あやめ速報-SSまとめ-

≪犯人はアニメオタクか！？≫

≪アニメオタクは必ず犯罪に走る！≫

≪アニメは危険！　今すぐ規制すべき！≫



編集長「……これでよし」

部下「編集長！」ﾄﾞﾀﾊﾞﾀ

編集長「なんだ」

部下「また殺人事件です！　犯人はすでに逮捕されています！」

編集長「よし、犯人の家に出向くぞ！」

部下「え、どうしてですか？」

編集長「犯人がアニメオタクだったという痕跡を探すんだ！」

ｶﾞｻｺﾞｿ…　ｶﾞｻｺﾞｿ…


編集長「どうだ！？」

部下「ありません！」

編集長「しっかり探せ！」

部下「あっ、ありました！」

部下「アニメのDVDがありました！」

編集長「よくやった！」

部下「といっても未開封で、なんかの景品で当たっちゃったのをしまい込んでるような感じですが……」

編集長「知るか！　犯人がそんなDVDを持っていたという事実が重要なんだ！」

≪犯人宅からアニメのDVDを発見！≫

≪アニメの影響で殺人事件を起こした可能性大！≫

≪やはりアニメは危険！≫



編集長「……これでよし」

部下「編集長！」ﾄﾞﾀﾊﾞﾀ

編集長「なんだ」

部下「またまた殺人事件です！」

編集長「よし、犯人宅に出向くぞ！」

部下「犯人がアニメオタクだったという痕跡を探すんですね？」

編集長「その通りだ！」

ｶﾞｻｺﾞｿ…　ｶﾞｻｺﾞｿ…


部下「ありません！」

編集長「しっかり探せ！」

部下「本当にないんです！」

編集長「……やむをえまい」

編集長「これを置いておこう」ｽｯ

部下「こ、これは≪ドラパンマン≫の消しゴム！」

編集長「“犯人の自宅からはドラパンマンのグッズが発見された”と記事を書け」

部下「し、しかし！　これじゃ捏造じゃないですか！」

編集長「いいから書け！　クビにされたくなきゃな！」

部下「……分かりました」

≪犯人の自室からドラパンマンの消しゴム！≫

≪やはり犯人はアニメオタク！≫

≪アニメは殺人欲を増幅させる……！≫



編集長「……これでよし」

同僚「いやー、ここんとこすげえな、お前んとこの編集長は」

部下「ああ、何か事件が起きたらすぐ、犯人はアニメオタクってことにしろ、だもん」

部下「中途入社で編集者になって、瞬く間に雑誌の編集長に成り上がったやり手だけど」

部下「どんだけアニメのことを憎んでるんだか……」

同僚「謎が多い人だけど、もしかしたら過去にアニメオタクにひどい目にあわされた、なんて」

同僚「過去を持ってるのかもな」

部下「……かもしれないな。そうでなきゃ、あそこまでになる理由がつかないもん」

～テレビ番組～

司会者「本日は巷で話題になっている編集長さんに来て頂いております！」

司会者「よろしくお願いします」

編集長「よろしくお願いします」

司会者「編集長さんの週刊誌では、よくアニメやアニメオタクを悪と報道していると」

司会者「大変反響を呼んでいますが……」

編集長「ええ、ありがたいことです」

司会者「行きすぎではないか、という声もありますが」

編集長「そんなことはありません！」

編集長「かつて我が国では、通り魔事件が相次ぎ、反社会勢力がのさばり、テロ集団が活動していた」

編集長「しかし、いずれもこの国の優れた警察機構によって、撲滅することができました」

編集長「最後に残った憎むべき敵がアニメなのです！」

司会者「どういうことでしょう？　なぜアニメなのですか？」

編集長「なぜなら、アニメの内容はドラマや演劇とちがい、あまりにも非現実的です」

編集長「だからアニメを見た人間は、非現実的なことをするようになるんです」

司会者「そうでしょうか……」

編集長「そうなんですよ！」

編集長「こんなもの、早く規制しないと大変なことになります！」

司会者「はぁ……」

編集長「一刻も早く、アニメやアニメオタクなんてものは絶滅させるべきなんですよ！」

編集長「分かりますか！？」

司会者「分かります分かります！　本日はありがとうございましたー！」

学者「えー、今、“ある方”がアニメは犯罪を助長すると盛んに主張していますが」

学者「アニメと犯罪の間に、明確な因果関係などありません」

学者「少なくとも、影響力は他のメディアと大差ないものといえます」

学者「私は学者として、彼の主張はおかしいと真っ向から否定させていただきます」

アニメ監督「あの編集長は頭がおかしいですよ」

アニメ監督「過去に何があったのか知りませんが、アニメを目の仇にしすぎです」

アニメ監督「だいたいアニメを見たら必ず犯罪者になるっていうんなら」

アニメ監督「私なんてとっくの昔に凶悪犯になってますよ、アハハ」

政治家「えー……国民から不安の声が相次いでおりますので」

政治家「ここで記者会見を開き、政府としての考えを申し上げさせて頂きます」

政治家「政府としては、アニメを規制するという考えは一切ありません」

政治家「個人的な意見を申し上げるならば、某氏の意見は極端すぎると思っております」

編集長「殺人事件だ！　犯人はアニメオタクだと――」

部下「いい加減にして下さい！」

編集長「な、なんだと！」

部下「今や世間でアニメやアニメオタクが害だなんて本気で信じてる人はいませんよ！」

部下「……あなた一人を除いてね」

編集長「……！」

部下「もうあなたにはついていけません……失礼します」

『アニメは健全だ！　真っ白だ！　なにも悪くない！』

『あの編集長がイカれてるだけ！』

『どんどん子供に見せるべき！』



編集長「……」

編集長（世間の風潮も、変わっていく……）

編集長「……」





編集長「……これでよし」

編集長（私が過剰すぎるアニメ叩きをした反動で、世間はすっかりアニメに対して寛容になった）

編集長（寛容どころか、無警戒になったといってもよい）

編集長（どんなものにもいい面と悪い面があるように）

編集長（アニメにも悪い面や危険な面はある、ということからすっかり目を逸らしてしまった）

編集長（あとはコツコツと作ってきたこのアニメを、ネット上に誰でも見られるように流す）

編集長（パッと見は、健全な子供向けアニメだが、中身は……）


『世の中が気に食わなかったら、自分の手で変えよう！』

『君たちにも世界を変える権利があるんだ！　同志を集めるんだ！』

『誰でも手軽にできる爆弾の作り方を教えちゃおう！』


編集長（このような内容が至るところに散りばめられている……）

編集長（かつて私は、とあるテロ集団の一員だった）

編集長（自分の力で社会を変えられると本気で信じていた）

編集長（だが、組織は徹底的に打ち負かされ、もはや自分自身でテロを起こすことは諦めた）

編集長（その代わり、種をまくことにしたのだ）

編集長（アニメに対してすっかり無防備になった子供達が、私が作ったアニメを見て）

編集長（どんな風に育つのか、将来もしかしたら何かをやってくれるんじゃないか……）

編集長（想像するだけで楽しみだよ……）





―完―