1 : 以下、?... - 2018/09/02 19:54:46.609 gPyGvWBRD 1/17

喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    荒木桜(25) 一般職

    【バブルディスコ】

    ホーッホッホッホ……。」

元スレ
喪黒福造「バブル文化を味わえるディスコへようこそ」 女性一般職「わ、私はそういうの結構ですから……!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1535885686/

4 : 以下、?... - 2018/09/02 19:56:43.561 gPyGvWBRD 2/17

東京。株式会社「八光企画」本社ビル。

室内でパソコンに向かう社員たち。その中には、女性のOLたちの姿もある。OLたちは、八光企画の制服を着ている。

テロップ「荒木桜(25) 八光企画社員・一般職」

桜の側に近寄った一人の男性上司が声をかける。

テロップ「石田正和(51) 八光企画部長」

石田「君、今日も綺麗だね」

むっとした表情になる桜。

(また、こいつか。いつもいつも、セクハラじみたことを言って……)


夜。居酒屋。若い部下たちを集め、飲み会が行われている。石田の方を見つめる桜。

(それにしても、このおっさんは本当に飲み会が好きだねー……。まさに、バブル世代の典型例……)

若い部下たちが集まった席で、酔っ払った石田が自慢話をしている。

石田「最近の若い奴らは元気がないな!俺が若いころは、残業も気にせずバリバリ働いて、その上思い切り遊んだものだぞ!」

(あんたが若いころと、今の時代は違うって……。いつまで過去を引きずっているんだよ。このおっさん……)

8 : 以下、?... - 2018/09/02 19:58:44.128 gPyGvWBRD 3/17

ある日の朝。八光企画本社ビル。出社する社員たち。

更衣室。女性OLたちが八光企画の制服を身にまとう。着替えをしながら会話をするOLたち。OLたちの中には桜もいる。

女性社員A「バブル世代のおっさんたちって、本当にクズばかりだよねー」

女性社員B「そうそう。無能で使えないのに、無駄に自信過剰でさー」

「しかも、そういった『バブルさん』が上司ってのが悪い冗談そのものじゃん」

女性社員C「そうだよ。仕事ができないのにコミュ力は抜群で、上司に取り入るのがうまい」

女性社員C「その上、部下や若い世代に責任を押し付けて、成果は自分の手柄ってのがあいつら」


仕事中の桜。彼女は、若手社員をこっぴどく叱りつける石田の姿を目にする。

(こいつは、自分より若くて仕事ができる社員をパワハラするのが大好きな人間……)

桜の頭の中に、石田やその他大勢の管理職たちの顔が思い浮かぶ。

(この会社にいるバブル世代の管理職たち……。本当にろくな人間がいない……)


更衣室。女性社員と会話をする桜。

テロップ「道重沙理奈(25) 八光企画社員・一般職」

沙理奈「ねぇ、荒木さん。私たちと同期で入社したあの人、会社を辞めたらしいよ」

9 : 以下、?... - 2018/09/02 20:00:51.212 gPyGvWBRD 4/17

「えっ、そうなの!?」

沙理奈「『若手社員は入社から3年で会社を辞める人が多い』ってジンクスは本当だったんだねぇー」

沙理奈「でもさー……。こういう大手を辞めたって、うまく再就職できる当てなんかないのに」

沙理奈「だから、私は何が何でも八光企画にしがみつく。大手の正社員って何かとおいしい身分だからねぇ」

(私だって、内心では辞めたくてたまらないよ。こんな会社……)


夜。駅のキヨスクでワンカップを買う桜。彼女はベンチに座る。

(こんな日は……、やけ酒でも飲みたい気分だよ……)

