1 : 以下、?... - 2018/09/12 00:01:10.739 SbBbnvZTD 1/17

喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    鮫島まもる(40) 演歌歌手

    【海の男】

    ホーッホッホッホ……。」

元スレ
喪黒福造「マグロ漁船に乗って、遠洋漁業を体験してみるのはどうです?」 演歌歌手「仕方ありませんね……」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1536678070/

2 : 以下、?... - 2018/09/12 00:04:33.030 SbBbnvZTD 2/17

とある地方都市のホール。男性演歌歌手が、ステージの上で熱唱をしている。

茶髪で整った顔立ちをしており、スーツ姿の男性演歌歌手。

実年齢よりも若々しく見え、歌からも、姿からも、さわやかな雰囲気を感じさせる男だ。

テロップ「鮫島まもる(40) 演歌歌手 本名は鮫島守」

うっとりした表情で、鮫島の歌を聴く老人女性の観客。観客席には、中高年の女性たちの姿が目立つ。

鮫島のコンサートを鑑賞する大勢の観客たちの中には、例の如くあの男――喪黒福造がいる。

気のせいか喪黒の顔は、何か企みを思いついたような表情になったようにも……見えなくもない。


控室。コンサートを終えた鮫島が頭を抱え込んでいる。鮫島の後ろから声がする。

喪黒「あの……、鮫島まもるさん」

鮫島「あなたは……?」

鮫島が後ろを振り向くと、そこには色紙を持った喪黒がいる。

喪黒「サインをお願いします」

3 : 以下、?... - 2018/09/12 00:06:41.963 SbBbnvZTD 3/17

鮫島「ああ、ファンの方ですか……。ど、どうも……」

喪黒が持っている色紙にサインをする鮫島。

喪黒「お疲れですか……?それとも、何かお悩みでもあるのですか……?」

鮫島「い、いえ……。僕は大丈夫ですよ」

喪黒「悩みを抱え込むのはよくないですよ。鮫島さん」

鮫島がいる控室からから立ち去る喪黒。


高速道路。ワンボックスカーの後部座席に乗る鮫島とマネージャー。

マネージャー「くよくよするな、まもる。お前は演歌歌手としてよくやっているよ」

鮫島「果たして、そう言えるでしょうか?一時期に比べると、CDの売り上げや僕の人気は陰りを見せていますから」

マネージャー「まあ、昔に比べるとピークは過ぎたものの……だ」

マネージャー「CDの売り上げでも、ファンの多さや人気でも……。演歌界では、未だお前が抜きんでている」

鮫島「確かに、僕は高齢者の女性層に人気がありますよ」

鮫島「彼女たちは固定ファンだから、僕の新曲が発売されればすぐに購入してくれます……」

鮫島「しかしながら、この状況に甘えていいのか……」

5 : 以下、?... - 2018/09/12 00:08:59.200 SbBbnvZTD 4/17

マネージャー「大丈夫だ。お前にシルバー層の人気があるのは、喜ぶべきことではないか」

マネージャー「『演歌冬の時代』の今の日本で、演歌界を支えているのはお前一人と言っても過言ではない」

鮫島「ですが……。むしろ、『演歌冬の時代』だから、今の僕の音楽の方向性に限界を感じているんです」

鮫島「僕も40代となったのですから……。いつまでも、若々しくさわやかなイメージで売るわけにはいきません」

マネージャー「いや……。お前の若々しくさわやかなイメージを、高齢者の女性層が好んでいるんだぞ」

マネージャー「今のやり方のままでいいだろ」

鮫島「そうですか……?」

マネージャー「ああ。だから、心配することはない」


休日。カラオケ店の個室の中で、鮫島が一人でカラオケをしている。

自らの持ち歌を歌う鮫島。その後で、著名な演歌歌手の有名な曲や懐メロを次々と歌う。

さらに鮫島は、ポップソング、フォークソング、ロック、ラップ、洋楽など多種多様なジャンルの歌を歌う。

一通り歌を歌い終わった後、鮫島がソファーの方を見ると……。喪黒が拍手をしている。

喪黒「いやぁ、見事な歌いっぷりでしたよ。鮫島まもるさん」

いつの間にか、喪黒は鮫島がいる個室に入り込んでいたようだ。

6 : 以下、?... - 2018/09/12 00:11:32.803 SbBbnvZTD 5/17

鮫島「あ、あなたは……!?」

喪黒「思い出してください。ほら、この間のコンサートの後……。私は控室で、あなたからサインを貰いました」

鮫島「ああ、あの時の……!!」

喪黒「いやぁ、自己紹介が遅れました……。私はこういう者です」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

