布団の中に誰かもぐりこんでいる。
なんだか体に柔らかいものが当たります。
どうやら俺はえっちな夢を見てるようです。
淫魔「いっぱい気持よくしてあげるね」
すべすべしておててが俺の太ももあたりに触れてます。
おてては太ももを撫で回しながらゆーっくりと登っていきます。
俺のおち○ちんに触れると、反射的に声が。
男「あ……あひいっ」
元スレ
淫魔「いっぱいエッチなこと……しよ?」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1288329665/
淫魔「くすっ、かわいい……ぎゅーっ」
男「はひっ、あはっ、あっ!」
おち○ちん、捕獲されました。
トランクスの上からモミモミされてます。
ええ、勃ちます。勃起しないはずがありません。
淫魔「おち○ちんおっきくなってきたよ……」
男「あはっ、あっ、あふううっ」
淫魔「乳首ぺろぺろしてあげる……」
Tシャツをまくりあげられます。熱い吐息が肌にかかるだけで感じてしまいます。
淫魔「んふっ……可愛いよ……」
男「はぁんっ……」
あああ女の子みたいな声が出ちゃう。 舌先で乳首をチロチロされながら
おち○ちんをシコシコされてるんです。ありがたやありがたや。
左手で相手の頭をナデナデ。ツルツルした髪の毛をかき分けると
シャンプーのいい匂いがして頭がくらくらと……。
淫魔「もっと色んなとこ触ってもいいんだよ……」
色んなところ。色んなところ。本当にいいんですか。
ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。
男「あふうっ……あはぁぁん……」
俺の"おっぱい"をはむはむしながら舐めてくれます。
ちゅぱちゅぱといやらしい音が聞こえてきます。
淫魔「うふっ……おっぱい柔らかい……あれ?」
男「あんっ、あんっ……」
淫魔「ちょ……なにこのだらしない体……」
あれ。どうしてやめるんですか。もっとしてください。
ぺろぺろシコシコしてください……。
淫魔「……」
がばっ、と布団をめくられます。なにっ、えっ?
淫魔「……電気付けて」
男「え……」
淫魔「電気付けなさいよ! 早く!」
男「は……はい」
よくわからないけど、逆らったら続きをしてくれないかもしれないので、
言うとおりに蛍光灯のヒモを引く……。
淫魔「ひっ……!」
まず目についたのは、非常に露出の多い服装。
黒いブラジャー。超ミニスカートからはみ出したから足は
細いけれど色気むんむんで正直たまりません。
グレーのツインテールの髪が綺麗ですね。カツラでしょうか。
なんかツノが生えてるけどきっとコスプレってやつでしょう。
幼さを残しながらも妖艶さを感じさせる整った顔立ちはかなりの美少女と
言えるでしょう。濃いアイシャドウと長いまつ毛はギャルっぽくて
個人的にNGですが、それにしてもどうしてそんなに
淫魔「ひっ……あうあうあう……」
怯えた顔をしてらっしゃるんですか。
あっ、八重歯ずいぶん尖ってますね。噛まれたら痛そうです。
男「あの……?」
淫魔「い……いやあああぁっ! キモいいいいっ!!」
女の子は部屋の隅まで後ずさりして逃げていきます。
あの、パンツ丸見えですよ? ハァハァハァハァハァ。
……って、キモい? 誰が……?
淫魔「マジなんなの!? キモいし、豚だし、いやっ、いやあっ!
近寄らないでよっ!」
男「豚って……」
いや、はい。キモいかと言われたらキモい部類でしょうし、
彼女どころか女友達もいない童貞ですが、そんな俺のおち○ちんを
シコシコしてた人が言っちゃうのはどうなんですか。
てか続きは? 続きしないの?
淫魔「ああっ……間違えたんだ……やだっ、あたしこいつ舐めちゃった……
キモいキモいキモいキモイいっ! おえええぇ……」
あのちょっと、えづくほどのことですか。だんだん腹が立ってきたんだけど。
男「いやあの、なに、なんなんすか……。君からエロ、エロいことしといて、
ちょっと失礼でしょ……」
淫魔「だから間違えたって言ってるでしょ! もう、キモいし!
こっちみんな! やだ、パンツ見てるし……いやあああっ!」
あの、物投げないで下さい。ちょっと痛いんですが。
あ、いてぇ。おいやめろ。おいこの、おいっ!
男「あああああなんなんだよおおおおおっ!!」
淫魔「やだ吠えた、超キモい……豚、豚そのものっ!」
男「あの、あのさ。か、勝手に人の部屋に入ってきて、あの、
キモいキモい言わないでくれる……。てか、君、誰?
間違えたってなに。コ……コスプレデリヘルの人かなんかですか?」
淫魔「だってマジキモいし凹むんだもん……。
ねえ吐きそう。ちょっとトイレどこ。どこっ!」
男「え、あの、そこ……」
淫魔「おえっ……あー無理っ、超無理っ! おええぇ……」
デリヘル嬢のくせに、客に対してよくこんなこと言えるよな……。
いやまあ俺は客じゃないですが。このアパートの誰かが頼んだんだろうけど
誰だよまったく……。
それにしてもこんな可愛いデリヘル嬢いるんですね。
つうかどう見ても中学生か高校生にしか見えないんですけど。
けしからん。実にけしからん。俺も呼びたいぞ。くそっ。
淫魔「あーもう、マジ気分悪いし……ちょっと、目付きやらしい、キモい!」
男「すすす、すいません……」
お前がそんな格好してるからだろう!
男「あの……デリヘルの人っすよね?」
淫魔「はぁ?」
男「えとえと、俺その、デリヘルとか頼んだことないんだけど、
なんていうお店のなんて子……かな」
淫魔「あたしサキュバスだけど?」
男「へ、へえ……サキュバスってお店なんだ……。
その、いくらですか……?」
淫魔「いくらって、何が?」
男「その……ゴニョゴニョ」
淫魔「なに、聞こえない」
男「き、君とエッチなこと……するの、一回おいくらですか」
淫魔「……うわぁ」
男「い、今3万円ぐらいならありますっ! よよよ、よかったら……」
淫魔「人間の世界って、豚がお金出して女を買うのね……。
悪魔より悪魔的だわ……。ううっ、鳥肌たってきた」
男「こ、こ、これで、あの……。お願いしますっ!」
淫魔「あのね、いくらお願いされても豚とするほどプライド捨ててないの。
あたしが見習いだからって馬鹿にしてんの?
イケメン以外お・こ・と・わ・り」
……イケメン以外ってあなた、そんなので商売成り立つんですか。
バカなの? 死ぬの?
男「そそ、そこをなんとか……。さっきのがあんまり気持ちよくて、
このままじゃ、お、おさまりが……」
淫魔「うわちょっと、勃ててるし! やだキモい! ちょ、近寄らないで!」
こうなったら……無理やりにでも……。
どうせこの先こんな美少女とセクロスすることなんてないんだ。
どうにでもなれハァハァハァハァハァ。
淫魔「きゃあああああっ! 犯されるっ!!」
男「えへえへうげへへっへっへ」
淫魔「……殺すよ?」
男「うへへへっへっへ……へ……」
ツメが……ツメなんでそんなに伸びてんですか?
あの、痛い痛い痛い痛いっ!
男「ごごごごごめんなさい!」
淫魔「豚は豚らしくシコシコしてなさいよ。あたしを抱こうなんて
一億年早いの!」
男「ああああの、ごめんなさいっ。許してっ!」
淫魔「はぁ……。ほんとサイアク。じゃ、家間違えたみたいだから帰るね」
男「は……はい」
淫魔「あー……早くイケメンとエッチしてお口直ししよっと」
男「……」
……。
行ってしまった。
男「乳首、気持よかったな……」
あの子、他の男とセクロスしにいくんだよな……。
男「いいなあ……ちくしょう……」
サキュバスって言ってたな。あとでネットで調べて呼んでみようか。
男「はぁ……可愛かったなあ……」
シコシコ。シコシコ。シコシコシコ。
男「ああっ、そこ気持ちいいよっ、あああっ」
シコシコシコシコシコシコ。
淫魔「あーもう、頭にくるーーーっ!」
男「あっ、あっ、あ……」
淫魔「あ……」
男「……」
淫魔「いやあああああああああっ!!」
男「うわあああああああああああっ!!」
淫魔「キモ、キモすぎ! 豚ちんこさっさとしまいなさいよ!」
男「すすすすいません!」
淫魔「今日はほんとマジサイアク……。もうやだ……」
男「てか、あの、まだ何か御用ですか……」
淫魔「ちょっとあんた、名前はコウイチ?」
男「そうですけど……って、何で知って……」
淫魔「はぁ……やだもう、サイアク……。あーもう、マジで無理、無理だって……」
男「なんなんだよ……一体……」
淫魔「先生に文句言ったけど、あんたとエッチしなくちゃいけないんだってさ。
住所もここで間違いないって……なんでこんなのがコウイチなのよ。はぁ……」
男「え、俺と……?」
今、「俺とエッチしなきゃいけない」って言ったよな。
確かに言った。言ったぞ。間違いなく言った。
よくわからないけどこのチャンスを逃してはいけない!
男「じゃ、じゃあさっそく……あああの、初めてなのでよろしくお願いします!」
淫魔「イヤ。無理無理マジ無理!」
男「え、いやあの、エッチするんじゃ……」
淫魔「納得いかないの! こんなのありえないし!」
男「じゃあその、幾らお支払いすれば……」
淫魔「殺すわよ、豚」
男「ひっ! あああの、事情がよくわからないんですが、
一体なんなんですか……」
淫魔「別にあんたに話してもしょうがないけど……まあいいや。
あたしね、淫魔学校の卒業試験中なの」
男「はい? インマ学校?」
淫魔「淫らな魔で淫魔。インキュバスとかサキュバスって知ってるでしょ?
悪魔なの。人間とエッチする悪魔」
……きがくるっとる。
メンヘラのヤリマンの人か何かですか。
淫魔「卒業試験は一週間で7人の人間とエッチしなくちゃいけないの。
その一人目の人間は、自分の理想の相手って決まってるの。
それ以外の人間じゃだめなの」
男「はぁ……。じゃ、じゃあ俺がその理想の……」
淫魔「そんなわけないでしょ!!」
男「ひっ!」
淫魔「多分あんたと同じ名前のコウイチっていう別人。
昔ちょっとあってね。その人に憧れてたの。学校の先生に、その人が良いって
申請したら、間違ってあなたが選ばれたわけよ……。
ああもう、ちょっとあたしが可愛いからって……嫌がらせじゃないの……」
何がなんだかわかりません。
ただ一つ言えることは、俺とセクロスするのかしないのか、
お願いですからあなたに童貞をささげさせてくださいと、それだけです。
男「つ、つまりその、俺とセクロスしないと……卒業試験?
だ、だめになるってこと……?」
淫魔「……そうだけど。ああもう、こんな豚っ、ブサイクっ!