ワンカップを一気飲みする桜。


プラットホーム。帰りの電車を待つ通行人たち。プラットホームの前列には、酔っ払って顔を赤らめた桜がいる。

足元をふらつかせた桜が、プラットホームから足を滑らせる。線路の下へ落ちそうになる桜。

「キャアッ!!」

気がつくと、桜の右手をある人物――喪黒福造が握っている。彼女は間一髪で助かったようだ。

喪黒「お嬢さん、お怪我はありませんか?」

「あなたは……」

11 : 以下、?... - 2018/09/02 20:03:02.525 gPyGvWBRD 5/17

ベンチに座り、会話をする喪黒と桜。

「最近の中高年の人たちは、ろくな人間がいない……。さっきまで、そう思っていましたけど……」

「少しは見直しましたよ。あなたのような人がいるのですから……」

喪黒「どうやらあなた……。人間関係で何かストレスを抱えているようですなぁ。それでやけ酒を飲んで……」

喪黒「もしかすると、会社内で上司たちに対する不満があるのではないですか!?」

「あ、あなたのおっしゃる通りですよ!そこまで人のことを見抜けるなんて……」

喪黒「いやぁ……。仕事柄、長年、人間の観察を行ってきたおかげでしてねぇ……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

「ココロのスキマ、お埋めします!?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

「そ、そうなんですか……。人生相談か、何かみたいな感じなんですか?」

喪黒「どちらかと言うと、ボランティアみたいなものですよ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか?」


