男「ジャーン、新車を買ったぞ!」
妻「まぁ、ステキ!」
娘「かっこいいー! これなんてくるま?」
男「ハイエースっていうんだ」
男「今日はこのハイエースで家族でドライブに行こう!」
娘「いこー!」
妻「くれぐれも安全運転でお願いね」
元スレ
男「ハイエースでドライブしてたらものすごい数のパトカーが追いかけてきたんだけど」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1534770367/
ブロロロロ…
妻「どこに行くの?」
男「うーん、特に決めてなかったけど……弁当でも買って、公園で食べようか」
妻「そうね!」
娘「わーい、おべんとう! おべんとう!」
ウーウー…
男「ん?」
妻「パトカーのサイレンだわ」
男「なにか事件があったのかな?」
妻「ねえあのパトカー、私たちを追いかけてきてない?」
男「……本当だ」
妻「もしかして、スピード違反してたんじゃない?」
男「そんなはずないんだけど……仕方ない、止まろうか」グッ
キキッ…
刑事「止まったか」
警官「ほぉ、なかなか可愛らしい女性と子供を連れているな」
男「すみません、あの、なんで追いかけてきたんですか?」
刑事「誘拐の容疑だ」
男「は?」
刑事「誘拐の容疑で貴様を逮捕する!」
男「な、なにいってんです! この車には妻と娘しか乗ってませんよ!」
刑事「問答無用!」パンッ
男「うおっ!」
男「なにすんだ、いきなり撃つなんて!」
刑事「もいっちょ!」パンッ
男「おわっ!」
妻「あなた、逃げましょ!」
男「ああ、飛ばすぞ!」グンッ
警官「待てっ!」パンッ
ブロロロロロ…
刑事「女性と子供を誘拐したハイエースが逃げた! 応援を頼む!」
ウーウー… ウーウー… ウーウー… ウーウー…
男「パトカーがどんどん増えてきた!」
妻「10台……いえ、20台はいるわよ! まだ増えてる!」
娘「わーい、わーい!」
男「くっそぉ~……なんでこんなことに!」
警官「いかがいたしましょう?」
刑事「撃て撃てぇ!」
刑事「なんとしてもあの誘拐犯を逮捕するんだ! いや、射殺してもかまわん!」
パンッ パンッ パパンッ
男「パンパン撃ちまくりやがって……バカボンの警官かよ」
男「ハイエースと俺の運転テクをなめるなよォ!」ギャルッ
警官「あ、当たりません!」
刑事「おのれえ……やるじゃないか」
刑事「こうなったら自衛隊だ! 自衛隊に出動要請を出せ!」
警官「はっ! 自衛隊最高の狙撃手に依頼します!」
狙撃手「用件を聞いてやろう……」
狙撃手「……あのハイエースを止めればいいわけだな」
狙撃手「目標確認……発射」バシュッ
ブスッ
男「ん!? うわっ、タイヤが……!?」ガクガク
妻「きゃぁぁぁぁぁっ!」
娘「わーいっ! スリルまんてん~」
男「くっそぉ~、止まるしかない!」キキッ
刑事「とうとう追い詰めたぞ……」
刑事「誘拐の容疑で逮捕する!」ガチャッ
男「だから、誘拐なんてしてないって――」
刑事「さぁ、こっちに来い!」
妻「あなた!」
娘「パパ!」
男「心配するな……俺は必ず戻ってくる!」
警官「女性と女の子は、私がパトカーで保護しましょう」
刑事「うむ、頼む!」
刑事「なぜ誘拐した!?」ガンッ
男「いや、ですから、あの二人は俺の妻子です!」
男「どこの世界に自分の妻子を誘拐する夫がいるんです!?」
刑事「例えば、妻子から離婚前提の別居を強いられてる夫とかなら、やるかもしれない」
男「なるほど、たしかに……」
男「って、人を勝手にそんな奴にしないで下さいよ!」
男「ちゃんと答えて下さい! なんで俺が逮捕されなきゃならないんです!?」
刑事「そんなの決まってるだろう」
刑事「ハイエースを運転してたからだよ」
男「はぁ!?」
刑事「古来より、ハイエースを運転する人間は誘拐犯か拉致犯と相場が決まっている」
男「決まってねえよ! 全国のハイエース愛好家やハイエース作ってる人に謝れよ!」
刑事「とにかく、貴様は起訴される。裁判は今日中に開かれるだろう」
男「んな無茶な……!」
男(こんなのいくらなんでもおかしすぎる! 弁護士に依頼するしか――)
男「弁護士さん、助けてくれ!」
弁護士「無理ですね」
男「ど、どうしてですか!?」
弁護士「なぜなら、あなたはハイエースを運転していたからです」
男「へ……」
弁護士「この時点で心証は最低最悪、あなたの敗訴は確定的。いさぎよく諦めるしかないでしょう」
男「そ、そんな……!」
裁判が始まった。
男(こうなったら自分で自分を弁護するしかない……! きちんと説明すれば分かってくれるさ!)
裁判長「それでは裁判を開始します。被告人を――」
裁判長「死刑に処す」
男「はぁ!?」
男「ちょっと待って……まだ始まったばかり……」
裁判長「あなたはハイエースを運転していた。もはやいい逃れることはできません」
男「百歩譲って有罪なのは仕方ないとして、仕方なくないけど、死刑はおかしいだろ!」
男「俺の容疑はあくまで誘拐なんだろ!?」
裁判長「死刑です」
「死刑!」 「死刑!」 「死刑!」 「死刑!」 「死刑!」 「死刑!」 「死刑!」
男「あああああ……」
男(傍聴人からも怒涛の死刑コールが……!)
