女「この金があれば、その意識から解放される。何にも縛られず、自由に好きなだけ買い物をすることが出来る」
霊能少女「どう?」
幼女幽霊「さ、さんぜんまん……」ゴクリ
幼女幽霊(た、確かに…...こいつに協力するだけで、これだけの金が手に入るのは悪くない)
幼女幽霊(病院のカメラも、ドッキリの仕掛けも……全部店から持ってきた盗品だし。正直なところだいぶ悪いことをしているという自覚がある)
幼女幽霊(で、でも……)
幼女幽霊「……お前に見せたい物がある」ガサゴソ
幼女幽霊「これが何か知ってる?」スッ
『』
DQN幽霊「せ、先輩、それって一昨日来たやつが置いて行った……」
霊能少女「!?」
霊能少女「……どこで、それを?」
幼女幽霊「その反応……やっぱり、さっきの話に出てきた呪術の道具なんだな」
幼女幽霊「私のところにも来たんだよ……そのカルトに所属している人間が」
幼女幽霊「そして、この箱を置いてった」
霊能少女「……」
幼女幽霊「その箱からはお前が言ってた通りに、影の姿をした呪いが溢れ出てきた。これは一体どういうことだ?」
霊能少女「……恐らく、奴等はこの病院を新たな拠点にしようと企んでいたんだと思う」
霊能少女「人影がなく古い建物というものは多かれ少なかれ、大抵は人為らざる者が住み着いている。玉響が多いけど、中にはアナタ達のような幽霊も」
霊能少女「きっと、それが邪魔だったんだろう。だから呪いの影で全てを喰わせようとしたんだと思う」
幼女幽霊「……そうか。あの影は天国の扉と繋がっていたのか」
幼女幽霊「……よし、決めた!」
DQN幽霊「せ、先輩?」
幼女幽霊「おいメスガキ。私は――」
幼女幽霊「ぜっっっっっっったいに行かんからな!!!!!!!失せろボケ!!!!!!!!!」
霊能少女「…………は?」
霊能少女「……なぜ、この流れでなぜそうなる?」
霊能少女「奴等はアナタ達にも危害を加えようとした。仕返しをしなくていいの?」
幼女幽霊「確かに、その件に関しては正直イラつく。今すぐお礼参りに行ってやりたいが……」
幼女幽霊「……相手が悪過ぎる。あの影は間違いなく、私達幽霊でも取り込まれたらただでは済まない代物。リスクが高過ぎるんだよ。いくら金を積まれてもな」
幼女幽霊「そもそも、この件はお前達人間がどうにかすべき問題だろ。私みたいな一般人の幽霊を巻き込むのは道理に反している。違うか」
霊能少女「……」
幼女幽霊「悪いけど、そういうことで帰れ。私は一切関与しない」プイッ
DQN幽霊(……正直意外だな。先輩のことだから野次馬根性で喜んで参加すると思った。ずっと気になってたあの集団自殺の事件に関わることだし)
DQN幽霊(裏を返せば、先輩ほどの力を持っていても身の危機を感じるのか。好奇心より警戒心が勝るほどの)
DQN幽霊(……確かに、一昨日のあの呪いはヤバかった。毒ガエルを見て一瞬で有害であることを悟るように、視覚的に、直感的に、力がない俺でも一瞬でその脅威を理解するほどに)
DQN幽霊(いくら金積まれてもあれは無理だわ……命あっての物種って言うしな。まあもうその命すらないんだが)
霊能少女「……よく考えてほしい」
霊能少女「確かに、リスクはある。いくら幽霊でも、アナタが無事にいられるかは保障できない」
霊能少女「でも、大勢の命に、世界の安定に関わる問題ということを認知してほしい。この力にワタシ一人だけでは抗えない」
幼女幽霊「……お前みたいにみんながみんな、人の為に命を賭けられるわけじゃないんだよ。私は自分の命が一番大事なんだ。他を当たれ」
霊能少女「それは絶対嘘。アナタは優しい人間、自分より他者の命を優先するほどの」
幼女幽霊「は、はぁっ!?お前に私の何が分かるんだよ!!!!!」
霊能少女「ではなぜあの時、ワタシの攻撃に自分の身を呈してまで、そこにいるもう一人の霊を助けた?」
幼女幽霊「……っ!!」
DQN幽霊(…………あれか)
霊能少女「常人ならば、あの一瞬の判断を迫られる場面で、アナタがしたような行動は起こせない」
霊能少女「選択肢として脳裏を過るのは事実。でも体が動かない。なぜなら待ち受けるのは確実な“死”だから」
霊能少女「それでも、アナタは動いた。思考より先に“心”が動いたはず」
霊能少女「……そんなアナタだからこそ、私はパートナーに選んだのだから」
幼女幽霊「…………」
幼女幽霊(気に入らない)
幼女幽霊(こいつの熱意は本物だ。その時になれば喜んで自分の命より他者の命を救うほどの……信念を持っている。ほんと、漫画の主人公かよ。あーもう)
幼女幽霊(……それでも、気に入らない。ここまでの信念を持っているやつが――何かを隠しているということが)
幼女幽霊「何度言われても、私は参加する気ないからな」
幼女幽霊「お前が全てを喋らない限りは……私はお前を信用しない」
霊能少女「……そうか。そこまで見透かされていたのか。とても敵わないな」
霊能少女「ならば……こちらもまた、強硬手段を取らせてもらう」スッ
霊能少女「これ、何か分かる?」
幼女幽霊「な、なんだよそれ」
霊能少女「爆弾、さっき使った物とは違う。爆薬の代わりにあの水が大量に詰め込まれている」
幼女幽霊「はぁっ!?」ビクッ
DQN幽霊「ば、爆弾っ!?」
霊能少女「これの恐ろしさはアナタ達が一番分かっているはず。この距離で当たれば、無事では済まない……確実に消滅する」
霊能少女「協力してもらえないのなら、今すぐ起爆する。3秒以内に選んで」スッ
カチッ……
幼女幽霊(さ、3秒!?)
幼女幽霊(ま、まずいっ……どうする。退避か、先手必勝で攻撃するか)
幼女幽霊(いや、攻撃はまずい。その姿勢を見せただけで間違いなくこいつは何の躊躇いもなく、爆発させる。こいつの性格なら絶対そうする)
幼女幽霊(……恐らく逃げようとしても結果は同じか。いや、瞬間移動を使えば……)チラッ
DQN幽霊「え、え?」オロオロ
幼女幽霊(……そうか。私一人ならこの場を離れるのは容易。でも、こいつを連れてとなると……時間が圧倒的に足りない。こいつ、こうなることが分かってて――)
幼女幽霊「……っ。分かった。協力してやる」
霊能少女「良かった。アナタならそうすると思っていた」スッ
DQN幽霊「せ、先輩……」
幼女幽霊「ただし、条件がある。お前が何を隠しているか、それだけ教えろ」
霊能少女「……」
霊能少女「ごめんなさい。それだけは出来ない」
霊能少女「これは……ワタシの、ワタシ達の問題だから、アナタには教えられない。残念だけど。それに、今回の件とは関係のないこと」
幼女幽霊「……つまり、自分の都合の悪いことは教えないっつーことかよ。脅迫紛いのことしといて」
霊能少女「どうとでも思ってもらって構わない。ワタシは否定も肯定もしない」
幼女幽霊「……あっそ。ならいいわもう」
幼女幽霊「ってことでDQN、ちょっと行ってくるわ。留守番頼んだぞ」
DQN幽霊「せ、先輩……」
幼女幽霊「安心しろよ。すぐ帰ってくるから」
DQN幽霊「あ、ウス……」
幼女幽霊「ほら、行くんだろ。さっさと案内しろよ」
霊能少女「……協力、感謝する」
幼女幽霊「あんな汚い手使っておいてよう言うわ」
バタン
DQN幽霊「……」
DQN幽霊「……」
『もし、次に幼女に何かあったらアンタが止めなさいよ。あの子のことは任せたわ』
DQN幽霊「……んなこと言われてもな。俺には……先輩をどうこう出来る力はねえよ。ただの下級霊以外の何者でもないんだし」
DQN幽霊「これまでも……俺は先輩の足を引っ張ってばっかだ。俺がヘマした時も、あいつが襲ってきた来た時も……いつも先輩に頼ってばっかで」
DQN幽霊「自分でも情けねえな。結局俺は……先輩の何なんだろ」
幼女幽霊「おいDQN!!!!」バッ
DQN幽霊「」ビクッ
DQN幽霊「えっ、せ、先輩?どうしたんスか?」
幼女幽霊「ひとつ言い忘れてた!私が留守の間に客が来たら、今度こそお前一人で何とかしろよ!」
幼女幽霊「お前なら出来るって信じてるからな!!テンパるなよ!!!」
DQN幽霊「りょ、了解っス」
幼女幽霊「んじゃ!明日には戻るから!」
バタン
DQN幽霊「……」
DQN幽霊(あぁ……そうか。俺は何もする必要はないのかもな)
DQN幽霊(ただ、先輩の居場所であるこの病院を守ればいい。先輩の帰ってくる場所に居れば……それが俺の役目か)
DQN幽霊(先輩……無事に戻ってきてくださいっス)
………………………………………………………
…………………………………………
幼女幽霊「んで、いつ攻め込むんだよ」
霊能少女「今日は何もしない。私が泊まっているホテルに行って、作戦会議」
