2 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 14:59:16.05 JeVAPgDO 1/455


──幻想殺し。異能の力ならば何でも打ち消す。それが火であろうが水であろうが雷であろうが、神の祝福であろうが。その幻想殺しを宿す右手を持つ少年はトボトボと肩を落としながら道を歩いていた。

「はぁ、不幸だ……」

口癖のように、毎日溜め息と共に吐き出されるその言葉は夕焼けを映す空の色に溶けた。

彼が憂鬱になっているのは、いつも通っているスーパーの特売に間に合わなかった為。万年金欠生活を送っている少年にとってスーパーの特売日などというものは彼にとって受験と同等の大事なそれで、今日も今日とてその大事なイベントを逃してしまっていた。

生きるための術として、その大事な日を忘れていたわけではない。今日の朝だってそれに間に合うように時間を計算して、行動してきたはずだった。特売に合わせ昼飯でさえも抜いてその分特売に回そうと思い、放課後まで過ごした。そしてグーと鳴るお腹を押さえるのだが。

……戦場(スーパー)に向かう道すがら、不良に絡まれる人を見かけてしまうのはどうやら彼の体質らしい。それを見かけた所で彼の起こす行動は決まっている。

元スレ
上条「身体が……熱い」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294925347/

3 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:01:04.85 JeVAPgDO 2/455


「時間は……五時過ぎてる、か……」

不良から絡まれてる人を助け、引き付けて逃げ回るというのは彼の大体のパターン。普通なら大体のパターンが出来るとかその時点でおかしいのだが、治安がよくないこの学園都市という場所、それに加えて不幸体質である彼にとってもはやそれは別に特別な事ではない。

スーパーの特売を逃すというのは非常に死活問題な訳だがそれ以上に困っている人がいたら放っておけないのだ。

不幸体質の彼は、その不幸を一身に受けている故に辛さが分かってしまう。だからこそ不幸な人を見るとついつい助けてしまうのが彼の性分であった。

……すると。

「ちょっとアンタ!」

ふとこの場に声が響き渡った。

4 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:03:06.18 JeVAPgDO 3/455


「……おっすビリビリ」

これももはや日常茶飯事。学園都市が誇る超能力者、230万人の中の第三位である御坂美琴が仁王立ちで彼の前に立ちはだかった。

「ビリビリ言うなっての!」

そう言いながらビリビリと電撃を飛ばしてくるのだから仕方ないだろ?と思いながら彼はその幻想殺しを宿す右手を付き出し、文字通り電撃を打ち消した。

「たまには当たんなさいよね!」

当たったら無事ではすまないだろと内心思いながら、こめかみに怒りのマークを浮かべる少女に目をやった。

美琴も追撃しようとするのだが、彼の表情が沈んでいるのを見て帯びていた電気をふと消した。

「何か元気ないわね」

「……あぁ、特売、逃がしちまったんだよ……わざわざ昼飯も抜いたってのに……」

「……御愁傷様ね」

美琴が彼と会うと半分くらいは特売、特売言っている。よほどの節約生活を送っているのだろう、彼にとって特売がどれほど大事なのかは美琴にも分かっていた。と言うより、分からされていたと言うべきか。

それの半分くらいは私の事も気にかけて欲しいのに……とは思っても絶対に口には出さない。だが彼の沈んだ顔を見るのはなんとなく美琴は嫌だった。

ふとそこで道の脇に立つやたらと明るい雰囲気の建物に目をやる。

「お腹、空いてるんでしょ?」

5 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:07:43.19 JeVAPgDO 4/455


「あの、本当にいいんでせうか」

「ここまで来て今更帰るとか言わないでよ」

場面はファミレスの中。お腹をかなり空かしてまで臨んだ特売に間に合わなかった彼、上条を呆然としたままファミレスまで美琴は連れてきていた。

心なしか、美琴の顔は赤い。……ここに来るまで、彼の手を引っ張ってきていたから。

「……御坂?顔赤いぞ、大丈夫か?」

その言葉と共に上条はテーブルの上に身を乗り出し、手を美琴のおでこに当てた。

「ちょっと熱いな。大丈夫か?」

「なっ、なっ……!///」

いきなりおでこに手を当てられ、美琴は少し上がっていた体温が更に上がっていくのを感じた。

「……風邪引いてんのなら、無理はダメだぞ」

「べっ、別に風邪なんか引いてないわよ」

そうか、と上条は言い手を戻す。戻した手でコーヒーカップを持ち、ゆっくりと口を付けた。

6 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:11:52.27 JeVAPgDO 5/455


御坂美琴にとって、上条当麻は救世主であり───想い人だ。

あの絶望の縁に立たせた事件、絶対能力進化(レベル6シフト)実験。自身のDNAマップを基にして、自身のクローン(シスターズ)が産み出された。そしてそれを学園都市第一位である一方通行が二万体撃破することで計算上誰一人として辿り着くことの出来ない高み、レベル6へと上り詰める事が出来るという不条理な実験であった。

元々は幼少期、筋ジストロフィーを治す手伝いをしないかと科学者に促され、提供したDNAマップ。それが別の目的で使われ、ただ殺される人形としてシスターズは産み出された。それを知った美琴は怒り狂い、塞ぎ込み、暴れまわった。

誰一人として自分の苦悩に気付かない、見て見ぬふりを通される中。ただ一人、彼だけは立ち上がりその身をボロボロにしながらも美琴の絶望を砕いてくれた。

無能力者でありながら学園都市の最強に立ち向かうその姿、底抜けに優しい性格。実験要素でしかなかった妹達に生きる意味を教えてくれた。与えてくれた。

そして自分にも胸を張っていいんだと諭してくれた。

彼がいなかったら……もしくは彼以外の誰かだとしても、きっと自分は立ち直れなかったと美琴は思う。砕けたままの息する人形として自ら生きる意味をも手放してしまいそうな、そんなズタズタな心は彼でなければ癒せなかったであろうと、トクンと脈打つ鼓動と共に胸に刻み込んでいた。

彼がいるから、自分は笑っていられる。この想いは、恐らく一生消えることはないだろう、寧ろ消したくないと自分で再認識した。

8 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:34:14.61 JeVAPgDO 6/455


「お昼ご飯抜いたって言ってたけど、ちゃんと食べなさいよね」

「別に今日は放課後の補習もなければ体育みたいな身体を動かす授業がなかったからいけると思ったんだけどな」

「自分の体質忘れた訳じゃないんでしょ?何かが起きるっていう不測の事態にいつでも対応できるようにしときなさいよ」

「うぐっ……反論できない……」

うだーっと上条はテーブルの上に項垂れた。どうしていつも俺はタイミング悪いんだーとボソボソ呟いてる声も美琴の耳に届いた。

──クスッ。

そんな彼を見て、美琴はふと笑みが浮かんでいた。不謹慎だと思うが、こうして上条と食事できるチャンスが回ってきているのだ。上条と一緒にいれるのだ、楽しくないわけがない。

「ま、懲りたらこれからしっかりと準備はしておく事ね」

顔のニヤケもそのままに美琴は断言する。

「うぃーす」

「お待たせしました。ハンバーグセットのお客様」

「あ、はい」

店員が来た途端テーブルから飛び魚のようにガタッと身を起こし、待ってましたと言わんばかりの子供のような無邪気な笑顔を見せた。

「───///」

毒牙を抜かれたとはこの事を言うのだろうか、その彼の笑顔を見るや否や美琴の顔はポンッと音を立てたような気がした。

「……///あっ、それでこちらがカルボナーラのお客様っ」

……彼のそんな言動は無差別攻撃だったらしい。

9 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:35:30.62 JeVAPgDO 7/455


「いやぁ美味かったな。こんなに美味しいもの食べたのなんて久し振りで。珍しく上条さん幸せです」

満足そうにお腹をさすり、人工的に作られた灯りだけが灯す道を二人歩く。あぁ、何て幸せなのだろうと言わんばかりの表情をしながらテクテク横を歩く上条をふと見上げた。

──そうね、これ以上の幸せなんてないくらい……

そう素直に言えれば美琴の恋は苦労はしないだろうが、そこは美琴だからとしか言いようがなく。

「こんなので幸せ感じるなんて、アンタはどんだけなの」

と憎まれ口を叩いてはいつも後悔する。

──ああんもうこんなの話したいわけでもないのに。

「ははっ、常磐台のお嬢様には貧乏なんて分かりませんよねー」

ご飯をおかずにしてご飯を食べる生活ーとボソボソ聞こえてきたが気のせいだろう。

「時間は大丈夫なのか?送っていくぞ」

「そろそろ帰らなきゃね、また寮監にどやされちゃう」

「またって……女の子なんだから女の子らしくしろよな」

「それはどういう意味かしら」

「なっ、深い意味はない!だからその電気をしまってくれ!」

ふふふと美琴は笑いながらビチバチと電気を手に宿す。上条は慌てながらそれを収める様に言ういつものやり取りだ。

「ぷ、冗談よ」

その上条とのいつものやり取りが美琴にとっていつからこんなにかけがえのないものになったのだろうか。

「アンタんちもこっからだと逆方向だし、送ってくれなくてもいいわよ。それに私はレベル5よ、仮に襲われても返り討ちに出来るくらいアンタも知ってるでしょ?」

文字通り、上条はその身をもって知っている。

「まぁそう言うなって。今日のお礼だと思ってくれればいい」

自分からしてみれば理不尽な攻撃でも何だかんだ言って付き合ってくれる。だからこそ。

「割りに合わないかも、だけど」ニコッ

こんなにも優しい彼に、素直に甘えたくなるのもしょうがない。

10 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:41:22.43 JeVAPgDO 8/455


──時計を見る。もうすぐ八時を回りそうだ。完全下校時刻が大分前に過ぎていて、周りを歩く人も昼のそれに比べて格段に少ない。

上条はそんな街並みを見ながら、少し期限良さそうに歩いていた。同居人は担任のロリ教師に誘われ、現在絶賛焼き肉中。そのまま泊まるらしいので、久し振りに一人が満喫できるというこれからの事も含めてご機嫌指数は良好線を指していた。

「……御坂、か」

ふと呟く。超電磁砲こと、御坂美琴。学園都市第三位の実力者であり、常磐台という名門校に通うお嬢様。

ふとした成り行きで、今日は一緒に食事を摂ることになった。一見完璧超人のように見えてまだまだ子供のようでもあり。上条はどちらかと受けた印象の中で後者の方が強いのだが。

いつ、どこでどう出会ったなんて、上条は知らない。『忘れた』とか『思い出せない』ではなく、『知らない』のだ。『思い出せない』は厳密には間違ってないのだが、思い出す事が『できない』。現在の同居人であるインデックスという少女を助けた際、彼の脳細胞は傷つけられ、今まで経験してきた『思い出』というカテゴリーの内容が全て切り取られてしまっていた。

上条当麻という人間が一度死んで、生まれた。

それから大分時間が経ち、恐らく上条という人間の中で主要とされてきたであろう人物達には一通り会ってきたのだが、記憶喪失という事はとりあえず隠せている。

以前の上条がどういう生き方をしてきて、どういう考え方をしてきたか。今となっては知る術はないが、最初の方はやきもきした。

借り物の自分が今している行動は正解なのか、自分を見る人達はどう見えるのか。答えのない答え合わせをしていた。

11 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 15:58:46.64 JeVAPgDO 9/455


何だかんだ過ごしてるうちに、御坂妹の件があった。絶対能力進化実験だかなんだか知らないが、美琴は一人で泣いていた。一人で震えていた。そんな美琴を見た上条は放っておけなかったのだ。

上条は頭よりも先に身体が動く。そういう性質の人間は人類の何割かは知らないが恐らく少ないのであろう。だから美琴が一人絶望の縁から叩き落とされそうになるのを見て、何よりもまず美琴の元へと走った。

何故そういう行動に走ったのか。とかそういうのは上条は一切考えない。答えるとしたら、困ってたから、放っておけなかったから。

それだけで上条は動くに値する。

結果、救えた。それが嬉しかった。再び彼女に笑顔を取り戻させてあげれた事が。

皆が笑顔でいられれば、それでいい。自分が不幸体質なのを無意識レベルで知っている。だから人が不幸になっていくのを黙ってみていられない。

……ただ、ただ。


『……そう、約束だ。御坂美琴とその周りの世界を守る』


その言葉が、何故か頭の中を駆け巡った。






「───ぐっ!?」

ふと突然の頭痛が上条を襲った。身体も熱い。意識が混濁する中で、片膝を地面につきなんとか堪えようと頭を押さえる。

「また、かよ……っ!」

ズキズキ痛む頭と、燃えるように煮えたぎる身体と。   ・・・
一体、何度目なのだろうか、この襲いかかる異変に必死に耐える。冷や汗が玉となり、上条の頬を伝った。

「……おさまって、きたか……?」

時間にして一分間くらいだったのだろうが、だんだん長くなってきた苦しみの余韻が響く頭を押さえたまま上条は立ち上がった。

「……何だよ、これ」

最近『度々』起こる突然の頭痛、身体の火照り。嫌な予感が脳裏をよぎる。ここ何日か前からだろうか、その症状が上条を襲った。

「やっぱ、病院行っとこうか」

その頻度も少し頻繁になってきている。そして、長くなってきている。少なからず早いとこかかっても準備にこしたことはないだろう。

『しっかりと準備はしておく事ね』

先程美琴に言われた事を思いだし、「勝てないな」と呟き上条は帰路についた。

12 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 16:18:27.25 JeVAPgDO 10/455


そして翌日。

授業は睡眠時間と言わんばかりに惰眠を貪っていると、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた(さすがに教科、担当する教師にもよるが)。

「ふあ…昼休みか」

んんっと両手を天井に向けて伸びをすると隣から声がかかった。

「カミやーん、んなに授業中寝まくるから補習というツケが回ってくるんだにゃー」

「ふっ、何を言う土御門。いい天気!優しく身体を抱き締めるお日様の光!そして何よりも子守唄のような教師の声!窓側の席に座ればその魔力が分かるぜ」

「それは否定できないんだにゃー」

自慢できないことを胸を張って言う上条にそれに賛同する土御門。実際に彼の目も寝起きしたみたいに赤い。

「ま、ボクは窓側じゃなくても寝るんやけどなー」

そう乗ってきたのは上条の斜め前、土御門の前の席に座る青髪ピアスだった。彼の目も彼らと同じように赤かった。

「全く貴様たちは。小萌先生の泣く姿が目に浮かぶわよ」

呆れたように三人に声をかけてきたのは吹寄という女子生徒で、このクラスの学級委員長だった。

「なっ、それはアカン!でも泣く小萌てんてーもええんやろなぁ」

しみじみと虚空を眺め、ニヤニヤし出す青ピは放っておこう。これがこのクラスの暗黙の了解になっていた。

13 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 16:24:11.60 JeVAPgDO 11/455


「ところでカミやん、昼飯はどうするんだにゃー?」

「ああ、購買行ってくるよ」

「土御門は?」

「舞夏の愛妻弁当あるから待ってるにゃー」

「このシスコンが。まぁ行ってくるよ」

捨て台詞を吐きながら上条は立ち上がった。強い口調になっているのは、ぶっちゃけ女の子に弁当作ってもらうって事は羨ましかったからだ。まぁそんな事を言い出せば、次の日からの昼食の量は半端ない事になりそうだが上条はそんな事は知る由もない。

「てんてーを慰めた後にー……ってカミやんちと待ち!ボクも行くでーっ」

上条の後を慌てて青ピが追い掛けて行った。

「制理。私も一緒に食べていい?」

「別に断りはいらないわよ、秋沙」

「おう、先に食べてようぜい」

そこに姫神も加わり、このクラスもいつものメンバーで昼食を摂ることになった。

……ちなみに。先程の上条の「優しく身体を抱き締める」云々で顔を赤くする女子生徒がこのクラスには多数いたらしいのだが特記する事でもないだろう。

18 : 再開 - 2011/01/08 19:59:00.25 JeVAPgDO 12/455


放課後を合図するチャイムが鳴り響くと途端に生徒達は開放的な気分になる。それは恐らくどこの学校に行ってもそうなのだろう。

「カミやーん、帰りにゲーセンでも寄っていかないかにゃー?」

それはこの学校、このクラスも例外ではなく。上条に学生達のオアシスへのお誘いが土御門からかかった。

「おおー、行きたいとこだけどな。悪い、用事あるんだよ」

苦笑いして上条はやんわりお誘いを断った。今日は帰りに病院に寄ろうと決めていたのだ。最近身に起こっている異変。それはやはり放っておけるものではなかった。

「むっ、カミやんもしかして女の子と約束してるんちゃう?」

キュピーンという音が聞こえてきそうなほど目を光らせ上条を軽く睨んだ。……気のせいかその周り──いつものメンバー+αからもキュピーン音が聞こえてきたのはきっと気のせいだ。

19 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:00:21.46 JeVAPgDO 13/455


「んなんじゃねえって。そもそも上条さんを誘ってくれる女の子なんていないだろ」

ないないと手を降りながら笑って否定する上条に無数の殺気が飛び交った。

((((またコイツは……))))

「は……ははは……」

幾つかの修羅場を乗り越えてきた上条だからこそ、そういう殺気を感知出来るようになっていて。笑いながら冷や汗をかき後ずさる。

「さ、さらばっ」

そして脱兎のごとく逃げ出した。余程の殺気だったのだろう、かなりのスピードだった。

「全くあの男は……」

呆れたように委員長は声を出し、

「「「「……はぁ」」」」

クラスの女子生徒達も溜め息を吐いていた。ちなみに姫神のその中の一人だったらしい。


20 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:01:57.68 JeVAPgDO 14/455


何とか逃げ切った道すがら、上条はいつもの公園に差し掛かる。そびえ立つ建物をすし詰め状態にした学園都市にしては珍しく中々の広さの公園で、街を歩けどあまり見ることのない緑が心を落ち着かせてくれるようで、上条はここを通るのが密かのお楽しみだ。

「(やっと見つけた!)ね、ねぇ」

……高確率でその途中横槍が入るのだが。

「御坂か。おっす」

「……おっす」

手を上げ、声を掛けてきた人物に挨拶をする。これだけで相手の顔が赤くなる意味が分からないのだが、と上条は相手の真意を掴みかねていた。というか掴むことのできる人間だったならば、彼の人生は大きく変わっているのだろうが。

「帰り?」

「ん、んん、まぁそんなとこ」

上条としては自分が病院に行くと言うことをあまり言いふらしたくない。彼の性格上であるのか、余計な心配かけたくないと言うのがあった。それが誰に対してあれ、だ。

「御坂は?」

「あ、えと、その……私も帰り(待ち伏せしてたなんて言えるわけないじゃない///)」

「そか」

上条当麻という男は変な所で敏感でもある。言い淀む姿に上条は怪訝に思うのだが敢えてスルー。何か厄介事に巻き込まれている様子でもなかったためそこは追求しなかった。

「じゃ、じゃあ今から暇よね。ちょっと私に付き合いなさいよ」

「何を基準に決めつけてんだよ」

暇じゃないしな、と付け加えて上条は答える。

「何の用事があるのよ」

「んー、別に大した用事じゃないけど。悪いな、また今度な」

来たときと同じように手を上げ、上条は走った。公園に備え付けられている時計に目をやると、15:30を指している。なるべくなら、早めに行って早めにすまそうと考えていた。

21 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:03:23.33 JeVAPgDO 15/455


「あ、行っちゃった……。もう何なのよ」

「……」

「……もしかしたらまた何かに巻き込まれてるのかな、アイツ」

上条の後ろ姿を見ながら置いてきぼりをくらった美琴はしょんぼりした雰囲気でそう呟いていた。

「……何かあれば、相談、してほしいのに」

そんな彼女の呟きは少し赤みがかってきた空に溶けていった。

23 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:24:39.00 JeVAPgDO 16/455


「上条当麻さん、どうぞ」

受付の看護師に促され、診察室のドアを開けた。病院のあの独特の薬品の匂いがさらに強まる感覚を覚え、上条は置かれていた背もたれのない丸い椅子に腰かける。目の前には、素手に白衣を着た医者の姿がある。

──〈冥土帰し〉

どんな重傷、症状であれ彼の手にかかれば快方へと導かれるという医者の中のカリスマだ。顔はともかく。

「おや、また何かあったのかね?」

上条の姿を確認してもそのカエル顔を特に変化させることなくテーブルの上に置かれていたコーヒーに口をつけた。

(……ここで飲み物とかいいんだろうか)

とまぁ聞きたいことは我慢して、ここ最近の自身の身体の異変について上条はおもむろに口にしはじめた。

24 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:25:40.46 JeVAPgDO 17/455


「……はぁ、まぁ。最近いきなりの頭痛、吐き気、発熱があるんです。突発的に起きて、ちょっとしたら痛みも熱も治まるんですけど」

「ふむ」

上条の言葉を聞き白紙の診断書にペンを走らせる。その様子を上条も目で追いながら続けた。

「ここ何日か、何回かあったんですけどその頻度が多くなってきてる様な気がしまして」

その旨を伝えると冥土帰しは一端ペンを置いた。

「頻度とは、どれくらいの間隔でだね?」

「最初は一日、二日に一回くらいだったんですけど、最近になって増えてきちゃって。昨日も二回ありました」

「ふむ、とりあえずレントゲンでも撮ってみようか」

「あ、はい。分かりました」

25 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:28:04.29 JeVAPgDO 18/455


上条がこうして自分から病院に赴くのは初めての事だった。以前の上条の事は知らないが、自分の知る限り病院に来る時は包帯やら何やら巻かれて見慣れた病室で目を覚ますというのが彼のパターンで。いつもお世話になっている冥土帰しに診てもらえるかどうかが懸念だったが、そこは杞憂だったらしく、胸を撫で下ろしていた。

「……はぁ、明日から飯どうしよう」

レントゲンを撮り終え、再び呼ばれるまで待合室で上条は待機していた。

これから飛ぶ出費の事を考え、上条は肩を落とす。だが自分の身体の異変を放っておく訳にはいかない。幸い、インデックスは上条の身体の異変をまだ知らない。

出来るなら、知らせない方がいい。知らないまま治ればそれで越した事はなかった。

「おや、とミサカは珍しい来客者に少し驚きつつ声を掛けます」

すると上条にとって聞き覚えがある声が耳に届いた。

「おう、御坂妹か」

「はい、とミサカは貴方がプレゼントしてくれたネックレスをチラリと見せます」

独特な言い回しで上条の目の前に映ったのは、美琴と全く同じ容姿をした少女だった。

26 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:31:58.55 JeVAPgDO 19/455


「どこか調子が悪いのですか?とミサカは心の底から心配します」

あの絶対能力進化実験の被害者の一人である、検体番号10032号と呼ばれる少女はじっと上条の目を見つめた。その目は本当に心配そうに上条を見つめており。

「ああ、いやーちょっと風邪気味っぽくてな。心配してくれてありがとな」

「……いえ」

本当に表情豊かになったな、と上条は何故か顔を赤らめた御坂妹を横に座らせた。

いまだ産まれてから数ヶ月。感情の起伏が、いや感情そのものがなく、ただ殺されるだけの予定だったはずの『人間』だった。上条が命懸けで助け、生きる意味を自分で持つことの大切さを知り始め、色んな感情を知った。

そしてその少女は感謝以上の感情を上条に持っていた。

──物を食べれば美味しいという感情が。

──可愛いものを見れば可愛いと思う感情が。

──人と話をするというのが楽しいという感情が。

──そしてこの少年と一緒にいると胸が苦しくも愛しくなるという感情が。

全てを目の前の少年が教えてくれた、授けてくれた。

彼だけにしか見せない笑顔を彼女は知った。

27 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:43:47.58 JeVAPgDO 20/455


