1 : 以下、?... - 2018/09/19 21:16:27.901 ekOu428X0 1/111

第一話『嫁は毒の達人』



「ふんふ~ん」ゴリゴリ…

「ベラドンナにトリカブト……それと毒キノコを数種混ぜて……」ゴリゴリ…

「キヒヒ……出来てきたわぁ~……」ゴリゴリ…

「ねえ……あなたァ」ゴリゴリ…

「ん?」

「生命保険入らない?」ゴリゴリ…

「……毒の調合しながら言わないでくれる?」

元スレ
嫁「あなたァ……生命保険入らない?」ゴリゴリ 男「毒の調合しながら言わないでくれる?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1537359387/

6 : 以下、?... - 2018/09/19 21:19:24.094 ekOu428X0 2/111

「違うわよォ、毒の調合はただの仕事だから」

「分かってるよ。君ほど紫色のエプロンが似合う女性もいないよな」

「キヒヒ、照れるわよ」

「でも、なんでいきなりそんな話を?」

「ほら、お隣の奥さん、ご主人を亡くされたでしょ?」

「で、ご主人、保険とかに全く入ってなかったらしくて、奥さん苦労されてるらしいの」

「そういうことか」

「元気そうだったのに……突然だったもんな」

「ホントよぉ……。奥さんと幼いお子さんを残して、さぞかし無念だったでしょうねえ」

8 : 以下、?... - 2018/09/19 21:22:24.554 ekOu428X0 3/111

「まぁ、安心しろよ」

「俺はとっくに生命保険に入ってる。受取人はもちろん君だ」

「え、そうだったの?」

「だから俺が今日死んでも、君が路頭に迷うことはないよ」

「え、死ぬの!?」

「え?」

「いやぁぁぁぁぁ! あなたが死ぬんならあたしも死ぬぅぅぅぅぅ!」グビグビ

「ちょっ! 調合してた毒を!」

10 : 以下、?... - 2018/09/19 21:25:27.452 ekOu428X0 4/111

「うへ……あへぇ……」ピクピク…

「おい、しっかりしろ!」

「あなたぁ……天国で会いましょ……ヒヒ」ピクピク…

(ダメだ! 完全にイッちまってる!)

「えぇと、今飲んだ毒の成分は、と……」

「この薬草とこの薬品を混ぜて、調合すれば……」ゴリゴリ…

「――できた!」

「あとはこの解毒薬を飲ませれば……ほら、飲んで」ドロッ

「……んん」ゴクッ

11 : 以下、?... - 2018/09/19 21:27:19.858 ekOu428X0 5/111

「……あ」

「ふぅ~、よかった……」

「君が毒に強くて、俺が薬剤師じゃなかったら、危なかったぞ」

「国にも認められてる“毒師”が毒で死んだら、笑い話にもならないだろ」

「……どうせだったら口移しで飲ませてくれたらよかったのに」キヒヒ…

「……おいおい」

13 : 以下、?... - 2018/09/19 21:30:24.279 ekOu428X0 6/111

翌日――

「行ってらっしゃ~い」

「行ってきます」



(あ、お隣の奥さんだ)

「おはようございます」

婦人「おはようございます……」ペコッ

(やっぱり……。前はあんなに明るかったのに……)

16 : 以下、?... - 2018/09/19 21:33:42.519 ekOu428X0 7/111

― 会社 ―

「……なぁ」

同僚「ん?」

「俺たちは薬剤師として、製薬会社社員として、日々新しい薬の開発に携わってるわけだけどさ」

同僚「どうしたんだよ、突然」

「“人を生き返らせる薬”ってのはできないのかな?」

同僚「んー……結局のところ、人間だってものすごくよくできた機械みたいなもんだし」

同僚「人体や生死のメカニズムが完全に解析されれば、あるいは作れるかもな」

同僚「だけど、そんなもんが出来上がったら、人は生き返っても人口爆発で人類は滅亡するわな」

「……だよなぁ」

17 : 以下、?... - 2018/09/19 21:36:20.650 ekOu428X0 8/111

― 自宅 ―

「…………」

「どしたの、あなた?」

「いや、お隣の奥さん、元気なかったからさ……」

「そうねえ……」

「せめて、ご主人と最後のお別れができてれば、まだ違ったんだろうけどな」

「最後のお別れ……」

「それよ、それだわァ~!」

「へ?」

18 : 以下、?... - 2018/09/19 21:38:19.535 ekOu428X0 9/111

「さっそく……」ゴリゴリ…

「調合? いったいどんな毒を?」

「キヒヒ、決まってるでしょ?」

「奥さんを旦那さんに会わせてあげるための毒よぉ……」ゴリゴリゴリ…

「え!?」

19 : 以下、?... - 2018/09/19 21:41:39.097 ekOu428X0 10/111

数日後――

― 自宅 ―

婦人「お夕飯にお誘い下さり、ありがとうございます……」

「こちらこそ突然お誘いしてしまって。お子さんはご実家に?」

婦人「はい、まだ小さいので……」

「キヒヒ、料理はたっぷり用意してますからねぇ~」


ドンヨリ…


婦人「…………!」

婦人(どの料理も、なんて毒々しい色をしているの……!?)

婦人(まるで童話に出てくる“魔女の料理”のようだわ……。食べて大丈夫なのかしら……)

21 : 以下、?... - 2018/09/19 21:44:27.787 ekOu428X0 11/111

婦人「――あら、おいしい!」

「でしょう? 家内の料理は見た目はともかく、味はいいんですよ~」

「失礼ねぇ。見た目もいいってば!」

アハハハ… ウフフフ… キヒヒヒ…

(さて、そろそろ……)

(あたしが料理に混ぜた“毒”が効いてくるはず……)

婦人「あら……? なんだか、トロ~ンとしてきたわ……」

23 : 以下、?... - 2018/09/19 21:47:46.140 ekOu428X0 12/111

婦人「……あら?」ボンヤリ…

旦那『やぁ』

婦人「あ、あなた! どうして!?」

旦那『突然逝ってしまって、すまなかった……』

旦那『どうしても君にちゃんと別れをいいたくて、少しだけ戻ってきてしまった』

婦人「ありがとう、会えて嬉しいわ……」

旦那『僕は君と出会えて、息子を授かって、本当に幸せだった』

旦那『しかし、あんな突然別れることになってしまって、本当にすまない』

婦人「私こそ、あなたを看取ることができずに、ごめんなさい……」

25 : 以下、?... - 2018/09/19 21:50:41.520 ekOu428X0 13/111

旦那『だけど僕は、ずっとこちらから見守っているよ』

旦那『だから……どうか君も新しい人生を歩んでほしい』

旦那『まだ幼い息子を頼む……』

婦人「分かったわ、あなた!」



「…………」

(ずっと幻を見せていると、心身に害が出るし、戻ってこれなくなってしまう)

