相棒×聲の形「灯台下暗し」【前編】

304 : 以下、名... - 2018/06/05 13:15:46.75 od/pvmOg0 286/646

相棒×聲の形 ~4日目~


次の日の朝……


西宮家の人間も石田家の人間も、普段通りに学校や仕事に足を運んでいった。

硝子と石田は、またしてもいじめに苛まれる時が来たと不安を……

美也子は客足が少なく、息子の罪の重さを実感する時がまたきたと……


それぞれの思いを抱いて。

305 : 以下、名... - 2018/06/05 13:17:15.81 od/pvmOg0 287/646

そして、職場へ向かう八重子は……


八重子「…………」


彼女は、昨晩のいとの言葉が心の中で響いていた。
あの時こそ一蹴してみせたものの、内心は少しずつだが揺らぎを見せていたのだ。


八重子(そんな事はない…私は、間違っていない……!)


首を横に振ると、八重子は振り払うように職場へと向かっていった。

306 : 以下、名... - 2018/06/05 13:17:48.04 od/pvmOg0 288/646

―西宮家―


結絃は、急にいとに呼び出された。


結絃「婆ちゃん、どうしたんだよ?話があるって……」

いと「…………」

「ゆずや……母さんの事なんだけどね………」

結絃「アイツがどうかしたの?」

307 : 以下、名... - 2018/06/05 13:18:14.95 od/pvmOg0 289/646

いと「……」

「婆ちゃんはね、ずっと母さんの事を見守って来たんだよ……」

「あんまり、口出しし過ぎるのは、母さんとお前達の為にはならないと思ってね」

結絃「…………」

いと「けど……それも、そろそろ終わりにしなくちゃならない……」

「昨日、刑事さんに言われて、ようやく気付いたんだよ」

「だから、これからお前には、母さんが今まで何を考えて生きて来たのか、教えようと思うの」

「後で、硝子にも教えておやり……」

結絃「………」

308 : 以下、名... - 2018/06/05 13:18:50.49 od/pvmOg0 290/646

あまりにも突然の事なのか、結絃は押し黙ったままだ。

かと言って、何も話さないわけにはいかない……

これも、彼女達の今後の為だ。

309 : 以下、名... - 2018/06/05 13:19:24.30 od/pvmOg0 291/646



いと「実はね……」


310 : 以下、名... - 2018/06/05 13:21:20.15 od/pvmOg0 292/646

一方特命係は、今日の朝食を終え、自分達の部屋に足を運んでいるところであった。

その最中、冠城は何やら不満をもらしている。


冠城「右京さん……今日までこの旅館で、美味しいごはんを頂いてもらっていますが……」

「この4日間注文した料理は全て、ご飯と味噌汁の定食……あまりにも庶民的過ぎやしませんかね?」

右京「仕方がないじゃありませんか。本来、この旅館に泊まる事は想定していなかったこと……」

「だからこそ、無駄な出費を避けつつ、栄養バランスの良い料理を注文しているのです」

「それに、そこまで不満があるのでしたら、個別に注文すればいい話しですよ」

冠城「有無言わさずに俺の分まで勝手に注文しておいて、よく言いますよ……」

右京「君が注文するのがあまりにも遅いからですよ」

311 : 以下、名... - 2018/06/05 13:22:04.71 od/pvmOg0 293/646

冠城「…………」

「もしかして右京さん、4日前俺が自分好みの料理の店に連れて行ったの、根に持ってません?」

右京「それは誤解ですよ……」

冠城「本当ですか?」

右京「本当です」

冠城「…………」


頑なに否定する上司。その姿に冠城は、「やっぱり根に持ってるんだな……」と感じた。

312 : 以下、名... - 2018/06/05 13:23:22.10 od/pvmOg0 294/646

ブイー!ブイー!

その時であった。自分のスマホが震え出したので、右京はポケットからスマホを取り出す。

すかさず冠城は横から画面をのぞき込む。

そこには『伍堂清太郎』の名前が表示されていた。


冠城「右京さん……」

右京「……………」

313 : 以下、名... - 2018/06/05 13:24:01.98 od/pvmOg0 295/646





「ついにきましたか…」




314 : 以下、名... - 2018/06/05 13:25:06.32 od/pvmOg0 296/646

2、3時間後……


水門小学校の校長室に、制服姿の2人の男性が押し掛ける。


1人は、若い男性……

もう1人は伍堂刑事を威厳ある顔立ちにしたような、髭面の年配の男性であった。

315 : 以下、名... - 2018/06/05 13:25:58.34 od/pvmOg0 297/646

水田校長「だ、誰だね君達は?」

年配の男性「岐阜県警捜査一課の者です。校長の水田門木さんですね?」

若い男性「ちょっと署までご同行願えませんか?」


警察手帳を見せながら署への同行を頼む警察の男性。
これに、校長は動揺の色を見せる。

316 : 以下、名... - 2018/06/05 13:26:26.44 od/pvmOg0 298/646

水田校長「わ、私は何もやってませんよ……!」

若い刑事「ですから、その確認の為来てもらいたいんです」

年配の刑事「お時間は取らせませんので……」

水田校長「……………」


確認の為に来て欲しいとせがむ警察官。

これ以上拒否するとかえって怪しまれると思ったのだろう、
水田校長は渋々了承するしかなかった。

317 : 以下、名... - 2018/06/05 13:27:03.54 od/pvmOg0 299/646

そして、彼が警察署へ行ったという一報は、瞬く間に教員達に伝わった。


―6年2組―


竹内「みんな、本当なら今は算数の時間だが、緊急の職員会議が入った事により、この時間は自習とする」

「先生が戻って来るまで、教室を出ないように」


そう伝えると、竹内は教室を後にした。


広瀬「緊急の職員会議?何があったんだ?」

島田「知らねぇよ」


突然の事態に、ざわつく6年2組の教室。
石田も硝子もその輪に加わる事はなかったが、同様の反応であった。

318 : 以下、名... - 2018/06/05 13:29:34.29 od/pvmOg0 300/646

―岐阜県警本部 取調室―


任意同行に応じた水田校長は、デスクを挟む形で年配の刑事と向かい合う格好になっていた。


水田校長「あ、あの……お話を聞くんじゃなかったんですか?」

「それにここ……取調室ですよね?」

年配の刑事「実はあなたにお話を聞きたいのは、私達ではないんです」

水田校長「そ、それはどういう事で…?」

年配の刑事「もう少々お待ち下さい。部下の者がその方達を連れて来ます」

若い刑事「警部、お連れしました!」


、丁度良いタイミングで、若い刑事が『ある2人組』を連れて取調室に入ってきた。

319 : 以下、名... - 2018/06/05 13:30:48.03 od/pvmOg0 301/646

水田校長「な…!」


連れられた2人を見て校長は驚いた。

それもそのはず、彼が連れて来たのは4日前に自分のところへ来た特命係だったからだ。

そんな彼を尻目に、警部と呼ばれた年配の刑事は席を立ち、彼らと向き合う。

320 : 以下、名... - 2018/06/05 13:31:53.77 od/pvmOg0 302/646

伍堂警部「面と向かっては始めてですね。私が、岐阜県警捜査一課の伍堂清太郎……」

「今あなた方をここへ案内したのは、部下の坂木です」

坂木「坂木利久男です。よろしくお願いします」

伍堂警部「そして、あなたが警視庁特命係の杉下右京に……」

冠城「冠城亘です」

右京「あなたが、伍堂圭三刑事のお兄様ですか」

伍堂警部「はい。弟の警察手帳の件は、本当に感謝しています」

冠城「お礼を言われる程のことではありませんよ。特別に与えられた命令に従ったまでです」

321 : 以下、名... - 2018/06/05 13:34:32.21 od/pvmOg0 303/646

そのようなやり取りの末、右京は「構いませんか?」と言って
校長の向かいに座っていい尋ねると、伍堂警部は「どうぞ……」と返した。

向かい合う校長と右京……

その時水田校長は、どうして自分がここに連れて来られたのかを理解した。

322 : 以下、名... - 2018/06/05 13:35:10.89 od/pvmOg0 304/646

水田校長「なるほど、あなた達の差し金だったんですね……」

右京「申し訳ありませんねぇ……安全に事を運ぶには、あなたをここに連れて来るしかなかったもので……」

水田校長「安全?それは、どういう事ですか?」

323 : 以下、名... - 2018/06/05 13:35:47.78 od/pvmOg0 305/646

右京「……………」

「解決せねばならない大きな問題が、あなたの学校で起きているという事ですよ……」

水田校長「な、何を言ってるんですか?我が校ではそんなこと……」

冠城「起こっていない……あなたはそうやってまた、嘘を吐くつもりですか?」

「本当はあの学校では、大きな事件が起きていたんじゃありませんか?」

「そう……6年2組の西宮硝子ちゃんいじめという事件が………」

324 : 以下、名... - 2018/06/05 13:36:14.78 od/pvmOg0 306/646

水田校長「…………」


「調べたんですか?」


冠城「ああ言われると余計に調べたくなってしまうのが、我々なもので……」

水田校長「…………」


冠城の言葉に、水田校長は少しばかり絶句したが、すぐにこう返す。

325 : 以下、名... - 2018/06/05 13:37:55.40 od/pvmOg0 307/646

水田校長「そ、そこまで調べたのなら知っているはずですよ」

「あの件は、石田君のお母さんが西宮さんの補聴器の弁償して……それで片が付いたんです」

「これって示談の成立でしょう?示談が成立した案件に、警察は口を挟んではいけないはずですよ」

326 : 以下、名... - 2018/06/05 13:38:21.56 od/pvmOg0 308/646

右京「確かにその通りです……示談交渉の成立が認められた場合、被害者と加害者が和解したとみなされ不起訴処分となる」

「少なくとも、石田家と西宮家は形式上は、補聴器の弁償を行うことで和解が認められます」

「そこに我々が口を挟む事は出来ません。しかし……」

「もしも、石田君に共犯者がいたとしたらどうでしょうか?」

「その共犯者達が主犯の彼に罪を擦り付けた結果が、石田家が西宮家に170万円を支払うことだったのだとしたら?」

「そうなってくると、西宮家と和解していない加害者は大勢いる事になります」

「それを放っておいて、いいのでしょうかねぇ……」

327 : 以下、名... - 2018/06/05 13:39:09.61 od/pvmOg0 309/646

水田校長「まさか…そんな……あり得ませんよ……!」

「確かに、6年2組のみんなは犯人は石田君だと言ってたし……」

「竹内君だってそうです!それに彼からは、あれ以来あの教室は平和だと聞いています!」


必死で訴え出す水田校長。

その様子から、少なくともこの言葉に嘘はないと彼らは察した。

328 : 以下、名... - 2018/06/05 13:40:13.39 od/pvmOg0 310/646

右京「なるほど……その様子だと、あなたも『硝子ちゃんいじめの犯人は石田将也である』としか聞かされなかったのですね?」

水田校長「それは……どういう事ですか?」


右京に問い掛ける水田校長。

ここで、今まで黙っていた伍堂警部が口を開く。


伍堂警部「あなたの学校では、西宮硝子さんへの授業体制に問題があり……」

「それが原因で彼女にいじめが発生した事をあなたが隠したのではないかと、こちらのお二人が疑いを掛けていらしたものでしてね……」

「事実の確認の為、こちらに来てもらう運びになったというわけです」

329 : 以下、名... - 2018/06/05 13:41:51.97 od/pvmOg0 311/646

右京「しかし今の反応を見る限り、どうやら違ったようですねえ」

冠城「けれど、全くの無問題ではない……」

「4日前の我々の質問に対し、あなたはいじめなんか起きていないと嘘を吐き、先程も同様の事をしようとした……」

「これは立派な偽証ですよ」

右京「それだけではありません」

「あなたは竹内先生から、事実の一端しか聞かされていなかったのは、ほぼ間違いない……」

「となると、竹内先生はあなたに虚偽の報告を行った疑いがあります」

水田校長「そ、そんな馬鹿な!何で竹内君が嘘なんか……」

330 : 以下、名... - 2018/06/05 13:42:42.38 od/pvmOg0 312/646

伍堂警部「今言ったじゃありませんか。硝子さんへの授業体制に問題があった疑いがあると……」

「竹内先生の不備で、西宮硝子ちゃんに対するいじめが発生した……その事を咎められるのを恐れ、あなたに嘘の報告をした」

「理由は、それで充分でしょう?」

水田校長「し、しかし……」

331 : 以下、名... - 2018/06/05 13:43:41.74 od/pvmOg0 313/646

右京「…………」


まだ信じられないといった様子の校長。

そんな彼に対し、右京は真剣な面持ちで問い掛ける。

332 : 以下、名... - 2018/06/05 13:44:16.11 od/pvmOg0 314/646

右京「しかし、水田校長……あなたは、ちゃんと事の真偽を確かめたのですか?」

「立場上あなたは、常日頃から6年2組を観察しているわけではない……」

「彼らがそれを利用して、全ての事実を語らずにいたという可能性も充分考えられたはずです」

「一度でも、そのような事を考えたことがありましたか?」

水田校長「そ、それは…………」


右京の問いに、水田校長は何も答えられなかった。

案の定、彼は竹内らの言葉を鵜呑みにし、それ以上の詮索は一切していなかったようだ。

それを見た右京は、次の一手に出る。

333 : 以下、名... - 2018/06/05 13:45:27.50 od/pvmOg0 315/646

右京「ちなみに、証拠も既に挙がっています」

「冠城君………」

冠城「はい」


右京に言われ、冠城は自分のスマホを取り出すと、昨日青木に撮らせた映像を水田校長に見せた。
映像を見た水田校長は、驚きの表情を見せる。

334 : 以下、名... - 2018/06/05 13:46:23.59 od/pvmOg0 316/646

水田校長「こ、これは…!」

冠城「昨日、同期の奴に無理矢理撮らせた映像ですが……」

「これの何処が平和なんですか?」

水田校長「…………」

伍堂警部「ちなみに、例の件で破損させられた硝子ちゃんの補聴器も調べましたが……」

「それからも疑わしい点が出て来ました」

335 : 以下、名... - 2018/06/05 13:47:16.63 od/pvmOg0 317/646

右京「それだけではありません」

「石田君に全てが押し付けられた結果が、石田家と西宮家の示談交渉なのだとすれば……」

「石田君もまた、何かしらの危険に曝されている可能性があります」

「それでいて、西宮硝子ちゃんは未だいじめに遭っている……」

「6年2組で起こった問題は、何も解決していないんですよ」

「それを放っておいて、いいんでしょうか?」

336 : 以下、名... - 2018/06/05 13:48:48.72 od/pvmOg0 318/646

水田校長「…………」

「一体、何が望みなんですか?私にどうしろと……?」


疑問を投げ掛ける水田校長。
これに対し右京は、少し間をおいてこう答えた。

337 : 以下、名... - 2018/06/05 13:49:47.23 od/pvmOg0 319/646

右京「我々警察が、6年2組に立ち入ることを許可して頂きたい」

水田校長「立ち入りの許可……」

冠城「証拠が挙がっている以上、あなただって無視は出来ないでしょう?」

水田校長「そ、そうですが………」

338 : 以下、名... - 2018/06/05 13:50:15.64 od/pvmOg0 320/646

右京「水田校長……これは、子供達の今後に関わる事なのです」

「このまま、全てが明らかにならないままだと、彼らは間違った道を進み続け、いずれ後戻り出来なくなる……」

「そうなれば、人としての道を踏み外す事になってしまうでしょう」

「本来学校とは、子供達を正しき道へ導く為にあるべき所です……」

「違いますか?」

339 : 以下、名... - 2018/06/05 13:51:11.96 od/pvmOg0 321/646

水田校長「…………」

右京「あなたが一言でもYESと言って頂ければ、それでいい……」

「たったそれだけで、彼らの未来に一条の光を指す事が出来るのです」

「なので……どうか立ち入りの許可を頂けないでしょうか?」

340 : 以下、名... - 2018/06/05 13:52:16.87 od/pvmOg0 322/646

真剣な面持ちで頼み込む右京。

そんな彼に、水田校長が出した答えは……?



341 : 以下、名... - 2018/06/05 13:52:56.40 od/pvmOg0 323/646

数時間後……

水門小学校の6年2組の教室に、会議を終えた竹内が戻って来た。


竹内「みんな…落ち着いて聞いて欲しい。今から1時間前、校長先生が警察に連れていかれた」


水田校長が警察に連れていかれた……

竹内の一言で、生徒達は騒然とする。
その彼らを宥めるように、竹内はこう続ける。


竹内「職員会議で話し合った結果、今日の授業は続けられないという答えが出た」

「よって、お前達は早急に家に帰るように……」

342 : 以下、名... - 2018/06/05 13:53:22.18 od/pvmOg0 324/646




???「お帰りになるのはまだ早いですよ」



343 : 以下、名... - 2018/06/05 13:54:19.96 od/pvmOg0 325/646

その時であった。

聞き慣れない男性の声が聞こえ、竹内達は声のした方を見てみると、
そこには両手を後ろに組んだ格好の杉下右京が立っていた。

344 : 以下、名... - 2018/06/05 13:54:52.38 od/pvmOg0 326/646

広瀬「お、おい!島田、あの眼鏡のおっさん、アイツ(冠城)と一緒にいた奴だよな?」

島田「な、何でアイツが…?」


石田をいじめていた2人は突然の右京の登場に動揺するが、動揺しているのは彼らだけではない。
今日まで何度か顔を合わせた硝子と、4日前に彼を見た石田もだ。

そんな彼らの反応をよそに、右京は竹内の側に歩み寄った。

345 : 以下、名... - 2018/06/05 13:55:28.03 od/pvmOg0 327/646

竹内「な、何ですかあなたは?」

右京「警察の者です。子供達を帰すのは、もう少し待って頂きたい」


警察手帳を見せる右京に対し、竹内は「警察が、誰の許しでこんな所に?」と返す。

346 : 以下、名... - 2018/06/05 13:56:17.85 od/pvmOg0 328/646

右京「水田校長ですよ」

竹内「校長先生!?」

右京「ですので、今この場の指揮は、我々がとらせて頂く事になります。よろしいですね?」

竹内「それは構いませんが、一体どういう事なんですか?」

右京「すぐにでもお話ししたいところですが、まだ人数が足りません。話しはその時に……」


こうして右京は、彼らにこの場で少しの間待つよう促した。

それから少しして、冠城が1人の女性を連れてやって来た。

347 : 以下、名... - 2018/06/05 13:56:44.70 od/pvmOg0 329/646

冠城「右京さん。喜多先生を連れて来ました」

右京「ご苦労様です」


連れて来られた女性は、この学校の音楽教師の喜多であった。

喜多は、いきなりこの教室に……しかも警察に連れて来られたからか、とても不安そうだ。

348 : 以下、名... - 2018/06/05 13:57:21.25 od/pvmOg0 330/646

喜多「あ…あの……なんで、私が?」

右京「あなたも、硝子ちゃん達と繋がりがあるそうでしてねぇ……」

「その事で、是非とも知ってもらいたい事があるものです」

冠城「別にあなたを疑っているとかではないので、どうぞご安心を……」

喜多「は、はぁ……」


それでもまだ少し不安そうにしている喜多。

349 : 以下、名... - 2018/06/05 13:57:59.97 od/pvmOg0 331/646

伍堂警部「こちらです……」


続いて、伍堂警部と坂木がそれぞれある女性を連れてきた。

西宮八重子と石田美也子である。

350 : 以下、名... - 2018/06/05 13:58:31.61 od/pvmOg0 332/646

母親がこの場に連れて来られた事に驚く2人。

一方2人の母親も、目の前に右京達がいて驚きを隠せないでいた。


美也子「あなたは……一昨日の刑事さん?」

八重子「どうしてあなた達がここにいるのよ!?」

伍堂警部「彼らだけではありませんよ。我々も警察……岐阜県警捜査一課の者です」


そう言って伍堂警部と坂木は警察手帳を八重子達に見せた。

351 : 以下、名... - 2018/06/05 13:59:08.24 od/pvmOg0 333/646

八重子「あ、あなた……この学校の人じゃなかったの?」

美也子「私もてっきり……」

坂木「騙すような真似をして、申し訳ありません」

伍堂警部「こちらの杉下警部から『あなた方を連れて来るなら、警察である事は伏せた方がいい』と助言されたものでして……」

右京「あなた方は一度、我々と顔を合わせていますからねえ」

「正直に名乗らせたら、警戒されるのではないかと思いまして………」

冠城「何はともあれ、これで全員揃いましたね」

右京「えぇ……」


喜多、八重子、美也子……

三名の到着を確認した彼は、いよいよ話しの本題に取り掛かる。

352 : 以下、名... - 2018/06/05 14:01:46.58 od/pvmOg0 334/646

右京「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この学校の校長先生を任意同行で連れて行く運びとなりました」