御坂妹と話す内容は割りと決まっている。御坂妹の飼い猫である「いぬ」か、彼女のオリジナル、美琴の話であった。

「最近お姉様とどうなのですか?」

「ん?御坂とか?いつも通りだぞ、昨日も一緒に飯食ったし」

その言葉にピクリと眉を釣り上げ、御坂妹は上条の横顔に目線を移した。

「それは聞き捨てなりませんね、とミサカは内心お姉様ずるいぞあんちくしy……ゲフンゲフン」

「ん、ああ、美味かったもんな、あのお店」

御坂妹の言葉に冷や汗を掻きつつ答える上条。しかし残念かな、彼の思っている事と彼女の思っている事のベクトルが違う。

「今度行ってくればいいんじゃないか?御坂と」

「……ソウイウコトジャナイ、トミサカハ……」

これが上条なのだ。もう慣れてしまった(慣れちゃいけない)彼女はシクシクと心の中で泣いた。彼の方から視線をずらし、何やら諦めたような呆れたような表情でボソボソと御坂妹は呟くが上条はそれを敢えてのスルー。

お姉様も自分も前途多難すぎるなと心に思いつつ、肩を落とす。もう一気にいっちゃえと意気込んだ御坂妹は再び上条に視線を戻し、ガシッと上条の肩を掴んだ。

……心なしか、無表情のはずが上条にとって、憤怒の様な表情に見えたのは気のせいだろうか。


「そんなに美味しかったのなら、ミサカも連れていって下さい」

「あ、ああ、だから御坂と……」

「ミサカはあ・な・たに言っているんです」

「お、おお…」

肩を掴まれた事と、その迫力により上条はドキドキ2%ビクビク98%でその勢いに押されるしかなかった。

28 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:48:50.73 JeVAPgDO 21/455


冥土帰しは顎に手を当て、数秒間テーブルの上の診断書とレントゲンに視線を向けたまま、じっと静止していた。

──……難しい病気とかなのだろうか。

その数秒の時間が少し痛々しい。もしかしたらという悪い予感が上条の頭を駆け巡った。

不幸とか、悪い予感とか。そういう類いのものは的中率が高い。もしかしたら新種の不治の病とかにかかったのだろうか。この名医が難しい顔をしているのが更に不安を掻き立てていた。

「……ふむ」

口を開きかけた冥土帰しに、息を飲んで上条は続きを待つ。

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

──怖ぇよ!早く言ってほしいというのもあるが怖くて聞きづらいというのもあった。







「風邪だね」





「……はひ?」


その冥土帰しの言葉に上条は椅子から転げ落ちそうになるのを堪えた。

29 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:50:17.61 JeVAPgDO 22/455


「とりあえず薬出して置くからこれ飲んで今日は早目に休むように」

「風邪、ですか?」

「うん、この時期は風邪引きさん多いみたいだからね?とはいえ油断してはいけないよ?」

安堵か、拍子抜けか。肩の荷ががっと下りたように息を吐き、上条は手渡された薬をしっかりと鞄に入れた。

「今日は温かくして寝るように。また辛くなったら来るんだよ?」

「はい、ありがとうございました」

彼の言葉に安心したか、上条はホッとしたような表情で冥土帰しに頭を下げ、扉を閉めた。

「……風邪、か」

ポツリと呟き、受付で診察料(大ダメージ)を払うとそのまま家路に着……かない。

「はぁ、昨日は特売逃したからなぁ。家の冷蔵庫もすっからかんだ、何か買ってかなくちゃな」

家計と冷蔵庫の中身に落胆しながらいつものスーパーへの道を歩き出していった。



……彼は記憶喪失だ。今まで怪我以外病院のお世話になったことがなかった。

……彼は記憶喪失だ。風邪の症状など『知らなかった』。







「……もしもし。調べてほしい事があるんだけどね?」

そして一人しかいなくなった先程の診察室で、世界一と称される名医の声だけが響いた。

30 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:52:01.37 JeVAPgDO 23/455


「ただいまー」

「遅かったね、とうま」

家の鍵を開け、ドアを開けるとトテトテと足音を立ててインデックスが走り寄ってきた。

「悪い悪い、遅くなっちまった」

「心配したんだよ!遅くなるなら言ってほしいかも!」

お前は俺の妻かと内心思いながら、確かに遅くなったので詫びを入れる事にした。

「ご飯早く作ってほしいかも!お腹ペコペコなんだよ!」

恐らく今買ってきた食材は二日でお陀仏になるだろう。やり方によっては一日で全て目の前の少女のお腹の中に吸い込まれる。

トホホと思い確かに自分も空腹感に襲われてきたため、早速夕食の準備に取りかかることにした。

「……手伝ってくれてもいいのに」

夕食が今から作られると思うと期待してるねっと一声掛けて、ベッドの上に座り見ていたテレビ番組に再び目をやったインデックス。結局はいつもの光景だった。

31 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:54:15.09 JeVAPgDO 24/455


「美味しかったんだよ、ご馳走さま!」

炊飯器の中身を空にして、満足そうに笑顔を振り撒く。

「はいはい、お粗末様でしたー」

確かに粗末だった夕食でもインデックスは美味しそうに食べてくれる。それだけが救いかなと思い片付けに取りかかろうとすると。


「後片付けは私がやっておくんだよ。とうまはお風呂入ってきていいかも!」


「な、なんだってーーっ!?」


一度耳を疑った。まさかあの暴食ニートシスターが進んで自分から家事をするとは……!

頬をつねる。痛い。

目を擦る。痒い。

「その行動はどういう意味なのかな?とうま」

歯を剥き出しにして威嚇するような表情を見せるインデックス。お前は犬か。

「いや、何でもないぞ!しかし家事してくれると上条さん的に嬉しいのですよ」

噛まれる事にビクビクしつつインデックスのしようとする行いを評価すると、インデックスは任せろという風に胸を叩いた。

「昨日小萌に言われたんだよ!家事出来るといい奥さんになれるって!だからするんだよ!とうまはとっととお風呂入ってくるといいかも!」

……奥さん?お前シスターだろ?という野暮な突っ込みはせず、この場はインデックスに任せてみよう。こんだけやる気を出しているインデックスは珍しかった。

嫌な予感はするが。それよりも上条は小萌先生GJと担任に対する株は急上昇を遂げていた。

もう一度言おう、小萌先生GJッ!!

32 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:57:23.10 JeVAPgDO 25/455


「くぁーいい湯だな」

湯船に浸かり身体を癒す。それにしてもインデックスが家事だなんて、珍しい事もあるもんだ。自然と口ずさむ鼻歌が彼がいかに機嫌がいいかを物語っていた。

「風呂も洗ってくれてたのか」

いつもならシャワーで済ましているため、張られない湯も適温で気持ちがいい。……所々洗いきれてない所もあるが、それを言うのは野暮ってやつだろう。

「さて、身体は洗ったから次は頭を洗いますかっと……」

と言い、一旦温まった身体を湯船から出す。

……すると。







「ぐあっ!!」

──来た。激しい頭痛に襲われ、立ち上げた身体をもう一度湯船の中に戻す。

33 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 20:59:22.22 JeVAPgDO 26/455


「(ち……くしょう……!)」

失念していた。今日は比較的調子がよかったからか、症状は出ないと思っていた。

身体が火照る。意識も朦朧とする。湯船の中の温度と相乗効果でいつもよりも身体が熱くなった気がした。

「(……この……ままじゃ……マズイ!)」

火をつけられたように燃えたぎる身体を何とか上げ、外に出し、床に腰を下ろした。

「(ぐ……ぐあぁっ……!)」

声は出せない。インデックスに聞かれる訳にはいかない。早く治まれと言わんばかりに頭を押さえ、静かに悶えた。

『とうまー』

「っ!?」

閉めたバスルームの扉の外から呼ぶ声が聞こえた。何とか、何とか。答えなくては。

『……とうま?』

返事がないことに疑問を感じたのか、もう一度その声が耳に届いた。そして、さっきよりその声の元が近い。

『とうまーっ』

相手に届いてないと思ったのか、更に大きな声でインデックスは呼び掛ける。

「(くっ…治まって……きたか……)」

何とか乗り越え、引いてきた痛みを堪えて返事をしようとしたが、中々でない。

34 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/08 21:00:41.87 JeVAPgDO 27/455


『とうま!!』

「……ぉ、おう。どうした?」

更に怒鳴り付けるように響いた声に何とか返事をする事が出来た。

『さっきから呼んでたのに無視ってひどいかも!』

「はは、悪い。ちょっと逆上せたみたいだ」

はっきりとしてきた自身の呂律に安堵し、詫びを入れた。

『むー、しっかりするんだよ!湯加減はどう?』

「おー、よかったぞ。もう上がるから」

『わ、分かったんだよ』

何故か焦ったような口調の後に聞こえるトテトテという走る音。その位置から察するに相当近いところまで来てたんだなと上条は苦笑いをした。

「(何とか、誤魔化せたか……)」

インデックスに知られなくてよかった。知られたら知られたできっと悲しい顔をするのだろう。

上条は人が泣いたり、悲しんだりするのを嫌う。困ってる人がいれば全力で助け、泣いてる人がいれば全力で守る。

そんな彼だからこそ、皆が笑顔でいられる事、皆が幸せでいられる事が何より大事であって。自分の痛みなど、いくらでも隠してしまう。

「(薬、飲み忘れたからな。飲んどきゃ何とかなるだろ)」

うし、と声を出しバスルームのドアを開けた。

46 : ちょっと書けたのでもう少し投下 ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:35:39.07 jfkMHoDO 28/455


──ピピピピっ

起床時間を告げる電子音がバスルーム内に鳴り響いた。

「……うー後5分…」

誰に言い聞かせる訳でもないがそういい手を伸ばすが肝心の位置に届かない。いや、届いたら届いたで目覚まし機能を止めた瞬間に再び夢の世界に旅立ってしまうので意味ない。

「ふぁ…」

という事で一度は立ち上がらなければその耳障りな電子音を止める事が出来ない位置に設置してある為、身体にかけてあった毛布をどかして目覚まし時計を不機嫌そうにバシッと叩く。

──バキッ。

「ん?」

いつもと違う音が耳に届く。目を擦りその時計に目をやるとディスプレイの真ん中の部分に亀裂が入り、その亀裂から液晶の故障を意味する 紫色のあれが滲み出ていた。

「……不幸だ」

いや、叩いたのはお前だろ。自業自得ってやつだ。

47 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:37:05.30 jfkMHoDO 29/455


目覚まし時計の惨状に途方に暮れながら朝食の準備をする。いまだにベッドにてグースカ眠るインデックスからは「日本人なら朝は味噌汁なんだよ!」とご所望をいただいており。イギリス人の自覚を真っ向からゴミ箱にポイしてる事に苦笑いの心境だ。

「美味しいのが出来たな」

インデックスは別に起こす必要はない。

「美味しそうな匂いなんだよ!」

勝手に起きるから。音よりも匂い(料理限定)に反応して起きるなど、学園都市広しと言えどもきっとコイツくらいなもんだろうと構わず料理を続ける。

──朝は特に調子は悪くない。あれから風呂から出た後、インデックスに見られないようにして薬を飲み、本来ならベッドで寝るべきなのだがインデックスがいるため、今まで通りバスルームにて少し早目の就寝を取った。

しかし、上条には少し不安事項があった。

48 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:38:29.64 jfkMHoDO 30/455


「(……昨日のやつ、少しキツかったな)」

入浴中だったからであろうか。今まででは一番症状は酷く、そして長かった。

「(もう少し、様子見でもいいのかな)」

その症状が出る兆候もなく、突発的に発作に見舞われる。今までは誰かに見られる事はなかった。だが、誰かに見られたとしたら。

「……」

そこで上条は考えるのをやめ、味噌汁を温めていた火を止め、用意した2つの器に入れていった。

49 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:40:34.44 jfkMHoDO 31/455


「インデックス。ご飯出来たぞー」

お盆に茶碗やら味噌汁の器やら漬物を乗せてテーブルに運ぶ。

「待ってたんだよ!早く食べ……」

ふと両手で箸を一本ずつ持ち、テーブルを軽く叩くような仕草をしていたインデックスが上条の顔を見た途端その動きが止まった。

「……インデックス?」

その固まった表情に上条も動きが止まる。

「どうした?」

「と、とうま……」

「ん?」







「どうしたの?……その目」



「……え?」

50 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:41:51.95 jfkMHoDO 32/455


インデックスが見ていたのは、上条の瞳。その瞳は……。

純粋な黒目が赤黒く、変色していた。





「……な、何だよ、これ……」

インデックスに促され、鏡を見ると黒目の部分に赤みがさし、赤黒くなっている。

目を擦ると白目が赤くなるのだがそうではない。『黒目』が赤くなっているのだ。

そこで上条は言い様のない不安にかられた。

……もしかしたら、ここ最近の体調の異変と関係あるのか。いや、あるのだろう。

「と、とうま……?」

するとふと自分を心配する声が上条の耳に届いた。

「……っ」

ここでインデックスを不安がらせる訳にはいかない。そう、不幸な運命である彼女の安息から不安を匂わせる訳にはいかなった。

簡単に世界を滅ぼす事が出来る10万3000冊なる魔導書を、一字一句違わずにその脳に刻んでいるが故にその身がいつも危険に晒されている。世界中の魔術師なる者どもからそれを手に入れるべく、追われ、傷つけられ、記憶を奪われ。笑顔がなかった彼女の人生の中で、大切な日常。それを崩してしまう訳にはいかなかった。

自負している訳でもないが、任されている以上それに答えるっていうのが筋なのだ。

視界的には全く問題はなく、赤みがかったからと言って上条から見える世界が赤くなった訳でもなかった。

「……ふふ、ふふふ………」

「と、とうま……?」

いきなり笑い出した上条にインデックスはビクッと身を震わせ、でも上条から目を離せないでいた。

「とうとうなれたんだ……!」

「ふ、ふぇっ!?何が、なのかな……」

道化になったっていい。笑ってくれりゃそれがいいのだ。

51 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:43:32.94 jfkMHoDO 33/455










「伝説のスーパーサイヤ人4に……!」








「……は?」


インデックスは思った。あ、とうまが壊れた、と。

52 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:44:34.36 jfkMHoDO 34/455


「知らないのか!?インデックス!」

握りこぶしを作り、テーブルの上に片足を乗り上げ、突然叫び出した上条。インデックスはただあんぐりを開けているだけ。

「スーパーサイヤ人4とはな!そもそもスーパーサイヤ人っていうのがあってだな。怒りに奮えたサイヤ人が……」

右から左へと訳の分からない事をぐちぐちと言い出す上条。インデックスは固まったままだ。あれ赤くなるのは目の縁であって、そもそもお前サイヤ人じゃないし。

「その時アイツは言ったんだ!避けろナッパ!って。それでな……」

とりあえず分かったことがある。元気でよかった。



後一つ。







コイツ馬鹿だ。

53 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:45:35.92 jfkMHoDO 35/455


「ふぅ、何とか押しきれたか」

満足そうに額の汗を拭い、爽やかな笑顔を見せる上条。何を根拠にそう思えるのかは分からないが一仕事終えた様な爽快感を何故か感じていた。

……ムチャしやがって。

まぁそこはおいておこう。ふと上条は考える。黒目が赤くなるとはどういう事なのだろうか。

道すがらにあるビルの前を通る。そこには鏡張りの一角があり、もう一度そこで自身の姿を確認してみた。

……やはり、赤みがかっている。部屋の中より明るいところに出たせいか、更にそれは映えて見えた。

「……んな状態で学校なんざ、行けねぇだろ」

こんな状態で授業なんか受けられない。「カミやんが不良になったー!」とか土御門とか青ピ辺りが騒ぎ出すに違いない。小萌あたりなんか泣き出してしまいそうだ。

……それに。

「いつ、発作が起こるか分かんねぇしな」

やはり、行く訳にはいかなかった。

そう呟くと上条はポケットから携帯を取り出し、担任の番号をディスプレイに映すと通話ボタンを押した。

54 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:46:41.59 jfkMHoDO 36/455


「はぁ、昨日はアイツに会えなかったな」

溜め息を吐きながら美琴は道を歩いていた。と言いつつ歩いている方向は常磐台の方向とは実は違う。上条のいつもの通学路を知っていた美琴は毎朝会えないかなという淡い期待を胸に、遠回りながらもこの道を選んでいる。

やはり素直になれない美琴はこうして偶然を装う事でしか接触を取れない自分に少し落胆しつつ、周りに目を向ける。

するとやはり所々の道行く学生達は自分を見ていた。

それも当然だ。学園都市内の230万人の中で、たった7人しかいないレベル5の中の一人だからだ。一握りとかそういう問題ではない。

それに彼女の容姿も相乗効果を生み出していた。

「(うー、やっぱり慣れないわね)」

中にはネットリとした視線をも感じる。治安の悪いこの学園都市という街の中でそういった類いのものは少なくなく、またその者らが起こす事件もアンチスキル、風紀委員の中でも問題視されている。

「(まぁとにかくアイツに会いた……って何言ってんのよ私!いや言ってないけど!!///)」

ふるふると首を振る姿はまるで小動物みたいで。彼女の様子を見ていた周りの学生達もそんな彼女の仕草に心奪われていたみたいだ。

55 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:47:58.15 jfkMHoDO 37/455


「(……あ!あの後ろ姿は!)」

後ろからでも分かるあのツンツンヘア。昨日は会えなかったし思いきって抱きt…タックルしてやろうかしら、なんて頭に思い浮かべて少し歩くスピードを上げる。

彼に近づく度にその顔の赤みは増していき。

「(え、ええいっ、ままよっ///)」

そのまま走り飛び付いてやろうと思った時、彼の声が聞こえた。

「えぇ、まぁ。……はい、分かりました……」

「(……電話してる)」


よく見れば彼は見た事のある携帯を耳に当て、誰かと話をしているようだった。

「(誰と話してるんだろ)」

相手側が誰なのかとても気になる。こんな朝から話す相手は誰なのだろうか。……もしかして。

「(お、女の子におはようコール、とか)」

美琴にとって嫌な予感が広がる。目の前のコイツは……果てしなく、モテる。あの大星覇祭の時も、胸のでかい同級生がついてたし、常磐台の方でも話題に上がってたし……。いまだ現在進行形できっと増え続けているライバル達に戦慄を覚えながらも負けないと覚悟を決めていて。

「はぁ、ですから明日は行きますって」

そこで再び美琴は上条の声に耳を傾けた。

「(あれ、何か様子がおかしいわね)」

どんどん落ち込んでいくように聞こえる彼の声のトーン。すけすけみるみるは勘弁をーなんて叫んだかと思えば補習がどうのこうの。

「(……恐らく、先生ね)」

内心ホッと、いや周りから見ても安堵したような彼女の様子だった。

56 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 00:48:59.03 jfkMHoDO 38/455


しかし美琴はそこで疑問に思った。この時間に教師に連絡を入れるって事は恐らく遅刻か欠席だろう。しかし今から向かえば十分間に合う時間帯に遅刻の連絡を入れるとは考えにくい。

だが、彼の服装にも問題があった。


『制服』を着ていたからだった。


制服をキチンと着ていて、遅刻しそうな時間帯でもなく教師に欠席の断りを入れる。今まで付き合ってきた中で感じた上条の性格からすると、サボるなんて事は考えにくい。何だかんだ言って学校を楽しみにしている節があったというか、会話の中でも楽しんでいるみたいだったから。

……つまり。

学校に行けない、やむを得ない理由があるとしたら?





「(……あん馬鹿、また何に巻き込まれているのよ)」

そこで今日の美琴の活動内容が決定した。

68 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/09 21:21:56.47 8ASmEN/DO 39/455


上条は病院へ向かう道の途中考える。

──治らなかったり、重病だったりしたらどうしよう。

ここ数日で起きた異変、そして変色眼。

「……魔術?いや、幻想殺しがあるしな」

と言い、右手を見る。特に代わり映えのないいつもの右手。異能ならば何だって打ち消す右手。

思えば、随分右手に助けられてきた。

インデックスの件、一方通行の件、天草式、ローマ正教、神の右席。

色んな魔術師、強敵と対峙してきたなと振り返る。死にかけた経験など腐るほど、というか毎回そんな気がする。

ただ、その放たれた魔術、異能を右手で打ち消すだけで。

「……俺、考えれば幻想殺しの事何にも知らねぇんだよな」

もしかしたら幻想殺しを打ち破って侵食する魔術や異能もあるのかもしれない。

「土御門とかにも相談してみっかな」





「……御坂にも聞いてみっか」

69 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/09 21:22:39.78 8ASmEN/DO 40/455


ふと自分で出た言葉に自分が驚いた。……何故美琴が?いや、能力者としてならトップに君臨する彼女だ。能力の事なら聞いてみてもいいのかもしれない。

ただ、どっちかと言うと美琴は守るべき存在だ。



……自分の異変について彼女が知ったらどういう反応をするのだろうか。どんな顔をするのだろうか。

「……」

あの実験の時に見せた涙。自分を追いかける時の姿。怒った顔。照れている顔。
笑った顔。

美琴を知ってそんなに長くはないのに、色んな顔を見てきたような気がする。記憶が剥がれ落ちる前の自分も、こういう風に接してきたのだろうか。

「……分かんねぇよな」

いくら考えを巡り馳せても、失った記憶は戻ってこない。

ただ。

自分のやって来たことは間違ってはいないと、不思議とそう思えた。

70 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 21:24:41.62 8ASmEN/DO 41/455


──この道を私は知っている。いつもアイツが運ばれていくあそこ。

美琴は上条の後ろ姿を追いかけながらどこに向かっているのか思慮をめぐらせていた。

そしてこの道は、いつも入院した彼を見舞う為に美琴が通っている道だ。

……もしかしたら彼の身に何かあったのか?

なるべくマイナスは思考は打ち消すようにしているが、人間である以上それは容易な事ではない。

彼の知り合いか誰かが入院していて、それを見舞う為?

──いや、それならばわざわざ欠席までする必要はない。

何か資料を提出する為?

──彼である必要がない。

研究の為?

