―薬局―
男「処方箋を持ってきました」
友人「ボクもです」
薬剤師「おや、お二人とも同じ薬なんですね?」
男「ええ、どっちも鼻炎でして。まあ軽いやつなんですけど」
薬剤師「……ふむふむ」
薬剤師「このタイプのお薬でしたら、ジェネリック医薬品がオススメですよ」
男「ジェネリック医薬品?」
元スレ
薬剤師「ジェネリック医薬品がオススメですよ」男「今までのでいいです」薬剤師「しかしお安いですよ?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1491838586/
薬剤師「ジェネリックというのは≪一般的な≫という意味でして」
薬剤師「特許が切れた薬と有効成分が同じ薬のことを指します」
薬剤師「当然、今までのお薬よりもだいぶお安くなりますよ」
友人「へぇ~、そうなんですか。だったらそれに――」
男「おい、ちょっと待て」
友人「ん?」
ボソボソ…
男「ジェネリックなんてかっこいい言葉使ってるけど、ようは廉価版だろ?」
男「世の中≪安物買いの銭失い≫≪安かろう悪かろう≫なんて言葉もある」
男「ましてや薬なんて、自分の体調にも関わるもんだ。安易に安いのに飛びつくのはやめた方がいい」
友人「そういうもんか? じゃあやめとくか……」
男「すみません、俺は今までのでいいです」
友人「……ボクも」
薬剤師「なぜです? ジェネリック品の方が絶対お得ですよ」
薬剤師「価格も安いですし、効果も同じとされてますし」
男「それは分かりました。でもとりあえず今回は今までのを出して下さいよ」
薬剤師「しかしですねえ……」
男「……」イラッ
男「しつっこいなあんたも!」
男「客が今までのいいっていってんだから、従えばいいんだ! なぁ!?」
友人「ボクは別にジェネリックでも――」
男「……」ギロッ
友人「……」
男「いいから、早く今までのを出してくれよ!」
薬剤師「……後悔することになりますよ?」
男「後悔? 後悔なんかするわけないだろ! さあ、とっとと出してくれ!」
薬剤師「分かりました……少々お待ち下さい」
男「ったく、しつこかったなー、なんなんだあの薬剤師。どことなく不気味だったし」
友人「なにもあそこまで意固地にならなくてもよかったんじゃないか?」
友人「廉価版といっても、きちんと試験した代物なんだろうしさ」
男「ぶっちゃけ俺も、ジェネリック品は絶対ダメだ、なんていうつもりはないよ」
男「だけど俺はああいう風に勧められると、意地でもそれにしたくなくなるって性分でね」
男「ようするに、あの薬剤師が気に食わなかっただけ」
友人「お前、昔からそんな感じだもんな~」
男「ハハハ、俺はヘソ曲がりなんだよ」
―アパート―
男「……ん」
男「ドアんとこにチラシが入ってる。なんだこりゃ?」ガサガサ…
『ジェネリック医薬品のススメ』
男「……こりゃまたずいぶんタイムリーなチラシだな」
男「ま、こんなもんは丸めて」クシャクシャ
男「こうだ」ポイッ
男「さーて、メシ食いながらテレビ見るか」
男「ほいっ」ピッ
テレビ『それではまず、ジェネリック医薬品についてのニュースです』
男「うお、またかよ」
男「……チャンネル変えよ」ピッ
テレビ『ジェネリック医薬品の最先端に迫ります!』
男「なんだなんだ、今ジェネリック医薬品って流行ってるのか?」ピッ
テレビ『今日のハレトーークはジェネリック医薬品芸人!』
男「見たくねえよ、こんなもん! くそっ!」ピッ
テレビ『それではWHO48の新曲“ジェネリック・ジェラシー”!』
男「なんなんだよこれ!」ピッ
テレビ『新アニメ、ジェネとリックの大冒険!』
男「どのチャンネルにしてもジェネリック医薬品じゃねえか!」ピッピッピッ
男「なんなんだこりゃ……」
男「テレビはやめだ」ピッ
プッ…
男「明日も早いし、もう寝よう」モゾッ
男「ぐぅ……」
ジェネリックジェネリックジェネリックジェネリックジェネリックジェネリックジェネリックジェネリックジェネリック…
ジェーネリックジェーネリックジェーネリックジェーネリックジェーネリックジェーネリックジェーネリックジェーネリック…
ジェネジェネリクリクジェネジェネリクリクジェネジェネリクリクジェネジェネリクリクジェネジェネリクリク…
男「う~ん……」
チュン… チュチュン…
男「昨晩はあんまり眠れなかった……」
男「まぁいいや、トースト食いながら、朝のニュースでも――」
男(いや……嫌な予感しかしないな)
男「……テレビは見ないで、このまま会社に行こう」
ガタンゴトン……
―電車内―
乗客A「いやぁ~、ジェネリック医薬品って本当にいいものですなぁ!」
乗客B「まったくですなぁ!」
男(あーあー、聞こえない聞こえない)
車内アナウンス『安くて、よく効き、しかも安全! ジェネリック医薬品をどうぞよろしく!』
男(なんで鉄道会社が薬の宣伝すんだよ!)