鮫島「ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「実はですね……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」

鮫島「へぇ……。珍しいお仕事ですね……」

喪黒「控室の中で見た鮫島さんは、何かの悩みを抱えているようでした。よろしかったら、私が相談に乗りましょうか?」


BAR「魔の巣」。喪黒と鮫島が席に腰掛けている。

鮫島「確かに、今の僕は悩みを抱えています。演歌歌手として……、僕にとっては重大なものなんです」

喪黒「なるほど。鮫島まもるさんの心のスキマとは……。おそらく、自らの音楽の方向性の限界でしょう!?」

7 : 以下、?... - 2018/09/12 00:14:06.433 SbBbnvZTD 6/17

鮫島「そ、そうですよ!!よく見抜くことができましたね……!!」

喪黒「さっき……。カラオケ店であなたの歌をいろいろ聞いて、分かったんですよ」

鮫島「一体、どういうことなんですか!?」

喪黒「鮫島さんは……。歌手としてのテクニックは、ずば抜けているんですよ」

喪黒「そのおかげで……。演歌だけでなく、様々なジャンルの歌を見事に歌いこなしています」

喪黒「しかしながら……、あなたの歌には重大な欠点があります。それはすなわち……」

喪黒「歌に心がこもっていないということです!!」

鮫島「うっ……!!」

喪黒「歌唱力はずば抜けているものの、歌に心がこもっていないから……。何を聞いても同じに聞こえるんですよ!」

喪黒「あなたは心で歌っているのではなく、テクニックで歌っているのです!真の演歌歌手なら、心で歌うものですよ!」

鮫島「……ですよね。思い当たるところが多々あります。喪黒さんに指摘されてようやく理解できました」

喪黒「それと、鮫島さんが感じている音楽の方向の限界性とは……」

喪黒「今まで売り出してきた若々しくさわやかなイメージが、現在の自分の年齢と合わなくなった……」

喪黒「……ということも関係ありそうですねぇ」

鮫島「おっしゃる通りです。僕ももう、40歳ですから……。やはり、年相応の重厚な曲を出したいですよね」

9 : 以下、?... - 2018/09/12 00:16:37.233 SbBbnvZTD 7/17

喪黒「年相応で、なおかつ重厚な曲を出すとするならば……。今までの若々しくさわやかなイメージから……」

喪黒「男気を打ち出したイメージに転換してみるのも、いいのではないですか?」

鮫島「男気を打ち出したイメージですか……。悪くはないですね……」

喪黒「演歌の世界で、男気を打ち出したイメージの曲といえば……。やはり、これでしょう!これ!」

喪黒「つまりです……。海をイメージした曲ですよ。漁師や漁業や港町とかの、海を歌った演歌がいいでしょう」

鮫島「海をイメージした曲ですか……。うーーーん……」

喪黒「おや、何かご不満でも?」

鮫島「実はですね、僕は北海道の漁師町で育ったんですよ。小さいころの僕は、虚弱体質で気が弱い性格でしたから……」

鮫島「地元のヤンチャな子供たちとは、あまり肌が合いませんでした……」

鮫島「だから、少年時代のころの僕は……。『早くこの街を出て都会で暮らしたい』といつも思っていましたね」

喪黒「そうですか……」

鮫島「それと、僕の父は漁師だったんですが……。僕が小学生のころ、父は海の事故で命を落としました」

喪黒「なるほど……。鮫島さんも複雑な生い立ちを送っているようですなぁ……」

鮫島「はい……。僕が海をイメージした曲を歌わなかったのは、今までの生い立ちのことがあるんですよ……」

10 : 以下、?... - 2018/09/12 00:18:50.928 SbBbnvZTD 8/17

喪黒「ですがねぇ……、鮫島さん。あなたも40歳になったなら、生い立ちに対する葛藤をそろそろ乗り越えるべきです」