幼女幽霊「作戦会議って、ずいぶん余裕あるな」
霊能少女「余裕なんてない。むしろその逆、今この瞬間にも……神彁混が巣を飛び出して、またどこかに放浪するかもしれない」
霊能少女「でも、だからこそ、慎重になる必要がある。時間に追われて迂闊な行動をとってしまったら……それが命取りになる」
幼女幽霊「……あっそ」
ガヤガヤ ガヤガヤ
霊能少女「通りに出ても平気?あまり生気を吸い過ぎるのは良くないと思うけど」
幼女幽霊「舐めるなよ。私は足付きだぞ。その程度で成仏するほど軟じゃないっつーの」
霊能少女「それならいい」
幼女幽霊「……そんなことよりも、どうにかならんの」
霊能少女「何が?」
ジロジロ ジロジロ
幼女幽霊「その眼帯だよ!!何か落ち着かないんだよ!!!私が見られてるみたいで!」
幼女幽霊「今の時代にそんな目立つもん付けてたら注目されるのは当たり前だろ!!外せよ!!!!」
霊能少女「……これはワタシの力を隠す役割を持っている。ワタシの両目を視たら、例え力を持たない一般人でも、何かを感じ取る」
霊能少女「どのみち見られるなら、まだこの眼帯に注意が行ってくれた方が助かる」
幼女幽霊「むっ、なら他の物で隠せよ。眼鏡とか、それこそコンタクトレンズでもいいだろ」
霊能少女「それもそうだけど……ワタシにも、これを付ける理由がある」
幼女幽霊「どんな理由だよそれ」
霊能少女「これはある人から譲り受けたモノ。その人はとても強力な力を持っていて、ワタシ達の世界では伝説とも呼べる人物だった」
霊能少女「この眼帯は……彼女が老衰で亡くなる寸前に貰った私物。だから大切に扱っている」
幼女幽霊「……ふーん」
霊能少女「人間の死は終わりではない。アナタのように魂だけ残るような姿もあれば、異形の者に形を変える者もいる」
霊能少女「でも、それだけじゃない。想いを紡いでいくことも出来る。例え自分がこの世を去っても、その想いが誰か別の人に託し、残すことが出来れば……力になれると信じている」
幼女幽霊「……」
幼女幽霊「お前って普通にそういうくさいセリフ言えるけど恥ずかしくないの?」
霊能少女「……」
霊能少女「……まあ多少は」プイッ
ガチャ
霊能少女「ここが泊まっているホテル」
幼女幽霊「結構いい部屋とってんなおい」ゴロン
幼女幽霊「んで、作戦会議って何するの」
霊能少女「まず、これを読んでほしい」スッ
幼女幽霊「なにこれ?」
霊能少女「神彁混と『天国の扉』に関する私がまとめたレポート。病院では省略した部分も事細かに書いてある」
霊能少女「奴と戦う上で最低限の知識は身に付くと思う。だから目を通しておいて」
幼女幽霊「……分かった。見ておく」
霊能少女「それと、少し手伝って欲しいことがある」ガサゴソ
霊能少女「これに、アナタの力を与えることが出来る?一年前にワタシが使った、あのバットのような」スッ
幼女幽霊「え?出来るっちゃ出来ると思うけど……なんだよそれ」
幼女幽霊「ん?この形ってまさか……銃弾じゃないよな?」
霊能少女「そうだけど」
幼女幽霊「!?」
幼女幽霊「えっ!?てことはお前!今実銃持ってんの!?」
霊能少女「持っているけど」スッ
『』ギラッ
幼女幽霊「!?!?」
幼女幽霊「なっ……よく平然と外出歩けたな!!!!職質されたら一発で逮捕じゃんお前!!」
幼女幽霊「そもそもなんでお前が持ってんの!?爆弾に銃って……本物のテロリストじゃねえか!!!!」
霊能少女「人聞きの悪いことを言うのはやめてほしい。これは『天国の扉』の祭司と呼ばれていた人物が自殺に使った拳銃。現場に放置されていたから、何かの役に立つかと思って拝借しただけ」
幼女幽霊「つまり泥棒じゃん。銃刀法違反と窃盗罪のダブルパンチじゃん」
霊能少女「……そんなことはどうでもいい。早く力を込めてもらえたいんだけど」
幼女幽霊「何するつもりなんだお前。銃があの化け物には効かないなんてとっくに分かってんだろ?」
霊能少女「……確かに、並みの重火器では歯が立たない。でも、それはあくまで通常兵器での話」
霊能少女「詳しい話は後で話す。とにかく、やってほしい」
幼女幽霊「分かったよ。ほら」グッ
シュンッ
霊能少女「礼を言う」
幼女幽霊「ありがとうもカッコつけないと言えんのかお前は」
……………………………………………………
……………………………………
幼女幽霊「……」ペラッ
幼女幽霊「……読み終わった」
幼女幽霊(これが……あの事件の全貌か。ずっと知りたかった真実……)
幼女幽霊(文として見ると、まるで私自身があの日を追体験しているよう。こんな化け物と明日は戦わないといけないのか)
幼女幽霊(……うわぁ、抜け出してぇ。今からコソッと抜け出したらバレんかな)チラッ
霊能少女「」ジー
幼女幽霊(……めっちゃこっち見てる)
霊能少女「どうだった?それを読んでみて」
幼女幽霊「……まあ、大まかの事情は把握した。確かに、これは人間の手におえる代物じゃないな。もちろん、幽霊や怪物でも対処出来ないだろうけど」
幼女幽霊「でも、分からない点がひとつある。これ、現場から回収されたメモのところなんだけど」スッ
『
https://i.imgur.com/DotvkKw.jpg
』
幼女幽霊「これ、お前は何だと思う?」
霊能少女「……分からない」
幼女幽霊(……この反応。こいつ嘘ついてるな。ってことは……このメモの内容が一番重要ってことなのか)
幼女幽霊(ちょっと揺さぶってみるか)
幼女幽霊「そう、私個人としては羅列された4桁の数字、これは年表の類いだと思う」
幼女幽霊「何かのパスワードとか暗号って線もあるけど、数字がどれも近いのが気になるんだよね」
霊能少女「……」
幼女幽霊「となると、気になるのは○が付けられている『1978』のところ。これが西暦を表しているとしたら、他の×が付いている年にはない、何かが起こった年だと思うんだけど」
幼女幽霊「お前はどう思う?」
霊能少女「……私も、その可能性が一番高いと思う」
幼女幽霊「じゃあ問題は1978年に何が起こったかってことだ。今からざっと40年前、私やお前が生まれるとっくの前の出来事。いくら何でもこれだけだと情報が少な過ぎる」
幼女幽霊「……なら、類似点を探すしかない。1978年に、今回と似たような事件がないかな」ポチポチ
幼女幽霊「『1978年 宗教 自殺』っと。検索ワードはこんなところか。さて、何が出てくる」
幼女幽霊「……」
霊能少女「……」
幼女幽霊「……あった。この年に……900人近くの人間が死んでいる事件がある。それも、カルトの集団自殺として、世界的に有名な……あの事件か」
幼女幽霊「……ちょっと待てよ。ってなると……ここに書かれている他の年も、同じような出来事が起きているんじゃないの」ポチポチ
幼女幽霊「……ビンゴか。正直当たってほしくなかったんだけど、間違いない」
幼女幽霊「このメモに書かれている数字は全て、カルトの集団自殺が起きた年と重なっている。ここまで来ると偶然なんて言葉ではとても片付けられない」
幼女幽霊「ど、どうなってんだよこれ。いくら何でもおかしいだろ……だって、集団自殺を起こしているのはどれも宗派が違う団体だ。国も、人種、信仰も何もかもがバラバラ、共通点がない。このメモは一体……」
幼女幽霊「で、でも……もし、もしもだぞ。こいつらが裏で繋がっていたとしたら、奴等が真に所属していたのは天国の扉で、神彁混の復活が目的だとしたら……」
霊能少女「……......」
幼女幽霊「……いい加減に、黙ってないで何か言えよ。知ってるんだろ、お前」
幼女幽霊「私がちょっと調べただけでもこれだけ出てきたんだ。この○と×の意味も、そして横に付いてる文字みたいな記号の正体も……話せよ。ここまで来て隠し事はなしだぞ」
霊能少女「…………」
霊能少女「……そう。アナタの推理は間違っていない」
霊能少女「ここに書かれている数字はカルトが集団自殺を引き起こした年。私の調べではこれらの組織はいずれも天国の扉と関わりがあったことが分かっている」
霊能少女「でも。教えられるのはここまで。これ以上はアナタが踏み込んでいい領域じゃない。深淵の奥の更なる真実には」
幼女幽霊「……は?人を勝手に巻き込んでおいてどの口がそんなこと言えるの?」
幼女幽霊「もう八割方、お前が隠そうとしていた事実はバレたんだぞ。この先に一体何があるんだよ」
霊能少女「……確かに、アナタはワタシのせいで、一連の事件に巻き込んでしまった」
霊能少女「でも、ただそれだけとも言える。もし、この事実をアナタが知ってしまったら、引き返せない可能性がある……ワタシのように」
霊能少女「今のアナタを突き動かしているのはただの好奇心。それだけの覚悟では足りない」