おまけに話し方キョドってるし! 嫌よ嫌! エッチしたくない!」
男「ひ、ひどい……そこまで言うか……」
淫魔「まあ別にちょっと我慢すればいいだけだし、留年して経歴に傷が
つくぐらいなら、あんたとエッチするのもやむを得ないけどさ……」
男「じゃ、じゃあ是非っ!」
淫魔「でも、あんたはコウイチ違いである可能性がひじょーーに
高いわけで、というかこんな豚がコウイチなわけないわけで、
やっぱりあたしの初めてはコウイチがいいわけで……」
男「え……は、初めて?」
淫魔「そうよ。最初は憧れの人がいいじゃない」
男「ふ、ふうん……初めて、ね……」
この子のトンデモな言い分を信じるならば、この子は淫魔であって
デリヘル嬢でないわけで、つまり処女であって……。
ああ、なんか胸のもやもやがスッキリしたというか、
こんな美少女が色んな男に抱かれてるって考えたら、悔しいよな。
そうか処女か、ふ、ふふふふふ……。
男「そ、その……俺も初めてだし、童貞だから、えっと、お、お互い頑張ろう!」
淫魔「はい? 童貞とか見ればわかるし。あたし童貞クンとかNGですからー。
イケメンならともかく……」
男「な、なんだよ……しょ、しょ、処女のくせに……」
淫魔「処女? 誰が? あんたのアナルのこと?」
男「いや……君が……だだだって、初めてなんでしょ?」
淫魔「人間とはしたことないけど、悪魔とエッチしまくりだけど?
処女なんてねー、淫魔学校はいる時に校長先生に破ってもらうんだけど」
男「はっ……? 校長先生?」
淫魔「それがねー、もう結構な歳なんだけどすっごいエッチうまいの!
ダンディだし体は若いし、初めてなのにイカされちゃった」
男「……」
淫魔「それに淫魔って人間を気持よくさせるのが仕事だからさ、
実技の授業でエッチしまくるんだよね。先生とかー、インキュバスの生徒とかー。
おかげで純情だったあたしもエッチな子になっちゃいました。きゃはっ」
男「……」
淫魔「週一回乱交の授業があるんだけどさ、友達の子と、男の子何人イカせたか
競争したりしたよー。イケメンのインキュバスの子が顔赤くしてヒィヒィ言ってるの
って超~可愛い! って、やだ、あたしの話聞いて勃てちゃったの? キモっ……」
男「……」
ビッチ
なんという 淫 売 。
はい、想像して勃起しましたよ。しましたけども……。
なんだろうこの、敗北感。こんな可愛い子がやりまくってる世界あるんですね。
悪魔の世界ってのはよくわかんないけど、現実だってこういうのあるよね。
アイドルとか女優がやりまくってるとかって噂を聞いた時の敗北感。
自分とは縁遠い世界なんですね。自分とは絶対関係ないんですね。はぁ……。
淫魔「なに? もしかして泣いてんの? 気持ち悪い……。
ねえちょっと、喉乾いた。カルピス買ってきてくんない?」
男「は……カルピス? なんで俺が……」
淫魔「飲みたいんだけど。ねえさっさと行ってきて。
さっきからやらしい目であたしの体ジロジロ見てる見物料」
男「みみみ、見てない。見てないっ」
いや見てたけど。思いっきり視姦してましたけど。
なんで俺買いにいってんの。あんなビッチのヤリマンのために……。
ヤリマン……ヤリマン……くそっ。勃つなヴォケ。
淫魔「どうもありがと。えーカルピスウォーター?
これ薄いんだよね。あたし白くてドロっとした濃いの飲みたかったんだけど」
男「あの……なんで飲み口んとこ吹いてるんすか……」
淫魔「だって舐めてそうだし」
男「舐めてないし!」
舐めるのは飲み終わったあとだし。
淫魔「ふーおいし。ねえ座布団とかないの? 畳のあとついちゃうよ」
男「そんな短いスカート履いてるからじゃないの……」
淫魔「ねえちょっと、パンツ見ないでよキモい!」
ヤリマンのくせにマンコ見せまくってるくせに。
ヤリマンのくせにマンコ見せまくってるくせに。
ヤリマンのくせにマンコ見せまくってるくせに。
淫魔「そこのクッションとって。それでガードする」
男「ヤリマンのくせにパンツぐらい見せろヤリマンのくせにパンツぐらい見せろ
ヤリマンのくせにパンツぐらい見せろ……はっ、思わず声に出てた……」
淫魔「死ねば? なにこれ、女の子の絵が描いてあるけど、
こういう子が好きなの? これアニメ?」
男「あずにゃんも知らないの……情弱」
淫魔「知らない。ねえこれ、抱き枕?
なんかシミとかついてんだけど……ちょっと、えっ、
なんかカピカピしてる……いやああああああっ!」
男「お、俺の嫁を投げるな……」
淫魔「信じらんない……キモすぎ……。いくら女とできないからって
ありえない……あーもうキモいキモいキモいキモい!」
男「う、う、うるさい! そんなにキモいなら出てけよ、出てけ!」
淫魔「えー。そうしたいのは山々だけどさー、
コウイチとエッチしないと帰れないんだよねー」
男「えっ、あの、そ、そうだった、ね……」
淫魔「だ・か・ら……」
あああ、そんな目で見つめないでください。
そんなキラキラした瞳で見られたら、あああ。
淫魔「コウイチ探し手伝って! ね?」
男「あの、コウイチならここに……」
淫魔「あんたじゃなくて、本物のコウイチ!」
まるで俺が偽者みたいに言うなよ……ヤリマンのくせに。
というか、この子の話が確かならば、本物とやらが見つからなかったら
俺とセクロスしなければいけないわけで。
イコール俺的には見つからないほうが良いわけで。
男「こ、断る」
淫魔「そんなこと言わないでよぉ。ねぇ、もし見つけてくれたら
なんでもひとつ言うこと聞いてあげるよ?」
男「なんでもっ、て……?」
淫魔「な・ん・で・も、だよっ。ねえ……おねがぁい……」
男「……わかったよ。協力しますよ……」
淫魔「うふっ。ありがとう豚ちゃん」
男「あの、豚って呼ばないでもらえるかな……」
俺にはちゃんと名前がだね……」
淫魔「だってぇ。あんたをコウイチって呼ぶのやだもーん。
コウイチはあたしのコウイチだけ! 豚ちゃんは豚ちゃんでいいの」
男「ブツブツ……ヤリマン死ね……ブツブツ……」
淫魔「なんか言った? あたしはメリッサ。
あ、呼び捨ては馴れ馴れしいからやめてよね。
"さん"付けでよろしく」
男「……ブツブツ」
淫魔「明るくなってきたし寝ようかな~。
ねえちょっと、布団出して。綺麗なやつね」
男「え……寝ようかなって……。布団ひとつしかないけど」
淫魔「はっ? マジで言ってんの? あの変な汁が染みてそうな
きったない布団で寝られるわけないじゃない」
男「いや汚いとか以前に俺の寝床だし。
確か使ってない毛布ならあるけど……」
淫魔「あーじゃあそれでいいから貸しなさいよ。
今日のとこはそれで我慢してあげるから。
これ、本当にあんたの汁ついてないよね?
くんくん……臭いは大丈夫ね。んじゃ、おやすみー」
男「……」
普通こういう展開って、しょうがないなあとか言いつつ
一緒に寝るもんじゃないんですか。
男「……」
男「……」
男「……」
淫魔「なににじり寄ってきてんの、キモい。
寝てる間に変なことしたら殺すから。
溜まってんならエロ本でも見て一人で処理してよね」
男「は、はいっ……」
顔にぶっかけてやろうかこのヤリマン……。
あ……もうこんな時間だ……こいつのせいでまともに寝れなかった……。
男「仕事……いかなきゃ……」
寝不足の体で派遣先の工場でせっせと働く。
頭にちらつくのはあのヤリマンの顔。
男「はぁ……」
同僚A「お前溜め息なんかついちゃって、恋でもしてんの?」
同僚B「ブーちゃんが恋とか、相手はどんな化けもんだ?」
男「……」
職場ではブーちゃんと呼ばれているが、別に可愛がられてるわけではない。
どちらかというと空気的存在で、今日の昼休みもいつものように
食堂の端で仕出し弁当を食べる。耳に入ってくる会話は
オンナ、クルマ、ギャンブルの話ばかり。
同僚A「グリーで引っ掛けた女と会ったんだけどよ、高三なのに
ホテルいくの恥ずかしがってたから、聞いてみたら処女だったんだよ。
めんどくせえんだよなあ、処女って」
同僚B「でも結局やったんだろ? お前小学生でも平気で食う鬼畜だもんな」
同僚A「小学生はねーって。でその女がよ、付き合ってくれとか言ってくるし
今メールブッチしてんだけど」
同僚B「その女イケてる? 可愛かったら俺に回せよー」
同僚A「いーけど、お前また嫁さんにバレんじゃねーの?」
同僚B「あれから10人食ってっけどまだバレてねーし。
結構鈍感なんだよ、あいつ」
男「……」
俺の心の内、中二病的な独白をさせてもらう。
いつからだろうか。『向こう側』の人間と『そうじゃない自分』の差を
はっきりと感じだしたのは。当たり前のように身近に『セッ○ス』がある
人間が居て、自分はそういったものから縁遠い存在なのだという現実を、
今まで何度も見てきた。
中学校の時に、物凄く好きだった学校のアイドル的
女子のSさんが、ヤンキーであるNと付き合っていることを知ったときは涙がこぼれた。
Nが教室で仲間にSさんとやった内容を語っているのを聞いたあのとき、
俺は気が遠くなった。「そんな世界があるんだ」って思ったね。
そして、その『世界』が別段特別でもなく、そこらにあり触れたものなのだと
わかっていくうちに、どうして自分は『世界』の外にいるんだと、悔しさを覚えた。
俺は『向こう側』に行きたかったんだ。だけれど、世界から外れたまま時間が過ぎ去り、
中学高校も大学でも、世界の内にいる人々が当たり前のように体験する恋愛という
イベントを迎えることなく、先月28歳の誕生日を迎えた。
青春というものがぽっかり抜け落ちた俺の代替物は、二次元だった。
アニメや漫画、ゲームのキャラクターのなんと愛らしいこと。
もうリアルの女なんてイラネって思ったね。
可愛いし、優しいし、処女だし、俺を避けないし、裏切らないし、
三次元の女よりよっぽどいいじゃん。金と時間と気使って醜いビッチの
相手するなんて馬鹿じゃないの? 俺って『向こう側』の人間より
よっぽど『生き方』ってのを知ってる情強だって悟った気でいたね。
だけど、本当は気づいてたよ。いや気づきたくなかっただけなんだよな。
それがただの逃避行動でしかないってことに。
俺は世の中のキモヲタ同士達、そして自らに問いたい。
「本当はリアルの女とセクロスしたいんだろ?」、と。
「リアルの女なんて興味ないし」というのが俺たちのお決まりの回答だけどさ、
正直なところ、したくないわけがないんだ。ああ、したいよ。セクロスしたいよ。
それも飛びっきり可愛くて性格の良い美少女とチューしたりペロペロしたり
パコパコしたいよ。デートしたりイチャイチャしたり一緒にゲームとかしたいよ。
人恋しいから、愛が欲しいから、代償行為として二次元に走るんだよ。
飢えてんですよ、俺たちは。
じゃあ頑張って彼女作れよ、と言われても困る。