喪黒「40歳である以上、真の意味で『不惑』の境地に達する必要があるのではないですか?」

鮫島「そうかもしれませんね……」

鮫島「僕が海をイメージした演歌を歌ったならば、死んだ父も草葉の陰で喜んでくれるでしょう……」

喪黒「それなら決まりです!海をイメージした演歌を歌うために、実際に海に出てみましょうか?」

鮫島「えっ!?」

喪黒「鮫島さん……。マグロ漁船に乗って、遠洋漁業を体験してみるのはどうです?」

鮫島「仕方ありませんね……。こうなったら乗り掛かった船であり……、やるしかないでしょう……」

喪黒「そうです、その調子!」


静岡県、焼津港。遠洋マグロ漁船・第十八魔境丸。

第十八魔境丸には、ライフジャケットを着た漁師たちが大勢いる。彼らとともに、甲板の上に立つ喪黒と鮫島。

鮫島「ここが焼津ですか……。僕の地元も漁師町だけど、それ以上の規模ですよね。焼津は……」

喪黒「そうです。焼津は日本を代表する遠洋漁業の港の一つですから……」

11 : 以下、?... - 2018/09/12 00:21:23.110 SbBbnvZTD 9/17

鮫島「なるほど……。で、その焼津港からこの船に乗って出発するんですよね」

喪黒「はい。私たちは第十八魔境丸に乗って、3ヶ月間、遠洋漁業を体験するんですよ」

鮫島と喪黒の元へ、船長が訪れる。

テロップ「横松勝典(58) 第十八魔境丸船長」

横松「やぁ、君が鮫島まもる君か。実はな、俺の妻が君のファンなんだよ」

鮫島「そうですか。ど、どうも……」

横松「君がこの漁船に乗ったと知ったら、妻は大喜びするだろうな……」


焼津港を出発する第十八魔境丸。漁船は港を遠ざかり、大海原の彼方へと向かっていく。

しばらく時間が経ち――。寝室のベッドに、鮫島が青ざめた顔で横たわっている。鮫島の側にいる喪黒。

鮫島「も、喪黒さん……。船酔いがキツいですよ……。いきなり漁船に乗ったもんだから……」

喪黒「大丈夫ですよ、鮫島さん。いずれ、船の上での生活も慣れますから」

12 : 以下、?... - 2018/09/12 00:23:45.796 SbBbnvZTD 10/17

ある程度、日にちが過ぎたころ――。

朝。洋上に浮かぶ第十八魔境丸。船の上に立つ漁師たちが、浮き延縄(はえなわ)漁具を海に投下する。

無数の釣針のついた幹縄(みきなわ)を仕掛ける海の男たち。彼らは合羽を着ている。

漁師たちの作業の手伝いをする喪黒と鮫島。鮫島の顔は日焼けしていて、口元に無精ひげが生えている。

一見すると、鮫島も漁師仲間のように見えなくもない。船の上にいる男たちの表情は熱心そのものだ。


昼。船内の食堂で食事をする漁師たち、喪黒、鮫島。

鮫島「投縄(とうなわ)が終わったら、次は揚縄(あげなわ)をやるんですね」

喪黒「まあ、一応そうですが……。揚縄まであと4、5時間待つんですよ」

鮫島「えっ……。4、5時間も待つんですか!?」

横松「そうだよ。マグロ漁は時間との戦いなんだよ。何しろ、投縄を4、5時間くらいやって……」

横松「それから4、5時間待って……。その後で、揚縄を12時間以上やるんだからな……」

鮫島「気の遠くなるような話ですね……」

横松「だから、大物が獲れた瞬間の感動は計り知れないものがあるんだよ。俺たちは、そのために生きていると言ってもいい……」

13 : 以下、?... - 2018/09/12 00:25:49.536 SbBbnvZTD 11/17

夕方。第十八魔境丸。船上で縄を握りしめる漁師たち、喪黒、鮫島。

鮫島「強い力を感じる……!幹縄に何かがかかったようだ……!」

喪黒「これは大きいですよ……!」

横松「鮫島君……。しっかり掴まっていろよ……!」

力を込めて、縄を引っ張る一同。海から浮かび上がる延縄に、生きたマグロがいくつもかかる。

甲板の上で生々しく動くマグロを見つめる喪黒、鮫島。鮫島は目を丸くし、驚いた表情をする。

鮫島(マグロだ……!生きたマグロが目の前にいる……!!)

