1 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします - 2018/06/28 13:50:49.58 6AUUn40c0 1/34

SS初投稿

軽い独自設定あり

書き溜めあり

拙い文章ですが、よろしくお願いします。

元スレ
少年「かんむす?」【艦これ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530161449/

2 : - 2018/06/28 13:52:06.08 6AUUn40c0 2/34


「あ~あ、暇だなあ」

夏の午後。

照りつける日差しを浴びながら、少年は縁側から足を投げ出して、そうつぶやいた。

「夏休みに入ったらみんな内地のほうに行っちゃったからなあ」

3 : - 2018/06/28 13:52:51.48 6AUUn40c0 3/34


深海棲艦の出現から数年、海が近いこの街は、住民たちが少なくなり道路は閑散としていた。

街に唯一残っていた学校も来年には廃校になり、

少年も内地の学校に転校することになっていた。


「お母さん!ちょっと散歩してくるね!」

暇を持て余しすぎた少年はガバっと起き上がり、玄関へと走る。

「夕飯には帰ってくるのよー!」

母の言葉に返事することなく、少年は外へと駆けていった。

4 : - 2018/06/28 13:53:28.05 6AUUn40c0 4/34

この街の近くには海軍鎮守府がある。

今日も演習をしているのだろう、銃撃の音がパパパパ、と遠くから聞こえた。

「うんうん、銃の音だ。やっぱかっこいいよなあ」

たたた、と音に耳を傾けながら走っていた少年は、

道の角からふと現れた影にぶつかってしまった。


「きゃっ」

小さな悲鳴と、どすん、という音。

「うわあっ」

少年がしりもちをつく。

「いたたぁ…。ご、ごめんなさい!」

少年はあわてて立ち上がり、ぶつかった相手に謝る

5 : - 2018/06/28 13:54:18.14 6AUUn40c0 5/34


「痛いわねえ、ちゃんと前を向いて走りなさいよっ」

少女だった。

長く青みがかった銀髪が、さらさらと音を立てるように見えて。

少女だった。

ややほっそりとした脚が、ワンピース型のセーラー服から見えて。

少年は、見惚れていた。


「ちょっと、なにぼうっっと見てるのよ。

 ぶつかってきた犯人さんは、女性を起き上がらせてくれないのかしら」

言われてはっとした少年は、少女に手を伸ばした。

「ご、ごめんなさい!銃の音がかっこよくて、聞き入っちゃってて…」

「銃の音、ね。近くに鎮守府があるものね。そっか、ここら辺まで聴こえるのね」

少女は海のほうを見る。

その横顔はとても綺麗だった。

6 : - 2018/06/28 13:55:15.06 6AUUn40c0 6/34

「ねえ、ここら辺の学校の子?」

少年はふと思い、訊いた。

「え?あぁ、そうね…。まぁ、そんなところかしら。転校…してきたのよ」

「へえ、めずらしいね!ここら辺の学校は、大体もう閉校しちゃったってお母さんに聞いたよ?」

「あ~そうなの…ま、まぁ、いろいろあってね、この街に引っ越してきたのよ」

少女は、微妙な顔で返した。


「ふ~ん、そうなんだあ。いろいろ大変だねえ」

少年は少し大人ぶりながら、無邪気に笑った。

「そうだ、僕と友達になってよ!」

「え?」

少年のいきなりの申し出に、戸惑う少女。

7 : - 2018/06/28 13:55:43.91 6AUUn40c0 7/34

「ここら辺の僕と同じ歳くらいの子は、みんな内地に行っちゃって。

 今、この街に住んでる子供といったら、僕くらいなもんさ。

 だから、君も僕と友達になっておいたほうがいいよ!」

少年以外にも、この街には子供はまだいる。

だがとても数が少なく、少年がそう思うのも仕方のないことであった。


「そうなのね。じゃあ、お友達になっておこうかしら。

 でも、私のことは、お姉さんとお呼びなさい」

「え?なんで?」

「あのねえ、どう見ても私のほうが年上でしょう?