開き直りだとは自覚しているが、そんなものは無理だ。
それは俺の生きてきた年月が証明している。
高望みするから彼女ができないんだと言われれば、
はい、高望みしてます。それが何か? と答えよう。
『向こう側』の人間には理解できないだろうが、今さらレベルの低い女で
妥協することなど出来ないのだ。というかレベルの低い女、イコール我々の
女版であるルサンチマンを抱えた女たちも、俺たちのようなレベルの低い男は
お断りなのである。長年の不遇な環境により、自尊心は増大し理想は果てしなく高くなる。
心はやせ細ってシワシワだ。そんな所に汚水を注ぎこむのは許されないのだ。
俺の心が満たされるには、『向こう側』の人々と肩を並べられるほどの
一発大逆転が起きなければならない。恋愛経験0の俺でも、スーパー美少女と
付き合えれば、今までのマイナスがチャラになるはずだからだ。
……実際は、美少女の彼女が出来ようと過ぎ去った時間は戻らない。
そもそも出来るはずもない。ありえない。そんなことは俺の妄想の中でしか起こらない。
だから俺は、世界の外側で、アニメキャラを俺の嫁と称し愛で、毎夜抱き枕相手に
愚息を擦りつけ、性欲を発散する。それにより俺は『向こう側』に行きたいという
欲求を抑えつけ、事実恋愛だのセッ○スだのというものに、感心が薄れつつあった。
そう、昨日までは。
昨晩、あの女と出会ってしまったことにより、俺の意識は急速に
世界のあちら側にぶれた。眠っていた欲望が、目を覚ました。
可愛くて、色気がたまらなくて、どこか非現実的で……まあ、悪魔というのを
信じるのならば非現実極まりないのだが、オタクの俺にとっては些細な問題、
むしろソソる属性であり、とにかくあんな美少女はお目にかかったことがない。
難点はヤリマンということなのだが、俺はそれを嘘であってほしいと
願っている。悪魔は信じてヤリマンは信じないというのはおかしいが、
俺の妄想内では、ビッチぶってるけど本当は純情で処女の
悪魔っ子(もちろん俺にベタ惚れ)ということになっている。そうであってほしい。
もう一つ問題を述べるなら、あのDQNな性格だが、あれはいわゆるツンデレというやつで、
本当は優しくて甘えん坊な悪魔っ子(もちろん俺にベタ惚れ)なのだ、きっとそうだ。
そんなことを考えているうちに、アパートの前についた。
この中にあの子がいるんだと思うと、ドキドキしてきた。いや、本当にいるだろうか。
もしかして帰ってしまったんじゃないだろうか、そんな考えが頭をよぎると
少し胸が痛くなる。
ああ、俺は恋をしてしまったんだな。
なんだか甘酸っぱくてほろ苦いよね、
なんて28歳童貞が考えるには痛々しいフレーズが浮かぶぐらい、
あの子に惚れてしまった。
このドアを開けたら、なんて言おう。「ただいま」と飾らずに言えばいいか。
お腹は空いてないだろうか。近くのファミレスに一緒に食べにいこうか。
あそこはチョコレートパフェが美味しそうだったな。
やっぱり女の子だから甘いものとか好きだよな。喜んでくれるかな。
帰ったら一緒にゲームでもしたいな。悪魔ってゲームするのかな。
ああ、わくわくしてきた。よし、開けるぞ。開けるぞ……。
男「た、たじゃいまっ」
淫魔「おかえりー。ねー、ドラクエ9やってんだけど
これ主人公に悪魔選べないの? 天使とかウザいしー」
男「えっ……ドラクエ?」
淫魔「よっしゃーメタルスライム倒せた!」
男「あのさ……それ、俺のドラクエだよね……。
あの、データは……」
淫魔「さー? あたし普通にセーブしたけど。
あっ、またメタル出た!」
男「ちょっ……300時間やった俺のデータは?
お、俺のデータは……あ……あ……」
淫魔「しらなーい」
男「って、このピザなに……え、なにこれ……」
淫魔「お腹すいたから注文したー。タンスのお金だしといたよー。
残ってるの食べていいよ。冷めてるけど」
男「な……金減ってる……しかもこれ一番高いピザ……。
こ、この、この……」
DQN、DQN、DQN、この糞DQN……!
ドラクエ9だけにDQNってか、ってやかましいわ!
あああああああこのアマああああああああああああ!!
男「お、お前なあ! ふざけ……ふっざけんな!」
淫魔「てれれてってれー! レベルアップー!」
男「て、え、なんか服変わってないか……。
それにお前がくるまってる布団、どっから持ってきたんだよ……
まさかそれも……」
淫魔「あーこれ? 隣の部屋の子が貸してくれた。
あの格好だとあんたすぐパンツ見ようとするしさー。
このロングワンピ可愛くない? ねえねえ」
男「……」
淫魔「あ、あの変な汁付いてそうな毛布捨てといたから」
男「うわああああああああああああああ!!」
淫魔「あらお出かけ? 帰りにカルピス買ってきてねー」
隣の部屋の子に借りたって、あ、あのアマ……。
俺全然親しくないのに、なんてことしやがる!!
ああどうしよう、どうしよう、謝りにいくべきか、
いくべきだろうな、いやでも、なんて言えばいいのか。
ご近所様にまで迷惑掛けやがって……ヤリマンDQNがあああ!!
男「ぐっ、落ち着け……落ち着け……」
ベルを鳴らして、それから、ええと……
とにかく謝って……。
男「あああああの、とととと、隣のや、矢野ですけどっ!」
お隣「あ……矢野さん……こんばんは」
男「ししし、知り合いが失礼したみたいで、そそそその、えっと!」
お隣「ああ、メリッサさんがさっきこられて……。
あんなお洋服しかなくて、ごめんなさい……」
男「いいいいえ、あ、あああの、謝るのはこちらのほうで!」
お隣「下着はさすがに私のお古をお渡しすると失礼なんで、
近くで買ってきましたけど、安物でごめんなさい……」
あ、あのアマ……下着まで要求するとか……。
お古は俺に下さい。ってそうじゃなくてっ!
男「ももも、申し訳ありません! あの、お、おいくらでした?
お支払いしますので!!」
お隣「いいですよ、おとなりのよしみということで。
お気になさらず。それにしても凄く綺麗な方ですね、メリッサさん。
あの……失礼ですが、矢野さんの恋人の方ですか?」
男「いいいいいえ! ち、違います、あんなアバズレ!」
お隣「そうなんですか……あの、メリッサさんに、また何か必要なものが
あればいつでも来て下さいと、お伝え下さい」
男「そそそそ、そんなアレしなくてもご心配なく!
あ、あの、どどど、どうもご迷惑をおかけしますたっ!
そ、それじゃ……」
お隣「あ、はい……こちらこそ」
あの馬鹿、ヴォケ、死ね死ね死ね死ね。
なんで俺がこんなことしなくちゃいけないんだよ。
それにしても……越してきてから今までまともに
顔見たこと無かったけど、割と可愛いじゃないかお隣さん。
……あの女のせいでアレな目で見られたのは確実だけどな!
お隣「あ……矢野さん」
男「は、はひっ!」
お隣「メリッサさんって……悪魔の方ですよね?」
え――?
お隣「あの、こういう事を申し上げるのは大変失礼なのですが……
悪魔の方は……その、人間に悪い影響を与えるといいますか……。
あ、あのっ、良い悪魔の方もいらっしゃると思いますし、
人間と悪魔の愛は大変素晴らしいと思いますが……その……」
男「あ……あの……」
何で悪魔って知って……。あいつが言ったんだろうか。
でも普通悪魔とか信じないと思うんだが。俺が言うのもなんだけど。
お隣「ええとあの……やっぱりその、悪魔的な行動は
よろしくないので……人間の生き血を啜ったりとか……
魂を奪ったりはいけないことなので、そういうことをなさろうとしたら、
矢野さんからご注意を……あ、あのほんと、失礼なことを申し上げて
すいません! メリッサさんは、その、優しそうな方なので、
大丈夫と思いますけど、私が見るに悪魔の方なので、一応……」
男「い、いえ……あ、あの女ちょっと頭がおかしいんで、
悪魔とかじゃないと思いますよ! た、たぶん……」
お隣「私でよければ、いつでもご相談に乗りますので……」
男「ど、どうも……そ、それでは……」
……。
お隣さんは頭の可哀想な人なのだろうか。
いやでも実際どうなんだ、あいつ本当に悪魔なのか。
淫魔「おかえりー。カルピスは?」
男「あのさ、お前本当に悪魔?」
淫魔「悪魔だけど? そんなことよりカルピスは?」
男「いやあの、証明とか出来ないの? 悪魔の」
淫魔「ほら、可愛いツノ生えてるでしょ。シッポも生えてるけど
見せるのやだー。お尻見られちゃうもん。で、カルピスまだ?」
男「隣の部屋の人が、お前のこと悪魔だって言ってたぞ。
下着を買ってこさせる悪魔ってな」
淫魔「ああ、たまに勘の鋭い人間いるんだよね。あたしが悪魔って
わかるんじゃない? ま、実害ないからどうでもいいけど。
カルピス」
男「……」
淫魔「カルピス!」
男「……」
俺のカルピス混ぜてやろうか、あのヤロウ……。
淫魔「だからこれじゃなくてもっと濃いの買ってきなさいよ。
ほんと使えない豚ちゃんね」
男「もう文句いう気も失せてきた……」
淫魔「ところでさ、コウイチ探しなんだけどあんた気づいたことあった?」
男「気づくもなにも、何をどう探せっていうの。どこの誰だよそれ。
つーか俺ってことでいいんじゃないんすか」
淫魔「よくないし! あんたなわけ無いじゃない。だいたい、コウイチは
こんな豚じゃなかったもん」
男「豚っていうほど太ってないし!
つーかそのコウイチとどこでどう知り合ったんだ?
それがわからないと探すも何も……」
淫魔「んーとねえ、あれは20年前……」
男「はい? 20年前?」
淫魔「そう、20年前」
男「え、ちょっと、え? お前生まれてないんじゃないの?」
淫魔「生まれてるわよ。あたしが5歳の時だもん」
男「え……えええええっ!? じゃ、お前25なの? えっ、
ウソつくな、ウソを! どうみても中学か高校生だろ、お前!」
淫魔「だって悪魔は寿命長いもん。人間の尺度で考えられても困るんですけどー。
悪魔の25歳はまだ子供なの。まーあたしはオトナの色気むんむんだけど」
男「中古ヤリマンでその上ババアとかおわっとる……AVならウンコ食わせられるレベル」
淫魔「ウンコみたいな顔してよく言うっ! で話戻るけど、20年前さー、
あたしがパパとママと人間の世界に旅行に来たの」
男「旅行って何を見るんだよ、悪魔が東京タワーに登ったりすんの?」
淫魔「するわよ。んであたし、パパとママとはぐれちゃって、どっかの教会に
迷い込んじゃったわけ。今じゃー別に教会なんて怖くないけど、あの時は
そりゃー怖かったわよ。おどろおどろしい雰囲気でさー。お化けが出そうな感じで」
男「突っ込みたいけどまあいいや……それで?」
淫魔「そしたらー、教会の見習いの糞ガキ共に見つかってさ。
悪魔だってバレていじめられたの。もー思い出しただけで腹が立つし!
