狐娘「ウチは狐娘じゃ」
男「いやいや……え?」
狐娘「え?じゃのうて!」
男「だって、耳とか付いてるし……」サワサワ
狐娘「あ、コラ!耳を触るでない!」
男「尻尾もあるし……」モフモフ
狐娘「し、尻尾も触るでないっ!」
元スレ
狐娘「はよ働くのじゃ!」男「どちら様?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346145894/
男「ふぅ」
狐娘「何を落ちついとる!」
男「……夢?」
狐娘「ドアホっ!」バシッ
男「アイタッ!」
男「痛いってことは……現実?」
狐娘「無論、現実じゃ」
狐娘「お主があまりにも自堕落な生活を送っておるから、見るに見かねてこの狐娘様が来てやったのじゃ!」
男「えー……」
狐娘「くぅ~、何というだらしのない返事じゃ!いや、返事ですらないか……」
狐娘「お主、今年で一体いくつになるんじゃ!?」
男「24?」
狐娘「何で疑問系になる……しかも、今年で25歳じゃろうが!」
男「何でそんなに俺のこと詳しいの?」
狐娘「ええぃ、そんな細かいことはどうでもよい!」
狐娘「ともかく!その歳にもなって、働きもせず、一日ダラダラするその生活が目に余ったのじゃ!」
男「別に、誰かに迷惑掛けてる訳じゃないし……」
狐娘「お主、自分の両親にも迷惑掛けていないと?」
狐娘「毎日毎日、汗水流して仕事をし、仕送りしてくれている父上、母上に申し訳ないとは思わんのか?」
男「う~ん、思うけど……」
狐娘「だったらはよ働こうとは思わn……」
男「働いたら負けかなって」
狐娘「……」
男「だってほら、俺みたいな役に立たない人間が働いても、ミスばっかりで他の人に迷惑が掛かるだけでしょ?」
男「実際、高校の時代一週間だけバイトした時もそうだったし……」
男「だったら、働かない方がみんなの為にもなるかなーって」
狐娘「ば……」
狐娘「バカモノっ!!」
男「!?」ビクッ
狐娘「そんな考え方しとるから、一向に働く意思も湧いてこんのじゃろうが!」
狐娘「昼夜逆転した生活で、起きておる時はずっとあの機械の箱なんぞを眺めおって・・・」
男「パソコンのこと?」
狐娘「そうじゃ!一体これのどこが面白いのか……」Wクリックカチカチ
男「ぁ……」
PC「獣娘 18禁 画像」ミセラレナイヨッ!
狐娘「なっ……ななな……///」カァー
狐娘「ドアホっー!!」バキッ
男「あー!!」
=部屋にて=
狐娘「何というもんを見とるんじゃ!!」
男「何もパソコンぶっ壊さなくてもいいだろ!!」
狐娘「お主が変なモノ見せるからじゃろうが!!」
男「お前が勝手に触って見たんだろうが!!」
狐娘「ハァハァ……」
男「ハァハァ……」
男「あー、疲れた……」
狐娘「誰のせいだと思っておる……ハァハア……」
男「くそっ、パソコン高いんだぞ!」
男「生活ギリギリの今の仕送りじゃ新品どころか、中古も買えないぞ……」
狐娘「カッカッカ、良い機会ではないか」
狐娘「これをきっかけに働いてみるんじゃ!」
男「……」
狐娘「ほれほれ、よく考えてもみろ」
狐娘「今まで、そのぱそこんとやらに使っていた時間を全部他の事に使えるんじゃぞ?」
男「……どの道、金が無いとパソコンも買えないしな」
狐娘「うむうむ!」
男「久しぶりにスロットでも……」
狐娘「ドアホっ!!」バシッ
男「痛ってぇ!何するんだよ!」
狐娘「ギャンブルみたいな運なんぞに頼るでない!」
狐娘「お主はまっとうに働いて稼ごうとは思わんのか?」
男「だから、俺が働いたって……」
狐娘「ええぃ、お主は自分を卑下し過ぎなのじゃ!」
狐娘「憶測で物事を進めるでない!実際に行動せいっ!」
男「……」
狐娘「行動して、失敗したなら、その失敗を次に活かすんじゃ!」
狐娘「そうやって努力すれば、報われぬ者など居りはせん!」
男「……分かったよ」
狐娘「おぉ!ようやく分かってくれたかの!」
男「確かに、こう言う機会じゃないと、動く事なんて無さそうだからな……」
狐娘「うむうむ!そうじゃそうじゃ♪」
男「けど……」
狐娘「けど?」
男「外に出る為のまともな服、ほとんど無いんだよな」
狐娘「……」
=買い物=
狐娘「全く、いままでどんな服装で外に出てたのやら……」
男「いっつもすぐそこにあるコンビニで間に合ってたんだよ!」
狐娘「だからと言って、ジャージしか持っていないとはのぅ」
狐娘「お主には季節と言うものがないのか?」
男「うるさいなー、だからこうやってユ○クロで服買っただろ~!」
狐娘「ふむ、まぁウチのこーでぃねいとじゃ!自信を持つがよい!」エッヘン
男「そんなぺたんこな胸張られてもなぁ」
狐娘「何か言ったかの?」
男「今日もいい天気だなー、と」
男「てか、お前……」
狐娘「ん?」
男「耳と尻尾、隠せるんだな」
狐娘「当たり前じゃろうが、でなければおぬしと一緒に外に出たりせん」
男「だったら、今着てる着物も着替えた方が良かっただろ……」
狐娘「どうしてじゃ?」
男「すっげー周りから見られてたし……恥ずかしいだろ……」
狐娘「別に、人間の法に触れる事はしておらん、問題なかろう」
狐娘「……いや、幼女を誘拐する中年に見えると問題あるかの」
男「誰が中年だ!誰が!」
狐娘「カッカッカ!」
=部屋にて=
男「ふぅ~、数ヶ月振りにあんな遠い場所に行ったぜ~」
狐娘「あんな遠い場所って……400メートルも無かったじゃろうが!」
男「俺にとっては遠いの!普段コンビニ以外行かないんだから!」
狐娘「何で偉そうなのじゃ……」
狐娘「まぁ、そんな事はさておき、まともな服も買えたことじゃし、次のステップじゃ!」
男「昼寝?」
狐娘「お主の頭の中は一体どうなっておるのじゃ、3時間前に起きたばかりじゃろうが……」
狐娘「そもそもまだ12時じゃ!まずお昼ご飯を食べるのが普通だとは思わんのか!?」
男「今日はまともな時間に起きたから眠いんだよ……」
狐娘「駄目じゃ!規則正しい生活のリズムを作る為にも、お昼ごはんを食べるのじゃ!」
男「昼飯なんて別に食わなくても大丈夫だよ、1日2食で十分」
狐娘「ドアホっ!」バシッ
男「痛ってぇ!」
狐娘「お 昼 ご 飯 を 食 べ る の じ ゃ !」バシバシバシッ!
男「分かった!分かったから!痛い!割とマジで痛い!!」
狐娘「全く、ここまでせんといかんとは……ウチのか弱い手が真っ赤になってしもうたわ!」
男「どこがか弱いんだよ……大阪のおばちゃん並に凶暴だろ……」
狐娘「何かいったかの?」
男「沖縄の台風15号は大変だなー、と」
=お昼ごはん=
狐娘「毎日コンビに弁当じゃと、体に悪くないかの?」
男「最近のコンビニ弁当は栄養も考えて作られているから大丈夫だよ」
狐娘「ふむぅ、しかし自炊する練習も……」
男「文句有るならこの油揚げは没収です」
狐娘「あぁ!!返すんじゃ!!ウチの油揚げ~!!」ピョンピョン
男(ちっこくて可愛いなぁ……これでもっと大人しければ……)
男「おっと、手が滑った」ポイ
狐娘「なっ……!」バッ!
狐娘「はむぅ!?」パクッ!
男「おぉ!ナイスキャッチ!!」パチパチパチパチ
狐娘「ウチはフリスビーをキャッチするワンコか!!」バシッ
男「イタタタタ!ごめんごめん!冗談だって!」
狐娘「まったく……」
男「それより、油揚げだけで腹いっぱいになるのか?」
狐娘「ウチは妖怪じゃからな、元来飢えでは死んだりはせん」
男「スゲー!狐妖怪様超エコじゃん!」
狐娘「そうじゃろう、そうじゃろう!凄いのじゃ!」エッヘン
男「じゃあ、この油揚げも10日分位に分けとくか……」バッ!