幼女幽霊「……じゃあ、お前を動かしているのは何なんだよ」
霊能少女「――復讐心、かな」
幼女幽霊「…………」
幼女幽霊「……あっそ」プイッ
幼女幽霊(……復讐って、こいつ……奴等との間に何があったんだ)
幼女幽霊(んなこと言われたら……こっちも黙るしかないじゃん。ズルい)
霊能少女「……」
▢▢▢▢ 翌日 ▢▢▢▢
霊能少女「これが、私が考えた作戦。何か質問はある?」
幼女幽霊「……質問はある?とか言われても」
幼女幽霊「ほぼ邪魔する奴は全員ぶっ倒すってだけの脳筋作戦じゃねーか。作戦ですらないわ」
霊能少女「それが何か?」
幼女幽霊「何か?って言われても……だから、もっと具体的な案はないの?対神彁混の対策とか」
霊能少女「ワタシが相手をしたのはこの世界にまだ馴染んでいない状態だった。ようは産まれたての赤子のようなもの。今ではあれと全く違う状態になっていると仮定してもおかしくない」
霊能少女「それを考慮せずに、下手に対抗策を組んだら、かえって逆効果というもの。その時に合わせて臨機応変に対応するしかない」
幼女幽霊「つ、つまり……何も考えてないのか?」
霊能少女「だから、戦力を仮定するには情報が足りなさ過ぎるという話。ワタシ達が戦うのは見えない敵ではない。直接目で確認して、その時に合わせて行動しなくてはいけない。信じられるのは自分の力だけ、分かる?」
幼女幽霊「お、お前……よくそんなのでこれまで生きてきたな」
幼女幽霊(い、いや……それだけこいつの技術とセンスが確かってことなのか?頼れるのか、頼れんのか分からんな……)
霊能少女「……そろそろ時間、出発しよう」スッ
『21:00』
幼女幽霊「……!もうこんな時間か」
幼女幽霊(なんだかんだで……こいつともう丸一日以上は一緒にいるのか)
幼女幽霊(と言っても、こいつちょっと前までずっと半日近く寝てたけど。しかも起きた後はアホみたいに飯をコンビニで買ってきて食うし)
幼女幽霊(どんだけ食うんだよってくらい食ってたな。悟空かこいつは)
霊能少女「さて」ゴソッ
幼女幽霊「……」
幼女幽霊(……にしても、あいつが持っている鞄、やばいぞありゃ。幽霊の私のセンサーがビンビン反応してる。なんつうもん持ち歩いてんだよ)
幼女幽霊(あれだけの道具なら……何とかなるかもしれんな。とてもじゃないけど、私は相手にしたくないわ)
霊能少女「……そうだ。昨日から気になっていたことがあった」
霊能少女「アナタ、一年前と何か変わった?気配が少し違うような気がする」
幼女幽霊「え?どういう意味だよそれ」
霊能少女「……いや、心当たりがないならいい。勘違いかもしれないから」
幼女幽霊(なんだこいつ)
スタスタ スタスタ
幼女幽霊「結構歩くんだな。幽霊の私は疲れないから別にいいけど」
霊能少女「神社はだいぶ人里から離れたところにある。だから管理する人も自然と居なくなって、無人に成り果てたんだろう」
幼女幽霊「何か私が住んでる病院みたいな話だな」
霊能少女「なぜかは分からないけどこの町はそんな建築物が多い。大抵は高度経済成長期に建てられていて、今は取り壊されているか廃墟になっているけど」
霊能少女「恐らく、それが原因でこの町は怪異が多くなってしまったんだと思う。幽霊にとっては絶好の住処がいくつもある楽園に近い状態だから」
霊能少女「そのおかげで、町全体の気がおかしくなっている。力を持つ者なら違和感を抱くほどに」
幼女幽霊「……へー」
霊能少女「……!ちょっと止まって」ピタッ
幼女幽霊「え?なんだよ」
霊能少女「……あれを見てほしい」スッ
幼女幽霊「……?何かあんの?」チラッ
死骸『』ブラー
幼女幽霊「!?」ビクッ
幼女幽霊「えっ……な、なにあれ。動物?の死体が……吊るされてる」
霊能少女「……」スタスタ
霊能少女「……」ジー
幼女幽霊「なんだよこれ……プレデターでもいるのかよここに」
霊能少女「……恐らく、これはまじない。それも呪術に関連する」
幼女幽霊「じゅ、呪術!?」
霊能少女「私もその手の専門家じゃないから、詳しいことまでは分からないけど、恐らくあの集団自殺をした時の状況のように……この地を“死”に近くしているんだと思う」
霊能少女「……もしかしたら、また繰り返そうとしているのかもしれない。新たな神彁混を……呼び出そうとしているのかも」
幼女幽霊「マ、マジかよ……どうすんの」
霊能少女「……計画は変わらない。先に進もう」スタスタ
幼女幽霊「行きたくねぇ……」
スタスタ スタスタ
幼女幽霊「な、なぁ……なんで夜に攻め込むんだ?別に昼でも良かったんじゃないか」
幼女幽霊「街頭もないからだいぶ暗いし、夜道で迷いそうなんだが」
霊能少女「道は完全に私の頭に入っているから問題ない。夜に来たのはあまり信者の相手をしたくないから」
霊能少女「奴等が目撃されたのはいずれも昼の時間帯だった。なら、集会が行われていない夜に攻めるのが一番効率がいい」
幼女幽霊「でも、絶対にいないって保証はどこにもないよな?」
霊能少女「それならそれで、夜襲を仕掛けられるこっちが有利」
幼女幽霊「……ほんと適当だな。どんだけ行き当たりばったりなんだよ」
スタスタ スタスタ
霊能少女「……ん?あれは……」
幼女幽霊「なに?また死骸でもあった?」
霊能少女「……あれを見て。注連縄のようなものが張られている」
『』
幼女幽霊「あぁ……あれって神社とかによくあるやつなんじゃないの?」
霊能少女「……そう、役割としては結界のようなものだと思っていい。つまり、ここから先は……奴等の領域」
幼女幽霊「……」ゴクリ
霊能少女「警戒を怠らないで。この縄の向こうはもはやこことは別世界だと思っていい。何が起こるか分からない」
霊能少女「覚悟ってやつを決めた方がいい」
幼女幽霊「……いいから行くぞ。こっちは早く終わらせたいんだから」
霊能少女「……分かった。行こう」スッ
ザワッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
霊能少女「!?」ビクッ
幼女幽霊「!?」ビクッ
霊能少女「っ……!これは……」
幼女幽霊「な、なんだ……今の。空気が……変わった?」
幼女幽霊「ま、まるで……他人の腹の中にいるような……縄の向こう側とまったく違う……」キョロキョロ
霊能少女「……こちらが違和感を覚えたように、向こうもワタシ達の存在に勘付いたはず」
霊能少女「急ごう。あまり長居をするのは危険」
幼女幽霊「あ、あぁ……そうだな。確かに、ここにいると頭がおかしくなりそうになる」
スタスタ スタスタ
幼女幽霊「神社の本殿まであとどれくらいなんだ?」
霊能少女「もうそう遠くない。ここからあと100メートルもない。そろそろ見えてくる」
幼女幽霊「と、とうとうご対面ってわけか」
スタスタ スタスタ
霊能少女「……灯りが見えてきた。あそこが……そう」
幼女幽霊「……!!」
ズズズズズズ……
幼女幽霊(な、なんつうところだよ……まさに悪魔の巣、絶対に近付くなって私の中の防衛本能が全力で警報鳴らしてるぞ)
幼女幽霊(もはや根本から、神を祀る場所という概念を塗り替えしている。いや、あいつらにしたらあの化け物も神なのか……)
霊能少女「……!出てくるッッ!!」
幼女幽霊「!?」ビクッ
ズズズズズズッ…………
ズズッ…………
ザッ
神彁混「…………」スッ
霊能少女「……っ!」ゴクリ
幼女幽霊「こ、こいつが……神彁混。死から産み出された化け物……」
幼女幽霊(体長は3メートル前後、体色は真っ黒で羊の骸骨のような頭部に翼、手足はかなりのリーチがあり、地面に引きずるほどの長さのある尻尾を持つ)
幼女幽霊(レ、レポートに書いてあった通りだな……想像していた通り、外見は悪魔そのもの。こんなのが本当に現代社会に潜んでいたなんて……ファンタジー小説にでも出てきそうな見た目だ)
幼女幽霊(い、いや……一番ヤバいのは……あいつが纏っているオーラ、気だ)
幼女幽霊(こ、こんな気配を持つやつなんて見たことがない。私が知る中で一番本能的に危ないと思ったのはメリーさんだけど、それとは正に次元が違う。あいつは……この世界の者じゃない。まったく別のところからの来訪者だ)
幼女幽霊(見ているだけで気圧される。全身に鋭い刃物を押し付けられているように、体中がチクチクする。これは悪意でも敵意でもない、そんなのを遥かに通り越した、ただ純粋な殺意そのもの。それもこの世界全てに向けられた――)
幼女幽霊(……あ、あれ?なんだろ、これ。デジャヴっていうか、既視感っていうか……病院で感じた時と同じような感覚がする……?)