今だったらぶっ殺してやるのにっ」
男「そりゃあいい気味っすね」
淫魔「で、あたし悔しくて泣いちゃってさー。誰か助けてーって思ったら、
そこにコウイチが現われたのよ! そんで糞ガキ共を追い払って、あたしを
助けてくれたの。ヒーローって感じであたし超嬉しかったぁ」
男「チッ、余計なことしやがって」
淫魔「で、あたしの手を引いてパパとママを一緒に探してくれたの。
それがあたしの初恋でねー。はぁー、会いたいなあ、コウイチ」
男「どっかで野垂れ死んでんじゃないすか」
淫魔「その教会ってのが、がこのあたりにあったはずなんだよね……」
男「ふむ、じゃあその教会に行って手がかりを探せば
いいんじゃないんすか。ネットで調べてあげるから
いってくれば」
淫魔「悪魔に一人で教会に行けっての? エクソシストとか
居たらイヤじゃない。あんた行ってきてよ」
男「お前さっき怖くないって言ってたじゃん」
淫魔「おーねーがーいー。ねー……」
男「う……そんな目で見るな……」
淫魔「ねー、今から行ってきてぇ」
男「もう遅いし閉まってんじゃないの……
まだどこにあるかもわからんし。今日調べておくから
明日でいいだろ? ていうかまだ飯も食ってないし」
淫魔「えー、まあいいや。明日絶対ね! あ、
ご飯買いに行くならあたしのもー。肉がいいな肉!」
男「冷めたピザでも食ってろ!」
淫魔「じー……」
男「う……」
あいつに逆らえないのは惚れた弱みなんでしょうか。
DQNのヤリマンのくせに……ぐぐぐ……。
男「すいません……しょうが焼き弁当2つください」
でも、だ。昨日と比べるとなんか仲良くなってる気がするよな、うん、
間違いない。友達みたいに馴れ馴れしいし、あいつも俺のこと
結構気に入ってたりするんじゃないのか。だよな、きっとそうだよな。
全く興味無かったらあんな風に馴れ馴れしくしないよな、でへへ……。
よし、カルピス買っていってやろう、濃いやつ。
それとデザート的なものも……。気が利く男はポイント高いはず!
男「ただいま……あれっ」
居ない。
男「お、おーい……便所か?」
反応ない。
男「……」
出て行った……?
なんで……どうして……?
何かあったのか? 何が……。
男「……」
30分経った。あいつは戻ってこない。
胸が苦しい。不安でたまらない。
昨日あったばかりなのに、なんでこんなに苦しいんだ……。
男「はぁ……」
淫魔「ふー、さっぱりした」
男「はぁ……って、え?」
淫魔「おっ、カルピスもーらい。あーご飯食べてきたから
それいらない。あんたが食べて」
男「食べてきたって、おい……どこ言ってたんだよっ!」
淫魔「マリアちゃんの部屋のお風呂借りてー、ついでに
ご飯もご馳走になってきた!」
男「は? マリアちゃん……?」
淫魔「隣の部屋の子」
男「……」
このアマあああああああああああああ!!
男「なんでお前風呂とか、お前、うちにもあるだろっ!」
淫魔「だってえ、掃除が行き届いてないしー、
あたしが入ったあとあんた残り湯飲みそうだしぃ」
男「飲むかヴォケ!」
まあ飲むけども。
淫魔「でねー、パジャマも借りちゃった」
どんだけ厚かましいんだこの、この、この、腐れDQNビッチは。
男「ぐぐ……お隣さんに謝りにいってくる……」
淫魔「なんでー? マリアちゃんニコニコしてたけど。
あ、もう寝るっていってたよ」
しょうがない、明日にでも菓子折り持って侘びにいくしか……。
それにしてもこの厚顔無恥のビチビチビッチめ……。
くそっ、くそっ、湯上りのいい匂いがして濡れた髪が色っぽくて……
叱りつけたくても見とれてしまうっ……!
淫魔「さーてドラクエしよっかな」
男「……」
淫魔「ねー、お弁当二つも食べたら余計に太るよ」
男「お前のせいで無駄になったんだろっ、ヴォケ」
淫魔「あんたって昔からそんなだったの? ね、昔の写真とか無い?
20年ぐらい前の」
男「さあ、実家にあるかもしれんが探すのも面倒だし無い。
いやきっと無い。あんまり写真とか撮った記憶無いし。てかなんでだよ」
淫魔「いやー、まさかあんたじゃないと思うけど一応見ておこうかとね。
まーあんまり覚えて無いんだけど、かっこよかった記憶があるのよね、
コウイチ。でもあんたはきっと子供のころから豚だよねー」
男「こ、子供の頃は細かったぞ! てかっ、今だってそんなに
デブってないし!」
淫魔「えー、このだらしないお腹で何言ってんのー?
ほらほら、これぇ」
男「つ、つつくな……ちょ……」
うう、恥ずかしいやら嬉しいやら……って、今俺は馬鹿にされてんだぞ。
喜ぶんじゃない……! ……くそっ、もっとしてください……!
淫魔「ちょ、何顔赤くしてんのキモっ。童貞丸出しっ」
男「お、俺はあれだ、純なんだよ、汚れを知らないんだよっ!」
淫魔「ぷっ……いい歳して純とかあはははは!
キモい! ちょーーーーーキモいっ!」
男「うるさいな……ヤリマンのお前に言われたくないし!」
淫魔「ねー、あんたあたしのことヤリマンとか言うけどー、
それが淫魔のお仕事だしぃ。淫魔馬鹿にしてんのぉ?」
男「色んな男に股開く女とか最低だろ。貞操観念とかないのか」
淫魔「ないけど。そういうの人間の価値観だしぃ」
男「女の子っては貞淑であるべきで……2ちゃんじゃ中古の非処女は死ねってのは
常識だっ」
淫魔「にちゃん? なにそれ。てゆーかさあ、あんたこういうの好きなくせに、
言ってることとやってること違うくなーい?」
男「げっ……」
俺のエロ同人誌コレクション……!
こいつ、部屋漁って……ああああああ!!
淫魔「小さい女の子がエッチしまくってるけどぉ。
へー、こういうのでオ○ニーしてるんだぁ。キモーい」
男「ひ、人の勝手だろっ!」
淫魔「女の子とエッチしたいけど自信ないから、ロリコンに走ったりー、
処女に幻想持ったりー、レイプしちゃったりするんじゃないのぉ。気持ち悪ぅ」
男「そ、そういう偏見で俺たちオタクを迫害するな!
レイプなんてするかヴォケ! DQNじゃあるまいし……」
淫魔「あたしを襲おうとしたくせに」
男「ぐっ……」
淫魔「あんただってエッチしまくれるならしたいんじゃないー?
違うー? ヤリチンになりたいんだよねー?」
男「そそ、そんなんなりたくないし! 俺は一人の相手を大事にするタイプだし!」
淫魔「ふーん、あんた彼女いたことあるんだ?」
男「えっ……いやその……ゴニョゴニョ。よ、予定だよ予定」
淫魔「なにそれ。ただの妄想じゃん。彼女作ってから言えばー?
そういう男に限ってチャンスがあったら見境いなくやりまくるんだよねー。
あたしに無理やりしようとしたみたいにぃ」
男「ぐっ……ぐぐぐ……う、うるせえよ!
お前なんかに俺の、俺の気持ちが分かってたまるかっ!
お前はあれだ、その、取っかえ引っかえの男遊びしか
頭にないヤリマンだから感覚が麻痺してんだよ!
この、ヤル機械の真性ビッチ!! ぎぎぎぎ……ぎ……」
淫魔「取っかえ引っかえて、あたしはねー……ま、いいや。
そんなにカッカしないでよぉ。
あんたがあたしのこと馬鹿にするからちょっと反撃しただけー」
男「ううう……うっ……」
淫魔「あれ、泣いてる? 泣いちゃった? ごめえん」
男「泣いてないし! うう……死ね! 死ねビッチ! ううっ……」
淫魔「はぁー、死ねとかチョーヒドクない?
そんなんだから童貞なんだよっ。
あーあたしビッチだからイケメンのおち○ちん欲しいなー。
一週間ぐらいご無沙汰だしなー。イケメンとエッチしたいなー」
男「あー仕事だるかった……」
心労のせいで疲れが三倍増しだし、ったく……。
ああ、そういや教会とやらに寄る予定だったっけ。
男「……」
あいつなんかのために何で俺が、アホらしい……。
あーアホらしい。なんだかんだで場所調べてやったり
もう既にその場所に向かってる自分がアホらしい。
男「はぁ……」
あいつ何でも言うこときくっていってたから、
犬のウンコでも食わせてやろうか。けけけ……。
男「けけけけけ……あひひひひひ……」
お隣「あのー……矢野さん?」
男「うひょひょひょひょ……はっ!」
お隣「奇遇ですね、こんなところでお会いするなんて」
男「あ、あああああの、こここここんにちわ! なななな、
なんで、お隣さんがががが、って、てかっ! 昨日はあの馬鹿が
厚かましいことをしでかしまして、えと、その、すいませんっ!!」
お隣「ああ、いいんですよ。一緒に御飯食べて私も楽しかったです。
メリッサさんは良い悪魔の方ですね。私なんだか誤解してたかも……」
男「あ、あんなの、と、とんでもないDQNでビッチなので、あの、
つ、次きたら追い返してやってくださいっ!」
お隣「ドキュン……ビッチ? それは悪魔の呪術かなにかでしょうか?」
男「いえいえいえなんでもありません! ところでお隣さん
その格好もしかして……」
お隣「あ、はい。私この教会で修行させていただいてるシスターなんです」
男「えっ……シスター……?」
お隣「まだまだ未熟者ですが……そういえば矢野さん、この教会に御用ですか?
もしかしてメリッサさんのことでご相談か何か……?」
男「え……まあ、あいつのことと言えばあいつのことですが」
お隣「あの、じゃあどうぞお入りください」
男「ど、どうも……」
ううむお隣さんがシスターだったとは。
というか日本でそんな職業の人が隣に住んでるなんて
清々しいぐらいのご都合主義!
