1 : 以下、?... - 2018/09/05 20:56:11.395 tNTchAHAD 1/17

喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    黛ヨシヒロ(36) 音楽プロデューサー

    【究極のパワーストーン】

    ホーッホッホッホ……。」

元スレ
喪黒福造「そう、究極のパワーストーンがこの世にあるんですよ」 音楽プロデューサー「そんなものがあるなら、今すぐ欲しいですよ!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1536148571/

4 : 以下、?... - 2018/09/05 20:58:15.328 tNTchAHAD 2/17

ある音楽スタジオ。広い室内の中に、最新式の機材がいくつも並んでいる。

器材に囲まれた状態で、キーボードに向かう男性。短めの金髪で色眼鏡をかけ、整った顔立ちの男だ。

一心不乱に何かの音楽を作っている様子の男。彼が向かう机には、空のコーヒーカップがある。

テロップ「黛ヨシヒロ(36) 音楽プロデューサー・作詞家・作曲家・DJ」


東京。とある駅の中を歩く黛。黛は、何かの石によるネックレスとブレスレットを身につけている。

駅の壁に貼られているアニメ映画のポスターを見つめる黛。

(このアニメの音楽は……、僕が担当したものだ……)

駅を出て、ビル街の中を歩く黛。高層ビルのスクリーンが、今週の音楽のトップ10を流している。

そのうちの一つに、ある男性アイドルユニットの新曲が入っている。ビルのスクリーンを見つめる黛。

(このグループに今回の曲を提供したのも……、実は僕なんだよな……)

街を歩き続ける黛。

(僕に才能があることは、誰もが認めてくれる。でも……、僕が今まで手掛けた仕事は裏方のものばかり……)

(このままでは終わらないぞ……。必ず、僕は社会の第一線に立って見せる……)

5 : 以下、?... - 2018/09/05 21:00:15.452 tNTchAHAD 3/17

街の郊外にある規模が大きめの神社。鳥居をくぐる黛。

(この神社は、パワースポットとして有名な場所だ……)

黛のネックレスとブレスレットの石が、太陽の光を浴びてキラリと輝く。ブレスレットを見つめる黛。

(僕が身につけているネックレスとブレスレットは、パワーストーンで作られている……)

拝殿前で、二礼・二拍手・一礼をする黛。鳥居の中に入る喪黒福造。喪黒は、神社で参拝中の黛の姿を見つける。

参拝を終える黛。

(よし……。この神社から大いなる気を貰った……。間違いなく、僕の仕事によい効果がもたらされるはずだ……)

黛に近づく喪黒。

喪黒「あの……。もしかして、あなた……。黛ヨシヒロさんではないですか……?」

「ええ、そうですけど……。僕が黛ヨシヒロであることを知っているとは……。あなた、業界の方ですか!?」

喪黒「いやぁ、私は業界の人間ではないですが……。実は、こういう者なんですよ」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