(そろそろ解毒作用のあるパウダーを……)サラサラ…

27 : 以下、?... - 2018/09/19 21:53:03.237 ekOu428X0 14/111

婦人「!」ハッ

「どうかされましたか?」

婦人「あ、いえ……今ほんの少し、亡くなった主人に出会えたもので……」

婦人「って、いきなり変なことを……すみません」

「もしかしたら、旦那さんがほんの少しだけ降りてこられたのかもしれませんね」

婦人「はい……」

28 : 以下、?... - 2018/09/19 21:56:32.163 ekOu428X0 15/111

婦人「今日はどうもありがとうございました」

「キヒヒ、またいらしてね~」



「…………」

「…………」

「これで奥さん、少しは元気を取り戻してくれるといいけど」

「キヒヒ、大丈夫よ。きっと立ち直ってくれるわ」

「それにしても、ぼんやりとご主人の幻影を見せるぐらいの毒だったのに」

「ずいぶん具体的に話をしていたな」

「そこはきっと、愛のなせるワザってやつじゃなぁい?」

『ありがとうございました……』

「!?」

30 : 以下、?... - 2018/09/19 21:59:10.062 ekOu428X0 16/111

「い、い、今、旦那さんの声、聞こえなかった!?」

「ああ、今のはたしかに……亡くなった旦那さんだった」

「ど、ど、ど、どうして!?」

「もしかして、幻覚作用を利用して、本当に降りてきて奥さんと話してたのかも……」

「キヒーッ!!!」







おわり

33 : 以下、?... - 2018/09/19 22:04:07.978 ekOu428X0 17/111

第二話『TVゲーム風毒』



ズガガーンッ ドゴーンッ ズガガガガッ

「おい、いい加減ゲームやめろ! いったい何時間やってるんだ!」

オタク「うるさいな……」

オタク「ボクは今、ゲームキャラになってるんだ! ジャマしないでくれよ!」

オタク「おっ、ボスが出てきた! よ~し、超必殺奥義で……」

「~~~~!」

(何とかしないと……)

34 : 以下、?... - 2018/09/19 22:06:30.929 ekOu428X0 18/111

― 自宅 ―

「……というわけなのです」

「ゲーム中毒ってやつね?」

「毒師であるあなたに、何か息子に喝を入れるような毒を作ってもらえないかと……」

「うーん……毒殺しちゃった方が早いんじゃない?」

「いやいやいや! 仮にも息子ですし、さすがにそれは……」

「冗談よぉ、冗談」

35 : 以下、?... - 2018/09/19 22:09:30.577 ekOu428X0 19/111

「ふんふ~ん」ゴリゴリ…

「毒師としての依頼があったようだけど、何を調合してるんだ?」

「うーんとねぇ……“ゲームキャラの気分を味わえる毒”ってとこかしら?」

「ゲームキャラの気分を味わえる……毒?」

「そ、今度の相手はゲーム好きらしいから」

「あ、そうだ。明日はあなた休日でしょ? 一緒に行かない?」

「かまわないけど……」

36 : 以下、?... - 2018/09/19 22:12:29.950 ekOu428X0 20/111

翌日――

― 依頼人の家 ―

オタク「いけっ! いけいけっ!」カチッカチカチッ

(一心不乱にゲームやってる……こっちを見もしない。すごい集中力ではあるけど)

「ねえ……君」

オタク「なんだよ? 今いいとこなのに!」

「お父さんに聞いたけど、あなたは自分がゲームキャラになったつもりで、ゲームやってるんでしょ?」

オタク「ああ、そうさ! その方が調子いいからね!」

「だったら、これ……飲んでみない?」スッ

オタク「あっ、まるでゲームに出てくる回復薬みたいなボトルじゃないか!」

「そうよぉ、気分出るでしょ~?」

37 : 以下、?... - 2018/09/19 22:14:07.663 ekOu428X0 21/111

オタク「ちょうどノド渇いてたんだ!」

オタク「ありがたくいただくよ!」グビグビ

「…………」キヒィ…

(飲んだ……!)

(しかし、“ゲームキャラの気分を味わえる毒”っていったいどんな毒なんだ?)

38 : 以下、?... - 2018/09/19 22:17:30.296 ekOu428X0 22/111

オタク「ちょっとトイレに行こうかな。よっと――」

オタク「!?」ズキッ

オタク「い、痛い!? なんだ今の!?」

オタク「トイレへ――」スタスタ

オタク「!?」ズキズキッ

オタク(どうなってんだ!? 一歩歩くごとに、鋭い痛みが!)

「……キヒヒ」

オタク「あっ、お前! さてはなんか変なもの飲ませたなぁ!」

「そうよぉ~、名づけて“TVゲーム風毒”!」

オタク「なんだよそれ!?」

「そのまんまの意味よ」

39 : 以下、?... - 2018/09/19 22:20:28.626 ekOu428X0 23/111

「ゲームの毒って、一歩歩くごとにダメージがあるでしょ?」

「あれを再現したのよぉ」

オタク「ぐあっ!」ズキッ

「安心して、痛いだけで体に全然害はないから……」キヒヒッ

オタク「なんでこんなことを!?」

「だってあんた、ゲームキャラになりたかったんでしょ?」

「嬉しいでしょ? 大好きなゲームキャラの気分を味わえるんだから……」

(すごい……! こんな毒も作れるのか……!)

41 : 以下、?... - 2018/09/19 22:24:19.395 ekOu428X0 24/111

オタク「ふん! なんだ、こんな毒!」

「あら?」

オタク「歩くたびに痛みがくるんだろ? だったら歩かなきゃいい!」

「トイレはどうすんのよ?」

オタク「ペットボトルにでもするさ!」

「残念だけど……」

オタク「!」ズキッ

オタク「なんで!? なんでぇ!? 動いてないじゃん!」

「時間経過……ゲーム風にいうとターン経過でもダメージが来るようになってんのよぉ~」

オタク「ひ、ひいいっ!」

43 : 以下、?... - 2018/09/19 22:27:14.694 ekOu428X0 25/111

オタク「どうすりゃいいんだ!?」

「解毒薬を飲めば治るわ」

「だけど、解毒薬を作れるのは優秀な薬剤師であるこの人だけ……」

「え、俺!?」

オタク「飲みたぁい! どうすれば飲ませてくれるの!?」

「ゲームは程々にする、と誓えば飲ませてあげてもいいわ」

オタク「誓う、誓う、誓うからぁぁぁぁぁ!」

「ダ~メ、信用できない」

オタク「う……」

「ま、しばらくはそのままでいることねえ。キヒヒヒヒヒ……」

オタク「うそぉぉぉぉぉ……!」

44 : 以下、?... - 2018/09/19 22:30:12.166 ekOu428X0 26/111

帰り道――

スタスタ…

「いやー、驚いたよ。あんな毒を作れるなんて。たしかにTVゲーム風の毒だね」

「キヒヒ、すごいでしょ~?」

「だけど、解毒薬は俺に任せるってのはどういうことだよ」

「だってあなたなら、成分さえ分かれば解毒薬を作れるでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

「それにあたし、解毒剤作りはどうも苦手なのよねぇ……。毒を消すより毒を盛る方が楽しいわ」

「毒師なのに解毒が苦手なのはどうにかした方がいいと思うよ……」

「は~い」

45 : 以下、?... - 2018/09/19 22:33:11.511 ekOu428X0 27/111

一ヶ月後――

― 自宅 ―

「本当にありがとうございました!」

「おかげで息子は、すっかり心を入れ替えまして……」

「ゲームはほとんどやらなくなり、毎日運動をしたり、アルバイトまで始めて……」

「そうですかぁ~」

「あの毒……効果テキメンだったみたいだね」

「じゃあ、そろそろ解毒してあげましょっか」

「うん、解毒薬は作ってあるよ」

46 : 以下、?... - 2018/09/19 22:35:11.205 ekOu428X0 28/111

― 依頼人の家 ―

オタク「いやぁ~、ありがとうございます!」

オタク「この痛みがすっかり快感になっちゃって、今ではウォーキングが趣味になってますよ!」

オタク「そしたらみるみる体も痩せて……」スラッ

オタク「!」ズキッ

オタク「あぁんっ! 動くたび、襲いくる、この痛み、たまらんっ! 癖になるっ!」ビクビクッ

「…………」

「…………」

「……どうする?」

「う~ん……もう少しこのままにしといた方がいいかもね」







おわり

49 : 以下、?... - 2018/09/19 22:40:13.696 ekOu428X0 29/111

第三話『かゆいところに手が届く毒』



― 自宅 ―

「う~……かゆいかゆい。肌が弱いからか、しょっちゅうかゆくなる……」

「あのさー」

「なに?」

「ちょっと背中かいてくれない?」

「またぁ~? 自分でかけばいいのに」

「俺はこの通り、体がかたいからさ……」ググッ

「運動不足よォ。薬の開発もいいけど、たまには運動もしないとね」ポリポリ

「あ~……気持ちいい!」

(もう、いつもいつもあたしにかかせて……面倒ねえ)