お隣「私はあまり悪魔に詳しくないので、修道女長を読んでまいりますね」
男「あ、どうもすいません……」
悪魔に詳しいとか詳しくないとか関係ないとは思うけども。
まあ20年前のことだから、古株の人に聞いたほうがいいよな。
修道女長「おまたせいたしました。この教会の修道女長のイザベラです。
悪魔のことでご相談があるとか」
男「ど、どうも……矢野と言います」
お隣さんが連れてきたのは、温和そうな初老の白人女性。
うむ、いかにもシスターって感じだな。
修道女長「悪魔に取り憑かれているとか……ではないようですね」
男「あ、いえそういうわけでは……」
お隣「イザベラ様、メリッサさんは良い方です。取り憑いたりは
しない……はずです、多分……」
ある意味取り憑かれてるけども。
俺のピュアなハートがドス黒い悪魔に汚染される寸前だ。
男「実はその、知り合いの馬鹿悪魔がですね、人を探しているんです。
20年前にこの教会で出会ったとか……」
修道女長「悪魔が教会にくるなんて、珍しいですわ」
男「ああその、馬鹿なので親とはぐれて迷い込んだとかなんとか……。
あんまり馬鹿だったんで教会の可愛いお子さんたちにいじめられたそうで」
修道女長「あら、可哀想……。悪魔だからっていじめるような
悪い子と言えば……あなたじゃないかしら?」
お隣「えっ! そ、そのあの、昔のことは、あのっ」
修道女長「この子は小さい頃やんちゃな子でねえ。いじめっ子だったのよ。
今じゃあすっかり大人しくなったけど。そういえばあなたが10歳の時も……」
お隣「あ、あのっ! そそそんな話はっ!」
お隣さんが昔いじめっこ……とてもそういう風には見えないんだけど。
てゆーか20年前ってことは、え、いくつだ? てっきり二十歳前後だと
思ったんですが。
修道女長「あなたが5歳の時よね? 覚えてるかしら」
お隣「も、もしかしたら私かもしれません……記憶にはないですが、
た、多分……はい」
修道女長「いじめた方は忘れてても、いじめられた方はいつまでも
覚えているものよ」
お隣「あうう……メリッサさんに謝らないとです……」
男「いえいえ! あんなDQNに謝ることなんてっ。
いじめられて当然の馬鹿ですからっ!」
修道女長「その悪魔さんが探しているのってこの子のことかしら?
いじめの仕返しされてくるといいわ。うふふ」
お隣「ひ……ひいいいいっ!」
男「あ、いえ、違います違います! その馬鹿悪魔は、
いじめられてる時に助けてくれた男の子に会いたいんだとか……」
お隣「そ、そうなんですか。ほっ……」
修道女長「男の子、ねえ……。うちは女ばかりですから、
うちの教会の人では無さそうね」
男「えっ、そうなんですか……。じゃあ、出入りしてた男の子とかは
いないんですか……?」
修道女長「礼拝にいらっしゃる方がお子さんを連れてくることは
よくあるけれど、よく見かけるような子は居なかったと思うわ」
男「そうですか……あの、その男の子はコウイチって言うらしくて、
偶然にも俺と同じ名前で……だからその、馬鹿悪魔が俺と間違えたとか
なんとか……」
修道女長「コウイチ……ねえ。あ、そういえば……。
ねえ矢野さん、あなたのお母様って矢野瑞絵さんと
おっしゃるんじゃないかしら?」
男「えっ……な、なんでそれを? 確かに母は瑞絵ですが……」
修道女長「どこか面影があると思ったわ。矢野さんが小さいころ、
お母様が何度かここに男の子を連れて礼拝にいらっしゃったことを
思い出したの。確かコウイチくんと言ったような……。
そう、あなたがあの時の……」
男「俺が……この教会……に?」
俺は体がゾワゾワするのを感じた。俺が小さいころこの教会に来ていた?
そういえば、母は熱心ってわけじゃないがクリスチャンだ。
教会に連れられて行った記憶が何度もある。でも、この場所じゃなかったはずだ。
俺は元々この街じゃなく隣街に住んでいて……そう、隣街の教会のことなら
覚えている。でも、ここは……。
男「あのっ、それって隣街の教会のことでは……ないですか?」
修道女長「ええ、隣の市にもうちと同じ教派の教会があります。
確かその教会が改修工事をしている間、こちらの教会にいらっしゃってたんだと
思うわ」
男「えっ……そうなんですか……」
お隣「じゃあ、もしかしたら、メリッサさんが探している男の子って
小さいころの矢野さんだったり……。それが縁でメリッサさんと
知り合うことになったんじゃないんですかね?」
男「あ……いや……どうで……しょう」
教会からの帰り道、ずっとさっきの事を考えていた。
やはり『コウイチ』とは俺のことだったのか。
いやまてまて、俺にそんな記憶はない。そう、あいつを助けた記憶が。
8歳のことだし確実に覚えているとは言えないが、思い出そうとしても
それらしき出来事が全く浮かんでこない。でも、あいつが俺の所に来たのと
昔俺があの教会に行ったことがあるというのは、偶然ではない、そんな気がする……。
男「ただいま……」
淫魔「おかえりー。ねー、お昼自分で作ったんだけど
残ってるから食べていいよー」
男「はい? お前が……料理したの?」
淫魔「そだよー。あたしの手料理食べたいでしょ!」
冷蔵庫に入ってるよ」
男「悪魔の手料理って……マトモに食えるんだろうな」
淫魔「多分ねー。あはぐれメタルきたきたー」
こいつ料理とかするんだ。家庭的なところあるじゃないか……。
女の子の手料理とか……うう、俺ってもしかしてリア充?
男「じゃ、じゃあ頂くかな……なあ、なんだこの……なに?
ゲロか? これ……」
淫魔「ビーフストロガノフだけどー。カルピス入れすぎちゃった」
男「カルピスって……これ食ったの? お前」
淫魔「食べてないよー。お昼は出前取った、うなぎー」
男「……」
タンス開けました。
うな重出前+ビーフなんとかの材料費のレシートに「ありがと(ハートマーク)」
って書いてます。お金減ってます。
死ねよおおおおおおおおおおおおおお!!
男「こ、この糞アマ……」
淫魔「あーねー、教会いってきてくれたんだよねー?
なんか手がかり見つかったー?」
男「あー……手がかりっていうか、なんていうか」
淫魔「なになに? コウイチ発見した? ねえねえどこにいるの!」
男「そのコウイチっての、やっぱ俺なんじゃないかな」
淫魔「はぁ? マジで言ってんの? 根拠はっ」
男「いやその……、俺昔、あの教会に何度か言ったことがあるらしい。
昔からいるシスターの人が覚えててさ」
淫魔「げっ……マジで? マジであんたなの……?」
男「いや、まだわかんないけど……第一、お前を助けた記憶とか無いし」
淫魔「記憶……あー……パパがコウイチの記憶消してたなぁ、そういや……」
男「へっ? 記憶を消した!?」
淫魔「うん、あたしら人間のふりはしてたけどさー、一応ばれると不味いからってさ」
男「娘の恩人なのに何してんだよっ、この悪魔め……」
……こいつの話が事実なら、記憶が無い矛盾は解消した。
ってーことはやっぱり……。
淫魔「はぁー……本当に本当かなー。
ねえ、あたしとエッチしたいからって嘘ついてない?」
男「嘘じゃないし! 嘘だと思うんならお隣さんに……あっ……」
淫魔「お隣? マリアちゃんがどうしたの?」
男「あ、いや……ええと……」
お隣さんが昔この馬鹿を成敗してたことを知られると不味い。
復讐とかしでかすに決まってる。
淫魔「ねーマリアちゃんがどうしたのー?」
男「な、なんでも……ないっ」
淫魔「マリアちゃんのとこ行って聞いてこよーっと」
男「お、おいっ。待てっ……」
淫魔「マリアちゃーん! あっそびっましょー!」
男「おいこら、何でも無いって言ってるだろ」
お隣「あ……メリッサさんと矢野さん。どうしたんですか?」
……女の子の部屋に上がるなんて初めてだけど……、
同じアパートなのにキノコが生えてそうな俺の部屋とは大違いだな。
可愛らしいしなんか良い匂いがするし……部屋の空気、袋に詰めて持って帰りたい。
淫魔「えーじゃあ、あんときのいじめっこの一人がマリアちゃんだったんだー」
お隣「あ、あの時は本当にすいません! メリッサさんに辛い思いを……」
淫魔「あーいいのいいの。全然気にして無いよーほんと。
そっかー、なんか世間って以外と狭いねー」
お前、いじめ体験を語ってた時はぶっ殺すとか言ってたくせに。
お隣「そ、そう言っていただけると嬉しいです……。
で、あの、昔矢野さんがうちの教会がいらっしゃったことは確かです。
修道女長が仰るなら間違いないと……」
淫魔「そーなのかぁ……。こいつがコウイチ、ねえ……。
こいつとエッチしなきゃいけないのかぁ。はぁー」
お隣「え、えええ、エッチ!?」
あ、やばい萌える。もっかい言ってくださいお隣さんっ。
淫魔「あたし淫魔だから。淫魔学校の卒業試験でねー、
先生に、昔教会で知り合ったコウイチって男の子を最初の相手にしてくださいって
言っちゃったの。まさかこいつとはね……はぁー……」
お隣「あ……なるほど、サキュバスさんなんですね。道理で凄く綺麗だなって……」
淫魔「えーあー……まあね~。あ、マリアちゃんも可愛いよ~!
あたしが男だったらほっとかないな~。この豚ちゃんとか絶対マリアちゃんのこと
オカズにしてるはず!」
男「……マジで死ねお前」
お隣「オカズ……? あの、そういえばお夕飯はまだですか?
よろしければご一緒にどうです?」
淫魔「あ、わるいねー。ごちになりまーす」
男「いえいえいえいえいえ、お構いなく! この馬鹿とっとと連れて帰りますので!」
淫魔「えーいいじゃーん。マリアちゃん料理上手なんだよー」
お隣「大したものは出来ませんけど、どうかゆっくりしていってください」
男「は、はぁ……。どうもすいません……」
お隣さんは親切で優しくておしとやかで、なんて素晴らしい女性なんだろう。
それに比べてこのDQNのヤリマンの糞っぷりは筆舌に尽くし難いぞ、まったく……。
そしてこんなに素敵なお隣さんじゃなくて、この馬鹿悪魔のことで
頭がいっぱいな俺も相当どうにかしてるけどな!
『コウイチ』は俺で確定したと言っていいだろう。ということは、こいつと……
することになるわけで……。それは俺が望んでいたことなわけで……。
今夜……今夜かな、するのは……ゴクリ。
男「っておい、お前なに人様の部屋荒らしてんだ!」
淫魔「おっ、アルバムみっけ! ねーマリアちゃんアルバム見ていい~?」
お隣「あ……はい、構いませんよー」
ちょっとお人好しすぎないか、お隣さん。
普通だったらこんなDQNはボコボコにして追い出すべきじゃないのか。
まあ好き勝手されてる俺が言えたことじゃないが。
淫魔「あらかわいい。小さいころのマリアちゃんちょー可愛い~」
男「……」
淫魔「わ、裸の写真とか。きゃーきゃー」
男「……」
淫魔「何見てんのよエロ豚。鼻息荒いし。裸とかウソに決まってるでしょ」
男「死ねよ……」
淫魔「あーねーマリアちゃーん。あたしも何か手伝うよー」
お隣「あっいえ、大丈夫ですよ」
淫魔「いーからいーから。せっかくご馳走になるんだし
お手伝いぐらい~」
男「おいコラ、お前が手伝うとゲロに……って、くそう」
……裸の写真ないかな?