BAR「魔の巣」。喪黒と桜が席に腰掛けている。

「八光企画に入社してから3年……。私は、バブル世代の上司たちに違和感や嫌悪を覚えるようになりました」

12 : 以下、?... - 2018/09/02 20:05:18.391 gPyGvWBRD 6/17

喪黒「無理もありません。何しろ……。バブル世代の人たちと、今の若い人たちは価値観が全く異なっているのですから……」

「そうですよ!でも、バブル世代の連中は、若い世代との価値観の違いを全く分かろうとせず……」

「自分たちの価値観ややり方を平気で押し付けてくるんですよ!しかも、あいつらは、自分が正しいと思っている……」

喪黒「ですが……。若年層の世代と年配層の世代の価値観の対立は、いつの時代もあるものです」

喪黒「荒木さんの世代も、年を取って組織を率いる立場に立った時……。若い世代から批判される日がくるのですから……」

「それは分かっていますよ。とはいえ……、バブル世代のダメさは他の世代に比べると群を抜いていますから……」

「日本経済が一番元気があった時期に、実力以上の恩恵を受けたのがあの世代でしょう?」

「だから、バブル世代入社組ってのは本当にアレな人間が多いんですよ。特に、部長の石田……」

喪黒「荒木さん。あなたはもしかすると、部長の石田さんのことをよく思っていないのですね?」

「はい。あいつはバブル世代の特徴を絵に描いたような人物で……。その上、ビジネスマンとしても……」

「人間としても……、最低最悪の部類の男なんです。なぜなら、あいつはですね……」

喪黒「そうなのですか、大変ですねぇ……。でも……。あなたは出社するたびに、石田さんと毎日顔を合わせるのですから……」

「ええ、全く……。私にとっては本当に苦痛ですよ」

喪黒「おそらく、荒木さんは会社を辞めたいと何度か思ったはずでしょう?」

「もちろんですよ。でも……。会社を辞めて、他のいいところに就職できる当ては全くないですから……」

「結局、この会社にしがみつくしかないんですよ。毎日、苦痛に耐えながら我慢に我慢を重ねて……」

13 : 以下、?... - 2018/09/02 20:07:37.717 gPyGvWBRD 7/17

喪黒「それじゃあ、ストレスがたまる一方でしょう?」

「そりゃあ、もう……」

喪黒「そんなあなたのために、いいものを紹介しますよ。ぜひ、私に着いて来てください」


喪黒に誘われ、外に出る桜。2人はいつの間にか、電車に乗っている。

喪黒「次の駅を降りれば、とってもいい場所がありますから」

電車を降りた喪黒と桜。ある住宅街。小さな山の坂道を2人は登っていく。

喪黒「着きましたよ……」

坂を登りきった場所に見えてきたのは……。「BUBBLE DISCO」の看板がついた金色のドーム型の建物だ。

ドームの窓からは、色とりどりの明かりが見える。

喪黒「ここは、『バブルディスコ』です。バブル期に流行したディスコミュージックに合わせ……」

喪黒「バブル期に流行した衣装に身を包んで、踊りを踊るダンスホールなのです。バブル文化を味わえるディスコへようこそ」

「わ、私はそういうの結構ですから……!!」

喪黒「『結構です』……ね。なるほど、『結構よさそうだから気にいった』という意味ですか……」

喪黒「じゃあ、中に入りましょう。あなたのために、これを渡しておきますから」

喪黒は桜に、数字が書かれた何かのカードを渡す。ドーム『バブルディスコ』の中に入る喪黒と桜。

14 : 以下、?... - 2018/09/02 20:10:03.959 gPyGvWBRD 8/17

女性スタッフたち「いらっしゃいませ」

喪黒と桜を出迎える2人の若い女性スタッフ。女性スタッフの服装は、肩パッドが入った青いスーツにミニスカートだ。

女性スタッフは2人とも、黒髪のロングヘアで太い眉毛をしている。彼女たちのファッションは、どう見てもバブル期のものだ。

女性スタッフの恰好を見て、目を丸くする桜。

喪黒「さあ、荒木さん。例のカードを出してください」

喪黒に促され、カードを出す桜。

女性スタッフたち「どうぞ、お入りください」

「一体、どういうことなんです!?」

喪黒「このカードは、『バブルディスコ』のメンバーズカードです」

喪黒「荒木さん。あなたはこれでもう、ここのダンスホールの会員ですよ」

「えっ!?私、もう会員になったんですか!?」

女性スタッフに案内され、ドーム内の廊下を歩く喪黒と桜。

女性スタッフ「では、更衣室へどうぞ……」

更衣室の中に入る桜。更衣室のドアの前には、喪黒と女性スタッフが立っている。

桜が、更衣室のクローゼットの扉をあけると……。

