― 店 ―
男「あのー、店長」
店長「なんだい?」
男「今度の土曜、バイトを休ませて下さい!」
店長「ダメだ」
男「なんでです!?」
店長「人手が足りないからだ……代わりを見つけなきゃダメだ」
男「そんなぁ……」
元スレ
男「バイト休ませて下さい!」店長「代わりを見つけなきゃダメだ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1529932082/
男「彼女とデートなんですよ! お願いします!」
店長「デートなんていつでもできるだろ」
男「いつでもって……」
店長「それともなにか? もしかして、代わりをやってくれるような知り合いがいないのか?」
男「ぐっ……!」
男「分かりました……そこまでいうんなら、絶対代わりを見つけてみせますよ!」
店長「ふん、やれるもんならやってみな!」
男「……というわけなんだよ」
女「代わりを見つけないと休めないなんて、ひどい店長ね!」
男「だろ!? たしか、法律に違反してるって聞いたことあるし!」
男「だけど何とかしなきゃいけない。当日無断で休むってのはさすがに後が怖いし」
女「そうね。かえって気が休まらなくなっちゃう」
男「そこで……」
男「今度の土曜、俺の代わりにバイト出てくれないか?」
女「なるほど!」
女「分かったわ! 私が代わりに出てあげる!」
男「ありがとう、これで休むことができるよ!」
男「よし……さっそく店長に報告だ!」
― 店 ―
男「店長! 俺の彼女を代わりに出勤させます!」
女「よろしくお願いします!」
男「これで休みをいただけますよね? そういう約束ですよね?」
店長「…………」
店長「甘いな」
男「え!?」
店長「彼女はここのバイトは未経験だろう?」
男「もちろん、そうですけど……」
店長「彼女一人で君一人の代わりは到底務まらんだろう」
男「くっ、たしかに……!」
女「じゃあ、どうすれば!?」
店長「未経験の人間を君の代わりにするとしたら……私の計算では七人は必要だ」
男(そんなにいるのか……ちょっと嬉しい)
店長「バイト七人……一人は君の彼女として、残り六人を集めてくるのだ!」
男「分かりました!」
男(≪七人の侍≫ならぬ≪七人のバイト≫ってわけか……!)
男「六人か……厳しいなぁ~」
女「まあまあ、あまり悩んでないで。ゲーセンでも寄らない?」
男「そうだな」
女「なにやる?」
男「よーし、久しぶりにUFOキャッチャーでも……」
― ゲームセンター ―
ウイーン… ボトッ
男「あああ~っ! あと数センチだったのに!」
女「今の惜しかったね~」
不良「おい、てめえら」
男「ん?」
不良「さっきからずいぶんUFOキャッチャー楽しんでるじゃねえかよ。全然取れてねえけど」
男「いやー、お恥ずかしい」
不良「そんだけ金があるなら、俺にも金貸してくれよ。貸さねえと殴っちゃうかもよ?」
男「……そんなに金が欲しいのか?」
不良「欲しいからこうしてカツアゲしてんだろが!」
男「だったらいい話がある!」
不良「お前の代わりにバイトを?」
男「ああ、悪い話じゃないと思うが……どうだ?」
男「カツアゲよりよっぽど効率的に金を稼げるし……なにより合法だ」ニヤッ
不良「いいねえ!」
不良「お前の代わり……引き受けたぜ!」
男「頼んだぞ、親友」
女「これで残り五人ね!」
― 町 ―
スタスタ…
男「ここらへんは高校生が多いな……」
女「予備校がいっぱいあるからねー」
「お前、また全国模試一位かよ!」 「すげー!」 「頭よすぎだろォ!」
秀才「日頃の勉強の成果を出せてよかったよ」
男「……あいつに決めた!」
女「え!?」
男「全国模試一位、おめでとう」パチパチパチ
秀才「ありがとうございます」
男「毎日毎日、勉強してるんだろうね」
秀才「そりゃもう」
男「しかし、勉強のしすぎは体を壊すし、かえってテストに悪影響をもたらしかねない」
秀才「う……!」
男「ずっと椅子に座ってるのもよくないし」
秀才「そういえば、最近お尻が痛くて……」
男「やはりな……」
男「人間、たまには息抜きが必要だ」
男「息抜きに……バイトでもしてみたらどうだ?」
秀才「おおっ!」
秀才「分かりました、バイトをやります!」
秀才「やらせて下さい!」
男「そこまでいうのなら……いいだろう」
秀才「ありがとうございます! これでボクはもっと偏差値を高められる!」
男「よっしゃ、これで三人目だ!」
女「残るは四人ね!」
― 公園 ―
おっさん「……くそっ! 酒なんか飲んでも気が晴れねえ!」ポイッ
おっさん「あーあ、この年でリストラされちまった……」
おっさん「これからどうやって生きてきゃいいんだ……」
男「おっさん、おっさん」ボソッ
おっさん「?」
男「仕事したいのなら、いい仕事があるよ!」
おっさん「え、ホントかい!?」
おっさん「……お前さんの代わりに出勤すればいいんだな?」
男「その通り! そうすれば俺もおっさんもWin-Winだ!」
おっさん「俺みたいな奴に手を差し伸べてくれて……ありがとうよ」
男「困った時はお互い様ですよ」