──レベル5の能力者ならばありえる。実際自分もその経験があるから。だが幻想殺しがあるとはいえ、無能力者である彼がこうして表だって研究される可能性は皆無。システムスキャンではいくら調べてもレベル0だ。幻想殺しを持っているという情報を持っている者も少ないはず。

頭の中で都合のいい仮説を立てても即座にそれを打ち消してしまうのもまた自分の頭脳であった。そしてそれはやはり嫌な予感を感じさせる。

「(……そんな、アイツが…当麻が)」

そしてそれは肥大化していき、美琴の足を震わせた。

するとふと道の途中で上条が足を止めた。

「……っ」

上条は自身の右手を確かめるようにして裏表を見ている。それは一重にやはり彼の身に何かがあった事を暗示させているみたいだった。

「(……っ、当、麻……!)」

その上条の姿が今にも消えてしまいそうで。

71 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 21:25:24.76 8ASmEN/DO 42/455


……すると突然美琴のポケットの中にしまった携帯電話のバイブが着信を示した。あれから追い掛けていて、きっと授業も始まっている時間のはずだ。鬱陶しく思いながらも、一旦応対することにする。

「……はい」

追跡が上条にバレると、うまくはぐらかれそうな気がする。その為彼に見つからないように、小声で応対した。



「はい、そうです。では失礼します」

無断欠席の理由は誤魔化しに誤魔化しだ。しかし自分がレベル5であるためか、相手の方も深くは追求せず簡単に難を逃れる事ができる。適当に言っておけばいいのだ。

再び歩き出した上条を見失わないように、通話の途切れた携帯電話をしまうと美琴もまたそれを追っていった。

72 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 21:26:54.70 8ASmEN/DO 43/455


「おや、また来たのかね。」

冥土帰しがそういうと上条と視線を合わせる。

「いやぁ、まぁ。はは」

昨日と同じ椅子に座り、上条は苦笑いを浮かべながら頭をポリポリかいた。

「……。ふむ、その目は」

「あ、はい。朝起きたらこうなってました」

「それで昨日はその頭痛、発熱はあったのかな?」

「ええ。入浴中に」

「ふむ」

昨日の診断書に書き出していく冥土帰し。その顔は何やら思案していた。

「……あの、何か大きな病気、という線じゃないですかね?」

自身の症状について、不明瞭が事が多い。
突然の頭痛、発熱、吐き気。

……そして、変色眼。

病気なのか、それ以外の何かか。その根本さえ判明すれば対処のしようがあるのかも知れないのだが、一般的な学生である上条はこうして専門家に任せるしかなかった。

74 : これだけ書く ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/09 21:54:12.68 8ASmEN/DO 44/455


「……はぁ」

出費が痛い。本日の診察料を払い、財布の中身に落胆して肩を落とす。

あれから冥土帰しには大した事ないから、また何かあったらおいで?ととりあえず五日分の薬を出され、上条は病院を出た。

──トン。

玄関の自動ドアが開き、歩き出そうとすると。白衣を着た女性と肩がぶつかった。

「あっ、すみません」

目の下に隈を作った、顔立ちの整った女性と眼が合う。

「おや、君は……」

「……はい?」

女性は上条の顔を見つめ、少し怪訝な表情を作った。
……機嫌を損ねてしまったのだろうか。再度謝罪を意とする言葉を出そうとすると。

「……いや、何でもないよ。こちらこそ悪かった」

それを言うと、自動ドアが開くと共に病院内へと入っていった。

綺麗な人だったな、と感想を頭の中に浮かべ、後ろを振り向いた。






「……当麻っ」

その声がした方に顔を向けると。



「御坂……?」


栗色の髪の毛が一心に陽の光を浴び、その作った表情は今にも泣き出しそうな美琴の姿があった。

81 : 仕事中だけど少し投下 ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 13:31:10.12 Aax+0npDO 45/455


「!? その眼…」

美琴は上条の目を見ると驚愕の色を表情に付け加えた。

「……っ」

上条としては人に見られる訳にはいかなかった。
インデックスは仕方がない。何とか誤魔化しに誤魔化しを重ね、納得はしてないだろうが説得はした。

しかし、この目の前の少女はどうだろうか。

学園都市第三位というのも伊達ではない。『自分だけの現実』を頭の中で組み上げ、量子力学の複雑に羅列された計算式を頭の中で演算する。
それを科学的に発現させたのが学園都市で言う『能力』であり。
それは一重に頭脳の高さをも表していた。

──誤魔化せるか?幸い発作の症状は見られていない。あれを見られては余計に不安を掻き立てるだけだろう。

「ん?あぁ、別にこれは何でもねぇよ」

「病院まで通っておいて何でもないわけないじゃない!」

「……それはだな、風邪気味だったから一応先生に診てもらっただけだ」

「じゃあその目は何よ!」

「……っ」

どうする?さすがにこの目を見られては誤魔化せないのか?
目の前の少女の性格を考えると、分からない事があればそれを追及せずにはいられない質で。

そして自分と同様、困ってる人を中々に見捨てられない。それは今まで接してきた経験から感じ取っていた。

自分の不幸具合から、一緒に道を歩いている時スキルアウト達に絡まれている人をよく見る。
それを助けずにはいられない上条は助け船を出すのだが、美琴からすれば八割は女性なので黙ってはいられず(何故かスキルアウト達と共に焼かれようとする)。

上条は女の子だからと言う理由で、危ないからやめろと言うのだが、どうせアンタには効かないからいいじゃない、と意味合いが違う返答をされては押し通されるのだ。

「答えなさいよっ!」

とそこで美琴の怒鳴り声が再び耳に届き、思考を戻す。

82 : VIPにかわりましてGEPPERがお送りします - 2011/01/10 13:31:51.63 Aax+0npDO 46/455


──どうする。どうすればいいのだろう。
しかし、ふと周りに目を向けると……

『やーねー、あれ、痴話喧嘩?』

『病院に来てるって事は……きっとあれよ』

『やだー、男が無理やりやっちゃったのね、女の子可哀想に……』

『つか、あれ超電磁砲?』

「げ」

何てヒソヒソ話が聞こえる。実際に内容が耳に届いた訳でもないのだが、結構人だかりが出来ていた。

加えて場所も病院の入り口という事もあり、人の出入りも多いのだ。

「……あのー、美琴さん?」

「……っ、何よ」

何故少しだけ表情が緩んだのかが気になるが、それは今は置いておく。

「結構僕ら注目浴びてるんで、やめませうか」

「……あっ」

そこで美琴も周りに目を向け、人だかりの光景を見て気まずそうにする。

「……場所、変えますか」

「……うん」

さっきまでの勢いとは別に、恥ずかしそうにしぼんでいった様子を見て上条は苦笑いをした。

83 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 13:33:52.04 Aax+0npDO 47/455


──病院から出てきたアイツを見て。肩が落ちていて。顔を見て。目を見て。

そこから美琴の心は爆発してしまいそうなほど不安になってしまって。

気付けば怒鳴り散らしていて。

気付けばいつもの公園のベンチに座っていた。

「……んで。その目は何よ」

「だから何でもねぇって。おしゃれだろ?」

「茶化さないで」

季節は冬。やしの実サイダーに惹かれたがそれを飲むと身体が冷えそうなので温かいカフェオレが自分の手に。上条の手には自分と同じものがあった。

同じものを飲んでいる。という事だけで喜んでいる自分がいたりするのだがそれはさておき。

84 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 13:37:19.31 Aax+0npDO 48/455


目の前の男は、いつも肝心な事を話さない。適当な事を言ってははぐらかされる。
インデックスの事もそうだ。同居しているらしいのだが、その同居するに至った経緯を聞いても答えてくれない。外人の女の子、しかもシスターで。

その状況を羨ましがりながら疑っても、「任されている」の一点張りで。二人の様子から察するに、本当に何もなさそうなのだが(と言うか問い詰めた)。

──考えれば、私ってコイツの事、何も知らないな。

自分の弱い部分……人には決して見せる事のなかった部分は大分彼に見られている。

あのシスターズの件の時だって自分の泣き顔をさらけ出した。学園都市に来て以来、誰にも見られる事のなかったあの感情。

上条のおかげで、自分はここまで立ち直れた。そんな彼なのだが──。

人には手を差し出すくせに、自分からは全く差し伸べない。

……いや、もしかしたら差し伸べているのかも知れない。だがそれは自分ではない誰かに。

「……私って、そんなに頼りない、のかな」

「……え?」

ボソリと呟いた声はしっかりと彼の耳に届いた。
言うつもりはなかった。ほら、目の前のコイツは困った顔をする。

しかし、言わずにはいられなかった。いつも助けられてばかりで。見知らぬところで傷付いて。

そんな上条を見て心が張り裂けそうになって。

対等な立場で見てほしかったのかも知れない。もっと自分を頼ってほしかったのかも知れない。

……こんなにも、力になりたかった。

自分が手にしていたスチール缶の中身を全て口の中に入れた。何故かいつもよりも甘さを感じなかった。

ほんの少し諦観の色を表情に出し美琴は立ち上がった。

「ほら、アンタも飲み終わったでしょ?捨ててきてあげるわよ」

「お、おお」

上条の飲み物が既に空を尽きているのは見通していて、手にしていた空き缶を受け取り自販機の横に設置されているゴミ箱へと歩き出した。

85 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 13:38:34.60 Aax+0npDO 49/455


──どうしたもんだか。

問い詰められるのは分かっていた。ここまで来たら正直に話すか?いや、それはするべきではなかろうか。

上条の頭の中で用意された返答が目まぐるしく入れ替わる。

ゴミを片付けに行った美琴の後ろ姿を見てぼんやりと考えるのだが。

『……私って、そんなに頼りない、のかな』

自嘲するように呟いたその表情は……。

「……」

あの実験の時に見せた、泣き顔と酷似していた。

「……そんな顔、させるつもりじゃなかったんだけどな」

二度とあんな顔にはさせまいと誓ったはずなのに。

御坂美琴とその周りの世界を守る──

何となく、その約束は守れている気がしなかった。









「……ぐっ……!」

そんな美琴の後ろ姿を眺めていた途端、例の発作が上条を襲った。

86 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 13:39:23.13 Aax+0npDO 50/455


割れるように痛む頭。冬という季節なのに関わらず汗が噴き出す程の発熱。

──まずい、御坂が戻ってくる……!

座っているのだがその姿勢を保つのも苦しい状況に焦燥感が上条の心を襲う。

「……くっ」

何とか意識を飛ばさないように踏ん張るが、それが精一杯だ。視界もぼやけてきて、グルグルと世界が回る。

美琴が戻ってくる前にせめて治まってほしい。痛みから頭を地面に向けているため、美琴が今何処にいるのか判別出来ない事にもどかしさを感じる。

汗が滴り、地面に落ちてコンクリートは色を変えた。










「当麻っ!!」

「……っ!?」

──戻って、きちまったか……。

その声に何とか顔を上げ、美琴と視線を合わせた。

何でもない、という表情さえ作ることが出来ない。もう誤魔化しはきかなくなった。

99 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:14:07.64 Aax+0npDO 51/455


缶をゴミ箱に投げ捨て、美琴は後ろを振り向いた。

冬の季節らしく、公園内を吹き付ける風は微風ながらも冷たい。先程の身体に入れたカフェオレもその温度は奪われてブルッと身体が少し震えた。

……しかし、その身体は別の意味で震える事になった。

「当、麻……?」

先程のベンチの上で頭を押さえ蹲っている。いかにも苦しそうに悶える姿を見た美琴はその瞬間駆け出していた。

「当麻っ!!」

上条の前まで着くと、彼は顔を上げた。

「……っ!?」

尋常ではない汗の量。顔も少し赤くなっていて、所々視線も定まっていない。

「当麻っ、どうしたの!?しっかりしてっ!!」

「ぐっ……!」

そのままの体勢が辛いせいなのか、身体もふらふら揺れていた。

美琴はすぐさま上条の隣に座り、自分の膝の上に上条の身体を横たわらせる。

上条の身に何かが起きている。しかし、何がどうなっているのかは全く分からない。

──どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

あまりの事態に美琴の思考は混乱を極める。身体を乗せた膝の上はかなりの熱を持ち、水気が伝った。

「とう、まっ……!」

息を切なそうに切らし、歪んだ表情の上条を美琴は身を屈めて包み込んだ。

「……っ!」

苦しそうに悶える上条を、ギュッと抱き締めるしか出来ない美琴。その熱さも尋常ではない。

100 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:14:51.47 Aax+0npDO 52/455


「……!救急車!」

そこで美琴はハッとなり、ポケットから携帯を出しボタンを操作しようとしたのだが、上条の手が美琴の肩をトンと叩いた。

「い、や……じきに治まるから……呼ば、なくていい……」

胸の中からかすれたような声が美琴の耳に届いた。

「呼ばなくていいって……放っておけるわけないじゃない!」

「俺は……だい、じょうぶ、だから……な?……みこ、と……」

「……っ」

上条の手も美琴の肩を抱き締めるようにそこに置かれたままで。より力を込められていた。

101 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:15:36.00 Aax+0npDO 53/455


上条の身体に何が起きているかは分からない。しかし何かに蝕まれているのは確実だ。

──コイツが苦しむのを見たくない……!

美琴は上条の記憶喪失を知っている。直接本人から知らされたわけではないのだが、そんな話をチラリと聞いた。

美琴の心は膝を付く思いだった。今までの出会い、想い出が消え失せて、なかった事になって、上条当麻は一度死んで。

それでも美琴は気付かずに接してきた。前の上条も、今の上条も美琴から見れば何ら変わりなく。

その本質で自分と付き合ってくれていたのだ。その根っこの部分は果てしなく優しく、温かく。

先程の病院に向かう上条の背中が透けて見えるのが美琴の頭の中でフラッシュバックした。


──私を、一人にしないで……!


美琴はただその一心で上条の身体を抱き締める。熱を帯びた身体が二人を支配していて。

美琴は身体の震えを押さえる事ができなかった。

102 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:16:27.99 Aax+0npDO 54/455


美琴の震えを感じた。

──泣いて、いるのか?

身体に伝わる震えはまるで暗闇に怯える子供のようで。

「……」

とにかく上条は美琴の肩をより強く抱き締めるしかしなかった。

そうしている内に発作も治まり、上条は落ち着きを取り戻す。

いまだに頭の痛みが滲むがそれを答えて美琴の肩を二回軽く叩いた。

「……御坂」

その声を聞くと美琴は身体を起こし、上条と視線を合わせた。

──やっぱり、泣いてやがったか。

ポツリと自分の頬に温かい雫が滴った。

「もう、大丈夫だ」

美琴の目元を指で掬う。一度だけでは掬いきれず、二度三度に分けて涙を拭いた。

「本当に、大丈夫なの……?」

くしゃくしゃの顔をそのままに美琴は上条から視線を外さない。

「ああ」

ハッキリと答える。呂律もしっかりし出し、余裕が出てきたのを感じた。

103 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:17:08.29 Aax+0npDO 55/455


彼女にそんな顔をさせてしまった事に対して激しく自分を責めた。せっかく、彼女の平穏を守ってられてたのに。
あの事件以来、少なかった笑顔も増えてたのに。それを崩したのは自分が原因という事に行き場のない思いを感じた。

だから、取り戻させてあげたい。再び、自分の手で。

「……ったく、御坂にそんな顔似合わねぇぞ。せっかく可愛い顔してんだからさ。お前は元気にビリビリしてろよ」

美琴の頬に手を当てたまま軽口を叩いた。

ぶっちゃけ電撃か、殴られるのを覚悟しながら、だが。



しかし。




「誰の、ヒグッ、せいだと思ってるのよ……エグッ」

飛んできたのは、というより落ちてきたのは再び出てきた美琴の涙だった。

「……っ」

嗚咽しながら上条の胸をトンと叩く。涙の堤防が決壊したみたいに、次から次へと溢れ出ていた。

その姿を見た上条は……気付けば身を起こし、美琴を抱き締めていた。

104 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:17:52.02 Aax+0npDO 56/455


「落ち着いたか?」

「……うん」

あれから数分。ようやく涙が止まった。いつもなら混乱を極める筈のこの上条との距離が、今は不思議と落ち着かせてくれる。

──また、見られちゃったな。

あの頃見せた自分の涙を、再びこの少年の前でさらけ出してしまった。
……いや、あの頃とは違う。もっと、深い所での涙だった。

「本当に、もう、大丈夫なの?」

何度聞いたのだろう。しかしあの尋常ではない苦しみ方を目の当たりにしたのだ。
何度もそう確認せずにはいられなかった。

「ああ。大丈夫だ」

はっきりとした上条の口調に、一先ず美琴は安堵の表情を浮かべる。
上条の顔に移していた視線を戻し、もう一度上条の胸に顔を埋めた。

「……心配、したんだからっ」

「……ああ、悪かった」

温かい彼の身体と匂いが美琴を包む。それは安息を美琴に与えてくれ、グルグル回っていた美琴の頭を落ち着かせてくれた。



──グゥ。


すると美琴の埋めていた身体の少し下の方から、そんな音が鳴った。

それに美琴は顔を上げて上条の顔を見ると。

「はは、腹、減っちまった」

少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。

時刻は昼前。体調がすっかり戻った男子学生は空腹を訴え出す時間帯で。
その事も美琴に更に安堵感を与え、自然と笑みが零れた。

「んじゃあね──」

そこで美琴は即座に頭に浮かんだ提案を口にしていた。

105 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:18:59.83 Aax+0npDO 57/455


「何か、悪いな」

買い物袋を一つ持ち、上条の学生寮の玄関に二人は来ていた。
美琴の提案とは、お昼ご飯を作ってあげるという事だった。

「気にしなくていいわよ。私もお腹空いてきたし丁度よかったから」

そういう美琴の手にも買い物袋が一つあった。
学生寮の中に入ると外とは違う、ほんの少しの温度の変化を感じる。季節が冬なだけにその少しの変化でも身体に染み渡り、寒さに縮こまっていた身を直した。

道中、美琴はずっと上条の服の袖を掴んでいた。いまだ残る不安と嬉しさと恥ずかしさがせめぎ合っていたのだが、結局最後まで離すことはなく。
上条も特に何も言わなかった。

──コイツはどう感じてんのかな。

という思いも美琴の中で感じたのだが、とにかく今は上条の身体を休める事を優先したかった。

106 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:19:43.66 Aax+0npDO 58/455


道すがら美琴と約束した事があった。

インデックスには自分の身体の異変を話さない事。

なるべくそれ以外にも話さない事。

……そして美琴には全てを話す事。

最後の条件に関して、問い詰められるかと思えば案外そうではなかった。
つまり、上条自身、自分から話す事にしたのだ。

自分の心境の変化について、何故そうする事にしたのかと聞かれれば上条は答える事は出来ない。しかし、そう決めたのだ。

信用できる、できないとかそういう問題ではない。そうしろ、と自分の中の何かが訴えていたからだった。
「多分、中に入ったらインデックスがつっかかって来ると思うぜ」

「それはどういう意味で言ってるのよ?」

「んにゃ、何故かあいつ、御坂に敵意を持ってるような気がするんだよな」

「……アンタがいるから、ね」

「……それこそどういう意味だよ」

それに、こんな会話が何故か楽しい。それが何を意味するかは上条は分からない。


ただ。


「昼飯、期待してるぜ」

ふと横に並ぶお嬢様に不敵に言う。

「任せなさい。とびっきり美味しいのを食べさせてあげるわよ」

その挑発に乗ったかのように誇る彼女の笑顔が、少しだけいつもよりも可愛らしく見えた。

107 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/10 22:22:24.73 Aax+0npDO 59/455


ガチャ──。
ドアを開け、先に中に入る。トテトテと音を立てて銀髪少女が走り寄ってきた。

「あれ、とうま?今日は早いね?どうしたの?」

頭に?マークを浮かべているのだろう、首を傾げてインデックスは尋ねてきた。

「まるで新婚のような会話ね」

すると後ろから不機嫌そうな声が上条の耳に届く。それに気付いたインデックスも、怪訝そうな表情を浮かべた。

「……とうま?何で短髪がここにいるのかな?」
「あら、この子は挨拶も出来ないのかしら」
「短髪にする挨拶なんか私は持ち合わせてないんだよ」

──お前らやめてくれ。前後から発せられる殺気がチクチク刺さるんだよ、主に胃が。
キリキリと鳴りそうな胃だがそれを我慢して、何とかインデックスを説得しよう。

「俺風邪気味だから今日は学校やめて途中で引き返してきたの。それよりもインデックス、御坂が昼飯を作ってくれるらしいぞ」

昼飯、というワードに目を一瞬光らせるがそれでもインデックスは引き下がらない。

「どうしてそこで短髪なの!こもえとかでもよかったんじゃない!」
「お前せっかく人が好意でやってくれるってのにその言い方はなんだよ。とにかく御坂が美味しいご飯を作ってくれるって事でお世話になるんだからインデックスは黙ってればいーの」

「むー……」

まさか昼飯というワードを越える何かがコイツにあるとは、と上条は内心驚きながらも説得した。
しかししぶしぶ、と言った感じで引き下がるインデックスを見てとりあえず安心だ。

「んじゃ御坂、よろしく頼む」

と後ろを見ると何故か赤く染めてニヤけていた。

「って、御坂?」

「ふにゃ……ってあい!う、ぅん、分かった……」

まじまじと美琴の目を見つめ、正気に戻すと赤い顔を更に赤くして台所へとピューッと飛んでいった。

「……どうしたんだ?あいつ」

疑問符をいくつも頭に浮かべるが、横から感じるジト目を感じ思考を中断。

「お前もどうしたんだよ……」

「うー……」

ガルルと聞こえそうなその雰囲気に冷や汗を掻きつつ、とりあえず着替えて美琴の昼食を待つ事にした。

112 : 明日になったので投下 ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:13:00.08 8otfgFSDO 60/455


──断言しよう。めちゃめちゃ美味い。

「ど、どう?」

その美味さに少し固まっていると美琴が不安そうな表情を浮かべ上条の様子を窺っていた。

THE・上目遣い。

「美味いぞ!めちゃめちゃ美味い!」

それを見た上条は、照れ隠しに一気に味噌汁を喉に流し込んだ。
ぶっちゃけかなり熱かったのだが、意識は可愛さの方に向いていて味覚、感覚よりも視覚の刺激が強いという中々にない体験をした。

「よかったぁ」

その返答に、美琴は花のように色をつけて輝かんばかりの笑顔を咲かせた。
それを見た上条はこれ以上見ていると何かがヤバくなりそうなので視線をずらしご飯に集中する事にした。

消化の事を考えてか、和食中心の料理がテーブルに並んだ。そのどれもが上条の舌を直球ど真ん中でストライクをカウントし、気付けば箸はかなり進んでいた。

「うー……うー……」

真正面では唸りながらもご飯を掻き込むインデックスの姿。既に三杯目を迎えているのは、彼女なりに認めている証拠なのだろう。

ふと横を見ると、あまり箸が進んでない様子の美琴がいた。ただ表情はニヤニヤしてはいるが。

「どうした、御坂?早く食べないと全部食われちまうぞ」

「えっ、あっ、そうね……」

ふと声をかけると慌てた様に煮物に箸を伸ばし始めた。

113 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:13:58.28 8otfgFSDO 61/455


──嬉しい。

ただその気持ちだけが美琴の心を支配していた。
 実はこうして手料理を振る舞うのは今回が初めてだ。上条の身体の事を考え、なるべく負担のかからない、でも栄養のありそうなものにしたつもりだ。

美琴が住む常磐台の寮は食事が出る。つまり料理をする機会があまりなく、学校の授業で習う時くらいしか台所に立つ機会はあまりないのだ。常磐台中学は女子中学校というのもあり、家庭科の授業も他の学校と比べて少し多い。
とはいえ、それだけでは中々上達はしないのだろう。

そこで美琴は来るべきの事を考え、料理の本を買い込みその内容を全て頭の中に叩き込んでいた。そう、全ては上条の為に。
常磐台の寮の美琴の部屋の本棚には、何冊か料理の本が並べられている。しかしその本を手に取ってみると、所々しわしわになったり折れ曲がったり少し破れていたり。落丁という訳ではなく、その本を何回も何回も使い古した為であった。
 大抵料理の本には作り方と共にコツが書いてある。しかし美琴はそれに更に要点を付け加えたり纏めたりして秘密のノートに書き写していたのだ。

ここまでするのは、一重に食べてくれる誰かのため。誰にも見せぬ並々ならぬ努力を重ねていた。

「これ、本当に美味いなぁ」

そしてその食べてくれる『誰か』……一人しかいないが、その人は本当に美味しそうに自分の作った料理を頬張ってくれている。その努力が、血と涙と汗の結晶が報われた瞬間だった。

──嬉しすぎる……。

キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン……(以下エンドレス)

この胸の高鳴りが気持ちがいい。もう見ているだけで胸がいっぱいになっていた。

114 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:15:06.15 8otfgFSDO 62/455


「ふぃー、美味かったよ、ご馳走さま」

満足という風に手を後ろにやり、賛辞を送る。それだけでも嬉しさが胸を包み自然と笑顔が浮かんだ。

「お粗末さまでした」

「いやいや、粗末なんてもんじゃねーぞ。こんなご馳走食べたの久しぶりだ」

二日前にも同じような台詞を聞いたのだが、今回は自分の料理に対しての感想なのだ。思わずニヤけてしまう表情を隠そうと、食器を台所へと運ぼうと美琴はその場を立った。

「うー、ごちそうさま、なんだよ」

するとまるで期待してなかった少女からの言葉まで美琴の耳に届いた。

──美味しいって、言ってくれた!