6 : 以下、?... - 2018/09/05 21:02:20.559 tNTchAHAD 4/17

「……ココロのスキマ、お埋めします!?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

「……で、そのセールスマンのあなたが僕に何の用なんですか?僕はこれから、仕事場に戻るつもりですから」

喪黒「実はですねぇ……。あなたの運気を上げるための、特別なものを私は知っているんですが……」

喪黒の誘い文句を聞き、目つきが変わる黛。どうやら黛は、何かの興味を持った様子だ。


BAR「魔の巣」。喪黒と黛が席に腰掛けている。

喪黒「黛さんは、神社仏閣巡りがお好きなのですか?」

「ええ、まあ……。神社仏閣巡りというよりはむしろ、パワースポット巡りと言った方がいいですよね」

喪黒「パワースポット……ですか。その様子からして、黛さんはスピリチュアルやオカルトにも関心がありそうですよねぇ」

「はい、そうですよ……。僕は占いマニアでもありますし、風水にも詳しいですから……」

「まあ……。そのせいで、僕は周りからは変人扱いされていますがね……」

喪黒「無理もありませんよ。テクノ系に造詣が深く、近未来的な音楽を作る黛さんが……」

喪黒「私生活では、前近代的な迷信みたいなものにハマっている……。これはある意味、ミスマッチに見えますからねぇ」

「迷信なんかではありません。ちゃんとした根拠があるから、僕は信じているんですよ」

7 : 以下、?... - 2018/09/05 21:04:23.450 tNTchAHAD 5/17

喪黒「そうですか……。では、あなたはパワーストーンの効果についても当然、根拠があるとお考えでしょう?」

「もちろんですよ。何しろ、僕が身につけているネックレスやブレスレットもパワーストーンでできていますから……」

喪黒「なるほど。そのご様子からして……。黛さんは自らの運気を上げるために、いろいろなことをやったようですなぁ……」

喪黒「パワースポット巡り、風水にこだわった部屋作り、パワーストーンの愛用、占いやスピリチュアルへの傾倒などなど……」

「あなたのおっしゃる通りですね。まるで、僕の生き方を透視されているみたいですよ……」

喪黒「しかしながら……。そこまで手を変え品を変え、様々なやり方を試しても……」

喪黒「あなたの運気が飛躍的に向上したとは、必ずしもいい難いのが今の現状でしょう!」

「そ、そんなことはありませんよ!」

喪黒「いいえ……。普段の黛さんは……。今の自分の境遇に対して、常に不満を抱いているはずです」

喪黒「周りの人間は自分の才能を認めてくれる……。でも、自分がやった仕事はどれも裏方のものばかり……」

喪黒「このまま日蔭者として人生を終えたくない……。自分の才能で社会の第一線に立ちたい……」

喪黒「それが、今のあなたの願いのはずです!!違いますか!?」

「ううっ……!!」

喪黒「ほう……、図星のようですねぇ……」

喪黒「『自分の運気を上げさえすれば、僕は今より活躍できるはずだ』……という思いがあるから」

喪黒「パワースポット巡りやパワーストーンの愛用など、いろいろ手段を試しているのでしょう!!」

8 : 以下、?... - 2018/09/05 21:06:21.996 tNTchAHAD 6/17

「いやはや……。ここまで僕のことを見抜くとは……。さすがはセールスマンの方ですね」

喪黒「そんなあなたに、ちょうどいいものがあるんですが……。それはですねぇ……」

「一体何ですか!?」

喪黒「持っているだけで運気が上がる最高級のパワーストーン……。そう、究極のパワーストーンがこの世にあるんですよ」

「そんなものがあるなら、今すぐ欲しいですよ!!どこにあるんですか、それ!!」

喪黒は鞄から何かを取り出す。机の上に置かれたのは、木製の宝石箱だ。

箱を開けると、中にはやや大きめの緑色の球が赤紫の布にくるまれている。緑色の球は、翡翠のように見える。

「この翡翠が、究極のパワーストーンなのですか?」

喪黒「そうです。この翡翠は『天力石』という名前で、鳥取県が原産地です」

「へえ……」

喪黒「そもそも、翡翠自体が特別な宝石です。翡翠は、日本列島ができる前の6億年前から存在しており……」

喪黒「古代から世界各地で重要な意味合いで用いられてきました。何よりも、翡翠は日本の国石でもあります」

「そうなんですか……」

9 : 以下、?... - 2018/09/05 21:08:26.965 tNTchAHAD 7/17

喪黒「翡翠に特殊な効果があることは、古くから多くの人たちに信じられてきました。金運や財運、仕事運、健康運……」

喪黒「あらゆる面に渡って運気を上げる力を持つ魔法の石……、それが翡翠のもたらす効果とされてきました」

「すごいですね……」

喪黒「しかも……。翡翠は、古来より世界各国で不老不死のお守りとされてきたのですから……」

「うーーむ……。翡翠はまさに、パワーストーンの中ではこれ以上ない存在のものと言えますね」

「……で、その翡翠の中でも特殊なもので、パワーストーンとしても効果が格別なのが、ここにある……」

喪黒「そうです。パワーストーンの中でも究極のものが、ここにある『天力石』です」

「この『天力石』の効果が本物ならば、これを持つだけで僕は……」

喪黒「間違いなく、今以上に成功するでしょう。日本の芸能史や音楽史に残る偉業を達成するほどの……」

「その話が本当ならば……。僕の全財産を使ってでも、この石を手に入れたいですよ」

喪黒「よろしかったら、無料で『天力石』をあなたにプレゼントしてもいいですよ」

「えっ、いいんですか!?こんな高そうなものを……」

喪黒「構いませんよ。これは、黛さんのブレイクを願う私からの気持ちですから……」

喪黒「その代わり、『天力石』を持つために約束していただきたいことがあります」

「約束!?」

10 : 以下、?... - 2018/09/05 21:10:35.371 gx/usa/cD 8/17

喪黒「そうです」

喪黒は鞄からさらに小さい箱を取り出す。その箱を開けると、中には黄色の布切れが入っている。

喪黒「この黄色の布で毎日磨くことによって、『天力石』は効果を発揮できます」

喪黒「だから、黛さん……。『天力石』を特製の布で磨くことを、1日たりとも怠ってはいけません」

喪黒「いいですね、約束ですよ!?」

「わ、分かりました。喪黒さん……」


夜。音楽スタジオ。機材に囲まれた部屋の中にいる黛。黛は宝石箱を開け、中から『天力石』を取り出す。

黄色い特性の布で、『天力石』を優しく磨く黛。黛の鋭い目つきが、次第に温和なものとなっていく。

(この石を磨くと……。何だか、落ち着いた気分になっていくようだ……)