男「……」
おおう、スク水写真発見。これはなかなかどうして……ハァハァ。
もって帰ろうか……っていかんいかん。
男「……」
育ちが良さそうな感じそのまんまだなあ。
小さい頃から幸せそうに笑ってるし。かわええのう。
男「ん……」
こっからは家族写真、か。お父さんとお母さんと……、
弟、いや兄……? なにこの、超イケメン……。
男「……」
何だ、何か気になる……。
お隣さんの兄の小さいころの写真……子供のころ……あった。
男「……」
……まて、まてまて。知ってる、俺はこの人物を知ってる気がする。
どこかで見た、どこかで見たぞ……どこだ……。
男「あっ……そうか……」
頭に電流が走ったみたいに、昔の記憶が溢れ出した。
俺はこの人物を知っている。この人物にあったことがある。
それは……20年前――
「なー、なにしてんの?」
「えっ……ぼく、お母さんといっしょに来てて……」
「ふーん。おれ、いもうとがここでしゅぎょーしてるんだぜ
なんかかっこいいよなしゅぎょーって」
「へえ……そうなんだ」
「なーおまえ、なんて名前?」
「えっ、名前? えと、やの……こういち」
「おー、かっけー! こういちって名前かっけー!」
「そ、そう……?」
「おれさー、ヨシュアだぜ? にほん人なのにさ……。
かんじはせかいの世に、わが主の主に……あ、主ってわかんねーかな。
とにかくヨシュアはないよなー、かっこわりぃ」
「そ、そうかな……。ヨシュアってゲームの人みたいでかっこいいとおもうけど……」
「そかー? じゃあさ、おれとお前の名前とりかえてくれよ!
おれがこういち、お前がヨシュア!」
「え、え? とりかえるって言ったって……」
「な、いいだろー? おれこういちだから、きまりな!」
「わ、わかった……ぼくがヨシュアね……」
「おー、にあってるぞーヨシュア! あっ、なんか庭のほうさわがしいから
ちょっと見てくる! またなー」
「う、うん……」
「マリアのやつ、またあばれてんのかなー。あのバカ」
……おそらくだが、その後いじめの現場を目撃した『ヨシュア』が
あいつを助けて、『コウイチ』と名乗った。
つまりあいつの思い出の『コウイチ』は……。
男「……」
お隣「ど、どうしたんですか矢野さん、お元気無さそうですけど……。
なんか変な写真でもありました……?」
男「い、いえ……」
お隣「あ、取皿置いておきますね」
男「あのっ……お隣さん……。お兄さんか弟さんがいらっしゃるんですか?」
お隣「あ、はい。兄が。写真見ました? 以前一時期ですけど、
今矢野さんがいる部屋に住んでたんです」
男「え……。そ、そうなん……ですか」
淫魔「ねー、これ吹きこぼれてるー! あちちちっ」
お隣「あっ、今いきまぁす」
男「……」
間違いない。間違いない……。『コウイチ』は俺じゃなく、
お隣さんの……兄だった。
男「どうも……ご馳走様でした。お世話になってすいません……」
お隣「いえいえ、またメリッサさんといらしてください。
こうやって人と食事するの、楽しいです」
淫魔「あたしお風呂入っていくからー。あとでねー」
男「あ……うん……」
……あの事を考えると、心が押し潰されそうになる。
あいつの理想の男、思い出の人、『コウイチ』は俺じゃなかった。
本物の『コウイチ』は、俺とは似ても似つかぬスーパーイケメン。
子供のころも超美少年。そりゃあ俺じゃないって否定するわけだ。
だけど、あいつはこの事実をまだ知らない。渋々だが俺のことを
『コウイチ』だと納得したようだ。あいつは『コウイチ』とセッ○ス
しなければいけない。それが卒業試験とやらの決まりだそうだ。
だから、このままいけば俺はあいつとすることになる。
多分一生のうち二度とないであろう、飛び切りの美少女で童貞を捨てる。
『向こう側』に行けるんだ、『向こう側』に……。
男「……」
そうだ、本物だとか偽者だとか知ったこっちゃない。
あいつだって、『コウイチ』とやらなけりゃいけないんだ。
俺が『コウイチ』で何の問題がある?
あいつは晴れて試験に合格、俺は幸せな体験をする、それだけだ。
そう、俺は今夜セクロスするんだ。想像すると鼓動が高鳴ってきた。
それにしても俺は未経験だ、どうしたらいいんだ。ああ、こんな時のために
男性向けファッション誌の「初めてのSEX特集!失敗しないためのマル秘テク30」
みたいなので勉強しておけばよかった……!
男「……」
布団は綺麗にしておいた、風呂も入った、爪も切った、歯も磨いた、
念のために一発抜いておいた!
あとは……コンドームはいいんだろうか。まあ淫魔ってぐらいだし生でも
大丈夫だよな……ああ興奮してきた! 落ち着け、落ち着け俺……。
男「……」
それにしても遅いな。お隣さんと話でもしてるのかな……。
まさか……アルバムを見て、本物の『コウイチ』に気づいたとか……。
ありえる、ありえるよな……もしそうなったら……。
淫魔「たっだいまぁ」
男「あ……」
淫魔「話こんじゃったー。まだ寝てなかったの?」
男「う、うん、まあ……」
淫魔「カルピス買ってきたー。一本あげる」
男「……ありがと」
淫魔「ふー、やっぱ濃いのおいしー」
あれ。しないの? しないのかな……。
淫魔「まさかほんとにあんただったとはねー」
男「えっ、あ、うん、そうだな……」
淫魔「人間、月日が立てば変わるもんだねー……」
男「お前だって子供のころと今とじゃ、変わってるんじゃないか?」
淫魔「あーうん……あたしはー……ま、あれよ、あれ!」
男「あれ?」
淫魔「……しよっか」
男「あっ……えと……」
淫魔「したくないの……?」
男「したい……です」
二人で布団の上に移動する。
こいつ、いや、メリッサが俺によりかかってくる。
お風呂上りのいい匂いがして、頭がくらくらする……。
そのまま俺の胸に顔を埋め……ゆっくりとシャツのボタンを外され、
素肌にメリッサの小さな舌が触れると、思わず声が出る。
男「ひっ……」
淫魔「敏感ね……童貞丸出しなんだから……」
そのまま何度も短いキスを肌に、乳首に繰り返される。
肌にあたるメリッサの顔がつるつるですべすべで、くすぐったい。
男「あっ……はっ……」
淫魔「可愛い声出しちゃって、コウイチ……」
メリッサは俺の首に手を回し、舌を首筋に這わせる。
だんだんと登ってきたメリッサの顔が俺の顔に近づき
顎を舐めていた下と唇が、俺の唇に到達する。
男「ん……んぅ……」
淫魔「んふっ……ぅん……」
鼻と鼻がこすれあい、頬と頬がぶつかりながら、
唇と舌を絡め合わせる。初めてのキスは、大好きな女の子とのキスは
幸せいっぱいで、いやらしくて、それだけで発射しそうになるぐらいの快感だった。
顔を離すと、頬を朱に染めたメリッサがとろんとした目で俺をじっと見、
背中に手を回しきつく抱きしめて、俺の肩の上で囁いた。
淫魔「コウイチ……ずっと会いたかったんだよ」
……俺の頭の中で、『コウイチ』が反響していた。
そして、得体の知れない罪悪感が湧き上がってくる。
俺は騙している。本当のことを知っててメリッサを騙している。
俺は『コウイチ』じゃない、コウイチじゃないコウイチジャナイコウイチジャナイ!
男「う、ううっ……」
淫魔「どうしたの? 緊張してる? 具合悪い?」
男「い、いや……大丈夫」
淫魔「そう……? コウイチのペースで、ゆっくりでいいからね……」
彼女はそう言って頭を撫でて、額にキスしてくれる。
優しい、愛らしい、可愛くて仕方がない。今までの彼女とは違う。
でもそれは、それは本物『コウイチ』に向けられた優しさであって、
偽者のコウイチである俺にじゃない……。
俺は豚ちゃんでしかないんだ……豚ちゃんでしか……。
男「ぐっ……くそっ……」
淫魔「ねえ、本当に大丈夫? それともあたしともするの、イヤ……?」
男「う、ううん……俺、嬉しい、よ……」
淫魔「うん……ありがと」
そうだ、彼女のためを思うなら、愛してるなら、俺は『コウイチ』で
あり続けたほうがいいんだ。それが、お互いのためだ……!
男「えと、その……勃れて、いい、かな……」
淫魔「うん、いいよ……」
悩んでても仕方ない。
挿入したい、射精したい、気持よくなりたい! そうだろう? 俺。
『向こう側』に行けるんだ。こんな美少女を抱けるんだ。
勝ち組、俺は勝ち組っ。ワハハハハ!
淫魔「脱がすね……んしょ……」
男「う、うん……」
メリッサが俺のトランクスに手をかけ、下ろす。
生地にこすれた刺激に反応して、ビクンと揺れる。
露出した男性器はとっくにガチガチになって先走り汁を垂らしている。
それに軽くキスしてから、彼女は寝転ぶ。
足を開くと、綺麗な色の女性器がのぞいている。
俺は男性器をおそるおそるそこに近づける……。
淫魔「ん……もうちょっとこっち……」
男「あっ……」
メリッサの柔らかくて小さな手が俺の男性器を包み、優しくその位置に手繰り寄せる。
先っぽがほんの少し、柔らかい肉の中に沈む。
淫魔「いいよ……来て……」
男「う……ん……」
『向こう側』。俺は『向こう側』に行くんだ――。
男「はぁっ……はぁっ……」
行けよ、行け! カビの生えた童貞を捨てろ……。
今を逃したらこんなラッキー二度とないぞ……。
男「あぅ……あっ……あぁ……」
淫魔「どうしたの……? コウイチ……?」
行けよ……行け……意気地なし……。
男「ああああああっ……ごめん、ごめんよ……」
淫魔「初めてだから怖かった……? ごめんね、こんなことさせて……」
男「違う、違うんだ、違う……」
淫魔「どうしたの、ねえ……泣かないで……」
男「俺は……お前の思ってる『コウイチ』じゃないんだ……」
淫魔「え……何を言ってるのよ……あんたがコウイチじゃなかったら、
一体誰だっていうのよ。あんたしかいないよ……」
男「俺、見たんだ、思い出したんだ……あの時のこと、20年前のこと……」
淫魔「どういう……こと?」
……俺はお隣さんで見たアルバムのこと、20年前の記憶のこと、
以前この部屋に本物の『コウイチ』が住んでいたこと、そして
それを知っていながら今までメリッサに告げなかったことを、洗いざらい語った。
黙って聞いていた彼女は、聴き終わってから「最低……」と呟き、
俺と目も合わさずに服を着て自分の布団に潜り込んだ。
男「ごめん……」
淫魔「……」
男「ごめん……」
言うべきだったのか。言って誰が得をしたのか。
そりゃあ彼女にとっては、『コウイチ』が俺ではなくあのイケメンだった
ほうが良かっただろうが、それにしたって、彼女は俺を『コウイチ』として
受け入れてくれたではないか……。
でも、俺のプライドが、肥大した童貞のプライドがそれを許さなかったんだ。
騙しまま、彼女を抱けなかった。俺はそれほどオトナじゃないんだ。
オトナの経験をせずに育った、大きなコドモなんだ。
何が『向こう側』だ! そんなところに行きたくないね!