霊能少女「大丈夫?」
幼女幽霊「だ、大丈夫なわけねえだろ……絶賛後悔中だわ。もう今すぐ帰りたい」
幼女幽霊「ど、どうすんだよ……正直なところ、お前の話を聞いても、あの影のように多少は私の力が通じると、この瞬間までは思っていたけど……あれは無理だぞ。そんなレベルじゃない」
幼女幽霊「この世界の全ての武力はあいつには無力だ。いかなる力も……通用しない。そんな感じがする」
霊能少女「……正確に言うと、ちょっと違うかな。ダメージは与えられる。ただ殺せないだけ」
霊能少女「それに、以前ワタシが成功したように、封印は出来るはず」
幼女幽霊「ふ、封印って……そ、そういえばまだ聞いてなかったけど、どうやって封印する気なんだ?」
幼女幽霊「前回は井戸を媒体にして封印したって言ってたけど、今この場にそんな物はないぞ……」
霊能少女「……大丈夫、ちゃんと策は考えてある」
霊能少女「ただ、これはまだ試験的なモノで、回数が限られている。費用と下準備もかかって、三回分しか用意出来なかった」
幼女幽霊「さ、三回っ!?本当に大丈夫なのか!?」
霊能少女「当たりさえすれば、一発で成功する。心配する必要はない」
神彁混「…………」ザッ
幼女幽霊「!?」ビクッ
幼女幽霊「な、なんだあいつ……さっきから、お前をずっと見てるけど……襲ってこないの?」
霊能少女「……恐らく、奴はワタシが本物かどうか確認している。向こうからしたら、ワタシは唯一生き残った相手だと思うから」
幼女幽霊「つ、つまり宿敵同士ってわけか。ラブラブじゃん、私はいなくてもいいよね、帰っていい?」
霊能少女「……冗談を言ってる場合じゃない。いつ攻撃を仕掛けてくるか分からない。集中して」
神彁混「……......」ザッザッ
神彁混「」シュンッ
幼女幽霊「ッッ!?」ビクッ
幼女幽霊「き、消えた!?どこにっ!?」キョロキョロ
霊能少女「違うッ!!!!上に飛んだ!!!!来るッ!!!!」
神彁混「…………」シュンッ
霊能少女「避けてッッ!!!!!!」サッ
幼女幽霊「う、うわあああああああああああ!?」バッ
ズシーーーーーーーーン!!!!!!!!
幼女幽霊(危ねえ!?私でもどうやって上に移動したか見えなかった!!まさかメリーさんと同じ道を通らない瞬間移動!?)
幼女幽霊(それにあいつの攻撃!!!!余波だけで理解った……間違いなく霊体でも喰らったら無事では済まない!!)
神彁混「…………」ザッ
霊能少女「!?」ビクッ
霊能少女(ワタシに狙いを付けているのか。それともあの幽霊が見えていない?いや、さすがにそれはないか)
霊能少女(それとも、生者を優先して狙う習性でもあるのか?まあいい、逆に好都合だ)スッ
神彁混「…………」ブンッ
霊能少女「ッッ!!」サッ
霊能少女(以前より動きのキレが増している。ワタシの身体能力だと、いくら水でブーストしても正面からだと厳しいか)
神彁混「…………」ザッ
シュンッ!!!!!!
霊能少女「!!」サッ
霊能少女(死角からの尻尾での攻撃、これは警戒していれば軌道は読める)
霊能少女「ハァッ!!!!!」ピシャッ
神彁混「…………」ビチャッ
霊能少女(対神彁混用の特別製の水。どうだ、効果はあるか?)
神彁混「…………」ピクッ
神彁混「…………」ブンッ
霊能少女(っ!一瞬動きが止まったけど、それだけか。やはり気休め程度にしかならないか)
霊能少女「……ッッ!?」ビクッ
ズズズズズズッ……
神彁混「…………」スッ
霊能少女(こ、これは……あの天国の扉が使っていた影のような呪詛ッ!こいつも使えるのか!?)
霊能少女(いや……順序が逆なのかも。元々、この影は神彁混の力だった?あの呪詛から感じられた意思の正体は……)
霊能少女(……マズいな。この距離だと本体と影、両方相手にするのは――)
神彁混「…………」シュンッ
影『…………』ズズズズズ
霊能少女「……っ!!」
幼女幽霊「ハァッッッ!!!!!!!!」グッ
神彁混「…………」ドンッ
幼女幽霊「おい!大丈夫かよ!?お前今さっき死にかけただろ!!」
霊能少女「……出来れば、もっと早く助太刀が欲しかった。何の為にアナタを呼んだんだか」
幼女幽霊「し、仕方ないだろ!あいつ、私を無視してお前に突っ込んで行ったんだぞ!タイミングってもんがあったんだよ!」
幼女幽霊「そんなことより、何だよあれ……神彁混が呪詛の力を使えるなんて聞いてないぞ」
神彁混「…………」
影『』
霊能少女「……だから言ったでしょ。想定して戦うなって。実戦では常に不測の事態が起こり得る」
幼女幽霊「そういう問題じゃねえだろ……ここは一時退避した方がよくないか?い、いくら何でも想定外過ぎる。私達二人でも、あの神彁混と影、両方を相手するのは無理だ」
霊能少女「……いいや、作戦に変更はない。あの影は神彁混と違い、私とアナタなら撃退するのにそこまで苦労はしない」
霊能少女「それとも、今更怖気づいた?」
幼女幽霊「あぁ!?喧嘩売ってんのかお前!!!!」
霊能少女「フッ……それでいい。アナタはそっちの方が似合ってる。それに……」
霊能少女「向こうが大人しくこちらを逃がしてくれるなんて、期待する方が間違い」
神彁混「…………」バッ
幼女幽霊「うわっ!?また来た!!!!」
霊能少女「念力で神彁混の動きを止めることは出来る?」
幼女幽霊「え?た、多分無理だ。さっきあいつをぶっ飛ばした時も、押し潰すつもりで最大級の力だったはずなのに、全然ダメージは食らってなかったし」
霊能少女「……そう、ならアナタはサポートをお願い。影の対処と、隙があったら神彁混に攻撃して」ダッ
幼女幽霊「えっ!?お前生身で突っ込むの!?」
霊能少女(接近戦だとこちらが不利。でも、奴を封印するにはこちらが近付くしかない)
霊能少女(大丈夫、道具を惜しみなく全て解放すれば……一瞬だけど、怯ませるくらいは出来る。あとはそこに全てを賭ければ……)
霊能少女「フッ!!」ブンッ
神彁混「…………」
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!
霊能少女(前に使ったのと同じ、爆薬と清めの塩を混ぜた爆弾。こいつがそれなりに効くのはもう実践済み)
霊能少女(そして、次はこれっ――)
神彁混「…………」シュゥゥ
パラパラッ……
神彁混「…………」
神彁混「…………」グッ
ズンズンッ!!!!!!!!!