50 : 以下、?... - 2018/09/19 22:41:11.129 ekOu428X0 30/111

「よーし……」ゴリゴリ…

「なに作ってるの?」

「あなたのための“毒”よ」ゴリゴリ…

「俺のための毒?」

「よぉし、できた!」

51 : 以下、?... - 2018/09/19 22:44:18.675 ekOu428X0 31/111

「どんな毒?」

「かゆいところに手が届く毒よぉ~」

「名づけて“かゆいところに手がと毒”! なーんちゃって!」

「キヒヒーッ! キヒヒヒヒヒヒーッ!!!」

「…………」

「どしたの? バカ笑いしてみっともないなとでも思ったァ?」

「あ、いや、そうじゃなくて……笑顔が可愛いな、と思って」

「ちょ、ちょっとやめてよぉ……!」

(照れてるところもなかなか)

「飲んでみてよ」

「うん」ゴクッ

53 : 以下、?... - 2018/09/19 22:47:29.637 ekOu428X0 32/111

「…………」

(いったいどんな効果が……)

(ん、いつもみたいに背中にかゆみが――)

「あれ?」スー…

「かゆみが消えた!」

「すごいでしょ?」

「すごいよ、これ! うちの会社で製品化したいぐらいだ!」

「そりゃー無理ねえ。あたしじゃなきゃ扱えないヤバイ成分いっぱい入ってるから」

「なるほど」

「……って怒らないの? よくもそんなもん飲ませたなって」

「別に。こと毒に関しては、君のことは100パーセント信頼してるから」

「……んもう、そんなこといわれるとこっちがかゆくなっちゃうわ」

55 : 以下、?... - 2018/09/19 22:50:04.180 ekOu428X0 33/111

……

「いやー、あの薬……もとい毒のおかげですっかり快調だよ!」

「そう……」

「あっ、かゆい……」

「!」ピクッ

「おおっ……かゆみが取れた」スー…

「…………」

56 : 以下、?... - 2018/09/19 22:52:14.949 ekOu428X0 34/111

「ねえ」

「ん?」

「たまには背中かいてあげよっか?」

「いや、いいよ。まだあの“かゆいところに手がと毒”が効いてるからね」

「あ、そう……」

「…………」ムラムラ…

57 : 以下、?... - 2018/09/19 22:54:23.993 ekOu428X0 35/111

「あのさ、あの毒切れちゃったんだけど、新しいのくれない?」

「もうないわ」

「じゃあ調合してくれよ」

「もう作れないわ」

「え、なんで? 材料はあるはずだろ?」

「作れないの! 今まで通り、あたしにかかせてくれればいいじゃない! ね、そうしましょ!」

「……まぁいいけど。変な奴だなぁ」







おわり

59 : 以下、?... - 2018/09/19 22:58:44.828 ekOu428X0 36/111

第四話『毒を食らわば皿まで』



― 会社 ―

上司「よいか、我が社は製薬会社とはいえ、医薬品だけを売っているのではない」

上司「君たちも、たまには医薬品以外のことも考えてみろ! アイディアを出すのだ!」

「…………」

「どうしたんだ、突然?」ボソッ

同僚「きっとテレビの影響だろ。昨日“新事業に取り組む企業”なんて特集やってたし」ヒソヒソ…

上司「コ、コラーッ! 図星を突くな!」

上司「とにかく、たまには薬以外のことを考えることも必要だ!」

上司「今週中に何かしら、企画を提出するように!」

同僚「ちっ、面倒なことになったなぁ。こっちもヒマじゃないってのに」

(企画か……)

60 : 以下、?... - 2018/09/19 23:01:16.599 ekOu428X0 37/111

― 自宅 ―

「うーん……」

「企画ねえ……」

「ようするに、売れる商品を提案すればいいんでしょ? 楽勝よ!」

「たとえば?」

「あたしが毒作ってバラまいて、あなたが解毒薬作ればいいのよぉ~! バカ売れ間違いなし!」

「そりゃ犯罪だよ」

61 : 以下、?... - 2018/09/19 23:03:47.327 ekOu428X0 38/111

― 会社 ―

同僚「なにか思いついたか?」

「いや……全然」

同僚「だよなぁ。ったく、あの人も気まぐれでモノいわないで欲しいよ」

「だけど……」

同僚「ん?」

「日常業務をやりつつ、こうやってあれこれと新しい企画を考えるのも楽しいよ」

「新薬開発はとにかく時間がかかるし、いい気分転換になる」

同僚「前向きだなぁ、お前は」

62 : 以下、?... - 2018/09/19 23:05:47.745 ekOu428X0 39/111

― 自宅 ―

「ねーねー、見て見て。ちょっと面白いこと思いついたの」

「なんだい?」

「まず皿に毒を盛るでしょ」ドサッ

「うん」

「これを皿ごと食べる!」バリボリバリボリ

「うおっ!?」

「これぞ、毒を食らわば皿まで! ……どぉう?」ペロリ

63 : 以下、?... - 2018/09/19 23:08:21.784 ekOu428X0 40/111

「だ、大丈夫なのか!? そんなもん食べて……」

「なーんてね」

「この皿はあたしがチョコレートで作ったの。だからなんともないわァ~」

「毒は?」

「あーっ!!!」

64 : 以下、?... - 2018/09/19 23:10:21.212 ekOu428X0 41/111

「ハァ、ハァ……」

「いやー、あたしの作った毒はやっぱりすごいわぁ。まだ気分悪いもの」オエッ…

「なにやってんだか……」

「にしても、チョコレートで皿をねえ……凝ったことするもんだ」

「テレビで食べられる食器を紹介してて、ちょっとやってみたくなったのよぉ~」

「……食べられる食器か」

「これだ!」

「へ?」

65 : 以下、?... - 2018/09/19 23:12:41.872 ekOu428X0 42/111

テレビ『新発売! 薬効成分がたっぷり入った皿を食べて、あなたも健康になろう!』

テレビ『“薬を食らわば皿まで”!』

「キヒヒ……これものすごく売れてるみたいね。よかったじゃない」

「君のあの皿がヒントになったよ」

「あたしも一日一枚かじってるわぁ~」ボリッ

「しかし世の中、なにが売れるか分からないもんだなぁ」







おわり

66 : 以下、?... - 2018/09/19 23:15:27.363 ekOu428X0 43/111

第五話『安楽死のススメ』



― 訓練所 ―

訓練士「あの犬です」


「ガウウウウッ! ギャオンッ! ギャオンッ! ガウアァッ!」


「あらら~、すっごい凶暴! 狂犬病?」

訓練士「というわけではないのですが……」

67 : 以下、?... - 2018/09/19 23:17:54.066 ekOu428X0 44/111

訓練士「警察犬として訓練してたのですが、全く懐かず、まともに飼育することさえ難しいのです」

「とんだ毒ドッグねえ」

訓練士(毒ドッグて……)

