店員「……」ジーッ
犬「な、なんだよ?」
店員「お前、全然売れないなぁ」
犬「仕方ないだろ、好きで売れ残ってるわけじゃないし」
店員「だけど、売れない犬にいつまでもタダ飯食わせてる余裕はないんだよな」
店員「ってわけで、今週中に売れなかったらお前処分すっから」
犬「やべええええええ!!!」
元スレ
ペットショップ店員「今週中に売れなかったらお前処分すっからw」犬「やべえええええ!!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1532969973/
犬「処分ってなに!? どんなことされんの!?」
店員「えー、それ俺に説明させんの?」
犬「早くしろよ!」
店員「そりゃもうミキサーでミンチよ」
犬「ワン!?」
店員「んでもって犬ジュースになったお前をぐいっと飲み干してやるよ」
犬「サイコパスかてめええええええ!!!」
犬「なんで!? 他にも売れ残りはいるのになんで俺だけ!?」
店員「だってお前、愛嬌なさすぎるんだもん。犬らしさに欠けてるっつうか」
犬「そんなことないワン!」
店員「今さら語尾にワンつけたって遅いっつうの」
店員「ま、せいぜい頑張れや」
犬「うぐぐ……絶対売れてやるワン!」
犬(俺には愛嬌がないだとぉ~? ふん、人間にシッポ振るなんてゴメンだ!)
犬(しかし売れるには、やっぱ人間に媚びるしかないか……)
犬「クゥ~ン」
犬「クゥゥ~~~~ン」フリフリ
客「うわっ、キモッ! シッ、シッ!」
犬「!」ガーン
犬(慣れないことするもんじゃねえな……)
犬(だったら強そうなところ見せて、番犬になることをアピールすれば……!)
犬「ガルルル……!」
犬「ワンッ! ワオォンッ!」
子供「あの犬、こわ~い!」
主婦「きっと狂犬病なのよ」
犬「ワン!?」
犬「水うま~い! 水こわくな~い!」グビグビ
店員「もう遅いよ」
娘「パパ、この子にしよー!」
父「そうするか!」
店員「毎度ありー!」
チワワ「じゃあなー!」
犬「くそーっ! なんで他の奴ばかり売れるんだ!」
店員「残り三日……」チラッ
犬「ぐ……!」
店員「犬ジュー飲むの今から楽しみだなぁ~」
犬「やめろおおおおお!!! うな重みたいにいうんじゃねえよ!!!」
店員「イヌジュウ♪」
犬「ピカチュウっぽくすんな!!!」
犬(くそぉ~、なんとかして売れないと! マジで犬ジューにされちまう!)
中年「なにか面白い動物はいないかなぁ~」
犬「……」ジーッ
犬(あのおっさん、コレステロール高いな……もっと痩せるべきだ)
犬(そうだ! 俺には人間の健康状態を見抜くこの眼力がある!)
犬(名づけて人間ドックならぬ“人間ドッグ作戦”!)
犬「健康になりたい人、俺を飼えば健康になれるぞ~! 悪いとこ指摘してやるぞ~!」
犬「……売れない。どうしてだよぅ」
店員「人ってのは不思議なもんで、健康でありたいと願うわりに」
店員「不健康なことをなかなかやめられないし、自分の不健康を指摘されたくない生き物なんだよ」
店員「癒やしてくれる役割のペットに不健康を指摘されて喜ぶ奴がいるかよ」
犬「ワン……!」
犬(こいつにまともなアドバイスされるとは……)
店員「さぁ、いよいよ時間がなくなってきたなぁ」
店員「今のうちにミキサーを試運転しとくか」カチッ
ギュィィィィィィィン
犬「ひいっ!」
店員「ほら、もういっちょ」カチッ
ギュゥイィィィィィィィィン
犬「うわぁぁぁ! やめろぉぉぉぉぉ!」
店員「お前の恐怖に歪んだ表情はなによりの前菜だよ」ニタァ…
犬(助かる方法、なにかないか、なにかないか……)
店員「あ、店長」
店長「コラ、なに犬と遊んでるんだ」
店長「売り上げをもっと伸ばさないと……うちの店が潰れちゃうよ!」
店員「す、すみません……」
犬(――この手があったか!)