狐娘「あぁ!!食べ掛けてる物を取る出ない!!油揚げ~!!」バシバシバシ
男(和むなぁ……でもイタイ……)
=バイト探し=
狐娘「ご馳走さまなのじゃ!」
男「お粗末様でした」
狐娘「やっぱり油揚げは美味よのぅ~、後5袋はいけるのじゃ!」
男「一袋298円もする物をそんなに買えるかっての!」
狐娘「むぅ、では早く働いて自分で収入を得て貰わねばのぅ」
狐娘「ほれ、さっき買い物に出た時、取ってきたアルバイト雑誌じゃ」
男「うわ、しっかりしてんなぁ……」
狐娘「当然じゃ、これを無くして仕事探しは始まらん」
狐娘「とはいえ、いきなり正社員で入社しろとは思ってはおらん」
狐娘「まずはアルバイトで社会経験を積む事から始めた方が良いじゃろう?」
狐娘「出勤日や、時間帯もある程度融通が聞くはずじゃし……」
狐娘「それに自分の仕事に対する遣り甲斐を……ん?」
男「Zzz」
狐娘「……」
狐娘「こ……」
狐娘「このドアホっ!!」バシッ
男「痛ってぇ!!」
男「今絶対思いっきり叩いたろ!?あーあー!背中にもみじできてるし!!」
狐娘「お主がまともに話を聞かんからじゃろうが!!」
男「聞いてたよー!」
狐娘「じゃあ、どんな話をしておったか言うてみい!」
男「……狐娘ちゃんは可愛い!!」
狐娘「ほぅ、分かっておるではないか♪」
男(ホッ……)
狐娘「って、そんな訳あるかぁ!!」バシッ
男「ギャフン!」
=部屋にて=
男「結局、なかなか良いの見つからなかったなぁ……」
狐娘「お主が選び好みしすぎなのじゃろうが……」
男「それにしても、お前、えらい社会の近状に詳しいんだな?」
狐娘「当然じゃ!ウチら狐妖怪は、この情報力が武器となる事も多い!」
男「誰と戦っているんだよ……」
狐娘「現実とじゃ!」
男「……」
男「まぁ、明日もあることだし、今日はココまでにしとかないか?」
狐娘「ふむ、まぁ初日としてはこんなものかのぅ」
狐娘「明日もバッチリ手伝ってやるから、一緒に頑張るのじゃ!」
男「えー!明日もするのー!?」
狐娘「お主、ウチの事を短期集中の家庭教師か何かと勘違いしておらんか?」
男「だったらもっとボンキュッボンのお姉さんの方が……」
狐娘「何かいったかの?」
男「消費税下がらないかなぁ、と」
=晩ご飯後=
男「ふぅ~、晩ご飯も食べた食べた」ゲップ
狐娘「汚いのぅ、もっと綺麗な食事は出来んのか?」
男「他所に行ったらやりません、家だから大丈夫だろ~」
狐娘「まったく、そんなクセが付いていると他所様の所で出てもしらんぞ」
男「はいはい、分かりました~」
狐娘「はい、は一回じゃ!」
男「は~い、分かりましたよ~」
狐娘「ぐぬぬ……」
男「さて、風呂でも沸かすか」
狐娘「おぉ!そうじゃな!昼間炎天下に出かけたから、汗でベタベタなのじゃ」
男「だから、着物は脱げって……」
男「着物……って、あっ!!」
狐娘「ん?大きな声を出してどうしたのじゃ?」
男「お前!着替えは!?」
狐娘「そんなもの、持っておらん……」
男「どうするんだよ……俺んちに女物の服はないぞ?」
狐娘「別に夏じゃし、服など着んでも大丈夫じゃろ」
狐娘「それに、ウチらの体は人間よりも遥かに丈夫じゃからな、風邪などの心配もいらん」
狐娘「お主が気にすることは無いと思うのじゃが……」
男「いやいやいや、この家1Kだし、布団1つしか無いし!」
狐娘「落ち着きがない奴じゃのぅ、何をそんなにあたふたしておるのじゃ?」
狐娘「……ん?お主、まさか……」
狐娘「ウチの裸を想像して興奮したのか?」ズリズリ
男「ば、バーカ!!そんなんじゃねぇよ!!」
狐娘「ふふふ、本当かのぅ?」スリスリ
男「うわっ!離れろって!」
狐娘「何をそんなに顔を赤くしておる……」
男「あー、もう!俺風呂沸かしてくるから!///」
男「使ったコップとか洗っとけよ!!」ダッ!
狐娘「ふむ、何だかんだ言っても、かわいい所はあるんじゃな……」
狐娘「まぁ、寝る時はタオルでも巻いておれば良いじゃろ」
=お風呂=
男「はぁ~……」
男「なんか、1か月分くらいの疲れがドッと来たなぁ……」
男「それにアイツ、さらっと泊まる気でいたけど、」
男「はぁ……なんか上手く流されちゃってるなぁ……」
狐娘「男ー!」
男「ん?どうしたー?」
狐娘「入るぞ」ガララッ
男「なっ……!?」バッ!
狐娘「なんじゃ、折角背中を流してやろうと思って来てやっと言うのに、いきなり後ろを向く奴がおるか」
男「お前!せめてバスタオル位巻いてから入って来いよ!///」
狐娘「バスタオル残り2枚しか無かったからのぅ」
狐娘「ウチとお主の体を拭く分を取ったらマズイじゃろう?」
男「今お前の方がよっぽどマズイわ!!」
男「別に、俺とお前で一枚のバスタオルで拭けば、もう一枚は使えるだろ!」
狐娘「ふむ、まぁそこまで言うのなら仕方ないのぅ」
狐娘「よし、これで問題ないじゃろう?」
男「ハァハァ……何か余計疲れた気がする……」
狐娘「難儀じゃのぉ」
男「まったくだよ……」
狐娘「ほれ、背中を流してやろう」ワシャワシャ
男「あ、あぁ……ありがと……」
狐娘「お主、本当に女の裸に耐性がないんじゃな……」
男「わ、悪かったな!!」
男「どうせ彼女の一人も出来ない駄目人間ですよ!!」
狐娘「別に悪いとは言っておらんし、そこまで言っておらんじゃろうに……」
狐娘「むしろ、軽い男でなくて良かったのじゃ……」
男「え?」
狐娘「なんでもありゃせん、ほれ、流すぞ……」バシャー
=お風呂上り=
狐娘「ふはー!スッキリしたのじゃー!」
男「バカッ!裸で歩きまわんな!///」
狐娘「残り2枚のバスタオルを使ってしまったんじゃ、仕方なかろう?」
狐娘「それとも、あんなビショビショになったタオルを巻かせるつもりなのかの?」
男「ぐっ……!」
男(しまった……さっきはその場を回避する為に、後の事を考えて無かった……)
狐娘「と言うのはウソじゃ、実はもう一枚洗濯済みのものがあるのじゃ!」
男「なっ!?」
男「お前、騙したな!!」
狐娘「カッカッカ、お主のあたふたした姿が面白くて、ついのぅ……」
狐娘「昼間油揚げでからかってくれたお返しだと思うんじゃな」
男「ぐぅ……」
狐娘「とは言え、少しやりすぎた」
狐娘「スマンかったの……」
男「え?」
狐娘「嫌がらせをするつもりはなかったのじゃ」
狐娘「じゃが、お主が必要以上に驚いていたからのぅ」
狐娘「スマンかった」
男「何だよ、急に潮らしくなって……」
狐娘「悪いと思ったことは反省する、それがウチの生き方じゃ」
男「……」
男「俺も悪かったな、折角俺の為に来てくれたのに、今朝はキツイ言い方して……」
狐娘「では、これでおあいこじゃな?」
男「だな……」
狐娘「カッカッカッ!」
男「ははは……!」
狐娘「では、改めて聞こう」
狐娘「お主がまともに働ける様になるまで、この家にお邪魔していてもいいかの?」
男「……お手柔らかに頼むぜ」
狐娘「適度にビシバシ行かせてもらうがのぅ……」
男「はは……」
狐娘・男「よろしくなのじゃ! よろしくな!」
~1日目終了~
~2日目~
男「Zzz……」
狐娘「こりゃー!はよ起きんかー!」
男「ムニャムニャ……後5時間……」
狐娘「寝すぎじゃドアホっ!!」バシッ
男「痛ってぇ!」ガバッ
狐娘「お、ようやく起きたかの?」
男「イタタタ……そりゃそんだけ力いっぱい叩かれたら起きもするわ!」
狐娘「お主が起きんのが悪いんじゃろうが……」
狐娘「それに始めはちゃんと揺すって起こしたのじゃ!」
男「ぐぅ……マジかよ、最初から叩いてたんじゃないのか?」
狐娘「何かいったかの?」
男「iPhone充電してたかなー、と」