伍堂警部「現在、彼の身柄は岐阜県警が預かっています」

美也子「校長先生が?」

竹内「丁度良かった……どうして、急に校長先生を連れていったんですか?おかげで、我々教職員は大混乱ですよ」

右京「ご迷惑をお掛けして、申し訳ないと思っています」

「しかし、どうしても我々の下に来てもらわなくてはならない理由があったものでして……」

竹内「理由って?」

冠城「彼が、このクラスで起こった出来事を、隠している疑いが持ち上がりましてね……」

「その事の真相を、確かめる為に……」

竹内「え…?」


冠城の一言に、竹内の表情が一瞬曇った。

彼だけではない、硝子と石田以外の生徒も……

353 : 以下、名... - 2018/06/05 14:04:57.48 od/pvmOg0 335/646

美也子「ここで起きた事を隠してるって…?」

右京「我々は、とある事情で水田校長を尋ね、この学校で何かトラブルがなかったかどうか伺いました」

「その際彼は、『この学校では何も起きていなかった』と答えたのですが……」

「後で調べてみたところ、このクラスで西宮硝子ちゃんに対するいじめ問題が起こっていた事が判明しました」

354 : 以下、名... - 2018/06/05 14:06:08.49 od/pvmOg0 336/646

冠城「つまり彼は、我々に対し偽証を図った……だから、彼を任意で連れて行った訳なんです」

右京「なので、今一度確認させてもらいます……」

「このクラスで、そこにいらっしゃる西宮硝子ちゃんへのいじめは、起きていましたか?」


右京は、片手で席に座る硝子を指しながら、この場にいる者達に問い掛けた。

そこで返ってきた答えは、言うまでもなく……

355 : 以下、名... - 2018/06/05 14:06:45.23 od/pvmOg0 337/646

八重子「えぇ、そうですよ!そこの石田さんの息子さんが、ウチの硝子をいじめました」

喜多「私も…石田君が西宮さんをいじめていると、聞きました……」

島田「そうだ、おっさ……じゃなくて刑事さん!石田の奴が西宮の事いじめてたんだ!」

川井「しかもそれだけじゃないわ!石田君、最初に来た時からずっと西宮さんの事悪く言ってたもん!」

植野「…………」


八重子と喜多の言葉を皮切りに、次々と硝子いじめの犯人は石田だと主張し始める生徒達。
その中で、植野だけ複雑そうにしているのを、右京は見逃さない。

356 : 以下、名... - 2018/06/05 14:07:33.19 od/pvmOg0 338/646

一方、彼らの姿に美也子は辛そうな表情を浮かべ、石田と硝子も俯いている。
その3人の様子も確認しつつ、右京は竹内に向き直る。


右京「なるほど……これ程までに証人がいるとなれば、石田君が硝子ちゃんをいじめたと見て間違いはありません」

「それを水田校長は、内密に処理したというわけですか……」

竹内「当たり前じゃないですか。石田が犯人じゃなければ、誰が西宮をいじめたと言うんですか?」

「そもそも、処理されていると知っているなら、わざわざあなた方が出てくるような話ではありません」

「校長が勝手に吐いた嘘に、我々を巻き込まないで頂きたい!」


突き放すような言葉を発する竹内。

右京はそんな彼に擬古的な視線を向けながら、こう切り返した。

357 : 以下、名... - 2018/06/05 14:09:01.11 od/pvmOg0 339/646

右京「ところが、そうも行かないんですよ……」

「何故なら解決したのは、『石田君が』硝子ちゃんをいじめた事だけなんですから……」

竹内「は…はあ?」

冠城「要するに、石田君以外にもいじめの犯人がいるという事です」

「その犯人達は今、何もなかったかのように過ごしている……」

右京「我々は、その事実を確かめるよう水田校長に頼まれ、ここへ来たというわけです」

358 : 以下、名... - 2018/06/05 14:10:07.25 od/pvmOg0 340/646

生徒達「…!」

竹内「…………」


特命係の2人の一言に、生徒達の背筋が凍り付き、
竹内の表情も少し濁ったが、平静さを保ってこう返した。


竹内「石田以外に犯人がいるなんてあり得ませんよ。私もちゃんと見てたんですから」

右京「それは間違いありませんね?」

竹内「もちろんです」

右京「それでは……今度は硝子ちゃんと石田君、双方のお母様に尋ねます」

「石田君が硝子ちゃんをいじめたという事実をこの学校から聞かされたのは、間違いありませんか?」

359 : 以下、名... - 2018/06/05 14:12:17.42 od/pvmOg0 341/646

八重子「もちろんです!私が補聴器の事で訴えたら、『犯人は石田君だ』という答えをもらいました」

美也子「私も、そちらの竹内先生から電話で………」

右京「その事で他に何かお話は?」

美也子「先日お話しした通りです。将也が、西宮さんの娘さんをいじめたこと以外、なにも………」

八重子「私もよ」

右京「なるほど……」

「つまり、あなた方は石田君と硝子ちゃんがどのような状況に置かれていたのか、その詳細までは知らされなかったのですね?」

美也子「確かにそういうことになりますが………」

八重子「大体、そんなこと知って何になるのよ?知ろうが知るまいが、関係ないことよ!」

360 : 以下、名... - 2018/06/05 14:12:47.47 od/pvmOg0 342/646

美也子とは対照的に、重要な問題ではないと突っぱねてみせる八重子。

しかし右京は「ところが、それが一番問題なんですよ……」と返した。


八重子「はあ?」


彼の言葉の意味が分からず、小首を傾げる八重子。
その疑問を解消すべく、右京は次のようなことを語る。

361 : 以下、名... - 2018/06/05 14:14:51.08 od/pvmOg0 343/646

右京「西宮八重子さん、石田美也子さん……」

「保護者と言う立場上、あなた方は学校内でのお子様の状況を確認する事は、基本的に不可能です」

「彼らの状況を知るには、学校関係者に問い合わせる必要がある……」

「それしか知る術がなかったあなた方は、学校側の言葉を信じるしかありません」

「しかし裏を返せばそれは、学校側が言った事はどのようなものだろうと、あなた方にとっての真実になってしまうという事を意味します」

362 : 以下、名... - 2018/06/05 14:15:20.32 od/pvmOg0 344/646



「例えそれが、事実の一部が欠けた内容であったとしても……」


363 : 以下、名... - 2018/06/05 14:15:53.36 od/pvmOg0 345/646

八重子「…?」

美也子「ちょ…ちょっと待って下さい。それってひょっとして……!」


美也子が何か勘付いたのを見て、右京は
「そのひょっとしてですよ……」と言ってまた竹内の方に顔を向け、こう続ける……

364 : 以下、名... - 2018/06/05 14:16:31.52 od/pvmOg0 346/646

右京「竹内先生が石田君・硝子ちゃん双方の詳細な状況を語っていれば、この件はまた別の見方が出来た可能性があるんです」

「『石田君に共犯者がいた』という見方が……」

「それだけではない、いじめ問題が起こった原因もです」

「よって竹内先生……あなたは、伝えるべき事実を全て伝えていない疑いがあるのですよ」

365 : 以下、名... - 2018/06/05 14:18:08.23 od/pvmOg0 347/646

右京の指摘で、八重子と美也子はハッとした。

言われてみると、自分達は学校側の言い分を聞いただけで、その信憑性を疑った事はなかった。

相手が嘘……もしくは不都合な事実を隠している可能性だってあったはずだ。

どうして今まで、そのような考えが思い浮かばなかったのだろうか?

2人の母親は、そのことを不思議に感じた。

366 : 以下、名... - 2018/06/05 14:18:42.27 od/pvmOg0 348/646

竹内「ふ、ふざけないで下さい!さっきみんなが言った事を忘れたんですか?犯人は石田であると……!」

右京「えぇ確かに、先程皆さんが言ったことは事実でしょう」

「補聴器が紛失及び破損させられたという事実がある以上、何者かが硝子ちゃんをいじめていたのは確実です」

「その何者かこそが、石田将也君……」

「だからこそ、君達は石田君が犯人だと名指しした」

367 : 以下、名... - 2018/06/05 14:19:54.46 od/pvmOg0 349/646

川井「そうですよ」

広瀬「そうじゃなかったら、石田が犯人だなんて分からないじゃんか!」

右京「しかし、それがかえって腑に落ちないんですよ……」

広瀬「え…?」

右京「君達が、石田君が犯人であると主張したという事は、少なくとも石田君の行いに否定的であったはずです」

368 : 以下、名... - 2018/06/05 14:20:40.97 od/pvmOg0 350/646







「なのに何故、君達は石田君を止めることが出来なかったのでしょうか?」





369 : 以下、名... - 2018/06/05 14:21:33.51 od/pvmOg0 351/646

生徒達「!!!!!」


右京の投げ掛けた疑問に、6年2組の生徒達の表情はまたしても凍り付いた。
その反応を確認しながら、右京はこう続ける。

370 : 以下、名... - 2018/06/05 14:22:08.75 od/pvmOg0 352/646

右京「犯人が石田君1人で、ここにいる全員が否定的だったのならば、事態が悪化する前に止めに入る子がいてもおかしくなかったはずです」

「たった1人のいじめ加害者とクラスの生徒全員……どちらに分があるのか、言うまでもありません」

「しかし、そうであるにもかかわらず石田君の硝子ちゃんいじめは、彼のお母様が補聴器の賠償金を支払う程にまで悪化しています」

「どうして君達は、そうなる前に石田君を止める事が出来なかったのか……」

「その理由を教えて下さい」

371 : 以下、名... - 2018/06/05 14:22:57.05 od/pvmOg0 353/646

島田「え、えっと……」

広瀬「それは…………」


右京の問い掛けに、答えに詰まる島田と広瀬をはじめとした6年2組の生徒達。

その様子は動揺している以外の何物でもない。

372 : 以下、名... - 2018/06/05 14:25:58.78 od/pvmOg0 354/646

竹内「それはきっと、みんな石田の仕返しが怖かったんですよ」


だが、それを見た竹内はまるで助け舟を出すかのように、横槍を入れだす。
これに生徒達は安堵の表情を浮かべるが、
右京は気にせず「これ程、同じ思想の子が沢山いたのにですか?」と疑問を投げ掛けた。