死ぬまで二次キャラでオ○ニーするだけの人生を過ごそうと、
俺は俺の世界が居心地いいんだ! 俺はこのままでいいんだよ!
男「このままで……」
翌日、仕事から帰ると、メリッサは十数時間ぶりに俺と口をきいた。
淫魔「マリアちゃんのとこ……いこうよ」
お隣のさんの部屋でアルバムを見せてもらった彼女は、
『ヨシュア』の写真を見て、呟いた。
淫魔「うん……確かにコウイチ、だね……」
お隣さんは「あなたのお兄さんとセッ○スしてもいいか」という
とんでもない要求をするメリッサに慌てふためいていたが、やがて
お隣「兄もいい大人ですので自分の行動は自分で決めると思いますし、
メリッサさんにその必要があるなのならいいのではないでしょうか……。
あ、あの、試験頑張ってくださいね……」
そう言って、部屋を出る時に東京に住んでいるという兄の住所を書いた紙を
メリッサに渡した。
男「なんか……その、本当に……ごめん」
淫魔「……」
男「俺、ええと、お前に……言っておきたいことが、あるんだ……」
淫魔「うん、聞くよ。なに?」
男「その、メリッサと知り合って、まだその、ほんの数日だけど、その、
あの、変に思うかも、しれないけど……」
淫魔「うん」
男「メリッサのこと……好きなんだ。だから、その……」
淫魔「……わかるよ。態度で」
男「そっか……そうだよな、バレバレだよな……」
淫魔「隠すのも下手だし告白も下手だし駆け引きも下手!
あんた、不器用だね色々と」
男「や、やっぱそうだよな……はは……」
淫魔「それで? それだけ?」
男「だからその……メリッサが好きで、だから、抱きたくて……
あのこと、黙ってた……ごめん」
淫魔「ふうん……」
男「で、でもっ! やっぱり、そういうのいけないって、思ってその、
俺、俺、メリッサが好きだから……」
淫魔「……」
男「俺……うううっ……」
淫魔「じゃ、行くから」
男「メリッサ……」
淫魔「ねえ……」
男「……うん」
淫魔「あんたが『コウイチ』のこと何も言わなかったらそれで済んだのに」
男「え……それどういう……」
淫魔「それじゃね、バイバイ」
男「あ……うん……」
――メリッサは、本物の『コウイチ』であるヨシュアの元にいってしまった。
そして、一週間のうちに7人の男とセッ○スするという試験の内容を
忠実に遂行するのだろう……。
その後彼女はどうするのだろう。憧れのヨシュアと恋に落ちるのか。
あれほどの美少女で、それになんてったって淫魔だ。男を愛欲に溺れさせるぐらい
造作もないはずだ。だが、淫魔サキュバスは、男とセッ○スして精を奪う
悪魔だという。ならばやはり、これからも数えきれないほどの男と愛し合うのだろう。
だから――メリッサを、彼女のことを、愛してしまうべきではなかった。
コウイチが誰であろうと関係なく、いずれは同じ思いをしたに違いない。
彼女は悪魔で、人間とは生きる世界が違うんだ……。
叶わない恋だって分かってたはずなのに、ああ……俺の馬鹿野郎。
男「うっ……泣き虫すぎるだろ……くそっ……」
その夜は枕を泣き濡らした。朝目が覚めても、当然メリッサはいなかった。
たった三日間のことだったのに、彼女の居ない日常がこんなにも寂しいだなんて
思わなかった――。
仕事の帰り、浮かない顔をしている俺を不審に思ったのか
同情したのか、お隣さんが声を掛けてくれた。
お隣「矢野さん……今お帰りですか? 元気、出してくださいね……」
男「あいえ、大丈夫ですよ……」
お隣「矢野さんは……メリッサさんのことを、その、
好き……でおられたんですよね?」
男「いやまあ、なんというか……」
お隣「メリッサさん、よく矢野さんのことを楽しそうに
喋ってました。きっと、矢野さんのこと大好きだったと思うんです!」
男「いや……そんなはずないですよ……」
お隣「矢野さんのこと褒めてらっしゃいましたよ。
美味しい物を食べさせてくれるとか、子供好きの人だとか……」
男「あ、いや、ははは……」
おおおおおい!! 子供好きの意味が違うし!!
ああああああああのヴォケえええええええ!!
お隣「それにその、私凄く下世話なことをしてしまったのですが……
うう……メリッサさんには言わないでほしいのですが……ええと……」
男「な、なにがです?」
お隣「兄にその、電話して、最近どうしてるか聞いてみたんです。
そしたら、昨晩女の子が突然きて、あのっ、そのっ……ゴニョゴニョ。
ででで、で、すぐに帰ったそうです! 夢だったのか現実だったのか
よくわからなかったって、兄が……」
男「そう……なんですか」
お隣「だってだって、兄は、『コウイチ』さんは憧れの人だったはずでしょう?
なのに、だからその、あの……もうちょっと……ゴニョゴニョ……」
男「あ、あ、わかります、わかりますので無理せずにっ」
お隣「だから、メリッサさんは矢野さんのことがきっと好きなんですよっ!」
男「ないですよ……ほんとに」
お隣「ででで、でもっ……あう……なんか出しゃばって、すいません……」
男「いえ……気を使わせてすいません。色々とご迷惑をおかけしました」
お隣「い、いいえっ! あの、矢野さんがメリッサさんと結ばれるように、
私神さまにお祈りしますから!」
お気持ちはありがたいんですが、聖職者がそういうこと祈っていいんですか。
人間と悪魔ですよ。無理があります……。
――メリッサさんは矢野さんのことがきっと好きなんですよっ
男「……」
あれだけキモいだの豚だの言われて、イケメン好きのあいつが
俺なんかを好きになるはずないでしょう……。
それこそ妄想、ファンタジーだ……。
今ごろは試験とやらでどこぞのイケメンとよろしくやってることだろう。
そしてこの先もずっと……。
男「あー、明日はやっと休みだ……」
仕事を終え、アパートに戻る。
相変わらずメリッサはいない。いるはずがないのに、
ドアを開ける前はどうしても期待してしまう。
男「はぁ……」
俺はいつまでメリッサのことを思い続けるのか。
飯を食ってても、風呂に入ってても、あいつの顔が
思い浮かんでしまう。今、寝る前だって忘れられない。
男「……」
メリッサが遊んでたDS。あいつドラクエクリアしたのかな。
DSに触れると、彼女に触れているような気がして胸が苦しくなる。
男「メリッサ……」
淫魔「やだキモい。変態っ」
男「……え?」
淫魔「いくら童貞とはいえ、ゲーム機に欲情するなんて
たいした変態ねー」
男「メリッサ……な、ななななんで!」
淫魔「あーべつにあんたが恋しくて戻ってきたとかじゃないからっ。
魔界に帰る前にちょっと寄っただけー」
男「そか……俺、また会えて嬉しい」
淫魔「そりゃどーもっ。そういやーあんたと約束してたよねー。
コウイチを見つけてくれたら、ひとつ言うこと聞いてあげるって。
あたし義理堅い悪魔だからぁ、約束守ろうかなーって」
男「え、あ、そういや、言ってたな……」
淫魔「ほら、何かあったら言いなさい。ほら早く。
じゅー、きゅー、はーち……」
男「ちょちょちょ、まて、まってって」
……何かメリッサにお願いすること……。
そんなの、そんなの……一つしか……。
男「彼女になってくれっていうのは……」
淫魔「無理っ。あたし淫魔だよ?」
男「わかってるよっ。言ってみただけだ、冗談だよ……」
淫魔「ほらほら、なーな、ろーく、ごー……」
男「えと、えっと! ……また、会いたい」
淫魔「それだけ?」
男「えと……喋ったり、一緒に御飯食べたり、したい……」
淫魔「うん、いいよ。あたしも忙しい身だけどー、暇があればねー」
男「うん……ありがとう」
淫魔「でさ、あたしからもお願いっていうかー、まーあんたに
拒否する権限なんてないんだけどもー」
男「な、なに。カルピス買ってこいってか?」
淫魔「あたし6人の男とエッチしてきたんだよねー」
男「そ、そうか……あと一人だな……」
淫魔「もー、そんな嫌そうな顔しないでよー。ヤリマンでごめぇん」
男「だって……」
淫魔「最後の一人探すのもメンドイしー、あんたでいいかなーって」
男「はっ……?」
淫魔「あんたとエッチするって言ってんのー。なにー、嫌なのー?」
男「そそそ、あええええああああ、あの、あっ、いっ、」
淫魔「キョドりすぎ! で、どうなのっ!」
だってだってだって、そんなこと言われても……。
男「同情なら……いいよ」
淫魔「へっ……」
男「俺がメリッサのこと好きだから、だから同情してそんな風に……」
淫魔「あのねー……。ふん、じゃもういいよ! 他の男探してくるから!」
男「うう……それも嫌だ……」
淫魔「もう、どっちなのよ! あたしうじうじしてる男嫌いっ」
男「あの、その……ゴニョゴニョ」
淫魔「なにっ。大きな声でっ」
男「どどど、童貞ですが、よろしくお願いします……」
淫魔「よろしー」
緊張しながら服を脱ぐ。悲しい男の性かなとっくに股間は大きくなっている。
メリッサの綺麗な細い裸体が目に入ると、心臓が口から飛び出しそうになる。
淫魔「コウイチの……好きにしていいよ」
男「え、あの、ええと……」
淫魔「緊張しなくていいんだよ。ね……」
メリッサはそう言って優しく抱きしめてくれる。
彼女の鼓動が伝わってくる。
あの時と同じように優しく、コウイチと呼んでくれながら。
優しく、俺とひとつになってくれた。
淫魔「下手くそっ」
男「ご、ごめん……」
淫魔「全然気持ちよくなかったっ。バカっ。ド下手っ。童貞っ!」
男「うう……仕方ないじゃん……てかもう童貞じゃないような……」
淫魔「でも、あたし……幸せだよ」
男「えっ……」
淫魔「好きって言ってくれて嬉しい。ありがとうね」
男「え、え、う、うんっ」
淫魔「あたしさー……彼氏できたことないんだー。告白されたこともないしね」
男「へっ。またまた……ご冗談を」
淫魔「ほんとだよ。だってあたしブスだし性格悪いもん。
彼氏なんて出来るわけないじゃん」
男「は、はい……? ブス……って」
性格はともかく……いやいや性格だって良いし! メリッサは優しいし!