男「……って、まだ7時じゃん!?」
狐娘「うん?そうじゃが?」
男「普通14時間位は寝るだろ~!!」
狐娘「……」
狐娘「世の中のサラリーマンは5、6時間寝れたら良い方じゃというのに……」
男「と言うことで」
狐娘「?」
男「おやすみZzz」
狐娘「ど……」
狐娘「ドアホっー!!」バシッ
=朝食=
男「ぅ~、結局起きちまったよ……」
狐娘「当たり前じゃろうが、何の為にウチがここに居ると思うておるんじゃ!」
男「厳しいなぁ」
狐娘「当然じゃ」
男「……」
狐娘「それにしても、このばたーとーすとと言う物はなかなか美味しいのぅ」
男「そうかー?」
狐娘「うむ、穀物も良いが、たまにはこういった物も悪くはないのじゃ!」
男「ふーん、俺はここ一年位食べてたから、もう飽きちゃったなぁ」
狐娘「それでも食べるんじゃな……」
男「腹が膨れれば何でもいいからな」
狐娘「……」
男「それにしてもその着物、洗濯したのに全然しわになってないよな?」
狐娘「うむ、この着物は妖怪の絹を使って出来ておるかのぅ、そうそう形は崩れたりはせんのじゃ」
男「へー!便利だなぁ……」
狐娘「何より、この肌触りが気に入っておってのぅ♪」
男「お!ホントだ!すっごいサラサラしてる!」
狐娘「そうじゃろう!そうじゃろう!」
狐娘「現代の科学では、これは作れぬぞー」
男「マジか!?」
男「ってことは、これを売れば結構な額になるんじゃ……」
狐娘「お主、もみじがいくつ欲しいんじゃ?」ゴゴゴゴゴ…
男「スミマセン、まんじゅうの方でお願いします……」
=ご馳走様=
狐娘「ふぅ~、お腹いっぱいなのじゃ…」
男「食べなくても大丈夫なクセに、トースト3枚も食いやがって……」
狐娘「思った以上に美味かったものでな」
狐娘「次はじゃむや、ぴーなっつばたーも付けて食べてみたいのぅ」
男「ぐっ…今度から6枚切りのやつにしとくか…いや、7枚切りは無かったか!?」
狐娘「何を一人でボソボソ言っておるんじゃ…」
狐娘「さて、まぁそんなことよりも、新しい求人雑誌を取りに行く為に、今日も外に出るとするのじゃ!」
男「えー!今日も出るのかよ!?」
狐娘「当たり前じゃろうが!お主の場合は、特に外に出る訓練もしておかねばならんからのぅ!」
狐娘「それに、アルバイト募集の張り紙もあるかもしれん!」
男「ぐえー、日に当たると溶けるかも……」
狐娘「お主は吸血鬼か!ほれ、さっさと準備せい!」
男「へいへい…」
男「着替えとくから、お前も歯磨きしとけよー」
狐娘「うむ、しかし歯ブラシが無いのでな、男の物を借りておくぞ」テッテッテ
男「なっ!?おい待てよっ!///」ダッ
狐娘「冗談じゃ、昨日服を買いに行った時に一緒に買って来ておる」
男「……」
狐娘「カッカッカ、お主の慌てぶりはいつ見ても飽きぬのぅ」
男「くっそーっ!!」
狐娘「それとも……同じ歯ブラシ使った方が良かったかの?にっしっし…」
男「ななっ!?」
男「んな訳ねーだろ!///」
狐娘「カッカッカ!」
=お外に=
男「はぁ~……」
狐娘「なんじゃ、外に出たとたんため息など付きおって」
男「誰のせいだよ、誰の!」
狐娘「まぁそう言うでない、一日の始まりはこれくらい賑やかな方が良いじゃろう?」
男「はいはい、そーですねぇー」
狐娘「はい、は一回じゃと言うとるのに…」
男「で、具体的にはどこに行くんだ?」
狐娘「そうじゃのぅ、駅前の商店街などどうじゃ?あわよくば、そこで求人もしておるかもしれん」
男「商店街か……電車に乗る時以外行かないなぁ」
狐娘「駅前には求人雑誌も置いておるじゃろうしな」
男「まぁ、おしゃる通りで…」
狐娘「では早速向かうのじゃ!」タッタッタ
男「っておい、走んなってっ!」
狐娘「朝から軽いランニングも悪くなかろう」
狐娘「それとも何じゃ、こんな子供のランニングにも付いて来れんのか~?」
男「んな訳ねーよ!待ちやがれ!!」ダッ!
狐娘「カッカッカ、追いついてみるのじゃ♪」タタタッ!
=商店街到着=
男「ハァ…ハァ…ハァ…」
狐娘「ウチの勝ちじゃな~♪」ピース
男「もう……何でも……いいよ……ハァ…ハァ…」
狐娘「むぅ、さすがに少し飛ばし過ぎたかのぅ?」
男「お前……速すぎ……ゼェゼェ……」
狐娘「一応狐じゃしな、四本足で走ればもっと速いぞ?」
男「それだけは…止めてくれ…ハァ…ハァ…捕まりかねん…ハァ……」
狐娘「するならこの姿ではせんよ、狐姿以外で四本足は走りにくくて適わぬからのぅ」
狐娘「それより、少し休憩が必要じゃな?」
男「是非……お願いします……ゼェゼェ……」
=喫茶店=
男「ぶはー!死ぬかと思った!」
狐娘「大げさな奴じゃのぅ……」
男「くっそー、全力疾走しやがって!」
男「こっちは走るの何年ぶりだと思ってんだ!」
狐娘「そ、そんなことを偉そうに言われても……」
男「とりあえず、明日以降の筋肉痛が心配だよ……」
狐娘「まだ若いし、大丈夫じゃろう?」
男「一年間まともに使ってない筋肉をいきなり100%で使ったら若いも何も関係ねーよ!」
狐娘「ふむ、そんなもんかのぅ」
男「そんなもんなの!」
男「まったく……まぁ、たまには運動……しないとなぁ」
狐娘「そうじゃろうそうじゃろう♪たまには運動もせんといかんのじゃ!」
男「かるーくだけどな!」
狐娘「カッカッカッ!」
男「ふぅ、とりあえず飲み物でも飲むか……」
狐娘「う~む、良い香りじゃのぅ~」
男「ん?お前、ミルクティー好きなのか?」
狐娘「ふむ、みるくてぃーと言うのか、この飲み物は……」
男「知らずに頼んだのかよ……」
狐娘「何やらハイカラな名前じゃったからな、物は試しじゃ」
男「社会の情勢には詳しいのに、微妙なところは知らないんだな……」
男「って、お前……ミルクティーにどんだけ砂糖入れるんだよ!?」
狐娘「うむ?店員がお好みで砂糖を入れてくれと言っておったではないか」ザラザラ
男「ミルクティーは最初から甘いって……あーあー!砂糖3袋も入れてー!!」
狐娘「甘くてちょうど良いではないか!」ゴクゴク
男「うげぇ、良くそんな余ったるそうなもんゴクゴク飲めるな……」
狐娘「そう言うお主の、その真っ黒い飲み物は何というのじゃ?」
男「これか?これはコーヒーって言う大人の飲み物だ」
狐娘「なぬ?それではウチがお子様の飲み物を飲んでる様に聞こえるではないか!」
男「お子様じゃないのか?」ニヤニヤ
狐娘「聞き捨てならん!よこすのじゃ!」グイ
男「あ……!お前みたいな甘党じゃ無理だって……」
狐娘「ウチも大人だと言うところを……」ゴクゴク
狐娘「……」
男「お、おい……?」
狐娘「……」ダバー
男「うわっ!汚ねえな!口からこぼすなって!!」
狐娘「ケホッ……コホッ……うぅ……」
狐娘「な、何なのじゃこれは……生き物が飲めるものでは無かろう……」
男「だから、お前みたいな甘党じゃ無理だって言っただろ」
狐娘「大人子供うんぬんの問題では無い気がするが……」
狐娘「うぅ……騙されたのじゃ……」
男「騙してないし、てか勝手に飲むから……」
狐娘「無念…じゃ…」ガクッ
=商店街にて=
狐娘「うー……まだ胃が重い……」
男「見栄を張ったりするからだろ~」
男「子供は子供らしく、ジュースとかでいいんだよ」
狐娘「う、うるさい、第一、ウチは何百年生きておると……」
男「はいはい、ほら大丈夫か?」
狐娘「あまり大丈夫では無いが……いつまでもここで休憩しとる訳にもいかんじゃろう」
狐娘「本来の目的に戻るのじゃ!」
男「なんだっけ?ゲーム買いに来たんだっけ?」
狐娘「ドアホっ!」バシッ
男「イタタ!じ、冗談だって!」