373 : 以下、名... - 2018/06/05 14:26:43.65 od/pvmOg0 355/646

竹内「逆に考えてみて下さいよ、これだけの多くの子がいるんです」

「みんな、自分と同じ考えを持っていたなんて、知らなかったんですよ」

「なあみんな、そうだろ?」

島田「先生の言う通りだ!」

広瀬「みんなの考えも知ってたら、俺達だって石田を止めてた!」

川井「そうよ!私達、石田君に仕返しされるのがとても怖かったの!ね?」

植野「え?え、えぇ……」


またしても竹内に続くように、口を揃えて答える6年2組の生徒達。
だが、相変わらず植野だけはあまり乗り気ではなさそうで、むしろ複雑そうな様子である。

彼らの姿を右京が黙って見る中、伍堂警部が竹内に歩み寄る。

374 : 以下、名... - 2018/06/05 14:27:45.19 od/pvmOg0 356/646

伍堂警部「随分と彼らの肩をお持ちになりますね」

竹内「当たり前じゃないですか。彼らは曲りなりしも、私の生徒です」

「あらぬ疑いを掛けられた彼らを守るのも、教師である私の役目ですよ」

伍堂警部「まあ、確かにそれは間違っていませんね」

右京「しかし、本当にそれだけなのですか?」

竹内「……何ですか?何か他意があるとでも?」


聞き返す竹内。そんな彼の目を見ながら右京は……

375 : 以下、名... - 2018/06/05 14:28:19.29 od/pvmOg0 357/646



右京「では、竹内先生……ひとつお聞きしますが………」


376 : 以下、名... - 2018/06/05 14:29:02.66 od/pvmOg0 358/646






「何故あなたは、同じ6年2組の生徒である硝子ちゃんの事を守れなかったのですか?」





377 : 以下、名... - 2018/06/05 14:29:38.49 od/pvmOg0 359/646

竹内「!!」


上記のようなことを問い掛けた。これに竹内は目をギョッとさせた。

378 : 以下、名... - 2018/06/05 14:30:30.72 od/pvmOg0 360/646

右京「あなたも、彼ら同様石田君が梢子ちゃんをいじめている事実を把握していたんですよね?」

「それなのに何故、こんな事になったのでしょうか?」

「このクラスで一番の力を持っているのは、担任であり大人でもあるあなたです」

「あなたがもっと積極的に動いていれば、石田君を止める事は出来たでしょうし……」

「生徒達もそれに便乗し、石田君を止めるよう動けるようになったはずだと思います」

「なのにどうして……?」

379 : 以下、名... - 2018/06/05 14:30:57.66 od/pvmOg0 361/646

竹内「な、何言ってるんですか?」

「私は石田が西宮をいじめているのを、何度も注意しました。それでも彼は止めなかったんです!」

右京「それは確かですか?」

竹内「えぇ…職員室にいた他の教員……」

「例えば、そこにいる喜多先生が見ているはずですよ!」

喜多「え!?」


いきなり竹内に指をさされ、喜多は少しばかり驚く。

380 : 以下、名... - 2018/06/05 14:34:14.33 od/pvmOg0 362/646

右京「喜多先生……それは本当ですか?」

喜多「えっと……」


「………あ!」


「そ、そう言えば確かに、竹内先生が石田君に何か言っているところを見たことがあります」

右京「なるほど……あなたが見たと仰るのなら、そうなのでしょう」


納得の言葉を発する右京に、竹内の表情は一瞬緩んだが……

381 : 以下、名... - 2018/06/05 14:35:43.82 od/pvmOg0 363/646

右京「しかし竹内先生。あなたが彼にしたという『注意』ですが………」

「本来この言葉は、他者が犯した誤りを指摘する行為を指します」

「いわば、口頭による忠告……その場で仲裁するのとは、わけが違う」

「石田君は普段からお母様に叱られた事がなく、無茶をすることも多かったそうです」

「そのような子が、口で忠告しただけで止められるとは思えません」

「そうなると、別の手段が考えられたはずです」

「例えば、石田君の行動を頻繁に監視し、硝子ちゃんに手を出しそうであれば阻止するか……」

「お母様に、石田君が問題行動を止めない事を相談するか……」

「とにかく、止める手段はいくらでもあったはずなんです」

「しかし聞いてみれば、石田君のお母様はあなたの電話を受けるまで、息子さんが硝子ちゃんをいじめていた事を知らなかったそうですし……」

「あなたご自身の口からも、注意したという言葉は出ても直接的に止めたといった表現は出てきていない」

「つまり………」

382 : 以下、名... - 2018/06/05 14:36:49.69 od/pvmOg0 364/646




「あなたは、石田君のいじめそのものを止めるのに、消極的だった事が認められるんですよ」



383 : 以下、名... - 2018/06/05 14:39:25.09 od/pvmOg0 365/646

竹内「!」


右京の指摘に竹内は表情を曇らせたが、それでも引き下がらない。


竹内「そ……そんなのデタラメだ!」

「大体、何の得があって、そんないい加減な事しなくちゃならないんです?」

右京「それは、硝子ちゃんいじめの原因に、思い当たる節があったからです」

「2人のお母様に全ての事実を伝えなかったのも、それが大きく絡んでいる……」

384 : 以下、名... - 2018/06/05 14:40:52.61 od/pvmOg0 366/646

竹内「え…?!」

美也子「それは、どういう事ですか?」

八重子「そうよ!硝子がいじめられた原因を知ってるのに、どうしてその事を隠す必要があるの?!」


当然の疑問を投げ掛ける2人の母親。

彼女らに対し、右京は少し間を置いてある事を問う。

385 : 以下、名... - 2018/06/05 14:41:19.24 od/pvmOg0 367/646

右京「お二人は、硝子ちゃんいじめが起こった原因は何だと思いますか?」

美也子「そ、それは……」

八重子「石田君が硝子の障害を馬鹿にしたからに決まっているじゃないですか!」

右京「確かに……それもあると思います」

「しかし、石田君に共犯者がいたとなると、原因はそれだけではなかったと思われます」

八重子「それだけじゃない?」


首を傾げる八重子。それは美也子も同様だ。

そんな彼女らに対し、右京はこう続ける。

386 : 以下、名... - 2018/06/05 14:41:57.73 od/pvmOg0 368/646

右京「仮に石田君の共犯者がここにいる生徒達だったと考えると、その理由は何なのか?」

「石田君と思想が一致したからと考えるのが自然ですが……」

「そう考えると、何の理由があってその様な思想を抱くに至ってしまったのかという疑問が生じます」

「そこで考えられるのが、『硝子ちゃんが難聴であり、それが元で確執が生じた』と言うものですが……」

「それだと、また別の疑問が生じます」


そこまで言いながら、右京は竹内の方を向き直し……

387 : 以下、名... - 2018/06/05 14:42:40.02 od/pvmOg0 369/646

右京「何故、竹内先生がいながらこんな事になったのかです」

「通常、教員は障害を持つお子様とそうでない子が衝突しないよう、障害のあるお子様への理解を深めるよう配慮しなければならなかったはず……」

「しかし、現にこのクラスでは、硝子ちゃんへのいじめが発生している……」

「教員が場を取り持っていれば、起こり得ない事態です」

「これは、どうしてなのでしょうかねぇ……?」


わざとらしい喋り口調で、右京は竹内に疑問を投げつけた。

388 : 以下、名... - 2018/06/05 14:43:16.27 od/pvmOg0 370/646

竹内「今度は何を言いたいんですか?」

右京「…………」


疑問を投げ掛ける竹内。

そんな彼に対し、右京は唐突に手を使ったジェスチャーを見せる。

389 : 以下、名... - 2018/06/05 14:43:44.76 od/pvmOg0 371/646

竹内「な……何ですか?」

右京「なるほど、そうですか……」

竹内「だ、だから……何なんですか?!」

右京「今のは手話なのですが……」

「竹内先生……あなた、手話の知識がありませんね?」

390 : 以下、名... - 2018/06/05 14:44:13.66 od/pvmOg0 372/646

竹内「……………」

「当たり前じゃないですか。普段から、西宮のような子と接する機会もありませんでしたし……」

「そもそも、西宮は筆談で会話していました。出来なくても問題ない」

391 : 以下、名... - 2018/06/05 14:44:55.93 od/pvmOg0 373/646

右京「確かに、硝子ちゃんは筆談でコミュニケーションを取っていたそうですが……」

「筆談は手話のような高度な知識を必要としない反面、文字を書く作業を挟むが故、互いの意思を表示するまでに時間が掛かるという欠点がある」

「場合によっては、手話を用いた方が効率よくコミュニケーションを取れる場面があったはずです」

「硝子ちゃんはどちらかというと、手話での会話が得意な娘です。その上、筆談用ノートも紛失したようですからねぇ……」

竹内「……………」

392 : 以下、名... - 2018/06/05 14:46:02.76 od/pvmOg0 374/646

右京「ちなみに、今のは『この手話、分かりますか?』と言う内容だったのですが……」

「それを理解する事が出来ず、尚且つ障害のある子と接する機会もなかったというあなたが」

「硝子ちゃんに対応しきれるものなのでしょうかねぇ……?」

竹内「は…!」


その瞬間、竹内は右京にはめられた事に気付くが、それももう後の祭り……

彼の反応を右京は見逃さない。


美也子「刑事さん、どういう事なんですか?」

八重子「そうよ!さっさと説明して頂戴!」

393 : 以下、名... - 2018/06/05 14:46:29.26 od/pvmOg0 375/646



説明を求める2人の母親に対し、右京は「事件の全容は、恐らくこうです」と言って、いよいよ事件の核心に迫る推理を始める。


394 : 以下、名... - 2018/06/05 14:47:09.69 od/pvmOg0 376/646

右京「八重子さんの意向により、硝子ちゃんはこの学校に転校し、このクラスの生徒となった」

「ところが、竹内先生は硝子ちゃんに対応する術を持たなかった。そんな彼にとって、硝子ちゃんは重荷でしかない……」

「しかし一度生徒として預かってしまった以上、そう簡単に手放すことは出来ません。それこそ、職務放棄を咎められる危険性がある」

「自身が西宮硝子と言う重い荷物から逃れるには、荷物持ちが必要だった」

「そこで彼が取った行動は、6年2組の生徒達に硝子ちゃんの世話を任せる事でした」

「生徒が他の児童にフォローを入れることは違法ではない」

「それどころか、健常な子供達が障害あるお子様を手助けしていると言う構図が出来上がる……」

「そうする事で、『自分は何のダメージを負わないまま、硝子ちゃんから逃れられる』と考えたのでしょう……」

竹内「…………」

395 : 以下、名... - 2018/06/05 14:48:43.32 od/pvmOg0 377/646

右京「しかしそれは、生徒達も同様でした」

「彼らも普通学級の人間であるが故に、障害あるお子様へ対応する術を持たなかったのです」

「そのような人間が、果たしてまともに授業を受ける事が出来るでしょうか?」

「常識的に考えて、難しいと思います」

「そこで本来ならば、教師が対策を取るところですが、硝子ちゃんと関わりたくなかった竹内先生は現状維持を貫いた」

「障害を持つお子様と対応出来ず、教師からの助けも得られない……」

「このような状況に、彼らは酷くストレスを感じたはずです」

「その最中、石田君は硝子ちゃんを頻繁に手を出し、日に日にそれが悪質な方向へエスカレートしていった」

「梢子ちゃんの世話でストレスを感じていた彼らは、それを見てどう思ったでしょうか?」

「恐らくは………」

396 : 以下、名... - 2018/06/05 14:49:13.53 od/pvmOg0 378/646




「『石田君がストレスの元凶に制裁を与えてくれている』」



397 : 以下、名... - 2018/06/05 14:50:03.67 od/pvmOg0 379/646

「そう感じたと思います」


そう言いながら生徒達に目を移す右京。
彼に目を向けられた生徒達は、全員焦った様子で目を反らした。

一方美也子は、何かに気付いたのか「ま、まさか……!」と声を上げる。

398 : 以下、名... - 2018/06/05 14:50:49.86 od/pvmOg0 380/646

右京「そのまさか……」

「こうして彼らは、いつしか石田君の硝子ちゃんいじめを肯定し、共謀するようになったのです」

「共謀しなかった生徒も、硝子ちゃんいじめを見て見ぬふりをしていたと考えられます」

「一方、自分達の行いがバレた時の事も考えたはずです」

「ストレスの発散が出来たところで、事が明らかになればそれこそ大きなダメージを負う事になる……」

「それから逃れるには、『誰か』に自分達の罪と責任を持って行ってもらう他ありません」

「その誰かと言うのが……」

399 : 以下、名... - 2018/06/05 14:51:32.57 od/pvmOg0 381/646

と言って右京は、石田に目を向ける。


右京「石田君、君だった…」

石田「…………」

401 : 以下、名... - 2018/06/05 14:52:18.11 od/pvmOg0 382/646

右京「君は、彼らよりも先に硝子ちゃんに手を出し、それでいて積極的にいじめていた……」

「責任を押し付けられても、文句は言えないだろうと彼らは踏んだのでしょう」

「そしてそれは、竹内先生も同じだった……」

「万が一、石田君の硝子ちゃんいじめが外部に漏れれば、硝子ちゃんの世話を生徒達に押し付けた事が芋ずる式で明らかになる可能性があった」

「そうなれば、教師として大きなダメージを負う事は免れません。退職させられるかもしれないとも、考えたのでしょう」

「そう……これこそが、竹内先生が石田君を止めるのに消極的で、あなた方保護者に全ての事実を明かさなかった理由です」

「しかし、口先の忠告だけで石田君が止まるはずがなく、事態は深刻化……」

「そこで彼が最後に取った手段が、石田君に犠牲になってもらう事でした」

「石田君が全て悪い事にしてしまえば、梢子ちゃんやいじめ問題への対応の不備を有耶無耶に出来る……」

「そう考えたのでしょう」

402 : 以下、名... - 2018/06/05 14:52:51.46 od/pvmOg0 383/646


冠城「そして、彼らの目論見は見事成功……」

「校長もあなた方も、石田君一人が犯人だと信じてしまった」

403 : 以下、名... - 2018/06/05 14:54:58.18 od/pvmOg0 384/646

美也子「そ、それじゃあ!私達は……」

八重子「コイツらの隠蔽に協力してしまったってことなの!?」

右京「結果的に言うと……」

404 : 以下、名... - 2018/06/05 14:56:28.16 od/pvmOg0 385/646




「そうなります」



405 : 以下、名... - 2018/06/05 14:56:55.14 od/pvmOg0 386/646

八重子美也子「「!!」」


右京の言葉に愕然とする2人の母親と、彼の推理に焦りの色を隠せないでいる竹内。

そんな竹内に、美也子は問う。

406 : 以下、名... - 2018/06/05 14:57:24.22 od/pvmOg0 387/646

美也子「た、竹内先生……今の話し、本当なんですか?」

竹内「そ……それこそデタラメだ!」

「大体、証拠は?証拠はあるんですか?」

「警察なら、証拠を見せて下さいよ!証拠を!!」

冠城「…………」

「なんて言ってますが……どうします?」

407 : 以下、名... - 2018/06/05 14:57:50.05 od/pvmOg0 388/646

右京「これだけ証拠の提出を望んでいるのです……見せてあげて下さい」

冠城「分かりました」

竹内「な…!?」


特命係の2人のやり取りに、竹内は心底驚く。

それを気にせず、冠城は懐からスマホを取り出した。

408 : 以下、名... - 2018/06/05 14:58:38.64 od/pvmOg0 389/646

冠城「皆さん……今から流す映像をしっかり見ていて下さい」


そう言って、冠城は昨日青木に撮らせた映像を流した。

教科書の朗読を硝子に指示する竹内の姿や、授業の事で硝子に手を上げ、悪魔と罵る植野の姿……

そして、彼女の行いを側で見て笑ったり、無視したりしている川井や生徒達の姿が映った、あの映像を……

409 : 以下、名... - 2018/06/05 14:59:33.41 od/pvmOg0 390/646

竹内「…………!」

植野「……………!」


一連の映像を見て、竹内と植野らの顔が青ざめた。

410 : 以下、名... - 2018/06/05 15:00:33.25 od/pvmOg0 391/646

冠城「これは、昨日俺が同期の奴に無理矢理撮らせたものですが……」

「これ、どういう事なんでしょうかねぇ?」

伍堂警部「竹内先生……あなたは、硝子さんが耳が不自由で声を発するのも難しい身である事は、把握済みだったはずだ」

「なのに何故、教科書の朗読を指示したんですか?」

右京「君も、随分と手荒い真似をしていたんですねぇ……」

植野「………」

坂木「ちなみにこれ、無編集である事は鑑識課が確認済みです」

竹内「……………」

411 : 以下、名... - 2018/06/05 15:01:06.26 od/pvmOg0 392/646

右京「それと、疑わしい物は他にもあります」


そう言いながら、右京は懐からビニールに入れられたある物を取り出した。

それは、昨日岐阜県警に鑑定に出した、壊れた補聴器……


八重子「それは……!どうして、あなたが?」

右京「実は昨日、あなたや硝子ちゃんが出掛けている間に、いとさんから借りさせてもらったもので……」


右京が八重子の疑問に答えた後、今度は伍堂警部が口を開く。

412 : 以下、名... - 2018/06/05 15:01:54.65 od/pvmOg0 393/646

伍堂警部「この事からもお分かりの通り、この補聴器は西宮硝子さんの所持品です」

「我々岐阜県警は、こちらのお二人の頼みを受け、これを鑑識課に調べさせました」

「その結果、奇妙な事実が判明しました」

八重子「奇妙な事実って…?」

伍堂警部「西宮さん……あなたのお宅は、あなたと梢子さんを含めた4人家族だと聞きましたが、間違いありませんか?」

八重子「もちろんですけど」

伍堂警部「なるほど……」

「では、この補聴器には少なくとも、あなた方家族4人とこれに手を出した石田将也さん……」

「計5種類の指紋が付着していなければなりません」

413 : 以下、名... - 2018/06/05 15:02:38.63 od/pvmOg0 394/646

坂木「ところが鑑定の結果、この補聴器には5種類以上の指紋が付着しているそうなんですよね」

伍堂警部「ちなみに、内ひとつは硝子さんの指紋である事は確認済みです」

右京「おやおや…それは妙ですねぇ……」

「耳の不自由な硝子ちゃんにとって、補聴器は生活に必要なもの……」

「それを何の理由もなく外出先で外し、身内以外の人間それも複数に触らせたとは考えずらい」

「これは、どういう事なのでしょうかねぇ?」

生徒達「…………!」


右京の問い掛けに生徒達は、何も言えなかった。

まさか、補聴器が今も残っていてそれを調べられるとは思わなかったのだろう。

414 : 以下、名... - 2018/06/05 15:04:26.55 od/pvmOg0 395/646

右京「……………」

「いずれにせよ、ここにいる皆さんの指紋を調べれば、分かることです」

伍堂警部「そう言う訳です……この場にいる皆さん全員、指紋の採取にご協力願えませんか?」

竹内「ちょっと待って下さい!私達もですか!?」

伍堂警部「当然でしょう。学校内で破損させられたのです……あなた方教員が、破損させた可能性がないとは言い切れません」

右京「特に竹内先生、あなたには十分動機がありますからねぇ……」

竹内「いいえ!私は西宮の補聴器の破損には、一切関与していません!」

右京「それは本当ですか?」

竹内「えぇ!」

右京「絶対にですか?」

竹内「絶対です!」

右京「そうなんですかねぇ……?」

冠城「本当は硝子ちゃんの事で色々あったせいで腹が立って、つい……なんて事あるんじゃありません?」

竹内「ふざけないで下さい!私はそんなこと断じてやっていない!」

「他の生徒の指紋がちょっと付いていたというだけで、疑うのは止めてもらいたいものですね!」

415 : 以下、名... - 2018/06/05 15:06:22.92 od/pvmOg0 396/646

右京達「……………」


と竹内が言った途端、急に4人の警察官は睨むように彼に視線を集中させた。

416 : 以下、名... - 2018/06/05 15:06:57.97 od/pvmOg0 397/646

竹内「な……なんですか?」

右京「竹内先生……あなた今、なんと仰いましたか?」

竹内「『疑うのは止めてもらいたいものですね!』」

右京「そのひとつ前」

竹内「………」

「『他の生徒達の指紋がちょっと付いていただけで……』ですが?」

右京「………………」

「竹内先生、あなた……」

417 : 以下、名... - 2018/06/05 15:07:25.31 od/pvmOg0 398/646




「何故この補聴器に、石田君以外の生徒の指紋が付着していると分かったんですか?」