男(ここまでか……)
裁判長「何かいい残すことは?」
男「……」
男「最期に妻子に会わせて欲しい」
裁判長「いいでしょう。我々も鬼ではありません。希望を叶えましょう」
裁判長「刑事君、被告人の妻子を連れてきてあげなさい」
刑事「はい!」
……
刑事「あ、あの……」
裁判長「どうしました?」
刑事「それが、被告人の妻子がいなくなっているのです」
刑事「どうやら、彼女らを保護した警官が、そのまま誘拐してしまったようで……」
男「なんだってぇ!?」
男「おい、どうしてくれるんだよ! なんとかしろよ!」
刑事「申し訳ない……!」
男「申し訳ないじゃないだろぉぉぉぉぉ!」
その頃――
ブロロロロ…
警官「まさか、パトカーで誘拐とは誰も思うめえ」
警官「俺は一目見た時から、あんたらを誘拐したいと思ってたんだ」ジュルリ…
妻「ひっ!」
警官「このパトカーには、追跡できないよう細工をしてあるし」
警官「お前ら二人とも、俺のアジトで監禁してたっぷりオモチャにしてやるぜぇ!」
妻「あなた……助けて……!」
娘「パパァ……」
裁判長「裁判は中止です! 急いで被告人の妻子を――」
刑事「とにかく、各地に非常線を――」
ワイワイ… ガヤガヤ…
男(犯人は狡猾だ……きっと彼らじゃ捕まえられない……)
男(俺がやらないと……)
男(こんな時、ハイエースがあれば……! 俺自身が助けに行けるのに……!)
男「ハイエース……」
男「ハイエース……助けてくれーっ!!!」
業者A「あのハイエース、廃車にすんだって? まだ新しいのにもったいねえ」
業者B「しょうがねえよ。誘拐に使われたらしいから……」
ハイエース「……」ピカーッ
業者AB「うわっ! ライトが!?」
ハイエース「ご主人様の声が聞こえた……」ブルルル…
業者A「なんだなんだ!?」
業者B「ハイエースが勝手に動き出した!」
ハイエース「今行きます!」ブロロロロロ…
ブロロロロロロ…
キキッ
ハイエース「ご主人様!」
男「ハイエース、来てくれたのか!」
ハイエース「乗って下さい!」
男「だけど、今の俺は被告人の身……」チラッ
刑事「……」
裁判長「……」
刑事「君の妻子を救えるのは、君だけだ!」
裁判長「特例を認めざるをえんだろう……よろしく頼む!」
男「ありがとう……二人とも!」
男「行くぞ、ハイエース!」
ハイエース「はいっ!」
ブロロロロロロ…
ブロロロロロ…
男「しかし、二人はどこまで連れ去られたのか……」
ハイエース「ご安心下さい」
ハイエース「私に搭載された超高性能ナビがあれば、犯人を追跡できます!」
男「さすがハイエースだ!」
男「よぉし、飛ばすぞぉっ!」グンッ
警官「どっちから先にイタズラしちゃおっかな~」
妻「私から! 私からにしなさい! 子供には手を出さないで!」
警官「そんなこといわれたら……」
警官「娘からにしたくなっちゃうだろうがよぉ!」ガバッ
娘「いやーっ!」
妻「やめてーっ!」
警官「無駄だ! いくら叫んでも誰も助けになんか来ねえよぉ! うひゃひゃひゃひゃ!」
ドガァン!
男「助けに来たぞぉ!」
警官「へ?」
妻「あなた!」
娘「パパ!」
警官「ちっ、まさかハイエースに乗った王子様がやってくるとはな……」
警官「だが、俺はれっきとした警官! 拳銃を持ってるんだぜぇ!」パンッ
キンッ
警官「え!?」
男「あいにくだが、ハイエースは防弾ガラスだ」
警官「なにぃぃぃぃぃ!?」
男「喰らえ、ハイエースアタック!」ブォォォォン
ドゴォォォォォンッ!!!
警官「ぐぎゃああああっ!!!」ドザァッ
男「安心しろ……峰(ボンネット)打ちだ」
ハイエース「お見事です、ご主人様」
男「大丈夫か、二人とも!」
妻「ええ……」
娘「だいじょぶー!」
男「よかった……」
男「ありがとう、ハイエース! おかげで妻子を救出できた!」
ハイエース「いえいえ、お役に立つことができてなによりです」
刑事「さっきは逮捕してすまなかった……!」
裁判長「我々はハイエースを誤解していた……。君は、いや君たちは無罪だ!」
男「分かって下さればいいんです」
男「ハイエースも……それでいいか?」
ハイエース「はい、ハイエースは車内が広いですが、心も広いですから」
男「さ、晴れて無罪放免になったし、ハイエースで帰ろうか」
妻「ええ、晩御飯にしましょ」
娘「うんっ! おなかすいちゃったー!」
男(そう……ハイエースは誘拐や拉致をするための車なんかじゃない)
男(愛する人を救出するための車なんだ……!)
ブロロロロロ…
おわり