訓練士「もはや矯正させるのも困難で、残酷な決断をせざるをえなくなってしまいました……」

「安楽死ってわけね」

訓練士「……はい」

「分かったわ。あたしが安楽死させてあげる!」


「ガウッ! ガウッ! ギャウウウッ!」


「じゃ、始めましょうか」

68 : 以下、?... - 2018/09/19 23:20:16.516 ekOu428X0 45/111

「今日は忙しくて他にいくつか仕事あったから、いっぱい毒を持ってきちゃったのよねぇ~」

「えぇっと……安楽死させるのはどれだっけ?」

「これかな?」ペロッ

訓練士「えっ!? なめちゃうんですか!?」

「ん~……」

「ぐぼえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! ぐおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

訓練士「!?」

「!?」

70 : 以下、?... - 2018/09/19 23:22:42.984 ekOu428X0 46/111

「これ違うわ……」

「これは胃袋に焼けつくような痛みを与える毒だったわ。失敗、失敗」キヒッ

訓練士「え……!」

「んじゃ、こっち?」ペロッ

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「違うわ、これは脳みそを溶解させる毒だったわぁ~。キヒヒ、いっけなぁ~い」

訓練士「だ、大丈夫ですか?」

「平気よぉ。あたし毒師だから、毒に対する訓練受けてるの。摂取しすぎなきゃ平気!」

訓練士「そ、そうですか」

71 : 以下、?... - 2018/09/19 23:24:24.642 ekOu428X0 47/111

「これ?」ペロッ

「ぐえええええええええええええっ!!!」

「これは脊髄を腐らせるやつか……」

「こっち?」ペロッ

「んぎゃああああああああああああっ!!!」

「これは全身の細胞をズタボロにするやつ……」

訓練士「あわわ……」

「どれだったかしら……あたしったらうっかりして」

「あたし以外の人がなめてたら、とんでもないことになるとこだったわぁ~。キヒヒッ」

訓練士「ひええええ……」

73 : 以下、?... - 2018/09/19 23:26:44.688 ekOu428X0 48/111

……

「あ~、これだこれ! これが安らかに死なせる毒だわ! それこそ安眠するように永眠よ!」

「じゃあさっそく毒ドッグに……」

「クゥ~ン……」フリフリフリ…

「へ?」

訓練士「し、信じられん……!」

訓練士「我々訓練士でも懐かせられなかった犬が……! 尻尾を振って……!」

74 : 以下、?... - 2018/09/19 23:28:06.873 ekOu428X0 49/111

「…………」ジーッ

「ワン、ワン!」フリフリフリ…

「ねえ、訓練士さん」

訓練士「なんでしょう?」

「この毒ドッグもらってもいい? 飼いたくなっちゃった」

訓練士「え!?」

75 : 以下、?... - 2018/09/19 23:30:10.073 ekOu428X0 50/111

― 自宅 ―

「……ってことで、今日から飼うことにしたわ。いいかしら?」

「まあ、かまわないけど……」

「キヒヒヒ、やったぁ! よろしくね、毒ドッグ!」

「ワン!」

(毒ドッグて……)







おわり

77 : 以下、?... - 2018/09/19 23:33:52.900 ekOu428X0 51/111

第六話『毒と薬の出会い』



― 会社 ―

同僚「昔ちょっと話してくれたけど、お前の奥さんって“毒師”なんだって?」

「ああ、先祖代々毒師の家系らしい」

「彼女の一族は毒師を名乗ることを、国から特別に認められてるんだって」

同僚「マジなんだ……」

「俺も薬剤師のはしくれとして毒物に関して知識はあるけど、とても彼女には敵わないよ」

「どこぞの秘境の毒草やら毒虫なんかも熟知してるぐらいだから」

同僚「へぇ~」

同僚「なぁ、一度会わせてくれないか? どんな人か見てみたいんだ」

「まぁ、いいけど」

同僚「よっしゃ!」

78 : 以下、?... - 2018/09/19 23:36:36.932 ekOu428X0 52/111

― 自宅 ―

「ワン!」フリフリ…

同僚「犬飼ってるのか」

「……毒ドッグっていうんだ」

同僚(毒ドッグて……)

「妻が引き取ってきたんだけど、これでなかなか可愛いんだよ。おお、よしよし」

「ハッ、ハッ、ハッ」ペロペロ

同僚「へぇ~、よく懐いてるじゃん」

「元々はすごく凶暴だったらしいんだけど、安楽死させようとしたら懐いたらしい」

同僚「まるで意味が分からんぞ……」

79 : 以下、?... - 2018/09/19 23:39:26.261 ekOu428X0 53/111

「いらっしゃいませぇ~」

同僚「あ、どうも」

「キヒヒヒ……」

同僚(ぱっと見怖いけど、愛嬌あるっちゃあるな)

「料理はたっぷり用意してありますからねえ。さ、どうぞぉ」


ドヨーン…


同僚(うおっ……なんて毒々しい! 本当に食えるのか!? 食っていいのかこれ!?)

同僚「あ、でもうまい!」モグッ

「家内の料理は見た目はまずいけど、中身はうまいんだよ」

「見た目はまずい、は余計よぉ」

80 : 以下、?... - 2018/09/19 23:42:43.772 ekOu428X0 54/111

「そろそろマムシ酒でもどぉう?」

同僚「え……!」

「いや、普通でいいよ、普通で。ビールにしてくれ」

「じゃ、マムシビールにするわぁ」

同僚(なんなんだ、マムシビールって……)

「分かったわ」スタスタ…

同僚「そういや、奥さんとはどうやって知り合ったんだ?」

「実は……合コンなんだ」

同僚「合コン!? へえ、ちょっと意外……」

「当時俺はまだ薬学部の学生で、あいつは毒師見習いだった……」


…………

……

81 : 以下、?... - 2018/09/19 23:45:37.829 ekOu428X0 55/111

~回想~

ウェーイッ!

学生「今日は飲んで騒ごうぜ!」

女子大生「お互い自己紹介してこうよ!」

ワイワイ…

……

「えーと、薬学部に通ってます。将来は薬剤師になるつもりです」

「あたしは毒師見習いやってます……キヒッ」

(薄気味悪い女だ……。毒を擬人化したらこんな感じじゃないのかな)

(自分の薬で世界中の人を救ってやるってツラしてるわねえ……気に食わないわ、こういう奴)

82 : 以下、?... - 2018/09/19 23:47:59.977 ekOu428X0 56/111

ワイワイ… ガヤガヤ…

(結局みんなからあぶれて、話し相手がこの毒女だけになってしまった……)

(忙しい中やってきたってのに、なんてザマだ……)

「……あのさ」

「んん?」

「聞きたかったんだけど、毒師ってなに?」

「よくぞ聞いてくれました。読んで字の如く、毒のエキスパートよ」

「あたしの一族は、先祖代々毒師の家系でね」

「昔は、政府筋からのヤバイ仕事も結構引き受けてたみたいなの」

「だから国からも存在を認められてるのよぉ~、すごいでしょ?」キヒヒ…

「ふうん……」

(本当にそんな職業あるのかよ、うさんくせー……)