霊能少女(縛ることだけに特化した封印の札。多分、これだけでは完全に封印するまでには足りない。でも、補助としては申し分ない)
神彁混「…………」ググッ
幼女幽霊「!!」
幼女幽霊「か、かみかまの動きが止まった!!これはチャンスか!?」
幼女幽霊「よ、よし!私も……!!」グッ
ズズーン!!!!!!!!!
神彁混「…………」ググッ
霊能少女(……空間の捻じ曲げるほどの念力、合図も出さずによくこのタイミングで出してくれた。流れはこれで完璧)
霊能少女(さて、一発目。これで成功してくれたらっ!)チャキッ
バンッ!!!!!!!
幼女幽霊「!?」
幼女幽霊(あ、あれって……私が力を与えてやった銃か!?封印ってあれのことだったのか)
霊能少女(当たれッ……!!)
神彁混「…………」
影『』ヌルッ
ドンッ!!!!!!!!!!!
影『』シュゥゥゥゥ
神彁混「…………」
霊能少女「くっ……影に防がれたか」
霊能少女(でも威力は十分。受け止めたあの影が跡形もなく消滅した)
霊能少女(咄嗟にとったあの防衛行動。あれも自分に当たればただでは済まないと神彁混自身が本能的に悟り、動いたに違いない。つまり、この“死魂弾”は奴の脅威に成り得る)
シュンッ
幼女幽霊「お、おい。さっきお前が撃ったのって私が力を込めた銃弾だよな?封印ってあれのことなのか」
霊能少女「……言ってなかった?そう、あれは死のマイナスの力と生のプラスのパワー、二つを組み合わせた銃弾。ワタシは死魂弾と名付けた。アナタの手を借りるまでは試験的なモノしか作れなかったけど、これで完成した」
霊能少女「死の力は奴を相殺することが出来る。そして、生のパワーは神彁混を抑制する」
霊能少女「つまり、この二つの現象を同時に起こせば……何の媒体も使用することなく、奴の力を相殺して、無に還すことが出来る」
幼女幽霊「何となく原理は分かったけど……なんだ、そのネーミングセンス」
霊能少女「……?何か?」
幼女幽霊「いや……何でもないわ」
神彁混「…………」グッ
霊能少女「!!」
幼女幽霊「!!」
幼女幽霊「な、なんだ?奴さん、ずいぶんと怒っているように見えるけど」
霊能少女「……そりゃ、初めての経験だろうしね。あの銃弾が向けられた時、奴は初めて恐怖という感覚を覚えたはず」
霊能少女「自分の身を脅かす存在は即効で排除の対象になる。もっとも、あの化け物に感情ってモノがあればの話だけど」
幼女幽霊「つ、つまり……余計に怒らせた、ってことなのか?」
霊能少女「そう、だから初弾で決めたかった。余計な警戒をされたくなかったのに」
幼女幽霊「や、やばくないか……それって。事態が悪化したってことじゃん」
幼女幽霊「それに、いくらあいつに銃弾を撃っても、さっきみたいにあの影で防がれたら本体に届かないぞ……」
霊能少女「問題ない。あの影に防御されるより前に叩き込めば……超至近距離から撃てばいいだけの話」
幼女幽霊「はんっ……よくそんな無理ゲーを涼しい顔で言えるもんだわ」
霊能少女「……ん?」
霊能少女(……おかしい)
霊能少女(なぜ、この瞬間を、神彁混は襲ってこない?)
霊能少女(さっきも少し気になっていたけど、これは明らかにおかしい……ワタシとこの霊が喋っている今……どう見ても隙が出来ているはず。それでも、あの神彁混は襲ってこない。一度だけではない。今、この時も)
霊能少女(まるで漫画じゃあるまいし……どうなっている?)
霊能少女「…………」
幼女幽霊「お、おいどうしたんだよ」
霊能少女「……不自然だと思わない?なぜか、アナタと会話している間だけ、神彁混が襲ってこない」
幼女幽霊「……?」
幼女幽霊「い、言われてみればそうだけど……それがどうしたんだ?警戒でもしてるんじゃないの?」
霊能少女(……それはない。前に手合わせしたことがあるワタシだからこそ分かる。この神彁混は……前回と比べて、何かおかしい)
神彁混「…………」
霊能少女(もう一分は経った。それでも奴は襲ってこない)
霊能少女(相手が自分に危害を加える存在というのは認識しているはず。なら、なぜ攻撃してこない?)
霊能少女(……神彁混の行動を辿れば、何かヒントがあるはず。まず、最初は上空からの攻撃、先に向こうから仕掛けてきた。そして次はワタシとの攻防、これも変化はなかった)
霊能少女(一度、戦闘は中断……問題はここからだ。少しの間、奴は攻撃してこなかった)
霊能少女(そこまで気にすることはないかもしれない間……でも、殺し合いの最中にある間としては、明らかに不自然だ。わざわざ目の前で敵同士が作戦会議をするのを見過ごすやつがどこにいる)
霊能少女(……ん?敵同士……)
霊能少女「……ちょっと作戦がある。協力してくれる?」
幼女幽霊「作戦?何をする気なんだ?」
霊能少女「次はアナタが突っ込んで。私が援護するから」
幼女幽霊「は、はぁっ!?や、やだよ!!!!あんな化け物に特攻しろって!?」
霊能少女「……大丈夫、ワタシの思惑が正しければ……」
幼女幽霊「な、なんだよ。それって……もし外れてたらどうすんだよ」
霊能少女「その時はアナタ自身で対処して、これでも足付きの幽霊でしょ」
幼女幽霊「て、てめえ!!!!人のことを何だと思ってやがる!!!!!」
霊能少女「もうアナタは人じゃなくて幽霊、漫才をしている暇はない」
霊能少女「大丈夫、これでもアナタを信用している。アナタの実力はワタシが身を以って体験しているから」
霊能少女「お願い」
幼女幽霊「っ……」
幼女幽霊「……ほ、ほんとに大丈夫なんだろうな?」
霊能少女「ワタシを信用して」
幼女幽霊「……お前以上に信用出来ない相手も中々いないけど、いいよ。乗ってやる」グッ
ボンッ
長髪白装束娘「」ボドッ
スッ
長髪白装束娘「勘違いするなよ。別にお前に頼まれたからやるんじゃない」
長髪白装束娘「こっちも……ちょっと気になってることがあるしな。それを確かめたいだけだ」
長髪白装束娘(……この違和感の正体が知りたい。この神彁混に感じる……既視感の正体を)
長髪白装束娘(もしかしたら私は……こいつと……どこかで――!!)
ダッ
長髪白装束娘「ていやああああああああああああああああああああ!!!!!!」ブンッ
神彁混「…………」スッ
ゴツンッ
神彁混「…………」
長髪白装束娘「!?」
長髪白装束娘(えっ!?うそっ!?当たった!?絶対に避けると思ったのに!!)
長髪白装束娘(な、舐めてるのかこいつ……じゃあこれならどうだ!!念力で最大まで強化したサイキックキック!!!!)ブンッ
ドゴォ!!!!!!
神彁混「…………」
長髪白装束娘(チッ……効いてないか)
長髪白装束娘(……ん?なんでこいつ、反撃してこないんだ?それに、防御も回避もしない)
長髪白装束娘(ど、どうなってる?まるで私が見えていないみたいな……でも攻撃をする一瞬、こっちを見た気がしたし……)
神彁混「…………」
霊能少女「ッッ!!!!」チャキッ
バンッ!!!!!!!
神彁混「…………」スッ
影『』ズズズッ
ドンッ!!!!!
影『』シュゥゥ
霊能少女「……やはり、ワタシの攻撃にだけ反応するか」
霊能少女(確信した。こいつは……なぜか、あの霊に一切の抵抗をしない)
霊能少女(決して、見えていないわけではない。その証拠に、奴は明らかにあの霊に関与している時間だけ、行動が消極的になっている)
霊能少女(ワタシがあの幽霊と話していた時、そして横から念力で飛ばされても、あの幽霊の方に奴は殺意を向けていなかった)
霊能少女(そして今の一方的な攻撃……これは……間違いない)
霊能少女(一体……何がどうなっている?なぜあの霊との時間だけ……それとも、幽霊に危害を加えるわけではないのか?)