犬「らっしゃい、らっしゃい!」
犬「さぁ~、犬に猫、ハムスターにインコ、爬虫類に両生類、みんな安いよ~!」
店員「……?」
店員(なんだあいつ、急に接客し始めたぞ……)
犬「胴長のあなたにはダックスフントがお似合いだよ!」
犬「あんた猫っぽいから、猫飼え猫!」
犬「秋田県出身のあなたには秋田犬! え、沖縄出身!?」
犬「ま、いいじゃない! 飼ってけドロボー!」
犬「らっしゃい、らっしゃい、らっしゃーい!」
スッカラカン…
店長「まさか、うちの店のペットを売り尽くすなんて……」
店員「……えええ!?」
店長「素晴らしい、君は素晴らしいよ!」
犬「いや~、それほどでも……あるワン」
店長「褒美として、今日から君が店長だ!」
犬「ワン!」
犬「さて、店員君」チラッ
店員「ぐっ!?」
犬「店員と店長、どっちが偉いのか、今さら教えるまでもないよなぁ?」
犬「もはや、君に俺を処分する権限はないわけだ」
犬「さ、どうする? んん?」
店員「くっ、犬にしてやられるなんて……」
店員「ちくしょおおおおお!」タタタタタッ
犬「ふん、負け犬が……」
犬(あれから、うちのペットショップの売り上げはさらに伸びた……)
犬(もう……あの負け犬の存在を忘れかけてたある日――)
店員「おひさぁ~」ザッ
犬「誰かと思えば負け犬じゃねえか。なんの用だ?」
店員「決まってるだろ、お前をジュースにしにきたぜ」
犬「なに寝言ほざいてやがる。とっとと失せろ」
店員「実はな……」
店員「俺はあれから大出世して、店員でありながら、このペットショップを運営する会社の社長になった」
犬「ワン!?」
店員「つまり、店長であるお前より偉いってことだ」
犬「なにいいいい!?」
店員「さぁって、お待ちかね。社長権限で犬ジューにしてやるよ!」ギュィィィィィン
犬「ま、待て!」
店員「ん?」
犬「俺は店長になった時、お前を人ジュースにすることもできた……が、やらなかった!」
店員「む、たしかに」
犬「頼む、俺にもチャンスをくれワン!」
店員「……いいだろう」
店員「せいぜい、ジュースにされないよう努力してくるんだな……」
店員「その努力を蹂躙してこそ、極上のジュースが堪能できる!」
犬「努力した結果、もっとでかい企業の社長になって、ペットショップ運営会社を買収したぜ」
店員「は!?」
犬「これでまた、俺の方が偉くなったわけだ」
犬「さぁ、どうする? どうする?」
店員「こうなったらもっとでかい企業の社長になって、犬の会社を買収するしかない!」
犬「ククク、マネーゲームの始まりだ!」
店員「互いに世界的大企業の社長になったな……」
犬「ああ、だがお互い未だに根っこは犬であり店員であるのが悲しいところだ」
店員「人間、元々の性質はなかなか変えられないものだからな」
犬「俺は犬だけどな」
店員「しかし、いい加減買収合戦やめろって、色んなとこから怒られるようになった」
犬「無理もない。俺らのせいで、経済界の勢力図がしょっちゅう塗り替えられてるからな」
店員「とにかくこのままじゃキリがない」
犬「ああ、舞台を変えよう!」
犬「こうなったら政治家になってやる!」
店員「負けないぞ!」
犬「犬の、犬による、犬のための政治を!」
店員「私が総理大臣になったら、ペットショップ店員の賃金を大幅に引き上げます!」
ワァァァ……!
店員「――ついに、世界を二分する超大国の指導者になったぞ!」
犬「俺もだ!」
店員「俺たちはいつでも軍隊を出動させ、核兵器すら自在にできる身分だ……」
犬「ああ……いつでも押せるよう首輪には核スイッチをつけてある」
店員「国家元首になったのに、首輪つけてんのかよ」
犬「まだ“ペットとして売れたい”って気持ちは残ってるんでね」
店員「おかしな奴だ」クスッ
犬「お互い様だろ」
店員「あとは最終戦争を始めれば――」
犬「やっと決着をつけられるが……」
店員「……やめよっか」
犬「ワン」
店員「せっかくここまでやったのに、今さらやり合うなんてバカバカしくてなぁ」
犬「大勢の国民を巻き込むのも、気が引けるしな」
店員「お、お前、案外名君してるじゃねえの。名君つうか名犬か」
犬「よせやい、照れるぜ……」ラッシー
店員「ジュースで……乾杯しようか」サッ
犬「ワン!」サッ
カチンッ
アナウンサー『今、世界を二分する超大国の二大トップが、和解の杯を交わしたぁ~!』
アナウンサー『今日この日は、世界が平和になった日として、未来永劫記録されることでしょう!』
店員「世界は!」
犬「ワン(一つ)!」
店員「俺たち一人と一匹で!」
犬「ナンバーワン!」
― 完 ―