キャァァァ…


「ん?」

84 : 以下、?... - 2018/09/19 23:51:23.352 ekOu428X0 57/111

酔客「なんだと、てめえ! やんのかコラァ!?」

学生「ひっ……!」


「どうしたんだ!?」

女子大生「学生君が、あの酔っ払いの顔見て笑っちゃって……そしたら……」

ドヨドヨ…

「…………」

「よぉし、それなら……」ゴリゴリ…

「あたしの出番ねぇ」ゴリゴリ…

女子大生「二人して、なにかの調合を始めたわ!」

86 : 以下、?... - 2018/09/19 23:55:35.550 ekOu428X0 58/111

「ほら、少し大人しくしなさいな」パサッ

酔客「なんだこの粉!?」ゲホゲホッ

酔客「うっ! 体がシビれて……」ビクビクッ

学生「た、助かった……」

「ほら、特製の酔いざましだ! これを飲め!」ポイッ

酔客「!?」ゴクッ

酔客「あ……」スーッ

酔客「あー、気分が落ち着いてきた……。す、すみませんでした」

「…………」ホッ

「キヒヒ、やったわねぇ」

「うん!」

「イェーイ!」パシッ

87 : 以下、?... - 2018/09/19 23:57:29.946 ekOu428X0 59/111

……

…………


「というわけさ」

「それから、何度も二人で色々調合したりして……」

同僚「へぇ~」

「デートで、山に薬草や毒草を採取しに行ったり……」

同僚(どんなデートだよ)

「やがて、俺が『毒と薬で一緒になりましょう』ってプロポーズして……」

同僚「ヒュー、やるじゃん!」

「彼女のお義父さんはおっかなかったなぁ……」

88 : 以下、?... - 2018/09/19 23:59:17.534 ekOu428X0 60/111

同僚「二人はまさに毒にも薬にもなる夫婦、だな」

「お、うまいこというな」

「キヒヒヒ……盛り上がってるわねえ」

「二人とも~、マムシビール持ってきたわよぉ~」ドンッ

同僚「うおっ!」







おわり

90 : 以下、?... - 2018/09/20 00:04:21.704 /vLobsqw0 61/111

第七話『嫁、フードファイターになる』



― 自宅 ―

「ねえあなた、高級レストラン行かない?」

「なんでまた、いきなり」

「あたし、今度ある国の王様と食事するのよ。それで下見しておこうと思って」

「ええっ!?」

「ただし毒味役でね。その国は毒味の文化があるらしいから」

「毒師として依頼を受けたってわけか」

「そうそう。あ、お食事券もらってるからもちろんタダよぉ~」ピラッ

「おおっ、じゃあ久しぶりに二人で外食しようか」

91 : 以下、?... - 2018/09/20 00:06:48.235 /vLobsqw0 62/111

― レストラン ―

(こういうところ来るのはじめてだから緊張するな……)

(俺の嫁はどうかな?)チラッ

「キヒッ、キヒヒッ……キヒッ……」

(メチャクチャ緊張してらっしゃる!)

料理人「いらっしゃいませ。本日はコース料理となっておりますので、どうぞごゆっくり」

「は、はい!」

モグモグ… パクパク…

「うん、うまい!」

「キヒッ、おいし~い!」

料理人「ありがとうございます」

92 : 以下、?... - 2018/09/20 00:08:52.275 /vLobsqw0 63/111

「今度、海外の王様が来られるだけあって、素晴らしいレストランですね」

料理人「当店が選ばれたことは光栄に思っています」

料理人「あなたがたこそ、とてもいい夫婦でいらっしゃる」

料理人「一緒にお食事をされている姿がとても絵になっていましたよ」

「どうも……」

「キヒヒ、照れちゃうわぁ~」



「いいレストランだったな」

「ええ、とってもおいしかった!」

「毒を盛られることなんかないだろうけど、毒味役頑張れよ」

「うん!」

93 : 以下、?... - 2018/09/20 00:11:08.907 /vLobsqw0 64/111

当日――

― 自宅 ―

「じゃ、行ってきま~す」

「ワン、ワン!」

「どうした、毒ドッグ?」

「珍しいわねえ、こんなに吠えるなんて」

「…………」

「俺も行くよ。毒ドッグと一緒に、近くの公園で待ってる」

「キヒヒ、あなたも心配性ねえ。まあいいけど。毒味が終わったら一緒に帰りましょ」

「ワォン!」

(なんだか嫌な予感がする……)

95 : 以下、?... - 2018/09/20 00:14:22.884 /vLobsqw0 65/111

― レストラン ―

プルルルル…

料理人「はい、もしもし。レストラン○×ですが」

『毒を盛れ』

料理人「は?」

『今日国王が来たら、国王の食事に毒を盛れ。毒はレストランに届ける』

料理人「なにいってるんだ、あんた? イタズラなら切るよ! こっちは忙しいんだ!」

『イタズラなんかじゃないさ……』

料理人「!」ゾクッ…

『もし、やらなければ……』

96 : 以下、?... - 2018/09/20 00:17:20.641 /vLobsqw0 66/111

アハハハハ… キヒヒヒヒ…

国王「おぬしが今日の毒味役、ジャパンのポイズンレディか」

「キヒヒヒ……今日はよろしくお願いします」

国王「あまり緊張せず、余と食事を楽しんでくれたまえ」

「は~い」


料理人「…………」スタスタ

料理人「お、お料理を……お持ち、しました……」


国王「おお、ありがとう」

(……ん?)

97 : 以下、?... - 2018/09/20 00:19:24.052 /vLobsqw0 67/111

料理人「…………」ガタガタガタ…

料理人「ど、どうぞ」コトッ

国王「オォ~、これはおいしそうだ!」

「…………」

「じゃあ毒味させてもらうわねえ」

国王「よろしく頼む。このレストランを疑うわけではないが、我が国の作法なのでね」

料理人「…………!」

料理人「あ、あのっ!」

国王「なにかね?」

99 : 以下、?... - 2018/09/20 00:22:31.438 /vLobsqw0 68/111

「シーッ」

料理人「え……!?」

「いただきます」モグッ

料理人(ああっ! あんなに食べたら!)

「うん、おいしぃ~! おいしすぎるわぁ~!」

「こうなったら全部食べちゃおっと!」パクパクムシャムシャ…

料理人「えっ!?」

国王「全部!?」

国王「あの……余の分は?」

「ない!」

国王「ないの!?」

「キヒヒ、どれもおいしいわぁ~」ムシャムシャ…

国王「オ~、ジャパニーズ・ポイズンレディは恐ろしい!」

料理人(どうして!? どうして平気なんだ!? 間違いなく毒は盛ったのに!)