418 : 以下、名... - 2018/06/05 15:09:09.26 od/pvmOg0 399/646

竹内「え…?」

冠城「俺達、確かに西宮さん一家と石田君以外の指紋が付着しているとは言いましたが……」

「それがこのクラスの生徒のものである事はおろか、子供の指紋であるという事すらまだ言っていないんですよ?」

右京「この場において、生徒さんの指紋が付着している事を知る人物は限られます」

「実際に手を出した本人とそれを目撃した人物……」

「どうしてあなたは、犯人と目撃者しか知り得ない情報を知っているのですか?」

419 : 以下、名... - 2018/06/05 15:09:53.50 od/pvmOg0 400/646

竹内「そ、それは…あなた達が彼らを疑うから……!」

伍堂警部「いくら疑わしいからと言って、照合もなしにその指紋が彼らのものだと断定する事は我々にも出来ません」

「いじめとは関係ない別の誰かが、何かの偶然で触れたものであるという可能性も僅かながら残っているんですよ」

冠城「つまりあなたは、我々が生徒さん達に疑いを掛けているというだけの理由で、石田君以外の生徒の指紋が付着していると決め付けたわけですか」

坂木「さっきまで、生徒さんを庇ってた人のする事とは思えませんね」

竹内「……!」


4人の警察官に畳み掛けられる竹内。

その時、彼は気付いた。

420 : 以下、名... - 2018/06/05 15:10:53.35 od/pvmOg0 401/646




『またしてもはめられた』と……



421 : 以下、名... - 2018/06/05 15:11:19.93 od/pvmOg0 402/646

竹内「……………」

右京「竹内先生……そろそれ、全部話してくれませんか?」

冠城「黙っているだけ、立場が悪くなるだけですよ」


特命係の2人に自供を促される竹内。

すると、竹内は……

422 : 以下、名... - 2018/06/05 15:11:58.47 od/pvmOg0 403/646

竹内「まさか……撮られていたばかりか、二度もこんな手に引っ掛かってしまうなんて………」

「なんて間抜けなんだか!」

右京「お認めになるんですね?」

竹内「えぇ……全部、あなたが話した通りですよ!」

「私は……いえ、俺は西宮をどうしたらいいか分からなかった!」

「彼女の事があまりにも手に余ったから、生徒にそれを押し付けた!」

「そしたら、石田の西宮いじめが悪化して、生徒達も協力するようになった……」

「その事を咎められるのが嫌で、石田に全部押し付けたんです!」

423 : 以下、名... - 2018/06/05 15:13:00.99 od/pvmOg0 404/646

右京「やはり、そうでしたか……」

冠城「他にも、何かありますかね?」

424 : 以下、名... - 2018/06/05 15:13:28.50 od/pvmOg0 405/646

竹内「…………」

「そこにいる島田が中心になって、石田と西宮両方をいじめていました」

「けど俺は、これ以上関わるのが嫌だったから、止めなかった……」

425 : 以下、名... - 2018/06/05 15:15:06.74 od/pvmOg0 406/646

島田広瀬「「……」」


竹内は島田達が石田をいじめ、硝子いじめを継続させていた事実も暴露した。

これに八重子と美也子は驚きを隠せなかった。


八重子「今度は、コイツらが……硝子を!?」

美也子「それじゃあ……将也がいじめられていたのは……」

冠城「硝子ちゃんいじめの報復ではない……」

426 : 以下、名... - 2018/06/05 15:15:34.63 od/pvmOg0 407/646




「彼らの責任の押し付けの一環として、いじめられていたんです」



427 : 以下、名... - 2018/06/05 15:16:02.42 od/pvmOg0 408/646

美也子「!!!!」


目の前に突き付けられた事実に、美也子はショックを受けた。

今まで、信頼して息子のことを預けていた学校……

それが、ここまでずさんな対応を取っていたなんて……

この瞬間、美也子の水門小学校に対する信頼は、音を立てて崩れ落ちた。

そして、もっと早く気付いていれば……と後悔した。

428 : 以下、名... - 2018/06/05 15:20:00.29 od/pvmOg0 409/646

一方、この学校への信頼が崩れ落ちたのは、八重子も同様であった。


八重子「教師の癖に、人様の娘がいじめられているのを見て見ぬふりしてたなんて……」

「アンタ最低ね!」

竹内「最低だと……?」

八重子「えぇ、最低よ」

「アンタだけじゃない……アンタらガキどももよ!」

「今までの学校もそうだったけど、普通学校ってアンタ達みたいなクソみたいな奴らしかいないのかしら?」

竹内「俺達がクソだと……?」

429 : 以下、名... - 2018/06/05 15:20:26.84 od/pvmOg0 410/646



「ふざけるな!」


430 : 以下、名... - 2018/06/05 15:21:31.64 od/pvmOg0 411/646

八重子「はあ?」


突然声を荒げる竹内に、八重子が首を傾げる。

彼女の様子に竹内は、まるで無知な人間を見るような目を八重子に向けながら問い掛ける。

431 : 以下、名... - 2018/06/05 15:22:00.00 od/pvmOg0 412/646

竹内「西宮の母さん……何故彼女を、西宮をこの学校に入れた?」

八重子「そんなの決まっているでしょ!強い娘に育ってもらう為です!」

竹内「つまりアンタは、自分の子供が育てばそれで良かった……」

「他はどうなっても構わなかったってことか?」

八重子「な、何を言ってるの?!」

竹内「アンタがしたのはそれだけ勝手だってことだよ!!」

八重子「勝手ですって!?」

432 : 以下、名... - 2018/06/05 15:23:35.51 od/pvmOg0 413/646

竹内「あぁそうだよ!」

「アンタ、普通学校に障がい者を入れると、周囲にどれだけ負担がかかるのか……」

「どれだけの確執が生まれるのか、一度も考えた事ないだろ!」

「仮に、自分が手の付け方がわからない人間をいきなり差し出されてみろ?」

「アンタ、そいつのお守りがちゃんと出来るのか?」

八重子「無理に決まってるでしょう!」

竹内「そう、無理なんだ!俺の置かれた状況はまさにそれだったんだ!」

「こんな手の掛かるガキを押し付けやがって……!」

「障がい者だからって、どんなに迷惑かけてもいいと思ったら大間違いだぞ!」

433 : 以下、名... - 2018/06/05 15:24:47.01 od/pvmOg0 414/646

八重子「あ、アンタ!硝子の事何も知らない癖に、よくそんな口が利けるわね……!」

竹内「あぁ、知らねぇよ!俺は……」

「いや、俺達はアンタの家族でも何でもない!赤の他人だ!」

「そんな奴らの所に、普通と違うガキ放り込んだところで理解されないなんて、入れる前から分かるだろ!」

「それともアンタは、一度でもそう言う事を考えて西宮を学校に入れた事があるのか?!」

八重子「そ…それは……」


竹内の問いに、八重子は自分でも驚くほど動揺した。

昨日、いとに言われた事がまた頭の中を過ったからである。

434 : 以下、名... - 2018/06/05 15:25:13.79 od/pvmOg0 415/646

八重子「…………」

竹内「ほら……やっぱりそうだ!」

「結局アンタは、自分の子供だけが良ければそれでいいような、自分勝手な馬鹿親だったんだ!」

435 : 以下、名... - 2018/06/05 15:25:42.64 od/pvmOg0 416/646




「俺達がクソなら、アンタはクズだよ!!」



436 : 以下、名... - 2018/06/05 15:26:14.54 od/pvmOg0 417/646

八重子「……!」


竹内に罵倒され、更に動揺の色を見せる八重子。

そしてまた頭の中を過る、いとの言葉……

437 : 以下、名... - 2018/06/05 15:33:37.24 od/pvmOg0 418/646



『所詮彼らは赤の他人……自分達さえよければ、他人の事情はどうだっていい』


『硝子の事を理解出来る人間がいなければ、どんなに硝子を強い娘に育てようと望んでも無意味……』


438 : 以下、名... - 2018/06/05 15:34:04.93 od/pvmOg0 419/646

まさか、ここにきてその言葉の意味を実感させられるとは、さしもの彼女も思ってみなかった。

そんな中、竹内の怒りの矛先は美也子にも向けられる。

439 : 以下、名... - 2018/06/05 15:34:50.64 od/pvmOg0 420/646

竹内「それと石田の母さん!」

「どうして日頃から石田を叱らなかった?」

「アンタがちゃんと叱っていれば、石田はこんな厄介事起こさなかった!」

「2人揃って出来の悪いガキを入れやがったもんだ!」

「子も子なら親も親だよなあ?」

美也子八重子「「…………」」


竹内に罵倒され、2人の母親は何も言い返すことが出来なかった。

彼の豹変ぶりに、喜多は動揺する。

440 : 以下、名... - 2018/06/05 15:35:17.87 od/pvmOg0 421/646

喜多「た、竹内先生!いくら何でも言い過ぎじゃ……」

竹内「フン!そんな事が言えた立場じゃない癖に何を言うか!」

喜多「ど、どう言う事です?」

竹内「どう言う事だあ?そんなのアンタが一番良く知ってるだろ!」

「アンタ、やたらと西宮の事をひいきしてたよな?」

「俺や生徒達が、アイツのせいで苦しい思いをしていたと言うのに……!」

喜多「け、けど……私がしっかりしないと、西宮さんが可哀想だから………」

竹内「西宮が可哀想だと思うなら、彼女への対応の仕方も分らず、四苦八苦している俺達も可哀想と思わなかったのか?」

「おまけに、俺が何度も警告したにもかかわらず、西宮を校内の合唱コンクールに入れて……」

「おかげで、6年2組は最下位という大恥!そのせいで、俺のクラスは余計ギスギスした空気になった!」

「その上、生徒達に無理矢理手話なんか教えようとして……」

441 : 以下、名... - 2018/06/05 15:35:45.10 od/pvmOg0 422/646

喜多「…………」

竹内「アンタがした事は、俺のクラスを余計滅茶苦茶にしただけだ!」

「西宮の事ばかり考えて、俺達に対する配慮は一切無し……」

「そう言う点においては、アンタも西宮のクズ親と同類だ!」


今までの鬱憤を晴らさんと言わんばかりに、喜多をこき下ろす竹内。

そんな彼に対し、喜多も痛いところを突かれたと言わんばかりに、何も言い返せなかった。

442 : 以下、名... - 2018/06/05 15:36:13.26 od/pvmOg0 423/646

八重子「け……けど、この学校は障がい者を受け入れる学校なんでしょ!?」

「これじゃあ話が違うじゃないの!」

「ふざけるのもいい加減にしなさいよっ!!」


だがここで、八重子は何とかして反論してみせた。

今、言い放った通り、八重子がこの学校に硝子を入れる事を決めたのは、
この学校が障がい者を受け入れる所があると、『ある人物』から聞かされたからであった。

だが、それを聞いた竹内はと言うと……

443 : 以下、名... - 2018/06/05 15:36:43.95 od/pvmOg0 424/646

竹内「はあ?」

八重子「はあ?じゃないわよ!私はね、校長先生からそう聞かされて、それで硝子をここに……」


ここに硝子を入学させる事を決めるに至った理由を説明する八重子。

しかし、それを聞いた竹内は、またしても無知な人間を見るような目で
今度は「ふふふ……」と不気味に含み笑う。

444 : 以下、名... - 2018/06/05 15:37:15.72 od/pvmOg0 425/646

八重子「何がおかしいのよ!?」

竹内「…アンタ、本気でそんな事信じてたのか?」

「本当に馬鹿な奴だ!」

「けど、おかげでようやく分かったよ……」

「あの校長が何を考えて俺にこんな事をしたのかが……!」

八重子「…?」

冠城「それ……どういう意味ですか?」


冠城に聞かれると、竹内は警察官4人にも無知な人間を見るような目を向ける。


竹内「アンタ達も哀れなもんだな。自分達が、トカゲの尻尾切りに利用されたとも知らないで……!」

坂木「僕達がトカゲの尻尾切りに利用されてるだって?」

445 : 以下、名... - 2018/06/05 15:37:41.38 od/pvmOg0 426/646

竹内「あぁ、そうさ…!」

「この学校は、障がい者を受け入れた事なんて一度もない普通の学校だ!」

「そこの喜多が、前の学校できこえの教室の教師をやってた事があったらしいが……」

「それは前の学校の話……ここではただの音楽教師だ」

「そうだよ……ここには、障がい者用の教室もサービスもありゃしない!」

「大体俺はな、西宮がこのクラスに入ると聞かされた時、校長に反対したんだ」

「『耳の聞こえない子供の世話なんて、俺には出来ない』とな!」

「だがあの校長は、『もう既に決めた事だから、どうしようもない』とか言って、俺に西宮を押し付けて来やがった!」

「その後も俺は、西宮の事でアイツに抗議を続けた……」

「だがアイツは、『西宮を預かった君が何とかすべき事だろう』と言って、全く取り合わなかったんだ!」

「アンタ達をけし掛けたのも、俺を悪者にして自分のした事を有耶無耶にしようと考えたんだろうよ!」

八重子「……!」

446 : 以下、名... - 2018/06/05 15:38:24.00 od/pvmOg0 427/646

右京達「…………」


竹内の口から語られた衝撃の事実。

さしもの八重子も、この事実に目を白黒させた。

一方、それを知った右京はまた口を開いた。


右京「なるほど……そう言う事だったのですね?」

447 : 以下、名... - 2018/06/05 15:38:56.57 od/pvmOg0 428/646



「硝子ちゃんの事を想うあまり、彼女がもたらす周囲への影響を顧みなかった西宮八重子さん……」


「八重子さんに嘘を吐き尚且つ硝子ちゃんを竹内先生に押し付け、その後一切の支援を行わなかった水田校長……」


「八重子さん同様硝子ちゃんを想うあまり、6年2組の皆さんへの配慮が疎かだった喜多先生………」



448 : 以下、名... - 2018/06/05 15:39:22.00 od/pvmOg0 429/646

「自分の意図や硝子ちゃんの事にばかり考え、周囲に気を配れなかった大人達の行動……」

「それらの積み重ねが6年2組に圧し掛かった事が、この問題の根源……真の原因だった」

449 : 以下、名... - 2018/06/05 15:41:03.20 od/pvmOg0 430/646

竹内「ようやく分かったか?そうさ、悪いのはあの校長とアイツに騙された西宮のクズ親……」

「そして、ここをきこえの教室と混同してた喜多だ!」

「コイツらが、俺のクラスに不幸を運んできたんだ!」

450 : 以下、名... - 2018/06/05 15:44:32.05 od/pvmOg0 431/646



「恨むべきは俺達じゃない!校長と、自分達の不甲斐なさを恨め!!!!」


451 : 以下、名... - 2018/06/05 15:45:07.13 od/pvmOg0 432/646

今まで溜め込んでいたものを全部吐き出さんと言わんばかりに竹内は叫びに近い声をあげた。

そのせいだろう、言い放った後の彼は「はあはあ」と息を切らしていた。

452 : 以下、名... - 2018/06/05 15:46:36.97 od/pvmOg0 433/646

川井「そ……そうよ!」

「これは全部、喜多先生と校長先生と西宮さんと石田君のおばさんが全部悪いのよ!」

「私らは、それを押し付けられたんだわ!」

女子生徒A「確かにその通りね!」

女子生徒B「こういうのって、大体大人が悪いもんね!」

島田「確かに、西宮のおばさんが西宮を入れなければ……」

「石田のおばさんが石田のこと叱っていれば、こんな事ならなかった!」

「俺だって、石田に責任押し付けて、いじめる必要なんかなかったんだ!」

広瀬「ホント、ひでぇ話だよな!」

八重子「な…!?」

美也子と喜多「「…………」」


竹内の言葉を皮切りに、急に八重子と美也子と喜多を責め始める生徒達。

中でも特に八重子を攻めに掛かったのは、植野であった。

453 : 以下、名... - 2018/06/05 15:48:49.51 od/pvmOg0 434/646

植野「ホントよ!全くもってその通りだわ!」

「西宮さんのおばさん。知らないようだから教えてあげるけどね……」

「あたしら6年2組のみんな、1年生の頃からずっと一緒だった」

「石田の悪ふざけが過ぎること以外は、問題なかった……普通だったの!」

「竹内先生は5年生の時からの担任だったけど、本当は普通の先生だったわ」

454 : 以下、名... - 2018/06/05 15:49:15.82 od/pvmOg0 435/646



「けど、西宮さんが来てから、あたしらのクラスはおかしくなった……!」


455 : 以下、名... - 2018/06/05 15:50:13.14 od/pvmOg0 436/646

「あたしは西宮さんの隣の席にされてから、ずっと西宮さんの世話やらされた」

「けど西宮さん、何度教えても全然分かってくれないし、竹内先生も全然助けてくれない!」

「おかげで、授業も遅れてみんなから笑われて……!」

「だからあたし、石田と一緒に西宮さんをいじめてた……」

「すると今度は、みんなが石田に全てを押し付けて、いじめだして……!」

「あたしだって、ホントは味方したかった……けど、怒られるのが怖くて、石田のせいにしちゃって……!」

「そのせいでずっと、石田がいじめられてるのを、指をくわえて見てるしかなかった……」

八重子「だ……だから、何なの………?」

456 : 以下、名... - 2018/06/05 15:50:59.54 od/pvmOg0 437/646

植野「石田が……あたしらや竹内先生がこうなったのは、全部アンタのせいだって言いたいんだよ!」

「アンタが西宮さんを入れなきゃ、こんな事にはならなかったんだ!」

「それと石田のおばさん……アンタ、石田がいじめられてるの、知ってたよな?」

「毎日いじめられて、凄くボロボロになってたから」

美也子「そ、そうだけど……それが、どうしたの?」

植野「どうしたの?じゃねえよ!」

「あんだけボロボロになった石田の姿見て、アンタ助けようとか思わなかったのかよ?!」

「アンタ、石田の母さんだろ?母さんなら、いじめられた自分の子供の1人くらい助けてやれよ!」

美也子「…………」

457 : 以下、名... - 2018/06/05 15:51:25.37 od/pvmOg0 438/646

植野「これも全部、アンタら大人がいい加減だったせいだ!」

「アンタらのせいで、このクラスは普通じゃなくなっちゃったんだよ!」

「だから……返せよ!普通だったあたしらのクラス返せよぉ!!!」


持てる感情を解き放つかの如く叫ぶ植野。

この次の瞬間、他の生徒達も「そうだ!」「俺達の平和を返せよ!」と口々に八重子達を攻めた。

458 : 以下、名... - 2018/06/05 15:52:26.02 od/pvmOg0 439/646

八重子「…………」


自分に向かって恨みつらみを投げつけてくる生徒達……

彼らを前にして、八重子は何も言わずに立ち尽くすしかなかった。

459 : 以下、名... - 2018/06/05 15:52:52.61 od/pvmOg0 440/646



硝子を強くしたい……


自分のような弱い子にしたくない……


460 : 以下、名... - 2018/06/05 15:53:23.58 od/pvmOg0 441/646

その一心で弱い自分を封印し、心を鬼にして普通学校に入れてきた。

それが、硝子を強い子に育てる方法だと信じていた。


だが、目の前に広がる現実はどうだ?


まるで、硝子への対処が出来ず、苦しみ、そして自分の事を恨む人間に溢れている。

自分は今まで、こんな所に硝子を入れていたのか……

これでは、まるで………

461 : 以下、名... - 2018/06/05 15:53:58.02 od/pvmOg0 442/646

八重子「…?」


その時、頬を何かが伝うのに八重子は気付く。

正体を確かめる為、指で触れてみると、それは一滴の水……

462 : 以下、名... - 2018/06/05 15:54:25.26 od/pvmOg0 443/646



否、水ではない……涙であった。


463 : 以下、名... - 2018/06/05 15:56:41.42 od/pvmOg0 444/646

夫一家から硝子を押し付けられて以来、捨てたはずの涙……

どうして、今になって?


理由は……今更考えるまでもない。

464 : 以下、名... - 2018/06/05 15:58:18.74 od/pvmOg0 445/646



八重子「…………」

(それだけ私は、無茶ばかりしてきたって事ね……)


465 : 以下、名... - 2018/06/05 15:58:55.92 od/pvmOg0 446/646

一方、植野の言葉は美也子の心にも重く圧し掛かっていた。

自分は、確かに石田の事を助けなかった……

それはあくまで、自分のような人間が声を上げても、誰も相手にしてくれないと思っていたから……

いや、それだけではない。

自分の事を心配させまいとする息子の気持ちを、踏みにじりたくないという思いがあったからだ。

466 : 以下、名... - 2018/06/05 15:59:27.21 od/pvmOg0 447/646



しかし……今になって考えるとこれは、一種の逃げだったのではないか?

息子の気遣いに、甘えていただけだったのではないか?

批判される事を覚悟で、言い出す勇気も必要だったのではないか?


