7月――
教師「えー、皆さん」
教師「夏休みの宿題はしっかりとやってくるように!」
教師「特に自由研究! いくら自由だからって、あまりにひどいのは許さんからな!」
教師「昔、自由研究をやらずに“宿題をやらないという自由を研究した成果だ”などと」
教師「トンチめいたことをいった奴がいたが、そういうバカは容赦なくブン殴ってやった!」
教師「俺は宿題をやらないバカ者は絶対に許さん!」
教師「きっちりやってくるんだぞ!」
はーいっ!
元スレ
教師「ガキどもの夏休みの自由研究がレベル高すぎて困る」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1535374858/
少年「あーあ、自由研究か。めんどくさいなー」
少年「みんな、どうする? テーマは決まってる?」
メガネ「うーん、まだ決まってませんね」
少女「あたしもー」
ガキ大将「自由ってのが、かえって厄介なんだよなー」
お嬢様「本当ですわ。算数や漢字のドリルの方がまだ楽ですもの」
腕白「まったくだよ!」
ハナタレ「アハハ~」ジュルッ
…………
……
9月――
教師「みんな、おはよう」
教師「今日は欠席者もなく、みんなの元気な顔を見ることができて嬉しいよ」
教師「しかし、まさか……夏休みの宿題をやっていないバカ者はいないだろうな!?」
シーン…
教師「ではこれから自由研究をひとりひとり発表していってもらう」
教師「君から始めてもらおう」
少年「はいっ!」
少年「ぼくは夏休み、日本中を旅しました」
少年「47都道府県を回り、色んなことを調べました」
教師「本格的だな、いいじゃないか」
教師「それで? 各都道府県の名産などを調べたというわけだな?」
少年「いえ、そうじゃありません」
教師「ほう?」
少年「ぼくは各地方自治体が抱えている課題について、レポートにしてまとめました」
教師「え?」
少年「やはり想像していた通り、地域間の格差は非常に深刻なものとなっており」
少年「財政危機に陥っている市町村も少なくはありませんでした」
少年「このひずみがいずれ、日本全体に大きなひびを入れてしまうことは想像に難くありません」
教師「そ、そうなんだ」
少年「政府が主導して、地域の格差を解消しなければ、日本はバラバラになってしまいます」
少年「日本がバラバラになれば、諸外国との競争にも大きな影響が……」
教師「ああ、うん、そうだね」
少年「先生はどう思いますか?」
教師「え!」
少年「地域格差について、先生の私見をお聞かせ下さい」
教師「あ、いや……長くなっちゃうから、俺の意見はまた今度ということで……」
教師「じゃあ、次!」
メガネ「ぼくはロボットを作りました」
教師「ロボットか、すごいな」
教師(きっと市販されてる工作キットかなにかで、作ったんだろうな)
教師(電池を入れれば走り回る、ミニ四駆みたいなやつを……)
教師「肝心のロボットはどこにあるんだ?」
メガネ「じゃあロボット、入ってきて下さい」
教師「え?」
ガラッ
ロボット『……』ガションガション
教師「うわ、二足歩行!? アシモかよ!?」
ロボット『私、ロボデス』ウイーン…
教師「しゃべった!?」
ロボット『驚カセテシマッテ、スミマセン』
教師「しかも、こっちのいうことに反応したぁ!?」
教師「そうか、中に人が入ってんだろ! お父さんとか! おじいちゃんとか!」
メガネ「違いますよ、AIを搭載しているんです」
教師「え、AIィ!?」
メガネ「しかし、なかなか人の感情というものを理解させるのに苦労してます」
メガネ「先生、なにかいい方法はありませんか?」
教師「うぇ!?」
教師(分かるわけないだろ、そんなの……)
教師「う、うーむ……コツコツと努力するしかないんじゃないか」
少女「あたし、西洋のお城に憧れてるので、お城を作りました!」
教師「お城かー」
教師「……で、お城はどこにあるんだ?」
少女「ここにはありません」
教師「おいおい、“やったけど忘れました”は通用しないぞ」ギロッ
少女「ちがいますよ! ちゃんとあります!」
教師「だから、どこにあるんだ?」
少女「あそこにあります」
教師「うわぁ、外に城が建ってる!」
教師(某テーマパークのシンデレラ城みたいなのが……!)