狐娘「まったく、ただでさえさっきの件で気分が悪いのに、無駄な体力を使わせるでない!」
男「へぃへぃ」
男「それにしても、久しぶりに商店街に来たけど、随分変わってるなー」
男「ツ○ヤも出来てるし、宮○むなしも出来てる……」
狐娘「お主、最後にココに来たのはいつじゃ?」
男「うーん、あんまり良く覚えてないけど、1年以上前なのは確かだな!」キリッ
狐娘「どんだけ引き篭っとったんじゃ!!」
男「仕方無いだろー、別に商店街に来る用事なんてなかったんだから……」
狐娘「ふむ、まぁしかし、結構アルバイトは募集している様に見えるぞ?」
狐娘「ほれ、店頭にアルバイト募集中の紙が貼っておる所も多いし……」
男「お、ホントだ!どれどれ、そこのパン屋は……」
張り紙【時給800円(研修期間中750円)、週2回~ 4時間以上】
男「時給やっす!こんなので貴重な体力使えるかよ……」
狐娘「今のお主では、お金が貰えるだけありがたいと思うがのぅ」
男「だって、俺が高校の時にしてたホームセンターのバイトでさえ時給850円だったんだぞ?」
狐娘「一週間しか続かんかったがな」
男「ぐっ……!」
男「そ、そこのファミレスは……」
張り紙【厨房スタッフ:時給850円 週4回~ 5時間以上】
狐娘「おぉ!ここなら時給も最初から850円じゃし、どうじゃ!?」
男「週4回も俺に働けって言うのかよ!無理に決まってるだろ……」
狐娘「ドアホっ!毎日暇じゃろうが!」
男「プライベートな時間も必要だろ!?」
狐娘「休日なんぞ3日ありゃ十分じゃろう!」
男「足りねーよ!、しかも5時間も働いたら死んじまうだろ!」
狐娘「どんだけ貧弱なのじゃ!!」
男「貧弱で悪かったな!!」
狐娘「ド貧弱じゃ!!」
男「ハァハァ……」
狐娘「ハァハァ……」
狐娘「まぁ、こんなところで言い合っても何の得もせん……」
男「だな、他探すか……」
=夕方=
男「はぁ~……結局見つからなかったなぁ……」
狐娘「う~む、お主が求めておる仕事がいまいち分からん」
男「楽でお金がいっぱい貰える仕事!」
狐娘「お主のおつむは小学生かっ!」バシッ
男「イタタ!冗談に決まってるだろ~!」
男「まぁ、日々進歩してる気はするけどな……」
狐娘「うむ、まともに外に出れる様になっただけマシか……」
男「んだんだ!」
狐娘「まぁ、晩ご飯も買えたことじゃし、今日は帰るとするかの~」
男「す○家の牛丼……そんなに食べたかったのか?」
狐娘「肉乗せご飯、一度食べてみたかったのじゃ♪」
男「牛丼な」
狐娘「250円でこんな良いものが食べられる時代になっていたとはのぅ」
男「聞いてねぇ!」
狐娘「ふむ、しかし……まだ夏じゃが、18時にもなると日も落ちてきたのぅ」
男「ん?あぁ、そうだな……」
男「良い子は帰る時間だ!」
狐娘「誰が子供じゃ!」
男「って、前見ろ、前」
狐娘「ん?」
男「信号赤だって」
狐娘「おぉ、ウチとしたことがぎゅうどんに夢中で、うっかりしておった!」
男「どんだけ食いたいんだよ……」
ポーン…
男「ん?ボール?」
狐娘「ボールじゃな……」
男の子「あー!あっちにとんでいっちゃった!」タッタッタ
狐娘「あの子のボールの様じゃ」
男「みたいだな……っておいっ!!!」
車「ブロロロロー!」
男「あぶねぇ!!」ダッ
狐娘「おい!お主!!」
男の子「ふえ?」
車「キキッー!!」
男「っ……!!」バッ
男「……間……一発か?」
運転手「危ないだろうが!!赤信号で飛び出してくんな!!」ブロロロー!!
男「チッ……アッチも良く前方見とけってんだよ……」
男「君、大丈夫?」
男の子「う、うん……」
狐娘「だ、大丈夫か!?」タタタッ
男「あぁ、何とかなー」
狐娘「ビックリしたぞ、いきなり飛び出しおって……」
男「体が勝手に動いたちまったもん仕方ねーだろ…」
男の子「あ、あの…ごめんなさい…」
男「まぁ、無事だったからいいけど、信号は良く見て、な?」
男の子「うん……」
狐娘「ほれ、ボールじゃ!」
男の子「ありがとう、お姉ちゃん!」
男「ほら、良い子は帰る時間だ、お母さんが心配してるよ?」
男の子「うん、じゃあねー!」タッタッタ
男「……」
狐娘「ふぅ、無事で良かったものの、お主も無茶をするのぅ」
狐娘「いくらウチでもドキッとしたぞ…」
男「まぁ、仮に俺が死んだって、別に誰が悲しむ訳でもないだろ…」
狐娘「なん…じゃと…?」
男「そう思ったから、体も自然に動いたんだろうし……」
狐娘「このっ……」
狐娘「ドアホっ!!!!」
男「!?」
狐娘「誰かが死んで、悲まれん訳がないじゃろうが!!!」
狐娘「さっきの件じゃって、どれだけ心配したと思っておる!!!」
狐娘「なのに…なのに……」ポロポロ
男「お、おい!何も泣くこと無いだろっ」アセアセ
狐娘「冗談でも…そんな事……口にするでない……」ポロポロッ
男「……ごめん」
狐娘「……」
=帰宅=
男「ただいま~」
狐娘「ただいまなのじゃ!」
男「くっそー、荷物全部持たせやがって……」
狐娘「ワシを泣かせた罰じゃと言うておろうに」
男「はいはい、ったく……」
狐娘「さぁ、手洗い、うがいをして牛丼食べるのじゃ~♪」タタタッ
男「ホント、アイツ元気だなぁ」
男「あれ……でも、アイツっていつまで居るんだろ……」
-お主がまともに働ける様になるまで、この家にお邪魔していてもいいかの?-
男「……」
男「俺が……まともに働ける様になるまで、か……」
男「……まぁ、とりあえずは晩飯だな」
=晩ご飯=
狐娘・男「いただきま~す!」
狐娘「モグモグ……」
狐娘「……!」
狐娘「う、美味い……!!」
狐娘「こんな美味いもの……今まで食べた事ないのじゃ!!」
男「今までどんなもん食ってたんだよ……」
狐娘「鳥、ウサギ……虫もじゃろうか?」
狐娘「まぁ、人間の食べ物も勿論食べたことはあるが……」
男「鳥とウサギはまだ分かるけど、虫って……うへぇ」
狐娘「ウチらの中では普通なのじゃ」
狐娘「お主たち人間が加工した食材を食べるのも、ウチら狐の中ではありえん話じゃ」
男「へー、ステーキとか美味いけどなぁ」
狐娘「昆虫も美味いぞ?」
男「食ってる時に虫の話するなよ……」
狐娘「ぐぬぬ……」
狐娘「ところで、お主のそれは何じゃ?」
男「ん?これは焼き鳥丼だけど…」
狐娘「おぉ!それも一口欲しいのじゃ!!」アーン
男「アーン、って!自分の箸で食えばいいだろ!?///」
狐娘「……」アーン
男「あぁ!もう!ほらよ!」ガバッ
狐娘「んむ!?」
狐娘「モグモグ……ゴクン」
狐娘「ふぅ、何も押し込まんでも良いじゃろうに……じゃがこれも美味いのぅ」
男「そりゃどーも」
狐娘「興奮したかの?」
男「す、するかっ!///」
狐娘「カッカッカ♪」
=お風呂上り=
狐娘「ふぅ~、お風呂にも入ってサッパリじゃ!」プルプルプル
男「うわっ!お前体拭く前に動物みたいに体振るなよっ!周りがビショビショになるだろ!」
狐娘「動物なんじゃから仕方なかろう」プルプル
狐娘「自然にバスタオルなどありゃせんからな」
男「家にはバスタオルがあるんだよ!」
狐娘「難儀よのぅ……」フキフキ
男「お前がな!」
狐娘「そ、それよりお主……」
狐娘「アレをやってみたいのじゃが……///」
男「アレ……?」
狐娘「ほ、ほれ…風呂を出たら、良く大人がやっておろう!?」
狐娘「あの白いの……飲ませてくれんかの?///」
男「お、お前……何言って……」
狐娘「風呂に入って、喉が渇いておるんじゃ……」ピトッ
男「うわっ!な、なんだよくっつくなって///」
狐娘「のぅ……良いじゃろう?///」
男(な、なんだなんだコイツ!いきなりどうした!?)