467 : 以下、名... - 2018/06/05 16:00:08.62 od/pvmOg0 448/646

石田のことを叱ることも出来ず、他人の娘にも迷惑を掛け、石田いじめのことを言い出せなかった……

それでいて、学校側の言い分を鵜呑みにしてしまった自分……


美也子はまた、これまでの自分を後悔した。

468 : 以下、名... - 2018/06/05 16:00:35.11 od/pvmOg0 449/646

そして、喜多も思った。

もう少し彼らの事を考えてやるべきだった……

ここは、きこえの教室があった前の学校ではない事を、今になって思い知らされる……

学校が違えば、当然生徒への対応の仕方もある程度変わって来る。

そんな事、当たり前であったはずなのに……

469 : 以下、名... - 2018/06/05 16:02:20.88 od/pvmOg0 450/646

後悔に明け暮れる2人の母親と喜多……

そして、責められる母親の姿に、硝子と石田も心を痛めている。


その様子を黙って見ている4人の警察官……

少しして、右京が八重子らの前に歩む。

470 : 以下、名... - 2018/06/05 16:03:05.62 od/pvmOg0 451/646

右京「では……僕からもひとつよろしいですか?」


そう言いながら、人差し指を立てる右京。

この時、八重子らは彼からも責められるのだと覚悟した。

471 : 以下、名... - 2018/06/05 16:03:43.87 od/pvmOg0 452/646




右京「……………」



472 : 以下、名... - 2018/06/05 16:10:07.33 od/pvmOg0 453/646








「ふざけるんじゃないッ!!」







473 : 以下、名... - 2018/06/05 16:10:48.78 od/pvmOg0 454/646

生徒達「!!」


だが、右京が怒りの矛先を向けたのは、生徒達の方であった。

いきなり怒声を上げられ、驚きのあまり黙る生徒達。

そんな彼らに、右京はこう続ける。

474 : 以下、名... - 2018/06/05 16:11:50.61 od/pvmOg0 455/646

右京「八重子さんのやり方に問題があったのも確かです」

「美也子さんも、勇気を出して声を上げるべきだったかもしれない……」

「水田校長や喜多先生の配慮不足も、然るべきものです」

「しかしあなた達自身はどうなのですか?!」

「例えば竹内先生!あなたは、自分の手には負えないという理由で、自身のすべきことを生徒達に押し付けた!」

「その上、石田君が助けを求めたにもかかわらず、彼の行いを盾に一切の手助けもなし……」

「これでは、水田校長と同じではありませんか…!」

竹内「……」


指差しながら竹内を非難する右京。

一方、冠城も生徒達に冷たい目を向けながらこう言った。

475 : 以下、名... - 2018/06/05 16:12:29.82 od/pvmOg0 456/646

冠城「君達もだよ」

「大人達が悪いなら、初めから硝子ちゃんをいじめる必要なんてなかったはずだ」

「それなのに彼女をいじめたのは、大人達に敵う訳がないから……」

「こんなの、ただの八つ当たりだ」

「正当性の欠片もない……!」

476 : 以下、名... - 2018/06/05 16:13:11.18 od/pvmOg0 457/646

川井「けど刑事さん!私は、西宮さんも石田君もいじめてません」

「今の映像で分かるでしょ?」

島田「お前!何逃げようとしてんだよ!」

川井「失礼ね。私は本当の事言ってるだけよ」

「私はあなたと広瀬君と違って、石田君の机に落書きしたり教科書盗ったりしてないもん!」

石田「え…!?」


川井の言葉に、石田は何故か今まで知らなかった事を知らされたかのように驚いている。

その様子を右京と冠城は見逃さなかったが、今は話しを続ける事を優先する。

477 : 以下、名... - 2018/06/05 16:13:56.67 od/pvmOg0 458/646

冠城「………」

「君、名前は?」

川井「川井みきよ」

冠城「川井みきちゃん……君は『犯人隠避』って知ってるかい?」

「事件の犯人を故意に隠したり、庇ったりすることなんだけど……」

「そういった行為も、法律上は犯罪の一種として扱われている」

川井「だから?」

冠城「確かに君は、いじめに直接加担した事はなかったかもしれない。けど……」

478 : 以下、名... - 2018/06/05 16:14:28.24 od/pvmOg0 459/646



「君は、このクラスでいじめ問題が起きていた事を把握していた」

「それを知りながら、他の子達と一緒に『硝子ちゃんいじめの犯人は石田君だ』と主張した」

「そして今さっき、島田君達の行いも暴露した」


479 : 以下、名... - 2018/06/05 16:15:00.38 od/pvmOg0 460/646

川井「えぇ……」

冠城「しかし、君は今までそのことを知りながら、誰にも話さなかった……」

「その時点で君は、いじめの共犯者や犯人を隠避したことになる」

「残念だけど、これも立派な犯罪だ」

川井「そ、そんな……!私、みんなが怖かったから仕方なく……」

480 : 以下、名... - 2018/06/05 16:16:40.73 od/pvmOg0 461/646

冠城「例え悪気がなかったのだとしても、法律上犯罪と認められたものは犯罪でしかない」

「手を出さなければ悪者にはならないと思ったら、大間違いなんだ」

「まず君は、それを知った方がいい……」


そして最後に冠城は、「ここにいるみんなも、同じだけどね」と付け加えた。

彼の言い分に、川井はもちろんだが、今までいじめを黙認していたであろう生徒達も絶句した。

だが、こんな中で竹内は……

481 : 以下、名... - 2018/06/05 16:17:16.44 od/pvmOg0 462/646

竹内「じゃあ、どうすれば良かったっていうんだ?アンタさっき言ったよな?」

「『一度生徒として預かった以上、そう簡単に硝子を手放す事は出来ない』と…!」

「教師として西宮を手放す事が出来なかった俺には、これ以外に方法がなかったんだ!」

「大体俺がどんな状況だったのか、その現場も見た事もない癖に何を偉そうに言ってるんだか……」

「警察は、弱い奴らの味方だろう?一般教師の俺は校長の前では弱者でしかなかった!」

「裁くべきは俺への支援を怠った校長と、そんな奴に騙された西宮のクズ親ですよ!」


と言って今度は、被害者面を始めた。

482 : 以下、名... - 2018/06/05 16:18:12.72 od/pvmOg0 463/646

植野「そうよ……あたしらも、西宮さんのことどうしたらいいのか、分かんなかった………」

「筆談だけじゃ、西宮さんと付き合えなかった……」

「それに、あたしら子供だよ?大人の人達にも、太刀打ちできない弱い子供なんだよ?」

「他に……他に、どうすればよかったのよ……?」


それに続き、植野も自身の胸の内を明かす。

だが、そんな彼らに4人の警察官は同情はしたものの、あまりいい顔はしなかった。

そして、まず冠城が竹内に次のような事を聞いた。

483 : 以下、名... - 2018/06/05 16:20:10.21 od/pvmOg0 464/646

冠城「竹内先生……あなたは、硝子ちゃんが聴覚障害を患う女の子である事を、事前に聞かされていたんですよね?」

「だから、水田校長に反対意見を出すことが出来た」

竹内「そうですよ。だから?」

冠城「だったら、その間に聴覚障害を持つお子様との接し方を調べようと、思わなかったんですか?」

「相手が耳が聞こえないと分かっているなら、いくらでも対処法は調べられたはずですよ?」

竹内「……!」


冠城の疑問に竹内は、まるで今まで考えた事もなかった事を突き付けられたような表情を浮かべた。

だが、すぐに首を横に振ってこう返す。

484 : 以下、名... - 2018/06/05 16:21:26.46 od/pvmOg0 465/646

竹内「そ、そんな時間なかったんだよ!」

冠城「それなら、水田校長が支援を行わなかった事を教育委員会に訴えるべきだったのでは?」

竹内「したところで無理だ!理事長はアイツの昔からの親友なんだ!」

「訴えたところで、庇い立てされるに決まってる!」

右京「なるほど……彼と理事長は、そのような関係でしたか」

485 : 以下、名... - 2018/06/05 16:22:42.99 od/pvmOg0 466/646

冠城「けど、他にも手段はあったはずですよ」

「硝子ちゃんに配慮して、授業時間を調整するとか……」

「それでも支障が出るのだったら、八重子さんに相談するという手もあったはずですよ」

「それで彼女が聞く耳を持たなかったのなら、児童相談所に何かしらの対処を取ってもらう手もあった」

「本当に校長と八重子さんが全ての元凶だとするなら……」

「こうなる前に、自分達の状況を周囲にはっきり伝えるべきだったんじゃありませんか?」

486 : 以下、名... - 2018/06/05 16:23:08.91 od/pvmOg0 467/646


竹内「………」


冠城の問いに、竹内は何も答えられなかった。

487 : 以下、名... - 2018/06/05 16:23:56.10 od/pvmOg0 468/646

右京「その様子だと、今までそのような発想はなかったようですねぇ……」

「恐らくあなたは、『八重子さんや水田校長から面倒なお子様を預かった』」

「この事実にばかり気取られていた」

「それが故に、自分に何が出来るのか……どうすれば、事態を改善出来るのか……」

「それを考えるのを、すっかり忘れていた……」

488 : 以下、名... - 2018/06/05 16:25:37.57 od/pvmOg0 469/646



「教師として……」


「いえ、人として恥ずべきことではありませんか?」


489 : 以下、名... - 2018/06/05 16:27:45.54 od/pvmOg0 470/646


竹内「……………」


黙ったままの竹内。一方、右京はまた生徒達の方に向き直る。

490 : 以下、名... - 2018/06/05 16:28:32.64 od/pvmOg0 471/646

右京「君達も同様です」

「君達も、硝子ちゃんを押し付けられた……彼女の障害に振り回された」

「その事に気を取られ、見るべきものを見落としてしまった」

植野「ど、どういう事よ?」


植野の疑問に、右京は少し間を置いてこう答えた。

491 : 以下、名... - 2018/06/05 16:29:00.75 od/pvmOg0 472/646

右京「『佐原みよこ』」

「このクラスにはもう1人、そのような名前の女の子が通っていたそうですね?」

植野「!?」


不意に出された何者かの名前に、植野は驚きの表情を見せた。
しかし、その名前に反応したのは、彼女だけではなかった。

492 : 以下、名... - 2018/06/05 16:31:25.98 od/pvmOg0 473/646

喜多「佐原みよこちゃん?」

右京「ご存知なで?」

喜多「えぇ……私が西宮さんの為に手話を習わせようとした時、ただ1人だけ賛成してくれた娘です」

「けど、急に来なくなってしまって……」

右京「なるほど……やはり、そういう事でしたか」

植野「ど、どういう事なんだよ?大体、何でアイツの事知ってんだよ?」


植野の問いに対し、右京は次のような事を語る。

493 : 以下、名... - 2018/06/05 16:32:26.30 od/pvmOg0 474/646

右京「実は、先程の証拠映像……初めてあれを確認した際、気になる点を見付けました」

「そこの席だけ、空いていたのです」


そう言って彼は、その席を手で指し示した。

右京の言う通りその席だけ誰も座っておらず、空席である。

494 : 以下、名... - 2018/06/05 16:35:47.01 od/pvmOg0 475/646

右京「それを見て僕は……」

「『硝子ちゃんに味方をした為に、不登校にされてしまった子がいるのではないか?』と考え本来、その席に座っているはずの生徒を探しました」

「結果、佐原みよこちゃんの存在に行き着いたのです」

冠城「いじめは、ターゲット本人ばかりが狙われるわけではない……」

「ターゲットを庇った人間も同様の被害に遭い、不登校になるケースも少なくないからね」

植野「そ、それで……アイツはアンタらに何って言ったの?」


何処か動揺した色を見せ始める植野の問いに対し、右京らはこう答えた。

495 : 以下、名... - 2018/06/05 16:37:37.92 od/pvmOg0 476/646


右京「根気強く聞いてみましたが、余程塞ぎ込んでいたらしく、本人から直接話しを聞く事は出来ませんでした」

冠城「その代わり、お母様から話を伺うことは出来ました」

496 : 以下、名... - 2018/06/05 16:38:08.64 od/pvmOg0 477/646

~回想~


佐原母「娘が不登校になった理由…ですか?」

右京「えぇ……何か、それらしい事を仰っていませんでしたか?」

冠城「どんな細かい事でも構わないんで……」

佐原母「いいえ……何を言っても教えてくれませんでした」

右京「学校に相談は?」

佐原母「しましたが、原因については知らないの一点張りで……」

右京「なるほど……」

冠城「ところで……彼女が不登校になったのは、いつ頃なんですか?」

佐原母「確か……5月頃だったと思います」

右京「5月ですか……」


~回想終了~

497 : 以下、名... - 2018/06/05 16:41:13.01 od/pvmOg0 478/646

喜多「5月?それって確か、私がみんなに手話を習わせようとした頃じゃ……」

右京「では、佐原ちゃんが不登校になったのは、喜多先生の提案に乗った後のこと……」

「何故、佐原ちゃんは喜多先生の提案に乗ったのか?恐らく、硝子ちゃんと接する為だったと思われます」

「しかし、転校から1ヶ月も経っているなら、硝子ちゃんに不満を抱いていた生徒がいてもおかしくありません」

「そうなると、考えられる事はただひとつ……」

498 : 以下、名... - 2018/06/05 16:42:39.24 od/pvmOg0 479/646




「硝子ちゃんと仲良くしたが為に誰かにいじめられ、心を折られてしまったという事です」



499 : 以下、名... - 2018/06/05 16:43:26.68 od/pvmOg0 480/646

植野「!!!!」


右京の推理に、植野の表情が一気に青ざめる。

何故なら、佐原をいじめた犯人は他でもない、自分自身であったからだ。

だが、すぐに首を横に振って平静さを保つ。

500 : 以下、名... - 2018/06/05 16:44:04.77 od/pvmOg0 481/646


植野「け、けど……自業自得じゃん!」

「西宮さんと仲良くしてたのって、ただの得点稼ぎだった訳だし……」

501 : 以下、名... - 2018/06/05 16:44:39.42 od/pvmOg0 482/646



右京「…………」


「果たして、そうなのでしょうか?」


502 : 以下、名... - 2018/06/05 16:45:29.42 od/pvmOg0 483/646

植野「え…?」

右京「僕は、佐原ちゃんがどんな娘なのか、お母様に伺いました」

「すると彼女は、こう答えました……」

「『気が弱い一方で、友達想いないい子であった』と……」

503 : 以下、名... - 2018/06/05 16:46:51.13 od/pvmOg0 484/646

冠城「実際彼女、今年入った女の子と仲良しになった事をよく話していたそうだよ」

「おまけに、その娘の為に手話の本を買ってきて欲しとせがまれた事すらあったとか……」

右京「その仲良しになった娘と言うのは、硝子ちゃんと見て間違いないでしょう」

植野「……」

504 : 以下、名... - 2018/06/05 16:47:35.32 od/pvmOg0 485/646

右京「これらの事実から、彼女がいかに本気で硝子ちゃんと接しようとしていたのかが見て取れます」

「このような娘が、そんな邪な感情で行動していたとは考えずらい……」

「そして、一番着目すべき点は、彼女が『友達想いな性格をしている』ことです」

「彼女が硝子ちゃんと仲良くしていたのなら、君達も例外ではなかったはず……」

「そう考えると、竹内先生の押し付けにより、このクラスの空気が悪くなっていたことを憂いていたことが想像出来ます」

「無論、状況を改善する手立ても考えたはずです」

「どうやれば、6年2組の生徒達と硝子ちゃんを仲良くさせられるのか?」

「子供である彼女に、竹内先生を動かすことは不可能です」

「ならば、自分の手で両者の関係を取り持つ他ない……」

「その末に行き着いたのが……」

505 : 以下、名... - 2018/06/05 16:49:39.21 od/pvmOg0 486/646





「『手話を習得し、硝子ちゃんと君達の通訳者になる』」




506 : 以下、名... - 2018/06/05 16:52:42.29 od/pvmOg0 487/646



「……という答えだったのではないでしょうか?」


507 : 以下、名... - 2018/06/05 16:53:27.49 od/pvmOg0 488/646

植野「………」

「ちょっと、待って……」

「それって、つまり………」

「アイツは、あたしらを助けようとしてたってこと……?」

508 : 以下、名... - 2018/06/05 16:54:03.08 od/pvmOg0 489/646



右京「少なくとも、僕はそう思います……」

植野「…………」


509 : 以下、名... - 2018/06/05 16:55:49.25 od/pvmOg0 490/646



「け、けど……そんなの分かんないじゃん……」

「刑事さんだって、アイツと直接話したわけじゃないんだろ?」

「勝手な妄想で、決めないでよ……」


510 : 以下、名... - 2018/06/05 16:58:07.74 od/pvmOg0 491/646

右京「確かに……」

「今話した事は、これまで得た情報から組み立てた、僕の想像……君の言うように、妄想でしかないのかもしれません」

「しかし、真実かどうか分からないからこそ、彼女の真意にもっと触れてみるべきだったのではないでしょうか?」

「得点稼ぎか否かは、それから決めても遅くはなかったと思いますよ?」

植野「…………」

511 : 以下、名... - 2018/06/05 16:59:18.66 od/pvmOg0 492/646

右京の言葉が、植野の心に大きくのしかかった。

確かに、あの時の自分は自分の状況ばかり考えて、佐原の考えに深入りした事はなかった。

それだけではない……

自分がいじめていた硝子の気持ちも、考えた事は一切なかった。

それを考えていたのは、黙って聞いている他の生徒達も同様である。

512 : 以下、名... - 2018/06/05 16:59:48.41 od/pvmOg0 493/646

右京「誰が佐原ちゃんの心を折ったのか……それは分かりません」

「しかし、誰かが彼女の意思を汲んであげていれば、硝子ちゃんと君達の関係は変わっていた可能性があったのは事実です」

「その可能性に君達は見向きもせず、そして知らずして状況改善の糸口を絶ってしまった……」

「実に愚かだと思いませんか?」

513 : 以下、名... - 2018/06/05 17:00:32.02 od/pvmOg0 494/646

生徒達「…………」


右京のその一言に、生徒達は言い返す言葉がなかった。

彼らの様子を確認すると、右京は冠城とアイコンタクトを取り、最後の仕上げに掛かる。

514 : 以下、名... - 2018/06/05 17:00:59.78 od/pvmOg0 495/646

右京「硝子ちゃん……こちらに来て下さい」

冠城「石田君も……」

硝子「?」

石田「あ…うん……」


右京は手話で、冠城には口頭でそれぞれ名指しで呼ばれ、
硝子と石田は少し困惑しながらも、言われるがままに特命係の2人の前に来る。

そして、彼らは2人を生徒や竹内の方に振り向かせる。

515 : 以下、名... - 2018/06/05 17:01:48.10 od/pvmOg0 496/646

冠城「みんな……まず、石田君の顔を見てくれ」

「傷だらけだろ?」

「これは……君達のいじめで着いた傷だ」

島田広瀬「「…………」」


冠城の言う通り島田らの暴行により、石田の顔は絆創膏とガーゼが貼られていて、とても痛々しかった。
4日前の傷はいくつかは完全に治っているものがあったものの、それでも治りきっていないものもいくつかある。
その上、頬には昨日島田に殴られた跡もあり、未だガーゼが貼られたままだ。

516 : 以下、名... - 2018/06/05 17:02:36.12 od/pvmOg0 497/646

右京「次は硝子ちゃんの耳を見て下さい……」


そう言った後、右京は硝子に耳についたものをみんなに見せるよう手話で指示すると、
彼女はいう通りに補聴器を外し、右耳の耳たぶについた『それ』を生徒達に向けた。

それは、裂傷の跡であった。

517 : 以下、名... - 2018/06/05 17:03:42.27 od/pvmOg0 498/646

右京「これは、石田君が彼女の補聴器を取った際に着いた傷です」

「余程、強く引っ張たのでしょう……未だ、跡が残っている」

冠城「みんな、これを見て何か思うことはないかい?」


問い掛ける冠城。だが、彼らはどう答えたらいいのか……

どうして急にこんなものを見せられているのか分からないのか、黙ったままだ。

答えに詰まる彼らに教えるかのように、特命係の2人はこう言った。

518 : 以下、名... - 2018/06/05 17:04:18.97 od/pvmOg0 499/646

右京「彼らの傷は、この一連の出来事でできたものです」

「いずれも、命に別条のないものですが……」

「もし仮に、この傷が命に関わるものだったとしたら、あなた達はどうするつもりだったのでしょうか?」

冠城「それに、彼らの受けた傷は、他にもある……」

519 : 以下、名... - 2018/06/05 17:04:50.36 od/pvmOg0 500/646



「それは、心の傷だ」


520 : 以下、名... - 2018/06/05 17:07:12.34 od/pvmOg0 501/646

右京「いじめというのは、人の体だけでなく、心にすら深い傷跡を刻み込んでしまいます」

「石田君の顔の傷はじきに消えるかもしれませんが、逆に心の傷はそう簡単には消すことは出来ません」

「一生分の傷として、彼らの中に残り続ける……」

「そして一生分の痛みとなって、この先も彼らを苦しめる……」

「もしそうなったら……まず最初に、人間不信に陥ってしまうでしょう」

「そしていずれは……今回の事を招いたことに尾を引かせ、苦しみ、必要以上に自分自身を責め……」

521 : 以下、名... - 2018/06/05 17:08:30.12 od/pvmOg0 502/646




「やがて、自らの死を選ぶでしょう……」



522 : 以下、名... - 2018/06/05 17:10:19.86 od/pvmOg0 503/646


竹内と生徒達「……!」


右京の言葉に竹内と生徒達は、ハッとした表情を浮かべた。

523 : 以下、名... - 2018/06/05 17:10:46.96 od/pvmOg0 504/646

右京「ようやく……分かったようですね?」

「そう……いじめというのは、時として人の命を奪ってしまうことすらある……」

「この日本で、いじめを苦に自ら命を絶った人間は、後を絶ちません」

「あなた達は、危うく2人の人間の命を……未来を奪うところだった………」

524 : 以下、名... - 2018/06/05 17:11:39.66 od/pvmOg0 505/646




「それでもあなた達は、自分達は悪くない……」



525 : 以下、名... - 2018/06/05 17:12:33.17 od/pvmOg0 506/646





「悪いのは周りの人間だと断じる資格が……」




526 : 以下、名... - 2018/06/05 17:13:22.54 od/pvmOg0 507/646








「ありますか?」







527 : 以下、名... - 2018/06/05 17:14:11.07 od/pvmOg0 508/646

竹内「……………」

生徒達「……………」


右京の問いに、反論する者は誰もいなかった。

それを確認すると、特命係の2人は伍堂警部に向き直る。

528 : 以下、名... - 2018/06/05 17:14:39.42 od/pvmOg0 509/646

右京「後は、お願いします……」

冠城「すみませんね……違う所轄の、それもこんな窓際部署のわがままに付き合わせてしまって」

伍堂警部「構いませんよ。弟の手帳の件で、借りを作ったままにしておく訳にもいきませんでしたし」

「それに……」

529 : 以下、名... - 2018/06/05 17:15:05.15 od/pvmOg0 510/646




「こうやって犠牲になった子供達は、数が知れませんから」



530 : 以下、名... - 2018/06/05 17:18:54.19 od/pvmOg0 511/646


そう語る伍堂警部の目には、強い意志が宿っていた。

そんな彼の意思を汲んだのだろう、右京らは無言で頭を下げるとその場から立ち去った。

531 : 以下、名... - 2018/06/05 17:20:06.70 od/pvmOg0 512/646

坂木「では、改めましてこの場にいる皆さん……指紋の照合にご協力願います」

「無論、生徒さん達は保護者同伴で……」

伍堂警部「西宮さんのお母さん」

「被疑者の指紋と区別を付けたいので、残る2人の家族さんにも協力して欲しいのですが……」

「構いませんか?」

532 : 以下、名... - 2018/06/05 17:20:33.01 od/pvmOg0 513/646



八重子「…………」

「好きにして頂戴……」


533 : 以下、名... - 2018/06/05 17:21:08.62 od/pvmOg0 514/646

伍堂警部「ご協力、感謝します」

坂木「では、行きましょうか」

竹内「…………」

生徒達「…………」

534 : 以下、名... - 2018/06/05 17:21:39.98 od/pvmOg0 515/646

―西宮家―


結絃「…………」

いと「これが、お母さんの全てだよ……」

「あなた達のお母さんは……」

「八重子はね、あなた達を守る為にずっと弱い自分を隠して生きてきたんだよ」

535 : 以下、名... - 2018/06/05 17:22:09.22 od/pvmOg0 516/646

結絃「…………」

「な、何だよそれ……?」

「そんな理由あったんなら、最初から一言くらい言ってくれても良かったじゃんかよ……!」

「1人で全部背負い込みやがってよ……!」

「これじゃあ……今までバカ親呼ばわりしてたのが………」

「姉ちゃん守る為に髪まで切って……男らしく振る舞ってたのが馬鹿みたいじゃんか……!」

536 : 以下、名... - 2018/06/05 17:26:09.47 od/pvmOg0 517/646

いと「………………」

「ごめんなさいね……」

「本当は、最初から全部話すべきだったのかもしれない……」

「けど……怖かったのよ。本当の事をあなた達に言ってしまえば、八重子の覚悟が無駄になる……」

「それこそ、この家族が壊れてしまうんじゃないかってね……」

結絃「…………」

537 : 以下、名... - 2018/06/05 17:26:54.71 od/pvmOg0 518/646

いと「けど……それは逃げてるだけだったのかもしれないね………」

「あの娘の好きにさせておけば、あなた達が私の側に来てくれる……」

「孫に頼られるのが嬉しくて……甘えていただけだったのかもしれない」

「今のことは、もっと後になって話すつもりだったけど……」

「早め話してもいい時も、あるのかもしれないね……」

結絃「………………」

538 : 以下、名... - 2018/06/05 17:27:29.48 od/pvmOg0 519/646


ピリリリ!