霊能少女(敵はあくまで生きている人間だけ……いや、それだけでは説明出来ない。例え幽霊であっても、神彁混の前ではこの世界の住民。つまり生者と同じく殺戮の対象のはず)
霊能少女(ワタシと同じように、あの幽霊も神彁混に対して恐怖を感じていたし、影はあの病院を浸食しようとしていた)
霊能少女(となると……あの霊が特別なのか?……ダメだ、判断材料が少な過ぎる。もう考えるのはよそう)
霊能少女(でも、理由はともあれ……これは使える)
長髪白装束娘「」スッ
幼女幽霊「……どういうことだ、これ」
霊能少女「……理由は分からない。でも、確かなことは……神彁混は、アナタには危害を加えないということ」
霊能少女「今、こうやって言葉を交わせるのもアナタと一緒だから。最初の攻撃も、ワタシを狙っていた。奴はずっと……ワタシだけを見ていた」
幼女幽霊「あいつ、幽霊が見えないんじゃないのか?それとも、私がもう死んでいるから興味を持っていないとか」
霊能少女「そのどれらでもないと思う。ただ一つ言えるのは……ワタシよりも、アナタの方が真実に近付いてると思う。何か心当たりはない?」
幼女幽霊「…………」
幼女幽霊「知らないよ。そんなの」
霊能少女「……そう。ならいい」
霊能少女「とにかく、これは好機。これで確かな勝機が出てきた」
霊能少女「……これをアナタに渡しておく」スッ
拳銃『』
幼女幽霊「!?」
幼女幽霊「なっ……!わ、私に撃てって言うのか!?」
霊能少女「それが一番成功率が高い。神彁混はもうワタシに最大の警戒を向けている。そんな針の糸を潜るような危険を冒すより、アナタが撃った方が成功率は高いはず」
幼女幽霊「で、でも!実銃なんて撃ったことないぞ私!」
霊能少女「ゲームは得意でしょ?それと同じ。真っすぐ銃身を向ければ、そこに銃弾は当たる。そう難しいことじゃない」
幼女幽霊「簡単に言ってくれんなオイ……」
霊能少女「……じゃあ一応、確認しておく」
霊能少女「アナタは撃てる覚悟がある?」
幼女幽霊「覚悟って……どういうことだよ」
霊能少女「そのままの意味。一年前のあの日、アナタは自分を消滅させようとした相手でも情けをかけた」
霊能少女「神彁混に……その甘さを捨てることが出来る?」
幼女幽霊「……」
幼女幽霊「……んなことでイチイチ確認取るなら、自分で撃てよ。私はやりたくないぞ」
霊能少女「……それもそうか。分かった。死魂弾はワタシが撃つ。無理を言って申し訳なかった」
霊能少女「もう一発しか残ってない。これで決めないと」チャキッ
幼女幽霊「んで作戦はどうすんの」
霊能少女「以前、ワタシと戦った時に出した、あの分裂と増殖を繰り返す技。今でも出来る?」
幼女幽霊「それなら問題ないけど」
霊能少女「良かった。じゃあアナタはアレを使って神彁混を攪乱して」
霊能少女「それに紛れて、ワタシが至近距離で死魂弾を撃つ」
幼女幽霊「大丈夫なのか?それ。いくら数が多いって言っても、本命がお前って分かってたら意味ないだろ。その銃だけ警戒すればいいんだから」
霊能少女「それでいい。ワタシだけに集中すれば、その分アナタの攻撃で隙を作り易くなる」
霊能少女「アナタは全力を出して、神彁混の動きを一瞬止めてほしい」
霊能少女「そこでケリをつける」
幼女幽霊「……いいのかそれで。渾身の念力でもちょっと吹っ飛ばすので精一杯だったんだぞ。いくら向こうが攻撃してこないって言っても、力の差は歴然……」
霊能少女「なに?自信ないの?」
幼女幽霊「このっ……!!そういうことじゃないだろうが!私なんか頼りにしていいのかって言ってんだよ!信じられるのは自分の力だけってお前も言ってただろ!」
霊能少女「さっきも言ったけど、ワタシはアナタを信用している。アナタなら……きっと成し遂げると確信している」
霊能少女「これが理由だけど、納得した?」
幼女幽霊「ぐっ……」
幼女幽霊「だ、だから……お前は何でそういう恥ずかしいこと真顔で言えるんだよ……こっちまで恥ずかしいじゃん」クルッ
スッ
長髪白装束娘「……私も、全力でやる。だからお前も決めろよ。任せたからな」
霊能少女「……ありがとう。こちらも任せた」
長髪白装束娘「……ふん」シュンッ
神彁混「…………」
神彁混「…………」クルッ
長髪白装束娘「そりゃあああああああああああ!!!!!!」グッ
神彁混「…………」ドンッ
長髪白装束娘(くっそ!やっぱこの肉体の攻撃は効かないか!よし次!)
長髪白装束娘「」ヌルッ
長髪白装束娘「」ズルッ
長髪白装束娘「」ズサッ
長髪白装束娘(物量で押し潰す!!!!!!)
ギチギチ……ギチギチ……
神彁混「…………」グググッ
ギチギチ……ギチギチ……
霊能少女「なるほど、神彁混を丸ごと増殖体で覆ったのか。これならワタシも動きやすくて助かる」
長髪白装束娘「へっ、どうよ。いい作戦だろ」ヌルッ
霊能少女「……ところで、今出てきたアナタはオリジナル?それとも分裂した個体?」
長髪白装束娘「あ?本体なんてないよ。私達は意識を共有してるから、みんな本物。お前も知ってんだろ」
長髪白装束娘「まあ多少は性格に差異が出来るけどな。魂を分割してるから、感情が偏る個体も出てくるし」
長髪白装束娘「私は基本的に普段に近い性格だけど」
霊能少女「そう。で、これからどうするの?」
長髪白装束娘「ん、神彁混にどれぐらい近付けばいいんだ?」
霊能少女「影の防御は即座には出せないはず。一瞬、意識を向ける必要がある。そうなると、弾速から計算して……」
霊能少女「……半径1メートル以内。これなら影は反応出来ない」
長髪白装束娘「あっそ。ならそこまで近付けるように圧縮するか」グッ
長髪白装束娘「「「「「 」」」」」ギュー
神彁混「…………」
長髪白装束娘「どうだ、150人分のおしくらまんじゅうは。いくらあいつでも簡単には動けまい」
霊能少女「……凄い光景。あと何人分は出せる?」
長髪白装束娘「まあ最大でこの倍は余裕だな。以前と比べて、私の能力もパワーアップしてるし」
霊能少女「……今のアナタを敵に回さなくて良かった」
長髪白装束娘「そりゃこっちのセリフだっての」
神彁混「…………」ギュー
神彁混「…………」ピクッ
長髪白装束娘「さ、これぐらいでいいだろ。合図をしたらあそこの一点にだけ絡みついてる私達を消す」スッ
長髪白装束娘「お前は近付いて、そこを撃て。一応念のために三体分の私を護衛に付かせといてやるから」ピッ
長髪白装束娘「」ヌルッ
長髪白装束娘「」ズサッ
長髪白装束娘「」バタッ
霊能少女「……何かこれだけの数がいると気持ち悪」
長髪白装束娘「おい、次そんなこと言ったらお前にそいつら絡まして――」
グシャアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!
幼女幽霊「!?」クルッ
霊能少女「!?」バッ
神彁混「…………」グググッ
長髪白装束娘「「「「「 」」」」」ググッ
長髪白装束娘「なっ……あいつ動き始めたぞ!抵抗しないんじゃなかったのか!?」
長髪白装束娘「んっ!!!!し、しかもなんつう怪力だ……!!このままだと抑えきれんぞ……!!」ググッ
霊能少女「くっ、もう行くしかないか」チャキッ
霊能少女「増殖体でワタシの援護をして。一気に決める」ダッ
長髪白装束娘「分かった……!!!!」グッ
霊能少女(やはり限度があるのか?危害は加えないというだけで、敵に協力するようなら最低限の反抗はするのか)
霊能少女(それとも……あの技は魂を分割して肉体を分裂、増殖させる。つまり一体一体の身体は魂が薄くなっているということ。それが引っ掛かったのか)
霊能少女(どちらにしても絶対の信頼はおけない。やはり保険程度に考えないと)
神彁混「…………」グググッ
長髪白装束娘「!!!!!!」
長髪白装束娘「おい!!!!気を付けろ!!!!あいつ何かしてくるぞ!!!!!」
霊能少女「!?」
神彁混「…………」パッ
シュババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!
霊能少女(ッッ!?)
霊能少女(影を針のように周囲に伸ばしてきた!?)
霊能少女(避け――)
バッ
グサッ!!!!!!
長髪白装束娘「「「ゴハッ!?」」」シュゥゥ
霊能少女「……!!」
霊能少女(た、盾になって庇ってくれたの……?)
神彁混「…………」
長髪白装束娘「……クソが。い、今の攻撃で神彁混の周囲にいた私達が全滅した。とんでもない技を出してきやがったな」
長髪白装束娘「幸い、あのメスガキを守ることには成功したけど……ヤバいな。またあの攻撃が来たら」
長髪白装束娘「……よし」
(おい、聞こえるか)
霊能少女(これは……念波?)