男「風呂でのぼせて頭おかしくなったのか!?」
男(い、いや!それよりも今はココを脱出する方が先だ!!)
狐娘「こんなこと……お主にしか言えぬ……」
男「そ……」
男「そう言うのはもっと大人になってからだっ!///」ダダダッ!
狐娘「あ……」
狐娘「行ってしもうた……」
狐娘「なんじゃ、いきなり……」
狐娘「風呂上りの、よーぐると牛乳の一気飲み……したかったんじゃがのぅ」
狐娘「ぷはー!やっぱ風呂上りはこれにかぎるぜー!ってやつ……」
狐娘「……」
狐娘「うむぅ、ウチも戻るか……」
=おやすみ=
男「……」モゾモゾ
男「あー……風呂上がりの一件のせいで寝れねぇ……」
男「駄目だ駄目だ!!邪心を振り払え、俺!!」
狐娘「なにをモゾモゾしておる?」
男「うわぁ!!」
狐娘「なんじゃ、いきなり大きい声をあげおって……」
男「お前、まだ寝てなかったのかよ……」
男「もう2時だぞ?」
狐娘「うむ……少し寝付けんでな……お主は?」
男「お、俺もそんな感じだ!」
男(コイツのこと考えてたなんてぜってー言えないよな…)
狐娘「そうか……」
狐娘「……」
狐娘「のぅ、少し話を聞いてくれんじゃろか?」
男「ん?」
男「いいけど……」
狐娘「そうか……すまぬな……」
男「……」
狐娘「あー、どこから話すかのぅ」
狐娘「……」
狐娘「ウチら妖怪は……」
狐娘「いや、妖怪といっても様々じゃが……」
狐娘「狐妖怪は、寿命が人間と比較にならんほどある……」
狐娘「まぁ個人差はあるが、数千年は寿命があってのぅ……」
狐娘「……」
狐娘「……ウチは過去、お主以外にも1度だけ人間と関わった事があってな」
狐娘「優しいやつじゃった……」
狐娘「一緒に居て、楽しかったな……」
狐娘「幸せじゃった……」
狐娘「いつまでも……ずっとこの幸せが続けば良いと思っておった……」
狐娘「じゃが、やはり時間の流れが違うからの……」
狐娘「そいつは……ウチを置いて居なくなってしもうた……」
男「……」
狐娘「随分悲しんだ……自分が生きておるのが嫌になるほど……」
狐娘「こんな悲しい思いをするくらいなら、自分も一緒に死んでしまいたい……」
狐娘「何度も、何度もそう思った……」
狐娘「……」
狐娘「……ウチが昔居たところには高い山があってのぅ」
狐娘「それはそれは高い山じゃ……」
狐娘「頂上の崖から見る景色は絶景でのぅ……」
狐娘「二人で何度も見に来たこともあった……」
狐娘「……この崖から飛び降りれば、どれだけ楽になれるじゃろうかと……」
狐娘「もう、辛いことは考えんでよいのではないかと……」
狐娘「もう、こんな辛い思いはせんでよいのではないかと……」
男「……」
狐娘「ウチは……自分の辛さから逃れたいが為に、自ら命を絶とうとした……」
狐娘「……」
狐娘「じゃが、そこで一人の子供に見つかってしまってのぅ」
狐娘「年端もいかぬ、5歳位の子供じゃ……」
狐娘「その時のウチは、どんな顔をしておったんじゃろうな……」
狐娘「その子供にいきなりこう言われてしもうた……」
少年「お姉ちゃんはどうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」
少年「お姉ちゃんがそんな顔してると、みんな悲しくなっちゃうよ……」
少年「だから、笑ってよ……ね?」
狐娘「…とな……」
狐娘「まさか年端もいかぬ子供に、何百年も生きておるウチが救われる事になるとは思わんかったな……」
狐娘「……」
狐娘「ウチはずっと、自分の事しか考えておらんかった……」
狐娘「自分がこのまま死んでも誰が悲しむか、など考えたことも無かった……」
狐娘「あの時、あの崖から飛び降りていれば、確かに楽になれたかもしれん……」
狐娘「じゃが、そんな事をしても死んだあやつは喜んではくれぬ……」
狐娘「それを……」
狐娘「こんなやつに……気付かせられるとはのぅ……」
男「……」
狐娘「……」
狐娘「……ん?」
男「Zzz………」
狐娘「こ、こやつ……っ!」
狐娘「……」
狐娘「ハァ……」
狐娘「まったく……こんなやつにウチが救われたと思うと、我ながら情けなるのぅ……」
狐娘「じゃが……」
狐娘「……」
狐娘「ありがとう……」
~2日目終了~
~3日目~
???「……れ……ぬか……」
男「……ん……?」
狐娘「これ!早う起きぬか!」
男「んん……朝……?」
狐娘「うむ、もう7時じゃ!」
男「ぅー……眠い……zzz」
狐娘「ドアホっ!2度寝してどうする!!」
男「眠いもんは仕方ないだろー……」
狐娘「そんな理由が許されるなら、社会が崩壊してしまうわ!」
狐娘「ほれ、ばたーとーすとの用意が出来ておるから、顔でも洗ってシャキっとしてくるんじゃ」
男「あー、はいはい……」ノソノソ
男「はぁ~……厳しいやつだなぁ……」
男「ん…?」
男「洗濯物……干してくれたのか……」
男「部屋も、片付いてるな……」
男「……」
=朝ごはん=
狐娘・男「いっただっきま~す」
狐娘「う~む、やっぱりばたーとーすとは最高じゃ!」モグモグ
男「着物姿でバタートーストか、何だかなぁ」
狐娘「なんじゃ?おかしいかの?」
男「いや、別にー…」
狐娘「ハッキリせん奴じゃのぅ、着物とパンでは見た目的にどうなのかと思っておるのじゃろう?」
男「分かってるんなら聞くなよ……」
狐娘「このぎゃっぷが良いとは思わんか?」
男「思わんな」
狐娘「シュン……」
男「それより、服洗濯してくれたり、部屋片付けてくれたんだな」
狐娘「うむ、朝起きて暇じゃったからのぅ」
男「一体いつも何時に起きてるんだ?」
狐娘「5時じゃ!」
男「5時って……良くそんな時間に起きられるな!?」
狐娘「習慣じゃからな、自然に目が覚めてのぅ」
男「じいちゃんばあちゃんみたいだな……」
狐娘「何かいうたかの?」
男「素晴らしい習慣ですね、と」
=部屋にて=
テレビ「本日、午前中は晴天ですが、午後から所により雨が……」
狐娘「ふむ、午後からは雨かの……」
狐娘「まぁ、洗濯物はお昼に戻ってきて取り込めば良いかのぅ」
男「おーい、洗面所空いたぞー!」
狐娘「うむ、ではちょっと歯を磨いてくるのじゃ!」タッタッタ
男「はいよー」
男「えーっと、今日のチラシは……っと」
男「お、ミ○ドのドーナッツ、今日全品100円じゃん!」
男「あいつ、甘いもん好きそうだしな…」
男「洗濯や掃除もしてくれてるし、ちょっと買ってやるか」
男「おぉ、ヤ○ダ電気のチラシもある!」
男「パソコンは……」
男「……」
男「買えるわけねーか……はぁ」
男「バイト……そろそろ本気で探さないとなぁ」
狐娘「今まで本気じゃなかったのかのぅ?」
男「うわぁ!」
男「なんだよ、歯磨きしに行ったんじゃ無かったのか?」
狐娘「お主の左手に持っておるコップを貰いにきたのじゃ!」
男「ぁ……」
狐娘「チラシを見るのにコップはいらんじゃろう?」
男「ご、ゴメンゴメン!つい持ってきたままだった!」
狐娘「ボケるにはまだ早いじゃろうに……」
男「誰がボケだよ」
狐娘「説得力がありゃせん」
男「ぐぬぬ……」
=お出かけ=
狐娘「さぁ!今日もお出かけじゃ!」
男「うへぇ、先生、お日様サンサンなんですけれど……」
狐娘「絶好の外出日和ではないか!」
狐娘「じゃが、今日は午後から雨が降るとてれびが言っておったからのぅ」
男「そうなのか?」
狐娘「うむ、じゃから、今日はお昼には戻ってこようと思っておる」
男「そっか、まぁ昼間でなら頑張れそうだな……」
狐娘「さぁ、そうと決まれば時間が限られておる、早速出発じゃ!」
男「へーい」
=道中にて=
狐娘「うーむ!本当によい天気じゃ…日向ぼっこでもしたいのぅ」
男「猫かお前は」
狐娘「狐が日向ぼっこしてはいかんのか?」
男「いや、悪くないけど……なんかホントに動物っぽいなぁと」
狐娘「動物じゃがな」
男「そうだったな」
男「まぁ、昼間雨が降らなかったら、弁当買って近くの公園で食べてもいいけどな」
狐娘「なぬ!本当か!?」
男「あ、あぁ……」
狐娘「んふふー♪」
男「偉く嬉しそうだな……」
狐娘「お弁当食べて日向ぼっこ……良いのぅ♪」
男「まぁ、それはさておき、今日はどこ行くんだ?」
狐娘「うむ、まだ商店街を全部見て回ってはおらんじゃろ?」
狐娘「じゃから、今日は昨日の続きで引き続き商店街でバイト探しじゃ!」
男「りょーかい」
=商店街にて=
男「2日連続で商店街に来る日が、俺の人生であるなんてなぁ」
狐娘「何を言うておるんじゃ」
男「まぁ、でもこうやって外に出るようになって、何かこう、ちょっと体が軽くなったような……」
狐娘「じゃろう?外に出た方が心身ともにリラックスにもなるのじゃ」
男「確かになぁ、その辺を気付かせてくれたお前に感謝してるよ」
狐娘「カッカッカ、もっと褒めても良いのじゃぞ?」
男「さんくす」
狐娘「軽いのぅ」
男「英語わかるのかよ……」
狐娘「にゅあんすでな」
男(ニュアンスの意味は知ってるのか?)