悟るかのようにいとが語った、その時であった。

突然、電話が鳴り出した。

539 : 以下、名... - 2018/06/05 17:29:32.36 od/pvmOg0 520/646

結絃「電話?」

いと「私が出るよ」


とりあえず話を中断して、いとは受話器を手に取った。

540 : 以下、名... - 2018/06/05 17:31:23.56 od/pvmOg0 521/646

いと「もしもし……西宮ですが?」

坂木『岐阜県警捜査一課の坂木です』

『突然で失礼ですが、西宮いとさんですね?』

いと「はい、そうですが」

坂木『もう1人の娘さんもいらっしゃいますね?』

いと「いますけど……」

坂木『では、至急署まで来て下さい。西宮硝子ちゃんのことで、調べたいことがあるんです』

いと「…………」

「分かりました……もう1人の娘と一緒に、今すぐ向かいます………」


そう言うと、いとは電話を切った。

541 : 以下、名... - 2018/06/05 17:32:14.94 od/pvmOg0 522/646

結絃「婆ちゃん、誰から?」

いと「警察の人よ。硝子のことで来て欲しいって……」

結絃「姉ちゃんのことで?何かあったのか!?」

いと「分からないけど……とにかく、行きましょう」

結絃「うん!」

542 : 以下、名... - 2018/06/05 17:33:05.77 od/pvmOg0 523/646

―水門小学校 校庭―


冠城「後は、岐阜県警が上手くやってくれるでしょうね」

右京「えぇ……」

「しかし、我々がすべき事はまだ残っています」

冠城「教育委員会理事長の所に行くんですね?」

右京「先程の事を確かめなければなりませんからねえ」

543 : 以下、名... - 2018/06/05 17:34:09.82 od/pvmOg0 524/646

冠城「けど、その前にひとつ聞かせて下さい」

「硝子ちゃんの右耳に傷が残ってるなんて、どうやって知ったんですか?」

右京「補聴器は、その人に合った形のものが使用されています」

「石田君が、それを無理に外したのだとしたら、耳の一部に裂傷が生じる可能性が高い」

「無理に補聴器を取られ、消えない傷が残ったという事例はない事はありませんからねぇ……」

「もっとも、実際に気付いたのは、昨日硝子ちゃんに会った時でしたが」

544 : 以下、名... - 2018/06/05 17:34:50.01 od/pvmOg0 525/646

冠城「何と言うか……もうさすがとしか言いようがありません」

右京「疑問も解消したところで、行きますよ」

冠城「えぇ、行きましょう!」

545 : 以下、名... - 2018/06/05 17:36:58.65 od/pvmOg0 526/646

あれから数時間後……

いとと結絃を交えた上で、6年2組の人間全員の指紋の採取が行われ、補聴器の指紋と照合が行われた。
その結果、案の定西宮家と石田以外の6年2組の生徒数名の指紋と一致。

動かぬ証拠を突き付けられ尚且つ右京に心をへし折られた事もあり、
生徒達は硝子いじめに関与した事や黙認したこと……

石田にその事を押し付け、いじめていた事を素直に認めた。


動機は、概ねこれまでの話通りであった。

石田の硝子いじめに便乗したり黙認したりしたのは、竹内の押し付けや合唱コンクールで最下位を取った事で、
硝子に対するストレスと恨みが積もった事や、彼女と関わり合いになりたくなかったからであった。

石田に責任を押し付けたのも、彼の硝子いじめで硝子が耳を負傷し、
女子生徒が保健室に運び込む事態が起こったのを見て、自分達がその事を咎められるのを恐れたのと、
島田のような黙認組が無理矢理付き合わされそうになった事に怒ったのが動機であった。

同時に植野は、硝子だけでなく、彼女に味方していた佐原みよこをいじめていた事実も告白した。

竹内も、証拠映像を再度見せられた上で、自分の行いを全て認めたのだった。

それを聞かされた生徒の保護者達は当然ながら、彼らの行いを怒った。
中には、彼らを止めなかったことを含めて、竹内を責める親も少なくはなかった。

546 : 以下、名... - 2018/06/05 17:37:25.55 od/pvmOg0 527/646

あれから数時間後……

いとと結絃を交えた上で、6年2組の人間全員の指紋の採取が行われ、補聴器の指紋と照合が行われた。
その結果、案の定西宮家と石田以外の6年2組の生徒数名の指紋と一致。

動かぬ証拠を突き付けられ尚且つ右京に心をへし折られた事もあり、
生徒達は硝子いじめに関与した事や黙認したこと……

石田にその事を押し付け、いじめていた事を素直に認めた。


動機は、概ねこれまでの話通りであった。

石田の硝子いじめに便乗したり黙認したりしたのは、竹内の押し付けや合唱コンクールで最下位を取った事で、
硝子に対するストレスと恨みが積もった事や、彼女と関わり合いになりたくなかったからであった。

石田に責任を押し付けたのも、彼の硝子いじめで硝子が耳を負傷し、
女子生徒が保健室に運び込む事態が起こったのを見て、自分達がその事を咎められるのを恐れたのと、
島田のような黙認組が無理矢理付き合わされそうになった事に怒ったのが動機であった。

同時に植野は、硝子だけでなく、彼女に味方していた佐原みよこをいじめていた事実も告白した。

竹内も、証拠映像を再度見せられた上で、自分の行いを全て認めたのだった。

それを聞かされた生徒の保護者達は当然ながら、彼らの行いを怒った。
中には、彼らを止めなかったことを含めて、竹内を責める親も少なくはなかった。

547 : 以下、名... - 2018/06/05 17:42:02.01 od/pvmOg0 528/646

ミスして、二連続で書き込んでしまいました……

>>546はないものとしてお願いします……

548 : 以下、名... - 2018/06/05 17:42:32.62 od/pvmOg0 529/646




そして……



549 : 以下、名... - 2018/06/05 17:43:41.64 od/pvmOg0 530/646

―取調室―


右京「水田校長……非常に残念なお知らせがあります」

「今回の件ですが、我々の見立て通り、石田君に共犯者がいたこと……」

「その原因が、竹内の硝子ちゃんへの対応不足にあった事が判明しました」

冠城「現在、彼らの身柄は少年課が預かっています」

右京「竹内は、自身の監督責任の遺棄を問われることになるでしょう」

「それだけではありません。西宮さん達の事を罵倒してしまいました……」

「彼らに対する人権侵害と名誉棄損の罪にも、問われる事になります」

550 : 以下、名... - 2018/06/05 17:44:38.94 od/pvmOg0 531/646

冠城「懲戒免職は、免れないでしょうね」

右京「6年2組の子供達も、刑事罰を受けない代わりに家庭裁判所から厳重指導を受け」

「その後保護者の方が彼らに代わって、西宮さん達に事の責任を取ることになるでしょう」

「中には、少年院に送致される子もいるかもしれません」

水田校長「そうですか……」


特命係の2人の報告を受け、校長は残念な表情を浮かべた。

551 : 以下、名... - 2018/06/05 17:45:20.00 od/pvmOg0 532/646

右京「しかし、これで終わりではありません」

水田校長「え…?」

冠城「立ち入り調査の際、西宮八重子さんと竹内が気になる事を言っていたんです」

「彼女らの言によると、あなたが障がい者を受け入れる学校だと嘘を吐いたこと……」

「そして、あなたが竹内の反対を押し切って彼に硝子ちゃんを押し付け、その上一切の支援を行わなかったことを………」

水田校長「…!」


冠城の言葉に、水田校長の顔が青ざめた。

それに構わず、右京はこう続ける。

552 : 以下、名... - 2018/06/05 17:47:22.62 od/pvmOg0 533/646

右京「竹内は、あなたと理事長が親友と言っていたものでしてね……彼にも話しを聞いてみる事にしたんです」

「結果、驚くべきことが判明しました」

冠城「彼は、あなたからは硝子ちゃんいじめのこと以外、何も聞かされていなかったんです」

右京「しかし竹内は、硝子ちゃんが自分のクラスの生徒になる事を反対していました」

「そして彼女の対応に困り、あなたにその事を相談すらしている……」

「彼らがあなたに事実の一片しか伝えなかったように、あなたもまた理事長に事実の一片しか伝えていなかったんです」

冠城「彼……心底驚いていましたよ」

水田校長「…………」

553 : 以下、名... - 2018/06/05 17:50:07.33 od/pvmOg0 534/646

右京「僕は、今回の件を調べていく内に、最初にあなたが偽証を図ったのが引っ掛かりました」

「硝子ちゃんいじめの問題は、石田家が西宮家に賠償金を支払う事で解決したことになっていたはずだったからです」

「示談が成立した案件である以上、あの場ではこれ以上の詮索は不要とするのが適切のはず……」

「なのにあなたは、必要のない嘘を我々に吐いた……」

「一体それは何故なのか?その手掛かりを求め、理事長に更に話しを伺ってみました」

冠城「その結果、有力な情報を教えて下さいました」

「あの学校……2・3年前から入学率が低下し、業績が少しずつ落ち始めていたそうですね?」

「酒の席であなたは、その事で悩んでいるのを理事長に打ち明けていた……」

水田校長「……………」

554 : 以下、名... - 2018/06/05 17:50:35.85 od/pvmOg0 535/646


右京「この事から、ある事実が導き出されます」

「あなたが、八重子さんに嘘を吐いてまで硝子ちゃんを受け入れねばならなかった理由、それは……」

555 : 以下、名... - 2018/06/05 17:51:21.43 od/pvmOg0 536/646




「落ち始めた学校の業績を伸ばす為ですね?」



556 : 以下、名... - 2018/06/05 17:53:34.57 od/pvmOg0 537/646

水田校長「…………」

「どうして、そう思うんですか?」


問いに対して校長は聞き返すと、右京はこう答えた。

557 : 以下、名... - 2018/06/05 17:54:12.54 od/pvmOg0 538/646

右京「障害を持つお子様を受け入れれば、それだけで話題になるからです」

「世間では、障害を持つお子様を受け入れる姿勢は、プラスにとられる傾向にあります」

「それが元で、学校にお子様を入れる家庭が増える……あなたはそう考えたのでしょう」

冠城「俺達に嘘を吐いたのは、俺達の話しを聞いてまた、別のいじめが起こったのではないかと考えたから……」

「示談が成立した案件とは言え、過去にいじめが起きていた事を少しでも口にすれば、俺達にあの学校での出来事を探られることになる」

「そこから芋づる式に、障がい者の受け入れ態勢が整っていない事がバレるとあなたは考えた」

558 : 以下、名... - 2018/06/05 17:55:00.00 od/pvmOg0 539/646

右京「だからあなたは、嘘を言ってでも警察を学校に入れたくなかった……」

「違いますか?」

水田校長「…………」


特命係の問い掛けに対し、水田校長はしばし黙ったのち、こう答えた。

559 : 以下、名... - 2018/06/05 17:56:26.30 od/pvmOg0 540/646

水田校長「仕方がなかったんです……」

「理事長が私に託したものを守るには、こうするしかなかったんです」

冠城「理事長があなたに託した?」

560 : 以下、名... - 2018/06/05 17:57:06.48 od/pvmOg0 541/646

水田校長「水門小学校の事ですよ……」

「刑事さんは知らないでしょうから教えてあげますが、あの学校を建てたのは、今の理事長の祖父なんです」

「祖父の代からあの学校を守り続けてきた彼は、ある時親友の私にあの学校を託しました」

「その時、彼は私にこう言いました」

「『祖父の代から続いたこの学校を守ってくれ』と……」

「しかし、3年前からどういう訳か入学率が落ち始めました……」

「このまま放っておけば、いずれ水門小学校は他の学校の後れを取り、経営難に陥る……」

「そんな危機感に駆られました」

右京「その矢先に現れたのが、西宮硝子ちゃんだった……」

561 : 以下、名... - 2018/06/05 17:57:34.86 od/pvmOg0 542/646

水田校長「硝子ちゃんが障がい者だと聞かされ、始めは受け入れを拒否しようと思いました」

「しかし、普通じゃない子供がウチに入れば、周囲から注目が集まるのではないか?」

「それが元で、またこの学校に子供達を入れる人が増えるのではないか?」

「そう考えました……」

「しかし、当校は障がい者を受け入れた事が一度もなく、受け入れ態勢やサービスが不十分で準備する時間もありませんでした」

「ですが、喜多君が前の学校できこえの教室の教師をやっていたと聞いて……それで大丈夫だろうと思ったんです」

右京「……………」

562 : 以下、名... - 2018/06/05 17:58:07.10 od/pvmOg0 543/646

水田校長「とにかく私は、どんな手を使ってでも、守らなければならなかったんです」

「あの人が祖父の代から守り続けてきたあの学校を……!」


悲痛な胸の内を水田校長は明かす。

しかし、それを聞いた右京らはいい顔をしなかった。

563 : 以下、名... - 2018/06/05 17:59:41.83 od/pvmOg0 544/646

右京「水田校長。あなたが、友人の思いに報いろうとする気持ちがあった事は分かりました」

「しかし……本来学校は、子供達が正しき未来へ歩むのに必要なものを与える為にある場所だったはずです」

「今回、あなたがした事により、未来ある子供達が道を踏み外してしまいました」

「彼らだけではありません……竹内もです」

「彼も、本来生徒を導くべき立場の人間だったはずが、あなたが何の準備もなく硝子ちゃんを入れた事により」

「自身の使命を放棄し、硝子ちゃんと石田君の身を危険に曝してしまった……」

「それどころかあなたは、八重子さんを始めとした、親御さんたちの期待と信用すら裏切った」

「果たして、これで理事長は喜ぶのでしょうか?」

水田校長「……………」

564 : 以下、名... - 2018/06/05 18:03:43.99 od/pvmOg0 545/646

右京「今回の件であなたは、我々に対する偽証といじめ問題の調査不足や理事長に対する虚偽の報告……」

「そして、八重子さんに対する詐欺などの罪で裁かれる事になるでしょう」

「校長の免許も、剥奪されることになると思います」

冠城「しかし……それで苦しむのは、あなただけではありません」

「あの学校と理事長もです」

「今回の事で、あの学校で起こった出来事は世間に広まる事になるでしょう」

「そうなれば批判の矢面に立たされ、水門小学校の評判は地に落ちる……」

「そのことで苦しむ毎日があの学校を待っている事でしょう」

「理事長もあなたの不祥事を見抜けなかった事で、何かしらの責任をとる事になると思いますよ」

水田校長「そ、そんな……どうして?」

565 : 以下、名... - 2018/06/05 18:04:56.00 od/pvmOg0 546/646

冠城「それは、あなたが硝子ちゃんを学校の売名に利用しようとしたからです」

「彼女は、1人の人間だ。理事長から預かった学校を守るための道具なんかじゃない」

右京「そもそも、受け入れ態勢の整っていない状況で、彼女を入れればどうなるか……結果は最初から分かっていたはずです」

「あなたは、友人から預かった学校を守りたいという焦りから、そんな大事なことすら忘れてしまった……」

「親友の約束の為と思ってした事が、あなたの親友がお爺様の代から守って来たものを壊してしまったのです」

「それだけではありません。あなたは……」

566 : 以下、名... - 2018/06/05 18:05:35.64 od/pvmOg0 547/646








「あの学校を守ってくれると期待を抱いた親友すら、裏切ってしまった」







567 : 以下、名... - 2018/06/05 18:06:11.50 od/pvmOg0 548/646

水田校長「…………!」


右京の言葉に、水田校長はようやく自分が取り返しの付かない事をしてしまった事に気付いた。

それを知り彼は、俯いて涙を流した。

568 : 以下、名... - 2018/06/05 18:09:05.81 od/pvmOg0 549/646



今更泣いたところで、もう遅い……


それでも、今の彼にはこうする事しか出来なかった……


569 : 以下、名... - 2018/06/05 18:12:22.52 od/pvmOg0 550/646

数週間後……


事件を起こした者達に、家庭裁判所から罰が下された。

竹内は右京達の見立て通り、監督責任の放棄や
石田・西宮両家に対する人権侵害と名誉棄損等の罪で彼らに罰金を支払った上で、懲戒免職が下された。

生徒達は、島田と広瀬のような直接的に手を出した生徒達は、少年院へと送致され、それ以外は厳重指導を受ける事となった。
その後、彼らに代わって保護者達が、西宮・石田両家に多額の謝礼金を支払わされることになったという。

植野は石田に対する行いを強く反省している意思が認められた為、
石田家への処分は謝罪だけで済まされたが、その代わり西宮家に対しては他の生徒達と同等の罰金を支払う事になった。
佐原みよこに対しても、相応の対応を取らされたのは言うまでもない。

水田校長は、硝子の受け入れ態勢を整えていなかったにもかかわらず、
八重子にその事を伝えなかった事や、右京ら警察に対する偽証の罪に問われ、
竹内同様西宮・石田家に罰金を支払ったうえで懲戒免職になった。

理事長も、水田校長の虚偽の報告を見抜けなかったことや、
親友の暴走を止められなかったことに責任を感じ、
西宮家と石田家に謝罪と謝礼金を送った上で、辞任を表明したという。

ちなみに、ここまで彼らが西宮家と石田家に支払った金額は、
石田美也子が西宮八重子に支払った170万円の倍の額だったとの事である。


一方喜多は、違法行為に手を染めてはいなかったので、これと言った処罰やペナルティはなかったが、
今回の件を機に、周囲の人間の事を考えてことを進めようと決心したらしい。

最後に残された水門小学校は、右京の言う通り世間からバッシングを受け、生徒を退学させる家庭も発生。
それに加え、マスコミや報道関係者も、今回の事を過剰ともいえる程に報道し、
その対応に追われる毎日を送る事となった。

570 : 以下、名... - 2018/06/05 18:14:33.21 od/pvmOg0 551/646

ここまで見て分かる通り、これ程の大事になったにもかかわらず、
石田はこれ以上の罪に問われず、むしろ家庭裁判所からは硝子と同列に扱われた。

理由は、美也子が八重子に補聴器の賠償金を支払ったことで既に示談が成立していたこと、
それ以降、硝子に対するいじめが確認されていなかった等の理由から、これ以上の罪には問えないと判断されたのだ。

この判断に生徒の親の何人かは難色を示したものの、一方で生徒達と竹内は文句を言う事はなかった。

石田家が西宮家に賠償金を支払うよう仕向け、石田があれ以上の硝子いじめを行えない状況を作ったのは、他でもない自分達であったからだ。

そんな事をした自分達に、家庭裁判所の判断を非難する資格はない……

自分達に責任を擦り付けられたのが、硝子いじめを行った石田へのしっぺ返しなら、
これこそが、石田の罪を利用した自分達に対するしっぺ返しなのだろう……

571 : 以下、名... - 2018/06/05 18:15:47.41 od/pvmOg0 552/646




こうして硝子と石田を巡るいじめ問題は、犯人達が因果応報の結末を迎える事で解決したのだった。



572 : 以下、名... - 2018/06/05 18:16:42.14 od/pvmOg0 553/646

4日目(第4話)はここまで。

水門小学校には障がい者の受け入れ態勢が整っておらず、
その上校長が八重子に嘘を吐いてしまった……というのが、今回の独自設定です。
喜多先生の設定も原作オリジナル版に+αした感じです。

とはいえ、今回の展開も含めてちょっと微妙だったかなーとも思います。

自分で書いておいて何ですが、今回色々と結構間違ってると思います……


何はともあれ、次回はいよいよ最終日もとい最終回です。

そう、まだ続くんじゃよ……

574 : 以下、名... - 2018/06/05 18:25:51.18 od/pvmOg0 554/646

最後に補足です……


その1.伍堂清太郎

伍堂圭三刑事の兄で、岐阜県警捜査一課の警部。
兄弟だけあって弟と顔が似ているものの、こちらはしっかりした性格をしている。
おまけに義理堅く、特命係が伍堂刑事のクビの危機を救ったという事で彼らに協力しました。
警察官として真面目な人で、特に今回のようなケースは絶対に見逃しません。

とまあ、今回特命係に協力する刑事さんが必要だから出した……そんな感じのキャラクターです。


その2.坂木利久男

伍堂警部の部下……としか言いようのない人ですが、実は当初は名無しでした。
でも、周りが名前ありの刑事ばかりなのに、彼だけ名無しなのはどうかなと思い設定しました。

ちなみに、彼らの名前も特に元ネタはありません。


最後に、多分察している方もいるかもですが、
右京さんは植野が佐原をいじめたことに途中から気付いています。
しかし、佐原の真意に見向きしなかったのは他の生徒も同様ですし、
何しろ後で本人が認めるだろうと思い、あの場ではあえて明言しませんでした。

576 : 以下、名... - 2018/06/05 18:31:16.67 uLr/OLva0 555/646

ちょっと疑問ですけど原作の水門小学校はたぶん公立だよ。
私立ならともかく公立小学校に理事長なんて普通いないんじゃない?

577 : 以下、名... - 2018/06/05 18:52:09.38 od/pvmOg0 556/646

>>576

!?