(あぁ、そうだ。いいか、次にあの攻撃をされたらさすがの私でもヤバい。だからその前に速攻で終わらせる)
(作戦に変更はない。お前はただ射程距離内で撃て。私が全力でサポートする)
霊能少女(……了解)ダッ
長髪白装束娘「さて……やるか」グッ
神彁混「…………」スッ
霊能少女(くっ、こっちに気付かれたか。どうする)
神彁混「………...」グググッ
シュンッ
ガシッ
神彁混「…………」チラッ
長髪白装束娘「「「ぐおおおおおお……」」」ガチガチ
長髪白装束娘「髪で四肢を拘束……!!」
神彁混「…………」ブンッ
長髪白装束娘「うわっ!?」バッ
ヒュンヒュン
ドンッ!!!!!!!!!
長髪白装束娘「う、うわぁ……やっぱダメか。ヨーヨーみたいに振り回されて地面に叩きつけられた……あぁはなりたくないな。すまん私」
長髪白装束娘「くっ、じゃあこれで!!!!」グッ
長髪白装束娘「」ガシッ
長髪白装束娘「」ガシッ
神彁混「…………」ググッ
影『』シュンッ
長髪白装束娘「」グサッ
長髪白装束娘「チッ!やっぱり問題はあの影だ!あいつが纏っている影を何とかしないと囲むことさえ出来ない!!!!」
長髪白装束娘「ん?待てよ。あの影は病院で現れたモノと同じ。つまり、対処法も変わらないはずだ」
長髪白装束娘「……なら、前と同じ手を使うか。出し惜しみはなしだ。全力全開、増殖体を全て使い切る!!!!」グッ
ズズズズズズッ……
神彁混「…………」キョロッ
長髪白装束娘「「「「「 」」」」」ズサササササ
神彁混「…………」グッ
長髪白装束娘「今だぁ!!!!!!!!!!」ググッ
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!
長髪白装束娘「よ、よし……成功だ。あぁ、もうストックが0になったなこれ。私が最後の残機だ」スゥ
幼女幽霊「でも、手ごたえは感じた……間違いなく、今の攻撃は通じた」
パラッ……パラッ…
神彁混「…………」グラッ
神彁混「…………」グタッ
幼女幽霊「!!!!」
幼女幽霊「あ、あの神彁混が膝を付いてる!やった!!これなら……!」
霊能少女(捉えた)
霊能少女「これで……終わり!」チャキッ
バンッ!!!!!!!!!!!!
神彁混「…………」グッ
幼女幽霊(影の防御も間に合わない!!!!やった!!勝った!!!!!)
ドンッ
神彁混「…………」バサッ
霊能少女「!?」
幼女幽霊「!?」
霊能少女(なっ……翼を使って飛んだ!?あの一瞬で――)
霊能少女(まずい、弾はもうない。どうする――)グッ
幼女幽霊(最後の一発が外れた!?こ、これじゃあ……)
幼女幽霊(ど、どうする……このままだと待っているのは確実な死。あいつを無力化出来ないとなると、もう逃げるしか選択肢はない)
幼女幽霊(これまでの道を、光もまともにない暗闇の山道の中を逃げ切るなんて……無理だ。絶対に)
幼女幽霊(……いや、私だけだったら出来るかも。なぜか私はあの神彁混に襲われないし。でも、あのメスガキは……)
幼女幽霊(かっ……考えろ!!まだ何か……思考がフル回転してる今のうちに、打開策を考えないと……!!)
幼女幽霊(……!!!!)
幼女幽霊(そ、そうだ。あの弾丸は私の力を与えたもの。半分はあいつのが混じってるけど、もしかしたら操れるかもしれない)
幼女幽霊(弾はまだ宙にある。間に合え――!)グッ
ギュインッ
霊能少女「!?」
霊能少女(た、弾が戻って――)
キュウウウン!!!!!!!!
神彁混「…………」
幼女幽霊「いっけええええええええええええええ!!!!!!!!!」
神彁混「…………」チラッ
幼女幽霊「ッ!?」
幼女幽霊(な、なんだ。今、一瞬こっちを――)
ズドンッ!!!!!!
神彁混「…………」グラッ
霊能少女「当たっ……」
幼女幽霊「た……?」
神彁混「…………」フラッ
神彁混「…………」フラッフラッ
神彁混「…………ァ」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
幼女幽霊(っ!?な、なんつう声だ!?さっきまでずっと無言だったのに!!!!)
霊能少女(ぐっ!?これは……断末魔、か。もう幾度も聞いたのと同じ……最後の足掻きか)
神彁混「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」キュイイン
神彁混「アアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!」グググッ
神彁混「アアッ!!!!!!!!!!!!」シュンッ
幼女幽霊「……」ゴクリ
幼女幽霊「き、消えた……終わったのか」
霊能少女「……」フラッ
幼女幽霊「お、おい!!!!大丈夫か!!!!」バッ
霊能少女「ハァッ……ハァッ……」
霊能少女(な、何とかなった。これで……あの神彁混は消滅した)
霊能少女(一歩前進……ってところか)
幼女幽霊「ど、どうした!急に倒れて!?」
霊能少女「んっ……何でもない。あの雄叫びを間近で聞いたから、三半規管がちょっと麻痺しただけ。すぐ治る」
幼女幽霊「そ、そうか……終わったんだな、これで」
幼女幽霊「あの神彁混はどうなったんだ?封印って聞いてたけど、どこかに吸い込まれたように消えたけど」
霊能少女「……死に還った、ってやつかな。あいつは生と死の狭間の存在。だから死ぬこともないし、生きているわけでもない」
霊能少女「そのバランスを崩すには0に戻すしかない。だからアナタの力が必要だった」
霊能少女「封印式を刻印した銃弾に、この二つの力。ワタシでもどこに消えたのかは分からない。試験的に試作品を神彁混の肉片の一部に撃った時も、先程と同じような現象が起きて消えた」
霊能少女「正確に言うと封印ではないのかもしれない。ただ、それを観測する術はワタシ達にはない」
幼女幽霊「そ、そうか……」
霊能少女「……よし、行こう。ここに長居をする理由はない。撤収する」スタッ
幼女幽霊「もう動けるのかよ。お前も大概人間離れしてんな」
『…………』ジー
………………………………………………………………
………………………………............