狐娘「お……ここのコンビニもアルバイトを募集しているみたいじゃぞ?」
男(切り替わり早ぇ!)
男「コンビニかぁ……どれどれ……」
張り紙「日中アルバイト募集中!時給850円 週2回~ 3時間以上」
男「お、以外に良さそうじゃん!」
狐娘「ふむ、まぁコンビニならめじゃーじゃしな」
男「うーん、コンビニってどんな仕事するんだっけかな」
狐娘「レジや、品だしが主じゃと思うが……」
男「まぁ、それだったら俺でも出来るかな」
狐娘「うむ、お主でも大丈夫そうじゃな!」
男「俺でもって……ひどくない?」
狐娘「自分で言っておったじゃろうが」
男「ぐぬぬ……」
男「まぁ、家に帰ったらここに載ってる番号に掛けてみるか」
狐娘「じゃのう、後は面接で採用されればバッチリじゃ!」
男「うぉー、何だかちょっと光が見えてきたなー!!」
狐娘「大げさじゃが、まぁウチも嬉しいのじゃ」
男「もっと喜んでいいんだぞ?」
狐娘「わーいわーい」
男「軽いなぁ」
狐娘「お主には言われとうないわ!」
=お昼ご飯調達=
狐娘「ん、もう11時かの」
男「お、ホントだ」
狐娘「てれびでは午後から雨と言っておったが、まだ大丈夫そうじゃのぅ」
男「全然晴れてるしなぁ……」
男「じゃあ、ちょっと弁当でも買って、公園で食べてくか」
狐娘「おぉ!そうじゃな!」
狐娘「そうと決まれば早速お弁当の調達じゃ!」
男「だな……お、ちょうどそこにほっ○もっとがあるじゃん」
男「行くか」
狐娘「うむ!」
=お店=
店員「いらっしゃいませ~」
男「すいません、メニュー見せて頂いてもいいですか?」
店員「はい、こちらになります~」
男「うーん……どれがいいかなぁ」
狐娘「お主!お主!」
男「ん?」
狐娘「そんなお主の身長でめにゅーを見られてもウチが見えぬじゃろう!」
男「あぁ、悪い悪い……ほら」
狐娘「おぉぉぉぉ!!どれも美味しそうじゃのぅ~!」
男「いいから早く選べって……」
狐娘「せからしい奴じゃのぅ……う~む……」
狐娘「ではこれをお願いするのじゃ!」
男「デミハンバーグ弁当か……んじゃ、俺は焼肉コンビ弁当で」
店員「はい、ではデミハンバーグ弁当と、焼肉コンビ弁当のお二つで合計810円になりま~す」
男「あ、ちょうどあります」
店員「ありがとうございます~!あ、今作成で10分程お時間を頂いているのですが、大丈夫ですか?」
男「10分か……」
男(できるまでの間に、ミ○ドでドーナッツ買ってきておくか……)
男「じゃあ、お前ここで待っててくれよ」
狐娘「ん?構わんが、お主はどこかに行くのか?」
男「あぁ、ちょっとな……」
狐娘「なんじゃ、ウチに言えん様な物を買いにいくのか?」
男「むしろお前がどんな物想像してるのか聞きたいよ……」
狐娘「むぅ、分かった、待っておるのじゃ!」
男「すぐ戻ってくるから」
=ドーナッツ=
男「ミ○ドなんて来るの何年振りだろ……」
男「ポイントカードが財布に入ってたけど、まだ使えるのか?」
男「にしても、こんな甘ったるそうな物も、久しぶりに見ると美味しそうにみえるな」
男「えーっと……ポンデリング何種類かと、エンゼルクリーム……よし、こんなもんか……」
店員「いらっしゃいませ!店内でお召し上がりですか?」
男「あー、持ち帰りで」
店員「かしこまりました!ポイントカードはお持ちですか?」
男「あ、これ大分昔のやつなんですけど、使えますかね?」
店員「あー、ポイントカードの有効期限は 初回ご利用日から1年になってしまうのですよー!」
男「やっぱ、そうだよなぁ」
店員「変わりに、新しいポイントカードお作りさせて頂きますね!」
男「すいません、お願いします」
男(そんな、1年に何回も来たりしないけどなぁ……)
~ ~ ~ ~ ~
店員「はい!ありがとうございました!またのご利用ごお待ちしております!」
男「近所のコンビニもそうだけど、ここも元気な店員だったなぁ……」
男「アレくらいハキハキしてないとレジって勤まんないのか?」
男「……俺、働けるよな……?」
男「……」
=お弁当屋にて=
男「おーい、大人しく待ってたかー?」
狐娘「おぉ、以外に早かったのぅ」
男「まぁな、それより弁当は……出来てるみたいだな」
狐娘「うむ!この通りじゃ!」ズイ
店員「あはは、お子さんですか?」
男「お子さん!?」
男「お、俺やっぱりそんな老けて見える!?」
店員「い、いえ……やり取りを見てそうかなぁ~っと、違ったら申し訳ありません!」
狐娘「う、ウチが子供じゃと!?ウチは何百ねnモゴモゴ!」
男「し、親戚の子供なんですよ!!」
店員「な、なるほど……随分可愛い話し方をされますね!」
男「時代劇を見すぎて影響されてるんですよね~ははは!」
狐娘「モゴー!モゴー!」
店員「あ、あはは……」
=公園へ=
男「まったく、お前が妖怪だってバレたら面倒だろ」
狐娘「そんなドジはせん!耳もしっぽも隠しておるじゃろうが!」
狐娘「それに、いざとなったら逃げる!」
男「余計に怪しまれるだろ……」
男「はぁ……それより、早く公園行こうぜ」
狐娘「おぉ!そうじゃったな!早く行くのじゃ!」タッタッタ
男「おい、走るなって!」
狐娘「はんばーぐー♪はんばーぐー♪」
男「はぁ、ホントに大人なんだか、子供なんだか……」
=公園=
狐娘「う~む、お腹いっぱいじゃ~……」
狐娘「はんばーぐ弁当なら1週間くらい食べても飽きないのじゃ!」
男「いや、そりゃ飽きるだろ……」
男「でも、まぁやっぱコンビニ弁当よりも弁当専門で作ってるとこの方が美味いなー」
狐娘「じゃのぅ、人それぞれまぁ好みはあるとは思うが」
男「まーなぁ」
狐娘「それにしても……う~む、いい天気じゃ~」
男「ホントに雨降るのかよ?」
狐娘「ところにより、と言っておったからな、ここは降らぬかもしれんのぅ」
男「そっか、まあジメジメしてるよりはいいけど」
狐娘「ところでお主、その袋はなんじゃ?」
男「ん?あぁ、これか」
男「ドーナッツだよ」
狐娘「どーなっつ?」
狐娘「食べれるのかの?」
男「お前、知ってる事と知らない事が偏りすぎだ。食べれるけど…」
狐娘「そんな事言っても、知らんもんは仕方なかろう」
狐娘「お主は妖怪の全てを知っておるのか?」
男「全然」
狐娘「つまりは、そう言うことじゃ」
男「……」
狐娘「で、どーなっつとは何なのじゃ?」
男「んー、何て説明していいのか分かんないけど……甘い穴の開いたお菓子だ!」
狐娘「よう分からん」
男「だろうな、まぁ実際食ってみたらいいよ」
狐娘「た、食べて良いのか!?」
男「もとより、お前へのお礼みたいなもんで買ったもんだからな」
狐娘「お礼?」
男「あぁ、まぁお前のお陰で、こうやって外にも出られて、バイトも探せたからな」
男「それに、色々家のこともしてくれてるみたいだし……」
狐娘「……」
狐娘「そ、そうか……お礼……かの……」
男「まぁ、その……何ていうか……」
男「あ、ありがとな……///」
狐娘「……」