完全に調査不足でした、申し訳ありません……orz

578 : 以下、名... - 2018/06/06 18:51:37.40 2/I9ouOR0 557/646

乙です
いじめが人殺しに直結する、教育上のトラブルよりも桁外れに悪質で危険な人権蹂躙、犯罪的行為である事
それぞれに被害者の面があっても、責任が無い弱い立場である硝子を精神的に虐待した時点で何の正当性もない事、
元々右京さんはこの辺りの事をきっちり口に出す人ですが、
右京さんよりも若いGTO冠城が硝子をいじめた児童達に、竹内に押し付けられた只の腹いせだとはっきり伝えた事。
一見傍若無人な右京さんが、最終的には警察官としての公的な対処、解決を一番大事にしている事
責任と原因の分担、分析が丁寧になされているため、
何より頭脳明晰な「正義の警察官」である特命係の物語として好感が持てました。

備考)近年の少年法改正で少年院送致の下限は「概ね12歳」となりましたが、
小学生の犯罪に適用するのは直接殺しでもしない限り実務的には難しいです。
このお話なら、児童自立支援施設(旧教護院)が現実的な上限でしょう。
正直、他にもありますが、メインの筋道が通っているので
そういう事を大事にする「相棒」、右京さん達とのクロスオーバーとして楽しめました。
なんか上からの書き方になってしまって失礼しました。

580 : 以下、名... - 2018/06/06 20:57:53.33 9JaJgZfq0 558/646

>>578
感想とご指摘、どうもありがとうございます。
またしても、私めの調査不足が露呈してしまいましたね……
上の件も併せて、下調べって本当に大事なんだなと痛感しております……

582 : 以下、名... - 2018/06/06 20:59:41.33 9JaJgZfq0 559/646

相棒×聲の形 ~最終日~


あれから更に数日後……

特命係は再び水門市の西宮家を訪れた。


右京「お邪魔します」

結絃「あ……母さん!婆ちゃん!あの時の刑事さん達が来たよー!」


こうして、結絃の案内により特命係の2人は居間へ案内された。
居間にはいとだけではなく、八重子と硝子も待っていた。


八重子「あなた達また来たの?」

冠城「申し訳ありませんね。当事者として、解決後の被害者の様子も確認しなくちゃならないんで………」

八重子「ふん……用が済んだらさっさと帰ることね」


ぶっきらぼうに返す八重子であったが、不思議と棘のある感じはしなかった。

なので冠城は、「そうさせてもらいます」と笑顔で返した。

583 : 以下、名... - 2018/06/06 21:01:20.32 9JaJgZfq0 560/646

いと「硝子の件は、本当の感謝しています……」

「まさか、まだいじめられていたなんて、思ってもみませんでした」

結絃「ホントだよ。いきなり指紋取らせてくれとか言われたと思ったら……」

「あの先生や石田以外の連中も犯人だとか聞かされて、ビックリしたよ」

いと「八重子もこれに懲りて、今度からは硝子を入れる学校の事をちゃんと考えてくれると言ってくました」

「そして、孫達と八重子の関係も以前より良くなりました」

「これも全部、あなた達のおかげです……」

586 : 以下、名... - 2018/06/06 21:04:42.77 9JaJgZfq0 561/646

右京「僕は、あくまで思ったことを口にしただけですよ……」

冠城「ま、何はともあれ平和そうで安心しました」

結絃「ホントだよ!刑事さん達のおかげで、いい事だらけだよ」

「ひょっとして刑事さん達……神様かなんかじゃねぇのか?」

右京「おや……神様ときましたか」

冠城「俺達、むしろ疫病神だと思うんですけどねぇ……」


と言いつつも、冠城は満更でもない様子であった。

しかしすぐに表情を改めて
「さて……我々がここに来た目的は、単純にこの家の状況を確かめる為だけじゃないんです」と言った。

588 : 以下、名... - 2018/06/06 21:09:21.13 9JaJgZfq0 562/646

結絃「それ……どういうこと?」

右京「あなた方に、会わせたい方達がいます」

八重子「会わせたい人達?」

結絃「誰それ?」

冠城「もう、お連れしています」

右京「入ってきて構いませんよ!」


右京が玄関に向かって呼び掛けると、それを合図にとある母子が玄関から居間に上がって来る。

589 : 以下、名... - 2018/06/06 21:10:36.55 9JaJgZfq0 563/646

美也子「お邪魔します……」

石田「お、お邪魔します………」


それは、石田美也子と袋を持った石田将也であった。

590 : 以下、名... - 2018/06/06 21:11:17.85 9JaJgZfq0 564/646

硝子「…!」

結絃「お、お前…!」

八重子「誰かと思えば、硝子をいじめた子供とその親じゃない!」

「一体、どの面下げてウチに上がってるのかしら?」


2人の姿を見るや否や、あからさまに嫌そうな表情を見せる結絃と八重子。

いとも何も言わなかったが、あまりいい顔はしていなかった。


硝子「…………」


しかし、硝子だけは違った。石田の事を心配そうに見ていた。
だが、家族の人間はその事に気付かず、結絃は石田に歩み寄る。

591 : 以下、名... - 2018/06/06 21:12:40.82 9JaJgZfq0 565/646

結絃「おいお前…!今までよくも姉ちゃんのこといじめてくれたなあ?」

石田「…………」

結絃「お前のせいで、姉ちゃんどんだけ傷付いたと思ってんだ?え?」

石田「そ、それは……」

結絃「それは?何だよ!」

「『姉ちゃんの耳聞こえないのが馬鹿みたいだからいじめました~』だろ?」

石田「………」

結絃「しっかしいい気味だよな……他の奴らに裏切られちゃって………」

「姉ちゃんをいじめたから罰が当たったんだよ!」

石田「……………」

結絃「例えお前が裏切られていじめらたところで、オレ達はお前のこと絶対許さないからな!」


結絃に辛辣な言葉の数々をぶつけられる石田であったが、彼は何も言い返すことが出来ない。

592 : 以下、名... - 2018/06/06 21:14:10.09 9JaJgZfq0 566/646

結絃「何だよ?さっきから黙りこくりやがって!逆にムカつくな…!」

冠城「まあまあ……そこまでにしときなって」

結絃「けど、刑事さん……!」

八重子「というか、何でこんな奴らを連れて来たんです?事件は解決したんじゃないんですか?!」

右京「確かに、事件そのものは解決しました」

「しかし、この事件にはまだ謎が残されています」

「それを明らかにしなければ、完全に終わったとは言えないんですよ……」

八重子「謎…?」

結絃「何だよそれ?」


八重子らが疑問符を浮かべると、右京は話を切り出す。

593 : 以下、名... - 2018/06/06 21:15:26.96 9JaJgZfq0 567/646

右京「残された謎は、2つ……」

「1つ目は、筆談用ノートの行方です」

冠城「実は、同期の奴には証拠映像以外に、石田君が池に捨てたという筆談用ノートも回収させようとしました」

右京「筆談用ノートも、酷くいたずらされたようでしたからねぇ……」

「犯人の筆跡や指紋を取れると思い、回収を命じたのです」

594 : 以下、名... - 2018/06/06 21:17:13.52 9JaJgZfq0 568/646

冠城「ところが、池からノートは見付からなかった」

「同期の奴は、学校側が回収して処分したんじゃないかと言っていましたが……」

「後で水田門木を始めとした学校職員に確認してみたところ、誰もそのようなノートは拾っていなかった」

「つまり、学校側はノートに全く手を付けていなかったんです。捨てられていた事実すら知らなかった」

右京「そこで、硝子ちゃんいじめに関与した生徒が回収した線で調べを進めてみました」

「その結果、島田一旗と広瀬啓祐が心当たりがある一件があったと証言してくれました」

595 : 以下、名... - 2018/06/06 21:18:54.47 9JaJgZfq0 569/646

冠城「彼らは一度、石田君をあの池に突き落とした事があったそうです」

「しかも、時期は石田君のお母様が賠償金を持ってきた日……」

「つまり、石田君が筆談用ノートを捨てた後の出来事だった」

結絃「ちょ、ちょっと待てよ!それじゃあ………」


何か感付いた結絃。彼女の反応を確認すると、
冠城は「ほら……出しな」と言って、石田に紙袋の中身を出す事を促す。

促されるまま、石田は持っている袋から『ある物』を取り出した。

596 : 以下、名... - 2018/06/06 21:21:00.20 9JaJgZfq0 570/646

結絃「あ……!」


出されたものを見て、結絃は驚いた。

彼女だけではない……西宮家の人間全員もだ。

何故なら、袋の中から出てきたのは、
落書きだらけで尚且つ水を吸って若干の歪みが生じた、硝子の筆談用ノートだったからである。

597 : 以下、名... - 2018/06/06 21:22:13.19 9JaJgZfq0 571/646

石田「…………」

結絃「お……お前、何でそれを!?」

右京「突き落とされた際、偶然目に留まったので自宅に持って帰っていたそうです」

冠城「本人曰く、何か思うところがあったそうで……」


ちなみに、あの時冠城に石田がこの事を話さなかったのは、
その事を知れば、自分の手で硝子に返せと言われると思ったからであった。
自分に対するいじめの事でこれ以上、彼女と顔を合わせたくなかったのである。

右京らに筆談用ノートを持っている事を看破された際も、
頑なに拒んでいたが、彼らの根気強い説得もあって今こうしてこの場にいるのである。

598 : 以下、名... - 2018/06/06 21:23:30.77 9JaJgZfq0 572/646

結絃「でも、そいつにそれ持って来させて、どうする気なのさ?」

「まさか……姉ちゃんに返させて、『そいつのした事これで全部水に流して下さい~』なんて言うんじゃねぇよな?」

石田「……………」

八重子「残念だけど、そんな事であっさり許すほど、私達は都合良く出来ていないわ」

「大体、そこまでされたノート、今更いらないわよ!」

599 : 以下、名... - 2018/06/06 21:24:33.36 9JaJgZfq0 573/646

冠城「待って下さい奥さん……僕達別に、彼への許しを乞いに来たんじゃないんですよ」

右京「確かに硝子ちゃんに返すべきだと提案はしましたが、ただそれだけです」

「そもそも、そうしたところで許してもらえるとは、我々も思っていませんよ……」

冠城「というか、これはあくまで前座……本題はここからなんです」

八重子「どういう事なの?」


彼らの言うことに、八重子を始めとした硝子以外の西宮家の人間は小首を傾げた。

それを確認しつつ、右京はまた話しを始める。

600 : 以下、名... - 2018/06/06 21:26:25.03 9JaJgZfq0 574/646


右京「ここで、2つ目の謎について話さなくてはなりません」

「2つ目の謎は6年2組へ立ち入った際、川井みきが発した一言……」

601 : 以下、名... - 2018/06/06 21:27:39.02 9JaJgZfq0 575/646



『私はあなたと広瀬君と違って、石田君の机に落書きしたり教科書盗ったりしてないもん!』


602 : 以下、名... - 2018/06/06 21:28:36.86 9JaJgZfq0 576/646

右京「これを聞いた時の石田君の反応です」

「石田君……君はこれを聞いて驚いている様子でしたが、あれは何故ですか?」


石田「……」

「島田の奴らがそんな事までしてなんて、知らなかったから…………」


右京「なるほど……やはりそうでしたか」

結絃「それの何がおかしいんだよ?単に今まで気付いてなかっただけだろ?」

603 : 以下、名... - 2018/06/06 21:29:41.68 9JaJgZfq0 577/646

冠城「それが、おかしいんだよ」

「万が一自分の机に落書きされていたり、教科書がなくなっていたりしていたら」

「自分の席に戻ったり、授業に入った時に気付いていなくちゃならないんだ」

右京「ところが、川井みきのあの言葉を聞くまで、石田君はこの事を知らなかった……」

「妙だと思いませんか?」

冠城「ちなみに、彼女の証言が事実であることを島田達は認めています」

結絃「確かに、変かもしれないけど……」

八重子「それが何だって言うのよ?」

604 : 以下、名... - 2018/06/06 21:30:10.96 9JaJgZfq0 578/646



右京「つまり、石田君を密かに助けていた人物がいたのです」

「恐らく、その人物が机の落書きを消し、隠された教科書を見付け、彼の机に戻していた……」


605 : 以下、名... - 2018/06/06 21:30:56.34 9JaJgZfq0 579/646

結絃「こんな奴を助けてた奴がいるなんて……そんな馬鹿な事があるのか!?」

右京「世の中には、様々な方がいます」

「石田君の所業を知りながらも、助けようとする方が存在しないとは限りませんよ」

冠城「しかし問題は、その人が一体誰なのかです」

「まず最初に考えられるのは、石田君いじめに後ろめたさを感じていた、植野直花ですが……」

「石田君いじめを指をくわえて見ていることしか出来なかったそうだから、彼女の線は薄い」

右京「そこで次に考えられるのは、友達想いな性格の佐原みよこちゃんですが……」

「石田君いじめが起こるよりもずっと前から不登校になっていた彼女にも、石田君を助ける事は不可能です」

「となると、この2人は石田君を助けていた人物から、除外されることになります」

606 : 以下、名... - 2018/06/06 21:32:15.66 9JaJgZfq0 580/646

結絃「何だよそれ?結局、コイツに味方した奴なんていないじゃんかよ」

「ま……まさかとは思うけど、幽霊がやったとか言うんじゃないよね?」

右京「幽霊の仕業ですか……」

「確かに、石田君の守護霊が現われたという可能性も無くはないですが………」

「それにしては、範囲が限定されています。残念ながら、その線も薄いでしょう」

結絃「は…はぁ……?」

八重子「あの……ふざけないでくれませんか?」

607 : 以下、名... - 2018/06/06 21:32:44.18 9JaJgZfq0 581/646

右京「?」

「僕は、普通に考えたことを述べただけだったんですが……」

「何かおかしなところでもありましたか?」

八重子「え…?」

冠城「……………」


こんな場面でもオカルト好きを全開にする右京に結絃は困惑し、
八重子も珍しくあからさまに困惑の表情を見せた。

そんな上司に、冠城は冷ややかな視線を送っている……

608 : 以下、名... - 2018/06/06 21:36:08.13 9JaJgZfq0 582/646

だが、当の本人はそんな事などお構いなしに、話しを続ける。


右京「しかし……まだ1人だけ、思い当たる人物がいます」

いと「それは、一体誰なんですか?」

右京「その前に結絃ちゃんといとさん……」

「最初に僕達がこの家に来た目的を、思い出して頂きたい」

いと「あなた達がここに来た目的?」

結絃「う、うーんと……」


そうして、特命係の2人がやって来た目的を思い出そうと、自身の記憶を探るいとと結絃。

そして……

609 : 以下、名... - 2018/06/06 21:39:53.05 9JaJgZfq0 583/646

結絃「…あ!思い出した!」

「石田がいじめられてるの見て、その事を姉ちゃんに聞きに来たんだったよね?」

右京「そうです。しかし……」

「肝心なのは理由の方です。そちらも、思い出せましたか?」

結絃「あ……うん!」

「確か……姉ちゃんが、石田がいじめられてるところを見てたから………だよね?」

右京「その通り。それで?」

結絃「それで……?」

いと「何でしょうか?」

右京「何か、引っ掛かりませんか?」

いと「引っ掛かる?」

結絃「うーん……」

610 : 以下、名... - 2018/06/06 21:43:15.09 9JaJgZfq0 584/646




「…………」



611 : 以下、名... - 2018/06/06 21:43:44.18 9JaJgZfq0 585/646





「あれ?」




612 : 以下、名... - 2018/06/06 21:50:31.75 9JaJgZfq0 586/646

右京に問われ、しばし考え込んだ結果、結絃が何かに気が付いた。


右京「どうやら、気が付いたようですねぇ……」

「そう……我々は、硝子ちゃんが石田君がいじめられている現場を覗いているのを目撃しました」

「しかも、一度だけではありませんでした。竹内に追い払われている現場などにもいたのです」

「だから僕達は、彼女の後を追ってこの家に辿り着いた……」

「僕達が今回の事件を知り、解決出来たのはある意味、硝子ちゃんの存在があったからとも言えるかもしれません」

「しかし……ここでひとつ疑問があります」

「何故彼女は、石田君の事を見ていたのでしょうか?」

「何故彼女は、石田君の現状をあなた方に話そうとしなかったのでしょうか?」

613 : 以下、名... - 2018/06/06 21:51:57.17 9JaJgZfq0 587/646




「まるで、彼の事を心配していたかのようです……」



614 : 以下、名... - 2018/06/06 21:54:13.47 9JaJgZfq0 588/646

結絃「…………」

「お、おいおい…ま、まさか……!」

右京「…………」

「えぇ、そのまさか……」


と言いながら右京は、硝子の前に歩み寄る。

そして、今までの会話の内容を、
手話で一通り伝えたのち、また手話を交えてこう続けた。


右京「石田君を助けていたのは、君ですね?」

615 : 以下、名... - 2018/06/06 21:54:54.80 9JaJgZfq0 589/646






「西宮硝子ちゃん……」





616 : 以下、名... - 2018/06/06 21:55:44.96 9JaJgZfq0 590/646

硝子「…………」


右京の一言に、西宮家・石田家双方が驚愕した。


八重子「そ……そんな馬鹿な!」

結絃「そうだよ!何で姉ちゃんが、自分をいじめた奴なんか助けないと………」

617 : 以下、名... - 2018/06/06 21:59:55.60 9JaJgZfq0 591/646


石田「……あ!」


「自分をいじめた奴なんか助けないといけなんだよ!」
結絃がそう言おうとしたのを遮るかのように、石田が何かを思い出したかのような声を上げる。

618 : 以下、名... - 2018/06/06 22:00:50.04 9JaJgZfq0 592/646

冠城「どうしたんだい?」

石田「そ、そう言えば……西宮の奴、最近俺の机掃除したり、中に手ぇ突っ込んで何かやってたんだ……」

「あれは、ひょっとして……!」

右京「…………」

「……どうやら、僕の考えは正しかったようですねえ」

619 : 以下、名... - 2018/06/06 22:01:26.28 9JaJgZfq0 593/646

結絃「ちょ……ちょっと待ってくれよ!これって一体どういう事なんだ!?」

八重子「そうよ!どうして硝子が彼を助けなくちゃならないの?」

「相手は、自分をいじめた子ですよ!」

620 : 以下、名... - 2018/06/06 22:02:16.92 9JaJgZfq0 594/646

右京「…………」

「『罪を憎んで人を憎まず』……という言葉は、ご存知ですね?」

「詳しく説明すると長くなってしまうので割愛しますが、簡潔に言うと」

「『犯した罪は憎むべきだが、罪を犯した本人そのものは憎んではならない』という意味のあることわざです」

「確かに硝子ちゃんは、石田君からいじめられた事自体は辛く感じていたと思います」

「しかし、それを理由に彼を恨む気はなかったという事です」

「それどころか、あの学校のいじめ問題の原因は、自分にあるのではないかとすら思っていたのかもしれません……」

621 : 以下、名... - 2018/06/06 22:04:53.27 9JaJgZfq0 595/646

八重子「自分のせいだと思っていた?」

右京「今日までの間、彼女は自身の障害が周囲の人間に影響を与えてしまった現場を、何度も目の当たりにしてきたはずです」

「そのような考えに至ってしまう可能性は、充分考えられます」

「また、自身の欠点が周囲に影響を及ぼしてしまったという点は、石田君にも当てはまる部分がある……」

「そういう意味では、彼女と石田君は似た者同士だった」

「そこに彼女は、シンパシーを感じたのかもしれません」

冠城「後は島田達の思惑にも、何となく気付いていたのかもしれませんね」

622 : 以下、名... - 2018/06/06 22:05:35.14 9JaJgZfq0 596/646

八重子「そ…そんな!そんな馬鹿げたことある訳ないわ!」

右京「では、本人に確かめましょう」


そう言って右京は、先程の推理の内容を一通り手話で話すと、
「僕の推理に間違いはありませんか?」と言いながら手話で尋ねた。

623 : 以下、名... - 2018/06/06 22:08:19.22 9JaJgZfq0 597/646

硝子「…………」


聞かれた本人は、自分の家族の人間や石田母子の様子を確認すると、
急に石田の前まで行き、筆談用ノートを見ながら両手を差し出す。

さすがの石田も、それが筆談用ノートを渡してくれというアピールである事に気付き、
硝子にノートを手渡すと、硝子は足早に自室に入り、消しゴムと鉛筆を持ってすぐに戻って来る。