『天力石』を磨きながら目を閉じる黛。

(おお……。音楽の新しいアイデアが、頭の中から浮かび上がってきたぞ……。これは斬新な内容の音楽だ)

机に向かい、急いで大学ノートにメモを書く黛。

(この音楽を発表したら、大ヒットも夢ではないかもしれない……)

(だから……。今の僕のアイデアは、何が何でも世の中に出してやるぞ……)

11 : 以下、?... - 2018/09/05 21:12:47.093 gx/usa/cD 9/17

ビル街。高層ビルのスクリーンに、4人組の女性アイドルのPV映像が映っている。

紺色のドレスを着て、テクノポップに合わせて踊る4人の女性。

テロップ「テクノポップユニット『Flora(フローラ)』」

パソコンのニュースサイトには、彗星のように登場したグループ「Flora」のことが扱われている。

ニュースサイト「Floraのデビュー曲『サイバネティックシティ』、YouTubeアクセス数が300万回突破」

さらに、YouTubeのサイトでは、Floraの『サイバネティックシティ』を「踊ってみた」の動画が次々作られる。

ビル街を歩く黛。彼は、FloraのPV映像が映る高層ビルのスクリーンを見つめる。

(僕によるFloraのプロデュースは、見事なスタートダッシュを決めた。だが、僕はこれだけでは終わらないぞ……)


音楽スタジオ。黛は、特性の布で『天力石』を磨く。目を閉じる黛。

(また、音楽の新しいアイデアを思いついたぞ……。今度の音楽はずいぶん奇想天外なものだな……)

机に向かい、急いで大学ノートにメモを書く黛。

(とはいえ、これは思った以上に『化ける』だろうな……)

12 : 以下、?... - 2018/09/05 21:15:10.376 gx/usa/cD 10/17

ビル街。高層ビルのスクリーンに若い女性歌手のPV映像が映っている。

緑色に髪を染め、奇抜な衣装を身にまとった女性がテクノポップに合わせて踊っている。まるで、人間ボーカロイドだ。

テロップ「女性歌手・ファッションモデル『らふれしあ・あるのるでぃ』」

テロップ「中国――」

イヤホンを付けながら、『らふれしあ・あるのるでぃ』のPV映像を見る中国人。

テロップ「アメリカ――」

スマホを見つめるアメリカ人。スマホの画面には、『らふれしあ・あるのるでぃ』のPVが映っている。

ニュースサイト「『らふれしあ・あるのるでぃ』のPV動画が海外で人気」

とある週刊誌が、音楽プロデューサー・黛ヨシヒロのことを記事で扱う。

週刊誌「Floraと らふれしあ・あるのるでぃ をプロデュースした鬼才・黛ヨシヒロとは何者なのか」


音楽スタジオ。特性の布で『天力石』を磨く黛。黛は机に向かい、大学ノートにメモを書く。

(どんどん新作のアイデアが思いつく……。井戸の水のように、アイデアがこれでもかと湧いてくる……)

13 : 以下、?... - 2018/09/05 21:17:17.844 gx/usa/cD 11/17

ビル街。高層ビルのスクリーンに映るPV映像。二人の男性がラップミュージックを踊っている。

テロップ「お笑いグループ『ブラックラジオ』」

スーパー銭湯。サウナ室のテレビ画面には、音楽番組が映っている。司会者と女性アナウンサー。

アナウンサー「では……。今週、オリコン1位を獲得した話題の曲……。ブラックラジオの『パラダイスヒューマン』です」

音楽番組で、『パラダイスヒューマン』を踊るブラックラジオ。


音楽スタジオ。特性の布で『天力石』を磨く黛。

ビル街。高層ビルのスクリーンには、新曲のPV映像が映っている。色分けをした女性アイドルユニットのようだ。

テロップ「アイドルグループ『でんげき組』」


12月末。新国立劇場で、レコード大賞の審査や撮影が行われている。『らふれしあ・あるのるでぃ』が笑顔で歌を歌う。

スポーツ紙「レコード大賞に らふれしあ・あるのるでぃ」

正月。ハワイのあるホテル。部屋の中で、黛は『天力石』を磨く。ビーチで椅子に座りながら、トロピカルドリンクを飲む黛。

(今まで日蔭者だった僕も……。遂に、J-POPで天下を取ることができたんだ……)