狐娘「そうか……迷惑では……なかったのじゃな……」
男「ん?何か言ったか?」
狐娘「いや、何にも無いのじゃ!」
狐娘「ありがたく……頂くのじゃ……」
男「あぁ……」
狐娘「……」
男「どした?」
狐娘「……やっぱり、家に帰ってから食べるのじゃ」
男「ん?別にここで食べてもいいぞ?」
狐娘「お弁当食べたばかりじゃからな……どうせなら、少しお腹を空かせてから食べたいのじゃ」
男「そっか、まぁ別に好きな時に食べてくれ」
狐娘「3時のおやつに一緒に食べるのかの……」
男「そうするか」
狐娘「……」
男「……」
狐娘「と、ところでお主……」
男「ん?」
狐娘「お主が無事に働くようになったら、ウチの出番も終わりになるのじゃが……」
男「どういうこと?」
狐娘「やはり、お主の家から出ていかんといけないじゃろうか……?」
男「え、えーっと……」
男(な、なんで今そんな話が出てくるんだ……)
男(確かに、二人分の食費とかは厳しいけど、別に無理な訳じゃないし……)
男(でも、ちょっとからかってみてどんな反応するか見てみたいな……)
男「う~ん、そうだなぁ」
狐娘「……」
男「食費も二人分はキツイしなぁ……」
男「残念だけど……」
狐娘「……」
狐娘「ぅ……」ポロポロ
男「!?」
狐娘「そ、そうか……やっぱり……そうじゃよな……」ポロポロポロッ
狐娘「出て行く……準備を……しておかんと……」
男(しまった!まさか泣き出されるのは予想外過ぎる!!)
男「じ、冗談だって!!」
狐娘「……え……?」
男「居ても大丈夫!なんならずっと居てくれてもいいから!!」
狐娘「ほ、ホントかの……?」ヒック
男「ホントホント!大マジだって!」
狐娘「じゃが、食費が……」
男「冗談に決まってるだろ?」
男「別に今でも問題ないし!それにほら、俺が働く様になったら収入も増えるから、な?」
狐娘「そ、そうか……居ても……良いのか……」ヒク
男「うんうん!だから、泣くなって……」
男「ほら、ハンカチ」
狐娘「うぅ、すまんのぅ……」ズピー
男「ゴメン、ちょっとイジワルな事いったらどんな反応するか見てみたくて……」
狐娘「……」
男(あ、ヤベ……これは叩かれるかな……)
狐娘「こ、この……」
男「ほらほらきたきたぁ!!歯を食いしばれ!俺!!」
狐娘「……ドアホめが……」グスッ
男(あ、あれ?痛くない?)
男「た、叩かないのか?」
狐娘「叩いて欲しいのか?」
男「いやいや!結構です!ハイ!」
狐娘「ドMかと思ったのじゃ……」
男「えー」
狐娘「……」
狐娘「……初めは、お主がアルバイトでも何でも見つけたら、すぐ出て行こうと思っておった……」
狐娘「じゃがこの数日、お主とバカな会話をしながら暮らすのが、楽しくなってしまってな……」
狐娘「お主、昨日ウチが寝る前に話した会話、覚えておるか?」
男「あ、いや……悪い、寿命うんたらかんたらの所までしか覚えてないや」
狐娘「10分の1くらいしか聞いておらんのか……まぁよい」
狐娘「少し長くなるが、ウチの過去を……」
狐娘「いや、ウチがお主の元に来た理由を聞いてくれぬか?」
男「ん……」
狐娘「すまぬな」
狐娘「……」
狐娘「ウチはここ数百年はほとんどと言ってぐらい、一人きりじゃった……」
男「家族とか、いないのか?」
狐娘「正確には、おった、が……」
狐娘「700年程前になるかのぅ……ウチらが暮らしていた里に病が蔓延してしまってな……」
狐娘「人間より丈夫な妖怪とはいえ、強い病の前にはウチらも適わん……」
狐娘「ウチはその時にたまたま里を出ておったので、助かったが」
狐娘「父も、母も、友人も、皆病に倒れてしまった……」
男「そっか……」
男「ゴメン、何か悪い事聞いちまったな……」
狐娘「なに、気にするでない、話させて欲しいと言ったのはウチからじゃ」
狐娘「……それからは長かった……永遠とも思える時間を一人で過ごした……」
狐娘「ウチらの様な妖怪が人間の社会に出てしまったらどうなるか分かるじゃろ?」
男「まぁ、どっかの科学者的な連中に調べられたり、見世物になったりするだろうな、想像だけど……」
狐娘「うむ、そう言うことじゃ」
狐娘「深くは人間とは関われん」
狐娘「じゃが、50年程前の事じゃ、とある山奥で、クマに見つかってしまってのぅ」
狐娘「追いかけられる道中に、体中ズタズタされ、足も折られ、動けん様にまでされてしまった」
狐娘「さすがその時はに死を覚悟した……」
男「よ、妖怪なら勝てるんじゃないのか!?」
狐娘「お主ら人間は妖怪は強いなどと思っておるかも知れんが」
狐娘「全員が全員、そうと言う訳でありゃせん」
狐娘「特に、ウチらの様な狐の妖怪は人の姿をし、知識だけがあるようなもの……」
狐娘「非力な事に変わりはせん……」
男「……」
狐娘「日々自分の身を守るため、危険から逃げ、住処を変え生きておるのじゃ……」
狐娘「すまぬ、話が脱線したな」
狐娘「そんな、死を覚悟した時じゃ」
狐娘「一人の猟銃を持った人間にもに見つかってしまってのぅ」
狐娘「耳も尻尾も出した状態でじゃ……」
狐娘「このようなあやかしの見た目じゃ、普通に考えてその場で撃ち殺されるか、見世物にされるかと思った」
狐娘「じゃが、その猟銃の先は、ウチでは無くクマの方を向いておった……」
狐娘「ウチがその場で覚えているのはそこまでじゃ」
狐娘「次に目が覚めた時には、全身包帯でグルグル巻きで、布団の中にいた……」
狐娘「これがまたヘタな包帯の巻き方でのぅ……じゃがその包帯と体の痛みが今まだ生きている事を教えてくれた……」
男「そいつが……助けてくれたのか?」
狐娘「うむ」
狐娘「変わっておったが、優しいやつじゃった……」
狐娘「ウチのこの姿を見てもちっとも驚かんでのぅ」
狐娘「それからじゃな、ウチがそやつと暮らし始めたのは」
男「それからか……昨日夜に話していた内容は……」
狐娘「何じゃ、寝ておったのではないのか?」
男「まさかあの話の中で俺が出てくるとは思ってなかったからな」
狐娘「最後まで聞いておるではないか!」
男「はは……」
狐娘「……ウチの事、覚えておるか……?」
男「うっすらな……お前が家に来るまでは夢だと思ってた」
狐娘「そうか……」
狐娘「覚えて……くれておったか……」
男「そんな耳と尻尾があるやつをそうそう忘れたりしねーよ……」
狐娘「うむ……そうじゃな……」
狐娘「お主は、ウチを救ってくれた……」
狐娘「ウチの命の恩人じゃ」
狐娘「20年程待たせたが、やっとお礼を言える……」
狐娘「ありがとう……」ポロポロ
男「おいおい、泣くやつがあるかよ……」
狐娘「ぅ……うぅ……」グスッ
男「なんつかーかな……」
男「その……可愛い顔が台無しになるから……泣くなって///」
狐娘「……そ、そんな顔真っ赤にしながら言われても、カッコ良くないのじゃ……」
男「うるせー///」
狐娘「……」
狐娘「仕事を探せと言うたのは口実じゃ……」
狐娘「いや、3割程は本気じゃったが」ボソッ
狐娘「本当は……寂しかった……」