102 : 以下、?... - 2018/09/20 00:26:48.259 /vLobsqw0 69/111

「全部食べちゃった」ゲフッ

「王様におかわり持ってきて。今度は“余計な調味料”入れないでね」

料理人「! ……は、はいっ!」

国王「う、うーむ……見事! ここまでされると、かえって感心してしまう」

国王「君はグッドフードファイターだ! 日本に来てよかった! アリガトウ!」

「キヒヒ、どういたしましてぇ~」

103 : 以下、?... - 2018/09/20 00:30:35.091 /vLobsqw0 70/111

料理人「大丈夫ですか!? 早く病院に――」

「平気よぉ~」

「あたしが調合した猛毒ならともかく、あんな適当にその辺の毒を盛っただけの毒なんかじゃ」

「あたしは死なないわ。かえって栄養になっちゃうくらいよ。キヒヒヒ……」

料理人「は、はぁ……」

「それより……なんであんなことしたの?」

「もしも毒を盛ったことが知られたら、あなた大変なことになってたわよぉ」

料理人「実は……妻と娘をさらわれて……脅されて……。散々迷ったんですが……」

料理人「やはり……家族が大事で……言われるがまま毒を……」

「なるほどねえ」

料理人「あなたがいてくれなければ私は人殺しになるところでした……ありがとうございます!」

「この前おいしい料理を食べさせてもらったお返しよ」

料理人「ですがこうなった以上、妻と娘の命はきっと……」

「大丈夫よ! あたしには頼りになる夫と犬がいるんだから!」

104 : 以下、?... - 2018/09/20 00:33:33.687 /vLobsqw0 71/111

「……イマイチ状況がつかめないが、料理人さんの奥さんと娘さんを捜すことになってしまった」

「二人の衣服を嗅いでくれ!」

「…………」クンクンクン

「どうだ? 毒ドッグ」

「ワン!」

「おお、さすが警察犬になるはずだっただけのことはある!」

「よぉーし、いくぞ毒ドッグ!」

「ワンワン!」タタタタタッ

「ちょっ、速い……! もっとゆっくり……!」ヨタヨタ…

106 : 以下、?... - 2018/09/20 00:36:32.896 /vLobsqw0 72/111

― 倉庫 ―

黒マント「国王が死んだという知らせが入ってこない……」

黒マント「どうやら、お前たちの主人はしくじったようだな……あるいは怖気づいたか……」

黒マント「ならば気の毒だが、お前たちには死んでもらう」

「ひ、ひいいっ……」

「助けて……」

黒マント「俺の毒ガスでせいぜい苦しんで死んでいけ……」シュゥゥ…


ワンワン…


黒マント「――ん?」

108 : 以下、?... - 2018/09/20 00:38:16.563 /vLobsqw0 73/111

「ワォンワォン!」

「警察だ!」


黒マント「なぜここが……!? なんでこんな早く……!?」

黒マント「ちっ、さらばだ!」バサァッ





「ワン! ワン!」

「大丈夫ですか!?」

「は、はいっ!」

「もう少しで殺されるところでした。ありがとうございます……」

110 : 以下、?... - 2018/09/20 00:40:53.541 /vLobsqw0 74/111

……

「お手柄だったぞ、毒ドッグ!」ナデナデ

「アオ~ン!」

「警察によると、あの黒マントの男はダークヒーロー気取りで事件を起こしてる危険人物らしい」

「特に毒を使用して、何かをやらかすことが多いそうだ」

「日本で他国の国王が毒殺されたなんてなったら大問題だからな……今回はそれを狙ったんだろう」

「恐ろしい奴ねえ……社会にとっての猛毒だわ」

「ああ、自分の力を誇示したくてたまらないんだろう。二度と関わりたくないもんだな」

「でも……また出会いそうな気もするわねぇ」







おわり

111 : 以下、?... - 2018/09/20 00:45:44.590 /vLobsqw0 75/111

第八話『中毒になる毒』



― 自宅 ―

「ふんふ~ん」ゴリゴリ…

「なに作ってるんだ?」

「中毒になる毒よ。ほら、“○○中毒”ってやつ」ゴリゴリ…

「今風にいうと、依存症にする毒か」

「そうそう、依存症」ゴリゴリ…

「だけど、そんなもの何の役に立つんだ?」

「たとえば、アル中の人を水の依存症にすれば、酒じゃなく水を飲むようになるわ」ゴリゴリ…

「なるほど……そういう風に使うわけか」

「でも、水も飲みすぎると、それこそ血が薄まって水中毒で死んじゃうから注意が必要だな」

「そうねぇ、用法・用量は微調整しないといけないわね」ゴリゴリ…

112 : 以下、?... - 2018/09/20 00:47:10.897 /vLobsqw0 76/111

ある日――

「……なによぉ!」

「なんだよ!」

「そんな言い方ないでしょ!」

「君こそ……もっと言い方があるだろう!」

「フン!」プイッ



「何よぉ……あの人ったら……」

「あ……そうだわぁ……」キヒヒッ

113 : 以下、?... - 2018/09/20 00:49:36.103 /vLobsqw0 77/111

「あなたァ、これ飲んでみて?」

「なにこれ?」

「仲直りの印よぉ」

「……ありがとう」グビッ

(キヒヒッ……飲んだわぁ~)

(あたしの中毒になるよう調整した、“中毒になる毒”をね!)

(あたし中毒になってしまうがいいわァ~)

114 : 以下、?... - 2018/09/20 00:51:24.497 /vLobsqw0 78/111

「今日のご飯は?」

「チャーハンよ」

「お、嬉しいなぁ。仲直りしてよかったよ」

「…………?」

(いつもと変化がないわね……たしかに飲ませたはずなのに)

「うん、うまい。相変わらず色は毒っぽいけど」モグモグ

(まったく変化が見られない……なんで!? どうしてよぉ!?)

115 : 以下、?... - 2018/09/20 00:54:09.818 /vLobsqw0 79/111

「じゃ、おやすみ……」モゾッ



(なによぉ……すぐに寝ちゃって)

(あたし中毒になってるはずなのに……)

「カモン! カモン!」

「……アホらし」

「どういうことなのよぉ~!!!」

117 : 以下、?... - 2018/09/20 00:56:56.598 /vLobsqw0 80/111

数日後――

「ごめん、また来たいってうるさくてさ」

同僚「いやー、すみませんね。またお邪魔しちゃって」

「いえいえ、それより聞きたいことがあるの」

同僚「なんですか?」

「実はあたし、あの人に“あたし中毒”になるよう毒を飲ませたんですけど」

「なにも変わらないのよね」

「どうしてかしら? あたしってそんなに魅力ない?」

同僚「ああ……そんなの決まってますよ」

119 : 以下、?... - 2018/09/20 00:59:27.045 /vLobsqw0 81/111

同僚「あいつはずっとあなたの中毒だからですよ!」

「!」

同僚「あなたと喧嘩した時とあいつは、ずっと会社でも落ち込んでて……ヤバイくらいに」

同僚「会社にある薬品で自殺しちゃうんじゃないかと思うほどでしたよ」

「…………」

「おーい、二人して何話してるんだ?」

「な、なんでもないわ、キヒヒ……」

「?」

(これだから……あたしもあなた中毒から抜けられないのね、きっと)







おわり

121 : 以下、?... - 2018/09/20 01:04:33.655 /vLobsqw0 82/111

最終話『毒をもって毒を制す』



― 自宅 ―

「いよいよ今日ねえ。あなたの会社の新薬発表会」

「ああ、医学界の著名人や厚労省のお偉いさんも来るからな……緊張するよ」

「テレビ放映もされるんだっけ?」

「うん、そうみたい」

「会場はこの近くだし、君も来たら? テレビに映れるかもよ」

「あたしはいいわよぉ。薬の発表会に毒師が行ったら、変な化学反応起こりそうじゃない」

「ハハッ、それもそうか」

122 : 以下、?... - 2018/09/20 01:06:27.003 /vLobsqw0 83/111

「ワン、ワン!」

「あら、毒ドッグも行きたいみたい」

「って、さすがに連れてけないわよねえ。いくらいい子だとはいえ」

「うーん……」

「いいよ、連れてってあげる。会場に犬をつないでおくスペースくらいあるだろ」

「あら、あなた優しいのね」

「うん……」

(毒ドッグのこの吠え方……多分なにかを感じてるに違いない……)

123 : 以下、?... - 2018/09/20 01:08:29.325 /vLobsqw0 84/111

昼過ぎ――

「そろそろ発表会ね……」

「“薬を食らわば皿まで”でも食べながら、愛する夫を見物見物」ボリボリ

テレビ『会場には大勢のマスコミと医療関係者が集まっています!』

テレビ『中には大臣の姿も……』

「む~……大臣なんかどうでもいいのよぉ。あたしの夫を出して!」

「誰を映すべきか分かってないんだから……」バリボリ

124 : 以下、?... - 2018/09/20 01:10:37.646 /vLobsqw0 85/111

テレビ『さぁ、いよいよ新薬の発表会が始まります!』

テレビ『まずは製薬会社の社長からの挨拶です!』

「あ、あの人が一瞬映ったわ! キャー、シビれちゃうぅ~! 社長はどうでもいいわ!」

テレビ『ザワザワ……』

「?」

(どうしたのかしら?)