 年上の女性に「君」なんて失礼なことよ」

「な、なるほどぉ」

少し勉強になった少年であった。

8 : - 2018/06/28 13:56:10.43 6AUUn40c0 8/34

「っと…ちょっと話しすぎちゃった。
 
 もう行くわね」

少女は思い出したかのように、歩き出そうとした。

「ちょ、ちょっとまって!お姉さん!」

それを少年は呼び止める。



「なあに?」

「また、会えるよね?」

「そうね、また会えると思うわ」

「じゃあ、あの海が見える公園で、またお話しよう!」

少年が指さす方向、ここから少し歩くある公園が見える。

少女はそれを確認すると、

「ええ、わかったわ。また明日、公園で会いましょう」

少女はそう言うと、海のほうへ歩いていった。

少年はそれを見送りながら、鎮守府のほうだなあと、ふと思った。

9 : - 2018/06/28 13:56:37.96 6AUUn40c0 9/34


翌日も、少年と少女は海が見える公園で、

二人ベンチに座りながら、おしゃべりをした。

主に少年の話題が中心ではあったが、とても楽しい時間を過ごした。

少年は少女のことを聞きたかったが、うまくはぐらかされてしまった。

お互い、名前もまだ知らない友達だった。


そんな日が何日か続いた日の夕方、

街に警報が鳴り響いた。

どうやら、街の近海で深海棲艦が現れたらしい。

深海棲艦が陸に上がることは今までなかったが、

街の住民は建物の外に出ないように、という内容の警報のようだ。

10 : - 2018/06/28 13:57:10.80 6AUUn40c0 10/34


お姉さんは大丈夫だろうか。

少年はいてもたってもいられず、家から飛び出した。

「ちょっと!!どこにいくの!!!」

母の制止も聞かず、少年は街を駆け抜けた。

少年は、母の言うことを聞かない子供であった。


「はあっ…はあっ…」

どれくらい走っただろう。

街はいつも以上に静かで、人っ子一人歩いていなかった。

それもそうだろう。

警報が出ているのだ。外に出ている少年のほうがおかしいというものである。

11 : - 2018/06/28 13:57:39.69 6AUUn40c0 11/34

「お姉さん、大丈夫だよね、そりゃそうか、家の中にいるよね」

走りつかれて、少年は海が見える公園のベンチで休んでいた。

気づけば警報も解除されたようだった。

今は何時だろうか。すっかり辺りは暗くなり、ぽつんぽつんと街灯の光があるだけだった。

「ちょっと!!なにしてんの!?」


いきなり後ろから声をかけられ、びくっとする少年。

「だめじゃない!さっきまで警報がなってたんだから!