耳に届いても右から左へと流していたようだが。

115 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:17:33.74 8otfgFSDO 63/455


食器をカタカタと洗う。上条は自分が洗うから、と言ったのだがそれをも断り、綺麗に食器を洗い上げていく。

普段は平日限定の聞かない、けれど知っているメロディがテレビから流れ出しているのを耳にした。

「あ、そうだインデックス。買い物行ってきてくれるか?」

「え、行ってきたんじゃなかったの?」

「上条さんヤンヤンつけボールが食べたくなりました。ほらこれで好きなもの買ってきていいから」

「えっ、じゃあ肉まんとか肉まんとか肉まんとか買ってきていいの?」

「……いっそ肉まんになっちまえよ」

食器を布巾で拭いていると、そんな会話が聞こえてきた。拭き終わった食器を置き、リビングに戻るとインデックスは立ち上がって今にも出掛けてきそうな雰囲気だった。

「んじゃ私もヤンヤンつけボールね」

「むぅ、肉まんが買える数が減っちゃう」

「ほら、これで好きなもの買ってきていいから」

「わぁい、ありがと短髪」

「……短髪っての、やめてくれないかしら」

「考えとくよ。んじゃ行ってくるんだよ!」

漫才のようなやり取りを終え、インデックスは買い物へと向かった。

「……子供だな、丸っきり」
「……大変手のかかる大きな子供ね」

それを見送ると、苦笑いが自然と出てくる。元気なのはいいと思うのだが。
インデックスの取り柄は元気な所だけ……ではないのだろう、きっと。

「ははっ、んじゃ御坂がお母さんで俺がお父さんみたいな感じだな」
「んなっ!///」

そんな事を考えていると、予想もしない展開から爆弾発言が上条の方から飛び出してきた。

──アイツがお父さんで、私がお母さんで。つつつつまりりりふふふたりりりはふふふうぅふふふ……

「……御坂?」
「ふふふふ……///」
「ど、どうした?」
「ふにゃー/// って、べ、別に何でもないわよっ///」

ヤバい。ニヤけが取れない。そんな時でも全く動じない、というか自分のした発言に気付かない目の前の男が少し恨めしく感じた。

116 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:19:44.13 8otfgFSDO 64/455


「……さて」

テレビを消す。今から話す内容は……おふざけのない真面目な話なのだ。
美琴も上条の目の前でじっとしており、上条の目を見ていた。

「俺の身体についてなのだが」

「……っ、うん……」

美琴の頭に先ほどの上条の苦しむ姿が思い浮かぶ。今は落ち着いたとはいえ、見て耐えられるものではない。

「ここ数日、さっき御坂が見た発作が急に起きるようになったんだ」

「っ……うん……」

「医者には風邪、だと言われているが」

「……」

「俺は、そうではないと思っている」

「……っ」

それは、何となく美琴にも予想はついた。あの苦しみ方は、風邪なんかではない。
発汗量、他人から見ても尋常ではない発熱。それに頭を押さえていたという事から、恐らく立っていられないほどの頭痛も。
そして、目の色の変化。

そこで美琴は自身の唇を強く噛み締めていた。目の前の愛しい少年が何かしらの病か、それとも別の何かに蝕まれていて。
見ているのは辛い。出来ることなら、代わってあげたい。
しかしそうした所でこの少年はよしとしない。でも、どうしても、力になりたかった。

117 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:20:46.19 8otfgFSDO 65/455


「この目の色だって、変わってるわけだしな」

「……うん」

「そこでだ」

「……ふぇ?」

テーブルの上に落としていた視線を再び上条の目に戻した。その目は力強く自分を捉えていて。

「御坂に、頼みがある」

「!」

「俺は幻想殺しなんていうもん持ってるけど、異能の事について知ってる情報は少ない」

「…っ…うん」

「病気ではなく、他の何かだったのなら、という考えも浮かんだんだ。だからもし何か、この症状について分かった事があれば、教えてほしい」

美琴は言葉に詰まった。今まで自分を頼った事のない上条が、自分を頼ってくれている。
正直、話してくれるとは言ってたものの、簡単に説明してはい、終わりと思っていたのだ。だから、自分を頼ってくれたと言う事が。

「……頼まれて、くれるか?」

「あっ、当たり前じゃない!アンタを、当麻を一人、苦しませる訳にはいかない……当麻にはいっぱい助けてもらってたのに……私は、いつも見ているだけだった……」

「御坂……」

とてつもなく、嬉しかった。

「でもいつまでもそういう訳にはいかない……、当麻の身体は、私が治してあげるわ!」

118 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 01:21:48.26 8otfgFSDO 66/455


美琴はテーブルの上に置かれていた上条の手を取り、強く握りしめた。自分の力を、全て見せてあげると言わんばかりに力強い想いを込めて、上条を守ると誓う。
……それが出来なくて何が超電磁砲だ、何がレベル5だ、何が学園都市第三位だ。上条の為なら、何だって出来る。上条がいれば、何だって叶えられる。

「……御坂。ありがとな」

だからこの笑顔を、ずっとずっと守っていこう。支えていこう。そう決めた。













「……何で二人は手を繋いでいるのかなぁぁぁぁ?」

「「!?」」

ピキピキとこめかみに血管を浮かべて立つ般若シスターの姿を見て二人の心臓は一気に脈を速めた。

「い、インデックス!いつからそこに!」

「私が帰ったら二人が手を握り合って見つめていたんだけどぉぉぉぉ、今から何をしようとしていたのかなぁぁぁぁ?」

買い物袋を静かにテーブルの上に置くが逆にそれが迫力をより醸し出していた。

「こ、これはあのだな……ほら御坂も何か言ってやってくれ!……って御坂さん?」

上条は手を離そうとするが、美琴は逆にその手に力を込めた。

「……あらぁぁぁ?私と当麻が手を繋いで何か問題がおありなのかしらぁぁぁ?」

手を繋いでいるため電撃は出ないはずなのだがインデックスと美琴の間に火花が飛び散っているように見える。

いや、実際に火蓋は切って落とされた。

「さっさととうまから手を離すんだよクソ短髪──!!」

「んだとぉ!?やるかゴラァァ!!」

そしてその戦いに巻き込まれた少年は決まってこう言う。


「んだぁ、もう不幸だ───!!」

126 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:18:51.99 8otfgFSDO 67/455


「あの人……いるかな」

上条の部屋から一旦外に出て、美琴はビルの並ぶ町並みを歩いていた。

 上条の体について、何かが起きていると言う事しか分からない。しかし上条に頼まれた手前、美琴は即座に行動に移していた。
 現在上条は彼の自室にて休養中。その際、彼の寝場所について一悶着あったのだが。


『……は?アンタ、いつも風呂場で寝てんの?』

『仕方ないだろ……ベッドはインデックスが使ってるし、同じ部屋で寝る訳にもいかないんだからさ』

『むー、私としては構わないんだけどとうまったら聞かないんだよ』

『このチビっこいのが別の場所で寝るべきだと私は思うんだけど』

『そういう訳にもいかんだろ』

『私はフカフカのベッドでしか寝れないんだよ!』

『アンタねぇ……!コイツに迷惑掛けてるという自覚はないの!?』

『それに別に短髪には関係ないと思うんだよ!』

『お、おいインデックス……煽るなよ』

『はぁぁ!?関係ないとかそういう問題!?大体アンタはご飯食べて寝るだけじゃないの!居候させてもらってるという自覚を持ちなさいよ!!』

『み、御坂も落ち着いて……ほら、な?』

『やだやだ、これだからキレやすい短髪は』

『こ・の・ク・ソ・チ・ビ・がぁぁぁぁぁっっ!!』

『ちょ、電撃はやめろ!部屋が!家電がぁぁ!』

『あーあ、とうまカワイソ』

『グガガガガガっっ!!』



『不幸だぁぁーっ!!』

 あれから荒れた部屋を片付け、上条を何とかベッドの中に押し込んだ。
何やかんやで眠りに就いた上条を確認すると、美琴は出掛けると言いそして現在に至る。

127 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:21:23.56 8otfgFSDO 68/455


──はぁ、あのシスターは。

溜め息を吐き、愚痴をこぼすが誰も聞いちゃいない。頭の中にほんの少しだけイライラが残っているが、今はそれよりもやるべき事がある。




 向かった先は研究所。ある一人の研究者を訪ねてきていた。

「……」

研究所、というものを美琴はあまりよくは思わない。あのシスターズの件の時、数々の研究所を潰して回った。
その時見た研究者達は保身、言い訳、正当化、命乞いばかりで。研究者というのにロクな人種に会った事がない。

 だが今から会う研究者は違う。やり方こそ間違ってはいたが、全ては子供達の為にその身を滅ぼそうともしていたあの女性研究者。

入り口のインターフォンを押す。特に新しくもなく、こじんまりとした建物で上条の住む学生寮と似たような雰囲気を醸し出していた。

「……」

反応がない。もう一度押す。

「…………」

やはり反応はなかった。

「いないのかな……」

ボソリと呟いても誰も聞いてる訳でもなく、美琴は研究所を後にした。

128 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:22:11.57 8otfgFSDO 69/455


「ん……」

上条が目覚めると窓の外はオレンジ色に染まりつつあり、時刻も16:00になりつつあった。

──結構眠ってたんだな。
 部屋には美琴の姿はなく、いまだ戻ってきてないようだった。
 と、そこで自分の右手を包む柔らかい感触に気付いた。

「……インデックス」

横に目を向けると、自分の手を握りながらベッドにもたれ掛かりながら寝息を立てるインデックスの姿がある。

──こいつにも、心配掛けたな……。

 実際に発作が起きている所を見られた訳ではない。
深い所は何も聞かない。それがインデックスなりの優しさなのだろうか。ただ何かあった時、インデックスはこうして心配してくれていた。

「……」

そんな自分を情けなく思いながらも感謝もしていたが。











「……とうまぁ……肉まん…ムニャムニャ」

「さっきあんだけ食ったろうが」

彼女は彼女、いつも通りであった。

129 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:24:05.97 8otfgFSDO 70/455


目的の人物の不在を確認すると、次の目的地へと歩き出す。ちらほら現れ出した学生達を見て、美琴は時刻を確認した。

「もうこんな時間か……」

携帯を取り出し、ディスプレイを開くと時刻は16:00丁度だ。気付けば夕暮れの光の色になっていて、美琴は歩くスピードを速めた。

ピピピッ。

すると美琴の携帯の着信が鳴り、その発信元を確認する。

──着信 黒子──

「げ」

その名前を見た美琴は嫌そうな表情を浮かべ、出るか出まいか迷う。
しかし白井黒子という少女、愛するお姉さまの為に出るまで鳴らし続ける習性があり、それを無視すると後々面倒くさい。

 過去に一度無視した実例があるのだが、何と彼女は初春飾利という少女に頼み込み、美琴の携帯から発する電波を元に居場所をわざわざ割り出すという犯罪まがいの事をしてまで追いかけてきた(いや、アウトか?)。
……まぁそれに激怒した美琴は黒子を丸こげにした後二度とこんな事をしないと約束させたのだが。
 その件以降は彼女なりに自重したのか、美琴が出るまで鳴らし続けるという手段に変更した。それはそれで迷惑な話だが。
気付けば着信履歴20件なんてざらな為、美琴は早目に応対しようと決めていた(上条からの着信履歴を消されない様に死守する為)。

「……はぁ。もしも『お姉様っ!!今何処にいますの!?』

──最後まで言わせろよ。

『今日は学校お休みになさったと聞いて、黒子は黒子はいても立ってもいられませんでしたの!ご無事ですの!?』

「別に何ともないわよ。ちょっと調子悪かっただけ」

本当の事を言うと面倒くさい事になりそうだから適当に誤魔化したかったのだが。

『なら何故寮にいらっしゃいませんの?お休みになったと聞いて駆け付けましたのにお姉様いらっしゃらなくて心配ですの』

「アンタまさか寮内までテレポートしたんじゃないでしょうね」

『ギクッ』

時刻を見て、学校から寮までの時間を考えるとこの短時間で辿り着くのは不可能なはず。すると考えられるのは彼女の能力である空間移動だけだ。
しかし常磐台の寮では能力の使用は規則で禁じられており、常磐台の寮を仕切るアノ寮監が逐一目を光らせている。バレたらとんでもない制裁をくらう事になる。
 美琴としては別に黒子が制裁を受ける事に特に気にはしないのだが、「連帯責任って知っているか?」と言う寮監のお決まりの台詞と共に同室である自分にもとばっちりが飛ぶのだから美琴も必死だ。

130 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:25:16.30 8otfgFSDO 71/455


『と、とにかく!お姉様今何処にいらっしゃるんですの?迎えに上がりますわよ』

下手な誤魔化しなのだが、長くなりそうなので美琴は流す事にする。

「あーいいわ。用事あるし。門限までには間に合うように帰るから」

『……お姉様。用事ってもしかしてあの殿方ですの?』

「ギクッ」

ピンポイントで付かれるその質問に、先程とは逆に美琴が言葉に詰まった。

『その反応という事は当たりですのね……おのれあの類人猿んんん』

何かと上条を目の敵にしている黒子から呪詛のようにいつもの言葉が美琴の耳に届いた。

「とにかく!夕食も食べてくるから帰りは気にしなくていいわよ。そんな事よりジャッジメントの仕事しなくていいの?」

『お姉様の為なら優先順位は変わってきますの!とにかくあの類j──ブツッ。

伝えたい事は伝えた。もういいよと言わんばかりに通話を切るとすかさず電源を切った。これでいいだろう。

「はぁ。邪魔が入ったわね……どうしよう、今日は戻ろうかな」

思わぬところで時間を食ってしまった。はぁ、と肩を落とし美琴は来た道を引き返すことにした。

131 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:26:12.26 8otfgFSDO 72/455


「……ふむ」

ある一室で、二人の人物がの姿があった。二人が囲むようにして真ん中に置かれたテーブルの上には、並べられた資料とレントゲンらしき写真。少し動けば着衣の擦れる音さえ耳に届くほどの静寂がその場を包んでいた。

白衣を着た初老の男が確認するように呟く。

「歪んでいた、ね?」

それに、同じく白衣を着た顔立ちの整った女性が答えた。

「……。今朝彼と病院の入り口ですれ違った際に、こっそり調べさせてもらった。数値的にはこのようになっている」

「これは……」

その女性の提示した一枚の紙に、男──冥土帰しの顔の目が少し見開いた。よくよく注意して見れば、程度の事だったが。

「彼は無能力者らしいのだがね……」

少し溜め息を吐きながら呟く女性──木山春生。

「いや、もっとも能力など“発現しようのない”体質のはずだが」

その心中は『ありえない』と言わんばかりに難しい顔をしていた。

「幻想殺しが関係している──と見ていいんだね?」

冥土帰しが確認すると、木山は「恐らく」と頷く。

「あの目も気になるが」

「……」

二人の視線は先程提示された一枚の紙。


 そこには、無能力者ではありえない数値が羅列されていた。

132 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/11 21:27:35.01 8otfgFSDO 73/455


「ただいまー」

「おう、おかえり御坂」

美琴が戻ると上条は起き上がっていて、テーブルの上にペンを走らせていた。
おかえり、という言葉にかなり喜んだのか照れたのか知らないが頬を赤く染める。……上条の視線はテーブルの上だったのでバレずに済んだが。

「何してんの?」

んーなんて言いながら頭をポリポリ掻くもんだから、美琴は気になって尋ねた。

「……宿題。担任の先生が今日休んだからって特別に作ったらしいんだけどな……。勘弁してほしいぜー」

やれやれと言った具合に溜め息を上条は吐いた。とは言え、これやったら補習はなしにしてあげますよーなんて言われたらやらずにはいられない。

「どれどれ……」

と美琴は上条の横に陣取りそのテーブルの上に置かれたプリントを見た。

 と、その前に。

「あれ、あの子は?」

そう言えばインデックスの姿が見当たらないな、と上条の方に視線を向けた。

「風呂洗ってくれてる。珍しいよな、あいつが家事なんて」

そう言われて風呂場の方に視線を向ける。風呂場の方から水音と共に鼻歌が混じって聴こえてきた。……何だか聞き覚えのあるアニメのテーマソングだった。

「あの子なりに心配してるんじゃないかしらね?」

「んー、そうだな……」

もちろん私も、と言おうとしたのだが上条の申し訳なさそうな表情を見てやめておいた。押し付けるものではない。

「……てか。ここ、間違ってるわよ」

「な、まじでか!」





その後は夕食の時間まで上条の宿題の採点は続き、間違いを発見する度にしょんぼりする上条の顔にキュンときたのはまた別の話。

 こうした些細なことでも力になれて、美琴は嬉しかった。

142 : 休憩中に投下 ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:02:03.16 2Fe6xPCDO 74/455


「美味かったよ、御坂。ご馳走さん」

夕食を摂り終え、時刻もそろそろ帰らなければならなくなってきていた。名残惜しいのを堪え、美琴は帰り支度をしていた。

「しっかり休んどきなさいよ。アンタもコイツをしっかり見ておくように」

「分かってるんだよ!ご飯美味しかった、ごちそうさま!」

素直にお礼を言ってきたインデックスに少し驚きつつも、美琴は立ち上がった。

「別にいいわよ。また明日も来るから」

「何か悪いな」

ここでいいよと言ったのに玄関まで見送りに来た二人に少し顔が綻びながら、鞄を手にした。

「こういう時くらい甘えなさいよ、私が好きでやって……と、とにかく!早目に寝なさい!分かったわね!」

思わず口を滑らしそうになった所を回避し、恥ずかしさから逃げるようにドアを閉めた。

──バタン。

「……どうしたんだろ?」

「……どんかん」

「ん?何か言ったか?」

「別にー?」

相変わらずの上条にインデックスは呆れたように視線を寄越し、リビングへとスタスタ歩いて行った。普通の人ならその何かに気付くはずなのだが、そこはさすが上条としか言えまい。

143 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:02:42.29 2Fe6xPCDO 75/455


 ポリポリと頭を掻いて、上条もリビングに戻っていった。


……すると。


ピンポーン、とインターフォンがの音が部屋に鳴り響いた。

──御坂か?忘れ物でもしたのかなと思い浮かべながらドアを開けると。

「はいはーい、どちら様ですかー」

「カミやーん、休んでると思ったら常磐台のお嬢様なんかとイチャコラ……」

ドアを開けると上条のクラスメイトであり、隣の部屋に住む土御門の姿があった。

「土御門か。どうした?」

「カミやん……?」

土御門は上条の顔を見て驚いてる様だった。

「……あ、そか」

──この目、か。
上条は忘れていたが、目の色が変化している。上条もその事について土御門に用があった。

「ちょうどよかった。聞きたい事があるんだ」

「……分かったぜい」

上条は土御門を招き入れ、再び部屋の中に入っていった。

144 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:03:29.91 2Fe6xPCDO 76/455


 今日一日で大分上条との距離が縮まったように思える。その事は美琴にとって嬉しく思えたのだが。

「……」

一人になると思い出してしまう。昼間見たあの上条の異変。苦しみに悶えたその姿が焼き付いて離れない。

この震えは冬の寒さだけではない。不安がそれに乗じていて、気を抜けば目も潤んでしまいそうで。左右に目に映る街灯、店の光や車のライトはその気持ちを和らいでくれるが、それはほんの少しだけ。

──早く帰ろう。今は一人という状況がとても心細い。まるで自分の痛みのように感じた上条の苦しみは、もう思い出したくない。

 それでも気丈に振る舞うその姿。苦しいはずなのに自分に心配をかけまいと、いつも通りの顔を見せてくれた。
そして帰る時に至ってはも送るとさえ言い出すのだ、どこまで彼はお人好しなのだろうか。

「……ばか」

その声は白い息と共に真冬の虚空へと消える。さっきまで会っていたと言うのに、ほら、もうこんなにも会いたい。

 今日一日で更に増したこの想いを胸に美琴は歩いていると、横でキュッとタイヤ音を立ててスポーツカーが止まった。

「あれ、この車……」

その車には見覚えがあった。その所有者は美琴が今日探していた人物で。

左ハンドルのその車のウィンドウが開き、運転手が自分に声を掛けてきた。

「御坂君」

「木山先生……」

そこには木山春生の姿があった。

145 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:05:02.75 2Fe6xPCDO 77/455


「……なるほどだにゃー」

目の前の土御門は腕を組んで考え込んでいた。

 土御門には全てを話していた。美琴には言わなかった、魔術関連の事も交えて上条が考えうる可能性も含めて、だった。

 土御門の事は親友として、共に戦ってきた仲間として上条は信頼しきっている。随分世話になった気もしていた。
ちなみにインデックスは隣の土御門の部屋に場所を移させた。土御門の義妹の舞夏の料理に舌鼓を打っている事だろう。

「とにかくこっちはこっちで調べてみるぜい。でカミやんは明日は学校来るのかにゃー?」

「んー明日の朝の調子次第だな。でも行くとしたらこの目、何て説明したらいいんだろ」

「イメチェンとでも言っておけばいいんじゃないかにゃー?」

「そんなんであいつらは納得せんだろ……」

鬼気迫る表情で迫ってくるクラスメイト達を想像して少し身震いがした。特に吹寄。青ピはどうでもいい。
……すると。

「……そんな事よりも、だ。聞きたい事がある」

空気が変わった。

146 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:05:44.92 2Fe6xPCDO 78/455


「……土御門?」

急に表情を引き締め、上条の目をじっと見る土御門。彼の口調は普段、にゃーだのぜいだの変な語尾を付けて話す。しかし、それが今は消えていた。

 上条の額に冷や汗が浮かぶ。もしかしたら、何かあったのか。中々見る事のない真面目な顔つき。そこには『必要悪の教会』の一員としての土御門の顔付きみたいだ。

──ゴクリ。唾をも飲む音が聞こえる静寂の中、一秒一秒時間が経過する度に焦燥感が増す。
インデックスの身に何かあったのか?それとも学園都市で何かが起こるのか?