こんな良い子居ないし!! DQN? そんなこと言ったっけ、覚えてない。
というかブスってなんだ。そんな顔してどの口が言うんだ。
淫魔「んとね、あんただから言うけど……あたし魔術で顔いじってるの。
まー人間風に言えば整形ってやつ? 淫魔学校入る前は、そりゃーもう
ドブスだったんだから。思い出したくないぐらいね」
男「え、そ、そうなのか……」
淫魔「嘘じゃないよ、マジ。ショック? 軽蔑した?」
男「そ、そんなことない! 軽蔑なんて断じてしない! 絶対!」
淫魔「そう、優しいね。……あたしがこんなに性格悪いのも、
ブスだったから……ううん、勝手にブスのせいにして性格悪くなっていったんだぁ。
どうして自分は他の悪魔と違って、恋愛も出来ないんだろうって。
なんていうかさ、負のスパイラルっていうの? そんな感じ」
男「ああ……うん、俺にもそういうの、わかるよ」
淫魔「そー? わかってくれるー? でねー、あたしそんな自分を
変えたくて、淫魔になろうとしたんだよね。ほら、淫魔って美形じゃないと
成り立たないじゃない? だからブスの子は入学するときに魔術で
美形にしてもらえるの」
男「へぇ……悪魔って便利なんだなあ」
淫魔「まーでも、やっぱ基本的に淫魔目指す悪魔は元々美形なんだぁ。
あたしみたいな元ブスは殆どいないし、ブスだったのみんな知ってるしねー。
インキュバスの男の子だって、授業であたしとエッチするの嫌がってるのわかるもん。
それでもあたしヤリマンだから、イケメンとエッチするのが嬉しくてさっ。
……ごめんねーこういう話やめたほうがいいよね……」
男「い、いやっ、聞く、聞かせて!」
淫魔「悪いねー。なんか吐き出したくて。コウイチとマリアちゃんみたいに
なんでも話せるような友達が出来たのも初めてでさ……。あ、さすがに
マリアちゃんにはこんな話できないけどもっ。あの子純情だから引いちゃうよ!」
男「はは……そういうの苦手そうだもんな」
淫魔「だよねー。……あたし、コウイチとマリアちゃんと出会えてほんとに
良かったと思う。あたしコウイチのこと、大好きだよ。
好き、好き好き好き! 大好きっ! ちゅーっ」
男「わ、わふっ、むむむっ!」
淫魔「ふーっ。あんたさあ、あの時本物の『コウイチ』がどうのこうの
言ってたけど、別にどうでもいいのそんなのっ! でも聞いちゃったものは
どうしようもないし……。ほら、悪魔って地獄耳だからそういうの先生にもわかるのっ」
男「そ、そうなのか……ごめん……」
淫魔「別にそこまで本気で昔の『コウイチ』のこと、思ってたわけじゃないしっ。
しょせん子供のころのことだし……。あたしは、あんたでよかったの! バカ……」
男「俺、ほんとに馬鹿だ……ううっ……ごめんな、ごめん……
でも、メリッサがそんな風に思ってくれて嬉しいよ……うううっ……」
淫魔「もー、童貞はそうやってすぐ泣くんだから」
男「うっ……童貞関係ないしっ。てかもう童貞じゃないし!」
淫魔「童貞捨てたからって変に自信ついちゃって、ヤリチンになったりしてー?」
男「んなの、ないない! 身の程ぐらいわかるって」
淫魔「なにげにそういうパターン多いらしいよー?
マリアちゃん、コウイチに食われちゃったりして……いやーカワイソー!」
男「ちょ、ななな、何言ってんの。お隣さんにそんな、ありえん!」
淫魔「えー、マリアちゃん可愛いでしょー? それにあんたの好きな
純情っ子だしぃ。あ、処女だって言ってたよー」
男「そそそ、そんなこと、聞くなドアホっ」
淫魔「きっとあたしが居なくなったらマリアちゃんにいくと思うなー。
いやー絶対いくよ、うん、いくいくー」
男「行かないし! 俺は、あれだよ……メリッサ一筋だし」
淫魔「きゃーうれしー。もっと言ってぇ。言って言ってぇ」
男「てか、居なくなるとか……言うなよ。居なくならないよな……?」
淫魔「うー……だってぇ」
男「居なくなるの……だめだ」
淫魔「あたし淫魔なんですけどー」
男「わかってるよ。それがどうした」
淫魔「わかってない! 淫魔はねー、色んな人間とエッチするのがお仕事なの」
男「そりゃあまあ、そうだけども……」
淫魔「あんた……あたしがそういうことしてたらイヤでしょ?」
男「そんなの……しょうがないよ……」
淫魔「あんたそういうの嫌いでしょ? あたしがあんたの立場でも
イヤだよ。してほしくないよ……淫魔のあたしが言うのもなんだけどさ……」
男「でも、そんなの、俺我慢するから……」
淫魔「やだ! あたしだって辛いよ、そんなの……。
それに、そんな気持ちで淫魔としてやっていけないよ。
あたし、淫魔の道を選んだんだから、だから……」
男「ごめん……俺、自分のことしか考えてなかった……」
淫魔「ううんそんなことないよ。コウイチから愛がいっぱい伝わってくるよ!」
男「メリッサ……」
淫魔「コウイチ、あたし、あんたが大好きだよ。大好きだから……
これ以上一緒にいたら、あたし、淫魔として駄目になっちゃうよ……
だから……」
男「……」
淫魔「……もう、会わないでおこう?」
男「……うん、わかっ、た……」
淫魔「なんか、ごめんね。あたし……性格悪いね、ヤリマンで、最低だね……」
男「馬鹿、そんなこと言うなっ。メリッサは天使だ、馬鹿!」
淫魔「あはは、悪魔に向かって天使って。なにそれ、ひどーい」
男「あ、いや、ち、ちがっ……」
淫魔「あはは……ね、そろそろ行かなきゃ……」
男「あ……うん」
淫魔「あたし、立派なサキュバスになるね!」
男「ああ、応援してる……」
淫魔「……ね、目つぶって」
男「う……うん」
淫魔「いいっていうまで開けたらだめだよ」
男「りょうかい……」
彼女の唇を待つ。
誰だってそう思うこの状況で、彼女の唇を待つ。
待つ……。
男「も、もう開けていい?」
唇はいつまでも来なかった。
目を開くと、メリッサは消えていた――。
同僚A「おうブーちゃん、飯食おうぜ」
男「あ、はーい」
以前と変わったことは……そう、さほど大きい変化ではないけれど、
同僚B「なに、ダイエットしてんの? そんな小さい弁当で足りんの?」
男「いや、ははは……」
同僚A「おーおー、女できたかー?」
その変化の要因を挙げるなら、ちょっとした気の持ちようの違いと言うべきか、
お隣「あっ……矢野さんこんばんは。お仕事の帰りですか?」
男「こんばんは。ええ、今帰りで」
『向こう側』だとか、『世界の外』だとか、そんな価値観を捨てて、
ありのままの自分を素直に受け入れることができたならば、
お隣「今から夕飯の買い物にいくんです。あの、よかったら
何かお作りしましょうか? ひとり分だけ作るのも味気なくて」
男「ああいえ、お構いなく! そんなの申し訳ないですよ」
案外、一人でも楽しく生きられるんだって、その程度の気持ちの変化だ。
お隣「別に遠慮なさらなくてもいいのに。あ、そっか。
そんなことしてるとメリッサさんに怒られちゃいますもんねー」
男「い、いえっ、あいつは……はは……」
あいつは……居ない。
あの別れの日から三ヶ月が経った。
時折、ひょこっと現れるんじゃないかと考えたりもする。
お隣「じゃあまた、矢野さん」
男「あはい、いってらっしゃい!」
だけれど、朝目を覚ましても、仕事から帰っても、あいつは居ない。
もしかしたら、あいつと過ごした時間は夢だったんじゃないかと思うこともある。
男「はぁー疲れた疲れた」
あれから淫魔、サキュバスという悪魔についてネットで調べてみたら、
夢魔とも呼ばれていると知った。夢の悪魔――なんだかあいつにふさわしいじゃないか。
男「晩飯何食うかなー」
あいつは……俺に夢を与えれくれた。
男「さって、オ○ニーして寝るか……」
淫魔「やだキモい。また小さい女の子のエッチな本でシコシコしてんの?」
男「うるせー馬鹿悪魔」
えっ――?
淫魔「相変わらず汚い部屋ねー。変な汁いっぱい染みてそう」
男「ぶーーーーーーっ!! な、ななななななな!!
おおおおお前、なななななんで!!」
淫魔「やほ。お久しぶりい。ねえねえ聞いてぇ!
あたし淫魔学校をめでたく卒業してぇ、じゃーん!
見てっ! サキュバス免許!!」
男「メリッサ……メリッサ……あうっ、ううううっ……」
淫魔「あーもう泣いてないでほら、見て見て!」
男「うっ……ううっ……おめでとう……おめでとうな……」
淫魔「えへへー、ありがとっ」
男「ううっ……でもなんか×マークついてるけど、なんで……?」
淫魔「あーこれ、だって淫魔やめたから。
卒業して免許受け取ってすぐね! だからこの免許も無効ー」
男「はっ!? ややや、やめたってお前、どどど、どど……!」
淫魔「いやーあたしさー、天使になろうかなーって!」
男「て……ん……し……天使!?」
淫魔「そー天使。淫魔学校出の悪魔とかだとー、最初から割と
位の高い天使になれるのよー。ほら、天界も魔界も人材の取り合いとか
色々あってー、まーいうなればキャリアアップ?」
男「そ、そりゃまた……す、すごい話で……」
淫魔「さっきマリアちゃんに頼んで例の教会に話付けてもらったしー、
修行することになったから、またよろしくね!」
男「よろしくって……え、また一緒に……居れる……のか?」
淫魔「なによ、嫌なのー?」
男「……あうっ……あううううっ……」
淫魔「もー、泣きすぎ! 泣き虫!」
男「だってだって……あうう……」
淫魔「ねー、さっきマリアちゃんと話してたんだけど、あんた手ー出してないんだね」
男「出すかよ、アホっ!」
淫魔「ふうん。じゃあー……まだあたしのこと……好き?」
男「わ……悪いかよ好きで」
淫魔「ふーん、そっか。そっかあ……」
男「メリッサ一筋だって言ったろっ」
淫魔「……う」
男「ど、どした?」
淫魔「か、カルピス買ってきて!」
男「は、はい?」
淫魔「う……カルピス! 飲みたいから……ぐすっ……早く!」
男「わ、わ、分かった……」
淫魔「ぐすっ……うっ……うっ、うわぁぁぁん……」
男「おーい、買ってきたぞー、って、なんで鍵閉めて……
こ、こら、開けろっ」
淫魔「まだダメ! ……ぐすっ」
おしまい。