125 : 以下、?... - 2018/09/20 01:14:57.663 /vLobsqw0 86/111

テレビ『ブシュゥゥゥゥゥゥ…』

テレビ『なんでしょう? イベントでしょうか? 会場にガスのようなものが……』

テレビ『うっ、ゲホッ、ゲホッ! 体が……』

テレビ『会場の人達がバタバタと倒れ……ううっ!』

(なにこれ!? 毒!?)

「あなた……」ガタッ

「あ、あなたァァァァァ!!!」

127 : 以下、?... - 2018/09/20 01:17:08.457 /vLobsqw0 87/111

― 会場 ―

黒マント「クックック……新薬の発表会で、大物たちが毒でバタバタ死ぬ……」

黒マント「まさに喜劇だな」

黒マント「たとえ、すぐ救急車がやってきても、無能な医者どもではどうにもなるまい」

黒マント「せいぜい苦しんでから死ぬがいいさ」バサッ

黒マント「俺の力で世の中が変わっていくこの感覚……たまらんなァ!」


「ガルルルルル……」


黒マント「ん?」

129 : 以下、?... - 2018/09/20 01:20:12.761 /vLobsqw0 88/111

「ガルルル……ワンッ!」

黒マント「うおっ!? なんでこんなところに犬が!? どこのバカ飼い主だ……!」

「ガァウウッ!」

黒マント「ちっ!」

バキッ!

「ギャウッ!」ドサッ

黒マント「ついでに痺れガスも浴びせてやる!」ブシュゥゥゥゥゥ…

「グウウ……ガァァァァァッ!」ガブッ

ビリッ

「グルルゥ……」ドサッ…

黒マント「このクソ犬……マントに噛みついてから気絶しやがった!」

黒マント「とっとと退散せねば!」

131 : 以下、?... - 2018/09/20 01:23:41.094 /vLobsqw0 89/111

タタタタタッ

「あなたァァァァァ!!!」

「……き、来てくれたのか」

「うっ、ゲホッ、ゲホッ」

「しっかりして!」

「大丈夫だ……長く苦しめようって魂胆なのか、すぐ死ぬような毒じゃない……」

「だが、手当てが遅れれば、会場の全員が死ぬだろう……」



同僚「うぅぅ……体がぁ……」

上司「う、うげぇ……」

「う~ん……」 「た、助け……」 「オエエッ!」

132 : 以下、?... - 2018/09/20 01:26:46.519 /vLobsqw0 90/111

「でも大丈夫……毒を吸いながら……俺は分析して……」

「毒の成分は、だいたい分かった……。ここにメモしてある……」サッ

「すごいわ、あなた!」

「あとは、解毒薬のレシピ、書くだけ……」プルプル…

「そしたら、君が……調合してく、れ……」

「うぅ……」ガクッ

「あなた、しっかりして! ああっ……」

(気を失っちゃってる……。この人が倒れちゃった今、あたしが……解毒しないと……)

133 : 以下、?... - 2018/09/20 01:29:11.993 /vLobsqw0 91/111

(どうしよう……解毒は得意じゃないのに……)

(でも、やるしかないわ!)

(あたしがやらなきゃ、みんな……死んじゃうんだから!)

ゴリゴリ…

「あなた、これ飲んで!」ドロッ…

「…………」ゴクッ

「…………」シーン…

(ダメだわ! 解毒できない!)

(ううう……毒なら作れるのに、毒なら!)

(……ん、毒なら?)

134 : 以下、?... - 2018/09/20 01:32:44.489 /vLobsqw0 92/111

「――そうだわ!」

(毒を解く薬を作れないのなら、毒を制する毒を作ればいい!)

(毒をもって毒を制すのよ!)ゴリゴリ…

ゴリゴリ… ゴリゴリ…

「できた!」



「あなた、これ飲んで!」

「…………」

(完全に気を失っちゃってる……)

「しょうがないわね……口移しで……」ブチュッ

「ううっ……」ゴクッ

「ゲェボォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

135 : 以下、?... - 2018/09/20 01:35:22.156 /vLobsqw0 93/111

「ハァ、ハァ、ハァ……な、なんだ今の!?」ゲホゲホッ

「やった、大成功!」

「いったいなにを飲ませたんだ!? 死ぬかと思った!」

「あたしが調合した猛毒よ」

「猛毒を飲ませて、体内の毒を全部排出させたの!」

「猛毒を……!」

「相変わらずムチャクチャするなぁ、君は」

「でも助かったよ……ありがとう。しばらくすれば動けるようになりそうだ……」

「キヒヒヒ……」

「さあ、他の人たちも助けてあげないとねえ」

136 : 以下、?... - 2018/09/20 01:37:08.612 /vLobsqw0 94/111

「ゲボアァァァァァァァァァァッ!!!」

「ウゲェェェェェェェェェェェッ!!!」

「グボアァァァァァァァァァァッ!!!」

ウゲェェェェ… グゲアァァァァ… ガァァァァァ… オゲェェェェェ… ブハァァァァァ…




「キヒヒヒ、みんなあたしの毒で回復してくわぁ~」

「……とてもそういう光景には見えないけどね」

138 : 以下、?... - 2018/09/20 01:41:26.067 /vLobsqw0 95/111

ピーポーピーポー……



「死人が出ることはなさそうだ……君のおかげだよ!」

「うん……だけど、毒ガスまいた奴に逃げられちゃったのは悔しいわねえ」

(たしかに……次はもっと毒性の強いガスを使うだろうし、そうなったら大惨事になる)

「ワン!」

「どうした、毒ドッグ? ……ケガしてる! 早く動物病院に――」

「ワンワン!」ピラッ

「黒い布をくわえてるけど、まさか……犯人の遺留品?」

「ワオンッ!」

「ってことは、毒ドッグの鼻を頼りにすれば……」

「キヒヒ……毒をもって毒を制すのはこれからね!」

139 : 以下、?... - 2018/09/20 01:45:07.845 /vLobsqw0 96/111

― ホテル ―

テレビ『新薬発表会での毒ガス事件ですが、大勢が救急搬送されましたが、さいわい死者は出ず……』

テレビ『受け入れ病院の医師によると、現場での処置が適切だったと……』

黒マント「……なんだと!? 死者が出てない!?」

黒マント(信じられん……よほど優れた医者が現場近くにいたのか!?)

黒マント(テロをよりドラマチックなものにするため、より奴らを長く苦しませようと)

黒マント(毒性が弱めのガスにしたのは失敗だったか……)チッ

140 : 以下、?... - 2018/09/20 01:47:08.155 /vLobsqw0 97/111

黒マント「まぁいい、次はもっと強力な毒ガスで――」


シュゥゥゥゥゥゥゥゥ…


黒マント「――なんだ?」

黒マント(ドアの隙間から……ガス!? しまった、少し吸っちまった!)

黒マント(だが、体に異常はない……ただの目くらましか)

黒マント(早く外に出て……)ガチャッ

黒マント「!?」ズキッ

142 : 以下、?... - 2018/09/20 01:49:43.557 /vLobsqw0 98/111

ズキッ ズキッ ズキッ

黒マント「いたたたたたた!」ズキッ

黒マント「あだだだだだだだっ!」ズキッ

黒マント「な、なんだ!? 一歩動くたびに激痛が走る!」

スタスタ…

「それ……TVゲーム風の毒よぉ」

「ただし、あるオタク君に飲ませた毒よりずっと激痛にしてあるけど、ね」キヒッ

黒マント「なんだ貴様は……?」

「毒師よ」

黒マント「毒師……!?」

「あたしの夫を毒殺しかけた罪……体で償ってもらうわぁ」ポイッ

ボウンッ!