上条は再び促そうと口を開こうとした時。












「超電磁砲と何をしていたんだにゃー?」


「………………は?」


土御門のその質問に上条はそう言うしかできなかった。

「は?じゃないぜいカミやん!さっきまでこの部屋にいたの、超電磁砲だろ?」

ニヤァァァという音が聞こえてきそうなほど口の角をつり上げ、答えを求める土御門。思わずテーブルに付いていた手を滑らせるとこだったが何とか堪えた。

「こんな時間までナニをしていたのかにゃー?ナニを」

「何を強調するんじゃねぇ!いきなり真面目モードになるから焦ったじゃねーか!」

「お、否定しないって事はヤッたと捉えていいのかにゃー?」

「何にもしてねぇよ!それに俺は御坂とそういう関係じゃねぇ!」

「禁書目録もいるってのに、可哀想な子だにゃー」

「人の話を聞けアロハ野郎!」

 ……とまぁ、結局、そこにあったのはいつも通りの二人の姿であった。

147 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:07:50.24 2Fe6xPCDO 79/455


「クチュン!」

「おや、風邪かな?」

信号待ちをしていた車の中、可愛らしいくしゃみが出た。

「いえ、身体は何ともないはずですけど」

「なら気になる異性に噂にでもされているのかな?」

「えっ、そっ、そんなっことっ///」

「君は嘘はつけないみたいだね」

隣を見ると前を見てはいるが何だか楽しそうな表情の木山だ。からかわれた事に少し不機嫌そうに頬を膨らました。

 そこで美琴は聞きたかった事を聞く事にした。上条の身体の事、少しでも手がかりがほしい。

「あの」

「ん?何だい?」

「先生は大脳生理学の研究してましたよね?」

「ああ。それがどうかしたかい?」

「……知り合いが、突然の頭痛、発熱が出るようになったみたいなんです」

「……!」

そこで木山は驚いた。その症状が出る少年について、先ほど冥土帰しと意見交換をして来た所なのだ。

だが、まだこの時点では確定ではないだろう。美琴の言葉を待った。

「それで……その頭痛とかは少し時間が立てば治るみたいなんですけど……その……」

「……」

「目の……色が変化しちゃって……」

「!」

木山はそれを聞いた時、美琴が誰の話をしているかを確信した。

148 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:10:18.06 2Fe6xPCDO 80/455


 幻想殺し──上条当麻。間違いない。先ほど話し合っていたあの少年だ。

「その目の色が……その、幻想御手の時の木山先生に似ているんです」

ちょっと違う所はあるんですけど、と加えて美琴は言った。

──なるほど、やはりあの少年なのか。そういえば幻想殺しと超電磁砲。仲が良いと言う噂を耳にした事があった。

「……ふむ、なるほどね」

この少女にも伝えるべきなのだろうか。いや、自分の中で立てた仮説も合っているとは限らない。
この世に『絶対』などというものはなく。『もしかしたら』や『偶然』という事象を突き詰めていった先に因果がある。

 だがこの少女は『自分だけの現実』を如実に現すトップの存在でもある。彼女の持っている『もしかしたら』があの少年を快方へと導くのかもしれない。

 木山は事件を通して、美琴という存在を認めている。木山からしたら年齢的にはまだまだ子供だ。しかしその子供に教わった事もたくさんある。
この子なら信じられると、木山は次の行動を決めた。



「今、私にはやる事があってね」

「……」

「ある医者に頼まれたよ。一度敗北した私を手助けしてほしいってね」

「……?」

美琴には木山が何を言おうとしているのかが分からなかった。ただ、木山の言う言葉をじっと待っていた。

「……君の言う知り合い。幻想殺しなのだろう?」

「!!」

「彼には一度私も助けてもらっててね。とは言っても駐車場の場所がわからなくなって困ってた所を助けてくれた、くらいなもんだけどね」

突然の上条の話に美琴は驚き、口には何もせずただ聞いていた。

149 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:11:08.27 2Fe6xPCDO 81/455


「彼も場所が分からなかったのに、必死になって探してくれてね」

美琴はそう言う木山の顔を見ていた。笑った顔はほとんど見た事がないのだが、彼女は今、楽しそうな顔をしていた。

 信号が赤に変わり、ブレーキを踏むと木山は美琴の方に向いた。

「君は、あの少年が好きなのかい?」

「ふぇっ!?///」

突然の攻撃に美琴は視線をずらし、下の方を向く。その顔は真っ赤に染まっていて、言葉にしなくても答えが分かってしまう。

 その事に更に楽しそうに笑った木山は続けた。

「明日、彼と一緒にあの病院に来てくれるかい?」

その言葉に再び木山の方に視線を戻すと、彼女は既に顔を前に向けていて、信号が青に変わったと同時にアクセルを踏んでいた。その表情には、何か力強さがあったと美琴は感じて。

「……はい!」

と美琴もまた力強く返事を返した。

150 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:12:02.14 2Fe6xPCDO 82/455


翌日。

まだ日も昇りきっていない早朝、美琴は支度をしていた。あとはコートを着るだけの所で、隣のベッドで眠る少女に目を向ける。

──どうかこのまま起きませんように。
起きたら起きたでしつこく絡まれるであろう。ジャッジメントの仕事が舞い込んだのか、昨日は黒子の方が帰りが遅かった。
疲れたのだろうか、昨日は早目に就寝していて今でも熟睡中だ。彼女の多忙さに感謝の念を浮かべると、なるべく音を立てないように部屋を出た。

「さむっ」

寮の外に出ると、吹き付けるような冷たい風が襲う。常磐台の規則として外出時にも制服着用義務があるのだが、冬の季節に制服の上に着るコートはその限りではない。
唯一のおしゃれポイントとして羽織るそのダッフルコートのボタンを締めて、美琴は歩き出した。

……その美琴のお気に入りのコートは、確かに可愛らしいデザイン。しかし彼女の友達──ルームメイト含むいつもの三人やら同級生達やらに言わせれば『子供っぽい』らしいのだが。

151 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:12:52.63 2Fe6xPCDO 83/455


「おおお起きてるのかな?」

上条の部屋に到着すると。鞄の中に入っていた手鏡で確認しながら、あたふた髪の毛やら服装やら直す。内心ドキドキだ。

「よよよよし」

インターフォンを押す手がプルプル震える。

「さささ寒いからね」

いや、絶対それは寒さだけではないだろう。

 ……しかし、美琴はそこで考え直す。今現在の時刻は06:00をちょっと過ぎたあたりだ。

「……まだ、寝てる、かしらね」

自分だったら普段いまだに夢の中にいる事だろう。

「……起こしたら可哀想なだけだからね」

誰に言い訳をしているのかその言葉を呟くと、美琴はある『裏技』を使って鍵を開けた。





 美琴が中に入ると、まず先にリビングの床に転がるインデックスを発見した。
そこにはきちんと敷かれている布団をはだけさせて、身体は半分出ている。

それを見ると、ちゃんと上条にベッドを使わせた様だった。

 ……そして、そのベッドには。

──ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……。

規則正しい寝息を立てて眠る上条の姿があった。

152 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:14:10.54 2Fe6xPCDO 84/455


 こうなるともう美琴の目にはインデックスの姿は映らない。

──いつもと違って、ちょっと髪の毛ふにゃってなってるーだとか、意外と睫毛長いんだーだとか、寝てる姿もかっこ……ゲフンゲフンだとか。

と言う感想を持ちつつ、上条の寝顔をまじまじと眺める。何だか胸がキュンときて、温かくなって。
自分には出来ない事をやってのけるヒーロー。傷付きながらも皆を守り、心に入り込んでは人々を幸せにしてくれるこの存在が、今、とてつもなく愛しい。
将来的には毎日この寝顔を眺めていられるのかと言う妄想さえ頭の中で垂れ流されている。

──な、何想像してんの私っ!?///

寝起きドッキリ的な要素も加えてか、何だかイケナイ事をしているみたいで更に胸の高鳴りは抑えようになくなってきた。

「うぅーん……」

「ひゃいっ!」

と、いきなりの唸り声で美琴の心臓は更に揺れた。

──し、しまった!
 悲鳴を出した事によって起きたのではないか、と上条を確認したのだが。

「……すぅ……すぅ……」

再び寝息を立てた上条を見て、美琴はほっと一息ついた。

 ……ってあれ、何だ?何か上条の顔が近い。気付けば寝息も顔に当たるほどの距離。

「っっ!!///」

──ななな何でこんなに近いのよ!

実際近付いたのは美琴なのだが、焦りとテンパリでもう何が何だか分からない。

153 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/12 15:15:19.78 2Fe6xPCDO 85/455


──あ……。

ふと視界に映ったのは上条の唇。もう数cm動けば自分のそれと重なってしまうのではないか。

──寝てる時は、ノーカウントよね……。

美琴の願いが(一方的に)叶うまでその距離は僅か。
夢見た少女は、乙女心をいつまでもその胸に刻み込んでいて──。













「大根……生でも……食べられるんだよー……ムニャムニャ」

カプッ。

「痛った────────!!!」

「ななな何だっ!?敵襲か!?」

……夢見る少女は、まだその夢を叶えては、いない。

159 : 大根はふくらはぎにしといて ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:01:28.51 OXXH7SHDO 86/455


三人でテーブルを囲んでいるが、三者三様の表情をしていた。
ムスッとしたのが一人。
お構い無しに機嫌よさそうにがつがつ米を頬張るのが一人。
チラチラ機嫌を伺いながらビクビクしているのが一人。

「ふろふき大根美味しいんだよ!美味しいんだよ!」

「……………(イライラ」

「……………(ビクビク」

「さっき何だかほっそい大根食べてた気がしたんだけど気のせいなのかなぁ……」

「チッ」

「ひぃっ!?」

さっきからずっとこんな調子だ。ビクビクしているから上条の箸はあまり進んでいない。

「調子、悪いの?」

 しかし美琴はその事に気付き、表情を一変させ心配そうな顔になった。

「ひ、い、いや、別に、そんな事はないぞ」

突然声をかけられた事、牙を向けられたと思ったのか、一瞬怯んだ様子の上条だったが咄嗟に立て直すとご飯をかき込んだ。

「おっおっおっかわりー♪」

するとインデックスはそう歌いながらトテトテと炊飯器のある場所へ向かって行く。

 それを横目で見た美琴は上条にそっと耳打ちをした。

160 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:03:06.38 OXXH7SHDO 87/455


「(アンタ今日学校休める?)」

「……?」

内心ちょっぴり近付いてきた美琴にドキマギしたが、その返答として、何で?と視線で返事をする。

「(……木山先生って、覚えてる?)」

「(……木山?いや、そんな人知らないぞ)」

「(……。研究者なんだけどね)」

──知らない……って事はあれは当麻が記憶を失う前だったのかな。いや、名前を知らないだけという可能性も……、と美琴は昨日の木山との会話を思い出しながら続けた。

「(?それで?)」

「(うん。その人がね、今日ゲコ太のいる病院に来てほしいって)」

「(!)」

そこで上条の目は少し見開いた。

「(……もしかして、昨日俺が寝てる時に御坂がいなかったのって)」

「(あ……、う、うん、その……ね///)」

美琴は動いてくれてたのか。わざわざ、真冬の寒い中聞き込みに行ってくれた事を上条は察した。

161 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:03:50.45 OXXH7SHDO 88/455


「(そっか……。ありがとな)」

「(っ!/// きっ気にしなくていいわよっ!///)」

その言葉に美琴は顔を赤くして取り繕った。でも嬉しくて、ありがとうと言ってくれた事に対してありがとうと言ってしまいそうな所を何とか堪えながらだった。

「(時間とかは?)」

「(あ、それは聞いてない。とりあえず普段学校行く時間に合わせて出ればあの子に怪しまれずに済むんじゃない?)」

「(……そうだな。そこまで考えててくれたのか。本当に、ありがとな)」

上条は美琴の行動、心遣いに感謝をした。昨日は頼むとは言ったが、自分の為にまさか即行動してくれるとは思ってなかった。
 いつも電撃を浴びせられていたので、自分の事などかなり優先順位は低いものだと思っていたのに。

クシャ──。

「(!?///)」

気付けば美琴の頭に手を乗せてしまっていた。

「(あ……悪い)」

何をしようとしたのだろう。手を離そうとしたのだが──。

「(……そこまでやったんなら、撫でて、よね……///)」

顔を真っ赤にしながら上目遣いで上条の目を見つめてきて。

 その瞳は水々しく、とても可憐に、上条は思えた。

162 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:04:35.66 OXXH7SHDO 89/455


「やっぱ外は寒いなー」

「アンタちょっと薄着なんじゃないの?もうちょっと着込みなさいよね」

「一応中には着てるんだけどな」

風車の回る、近未来的な街の中を歩く。冬らしく冷たい風が吹き、道行く人も寒そうに身を縮こまらせていた。

 上条は、ダッフルコートを着ている美琴とは違い学ラン姿だ。二人ともマフラーを着けて温かそうな格好はしてはいるが、やはり上に羽織るものが欲しいのか上条はブルッと少し身を震わせる。

「……コートとか買うお金があればいいんだけどな」

男として情けない事を言っているようなのだが、あのインデックスを養っている時点で仕方がないとも言えよう。

「……甘やかしすぎなんじゃない?」

自由気ままに暮らしているように見えるインデックス。美琴は呆れた様な声を出したが、上条は苦笑いをした。

「一応任されている訳だしなー……レベルさえ上がれば、奨学金とかにも期待できるのに」

 上条は人のせいにはしない。全て自分に責任があるとばかりに自分のせいにする。

「アンタはそういうヤツだったわね……」

上条のお人好しぶりに改めて溜め息を吐くと、美琴はある事を思い付いた。

163 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:05:09.53 OXXH7SHDO 90/455


「その病気みたいなの。治ったら何か温まるものプレゼントしてあげるわよ」

普通に買ってあげるわよ、と言っても上条は決して受け取りはしない。自分が何かしてあげたくても拒否されてしまうのだ。
だから、物をあげる時はいつも何かと理由を付けて、であった。

「ふむ、退院祝いなものか。はは、じゃそん時はありがたく貰う事にするよ」

言質は取った──と美琴は不敵に笑みを浮かべていた。どこまで妄想したのか、その顔は赤くなっていたが。



「あれ、御坂さん?」

するとそんな美琴に声が掛かり、慌てて表情を消すと声がした方を見た。

「あ、初春さん、佐天さん」

そこには彼女が様々な事件を共にしてきた、親友とも言ってよい二人の姿があった。

164 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:06:49.40 OXXH7SHDO 91/455


「おはようございますー」

「おはようございまーす」

「うん、おはよ」

少女達は挨拶をし合った。丁寧な言葉を使いながらもその雰囲気はとても仲が良さそうで微笑ましく見えた。

「御坂の知り合いか?」

上条も二人の姿を見ると美琴に尋ねる。そこで初春と佐天は驚いた表情を見せた。

「うん、友達」

そんな二人は何度も美琴と上条の両方に視線を移しては目を丸くしている。上条はその視線に気付くと、何だろうと首を傾げた。

「御坂さん!この赤目の人は?」

「この人との関係は!?」

やがて次第に初春と佐天は目を輝かせて美琴に詰め寄る。そのいきなりの様子に美琴は言葉を詰まらせた。

上条は元気な子達だなーと能天気な事を考えている。

「コイツは上条当麻って言って……」

「あ、ども。上条当麻って言います」

上条が声を出すと、矛先は上条に変わる。

「上条さん!初春飾利です。高校生、ですか?」

「上条さん!佐天涙子です!御坂さんの恋人なんですか!?」

「うっ」

ズイッと二人に近寄られて上条は一歩後ずさった。恐るべき中学生パワーか、その迫力に面食らったみたいだ。

165 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:08:03.43 OXXH7SHDO 92/455


「こここここここ……///」

助け船を出そうと美琴の方を向いたのだが、何故かニワトリになっていたので期待は出来ないだろう。

「う、うん……高校一年だけど……」

「キャー年上ー!」

「御坂さんやるぅ!」

しかし質問の一個答えただけでこの反応だ。しかも答えてないのに美琴の恋人として話が進んでるっぽい。

「あー、言っておくと」

「「はい」」キリッ

騒いでたのが嘘の様に静まる二人。二人の心中では一字一句聞き逃さずに、美琴をからかう要素を掴もうと言う心意気だった。

「俺と御坂は恋人同士なんかじゃないから」

「「へ?」」

それを言うと二人は止まり、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。

──へ?恋人じゃないの?
──何で恋人じゃないの?

と言う心の謎の声が上条に聞こえた気がした。何でってどういう事だよ何でって。

「俺なんかと恋人にさせられちゃ御坂が可哀想だ」

そこはキッパリ言っておかないとな、と説明すると二人は何故か残念そうな顔をした。

「そうだったんですかぁ……」

「せっかく面白い話が聞けると思ったのにー」

上条は思った。この二人を敵に回すと社会的に何かが終わりそうな気がすると。

166 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:10:46.96 OXXH7SHDO 93/455


 恐るべき中学生パワーをその身を持って体感した上条なのだが、ふと美琴に目を向けると下を向いていた──と言うより、俯いていた。

「……御坂?」

前髪で隠れてその表情は見えない。

「御坂さん?」

どうやら二人も気になったようで、美琴に目を向けていた。

「………………ぃ」

「ん?」

何かを呟いているのだろう。だがその声は小さく、はっきりと聞こえない。

「わ…し…そ…に…もゎ…い」

「……御坂さん?」

何だか美琴の変調に初春と佐天の二人も心配そうに見ていた。

 そして上条が美琴の顔を覗き込むと。



「私はっ!そんな風に思わないっ!って言ってんのよ!」



「わっ!?」

突然の大声に上条は驚きからか背筋が伸び、気を付けの格好になった。キ────ンと言う余韻が上条の耳を支配しながら。

そんな美琴に初春と佐天の二人も目を見開いている。

「そうよ!私はコイツの事大s────はっ!」

そこまで言って美琴は今自分が何を言おうとしたのかに気付き、自身の手で口を押さえた。

チラリと、恐る恐る上条の方を見ると。

「 」

気を付けの格好のまま硬直している。

──まままままさかきききき聞かれたたたたた──!!///

顔を真っ赤にしてアタフタと慌て出す始末。

168 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:12:13.13 OXXH7SHDO 94/455


「もももしかしていいいい今のきききき聞いた?///」

もう躍起になって上条に尋ねるのだが上条は動かない。

──ヤバい……聞かれたんだ……。

その沈黙が美琴に不安を募らせる。こんな形で言うつもりはなかった。それに。

──返事をもらうのが、怖い。

 彼の返事が怖い。自分には、自信がないから。
いっつも素直になれずに、彼には突っ掛かってばっかりで。嫌がる彼に電撃を浴びせ、追い掛け回して。
上条に好かれる要素の行動を取った試しがなかった。

 きっと今の沈黙も、自分を断る為の言葉を考えているのだろう。彼は、優しいから。なるべく傷付かない言葉を探しているのだろう。

そう思うと涙が出てきた。自分って、こんなに弱い人間だったんだって今更ながらに思う。

169 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:13:50.48 OXXH7SHDO 95/455


──ほら、断るんならさっさと断っちゃってよ。

 しかし、覚悟は出来た。断られた後でも、上条を守るという決意は揺るがない。自分が、守ってやらねば──。





「すまん、御坂」











「耳が、キ──ンってなってて、聞こえなかった」











「………………………はい?」







「ほぇー」

「ほぇー」

170 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:14:47.68 OXXH7SHDO 96/455


「だからだな御坂……耳が…………っておい!何故泣いてんだ!?」

「はぇ?」

目を拭うと、服の袖が湿った。あ、自分泣いてたんだって何故か客観的に思えた。

「……大丈夫か?」

「あっ……」

ギュ。

──あれ、私……抱き締められてる……?

何だかもう何が何だか分からなくなり。自分の身体を操っているのが自分ではない錯覚を起こすほど、この状況を客観的に見ていて。

「何で泣いてんのかは知らんが、もう泣かれんのは勘弁だぞ」

ただ、ここが。温かいと言う事だけは分かった。

171 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:16:08.78 OXXH7SHDO 97/455


「さっきの話は無しよ!///」

少し時間が経って落ち着いた途端、顔が燃えるほど恥ずかしさが込み上げていた。

「分かったよ……でもまた教えてくれよな」

「ぅ、ぅぅ……///」

必死に何とか状況を回避した美琴は、横で並んでいる二人をキッと軽く睨む。

「え、えへへー」

「あ、あははー」

とっても爽やかな苦笑いを浮かべている二人は……まぁいい。

「所で、今何時だろ?」

と、上条はふと気になりそう呟いた。

「えっと今は──」

「うっひゃああああ!!」

時計を見た二人は悲鳴を上げた。……恐らく遅刻コースなのだろう。

「すっ、すみません御坂さん、上条さん!失礼しますっ!」

「あっ、えっ、えっと。ごちそうさまでした!」

それを言うと二人はピューっとこの場を走り去って行った。

「元気な子達だなー」

「……佐天さん、今度会ったらお仕置きね」

上条と美琴はそんな事を呟きながら二人の背中を見送った。

 二人は特に急ぐ必要がない為、ゆっくり歩き出す。

172 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 00:17:07.01 OXXH7SHDO 98/455


「所で、あれから……あの症状は出たの?」

「ん?……そう言えば。昨日のあれ以来、ないな」

「そう……よかった」

「ん?」

「何でもない」

昨日の公園で発作が出た以降、上条は発作に襲われる事なく日常生活を過ごしていた。昨日はあの一回だけですんでいて、上条はほっと一息胸を撫で下ろしていた。

「最近は一日に二回ペースだったんだけどな」

「……そう、なの?」

その言葉に美琴は表情を歪ませる。上条が苦しんでいる──と言う事をもっと早く知るべきだった、と思いながら。

「んー調子がいいのは」

美琴がそこで隣を歩く上条の顔を見る。ビルの間に見える朝日の光が眩しかった。

「御坂が元気をくれるから、かな」

そうやってニッコリと笑顔が見れると、美琴は顔を真っ赤にして顔をそらした。
この二日間で何度顔を赤くして、青ざめて、笑って、泣いたのだろう。やっぱり上条の傍だと感情が特に露になる。改めて、好きなんだと実感させられた。

「……ばか」

この想いは、まだ大切にしまっておこう。いつか、コイツの隣にキチンと並びたい。

 そしてその後は他愛もない話をしながら、冥土帰しと木山の待つ病院へゆっくりと向かった。

199 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:06:36.18 zeAeUNoDO 99/455


「失礼します」

ガチャリという音を立てて、上条と美琴は冥土帰しのいる病院のある一室に入った。

「おや、来たね……随分仲がいいんだね?」

上条だけだと思っていた冥土帰しは、来客者が二人の所を見ると顔を少し綻ばせた。

「そう見えますかね」

「そっそんなこと……///」

仲、良いのかな?いや、悪くはないとは思う……けど。でもこいつはいつも電撃をうんたらかんたら。そんな上条とは違い顔を赤くする美琴。とても微笑ましい。

 二人を椅子に座らせ、まずはいつも通りの質問をする。

「調子はどうだね?」

「あ、はい。昨日病院を出た所で一度、症状が。それ以降は来てないです」

「なるほど」

それを診断書に書き込み、聴診の準備をしながら美琴の方を向いた。

「……今日は、あの子達の調整の日だね」

「!」

 あの子達……シスターズの事だ。あの実験が凍結され、ただ死んでいく運命だったはずの約一万人の美琴の生き残った妹達。
 あの事件以降、時間は大分経ったのだが、いまだに美琴の心は完全には晴れない。
妹達と決して仲が悪い訳ではない。他愛もない話もするし、連絡も取り合う。
だが今でも自身がDNAマップを提供した故に起こった実験を思い出しては胸が痛む。

200 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:08:54.13 zeAeUNoDO 100/455


──調整、か……

 妹達はクローンと言う存在ゆえに、調整を受けなければならない。本来長い年月をかけて成長するべき身体を、無理やり短時間で培養させていた。

 その事も美琴にとって、辛い現実なのだ。

「御坂……」

「……」

胸中複雑であろう。

 そこでふと美琴は隣を見ると、自分を心配したような表情の上条がいた。
美琴は思い出す。今この隣に座る少年が地獄の底から掬い上げてくれた事を。
そして今、辛いのは彼のはずなのにそれよりも自分の気持ちを優先してくれている。

「大丈夫だから」

彼の目を見て頷いた。

「……ならよかった」

彼が笑顔でいてくれたら、自分も嬉しい。その笑顔に勇気をもらって、自分の気持ちには自分で決着を付けようではないか。

 彼女も、優しく微笑んだ。


「……続けてもいいかな?」

なーんか甘ったるい空気が障ったのか、身体をボリボリ掻きながら上条の上着を脱ぐよう促す。

──あ。

服を脱ぎ始めた上条を見て、一気に顔を赤らめる。

「ちょっとトイレっ」

と、ささっと逃げるようにして美琴は一旦退室しようとドアを開けると、ボリボリ身体をかく木山の姿があった。

「あ」

「やあ」

「ちょっと行ってきます!///」

「あ、ああ」

美琴の勢いに押されたのか、歯切れの悪い返事をすると木山は入室し、ドアを閉めた。

201 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:10:03.35 zeAeUNoDO 101/455


「……よかったよ、彼女の心音がここまで聞こえてきて支障が出る所だった」

「……はぁ」

「では始めるよ」

「あ、その前にいいですか」

上条はまず言っておきたい事があった。

「……調整って言葉。なるべくあいつの前では使わないでやってほしいんです」

「……ふむ」

「御坂妹達も、れっきとしたあいつの妹達で。それをやっと認めて来れた所なんです」

「……」

上条の言葉を冥土帰しも木山も静かに聞いていた。
 上条としては、ここはどうしても譲れない所だった。人間として産み出されなかったシスターズ。そして人間として扱われなかった実験。その事に美琴は悲しんでいるのだ。

 静かに頭を下げ、言葉を続けた。

「妹達も、人間です。あいつも、妹達も、十分苦しんできました。そんなあいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです。……どうか、どうかお願いします」

「……君達は」

「……」

「お互い、助け合い、思い合っているんだね。……心の底から」

「……」

冥土帰しはそこで一息を吐くと、言葉を紡ぐ。

「分かった。では早速始めようか?彼女達の『診察』もあるからね?」

「……っ、はい!」

そんな二人を、木山も優しく眺めている。研究者としてではなく、一人の人間としてまたこの少年に興味が湧いた。

 人をこの少年は『心』で惹き付けている。そして冥土帰しも医者としてだけではなく、その『心』で患者を救っていて。

未来を担う子供達の為に、自分も『心』でもって人々を幸せに出来るような研究をしていこうと、そう思った。

202 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:17:03.90 zeAeUNoDO 102/455


「ふう」

バシャバシャ。水が冷たい。しかし火照った今の自分にはいい塩梅かもしれない。

 上条の部屋から化粧室は少々距離があったが、今は逆に助かった気がする。
化粧室を出ると、看護師の姿がちらほら見える。掃除をしていたり、点滴の道具らしき物を運んでいたり。病院内は暖かく、少しでも動けば汗さえ出てきそうだ。……さっきは違う意味で汗が吹き出たが。

 ナースステーションを通り、先程の部屋に戻る途中──。

「……え?」












 美琴にとって、『トラウマ』でさえある、白髪の少年の姿が目に映った。

「あ……一方、通行……!」

忘れようもない。杖をついてはいるが間違いない。あの『最凶』の学園都市第一位がそこにいた。

「……チッ。オリジナルが何でここにいやがるんだァ?」

自販機の前に立っていた彼もその視線に気が付いたのか、美琴の姿に気が付くと機嫌が悪そうに舌打ちを打った。

 その少年は、妹達の姉である自分にとっての──因縁の敵だった。

203 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:18:39.14 zeAeUNoDO 103/455


 『あの時』を再現するかのように二人は対峙している。美琴は一方通行を強く睨み付け、対する一方通行は無表情で、その心中は伺えない。

「……なん、でアンタが……何でアンタがここにいるのよっ!」

何故一方通行がここにいるのか。美琴には知る由もない。焦燥感と危機感から、声も次第に大きくなってきている。

「あン?人が何処にいようが人の勝手だろォが」

「ふっざけんな!答えなさい!」

自分の中で眠っていた一方通行に対する憎しみが、沸々と再燃する。二度と目にしたくなかったのに。

──まさか!?