 警報が止んだからって、まだ何があるかわからないのよ!?」

振り返ると、少女がいた。

「お、お姉さん!」

「あ、あんた!なにしてんのよ!」

12 : - 2018/06/28 13:58:30.24 6AUUn40c0 12/34

どうやら、少女も少年とは気づかずに声をかけていたらしい。

「僕、お姉さんが心配だったから…」

少年はうつむきながら言った。

怒られると思ったのだろう。

「私が心配?なんで…」

「お姉さん、この街に引っ越してきたばっかりだったから、

 警報に驚いているかと思って…」

「ああ、そんなこと…平気よ、慣れっこなの」


「慣れっこ…?なんで…」

少年が疑問に思いか顔を上げると、初めて少女の体が目に入った。

「な…お、お姉さん!!」

少女の服は血にまみれていた。

セーラー服がやぶけ、そこから覗く細い腕も、スカートから伸びる細い脚も、

切り傷や痣などでボロボロであった。

13 : - 2018/06/28 13:59:01.21 6AUUn40c0 13/34

「お姉さん!!大丈夫なの!?」

「あぁ、これ?大したことないわ、いつものことよ」

「いつものことって、どういう…」

「見つけた!!!」


少年と少女以外の声が、公園に響く。

声の方向を見ると、少年の母であった。

すごい剣幕で迫ってくる。

ぐい、と少年の腕をつかむと、

「さあ、帰るわよ!!」

と家のほうへと少年を引っ張っていった。

それを少女は、悲しそうな目で見ていた。

14 : - 2018/06/28 13:59:43.12 6AUUn40c0 14/34

公園をでて家までの帰路の途中、

「お母さん、離してよ…っ」

しばらく引っ張られていたが、さすがに腕が腕が痛くなってきた少年。

母は腕を離すと少年のほうに向き直り、

「あのね、今後一切、あの子と会うのは許しません」

と言った。


「な、なんで!?」

「あの子はね、艦娘なのよ」

「か、かんむす?」

「そう、海軍の艦娘。だから、今後関わっちゃ…あ、ちょ、ちょっと!!」

少年は母の言うことを最後まで聞かず、走り出した。

少年は、母の言うことを聞かない子供であったから。

15 : - 2018/06/28 14:00:12.79 6AUUn40c0 15/34

少年は公園まで戻ってきたが、少女はもういなかった。

「いない…」

少年は、鎮守府に向かって走り出した。


街の外れに鎮守府はあった。

少年自体、初めて来るところである。

門の周りを、中を伺いながらうろちょろしていると、

怪しんだ門番が声をかけてきた。

16 : - 2018/06/28 14:00:43.00 6AUUn40c0 16/34

「ぼく、こんな遅くにここで何をしているんだい」

「あ…いや……っっ!!」

「あっ、待ちなさい!!」

少年は逃げようとしたが、大人に走りで勝てるわけもなく、

あっけなく捕まってしまった。


「は、離せー!!お姉ちゃんに会いにきただけなんだ!!」

ずるずると連行される少年。いや、鎮守府からしたら、保護した、といったほうがいいだろう。

むすっとした表情で応接間に連れて行かれる少年。

黒い革製の高そうなソファに座っていると、がちゃりとドアが開いた。

17 : - 2018/06/28 14:01:08.74 6AUUn40c0 17/34

「おや、ずいぶんと小さいお客人だね」

白い軍服を着た、初老の男が入ってきた。

「大淀、彼にジュースを出してやってくれ」

初老の男は、連れ添ってきた眼鏡の女性、大淀に言った。

「さてさて、初めまして坊や。私は、この鎮守府の提督だよ」

提督と名乗った男は、こちらに向き直りにこりと言った。


「坊や、どうして門の前をうろうろしてたんだい?」

「お、お姉ちゃんに会いにきたんだ…。かんむすだって聞いて、ここにいるかなって…」

「艦娘のお姉ちゃん、か。名前はわからないのかい」

提督の問いに、ジュースを持ちながらふるふると首を横に振る少年。

「やれやれ、それじゃあ探すのは難しいなあ」

提督の言葉に、がくりと肩を落とす少年。

18 : - 2018/06/28 14:02:05.40 6AUUn40c0 18/34


「提督」

大淀が提督に声をかけた。

「この子の親御さんと連絡が取れました。今から迎えに来る、とのことです」

「そうかい、良かった良かった。
 
 良かったな坊や、君の親が迎えに来てくれるそうだよ。

 その、お姉さんを探してやれなくて、悪いとは思うがね」

「大丈夫です…ご迷惑をおかけしました…ごめんなさい」


「ちゃんと謝れるなら、上等だ。君は立派な大人になれるな」

提督はカカカと笑い、

「では、しばらく待っていてくれたまえ」

そういうと大淀と共に部屋から出て行った。

19 : - 2018/06/28 14:02:36.19 6AUUn40c0 19/34

提督が出てしばらく、がちゃりと再びドアが開いた。

「やっぱり、あんただったのね」

部屋に入ってきたのは、少女だった。

「ちょっと鎮守府が騒がしくなって、

 『男の子がお姉ちゃん探してる』って私の姉妹が言ってて、

 もしかしてって思ったから来たけど、

 あんた、なにしてんのよ」


「お姉ちゃんに会いにきたんだ。

 ねえ、お姉ちゃんって、艦娘なの?」

しんとする部屋。

そして、少女が口を開く。

20 : - 2018/06/28 14:03:02.76 6AUUn40c0 20/34

「……そうよ。

 私は、艦娘」

少女は続ける。

「艦娘はね、深海棲艦と海で戦ってるのよ。

 戦争をしているの。だから、怪我も慣れっこ」


「そんな…」

「あんた、お母さんに、私に会うんじゃないって言われたんじゃない?」

「どうしてそれを…」

「わかるわよ、艦娘だもの」

そう言って、少女は袖をまくって見せた。

「ほら、怪我、治ってるでしょ?」

少女の言うとおり、少女の身体には傷ひとつ残っていなかった。

21 : - 2018/06/28 14:03:32.46 6AUUn40c0 21/34


「艦娘はね、人間じゃないのよ。
 
 どれだけひどい怪我をしても、お風呂に入ればハイ元通り。

 それに、人間が扱えない兵器を扱える。

 海に浮いていられる。

 歳をとらない。ふふっ、これだけはちょっと良いかもね。

 いつまでも若くしていられるのよ?」



くすくす、と少女は笑い、

「私たち艦娘はね、化け物なのよ。

 撤退するところを誤らなければ、不死身。

 そりゃあ、一般の人から怖がられても仕方ないと思うわ。

 でも、私は艦娘を辞めない、戦うのを辞めないの」

「どうして…?」

少年が訊く。

22 : - 2018/06/28 14:04:04.97 6AUUn40c0 22/34

「そうねえ。どうしてかしらね。
 
 辞めちゃいけないって思うの。
 
 あなたを守りたいからかしらね」

少女は冗談ぽく笑う

23 : - 2018/06/28 14:04:32.79 6AUUn40c0 23/34

少年は、思った。

ああ、僕はこの人が好きになってしまったんだな、と。

たった数日、公園で話をしただけだった。

いや、出会ったときから、一目ぼれだったのかもしれない。

24 : - 2018/06/28 14:05:09.31 6AUUn40c0 24/34

「来年から、内地のほうに行くのでしょう?
 