15 : 以下、?... - 2018/09/05 21:19:46.755 gx/usa/cD 12/17

正月明け。BAR「魔の巣」。喪黒と黛が席に腰掛けている。

喪黒「レコード大賞受賞、おめでとうございます。黛さん」

「ありがとうございます、喪黒さん。あの『天力石』のおかげで、僕は次々と音楽のアイデアが湧くようになりました」

「しかも、僕が発表した音楽はどれも傑作ばかりです……」

喪黒「それどころか……。あなたがプロデュースしたグループやアーティストは、どれも大ヒットを実現しました」

喪黒「何しろ……。あなたのプロデュースした歌手の曲のほうが、売上においてはあのHRJ49を上回っているのですから」

「ハハハ……。HRJ49を手掛ける秋月徹は、さぞ悔しがっているでしょうね」

「あいつの自慢だったCDの売り上げで、僕に追い越されてしまったのですから……」

喪黒「今の芸能界で、J-POPのトップランナーに立っているのは……。まさに黛さんと言っても過言ではありません」

「何もかも、喪黒さんからいただいた『天力石』のおかげですよ。喪黒さんには本当に感謝しています」

喪黒「この調子からして……。おそらく、今の黛さんは私の約束をきちんと守っているのでしょうなぁ。今のところは……」

「はい。喪黒さんの言いつけ通り、僕は、『天力石』を特製の布で毎日磨いています。1日たりとも欠かさずに……」


芸能事務所「アルテミス」。執務室で机に向かう社長。社長と黛が会話をする。

社長「黛さん……。あなた、本当にアルテミスを独立するんですか……!?」

「そうです。僕の才能がこれから向かうべき場は……、海外ですよ」

16 : 以下、?... - 2018/09/05 21:22:06.420 gx/usa/cD 13/17

記者会見場。とある外国人と会見を行う黛。2人にカメラのフラッシュが浴びせられる。

テロップ「レオナルド・マラーノ(72) メディア王、『ニューズ・エクスプレス』総帥」

スポーツ紙「黛ヨシヒロ氏、海外進出を表明」「黛ヨシヒロ氏、上海に新会社を設立」


テロップ「中華人民共和国、上海――」

黛の会社。社長室で机に向かう黛。

(僕が作った音楽を、本格的に世界へ広めてやるんだ……。そのために、まずは中国進出から始めるぞ……)

(世界第2の経済大国で13億人の人口を持つ中国……。この国で成功を収めることが……、僕の海外進出の第1歩になるはずだ)

社長室に入る女性秘書。

女性秘書「黛先生。これから、王董事長との面会があります」

「分かった。今行く」

社長室を出る黛。黒塗りの車が道路を走る。車の後部座席に乗る黛。


黛の会社。黛がいなくなった社長室の中に、スーツ姿のある男性が入る。

机の引き出しをあける男性。男性は、『天力石』が入った宝石箱を手にしている。

17 : 以下、?... - 2018/09/05 21:24:23.201 gx/usa/cD 14/17

高層ビル。部屋の中で、黛はある人物と会談をする。

テロップ「王計勲 巨大企業グループ総帥・中国共産党員」

「あなたが黛ヨシヒロ先生ですか。先生の名声は、中国にも届いていますよ」

「お褒めにあずかりまして、光栄です。王董事長……」


黛の会社。社長室に戻り、黛は机に向かう。

(今日も『天力石』を磨こう……。これさえあれば、僕は怖いものなしだ)

机の下の引き出しの鍵を開ける黛。彼が引き出しを見ると、『天力石』の入った宝石箱がいつものようにある……いや、なくなっている。

(宝石箱がない……!!……ということは、『天力石』は……。何者かに盗まれたんだ……!!!)

自分にどんな事態が起きたのか気付き始める黛。

(どうしよう……。今までの僕の成功は、『天力石』のおかげだったはずだ……)

黛の頭の中に、喪黒の忠告が思い浮かぶ。

(喪黒「黛さん……。『天力石』を特製の布で磨くことを、1日たりとも怠ってはいけません」)

(困ったことになった……。しかしだ……。僕の地位や財産は相当な規模のものだから、ちょっとやそっとじゃ崩れない……)

(『天力石』がなくなっても、僕は当分の間は何とか乗り切れるはずだ……。それに、僕にはもともと才能がある……)