 まさか調整中の妹達を狙って来たのではないだろうか。実験は凍結させられたはず。しかし、実は続いているのではないかと美琴は焦る。

「妹達に手をかけておいて……! 今度は調整中に狙うつもりなの!?」

怒り、焦り、戸惑い、色々な負の感情が美琴を包み、気付けば怒鳴り散らしていた。

「……。だと言ったらどォすンだ?」

その答えとして、一方通行は嘲笑う。それを見た美琴は更に怒りを顔の表情で象った。

「いいねェいいねェ!その殺気に満ちた顔たまンねェなァ!!」

愉快に顔を歪ませる一方通行に、美琴は自我を失った──。







……しかし。





「ストーップ!!」




 幼い声が、その場を支配した。

204 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:20:37.96 zeAeUNoDO 104/455


「え……?」

──私……?

美琴の目に映った幼い少女。その姿は小さい頃の自分を模写したと言っていいほど、全く容姿が同じだった。

「全くあなたは!ってミサカはミサカはぷんぷん怒りモード!」

そしてその少女の口から発せられたワード。それを耳にすると美琴は目を見開いた。

「ミサカって……?あなたは……」

どういう事だ。美琴の思考は止まったり、加速したりして頭の中がぐるぐる回り、状況を理解できないでいた。

一方通行の二の腕辺りをポカポカ殴っている小さな女の子。予想が合っていれば、恐らくシスターズの中の一人。

「あ、はじめましてお姉様!ミサカはシスターズの最終信号、打ち止めって言うんだよ!ってミサカはミサカは元気に挨拶してみたり!」

打ち止めはそう言うと、一方通行の方を離れ、美琴の方を向いてにっこりと笑った。

「お姉様とこんな所で会えるなんてミサカはミサカは感激っ!」

なんて言って抱き付いてくる打ち止めに美琴は戸惑う。

205 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:21:38.19 zeAeUNoDO 105/455


──……最終、信号?打ち止め?

「あれれ、お姉様動かないよ?ってミサカはミサカは心配」

「放っておきゃいいだろォが」

「もしかしてあなたがいじめたのねってミサカはミサカはあなたを非難してみる!」

「……。知らねェよ」

少し言葉に詰まった一方通行を見て、打ち止めはどう思ったのか。

「あのね。お姉様も、あんまりあの人を責めないであげてねってミサカはミs──モガモガ

「余計な事言うんじゃねェよクソガキ」

いきなりそんな事を言い出す打ち止めの口を一方通行が後ろから塞ぐ。

人から見たらその姿は……じゃれ合っている兄妹のようにしか見えない。勿論、美琴にも。
かつての殺戮者と獲物には全く見えなかった。

──何が、どうなっているのよ……。

美琴の頭では色々な事がぐるぐる回っている。一つ一つの整理も全く出来ていない。頭の中で考えを巡らせようにも何一つ追い付かない。

「チッ、コーヒーが冷めてやがンぜ」

「あなたはコーヒーばっかり飲んでるからそんなに顔が苦くなるんだよってミサカはミサカは確信してみたり!」

「どォいう意味だオイ」

ただその二人の姿を見ながら、考えても考えても分からない、という事は分かった。



「おや。なかなか見ない面子が集まってますね、とミサカは颯爽と現れます」

その声がした方に顔を向けると、そこには検体番号10032号の──上条の言う御坂妹がいた。

206 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:24:22.73 zeAeUNoDO 106/455


「どうですかね……?」

上条は検診が終わると、冥土帰しに不安げに尋ねた。答えを聞くのは少々怖いが聞かずにはいられなかった。

「うん。身体は何ともないね」

しかし診断した結果、冥土帰しの出した答えはそれだった。木山もその答えに納得しているような表情だ。

「……へ?」

その返答に上条は一瞬言葉を無くした。

「何とも、ない……?」

そしてその言葉を再確認するように反芻する。
 どういう事なのだろうか。自身の体調の異変と冥土帰しの言葉の状況が一致せず、上条は少々混乱した。

「うん、身体は、ね」
「……!」

しかしその冥土帰しがもう一度、さっきの言葉を強調して言うと、ようやくその言葉の意味に気付いた。

「それは、つまり……」
「うん。君の身体に下した判断は、健康体なんだよ」

もう一度、聞かせるように冥土帰しは言った。

「身体以外で、何かが起きている、と考えていいんですね?」

「ほう、君にしては察しがいいね?」

その答えに冥土帰しは目を細めると、少し機嫌良さそうにコーヒーに口を付けた。

──身体に異常は無い。しかし身体以外の所で何かがあるんだ。

自分の視線を下の方に落とし、自分の身体を改めて見る。まず目に映ったのは──幻想殺しが宿る右手だった。

「確定的ではないが」

そこで木山が口を開いた。彼女もコーヒーを口につけていたが、カップをテーブルに置き上条の方に視線を向けた。

「恐らく君が今考えている事に関して、だと私も思うよ」

あくまで憶測だがね、と続けた木山。
自分が今考えている事……異能ならば何でも打ち消すこの右手。やはり、この右手が関係しているのか。

「……」

 この機会に、自分の右手についてもっと詳しく知れる事が出来るのかも知れない。そう思い、上条は強く右手を握りしめた。

207 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/13 23:25:38.87 zeAeUNoDO 107/455


 AIM拡散力場。能力者が無意識に展開する力のフィールドを示す。

「何か漫画で見た事あるなこういうの……」

そのAIM拡散力場を専攻している木山。昨日病院の入り口にて上条とすれ違った際、木山は彼を取り巻くそれを記録したのだ。そして、それが指し示した数値は──木山の、見た事のない数値を弾き出していた。

 それが何を意味しているのか。装置も壊れていたのかもしれない。計測に不備があったのかもしれない。

ただ、今はそれを確実に調べなければ何も進まない。

 彼女が用意したのはヘルメット型の機械に、コードがたくさん繋がれた装置。それを慎重に上条の頭に被せる。

 上条は緊張しているのか、少し表情が固い。軽口でも叩いて和らげようか。

「大丈夫、痛くはしないよ」

「それ、聞き方によっては間違った解釈しそうなんですけど……」

木山の言葉に上条は冷や汗と苦笑いのコンボを顔に作った。

「そういう意味の方がよかったかい?」

「からかわないで下さいよ……木山先生みたいな綺麗な人に言われたら誤解する男、いっぱいいそうですから」

上条の頭に青い髪をした同級生の顔が思い浮かんだが、気分的に身体に毒だったので即座に打ち消した。

「……。君のその言い方の方が誤解を招きそうなんだがね」

逆に言い返した木山は呆れ顔だ。しかしやはり彼も男だ。この手の会話は好きなのかもしれない。

 先ほどよりもほぐれた顔を見て木山も満足そうな表情をする。

「準備はいいかい?」

「あ、はい」

「それじゃ、行くよ」

木山はもう一度上条の顔を見て頷くと、彼も頷き返して。

 そして装置のスイッチを──入れた。

218 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 21:59:31.76 j1CcvvLDO 108/455


「────」

特に音もなく、ただ静寂が部屋を包む。木山はジッとパソコンの画面を見ていた。
チラリと横に視線を向けると、少々強ばった顔付きの上条。……やはり、不安なのだろう。

 今現在、冥土帰しはシスターズの『診療』の為、ここにはいない。美琴もまだ帰ってはいない。
元々、美琴には席を外してもらうつもりだったから丁度よかったと言えよう。
 レベル5の彼女が持つ力は計り知れない。そしてその彼女が放つAIM拡散力場も軽く能力者達のそれを凌駕しており、今上条を繋いでいる装置にも影響が出かねない。

──彼も、あんまり見られたくないみたいだしね……。

気丈そうに振る舞ってはいるが、その胸中は伺える。両手をキュ、と握りしめている所からもその様子は分かった。

『あいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです──』

そこで木山は先程の上条の言葉を思い出した。

 確かにそうだ、と木山も思っていた。あの「置き去り」事件の子供達だって……普通に遊んで、普通に学校に通って。笑って生活出来ていたはずなのに。

研究者であった自分は、興味を捨てきれなかった。先生、と慕ってくれた子供達を結果的に裏切り、昏睡状態にまで陥らせた。

 子供達の幸せを奪ったのは自分だと言っても過言ではない。回避できる方法はあったはずなのだ。

 そして今ここにいる少年は、何人も、何度も絶望の底から救ってきたと聞く。それは、その加害者側でさえも、救い出してしまう。直接話をした事はないが、白髪の少年もそうらしいのだった。

──……ふ、いつか、自分もそうなれたらいいな。

 一人の研究者は、その少年に憧れのようなものを抱いた。





 ……その時。


ピコーン──。

「!!」

画面が、動いた。

219 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:01:01.00 j1CcvvLDO 109/455


──反応があった!

計測し始めてから時間にして10分程度くらいだっただろうか。心電図の様な画面を映し出すディスプレイ。ずっと直線だった線が、突如山を作っている。
そしてその頂点は……とんでもない位置にあった。

「これは……!」

木山は目を見開く。驚愕に言葉を詰まらせながら、急に歪な形を描き始めた線をじっと見ている。

──彼に、能力が……!?

 幻想殺しを有している彼がこんな数値を叩き出すとは。打ち消していたのではなかったのか。

──…一体どういう事だ!?

圧倒的な数値を叩き出し続ける彼に、木山は驚きが取れない。木山は頭の中で仮説を立て続ける。

 いや、確かに打ち消してはいたがその力の残骸が彼にこびりついたのか。しかしそれだけでこの数値はあり得ない。彼の頭の中で能力を演算し、彼自身が能力を使用しなければ──。

しかしそこで木山の思考はある一字に止まった。

──演算……?

彼は今……演算しているのか?この少年の頭の中で難解な記号ばかりで羅列された計算式を組み立てているのか──?

 木山の仮説は幻想殺しは演算されているのではないか、と一瞬脳裏をよぎった。しかしそれを咄嗟に否定する。

──何でも打ち消す……それは超電磁砲も、反射能力も演算して打ち消したのか……?いや、それはない!あれらほど複雑に演算されたものはない。そんなものを演算して打ち消したとしても、彼の能が持たない!

色々な思考、可能性が木山の頭の中で駆け巡る。答えは見つかっていない。そこで木山は改めてディスプレイを見る。

「何て……事だ……」

 木山は文字通り絶句した。今までは驚異的な数値を叩き出す線にばかり気を取られていた。しかしその線の方ではなく、種類別に横に並んだ棒グラフの方。

221 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:01:40.99 j1CcvvLDO 110/455


 そこには、音楽を周波数で視覚化したアナライザーの様に、様々な能力の種類を示す棒グラフが、激しく揺れていた。電気、発火、水流、風力……。

もはや理解不能の領域だ。自分では、きっと一生懸かっても研究しきれるかどうかの問題の様に思えて、ディスプレイから目を離した。

「彼は……一体……」

自然にその言葉が出る。とりあえず、もういいだろう。

 そして上条の方に視線を向けた…………。











「……上条、君?」



そこには苦しそうに頭を押さえ、身を屈める上条の姿があった。

222 : 今回分かりにくい部分あるかもしれない  ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:03:51.53 j1CcvvLDO 111/455


「上条君!」

その上条の様子に気付いた木山は、装置のスイッチをすぐさま切り駆け寄った。

「どうしたんだ!」

あまりの苦しさからか、椅子から転げ落ち床に倒れ込む上条。床と激突する寸前で何とか受け止めた。

バチッ──!!

「ぐっ……!?」

受け止める時に、静電気とは呼べぬほどの強い電撃らしき衝撃が木山を襲い、痛みから顔を歪ませた。

しかし手を引っ込める訳にはいくまい。介抱せねばならない。

「熱い……っ!」

横たわらせる様にして肩に手を回したのだが、上条の体温は尋常ではないほど熱く。思わず手を引っ込めてしまいそうになるが、木山は何とか堪えた。

「上条君!しっかりするんだ!」

呼び掛けるが反応はない。苦しそうに息を切らし、顔に汗が吹き出ていた。そして取り出したハンカチでそれを拭き、何とか手の届く距離にあったナースステーションに繋がるボタンを押す。

──私のせいだ……!

熱からか顔も赤く染まっている彼の表情を見て木山は悔しそうに顔を歪めた。

 気を取られ過ぎていた。叩き出された数値や、グラフばかり観察していて。一番見ていなければならなかったのは彼自身だったのではないか。前と何ら変わらない自分の失態に、木山は深く悔やんだ。

ガチャ──。

するとドアが開き、冥土帰しが看護師を引き連れて中に入ってきた。

「……! とにかく彼を治療室へ」

上条の姿を見て、一瞬目を見開いたがすぐさま元の表情に戻すと指示を飛ばし、自身も治療室に向かって行った。

223 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:05:12.30 j1CcvvLDO 112/455


「…………」

「…………」

「……この空気は耐えられないかもってミサカはミサカはきまずい空気に戸惑ってみる」

「……こうなるとは思ってましたけどね、とミサカは上位個体に告げます」

 デイルームにて、テーブルを前に座っているのは美琴、御坂妹。そしてほんの少しだけ離れたソファーに一方通行、それにべったりくっつくようにして打ち止めが座っていた。一方通行は少々機嫌悪そうに腕を組み、窓の外を眺めている。

「ほら、あなたも何かしゃべってよってミサカはミサカは二の腕つんつんしてみたり……って意外に柔らかい事にびっくり」

「黙ってろクソガキ」

 美琴が現在把握しているのは、一方通行と打ち止めは仲がよさそうだとしか感じ取れていない。しかしそれはとてつもない違和感で、美琴は中々に言葉を発する事が難しい心境だった。

 美琴の中で一方通行への憎しみは勿論消えてはいない。しかし今は、それよりもどういう事なのかと状況を把握したい気持ちでいっぱいだった。
打ち止めが一方通行に話し掛ける度、殺されてしまうのではないかと危惧しながらチラチラ二人の様子を横目で伺うばかりで。御坂妹もそんな美琴を見て、どうしたもんだかと頭を悩ませていた。

 打ち止めが何度も危険に晒されてきた際、一方通行は彼女を救ってきた。
誘拐された打ち止めを助けようと、木原数多率いる猟犬部隊との戦いに挑み。その際に銃弾を頭に撃ち込まれた事も、脳に損傷を負って演算機能を失った事も。今現在はミサカネットワークにて彼を補助している事も。そんな状態になっても、打ち止めを守ろうと奔走している彼の姿を。

美琴は、知らない。

「お姉様……」

そして御坂妹が美琴に声を掛けると、美琴も御坂妹の方に視線を合わせる。

224 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:06:45.47 j1CcvvLDO 113/455


 ここで話は少々変わるが、シスターズにもそれぞれの個性が芽生えてきている。
上条の手によって救われたシスターズ。美琴と共に、生きる意義を教えられなかった彼女達を人として初めて認めてくれたその少年だ。
 もっとも、最初は戸惑った。人としての感情はアンインストールされ、ただ目的の為のモルモットとしての自覚しかなかったのだ。
 五感はしっかり機能する。しかし、息をする、栄養を摂ると言う必要最低限以下の感情しか知らない彼女達は、突然与えられた『生』に困惑した。

 しかし、今は違う。味を知り、自然を知り、生命を知り、人を知り、心を知った。
脳波リンクのネットワークで繋がる彼女達。上条に感謝と憧憬の念を持っている者も少なくない。同時に、同胞達を奪った一方通行に対しての畏怖嫌厭を持つ者もいた。

 しかし、感情を知った後の、彼女達の上位個体である打ち止めと一方通行の邂逅。そして打ち止めを救うべく、その身を文字通り削った彼を知り。彼の苦しみを知り。
いつしか、切っても切れない不思議な繋がりが出来ていて。もう彼に対して、憎しみではない他の何かの感情も持ち合わせた。

 そんな妹達の中で、直に助けられた検体番号10032号──御坂妹を羨ましがる者も多い。上条と他愛のない世間話ができ、オリジナルである美琴とも同様で。

 そんな彼女は、妹達の中で一番に成長したと言ってもいいのかもしれない。













「お姉様。そこの色白もやし野郎は、ああ見えて実は肉食系男子です、とミサカは衝撃的事実を告げます」





「「…………………は?」」


……あの一方通行をおちょくれるほどに。

225 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:08:32.19 j1CcvvLDO 114/455


 美琴と一方通行は己の耳を疑った。あれー、何か幻聴が聞こえてきた気がするー。

と言う空気の元、再び沈黙が場を包む。美琴と一方通行はあんぐりを開けたまま動かない。

「??」

打ち止めはよく分かんない、と言う表情で可愛らしく首を傾げている。

「初めて会ったその日に上位個体の『恥じめて』ももやし野郎は奪ったみたいd「ちょっと待てテメェェェ!!」

 さすがにそこまで行けば一方通行は黙ってはいられなかった。

「何なンですかァ!?喧嘩売ってンですかァ!?」

「更に言うと夜、上位個体が寝れない時にはぶつぶつ文句を言いながらも添い寝をs「黙りやがれクソアマァァァ!!」

一方通行の物凄い剣幕もどこ吹く風と言った具合にニヤニヤしながら続ける御坂妹。何故か打ち止めも楽しそうにキャッキャ言い始めていた。

「それはどうやら事実のようですが?アクセロリータ、とミサカは確認します」
そして。


ブチッ。

しっかりと音が聞こえた。それも相当ふっといものが切れたかの様な音の大きさで。その音を出した本人はプルプル震えていて──首に掛けてあったチョーカーに手をやった。

「いいぜェ!そンなに死にてェンなら今すぐ屍にしてやンy「演算補助ストッープ!」ggghenowpquak──!」

「へっ?」

突然ソファーに倒れ込んだ一方通行に、美琴は素っ頓狂な声を上げていた。

その横でイエーイなんて言いながら、してやったりと言った具合でハイタッチをする御坂妹と打ち止め。

「え、え……一体何なの……?」

そんなドタバタが信じられないと言った感じで美琴は、もう何がなんだか分からないと、状況を把握出来ないでいた。

226 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:10:27.59 j1CcvvLDO 115/455


「…………チッ」

 それから少し時間が経ち、騒がしかった先程の喧騒がまるで無かったかの様に静まりが包む。一方通行も高ぶりを落ち着かせる為か、自販機にて購入してきたコーヒーを手にして再び窓の外を忌々しげに眺め始めた。

「そう言えば、お姉様はどうしてここに?ってミサカはミサカは聞いてみる」

その一方通行の横を再び陣取って、打ち止めはソファーの上で足をパタパタさせている。
その様子はとても可愛らしく、微笑ましいのだがその横に座る人物が目に入るとどうしても顔をしかめてしまう。

「私?付き添いってやつよ」

上条の診察はどうなのだろうか、と心配なのだが。妹達の事について聞いておきたい事も山ほどある。

 打ち止め。妹達と一方通行との関係。演算補助。

その他にも勿論色々な疑問が頭の中で浮かぶ。

「そう言えば」

「?」

「二日前、ここであの方とお会いしました、とミサカは報告します」

「え───」

来ていた?二日前……と言うと、放課後に見掛けて……声を掛けたのだが、用事があると言い立ち去った時か。

──あの時、用事って病院だったんだ。

交わした会話を思い出し、その時からついて行くべきだったかなと考えをよぎらせる。

「あの方って?あっ」

打ち止めも御坂妹の言葉を確認する様に反芻し、思い付いた表情をした。
ちなみに今現在は調整中により脳波リンクを切っている。普段なら記憶共有で取り出せるのだが、それが出来ない今は言葉による意思疏通だ。

「ツンツン頭のあの人だねってミサカはミサカは思い出してみたり」

昨日のミサカネットワークはとっても盛り上がったらしいのだが、今は関係ないのだろう。

「!」

打ち止めの言葉に美琴は驚き、咄嗟に一方通行の方を見る。

──アイツは……一方通行にとって実験を止めた敵の様なもの。病院にいるって事が分かれば、一方通行は……アイツを……。

上条と一方通行を会わせてはいけない。美琴の思考は告げている様だった。

 そして、その時は刺し違えても、死んでも止めるつもりだ。

「…………」

しかし、大して反応を見せない一方通行。一方通行が一体何を考えてるのか一切分からない。

「風邪は治ったのでしょうか、とミサカは心配します」

一方通行の一挙一動を注意しながら御坂妹と打ち止めの会話を聞く。やはり詳しい症状とかは話してないのか、御坂妹は風邪だと思っていたようだ。

「……ところで」

ふと御坂妹が話を切り替え、美琴の方を向く。先程の、無表情ながらも楽しそうな雰囲気はまるでなく、一言で表すのなら真面目と言う言葉しかない顔付きになった。

「お姉様に聞きます、とミサカは問います」





「知りたいですか?シスターズと一方通行の顛末を」

「…………!」

そして、美琴は核心に迫る。

227 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:11:52.48 j1CcvvLDO 116/455


「…………オイ」

そこで一方通行は初めて口を開いた。睨み付けるようにして御坂妹に視線を向けている。

「どうして今、上位個体と一方通行は共にいるのか。どうして演算補助を受ける事になったのか」

「オイ」

御坂妹はそれに構わず、美琴だけを見て続ける。一方通行の語気が強まった気がした。

「知りたく、ないですか?とミサカは再度問います」

「テメェ……」

一方通行の持っていた空の紙コップがくしゃっと潰れた。そして更に強く御坂妹を睨んだ。

「知りたいわ。そりゃね」

美琴も決心していた。自分は知らなければいけないのだ。一方通行に対する憎しみも、蟠りもあるが。

 打ち止めを見る。悲しそうな顔をして、泣き出してしまいそうで。しかし小さな手は一方通行のズボンの裾をギュッと握っていて。
そこには、信頼し切っている健気な姿があった。

 私は知りたい。大事な──

「大事な、妹達だもの」

心の呟きをはっきりと口にする。

「……! …………………チッ。勝手にしろ」

一方通行が舌打ちをした。その表情は苦しみとも、諦めとも、また違う何かにも取れるような色々な感情が出ているようだった。







………しかしその時。


228 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/14 22:12:42.28 j1CcvvLDO 117/455





「御坂君!ここにいたか!」


「木山先生……?」


突然の来訪者に美琴は驚いた。その木山の様子──息を切らし、冷静沈着な彼女にしては焦っている。

 ……それは、激しく美琴の心の臓を揺さぶり。とてつもない、嫌な予感が美琴を襲い。





「上条君が……倒れた……!」
















「……………………………え?」




頭を鈍器で殴られたかの様な衝動が、美琴を襲った。

240 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:39:28.22 CQ1V4yYDO 118/455


「………倒……………れた…………?」

一瞬木山が何を言ったのか分からなかった。頭の中が混濁し、意識も手放してしまいそうになる。

「……すま、ない……!私の……意識が甘かった……!」

悔しそうな、自分に対して怒っている様な複雑な表情を作り、俯く木山。そして彼女は美琴はに近付くとその肩をガッと掴んだ。

「…………当麻は、どこ……?」

「今は……治療室に入っている……」

それを聞いた瞬間、美琴は飛び出していた。

241 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:40:18.61 CQ1V4yYDO 119/455


──当麻……、当麻……!当麻っ!!