狐娘「もう……一人は嫌じゃ……」
男「……」
男「俺、頑張ってバイトもするからさ……ちゃんと就職もして働くようにもするからさ……」
男「お前が嫌じゃなきゃ、家にいろよ……」
狐娘「……」
狐娘「……嫌な訳……ないじゃろうが……!」ポロポロッ
男「だから泣くなって……」
狐娘「誰でも泣きたい時は……あるじゃろうが……」ヒック
男「……そうだな、悪ぃ」
狐娘「もう少し乙女心を勉強してきて欲しいものじゃ」グスッ
男「善処します…」
=雨=
狐娘「情けない所を見られてしまったのぅ」
男「別に、何とも思ってないよ」
狐娘「何かは思って欲しいが…」
男「なんじゃそりゃ」
狐娘「お主……その……」
狐娘「あ、改めて……これからも、よろしくなのじゃ…」
男「あぁ、こちらこそ、な」
ゴロゴロゴロ…
男「うわ、いつの間にか曇ってきてるし…」
狐娘「雨、降りそうじゃな…」
男「あぁ、まだ遠いけど雷も鳴ってるしな」
狐娘「雨で洗濯物が濡れんうちに帰るとするかのぅ」
男「だな…」
狐娘「あ、そう言えば晩ご飯の用意買って帰るの忘れておった…」
男「ぅ…そう言えば…」
男「まぁ、今日はまたコンビニでおにぎりかな、あはは…」
狐娘「まったく、これからはウチが3食ご飯をつくるのじゃ!」
男「お前、飯作れるのか?」
狐娘「いや、これから覚えようかと思っておる」
男「な、なるほど…」
狐娘「なぁに、料理本さえあれば何とかなるはずなのじゃ」
男「食えるもん作ってくれよな…」
狐娘「失礼な奴じゃなー」
男「まぁ、期待せずに待ってるよ」
ポツ…ポツ…
男「うわ!降り始めてきやがった!」
狐娘「うむ、急いで帰るのじゃ!」
男「あぁ、信号が青の間に……」ダッ
トレーラー「ブロロロロロッ!!」
狐娘「!!」
狐娘「お主!!危ないっ!!!!」
男「え?」
トンッ…
男「うわっ!」ドテッ
ドーン…
男「ぇ……?」
キキッー!
女性「きゃああああ!!事故よー!!」
男性「女の子が跳ねられたぞ!!」
男性「救急車を呼べー!!」
男「狐……娘……?」
狐娘「……」
男「おい……嘘だろ……」
男「おい!!しっかりしろよ!!なぁ!?」
狐娘「…ぅ……」
男「!!」
狐娘「……ぶ、無事…か…のぅ……?」
男「お前……どうして…俺をかばって……!!」
狐娘「体が…勝手…に…動いたもの……は…仕方ない…じゃろ…う…」
男「お前…こんな時に何言って…!」
狐娘「…そう…か…無事で…良かっ…た……」
男「待ってろよ!今救急車呼んでやるからな!!」
狐娘「それ…は……止めて…くれ……」
男「!?」
狐娘「…ウチは…見世物には……なりとう…ない…」
男「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
狐娘「行き…着いた…先が……病院…なら……」
狐娘「どうなる…かは……明確…じゃ……」
男「けど!!このままじゃ、お前……!!」
男「血が……血が……!!」
狐娘「……自分の…体…じゃ…助かる…はずが……無いのは……良く…わかる…」
男「……」
狐娘「これは……ウチへ…の…罰じゃ……」
狐娘「人間…の…お、お主を……好きに…なってしまった…罰じゃ……」
男「何が…罰だよ…!」
男「俺だって…お前が……好きなのに……!」
男「それが罰になるのかよっ!!」
狐娘「そう…か……」
狐娘「最後に…お主…の…口から……その…言葉を聞けて……良かった……」
男「バカな事言うなよ!!」
男「お前、俺と一緒に居てくれるんだろ!?」ポロッ…
男「毎日ご飯作ってくれるんだろ!?」ポロポロ…
男「ドーナッツだって一緒に食べるっていっただろ!?」ポロポロポロ
男「だから……死ぬなよ……なぁ……」
ザァァァァァァ…
ゴロゴロゴロ…
狐娘「…」
狐娘「…ウチの為に……涙を…流して……くれる…か……」
狐娘「…ありが…とう……」
狐娘「…洗濯……物……取り込めんで…すまん…かった…のぅ……」
狐娘「……」
男「……おい…狐娘……?」
狐娘「……」
男「返事……してくれよ……」
狐娘「……」
男「なぁ……頼むよ……」
狐娘「……」
男「……」
=狐の恩返し=
男(あの後の事はよく覚えていない…)
男(気付いたら、狐娘を抱えて家に帰ってきていた…)
男「……」
男「夢じゃ…ないのかよ……」
男「……」
男「もう…起きないのか……?」
男「いつもみたいに叩かないのか……?」
狐娘「……」
男「……」
男「ごめんな…俺の…せいで……」
男「俺が…もっと注意してれば……!」
男「…っ」
男「……」
男「お前が来てくれて…色々手伝ってくれて……」
男「やっと、ここまで来たのに…」
男「なぁ、寂しかったんだろ……?」
男「一人は…嫌なんだろ……?」
男「バカな会話だっていくらでもしてやるから…」
男「またバシバシ叩いてもいいから……」
男「ずっと…俺が…一緒に居てやるから……」
狐娘「……」
男「だから…頼むよ……目…覚ましてくれよ……」
男「もう一度…俺の名前…呼んでくれよ……」
男「なぁ……狐娘……」
男「……」
狐娘「……」
狐娘「……その言葉に……嘘は……あるまいな……?」
男「ぇ……」
狐娘「まったく……まだ……死んでは……おらん…」
男「狐娘!?」
男「生きてるのか!?」
狐娘「うむ……まだ……生きておるよう…じゃな……」
男「でも!お前…自分でもう助からないって……!!」
狐娘「ドアホ…あんなデカイ車に跳ねられて…生きていられる…保障など…ないじゃろうが……」
男「だったら、ホントに今すぐ病院に!」
狐娘「心配するでない、この時点で生きておれば……怪我は数日で治る…」
狐娘「言ったじゃろう…ウチら妖怪は……人間よりは、丈夫じゃと…」
男「ポカーン…」
狐娘「何じゃ…その顔は……」
男「……」
男「あぁ!もぅ!!」ダキッ
狐娘「!?」
男「ホントに…ホントに心配したんだからなっ!!」
狐娘「イタタタ…お主、傷が…」
男「俺のメンタルダメージだと思えよ…」
狐娘「めんたるだめーじ…?」
男「ココロの痛みだよ!」
狐娘「よぅそんな…恥ずかしいこと…言えるのぅ…」
男「うるせー///」
狐娘「痛いが…嬉しいのじゃ……」
男「……」
男「ありがとな……助けてくれて……」
狐娘「20年前のお返しじゃ……」
男「狐の恩返しってか……」
狐娘「カッカッカ……」
狐娘「む……洗濯物が…ビショビショじゃ…」
狐娘「後……バイト先にも連絡を……」
男「べ、別にこんな時にそんな話……」
狐娘「いーや、善は急げと言うじゃろう…?」
狐娘「ウチが嫁になる以上…甘えは許さんのじゃ!」
男「よ、嫁って……もっとこう……順序ってのが……」
狐娘「何じゃ……不満なのかの?」
男「ほ、ほら、最初は恋人とか……///」
狐娘「むぅ……人間とはやっかいじゃのぅ……」
男「そんなもんなの!」
狐娘「そうか…」
狐娘「のぅ、お主……」
男「ん…?」
狐娘「ずっと一緒、約束なのじゃ……♪」
~END~