―会社―
男(ふう、会社に着いちゃえばこっちのもんだ)
男(仕事に取りかかれば、ジェネリック医薬品のことなんてすぐ忘れられるさ)
同僚「おはよう」
男「……おはよう」
同僚「どうした? なんか元気ないな」
男「昨晩、あまり眠れなくてさ」
同僚「ふうん……」
同僚「だったら、よく効く睡眠薬教えてやろうか?」
男「睡眠薬? どんなの?」
同僚「ほらこれ! ジェネリック医薬品だからとても安いんだぜ!」
男(ま~たジェネリックか!)
男「いや……気持ちだけ受け取っておくよ」
同僚「そっかぁ? 残念だなぁ」
男「課長、取引先に行ってきます」
課長「うむ、頑張ってくれたまえ」
男「はい、今日こそ契約をもらってきます」
課長「ところで話は変わるが――」
男「?」
課長「ジェネリック医薬品ってのはいいもんだねえ……」
男(変わりすぎだろ!)
課長「息子がカゼをひいてしまったんだが、ジェネリック品だとだいぶ安く……」
男「行ってきます!」
―取引先―
取引先部長「……よかろう、この条件で契約しよう」
男「ありがとうございます!」
取引先部長「いやぁ、今日は気分がいいよ」
男「それは私もですよ」
取引先部長「きっと高血圧の薬を、ジェネリック医薬品にしたおかげかもしれないな……」
男「!?」
取引先部長「ジェネリック医薬品はいいよぉ、君にもぜひオススメしたい。なぜなら――」
ペチャクチャペチャクチャ…
男(どうなってる……どうなってんだ、これは!?)
数日後――
プルルルルル…
友人『やぁ』
男「おう、どうした」
友人『実はさ……ボク、ついさっきあの薬局行って、薬をジェネリック品にしてもらったんだ』
男「え……!? なんで!? どうして!?」
友人『理由は……言わなくても分かるだろ?』
男「……」
友人『君もいつまでも意地を張らない方がいいよ』
友人『あの薬剤師を敵に回すと、きっととんでもないことになる』
友人『じゃあね、君が賢明な選択をすることを祈ってる』プッ…
男「……」
男(これはきっと、あいつも俺と同じ目にあったんだな……)
男(ふざけるな! 俺はあいつとは違う! こんなことで屈してたまるか!)