走りながら心で何度も叫ぶ。看護師や患者の驚いた顔も関係無い。今すぐ彼の元に、彼の傍にいたい。その思いだけが美琴を突き動かしていた。

「!」

そして見えた治療室のプレート。その扉の前に立つや否や、躊躇なくその扉を開けた。

「当麻っ!!」

悲鳴とも取れる叫び声が響くと、その治療室の中には冥土帰しと看護師、そしてベッドに横たわる上条の姿が目に映った。

「!? 今は安静にしていないとダメです!」

「いやぁぁっ!当麻!当麻っ!」

看護師が美琴の腕を掴み、これ以上近付けないようにするが、美琴はそれでも駆け寄ろうとする。

「落ち、着いて下さいっ」

「いや!離して!当麻!当麻ぁっ!」


眠っているかのように微動だにしない上条しか見えてないのか、看護師の押さえ付けも振りほどきベッドの傍まで駆け寄った。
呼吸器を付けた姿を見て、美琴の涙腺が一気に崩壊した。

「当麻……!当麻ぁっ……!」

上条の手を取り、それを自分の頬に当てながら顔を覗き込む。

 美琴の思考はもう止まったままだ。ただもうずっと上条の名前を、ずっと呼び続けている。

そんな美琴を見かねて、冥土帰しは美琴の肩に手を置いた。

「もう大丈夫、今は落ち着いてるよ」

その言葉に美琴はハッとし、冥土帰しの方に視線を上げた。泣き顔も痛々しく、元気な彼女は今は見る影もなかったが冥土帰しの言葉に少し安心したのか、美琴も落ち着きを取り戻した様に見える。

「……本当は面会謝絶なんだけどね?彼もその方が喜ぶだろうし、君はここにいていいよ」

治療は一通り済んだのか、そう言いながら器具をローラー付きの台の上に乗せて冥土帰しと看護師達は治療室を退室していった。

「うぅ……ヒグッ……とうまぁ……エグッ」

 二人しかいなくなった室内には、一人の嗚咽の声しか聞こえない。繋いだ手はかなり熱くなっていて、だが美琴は決して離す事はしない。

 ただ、ギュッと強く握り締めていた。

242 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:42:16.22 CQ1V4yYDO 120/455


 先程まで美琴がいたデイルームには、木山、一方通行、打ち止めの三人の姿があった。御坂妹は美琴の後を追い治療室へ向かっていきこの場にはいない。

「…………オイ」

 木山の気持ちは晴れない。己の失態を恥じ、悔やみ、ただ上条の無事を願っている。
木山の頭の中で、苦しくも昏睡状態に陥った子供達と上条の倒れ込んだ姿が重なって思い出されてしまう。
気持ちを落ち着かせようと購入したコーヒーも、あまり効果はない。椅子に座ってじっと佇んでいた。

「オイ」

すると、その声に気付き声がした方に顔を向ける。少し強まったその声色で、自分が今何も耳に届かないほど考え事をしている事に気付いた。
その少年の目線は自分に向けられていて。

「あ……ああ、すまない……で、何だい?」

声を向けられていたのは自分だとは思わなかった為、少し驚いたのだが改めてその少年を見る。

──白髪に、赤目……確か、この少年は。

「君は……第一位の一方通行かい?」

「ンな事はどうだっていい」

答えてくれなかったが、その返答から間違ってはないだろう。少々口が悪いようだが、と木山はそんな感想を抱いた。

243 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:43:28.12 CQ1V4yYDO 121/455


「話せ。何があった」

白衣を着ている木山を訝しげに睨み付けている様に見える。その眼光は鋭く、恐らく簡単に人を震え上がらせるほどだろう。
何があった、と言うよりも、何をした、と言う風にも聞いて取れた。

「……あの」

木山の耳に、小さく、まだ幼い子供らしき声が届く。

「……?」

そこで一方通行の横にいる小さな存在にも気が付いた。不安げに一方通行の服を掴んでいる少女。

「あの。あの人は大丈夫なの?ってミサカはミサカはとっても心配……」

その小さな子供と目が合った瞬間、木山の中で幾つかのワードが浮かぶ。

絶対能力進化実験、一方通行、シスターズ。……そうか。

「君は……御坂君の……?」

「……うん」

クローン──。と言う言葉を出し掛けて飲み込んだ。

少し元気なく俯くその表情と、一方通行の服をギュッと掴む姿から見て取れる不安と。

──……まるっきり、『人間』じゃないか。

シスターズというものを初めて見たのだが、あの目を覚ました子供達となんら違いはない。そう木山の目には映った。

 そこで木山は、やっと少し微笑む事が出来た。

244 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:44:20.10 CQ1V4yYDO 122/455


「いいからとっとと話せ」

なかなか肝心の用件を話さないのか、少し苛立ちを見せて一方通行は答えを求めた。

「ああ、そうだったな……」

だが。この一方通行はそれを聞いてどうするのか。木山もあの実験が凍結された事は知っている。
しかし、幻想殺しが第一位を止めた、としか把握しておらずなかなかに返事をするのを躊躇われていた。

 すると打ち止めが突然木山の傍まで身を寄せると、木山の耳に顔を近付けた。一体何をするつもりなのか、と木山も訝しげな表情になったが、彼女の動向に意識を向けた。

「(……大丈夫だから)」

「………」

ボソッと耳に届いた小さな声。その言葉は、自分が今危惧している事に向けての言葉だったのだろうか。

……しかし、先程の位置に戻っては、自分の居場所はここと言う様な表情で一方通行の隣に座る打ち止めを見て。

「何を吹き込みやがった」

「べっつにー?ってミサカはミサカは誤魔化してみる」

「テメェで誤魔化すなンつったら意味ねェンだよ。余分な事言ったンじゃねェだろォな」

「あなたは心配性だねってミサカはミサカは思ってみたり」

──大丈夫だよ、か……。

木山に、それは相手に絶対の信頼を寄せる無邪気な姿だと感じ取らせていた。

245 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:45:22.96 CQ1V4yYDO 123/455


 静かな治療室内に響き渡るのは、上条の呼吸器を介した呼吸の音だけ。

「…………」

美琴は上条の手を握りながら、じっと顔を見ていた。
あれから少し落ち着いたのか、涙は止まっていたが跡が残る顔をそのままにずっと眺めている。

 ……今にも心が押し潰されてしまいそうだった。他の何かだったら耐えられよう。
しかし美琴の思いはもはや上条一色で、いなくなったらどうしよう、とかいなくならないで、とかそればかり美琴の頭を支配していた。

「当麻…………」

答えてはくれない。しかし握った手は温かく、ほんの少しだけ安心させてくれていた。

ガラッ──。

すると治療室のドアが開き、その音に美琴が顔を向けると……

「お姉様……」

御坂妹の姿があった。彼女も上条の姿を見るや否や、苦しく顔を歪ませている。

「…………」

「……入室禁止のプレートが下げられていたのに、入って来てしまいました、とミサカは説明します」

246 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/15 22:46:14.12 CQ1V4yYDO 124/455


そう言いながら美琴の隣に立つと、彼女も上条の顔を覗き込んだ。

「眠っていますね、とミサカはひとまず安心します」

「…………うん」

そこで美琴はやっと返事をする。御坂妹も美琴の方に顔を向けると、美琴の肩に手を置いた。

「冥土帰しの話によりますととりあえず大丈夫のようです、とミサカは先程冥土帰しと会話した内容を告げます」

「…………そっか」

よかった、と小さく呟く。視線は上条に向けたまま、じっと動いていない。

「……話、しそこねてしまいましたね」

「……。そうね…………」

会話が途切れる。あれだけ一方通行との顛末を聞きたがった自分が嘘だったかのように、今は頭になかった。
しかし妹達の事はもちろん蔑ろにしている訳ではない。ただ、あまりにも上条の存在が大きかった。

でも──。

「また、聞かせてくれる……?」

「もちろんです、とミサカは答えます」

あの実験に関わった者として、姉として。全てを知り、考えた後に答えを出したい。自分が、どうするべきかを──。





「う…………」



すると上条の方から、声がした──。



「当麻!!」

「!!」



上条の目が開く。ゆっくりだが、開く。



「う……、ここ、は……。おお、……御坂、じゃねーか……」



「……! …………とうまぁ……っ」


美琴の涙腺はとっくに渇ききった筈なのだが、堤防を崩壊させ涙を溢れさせた。

256 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 22:57:03.90 6bq5BeWDO 125/455


「……何、で……泣いてん、だよ……」

いまだに意識がはっきりしないのか、ぼんやりと焦点も定まらない様子で美琴の顔を見ていた。

「当麻……っ」

美琴が飛び込むように上条の首にすがり付く

「ヒック……当麻ぁ……! ヒグッ……」

「おお……おい……」

自分の頬に何か温かいものが落ちてきている。それが美琴の涙と言う事に気付き、ようやく上条の意識ははっきりしてきた。

「御坂……ったく、本当に泣き虫だな……」

「当麻……っ、本当に……心配、した……っ」

はっきりと覚醒した意識で、改めて美琴の涙を見て上条の心は痛んだ。

「……。 悪かった、心配かけて……」

──情けねぇな……。

同時に、心配してくれた美琴に対しての感謝もしている。素直に、嬉しかった。

 美琴が身を起こして、ふとそこで上条は何かしゃべりにくい事に気付き、口元に手をやると。

「何だ、こりゃ……」

口を覆う固い感触。それが何か分からず、邪魔だな、と取り外そうとするのだが。

「あ、ダメっ!」

「ダメです」

二人に咎められ、上条はその手を止めた。……二人?

257 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 22:57:39.50 6bq5BeWDO 126/455


よく見ると、美琴が二人いる。上条はそこで御坂妹の姿に気が付いた。

「御坂妹……いたのか……」

「……最初からいましたよ、とミサカは気付いてもらえなかった事にちょっぴりガッカリします」

少し残念そうな表情をした御坂妹。気付かなかった自分に、上条は申し訳ない気分になった。

「まぁしょうがないです。お姉様がそこをどきませんでしたから、とミサカは少し怒ります」

本当に怒っているようには見えない安堵の表情で、怒りを表す御坂妹。彼女は美琴と上条の傍に立ち、いつの間にか繋がれていた二人の手に自分の手もそっと乗せた。

「…………」

繋がれた手の感触が、何だか心地がいい。上条も無意識で、少しその手を強く握りしめていた。

258 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 22:58:50.09 6bq5BeWDO 127/455


「おや、目が覚めたかい」

それから少し穏やかに時間が経過し、冥土帰しが入室してきた。

「おや、君もいたんだね」

「お姉様ばかりずるいです、とミサカは入室した理由を告げます」

そんな会話をしながら、上条のベッドの横に置かれたディスプレイに目を通し、聴診器にて上条の身体を確認していく。

この件とは関係なさそうだが、患者衣のボタンを外されはだけた身体に美琴は少し息を飲んだ。

いまだに残る切り傷や、火傷の跡や、その他にも大小の色々な傷痕。夥しいその傷痕に美琴の顔は悲しく憂いを秘めた。

「うん、脈も安定しているし、心拍数も正常だ。もう外してもよさそうだね」

 上条の身体を確認すると、彼の復調に冥土帰しは微笑む。その様子に美琴も御坂妹も顔を綻ばせた。

259 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 22:59:38.39 6bq5BeWDO 128/455


「よかった、これあると喋りづらかったんだよな」

「今回は少し危なかったからね。呼吸も浅くなってたから念の為付けさせてもらったよ」

「……まじですか」

その返答に少し息を飲んだ上条。一体、自分の身体はどうなってしまうのかと不安が襲った。

──気を失ってたのか……。

一瞬身体が震える。今までは気を失うまでの症状ではなかったのに。回数を追う毎に強まってきているその症状に、上条を不安と焦りが襲いかかる。

「……っ」

すると、繋がれた手に力が込められた事に気付き、美琴の方を向く。美琴も辛そうな思いをしているのだと、その表情を見て確信した。

──……御坂。

しかし、この繋がれた手の温かさに不思議と力をもらっている。恐らく一人でいたのなら押し潰されてしまいそうな不安も、この温かさが上条を安心させていた。

「さっきも言ったけど、君の身体自体は何も問題ないよ。原因さえ分かれば、治す手立てはあるさ。いくらでもね」

そしてこの冥土帰し。上条がどんな傷を負ってこようが、全て治してきた。……ある一つの事を除いて、だが。

だからこそ。

この少年がたくさんの人々を救ったように。

──僕はもう、敗北しない。

冥土帰しは胸に、そう誓っていた。

260 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 23:00:24.71 6bq5BeWDO 129/455


 木山と一方通行、打ち止めの三人は上条を検査していた部屋に来ていた。

あれから木山は上条の身体について、全てを話していた。頭痛に発熱、その頻度、そして計測した時に出たあの数値。見間違いでなければ、能力どころの話ではない。

「…………」

先程のディスプレイを見ているのは木山だ。その横で打ち止めも共に見ている。やはり子供に対して優しげな視線を向ける木山に、打ち止めもそれを感じ取ったのか懐いたようだった。

そして一方通行は、プリントアウトされた計測値の紙に目を通していた。やはり学園都市第一位の頭脳か、木山が説明しなくても何を表された数値か理解しているようだ。

 木山は考える。上条の身体の異変。示された数値とその意味。様々な数値と強さは、多重能力で簡単に片付けれる話ではないのだ。初めて見たそのケースに戸惑ってもいた。

やはり、本人にも話を聞きたい。

「…………あのヤロウ」

すると一方通行が口を開いた。木山と打ち止めも彼の方に視線を寄越し、難しそうな表情をしている一方通行の次の言葉を待つ。

「何か分かったのか……?」

能力者としての最高峰に立つ一方通行。能力を目覚める事に夢見る学生達の、遥か彼方に存在するある意味天の上に立つ存在。彼に期待してしまうのは仕方のない事だ。

「数値をよく見てみな」

その返事に、木山は改めて注意深くそのディスプレイを観察する。大中小、様々な種類の能力。そして、その中でも、特に強いのが。

「電気が突出しているな」

電気を表す『elect』の棒グラフが妙に観測値が高い。『other』と言う主な能力の他の色々な能力をひとくくりにしたものと並び、レベル5並みの数値を記録している。

261 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 23:04:47.00 6bq5BeWDO 130/455


「あァ」

どういう事だと考える。他のと比べて高い、電気、レベル5並みの数値。

「…………御坂、君の……能力……?」

一概にそれだけだと言えないが、順列を付ける為か細かく数値は表されている。そしてその最高値は、通名『超電磁砲』の彼女のデータのものとピッタリ照合している。

「奴の近くには常に超電磁砲がいやがる。……奴の幻想殺し、ただ打ち消すだけじゃないだろォな」

一方通行もまだ詳しい事は把握しかねているのだろう。いかんせん、情報が少ない。

 ……しかし、掴まねばならない。ただこのままで終わるわけにはいかなかった。
あの倒れた時の姿がいまだ木山の心にこびりつく。あの時の子供達とシンクロする様に、守るべき者を守れなかった思いが木山の心を蝕んでいくようだった。

「……ふむ、ここにいたんだね」

 部屋に現れたのは、冥土帰しだった。一方通行もそれに気付き、冥土帰しに目を向ける。

「おや、君もここにいたんだね」

「…………」

返事をする必要がない、とばかりに口を開かないのだが、冥土帰しがただここに来たわけではない、と察知したかその赤い目をただ冥土帰しに向けていた。

262 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/16 23:06:07.34 6bq5BeWDO 131/455


「彼、目を覚ましたよ」

「…………!」

その言葉に木山の目が見開かれた。

「もう大丈夫だよ。身体自体に異常はないからね」

「…………そうか」

そしてその冥土帰しの言葉にほっと一息吐く。打ち止めも安堵の表情を見せ、木山は優しく打ち止めの頭を撫でた。

「よかったぁってミサカはミサカは喜んでみたり!」

「……チッ。あのヤロウがどォなろォが知ったこっちゃねェがな」

「ねぇねぇ、会いに行こうよってミサカはミサカはあなたの手を引っ張ってみたり!」

「勝手に行ってろ。俺は帰る」

「えー!?やだやだってミサカはミサカはごねてみるっ」

「彼は今日は安静にしなきゃね。会いたかったからまた今度だね?」

「そっかぁ……また今度にするってミサカはミサカは我慢」

そんな様子を見て、木山の気持ちは更に軽くなった気がした。そして得られた手がかり。少ないかもしれないが、一歩前進したのかも知れない。

──もう過ちは、しない。

画面に映る計測値。木山は、更に何か掴めないか再び目を通し始めた。

271 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:49:03.86 OPdtomHDO 132/455


「今何時だろ?」

上条が気付いたように呟く。しかしこの部屋には時計はなく、美琴も携帯の電源を切っていて確認しようがない。
電撃使いである彼女は、彼女が発する電気ですぐに腕時計を駄目にしてしまう為、彼女は付けておらず。ちなみに携帯は学園都市の技術での能力用加工されたものであるが、今は話に関係ないだろう。

「恐らくもうすぐ12:00になると思われます、とミサカは説明します」

すると御坂妹が推定の現在時刻を伝えた。この部屋に入室する前に恐らく確認したのであろう。

「そうか。んー二人とも飯とか行ってきたらどうだ?」

もう昼なんだな、と思いながら上条は促した。それを考えると自身も少し空腹感を感じてきていた。
そう考えると本当にあの症状が出る時以外は健康なんだな、と苦笑いが込み上げてくる。
しかし原因は何なんだろうか。そんな事を考えていたが、握られている手の感覚が少し強まった。

「……ご飯いい」

憂いを込めた表情で、離さないとばかりに強く握っている。そんな美琴に上条は、こんなのビリビリじゃないと内心ドキマギだった。

「お姉様が行かないのなら私も行きません、とミサカは二人の手を両手で包みます」

自分も握りたいとばかりに美琴に強い視線を送る御坂妹。二人ともかなりレベルが高い女の子で、上条の手を包む柔らかい感触は上条の心拍数を更に上げている。

「おいおい……ずっとここにって訳にもいかんだろ。お前キャラ違うぞ?」

ぶっちゃけ上条もずっとこの感触を味わっていたいと思う訳なのだが、それは言わないでおいた。

「アンタはどういうキャラ期待してんのよ」

「んー……どこでも電撃かましてくるビリビリって所かな」

「…………」

軽口を叩くと、いつもなら電撃が飛んでくるのだが今繋いでいるのは右手だ。幻想殺しで封じている今、その恐れはなかったのだが。

──ん?

だんだん握られてる手の感触が強まってきている。何だか手が苦しい。動かない。……って言うか、痛い。

「アンタは・私を・何だと・思っているのよ!」

「ちょ、痛い痛い痛い~~っ!!」

「お、お姉様落ち着いてください」

言葉が区切られる毎に強く握り潰される感覚に上条は絶叫だ。ひぃぃなんて言いながら涙目になってきている。自業自得だが。

272 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:50:13.02 OPdtomHDO 133/455


「ったく御坂の奴……」

いまだにヒリヒリする右手に息を吹き掛けながら上条は労っていた。
美琴と御坂妹を何とか食事に向かわせた為、この部屋には今自分以外誰もいない。

「……元気になったかな」

もう美琴の泣いた顔、悲しい顔を見るのはこれ以上見たくなかった。思えばその全て、自分が原因なのだが。

 思えば、随分と自分によくしてくれているなと感じる。学校休んでまで付き添ってくれて。前も食事作ってくれて。恋人ごっこの事や、携帯のペア契約の事。

──ははっ、俺結構御坂といるんだな。

思えば色んな事を美琴としてきた気がする。何となく、温かい思い出で上条の顔も綻ぶ。しかし、やはりそれだけではない経験もしたのだが。

『借りは返すから』

あの実験の後、言われた事。

「……ったく。ここまでしてくれなくても、十分返してもらってるっつーの。天下のレベル5の第三位サマが無能力者にここまでするか?フツー。どんだけ義理堅いんだよ」

 超電磁砲。電撃使い。超能力者。レベル5。学園都市第三位。人から見れば崇めるほどの存在。
……素直にすごいと思うのだが。

「普通の、女の子なんだよなぁ……」

泣いたり笑ったり、喜んだり怒ったり。上条が知るなかでの彼女の立ち居振舞いは、他の生徒達と何ら変わりはない。

「誰が普通の女の子、だって?」

「大体誰かは予想がつくけどね」

「おわっ!?」

そんな事を考えていると、いつの間に現れたのか冥土帰しと木山の姿があった。そんなに考え事していたのか、と上条の心臓ははね上がった。

「ふむ、そこまで元気なら一般病棟に移っても問題ないね」

「あ、そう、ですか」

いまだにバクバクする心臓を押さえ、冥土帰しの言葉に反応する。一般病棟とは言っても、彼のいつもの個室なのだが。
しかし、上条は思うところがあった。

「あれ、でも一般病棟に移るって事は……」

「うん、今日はここにいてもらうよ?」

「……まじすか」

273 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:51:23.56 OPdtomHDO 134/455


上条は頭を悩ませた。今日は帰れない、と言う事は。

「はぁ。インデックスに何て言おう……」

彼の部屋にいる居候にどう説明したらよいのだろうか、と考えていた。木山はインデックスと言う言葉に頭を捻り、尋ねる。

「……インデックス、と言うのは?」

「あぁ、いつも彼が入院する度に付いてくる小さな女の子でね。同居しているらしいが」

「……同居?どういう事だ?君は御坂君と付き合っている訳ではないのか?」

さすがに聞き捨てならない言葉が上条の耳に届いた。このやり取り、朝も別の二人組とやった様な気がするのだが。

「違いますよ。インデックスは同居って言っても居候させてるだけだし、それに何で皆俺と御坂が付き合ってるって思うんですか」

「……あれで付き合ってないって言うのか……」

「へっ?」

木山の最後の言葉は聞こえなかったようで、上条はそんな間抜けな声を出した。冥土帰しは横で何故かニヤニヤしていた。

すると昼食を摂り終えたのか、美琴が戻ってきた。

「ただいま……ってゲコ太先生と木山先生」

二人の姿に少し驚きつつ、先ほどの上条のベッドの横に移動する。

「おや、噂をすればなんとやらだね」

「へっ?噂って?」

「君と上条君が付き合ってるんじゃないかって噂をね」

「なっ///」

やはりこの話には弱いのか、美琴の顔は赤く染まる。イヤンなんて両手で頬を隠す仕草をしつつ、上条に目を向けた。

それを見た木山と冥土帰しは更に顔にニヤニヤを張り付け、身体をポリポリかきながら楽しそうに笑うのだった。

274 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:52:21.41 OPdtomHDO 135/455


「結局ここか……」

第二の部屋と言わんばかりにいつもの病室に来ると、上条は溜め息を吐いた。ここの壁にこんなシミがある、と言えるほど来すぎてしまっている事に嘆息していた。

「もうお馴染みね」

美琴も美琴で上条がここに来る度に来ているので、上条の次にこの部屋の合計滞在時間は長い。

「でもよかったじゃない、いつもこの部屋空けてもらってて。あの部屋追い出されたらここに住めば」

「無茶言うなよ……結構払いきれてない病院代とかあるんだぜ……」

自分で言ってて悲しくなるほどここにお世話になってるな、と改めて思う上条。
もし追い出されたら追い出されたで美琴も今の寮を出て二人で……なんて考えているがそれはそれでかなりの重病だ。考えているだけでふにゃりそうで。まぁその時はもう一人付いてくるのだが。