そして、まだ字を書けそうなページを開くと……

624 : 以下、名... - 2018/06/06 22:10:15.80 9JaJgZfq0 598/646



「はい、そうです。ぜんぶ刑事さんの言うとおりです」

と書いて全員に見せた。


625 : 以下、名... - 2018/06/06 22:11:48.33 9JaJgZfq0 599/646

八重子「しょ、硝子……!」

結絃「う…嘘だろ……?」

いと「………………」


硝子の見せた一言に、八重子と結絃は愕然とした。

あれだけ自分達が憎たらしいと思っていた、石田将也……

まさか、いじめられた当人は、真逆な事を考えていたなんて……

いとも、硝子が自分の障害が周りに影響を与えている事を思い悩んでいること自体は勘付いてはいたが、
まさかそれが、石田を助ける事に繋がっていたとは思っておらず、複雑な表情を浮かべている。


だが、一番驚いているのは、石田本人であった。


626 : 以下、名... - 2018/06/06 22:14:38.62 9JaJgZfq0 600/646

石田「そ、そんな……西宮が、そんな事、思ってたなんて………」

「俺、一度も考えたこと、なかった……」

冠城「確かに……僕も、予想外だったよ」

「硝子ちゃんが君を見ていたのに、そんな意味があったなんて……」

「でも、良かったじゃないか」

627 : 以下、名... - 2018/06/06 22:15:56.09 9JaJgZfq0 601/646

石田「良かった…?」

冠城「いじめられている間、君は自分に味方する人なんていない……そう思っていたんだろう?」

石田「あ…あぁ……」

冠城「けど、本当はこんなにもすぐ近くに、君の味方は存在していた」

「それだけじゃない……硝子ちゃんは、君を恨んですらいなかった」

「そして……結果的ではあるけれど、僕達をいじめ問題の存在まで導いてくれた」

「彼女の存在が、君をいじめから救ってくれたんだよ」

石田「に…西宮……」

628 : 以下、名... - 2018/06/06 22:16:45.58 9JaJgZfq0 602/646


「そうなのか?」と口で言おうとしたが、相手が耳が不自由である事を思い出し、
石田は先程硝子がしたのと同じように、筆談用ノートと鉛筆と消しゴムを渡すよう頼む。
硝子は、それに応じてノートや鉛筆、消しゴムを手渡すと、石田は冠城が自分に言った事を書き、
その最後の部分に改めて「そうなのか?」と書いて、鉛筆と消しゴムごとノートを硝子に返す。

629 : 以下、名... - 2018/06/06 22:17:15.18 9JaJgZfq0 603/646


硝子「…………」


すると硝子は、「はい、そうです」に加え……

630 : 以下、名... - 2018/06/06 22:18:55.80 9JaJgZfq0 604/646


「私のせいで、あなたやみんなを悪者にしてしまいました……」

「ごめんなさい……」


とも書いて見せた。

631 : 以下、名... - 2018/06/06 22:19:23.43 9JaJgZfq0 605/646

石田「…!」


それを見た瞬間、石田の頭の中に硝子にして来た事が蘇る。

転校して早々からかったこと……

合唱コンクールで最下位を取った事で腹を立て、散々いじめたこと……

せっかく「友達になろう」と書いて見せてくれた筆談用ノートを、池に捨てたこと……

皆と共に調子に乗って補聴器を奪って壊したりしたこと……


とにかく、色々な出来事が彼の頭の中を駆け巡り、やがてそれは罪悪と懺悔の感情へと変わっていく。

632 : 以下、名... - 2018/06/06 22:19:52.09 9JaJgZfq0 606/646


石田「!」


石田は今度はバッと硝子からノートと鉛筆を取ると、ある事を書いて硝子に見せた。

それは……

633 : 以下、名... - 2018/06/06 22:20:44.08 9JaJgZfq0 607/646

「違う!悪いのは俺なんだ!」

「俺は、お前の事を退屈しのぎの道具として見ていた。女とすら見ていなかった」

「お前の気持ちも考えていなかった」

「おまけに、周りの奴らがそれを喜んで……それが嬉しくて、調子に乗って、お前に酷い事をしてしまった」

「お前は悪くない、悪いのは俺なんだ!」

「俺の方が、よっぽど最低な野郎だよ!」

「だから……」

634 : 以下、名... - 2018/06/06 22:21:13.74 9JaJgZfq0 608/646





「ごめんなさい!」




635 : 以下、名... - 2018/06/06 22:23:04.29 9JaJgZfq0 609/646



という、彼女に対する謝罪の文章であった。


636 : 以下、名... - 2018/06/06 22:23:31.55 9JaJgZfq0 610/646

硝子「……」

石田「ごめん……!ホント、ごめん………!!」


筆談だけでは伝えきれないと思ったのだろう、
石田はそう言いながらノートに書いた内容を見せながら、土下座した。
硝子達側からは見えなかったが、土下座している彼の目には涙が滲んでいる……

637 : 以下、名... - 2018/06/06 22:24:19.13 9JaJgZfq0 611/646

美也子「西宮さん!」

「今……この場において、改めて謝罪させてもらいます!」

「息子が……将也が、お宅の娘さんを傷付けてしまい、誠に申し訳ございませんでした!!」

「今すぐにでも許してはくれないとは思います……」

「しかし!母として……将也の親として、息子の非礼を心からお詫び申し上げます!」

638 : 以下、名... - 2018/06/06 22:25:02.26 9JaJgZfq0 612/646




「本当に……本当に申し訳ありませんでした……!!」



639 : 以下、名... - 2018/06/06 22:25:49.01 9JaJgZfq0 613/646

息子に感化されたのだろう、美也子も涙ぐみながら息子の横で土下座して謝罪した。

謝罪する彼らを、硝子は優しい顔で見つめている。

彼女の祖母も母も妹も、目の前の光景をただ黙って見るしかなかった。

今まで、自分達は目の前の石田を硝子を傷付けた人物として、憎悪し続けていた。
自分達がそう思っているのだから、硝子もきっと同じだろうと、勝手に決め付けている節があった。
だが、蓋を開けてみれば事実は全くの逆であった。

硝子の考えている事を全て理解していたつもりが、
実はそうではなかった事を今この場で、思い知らされたのだ。


だからこそ、何を言えばいいのか……

どんな言葉をかければいいか、全く分からなかった。


640 : 以下、名... - 2018/06/06 22:29:08.36 9JaJgZfq0 614/646

西宮一家の様子を確認すると、特命係の2人は石田の側に歩み寄り、
冠城が背中をポンポンと叩いて、顔を上げさせる。


冠城「ちゃんと、謝れたな……」

石田「あ……!」

「け、けど……こんなんだけじゃ………」

冠城「いや……今はこれでいい。今の君に出来るのは、これで精一杯のはずだから……」

石田「…………」

641 : 以下、名... - 2018/06/06 22:31:41.86 9JaJgZfq0 615/646

右京「石田君……」

「今こうして君は、硝子ちゃんの真意を理解し、その罪を認めて悔いることが出来ました」

「これは、人として大きな一歩だと僕は思います」

「しかし……これで終わりではありません」

「何故なら、この事件の終わりは『新たなる試練の始まり』でもあるからです」

石田「新たなる試練の始まり……?」

642 : 以下、名... - 2018/06/06 22:32:18.81 9JaJgZfq0 616/646

右京「今回の一件で、君のしたことはより多くの人間に知れ渡る事になると思われます」

「君に同情する一方で、非難する人間も大勢現れることでしょう」

「これから君は、そのような人々の目に曝される日々を送ることになる……」

「恐らくこれが、これ以上法で裁かれることのない君に与えられた、罰なのかもしれません……」

石田「俺への、罰……」

643 : 以下、名... - 2018/06/06 22:35:08.21 9JaJgZfq0 617/646


右京の言葉に石田は胸が締め付けられた。


確かにそうだ……

いくら硝子が許しても、世間の人々がすぐに許すとは限らない。

先程の八重子と結絃の物言いからも、それは明らかだった。


そんな自分は、どうすればいい?


右京は、まるでその考えを見透かしたかのようにこう続けた。

644 : 以下、名... - 2018/06/06 22:35:58.85 9JaJgZfq0 618/646

右京「だからこそ、硝子ちゃんの為に生きて下さい……」

「生きて……自身の罪と向き合いながら、彼女と手を取り合い、前を向いて歩き続けて下さい……」

「それが、君がこれからすべき償いです」

「硝子ちゃんも、恐らくそれを望むでしょう……」


そう言って右京は、硝子の方に目を向け、石田もそれに続いて彼女の顔を見た。

硝子は、未だ優しい顔を自分達に向けている。

645 : 以下、名... - 2018/06/06 22:36:24.18 9JaJgZfq0 619/646


冠城「そうだ石田君……君は、生きるんだ」

「生きて、今度は君が硝子ちゃんを助けてあげるんだ」

「硝子ちゃんも君を助けたんだ。今度は、君の番だ」

646 : 以下、名... - 2018/06/06 22:37:51.34 9JaJgZfq0 620/646

石田「け、けど……俺なんかに、そんなこと………」

冠城「なに弱気になってるんだ……」

「佐原ちゃんだって、みんなと硝子ちゃんの為に自分の出来ることをしようとしたんだ」

「結局それは、上手く行かなかったけど……」

「女の子だって頑張ろうとしたんだ、男の君が頑張ろうとしないでどうする?」

「それに、今回僕達に協力してくれた伍堂警部……」

「あの人も、僕達に作った借りを返す為に頑張ってくれたんだ」

647 : 以下、名... - 2018/06/06 22:41:19.03 9JaJgZfq0 621/646




「警察官が出来たんなら、君にも出来るよな?」



648 : 以下、名... - 2018/06/06 22:42:11.43 9JaJgZfq0 622/646

真摯な言葉を石田に投げ掛ける冠城。

その言葉に、石田は何も返さなかったが、自分の中で何かが動き出したのを感じ取る。


それを確認すると、特命係の2人は両家族に目を向ける。

649 : 以下、名... - 2018/06/06 22:43:01.28 9JaJgZfq0 623/646


右京「我々は……これで失礼させて頂きます」

冠城「色々と、お世話になりました」

右京「ここから先は、あなた方が解決すべき事です。そこに我々が関わる余地はありません」

「なので、最後にひとつだけ言わせて下さい」

650 : 以下、名... - 2018/06/06 22:43:47.23 9JaJgZfq0 624/646








「どうか、今回の出来事を忘れないで下さい……」







651 : 以下、名... - 2018/06/06 22:44:37.05 9JaJgZfq0 625/646

右京は、彼らの心に刻み付けるかのように言うと、冠城と共に一礼したのち西宮家から立ち去った。

特命係がいなくなり、西宮家にはこの家に住む4人家族と石田母子だけが残された。
彼らは、お互い何と言えばいいか分からず、どぎまぎした様子を見せる。

652 : 以下、名... - 2018/06/06 22:45:26.38 9JaJgZfq0 626/646

硝子「………」


だが、少しして硝子はまた石田が持つノートを取ると、あるページを開き石田に見せる。

それは、「友達になろう」と書かれたページ……

石田が、このノートを捨てる直前に見せられた、あの言葉であった。


石田「…………」


その文字をジッと見る石田。

653 : 以下、名... - 2018/06/06 22:47:14.02 9JaJgZfq0 627/646




今この瞬間、石田将也と西宮硝子……



そして、石田家と西宮家の何かが変わり始めた……



654 : 以下、名... - 2018/06/06 22:48:44.68 9JaJgZfq0 628/646

―水門市内―


冠城「さて……石田君、上手くやっていけますかね?」

右京「この先は、僕達にも予想が付かない事です。後は、彼らの気持ち次第ですよ」

冠城「俺達に出来るのは、あれで限界か……」


「……ん?」


その時、何やら騒がしい声が聞こえるので彼らはその方向に目を向けると、
門前にたくさんの人だかりがある水門小学校が見えた。

報道関係者だろうか?

何故、彼らが集まっているのか……

理由は、言うまでもないだろう。

655 : 以下、名... - 2018/06/06 22:49:52.64 9JaJgZfq0 629/646

冠城「水田門木の思惑通りになりましたね」

「硝子ちゃんを入れた事により、この学校は一躍有名になった……」

右京「彼の望む形ではありませんでしたがねえ」

冠城「哀れなものですね」


皮肉を込めて言ってみせたのち、冠城は少し間をおいてこのような事を言い出す。

656 : 以下、名... - 2018/06/06 22:50:58.71 9JaJgZfq0 630/646


冠城「右京さん……人はどうして、すぐ側にあるものに気が付かないんでしょうか?」

右京「何ですか?藪から棒に……」

冠城「今回の件に関わった人達の事思い返したら、そう感じたんですよ」

657 : 以下、名... - 2018/06/06 22:51:26.91 9JaJgZfq0 631/646




「硝子ちゃんの事を思うあまり、周囲の影響を顧みる事が出来なかった八重子さん……」


「この学校の今後を思うあまり、何の準備もなく硝子ちゃんを入れる事のリスクを考えられなかった水田門木……」


「水田門木から硝子ちゃんを押し付けられた事実にばかり気を取られ、解決策を模索できなかった竹内………」


「硝子ちゃんの事ばかり考え、他の生徒への配慮が足らず、結果彼らとの間に溝を作ってしまった喜多先生……」


「佐原ちゃんという解決の糸口があった事に気付かなかった6年2組の生徒達……」


「学校側の言い分に疑念を持てなかった、美也子さんと八重子さん……」


「そして、今まで硝子ちゃんが味方している事に気が付かなかった石田君……」



658 : 以下、名... - 2018/06/06 22:53:25.99 9JaJgZfq0 632/646


「とにかく、挙げ出したらキリがありませんが……」

「どれも、少しでも視野を広げれば違った見方が出来たかもしれないし、解決の糸口にもなったかもしれない……」

「なのに『どうしてみんな、それに気が付かなかったんだろう?』って思いましてね」

659 : 以下、名... - 2018/06/06 22:54:09.25 9JaJgZfq0 633/646

右京「それが、人間なんですよ……」

「冠城君……もし君が、真っ暗闇の中で灯明台(とうみょうだい)の灯りを見付けるとします。そしたら君は、どうしますか?」

冠城「そりゃ、真っ暗闇ですからね。迷いなくその灯りの方に目を向けますよ」

右京「しかしその時、灯明台の下にある暗がりに警察手帳を落としてしまったら?君は、すぐに気付けますか?」

冠城「真っ暗だし、警察手帳も黒い色をしてますから、すぐには気付かないと思います」

660 : 以下、名... - 2018/06/06 22:55:59.01 9JaJgZfq0 634/646


右京「そう……人間、暗闇の中で一際大きな光に目を奪われれば、その下の暗がりに隠れたものを見落としてしまう……」

「例えそれが、すぐ側にあったものであってもです」

「今回関わった方達も、それぞれ自分の目の前にある大きな光に目を奪われ、暗がりに落ちていたものに気が付かなかったという事ですよ……」

661 : 以下、名... - 2018/06/06 22:58:14.31 9JaJgZfq0 635/646



「正に『灯台下暗し』です」


662 : 以下、名... - 2018/06/06 22:59:03.79 9JaJgZfq0 636/646

冠城「灯台下暗し……この事件を一言で表すのに、ピッタリなことわざですね」

「俺達は、彼らの足元の暗がりに落ちていたものを拾ってあげた訳ですか」

右京「そうしなければ、この学校や当事者達はおろか」

「世間の人々もあの学校で起きた事の真実に気付かないまま、全ては灯明台の下に広がる闇に飲まれていた事でしょう……」

「今回は我々の目に留まったから良かったものの……」

「そうでなかったら、どうなっていたでしょうかねえ?」

663 : 以下、名... - 2018/06/06 22:59:34.85 9JaJgZfq0 637/646

冠城「考えるだけでゾッとします……」


上司の問いに冠城は身震いする物真似をしながら答えた。

青木の言うように彼らは竹内の背中を見て、汚い大人に育ってしまう……

そして、将来は違う場所で同じことを繰り返してしまう……

そんな未来が思い浮かんだからだ。


今この時、冠城は最悪の事態を回避できたことを実感した。

例えこれが、日本にはびこる事件の一端に過ぎないのだとしても……

未来ある子供達に一条の光を指せたのなら、充分だろう。

一方で、不安も残る……

664 : 以下、名... - 2018/06/06 23:00:26.41 9JaJgZfq0 638/646

冠城「しかし……生徒達や竹内、水田門木達はこれからどうするんでしょうね?」

「乗り気で罪暴いといて、こんな事を言うのもなんですけど……」

「今回の件で彼らも石田君同様、世間から冷たい視線を向けられる事になるでしょう」

「ある意味、法的な罰よりもつらい目に遭うかもしれません」

右京「彼らは、それ程の事をしてしまったということですよ……」

「自らと異なる存在を認めず、他者の罪を利用して自身の罪をなかった事にしようとした……」

「これだけでも、彼らの犯した罪は大きいと思います」

「だからこそ、彼らもこれから戦わなくてはならないのです」

665 : 以下、名... - 2018/06/06 23:00:59.20 9JaJgZfq0 639/646





「自分自身の犯した罪と……」




666 : 以下、名... - 2018/06/06 23:01:39.09 9JaJgZfq0 640/646

冠城「…………」


彼の言葉を聞き、冠城は悟った。

石田同様、後は彼らの気持ち次第であること……

そして、自分達に出来ることはもう何もないことを…………

667 : 以下、名... - 2018/06/06 23:02:32.89 9JaJgZfq0 641/646


冠城「それじゃあ……帰りますか?東京に」

右京「えぇ、帰りましょう……」


役目を終えた杉下右京と冠城亘は、水門小学校に背を向け、帰っていく。


自分達が本来いるべき場所……

668 : 以下、名... - 2018/06/06 23:03:07.07 9JaJgZfq0 642/646








警視庁特命係へ







669 : 以下、名... - 2018/06/06 23:03:38.46 9JaJgZfq0 643/646



~このクロスオーバーSSは、二次創作です~


671 : 以下、名... - 2018/06/06 23:04:59.18 9JaJgZfq0 644/646

以上を持ちまして、相棒と聲の形のクロスオーバーSSは完結となります。

冒頭にもありました通り、聲の形を始めとしたその他もろもろの知識が疎く、
聲の形側に小ネタを仕込むことがあまり出来なければ、誤った知識
(実際、色々とミスや矛盾をやらかしてしまいました……)
他者のSSと被ってしまう部分もあったと思いますが、それでも楽しめたというのなら幸いです……

672 : 以下、名... - 2018/06/06 23:05:30.85 9JaJgZfq0 645/646

最後の補足ですが、>>667、>>668のくだりは、
右京さんと冠城君が聲の形の世界での役目を終えたので、
相棒ワールドへ帰還したという意味があったりします。

また、時系列がシーズン16真っ只中であるという設定から分かる通り、
高校生編を書く予定はありません。

他作者さんの作品との差別化もありますが、
想像を膨らませる余地を持たせた感じにした方がいいとも思い、
今回のような形になりました。

という訳で、特命係が関わった事で、
石田達のその後がどう変わったのかは、皆さんの想像次第でございます……

673 : 以下、名... - 2018/06/06 23:06:09.13 9JaJgZfq0 646/646

本作は以上となります。

しばし様子見してからHTML化の依頼を出そうと思いますので、
それまで感想等がございましたら、どうぞお気軽に……

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