16 : 以下、?... - 2018/09/02 20:12:14.829 gPyGvWBRD 9/17

「あーーーーっ!!」

クローゼットの中には、女性用のボディコンが、これでもかとハンガーに掛けられている。

しかも、ボディコンの下には、ディスコ用の扇がいくつも用意されている。更衣室を出る桜。彼女は喪黒に詰め寄る。

「も、喪黒さん……!!私がバブル世代を心から嫌っていることは、ご存じのはずでしょう!!」

「それなのに……。私を、こんなバブル風味のところへわざわざ連れてきて……!!嫌がらせのつもりですか!!」

喪黒「いいえ、嫌がらせなんかではありませんよ」

「じゃ……、じゃあ……。なぜ、こんなことを……!」

喪黒「荒木さん。あなたは、上の世代に対してこう言っていましたね」

喪黒「若い世代との価値観の違いを全く分かろうとせず、自分たちの価値観ややり方を平気で押し付けてくる……と」

喪黒「それは、あなたたちの世代にも言えるでしょう。つまりですね、荒木さん……。上の世代を批評するならば……」

喪黒「まずは、彼らの価値観ややり方や文化について理解を深めるべきなのですよ。自ら、体験することによって……」

「うっ……!!」

喪黒「それにです……。荒木さん、あなたは堅物すぎるんですよ。くそ真面目なのはいいことですが……」

喪黒「清濁併せのむ心の広さも持ったらどうです?あと、ダイナミックさや、明るさや、派手さも人生には必要ですよ」

喪黒「……さあ、着替えを早く済ませてください。私たちは待っていますよ」

更衣室の中に戻る桜。桜はクローゼットの扉を開け、中にぎっしり詰まったいくつものボディコンを見つめる。

17 : 以下、?... - 2018/09/02 20:14:32.620 gPyGvWBRD 10/17

しばらく時間が経った後、更衣室から桜が出てくる。ピンク色のボディコンを身にまとい、薄紫色の扇を持つ桜。

喪黒「よく似合っていますよ。荒木さん」

女性スタッフに案内され、廊下を歩き続ける喪黒と桜。彼らは、大型のドアの前に立つ。女性スタッフがドアを開けると……。

「こ……、これは……!!」

桜が目にしたのは、広いホールだ。ミラーボール状のステージライトが、色とりどりの明かりで室内を照らしている。

ホールの中では、バブル風の服装や髪形をした若い男女たちが、ディスコミュージックに合わせて踊りを踊っている。

女性スタッフ「ホールの中でダンスを踊っている若者たちの姿は、3Dによる合成映像です」

女性スタッフ「つまり……。彼らの映像は、バーチャルリアリティが作り出した架空のものなんです」

「そ、そうなんですか……」

喪黒「上司との人間関係に悩んでいる荒木さんも、ここで思いきり踊ることで日ごろのストレスを発散できます」

喪黒「その上、このディスコでバブル文化に染まることにより、あなたはバブル世代への理解を深めることができます」

喪黒「それによって荒木さんは……。バブル世代の上司たちとの人間関係がうまくいくようになるはずです」

喪黒「しかも……。堅物で融通がきかない性格である、荒木さん自身の人間性を変える効果も発揮されます」

喪黒「つまり、バブルディスコは今のあなたにとってはいいことづくめなのですよ」

「そのために、喪黒さんは私をここへ連れてきたのですね……」

喪黒「そうですよ」

18 : 以下、?... - 2018/09/02 20:17:12.888 gPyGvWBRD 11/17

女性スタッフはいつの間にか、錠剤の入った瓶を持っている。瓶のふたを開け、桜に錠剤を1粒渡す女性スタッフ。

女性スタッフ「荒木様。この薬を服用すれば……。音楽も踊りも、より気持ち良く感じることができます」

女性スタッフ「大丈夫です。この薬に依存性は全くありませんよ」

錠剤を飲む桜。

喪黒「さあ、荒木さん。思う存分踊ってください」

喪黒「堅苦しい生き方ではストレスがたまる一方です……。もう少し、人生を楽しんだらどうですか!?」

喪黒に促され、ホールの中に入る桜。

(うわ……。恥ずかしい……)

3D映像の群衆の中に紛れ込んだ桜。見よう見まねでディスコミュージックに身体を合わせ、扇を振る。

次第に、笑顔となり楽しみながら踊りを踊る桜。彼女の踊りや扇を振る動きは、ぎこちないものから自然なものになっている。

(何て楽しいんだろう……。心と身体の奥底から本能を発散して……。欲望と快楽にどっぷり染まれる……)

(ここは、今の私の価値観を粉々に壊してくれそうだ……。私という人間を根底から変えてくれそうだ……)

ホールの中の明かりがくっきりとした輪郭を現わし、七色に輝く。3D映像の群衆も妖しい光を帯びる。

(私が光や音楽と一体になり……、光や音楽が私と一体になっていく……)