横松「鮫島君、よくやったな……」

鮫島「せ、船長……」

マグロのえら・内臓・ひれを器用に抜き取り、血抜きや水洗いを行う漁師たち。


夜。寝室のベッドで眠り、夢を見る鮫島。夢の中で、鮫島は死んだ父とともに漁船で漁師の仕事をしている。

目を覚ます鮫島。鮫島は感極まり、うるんだ目をしている。

鮫島(父さん……)

14 : 以下、?... - 2018/09/12 00:28:18.611 SbBbnvZTD 12/17

数か月後。鮫島まもるの新曲「海の男」が全国のCDショップに発売される。鮫島の新曲のCDを手に取る老人の女性たち。

テレビの演歌番組で、新曲「海の男」を歌う鮫島。規模の大きい居酒屋の店内でも、有線放送で鮫島の「海の男」が流れている。

カラオケ喫茶で、鮫島の「海の男」を歌う中年の客。とある家では、祖母の女性が「海の男」を歌って赤ん坊の孫をあやしている。


BAR「魔の巣」。喪黒と鮫島が席に腰掛けている。

喪黒「鮫島さん。今度の新曲の『海の男』は、なかなか素晴らしい歌ですよ」

鮫島「ありがとうございます、喪黒さん。実は、あの歌は……。第十八魔境丸に乗っている時に思いついたんです」

鮫島「あの船の寝室で眠っていたある日……。僕の夢の中に、死んだ父が出てきました……」

鮫島「そして目が覚めた後……。あの歌の構想が頭にひらめいたんですよ」

喪黒「おそらく、鮫島さんは……。自らの生い立ちに対する葛藤を、乗り越えることができたのでしょうなぁ」

鮫島「はい。第十八魔境丸に乗って、実際に漁師の仕事を経験したことにより……。僕の人生観は大きく変わりました」

鮫島「どうやら僕にも、海の男としての血が身体に流れていたようです。父から受け継いだ形で……」

喪黒「鮫島さんが海に対して憧れを抱くのはいいことですよ。これが、あなたの音楽の方向性に役に立つのなら……」

喪黒「なぜなら、私が鮫島さんに遠洋漁業を体験させたのは……。あなたが歌手として新たな可能性を得るため……」

喪黒「それを忘れないでください」

鮫島「は、はあ……」

15 : 以下、?... - 2018/09/12 00:30:17.244 SbBbnvZTD 13/17

喪黒「だから、鮫島さん……。あなたは私とある約束をしていただきたいのですよ」

鮫島「約束!?」

喪黒「そうです。あなたがマグロ漁師としての体験をするのは、この間の航海の1度きりにすべきです」

喪黒「たった1度きりの貴重な経験を胸にしまい、その上で、演歌歌手としての人生をしっかり生きてください」

鮫島「わ、分かりました……。喪黒さん。このたびは貴重な経験、本当に感謝しています」


12月31日――。JBCホールで、年末恒例の番組「JBC紅白歌合戦」の撮影が行われている。

司会者「今年の紅白歌合戦のトリを務めるのは、この曲です!鮫島まもる『海の男』……!」

着物姿の鮫島が、ヒット曲『海の男』を熱唱する。


翌年――。明治座。記者からインタビューを受ける鮫島。

記者「ところで……。鮫島さんは最近、小型船舶の免許を取得したらしいですね」

鮫島「はい。『海の男』を発表して以来、海に対する興味が高じたので……。そのおかげですよ」

16 : 以下、?... - 2018/09/12 00:32:26.549 SbBbnvZTD 14/17

芸能事務所「長浜プロダクション」。執務室で机に向かう社長。社長と鮫島が会話をする。

社長「まもる……。釣り番組からお前に出演の依頼が来ているぞ」

鮫島「そうですか……。最近の僕が釣り好きであることを、番組関係者が嗅ぎつけたんでしょうね」


小型船を運転する鮫島。船には、彼を含め数人の芸能人たちがいる。

船の上で、ライフジャケットを着た鮫島が釣竿を握っている。釣り糸に獲物がかかる。

鮫島「おおっ、来たぞ!!」

陸に上がり、芸能人たちと談笑する鮫島。

鮫島「大物を釣ると血が騒ぐ……。でも、もっとデカいことをやってみたいと思っている……」

芸能人A「そうだよな……。それが釣りのロマンだよな」

鮫島「いや、もっとすごいことをしてみたい。漁師だった僕の父のように……」

芸能人B「鮫島さん……。まさか、漁師になりたいとでも思っているんじゃないだろうな」

鮫島の話を聞いて爆笑する一同。

17 : 以下、?... - 2018/09/12 00:36:32.447 SbBbnvZTD 15/17

そして、幾月日が経過したある日。洋上に浮かぶ大型漁船。