黒マント「煙幕!? 今度はなんだ!?」

143 : 以下、?... - 2018/09/20 01:52:32.545 /vLobsqw0 99/111

黒マント「か……」

黒マント「かゆい、かゆい、かゆいぃぃぃぃぃぃぃ!」ボリボリボリ

「キヒヒ……“かゆいところに手がと毒”ならぬ“全身かゆくなる毒”よ」

黒マント「こ……のっ! 俺の毒ガスでっ!」ブシュゥゥゥゥ…

「キ~ヒヒヒ、無駄よぉ。あんたが調合したような毒じゃ、あたしは殺せないわ」

「毒を悪用しかできないような輩は、しょせん三流なのよ」

黒マント「な、なんだとぉ……!?」

「じゃ、次ね」ポイッ

ボウンッ! ボウンッ!

黒マント「うわっ! ゲホッ、ゲホッ!」

144 : 以下、?... - 2018/09/20 01:55:12.878 /vLobsqw0 100/111

黒マント「うわぁぁぁぁぁっ! 鬼が見える! これは幻か!?」

黒マント「毒を、もっと毒をくれぇぇぇぇぇっ!」

「キーヒヒヒッ! キーヒヒヒッ!」

黒マント「ぐ、ぐぞっ……!」

黒マント(まずい……! 早くここから脱出しないと――)ズリズリ…

「大丈夫ですか?」

黒マント「誰だお前は!?」

「あなたを助けに来た者です! すみません、家内がやりすぎてしまって……」

黒マント「家内ィ? 夫婦か、お前ら!」

145 : 以下、?... - 2018/09/20 01:57:19.668 /vLobsqw0 101/111

「この皿……結構CMでもやったんで、ご存じですよね?」

黒マント「これは……たしか“薬を食らわば皿まで”とかいう……」

「その通り!」

「これにはあなたが吸った毒の解毒作用があります」

「さあ、食べて下さい! 俺は妻の暴走を止めにきたんです!」

黒マント「あ、ありがとう……!」ガブッ

ガチンッ

黒マント「……あ?」

146 : 以下、?... - 2018/09/20 01:59:51.937 /vLobsqw0 102/111

黒マント「これ……ただの皿じゃん! 本物の皿じゃん!」

黒マント「おかげで歯が……あああぁぁぁぁぁ~……」ボロッ…



「あ、あなた……結構えげつないことするのね」

「だって、王様の件の時、こいつのせいで君は毒を食うはめになったわけだろ?」

「絶対許せるわけないだろ」

(この人……ほとんど怒ったことないけど、怒らせると怖いのね)

(良薬口に苦し、とはよくいったもんだわ……)

148 : 以下、?... - 2018/09/20 02:03:26.083 /vLobsqw0 103/111

黒マント「痛いし、かゆいし、幻は見えるし……ああああああっ!」

黒マント「…………」ギロッ

黒マント「なめるなァァァァァッ!!!」

ガシッ! ガシッ!

「ぐえっ!」

「きゃあっ!」

黒マント「俺が吸った毒は、どうせ致死性のない毒なんだろ? だったら怖くねえ!」

黒マント「お前らを絞め殺してから……ゆっくりと治療してやるよ!」ググッ…

「キ、キヒヒ……」

黒マント「なに笑ってんだ!?」

「残念だったな……。俺たちには最後の“毒”が残ってる」

黒マント「なに?」

149 : 以下、?... - 2018/09/20 02:06:24.987 /vLobsqw0 104/111

「ガァウッ!」バッ

黒マント「こ、この犬は!? さっきの――」

「ガァウッ!」グワッ

黒マント「や、やめっ!」

「ガアアアアアッ!」ガブッ

黒マント「ちょっ、どこに噛みつく……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



「さっすが、毒ドッグ! やっちゃえやっちゃえ!」

「“毒をもって毒を制す”……大成功だな!」

150 : 以下、?... - 2018/09/20 02:08:32.224 /vLobsqw0 105/111

「じゃあ、久しぶりにやる?」

「なにを?」

「これよぉ」サッ

「あっ、やろうか!」

「イェーイ!」パシッ

「ワン、ワン、ワン!」

「おっと、悪かった。毒ドッグも入れてもう一回!」

パシッ



…………

……

151 : 以下、?... - 2018/09/20 02:12:34.145 /vLobsqw0 106/111

― 会社 ―

「…………」ソワソワ

プルルルルル…

「……はい! 分かりました!」

「すみません、早退させて頂きます!」

上司「おお、そういえば今日だったな」

同僚「早く行ってやれ!」

同僚「薬と毒を調合した“成果”が、お前を待ってるぞ!」

「茶化すなよ!」

152 : 以下、?... - 2018/09/20 02:15:55.612 /vLobsqw0 107/111

― 病院 ―

義父「やぁ」ズゥゥゥン…

「お義父さん、連絡を頂きましてありがとうございます」

(相変わらず禍々しいオーラだ……さすが日本最高の毒師!)

義父「娘が待っているよ。行ってあげてくれ」

「はいっ!」

義父「ところで、孫はぜひ毒師に……」

「あいにくですが、俺は本人がやりたいことをやらせる方針でいきますよ、お義父さん」

義父「うむ、それでこそ我が娘が見込んだ男だ」

(もしかして今、ちょっと試された?)

義父「それにしても、孫の顔というのはやはり可愛いねえ、ギヒヒヒ……」

(ちなみに笑い方そっくり……)

154 : 以下、?... - 2018/09/20 02:19:15.156 /vLobsqw0 108/111

「キヒヒ……来てくれたのね」

「もちろんじゃないか! すっ飛んできたよ!」

「ところで、子供は?」

「そこで眠ってるわ……」

赤子「すぅ、すぅ……」

「おおっ、可愛い!」

「きっと毒ドッグも、弟ができたように喜ぶと思うよ」

「そうねえ、あれで世話焼きなところあるしねぇ、毒ドッグ」

155 : 以下、?... - 2018/09/20 02:21:41.695 /vLobsqw0 109/111

「この子は将来、毒になるか、薬になるか、どっちかしらね?」

「たとえ毒にも薬にもならない人間でもいいよ。元気でさえあれば」

「キヒヒ、それはそうねえ」

「あ、そういえば――」

「……ん?」

「あたし、ちょうど毒草の葉っぱを持ってたの」サッ

「俺は薬草の葉っぱを持ってたよ」サッ

「ねえ、赤ちゃんに近づけたらどっちを握るか、試してみましょっか」

「でも、毒草を握っちゃったら……」

「大丈夫よぉ、さわっただけじゃなんともないやつだから」

「それなら、ちょっとやってみようか」

156 : 以下、?... - 2018/09/20 02:24:16.227 /vLobsqw0 110/111

「お~い、息子よ。毒草と薬草、どっちに興味ある?」スッ

赤子「ばぶ、ばぶ」スッ

ニギッ…

「おおっ……両方を同時に握ったよ。なんて欲張りな」

「キヒヒ、こりゃ毒にも薬にもなる子に育つかもしれないわねぇ……」







おわり

157 : 以下、?... - 2018/09/20 02:25:48.835 /vLobsqw0 111/111

以上で完結です
ありがとうございました

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