男「ただいまー、はい弁当箱。ごちそうさま」
母「うちは貧しいからあまり大したオカズも入れられないけど、全部食べてくれてありがとう」
男「……」
母「私の取り柄といえば、お弁当作りぐらいだから……」
男「あのさ……お母さん」
母「なに?」
男「弁当……もう作ってくれなくていいから」
母「えっ……!?」
元スレ
男「お母さん……もう弁当作ってくれなくていいから」母「えっ……!?」
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母「どうして……どうしてなの?」
男「……」
母「……分かったわ。明日からもうお母さん、お弁当作らない」
男(ごめんよ……お母さん)
男(なにしろ毎日毎日、あんなことが学校で起こってたら――)
…………
……
数時間前……
―学校―
キーンコーンカーンコーン…
男(やっと午前の授業終わりだ、弁当食べよう)
不良「おっ!」
DQN「ヒャハハ!」
男「!」
不良「今日もママのお弁当でちゅかぁ~!?」
男「ううっ……」
DQN「オラ、さっさと開けや!」
男「分かったよ……」パカッ
男(ご飯、トンカツにキャベツ、卵焼きにタコさんウィンナーも……)
男(今日の弁当もおいしそうだ……)
不良「こ、このトンカツはァ~~~~~!?」
DQN「す、すげえ……!」
男「!?」ビクッ
不良「見るだけでサクサク感が伝わってきやがる! なんてトンカツだァ!」
DQN「たまらねえや! まさに職人芸だぜェ!」ジュルリ…
不良「ありがとよ……」
不良「このトンカツ見たら、他校との抗争にも“勝てる”気がしてきたぜ!」
不良「いくぞっ!」
DQN「おうっ! いつまでも奴らを俺らの縄張りでのさばらせちゃならねえ!」
ダダダダダッ
男(行っちゃった……)
女委員長「男君!」
男「あっ、委員長!」
女委員長「今日もお弁当なの!? まったく……お弁当の匂いがこっちまで届いてきたわ!」
男「ご、ごめん」
女委員長「まったく……いい匂いすぎて……た、たまらないわぁ……」トローン…
男「い、委員長……?」
女委員長「ほええ……ほああ……」
女委員長「ああ……たまらないわ……ああっ……」
男「あの……」
女委員長「ハッ! ……まったく、また私を狂わせて!」
女委員長「ホント、あなたって魔性の男ね!」
男「どうも……」
女委員長「今日という今日は、このお弁当を没収してあげるわ!」サッ
男「あっ!」
女委員長「……」クンクン
女委員長「あぁん……らめえ……。手に取ったら、ますます……意識が……」
女委員長「今日も……私の負けね……」ドサッ
男「ああっ、委員長!」
メンヘラ娘「今日こそこのカッターナイフで手首を切るわよぉ~」
メンヘラ娘「ハッ!」
メンヘラ娘「そのお弁当ォォォォォ!!!」スタタタタッ
男「ど、どうしたの?」
メンヘラ娘「このキャベツの千切り……なんて美しいの」ウルッ…
男(いきなり泣き始めた……!)
メンヘラ娘「これよ! 刃物ってのはこういう風に使うものなのよ!」
メンヘラ娘「あたし、リストカットやめるわ! 刃物に失礼だものぉ!」
男「……えーと、うん、ボクもリストカットはよくないと思うよ」
男「手首を切っても死なないとはいうけど、万が一ってこともあるしね」
メンヘラ娘「あなたって優しいのね……ありがとほぉ~~~~~!!!」ドバァァァァァ
男(大した励まししてないのに、こんなに泣かれても……)
金髪「フッ……」ファサッ
男(クラス一のイケメンである金髪君!)