 安心なさい、内地は安全よ。

 海は、あなたは、私が守るから。

 あなたは、友達、だもの」

ふと少女が悲しそうに、言い聞かせるように笑った。


がちゃりと部屋のドアが開いた。

「坊や、親御さんが迎えに来たよ」

提督が部屋に入ってきて言った。

少年が、鎮守府の門まで来ると、確かに車が来ていた。

25 : - 2018/06/28 14:05:36.89 6AUUn40c0 25/34

「ご迷惑をおかけしました」

横で母が頭を下げる。

目の前には、提督と少女。

「いえいえ、別に構わないですよ」

提督は、優しく笑った。


「ほら、行くよ」

と母に手を引っ張られる少年。

が、少年は手を振りほどき、少女のところまで行くと、

「お姉ちゃんは、僕が守るよ」

と言った。

26 : - 2018/06/28 14:06:04.32 6AUUn40c0 26/34

「僕は、まだ子供だけど。

 お姉ちゃんを守れるように強くなるから。

 強くなって、また戻ってくるから。

 だから……待ってて…!」

お互いに、もう会えない予感がしていた。

少年は涙を零しながら言った。


「あんた、泣き虫ねぇ…。
 
 私を守るなら、まず泣き虫を治してらっしゃいな」

少女も、涙を零していた。

27 : - 2018/06/28 14:06:32.47 6AUUn40c0 27/34


「お姉ちゃん、まだ、名前を聞いてなかったよ」

本当の別れのとき、少年はふと思い出して少女に訊いた。

「そうだったわね。艦娘だってばれちゃったわけだし、
 
 ごまかす必要もないわね。

 私の名前はね、叢雲、よ」



「むらくも、お姉ちゃん…」

少年は刻み込むように、その名を呟いた。

「あんたの名前も、聞いてなかったんだけど?」

少女、叢雲が言う。

「僕の名前はね―――」

28 : - 2018/06/28 14:07:01.90 6AUUn40c0 28/34

――――く

――ぃとく

「提督!!」

「ん!?あ、あぁ、なんだい?」

大淀の声ではっと気がつく。青年は昔を思い出してぼうっとしていたようだった。

「提督、着きましたよ」

「…そうか」

29 : - 2018/06/28 14:07:29.39 6AUUn40c0 29/34

鎮守府門前。

海辺の街。

向こうに行けば、海の見える公園がある。

門には、この鎮守府の提督がいた。

「やあ坊や、久しいね」

「はっ、この度はこの鎮守府に推薦していただき、誠にありがとうございます!」


青年は、提督に敬礼をした。

少年は、青年となって、白い軍服を身にまとっていた。

「今日からは、君がこの鎮守府の提督だ。

 さあ、引き継ぎを済ましてしまおう。

 老人はさっさと隠居したいんだ」

提督はそう言って笑う。

30 : - 2018/06/28 14:07:56.57 6AUUn40c0 30/34

「また、ご冗談を…」

「冗談ではないぞ?

 しかしまぁ、自分で言うのもなんだが

 うちの艦隊は優秀でな」

鎮守府の中を歩きながら話す。


「存じております。

 そのような鎮守府の提督になれること、大変光栄に思って…」

「あぁあ、いいんだよそういう堅苦しいのは」

「いや、しかし…」

「ほれ、ずっと君を待ってた子が、この執務室にいるぞ」

執務室の前。

31 : - 2018/06/28 14:08:27.50 6AUUn40c0 31/34


がちゃりとドアを開ける。

そこには、昔と変わらない姿の、叢雲がいた。

「お姉ちゃん…」

「ちょっと、お姉ちゃんはやめなさいな。
 
 今ではもうあんたのほうが年上でしょう」

ふふっ、と二人が笑う。

32 : - 2018/06/28 14:08:53.70 6AUUn40c0 32/34


「叢雲、遅くなったね」

「ほんとにね、待ちくたびれちゃったわ、もう」

「すまないな」

「ふふっ、いいのよ。ちゃんときてくれたから」

「あぁ、強くなって、君を守りにきたよ」

「えぇ、待ってたわ!!」

33 : - 2018/06/28 14:09:28.24 6AUUn40c0 33/34





「ちょっと!泣き虫が治ってないじゃない、まったくもうっ」

34 : - 2018/06/28 14:10:14.25 6AUUn40c0 34/34



終わり

ありがとうございました。

HTML依頼出してきます

記事をツイートする 記事をはてブする