桜は恍惚とした表情になる。

19 : 以下、?... - 2018/09/02 20:19:18.851 gPyGvWBRD 12/17

その後……、長いこと踊り続けた桜。彼女は生き生きした表情だが、全身が汗だくとなり、息が上がっている。

「ふう……。疲れた……」

次の瞬間。ホール内のステージライトや、バブル時代の群衆の姿の3D映像が消える。

蛍光灯の明かりで白色の光に染まる、がらんとした室内。ドアが開き、ホールの中に喪黒と女性スタッフが入る。

女性スタッフ「お疲れ様です、荒木様」

喪黒「いかがでしたか、荒木さん。楽しめたでしょう?」

「え、ええ……!!こんなに楽しい時間を送ったことは、社会人になってから一度もありませんでしたよ!!」

喪黒「それはよかったですなぁ」

「今後も、このディスコに通い続けていいですか!?」

喪黒「もちろんですよ。ですが……、荒木さん。あなたには、約束していただきたいことがあります」

「約束!?」

喪黒「そうです。バブルディスコを訪れるのは週に1回であり、ここのホールで踊ることができる時間は3時間までです」

喪黒「いいですね、約束ですよ!?」

「わ、分かりました。喪黒さん……」

20 : 以下、?... - 2018/09/02 20:21:21.361 gPyGvWBRD 13/17

数日後。昼、八光企画本社ビル。仕事をしながら、石田部長と談笑する桜。

夜、居酒屋。石田と一緒にカラオケで、楽しそうにデュエットをする桜。2人が歌っている曲は「WON'T BE LONG」だ。

仲良くデュエットをする石田と桜を、きょとんとした表情で見つめる若手社員たち。


BAR「魔の巣」。喪黒と桜が席に腰掛けている。

「喪黒さん!私、バブルディスコにすっかりハマりました!週に1回、あそこに通って踊るのは本当に楽しいんですよ!!」

喪黒「これはこれは……。あなたが楽しんでいただけるなら、何よりです」

「しかもです……。あれほど嫌でたまらなかったバブル世代の上司たちとも、今ではすっかり仲良くなりました!」

喪黒「バブルディスコは間違いなく、あなたの人生にプラスの効果をもたらしたようですなぁ」

「喪黒さんには本当に感謝しています!あのディスコなくして、今の私の人生はあり得ません」

喪黒「荒木さんが生きがいを持つのは何より……。ですがねぇ、遊びや快楽だけが人間の本質ではありませんよ」

喪黒「堅物さはあなたの長所なのですから……。普段は真面目に仕事に励み、その上で、たまに息抜きをしてください」

「え、ええ……。それは分かっていますよ」

喪黒「それにです……。荒木さんは21世紀を生きているのですから……。まずは今の時代の価値観も大切にすべきですよ」

喪黒「年配の人たちと仲良くなるのもいいですが、他の世代の人たちとの交流も大切にしてくださいよ」

喪黒「特に、あなたの同世代の若い人たちとの交流……」

「も、もちろん気をつけていますって!」

21 : 以下、?... - 2018/09/02 20:24:03.911 gPyGvWBRD 14/17

喪黒「あと、私との約束は守っていますよね?荒木さん」

「そ……、そりゃあ、もう……」


八光企画本社ビル。課長が桜を呼び出して叱っている。

課長「荒木さん。最近、君は仕事でミスが目立っているぞ。いくらなんでも目に余る……」

課長と桜の間に、部長の石田が割って入る。

石田「荒木さんは一生懸命仕事をやっているんだ。彼女のことを悪く言うな!」


更衣室の中で、女性社員たちが桜を指差しながらひそひそと会話をする。

女性社員たち「あいつ、年上のおじさんに媚びていい気になって……」「嫌なやつー」「荒木さんはもう、私たちの仲間じゃないよねー」


美容院にいる桜。店を出た後の彼女の髪形は、バブル風のワンレンロングヘアとキューティクルになっている。

夜。バブルディスコの中で音楽に合わせて踊る桜。今の桜は、もはや、バブル期の若い女性が踊っているようにしか見えない。

ある日の昼。百貨店の中にいる石田と桜。ガラスケースの中の、高そうなブランドバッグを指差す石田。桜は目を輝かせる。

夜。高級レストランに入り、フランスワインで乾杯をする石田と桜。窓からは東京のネオン街が見える。

どうやら桜の生き方は、完全にバブル期の価値観に染まりきってしまったようだ。

22 : 以下、?... - 2018/09/02 20:27:46.413 gPyGvWBRD 15/17

八光企画本社ビル。執務室の中で、常務に呼び出される桜。

「常務……。話というのは一体何ですか!?」

常務「石田君と君のことだよ。君たちが会社の資金を横領して豪遊していたのは、もうバレているんだぞ!」

常務「石田君は昨日をもって解雇済みだ。我が社は、彼を警視庁に告発するつもりだよ。もちろん、君も一緒にな」

夕方、更衣室。帰宅の準備をする桜に対し、道重沙理奈がニヤニヤ笑いながら嫌味を浴びせる。

沙理奈「もう、会社では荒木さんのことを誰も助けてくれないよ。だって、後ろ盾の石田さんがもういないじゃん……」

沙理奈「あんたが横領で逮捕される日、私、楽しみに待っているから!アハハハハハ!!」

電車に乗り、ある目的地――バブルディスコへ向かう桜。バブルディスコの中で、ボディコン姿で踊る桜。


翌朝。アパート。布団の上で目覚める桜。

(ふざけるな、会社の連中……。ちょっぴり贅沢したくらいで、この私を横領扱いするなんて……)