教師「ど、どうやって作ったの、あれ」
少女「紙粘土で一生懸命作りましたー」
教師「紙粘土!?」
少女「震度7でもビクともしない設計になってますし」
教師「す、すげえ……」
少女「あちこちに罠が仕掛けてあって、たとえ米軍の特殊部隊が攻めてきても」
少女「そう簡単に落とせない仕組みになってます!」
教師「そうか……立派なお城を作ったねー……次! 次はガキ大将!」
ガキ大将「オレは生き物をいっぱい捕まえたぜ!」
教師「生き物?」
教師「生き物を飼って、観察日記をつけたってところか?」
ガキ大将「そんなんじゃねえよ。今日も連れてきたんだぜ」
教師「おいおい、学校に生き物を連れてくるなんて……といいたいところだが」
教師「まぁいい、どんな生物を捕まえたか見せてみろ」
教師(せいぜい昆虫や魚、トカゲヤモリの類だろ……)
ガキ大将「みんな、入ってきてくれ!」
ツチノコ「シュルルル…」ニョロニョロ
イエティ「ウッホウッホ」
ネッシー「ギャァァァァァス!!!」
スカイフィッシュ「……」ビュンビュンビュン
教師「!!??」
教師「なんだこいつらは……!?」
ガキ大将「未確認生物さ! 頑張って捕まえてきたんだ!」
教師「えええ……確認されちゃった」
ネッシー「ギャァス!」カプッ
教師「わーっ、ネッシーが噛んでる噛んでる! 俺の頭噛んでる!」
ガキ大将「コラ、ダメだろ、ネッシー!」
ネッシー「キュウ……」シュン…
教師「ハァハァ……しつけもよく出来てて、大変よろしい!」
教師「次……」
お嬢様「わたくし、世界を回ってきましたわ!」
教師「これはこれは……お金持ちらしい自由研究だ」
教師「で、どんな研究をしてきたのかな?」
お嬢様「はいっ! わたくし――」
お嬢様「さまざまな国際問題を解決して参りました」
教師「は……」
お嬢様「中東問題や米中の貿易摩擦、難民の問題など……」
教師(ニュースで夏休み中にやたら海外のトラブルが解決したってやってたけど)
教師(まさか、この子の仕業だったのか……!?)
教師「しょ、証拠は!? 証拠はあんのかよ!?」
お嬢様「見て下さいませ。この勲章の数々」キラキラキラ…
教師「すげえええええええ!!!」
教師「次ィ!」
腕白「ロケットを作ったよ!」
教師「ペットボトルロケットか? ペットボトルロケットだよな? そうだといってくれ、頼む!」
腕白「ロケットで冥王星まで行ってきた!」
教師「わぁお!!!」
教師「ホントかなぁ~? 冥王星なんて、そう簡単に行ける場所じゃないぞ~?」
腕白「ちゃんと行ったよ! 友達も作ったし!」
教師「友達?」
冥王星人「ドモ、メーオーセイカラキマシタ」グジュ…
教師「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
冥王星人「チキューハ、アツイデスネ」
教師「まだまだ残暑が厳しいですから……あ、ジュース飲みます?」
冥王星人「コリャドーモ」グビグビ
「10時間に及ぶ歴史映画を撮影しました!」
「ベンチャー企業を設立しました!」
「新しい再生医療技術を確立しました!」
教師「……!」
教師(どうなってんだ、どいつもこいつも自由研究のレベルが高すぎる……!)
教師(俺はこいつらの教師なのに、とてもついていけん……!)
教師(このままじゃ威厳が保てない……。どうすればいいんだぁ……!?)
教師「最後は……君か」ヨロッ…
ハナタレ「……」ジュル…
教師「自由研究の発表を――」
ハナタレ「あ、あの……」
ハナタレ「自由研究……やるのを忘れました」ジュル…
教師「!」
ハナタレ「あれだけ言われてたのに、ごめんなさいっ!」
教師「……!」ウルッ
教師「いいや、先生は嬉しいっ!」ガシッ
ハナタレ「!」
教師「ありがとう、ありがとう……!」
教師「これで君までとんでもない自由研究をやってきてたら、先生どうなってたか……!」
教師「ありがとう……! 君のおバカっぷりが、今はとても愛しいよ……!」
ハナタレ「先生……」ジュル…
……
……
ハナタレ「……以上のように、私が知恵や力を貸してクラスメイトにレベルの高い宿題を提出させた結果」カタカタ…
ハナタレ「宿題忘れに厳しい担任教師が、宿題を忘れた私を愛おしく感じるようになりました」カタカタ…
ハナタレ「≪馬鹿な子ほど可愛い≫を実証できたわけです」カタカタッターン
ハナタレ「よし、今度の学会で発表するのに、いいレポートが出来上がった」ジュル…
END