漁船の上には、鮫島をはじめ乗組員たちが大勢いる。ただ、乗組員たちの風貌はどこかガラが悪そうなものだ。

乗組員「俺たちのマグロ漁は非合法なものだぞ……。鮫島さん、あんた一体何を考えているんだ!?」

鮫島「僕はどうしても、海に出たいんですよ!大物のマグロを釣り上げる快感は、あなたたちなら分かるでしょう?」


朝、投縄を行う乗組員たち。数時間の時を経て……。午後、鮫島を含め乗組員たちが揚縄の作業を行う。

縄を握りしめる乗組員たち。鮫島は、自らが握る縄に手ごたえを感じる。延縄にかかる数々のマグロ。

甲板の上で動くマグロ。恐る恐るマグロを両手で触り、充実した表情になる鮫島。

鮫島(これだ……!この感覚こそが、僕が求めていたものだ……!)

夜中。大型漁船。トイレを済ませ、廊下へ出る鮫島。次の瞬間、彼は見覚えのある例の男を目撃する。

鮫島「ふーーーっ、疲れた。これからゆっくり寝るか……、あ!!」

漁船の廊下には、ライフジャケットを着た喪黒が立っている。

喪黒「鮫島まもるさん……。あなた約束を破りましたね」

鮫島「も、喪黒さん……!!」

18 : 以下、?... - 2018/09/12 00:39:41.640 SbBbnvZTD 16/17

喪黒「私はあなたに忠告しました。マグロ漁師の体験をするのは、第十八魔境丸での航海の1度きりにしておけ……と」

喪黒「それにも関わらず……。鮫島さんは私との約束を破って、マグロ漁を行うために海へ行きましたねぇ」

鮫島「す、すみません!どうしても我慢ができなかったんです!」

喪黒「しかも、暴力団が関わった密漁船に乗るとは……。密漁は犯罪ですよ、鮫島さん」

鮫島「許してください!!喪黒さん!!」

喪黒「いいえ、ダメです。約束を破ったのだから、あなたにはペナルティーを受けて貰います!!」

喪黒は鮫島に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

鮫島「ギャアアアアアアアアア!!!」


鮫島のモノローグ「密漁船から帰って、しばらく経った後……。週刊誌の記者が僕の一連の行動を嗅ぎつけた」

鮫島のモノローグ「事務所の関係者は週刊誌の記者と話し合い、僕の密漁疑惑をもみ消すべく尽力した」

長浜プロダクション。週刊誌の記者と話し合う、社長やマネージャー。机の上のトランクには、札束が詰まっている。

鮫島のモノローグ「裏金を週刊誌の編集部に払い、その上、僕自身が芸能界を引退することで……。疑惑は表へ出ずに済んだ」

記者会見でフラッシュを浴びる鮫島。スポーツ紙が、鮫島の引退を一面トップで報道する。

19 : 以下、?... - 2018/09/12 00:43:00.800 SbBbnvZTD 17/17

テロップ「数年後――」

北海道のある漁師町。芸能記者が鮫島にインタビューをしている。日焼けした顔で無精ひげを生やした鮫島。

記者「鮫島さん……。演歌歌手として復帰したいという気持ちはありますか?」

鮫島「その気持ちは全くないです。僕は歌手としてけじめをつけましたから、思い残したことは何もありません」

港を出発する漁船。漁師となった鮫島が、漁船を運転している。吹っ切れた表情で、海の彼方を見つめる鮫島。

鮫島のモノローグ「僕は父の後を継いで、地元で海の男として生きることを決めた。これが、今後の僕の余生だ」

港の前に立ち、遠くの海へ向かう鮫島の漁船を見つめる喪黒。

喪黒「普段はなかなか気づきにくいですが……。人々は常に、何かと海の恵みの恩恵を受けながら暮らしてきました」

喪黒「そもそも、海は多種多様な海洋生物の宝庫ですし……。人々が暮らす地球は、惑星の7割が海で占められています」

喪黒「何よりも、人類の先祖は海の中の生物だったのですから……。海がなかったら、人間は生まれてこなかったのかもしれません」

喪黒「だから、人間が海に憧れを持つのはある意味当然ですし……。海と人間は今後も共存共栄を続けていくでしょう」

港を立ち去る喪黒。

喪黒「とはいえ、海も大自然である以上……。時として、危険がつきものなのもまた事実ですから……」

喪黒「海の男となった鮫島まもるさんが、父親と同じく海難事故で命を落とさないことを祈るばかりですよ……」

喪黒「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―

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