夕方。桜の部屋。こたつの上には、カップ麺の空の容器とエナジードリンクの空き缶が転がっている。

バブルディスコ。ホールの中で、音楽に合わせて踊り狂う桜。毎日、毎日、彼女は例の如く――。

テロップ「次の日――」「その次の日――」「さらに次の日――」「そして――」

「踊る時間を延長したいんですけど、できますか!?」

女性スタッフ「分かりました……。やってみます……」

23 : 以下、?... - 2018/09/02 20:31:00.034 gPyGvWBRD 16/17

金色のボディコンを身にまとい、赤い扇を持つ桜。彼女の衣装はすっかり派手になっている。

ディスコミュージックに合わせ、3Dの群衆とともに激しく身体を動かす桜。様々な色になって光り輝くステージライト。

踊りに夢中になって我を忘れる桜。その時……。ホール内のステージライトや、群衆の姿の3D映像が消える。

蛍光灯の明かりに染まる室内。ホール内の中には、いつの間にか喪黒が潜り込んでいる。

喪黒「荒木桜さん……。あなた約束を破りましたね」

「も、喪黒さん……!!」

喪黒「私はあなたに言ったはずです。バブルディスコを訪れるのは週に1回、ホールで踊ることができるのは3時間まで……と」

喪黒「にも関わらず……。あなたは6日連続でここを訪れ続けました。しかも今日は、1日3時間の限度を超えて延長までして……」

「それの何がいけないんですか!!人間らしく、本能のまま、面白おかしく生きてこそ人生でしょう!!」

喪黒「だからと言って、会社のお金を横領するのはどうかと思いますよ……。さすがにそれは、犯罪行為ですよ……」

「ご……、ごめんなさい!!喪黒さん!!」

喪黒「もはや手遅れです。約束を破った以上……、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」

喪黒は桜に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

「キャアアアアアアアアアアア!!!」

24 : 以下、?... - 2018/09/02 20:34:06.383 gPyGvWBRD 17/17

ある日。住宅地の中を歩く下校途中の小学生男子たち。彼らは、バブルディスコがあるはずの坂を登る。

坂の上にはあるのはバブルディスコではなく……、かつて工場だった廃墟の建物だ。

小学生A「ここ、心霊スポットとして有名なとこじゃん!確か、幽霊が出るって……!」

小学生B「幽霊なんかいないよ!中にいるのは変な女の人なんだから……」

廃工場の中に入る小学生たち。建物の中から、女性のものと思われる意味不明な歌声が聞こえる。

女性の姿を目にする小学生たち。そこにいる女性は、そう……。廃人化して、変わり果てた姿となった荒木桜だ。

白髪頭でボサボサのワンレンロングヘア。正常な人間とは思えない目つき。得体の知れない笑みと、怪鳥のような奇声。

垢だらけで黒ずんだ金色のボディコン。右手に握られたボロボロの赤い扇。痩せ衰えた身体で、桜は何かの踊りを踊っている。

小学生たち「ヤーーーイ!!ヤーーーーイ!!」


廃工場がある坂道の入り口の前にいる喪黒。

喪黒「平成時代が終わろうとしている今……。日本では、バブルの時代はすっかり過去のものとして扱われるようになりました」

喪黒「経済が実態のない好景気を迎え……。文化も社会も人々も根拠なき熱狂に陥った時代……。それがバブルの世の中でした」

喪黒「極度の熱狂は人間の理性を麻痺させますし……。バブルの最中の人間は、現在がバブルであることに気付こうとしません」

喪黒「バブルが崩壊し、熱狂から覚めた後、人々に待っているのは……。深刻な後遺症と向き合うための非常に苦しい期間です」

喪黒「永遠に続くバブルや熱狂など妄想の中でしかあり得ませんけど……。荒木桜さんは死ぬまで妄想の中で生きるのでしょうねぇ」

喪黒「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―

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