金髪「やれやれ、君は相変わらずご飯なんて田舎くさいものを食べてるのかい?」
男「そうだけど……」
金髪「ぷっ……ハーッハッハッハッハッハ!」
金髪「やはり主食はパンに限るよ! なんたって……エレガントだからね!」
男「くっ……」
金髪「しかし、君のお弁当に詰められたご飯……」
男「?」
金髪「なんって、美しいご飯なんだぁ! 米が……米が光ってるだよ!」
金髪「ううっ……田舎のおっかあを思い出すべ!」
金髪「ハッ! おっと……見苦しいところをお見せした……アディオス!」
男(そういや今は下宿してて、実家は米農家だっていってたなぁ……)
男「……」モグモグ…
男(次はいよいよタコさんウィンナーを……)
美術娘「あーっ!!!」
男「!?」ビクッ
男(この子は美術部の……)
男「どうしたの?」
美術娘「このオクトパス・ウィンナー……」
男(オクトパスウィンナー……!?)
美術娘「なんて美しい……」
美術娘「これこそ究極の美……究極の芸術……!」
美術娘「今すぐルーヴル美術館に飾られてもおかしくない!」
男「そんなバカな……」
美術娘「ありがとう、おかげでいいモチーフが浮かんできたぁぁぁぁぁ!」
男(きっとタコの絵を描くんだろうな……)
教師「コラーッ!!!」
男「先生!?」
教師「貴様、その箸の持ち方……」
男「え、間違ってましたか? すみません……」
教師「正しすぎるゥゥゥゥゥ! なんって模範的なんだァァァァァ!」
男「!?」
教師「ぜひ……今日から私の代わりに教壇に立ってみないか!?」ガシッ
男「いえ、ボクはまだ生徒のままでいいです!」
男「ふぅ……ようやくひと段落だ」
男(いよいよ大好物の卵焼きを食べよう)パクッ
男「うん……甘くておいしい!」
校長「甘いな……」ザッ…
男「校長先生……!?」
校長「君は甘い……甘すぎるッ!」
男「申し訳ありません……」
校長「だが、その甘さは……貴重なものだ。決して忘れてはならぬ!」
校長「さらばだ!」バサァッ
男「なんだったんだ、一体……」
ドタバタ… ドタバタ…
「弁当のいい匂いがするぞォ!」
「弁当見せてくれ! 食いかけでもいいから!」
「箱だけでも拝見させて下さい! お願いします!」
男(他の教室からもどんどん来た……!)
……
…………
男(弁当を食べるたびにこんな騒ぎがあっちゃ、ボクとしてもたまらないよ)
男(ごめんよ、お母さん……)
次の日――
男(今日はコンビニでおにぎりを買ってきたぞ)
男「いただきます」パクッ
男(味はお母さんの弁当に比べるとやっぱり物足りないけど……まあしょうがない)モグモグ…
不良「あれ、今日は弁当じゃねえのか」
男「うん、今日から昼食はコンビニで買うことにしたんだ」
不良「そ、そうか……」
DQN「悪かったな……邪魔したな……」
スタスタ…
男「……」
ドンヨリ…
女委員長「あの匂いを……もう嗅げないなんて……」
メンヘラ娘「リストカットしたくなってきちゃった……」
金髪「おっかあが……恋しいよう……」
美術娘「次の作品どうしよう……」
教師「教壇に立つ気力がなくなった……」
校長「世の中って甘くないよね……」
男(心なしか、というか露骨にみんな元気なくなってる……)
男(やっぱりお母さんの弁当は必要なのか……)
男「――というわけなんだ!」
母「学校中が大騒ぎするから、私にお弁当を作るなっていったのね」
男「そうなんだ……」
男「弁当を食べる時あまり注目されたくないし、かといってみんなが元気ないのも……」
母「どっちも困るわねえ……うーん……」
母「そうだわ! だったら――」
学校近く――
母「いらっしゃいませ~」
母「おいしいお弁当はいかがですか~?」
「ください!」 「一個ちょうだい!」 「いい匂いだァ~!」
ワイワイ… ガヤガヤ…
男(お母さんが始めた弁当屋……大盛況だ)
男(お母さんは思う存分弁当を作れるし、みんなお母さんの弁当を食べられるし、一石二鳥だ)
男(いや……)
男(おかげでうちも貧乏を脱出できたから、一石三鳥……かな)
男(ボクの弁当もこれからはもっと豪華になりそうだ!)
おわり