「あ」

「ん?どうした?」

何かを思い出した様に美琴が声を上げ、上条が聞いてくる。

「さっきゲコ太先生が今日は入院って言ってたでしょ?あの子はどうするの?」

「俺も考えてんだけどなぁ。担任の教師に預けるしかなさそうだな」

インデックスの事で頭が悩む。上条は上条で困った時の小萌頼みを考えているのだが、回数が半端ではない。更にそれをお願いすると、補習の量が増えていた気がするので上条的に気が進まないのだ。……腹いせなのではないのかが疑問だが。

275 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:52:57.87 OPdtomHDO 136/455


しかし今回は仕方がないだろうと、小萌に連絡を入れようと決めたのだが。

「別にあの子はご飯だけあればいいでしょ?私が作ってきてあげるわよ」

すると意外な方向から助け船が。

「え……まじか?」

上条もその提案に乗りたい。乗りたいのだが。

「でもなぁ。今までさんざん世話になってたし、これ以上御坂に迷惑かけるわけにはいかない」

ただでさえとんでもないくらいの手間と世話と迷惑を掛けてしまっている。上条はその事で遠慮していた。

「……別にいいわよ、それくらいなら」

──アンタの為だし……。

自分で自分の心に呟いた言葉に赤くなりつつ、インデックスを引き受ける事を決めた美琴。彼女は本当にそれくらい大した事ないと感じていたし、上条が頼まなくてもそうするつもりだったのだ。

「う……じゃあお願いできるか?」

「いいわよ……あ」

「ん?どうした?」

途中で声を上げた美琴に上条は反応する。何故か少し顔が赤くなっている美琴に首を捻りつつ言葉を待った。

「そ、その代わり」

「??」

「今度。……買い物、その、付き合ってよね///」

顔を赤らめて上目遣いで上条の顔を覗き込み、可愛いお願いをする。そんな美琴に上条は、やっぱこいつ可愛いんだななんて思いつつ。

「お、おお。荷物持ちだな、いいぞ」

「んじゃそういう事で決まりね!」

「ん、分かった」

突然早口で捲し上げる美琴の勢いに押されながらも、上条は頷いた。

そして美琴は心の中でガッツポーズを爽やかに決めていた。買い物の約束を取り付けれた事が余程嬉しいのか、口元がつり上がりっぱなしなのだが、そこには詳しく突っ込まないでおこう。

276 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:54:49.38 OPdtomHDO 137/455


 その後は他愛もない話で盛り上がり、時刻ももう15:00になりつつあった。

「気付けばもうこんな時間かー」

と、話に夢中だったのかお互い時間を忘れていた様だった。そんな穏やかな時間が流れていくのが、美琴は名残惜しく思っていた。

「もうすぐで授業も終わるわね。……はぁ、また黒子からの電話の嵐が来そうだわ」

「嵐って……そんなにすごいのか」

毎度毎度の事ながら、黒子からの電話に溜め息を吐く美琴。上条も苦笑いを禁じ得なかった。

「もう出るまで掛け続けてくるわね、あの子」

「……愛されてるな」

「アンタならよかっ……くない!///」

「ん?何だ?」

「気にするな!ばか」

「ばかって何だよばかって」

いつも交わす会話に恒例の如く組まれているやり取りにだが、少し素直になれているようでも美琴は隠すのに必死だ。
素直になろうと心に思っていても照れ死にしてしまいそうで、それを美琴は押し留めていた。

「それにしても、悪かったな。二日も休ませちまって」

さすがに常磐台のお嬢様だ、ロクな理由も無しに二日も欠席させてしまったという事で上条は焦りを感じた。
しかもレベル5であり、責任問題等に発展したとすれば謝罪で済む問題ではない。

 レベル5というのは、学園都市ではそれほどの存在なのだ。

「別にいいわよ。とにかく、アンタは治す事に専念しなさい。いいわね!」

だが。だが美琴はこういう女の子なのだ。常磐台というお上品な事に関して完全無欠なお嬢様学校の中でも珍しい、フランクな性格の持ち主で。
女の子女の子されても、身構えてしまう上条としては接しやすく。

 と言うか、それが嬉しかった。

「……だな。ありがとな」

277 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:56:11.60 OPdtomHDO 138/455


「や、上条君。調子はどうだい?」

「あ、木山先生」

病室にいても手持ち無沙汰な為、デイルームで雑誌を読んでいると、木山が入ってきた。

「うーん、全然何ともないっす。と言うか、あれの時以外は全くの健康体らしいんで」

開いていた雑誌を閉じ、デイルームに備え付けられている自販機で飲み物を選んでいる木山の方に顔を向ける。

「コーヒーでいいかい」

「え、いいんですか?」

返答をする前にボタンを押していただろうか、自販機から飲料がコップに注入される音が聞こえてきた。
……ありがたくいただく事にする、別の物がよかったなんて今更言えないし。

「ふぅ」

椅子に座り、上条と同じくコーヒーに口を付けると木山が一息吐いた。

「先ほどはすまなかった」

「……え?え?」

すると突然、上条に頭を下げるものだから上条は戸惑った。

「……俺。何かしましたっけ」

普通この状況なら逆の言葉が出るのだが、所々相手に対して引いて考えてしまう上条はついこんな事を口走る。

「……検査していた時だ。君の身体をそっちのけにしてしまった」

「…………」

あの時だ。上条の意識が失った時。木山は上条の方ではなく、検査器具に夢中になって上条を倒れさせてしまった。その事を謝罪していた。

下げられた頭を見て、上条は逆に顰蹙を買ってしまった。謝れる謂れはないし、逆に手間を掛けさせてしまっている事を謝りたいくらいなのに。

278 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:56:52.72 OPdtomHDO 139/455


「頭を上げてください」

「……だが」

「……俺は。感謝してるんですよ」

そこで木山の頭が上がった。その顔は少し辛そうに見えて、上条の心は痛む。誰にもこんな顔をさせたくなくて。

「木山先生が俺を助けようとしてくれている事は分かってるんですよ」

「…………」

「御坂が、研究者というのを信用しない節にしているのを、知ってますか?」

「……あの実験の事かい?」

「はい」

上条は思い出す。美琴が研究所を潰しに回っていたという事を。

 後に聞いた話、筋ジストロフィーという病気を治す為に提供したDNAマップが、研究者に悪用されたという事。その事を話している節々、研究者というものに対して並々ならぬ不信感を抱いていた事を上条は感じ取っていた。

 あんな事があったのだ。嫌悪感を抱くのが普通だ。しかも美琴は普通の中学生の女の子。美琴が感じた辛さは半端ではない。

「それでも、それでも。研究者である木山先生に、俺の事、頼み込んできたんでしょ?」

「…………ああ」

美琴と木山の間に何があったのかは知らない。しかし美琴は木山の事を、研究者としてではなく、人として信用しているのだろう。

「そういう事です」

「……っ」

上条は木山の顔が少し歪んだように見えた。

「俺も御坂も、信じてます。木山先生の事」

「…………君は」

「はい」

「たくさんの幸せを与えて、たくさんの幸せを貰っているんだね」

「……不幸体質の俺が与えれているとは思いませんけど、確かに貰っていますよ」

──そう、だよな。俺は、幸せ、なんだよな……。

自分の手の届く範囲でだけでも幸せにしてあげたい人達がいる。それは上条が常々思っている事だった。

「……ありがとう」

「こちらこそ」

そう言う木山の顔も、研究者ではなく、やはり人だった。

279 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:58:04.11 OPdtomHDO 140/455


 気持ちが晴れたかのような木山は、ある質問をする事にした。

「ところで」

「はい?」

「君は御坂君の事、どう思っているんだい?」

「……御坂の事、ですか」

落ち着いた時間に考えるのは、初めてかもしれない。
自分は美琴の事をどう思っているのだろうか。

考える。

ビリビリで、意地っ張りで、怒りんぼで、泣き虫で。
でも心は強くて、笑ったり、喜んたり、照れたりしてる時は……────

「あれだけ御坂君が感情を露にする相手は、君以外に見た事がないね」

木山から見たら美琴の想いは分かる。……そして、何となくだが、上条の想いも。

 大脳生理学者としての知識、経験が全てそうだと告げている。彼女を見ている時の彼の顔は、どこか違う、と。

「御坂君はよく素直じゃないと言われてるが、君もそうではないのかい?」

上条の頭の中でぐるぐる美琴との思い出が駆け巡る。記憶をなくしてから、恐らく一番共にいるのは……美琴であろう。

──俺が……あいつの事……?

『ビリビリ言うなっての!!』

『無視するなぁ!!』

『んがー!たまには当たりなさいよ!』

『ちぇいさーっ!』

『ほら行くわよ!さっさと歩く!』

『ったくしょうがないわね。ほら、ここ違うわよ』

『……どう?美味しい?』

『アンタは私が守ってあげるわ!』

『当麻…………!』


 色んな美琴の顔を見てきた。泣いたり笑ったり、怒ったり喜んだり、照れたり拗ねたり。

280 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/17 22:59:13.49 OPdtomHDO 141/455



『……そう、約束だ。御坂美琴とその周りの世界を守る』


その全てが大切のように思える。



──……そうか。俺、あいつの事……



    好きなんだ。



293 : よし今なら行ける!  ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:47:08.96 wF5uQZlDO 142/455


 上条は恋というのがどういものかは分からない。記憶がないのだから。人に恋をする、という経験が上条は持ち合わせていない。

もしかしたら以前の上条は誰かに恋い焦がれ、誰かとその関係に発展した事があったのかもしれない。しかし関わってきた全ての人々の思い出がごっそりと切り取られていて、いくら考えても蘇る事はない。

あぁ、あの人はこういう人なんだ、とか、あの人は接しやすいとか、あの人は苦手とか。その人に対する考えも、全てリセットされていて。

 ……しかし、美琴は。今の上条にとって初対面だったあの時だって、自然に接していた。気付けば、まるでこうするのが当たり前だったかを覚えているような、そんな接し方。

記憶はない筈なのに、まるで昔からこうしてきた様な。

笑ってる時。一緒に笑いたかった。

泣いてる時。守りたかった。

喜んでる時。嬉しくなった。

悲しんでる時。傍にいたくなった。

──俺は……こう思ってたんだな。

落ち着いて考えれば、自然と答えを出す事が出来た。

好きだと。守りたいと。傍にいたいと。

294 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:48:22.47 wF5uQZlDO 143/455


「余計なお節介したかな」

上条の納得したような表情を見て、木山は少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「……いえ」

自覚したような上条に満足そうな笑みを浮かべ、木山は『本題』に入る事にする。
その本題の前に上条に投げ掛けた言葉は、木山の優しさからくる言葉だったのだろう。

「さて上条君」

「はい?」

「先ほどの検査中の話なのだが」

そこで上条も切り替えたか、木山の方を向いた。

「……実は、君が倒れる直前に、能力の反応があった」

「!? ま、まじすか……?」

驚愕という驚愕を顔に張り付け、上条は思わず聞き返した。当然であろう。己が持つ幻想殺しの影響で、能力など発現しようがない筈なのに。

「ああ。それに……」

「それに……?」

「……数値的には。あの時観測した能力は」

一度区切る木山に、上条も固唾を飲んで見守っている。
能力……一体何なのであろうか。



「……レベル5級、だ」



「……………………はい?」

295 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:49:10.67 wF5uQZlDO 144/455


──……何だって?レベル……5?それ以前に能力の時点でありえない筈なのに、レベル5、だって?

言葉が出ない。驚きを通り越し、上条の思考は完全にストップした。もう驚きでは表せない程だった。

右手を見る。そこに宿る幻想殺しは数々の異能、魔術を打ち消してきた。打ち消してきたのに。
この右手が宿す力は……それだけではないのか。

「……あ」

──そう言えば。

そこで上条は何かを思い出したかのように声を上げた。

「何だい?」

「今思い出したんですけど。さっきあの症状が出た時、色んな声とか聞こえたような気がしたんですけど……あん時木山先生しかいなかったよな?それにしちゃやけに人数いっぱいいた様な……」

段々独り言のようになっていく上条の言葉だったのだが、木山は聞き逃さなかった。

「詳しく話してくれないか?」

「ええ……とは言っても、あの症状が出る瞬間、まるでいきなり大勢の人混みの中に放り込まれたみたいに、色んな人の声が聞こえてきた気がしたんですよ。症状が出てからはそれどころじゃなかったんですけど」

「声、というのは具体的に……?」

「男から女、小さい子らしき声も。一気にざわめく感じで来たんで、何を話してるのかとかは全く」

「ふむ……」

木山は思案顔をする。木山の頭の中でいくつか仮説を立てるのだが、候補があり、そして一致しないという不可解な答えに辿り着く。

「他には?」

「……すいません。症状出て割りとすぐに気を失ったみたいなんで」

「そうか……すまなかった」

責められていると思ったのか、申し訳なさそうな表情を見せた木山に上条は慌てて手で制するフリをした。

「あ、でも。今回それが聞こえたのは初めてでした」

「ふむ、そうか……ありがとう」

「いえ、こちらこそです」

まだまだ情報が足りない。彼を治す手立てがまだ見つからない事に気持ちが逸るのだが、焦っても仕方がない。

 見ていて微笑ましい二人を守りたい。木山はその一心でまた先ほどの検査室に向かう事に決めた。

296 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:50:32.18 wF5uQZlDO 145/455


 美琴は上条宅に夕食を作りに行く為、そろそろ夕陽がかってきているオレンジの街並みを歩いていた。もう時刻は放課後を過ぎていて、ちょうどピークだったのか、周りには下校途中の生徒達で街は溢れ反っていた。

いつもならその喧騒に触れ、コンビニで立ち読みするかゲームセンターにでも繰り出すくらいの彼女なのだが、気分的にそうはいかなかった。

──大丈夫かな……。

上条の身体の事を考え、早目に休ませようと日が暮れる前に病院を出たのだが、冬の冷たさは身体と気持ちを冷えさせる。

『上条君が…………倒れた…………!』

『……………………え?』

今でも思い出されるあの時の衝撃。深い絶望が、二度と抜け出せれない悲愴が美琴の鼓動を早める。

もしもそのまま……だったのなら、美琴は恐らく、二度と笑えなくなる。感情を全て殺され、きっと生きる屍の如く何も考えなくなる人形に化したであろう。

 それほどまで、好きだった。

「無事で、よかった……」

気を抜けば涙が出てしまう。何とか堪え、これからの事になるべく明るい未来を想像したい。二人で、笑って過ごせる未来を。

「うん、木山先生とゲコ太ばかりに任せるわけにはいかないわ。私も何かしなきゃね」

彼の力になれる事ならば、何だってしたい。
一息よし、と気合いを入れて、上条宅に向かって行った。

297 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:52:13.45 wF5uQZlDO 146/455


「カミやん、探したぜい」

「あれ、土御門」

 デイルームで木山と別れ、病室に戻った上条はデイルームからかっさらってきた雑誌を読んでいると、見慣れた金髪が入ってきた。

「今日も学校来てなかったからカミやんちに様子見に行ったら、禁書目録が『学校行ったよー』なんて言ってたから探してみればやっぱりここだったんだにゃー」

「悪かったな、すまん」

携帯は電源を切っていた為、連絡もつかない。恐らく探し回ったであろう土御門に上条は申し訳なく思った。

「いや、いいぜよ。それよりカミやんの身体の事、探ってみたんだがにゃー。恐らく魔術的な影響じゃなかったんだにゃー」

──魔術ではない……となると、やっぱり科学か……。

右手を見る。いつもと変わらない右手だ。

「そうか、分かった。手間掛けさせて悪かったな、ありがとな」

となるとやはりさっきの木山の言葉が引っ掛かる。レベル5並みの能力を観測した──考えられない事だが、きっと異変の原因はそれなのだろう。

「いいって事よ。それよりもカミやんの身体の事伝えたら、ねーちんと五和が今すぐ日本に行くって騒ぎだしたんだにゃー」

「へ?神裂と五和が?」

 神裂と五和とは、上条と共に難敵と戦ってきた天草式の凄腕の魔術師だ。
一人は世界に20人ほどしかいない聖人。
一人は聖人に並ぶほどの槍使い。
しかし上条の頭の中には、堕天使エロメイドの姿と大精霊チラメイドの姿が浮かんでいたが即座に修正しておいた。

298 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:52:54.86 wF5uQZlDO 147/455


「向こうの仕事ほっぽりだして日本に飛んできそうな勢いだったんだにゃー」

止めるのに必死だったぜい、と泣きそうな顔して話す苦労人、土御門。電話口の土御門と、現場にいるだろう建宮という男の必死ななだめが功を奏したようだった。

 ちなみに彼女らが飛んできてしまいそうだった理由としては、上条だから、としか言いようがない。

「……あいつら」

すると上条が俯き、そう呟く。土御門はそれを見て「お」なんて反応していた。



「病に伏した俺の事を亡き者にしようとしてたんだな……」



「…………は?」

何言ってんの?コイツ、なんて言葉しか土御門の頭に浮かばない。

「だってそうだろ?俺は引き受けさせられたようなもんだけど、あいつらが大事にしているインデックスは遠い地の何処の馬の骨かも分からん男に取られたようなもんだぞ?大体シスターとはいえ年頃の女の子を任せるだけで危機感ばりばりだろうが」

「…………」

「それに神裂にはまじで一度殺されかかってるし、五和だって、あん時よく目が合っていたのは護衛なんて言いながら監視の目を光らせていたからだろうが。ったく。こっちにはそんな気、サラサラないっつーの」

「一回こいつの思考回路本気で調べたいぜい……」

土御門は『哀れねーちん、五和……』と心の中で十字架を切っていた。

299 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:54:56.15 wF5uQZlDO 148/455


「そうだ、悪いんだが俺今日入院らしくて帰れないんだ。夕食は知人に頼んであるんだが、夜はどうしてもインデックス一人になっちまうから土御門時折見といてくれないか?」

「んげ」

上条が入院となると、今日一日はインデックス一人だ。その事をお願いすると、土御門はしまった、という顔になった。

「どした?あ、用事があったか?」

「だにゃー、夜はちっとな。だがカミやんの頼みだ、なるべくすぐ戻るぜい」

「……すまん」

いまだにインデックスが持つ魔導書の10万3000冊を狙う輩はいる。なるべくインデックスを一人にさせておきたくないのだ。

 一方、土御門は彼のもう一つの顔、学園都市の暗部『グループ』としての仕事の予定がこの日はあった。
だがこの日の仕事は大したものではない。すぐに終わる仕事らしく、土御門はなるべく早く戻る事を約束した。

『必要悪の教会』として仲間のインデックスを守る事の方が重大なのだ。それが当たり前だと言わんばかりに土御門は即決していた。

──カミやんにもお世話になってるからにゃー。

それに土御門は上条の希望を尊重する傾向にある。
上条の大切なものは守るという強い意志、優しさは土御門が属するイギリス清教の中でもかなりの影響を及ぼしている。

そんな彼は、土御門の中でも尊敬すべき親友だった。

300 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:56:16.78 wF5uQZlDO 149/455


ピンポーン──。

「……」

ピンポーン──。

「…………」

ピンポンピンポーン──。

「………………あれ、いないのかしら」

 美琴が上条宅に到着したのが16:30頃。その手には甚大な量の買い物袋を引っ提げていて、少し疲れた様子であった。レベル5とはいえ、美琴は腕力もない非力な中学生の女の子だ。仕方がないだろう。

 インデックスを呼ぶためにインターフォンを何回か押したのだが、反応はない。

「仕方ないわね」

今朝侵入した時と同じ方法で美琴はドアを開ける。

ガチャ──。

「やっほー……ってやっぱいない」

玄関で靴を脱ぎ、リビングまで入っていったのだが、肝心のインデックスの姿が見当たらない。

「とりあえず食材を冷蔵庫に入れておこうかな」

ビニール袋をガサガサと鳴らし、台所まで移動する。そして冷蔵庫を開けて買ってきた物を入れようとすると──。

ガタッ。

「ん?」

物音が美琴の耳に届いた。その物音がした方に美琴は視線を向けるが。

「……」

何もない。恐らく気のせいだったのだろうか。
まぁいいかと呟き、次の食材を冷蔵庫に入れようとすると──。

ガタタッ。

「!」

また聞こえてきた。今度は確かに、だ。

301 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:57:27.44 wF5uQZlDO 150/455


「え、え?き、気のせいじゃないわよね……?」

何だか少し怖くなってきた。時刻もまだ16:30とはいえ、冬の日は落ちるのが早い。電気は点けてはいるが、オレンジから黒になりつつある外の色も少し不安感を掻き立てる。

美琴もやはり女の子だ、怖いものは怖い。

「あっ……!」

バサッ……コロコロ──。

買い物袋をその場に落としてしまい、スーパーで見かけて思わず買い物カゴの中に入れていたみかんが転がる。物音がしたリビングの方に、だった。
そしてその時。

ガタタタタッ!

「なななな何なのよ!」

突然物音が騒々しくなり、美琴の心臓が飛び魚の如く跳ねた。

──おおおおお化けだったらいいいいいやよ!

この科学の街で、それはあり得るのだろうか。それとも違う何か──変質者!?

その音に美琴は思わず後ずさるが、戦闘体制を取った。手に電気を宿し、キッとリビングを睨む。

──ここここここは当麻の部屋よ!へへへ変な奴だったら私が叩き伏せるっ!!

そしてみかんが転がっていき、ベッドの下まで行くと──。



  白 い 手 が 伸 び た



「お化け──────!!」





「ムシャムシャ……このみかん美味しいんだよ」




「アンタかいっ!!」


美琴のその時の悲鳴と怒号は、上条の学生寮全部屋に届いたらしい。

302 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 00:59:48.57 wF5uQZlDO 151/455


「ってアンタ!そんな所で何してんのよ!」

「あ、やっぱり短髪だったんだよ。変質者対策なんだけど、よかったー」

何故かホッとしたという安堵を顔にくっつけ、インデックスがベッドの下からニュッと出てきた。

「よかったーじゃないわよ!死ぬほどビビったじゃないの!!」

よっぽど怖かったのか、涙目で美琴はキレだした。

「私だって分かってたんなら最初から出てきなさいよ!ったく!」

「だって姿を変える魔術だってあるんだよ、疑ってかかれってやつかも」

「魔術だか何だか知らないけどもうこんな事しないでよね!」

「むぅ……ホントの事なのにー」

まるでキャットファイトが行われているの如く部屋の中に甲高い声が飛び交った。青ピあたりこの場にいれば喜びそうなのだが。

「あれ?とうまは?」

上条の姿が見当たらない為か、キョロキョロしながらインデックスは尋ねた。

「…………っ。……アイツは風邪がちょっと酷くなっちゃったみたいでね。大した事ないらしいんだけど、今日は入院なんだって」

「……また何か怪我とかしちゃったの?」

「……っ」

本当に心配している表情をして、インデックスは落ち込む。美琴もやはり言いにくかったし、それに口にしたくない気分だった。

……あの時の絶望感を思い出してしまいそうで、身体が震えてくる。

303 : ◆LKuWwCMpeE - 2011/01/19 01:00:36.73 wF5uQZlDO 152/455


「とうま、大丈夫かなぁ。でも明日帰ってくるんでしょ?」

だが。やはりこの子も本気で心配してるんだと思うと、美琴は辛そうに唇を噛み締めた。

 インデックスの為とは言え、本当の事を伝えないのは酷だ。インデックスとは口喧嘩をよくしている。だがインデックスが純粋でいいコだというのは知っている。

「……うん。明日は退院パーティやんなきゃね」

──だからこそ、アンタも早く治しなさいよ。この子の為にも……。

美琴の願いは、本当の意味での上条の身体の完治だ。そしてそれを祝ってあげたいと、そう思っていた。









「え?短髪も来るの?」

「え?ちょっ」

でもまぁ、この二人はこれが似合うだろう。


続き
上条「身体が……熱い」【中編】

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