男「ああいう年配の人がいると場が引き締まるからな。いい拾い物ができた」
女「あと三人ね!」
― 豪邸 ―
大富豪「私は日本一の大金持ち……」
大富豪「金の力であらゆる娯楽をたしなみ……どれもすっかり飽きてしまった」
大富豪「ああ……刺激が欲しい。新しいことをやってみたい」
大富豪「そうだ、人を集めてデスゲームを開いてみるか!」
男「デスゲームなんかよりもっと面白い娯楽がありますよ!」
大富豪「ほう? 申してみよ」
大富豪「ふむ……アルバイトか」
大富豪「そういえば、生まれてから一度もやったことがなかったな……」
大富豪「よかろう、バイトをさせてもらおう」
男「ありがとうございます!」
女「さぁ、あと二人ね!」
― 店 ―
男(あと二人……友人知人に声をかけてみたけど、なかなか決まらないなぁ……)
社長「お邪魔するよ」
男「いらっしゃいませ……あなたは?」
社長「全国チェーンであるこの店の社長だよ。今日はこの店に抜き打ち視察に来たのだ」
社長「君はバイトだと思うが、ここの店長はどうだね? ちゃんと休みたい時に休ませてくれるかね?」
社長「私にいえば、どんな悩みでも相談に乗るよ」
男「…………!」
男「ちょうどいいところに来て下さいました!」
社長「えっ、私が君の代わりに!?」
男「お願いします! でないと、俺が休めないんです!」
社長「しかし……私、社長だよ?」
男「社長だからなんだってんだッ!!!」
男「社長だってたまにはバイトして、下っ端の苦労を知るべきでしょうよ!!!」
社長「そ、その通りだ! 分かりました、バイトします! させていただきます!」
男(やった……! 残るはあと一人!)
しかし――
男「くそっ!」ガンッ
男「あと一人……! あと一人がどうしても見つからない!」
女「まるで紙は穴だらけなのにビンゴにならない状態ね……」
男「ホントだよ! 飲み会のビンゴ大会では、俺はいつもこうなんだ!」
男「あと一人なのにぃぃぃ……!」
??「まったく、世話の焼ける奴だ……」
覆面「フハハハハハッ!」スタッ
男「誰だ!?」
女「見るからに怪しい奴だわ……」
覆面「わけあって正体は伏せるが、七人目のバイトはこの私が引き受けよう!」
男「ありがたい申し出だ。しかし、顔も見せない得体の知れない奴に任せるわけには……」
覆面「心配いらん!」
覆面「私は君が働いてる店に関して、君以上に詳しいからな……」
男「そ、そうなのか!」
男(なぜだろう……こいつとは初めて会ったような気がしない)
男(こいつは信頼できる!)
男「分かった……お前を七人目にしてやる!」
覆面「期待に応えられるよう、頑張るよ」
男「…………」
男「やった! これでやっと≪七人のバイト≫を集められたぞ!」
女「さっそく店長さんに報告しましょ!」
― 店 ―
店長「よくやった! よくぞ≪七人のバイト≫を集めた!」
男「ははーっ!」
店長「今だからいうが、正直いって集められるとは思わなかった……」
男「ひどいなぁ、店長」
店長「だが、七人ものバイトを集めた君のカリスマ性は本物だ!」
店長「君になら、店長というポジションを託せる!」
男「ええっ、俺が店長!?」
店長「この短期間で七人ものバイトを集めた君なら、きっと私以上の店長になれるはずだ!」
男「…………」ゴクッ
店長「引き受けてくれるか?」
男「分かりました、やってみせます!」
男「今日からは俺が店長だ! みんな、よろしく頼む!」
女「かっこいいわよ~!」
不良「へっ、不甲斐ない店長しやがったら、承知しねえぞ!」
秀才「ボクの偏差値で、あなたをサポートしてみせますよ」
おっさん「拾ってくれた恩に報いてみせる!」
大富豪「娯楽とはいえ、本気でやらせてもらうよ」
社長「最初は足手まといになると思いますが、よろしくお願いします!」
覆面(……頑張れ! ニュー店長!)
ワイワイ…
秀才「この商品は売れ筋ですから、こっちに置いて下さい。売上が伸びます」
大富豪「うむ、分かったよ。君はいいマーケティングをするねえ」
不良「おいっ! チンタラしてんじゃねえぞ! ちゃんと働きやがれ!」
社長「す、すみませんっ!」
おっさん「いらっしゃいませー!」ニコニコ
男「みんな、よく働いてくれてるな……」
女「ええ、おかげでお店の売上もぐんぐん伸びてるわ!」
男「特に……」
男「あの覆面の人の働きはすごい」
覆面「…………」サササッ
覆面「…………」バババッ
覆面「…………」ギュィィィィン
女「やることなすこと全部的確だものね。バイトにしとくのがもったいないくらい」
男(あの人、前店長と声や体格がそっくりなんだよな……。いったい何者なんだ……!?)
男「でも、本来の目的である、“バイト休んでデート”ってのができなくなっちゃったな」
女「ま、いいんじゃない? 毎日この店でデートしてるようなものだし!」
男「それもそうだな!」
イチャイチャ…
不良「おいお~い、店長、ちゃんと仕事してくれよ~」
社長「ホントですよ~、お客さんいっぱい来て大変なんですから……」
男「おっとすまん、今行くよ!」
~おわり~