男「どうやってんのか知らんが、一連のジェネリック現象はあの薬剤師の仕業だな!」
男「あの野郎、ただじゃおかねえ!」
男「だけど直接抗議にいくのはちょっと怖いし……」
男「こうなったら110番に電話して……」ピッピッピッ
電話『こちら110番です。事件ですか、事故ですか?』
男「事件です!」
電話『どのような?』
男「なんていうか、精神的な嫌がらせを受けてるんです!」
電話『でしたら、心によく効くジェネリック医薬品はいかがですか?』
男「ひいっ! もう結構です!」プッ…
―アパート―
男(今日もジェネリックまみれの一日だった……)
男(寝よう……)
男(……ん? 天井にある木目、まるであの薬剤師の顔に見えるな……)
男(心なしか、口元が動いてるような……)
ジェネリック… ジェネリック… ジェネリック… ジェネリック… ジェネリック…
男「うわあああああああああああああ!!!」
……
……
友人「……ずいぶんやつれたね」
男「……そうかな」
友人「やっぱり今すぐあの薬局に行くべきだよ」
友人「そうすれば、ジェネリック地獄から解放されるはずさ」
友人「ボクだって薬を替えてからは普通の生活に戻れたんだし」
男「……そうするよ。俺は今からあの薬局に行く……」
―薬局―
男「お久しぶり」
薬剤師「お待ちしておりました」
薬剤師「そろそろ、あなたもいらっしゃる頃だと思っていましたよ」
男「ってことは、一連の怪現象はやっぱりお前の仕業か」
薬剤師「怪現象? さあ、なんのことやら?」
男「まあいいや……話がある」
薬剤師「うかがいましょう」
男「いいか、今日来たのはジェネリック医薬品をもらいにきたわけじゃない」
薬剤師「……ほう」
男「むしろその逆だ!」
男「俺は絶対に、お前が何をしようと、どんなに宣伝しようと、ジェネリック医薬品なんか使わない!」
男「ぜーったいにだ!」
男「お前は今日、俺が降参すると思っただろうが、俺をなめるなよ!」
薬剤師「……」
薬剤師「分かりました」ニッコリ
男「……え」
薬剤師「あなたがそこまでおっしゃられるなら仕方ない」
薬剤師「あなたを説得するのは諦めます」
男「え、あ、そ、そう……」
男(もっと口論になるのを覚悟してたが、案外あっさり引き下がってくれたな)
―アパート―
テレビ『なんでやねん! どっ……! アハハハハッ!』
男「テレビも普通に見られる」
男「やっと……やっと俺にも、普通の生活が戻ったんだ!」
男「ジェネリック地獄から解放されたんだ!」
男「やったーっ!」
男「さ、明日からも仕事頑張るぞ!」
―会社―
男(今日は久々にいい気分だ……こういう日はいい仕事ができそうだ)
男「おはようございまー……」
男「!!?」
?「……」カタカタカタ
男(俺によく似た奴が、俺のデスクで勝手に仕事を始めてる……!?)
男(しかも、なんで周りの奴は誰もおかしがってないんだ!?)
男「おい……誰だお前!?」
?「俺ですか?」
?「俺は――あなたのジェネリックですよ」
男「――はぁ!?」
男(ジェネリック俺!?)
課長「今日からは彼が君の代わりに、ここの社員になった」
課長「君よりも安い給料で働いてくれるし、能力も似たようなもんだし、いうことないよ」
課長「これからもよろしく頼むよ!」
ジェネリック男「はいっ!」
男「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺は!? 俺はどうなるんですか!?」
課長「決まってるだろう? もちろんクビだ」
ジェネリック男「さて、鼻炎の薬を飲もうかな」
課長「お、ジェネリック医薬品の薬を飲むのかね。さすがだね~」
ジェネリック男「はい、なにしろ安いですから!」
課長「じゃあ、君は出ていきたまえ。同僚君、追い出すのを手伝ってくれ」
同僚「ほら、往生際が悪いぞ」
男「ちょっ……そんなっ! そんなぁぁぁっ!」
―アパート―
大家「今日からこの部屋は、ジェネリックなあんたの部屋だよ」
大家「さ、出てった、出てった!」
男「あうう……!」
男(親父とお袋ならきっと……)プルルルル…
母『ジェネリックな息子ができたから、あんたはもう息子じゃないよ』
父『うむ、絶縁だ。長い間、ご苦労だったな』プッ…
男「どうして……どうしてこうなった」
男「薬剤師ィィィィィッ!」
―薬局―
≪閉店しました。長らくのご愛顧、ありがとうございました≫
男「閉まってる……!」
男「薬剤師ィ! 薬剤師ィィィ!」ガンガンガン
男「俺が悪かった! 俺が悪かったからァァァ!」ガンガンガン
男「ジェネリックじゃない俺はこれからどうすりゃいいんだ!!!」
うわあああぁぁぁぁぁ……!
―終―
後発品がなんで安いかぐらい調べたらわかるしお安いですよしか言わない薬剤師がいるわけないだろ