霊能少女「ここまで来たらいいか。追手はもう来ない」
霊能少女「……ありがと。今回は本当に助かった。アナタの協力なしでは成し遂げられなかった」
幼女幽霊「あぁ……まったく、こっちとしては本当にいい迷惑だった。もう二度とやりたくねぇ」
幼女幽霊「これで手に入るのが金だけとか本当に納得いかんわ……」
霊能少女「約束の小切手だけど……アナタって銀行に行けるの?これを換金しなくては現金は手に入らない」
幼女幽霊「はぁっ!?無理だぞ!私はあの貞子みたいな肉体しか出せないんだから!あんな格好でハロウィンの日以外でうろついたら職質されるわ!」
霊能少女「そう、じゃあこちらから手を回して、後日届くようにしておく。安心して、もうワタシはアナタ達には関わらないから」
霊能少女「じゃあ、ここで。アナタとはもう二度と会うことはないと思う」
霊能少女「アナタのことは二度と忘れない。今までワタシが祓ってきた幽霊とは違う、アナタほどの力なら、その魂が闇に染まることもないだろう」
霊能少女「こんなことに巻き込んで本当に申し訳なかった。謝罪する」
幼女幽霊「……」
幼女幽霊「……なぁ、お前ってまだこんなこと続けるの?」
幼女幽霊「今回だって何度も死にかけたじゃん。最後は私があの銃弾の軌道を修正しなかったら終わりだったし、私と戦った時さえも、一歩間違えば危なかったはず」
幼女幽霊「……別に、お前がどうなろうと私はどうでもいいけど、そんなことを続けてたら本当に死ぬぞ」
霊能少女「……どうでもいい。そんなことは」
幼女幽霊「どうでもいい?」
霊能少女「そう。例え、自分の命を投げ捨てるようなことになっても、その過程で一人でも多くの命を救えるのなら、ワタシは喜んでその命を捧げる」
霊能少女「この眼帯を受け継いだ時のように、ワタシが死んでもその信念は死なない。ワタシ達はそうやって怪異と戦い続けてきた。先人達の骸を乗り越えて、今、私はこうやって生きている」
霊能少女「だから……何も恐れるモノはない。例えそれが、死であろうとも」
幼女幽霊「……じゃあ、お前以外の人はどうなんだ。家族や友達とか……お前が死んで困る人がいるんじゃないの」
霊能少女「……家族、か。もう両親は既に他界している。私の唯一の血縁者は……妹だけ」
霊能少女「あの子なら……きっと、ワタシが死んでもそんなに悲しまないと思う。友と呼べる存在も……一人だけ、そう呼べるかもしれない人はいるけど、歩みを止めるつもりはない」
霊能少女「それに、まだやり残したことがある」
幼女幽霊「……復讐ってやつか」
霊能少女「うん、これだけは譲れない。この心臓が動いているうちは……辞めるつもりはない」
幼女幽霊「……最後にひとつ、聞いておきたい。お前って誰の為に戦ってるんだ」
霊能少女「……?質問の意図がよく分からないんだけど」
幼女幽霊「だから、お前が戦い続ける理由だよ。お前の場合、その復讐ってもんは結局、後付けされた理由に過ぎないように聞こえた。その根本にある物じゃない」
幼女幽霊「なんでお前は……幽霊や怪物と戦ってるんだ?一体誰の為に?それを私は知りたい」
霊能少女「…………」
霊能少女「……答えを挙げるとするなら……全て人間の為。突然、大きな力で惨めに踏みにじられる命があるという事実を知ってしまったら……黙ってジッとしていられない。ワタシにそれを祓うことが出来る力があるとしたら猶更」
霊能少女「これが、ワタシが戦う理由」
幼女幽霊「……嘘だろ。それ」
霊能少女「……なぜ?ウソだと言えるの?」
幼女幽霊「さあ、私にもよく分からん。でも、それはお前の本心じゃないなって、直感で感じただけ」
幼女幽霊「もういいよ、勝手にやってろ。私は警告したからな」
幼女幽霊「……じゃあな」フワッ
霊能少女「……そう、警告は感謝する。ありがとう。そして、さようなら」
シュンッ
霊能少女「…………」
霊能少女「……何の為に、戦っている、か」
霊能少女(あぁ、そうか……)
霊能少女(どうして、あの幽霊をあそこまで信用することが出来たのか、やっと分かった)
霊能少女(似ていたんだ……あの子と。生意気な口調や、性格が)
霊能少女(……もう後戻りは出来ない。そう、“本番”はここから)
…………………………………………………………
…………………………………………
DQN幽霊「せんぱああああああああい!!!!!!よく戻ってきてくれたっスううううううううう!!!!!」ダキッ
幼女幽霊「あーもう!抱き着くなうざい!!離れろ!!」グイッ
DQN幽霊「それで、何があったんスか?カニカマは封印出来たんスか?」
幼女幽霊「あぁ、それがだな……」
幼女幽霊「ってことになった。まあ結果的に言えば成功だな。後日報酬が届くみたいだし」
DQN幽霊「そんなことが……でも、色々謎が残る結末っスね」
幼女幽霊「まあ……確かにな」
DQN幽霊「どうしてカニカマは先輩だけを襲わなかったんスかねぇ……やっぱり幽霊は死んでるからどうでもよかったみたいな?」
幼女幽霊「その線はないと思う。お前も、あの肉片を見た時に感じただろ。生死は関係ない。恐らく、この世界の住人ってだけで、神彁混の殺戮対象なんだと思う。でも、なぜか私だけは例外だった……」
DQN幽霊「謎っスねぇ……」
幼女幽霊「…………」
幼女幽霊「……ひとつだけ、心当たりがあるんだけどな。あんまり考えたくないけど」
DQN幽霊「え?マジっスか?」
幼女幽霊「あぁ……私だけが特別な理由。ってなると……あの一年前の出来事が原因かもしれない」
DQN幽霊「一年前っつーと……もしかして、先輩がオーブと合体したあれっスか」
幼女幽霊「うん……よく考えてみたらさ、オーブちゃんって諸説はあるけど、魂的なものってのは確かじゃん」
幼女幽霊「つまり、“死”そのものなんだよね。それが……私の命を繋いだ。つまり、死と生が混じり合ってしまった……」
幼女幽霊「……あんまり考えたくないけど、もしかしたら私って……神彁混に近い存在になっちゃってるのかもしれないな」
DQN幽霊「……!?」
DQN幽霊「ち、違うっスよ!!!!先輩は……そんな化け物じゃないっス!!」
DQN幽霊「ちょっと馬鹿っスけど……俺をいつも守ってくれて、頼りになる優しい先輩っスよ!!!!」
幼女幽霊「……恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ。あと馬鹿ってなんだコラ」ブンッ
DQN幽霊「いてっ!?」ボコッ
幼女幽霊「……まあ、あくまでも可能性の話だからな。それにもう……私とは関係ない話だ」
幼女幽霊「…………」
DQN幽霊「ど、どうしたんスか先輩?深刻な顔して」
幼女幽霊「いや……もしかしたらさ、私って……神彁混に殺されたんじゃないかなって」
DQN幽霊「!?」
DQN幽霊「えっ!?ど、どういうことっスか!?いきなりっ!?」
幼女幽霊「病院で初めてあの影と対峙した時……どこか見覚えがあったんだ。これと似たような気配を感じたことがあるって」
幼女幽霊「神彁混を直接視た時も、同じような既視感を感じた」
幼女幽霊「でも、私が幽霊になってからじゃない。小さい頃はずっと病院でお爺ちゃんと一緒だったし、そんなやつは一度も来なかった」
幼女幽霊「ってなると……生前になる。もう十年以上も前だから、覚えていなくても無理はない」
幼女幽霊「そして、神彁混と出会ったタイミングってなると……死の瞬間しかない。あまりに突然で、奴の姿を覚える暇もなく死んじゃったのかもしれない」
DQN幽霊「で、でも……先輩って、家族と一緒に交通事故で死んじゃったんスよね?」
幼女幽霊「……そう。でも、あの事故には……気になる点が一つあった」
幼女幽霊「私達はお父さんの運転する車に乗っていて、その車が横転して崖に落ちたと記事には書いてあった」
幼女幽霊「……でも、不思議なことに、車体の上に、謎の傷があったんだよね。まるで爪でこじ開けたような……巨大な傷が」
DQN幽霊「……!!」
幼女幽霊「あの時はそんな気にすることでもなかった。原因は不明だったけど、事故の衝撃で出来た傷だって記事にも書いてあったし」
幼女幽霊「……もし、あの巨大な傷の正体が、この既視感の正体が全て繋がっていたとしたら…………」
DQN幽霊「……ん?」
幼女幽霊「……まあ、もしそうだとしても、別に嫌なことでもないけどね」
幼女幽霊「お父さんとお母さん、そして私自身の敵討ちをしたことになるんだから。まあちょっとは気が晴れるってもんだよ。あんま実感ないけど」
幼女幽霊「私が何の躊躇いもなく、あの銃弾を神彁混に当てられたのも……そのせいかもね」
DQN幽霊「……ちょっと待ってください。それっておかしくないっスか?」
DQN幽霊「だ、だって……あの化け物が産まれたのは一年前の集団自殺のはずっスよね。先輩が死んだあの事故が起きたのは十年前……計算がおかしいっスよ」
幼女幽霊「そう、問題はここだ。多分これがあいつが語らなかった真実の正体」
幼女幽霊(あいつが言っていた行方不明者と不審死の数。確かに異常な数だけど、急増したというわけじゃない。そりゃそうだ。そんな突然に人が死んだら、いくら何でも騒ぎになるのは確実)
幼女幽霊(……この世界は何十年も前から、人が消えている。その数に疑問を持たないほどに)
幼女幽霊(そして、あのメモ。40年前の『1978年』に起こった集団自殺に付けられていた○、他の年には付いてなかったのに、この年にだけ……あの年にだけ、何かが起きた)
幼女幽霊(……あいつの言った通り、関わらなくて正解かもな。これは……)
幼女幽霊「つまり、神彁混は――」
おわり……?
…………………………………………………………………
…………………………………………
霊能少女「……」ピッ
プルルルルルルルル……
プルルルルルルルル……
ガチャッ
霊能少女「久しぶり、元気にしている?」
『…………』
霊能少女「待って、切らないでほしい。今日は重要な要件がある」
『……何の用だ』
霊能少女「父と母を殺した犯人の正体が分かった。そして、その死の真相も」
『……は?』
つづく
377 : ◆gqUZq6saY8cj - 2018/10/19 03:36:51.39 1HoW9zBeo 281/281終わりです
これにて幼女幽霊編は完結になります
話の筋としては霊能少女がメイン、幼女幽霊がサイドストーリー、屍男が裏ルートみたいな感じになると思います
次は一年ぶりに屍男の話になるんですけど…また長期間書けない状況になると色々困るので、書き溜めを進めてスレを立てようと思ういます
ただそうなると結構時間がかかるかもしれないです…ごめんなさい
続きはよ