18 : 以下、?... - 2018/09/05 21:27:29.278 gx/usa/cD 15/17

テロップ「翌日――」

上海のビジネス街。ビルの中で握手をする黛と王。

「黛先生。あなたのアジア進出、私が全面協力しましょう」

「ありがとうございます。王董事長」


夜。ホテルの高級レストランの中で、黛に豪勢な中国料理がふるまわれる。

テーブルに向かう黛の隣には、王が席をともにしている。一緒に酒を飲み、談笑する黛と王。

ホテルの廊下を歩く黛。酒に酔っていい気分の黛の目の前に……、あの男――喪黒が現れる。

「やぁ、喪黒さん。あなたがこのホテルに泊まっているとは……。いやぁ、奇遇ですね」

喪黒「黛ヨシヒロさん……。あなた約束を破りましたね」

「なっ……!?」

喪黒「私はあなたに言ったはずです。『天力石』を特製の布で磨くことは、1日たりとも怠ってはならない……と」

喪黒「黛さん。あなたは『天力石』を毎日欠かさず磨く日課を、とうとうやめてしまったようですねぇ」

「だ、だって喪黒さん……!!肝心の『天力石』が何者かに盗まれてしまったのですから……!!」

「僕としてはどうすることもできませんよ!!」

19 : 以下、?... - 2018/09/05 21:30:36.554 gx/usa/cD 16/17

喪黒「弁解は無用です。約束を破ったのだから、あなたにはペナルティーを受けて貰います!!」

喪黒は黛に右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

「ギャアアアアアアアアア!!!」


喪黒のドーンを受け、憔悴した状態でホテルの廊下を歩く黛。彼が客室のドアを開けると……。

「き、君は……」

客室のベッドの上に、チャイナドレスを着た美女が座っている。黛に抱きつく中国人の美女。

美女「黛先生……。私を抱いてください……」


とあるビル。室内で、机に向かって話をする黛と王計勲。2人の周囲には黒服の男たちがいる。

王に数枚の写真を見せられ、神妙な様子になる黛。

「黛先生、困ったことをしてくれましたね……。あの女性は、大物政治家の愛人でもあるのですよ……」

「その政治家が、先生のしたことを知ったらさぞ激怒するでしょうし……。先生もただでは済みません……」

「そ、そんな……。僕は一体、どうしたらいいんですか……」

「簡単な話です。先生はこれから、私の言いなりになればいいのですよ。なぜなら、私は……」

20 : 以下、?... - 2018/09/05 21:33:48.411 gx/usa/cD 17/17

テロップ「数年後――」

インターネットカフェ。パソコンの画面を見つめるある男性。男性が見ているサイトは、匿名掲示板のようだ。

匿名掲示板「黛ヨシヒロ、完全に消えたな」「今思えば、アジア進出の失敗があいつの没落の始まりだった」

匿名掲示板「黛が出会った中国人実業家の正体は、マフィアの大物」「黒社会に食い物にされ、数十億円の損失を出して中国撤退」

匿名掲示板「天才と呼ばれた黛も、最近では全くヒット曲を出せない」「一世を風靡した黛ヨシヒロもすっかりオワコン」

音楽スタジオ。機材に囲まれた室内。痩せ衰えた黛が、床に座り込みながら右腕に何かの薬物を注射している。

「ハハ……。ハハハハ……。俺は全然辛くないし……、不幸でもないんだ……」

「どんなに現実が厳しくても……。俺がこのまま惨めに落ちぶれても……。薬をやれば頭の中は天国を味わえるんだ……」

薬物を注射しながら、焦点の定まらない目で笑みを浮かべる黛。スタジオのドアが開き、数人の私服刑事が部屋の中に入る。

刑事「黛ヨシヒロさんですね。私たちは警視庁の者です」


東京、とあるビル街。大通りの横断歩道を歩く大勢の通行人。ビルのスクリーンには歌手のPVが映っている。ビル街に立つ喪黒。

喪黒「この世には、目には見えないものや、科学で説明ができないことが多くありますが……。その一つが人間の『運気』です」

喪黒「人間の幸福や不幸や、成功や失敗の背景には……。どうやら、『運気』の流れの影響も裏で絡んでいるのかもしれません」

喪黒「だから……。幸福と不幸が表裏一体の存在で交互に訪れるのは、この世に『運気』が存在しているおかげとも言えましょう」

喪黒「もっとも、『運気』を短期のうちに使い切ると……。一時的には大成功しても、その後は長期に渡って不幸が待っています」

喪黒「『運気』を使い切ってしまった黛ヨシヒロさんは……。これから先、もっともっと悲惨な人生を送るのは確実でしょうねぇ」

喪黒「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―

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